説明

3次元液体クロマトグラフィ

【課題】本発明の目的は、“溶液の干渉”を避けることに関する。
【解決手段】
本発明は、液体クロマトグラフィ装置において、前段分離カラムと後段分離カラムの間に、中段分離カラムを追加接続することに関する。また、好ましくは、切り替え手段や複数の溶液を混合し送液する送液手段を追加し、分離能の向上を図る。本発明によれば、“溶液の干渉”を避けることができる3次元液体クロマトグラフィ装置を実現できる。これにより、親水性成分と疎水性成分が混ざり合った複雑な試料に対しても、オンラインで一斉分離分析することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィ装置に関する。例えば、順相,イオン交換,逆相分離カラムを有する3次元液体クロマトグラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複雑な生体試料中には、親水的成分,疎水的成分,イオン性成分が混在しており、また成分分子量も幅広い分布を持っている。したがって、1種類のカラムでの分離には限界がある。そこで、2種の異なる分離モードのカラムを組み合わせた2次元液体クロマトグラフィ装置が使用されている(非特許文献1−4)。これらの従来の技術では、前段(1次元)と後段(2次元)カラムは、イオン交換(一部、サイズ排除)と逆相カラムの組み合わせに限定されている。
【0003】
【非特許文献1】A. J. Link et al, Nat. Biotechnol. 17,676 (1999).
【非特許文献2】Y. Shen et al, Anal. Chem. 77, 3090 (2005).
【非特許文献3】T. Wehr, LC.GC Europe March, 2 (2003).
【非特許文献4】P. Dugo et al, Anal. Chem. 76, 2525 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者が鋭意検討した結果、以下のことが判明した。
【0005】
表1は、3種(順相,イオン交換,逆相)の分離モードとサンプルの関係を示したものである。○は保持する(分離が可能)を、×は保持しない(分離が不可能)を意味している。実際は、その中間的なものもあるが、説明を簡単にするために省かれている。表1から分かるように、これらの組み合わせでは、サンプルグループ(C,D)のような親水的な成分の分離が損なわれてしまう。
【0006】
【表1】

【0007】
サンプルA−Dが含まれる上述の生体試料の分離分析には、順相と逆相カラムの組み合わせが必要である。しかし、この場合、順相カラムの分離に用いる有機溶媒が逆相カラム分離を妨害する。即ち、順相カラムで分離された成分が、有機溶媒とともに逆相カラムに導入されると、成分は逆相カラムに保持されず、分離もされずに溶出してしまう。つまり、“溶液の干渉”が起こる。前段(1次元)のカラム分離に用いる溶液が、後段(2次元)カラム分離を阻害しない(溶液の不干渉)手段,工夫が必要不可欠である。
【0008】
この“溶液の干渉”を避ける最も簡単な方法は、順相,逆相それぞれのカラムを装着した2台の液体クロマトグラフィ装置に、溶液試料を導入し分離分析するか、または、順相カラムを装着した液体クロマトグラフィ装置で分離された成分を、一定時間ごとにいったん分取(フラクション)して、脱有機溶媒した後、逆相カラムを装着した液体クロマトグラフィ装置で再度分離分析するものである。
【0009】
または、脱有機溶媒の代わりに、順相カラムから溶出する有機溶媒を、流量比を400倍で希釈してから逆相カラムに導入するといった方法も提案されている(文献4)。この場合、分離成分も400倍希釈されてしまうので高感度分析に適さない。
【0010】
本発明の目的は、“溶液の干渉”を避けることに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、液体クロマトグラフィ装置において、前段分離カラムと後段分離カラムの間に、中段分離カラムを追加接続することに関する。また、好ましくは切り替え手段や複数の溶液を混合し送液する送液手段を追加し、分離能の向上を図る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、“溶液の干渉”を避けることができる3次元液体クロマトグラフィ装置を実現できる。これにより、親水性成分と疎水性成分が混ざり合った複雑な試料に対しても、オンラインで一斉分離分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、上記及びその他の本発明の新規な特徴と効果を図面を参酌して説明する。尚、図面は説明のために用いられ、権利範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の第1の実施形態であり、最も単純な3次元液体クロマトグラフィ装置の構成である。各構成ユニットの機能と動作原理を以下に記述する。
【0015】
本実施例の3次元液体クロマトグラフィ装置では、グラジエントポンプ4と、試料注入手段と、前段分離カラムである順相カラム7と、後段分離カラムである逆相カラム10と、6方流路切り替えバルブ8と、分離された成分を検出する検出手段である質量分析計
11を含み、切り替え手段と後段分離カラムの間に中段分離カラムであるイオン交換カラム9が接続されている。
【0016】
グラジエントポンプ4は、複数の溶液を混合し送液する送液手段であり、水溶液A1,有機溶媒溶液B2及び水溶液C3を所定の割合で混合し、流路に送液できる。
【0017】
試料注入手段は、オートサンプラ5とサンプル導入機6から構成される。
【0018】
6方流路切り替えバルブ8は、前段分離カラムで分離された成分を後段分離カラムに導入するための切り替え手段である。図1の(A)(B)は、6方流路切り替えバルブ8を切り替えた場合のそれぞれの流路を示す。図1の(A)においては、試料注入手段,順相カラム7,イオン交換カラム9、及び逆相カラム10が直列に繋がっている。また、図1の(B)においては、試料注入手段,イオン交換カラム9、及び逆相カラム10が直列に繋がっている。
【0019】
以下、本実施例の3次元液体クロマトグラフィ装置の動作を説明する。
ステップ1:グラジエントポンプ4は、水溶液A1および有機溶媒溶液B2を混合(Bの組成比が高い)した溶液を一定流量で送液を行う。オートサンプラ5は、一定量の試料を流路に注入する。
ステップ2:注入された試料中の各成分は順相カラム7で分離される。相互作用の小さい順にカラム中を速く移動する。
ステップ3:順相カラム7から溶出した成分は、6方流路切り替えバルブ8を経由して、イオン交換カラム9に移動し保持される。保持されない成分はそのまま逆相カラム10に移動する。
ステップ4:6方流路切り替えバルブ8を切り替え、流路を(A)から(B)にする。同時に、グラジエントポンプ4は溶液組成を水溶液A100%にして、イオン交換カラム9と逆相カラム10中の溶液を置換する。
ステップ5:グラジエントポンプ4は溶液組成を水溶液C100%にして、イオン交換カラム9に保持されている成分を溶出させ、逆相カラム10に導く。その後、溶液組成を水溶液A100%にしてから、徐々に有機溶媒溶液Bの組成比を高めていき、逆相カラム
10での分離を行う。
ステップ6:逆相カラム10での分離が完了したら、6方流路切り替えバルブ8を切り替え、流路を(B)から(A)に戻す。同時に、グラジエントポンプ4は溶液組成をステップ1に戻す。そして、ステップ3−6を繰り返す。
【0020】
本実施例の3次元液体クロマトグラフィ装置の性能について検証した。図2に示したグラジエントプログラムで溶液組成を時間と共に変更しながら、流量0.2mL/min で送液を行った。溶液は、水溶液Aが水、有機溶媒溶液Bがアセトニトリル、水溶液Cが0.5M酢酸アンモニウムである。また、図2に示された(A),(B)は6方流路切り替えバルブ8の切り替えタイミングを示している。また、図3に、6方流路切り替えバルブ8を切り替えた場合のそれぞれの流路を示す。使用したサンプルは、表2に記載したリボヌクレアーゼBをトリプシン消化したペプチドである。また、使用したカラムは、アミノ
(Amino)順相カラム12(2.1×100mm),陽イオン交換(CEX)カラム13(2.1×50mm),C30逆相カラム14(2.0×150mm)である。図5A,Bは表2中の6成分の溶出時間の再現性を示したものである。
【0021】
【表2】

【0022】
本実施例により、原理的に“溶液の干渉”が避けられない順相カラムと逆相カラムの組み合わせを、2次元液体クロマトグラフィ装置の改良で実現にすることができた。
【0023】
尚、中段分離カラムが陽イオン、または、陰イオン交換カラムであってもよい。また、中段分離カラムが、陽(陰)イオンと陰(陽)イオン交換カラムを直列に接続したものであってよい。また、陽(陰)イオン交換カラムと陰(陽)イオン交換カラムの間に、6方流路切り替えバルブと複数の溶液を混合し送液する送液手段である第2のグラジエントポンプを追加接続してもよい。
【実施例2】
【0024】
図5は、本発明の第2の実施形態である。第1の実施形態との違いは、6方流路切り替えバルブ2個と逆相トラップカラムを追加し、3台のポンプで各分離カラムに適した溶液組成で送液を行えるようにしたものである。以下、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0025】
本実施例の3次元液体クロマトグラフィ装置では、第1グラジエントポンプ27と、第2グラジエントポンプ28と、試料注入手段であるオートサンプラ30と、前段分離カラムである順相カラム31と、中段分離カラムである陰(陽)イオン交換カラム32と、後段分離カラムである逆相カラム36と、第1の6方流路切り替えバルブ34と、及び質量分析計37を含む。そして、中段分離カラムと後段分離カラムの間に、第2の6方流路切り替えバルブ35と第3のグラジエントポンプ29が接続されている。
【0026】
第1のグラジエントポンプ27は、水溶液A21,有機溶媒溶液B22を所定の割合で混合した順相用溶液を流路に送液できる。
【0027】
第2のグラジエントポンプ28は、水溶液A23,水溶液C24を所定の割合で混合したイオン交換用溶液を流路に送液できる。
【0028】
第3のグラジエントポンプ29は、水溶液D25,有機溶媒溶液E26を所定の割合で混合した逆相用溶液を流路に送液できる。
【0029】
第1の6方流路切り替えバルブ34は、第1のグラジエントポンプ27,順相カラム
31、及びイオン交換カラム32を直列に繋いだ流路Aと、第2のグラジエントポンプ
28,イオン交換カラム32、及び第2の6方流路切り替えバルブ35(逆相トラップカラム33)を直列に繋いだ流路Bとに、流路を切り替えできる。
【0030】
第2の6方流路切り替えバルブ35は、第3のグラジエントポンプ29,逆相トラップカラム33、及び逆相カラム36を直列に繋いだ流路Aと、第1の6方流路切り替えバルブ32(イオン交換カラム32),逆相トラップカラム33、及び逆相カラム36を直列に繋いだ流路Bとに、流路を切り替えできる。
【0031】
以下、本実施例の3次元液体クロマトグラフィ装置の動作を説明する。
ステップ1:第1のグラジエントポンプ27は、水溶液A21および有機溶媒溶液B22を混合(Bの組成比が高い)した溶液を一定流量で送液する。オートサンプラ30は、一定量の試料を流路に注入する。この時、第1の6方流路切り替えバルブ34及び,第2の6方流路切り替えバルブ35はそれぞれ流路Aとしておく。
ステップ2:注入された試料中の各成分は順相カラム31で分離される。一相互作用の小さい順にカラム中を速く移動する。
ステップ3:順相カラム31から溶出した成分は、第1の6方流路切り替えバルブ34を経由して、イオン交換カラム32に移動し保持される。保持されない成分はドレインに排出される。この間、第2のグラジエントポンプ28は水溶液A100%をイオン交換カラム32に、第3のグラジエントポンプ29は水溶液D100%を逆相カラム36に送液する。第1のグラジエントポンプ27はここで、一旦停止する。
ステップ4:第1の6方流路切り替えバルブ34及び,第2の6方流路切り替えバルブ
35をそれぞれ切り替え、流路を流路Aから流路Bにする。同時に、第2のグラジエントポンプ28は溶液組成を水溶液C100%にして、イオン交換カラム32にトラップされた成分を逆相トラップカラム33に導く。その後、第1の6方流路切り替えバルブ34を流路Aに戻す。
ステップ5:第3のグラジエントポンプ29は溶液組成を水溶液D100%から、徐々に有機溶媒溶液Eの組成比を高めていき、逆相カラム36での分離を行う。
ステップ6:逆相カラム36での分離が完了したら、第2の6方流路切り替えバルブ35を切り替え、流路を流路Aに戻す。同時に、第1のグラジエントポンプ27を動作させ、溶液組成をステップ1に戻す。そして、ステップ3−6を繰り返す。
【0032】
本実施例によれば、イオン交換カラムから溶出する塩濃度が高い水溶液Dを、逆相カラムに導入しないようにできる。本実施例は、検出器として質量分析計を用いる場合、検出感度,装置のメインテナンス性向上に有効である。尚、イオン交換カラムで保持できない成分はドレイン38に流出する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1における3次元液体クロマトグラフィ装置の構成と流路を示す。
【図2】実施例1の実験におけるポンプのグラジエントプログラムを示す。
【図3】実施例1の実験における3次元液体クロマトグラフィ装置の構成と流路を示す。
【図4】実施例1の実験の結果(保持時間の再現性)を示す。
【図5】実施例2における3次元液体クロマトグラフィ装置の構成と流路を示す。
【符号の説明】
【0034】
1,21,23…水溶液A、2,22…有機溶媒溶液B、3,24…水溶液C、4…グラジエントポンプ、5,30…オートサンプラ、6…サンプル導入機、7,31…順相カラム、8…6方流路切り替えバルブ、9,32…イオン交換カラム、10,36…逆相カラム、11,37…質量分析計、12…アミノ(Amino)順相カラム(2.1×100mm)、13…陽イオン交換(CEX)カラム(2.1×50mm) 、14…C30逆相カラム、15…UV、16…MS、25…水溶液D、26…有機溶媒溶液E、27…第1のグラジエントポンプ、28…第2のグラジエントポンプ、29…第3のグラジエントポンプ、33…逆相トラップカラム、34…第1の6方流路切り替えバルブ、35…第2の6方流路切り替えバルブ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溶液を混合し送液する手段と、試料注入手段と、前段分離カラムと、後段分離カラムと、前段分離カラムで分離された成分を後段分離カラムに導入するための切り替え手段と、分離された成分を検出する検出手段を含み、
切り替え手段と後段分離カラムの間に中段分離カラムが接続されている3次元液体クロマトグラフィ装置。
【請求項2】
請求項1記載の3次元液体クロマトグラフィ装置において、
中段分離カラムが陽イオン交換カラム、または、陰イオン交換カラムであることを特徴とする3次元液体クロマトグラフィ装置。
【請求項3】
請求項1記載の3次元液体クロマトグラフィ装置において、
中段分離カラムが、第1イオン交換カラムと第2イオン交換カラムを直列に接続したものであることを特徴とする3次元液体クロマトグラフィ装置。
【請求項4】
請求項3記載の3次元液体クロマトグラフィ装置において、
第1イオン交換カラムと第2イオン交換カラムの間に、第2の切り替え手段と、複数の溶液を混合し送液する第2の送液手段が接続されていることを特徴とする3次元液体クロマトグラフィ装置。
【請求項5】
請求項3記載の3次元液体クロマトグラフィ装置において、
第2イオン交換カラムと後段分離カラムの間に、第2の切り替え手段と、複数の溶液を混合し送液する第2の送液手段が接続されていることを特徴とする3次元液体クロマトグラフィ装置。
【請求項6】
請求項1記載の3次元液体クロマトグラフィ装置において、
検出手段が質量分析計であることを特徴とする3次元液体クロマトグラフィ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−205954(P2007−205954A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26488(P2006−26488)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】