説明

2−メントキシエタノールの製造方法

【課題】調製及び取り扱いが容易で比較的安価に調達できるルテニウム錯体を触媒として用い、水素雰囲気下でメントキシ酢酸エステルから2−メントキシエタノールを製造する方法を提供する。
【解決手段】一般式RuXY(CO)(L)(一般式中、X及びYは同一であっても異なっていてもよくアニオン性配位子を表し、Lは2つのホスフィノ基と−NH−基を有する3座アミノジホスフィン配位子を表す。)で表されるルテニウムカルボニル錯体を触媒として使用し、水素供与体を用いて下記一般式(A)


(式中、Xは炭素数1乃至4のアルキル基を表す。)で表されるメントキシ酢酸エステルを水素化還元し2−メントキシエタノールを製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−(l−メントキシ)エタノール類の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、飲食物、煙草、化粧品などに爽やかな冷感効果や清涼感を付与することのできる2−(l−メントキシ)エタノール類を簡単な工程で、しかも低コストで製造する方法を提供するものである。
【0002】
ヒトの表皮や粘膜、特に口腔、鼻腔、咽喉、眼部に冷たい感覚(冷感)や爽やかな感覚(清涼感)(以下これらを総称して「冷感・清涼感」ということがある)を与える物質は既に色々知られている。代表的な物質としては、ペパーミント油の主成分であるl―メントール(エル−メントール)であり、チューインガム、歯磨剤、シャンプーなどに広く使用されている。しかしながら、l−メントールは強い冷感・清涼感を有するものの、その効果は長時間持続しない上、その強烈なミント様香気のために用途や処方量が限定されることが多い。
【0003】
そこで、持続性および香気の改善を目的として、l−メントールに似た冷感・清涼感作用を持つ化合物が開発されている。そのような化合物として、例えば、3−置換−p−メンタン類(特許文献1〜3を参照)、N−置換−p−メンタン−3−カルボキサミド類(特許文献4を参照)、p−メンタンジオール類(特許文献5を参照)、3−(l−メントキシ)−プロパン−1,2−ジオール(特許文献6および7を参照)、(2S)−3−{(1R,2S,5R)−[5−メチル−2−(1−メチルエチル)シクロヘキシル]オキシ}−1,2−プロパンジオール(特許文献8を参照)、(1’R,2’S,5’R)−3−l−メントキシアルカン−1−オール類(特許文献9を参照)などを挙げることができる。これらの化合物は、l−メントールに比べてマイルドなミント様香気を有し、冷感・清涼感作用が比較的長時間持続するため、極めて有用である。
【0004】
上記した化合物のうち、特許文献9に記載されている(1’R,2’S,5’R)−3−l−メントキシアルカン−1−オール類は、優れた冷感・清涼感効果を有しているが、これまで簡便でしかも安価な製造方法が確立されていない。特許文献9によれば、該化合物は、l−メントールとクロロ酢酸から得られるエーテル化物を、水素化リチウムアルミニウムを用いて還元する方法で製造するなどの、手間およびコストのかかる方法が採用されている。一方、(1’R,2’S,5’R)−3−l−メントキシアルカン−1−オール類の製造方法の別法として、ルイス酸を触媒とし、メントールとエチレンオキサイドとを反応させて製造する方法(特許文献10)がある。しかしながら、エチレンオキサンドは爆発性のある高圧ガスであり安全性の面で不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭47−16647号公報
【特許文献2】特開昭47−16449号公報
【特許文献3】英国特許第1,315,626号明細書
【特許文献4】特開昭47−16648号公報
【特許文献5】特開昭47−16650号公報
【特許文献6】特開昭61−48813号公報
【特許文献7】米国特許第4,459,425号明細書
【特許文献8】特開平7−82200号公報
【特許文献9】特開2001−294546号公報
【特許文献10】特開2004−315427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、冷感剤や清涼剤として優れた機能を有する(1’R,2’S,5’R)−3−l−メントキシアルカン−1−オール類に属する2−(l−メントキシ)エタノールおよびその類縁化合物を、安価な原料を用いて、簡単な工程で、しかも低コストで製造することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、2つのホスフィノ基と−NH基を持つ3座配位子とカルボニル配位子を有するルテニウム錯体を触媒として用いることで、水素供与体を用いて、メントキシ酢酸エステルを水素化還元して−メントキシエタノールを比較的温和な条件下で効率よく製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]から[11]に関するものである。
[1] 次の一般式(1)
RuXY(CO)(L) (1)
(一般式(1)中、X及びYは同一であっても異なっていてもよくアニオン性配位子を表し、Lは下記一般式(2)
【0009】
【化1】


(一般式(2)中、R、R、R及びRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基又は置換アミノ基を表し、これらのRとR又はRとRは互いに結合し隣接するリン原子と共に環を形成していてもよい。また、これらのアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基、及び置換アミノ基は置換基を有していてもよい。
及びQは同一であっても異なっていてもよく、置換基を有していてもよい二価のアルキレン基、置換基を有していてもよい二価のシクロアルキレン基又は置換基を有していてもよい二価のアラルキレン基を表す。)
で表される3座アミノジホスフィン配位子を表す。)
で表されるルテニウムカルボニル錯体の存在下、水素供与体を用いて下記一般式(A)
【0010】
【化2】

(A)
(式中、Xは炭素数1乃至4のアルキル基を表す。)
で表されるメントキシ酢酸エステルを水素化還元することを特徴とする2−メントキシエタノールの製造方法。
[2] 3座アミノジホスフィン配位子Lが、下記一般式(3)
【0011】
【化3】


(一般式(3)中、R、R、R及びRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。nは0から3の整数を表す。)
で表される3座アミノジホスフィン配位子であることを特徴とする[1]記載の製造方法。
[3] 3座アミノジホスフィン配位子Lが、下記一般式(4)
【0012】
【化4】


(一般式(4)中、Ar、Ar、Ar及びArは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、アリール基、又は芳香族複素環基を表す。また、これらのアリール基、及び芳香族複素環基は置換基を有していてもよい。)
で表される3座アミノジホスフィン配位子であることを特徴とする[1]又は[2]記載の製造方法。
[4] 一般式(4)におけるAr、Ar、Ar及びArが、置換基を有していてもよいフェニル基である[3]に記載の製造方法。
[5] 3座アミノジホスフィン配位子Lが、下記一般式(5)
【0013】
【化5】


(式中、Phはフェニル基を表す。)
で表される3座アミノジホスフィン配位子であることを特徴とする[4]記載の製造方法。
[6] 3座アミノジホスフィン配位子Lが、光学活性な3座アミノジホスフィン配位子である[1]又は[2]に記載の製造方法。
[7] 一般式(1)におけるXのアニオン性配位子がヒドリドであり、Yのアニオン性配位子がClである[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 一般式(1)におけるXのアニオン性配位子がヒドリドであり、Yのアニオン性配位子が、BHである[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 塩基存在下で行う、[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10] 塩基がナトリウムメトキシドである[9]記載の製造方法。
[11] 一般式(A)のメントキシ酢酸エステルが、2−((1R,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)酢酸エステル又は2−((1S,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)酢酸エステルであること特徴とする[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、優れた冷感作用および清涼作用を持ちながら、実用的な製造方法が無かったために、これまであまり使用されてこなかった2−メントキシエタノールを、ルテニウムカルボニル錯体の存在下、水素供与体を用いてメントキシ酢酸エステルを水素化還元するという簡便な方法で、しかも高収率で製造することができる。
そのため、そのような本発明によって、様々な飲食品、化粧料、煙草などの種々の商品に対して、2−メントキシエタノールの持つマイルドで、しかも持続性のある優れた冷感および清涼感を付与することが可能となり、それらの商品価値を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の下記一般式(1)で表されるルテニウムカルボニル錯体について説明する。
RuXY(CO)(L) (1)
(一般式(1)中、X及びYは同一であっても異なっていてもよくアニオン性配位子を表し、Lは下記一般式(2)で表される3座アミノジホスフィン配位子を表す。)
【0016】
【化6】

【0017】
(一般式(2)中、R、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基、置換アミノ基を表し、RとR又はRとRが互いに結合し隣接するリン原子と共に環を形成していてもよい。また、これらのアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基は置換基を有していてもよい。Q及びQは同一であっても異なっていてもよく、置換基を有していてもよい二価のアルキレン基、置換基を有していてもよい二価のシクロアルキレン基、又は置換基を有していてもよい二価のアラルキレン基を表す。)
【0018】
本発明に用いられる3座アミノジホスフィン配位子について説明する。一般式(1)におけるLで表される3座アミノジホスフィン配位子としては、ふたつのホスフィノ基と−NH−基を有するものが挙げられる。具体的な3座アミノジホスフィン配位子としては前記した一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【0019】
一般式(2)におけるR、R、R及びRについて説明する。
アルキル基としては、炭素数1〜50、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等が挙げられる。
また、シクロアルキル基としては炭素数3〜30、好ましくは炭素数3〜20、より好ましくは炭素数3〜10の単環式、多環式又は縮合環式のシクロアルキル基が挙げられ、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
また、アリール基としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、より好ましくは炭素数6〜14の単環式、多環式又は縮合環式のアリール基が挙げられ、具体的には、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
また、アラルキル基としては、前記したアルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記したアリール基で置換された基が挙げられ、例えば炭素数7〜15のアラルキル基が好ましく、具体的にはベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、3−ナフチルプロピル基等が挙げられる。
【0020】
また、アルキルオキシ基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、より好ましくは炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐状のアルキル基からなるアルキルオキシ基が挙げられ、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基等が挙げられる。
また、シクロアルキルオキシ基としては、炭素数3〜20、好ましくは炭素数3〜15、より好ましくは炭素数3〜10の多環式又は縮合環式のシクロアルキル基からなるシクロアルキルオキシ基が挙げられ、例えば、シクロプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
また、アリールオキシ基としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、より好ましくは炭素数6〜14の単環式、多環式又は縮合環式のアリール基からなるアリールオキシ基が挙げられ、具体的には、例えば、フェノキシ基、トリロキシ基、キシリロキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。
また、アラルキルオキシ基としては前記アルキルオキシ基のアルキル基又はシクロアルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記アリール基で置換された基が挙げられ、例えば炭素数7〜15のアラルキルオキシ基が好ましく、具体的にはベンジルオキシ基、1−フェニルエトキシ基、2−フェニルエトキシ基、1−フェニルプロポキシ基、2−フェニルプロポキシ基、3−フェニルプロポキシ基、4−フェニルブトキシ基、1−ナフチルメトキシ基、2−ナフチルメトキシ基等が挙げられる。
【0021】
また、複素環基としては、脂肪族複素環基及び芳香族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基としては、例えば、炭素数2〜14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、3〜8員、好ましくは4〜6員の単環の脂肪族複素環基、多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基の具体例としては、例えば、アゼチジル基、アゼチジノ基、ピロリジル基、ピロリジノ基、ピペリジニル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、ピペラジノ基、モルホリニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチオフェニル基等が挙げられる。
芳香族複素環基としては、例えば、炭素数4〜15で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子等の異種原子を含んでいる、5又は6員の単環式ヘテロアリール基、多環式又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられる。その具体例としては、例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フタラジル基、キナゾリル基、ナフチリジル基、シンノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、アクリジル基、アクリジニル基等が挙げられる。
【0022】
また、置換アミノ基としては、アミノ基の2つの水素原子が、同一又は異なる前記したアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及び/又は複素環基で置換されたアミノ基があげられ、具体的には、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基;N,N−ジシクロヘキシルアミノ基等のジシクロアルキルアミノ基;N,N−ジフェニルアミノ基、N−ナフチル−N−フェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;N,N−ジベンジルアミノ基等のジアラルキルアミノ基などが挙げられる。また、置換アミノ基のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及び複素環基はさらに置換基を有していてもよい。
【0023】
これらのアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基、並びに、置換アミノ基上のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及び複素環基が有していてもよい置換基としては、前記したアルキル基、前記したシクロアルキル基、前記したアリール基、前記したアラルキル基、前記したアルキルオキシ基、前記したシクロアルキルオキシ基、前記したアリールオキシ基、前記したアラルキルオキシ基、前記した複素環基、前記した置換アミノ基、ハロゲン原子、シリル基、及び保護されていてもよい水酸基等が挙げられる。
【0024】
、R、R及びRの置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0025】
、R、R及びRの置換基としてのシリル基としては、シリル基の水素原子の3個が前記したアルキル基、前記したシクロアルキル基、前記したアリール基、前記したアラルキル基等に置き換ったものが挙げられる。具体的にはトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0026】
、R、R及びRの置換基としての保護されていてもよい水酸基としては、無保護の水酸基、又は例えばトリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基などのシリル基、ベンジル基やメトキシメチル基など例えば参考文献2(Protective Groups in Organic Synthesis Second Edition, JOHN WILEY&SONS, INC.1991)に記載されているペプチド合成等で用いられている一般的な水酸基の保護基で保護されていてもよい水酸基などが挙げられる。
【0027】
一般式(2)におけるQ及びQについて説明する。
二価のアルキレン基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜6の鎖状又は分岐状の二価のアルキル鎖が挙げられ、具体的には例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等が挙げられる。
また、二価のシクロアルキレン基としては、炭素数3〜15、好ましくは炭素数3〜10、より好ましくは3〜6の単環式、多環式又は縮合環式のシクロアルキル基からなる二価の基が挙げられ、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。
また、二価のアラルキレン基としてはベンジル基、フェネチル基等などのアラルキル基のアリール基から水素を一個除いた炭素数7〜11の二価の基を挙げることができる。ベンジレン基(−Ph−CH−)、2−フェニルエチレン基(−Ph−CHCH−)、1−ナフチルメチレン基(−Np−CH−)、2−ナフチルメチレン基(−Np−CH−)等(式中、−Ph−はフェニレン基を示し、−Np−はナフチレン基を示す。)
が挙げられる。
【0028】
これらの二価のアルキレン基、二価のシクロアルキレン基、又は二価のアラルキレン基が有していてもよい置換基としては、前記した一般式(2)におけるR、R、R、及びRについての説明で述べたようなアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、及び複素環基、並びにハロゲン原子、シリル基、置換アミノ基、及び保護されていてもよい水酸基等が挙げられる。
【0029】
次に、一般式(1)におけるX又はYで表される1価のアニオン性配位子について説明する。
1価のアニオン性配位子としては、例えば、ヒドリド、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ヒドロキシ基、アシルオキシ基、スルホニルオキシ基、ハロゲンイオン、AlH、AlH(OCHCHOCH、BH、BHCN、BH(Et)及びBH(sec−Bu)等が挙げられる。好ましいものとしてはBH、ヒドリド、又は塩素イオンが挙げられる。なお、本明細書中では、ヒドリドを単に水素、ハロゲンイオンを単にハロゲンということもある。
【0030】
アシルオキシ基としては(RCO)で表されるものが挙げられる、アシルオキシ基RaCOにおけるRとしては、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基が挙げられる。アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、としては、例えば前記した一般式(2)におけるR、R、R、及びRについての説明で述べたようなアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基が挙げられ、これらのアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基は、さらに前記した一般式(2)におけるR、R、R、及びRについての説明で述べたようなアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、及び複素環基、並びにハロゲン原子、シリル基、保護されていてもよい水酸基、及び保護されていてもよいアミノ基等で置換されていてもよい。
の置換基としての保護されていてもよいアミノ基としては、無保護のアミノ基;N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基等のモノ又はジアルキルアミノ基;N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N−ナフチルアミノ基、N−ナフチル−N−フェニルアミノ基等のモノ又はジアリールアミノ基;N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基等のモノ又はジアラルキルアミノ基;ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ペンタノイルアミノ基、ヘキサノイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアシルアミノ基;メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、n−プロポキシカルボニルアミノ基、n−ブトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、ペンチルオキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基等のアルコキシカルボニルアミノ基;フェニルオキシカルボニルアミノ基等のアリールオキシカルボニルアミノ基;ベンジルオキシカルボニルアミノ基等のアラルキルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。さらに保護されていてもよいアミノ基としては、例えば前記の参考文献1に記載されているペプチド合成等で用いられる一般的なアミノ基の保護基で保護されたアミノ基が挙げられる。
としては例えばメチル基、エチル基、プロピル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられる。
【0031】
スルホニルオキシ基としては(RSO)で表されるものが挙げられる。スルホニルオキシ基RSOにおけるRとしてはアシルオキシ基におけるRと同様のものがあげられる。
ハロゲンイオンとしては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンが挙げられる。好ましくは塩素イオン、臭素イオン、さらに好ましくは塩素イオンが挙げられる。
【0032】
好ましい3座アミノホスフィン配位子としては下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【0033】
【化7】

【0034】
(一般式(3)中、R、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、R同士、RとR又はR又はR、RとR又はRが互いに結合し隣接する炭素原子と共に環を形成していてもよい。nは0から3の整数を表す。また、これらのアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアラルキル基は、置換基を有していてもよい。)
【0035】
一般式(3)において、R、R、R及びRで表されるアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアラルキル基としては、前記した一般式(2)におけるR、R、R及びRについての説明で述べたようなアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアラルキル基が挙げられる。また、これらのアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアラルキル基が有していてもよい置換基としては、前記した一般式(2)におけるR、R、R及びRについての説明で述べたようなアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、及び複素環基、並びにハロゲン原子、シリル基、置換アミノ基、及び保護されていてもよい水酸基等が挙げられる。
【0036】
より好ましい3座アミノジホスフィン配位子としては下記一般式(4)で表されるものが挙げられる。
【0037】
【化8】

【0038】
一般式(4)中、Ar、Ar、Ar、Arは同一であっても異なっていてもよく、アリール基、芳香族複素環基を表す。また、これらのアリール基、芳香族複素環基は置換基を有していてもよい。
【0039】
一般式(4)におけるアリール基、芳香族複素環基としては例えば前記した一般式(2)におけるR、R、R及びRについての説明で述べたようなアリール基や複素環の中で述べた芳香族複素環等が挙げられる。また、これらのアリール基や芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、前記した一般式(2)におけるR、R、R及びRについての説明で述べたようなアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、及びアラルキルオキシ基、並びにハロゲン原子、シリル基、複素環基、置換アミノ基、及び保護されていてもよい水酸基等が挙げられる。
【0040】
また、さらに好ましい3座アミノジホスフィン配位子としては下記一般式(5)で表されるものが挙げられる。
【0041】
【化9】

【0042】
また、一般式(2)や(3)で表される3座アミノジホスフィン配位子はQ、Q上の置換基によって、またR〜Rによっては光学活性体として一般式(1)で表されるルテニウムカルボニル錯体の配位子として用いることができる。
【0043】
本発明におけるルテニウムカルボニル錯体を製造するための出発原料であるルテニウム化合物としては、特に制限はないが、例えば、RuCl水和物、RuBr水和物、RuI水和物等の無機ルテニウム化合物、RuCl(DMSO)、[Ru(cod)Cl、[Ru(nbd)Cl、(cod)Ru(2−methallyl)、[Ru(benzene)Cl、[Ru(benzene)Br、[Ru(benzene)I、[Ru(p−cymene)Cl、[Ru(p−cymene)Br、[Ru(p−cymene)I、[Ru(mesitylene)Cl、[Ru(mesitylene)Br、[Ru(mesitylene)I、[Ru(hexamethylbenzene)Cl、[Ru(hexamethylbenzene)Br、[Ru(hexamethylbenzene)I、RuCl(PPh、RuBr(PPh、RuI(PPh、RuH(PPh、RuClH(PPh、RuH(OAc)(PPh、RuH(PPh等が挙げられる。例示中、DMSOはジメチルスルホキシド、codは1,5−シクロオクタジエン、nbdはノルボルナジエン、Phはフェニル基をそれぞれ表す。
【0044】
一般式(1)で表されるルテニウムカルボニル錯体は、3座アミノジホスフィン配位子と前駆体となるルテニウムカルボニル錯体から容易に調製することができる。
3座アミノジホスフィン配位子は、脱離基を有するビス(置換アルキル)アミンとリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属フォスフィド化合物を反応させることで容易に調製することができる。
前駆体となるルテニウムカルボニル錯体は、例えば、Inorg.Synth,1974,15,45.に記載の方法などにより得ることができる。得られた前駆体となるルテニウムカルボニル錯体を3座アミノジホスフィン配位子と反応させて3座アミノジホスフィン配位子を有する本発明のルテニウムカルボニル錯体とすることができる。
【0045】
例えば、一般式(1)で表されるルテニウムカルボニル錯体は、一般式(2)で表される3座アミノジホスフィン配位子LとRuXY(CO)(P(Ar(式中、Arは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアリール基を表す。)とを反応させて製造することができる。Arにおける、アリール基やその置換基としては前記したものが挙げられる。好ましいArとしては、置換基を有してもよいフェニル基、特にフェニル基が挙げられる。
また、一般式(1)で表されるルテニウムカルボニル錯体におけるXがBHであるルテニウムカルボニル錯体は、例えば、J.Am.Chem.Soc.2005,127,516.に記載の方法などに準じて、Xが塩素イオンであるルテニウムカルボニル錯体とNaBHを反応させることにより製造することができる。
【0046】
このように調製される錯体は、配位子の配位様式やコンホメーションによって立体異性体を生じることがあるが、反応に用いる錯体はこれら立体異性体の混合物であっても純粋なひとつの異性体であっても構わない。これらの錯体は比較的安定に存在し、取り扱いが容易である。
【0047】
好ましい錯体としては、例えば、下記一般式(8)
RuHCl(CO)(L) (8)
(式中(L)は、前記した一般式(5)で表される3座アミノジホスフィンを表す)で表される錯体が挙げられ、この錯体は一般式(5)で表される3座アミノジホスホスフィン配位子LとRuClH(CO)(PPhを適宜溶媒中で攪拌することで容易に調製される。
【0048】
また、好ましい錯体としては、例えば、下記一般式(9)
RuH(BH)(CO)(L) (9)
(式中(L)は、前記した一般式(5)で表される3座アミノジホスフィンを表す)で表される錯体が挙げられ、この錯体は一般式(8)で表されるルテニウムカルボニル錯体とNaBHを適宜溶媒中で攪拌することで容易に調製される。
このようなルテニウムカルボニル錯体を触媒として用いることで、水素雰囲気下でアミドから、対応するアルコールやアミンを高収率、高触媒効率で製造することが可能となる。
【0049】
本発明の2−メントキシエタノールを製造する方法は、以下に示される反応に従って行われる。
【0050】
【化10】


(式中、Xは炭素数1乃至4のアルキル基を表す。)
【0051】
すなわち、ルテニウムカルボニル錯体の存在下、水素供与体を用いてメントキシ酢酸エステル(A)を水素化還元することによって2−メントキシエタノール(B)が得られる。
【0052】
本発明の原料化合物であるメントキシ酢酸エステルは周知化合物である、市販のものを用いてもよいし、または上方により合成して使用してもよい。
上記のメントキシ酢酸エステル(A)において、Xは炭素数1菜石4のアルキル基を表し、具体的には、直鎖状のアルキル基または分岐状のアルキル基のいずれでもよく、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基であることが好ましい。好ましい炭素数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基などを挙げることができる。
【0053】
また、本発明において用いられる一般式(A)で示されるメントキシ酢酸エステル(A)は、ラセミ体であってもよいし、光学活性体であってもよい。好ましい光学活性体としては、2−((1R,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)酢酸エステルまたは2−((1S,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)酢酸エステルが挙げられる。
【0054】
本発明の2−メントキシエタノールの製造方法は、無溶媒又は溶媒中で好適に実施することができるが、溶媒を使用することが好ましい。用いられる溶媒としては、基質及び触媒を溶解できるものが好ましく、単一溶媒あるいは混合溶媒が用いられる。具体的にはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルtert−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール及びグリセリン等の多価アルコール類が挙げられる。この中でもエーテル類又はアルコール類が好ましく、特に好ましい溶媒としては、テトラヒドロフラン、メタノール又はイソプロパノールが挙げられる。溶媒の使用量は、反応条件等により適宜選択することができる。反応は必要に応じ撹拌下に行われる。
【0055】
触媒の使用量は、原料であるメントキシ酢酸エステル、反応条件や触媒の種類等によって異なるが、通常、基質であるメントキシ酢酸エステルに対するルテニウム金属としてのモル比で0.0001モル%〜10モル%、好ましくは0.005モル%〜5モル%の範囲である。本発明の方法において、水素化還元を行う際の反応温度は、0℃〜180℃、好ましくは0℃〜120℃である。反応温度が低すぎると未反応の原料が多く残存する場合があり、また高すぎると、原料、触媒等の分解が起こる場合があり、好ましくない。
本発明の方法において、水素還元を行う際の水素の圧力は、0.1MPa〜10MPa、好ましくは3MPa〜6MPaである。また反応時問は30分〜72時間、好ましくは2時間から48時間で十分に高い原料転化率を得ることができる。
【0056】
反応終了後は、抽出、濾過、結晶化、蒸留、各種クロマトグラフィー等、通常用いられる精製法を単独又は適宜組み合わせることにより目的の2−メントキシアエタノールを得ることができる。
【0057】
本発明における反応には適宜添加剤を加えてもよい。
添加剤としては例えば塩基性化合物が挙げられる。塩基性化合物の具体例としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピペリジン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、トリ−n−ブチルアミン及びN−メチルモルホリン等のアミン類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、カリウムtert−ブトキシド、リチウムメトキシド、リチウムイソプロポキシド、リチウムtert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド等のアルカリ土類金属アルコキシド、水素化ナトリウム、水素化カルシウム、の金属水素化物が挙げられる。特に好ましい塩基としては、ナトリウムメトキシド又はカリウムtert−ブトキシドが挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げ、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
なお、合成例、実施例中での生成物の測定は、次の機器装置類を用いて行われた。
核磁気共鳴スペクトル:1H−NMR:AM−400(400MHz)(ブルッカー社製)
外部標準物質:テトラメチルシラン
ガスクロマトグラフ(GC):HP6890(HEWLETTPACKARD社製)
GC;キャピラリー DB−1
注入温度 250℃,検出温度 250℃
100℃−10℃/分−300℃(5分)
[合成例1]
次の反応式によりルテニウムカルボニル錯体1a及び1bを製造した。
【0059】
【化11】

【0060】
窒素気流下、アミン塩酸塩8(4.18mmol)を100mlのフラスコに加え、トルエン(33ml)に懸濁させ、15%NaOH水溶液(14ml)を加え固体がなくなるまで室温で撹拌した。溶液を分液後、有機層を蒸留水(14ml×2)で洗浄し、水層をトルエン(14ml×2)で抽出した。あわせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去してアミン9を得た。
ルテニウムカルボニル錯体7(4.18mmol)を200mlのフラスコに加え、窒素置換した後、トルエン(33ml)に溶解させたアミン9を加え、60分間加熱還流を行った。放冷後、反応液にヘキサン(82ml)を加えた後、窒素雰囲気下にて析出している結晶をろ別した。得られた結晶をヘキサン(10ml)、エタノール(40ml)で洗浄した。減圧乾燥し、ルテニウム錯体1aを1.4g(2.3mmol)得た。
【0061】
H−NMR(300MHz CDCl):δ=
-15.23(t, J = 29.3Hz, 1H), 2.40-2.65(m, 4H),
2.90-3.05(m, 2H),3.30-3.55(m,2H), 3.92(bs, 1H),
7.08-7.34(m, 4H), 7.38-7.46(m,8H), 7.40-7.88(m, 8H)
31P−NMR(121.5MHz CDCl):δ=52.8(d, J = 14Hz)
【0062】
前記で製造した錯体1a(2.22mmol)を窒素雰囲気下、1000mlフラスコに加え、トルエン(222ml)に懸濁させた。この懸濁液に、エタノール(222ml)に溶解させたNaBH(60.0mmol)を加え、65℃で30分撹拌後、室温で30分撹拌し溶媒を減圧下で留去した。残渣にヘキサン(220ml)、蒸留水(110ml)を加え15分撹拌した後に、析出している結晶をろ別した。得られた結晶を蒸留水(110ml×2)、ヘキサン(110m1×2)で洗浄した。減圧乾燥をおこない目的のルテニウム錯体1bを1.05g(1.79mmol)得た。
【0063】
H−NMR(300MHz CDCl):δ=
-12.36(t, J = 28.5Hz, 1H), -2.80- -1.70(bs, 4H),
2.40-2.78(m, 4H),2.90-3.05(m, 2H), 3.32-3.60(m, 2H),
4.20-4.40(m, 1H), 6.92-7.28(m, 4H),
7.38-7.46(m, 8H), 7.70-7.82(m, 8H)
31P−NMR(121.5MHz CDCl):δ=56.6(s)
【0064】
[合成例2]
OrganicSyntheses, Coll. Vol. 3, p.544(1955)に記載の方法に従い、次の反応式によりメントキシ酢酸を製造した。
【0065】
【化12】

窒素気流下、撹拌装置、温度計、還流管、滴下ロートの付いた1000ml4つ口フラスコに、l−メントール(80.0g、0.51mol)、トルエン(200ml)を入れ、そこへナトリウム(14.0g、0.61mol)を加え、110℃に加熱した。同温度で15時間撹拌を続けた後、室温まで冷却し過剰のナトリウムを注意深く除去した。
この溶液を85℃の加熱し、滴下ロートよりのクロロ酢酸(19.0g、0.20mol)のトルエン(160ml)溶液を滴下した。滴下終了後、110℃まで加熱し24時間撹拌を続けた。
この溶液を冷却し、水(200ml)を入れた2Lフラスコに滴下した。そこへ20%塩酸を加え、溶液が酸性であることを確認した。有機層を1回水洗し、減圧下トルエンを回収し粗l−メントキシ酢酸を得た。この粗l−メントキシ酢酸を減圧蒸留によって精製し、l−メントキシ酢酸(34.9g、0.163mol)を得た。沸点135℃/2mmHg、収率64%。
【0066】
[合成例3]
次の反応式によりl−メントキシ酢酸メチルを製造した。
【0067】
【化13】



窒素気流下、撹拌装置、温度計、還流管の付いた500ml4つ口フラスコに、上記で得られたメントキシ酢酸(34.9g、0.163mol)、メタノール(166ml)、濃硫酸(0.33g、0.0034mol)を入れ、65℃に加熱し、2時間撹拌を続けた。GCにより転化率を求めたところ98%であったので、20℃に冷却した。
炭酸ナトリウム(0.36g、0.0034mol)を水(3.6ml)に溶かし、反応溶液に加え10分撹拌した。この溶液を減圧下濃縮し、メタノールを回収した。
濃縮液にトルエン(63ml)、1%炭酸ナトリウム水溶液(63ml)を加え、洗浄、分液した。さらに水洗(62ml)を2回行い、減圧下濃縮し粗l−メントキシ酢酸メチルを得た。
減圧蒸留にて精製しl−メントキシ酢酸メチル(36.6g、0.16mol)を得た。沸点90℃/2.0mmHg、収率98%。
【0068】
[実施例1]
次の反応式により合成例1で合成したルテニウムカルボニルクロロヒドリド錯体(1a)を用いてl−メントキシ酢酸メチルの水素化を行い2−l−メントキシエタノールを製造した。
【0069】
【化14】


窒素気流下、200mlオートクレーブにRuHCl(CO) (Ph2PCH2CH2)2NH)(0.0487g、0.00080mol)、メタノール(73ml)、l−メントキシ酢酸メチル(36.64g、0.16mol)、28%ナトリウムメチラート メタノール溶液(1.55g、0.0802mol)を入れ、水素圧4.5MPa、80℃で水素化を行った。5時間後、水素圧の減少が見られなくなったので、GCにて分析を行い、l−メントキシ酢酸メチルの消失を確認した。冷却後、メタノールを減圧回収し、トルエン(73ml)、水(73ml)を加え水洗を行った。さらに水(73ml)で2回洗浄し、減圧濃縮を行った。
減圧蒸留にて精製を行い2−l−メントキシエタノール(27.86g、0.14mol)を得た。沸点85℃/1.5mmHg、収率87%。
【0070】
[実施例2]
次の反応式により合成例1で合成したルテニウムカルボニルヒドリドボロヒドリド錯体(1b)を用いてメントキシ酢酸メチルの水素化を行い2−l−メントキシエタノールを製造した。
【0071】
【化15】


窒素気流下、200mlオートクレーブにRuHBH4(CO) (Ph2PCH2CH2)2NH)(0.0147g、0.000025mol)、THF(22.8ml)、l−メントキシ酢酸メチル(11.4g、0.05mol)を入れ、水素圧4.5MPa、85℃で水素化を行った。6時間後、水素圧の減少が見られなくなったので、GCにて分析を行い、メントキシ酢酸メチルの消失を確認した。冷却後、THFを減圧回収した。
減圧蒸留にて精製を行い2−l−メントキシエタノール(9.0g、0.045mol)を得た。沸点85℃/1.5mmHg、収率90%。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
RuXY(CO)(L) (1)
(一般式(1)中、X及びYは同一であっても異なっていてもよくアニオン性配位子を表し、Lは下記一般式(2)
【化1】


(一般式(2)中、R、R、R及びRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基又は置換アミノ基を表し、これらのRとR又はRとRは互いに結合し隣接するリン原子と共に環を形成していてもよい。また、これらのアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基、及び置換アミノ基は置換基を有していてもよい。
及びQは同一であっても異なっていてもよく、置換基を有していてもよい二価のアルキレン基、置換基を有していてもよい二価のシクロアルキレン基又は置換基を有していてもよい二価のアラルキレン基を表す。)
で表される3座アミノジホスフィン配位子を表す。)
で表されるルテニウムカルボニル錯体の存在下、水素供与体を用いて下記一般式(A)
【化2】

(A)
(式中、Xは炭素数1乃至4のアルキル基を表す。)
で表されるメントキシ酢酸エステルを水素化還元することを特徴とする2−メントキシエタノールの製造方法。
【請求項2】
3座アミノジホスフィン配位子Lが、下記一般式(3)
【化3】


(一般式(3)中、R、R、R及びRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。nは0から3の整数を表す。)
で表される3座アミノジホスフィン配位子であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
3座アミノジホスフィン配位子Lが、下記一般式(4)
【化4】


(一般式(4)中、Ar、Ar、Ar及びArは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、アリール基、又は芳香族複素環基を表す。また、これらのアリール基、及び芳香族複素環基は置換基を有していてもよい。)
で表される3座アミノジホスフィン配位子であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(4)におけるAr、Ar、Ar及びArが、置換基を有していてもよいフェニル基である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
3座アミノジホスフィン配位子Lが、下記一般式(5)
【化5】


(式中、Phはフェニル基を表す。)
で表される3座アミノジホスフィン配位子であることを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
3座アミノジホスフィン配位子Lが、光学活性な3座アミノジホスフィン配位子である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
一般式(1)におけるXのアニオン性配位子がヒドリドであり、Yのアニオン性配位子がClである請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
一般式(1)におけるXのアニオン性配位子がヒドリドであり、Yのアニオン性配位子が、BHである請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
塩基存在下で行う、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
塩基がナトリウムメトキシドである請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
一般式(A)のメントキシ酢酸エステルが、2−((1R,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)酢酸エステル又は2−((1S,2S,5R)−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)酢酸エステルであること特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。



【公開番号】特開2012−224600(P2012−224600A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95826(P2011−95826)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】