説明

2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンの製造方法

【課題】収率の低下を抑えながら、連続的に2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンを製造する方法を提供すること。
【解決手段】シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを、水及び塩基触媒中の存在下でアルドール縮合させて、2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンを製造する方法であって、下記工程(i)〜(iii)を有する製造方法である。
工程(i):シクロアルカノン及びアルキルアルデヒドを、水及び塩基触媒中に連続的に混合して反応系を形成し、反応させる工程。
工程(ii):工程(i)の進行の際に、反応混合物を反応系外に連続的に抜き出す工程。
工程(iii):工程(ii)の進行の際に、反応系中の塩基触媒の濃度及び/又は水の量を一定に保つために、塩基触媒を含む水をさらに反応系に添加する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンは、生理活性物質や香料の合成中間体として有用である。この2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンの製造方法としては、水と塩基触媒の存在下で、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを、バッチ式によりアルドール縮合反応させる方法が知られている(特許文献1〜3参照)。しかし、これらの方法はバッチ式であることから、反応を終了させるたびに塩基触媒水溶液の酸による中和、ならびに有機層に含まれる水及びシクロアルカノンの蒸留回収が必要となり、生産性の点で満足いくものではなかった。また、特許文献3には、アルドール縮合反応で用いた水層部を再使用できることが示唆されている。しかし、水層を再使用するためには、一旦酸を加えて中和し、有機層を分層除去した後、水層に塩基触媒を加えて塩基性にする必要がある。この方法では、中和塩の増加により、アルドール縮合反応の原料の水層への溶解性が低下するため、水層の再利用のたびに目的化合物の収率が低下するという問題があった。そのため、目的化合物の収率の低下を抑制するために、水層の再使用の回数が制限され、再使用できなくなった大量の水を廃棄しなければならなかった。また、水層に溶解しているシクロアルカノンを損失するという問題もあった。
【0003】
【特許文献1】特開昭56−147740号公報
【特許文献2】特開2001−335529号公報
【特許文献3】特開2004−217619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、収率の低下を抑えながら、連続的に2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題を鑑みて、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとの混合液を、塩基触媒水溶液中に滴下・混合する一方、得られた反応混合物を反応系外に抜き出す工程の際に、該反応系中の塩基触媒の濃度及び/又は水の量を一定に保つために、塩基触媒を含む水をさらに反応系に添加することで、連続的にアルドール縮合反応を行い2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンを製造する方法を見出した。また、連続的にアルドール縮合反応を行うにあたり、反応系外に抜き出した反応混合物を有機層と水層とに分離して得られた水層を反応系に回収再使用する際、原料となるアルキルアルデヒドに少量含まれるアルキルカルボン酸との反応により中和塩を生成して失活する塩基触媒を連続的に反応系に添加して補う必要があることを見出した。このような塩基触媒を含む水の反応系への添加により、反応系内の塩基触媒の濃度及び量を一定に保つことができるので、反応速度の低下と塩基触媒の失活とを抑制し、半永久的にアルドール縮合反応を進行させて、目的化合物である2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンを効率よく、連続的に製造しうることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを、水及び塩基触媒中の存在下でアルドール縮合させて、2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンを製造する方法であって、工程(i):シクロアルカノン及びアルキルアルデヒドを、水及び塩基触媒中に連続的に混合して反応系を形成し、反応させる工程、工程(ii):工程(i)の進行の際に、反応混合物を反応系外に連続的に抜き出す工程、及び工程(iii):工程(ii)の進行の際に、反応系中の塩基触媒の濃度及び/又は水の量を一定に保つために、塩基触媒を含む水をさらに反応系に添加する工程、を有する製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、収率の低下を抑えながら、連続的に2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明の製造方法の好ましい態様を概念的に示す説明図である。本発明の製造方法を、図1を用いて説明する。反応器は、水及び塩基触媒の存在下、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを連続的に添加・混合してアルドール縮合反応させるものであり、該反応器にはシクロアルカノン及びアルキルアルデヒド、ならびに塩基触媒を含む水が連続的に供給される。反応器中の反応混合物は、分離器に連続的に抜き出され、該分離器において有機層と水層とに分離される。
【0009】
[工程(i)]
工程(i)は、水及び塩基触媒の存在下、シクロアルカノン及びアルキルアルデヒドを連続的に添加して反応系を形成する工程であり、該反応系では、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとのアルドール縮合反応が行われる。工程(i)で用いる反応器は、シクロアルカノン、アルキルアルデヒド、水及び塩基触媒などの供給口、反応混合物の抜出口、水層などの再利用に用いるための口などが備えられていれば特に制限はなく、例えば攪拌槽式などを用いればよい。
【0010】
反応温度は、特に限定されるものではないが、例えば水層部の凝固を防止し、シクロアルカノンの二量体などの副生成物の生成を抑制する目的から、−5〜40℃が好ましく、−5〜30℃がより好ましい。また、アルドール縮合反応の反応圧力は、絶対圧で10kPa〜1MPaが好ましく、使用する装置を安価とする観点から、50〜300kPaがより好ましく、80〜120kPaがさらに好ましい。
【0011】
[シクロアルカノン]
本発明で用いられるシクロアルカノンは、好ましくは炭素数4〜8のシクロアルカノンであり、より好ましくはシクロペンタノン又はシクロヘキサノンであり、さらに好ましくはシクロペンタノンである。
【0012】
[アルキルアルデヒド]
本発明で用いられるアルキルアルデヒドは、好ましくは炭素数1〜15のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、さらに好ましくは炭素数3〜5のアルキル基、特に好ましくは炭素数4の直鎖アルキル基を有するアルデヒドである。炭素数3〜5のアルキル基を有するアルデヒドとしては、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキシルアルデヒドなどが挙げられ、炭素数4の直鎖アルキル基を有するアルデヒドは、バレルアルデヒドである。
【0013】
シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとは、良好な収率を得て、酸による中和を行わずに反応混合物を水層と有機層とに分離するために、シクロアルカノンを過剰に反応させることが好ましい。一方、過剰分のシクロアルカノンの回収などの生産性の低下を考慮すると、シクロアルカノンの添加量は、アルキルアルデヒド1モルに対して2〜6モルが好ましく、3〜5モルがより好ましく、3〜4モルがさらに好ましい。
【0014】
シクロアルカノン及びアルキルアルデヒドは、(i)あらかじめシクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを混合して、あるいは(ii)シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを別々に、供給することができるが、(i)により供給することが好ましい。
【0015】
[塩基触媒]
本発明に用いられる塩基触媒としては、特に制限されるものではないが、例えば式(7)で表される化合物が好ましく挙げられる。
M(OH)m (7)
式中、MはLi、Na、Kなどのアルカリ金属、又はMg、Ca、Baなどのアルカリ土類金属であり、良好な効率を得るためには、アルカリ金属が好ましい。mは1又は2の整数である。上記の式(7)で表される塩基触媒のなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムが好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましく、水酸化ナトリウムがさらに好ましい。
【0016】
反応系における塩基触媒の量は、副反応の抑制及び反応速度の向上の観点から、時間あたり供給するアルキルアルデヒド1モルに対して、好ましくは0.005〜0.5モル、より好ましくは0.01〜0.1モル、さらに好ましくは0.02〜0.08モルとなるように調整することが望ましい。
【0017】
[水]
反応系における水の量は、反応系における塩基触媒の濃度を決定する上で重要であり、アルキルアルデヒド及びシクロアルカノンの二量体、高沸成分などの副生成物の生成を抑制する観点から、反応系における水と塩基触媒との合計に対する塩基触媒の濃度が0.1〜3質量%となるような量とすることが好ましく、0.5〜2.5質量%がより好ましく、0.8〜2質量%がさらに好ましい。
【0018】
[溶媒]
アルキルアルデヒドとシクロアルカノンとの反応は、溶媒を用いて行ってもよい。ただし、当該反応はシクロアルカノンと水との二層系の反応であるから、これに適した溶媒を選択することが好ましい。好ましい溶媒としては、アルドール縮合反応に対して不活性であり、かつ本発明の目的化合物の分離精製を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えば、沸点範囲が140〜210℃程度の、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒;ノナン、デカン、ウンデカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0019】
本発明にかかるアルドール縮合反応で得られる2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとしては、下記一般式(1)で表される化合物(1)が好ましく挙げられる。
【0020】
【化1】

【0021】
式中、nは1又は2の整数を示し、1が好ましい。また、R1は水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、炭素数3〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基が好ましく、炭素数4の直鎖のアルキル基がより好ましい。
【0022】
また、アルドール縮合反応において、2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンの脱水体であるアルキリデンシクロアルカノンが生成する。この脱水体は、2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンと同様に生理活性物質や香料の合成中間体として有用である。
【0023】
[工程(ii)]
工程(ii)は、工程(i)の進行の際に、得られた反応混合物を反応系外に連続的に抜き出す工程である。ここで、「工程(i)の進行の際に」とは、工程(i)の開始と同時に、あるいは工程(i)の進行中に、などの態様を含むものである。本発明の製造方法は、シクロアルカノン及びアルキルアルデヒドの反応系内への連続的添加(混合)と、反応混合物の反応系外への連続的な抜き出しとにより、反応1回ごとに独立して反応させるバッチ式に比べて、生産性の高い連続的な目的化合物の製造を可能にする。
反応混合物の抜出量は、工程(i)における反応系内へのシクロアルカノン及びアルキルアルデヒドの添加量と、抜き出した反応混合物中の有機層の量とがほぼ同量となるように調整することが好ましい。反応混合物の抜出量は、シクロアルカノン及びアルキルアルデヒドの添加量に対して、1〜2.5倍(容量比)であることが好ましく、1〜2倍がより好ましく、1.2〜2倍がさらに好ましい。反応混合物の抜出量が上記範囲内にあれば、高い収率を得ることができる。
【0024】
[工程(iii)]
工程(iii)は、工程(ii)の進行の際に、反応系中の塩基触媒の濃度及び/又は水の量を一定に保つために、好ましくは塩基触媒の濃度及び水の量を一定に保つために、塩基触媒を含む水をさらに反応系に添加する工程である。ここで、「工程(ii)の進行の際に」とは、工程(ii)の開始と同時に、あるいは工程(ii)の進行中に、などの態様を含むものである。
【0025】
本発明で用いられるアルキルアルデヒドは、その酸化物であるアルキルカルボン酸を含むことがある。反応系に添加される塩基触媒は、当該アルキルカルボン酸との反応により消費される塩基触媒を補充するために、すなわち反応系中の塩基触媒の濃度を一定に保つために、添加されるものである。添加される塩基触媒の量は、上記の消費される塩基触媒を補充できる量と同量であればよい。具体的には、塩基触媒の量は、原料であるバレルアルデヒドの酸価を測定し、その中に含まれる吉草酸とほぼ同じモル数とする。また、水の量は、有機層に溶解して抜き出される水の量と同量とする。
【0026】
本発明においては、反応混合物を水層と有機層とに迅速に分離させるために必要となる酸を供給することがないので、酸と塩基触媒との反応により生成する中和塩の生成が抑えられる。これにより、塩基触媒は、上記したアルキルアルデヒドに含まれるアルキルカルボン酸による消費分を補う分を添加するだけでよく、その添加量が抑えられる。
【0027】
工程(iii)において、塩基触媒を含む水の反応系への添加は、塩基触媒をあらかじめ水に溶解させて塩基触媒水溶液として添加することができる。
【0028】
[工程(iv)]
工程(iv)は、工程(ii)で抜き出した反応混合物を有機層と水層に分離して、該水層を再使用する工程である。本発明の製造方法は、廃水の量を低減し、かつ該水層に含まれるシクロアルカノンを再使用する観点から、工程(iv)を好ましく有する。また、分離器で分離された水層は、反応系に戻して再使用される。
【0029】
[工程(v)]
本発明の製造方法は、生産効率を向上させる観点から、工程(iv)で分離した有機層に含まれるシクロアルカノンを蒸留回収し、再使用する工程(v)を有することが好ましい。本発明の製造方法において過剰に用いられたシクロアルカノンが未反応のまま有機層中に含まれるため、これを蒸留により回収して再使用することで、生産効率を向上させることができる。また、本工程により、有機層中に含まれる水を回収し、再利用することもできる。
【0030】
[アルキル(3−オキソ−2−アルキルシクロアルキル)アセテートの製造方法]
下記一般式(5)で表されるアルキル(3−オキソ−2−アルキルシクロアルキル)アセテート(以下、化合物(5)という。)は、香料素材、生理活性剤として有用な化合物であり、上記の製造方法で得られた化合物(1)から得ることができる。
【0031】
【化2】

【0032】
式中、n及びR1は前記と同様である。R2は、炭素数1〜3のアルキル基を示し、メチル基が好ましい。
【0033】
化合物(5)の調製方法は特に限定されるものではないが、例えば、次のようにして得られる。まず、化合物(1)の脱水反応により一般式(2)で表される2−(アルキリデン)シクロアルカノン(以下、化合物(2)という。)を得て、還流するn−ブタノール中で、塩酸、臭化水素酸などの水性酸の存在下で、化合物(2)を異性化反応させて、一般式(3)で表される2−(アルキル)シクロアルケノン(以下、化合物(3)という。)を得る。次いで、化合物(3)と下記一般式(4)で表されるマロン酸ジエステル(以下、化合物(4)という。)と、を塩基性触媒存在下で反応させて、一般式(8)で表される化合物(8)を得る。
【0034】
【化3】

【0035】
式中、n及びR1及びR2は、前記と同様である。また、一般式(4)及び(8)における2個のR2は、同一でも異なっていてもよい。
【0036】
化合物(3)と化合物(4)との反応に用いられる塩基触媒としては、特に限定はされないが、例えばナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。該塩基触媒の使用量は、化合物(3)1モルに対して0.005〜0.2モルが好ましい。また、好ましくはアルコール類などの極性溶媒を用いることができる。反応温度は−10〜30℃が好ましく、0〜20℃がより好ましい。
【0037】
このようにして得られた化合物(8)と水とを反応させることにより、化合物(5)が得られる。水は、滴下しながら添加することが好ましく、添加量は、化合物(8)1モルに対して1〜3倍量が好ましい。また、反応温度は150〜250℃が好ましい。
【0038】
[5−アルキル−5−アルカノリドの製造方法]
上記の製造方法で得られた化合物(1)を原料として、香料素材、生理活性剤として有用な、下記一般式(6)で表される5−アルキル−5−アルカノリド(以下、化合物(6)という。)を得ることができる。
【0039】
【化4】

【0040】
式中、n及びR1は前記と同様である。
【0041】
化合物(6)は、具体的には、次のようにして得られる。まず、化合物(1)の脱水反応により化合物(2)を得て、還流するn−ブタノール中で、塩酸、臭化水素酸などの水性酸の存在下で、化合物(2)を異性化反応させて、化合物(3)を得る。次いで、Pd/Cなどの触媒存在下で水素還元させて、一般式(9)で表される化合物(9)を得る。
【0042】
【化5】

【0043】
式中、n及びR1は、前記と同様である。
【0044】
このようにして得られた化合物(9)を例えば特開平9−104681号公報に記載されているように、過酢酸などの酸化剤を用いて、バイヤービリガー(Baeyer−Villiger)酸化させることにより、化合物(6)が得られる。
【実施例】
【0045】
実施例1
100mLの4つ口フラスコに、水16.6g(0.92mol)及び水酸化ナトリウム0.16g(0.004mol)を仕込み、攪拌しながら15℃とした後、バレルアルデヒド61.3g(0.71mol,酸価1.5mg−KOH/g)とシクロペンタノン237.8g(2.83mol)との混合液及び水酸化ナトリウム水溶液36.0g(0.36質量%)を6時間かけて滴下した。滴下しながら、滴下速度の1.4倍の速度で反応混合物を滴下ろうと(分離器)に抜き出して、有機層と水層とに分離し、下層となる水層をフラスコに戻した。上層となる有機層は、1時間毎にまとめてガスクロマトグラフィーで分析を行った。滴下終了後、フラスコ内の反応混合物を分層し、有機層と水層とを各々ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、有機層には、バレルアルデヒド3.06g(0.036mol)、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペタノン106.5g(0.63mol)、ペンチリデンシクロペンタンノン2.13g(0.014mol)が含まれていた(バレルアルデヒド転化率95.0%、収率89.9%)。
一方、滴下後1〜2時間目の抜き出した有機層の組成は、バレルアルデヒド0.9質量%、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペタノン32.4質量%であり、滴下後5〜6時間目の有機層の組成は、バレルアルデヒド1.0質量%、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペタノン32.6質量%であり、滴下中は反応が安定して進行していることが示された。また、滴下終了後の水層に含まれる水の量、及び水酸化ナトリウムの量は、初期仕込み量とほぼ同量であり、有機層に溶解した水の量、及びバレルアルデヒド中に含まれる吉草酸との反応により消費された塩基触媒の量を、水酸化ナトリウム水溶液を滴下することで連続的に補っていることが確認された。
【0046】
実施例2
200mLの4つ口フラスコに、水33.0g(1.83mol)及び水酸化ナトリウム0.64g(0.02mol)を仕込み、攪拌しながら5℃に冷却した後、バレルアルデヒド123.6g(1.44mol,酸価1.5mg−KOH/g)とシクロペンタノン482.2g(5.73mol)との混合液及び水酸化ナトリウム水溶液56.4g(0.22質量%)を6時間かけて滴下した。滴下しながら、滴下速度の1.7倍の速度で反応混合物を滴下ろうとに抜き出して、有機層と水層とに分離し、下層となる水層をフラスコに戻した。上層となる有機層は、0.5時間毎にまとめてガスクロマトグラフィーで分析を行った。滴下終了後、フラスコ内の反応混合物を分層し、有機層と水層とを各々ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、有機層には、バレルアルデヒド2.98g(0.035mol)、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペタノン213.4g(1.25mol)、ペンチリデンシクロペンタンノン4.19g(0.028mol)が含まれており、バレルアルデヒド転化率97.6%、収率89.3%となった。
また、実施例1と同様に、混合液の滴下初期(1〜2時間目)の抜き出した有機層の組成と、滴下後半(5〜6時間目)の有機層の組成とはほぼ同じであり、反応が安定して進行していることが確認された。
【0047】
実施例3
200mLの4つ口フラスコに、水33.0g(1.83mol)及び水酸化ナトリウム0.64g(0.02mol)を仕込み、攪拌しながら5℃に冷却した後、バレルアルデヒド123.2g(1.43mol,酸価1.5mg−KOH/g)とシクロペンタノン361.8g(4.30mol)との混合液及び水酸化ナトリウム水溶液47.9g(0.27質量%)を6時間かけて滴下した。滴下しながら、滴下速度の1.9倍の速度で反応混合物を滴下ろうとに抜き出して、有機層と水層とに分離し、下層となる水層をフラスコに戻した。上層となる有機層は、0.5時間毎にまとめてガスクロマトグラフィーで分析を行った。滴下終了後、フラスコ内の反応混合物を分層し、有機層と水層とを各々ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、有機層には、バレルアルデヒド4.87g(0.057mol)、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペタノン211.8g(1.24mol)、ペンチリデンシクロペンタンノン4.20g(0.028mol)が含まれており、バレルアルデヒド転化率96.0%、収率88.9%となった。
また、実施例1と同様に、混合液の滴下初期(1〜2時間目)の抜き出した有機層の組成と、滴下後半(5〜6時間目)の有機層の組成とはほぼ同じであり、反応が安定して進行していることが確認された。
【0048】
実施例4
200mLの4つ口フラスコに、水33.0g(1.83mol)及び水酸化ナトリウム0.63g(0.02mol)を仕込み、攪拌しながら5℃に冷却した後、バレルアルデヒド123.2g(1.43mol,酸価1.5mg−KOH/g)とシクロペンタノン241.2g(2.87mol)との混合液及び水酸化ナトリウム水溶液35.5g(0.37質量%)を6時間かけて滴下した。滴下しながら、滴下速度の2.1倍の速度で反応混合物を滴下ろうとに抜き出して、有機層と水層とに分離し、下層となる水層をフラスコに戻した。上層となる有機層は、0.5時間毎にまとめてガスクロマトグラフィーで分析を行った。滴下終了後、フラスコ内の反応混合物を分層し、有機層と水層とを各々ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、有機層には、バレルアルデヒド10.09g(0.12mol)、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペタノン191.7g(1.13mol)、ペンチリデンシクロペンタンノン5.94g(0.039mol)が含まれており、バレルアルデヒド転化率91.8%、収率81.5%となった。
また、実施例1と同様に、混合液の滴下初期(1〜2時間目)の抜き出した有機層の組成と、滴下後半(5〜6時間目)の有機層の組成とはほぼ同じであり、反応が安定して進行していることが確認された。
【0049】
実施例5
100mLの4つ口フラスコに、水16.6g(0.92mol)及び水酸化ナトリウム0.16g(0.004mol)を仕込み、攪拌しながら15℃に冷却した後、バレルアルデヒド165.3g(1.92mol,酸価1.5mg−KOH/g)とシクロペンタノン646.4g(7.68mol)との混合液及び水酸化ナトリウム水溶液95.1g(0.35質量%)を16時間かけて滴下した。滴下しながら、滴下速度の1.4倍の速度で反応混合物を滴下ろうとに抜き出して、有機層と水層とに分離し、下層となる水層をフラスコに戻した。上層となる有機層は、1時間毎にまとめてガスクロマトグラフィーで分析を行った。滴下終了後、フラスコ内の反応混合物を分層し、有機層と水層とを各々ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、有機層には、バレルアルデヒド11.88g(0.14mol)、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペタノン278.1g(1.63mol)、ペンチリデンシクロペンタンノン5.8g(0.038mol)が含まれており、バレルアルデヒド転化率92.8%、収率87.1%となった。
第1表に、経時の有機層の主成分の組成を示す。この結果から、16時間という長期の連続反応を行っても、反応は安定していることが確認された。
【0050】
【表1】

【0051】
比較例1−1
200mLの4つ口フラスコに、水50.0g(2.78mol)及び水酸化ナトリウム0.48g(0.012mol)を仕込み、攪拌しながら15℃に冷却した後、バレルアルデヒド59.7g(0.69mol,酸価1.5mg−KOH/g)とシクロペンタノン237.9g(2.83mol)との混合液を2時間かけて滴下した。滴下しながら、滴下速度と同じ速度で反応混合物を滴下ろうとに抜き出して、有機層と水層とに分離して、下層となる水層をフラスコに戻した。混合液を滴下終了後、フラスコ内の反応混合物を分層し、有機層と水層とを各々ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、有機層には、バレルアルデヒド2.10g(0.024mol)、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペタノン101.6g(0.60mol)、ペンチリデンシクロペンタンノン1.91g(0.013mol)が含まれており、バレルアルデヒド転化率96.5%、収率88.0%となった。
【0052】
比較例1−2
200mLの4つ口フラスコに、比較例1−1で得られた水層27.2g、水27.9g(1.55mol)を仕込み、攪拌しながら15℃に冷却した後、バレルアルデヒド59.6g(0.69mol,酸価1.5mg−KOH/g)とシクロペンタノン237.8g(2.83mol)との混合液を2時間かけて滴下した。滴下しながら、滴下速度と同じ速度で反応混合物を滴下ろうとに抜き出して、有機層と水層とに分離して、下層となる水層をフラスコに戻した。混合液を滴下終了後、フラスコ内の反応混合物を分層し、有機層と水層とを各々ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、有機層には、バレルアルデヒド3.79g(0.044mol)、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペタノン98.3g(0.58mol)、ペンチリデンシクロペンタンノン1.62g(0.011mol)が含まれており、バレルアルデヒド転化率93.6%、収率85.0%となった。
【0053】
比較例1−3
200mLの4つ口フラスコに、比較例1−2で得られた水層28.0g、水28.2g(1.56mol)を仕込み、攪拌しながら15℃に冷却した後、バレルアルデヒド59.0g(0.68mol,酸価1.5mg−KOH/g)とシクロペンタノン237.8g(2.83mol)との混合液を2時間かけて滴下した。滴下しながら、滴下速度と同じ速度で反応混合物を滴下ろうとに抜き出して、有機層と水層とに分離して、下層となる水層をフラスコに戻した。混合液を滴下終了後、フラスコ内の反応混合物を分層し、有機層と水層とを各々ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、有機層には、バレルアルデヒド9.77g(0.11mol)、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペタノン85.8g(0.50mol)、ペンチリデンシクロペンタンノン1.14g(0.008mol)が含まれており、バレルアルデヒド転化率83.4%、収率74.8%となった。
【0054】
比較例1−4
200mLの4つ口フラスコに、比較例1−3で得られた水層27.7g、水28.1g(1.56mol)を仕込み、攪拌しながら15℃に冷却した後、バレルアルデヒド59.0g(0.68mol,酸価1.5mg−KOH/g)とシクロペンタノン237.8g(2.83mol)との混合液を2時間かけて滴下した。滴下しながら、滴下速度と同じ速度で反応混合物を滴下ろうとに抜き出して、有機層と水層とに分離して、下層となる水層をフラスコに戻した。混合液を滴下終了後、フラスコ内の反応混合物を分層し、有機層と水層とを各々ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、有機層には、バレルアルデヒド43.5g(0.51mol)、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペタノン25.4g(0.15mol)、ペンチリデンシクロペンタンノン0.21g(0.001mol)が含まれており、バレルアルデヒド転化率26.2%、収率22.0%となった。
【0055】
実施例1〜5の結果から、本発明の製造方法により、高い収率で2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンが連続的に得られることが示された。また、比較例1−1〜1−4の結果から、反応系中の塩基触媒の濃度及び/又は水の量を一定に保つために、塩基触媒を含む水をさらに反応系に添加する工程を有さない場合には、良好な結果が得られないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の製造方法によれば、収率の低下を抑えながら、連続的に2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンが得られる。これらの化合物は、生理活性物質や香料の合成中間体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の製造方法を概念的に示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを、水及び塩基触媒中の存在下でアルドール縮合させて、2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンを製造する方法であって、下記工程(i)〜(iii)を有する製造方法。
工程(i):シクロアルカノン及びアルキルアルデヒドを、水及び塩基触媒中に連続的に混合して反応系を形成し、反応させる工程。
工程(ii):工程(i)の進行の際に、反応混合物を反応系外に連続的に抜き出す工程。
工程(iii):工程(ii)の進行の際に、反応系中の塩基触媒の濃度及び/又は水の量を一定に保つために、塩基触媒を含む水をさらに反応系に添加する工程。
【請求項2】
さらに、下記工程(iv)を有する請求項1に記載の製造方法。
工程(iv):工程(ii)で抜き出した反応混合物を有機層と水層とに分離して、該水層を再使用する工程。
【請求項3】
さらに、下記工程(v)を有する請求項2に記載の製造方法。
工程(v):工程(iv)で分離した有機層に含まれるシクロアルカノンを蒸留回収し、再使用する工程。
【請求項4】
シクロアルカノンの添加量が、アルキルアルデヒドの添加量1モルに対して2〜6モルである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
反応混合物の抜出量が、シクロアルカノン及びアルキルアルデヒドの添加量の1〜2.5倍(容量比)である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
工程(i)において−5〜40℃で反応させる請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンが、下記一般式(1):
【化1】

(式中、nは1又は2の整数であり、R1は水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
で表される化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−161463(P2009−161463A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340892(P2007−340892)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】