説明

3点式シートベルト装置

【課題】ベルト装着、非装着性に優れ、かつ、乗員拘束性能がシートのスライドの影響を受けにくい3点式シートベルト装置を提供する。
【解決手段】本発明の3点式シートベルト装置10は、シートの車幅方向内側部分の上部に設けられたベルトガイド12と、シートの車幅方向内側部分の下部のアンカ14と、ベルト装着時にはシートの車幅方向外側側面下部に沿った位置に下げられベルト非装着時には持ち上げられるスリップジョイント16と、シートの車幅方向外側側面上部に回動可能に支持され先端18bにスリップジョイント16を支持するレバー18と、ベルト装着時にはベルトガイド12からスリップジョイント16に延びるショルダベルト20aと、ベルト装着時にはスリップジョイント16で折り返されてショルダベルト20aに繋がるラップベルト20bと、を備える。レバー18の上げ下げでベルトの脱着ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3点式シートベルト装置に関し、とくにベルト装着、非装着性に優れ、かつ、シートのスライド量の影響を受けにくい乗員拘束性能を有する、3点式シートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の3点式シートベルト装置は、とくに車両後部座席に用いられた場合、装着、非装着性が運転席に比べて、悪い。これは、バックルと尻当たり回避のため、装着し難い部位にバックルがあること、および、隣り席のバックルと混在することによる。
【0003】
ベルト装着性を良好にするためには、タングプレートのバックルへの挿脱構造に代えて、特許文献1に開示されるような、ショルダベルトからラップベルトへの折り返し部を摺動可能に挿通するスリップリングを、乗員斜め前方の車体部分に回動可能に取り付けた回動バー(肘掛け)の先端部で支持して、回動バーを下降させた状態をベルト装着とし、上方に持ち上げた状態をベルト非装着とするシートベルト装置とすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−184070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のシートベルト装置には、回動バーがシートスライドに連動して前後方向に移動しないため、乗員拘束性能がシートのスライド量の影響を受け、シートのスライド位置によっては、装着性に違和感を与えてしまうという可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、ベルト装着、非装着性に優れ、かつ、乗員拘束性能がシートのスライドの影響を受けにくい、3点式シートベルト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 上記課題を解決する、または上記目的を達成する本発明の3点式シートベルト装置は、シートの車幅方向内側部分の上部に設けられたベルトガイドと、シートの車幅方向内側部分の下部に設けられたアンカと、ベルト装着時にはシートの車幅方向外側側面下部に沿った位置に下げられベルト非装着時には持ち上げられるスリップジョイントと、シートの車幅方向外側側面上部に回動可能に支持され先端にスリップジョイントを支持するレバーと、ベルト装着時にはベルトガイドからスリップジョイントに延びるショルダベルトと、ベルト装着時にはスリップジョイントからアンカに延びスリップジョイントで折り返されてショルダベルトに繋がるラップベルトと、を備えている。
【0008】
(2) 上記(1)記載の3点式シートベルト装置では、レバーの回動軸芯が水平方向に対して、車幅方向内側にいくに従って下降するように、傾けられている。
【0009】
(3) 上記(1)または(2)記載の3点式シートベルト装置では、レバーが、該レバーの先端部に、レバーが下げられた時にシート下部に固定された係合受け部に係合する係合部を有する。
【発明の効果】
【0010】
上記(1)の3点式シートベルト装置によれば、ベルトを装着するにはレバーを下方に回動させてスリップジョイントを下げ、ベルトを非装着とするにはレバーを上方に回動させてスリップジョイントを持ち上げるだけでよいため、タングプレートのバックルへの挿脱操作を必要とせず、ベルト装着、非装着性に優れる。とくに、バックルがタングプレートを挿脱し難い位置にある後席の左右両側席の場合には、効果が大きい。
また、レバーがシートに回動可能に支持されるため、レバー先端のスリップジョイントとレバーの回動軸芯との間隔が、シートのスライドに無関係に一定(ほぼ、レバーの長さ)であり、乗員拘束性能がシートのスライドの影響を受けないか、または受けにくい。
【0011】
上記(2)の3点式シートベルト装置によれば、レバーの回動軸芯が水平方向に対して、車幅方向内側にいくに従って下降するように、傾けられているので、レバーが回動して持ち上げられた時に、レバーの先端が、傾けられない場合のレバー先端より下方で、かつ、車内側に来る。その結果、レバーと車両天井との干渉を避けることが容易となり、かつ、ショルダベルトおよびラップベルトが、ベルト非装着状態および乗降時に、乗員と干渉し難くなる。
【0012】
上記(3)の3点式シートベルト装置によれば、レバーが先端部に係合部を有するので、レバーが下げられた時に係合部が係合受け部に係合することにより、衝突時にレバーが持ち上がることがなく、シートベルト装置による乗員拘束の信頼性が上がる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例の3点式シートベルト装置の、車両後席に設けた場合の、正面図である。
【図2】本発明の実施例の3点式シートベルト装置の、車両前席または後席のドア寄りの座席に設けた場合の、ベルト装着状態における、正面図である。
【図3】図2の3点式シートベルト装置の、車幅方向外側から見た、側面図である。
【図4】図2の3点式シートベルト装置の、車幅方向内側から見た、側面図である。
【図5】本発明の実施例の3点式シートベルト装置の、車両前席または後席のドア寄りの座席に設けた場合の、ベルト非装着状態における、正面図である。
【図6】図5の3点式シートベルト装置の、車幅方向外側から見た、側面図である。
【図7】図5の3点式シートベルト装置の、車幅方向内側から見た、側面図である。
【図8】本発明の実施例の3点式シートベルト装置の、レバーの回動をモータで行う場合の、正面図である。
【図9】本発明の実施例の3点式シートベルト装置の、レバー先端部の係合部と該係合部が係合する係合受け部の第1の例の側面図である。
【図10】本発明の実施例の3点式シートベルト装置の、レバー先端部の係合部と該係合部が係合する係合受け部の第2の例の側面図である。
【図11】図10の係合部と係合受け部の、通常使用時の、A−A線断面図である。
【図12】図10の係合部と係合受け部の、車両衝突時の、A−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施例の3点式シートベルト装置を、図1〜図12を参照して、説明する。図中、「OUT」は車両外側を示し、「FR」は車両前方を示す。
【0015】
本発明の実施例の3点式シートベルト装置10は、車両の後席(図1)または前席の、ドア寄りの座席(車幅方向外側座席)に設けられる。乗車確率の低い中央席のシートベルト20’は、従来の3点式シートベルトとする。
【0016】
図2〜図7に示すように、本発明の実施例の3点式シートベルト装置10は、シート22のシートバック22aの車幅方向内側部分の上部に設けられたベルトガイド12と、シート22の車幅方向内側部分の下部(たとえば、シートクッション22bの後部側面)に設けられシート22に固定されたアンカ14と、ベルト装着時にはシート22の車幅方向外側側面下部に沿った位置に下げられベルト非装着時には持ち上げられるスリップジョイント16と、一端(基端)18aでシート22の車幅方向外側側面上部にレバー軸芯36まわりに回動可能に支持され、他端(先端)18bでスリップジョイント16を支持するレバー18と、ベルト装着時にはベルトガイド12からスリップジョイント16に延びスリップジョイント16で折り返されてアンカ14に延びるシートベルト20と、を有する。シートベルト20のうち、ベルトガイド12からスリップジョイント16に延びる部分がショルダベルト20aで、スリップジョイント16からアンカ14に延びる部分がラップベルト20bである。ショルダベルト20aとラップベルト20bとは、スリップジョイント16で折り返されて互いに繋がっており、1本のウエビングから構成される。22cはヘッドレストである。
【0017】
ベルトガイド12と、アンカ14と、スリップジョイント16は、3点式シートベルト装置10の3点を構成する。
従来の3点式シートベルトでは、ベルトガイドとアンカがシートの車幅方向外側にあり、スリップジョイントがシートの車幅方向内側にあるが、本発明の3点式シートベルト装置10では、ベルトガイド12とアンカ14がシートの車幅方向内側にあり、スリップジョイント16がシートの車幅方向外側にある。
【0018】
ショルダベルト20aは、スリップジョイント16から乗員胸前を通ってベルトガイド12に延び、ベルトガイド12を摺動可能に挿通した後、シート22内に入り、シート22内に設けたリトラクタ24に接続している。リトラクタ24は、プリテンショナ付きで、かつ、フォースリミッタ付きであることが望ましい。リトラクタ24、プリテンショナ、フォースリミッタは、従来知られている構造のものを用いることができる。プリテンショナ付きリトラクタ24は、車両衝突検知センサからの信号を受けて作動し、シートベルト20を引っ張り、スプールに巻き取る。これによって、シートベルト20にはテンションがかかる。
【0019】
レバー18は、手動によって回動されてもよいし、あるいはモータ26(図8)により自動で回動されてもよい。モータ駆動の場合は、図8に示すように、減速機付モータ26をシートバック22aのサイドフレーム28に固定し、モータの回転を互いに噛み合う傘歯歯車30、32を介してレバー18の軸34に伝達してレバー18を回動させることにより行うことができる。モータ駆動構造は、図8に示した構造に限るものではなく、他の構造、たとえば、モータの回転をリンク機構を介してレバー18の回動に変換してもよい。モータの起動、停止は、手動でスイッチをオン、オフしてもよいし、あるいは座席に荷重センサを組み込んでおいて、乗員Jの着座をセンサで感知して、その信号でモータをオン、オフさせてもよい。
【0020】
レバー18の回動軸芯36(レバー18の軸34の中心線)は、図8、図1に示すように、水平方向に対して、車幅方向内側にいくに従って下降するように、傾けられていることが望ましい。レバー18がシートバック側面に沿った位置にある時は、図1、図2に示すように、レバー18は鉛直面内にあり、レバー18が上方に回動された時は、図5に示すように、先端18bが車幅方向内側に寄るように、鉛直面に対して傾く。
【0021】
レバー18は、該レバー18の先端18に、レバー18が下げられた時にシート22下部(望ましくはシートクッション22b後部)に固定された係合受け部40に係合する係合部38を有する。係合部38および係合受け部40は、レバー18が下げられてシートベルト装着中に、車両の衝突が起こった場合、乗員Jの前方への拘束力がシートベルト20にかかって係合部38が係合受け部40から外れレバー18が上がってシートベルトによる乗員の拘束が弱まることを、防止するためのものである。
【0022】
図9は、係合部38および係合受け部40の第1の例を示す。図9の例では、係合部38がタングプレート38からなり、係合受け部40がバックル40からなる場合を示す。タングプレート、バックルの構造には、従来の3点式シートベルトのスリップジョイント部のタングプレート、バックルを準用できる。図9の例において、スリップジョイント16は、レバー18の先端部18bに形成されたスリット孔からなる。シートベルト20はこのスリット孔を摺動可能に挿通する。
【0023】
図10〜図12は、係合部38および係合受け部40の第2の例を示す。図10〜図12の例では、係合部38はレバー先端18bに形成されたプレート部からなり、このプレート部にはレバー18の回動方向と直交する方向に開口する孔42が形成されている。係合受け部40はシートクッション22b側に固定した固定部材からなり、固定部材の先端には係合部38を受け入れる溝44があり、この溝44に、回動するレバー18の先端の係合部38が進入する。係合受け部40には、支点46まわりにかつ溝44と直交方向に回動可能な爪48が設けられている。係合部38が溝44に進入した後で、かつ、車両衝突を検知した時に、爪48が係合部38に近づく方向に瞬時に回動し、爪48が係合部38の孔42に進入し、係合部38と係合受け部40とが係合してレバー18の回動をロックする。図12は、ロック状態を示す。
【0024】
爪48の回動は、ソレノイド50とバネ52、またはモータで行うことができる。ソレノイド50とバネの場合は、通常使用時(非衝突時)には、ソレノイド50は非通電とし、爪48はバネ52で係合部38から離れる回動位置にある(図11)。衝突時には、ソレノイド50に通電し、爪48はバネ52の付勢に抗して係合部38に近づく側に回動して、孔42に入り、係合部38と係合受け部40とが係合してレバー18の回動をロックする(図12)。
【0025】
3点式シートベルト装置10の装着状態では、図2〜図4に示すように、レバー18は先端18bが降ろされた状態にある。ベルト装着時には、シートベルト20のショルダベルト20aはベルトガイド12から胸部の前方を通ってスリップジョイント16に向かって斜め下方に延び、スリップジョイント16で折り返されて、ラップベルト20bとして、スリップジョイント16から腰部の前方を通ってアンカ14に延びる。ショルダベルト20aとラップベルト20bの交点にあるスリップジョイント16は、シートクッション22bの後端部のドア側側面に沿った位置にあり、従来の3点式ベルトのスリップジョイントの位置より下げられるため、腰部の拘束がより確実になっている。
【0026】
車両衝突時には、プリテンショナ付リトラクタ24が作動してシートベルト20を巻取りシートベルト20にテンションをかける。レバー18は先端18bが降ろされた状態のままであり、係合部38と係合受け部40とが係合している。係合部38と係合受け部40との係合により、シートベルト20にテンションがかかっても係合部38と係合受け部40との係合は外れない。
【0027】
3点式シートベルト装置10の非装着状態では、図5〜図7に示すように、レバー18は先端18bが車両天井近傍まで上げられた状態にある。ベルト非装着時には、シートベルト20はベルトガイド12からスリップジョイント16に向かって斜め上方に延び、スリップジョイント16で折り返されて、スリップジョイント16から斜め下方にアンカ14まで延びる。持ち上げられたスリップジョイント16は、レバー18の基端18aの直上よりも車幅方向内側にある。
【0028】
つぎに、本発明の実施例の3点式シートベルト装置10の作用、効果を説明する。
まず、ベルトを装着するには、手動またはモータ26をオンしてレバー18を下方に回動させて、リトラクタ24からベルトを引出しつつスリップジョイント16を下げ、ベルトを非装着とするには、レバー18を上方に回動させて、リトラクタ24にベルトを巻き取らしつつスリップジョイント16を持ち上げる。
【0029】
レバー18の回動でスリップジョイント16を上げ下げするだけでよいため、従来の3点式シートベルトのようなタングプレートのバックルへの挿脱操作を必要とせず、ベルト装着、非装着性に優れる。とくに、後席の車幅方向外側席の場合には、本発明を採用することによるベルト装着、非装着性の向上効果が大きい。
【0030】
また、レバー18が車体ではなくシート22に回動可能に支持されるため、レバー先端18bのスリップジョイント16とレバーの回動軸芯36との間隔、およびベルトガイド12とアンカ14間のベルト長が、シート22のスライドに無関係に一定であり、乗員拘束性能とベルト締め付け力がシート22のスライドの影響を受けないか、または受けにくい。
【0031】
レバー18の上下回動でベルトの着脱ができるため、リトラクタ24の、ショルダベルト20a巻取り力を大幅に低減でき、乗員Jのベルト締め付け力が弱くなり、ベルト装着感が向上する。
【0032】
また、レバー18の回動軸芯36が水平方向に対して、車幅方向内側にいくに従って下降するように、傾けられている場合は、レバー18が回動して持ち上げられた時に、レバー18の先端18bが、傾けられない場合のレバー先端より下方で、かつ、車両内側に来る。その結果、持ち上げられた状態でのレバー18と車両天井との干渉を避けることが容易となり、かつ、ショルダベルト20aおよびラップベルト20bが、ベルト非装着状態および乗降時に、乗員Jと干渉し難くなる。
【0033】
また、レバー18が先端部18bに係合部38を有する場合は、レバー18が下げられた時に係合部38が係合受け部40に係合することにより、衝突時に係合部38が係合受け部40から外れてレバー18が持ち上がることがなく、3点式シートベルト装置10による乗員拘束の信頼性が上がる。
【符号の説明】
【0034】
10 3点式シートベルト装置
12 ベルトガイド
14 アンカ
16 スリップジョイント
18 レバー
18a 一端(レバーの回動の基端)
18b 他端(レバーの回動の先端)
20 シートベルト
20a ショルダベルト
20b ラップベルト
22 シート
22a シートバック
22b シートクッション
22c ヘッドレスト
24 リトラクタ
26 モータ
28 サイドフレーム
30、32 傘歯歯車
34 軸
36 レバーの回動軸芯
38 係合部
40 係合受け部
42 孔
44 溝
46 支点
48 爪
50 ソレノイド
52 バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの車幅方向内側部分の上部に設けられたベルトガイドと、シートの車幅方向内側部分の下部に設けられたアンカと、ベルト装着時にはシートの車幅方向外側側面下部に沿った位置に下げられベルト非装着時には持ち上げられるスリップジョイントと、シートの車幅方向外側側面上部に回動可能に支持され先端に前記スリップジョイントを支持するレバーと、ベルト装着時には前記ベルトガイドから前記スリップジョイントに延びるショルダベルトと、ベルト装着時には前記スリップジョイントから前記アンカに延び前記スリップジョイントで折り返されて前記ショルダベルトに繋がるラップベルトと、を備えた3点式シートベルト装置。
【請求項2】
前記レバーの回動軸芯が水平方向に対して、車幅方向内側にいくに従って下降するように、傾けられている請求項1記載の3点式シートベルト装置。
【請求項3】
前記レバーが、該レバーの先端部に、前記レバーが下げられた時にシート下部に固定された係合受け部に係合する係合部を有する請求項1または請求項2記載の3点式シートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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