説明

3−メチルチオプロパナールの製造方法

【課題】配管や反応槽の腐食を良好に抑制してメチオニンを製造する方法を提供する。
【解決手段】アクロレインとメチルメルカプタンを酸性化合物および塩基性化合物の共存下で反応させて、3−メチルチオプロパナールを含む反応混合物を得、当該反応混合物に水を添加して60〜130℃の範囲内で加熱処理を行い、次いで蒸留を行うことを特徴とする3−メチルチオプロパナールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチオニン製造に有用な原料である3−メチルチオプロパナールを製造する方法に関する。メチオニンは、動物用飼料用添加剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
メチオニンを製造する方法として、3−メチルチオプロパナールを原料として、塩基存在下で青酸と反応させ(シアノヒドリン化工程)、次いで炭酸アンモニウムと反応させ(ヒダントイン化工程)、そして加水分解することによりメチオニンを製造することは広く知られている(特許文献1〜9)。
【0003】
かかる製造工程のうち、ヒダントインの加水分解工程では、配管や反応槽が腐食しやすいという問題点を有しており、一般的には、腐食しにくい材質からなる配管や反応槽が使用されている(特許文献6〜9)。
【0004】
また、原料の3−メチルチオプロパナールは、アクロレインとメチルメルカプタンを酸性化合物および塩基性化合物の共存下で反応させることにより製造することが知られている(特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−114758号公報
【特許文献2】特開2002−105048号公報
【特許文献3】特開2003−104958号公報
【特許文献4】特開2003−104959号公報
【特許文献5】特開2003−104960号公報
【特許文献6】特開平10−182593号公報
【特許文献7】特開2003−119557号公報
【特許文献8】特開平11−217370号公報
【特許文献9】特開2007−314507号公報
【特許文献10】特開2004−115461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ヒダントインの加水分解工程において、上記のごとく腐食しにくい材質からなる配管や反応槽を使用したとしても、それでもなお配管や反応槽が腐食してしまうことがあった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記配管や反応槽の腐食を良好に抑制してメチオニンを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、原料である3−メチルチオプロパナールに不純物としてチオール類や硫化水素が所定量より多く含まれると、これら不純物やこれらの誘導体が後のヒダントインの加水分解工程における配管や反応槽の腐食に関与するということが判明した。そして、これらチオール類や硫化水素の含有量が所定量以下に低減された3−メチルチオプロパナールを原料としてシアノヒドリン化工程で使用することにより、後のヒダントインの加水分解工程における配管や反応槽の腐食を良好に抑制できること、そして、チオール類や硫化水素が含まれる3−メチルチオプロパナールに特定の処理を施した後に蒸留することにより、上記不純物の含有量を所定量以下に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]アクロレインとメチルメルカプタンを酸性化合物および塩基性化合物の共存下で反応させて、3−メチルチオプロパナールを含む反応混合物を得、当該反応混合物に水を添加して60〜130℃の範囲内で加熱処理を行い、次いで蒸留を行うことを特徴とする3−メチルチオプロパナールの製造方法;
[2]水の添加量が、反応混合物に対して0.5重量%〜5重量%である、上記[1]に記載の方法;
[3]加熱処理が、0.5〜2時間行われる、上記[1]または[2]に記載の方法;
[4]塩基性化合物の使用量が、酸性化合物1モルに対して0.01〜1.0モルである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法;
[5]メチルメルカプタン中の硫化水素の含有量が1ppm〜10000ppmである、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法;
[6]メチルメルカプタンの使用量が、アクロレイン1モルに対して0.95〜0.99モルである、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法;
等を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、3−メチルチオプロパナール中のチオール類や硫化水素の含有量を所定量以下に低減できるので、後のヒダントインの加水分解工程における配管や反応槽の腐食を良好に抑制してメチオニンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
メチオニンは、通常、以下の工程(1)〜(3)により製造される。
工程(1):塩基の存在下、3−メチルチオプロパナールを青酸と反応させて2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを得る工程、
工程(2):工程(1)で得られた2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを炭酸アンモニウムと反応させて5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを得る工程、および
工程(3):工程(2)で得られた5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを塩基性カリウム化合物の存在下で加水分解してメチオニンを得る工程。
【0012】
【化1】

【0013】
原料である3−メチルチオプロパナールは、以下に示すように、酸性化合物および塩基性化合物の共存下でのメチルメルカプタンとアクロレインの反応によって製造されることが知られている。
【0014】
【化2】

【0015】
このメチルメルカプタンは一般に硫化水素とメタノールから製造されるが、得られたメチルメルカプタンには硫化水素が残存しているため、これを使用して上記反応を行うと、残留した硫化水素がアクロレインと反応して3−メルカプトプロパナールが副生する。
【0016】
従って、得られた3−メチルチオプロパナールには、硫化水素や、3−メルカプトプロパナール、そして原料のメチルメルカプタン等のチオール類が残存している。これらが残存したままで工程(1)および(2)に供すると、これら不純物やこれらの誘導体が工程(3)のヒダントインの加水分解工程に持ち込まれ、配管や反応槽の腐食を引き起こす。従って、このような腐食を抑制するために、工程(1)において、上記チオール類と硫化水素の含有量が所定量以下に低減された3−メチルチオプロパナールを原料として使用するのが望ましい。
【0017】
チオール類と硫化水素の含有量を所定量以下に低減する方法として、本発明では、アクロレインとメチルメルカプタンを酸性化合物および塩基性化合物の共存下で反応させて、3−メチルチオプロパナールを含む反応混合物を得、当該反応混合物に水を添加して60〜130℃の範囲内で加熱処理を行い、次いで蒸留を行う。
【0018】
メチルメルカプタンの使用量は、通常、アクロレインと等モル前後であるが、得られる3−メチルチオプロパナールの臭気を抑制する点からは、アクロレインの方を若干過剰とするのが好ましく、好適には、アクロレイン1モルに対して0.95〜0.99モルのメチルメルカプタンが使用される。
【0019】
また、使用するメチルメルカプタン中の硫化水素の含有量(残存量)は、1ppm〜10000ppm、特に1ppm〜5000ppmであることが好ましい。
【0020】
酸性化合物としては、無機酸および有機酸のいずれも用いることができ、無機酸としては、例えば、硫酸、燐酸のようなオキソ酸;フッ化水素、塩化水素、臭化水素のようなハロゲン化水素等が挙げられる。有機酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、アクリル酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸のような脂肪族モノカルボン酸;蓚酸、琥珀酸、アジピン酸のような脂肪族ポリカルボン酸;フェニル酢酸、安息香酸、桂皮酸、フル酸、チオフェンカルボン酸のような芳香族モノカルボン酸;フタル酸のような芳香族ポリカルボン酸等のカルボン酸や、硫酸モノエステル、スルホン酸が挙げられる。中でもカルボン酸が好適であり、酢酸が特に好適である。
【0021】
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムのような無機塩基や、ピペリジン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリアリルアミン、ピリジン、キノリン、ウロトロピン、N,N−ジメチルアニリンのような含窒素有機塩基が挙げられる。中でも含窒素有機塩基が好適であり、トリアリルアミンが特に好適である。
【0022】
酸性化合物の使用量は、メチルメルカプタン1モルに対して、通常0.0001〜0.2モルであり、好ましくは0.0007〜0.005モルである。
【0023】
塩基性化合物の使用量は、メチルメルカプタン1モルに対して、通常0.0001〜0.002モルであり、好ましくは0.0001〜0.0015モルである。また、高沸点副生物の生成が抑制できる点から、塩基性化合物の使用量は、酸性化合物1モルに対して、好ましくは0.01〜1.0モル、より好ましくは0.3〜0.7モルである。
【0024】
反応は、アクロレイン、メチルメルカプタン、酸性化合物および塩基性化合物を反応系内に供給することにより行われるが、メチルメルカプタンの揮発による収率低下を抑制する点から、アクロレインを反応系内に供給した後に、メチルメルカプタン、酸性化合物および塩基性化合物を供給することが好ましい。ここで上記原材料を反応系内に供給しながら、反応混合物を反応系内から抜き出すことにより、連続式で反応を実施することができる。
【0025】
酸性化合物と塩基性化合物の供給については、予め両者を混合しておいて、この混合物を供給原料として用いるのが、操作性等の点から望ましい。また、上記反応においては、必要に応じて反応に不活性な溶媒等、他の成分を供給することもできる。
【0026】
反応温度は、通常−10〜100℃、好ましくは0〜80℃であり、反応時間は、通常10分〜24時間程度である。また、反応は減圧下、常圧下、加圧下のいずれで行ってもよい。
【0027】
次いで、得られた3−メチルチオプロパナールを含む反応混合物に水を添加して60〜130℃の範囲内で加熱処理を行う。
【0028】
水の添加量は、高沸点副生物の生成が抑制できる点から、反応混合物に対して、好ましくは0.5重量%〜5重量%、より好ましくは1重量%〜3重量%である。
【0029】
加熱処理は、通常60〜130℃、好ましくは70〜120℃、より好ましくは80〜100℃の範囲内で行われる。温度が高すぎると高沸点副生物が生成する場合がある。
【0030】
加熱時間は、加熱温度にもよるが、好ましくは0.5〜2時間、より好ましくは0.5〜1時間である。
【0031】
加熱処理は、通常常圧下で行われるが、減圧下で行ってもよい。
【0032】
加熱処理後、蒸留を行う。蒸留は、通常110〜200℃、好ましくは110〜150℃、より好ましくは110〜130℃の間で行われ、また、通常10〜50Torr、より好ましくは10〜30Torrの減圧下で行われる。
【0033】
このようにして得られた3−メチルチオプロパナールにおいては、チオール類の含有量は、当該プロパナールに対して、好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、かつ硫化水素の含有量は、当該プロパナールに対して、好ましくは60ppm以下となるのである。
【0034】
なお、チオール類とはメルカプト基を有する化合物のことであり、3−メチルチオプロパナール中に残存し得るチオール類としては、上記のように3−メルカプトプロパナールや、3−メルカプトプロパナールのアルドール付加体等が考えられる。また、3−メチルチオプロパナール中のチオール類の含有量とは、3−メチルチオプロパナール中のメルカプト基を有する化合物全ての合計の含有量のことである。
【0035】
このようにして得られた3−メチルチオプロパナールを原料として、上記工程(1)〜(3)によりメチオニンが製造される。
工程(1) シアノヒドリン化工程
この工程では、塩基の存在下、3−メチルチオプロパナールを青酸と反応させて2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを得る。
【0036】
反応は水中で行われることが好ましく、これにより青酸の安定性や操作性を向上させることができる。このためには、水を3−メチルチオプロパナール、青酸および塩基とは別に供給してもよいし、3−メチルチオプロパナールを水溶液の形態で使用しても、塩基を水溶液の形態で使用しても、青酸を水溶液の形態で使用してもよい。水の使用量は、3−メチルチオプロパナール100重量部に対して、通常5〜100重量部、好ましくは30〜80重量部の範囲である。
【0037】
反応温度は、通常5〜40℃、好ましくは10〜30℃の範囲であり、反応時間は、通常0.5〜3時間の範囲である。
【0038】
3−メチルチオプロパナール、青酸、塩基および水の供給方法としては、例えば、3−メチルチオプロパナールおよび塩基を混合した中に、青酸および水を供給してもよいし、3−メチルチオプロパナールの中に、青酸、塩基および水を併注してもよいし、4者を併注してもよい。4者を併注しながら、反応液を抜き出すことにより、反応を連続的に行うことができる。
【0039】
反応終了後、得られた2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを含む反応混合物を、そのまま、あるいは必要に応じて、分液、濃縮、蒸留等の後処理操作や精製操作を行った後、次の工程(2)に供する。
工程(2) ヒダントイン化工程
この工程では、工程(1)で得られた2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを炭酸アンモニウムと反応させて5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを得る。
【0040】
ヒダントイン工程では、炭酸アンモニウムをそのまま用いてもよく、炭酸アンモニウムの水溶液として用いてもよい。また、反応系内または溶媒中で、炭酸ガスおよびアンモニアから炭酸アンモニウムを調製してこれを用いてもよく、重炭酸アンモニウムおよび水酸化カリウムから炭酸アンモニウムを調製してこれを用いてもよい。炭酸アンモニウムの使用量は、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル1モルに対して、1モル以上すなわち過剰量であればよいが、好ましくは1〜4モルである。
【0041】
反応は通常水中で行われる。ここで、水を2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルおよび炭酸アンモニウムとは別に供給してもよいし、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを水溶液の形態で使用しても、炭酸アンモニウムを水溶液の形態で使用してもよい。水の使用量は、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル100重量部に対して、通常200〜600重量部、好ましくは300〜500重量部の範囲である。
【0042】
反応温度は、通常60〜80℃、好ましくは65〜75℃の範囲であり、反応時間は、通常2〜4時間の範囲である。
【0043】
2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル、炭酸アンモニウムおよび水の供給方法としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル水溶液中に炭酸アンモニウムを供給してもよいし、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル中に、炭酸アンモニウム水溶液を供給してもよいし、3者を併注してもよい。3者を併注しながら、反応液を抜き出すことにより、反応を連続的に行うことができる。
【0044】
反応終了後、得られた5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを含む反応混合物を、そのまま、あるいは必要に応じて、分液、濃縮、蒸留等の後処理操作や精製操作を行った後、次の工程(3)に供する。
工程(3) 加水分解工程
この工程では、工程(2)で得られた5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを塩基性カリウム化合物の存在下で加水分解してメチオニンを得る。
【0045】
塩基性カリウム化合物としては、例えば、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。塩基性カリウム化合物の使用量は、5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン1当量に対して、カリウムとして、通常2〜10当量、好ましくは3〜6当量である。
【0046】
反応は水中で行われ、水の使用量は、5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインに対して、通常2〜20重量倍である。
【0047】
反応は、ゲージ圧力で0.5〜1MPa程度の加圧下に、150〜200℃程度に加熱して行うのがよい。反応時間は通常10分〜24時間である。
【0048】
こうして得られる加水分解反応液では、メチオニンはカリウム塩として存在する。このメチオニンを取り出すため、該反応液に二酸化炭素を導入して晶析を行い、得られたスラリーを、濾過やデカンテーションなどで析出物と母液とに分離することにより、析出したメチオニンを一番晶として取得する〔第一晶析工程〕。
【0049】
二酸化炭素の導入により反応液に二酸化炭素が吸収され、メチオニンのカリウム塩が遊離のメチオニンとなって析出する。
【0050】
二酸化炭素の導入は、ゲージ圧力で通常0.1〜1MPa、好ましくは0.2〜0.5MPaの加圧下で行うのがよい。
【0051】
晶析温度は、通常0〜50℃、好ましくは10〜30℃である。また、晶析時間は、二酸化炭素が加水分解反応液に飽和して、メチオニンが十分に析出するまでの時間を目安にすればよいが、通常30分〜24時間である。
【0052】
分離されたメチオニンは、必要に応じて、洗浄やpH調整などを行った後、乾燥することにより製品とすればよい。この乾燥は、微減圧下に、50〜120℃程度に加熱して行うのがよく、乾燥時間は通常10分〜24時間である。
【0053】
メチオニン分離後の母液(以下、この母液を「一番晶母液」という)には、溶解度分のメチオニンが残存しており、また上記塩基性カリウム化合物としてリサイクル可能な炭酸水素カリウムが含まれている。このため、一番晶母液は、工程(3)の加水分解工程にリサイクルするのが望ましいが、一方で、原料中の不純物や加水分解時の副反応に起因する不純物、例えば、グリシン、アラニンの如きメチオニン以外のアミノ酸や、着色成分なども含まれているので、リサイクルにより、これら不純物が加水分解反応に持ち込まれることになる。そこで、一番晶母液のリサイクルは、全量ではなく、不純物が蓄積しない範囲で行う必要があり、その割合は、一番晶母液の全量に対し通常50〜90重量%、好ましくは70〜90重量%である。
【0054】
一番晶母液のリサイクルは、該母液を濃縮し、この濃縮液をリサイクル液として行うのが望ましい。この濃縮により、一番晶母液から二酸化炭素を留去することができ、塩基性が高められた加水分解反応に有利なリサイクル液を得ることができる。また、この濃縮を100〜140℃の高温で行うことにより、一番晶母液中の炭酸水素カリウムが炭酸カリウムに変換される反応(2KHCO→KCO+HO+CO)が促進され、さらに塩基性が高められた加水分解反応に有利なリサイクル液を得ることができる。この濃縮は、常圧下、減圧下又は加圧下に行うことができるが、上記の如く高温で行うためには、加圧条件を採用するのが有効である。濃縮率は、通常1.2〜4倍、好ましくは1.5〜3.5倍であり、ここで、濃縮率とは、濃縮後の液重量に対する濃縮前の液重量の割合(濃縮前の液重量/濃縮後の液重量)を意味し、以下も同様である。
【0055】
リサイクルされなかった分の一番晶母液(濃縮された母液)は、そこからメチオニンと炭酸水素カリウムを二番晶として回収すべく、晶析に付される。この晶析を、濃縮された一番晶母液を低級アルコールと混合し、該混合液に二酸化炭素を導入することにより行い、得られたスラリーを濾過やデカンテーションなどで析出物と母液とに分離することにより、析出したメチオニンと炭酸水素カリウムを二番晶として回収する〔第二晶析工程〕。なお、濃縮された一番晶母液をリサイクルすることなく、その全量をこの晶析に付すこともできる。
【0056】
低級アルコールとしては、通常、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアルコールが用いられるが、中でも、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールの如き、水と任意の割合で混和しうるものが好ましく、特にイソプロピルアルコールが好ましい。低級アルコールの使用量は、晶析に付される一番晶母液に対し、通常0.05〜5重量倍、好ましくは0.1〜2重量倍である。なお、一番晶母液と低級アルコールとの混合は、二酸化炭素の導入の前に行ってもよいし、二酸化炭素の導入と同時に行ってもよい。
【0057】
第二晶析に付される一番晶母液は、リサイクルされる一番晶母液と同様、濃縮する。この濃縮により、二番晶の回収率を高めることができる。この濃縮は、リサイクルされる一番晶母液の濃縮と同様の条件で行うことができ、一番晶母液の全量を濃縮した後、リサイクル用と第二晶析用に分けてもよい。
【0058】
一番晶母液の濃縮では、母液中の塩基性が上昇して、第一晶析工程で変換された遊離のメチオニンがメチオニンのカリウム塩に戻ってしまう。よって、第二晶析工程でも、濃縮後の一番晶母液と低級アルコールの混合液に二酸化炭素を導入することにより、メチオニンのカリウム塩を再び遊離のメチオニンに変換する。
【0059】
また、濃縮後に加熱処理することが好ましく、その中に含まれるメチオニンジペプチド(メチオニン2分子の脱水縮合物)の加水分解によりメチオニンの再生が促進される。この加熱処理は、ゲージ圧力で0.5〜2MPa程度の加圧下に、140〜180℃程度の温度で行うのがよく、熱処理時間は通常10分〜24時間である。
【0060】
二酸化炭素の導入は、第一晶析工程と同様、ゲージ圧力で通常0.1〜1MPa、好ましくは0.2〜0.5MPaの加圧下で行うのがよい。
【0061】
晶析温度は、通常0〜50℃、好ましくは5〜20℃である。また、晶析時間は、二酸化炭素が上記混合液に飽和して、メチオニンと炭酸水素カリウムが十分に析出するまでの時間を目安にすればよいが、通常10分〜24時間である。
【0062】
回収された二番晶(メチオニンと炭酸水素カリウムの混合物)は、工程(3)の加水分解工程にリサイクルするのがよく、その際、リサイクル用の一番晶母液に溶解してリサイクルすると、操作性の点で好ましい。
【実施例】
【0063】
次に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中、濃度ないし使用量を表す%及び部は、特記ない限り重量基準である。
実施例1
純度92%のアクロレインを100重量部仕込んだ後、硫化水素4000ppmを含むメチルメルカプタンを78.9重量部、触媒としての酢酸/トリアリルアミン=1/0.55(モル比)の混合物を0.56重量部の割合で供給し、温度0〜30℃、反応時間60分でセミ連続式反応を行い、30℃で60分保持した。得られた反応混合物中の硫化水素およびチオール類の含有量を分析した結果、硫化水素は検出不能、メチルメルカプタンは検出不能、3−メルカプトプロパナールは7800ppmであった。該反応混合物に対し2重量%の水を添加した後、90℃で1時間加熱処理した。その後、温度を50℃まで下げバッチ式で蒸留した。蒸留は、温度を50℃から130℃まで徐々に上げ、そして圧力を760Torrの常圧状態から20Torrの減圧状態まで下げて行った。終了まで4時間を要した。98%留出時の3−メチルチオプロパナール中の硫化水素の含有量は2ppm、3−メルカプトプロパナールの含有量は2ppmであった。
【0064】
該蒸留液に29重量%青酸水溶液を1時間あたり72.9重量部、49重量%炭酸カリウム水溶液を1時間あたり1.08重量部供給しながら、15℃で1時間反応させた。次いで、該反応液に炭酸アンモニウム水溶液(CO:12.3重量%、NH:9.5重量%)を178重量部供給し、70℃で1時間反応させ、5−[2−(メチルチオ)エチル]イミダゾリジン−2,4−ジオン反応液を得た。この反応液に、炭酸カリウムおよび重炭酸カリウムを含む水溶液(K:14.6%、CO:10.2%)750gを添加して、加水分解用原料液を調製した。
【0065】
該加水分解用原料液を、1Lジルコニウム製のオートクレーブに仕込み、DP−3の試験片を液相、気相に設置した状態で、120℃、12時間保温した。保温後、試験片を取り出し、外観観察及び重量変化により腐食状況を確認した結果、試験片の腐食は確認されなかった。
比較例1
実施例1と同様に調製した3−メチルチオプロパナールを含む反応混合物に、反応混合物に対して2重量%の水を添加した後、バッチ式で蒸留した。蒸留は、温度を30℃から130℃まで徐々に上げ、そして圧力を760Torrの常圧状態から20Torrの減圧状態まで下げて行った。終了まで4時間を要した。98%留出時の3−メチルチオプロパナール中の硫化水素の含有量は2ppm、3−メルカプトプロパナールの含有量は512ppmであった。
【0066】
該蒸留液に対して、実施例1と同様に反応させ、5−[2−(メチルチオ)エチル]イミダゾリジン−2,4−ジオン反応液を得、次いで、実施例1と同様にして水分解用原料液を調製した。
【0067】
該加水分解用原料液を、1Lジルコニウム製のオートクレーブに仕込み、DP−3の試験片を液相、気相に設置した状態で、120℃、12時間保温した。保温後、試験片を取り出し、外観観察及び重量変化により腐食状況を確認した結果、試験片の腐食は全面腐食であった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、3−メチルチオプロパナール中のチオール類や硫化水素の含有量を所定量以下に低減できるので、後のヒダントインの加水分解工程における配管や反応槽の腐食を良好に抑制してメチオニンを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクロレインとメチルメルカプタンを酸性化合物および塩基性化合物の共存下で反応させて、3−メチルチオプロパナールを含む反応混合物を得、当該反応混合物に水を添加して60〜130℃の範囲内で加熱処理を行い、次いで蒸留を行うことを特徴とする3−メチルチオプロパナールの製造方法。
【請求項2】
水の添加量が、反応混合物に対して0.5重量%〜5重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加熱処理が、0.5〜2時間行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
塩基性化合物の使用量が、酸性化合物1モルに対して0.01〜1.0モルである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
メチルメルカプタン中の硫化水素の含有量が1ppm〜10000ppmである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
メチルメルカプタンの使用量が、アクロレイン1モルに対して0.95〜0.99モルである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2011−93839(P2011−93839A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249435(P2009−249435)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】