説明

3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−トリフルオロメチルプロパン酸エステルの製造法

【課題】廃棄物処理の問題を有することがなく、一般式(CF3)2C(OH)COORで表される3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸エステルの高収率での製造を可能とする方法を提供する。
【解決手段】一般式


(ここで、Rはフェニル基、ベンジル基または炭素数1〜12のアルキル基である)で表される2-フルオロ-2-アルコキシ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)オキシランを酸性条件下で加水分解する。酸性条件下での加水分解は、フッ酸、塩酸などの水溶液の存在下で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸(プロピオン酸)エステルの製造法に関する。さらに詳しくは、ヘプタフルオロイソブテニルアルキルエーテルを原料とする3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸エステルの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料分野、医薬、農薬および有機合成の原料および中間体などとして利用される3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸エステルの製造法としては、従来、ヘキサフルオロプロペンの製造時に副生するオクタフルオロイソブテンをアルコール付加物とした後脱フッ化水素させて得られる、ヘプタフルオロイソブテニルアルキルエーテルを過マンガン酸カリウムあるいは過酸化水素で酸化開裂させることが提案されている。しかるに、過マンガン酸カリウムを用いた場合、副生成物である二酸化マンガンの処理に問題があり、また過酸化水素を用いる方法では収率が低いといった問題があった。
【非特許文献1】Izv Akad. Nauk SSSR Ser. Khim., 2巻 387頁 (1974)
【特許文献1】特公平3−015619号公報
【0003】
また、ヘプタフルオロイソブテニルアルキルエーテルをルテニウム化合物あるいはオスミウム化合物と反応させ、酸化開裂させる方法が提案されているが、これらは毒性が高く、大量生産時には製造従事者への安全衛生確保や周囲への環境影響、廃棄物処理の問題が残っている
【特許文献2】特開2002−234860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、廃棄物処理の問題を有することがなく、一般式(CF3)2C(OH)COORで表される3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸エステルの高収率での製造を可能とする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる本発明の目的は、一般式

(ここで、Rはフェニル基、ベンジル基または炭素数1〜12のアルキル基である)で表される2-フルオロ-2-アルコキシ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)オキシランを酸性条件下で加水分解することによって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明方法によれば、副生成物あるいは毒性物質の取扱いなどの問題を発生させることなく、高収率で3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸エステルの製造を可能とするといったすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
原料物質である2-フルオロ-2-アルコキシ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)オキシランは、一般式

(R:フェニル基、ベンジル基、炭素数1〜12の鎖状または環状のアルキル基)で表され、これは一般式(CF3)2C=CFORで表されるヘプタフルオロイソブテニルアルキルエーテルをオゾンを用いて酸化することにより得ることができる。ここで、ヘプタフルオロイソブテニルエーテルは、ヘキサフルオロプロペン製造時に副生するオクタフルオロイソブテン(CF3)2C=CF2に脂肪族アルコール類、フエノール類またはベンジルアルコールを付加した後、四級アンモニウム塩などの相関移動触媒の存在下、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、その炭酸塩またはトリアルキルアミンなどの塩基により脱フッ化水素化することにより得ることができる
【特許文献3】特許第3,823,339号公報
【0008】
3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸エステルは、2-フルオロ-2-アルコキシ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)オキシランを酸性条件下で加水分解することにより得ることができる。酸性条件下とするために用いられる酸は、水溶液である限り特に限定されないが、安全性、価格などの点からフッ酸、塩酸、硫酸などが水溶液の状態で用いられる。具体的には、フッ酸であれば10〜30重量%程度の水溶液、塩酸であれば10〜37重量%の濃塩酸、また硫酸であれば10〜75重量%程度の水溶液が、好ましくは20重量%程度のフッ酸または75重量%程度の硫酸が用いられる。その使用割合は、オキシラン化合物に対して等モル量以下であることが好ましい。
【0009】
加水分解反応に際しては、2-フルオロ-2-アルコキシ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)オキシランおよび酸性水溶液との相溶性の観点より、相関移動触媒を用いることもできる。相関移動触媒としては、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化テトラブチルメチルアンモニウムなどの4級アンモニウム塩が用いられる。
【0010】
また、加水分解反応の温度は室温〜100℃程度まで幅広い温度をとり得、室温でも十分な反応速度を得ることが可能である。
【0011】
加水分解反応は、2-フルオロ-2-アルコキシ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)オキシランを酸性水溶液中にて混合撹拌することにより進行する。生成物である3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸エステルは、通常分層し、下層から粗生成物を回収できる。ただし、末端エステルの形状により、生成物の水溶性が高く、分層しない場合には反応混合物に濃硫酸を加えることにより、生成物の水溶性を低下させて分層させることにより、目的物を得ることができる。
【0012】
反応器材は、PFA(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)製容器がもっとも好ましく、高密度ポリエチレン製容器なども使用できるが、ガラス、金属は腐食の問題で使用できない。
【0013】
精製は、蒸留が一般的手法となるが、高沸点になる場合には、カラムクロマトグラフィーなどで精製することも可能である。
【実施例】
【0014】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0015】
実施例1
(1)撹拌翼、温度計および窒素シールを備えた内容量2000mlのPFA製反応器に、2-フルオロ-2-メトキシ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)オキシラン(純度92GC%)1000g(4.03モル)を加え、75重量%硫酸1000g(7.64モル)をゆっくりと室温で滴下した。滴下終了後、内温40℃で24時間撹拌し、上層を回収した。回収物を、飽和食塩水、10重量%K2CO3水溶液および濃硫酸で順次洗浄し、洗浄後の有機層から3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸メチルが932g得られた。純度は、87GC%、収率は89%であった。
【0016】
(2)SUS316製充填材(東京特殊金鋼製品ヘリパックNo.2)を充填した内径25mm×高さ500mmの蒸留塔、温度計および還流冷却器を備えた内容量1000mlのフラスコに、上記(1)で得られた純度87GC%の粗3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸メチル928gを加えた。沸点107〜108℃の留分を回収したところ、純度99.2GC%の3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸メチル488gが得られた。蒸留収率は、60%であった。また、このNMRデータを下記に示す。
〔NMRデータ〕
H-NMR(アセトン-d6,TMS):
δ;4.01(CH3)
δ;7.45(OH)
F-NMR(アセトン-d6,CFCl3):
-73.78ppm(CF3)
【0017】
実施例2
撹拌翼、温度計および窒素シールを備えた内容量2000mlのPFA製反応器に、2-フルオロ-2-メトキシ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)オキシラン(純度92GC%)1000g(4.03モル)を加え、20重量%フッ酸1000g(10モル)をゆっくりと室温で滴下した。滴下終了後、室温で24時間撹拌したものの分層が不十分だったので、反応混合物を95重量%硫酸1000g中に加えて3時間撹拌後静置し、その有機層を回収した。回収した有機層を、飽和食塩水、10%K2CO3水溶液および濃硫酸で順次洗浄し、洗浄後の有機層から3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸メチルが1009g得られた。純度は、83GC%、収率は92%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式

(ここで、Rはフェニル基、ベンジル基または炭素数1〜12のアルキル基である)で表される2-フルオロ-2-アルコキシ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)オキシランを酸性条件下で加水分解することを特徴とする、一般式(CF3)2C(OH)COOR(ここで、Rは前記定義と同じである)で表される3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸エステルの製造法。
【請求項2】
酸性条件下での加水分解がフッ酸水溶液、塩酸水溶液または硫酸水溶液の存在下で行われる請求項1記載の3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸エステルの製造法。
【請求項3】
さらに、蒸留またはカラムクロマトグラフィーによる精製が行われる請求項1記載の3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロパン酸エステルの製造法。

【公開番号】特開2008−273862(P2008−273862A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117978(P2007−117978)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】