説明

2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法

【課題】純度の高く、感光材料に好適な2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを高収率で得ることができるとともに、触媒の分離除去も容易な2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを、モルホリン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれた少なくともいずれか1種の窒素含有化合物と、炭素数3以下の低級アルコールとの混合溶媒に溶解させた状態で触媒の存在下還元するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路材料の絶縁基材や半導体素子の表層の保護膜などとして用いられるポリイミド樹脂の原材料の1種として、下式で示される2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンがある。
【化1】

この2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法としては、下式で示される2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン
【化2】

を溶媒としてのDMFに溶解し、触媒としてのPd/Cの存在下還元剤により2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを還元する方法が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、上記の製造方法では、得られる2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン中に着色不純物(赤色)が存在するため、褐色を呈しており、感光材料として使用すると、感光特性が悪化し、本来の性能が発揮できないおそれがある。
一方、2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを溶媒に溶解しない状態で還元を行えば着色はないものの2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの溶解性が低いため、触媒と切り離すことが難しく回収することが難しい。すなわち、封止樹脂等の電子材料として用いた場合、電気絶縁性に問題が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−321834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みて、純度の高い2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを高収率で得ることができるとともに、触媒の分離除去も容易な2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明にかかる2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BAPジアミノ体」と記す)の製造方法は、溶媒に溶解させた2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BAPジニトロ体」と記す)を触媒の存在下還元する工程を備え、溶媒がモルホリン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれた少なくともいずれか1種の窒素含有化合物と、炭素数3以下の低級アルコールとの混合溶媒であることを特徴としている。
【0006】
本発明において、触媒としては、特に限定されないが、Pd/C(パラジウム/カーボン)、フタロシアニン鉄などが挙げられ、反応効率を考慮すると、Pd/Cが好ましい。
還元剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタリルアルコール、1,2−エタンジオール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。これらの中でも水素、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、蟻酸の塩、1,2−エタンジオールが好ましい。これらを2種以上併用することもできる。
【0007】
低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールが挙げられ、得られる目的物の着色が少ないことからエタノールが好ましい。
混合溶媒の窒素含有化合物と、低級アルコールとの混合比は、特に限定されないが、重量比で窒素含有化合物1に対し、1〜4とすることが好ましく、1〜2とすることがより好ましい。すなわち、低級アルコールの窒素含有化合物に対する混合割合が少なすぎると、得られるBAPジアミノ体の結晶が褐色を呈するおそれがあり、多すぎると目的物の収率が低下する。
【0008】
また、BAPジニトロ体に対する混合溶媒の添加量は、重量比でBAPジニトロ体1に対し、2〜20とすることが好ましく、4〜8とすることがより好ましい。
すなわち、混合溶媒量が少なすぎると、BAPジアミノ体の結晶が褐色呈する可能性があり、多すぎると収率が低下するおそれがある。
【0009】
原料となる2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンは、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールAと有機溶媒との混合溶液中に硝酸を滴下することによって得られる。
上記有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アセトニトリル、トルエン、モノクロロベンゼン等が挙げられ、中でも高収率となることからアセトニトリルが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる 以上のように構成されているので、得られる2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの透明性が高く、触媒の分離除去も容易である。
すなわち、感光材料に適するとともに、封止樹脂として使用した場合に電気絶縁性が高いものとなる2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを容易かつ安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得られたBAPジアミノ体の赤外吸収スペクトル(IR)のチャートである。
【図2】実施例1で得られたBAPジアミノ体のNMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施例を詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0013】
(実施例1)
100重量部のビスフェノールAに300重量部のアセトニトリルを加えてビスフェノールAのアセトニトリル溶液を得た。
反応容器内で得られたアセトニトリル溶液を10℃以下に保ちながら、アセトニトリル溶液にビスフェノールAに対して1.1倍等量の硝酸を滴下し、10時間以上反応熟成を行った。
熟成後、70℃まで昇温し、反応容器内の内容物を完全に溶解させたのち、反応容器内を10℃以下までゆっくりと冷却し、結晶を晶析させた。析出した結晶を脱水し、粗2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BAPジニトロ体」と記す)を得た。
得られた粗BAPジニトロ体にメタノールを添加し、内温55℃付近まで昇温熟成し、副生成物を溶解させた後、内温10℃以下までゆっくり冷却し、晶析、結晶を脱水し、精BAPジニトロ体を得た(Total 収率68%、HPLC 純度:99.8%)
得られた精BAPジニトロ体10重量部に対し、エチルアルコール20重量部、モルホリン20重量部を添加してBAPジニトロ体を溶解させるとともに、この溶液に触媒としての5%Pd/Cを0.2重量部添加した。
その後、内温65〜70℃まで昇温し、そこに80%ヒドラジン1水和物5.1重量部を滴下した。なお、滴下は発熱を伴うため、内温を65〜80℃にコントロールしながら行った。
反応終了後、同温度で熱時濾過し、パラジウム炭素を除去した。濾過した液に水30重量部を添加し、内温0〜10℃まで冷却、一時間晶析した後にろ別乾燥し、2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BAPジアミノ体」と記す)を得た。
得られたBAPジアミノ体は、白色の結晶体で、その収率は85〜90%、純度は99.0%であった。
なお、この得られたBAPジアミノ体の同定は、図1に示すように赤外吸収スペクトル(IR)を測定するとともに、図2に示すようにH−NMR(測定周波数400.13MHz)を測定することによって行った。
【0014】
(実施例2)
精BAPジニトロ体10重量部に対し、エチルアルコール20重量部、モルホリン10重量部を添加してBAPジニトロ体を溶解させるようにした以外は、実施例1と同様にして、BAPジアミノ体を得た。
得られたBAPジアミノ体は、白色の結晶体で、その収率は70%、純度は99.0%であった。
【0015】
(実施例3)
精BAPジニトロ体10重量部に対し、エチルアルコール10重量部、モルホリン20重量部を添加してBAPジニトロ体を溶解させるようにした以外は、実施例1と同様にして、BAPジアミノ体を得た。
得られたBAPジアミノ体は、実施例1および2と比較し、薄い褐色に呈色した結晶体で、その収率は85〜90%、純度は99.0%であった。
【0016】
(実施例4)
精BAPジニトロ体10重量部に対し、エチルアルコール40重量部、モルホリン40重量部を添加してBAPジニトロ体を溶解させるとともに、濾過した液に水60重量部を添加した以外は、実施例1と同様にして、BAPジアミノ体を得た。
得られたBAPジアミノ体は、白色の結晶体で、その収率は82%、純度は99.0%であった。
【0017】
(実施例5)
精BAPジニトロ体10重量部に対し、イソプロピルアルコール20重量部、モルホリン20重量部を添加してBAPジニトロ体を溶解させるようにした以外は、実施例1と同様にして、BAPジアミノ体を得た。
得られたBAPジアミノ体は、白色の結晶体で、その収率は85%、純度は99.0%であった。
【0018】
(実施例6)
精BAPジニトロ体10重量部に対し、メチルアルコール20重量部、モルホリン20重量部を添加してBAPジニトロ体を溶解させるようにした以外は、実施例1と同様にして、BAPジアミノ体を得た。
得られたBAPジアミノ体は、僅かに灰色がかった白色の結晶体で、その収率は87%、純度は99.0%であった。
【0019】
(実施例7)
精BAPジニトロ体10重量部に対し、エチルアルコール20重量部、DMF20重量部を添加してBAPジニトロ体を溶解させるようにした以外は、実施例1と同様にして、BAPジアミノ体を得た。
得られたBAPジアミノ体は、僅かに灰色がかった白色の結晶体で、その収率は80〜85%、純度は99.0%であった。
【0020】
(実施例8)
精BAPジニトロ体10重量部に対し、エチルアルコール20重量部、NMP20重量部を添加してBAPジニトロ体を溶解させるようにした以外は、実施例1と同様にして、BAPジアミノ体を得た。
得られたBAPジアミノ体は、僅かに褐色の結晶体で、その収率は85%、純度は99.0%であった。
【0021】
(実施例9)
100重量部のビスフェノールAに1650重量部のトルエンを加えてビスフェノールAのトルエン溶液を得た。
反応容器内で得られたトルエン溶液を10℃以下に保ちながら、トルエン溶液にビスフェノールAに対して1.05倍当量の硝酸を滴下し、10時間以上反応熟成を行った。
熟成後、40℃まで昇温し、反応容器内の内容物を完全に溶解させたのち、水を添加し、水層のpHが3より中性になるまで、水洗を行った。その後、1200重量部のトルエンを減圧濃縮した。そこに、300重量部のメタノールを添加し、反応容器内を10℃以下までゆっくりと冷却し、結晶を晶析させた。析出した結晶を脱水し、BAPジニトロ体を得た。(収率70〜75%、HPLC 純度:99.9%)
得られたBAPジニトロ体を用いて実施例1と同様にしてBAPジアミノ体を得た。
得られたBAPジアミノ体は、白色の結晶体で、その収率は75〜85%、純度は99.0%であった。
【0022】
(比較例1)
精BAPジニトロ体10重量部に対し、モルホリン20重量部を添加してBAPジニトロ体を溶解させるようにした以外は、実施例1と同様にして、BAPジアミノ体を得た。
得られたBAPジアミノ体は、褐色の結晶体で、その収率は91%、純度は99.0%であった。
【0023】
(比較例2)
実施例1と同様にして得られた精BAPジニトロ体10重量部に対し、エチルアルコール20重量部を添加してBAPジニトロ体を溶解させるとともに、この溶液に触媒としての5%Pd/Cを0.2重量部添加した。
その後、内温65〜70℃まで昇温し、そこに80%ヒドラジン1水和物5.1重量部を滴下した。なお、滴下は発熱を伴うため、内温を65〜80℃にコントロールしながら行った。
反応終了後、同温度で熱時濾過を行ったが、目的物がほとんど溶解していない状態であり、大部分の目的物がパラジウム炭素と分離することが出来なかった。濾過した液に水30重量部を添加し、内温0〜10℃まで冷却、一時間晶析した後にろ別乾燥し、BAPジアミノ体を得た。
得られたBAPジアミノ体は、白色の結晶体で、その収率は7%、純度は99.0%であった。
【0024】
(比較例3)
精BAPジニトロ体10重量部に対し、NMP20重量部を添加してBAPジニトロ体を溶解させるようにした以外は、実施例1と同様にして、BAPジアミノ体を得た。
得られたBAPジアミノ体は、褐色の結晶体で、その収率は90%、純度は99.0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の製造方法で得られる2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンは、例えば、フォトレジストなどの感光材料や封止樹脂となるポリイミド樹脂の原料として用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に溶解させた2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを触媒の存在下還元する工程を備える2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法において、
溶媒がモルホリン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれた少なくともいずれか1種の窒素含有化合物と、炭素数3以下の低級アルコールとの混合溶媒であることを特徴とする2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項2】
触媒がPd/Cである請求項1に記載の2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項3】
2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを、重量比で2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン1に対し、2〜20重量部の混合溶媒で溶解する請求項1または請求項2に記載の2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項4】
混合溶媒は、重量比で窒素含有化合物1に対し、低級アルコールが1〜4含まれる請求項1〜請求項3のいずれかに記載の2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項5】
ヒドラジンを用いて還元する請求項1〜請求項4のいずれかに記載の2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項6】
低級アルコールがエタノールである請求項1〜請求項5のいずれかに記載の2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−265238(P2010−265238A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119784(P2009−119784)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(591134937)株式会社三宝化学研究所 (7)
【Fターム(参考)】