説明

2−[4−(7−エチル−5H−ピロロ[2,3−b]ピラジン−6−イル)プロパン−2−オールを用いる糸球体腎炎の治療

式I
【化1】


の化合物を使用する糸球体腎炎及び他の腎機能障害の治療法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸球体腎炎に罹患しているか又はさらされているヒト及びヒト以外の患者の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糸球体腎炎(GN)は、腎糸球体の炎症を含む障害の一般名称である。GNは、抗体沈着、補体活性化、細胞増殖、及び糸球体硬化症を含む、関与する糸球体損傷のタイプによって分類することができる。これらの構造的及び機能的異常は、通常、血尿、蛋白尿、腎性高血圧及び腎不全に至る。
【0003】
糸球体腎炎の現在の治療は、しばしば非特異的な免疫抑制薬、又はルセンティス(R)(Lucentis(R))の名称の下に販売された抗体治療と併用する支持療法に重点が置かれている。糸球体腎炎のタイプによっては、患者の予後は、今のところ芳しくない。非特許文献1。この障害の有効な治療法、特にこの障害の有効な経口治療法が必要とされていることは明らかである。
【0004】
糸球体腎炎を治療するための治療法に関する現在の状況からみて、より有効な、そしてより良好に許容される治療法が必要であることは明らかである。
【0005】
プロテインキナーゼは、細胞外メディエーター及び環境における変化に反応して細胞の活性化、増殖及び分化を調節するシグナル伝達イベントに参加する。一般に、これらのキナーゼは、いくつかの群;セリン及び/又はトレオニン残基を優先的にリン酸化するもの及びチロシン残基を優先的にリン酸化するものに分類される[非特許文献2]。セリン/トレオニンキナーゼとしては、例えば、プロテインキナーゼCアイソフォーム[非特許文献3]及びcdc2のようなサイクリン依存性キナーゼの一群[非特許文献4]が含まれる。チロシンキナーゼとしては、膜貫通成長因子受容体、例えば上皮成長因子受容体[非特許文献5]、及び細胞質ゾル非受容体キナーゼ、例えばp56tck、p59fYn、ZAP−70及びcskキナーゼ[非特許文献6]が含まれる。
【0006】
不当に高いプロテインキナーゼ活性は、細胞機能異常から生じる多くの疾患に関与している。例えば、これは、例えば突然変異、過剰発現若しくは酵素の不適当な活性化に関連するキナーゼの適当な調節機構の欠損によって;又はキナーゼの上流若しくは下流のシグナルの伝達にも参加するサイトカイン又は成長因子の過剰若しくは過少産生によって直接又は間接的に生じると考えられる。これらの場合の全てにおいて、キナーゼ作用の選択的阻害は、有益な効果を有することが期待されると考えられる。
【0007】
Sykは、さまざまな造血細胞で発現され、そして細胞反応に対して抗原受容体を結びつけるいくつかのカスケードにおける必須要素である72kDaの細胞質タンパク質チロシンキナーゼである。従って、Sykは、マスト細胞における高親和性IgE受容体、Fcε1、並びにT及びBリンパ球における受容体抗原シグナル伝達において重要な役割を果たしている。マスト、T及びB細胞中に存在するシグナル伝達経路は、共通の特徴を有する。受容体のリガンド結合ドメインには、内因性チロシンキナーゼ活性がない。しかし、それらは、免疫受容体チロシンをベースとする活性化モチーフ(ITAM)を含む形質導入サブユニットと相互作用する[非特許文献7]。これらのモチーフは、そしてT細胞受容体(TCR)のξ−サブユニット中のFcε1のβ及びγサブユニット、並びにB細胞受容体(BCR)のIgGα及びIgGβサブユニット中の両方に存在する。[非特許文献8]抗原が結合して多量体化されると、ITAM残基は、Srcファミリーのタンパク質チロシンキナーゼによってリン酸化される。Sykは、2つのタンデム型Src相同性2(SH2)ドメイン及びC末端触媒ドメインを有する特徴的な種類のチロシンキナーゼに属する。これらのSH2ドメインは、ITAMに高い親和性で結合し、そしてこのSH2が介在するSykと活性化受容体との結合は、Sykキナーゼ活性を刺激し、そして形質膜にSykを局在化する。
【0008】
本発明は、腎臓障害(例えば、腎臓の糸球体腎炎、及び/又は腎線維症、及び/又は糖尿病性腎症)を治療する(すなわち、発症を遅らせる、進行を遅くする、及び/又は後退させる)方法を提供する。これらの方法のいくつかは、薬学的に有効量としてSykキナーゼ阻害剤を、その必要がある患者に投与することを含む。
【0009】
腎臓は、高血圧の主な標的器官である。遷延性高血圧(prolonged hypertension)は、主に腎血管性の病変により種々の腎臓障害を誘発する。それらの中で、腎血管の萎縮及び弾性線維の変性病変は、血圧をさらに上昇させることになる。高血圧は腎糸球体内圧力を高め、これが糸球体に過負荷をかけ、線維形成及び糸球体間質領域の拡大を刺激し、それにより糸球体の硬化へと進行すると一般に考えられる。同じく糖尿病性腎症では、糸球体内圧力における上昇の後に、微量のタンパク尿が続き、糸球体の硬化症に進行する。最終的には、腎機能が低下して、人工透折療法が必要な慢性腎不全になる。近年では、人工透析を始めた末期腎不全の患者の20%に基礎疾患として糖尿病性腎症があった。人工透折を受けるおそれのある患者の数は、年々増加する傾向にあり、医療ケアシステムにおいて重大の問題を抱えている。今のところ、慢性腎不全のための理想的な薬学的治療法はほとんどなく、そして血圧降下療法は、腎不全を改善するよりもむしろ悪化させることがあると言われている。
【0010】
腎疾患と高血圧の間の関係においては、臨床的及び実験的研究の多くのデータが報告されている。現在、腎臓は高血圧の発症に直接的に又は間接的に関与しており、そしてまた高血圧に影響を受けやすいことが確認されている。しかし、慢性糸球体腎炎における高血圧は、特に原因因子、腎炎の経過における高血圧の効果、及び血圧降下療法の予防効果に関して十分に解明されていない。
【0011】
現在、腎炎は、種々の実態を有する種々の疾患の臨床像であると考えられている。腎生検の普及に従って、腎疾患は再検討されており、タンパク尿を特徴とする広範囲の疾患として再定義されている(非特許文献9)。かつて単一疾患とみなされていた糸球体腎炎は、糸球体腎炎、慢性腎盂腎炎、IgA腎症、結節性動脈周囲炎、痛風、糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、肝梗塞、遺伝性腎疾患、アミロイドーシス及びウェゲナー肉腫(Wegener's sarcoma)に区別されている。
【0012】
さらにまた、式Iの化合物による治療、予防及び改善のいずれか又は両方をしやすくするものとしてさらなるタイプの腎疾患が企図されている。これらには、以下:グッドパスチャー症候群、メサンギウム毛細管性GN(mesangiocapillary GN)、ヘノッホ−シェーライン紫斑病(Henoch-Schonlein purpura)、ベルジェ病(IgA腎症)、膜性糸球体腎炎、巣状分節状糸球体硬化症、ループス腎炎、遺伝性腎炎、メサンギウム増殖性GN、菲薄基底膜病、半月体形成性腎炎(別名急速進行性糸球体腎炎、又はRPGN)、及び感染後糸球体腎炎(PIGN)が含まれる。
【0013】
高血圧に関連する糖尿病は、心臓血管障害及び/又は他の臓器合併症を促進し、平均余命に大きな影響を及ぼす。従って、糖尿病を抑制し、そして動脈硬化症を改善又は予防すると共に治療中に血圧を正常な範囲内に調節することは重要である。
【0014】
本発明は、糖尿病性腎症又は糸球体腎炎の予防又は治療薬物を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Hricik, Chung-Park and Sedor. Glomerulonephritis. N Engl J Med 1998; 339:888-899
【非特許文献2】S.K.Hanks and T.Hunter, FASEB. J., 1995, 9, pages 576-596
【非特許文献3】A.C.Newton, J. Biol. Chem., 1995, 270, pages 28495-28498
【非特許文献4】J.Pines, Trends in Biochemical Sciences, 1995, 18, pages 195-l97
【非特許文献5】S.Iwashita and M.Kobayashi, Cellular Signalling, 1992, 4, pages 123-132
【非特許文献6】C.Chan et. al., Ann. Rev. Immunol., 1994, l2, pages 555-592
【非特許文献7】M.Reth, Nature, 1989, 338, pages 383-384
【非特許文献8】N.S.van Oers and A.Weiss, Seminars in Immunology, 1995, 7, pages 227-236
【非特許文献9】“Shibata's Internal Medicine of the Kidneys,” by Seiichi Shibata, Bunkodo, 1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
さて、本発明者らは、式Iの化合物又はその薬理学的に許容される塩が、腎症又は腎炎の治療に有用であることを見出した。このような化合物は、糖尿病性腎症又は糸球体腎炎の予防又は治療に有効でありうる。主題化合物又はこのような塩は、Sykキナーゼの阻害剤である。
【0017】
すなわち、本発明は、活性成分として下の式Iによって表される化合物又はその塩を含む、糖尿病性腎症又は糸球体腎炎の予防又は治療薬に関する。
【0018】
また、下の式Iによって表される化合物の薬学的有効量又はその薬理学的に許容される塩として投与する工程を含む、哺乳動物における糖尿病性腎症又は糸球体腎炎の治療方法が記載されている。
【0019】
この化合物の合成は、国際特許出願:WO2008/033798に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、式I:
【化1】

の化合物を用いる糸球体腎炎の治療方法に関する。
【0021】
本発明は、現在、糸球体腎炎の動物モデルで活性であることが見出されている式Iの化
合物に関する。
【0022】
本発明の別の態様は、糸球体腎炎を治療するための薬学的組成物である。
【0023】
本発明の別の態様は、糸球体内炎症の治療である。
【0024】
本発明のさらに別の態様は、一般にSyk阻害剤で患者を治療することによる糸球体腎炎の治療である。
【0025】
式Iの化合物は、糸球体腎炎の有効な経口治療として用いることができる。さらに、本発明者らは、本発明者らのデータに基づいてSyk阻害剤が一般にこの障害の治療の有用な薬剤となりうると考えた。これらの結論について本発明者らのデータを下に説明する。
【0026】
本発明の上記の及び他の態様、特徴及び利点は、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明からよりよく理解され、それらの全ては、説明のためにのみ記載したのであって、本発明が制限されることはない:
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】糸球体腎炎の動物モデルにおける全尿タンパク質レベル(mg)のパーセント阻害。
【0028】
発明の詳述
従って、一態様において、本発明は、2−[4−(7−エチル−5H−ピロロ[2,3−b]ピラジン−6−イル)−フェニル]−プロパン−2−オールとしても知られている、一般式Iの化合物を含む薬学的組成物に関する。
【0029】
本明細書において、「発明の化合物」という用語、及び同等の語句は、先に記載されたような一般式(I)の化合物を包含することを意味し、その語句には、状況がそのように許せば、エステルプロドラッグ、薬学的に許容しうる塩、及び溶媒和物、例えば水和物が含まれる。同様に、中間体への言及は、それらがそれら自体請求されているか又は否かにかかわらず、状況がそのように許せば、それらの塩、及び溶媒和物を包含することを意味する。明確にするため、状況がそのように許される特定の場合は、明細書中にしばしば示したが、これらの場合は、単に具体例であって、状況がそのように許される別の場合を排除するものではない。
【0030】
この化合物の合成は、国際特許出願:WO2008/033798に記載されている。
【0031】
本明細書に引用された特許文献及び他の参考文献のそれぞれの内容は、それらの全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
略語のリスト
上に用いたように、そして本発明の説明の全体を通じて、以下の略語は、特に明記しない限り、以下の意味を有するものとして理解される:
ACN アセトニトリル
AIBN 2,2'−アゾビスイソブチロニトリル
bid 1日2回
BOC又はBoc tert−ブチルカルバメート
BOP ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム
n−Bu3SnH トリ−n−ブチルスズヒドリド
t−Bu tert−ブチル
Cbz カルバミン酸ベンジル
PTC 相間移動触媒
DAST (ジエチルアミノ)硫黄トリフルオリド(Et2NSF3
DCC ジシクロヘキシルカルボジイミド
DCM ジクロロメタン(CH2Cl2
DIC 1,3−ジイソプロピルカルボジイミド
DIPEA ジイソプロピルエチルアミン
DMAP 4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン
DMP試薬 デス−マーチンペルヨージナン試薬
DMF ジメチルホルムアミド
DMSO ジメチルスルホキシド
EA 元素分析
EDCI 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl
eq 当量
Et エチル
Et2O ジエチルエーテル
EtOH エタノール
EtOAc 酢酸エチル
FMOC 9−フルオレニルメトキシカルボニル
HOAt 1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール
HOBT 1−ヒドロキシベンゾトリアゾ−ル
HOSu N−ヒドロキシスクシンアミド
HPLC 高性能液体クロマトグラフィ
LAH リチウムアルミニウム無水物

Me メチル
MeI ヨウ化メチル
MeOH メタノール
MeOC(O) クロロギ酸メチル
MOMCl メトキシメチルクロリド
MOM メトキシメチル
MS 質量分光法
NaBH4 水素化ホウ素ナトリウム
Na2446 酒石酸ナトリウム
NMR 核磁気共鳴
P ポリマー結合
PO 経口投与当たり
PyBOP ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシトリス−ピロリジノ−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート
TBD 1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]−デカ−5−エン
RP−HPLC 逆相高圧液体クロマトグラフィ
TBSCl tert−ブチルジメチルシリルクロリド
TCA トリクロロ酢酸
TFA トリフルオロ酢酸
Tf2O トリフラート無水物
THF テトラヒドロフラン
THP テトラヒドロピラン
TLC 薄層クロマトグラフィ
【0033】
定義
上に用いたように、そして本発明の説明の全体を通じて、以下の用語は、特に明記しない限り、以下の意味を有するものとして理解される:
「酸バイオアイスター(acid bioisostere)」は、カルボキシ基と類似の生物学的性質を広く生じる化学的及び物理的類似性を有する基を意味する(Lipinski, Annual Reports
in Medicinal Chemistry, “Bioisosterism In Drug Design” 21, 283 (1986);Yun, Hwahak Sekye, “Application of Bioisosterism To New Drug Design” 33, 576-579, (1933); Zhao, Huaxue Tongbao, “Bioisosteric Replacement And Development Of Lead Compounds In Drug Design” 34-38, (1995); Graham, Theochem, “Theoretical Studies Applied To Drug Design ab initio Electronic Distributions In Bioisosteres” 343,
105-109, (1995)参照)。
【0034】
典型的な酸生物学的等価体としては、−C(O)−NHOH、−C(O)−CH2OH、−C(O)−CH2SH、−C(O)−NH−CN、スルホ、ホスホノ、アルキルスルホニルカルバモイル、テトラゾリル、アリールスルホニルカルバモイル、N−メトキシカルバモイル、ヘテロアリールスルホニルカルバモイル、3−ヒドロキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,5−ジオキソ−1,2,4−オキサジアゾリジニル又はヒドロキシヘテロアリール、例えば3−ヒドロキシイソオキサゾリル、3−ヒドロキシ−1−メチルピラゾリル及び同様のものが含まれる。
【0035】
「有効量」とは、所望の治療効果を生じるのに有効な本発明による化合物/組成物の量を意味する。
【0036】
「水和物」は、溶媒分子がH2Oである溶媒和物を意味する。
【0037】
「患者」は、ヒト及び他の哺乳動物の両方を含む。
【0038】
「薬学的に許容しうるエステル」とは、生体内で加水分解するエステルのことであり、そしてヒト体内で容易に分解して親化合物又はその塩を残すものが含まれる。適切なエステル基としては、例えば、薬学的に許容しうる脂肪族カルボン酸、特にアルカン酸、アルケン酸、シクロアルカン酸及びアルカン二酸から誘導されたものが含まれ、その際、各アルキル又はアルケニル部分が6個を超えない炭素原子を有することが好都合である。典型的なエステルとしては、ホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、アクリレート、エチルスクシネート及び同様のものが含まれる。
【0039】
本明細書に用いられる「薬学的に許容しうるプロドラッグ」は、安全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答及び同様のものを有する患者の組織と接触した使用に適しており、妥当な便益/リスク比に相応し、そして本発明の化合物のその目的の使用に有効である、本発明の化合物のそれらのプロドラッグのことである。「プロドラッグ」という用語は、例えば血液中の加水分解によって生体内で急速に変換されて上式の親化合物を生じる化合物のことである。生体内で代謝的切断によって急速に変換されうる官能基は、本発明の化合物のカルボキシル基と反応性の基の種類を形成する。それらとしては、アルカノイル(例えばアセチル、プロパノイル、ブタノイル及び同様のもの)、非置換の及び置換されたアロイル(例えばベンゾイル及び置換されたベンゾイル)、アルコキシカルボニル(例えばエトキシカルボニル)、トリアルキルシリル(例えばトリメチル−及びトリエチルシリル)、ジカルボン酸と形成されたモノエステル(例えばスクシニル)、及び同様のもののような基が含まれるが、それらに制限されるわけではない。本発明の化合物の代謝的に切断可能な基は、生体内で切断されるのが容易であるため、このような基を担持している化合物は、プロドラッグとして作用する。代謝的に切断可能な基を担持している化合物は、代謝的に切断可能な基の存在によって親化合物に付与された高められた溶解度及び/又は吸収速度の結果として改善された生物学的利用能を示すことができるという利点を有する。詳細な議論は、Design of Prodrugs, H. Bundgaard, 編, Elsevier (1985); Methods in Enzymology; K. Widder 等, 編, Academic Press, 42, 309-396 (1985); A Textbook of Drug Design and Development, Krogsgaard-Larsen and H. Bandaged, 編, 第5章; “Design and Applications of Prodrugs” 113-191 (1991); Advanced Drug Delivery Reviews, H. Bundgard, 8 , 1-38, (1992); J. Pharm. Sci., 77.,285 (1988); Chem. Pharm. Bull., N. Nakeya 等, 32, 692 (1984); Pro-drugs as Novel Delivery Systems, T. Higuchi and V. Stella, 14 A.C.S. Symposium Series, and Bioreversible Carriers in Drug Design, E.B. Roche, 編, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, 1987に記載されており、それらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
「薬学的に許容しうる塩」は、本発明の化合物の比較的非毒性の無機及び有機酸付加塩、及び塩基付加塩のことである。
【0041】
これらの塩は、化合物の最終的な単離及び精製の際にその場で製造することができる。特に、酸付加塩は、別途、その遊離塩基の形態の精製された化合物を適切な有機又は無機酸と反応させ、そしてこのように形成された塩を単離することによって製造することができる。典型的な酸付加塩としては、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩、スルファミン酸塩、マロン酸塩、サリチル酸塩、プロピオン酸塩、メチレン−ビス−β−ヒドロキシナフトエ酸塩、ゲンチシン酸塩、イセチオン酸塩、ジ−p−トルオイル酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩及びラウリルスルホナン酸塩並びに同様のものが含まれる。例えば、参照により本明細書に組み込まれたS.M. Berge, 等, “Pharmaceutical Salts,” J. Pharm. Sci., 66, 1-19 (1977)参照。また、塩基付加塩は、別途、その酸形態の精製された化合物を適切な有機又は無機塩基と反応させ、そしてこのように形成された塩を単離することによって製造することができる。塩基付加塩には、薬学的に許容しうる金属及びアミン塩が含まれる。適切な金属塩には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、マグネシウム及びアルミニウム塩が含まれる。ナトリウム及びカリウム塩は、好ましい。適切な無機塩基付加塩は、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛及び同様のものを含む金属塩基から製造される。適切なアミン塩基付加塩は、安定な塩を形成するために十分な塩基性を有するアミンから製造され、そしてそれらの低い毒性及び医学的使用に対する許容性のため医薬品化学においてしばしば用いられるそれらのアミン、アンモニア、エチレンジアミン、N−メチル−グルカミン、リシン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、ジエタノールアミン、プロカイン、N−ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン、水酸化テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、ジベンジルアミン、エフェナミン、デヒドロアビエチルアミン、N−エチルピペリジン、ベンジルアミン、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、塩基性アミノ酸、例えばリシン及びアルギニン、及びジシクロヘキシルアミン等、を含むことが好ましい。
【0042】
「溶媒和物」は、本発明の化合物と1つ又はそれ以上の溶媒分子との物理的結合を意味する。この物理的結合には、水素結合が含まれる。ある種の場合、例えば1つ又はそれ以上の溶媒分子が結晶性固形物の結晶格子中組み込まれたとき、溶媒和物は単離可能である。「溶媒和物」は、溶液相及び単離可能な溶媒和物の両方を包含する。典型的な溶媒和物には、水和物、エタノレート、メタノレート及び同様のものが含まれる。
【0043】
「治療すること」及び「治療」は、疾患状態若しくは障害を改善する、又は疾患状態若しくは障害を予防するため化合物を投与することを意味する。又は、疾患状態又は障害の進行を遅らせることである。そしてまた、疾患状態又は障害に対する感受性を低下させることでもある。また、用語には、非治癒的な待期的療法が含まれるが、これらに制限されるわけではない。
【0044】
実施態様
本明細書に記載された発明に関して、下記は、それに関連する特定の実施態様である。
【0045】
本発明の特定の実施態様は、式I:
【化2】

の化合物又は対応するそのN−オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容しうる塩若しくは溶媒和物の有効量をその必要のある患者に投与することを含む、糸球体腎炎の治療方法である。
【0046】
本発明の別の特定の実施態様は、式Iの化合物、又はその対応するN−オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容しうる塩若しくはその塩を、薬学的に許容しうる賦形剤と組み合わせて含む、糸球体腎炎を治療するための薬学的組成物である。
【0047】
本発明のさらに別の実施態様は、式I:
【化3】

の化合物の薬学的有効量の投与によって改善することができる状態に罹患しているか又はさらされているヒト又はヒト以外の動物患者の治療方法である。
【0048】
本発明のさらに別の実施態様は、治療を必要とする患者にSyk阻害剤である化合物の有効量を投与することを含む糸球体腎炎の治療方法である。
【0049】
本発明のさらなる実施態様は、治療を必要とする患者に式I:
【化4】

の化合物又はその対応するN−オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容しうる塩若しくは溶媒和物の有効量を投与することを含む腎疾患の治療方法であって、その際、腎疾患は、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、メサンギウム毛細管性GN、感染後糸球体腎炎、ヘノッホ−シェーンライン紫斑病、ベルジェ病(IgA腎症)、膜性糸球体腎炎、巣状分節状糸球体硬化症、ループス腎炎、遺伝性腎炎、メサンギウム増殖性GN、菲薄基底膜病、及び半月体形成性腎炎(別名、急速進行性糸球体腎炎又はRPGN)から選ばれる前記方法である。
【0050】
そして、本発明のさらに別の実施態様は、治療を必要とする患者に式Iの化合物を投与することを含む糸球体腎炎の治療方法であって、その際、化合物が塩酸塩の形態である前記方法である。
【0051】
本発明の化合物は、場合により塩として供給される。薬学的に許容しうるそれらの塩は、医学的目的のため前述の化合物を投与する際に有用であるため特に興味深い。薬学的に許容しえない塩は、単離及び精製目的のため、そしていくつかの場合、本発明の化合物の立体異性形態の分離に使用するための製造方法において有用である。後者は、光学活性なアミンから製造されたアミン塩について特にあてはまる。
【0052】
本発明の化合物がカルボキシ基又は十分な酸生物学的等価体を含む場合、塩基付加塩を形成することができ、そしてこれは単純により都合のよい使用形態であり;そして実際には、塩形態の使用は、遊離酸形態の使用と本質的に等しい。
【0053】
また、本発明の化合物が塩基性の基又は十分に塩基性の生物学的等価体を含む場合、酸性付加塩を形成することができ、そしてこれは単純により都合のよい使用形態であり;そして実際には、塩形態の使用は、遊離塩基形態の使用と本質的に等しい。
【0054】
本発明の別の目的は、式Iの化合物の薬学的有効量及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む薬学的組成物を提供することである。
【0055】
本発明の別の目的は、本発明に従って利用することができる複数の活性成分を含むため、有益な併用療法に利用するためそれ自体で有効である薬学的組成物を提供することである。
【0056】
また、本発明は、患者の黄斑変性の治療又は予防において有用な2つ又はそれ以上の活性成分を組み合わせたキット又は単一パッケージを提供する。キットは、(単独で又は薬学的に許容しうる希釈剤若しくは担体と組み合わせて)、式1の化合物及びさらなる活性成分を(単独で又は希釈剤又は担体と組み合わせて)提供することができる。
【0057】
式Iの化合物は、これまでに用いられた若しくは文献に記載された知られている方法を適用するか若しくは適応させることによって、又は本明細書に記載された方法によって製造することができる。
【0058】
前記適用のいずれかにおける式Iの化合物の量は、成分の最終的な組み合わせが患者における黄斑変性の治療又は予防に有効な化合物の薬学的有効量を含む限り、薬学的に有効な量、最適以下の有効量又はそれらの組み合わせであることができる。
【0059】
本発明の化合物の製造
本発明の化合物の出発物質及び中間体は、知られている方法を適用するか又は適応させることによって製造することができる。
【0060】
本発明の化合物はこれまで用いられたか又は文献に記載された方法を意味する、知られている方法、例えばComprehensive Organic Transformations, VCH publishers (1989)中にR.C. Larockによって記載されたものを適用するか又は適応させることによって製造することができる。
【0061】
特に、式Iの化合物は、国際特許出願WO2008/033798に記載されたように製造することができる。
【0062】
本発明のさらなる特徴によれば、本発明の化合物は、本発明の他の化合物の相互転換によって製造することができる。
【0063】
酸付加塩は、塩基性官能基、例えば、イミノ窒素、アミノ又は一若しくは二置換された基が存在する本発明の化合物により形成される。具体的な酸付加塩は、薬学的に許容しうる酸付加塩、すなわち、遊離酸に固有の有益な効果がアニオンに起因する副次的効果によって損なわれない(not initiated)ような、アニオンが塩の薬学的用量において患者に非毒性である塩である。選ばれた塩は、慣用の薬学的ビヒクルと適合するように最適に選ばれ、そして経口薬又は非経口投与に適応させる。本発明の化合物の酸付加塩は、知られている方法を適用するか又は適応させることによって遊離塩基を適切な酸と反応させることによって製造することができる。例えば、本発明の化合物の酸付加塩は、遊離塩基を適切な酸を含む水若しくは水性アルコール溶液若しくは他の適切な溶媒中に溶解し、溶液を蒸発させて塩を単離することによって又は有機溶媒中で遊離塩基及び酸を反応させることによって製造することができ、その場合、塩は直接分離されるか又は溶液の濃縮によって得ることができる。このような塩の製造に使用するためのいくつかの適切な酸は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、種々の有機カルボン酸及びスルホン酸、例えば酢酸、クエン酸、プロピオン酸、コハク酸、安息香酸、酒石酸、フマル酸、マンデル酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、脂肪酸、マンデル酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、脂肪酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、シクロペンタンプロピオン酸、ジグルコン酸、ドデシル硫酸、重硫酸、酪酸、乳酸、ラウリン酸、ラウリル硫酸、マレイン酸、ヨウ化水素酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、グリセロリン酸、ピクリン酸、ピバル酸、パモ酸、ペクチン酸、過硫酸、3−フェニルプロピオン酸、チオシアン酸、2−ナフタレンスルホン酸、ウンデカン酸塩、ニコチン酸、ヘミ硫酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ショウノウ酸、ショウノウスルホン酸及び他のものである。
【0064】
本発明の化合物の酸付加塩は、知られている方法を適用するか又は適応させることによって塩から再生することができる。例えば、本発明の親化合物は、アルカリ、例えば、重炭酸ナトリウム水溶液またはアンモニア水溶液による処理によりそれらの酸付加塩から再生することができる。
【0065】
本発明の化合物がカルボキシ基、又は十分な酸生物学的等価体を含む場合、塩基付加塩を形成することができる。塩基付加塩を製造するために用いることができる塩基としては、好ましくは、遊離酸と合わせたときに、薬学的に許容しうる塩、すなわち、遊離塩基に固有の有益な効果がカチオンに起因する副次的な効果によってそこなわれないようにカチオンが塩の薬学的用量において患者に非毒性である塩を生じるものを含む。
【0066】
本発明の範囲内でアルカリ及びアルカリ土類金属塩から誘導されたものを含む薬学的に許容しうる塩としては、以下の塩基:水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、アンモニア、エチレンジアミン、N−メチル-グルカミン、リシン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、ジエタノールアミン、プロカイン、N−ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン、水酸化テトラメチルアンモニウム及び同様のものから誘導されたものが含まれる。
【0067】
本発明の化合物は、知られている方法を適用するか又は適応させることによってその塩基付加塩から再生することができる。例えば、本発明の親化合物は、酸、例えば、塩酸で処理することによってその塩基付加塩から再生することができる。
【0068】
本発明の化合物は、本発明の方法において溶媒和物(例えば、水和物)として都合よく製造するか、又は形成することができる。本発明の化合物の水和物は、ジオキシン、テトラヒドロフラン又はメタノールのような有機溶媒を用いて水性/有機溶媒混合物からの再結晶によって都合よく製造することができる。
【0069】
薬理学
本明細書に記載された本発明による化合物は、Sykキナーゼを阻害するのに有用であり、そのためまた、糸球体腎炎及び関連する腎臓障害の治療にも有用である。特に、式Iの化合物は、国際特許出願WO2008/033798に記載されたようにSykキナーゼ阻害剤であることがわかっている。
【0070】
化合物は単独で投与することができるが、本発明の特定の態様は、薬学的組成物の形態で投与される本発明による化合物を提供する。「薬学的組成物」は、式1の化合物及び投与方式の性質及び剤形に応じて薬学的に許容しうる担体、希釈剤、コーティング、佐剤、賦形剤、又はビヒクル、例えば保存剤、増量剤、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、乳剤安定化剤、懸濁化剤、等張剤、甘味剤、矯味矯臭剤、芳香剤、着色剤、抗菌剤、抗真菌剤、他の治療剤、潤滑剤、吸着遅延又は促進剤、及び分配剤(dispensing agents)を含む群から選ばれる少なくとも1つの成分を含む組成物を意味する。組成物は、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤又は懸濁剤、注射液、エリキシル剤又はシロップ剤の形態で存在することができる。典型的な懸濁化剤としては、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微晶質セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天及びトラガカント、又はこれらの物質の混合物が含まれる。微生物の作用を予防するための典型的な抗菌剤及び抗真菌剤としては、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、及び同様のものが含まれる。典型的な等張剤としては、砂糖、塩化ナトリウム及び同様のものが含まれる。吸収を延長するための典型的な吸着遅延剤としては、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンが含まれる。吸収を高めるための典型的な吸着促進剤としては、ジメチルスルホキシド及び関連する類似体が含まれる。典型的な担体、希釈剤、溶媒、ビヒクル、可溶化剤、乳化剤及び乳剤安定剤としては、水、クロロホルム、スクロース、エタノール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、安息香酸ベンジル、ポリオール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、ジメチルホルムアミド、トゥイーン(R)(Tween(R))60、スパン60(R)(Span(R)60)、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、モノステアリン酸グリセリン及びラウリル硫酸ナトリウム、ソルビタンの脂肪酸エステル、植物油(例えば綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油及びゴマ油)及び注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチル及び同様のもの、又はこれらの物質の適切な混合物が含まれる。典型的な賦形剤としては、ラクトース、乳糖、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウムが含まれる。典型的な崩壊剤としては、デンプン、アルギン酸及びある種の複合シリケートが含まれる。典型的な滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルクの他に高分子量ポリエチレングリコールが含まれる。
【0071】
他の治療剤は、本発明の化合物と組み合わせて使用することができる。本発明の化合物と組み合わせて使用される治療剤は、別々に、同時に又は順次投与することができる。式1の化合物以外の薬学的組成物中の物質の選択は、溶解度のような活性化合物の化学的性質、特定の投与方式及び薬務において遵守すべき規定に従って決定される。例えば、賦形剤、例えばラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウム並びに崩壊剤、例えばデンプン、アルギン酸並びに滑沢剤と組み合わせたある種の複合シリケート、例えばステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びタルクは、錠剤の製造に使用することができる。
【0072】
薬学的組成物は、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤又は懸濁剤、注射液、エリキシル剤、又はシロップ剤のような様々な形態で存在することができる。
【0073】
「液体剤形」は、患者に投与される活性化合物の用量が、液体形態、例えば、薬学的に許容しうる乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤にあることを意味する。液体剤形は、活性化合物に加えて、溶媒、可溶化剤及び乳化剤のような当分野で一般に用いられる不活性希釈剤を含むことができる。
【0074】
また、固形組成物は、ラクトース又は乳糖の他に高分子量ポリエチレングリコール及び同様のものとしてこのような賦形剤を用いる軟及び硬充填ゼラチンカプセル中の増量剤として使用することができる。
【0075】
水性懸濁剤を使用するとき、それは、乳化剤又は懸濁を促進する薬剤を含むことができる。
【0076】
乳剤薬学的組成物の油相は、知られているやり方で知られている成分から構成することができる。相は単に乳化剤(別途、エマルジェント(emulgent)として知られる)のみを含んでもよいが、脂肪若しくは油又は脂肪及び油の両方を有する少なくとも1つの乳化剤の混合物を含むことが望ましい。特定の実施態様において、親水性乳化剤は、安定剤として作用する親油性乳化剤と共に含まれる。また、乳化剤は、安定剤と共に又はなしで乳化ロウを構成し、そして油及び脂肪を一緒に用いるやり方で乳剤製剤の油性分散相を形成する乳化軟膏基剤を構成する。
【0077】
所望により、乳剤基剤の水相は、例えば、少なくとも30%w/wの多価アルコール、すなわち、2つ又はそれ以上のヒドロキシル基を有するアルコール、例えば、プロピレングリコール、ブタン1,3−ジオール、マンニトール、ソルビトール、グリセロール及びポリエチレングリコール(PEG400を含む)及びそれらの混合物を含むことができる。局所製剤は、皮膚又は他の影響を受ける領域を通した活性成分の吸収又は浸透を高める化合物を含むことができることは望ましい。
【0078】
製剤の適切な油又は脂肪の選択は、所望の性質の達成に基づく。従って、乳剤は、好ましくは、チューブ又は他の容器からの漏出を回避するのに適した粘稠度を有しており、ベタベタせず、汚れず、そして可洗性の生成物でなければならない。直鎖又は分枝状鎖、一塩基性又は二塩基性アルキルエステル、例えばミリスチン酸ジイソプロピル、オレイン酸デシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2−エチルヘキシル又はクロダモール(Crodamol) CAPとして知られている分枝鎖エステルのブレンドを使用することができる。これらは、必要な性質に応じて単独で又は組み合わせて使用することができる。別法として、高融点脂質、例えば白色ワセリン及び/又は流動パラフィン又は他の鉱油を使用することができる。
【0079】
実際には、本発明の化合物/薬学的組成物は、経口、吸入、直腸、経鼻、口腔、舌下、膣内、結腸、非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、くも膜下及び硬膜外を含む)、槽内及び腹腔内を含む局所又は全身投与によってヒト及び動物に適切な製剤で投与することができる。好ましい経路は、例えばレシピエントの状態で変化しうることは理解される。
【0080】
「薬学的に許容しうる剤形」は、本発明の化合物の剤形のことであり、そして、例えば、錠剤、糖衣錠、散剤、エリキシル剤、シロップ剤、懸濁剤を含む液体製剤、スプレー剤、吸入用錠剤、トローチ剤、乳剤、液剤、顆粒剤、カプセル剤及び坐剤、並びにリポソーム製造を含む注射用液体製剤が含まれる。技術及び製剤は、一般にRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PA, 最新版に見出すことができる。
【0081】
「経口投与に適した製剤」は、それぞれ所定量の活性成分を含むカプセル剤、カシェ剤又は錠剤のような個別単位として;散剤又は顆粒剤として;水性液体又は非水性液体中の液剤又は懸濁剤として;又は水中油型液体乳剤若しくは油中水型液体乳剤として存在することができる。また、活性成分は、巨丸剤、舐剤又はペースト剤として存在することもできる。
【0082】
錠剤は、場合により1つ又はそれ以上の補助成分と共に圧縮又は成形によって製造することができる。圧縮錠剤は、適切な装置中で粉末又は顆粒のような自由に流動する形態の活性成分を、場合により結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、界面活性又は分散剤と混合して圧縮することによって製造することができる。
【0083】
湿製錠剤は、適切な装置中で不活性液体希釈剤で湿らせた粉末状の化合物の混合物を成形することによって製造することができる。錠剤は、場合によりコーティングするか又は切れ目を入れる(score)ことができ、そしてその中に活性成分を遅延又は制御放出するように処方することができる。
【0084】
直腸投与用の固形組成物としては、知られている方法に従って処方され、少なくとも1つの本発明の化合物を含む坐剤が含まれる。
【0085】
所望により、そしてより有効な分配のために、化合物は、遅延放出又は標的設定送達系、例えば生体適合性の生分解性ポリマーマトリックス(例えば、ポリ(d,l−ラクチドco−グリコリド))、リポソーム及びミクロスフェア中にマイクロカプセル化するか又はそれらに結合することができ、そして、皮下又は筋肉内デポー製剤と称する技術によって皮下又は筋肉内に注射して2週間又はより長い期間、化合物の連続的な遅延放出を実施することができる。化合物は、例えば、細菌保定濾過器を通して濾過することによって、又は滅菌水、若しくは使用直前にいくつかの他の滅菌注射可能な媒体中に溶解することができる滅菌固形組成物の形態で滅菌剤を組み込むことによって滅菌することができる。
【0086】
「経鼻又は吸入投与に適した製剤」は、経鼻的に又は吸入によって患者に投与するのに適した形態にある製剤を意味する。製剤は、例えば1〜500ミクロンの範囲の粒径(20〜500ミクロンの範囲の粒径を5ミクロンの増加分、例えば30ミクロン、35ミクロン、などで含む)を有する粉末形態の担体を含むことができる。例えば鼻腔用スプレー又は点鼻剤として投与するための担体が液体である適切な製剤は、活性成分の水性又は油性溶液が含まれる。エアゾール投与に適した製剤は、慣用の方法に従って製造することができ、そして他の治療剤と共に送達することができる。吸入療法は、定量吸入器(metered dose inhalers)によって容易に実施される。
【0087】
「経口投与に適した製剤」は、患者に経口投与するのに適した形態にある製剤を意味する。製剤は、それぞれ所定量の活性成分を含むカプセル剤、カシェ剤又は錠剤のような個別単位として;散剤又は顆粒剤として;水性液体又は非水性液体中の液剤又は懸濁剤として;又は水中油型液体乳剤若しくは油中水型液体乳剤として存在することができる。また、活性成分は、巨丸剤、舐剤又はペースト剤として存在することもできる。
【0088】
「非経口投与に適した製剤」は、患者に非経口投与するのに適した形態にある製剤を意味する。製剤は無菌であり、そして乳剤、懸濁剤、水性及び非水性注射液が含まれ、それらは、懸濁化剤及び増粘剤及び抗酸化剤、緩衝液、静菌剤並びに製剤を、対象のレシピエントの血液と等張性にし、そして適切に調整されたpHを有する溶質を含むことができる。
【0089】
「直腸又は膣内投与に適した製剤」は、患者に直腸内又は経膣的に投与するのに適した形態にある製剤を意味する。坐剤は、常温で固体であるが、体温で液体であり、そのため直腸又は膣腔中で融解して活性成分を放出するカカオ脂、ポリエチレングリコール又は坐剤ロウのような適切な非刺激性賦形剤又は担体と本発明の化合物を混合することによって製造することができるこのような製剤の特定の形態である。
【0090】
「全身投与に適した製剤」は、患者に全身投与するのに適した形態にある製剤を意味する。製剤は、経筋肉、静脈内、腹腔内及び皮下を含む注射によって投与するのが好ましい。注射の際、本発明の化合物は、液体溶液中、特にハンクス液又はリンゲル液のような生理学的に適合しうる緩衝液中に処方される。さらに、化合物は、固形物の形態で処方し、そして使用直前に再溶解又は懸濁してもよい。また、凍結乾燥した形態も含まれる。また、全身投与は、経粘膜又は経皮的手段によっても可能であり、又は化合物は経口投与することができる。経粘膜又は経皮的投与では、浸透すべき障壁に適した浸透剤を製剤中に用いる。このような浸透剤は、当分野で一般に知られており、そして、例えば、経粘膜投与のための胆汁酸塩及びフシジン酸誘導体が含まれる。さらに、洗剤は、浸透を促進するために使用することができる。経粘膜投与では、例えば鼻腔用スプレー又は坐剤を使用することができる。経口投与では、化合物を、カプセル剤、錠剤及び強壮剤のような慣用の経口投与形態に処方する。
【0091】
「局所投与に適した製剤」は、患者に局所投与するのに適した形態にある製剤を意味する。製剤は、当分野で一般に知られているような局所軟膏剤、軟膏剤、粉末、スプレー及び吸入剤、ゲル(水又はアルコールに基づく)、クリームとして存在することができ、又はパッチ中に適用するためマトリックス基剤中に組み込むことができ、それにより経皮的障壁を通して化合物の制御放出が可能である。軟膏剤中に処方するときは、活性成分は、パラフィン系又は水混和性軟膏剤基剤のいずれかと共に使用することができる。別法として、活性成分は、水中油型乳剤基剤を用いて乳剤中に処方することができる。眼内局所投与に適した製剤としては、活性成分が活性成分のための適切な担体、特に水性溶媒中に溶解又は懸濁された点眼剤が含まれる。口内局所投与に適した製剤としては、風味付けした基剤、通常スクロース及びアカシア又はトラガカント中に活性成分を含むロゼンジ(lozenges);不活性基剤、例えばゼラチン及びグリセリン又はスクロース及びアカシア中に活性成分を含むパステル(pastilles);及び適切な液体担体中に活性成分を含む口内洗浄剤が含まれる。
【0092】
「固体剤形」は、本発明の化合物の剤形が固体形態、例えばカプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、糖衣錠又は顆粒剤であることを意味する。このような固体剤形では、本発明の化合物を、少なくとも1つの不活性な慣用の賦形剤(又は担体)、例えばクエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム又は(a)増量剤又はエキステンダー、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール及びケイ酸、(b)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギナート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及びアカシア、(c)湿潤剤、例えば、グリセロール、(d)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、ある種の複合シリケート及び炭酸ナトリウム、(e)溶液凝結遅延剤(solution retarders)、例えばパラフィン、(f)吸収促進剤、例えば第四級アンモニウム化合物、(g)湿潤剤、例えばセチルアルコール及びモノステアリン酸グリセリン、(h)吸着剤、例えばカオリン及びベントナイト、(i)滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、(j)乳白剤、(k)緩衝剤、及び遅延された方法で腸管の特定の部分に本発明の化合物を放出する薬剤と混合する。
【0093】
本発明の組成物中の活性成分の実際の投与量レベルは、患者にとって特定の組成物及び投与方法について所望の治療反応を得るための有効な活性成分の量が得られるように変動させることができる。従って、任意の特定の患者について選ばれた投与量レベルは、所望の治療効果、投与経路、所望の治療持続時間、疾患の病因及び重症度、患者の状態、体重、性別、食事及び年齢、各活性成分のタイプ及び効力、吸収、代謝及び/又は排泄の速度並びに他の要因を含むさまざまな要因に左右される。
【0094】
一回又は分割量で患者に投与される本発明の化合物の総日用量は、例えば1日当たり約0.001〜約100mg/kg体重、そして好ましくは0.01〜10mg/kg/日の量であることができる。例えば、成人では、用量は、一般に吸入によって約0.01〜約100、好ましくは約0.01〜約10mg/kg体重/日、経口投与によって約0.01〜約100、好ましくは0.1〜70、より具体的には0.5〜10mg/kg体重/日、そして静脈内投与によって約0.01〜約50、好ましくは0.01〜10、mg/kg体重/日である。組成物中の活性成分のパーセンテージは変動しうるが、適切な投与量が得られるような比率にならなければならない。投与単位組成物は、日用量を構成するために用いることができるその約数の量を含むことができる。いくつかの単位剤形をほぼ同じ時刻に投与することができることは明らかである。投与量は、所望の治療効果を得るために必要な頻度で投与することができる。一部の患者では、より高い又はより低い用量に対して急速に反応することがあり、そしてかなりより弱い維持用量が妥当であることを見出すことがある。他の患者については、各特定の患者の生理学的必要量に従って1日当たり1〜4用量の割合で長期治療を行うことが必要となりうる。他の患者については、1日当たり1又は2用量を超えずに処方する必要があることは言うまでもない。
【0095】
製剤は、薬学分野でよく知られている方法のいずれかによって単位剤形で製造することができる。このような方法は、1つ又はそれ以上の補助成分を構成する担体と活性成分を会合させる工程を含む。一般に、製剤は、活性成分を液体担体若しくは微粉固体担体又は両方と均一かつ十分に会合させ、次いで、必要に応じて、生成物を成形することによって製造される。
【0096】
製剤は、単位用量又は複数回用量容器、例えば密封アンプル及びエラストメリックストッパー(elastomeric stoppers)を有するバイアル中にあってもよく、そして使用直前に無菌液体担体、例えば注射用水の添加のみ必要なフリーズドライ(凍結乾燥)状態で貯蔵することができる。即時調合注射溶液及び懸濁液(extemporaneous injection solutions and suspensions)は、既に記載された種類の無菌粉末、顆粒及び錠剤から製造することができる。
【0097】
本発明の範囲内の化合物は、文献中及び下に記載された試験によれば顕著な薬理活性を示し、それらの試験結果は、ヒト及び他の哺乳動物における薬理活性と関連があると考えられる。
【0098】
上記の引用文献中に記載された化学反応は、一般に本発明の化合物の製造に対するそれらの最も幅広い適用に関して記載されている。本明細書に記載された化合物の範囲内に含まれる各化合物に記載された通り反応を適用できないことがしばしばありうる。これが起こる化合物は、当業者によって容易に理解される。すべてのこのような場合、いずれの反応も当業者に知られている慣用の変更によって、例えば、干渉している基を適切に保護することによって、別の慣用の試薬に変更することによって、反応条件などの常用の変更によって良好に実施することができ、又は本明細書に記載された別の反応若しくは慣用の別法は、本発明の対応する化合物の製造に適用できる。すべての製造方法において、すべての出発物質は、知られているか又は既知の出発物質から容易に製造可能である。
【0099】
本発明の化合物及び/又は組成物を用いて糸球体腎炎に罹患している患者を治療するレジメンは、患者の年齢、体重、性別、食事、及び医学的状態、感染症の重症度、投与経路、薬理学的要件例えば、使用する特定の化合物の活性、有効性、薬物動態学的及び毒物学的プロフィール、並びに薬物送達システムを利用するかどうかを含むさまざまな要因に従って選ばれる。本明細書に記載された薬物の組み合わせの投与は、一般に、許容されるまで、抑制又は根絶されたことを示す期間にわたって継続しなければならない。本明細書に記載された薬物の組み合わせにより治療を受ける患者は、治療の有効性を判定するために腎機能を測定する慣用の方法によって日常的にモニターすることができる。これらの方法によって得られたデータの連続的な分析により、組み合わせにおける各成分の最適量が投与されるように、そして治療の持続時間が十分であると確定できるように治療中に治療レジメンの変更が可能である。従って、治療レジメン/投薬スケジュールは、十分な有効性を一緒になって示す組み合わせに用いられる化合物のそれぞれの最も低い量が投与されるように、そして組み合わせにおけるこのような化合物の投与が腎臓障害を良好に治療するのに必要な長さだけ継続されるように治療の経過にわたって合理的に変更することができる。
【0100】
本発明では、糸球体腎炎を治療又は予防するため、抗VEGF阻害剤及び前記のSyk活性を有する化合物の組み合わせの使用を包含し、その際、これらの化合物の1つ又はそれ以上は、薬学的に有効な量で存在し、そして別のものは、準臨床的に薬学的に有効な又はそれらの相加又は相乗効果のために有効な量で存在する。本明細書に使用される「相加効果」という用語は、2つ(又はそれ以上)の薬学的に活性な薬剤の合わせた効果が、各薬剤単独で得られる効果の合計に等しいということである。相乗効果は、2つ(又はそれ以上)の薬学的に活性な薬剤の合わせた効果が各薬剤単独で得られる効果の合計より大きいものである。
【0101】
式Iの化合物の生体内有効性
研究目的:糸球体腎炎は、サイトカイン、細胞浸潤、細胞増殖、及び腎臓機能の急激な悪化を含む複合疾患である。この動物のモデルでは、比較的短期間で糸球体腎炎の定量的測定が行われる。本研究は、式Iの化合物がクローンa84(IgG2a)30マイクログラムの静脈内注射により誘発された糸球体腎炎を緩和するかどうかを測定するようになっている。このモノクローナル抗体は、糸球体基底膜タンパク質への結合によって疾患を誘発する。このモデルでは疾患進行を2つの方法でモニターする。まず、分泌された尿中タンパク質のレベルを評価する。この読出しは、病変した腎臓の迅速マーカーとして役立つ。疾患をモニターする第2の機構は、組織学的検査により腎臓の下部構造を検査することによるものである。
【0102】
結果
本発明者らは、用量依存的な方法で尿タンパク質レベルによってモニターしたところ、式Iの化合物がこのモデルにおける疾患を抑制したことを観察した。3.0、10及び30mg/kgの化合物は、対照と比較して尿タンパク質レベルをそれぞれ25、53及び85%低下させた。式Iの化合物は、30mg/kgで陽性対照(エンブレル(R)−抗TNF又は腫瘍壊死因子化合物)よりかなり良好であった。
【0103】
実験的な方法論:
完全な研究報告を記載する。
1.一般的な情報
化合物:塩酸塩としての式Iの化合物
研究目的:糸球体腎炎は、サイトカイン、細胞浸潤、細胞増殖及び腎機能の急激な悪化を含む複合疾患である。この動物モデルでは、糸球体腎炎の比較的短期間の定量的測定を行った。本研究は、塩酸塩としての式Iの化合物がクローンa84(IgG2a)の30マイクログラムの静脈内注射によって誘発された糸球体腎炎を緩和するかどうかを測定するようになっている。
【0104】
2.実験的手法
動物:種、菌株、供給者:ラット、WKY、Charles River
性別:雄
出生日:11/26/07
受け取り日:2/5/08
治療開始時の動物の体重及び/又は年齢:研究開始時に、動物は、約11〜12週齢であった。
群当たりの動物数:群当たり3匹、4匹又は、8匹の動物がいた。
動物収容条件:完全公認AALAC設備においてUSDA動物福祉法(Animal Welfare
Act)に従ってNIH実験動物の管理及び使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に説明された条件下に動物を収容した。
食物:Purina 5001齧歯動物用の食餌及び濾過水を自由に摂取させた。
無作為化及び同定:被験者を入手可能な動物の健康なプールから選択し、そして消えないテールマーキングによって識別した。ケージカードは、用量群を示した。
動物の順化:研究開始の少なくとも5日前にラットを設備に順応させた。研究開始前又は本研究中のいかなる時間も動物を絶食させることはなかった。
クローンa84(IgG2a)挑戦:
名称、カタログ#、ロット#及び供給者:Nephrigenicモノクローナル抗体a84、カタログ#70215、ロット#060775、Chondrex
用量:30μg/動物
ビヒクル:注射可能な0.9%塩化ナトリウム
投与経路:i.v.
投与体積:0.1ml
治療の持続時間及び頻度:
群B〜F及びH〜Lの動物では、0日目に、投薬の約1時間後にa84抗体30μgの静脈内注射を行った。
対照の治療:群A及びGの動物では、0.9%塩化ナトリウム0.1mlの静脈内注射を行った。
試験化合物:塩酸塩としての式Iの化合物
用量:3.0、10及び30mg/kg
ビヒクル:0.2%トゥイーン80を含む0.5%メチルセルロース
投与経路:経口強制飼養
投与体積:10ml/kg
【0105】
治療の持続時間及び頻度:群C、D及びEの各動物は、0日目から6日目まで午前及び午後に約8時間離して投薬を受けた。群I、J及びKの各動物は、0日目から3日目まで午前及び午後に約8時間離して投薬を受けた。投薬は、0日目のa84抗体注射の約1時間前に開始した。
対照の治療:ビヒクル(0.2%トゥイーン80を含む0.5%メチルセルロース)10ml/kg。群A及びBの各動物は、0日目から6日目まで午前及び午後に約8時間離して投薬を受けた。群G及びHの各動物は、0日目から3日目まで午前及び午後に約8時間離して投薬を受けた。投薬は、0日目のa84抗体注射の約1時間前に開始した。
参照化合物:
化合物及びロット#:エンブレル(エタネルセプト)、ロットD092246
供給者:Amgen/Wyeth
用量:5.0mg/kg
ビヒクル:0.9%塩化ナトリウム注射,カタログ#0409−4888−50、ロット#44−199−DK
投与経路:腹腔内(ip)
投与体積:10ml/kg
治療の持続時間及び頻度:群F及びLの各動物は、0日目の午前中a84抗体注射の約1時間前、そして3日目の午後に投薬を受けた。
タンパク質測定:
キット:ラット尿タンパク質アッセイキット
供給者:Chondrex
カタログ番号:9040
研究したパラメーター/試験/サンプル:
研究パラメーター:6日目から7日目まで約16時間の期間にわたってラット尿タンパク質を測定した。組織学的評価のため、そして可能なmRNA単離のため腎臓を収穫した。
評価方法:2.3節に記載されたキットによってラット尿タンパク質レベルを測定した。
【0106】
使用した装置:
1)Mettler PMスケール 2)Mettler AE 160分析スケール 3)Cypraneによる麻酔装置 4)Beckman GS-15R遠心分離機 5)Thermomaxマイクロプレートリーダー 6)Retsch
MM301ミキサーミル
試験及び/又はサンプリングの順序:1)投与する化合物及び用量に基づいてラットを8匹の6群、4匹の6群、そして3匹の1群に配置した:群A ビヒクル(0.2%トゥイーン80を含む0.5%メチルセルロース)+IV生理食塩水 注射n=8、群B ビヒクル(0.2%トゥイーン80を含む0.5%メチルセルロース)+IV a84抗体 注射n=8、群C 塩酸塩として式Iの化合物3.0mg/kg+IV a84抗体 注射n=8、群D SAR397769A 10mg/kg+IV a84抗体 注射n=8、群E 塩酸塩として式Iの化合物30mg/kg+IV a84抗体 注射n=8、群Fエンブレル5.0mg/kg+IV a84抗体注射、群G ビヒクル(0.2%トゥイーン80を含む0.5%メチルセルロース)+IV 生理食塩水 注射n=4、群H ビヒクル(0.2%トゥイーン80を含む0.5%メチルセルロース)+IV a84抗体 注射n=4、群I 塩酸塩として式Iの化合物3.0mg/kg+IV a84抗体 注射n=4、群J SAR397769A 10mg/kg+IV a84抗体 注射n=4、群K 塩酸塩として式Iの化合物30mg/kg+IV a84抗体 注射n=4、群L エンブレル5.0mg/kg+IV a84抗体 注射n=4、そして群M 実験未使用n=3。2)0日目に、a84抗体注射の1時間前にラットに投薬した。群A〜E、及びG〜Kの動物に、経口的に投薬した。群A〜Eでは0日目から6日目まで約8時間の投薬間隔で1日2回投薬を継続した。群G〜Kでは0日目から3日目まで約8時間の投与間隔で1日2回投薬を継続した。群F及びLの動物では、a84抗体注射の1時間前に投薬した。これらの動物では、腹腔内投与を行った。これらの動物では、3日目の午後に再び投薬した。3)0日目に、26G,3/8”針を用いてa84抗体30μgの静脈内注射をラットに行った。4)群Mの3匹の実験未使用ラットを殺し、そして、本研究中のいくつかの時点で腎臓を採取した。5)尿採取のため6〜7日目から約16時間ラットを代謝ケージ中に入れた。タンパク質分析を実施するまで尿を−40℃で凍結した。6)群G〜Lの動物を4日目に殺した。群A〜Fの動物を7日目に殺した。7)各ラットから約2〜3mlの血液を採取することができた。8)採取したら、全血を4000rpmで5分間回転させた。9)次いで、血清を独自の識別管(uniquely identified tubes)に移し、そしてマイナス40℃で貯蔵した。10)両方の腎臓を採取した。腎臓の組織学的パラメーターを評価した。
【0107】
3.結果及び統計分析結果の表示は、ビヒクル動物と比較した尿タンパクmg/ml平均+/−標準誤差及びmg/16時間平均+/−標準誤差として表わされる。データは、EverStat V5中の統計分析のためPasserelle V5にエクスポートした(SAS System release 8.2 for SUN 4, SAS Institute Inc., SAS Campus Drive, Cary, North Carolina 27513, USA)。ビヒクル動物と比較した場合P<0.05は、統計的に有意であると認められた。
【0108】
研究プランに対する変更
1)抗体の不足のためa84抗体注射の際に群I、J及びLを本研究から排除した。
2)a84抗体の不足のため0日目の午後に投与した後、基Fから1匹の動物を排除した。
【0109】
表1中の「実施例化合物(Exp Cmpd)」は、塩酸塩としての式Iの化合物である。上記の研究結果を表の形態で表1に、そしてグラフの形態で図1に示す。この化合物による治療は、実験動物モデルにおいて全尿タンパク量を低下させた。この発見からこの化合物がヒト被験者又は患者における糸球体腎炎の治療に有効であることが期待される。
【0110】
【表1】

【0111】
本発明は、その精神又は必須の特質を逸脱することなく他のいろいろな形で実現することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする患者に、有効量の式I:
【化1】

の化合物又はその対応するN−オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容しうる塩若しくは溶媒和物を投与することを含む、糸球体腎炎の治療方法。
【請求項2】
式Iの化合物、又はその対応するN−オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容しうる塩若しくは塩を、薬学的に許容しうる賦形剤と組み合わせて含む糸球体腎炎を治療するための薬学的組成物。
【請求項3】
薬学的に有効量の式I:
【化2】

の化合物を投与することによって改善することができる状態に罹患しているか又はさらされているヒト又はヒト以外の動物患者の治療方法。
【請求項4】
治療を必要とする患者に、有効量のSyk阻害剤である化合物を投与することを含む糸球体腎炎の治療方法。
【請求項5】
治療を必要とする患者に、有効量の式I:
【化3】

の化合物又はその対応するN−オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容しうる塩若しくは溶媒和物を投与することを含む腎疾患の治療方法であって、腎疾患が糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、メサンギウム毛細管性糸球体腎炎、感染後糸球体腎炎、ヘノッホ−シェーンライン紫斑病、ベルジェ病、膜性糸球体腎炎、巣状分節状糸球体硬化症、ループス腎炎、遺伝性腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、菲薄基底膜病、半月体形成性腎炎、及び急速進行性糸球体腎炎から選ばれる、上記方法。
【請求項6】
治療を必要とする患者に請求項1に記載の化合物を投与することを含む糸球体腎炎の治療方法であって、化合物が塩酸塩の形態にある、上記方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−510519(P2012−510519A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539641(P2011−539641)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/066304
【国際公開番号】WO2010/065571
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】