説明

3次元フォトニック結晶およびそれを用いた光学素子

【課題】 複数の設計波長で動作する3次元フォトニック結晶において、格子周期を変化させることなくフォトニックバンドギャップ波長帯域を所望の波長に制御することができる3次元フォトニック結晶、もしくはその内部に点欠陥共振器構造や線欠陥導波路構造を備えた光学素子を提供する。
【解決手段】 複数波長でフォトニックバンドギャップとして動作する3次元フォトニック結晶において、格子周期を変化させることなく、柱状構造間に具備した付加層に含まれる離散構造の形状および屈折率を制御することによってフォトニックバンドギャップ中心波長や波長帯域を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計波長よりも微小な周期を持つ3次元フォトニック結晶に関するものである。また、3次元フォトニック結晶内部に屈折率周期構造の欠陥を具備し、所望の波長で動作する点欠陥共振器や線欠陥導波路を有するフォトニック結晶および光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、波長以下の大きさの構造物によって電磁波の透過・反射特性などを制御するという概念は、Yablonovitchによって提唱されている(非特許文献1)。この非特許文献1によると、波長以下の構造を周期的に配列することによって電磁波の透過・反射特性などを制御可能で、電磁波の波長を光の波長オーダーにまで小さくすることによって、光の透過・反射特性を制御することができる。このような構造物はフォトニック結晶として知られており、ある波長域において、光損失が無損失の100%の反射率を有する反射ミラーを実現できることが示唆されている。このように、ある波長域で反射率をほぼ100%にすることができる概念は、従来の半導体が持つエネルギーギャップとの比較から、フォトニックバンドギャップと言われている。また、構造を3次元的な微細周期構造にすることによって、あらゆる方向から入射した光に対してフォトニックバンドギャップを実現することができ、以下、これを完全フォトニックバンドギャップと呼ぶことにする。完全フォトニックバンドギャップが実現できると、自然放出の抑制など様々な応用が可能となり、従来にない新しい機能素子の実現が可能となる。また、より広い波長域で完全フォトニックバンドギャップが実現できる構造の機能素子が求められている。
【0003】
このようなフォトニックバンドギャップを呈する構造体がこれまでにも幾つか提案されている(特許文献2、3)。完全フォトニックバンドギャップを実現可能な3次元周期構造としては図14(a)〜(e)に示すようないくつかの構造が挙げられ、それぞれ順に、ダイヤモンドオパール構造、ウッドパイル構造、らせん構造、独自な3次元周期構造、前記3次元周期構造の反転構造(インバース構造)等がある。
【0004】
また、フォトニックバンドギャップを持つ微細周期構造内にそれが持つ周期構造とは異なる周期を持つ周期欠陥部を設けることで、所望の波長の光で共振器や導波路として動作させることができる。欠陥を点で構成した場合には点欠陥共振器として、線で構成した場合には線欠陥導波路として知られている。例えば、フォトニックバンドギャップを利用した点欠陥共振器の特徴を挙げると、空間的に微小な領域に光を閉じ込め、発光パターンを精密に制御することが可能で、任意波長の光を高効率で発光可能な素子が実現できる。周期構造内部に点欠陥を導入し、欠陥部を発光材料で構成し任意の励起手段によって発光させることでレーザ発振が可能である(特許文献1)。
【特許文献1】米国特許5,784,400号公報
【非特許文献1】Physical Review Letters,Vol.58,pp.2059,1987年
【非特許文献2】Nature,Vol.407,p608,2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フォトニックバンドギャップ波長帯域の制御は、周期構造における格子周期を変化させることで実現できる。例えば、格子周期を大きくとるとフォトニックバンドギャップ波長帯域は長波長側へ、格子周期を小さくとると短波長側へシフトする。
【0006】
従来例としては、2次元フォトニック結晶を用いた光分合波回路(アドドロップ光回路)における格子周期変調による動作波長制御が挙げられる(非特許文献2)。光分合波回路とは、複数の波長が伝搬している媒質中に新たな波長を加える(アド)機能および、ある一つの波長のみを媒質中より取り出す(ドロップ)機能を持つ光入出力回路であり、フォトニック結晶による小型化が期待されている。非特許文献2では格子周期を変調させることで導波路および共振器の動作波長を所望の波長にチューニングすることにより、複数波長でほぼ等しいドロップ効率が得られることが報告されている。格子周期が異なる2次元フォトニック結晶を配列した上記構造は面内へテロ構造と呼ばれており、フォトニック結晶を用いた光ナノデバイスを実現する上でフォトニックバンドギャップ波長帯域の制御が重要であることを示す好適な例である。
【0007】
ところが、このような格子周期を変調した構造を3次元フォトニック結晶に対してもそのまま適用することはできない。3次元フォトニック結晶においても、格子周期を制御することでフォトニックバンドギャップ波長帯域を制御することは可能であるが、図34に示すように格子周期が変化する境界面において構造の不整合が起こることが懸念される。特に3次元構造においては、x軸、y軸、z軸方向全てに対して格子周期に不整合が生じるため作製することが困難である。例えば、ウッドパイル構造など、層構造を1層1層積層していくタイプのレイヤーバイレイヤー構造においては、積層方向に対して格子周期が異なってしまうため、従来の電子ビームリソグラフィによる構造パターニングと積層を繰り返し行う手法やウエハ融着法、ナノインプリント法などによる手段をそのまま用いることは難しい。
【0008】
以上のような背景から、特に、複数の設計波長で動作する3次元フォトニック結晶において、格子周期を変化させずにフォトニックバンドギャップ波長帯域を所望の波長に制御することができる3次元フォトニック結晶が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、3次元フォトニック結晶においてフォトニックバンドギャップ波長帯域を制御するために、格子周期を変化させることなく互いに直交する柱状構造(以下、ロッドという)の間を接続する付加層に含まれる離散構造の形状もしくは屈折率の少なくとも一方を変化させる手段をとる。この手段によって、特に、複数の設計波長で動作する3次元フォトニック結晶において、フォトニックバンドギャップ波長帯域を所望の設計波長に制御することと実現可能な作製手法とを兼ね備える3次元フォトニック結晶を実現することができる。この手段は、3次元フォトニック結晶内に欠陥構造を有する場合にも動作波長を所望の設計波長に制御可能である。
【発明の効果】
【0010】
複数波長でフォトニックバンドギャップとして動作する3次元フォトニック結晶において、格子周期を変化させることなく、柱状構造間に具備した付加層に含まれる離散構造の形状もしくは屈折率の少なくとも一方を制御することによってフォトニックバンドギャップ中心波長や波長帯域を制御することができる。このことにより、同一構造内に複数の波長で動作する3次元フォトニック結晶をモノリシックに構成することができる。それに加え、既存の作製技術を用いて一括して作製可能であるためアライメントが容易でかつ高い生産性を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
本発明にかかる3次元フォトニック結晶Aの概略図を図1に、側面から見た図を図2、上面から見た図を図3に示す。これらの図については、周期構造の一部のみを表現したものであり、実際にはx軸、y軸、z軸方向に繰り返される周期構造をとっている。今後示す概略図についても同様である。
【0013】
3次元フォトニック結晶Aは、互いに交する4つのロッド(図1における101a,101b,101c,101d)と、ロッドとロッドとの間にxz平面での断面形状が正方形である離散構造102を備えている。3次元フォトニック結晶Aの構成を、格子周期:aとしてロッド幅、ロッド厚さ、離散構造厚、離散構造幅を格子周期に対する割合として表現すると、ロッド幅:0.25355a、ロッド厚さ:0.25355a、離散構造厚:0.10a、離散構造幅:0.50aとなる。なお、離散構造幅は図1のように定義する。このときのフォトニックバンドギャップを平面波展開法により計算すると、図4に示すようなフォトニックバンド構造が得られる。横軸は波数ベクトルすなわちフォトニック結晶に入射する電磁波の入射方向を表しており、例えばK点はx軸(もしくはy軸)に平行な波数ベクトル、X点はxy平面内において、x軸(もしくはy軸)に対して45°の傾きを持った波数ベクトルを表している。一方、縦軸は格子周期で規格化した周波数(規格化周波数)を示している。ハッチングで示した規格化周波数帯域においては、光の入射方向によらず光が存在できないフォトニックバンドギャップ(PBG)が形成されている。
【0014】
上記のようなフォトニック結晶において、本実施例ではロッド幅、ロッド厚さ、格子周期、離散構造厚、離散構造の屈折率を変化させることなく、離散構造幅(図1)のみを変化させる。これにより、単位周期構造内における3次元構造を構成する誘電体媒質の充填率が変化するため、3次元フォトニック結晶全体の有効屈折率が変化し、フォトニックバンドギャップ波長帯域が変化する。つまり、離散構造幅を変えることでフォトニックバンドギャップ波長帯域を制御することが可能である。このことを図5に示したフォトニックバンド図を用いて説明する。3次元フォトニック結晶A1によるバンド構造を実線で、3次元フォトニック結晶A2によるバンド構造を点線で示し、それぞれの構造によって得られるフォトニックバンドギャップをそれぞれPBG1、PBG2とした。フォトニック結晶A1とフォトニック結晶A2では離散構造幅のみ異なっており、離散構造のxy平面での断面積を図1におけるx軸方向に対する離散構造幅とy軸方向に対する離散構造幅の積とすると、フォトニック結晶A2の離散構造のxy平面での断面積はフォトニック結晶A1の離散構造のxy平面での断面積と比べて小さい。離散構造のxy平面での断面積が小さくなると、3次元フォトニック結晶における有効屈折率が小さくなり、フォトニックバンドギャップとして動作する周波数が高周波数側にシフトすることがわかる。つまり、離散構造幅のみでフォトニックバンドギャップ波長帯域を制御することができる。
【0015】
また、上記のような構造について、離散構造部分の大きさや形状を変えて平面内の複数領域に配置することもできる(図12)。これによれば、格子周期を変えずにフォトニックバンドギャップ波長帯域を制御することが可能であり、しかも一括したプロセスで作製可能となる。
【0016】
ここでは、典型例として離散構造を含む層が1層の場合についてのみ説明したが、離散構造を含む層は1層でも2層でも3層でもよい(図7)。もちろん4層以上でもよいが作製プロセスが複雑化するので目的によって選択すればよい。また、離散構造のxy平面での断面形状は正方形に限らず、図6に示すように長方形、円、楕円、三角形、多角形など、あらゆる形状を取ることができる。さらに、柱状構造を含む第1の層と第2の層とを積層する際に介する付加層に含まれる離散構造を含む層が図7(d)のような配置を取っていても同様な効果が得られる。この場合においても離散構造を含む層が1層、2層、3層あるいはそれ以上であってもよい。以下に離散構造を含む層が2層、3層であるときの数値実施例をより具体的に説明する。
【0017】
3次元フォトニック結晶Bの概略図を図8に示す。3次元フォトニック結晶Bは2層の付加層を備えた構造であって、ロッドおよび離散構造の屈折率:2.5、格子周期:250nm、ロッド幅:62.5nm、ロッド厚さ:75nmとした。ここで、第1の離散構造のx軸方向の幅を離散構造幅1x、y軸方向の幅を離散構造幅1y、以下第2の離散構造の幅についても同様に離散構造幅2x、離散構造幅2yと記載する。また、3次元フォトニック結晶Bは、離散構造幅1x=離散構造幅2y、かつ、離散構造幅1y=離散構造幅2xの関係を満たしている。図8のグラフの横軸は離散構造幅2y、縦軸はフォトニックバンドギャップ(PBG)中心波長であり、離散構造幅1yをそれぞれ75nm、125nm、175nmとしたときのグラフが示されている。PBG中心波長の変化を見ると、離散構造幅が大きくなるにつれて中心波長が長波長シフトしていることがわかる。離散構造幅を変化させることは、単位体積中に占める誘電体媒質の充填率(体積)を変化させることを意味する。充填率を大きくすることによって3次元フォトニック結晶が持つ実効的な屈折率が大きくなるため、フォトニックバンドギャップ中心波長を長波長シフトすることができ、離散構造幅を適当に設計することにより、所望の中心波長を選ぶことができる。もちろん、第1の離散構造あるいは第2の離散構造はそれぞれが属する平面内において離散的に配置されていればよく、その限りにおいて様々な大きさを選ぶことができる。
【0018】
また、離散構造を含む層を3層以上設けてもよい。具体的な一例として3層の離散構造を含む層を有する3次元フォトニック結晶Cの概略図を図9に示す。ロッドおよび離散構造の屈折率:2.5、格子周期:aとし、それぞれのパラメータを格子周期aに対する割合で表現すると、ロッド幅:0.174a、ロッド厚さ:0.174a、離散構造幅1x:0.187a、離散構造幅1y:0.400a、第1の離散構造厚:0.040a、離散構造幅2x=離散構造幅2y:0.200a、第2の離散構造厚:0.040a、離散構造幅3x:0.400a、離散構造幅3y:0.187a、第3の離散構造厚:0.040aとする。第1の離散構造および第3の離散構造においては、xy平面での断面形状が長方形であり、第2の離散構造においては、xy平面での断面形状が正方形である(図10)。
【0019】
また、3次元フォトニック結晶Cは以下の関係式を満たす。
(離散構造幅1x)=(離散構造幅3y)=[(格子周期)−(離散構造幅2x)]/2
(離散構造幅1y)=(離散構造幅3x)=(離散構造幅2x+ロッド幅)/2
(第1の離散構造厚)=(第2の離散構造厚)=(第3の離散構造厚)
(ロッド厚さ)=√2a/4−[(第1の離散構造厚)+(第2の離散構造厚)+(第3の離散構造厚)]
【0020】
ここで、格子周期:a=720nmとしたとき、横軸に離散構造幅2x、縦軸にフォトニックバンドギャップ中心波長をとったときのグラフを図11に示す。離散構造部分の構造を変化させることによって、フォトニックバンドギャップ中心波長をおよそ1400nmから1670nmまでチューニングすることが可能である。離散構造幅2xを大きくするに従って、単位体積中に占める誘電体媒質の充填率が高くなり、その結果、3次元周期構造が持つ実効的な屈折率(有効屈折率)が大きくなり動作波長が長波長シフトする。フォトニックバンドギャップ波長帯域は、単位体積におけるロッドおよび付加層に含まれる離散構造を構成する媒質内部に集中する電場強度の割合とそれ以外の媒質に集中する電場強度の割合の差によって決まり、この差が大きいほどフォトニックバンドギャップ波長帯域が広くなる。離散構造を含む層を3層にすることにより、特に斜め方向(例えば、図4におけるL方向など)に対して、それぞれの媒質中に電場強度が集中する割合の差が大きくなり、その結果、フォトニックバンドギャップ波長帯域がより広帯域化し、このことによって光の入射角度特性の改善が期待できる。
【0021】
本実施例では、離散構造幅2xをパラメータとして波長帯域を制御したがこれだけに制限するものではなく、離散構造幅1x、離散構造幅3xなど、他のパラメータを用いても波長帯域の制御が可能である。
【0022】
以上の効果を得るために、3次元フォトニック結晶A、B、Cにおいてはロッド101として角柱を用いたが、円柱、楕円柱、多角形柱でもよい。また離散構造102として直方体を用いたが、図6に示すようなxy平面での断面形状の長方形、円、楕円、三角形、多角形など、あらゆる形状を取ることができる。
【0023】
さらに、それぞれのロッド101を配置する方向をx軸、y軸として垂直な方向に設定したが、各軸のなす角度を90度以外の角度に設定してもよく、またx軸に平行なロッドの間隔とy軸に平行なロッドの間隔を異なる値に設定しても良い。このような構成は特に所定の角度の入射光に対して所望の性能を得たい場合や、構造に異方性を導入したい場合などは有用である。またロッド101および離散構造102を同じ媒質で構成したが、異なる媒質で構成しても良い。
【0024】
また、本実施例における各ロッドは格子周期がaとなるように所定の間隔を空けて配置され、ロッド101aとロッド101cはx軸方向に0.5a(aは格子周期)だけずらして積層され、同様にロッド101bとロッド101dはy軸方向に0.5aだけずらして積層されている。このように各ロッドを半分だけずらして積層することにより、異なる層に含まれるロッドに挟まれる直方体がダイヤモンド型格子の格子位置に対応する位置に配置され、広いフォトニックバンドギャップが得られるため好ましい。ここで、各ロッドをずらす量は0.25a以上0.75a以下の範囲でもよく、望ましくは0.3a以上0.7a以下の範囲、より望ましくは、0.4a以上0.6a以下の範囲とするのがよい。しかしこの構成に限られず、例えばロッド101aとロッド101cもしくはロッド101bとロッド101dが重なるように積層されていても本発明の効果を得ることができる。
【0025】
これらの構造を形成する媒質としては従来の構造と同様に、高い屈折率比を有する2種類以上の媒質を用いる。ロッド101および離散構造102を構成する媒質はSi、GaAs、InP、Ge、TiO2、GaN、Ta2O5、Nb2O5など、高屈折率材料が好ましい。さらに使用波長帯域で吸収を持たず透明な材料であることがより好ましい。ロッド101および離散構造102を構成する媒質以外の媒質はSiO2などの誘電体、PMMAなどの高分子有機材料、空気、水などの低屈折率材料を用いる。フォトニック結晶の持つフォトニックバンドギャップは結晶内の屈折率分布に起因して得られるものであるため、相互の屈折率比が大きい媒質同士を組み合わせるほど、より広いフォトニックバンドギャップを得ることができる。有効な広さを持つフォトニックバンドギャップを得るためには屈折率比が2以上であることが望ましい。また、3次元フォトニック結晶の作製プロセスに鑑みると、ロッド101および離散構造102を構成する媒質以外の媒質について固体媒質を用いることが望ましい。固体媒質を用いることで、作製プロセス中にロッド101および離散構造102のマスクパターニング、エッチング、研磨、ウエハ融着などの工程を行う際に、3次元構造の強度を高め、所望の形状を作製することが容易となるためである。
【0026】
本実施例にかかる3次元フォトニック結晶A、B、Cでは、離散構造を含む層の数に関わらずxz平面内の格子周期とxy平面内の格子周期とを一定に保ちながら、フォトニックバンドギャップ中心波長を制御することが可能である。このような構造をとることで、異なる波長で動作する微細周期構造を同一構造内に作りこむことが可能となり、モノリシックな光学素子を実現することができる(図12)。また、従来技術である格子周期を変化させることでフォトニックバンドギャップを制御する方法と比較すると、本発明にかかる構造では格子周期が一定であるため、従来の作製手法(電子ビームリソグラフィによる構造パターニングと積層を繰り返し行う手法やウエハ融着法、ナノインプリント法など)を用いることができる。加えて、複数の設計波長で動作する構造を一括で作製できるため素子と素子とのアライメントが容易で生産性もよく作製できる。
【実施例2】
【0027】
本発明にかかる3次元フォトニック結晶Dの概略図を図13に示す。3次元フォトニック結晶Dでは、離散構造(202a、202b)を構成する媒質の屈折率がロッド(201a、201b、201c、201d)を構成する媒質の屈折率とは異なる屈折率を有している。
【0028】
ここで、3次元フォトニック結晶Dを構成するロッドや離散構造の形状、大きさは変えずに、離散構造を構成する媒質の屈折率のみ変化させたときのフォトニックバンドギャップ中心波長の変化について図14に示す。横軸に離散構造を構成する媒質の屈折率、縦軸に(ロッドの屈折率)=(離散構造の屈折率)とした時のフォトニックバンドギャップ中心波長λにて規格化した時のフォトニックバンドギャップ中心波長をとった。それぞれの構造パラメータを格子周期aの割合で表すと、ロッド幅:0.31a、ロッド厚さ:0.173553a、離散構造厚1:0.09a、離散構造幅1x:0.37a、離散構造幅1y:0.66aである。ただし、(離散構造厚1)=(離散構造厚2)、(離散構造幅1x)=(離散構造幅2y)、(離散構造幅1y)=(離散構造幅2x)とした。
【0029】
図14からわかるように、離散構造を構成する媒質の屈折率を変化させることにより、3次元フォトニック結晶が有する有効屈折率が変化し、その結果、離散構造を構成する媒質の屈折率のみをパラメータとしてフォトニックバンドギャップ中心波長を制御することが可能である。
【0030】
また、フォトニックバンドギャップ中心波長を制御するパラメータとして、離散構造を構成する媒質の屈折率と離散構造の形状(大きさ)とを組み合わせてもよい。図15は、離散構造の屈折率と形状とを変数とした時のフォトニックバンドギャップ中心波長の変化を表したものである。縦軸をPBG中心波長とし、横軸は離散構造幅1xである。ロッドを構成する材料の屈折率を2.33、離散構造を構成する媒質の屈折率をそれぞれ2.0(3次元フォトニック結晶E)、3.0(3次元フォトニック結晶F)としている。また、エラーバーで表示した範囲はフォトニックバンドギャップ波長帯域を表している。格子周期:a=680nm、ロッド幅:0.31a、ロッド厚さ:0.173553a、離散構造厚1:0.10a、離散構造幅1y:0.66aとし、(離散構造厚1)=(離散構造厚2)、(離散構造幅1x)=(離散構造幅2y)、(離散構造幅1y)=(離散構造幅2x)の関係を満たしている。
【0031】
図15からわかるように、離散構造の大きさと屈折率とをパラメータとして組み合わせることによって、より広い波長帯域においてフォトニックバンドギャップ中心波長を制御することができる。この場合、赤外領域である1330nmから1550nmまでの波長帯域においてフォトニックバンドギャップ中心波長を制御することが可能である。離散構造を構成する媒質の屈折率が大きく、かつ、xy面内での断面積を大きくすることによって、3次元フォトニック結晶が有する有効屈折率が高くなり、動作中心波長が長波長シフトするためである。
【0032】
また、実施例1と同様に離散構造の異なる領域を2以上設けてもよい。一例として、3次元フォトニック結晶G、H、Iを挙げる。以下の表1に3次元フォトニック結晶G、H、Iの詳細を記す。ここで、(離散構造厚1)=(離散構造厚2)、(離散構造幅1x)=(離散構造幅2y)、(離散構造幅1y)=(離散構造幅2x)、の関係を満たしている。
【0033】
【表1】

【0034】
図16は3次元フォトニック結晶G、H、Iにおけるフォトニックバンドギャップ中心波長およびフォトニックバンドギャップ波長帯域である。縦軸をPBG中心波長とし、横軸は離散構造幅1xである。また、エラーバーで表示した範囲はフォトニックバンドギャップ波長帯域を表している。3次元フォトニック結晶G、H、Iについて、離散構造幅1xの値をそれぞれ構造Gでは0.31a、構造Hでは0.45a、構造Iでは0.58aに制御することで、それぞれ450nm付近、530nm付近、630nm付近に、フォトニックバンドギャップ中心波長を制御することが可能である。
【0035】
ここで、複数の領域において離散構造の屈折率が異なる場合には、例えば、半導体プロセスを用いてそれぞれの領域ごとにマスクを施し、それぞれの離散構造部分に対して異なる屈折率をもつ媒質を積層していくことによって上記構造を実現することができる。
【0036】
本実施例では、典型例として離散構造を含む層の層数が2層の場合についてのみ説明したが、1層でも2層でも3層でもそれ以上でもよい。また、それぞれの付加層に含まれる離散構造屈折率および形状が異なっている場合にも本発明の効果が得られる。離散構造の形状および屈折率を同時に制御することで、3次元フォトニック結晶が有する有効屈折率をより大きく変化させることができるため、より幅広い波長帯域においてフォトニックバンドギャップ中心波長および波長帯域を制御することができる。
【0037】
同一構造を持つ3次元フォトニック結晶で、広い波長帯域において複数の波長で動作する共振器を実現することは、特に、RGBの光の三原色に対応する波長帯域では、高い屈折率と低い消衰係数をもつ材料の選択や広いフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶構造の選択などの点から実現が困難であったが、本発明によれば、格子周期を変えずにフォトニックバンドギャップ波長帯域を制御することが可能な3次元フォトニック結晶を一括したプロセスで作製することができる。
【実施例3】
【0038】
図17は離散構造の形状が異なる複数の領域からなる3次元フォトニック結晶内部に点欠陥302を導入した場合の概略図である。xz平面内の格子周期とxy平面内の格子周期とを一定に保ちながら、離散構造の形状を変化させることでフォトニックバンドギャップ中心波長を制御する。3次元フォトニック結晶の内部に点欠陥302を導入すると、点欠陥302に起因する共振モードが現れ、共振モードに対応する波長の光が点欠陥内に局在する。点欠陥302の構造は、例えば、周期構造の一部を欠損させ点欠陥302に空気を配置する構造、周期構造の一部の形状を変化させる構造(ある格子点における離散構造の形状を変化させるなど)、周期構造の一部に異なる屈折率を持つ材料を配置する構造など、様々な手段によって実現することができる。
【0039】
図18に離散構造を含む層を2層持つ3次元フォトニック結晶の一例を示す。ロッドおよび離散構造の屈折率:3.309、格子周期:aとして各構造パラメータを格子周期aの割合で表現すると、ロッド幅:0.25a、ロッド厚さ:0.30a、離散構造幅1x:0.400a、離散構造幅1y:0.600a、第1の離散構造厚:0.050a、離散構造幅2x:0.600a、離散構造幅2y:0.400a、第2の離散構造厚:0.050aである。このような構造内部にΔx=Δy=0.70a、Δz=0.30aである直方体の点欠陥302を図18のように配置した。上記例において点欠陥302のxy平面内の形状をΔx=Δyと正方形にしたが、ΔxとΔyが異なる長さを持っていてもよいし、xy平面内の形状が円形、楕円形、三角形、多角形など様々な形状をとることができる。
【0040】
以上のような構成における共振モードについて図19に示す。横軸は格子周期aで規格化した規格化周波数であり、規格化周波数0.40付近に大きなピークが現れ共振モードが存在することがわかる。また、離散構造の大きさを変化させることで3次元フォトニック結晶における材料の充填率を変化させ、フォトニックバンドギャップ波長帯域をシフトさせ共振波長を制御することができる。異なる離散構造を含む層を含む複数の領域内に、それぞれ上記点欠陥構造を配置することで、複数波長で動作する光共振器や狭帯域動作の光フィルタをモノリシックに構成できる。もちろん、ひとつの領域に複数個の点欠陥302を有した構造でもよい。
【0041】
また、図20は各領域において離散構造の屈折率が異なる3次元フォトニック結晶J内部に点欠陥302を設けた場合の概略図である。3次元フォトニック結晶Jが有する有効屈折率が領域ごとに異なるために、異なる共振波長にて動作する共振器構造を実現することができる。複数の異なる波長にて狭帯域スペクトルを得る光フィルターとしての応用も可能である。
【0042】
図21は離散構造の形状が異なる領域を複数個持つ3次元フォトニック結晶J内部に線欠陥301を導入した場合の概略図である。微細周期構造の中に線欠陥301を導入すると、線欠陥301に起因する導波モードが現れ、導波モードに対応する波長の光が線欠陥内を導波する。xz平面内の格子周期とxy平面内の格子周期とを一定に保ちながら、離散構造の形状を変化させることで、フォトニックバンドギャップ中心波長を制御する。線欠陥301は、例えば、ロッドの一部を取り去った構造、ロッドの幅を変化させた構造、ロッドの材料屈折率を変化させた構造、ロッドを付加した構造など、様々な手段で実現することができる。このような構造を複数個接続して配置することで、波長選択的な光導波路や光遅延回路を、格子周期を変えずにモノリシックに実現できる。
【0043】
図22は各領域において離散構造の屈折率が異なる3次元フォトニック結晶J内部に線欠陥301を設けた場合の概略図である。2以上の複数の領域において離散構造の屈折率を制御することにより、所望のフォトニックバンドギャップ領域と導波モードとの関係を満たすことで、界面反射を用いた波長選択導波路を実現できる。離散構造の異なる領域においてはPBG動作波長帯域が異なるため、領域1では存在できるが、領域2では存在できない波長の光λ1に対してはフォトニックバンドギャップによりほぼ100%の反射が起こる。このような構造を面内に複数配置することによって、複数波長で時間遅延を補償するための分散補償素子として応用することができる。
【0044】
また、点欠陥302と線欠陥301を組み合わせることで高い波長選択性と高効率を満たす光分合波回路(アドドロップ光回路)を実現できる(図23、図24)。
【0045】
図24は各領域において離散構造の屈折率が異なる3次元フォトニック結晶J内部に線欠陥301と点欠陥302を設けた場合の概略図である。光導波路と共振器とを組み合わせた構造であり、特に光通信帯域で利用する光分合波素子として有用である。それぞれの領域に配置した点欠陥構造で共振される波長をそれぞれλ1、λ2、λ3・・・λnとし、前記波長を含む入射光を線欠陥導波路に入射した様子をグラフに示した。線欠陥導波路として光を伝搬する波長帯域内にそれぞれの点欠陥での共振波長が存在しており、n個の波長において光合分波を実現できる。
【0046】
野田らの文献(非特許文献2)には2次元面内へテロ構造を用いた光分合波素子が提案されているが、この概念をそのまま3次元フォトニック結晶に当てはめることが困難であることは前述した。しかしながら、本発明にかかる3次元フォトニック結晶を用いることにより、共振器内への光閉じ込め効果を高めることができ、より厳密な共振器モード分布制御による偏光制御や放射分布制御などが可能となり、さらには共振器位置を3次元に配置できるため光取り出し方向に自由度が増える。その結果、従来よりも狭スペクトル帯域動作であってかつ光取り出し方向に自由度が高い高性能な光分合波素子を提供することができる。
【0047】
もちろん、離散構造の大きさと屈折率とを変数として組み合わせてフォトニックバンドギャップ動作中心波長を制御することもできる。例えば、異なる3領域において異なる離散構造を持つ3次元フォトニック結晶G、H、Iの内部に適当な点欠陥を設けることで、それぞれ異なる波長で動作する共振器構造を実現することが可能である。図25に示すように、3次元フォトニック結晶G、H、Iが有するフォトニックバンドギャップ内に共振波長を有するような点欠陥共振器構造を設けることによって、それぞれ、450nm付近、530nm付近、630nm付近に鋭いスペクトルピークを持つ共振器構造を実現することができる。
【実施例4】
【0048】
本実施例は、離散構造の形状もしくは屈折率の少なくとも一方が異なる領域を複数有する3次元フォトニック結晶の内部に発光材料を含む点欠陥を導入した発光素子に関する。上述したように、3次元フォトニック結晶の内部に点欠陥を導入すると、点欠陥に起因する共振モードが現れ、共振モードに対応する波長の光が点欠陥内に局在する。そこで共振モードに対応する波長を含む発光材料を点欠陥として導入することにより共振波長においてスペクトル幅の狭い強い発光を実現し、光の振る舞いを3次元的に制御した高効率な発光素子を実現することができる。発光材料としては、化合物半導体、無機発光材料、有機発光材料、高分子発光材料、量子ドット、ナノクリスタルなど様々な材料を利用することができる。励起方法としては、外部光源による光励起、電流注入による励起などがある。電流注入による励起の場合には、例えば、AlやCrなどの金属材料やITOなどの透明導電性材料を電極として狭持し発光させることが可能である。また、複数の共振器構造に対して、独立して動作する電極を作製することによって、それぞれの波長の光を独立に制御することも可能である。
【0049】
発光材料に無機発光材料を用いたときの一例を図26に示す。無機発光材料からなる発光層400の上下を絶縁体401で狭持し、さらにその両側に電極402を配置している。このような発光部を点欠陥共振器構造内部に設けることで、発光される光のうちで点欠陥共振器構造によって決まる波長の光を共振させて取り出すことができる。電極には透明材料を用いることが望ましいが、AlやAu、Crなどの金属を用いてもよい。また、無機発光材料の一例として、ZnS:Mn、ZnMgS:Mn、ZnS:Sm、ZnS:Tb、ZnS:Tm、CaS:Eu、SrS:Ce、SrS:Cu、SrGa2S4:Ce、BaAl2S4:Eu 等を用いることができる。また、絶縁膜の一例としてSiO2、SiN、Al2O3、Ta2O5、SrTiO3などが使用できる。
【0050】
また、発光材料には有機発光材料を用いてもよく、図27に示す有機発光材料による発光構造を用いることもできる。有機発光材料を含む発光層403を電子輸送層404とホール輸送層405で挟み、さらに電極406で挟み込んだ構造とすることで、発光材料によって決まる波長を含む光を発する発光構造としている。この構造以外にも、電子注入層やホール注入層を備えた構造など、様々な構造で実現することができる。透明電極にはITOなど、背面電極には、ITOのほかにも不透明であるAlやCrなどの金属を用いることも可能である。
【0051】
典型的な低分子有機発光材料としてAlq,Eu(DBM)3(Phen),BeBq,DPVBiなど、典型的なホール輸送性低分子材料としてTPD,α−NPD,TPT,Spiro−TPD、典型的な電子輸送性低分子材料としてPBD,TAZ,OXD,Bphen、典型的な高分子有機発光材料として、発光層にポリスチレンスルホン酸やカンファースルホン酸などの酸でドーピングしたポリチオフェンやポリアニリンなどを用いた導電性ポリマーを用いてもよい。以上に挙げた材料以外にも様々な材料を用いることができる。
【0052】
図26、27以外にも、化合物半導体材料、無機発光材料、有機発光材料、高分子発光材料、量子ドットやナノ結晶を含む発光材料など用いて点欠陥共振器構造内部に電流注入型の発光構造を設けることで、所望の波長を有する光を共振させて取り出すことができる。
【0053】
図28は電流注入用の電極にITO等の導電性透明電極を用いた場合の構成例を示している。電流注入用の電極としてITO等の透明電極を用いる場合には、フォトニック結晶中の点欠陥共振器から光を取り出すための導波路と電極を兼用することで単純な構成とすることができる。つまり点欠陥共振器407内部に挿入された発光材料408に対し、フォトニック結晶409を貫通する透明電極410により電流を注入して発光させる際に、透明電極はフォトニック結晶の周期性に対して線欠陥であるため、透明電極自体が導波路となって欠陥共振器で共振された光の一部をフォトニック結晶外に導くことができる。
【0054】
また、外部光源による光励起を行う場合にはフォトニックバンドギャップ以外の波長の励起光を用いることで、発光材料を高効率で励起して発光させることができる。外部光源による発光層の光励起を行う場合の一例として、発光構造415の概略図を図29に示す。所望のフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶416は、内部にフォトニックバンドギャップ内の蛍光を発する蛍光物質を内部に含んだ点欠陥共振器417を形成している。フォトニック結晶416の下部には共振器構造内の蛍光物質を励起して発光させるため、フォトニックバンドギャップ以下の波長で発光する紫外線光源418が設けられている。さらに、フォトニック結晶上部には、共振器構造からの発光を通過する一方で、紫外線光源からの励起光を遮断する波長選択フィルタ419が設けられている。これにより観察者から見て紫外線発光層からの紫外光をカットし視認性を向上できる。また、紫外線発光層に印加する電圧を制御することで発光層からの発光を制御することができる。
【0055】
さらに、離散構造の形状もしくは屈折率の少なくとも一方が異なる領域を複数有する3次元フォトニック結晶の共振器構造内部に、発光スペクトルに共振波長が含まれる発光媒質を含むような発光源を設けることで、それぞれの共振波長にて発光するモノリシックレーザを実現することができる。例えば、共振波長を光通信帯域の波長(Oバンド(1260nm−1360nm)、Eバンド(1369nm−1460nm)、Sバンド(1460nm−1530nm)、Cバンド(1530nm1565nm)、Lバンド(1565nm−1625nm)、Uバンド(1625nm−1675nm))に対応させることで、多波長発振レーザ光源をモノリシックに構成でき、光通信用光源の小型化・集積化が実現できる。また、共振波長を光の三原色である赤(R)緑(G)青(B)に対応させることで、RGBモノリシックレーザ光源を実現することができる。このようなRGBモノリシックレーザ光源は特に投射型画像表示装置などの画像表示装置用フルカラー光源として有用である。ここでRGBの波長帯域についての典型的な範囲は、R波長帯域はλR:600nm−780nm、G波長帯域はλG:500nm−550nm、B波長帯域はλB:420nm−490nmである。発光を実現するための具体的な手段については、上記の多様な方法を用いることができる。
【0056】
もちろん、RGB3色に限らず、例えば、コンパクトディスク(CD)およびDVDにおける光記録再生用光源に用いる場合には、動作波長を785nmと660nm付近で共振波長を持つように設計するとよい。さらに、405nm青色波長帯域を用いる高密度光記録再生用光源にも適用することができる。よって、光記録再生用光源として、3つの波長の光を発光するモノリシック光源を構成することも可能であり、光ディスク記録再生用光ヘッドの小型化および複合化に有用である。
【実施例5】
【0057】
本発明にかかる3次元フォトニック結晶を用いたカラーフィルタの概略図を図30に示す。設計波長でフォトニックバンドギャップ波長帯域を実現する3次元フォトニック結晶を複数個配置した構造をとっており、例えば、各々の領域を液晶パネルの画素面積と一致させるように設計することで、表示装置用カラーフィルタとして応用できる。図31に示すように反射型液晶パネルの裏面に本実施例にかかるカラーフィルタを具備することによって表示パネルとして応用できる。また、CCDやCMOSなど撮像素子に具備することによって、補色フィルタとして応用できる(図32)。三次元周期構造設計により、動作中心波長、動作波長帯域を自由に選択することが可能で、かつ、フォトニックバンドギャップを利用することで入射角度特性に優れ色再現性のよい、高品質なカラーフィルタを実現できる。また、各々の動作波長に対する構造を一括して作製できるため、液晶パネルや撮像素子へのアライメントが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】3次元フォトニック結晶Aの概略図
【図2】3次元フォトニック結晶Aの上面図
【図3】3次元フォトニック結晶Aの側面図
【図4】異なる付加層幅を持つ3次元フォトニック結晶A1とA2のフォトニックバンド構造
【図5】離散構造数の異なる3次元フォトニック結晶の側面図
【図6】離散構造の形状の変形例の上面図
【図7】3次元フォトニック結晶Aのフォトニックバンド構造
【図8】付加層幅とフォトニックバンドギャップ中心波長の関係
【図9】フォトニックバンドギャップと共振波長についての概略図
【図10】3層の付加層の詳細図
【図11】第2の付加層幅に対するフォトニックバンドギャップ中心波長
【図12】モノリシック構造の概略図
【図13】3次元フォトニック結晶Dの概略図
【図14】離散構造の屈折率とフォトニックバンドギャップ中心波長の関係
【図15】離散構造の屈折率及び形状とフォトニックバンドギャップ中心波長の関係
【図16】3次元フォトニック結晶G,H,Iの離散構造幅1xとフォトニックバンドギャップ中心波長の関係
【図17】複数の領域において形状が異なる離散構造をもつ3次元フォトニック結晶の点欠陥共振器の概略図
【図18】3次元フォトニック結晶中の直方体の点欠陥
【図19】点欠陥に起因する共振モード
【図20】複数の領域において屈折率が異なる離散構造を持つ3次元フォトニック結晶の点欠陥共振器の概略図
【図21】複数の領域において形状が異なる離散構造をもつ3次元フォトニック結晶の線欠陥導波路の概略図
【図22】複数の領域において屈折率が異なる離散構造をもつ3次元フォトニック結晶の線欠陥導波路の概略図
【図23】複数の領域において形状が異なる離散構造をもつ3次元フォトニック結晶の光分合波素子の概略図
【図24】複数の領域において屈折率が異なる離散構造をもつ3次元フォトニック結晶の光分合波素子の概略図
【図25】3次元フォトニック結晶G,H,Iの点欠陥共振器による共振モードスペクトル
【図26】無機発光材料を用いた点欠陥型発光素子
【図27】有機発光材料を用いた点欠陥型発光素子
【図28】電流注入に透明電極を用いた点欠陥型発光素子
【図29】外部光源を用いた点欠陥型発光素子
【図30】カラーフィルタ素子の概略図
【図31】カラーフィルタ素子の応用例1
【図32】カラーフィルタ素子の応用例2
【図33】従来の3次元フォトニック結晶
【図34】従来の格子周期変調型の3次元フォトニック結晶
【符号の説明】
【0059】
10A 3次元フォトニック結晶A
10B 3次元フォトニック結晶B
10C 3次元フォトニック結晶C
101a、101b、101c、101d、201a、201b、201c、201d ロッド
102、202a、202b 離散構造
301 線欠陥
302 点欠陥
400、403 発光層
401 絶縁体
402、406 電極
404 電子輸送層
405 ホール輸送層
407、411、417 点欠陥共振器
408、412 発光材料
409、413、416 フォトニック結晶
410、414 透明電極
415 発光構造
418 紫外線光源
419 波長選択フィルタ
501 カラーフィルタ
502 保護層
503a、503b 電極
504 液晶デバイス
505 撮像素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトニックバンドギャップを呈する3次元フォトニック結晶であって、
第1の軸に平行で、かつ間隔を空けて配置された複数の柱状構造を含む第1の層と、
第2の軸に平行で、かつ間隔を空けて配置された複数の柱状構造を含む第2の層と、
該第1の軸および第2の軸を含む平面内において離散的に配置された離散構造を含む層を1層以上含む付加層を有し、
該第1の層と該第2の層は該付加層を介して積層され、
該付加層に含まれる離散構造は隣接する該柱状構造の交点に相当する位置に配置され、
該離散構造が異なった少なくとも2以上の領域からなることを特徴とする3次元フォトニック結晶。
【請求項2】
フォトニックバンドギャップを呈する3次元フォトニック結晶であって、
第1の軸に平行で、かつ所定の間隔を空けて配置された複数の柱状構造を含む第1の層および第3の層と、
第2の軸に平行で、かつ所定の間隔を空けて配置された複数の柱状構造を含む第2の層および第4の層と、
該第1の軸および第2の軸を含む平面内において離散的に配置された離散構造を含む層を1層以上含む付加層を有し、
該第1の層から該第4の層が各層の間にそれぞれ該付加層を介して順次積層されており、
該第1の層と該第3の層に含まれる柱状構造が該第1の軸に垂直な方向に半分だけ相互にずれるように積層され、
該第2の層と該第4の層に含まれる柱状構造が該第2の軸に垂直な方向に半分だけ相互にずれるように積層され、
該付加層に含まれる離散構造は隣接する該柱状構造の交点に相当する位置に配置され、
該離散構造が異なった少なくとも2以上の領域からなることを特徴とする3次元フォトニック結晶。
【請求項3】
前記3次元フォトニック結晶は、前記離散構造の形状が異なった少なくとも2以上の領域からなることを特徴とする請求項1または2に記載の3次元フォトニック結晶。
【請求項4】
前記3次元フォトニック結晶は、前記離散構造を構成する媒質の屈折率が異なった少なくとも2以上の領域からなることを特徴とする請求項1または2に記載の3次元フォトニック結晶。
【請求項5】
前記3次元フォトニック結晶は、前記離散構造の形状および前記離散構造を構成する媒質の屈折率が異なった少なくとも2以上の領域からなることを特徴とする請求項1または2に記載の3次元フォトニック結晶。
【請求項6】
前記離散構造が異なった少なくとも2以上の領域は、それぞれ異なるフォトニックバンドギャップ波長帯域を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の3次元フォトニック結晶。
【請求項7】
前記柱状構造以外の領域、および前記離散構造以外の領域に、該柱状構造および該離散構造を構成する媒質とは異なる媒質を充填したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の3次元フォトニック結晶。
【請求項8】
前記柱状構造を構成する媒質の屈折率および前記付加層中の離散構造を構成する媒質の屈折率は、それ以外の領域に充填された媒質の屈折率よりも高いことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の3次元フォトニック結晶。
【請求項9】
前記柱状構造を構成する媒質の屈折率および前記付加層中の離散構造を構成する媒質の屈折率と、それ以外の領域に充填された媒質の屈折率との比は、2よりも大きいことを特徴とする請求項8に記載の3次元フォトニック結晶。
【請求項10】
前記第1の軸と前記第2の軸が直交していることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の3次元フォトニック結晶。
【請求項11】
請求項1乃至10に記載の3次元フォトニック結晶の内部に欠陥部を設けたことを特徴とする光学素子。
【請求項12】
前記3次元フォトニック結晶は線欠陥を有し、該線欠陥は導波路として機能することを特徴とする請求項11に記載の光学素子。
【請求項13】
前記光学素子は複数の波長で分散補償素子として動作することを特徴とする請求項12に記載の光学素子。
【請求項14】
前記3次元フォトニック結晶は点欠陥を有し、該点欠陥は共振器として機能することを特徴とする請求項11に記載の光学素子。
【請求項15】
前記光学素子は複数の波長で狭スペクトル帯域光フィルタとして動作することを特徴とする請求項14に記載の光学素子。
【請求項16】
前記3次元フォトニック結晶は線欠陥および点欠陥を有し、該欠陥部は複数の波長で動作する光入出力回路として機能することを特徴とする請求項11に記載の光学素子。
【請求項17】
前記3次元フォトニック結晶の離散構造が異なった各領域は、発光材料を含む点欠陥を有し、複数の波長で発光することを特徴とする請求項11に記載の光学素子。
【請求項18】
請求項17に記載の光学素子は、赤外光通信波長帯域における複数の波長で発光するレーザ素子であることを特徴とする光学素子。
【請求項19】
請求項17に記載の光学素子は、可視光波長帯域における複数の波長で発光するレーザ素子であることを特徴とする光学素子。
【請求項20】
前記光学素子は可視光波長帯域における赤色、緑色、青色の3波長で発光することを特徴とする請求項19に記載の光学素子。
【請求項21】
請求項17に記載の光学素子は、光ディスク記録再生波長帯域における複数の波長で発光するレーザ素子であることを特徴とする光学素子。
【請求項22】
請求項1乃至10に記載の3次元フォトニック結晶であって、複数の波長でカラーフィルタとして動作することを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2006−47663(P2006−47663A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228234(P2004−228234)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】