説明

2段X線検出器

【課題】単一の高出力X線発生装置を用いて、簡易に被検査物の材質を識別することができ、これにより装置を小型かつ安価にでき、かつマルチチャンネル化が容易である高出力X線用の2段X線検出器を提供する。
【解決手段】入射X線3を透過させる低エネルギー用シンチレータ12を有し、所定のエネルギー範囲のX線エネルギーを吸収し検出する低エネルギーX線検出器10と、低エネルギー用シンチレータ12を透過した透過X線4を再度透過させる高エネルギー用フィルタ22とその後方の高エネルギー用シンチレータ24を有し、前記エネルギー範囲のX線エネルギーを吸収し検出する高エネルギーX線検出器20とを備える。低エネルギーX線検出器10は、さらに、低エネルギー用シンチレータ12の前面に位置し、低エネルギー用シンチレータ内の発光を90度全反射する全反射プリズム14と、全反射プリズムで反射された発光光量に比例する電気信号を出力する低エネルギー用光電素子16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高出力X線用の2段X線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
税関や空港における手荷物検査等において、X線を被検査物に照射し、透過したX線の強度分布を画像化して内部の危険物(銃器等)を検出するX線検査装置が従来から広く用いられている。
【0003】
X線は波長が約0.01〜100Å(10−12〜10−8m)程度の電磁波である。
またX線の発生源としては、X線管が広く知られている。しかし、X線管により発生するX線は、低エネルギーであり、検査対象物へのX線透過能力が低い問題点がある。
そこで、加速器を用いてターゲットに電子線を衝突させ、高エネルギー(例えば950keV)のX線ビームを発生するX線源が提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
一方、X線の強度や画像を検出するX線検出器は、気体の電離作用を利用した比例計数管、固体の蛍光作用を利用したシンチレーション計数管、固体半導体のイオン化作用を利用した半導体検出器、等が従来から知られている。
【0005】
また、X線により物質識別をする先行技術として、例えば特許文献2,3が既に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−198522号公報、「X線源」
【特許文献2】特開2003−279503号公報、「X線検査装置」
【特許文献3】特開2009−122108号公報、「物質識別方法および物質識別機器」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
X線により物質識別をする場合、従来は、例えば2種のパルスX線を用いる必要がある。また、手荷物等の全面を高精度に検査するためには、2種のパルスX線を交互に短時間に切り替える必要がある。そのため、このようなパルスX線の発生装置は、大型かつ高価となる問題点があった。
【0008】
また、この問題を解決するために、X線発生装置とX線検出器を2組用い、一方のX線管で高出力のX線を照射し、次いで他方のX線管で低出力のX線を照射し、それぞれのX線画像の強度分布から、被検査物の材質を識別することもできる。
しかし、この手段の場合、2枚のX線画像の撮像は、時間と場所が異なるため、その位置を正確に一致させるのが困難である問題点がある。また、この手段では、2組のX線発生装置とX線検出器を必要とするため、依然として高価となる。
【0009】
また、特許文献2のように、単一のX線発生装置で波長領域の広いX線を照射し、被検査物を透過したX線を、間にフィルタを挟持した2枚のX線検出器で検出し、それぞれのX線画像の強度分布から、被検査物の材質を識別することもできる。
この場合、2枚のX線画像の撮像は、時間と場所が同一であるため、その位置は一致している。しかし、この手段では、X線発生装置は1台ですむが、X線検出器は2台必要であり、さらに間にX線の特定の波長をカットする特殊なフィルタを必要とする問題点がある。
【0010】
また、税関や空港における手荷物検査等において、手荷物等の全面を高精度に検査するためには、被検査物を透過したX線を検出するX線検出器は、非常に小さいピッチ(例えば2mm程度)で直線状に並んだ多数の検出セルを備える必要がある。そのため、このようなマルチチャンネル化が容易であることが望まれていた。
【0011】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、単一の高出力X線発生装置を用いて、簡易に被検査物の材質を識別することができ、これにより装置を小型かつ安価にでき、かつマルチチャンネル化が容易である高出力X線用の2段X線検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、所定のエネルギー範囲で分布するX線を用い、該X線を被検査物に照射しこれを透過した入射X線のX線エネルギーを検出しこれから被検査物の物質識別をするための2段X線検出器であって、
前記入射X線を透過させる低エネルギー用シンチレータを有し、該低エネルギー用シンチレータにより前記エネルギー範囲のX線エネルギーを吸収し検出する低エネルギーX線検出器と、
前記低エネルギー用シンチレータを透過した透過X線を再度透過させる高エネルギー用フィルタとその後方の高エネルギー用シンチレータを有し、該高エネルギー用シンチレータにより前記エネルギー範囲のX線エネルギーを吸収し検出する高エネルギーX線検出器と、を備えたことを特徴とする2段X線検出器が提供される。
【0013】
本発明の実施形態によれば、前記低エネルギー用シンチレータは、前記入射X線に直交して位置し、前記エネルギー範囲のX線エネルギーを吸収し発光する平板状の蛍光体であり、
前記低エネルギーX線検出器は、さらに、前記低エネルギー用シンチレータの前面に位置し、該低エネルギー用シンチレータ内の発光を90度全反射する全反射プリズムと、
該全反射プリズムで反射された前記発光光量に比例する電気信号を出力する低エネルギー用光電素子とを備える。
【0014】
また、前記全反射プリズムは、その全反射面に、前記入射X線を透過し前記低エネルギー用シンチレータ内の発光を反射するミラーコーティングを有する。
【0015】
また、前記高エネルギー用フィルタは、前記透過X線に直交して位置し、前記エネルギー範囲のX線エネルギーを吸収する平板状の金属板であり、
前記高エネルギー用シンチレータは、前記高エネルギー用フィルタの後方に位置し、前記エネルギー範囲のX線エネルギーを吸収し発光する矩形平板状の蛍光体であり、
前記高エネルギーX線検出器は、さらに、前記高エネルギー用シンチレータの側面に位置し、該高エネルギー用シンチレータ内の発光光量に比例する電気信号を出力する高エネルギー用光電素子とを備える。
【0016】
また、前記低エネルギーX線検出器を構成する前記低エネルギー用シンチレータ、全反射プリズム、及び低エネルギー用光電素子と、前記高エネルギーX線検出器を構成する前記高エネルギー用シンチレータ、及び高エネルギー用光電素子は、所定の厚さ内に平面状かつ厚さ方向に積層可能に配置されている。
【0017】
また、前記低エネルギー用シンチレータ、全反射プリズム、及び高エネルギー用シンチレータは、前記厚さ方向側面に、前記入射X線、透過X線、低エネルギー用シンチレータ内の発光、又は高エネルギー用シンチレータ内の発光を遮断する遮蔽板を有する。
【発明の効果】
【0018】
上記本発明によれば、高エネルギーX線検出器により、低エネルギー用シンチレータを透過した所定のエネルギー範囲のX線エネルギーを検出することができる。また、低エネルギーX線検出器における減衰率は既知なので、前記X線エネルギーから前記エネルギー範囲の入射X線のX線エネルギーを算出することができる。
また、低エネルギーX線検出器により、低エネルギー用シンチレータで吸収された前記エネルギー範囲のX線エネルギーを検出することができる。また、高エネルギー用光電素子により低エネルギー用シンチレータを透過したX線エネルギーは既知なので、低エネルギーX線検出器で検出したX線エネルギーから前記エネルギー範囲の入射X線のX線エネルギーを算出することができる。
従って、本発明による2段X線検出器では、計測対象とする所定のエネルギー範囲において、高エネルギーX線検出器と低エネルギーX線検出器のいずれかが検出できれば、前記エネルギー範囲内の2点以上において入射X線のX線エネルギーを同時に検出することができ、これから、被検査物の物質識別が可能となる。
【0019】
また、低エネルギーX線検出器が、さらに、全反射プリズムと低エネルギー用光電素子とを備えるので、(1)低エネルギー用シンチレータで発生した発光を全反射プリズムにより直角反射させることができ、低エネルギーX線検出器を構成する電子部品へのX線による影響を軽減することができ、かつ(2)光をプリズム内に通過させることで、不純物による入射光の影響を無くすことができる。
【0020】
また、前記全反射プリズムが、その全反射面に、入射X線を透過し低エネルギー用シンチレータ内の発光を反射するミラーコーティングを有するので、(3)低エネルギー用光電素子への低エネルギー用シンチレータからの光の伝達効率を上げることができる。
【0021】
また、全反射プリズムが前記低エネルギー用シンチレータの前面に位置するので、(4)高エネルギー用と低エネルギー用のシンチレータ間の距離を短縮することができ、外乱光の影響を低減することができる。
【0022】
さらに、前記低エネルギーX線検出器を構成する前記低エネルギー用シンチレータ、全反射プリズム、及び低エネルギー用光電素子と、前記高エネルギーX線検出器を構成する前記高エネルギー用シンチレータ、及び高エネルギー用光電素子は、所定の厚さ内に平面状かつ厚さ方向に積層可能に配置されているので、所定の厚さ(例えば2.3mm厚)で、1チャンネル(1ch)の2段X線検出器を構成することができ、これを多層(例えば64ch)に積層することで、容易にマルチチャンネルの2段X線検出器を構成することができる。

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による2段X線検出器の側面図である。
【図2】図1のA−A線における平面図である。
【図3】本発明の2段X線検出器の原理説明図である。
【図4】本発明の2段X線検出器による入射エネルギーと吸収エネルギーとの関係図である。
【図5】本発明の2段X線検出器による低エネルギー用シンチレータの透過率と2つのシンチレータの透過率との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0025】
図1は、本発明による2段X線検出器の側面図である。
本発明の2段X線検出器は、所定のエネルギー範囲で分布するX線1を用い、このX線1を被検査物2に照射しこれを透過した入射X線3のX線エネルギーを検出し、これから被検査物2の物質識別をするためのX線検出器である。
X線1は、好ましくはXバンドライナックX線源から得られる制動輻射X線であり、最大950keV(0.95MeV)のエネルギーを有し、数MeVのエネルギー範囲で分布する。
【0026】
X線1がある物質中をxの距離透過する際の、X線強度Iは、式(1)で表される。
I=Iexp(−μx)・・・(1)
ここで、Iは物質に入射する前のX線強度、μは減弱係数(又は線吸収係数)である。
【0027】
図1において、本発明の2段X線検出器は、低エネルギーX線検出器10と高エネルギーX線検出器20を備える。
低エネルギーX線検出器10は、入射X線3を透過させる低エネルギー用シンチレータ12を有し、低エネルギー用シンチレータ12により前記エネルギー範囲の少なくとも一部(例えば低エネルギー領域)のX線エネルギーを吸収し検出する。
【0028】
低エネルギー用シンチレータ12は、入射X線3に直交して位置し、前記エネルギー範囲のX線エネルギーの少なくとも一部(例えば低エネルギー領域)を吸収し表面で発光する平板状の蛍光体である。低エネルギー用シンチレータ12は、前記エネルギー範囲の低エネルギー領域のX線で効率よく発光する蛍光体であるのが好ましい。後述の実施例では、0.5mm厚のCSIであるが、本発明はこれに限定されず、NaI,CaF,BGO,等でもよい。
【0029】
また低エネルギーX線検出器10は、さらに、全反射プリズム14と低エネルギー用光電素子16を備える。
全反射プリズム14は、低エネルギー用シンチレータ12の前面に位置し、低エネルギー用シンチレータ12内の発光を図で下方に90度全反射する。全反射プリズム14は、X線及び可視光の透過率が高く、減弱係数μが無視できるほど小さい材料(例えば石英ガラス)が好ましい。
【0030】
全反射プリズム14は、さらにその全反射面(図で45度の傾斜面)に、入射X線3を透過し低エネルギー用シンチレータ12内の発光5を反射するミラーコーティング15を有する。この透過率は100%又はこれに近く、反射率は100%又はこれに近いのが好ましい。
低エネルギー用光電素子16は、全反射プリズム14により図で下方に反射された低エネルギー用シンチレータ12内の発光5の光量に比例する電気信号6を出力する。
【0031】
高エネルギーX線検出器20は、低エネルギー用シンチレータ12を透過した透過X線4を再度透過させる高エネルギー用フィルタ22とその後方の高エネルギー用シンチレータ24を有し、高エネルギー用シンチレータ24により前記エネルギー範囲のX線エネルギーの少なくとも一部(例えば高エネルギー領域)を吸収し検出する。
高エネルギー用フィルタ22は、透過X線4に直交して位置し、前記エネルギー範囲において低エネルギーのX線エネルギーを吸収する平板状(後述の実施例では、1.0mm厚)の金属板(例えば、Cu,Fe,AL等)である。
【0032】
また高エネルギー用シンチレータ24は、高エネルギー用フィルタ22の後方(図で右側)に位置し、前記エネルギー範囲のX線エネルギーの少なくとも一部(例えば低エネルギー領域)を吸収し内部で発光する矩形平板状の蛍光体である。高エネルギー用シンチレータ24は、前記エネルギー範囲の高エネルギー領域のX線で効率よく発光する蛍光体であるのが好ましい。後述の実施例では、幅15mm×高さ15×厚さ2mmのCdWOであるが、本発明はこれに限定されず、その他の蛍光体でもよい。
高エネルギーX線検出器20は、さらに、高エネルギー用光電素子26を備える。高エネルギー用光電素子26は、高エネルギー用シンチレータ24の側面(この図で下方)に位置し、高エネルギー用シンチレータ20内の発光7の光量に比例する電気信号8を出力する。
【0033】
図1において、30は演算装置(例えばコンピュータ)であり、電気信号6,8から被検査物2の物質を識別して出力9する。
さらに、図1において、32は入射X線3の通路を限定するためにコリメータであり、後述の例では4〜6mmの間隔に保持されて2枚の金属平板(例えば鉛板)からなる。また34は、入射X線3の通路に外乱光が入射するのを防止する外乱防止治具であり、後述の例では4〜6mmの間隔に保持されて2枚の金属平板(例えば鉛板)からなる。
なお、コリメータ32、外乱防止治具34の形状は、機能を満たす限りで自由に変更できる。またこれらは本発明において必須ではなく、これらを省略することもできる。
【0034】
図2は、図1のA−A線における平面図である。
この図において、低エネルギーX線検出器10を構成する低エネルギー用シンチレータ12、全反射プリズム14、及び低エネルギー用光電素子16と、高エネルギーX線検出器20を構成する高エネルギー用シンチレータ24、及び高エネルギー用光電素子26は、所定の厚さ(後述の例では2mm)内に平面状かつ厚さ方向に積層可能に配置されている。
なお、低エネルギーX線検出器10を構成する構成部品12,14,16の一部(例えば、低エネルギー用シンチレータ12を所定の厚さ(後述の例では2mm)内に構成せず、数チャンネル(例えば4ch)で1組にしてもよい。
なお、高エネルギー用フィルタ22も、同様に所定の厚さ(後述の例では2mm)内に平面状かつ厚さ方向に積層可能に配置してもよい。
【0035】
また、低エネルギー用シンチレータ12、全反射プリズム14、及び高エネルギー用シンチレータ24は、厚さ方向(図で上下)の側面に、入射X線3、透過X線4、低エネルギー用シンチレータ内の発光5、又は高エネルギー用シンチレータ内の発光7を遮断する遮蔽板36を有する。遮蔽板36は、後述の例では0.3mm厚の鉛板と水溶性ペイントである。鉛板は発光7の透過を遮断し、水溶性ペイントは反射を防止する。
【0036】
この構成により、所定の厚さ(例えば2.3mm厚)で、1チャンネル(1ch)の2段X線検出器を構成することができ、これを多層(例えば64ch)に積層することで、容易にマルチチャンネルの2段X線検出器を構成することができる。
【0037】
図3は、本発明の2段X線検出器の原理説明図である。
この図において、X線1を被検査物2に照射しこれを透過した入射X線3、低エネルギー用シンチレータ12を透過した透過X線4、高エネルギー用フィルタ22を透過した透過X線4bのX線強度をそれぞれI3,I4,I4bとすると、式(1)から以下の式(2)(3)が成り立つ。ここで、μ1,x1は低エネルギー用シンチレータ12の減弱係数と厚さ、μ2,x2は、高エネルギー用フィルタ22の減弱係数と厚さである。また、全反射プリズム14の減弱係数と厚さは無視できるものとする。
【0038】
I4=I3exp(−μ1x1)・・・(2)
I4b=I4exp(−μ2x2)・・・(3)
【0039】
高エネルギー用光電素子26によりI4bを検出すると、式(3)において、μ2,x2は既知なのでI4が求まり、さらに、式(2)において、μ1,x1は既知であるから、I3が求まる。すなわち、高エネルギー用光電素子26により高エネルギー用フィルタ22を透過した透過X線4bのX線強度が検出できれば、これから入射X線3のX線強度I3を求めることができる。
【0040】
また、高エネルギー用光電素子26によりI4を求め、さらに低エネルギーX線検出器10によりI3−I4を検出すれば、その和としてI3が求まる。この場合、透過X線4bのX線強度I4bは0であってもよい。
すなわち、低エネルギーX線検出器10により低エネルギー用シンチレータ12での減衰エネルギー(I3−I4)を検出すれば、これから入射X線3のX線強度I3を求めることができる。
【0041】
従って、本発明による2段X線検出器では、計測対象とする所定のエネルギー範囲において、高エネルギーX線検出器20と低エネルギーX線検出器10のいずれかが検出できれば、前記エネルギー範囲内の2点以上において入射X線のX線エネルギーを同時に検出することができ、これから、被検査物の物質識別が可能となる。
【実施例1】
【0042】
以下、本発明の実施例を説明する。
図1に示した2段X線検出器を製作し、試験した。製作した2段X線検出器において、低エネルギー用シンチレータ12は0.5mm厚のCSI、全反射プリズム14は石英ガラス製、ミラーコーティング15は入射X線3(例えば波長0.01〜100Å)を透過し低エネルギー用シンチレータ12内の発光5(例えば波長600nm)を全反射する多層膜コーティングに設定した。
また、高エネルギー用フィルタ22は、1.0mm厚のCu、高エネルギー用シンチレータ24は幅15mm×高さ15×厚さ2mmのCdWOであった。
【0043】
図4は、本発明の2段X線検出器による入射エネルギーと吸収エネルギーとの関係図である。この図において、横軸は入射エネルギー、縦軸は吸収エネルギーの割合、図中の実線は高エネルギー用シンチレータ24の吸収エネルギー、破線は低エネルギー用シンチレータ12の吸収エネルギーである。
先行研究の結果から、厚さが異なる2段のシンチレータで得られる投影データが予想とおり、図4から薄いシンチレータ(CsI)は低エネルギーのX線を、厚いシンチレータ(CdWO)は高エネルギーのX線を採取していることが確認された。
従って、低エネルギー用シンチレータ12と高エネルギー用シンチレータ24で同時にX線を検出することで、0〜0.95MeVのエネルギー範囲で少なくともいずれか一方でX線を検出できることがわかる。
【0044】
図5は、本発明の2段X線検出器による低エネルギー用シンチレータの透過率と2つのシンチレータの透過率との関係図である。この図において、横軸は低エネルギー用シンチレータの透過率R1、縦軸は2つのシンチレータの透過率Rである。
この図から、Xバンドライナックからの制動輻射X線を鉄、アルミなどのターゲットに照射すると、本発明の2段X線検出器で低エネルギー用シンチレータの透過率(R1)とシンチレータ12,24の総合透過率の比(R)の関係が物質によって変化することが分かった。これは本発明の2段X線検出器が物質判別手段として適用できることを示している。
【0045】
上述した本発明によれば、高エネルギーX線検出器20により、低エネルギー用シンチレータ12を透過した所定のエネルギー範囲のX線エネルギーを検出することができる。また、低エネルギーX線検出器10における減衰率は既知なので、前記X線エネルギーから前記エネルギー範囲の入射X線3のX線エネルギーI3を算出することができる。
また、低エネルギーX線検出器10により、低エネルギー用シンチレータ12で吸収された前記エネルギー範囲のX線エネルギー(I3−I4)を検出することができる。また、高エネルギー用光電素子26により低エネルギー用シンチレータ12を透過したX線エネルギーI4は既知(又は0)なので、低エネルギーX線検出器10で検出したX線エネルギー(I3−I4)から前記エネルギー範囲の入射X線3のX線エネルギーI3を算出することができる。
従って、本発明による2段X線検出器では、計測対象とする所定のエネルギー範囲において、高エネルギーX線検出器20と低エネルギーX線検出器10のいずれかが検出できれば、前記エネルギー範囲内の2点以上において入射X線のX線エネルギーを同時に検出することができ、これから、被検査物の物質識別が可能となる。
【0046】
また、低エネルギーX線検出器10が、さらに、全反射プリズム14と低エネルギー用光電素子16とを備えるので、(1)低エネルギー用シンチレータ12で発生した発光を全反射プリズム14により直角反射させることができ、低エネルギーX線検出器10を構成する電子部品へのX線による影響を軽減することができ、かつ(2)光をプリズム14内に通過させることで、不純物による入射光の影響を無くすことができる。
【0047】
また、全反射プリズム14が、その全反射面に、ミラーコーティング15を有するので、(3)低エネルギー用光電素子16への低エネルギー用シンチレータ12からの光の伝達効率を上げることができる。
【0048】
また、全反射プリズム14が低エネルギー用シンチレータ12の前面に位置するので、(4)高エネルギー用と低エネルギー用のシンチレータ12,24間の距離を短縮することができ、外乱光の影響を低減することができる。
【0049】
さらに、低エネルギーX線検出器10を構成する低エネルギー用シンチレータ12、全反射プリズム14、及び低エネルギー用光電素子16と、高エネルギーX線検出器20を構成する高エネルギー用フィルタ22、高エネルギー用シンチレータ24、及び高エネルギー用光電素子26は、所定の厚さ内に平面状かつ厚さ方向に積層可能に配置されているので、所定の厚さ(例えば2.3mm厚)で、1チャンネル(1ch)の2段X線検出器を構成することができ、これを多層(例えば64ch)に積層することで、容易にマルチチャンネルの2段X線検出器を構成することができる。
【0050】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0051】
1 X線、2 被検査物、3 入射X線、5 発光(蛍光)、
6 電気信号、7 発光(蛍光)、8 電気信号、9 出力、
10 低エネルギーX線検出器、
12 低エネルギー用シンチレータ、14 全反射プリズム、
15 ミラーコーティング、16 低エネルギー用光電素子、
20 高エネルギーX線検出器、
22 高エネルギー用フィルタ、24 高エネルギー用シンチレータ、
26 高エネルギー用光電素子、
30 演算装置(コンピュータ)、32 コリメータ、
34 外乱防止治具、36 遮蔽板(鉛板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のエネルギー範囲で分布するX線を用い、該X線を被検査物に照射しこれを透過した入射X線のX線エネルギーを検出しこれから被検査物の物質識別をするための2段X線検出器であって、
前記入射X線を透過させる低エネルギー用シンチレータを有し、該低エネルギー用シンチレータにより前記エネルギー範囲のX線エネルギーを吸収し検出する低エネルギーX線検出器と、
前記低エネルギー用シンチレータを透過した透過X線を再度透過させる高エネルギー用フィルタとその後方の高エネルギー用シンチレータを有し、該高エネルギー用シンチレータにより前記エネルギー範囲のX線エネルギーを吸収し検出する高エネルギーX線検出器と、を備えたことを特徴とする2段X線検出器。
【請求項2】
前記低エネルギー用シンチレータは、前記入射X線に直交して位置し、前記エネルギー範囲のX線エネルギーを吸収し発光する平板状の蛍光体であり、
前記低エネルギーX線検出器は、さらに、前記低エネルギー用シンチレータの前面に位置し、該低エネルギー用シンチレータ内の発光を90度全反射する全反射プリズムと、
該全反射プリズムで反射された前記発光光量に比例する電気信号を出力する低エネルギー用光電素子とを備える、ことを特徴とする請求項1に記載の2段X線検出器。
【請求項3】
前記全反射プリズムは、その全反射面に、前記入射X線を透過し前記低エネルギー用シンチレータ内の発光を反射するミラーコーティングを有する、ことを特徴とする請求項2に記載の2段X線検出器。
【請求項4】
前記高エネルギー用フィルタは、前記透過X線に直交して位置し、前記エネルギー範囲のX線エネルギーを吸収する平板状の金属板であり、
前記高エネルギー用シンチレータは、前記高エネルギー用フィルタの後方に位置し、前記エネルギー範囲のX線エネルギーを吸収し発光する矩形平板状の蛍光体であり、
前記高エネルギーX線検出器は、さらに、前記高エネルギー用シンチレータの側面に位置し、該高エネルギー用シンチレータ内の発光光量に比例する電気信号を出力する高エネルギー用光電素子とを備える、ことを特徴とする請求項2に記載の2段X線検出器。
【請求項5】
前記低エネルギーX線検出器を構成する前記低エネルギー用シンチレータ、全反射プリズム、及び低エネルギー用光電素子と、前記高エネルギーX線検出器を構成する前記高エネルギー用フィルタ、前記高エネルギー用シンチレータ、及び高エネルギー用光電素子は、所定の厚さ内に平面状かつ厚さ方向に積層可能に配置されている、ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の2段X線検出器。
【請求項6】
前記低エネルギー用シンチレータ、全反射プリズム、及び高エネルギー用シンチレータは、前記厚さ方向側面に、前記入射X線、透過X線、低エネルギー用シンチレータ内の発光、又は高エネルギー用シンチレータ内の発光を遮断する遮蔽板を有する、ことを特徴とする請求項5に記載の2段X線検出器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−112623(P2011−112623A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272141(P2009−272141)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月28日 社団法人日本原子力学会発行の「日本原子力学会 2009年 秋の大会 予稿集(CD−ROM)」に発表
【出願人】(000198318)株式会社IHI検査計測 (132)
【Fターム(参考)】