説明

4−置換3−ヒドロキシ酪酸誘導体の生成のための酵素的プロセス

【課題】本発明は、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸誘導体のハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒による変換によって、4−置換−3−ヒドロキシ酪酸誘導体を調製するための方法および組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、さらに、4−ハロ−3−ケト酪酸誘導体のケトレダクターゼ触媒による変換によって、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸誘導体を調製するための方法および組成物を提供する。本発明は、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを供給する工程、および4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを、ハロヒドリンデハロゲナーゼおよびシアニドと接触させる工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、米国特許法第119条第(e)項の元で、2002年8月9日に出願されたU.S.S.N.60/402,436(これは、その全体が本明細書中に参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
(著作権の通知)
本特許文献の開示の一部分は、著作権の対象である題材を含む。著作権者は、特許商標張の特許ファイルまたは記録に明らかであるように、特許文書または特許開示のいずれによっても、ファクシミリでの複写に対する拒絶を有さず、どのようなものでも全ての著作権を保有する。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、4−置換3−ヒドロキシ酪酸誘導体を調製するための、新規な酵素的方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
(背景)
4−置換3−ヒドロキシ酪酸誘導体は、薬学的物質の合成において、市場で重要な中間体である。非ラセミ体のキラルな4−置換3−ヒドロキシ酪酸エステルは、HMG−CoAレダクターゼインヒビター(例えば、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン、およびイタバスタチン)の合成において利用され得る。例えば、(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルは、コレステロール低下剤であるアトルバスタチンの生成のための重要な中間体である。特定の4−置換3−ヒドロキシ酪酸エステルを生成するための方法が、記載されている。Isbellら、Carbohydrate Res.,72:301(1979)は、スレオニンのカルシウム塩の一水和物と臭化水素とを反応させて、スレオニンのジブロモ誘導体を生成し、次いで、この誘導体をビシナルブロモヒドリンに転換することによる、(R)4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルの合成のための方法を報告する。このブロモヒドリンのヒドロキシル基は、シアン化ナトリウムとの反応の前に、保護される。同書。
【0005】
Acta Chem.Scand.,B37,341(1983)は、4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートを、4−ブロモ−3−ヒドロキシブチレートから生成するための方法を報告し、この方法は、シアン化ナトリウムとの反応の前に、ヒドロキシ基を保護基で保護することを必要とする。4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートエステルの最近の合成経路は、4−ブロモ−または4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートエステルの、ヒドロキシル基の保護なしでの、シアン化物塩を用いる、触媒作用されない化学反応を包含する。しかし、副生成物が、塩基性のシアン化物陰イオンによって生じる塩基性条件下で形成され、この副生成物は、生成物から除去することが、特に問題である。4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートエステルは、高沸点の液体であり、そして4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートエステルをこれらの副生成物から分離するために、減圧分画蒸留が必要とされる。この蒸留条件は、さらなる副生成物を生成しやすく、そしてこの蒸留は、首尾よく操作することが困難である。
【0006】
4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルの合成における出発物質として使用することは、4−ブロモ−3−ヒドロキシ酪酸エステルの使用よりも、経済的により魅力的であるが、ブロモ置換基と比較したクロロ置換基のより低い反応性に起因して、そのシアン化物塩との反応において、より強制的な条件を必要とする。4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートエステルのシアン化は、シアン化アルカリおよび高温を用いて進行するが、これらの強制的な条件は、かなりの副生成物形成を導き、過度の単離および精製の手順を必要とし、このことにより、さらなる収率の損失が生じる。米国特許第5,908,953号は、未反応の出発物質に加えて、粗製の(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸の低級アルキルエステルが、ヒドロキシアクリレート、シアノアクリレート、3−シアノブチロラクトン、3−ヒドロキシブチロラクトン、γ−クロトノラクトン、3−シアノ−4−ヒドロキシブチレート低級アルキルエステル、3,4−ジシアノブチレート低級アルキルエステル、および高沸点の特徴付けられていない化合物を含有し得ることを開示する。米国特許第5,908,953号は、(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸の低級エステルの精製方法をさらに記載し、この方法は、10トルにおいて50℃〜160℃の沸点を有する溶媒の存在下での、粗製混合物の蒸留を包含する。このような蒸留方法を使用して、未反応の出発物質の分解は最小にされると記載されており、この物質は、そうでなければ、(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸低級アルキルエステルの生成の全体の劇的な損失を生じ得る。米国特許第6,140,527号は、(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシ楽酸の粗製低級アルキルエステルを処理するための代替のアプローチを記載し、このアプローチは、脱水副生成物(例えば、4−ヒドロキシクロトン酸エステル)の、化学反応による除去を包含し、この化学反応は、これらの化合物を水溶性かつ抽出可能にする。従って、これらの方法は、容易に入手可能な出発物質を利用するが、有意な収率損失および生成物の精製の要件が、これらの方法を、市場で望ましくなくしている。従って、非ラセミ体のキラルな4−置換3−ヒドロキシ酪酸エステルを、よりマイルドな条件下で生成するための、より効率的な方法が、非常に望ましい。
【0007】
ハロヒドリンデハロゲナーゼ(ハロアルコールデハロゲナーゼまたはハロヒドリンハロゲン化水素リアーゼともまた称される)は、ハロゲン化水素の、プロトンおよびハロゲン化物イオンとしての、ビシナルハロヒドリンからの脱離を触媒して、対応するエポキシドを生成する。これらの酵素はまた、逆の反応を触媒する。Nagasawaら、Appl.Microbiol.Biotechnol.第36巻(1992)、478〜482頁は、特定のハロヒドリンハロゲン化水素リアーゼの、他のビシナルハロヒドリンのうちでもとりわけ、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルに対する活性を開示する。Nakamuraら、Biochem.Biophys.Research Comm.第180巻(1991)124〜130頁およびTetrahedron第50巻(1994)11821〜11826頁は、ハロヒドリンハロゲン化水素リアーゼが、特定のエポキシドのシアン化物との反応を触媒して、対応するβ−ヒドロキシニトリルを形成する活性を開示する。これらの参考文献および米国特許第5,210,031号において、Nakamuraらは、エピハロヒドリンとシアン化アルカリとの、特定のハロヒドリンハロゲン化水素リアーゼの存在下での反応(これは、対応する4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブチロにトリルを生成する)を開示する。米国特許5,166,061号において、Nakamuraらは、1,3−ジハロ−2−プロパノールの、シアン化アルカリとの、特定の脱ハロゲン化酵素の存在下での反応(これは、対応する4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを生成する)を開示する。Tetrahedron第50巻(1994)11821〜11826頁において、Nakamuraらは、1,3−ジクロロ−2−プロパノールの、シアン化物との、精製されたハロヒドリンハロゲン化水素リアーゼとの反応(これは、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを生成する)を開示する。
【0008】
Lutje−Spelbergら、Org.Lett.第2巻(2001)41〜43頁は、ハロヒドリン脱ハロゲン化酵素が、特定のスチレンオキシドの、アジドとの反応を触媒して、対応する1−フェニル−2−アジド−エタノールを形成する活性を開示する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
1つの局面において、本発明は、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドを、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドから生成するための方法に関し、この方法は、以下:
(a)4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドを提供する工程であって、ここで、このハロ置換基は、塩素、臭素、およびヨウ素から選択される、工程;ならびに
(b)4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドを、ハロヒドリンデハロゲナーゼおよびシアン化物と、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドを、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドに転換するための反応混合物を形成するために充分な条件下で接触させる工程、
を包含する。
【0010】
本発明のさらなる局面において、工程(a)における4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドは、以下:
4−ハロ−3−ケト酪酸のエステルまたはアミドを提供する工程であって、ここで、このハロ置換基は、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群から選択される、工程;ならびに
4−ハロ−3−ケト酪酸のエステルまたはアミドを、ケトレダクターゼ、補因子、および補因子再生系と、4−ハロ−3−ケト酪酸のエステルまたはアミドを4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドに転換するための反応混合物を形成するために充分な条件下で、接触させる工程、
を包含する方法によって、提供される。
【0011】
別の局面において、本発明は、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルから生成するための方法に関し、この方法は、以下:
(a)4−ハロ−3−ケト酪酸エステルを提供する工程であって、ここで、このハロ置換基は、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群から選択される、工程;ならびに
(b)−ハロ−3−ケト酪酸エステルを、ケトレダクターゼ、補因子、補因子再生系、シアン化物、およびハロヒドリンデヒドロゲナーゼと接触させて、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルを4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに転換させるための反応混合物を形成する工程、
を包含する。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドを、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドから生成するための方法に関し、この方法は、以下:
(a)4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドを提供する工程であって、ここで、このハロ置換基は、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択される、工程;ならびに
(b)4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドを、ハロヒドリンデハロゲナーゼおよび求核試薬と、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドを、4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸またはアミドに転換するための反応混合物を形成するために適切な条件下で接触させる工程、
を包含する。
【0013】
さらなる実施形態において、本発明は、4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドを生成するための方法に関し、この方法は、以下:
(a)4−ハロ−3−ケト酪酸のエステルまたはアミドを提供する工程であって、ここ
、このハロ置換基は、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択される、工程;ならびに
(b)4−ハロ−3−ケト酪酸のエステルまたはアミドを、ケトレダクターゼ、補因子、補因子再生系、求核試薬、およびハロヒドリンデハロゲナーゼと接触させて、4−ハロ−3−ケト酪酸のエステルまたはアミドを、4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミドに転換するための反応混合物を形成する工程、
を包含する。
【0014】
別の局面において、本発明は、以下:
(a)ハロヒドリンデハロゲナーゼ;
(b)求核試薬;および
(c)4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸のエステルまたはアミド、
を含有する組成物に関する。
例えば、本発明は以下を提供する。
(項目1)
4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルから4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを、生成するための方法であって、該方法は、以下、
(a)4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを供給する工程であって、
ここで、ハロ置換基が、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択される、工程;ならびに
(b)該4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物を形成するために十分な条件下で、該4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを、ハロヒドリンデハロゲナーゼおよびシアニドと接触させる工程を包含する、方法。
(項目2)
前記4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルが、非ラセミ体キラル4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記シアニドが、シアン化水素によって供給される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記シアニドが、シアニド塩によって供給される、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルの前記ハロ置換基が、塩素および臭素から選択される、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルが、4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルである、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルが、低級アルキルエステルである、項目1に記載の方法。
(項目8)
項目1に記載の方法であって、ここで、
(1)前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルが、構造:
【化1】


を有し、そして、
(2)前記4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルが、構造:
【化2】


を有し、ここで、
Xは、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択されるハロゲンであって、
、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、フッ素、必要に応じて置換された低級アルキル、必要に応じて置換されたシクロアルキル、必要に応じて置換された低級アルケニル、必要に応じて置換されたアリール、必要に応じて置換されたアリールアルキル、アミノ、必要に応じて置換された低級アルキルアミノ、必要に応じて置換されたシクロアルキルアミノ、必要に応じて置換された低級アルコキシ、必要に応じて置換されたシクロアルコキシ、必要に応じて置換されたアリールオキシ、および必要に応じて置換されたアリールアルコキシからなる群から選択され;そして、
は、必要に応じて置換された低級アルキル、必要に応じて置換されたシクロアルキル、必要に応じて置換されたアリール、および必要に応じて置換されたアリールアルキルからなる群から選択される、
方法。
(項目9)
前記ハロヒドリンデハロゲナーゼが、天然に存在するハロヒドリンデハロゲナーゼである、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記ハロヒドリンデハロゲナーゼが、天然には存在しないハロヒドリンデハロゲナーゼである、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物が、約5〜約9の範囲のpHで維持される、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物が、約5〜約8の範囲のpHで維持される、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物が、約8以下のpHで維持される、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物が、さらに、pH緩衝液を含有する、項目1に記載の方法。
(項目15)
項目1に記載の方法であって、さらに、
(c)前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物を、約5以上のpHで維持するために十分な塩基を添加する工程、
を包含する、方法。
(項目16)
前記塩基が、水酸化物塩、炭酸塩、および重炭酸塩から選択される、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記塩基が、シアニド塩から選択される、項目15に記載の方法。
(項目18)
項目1に記載の方法であって、さらに、前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物から、該4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを回収する工程を包含する、方法。
(項目19)
項目16に記載の方法であって、さらに、前記4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを精製する工程を包含する、方法。
(項目20)
項目1に記載の方法であって、工程(a)が、
4−ハロ−3−ケト酪酸エステルを供給する工程であって、
ここで、前記ハロ置換基が、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択される、工程;そして、
該4−ハロ−3−ケト酪酸エステルを4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物を形成するために十分な条件下で、該4−ハロ−3−ケト酪酸エステルを、ケトレダクターゼ、補因子、および補因子再生系と接触させる工程、
を包含する、方法。
(項目21)
前記補因子がNAD/NADHである、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記補因子がNADP/NADPHである、項目20に記載の方法。
(項目23)
前記ケトレダクターゼが天然に存在するケトレダクターゼである、項目20に記載の方法。
(項目24)
前記ケトレダクターゼが天然には存在しないケトレダクターゼである、項目20に記載の方法。
(項目25)
前記補因子再生系がグルコースおよびグルコースデヒドロゲナーゼを含有する、項目20に記載の方法。
(項目26)
前記グルコースヒドロゲナーゼが天然に存在するグルコースデヒドロゲナーゼである、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記グルコースデヒドロゲナーゼが天然には存在しないグルコースデヒドロゲナーゼである、項目25に記載の方法。
(項目28)
前記補因子再生系がギ酸塩およびギ酸デヒドロゲナーゼを含有する、項目20に記載の方法。
(項目29)
前記ギ酸デヒドロゲナーゼが天然に存在するギ酸デヒドロゲナーゼである、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記ギ酸デヒドロゲナーゼが天然には存在しないギ酸デヒドロゲナーゼである、項目28に記載の方法。
(項目31)
項目20に記載の方法であって、ここで、
前記4−ハロ−3−ケト酪酸エステルが、構造:
【化3】


を有し、そして、
前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルが、構造:
【化4】

を有し、そして、
前記4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルが、構造:
【化5】


を有し、ここで、
Xは、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択されるハロゲンであって;
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、フッ素、必要に応じて置換された低級アルキル、必要に応じて置換されたシクロアルキル、必要に応じて置換された低級アルケニル、必要に応じて置換されたアリール、必要に応じて置換されたアリールアルキル、アミノ、必要に応じて置換された低級アルキルアミノ、必要に応じて置換されたシクロアルキルアミノ、必要に応じて置換された低級アルコキシ、必要に応じて置換されたシクロアルコキシ、必要に応じて置換されたアリールオキシ、および必要に応じて置換されたアリールアルコキシからなる群から選択され、そして、
は、必要に応じて置換された低級アルキル、必要に応じて置換されたシクロアルキル、必要に応じて置換されたアリール、および必要に応じて置換されたアリールアルキルからなる群から選択される、
方法。
(項目32)
前記4−ハロ−3−ケト酪酸エステルを4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物が、約5〜約10の範囲のpHで維持される、項目20に記載の方法。
(項目33)
前記4−ハロ−3−ケト酪酸エステルを4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物が、さらに、緩衝液を含有する、項目20に記載の方法。
(項目34)
項目25に記載の方法であって、さらに、
前記4−ハロ−3−ケト酪酸エステルを4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物を、約5以上のpHで維持するために十分な塩基を添加する工程、を包含する、方法。
(項目35)
4−ハロ−3−ケト酪酸エステルから4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを生成するための方法であって、該方法は、以下、
(a)4−ハロ−3ケト酪酸エステルを供給する工程であって、
ここで、ハロ置換基が、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択される、工程;ならびに
(b)該4−ハロ−3−ケト酪酸エステルを4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに変換するための反応混合物を形成するために、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルを、ケトレダクターゼ、補因子、補因子再生系、シアニド、およびハロヒドリンデハロゲナーゼ
と接触させる工程、
を包含する、方法。
(項目36)
4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドから4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸アミドを生成するための方法であって、該方法は、以下:
(a)4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドを供給する工程であって、
ここで、ハロ置換基が、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択される、工程;および
(b)該4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは該4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドを4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸または4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸アミドに変換するための反応混合物を形成するために、適した条件下で、該4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは該4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドを、ハロヒドリンデハロゲナーゼおよび求核試薬と接触させる工程、
を包含する、方法。
(項目37)
項目36に記載の方法であって、ここで、
前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは前記4−ハロ−3−ヒドロキシ
酪酸アミドが、構造:
【化6】


を有する4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルであって、そして、
(2)前記4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは前記4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸アミドが、構造:
【化7】


を有する4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルであって、ここで、
Xは、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択されるハロゲンであって;
、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、フッ素、必要に応じて置換された低級アルキル、必要に応じて置換されたシクロアルキル、必要に応じて置換された低級アルケニル、必要に応じて置換されたアリール、必要に応じて置換されたアリールアルキル、アミノ、必要に応じて置換された低級アルキルアミノ、必要に応じて置換されたシクロアルキルアミノ、必要に応じて置換された低級アルコキシ、必要に応じて置換されたシクロアルコキシ、および必要に応じて置換されたアリールオキシ、必要に応じて置換されたアリールアルコキシからなる群から選択され;そして、
は、必要に応じて置換された低級アルキル、必要に応じて置換されたシクロアルキル、必要に応じて置換されたアリール、および必要に応じて置換されたアリールアルキルからなる群から選択され;そして
Nuは、−CN、−Nおよび−ONOからなる群から選択される、
方法。
(項目38)
項目36に記載の方法であって、ここで、
(1)前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドが、構造:
【化8】


を有する4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドであって、そして、
(2)前記4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドが、構造:
【化9】


を有する4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルであって、ここで、
Xは、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択されるハロゲンであって;
、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、フッ素、必要に応じて置換された低級アルキル、必要に応じて置換されたシクロアルキル、必要に応じて置換された低級アルケニル、必要に応じて置換されたアリール、必要に応じて置換されたアリールアルキル、アミノ、必要に応じて置換された低級アルキルアミノ、必要に応じて置換されたシクロアルキルアミノ、必要に応じて置換された低級アルコキシ、必要に応じて置換されたシクロアルコキシ、必要に応じて置換されたアリールオキシ、および必要に応じて置換されたアリールアルコキシからなる群から選択され;そして、
およびRは、それぞれ独立に、水素、必要に応じて置換された低級アルキル、必要に応じて置換されたシクロアルキル、必要に応じて置換されたアリール、および必要に応じて置換されたアリールアルキルからなる群から選択され;そして
Nuは、−CN、−Nおよび−ONOからなる群から選択される、
方法。
(項目39)
項目36に記載の方法であって、工程(a)が、
4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ケト酪酸アミドを供給する工程であって、
ここで、前記ハロ置換基が、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択される、工程;そして、
該4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドを前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは前記4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドに変換するための反応混合物を形成するために適した条件下で、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドを、ケトレダクターゼ、補因子、および補因子再生系と接触させる工程、
を包含する、方法。
(項目40)
4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドを生成するための方法であって、該方法は、以下:
(a)4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ケト酪酸アミドを供給する工程であって、
ここで、ハロ置換基が、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択される、工程;および
(b)該4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたは該4−ハロ−3−ケト酪酸アミドを4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸アミドに変換するための反応混合物を形成するために、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ケト酪酸アミドを、ケトレダクターゼ、補因子、補因子再生系、求核試薬およびハロヒドリンデハロゲナーゼと接触させる工程、
を包含する、方法。
(項目41)
組成物であって、以下:
(a)ハロヒドリンデハロゲナーゼ;
(b)求核試薬;および
(c)4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミド
を含有する、組成物。
(項目42)
求核試薬がシアニドである、項目41に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例21に記載されるような、種々のpHの水溶液中での、ハロヒドリンデヒドロゲナーゼ(HHDH)の存在下または非存在下での、4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルのシアン化物との試験反応において分析された、4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチル(クロロヒドリン)および4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エチル(シアノヒドリン)の量を示す。
【図2】図2は、p15A複製起点(p15ori)、lacIレプレッサ、T5プロモーター、T7リボソーム結合部位(T7g10)、およびクロラムフェニコール体制遺伝子(camR)を含む、本発明の3944bpの発現ベクター(pCK110700)を示す。
【図3】図3は、p15A複製起点(p15ori)、lacIレプレッサ、CAP結合部位、lacプロモーター(lac)、T7リボソーム結合部位(T7g10RBS)、およびクロラムフェニコール体制遺伝子(camR)を含む、本発明の4036bpの発現ベクター(pCK110900)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明は、対応する4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステル基質および4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミド基質に由来する種々の4−置換された3−ヒドロキシ酪酸エステルおよび4−置換された3−ヒドロキシ酪酸アミドを生成するための酵素的方法を提供する。
【0017】
(1.4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸誘導体のハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒変換)
本発明は、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドに由来する4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸アミドを生成するための方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:
(a)4−ハロ−3ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3ヒドロキシ酪酸アミドを提供する工程であって、
ここで、そのハロ置換基が、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択される、工程;ならびに
(b)その4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドを、4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸アミドに変換するための反応混合物を形成するために適切な条件下で、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドを、ハロヒドリンデハロゲナーゼおよび求核剤と接触させる工程。重要なことには、本発明の方法は、4−置換3−ヒドロキシ酪酸エステルおよび4−置換3−ヒドロキシ酪酸アミドの製造のためのプロセスを提供し、この方法において、副生成物形成は、最小にされる。
【0018】
本発明の実施において使用するために適した求核剤は、その4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステル基質または4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミド基質のハロ置換基を置換し得る求核剤である。本発明において利用される代表的な求核剤は、アニオン性求核剤である。例示的な求核剤としては、シアニド(CN)、アジド(N)、および亜硝酸(ONO)が挙げられる。
【0019】
特定の実施形態において、本発明は、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドから、ハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒反応を介して、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸アミドを生成するための方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:
(a)4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドを提供する工程であって、
ここで該ハロ置換基は、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択される、工程;
ならびに
(b)その4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドを、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸アミドに変換するための反応混合物を形成するために適した条件下で、その4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドと、ハロヒドリンおよびデハロゲナーゼおよびシアニドとを接触させる工程。
【0020】
本明細書中で使用される場合、用語「シアニド」とは、シアニドアニオン(CN)、シアン化水素(HCN)およびこれらの混合物をいう。シアニドは、シアニド塩、代表的には、アルカリ塩(例えば、NaCN、KCNなど)の形態において、シアン化水素(気体または溶液中)、あるいはこれらの混合物の形態において提供され得る。
【0021】
本発明の実施において使用される4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルおよび4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸は、本明細書中に記載される方法に従って調製され得るか、または代わりに当業者に周知の方法に従って調製され得る。このような方法は、例えば、米国特許第5,891,685号;Hallinanら,Biocatalysis and
Biotransformation,12:179−191(1995);Russ.Chem.Rev.,41:740(1972);Kataokaら,Appl.Microbiol.Biotechnol.,48:699−703(1997);および米国特許第5,430,171号に記載される。
【0022】
本発明の実施において使用される適切な4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステル基質および4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミド基質は、それぞれ、構造IAおよびIBを有する基質を包含する:
【0023】
【化10】

ここでXは、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択されるハロゲンであり;
、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、フッ素、必要に応じて置換された低級アルキル、必要に応じて置換されたシクロアルキル、必要に応じて置換された低級アルケニル、必要に応じて置換されたアリール、必要に応じて置換されたアリールアルキル、アミノ、必要に応じて置換された低級アルキルアミノ、必要に応じて置換されたシクロアルキルアミノ、必要に応じて置換された低級アルコキシ、必要に応じて置換されたシクロアルコキシ、必要に応じて置換されたアリールオキシ、および必要に応じて置換されたアリールアルコキシからなる群より選択され;そして
は、必要に応じて置換された低級アルキル、必要に応じて置換されたシクロアルキル、必要に応じて置換されたアリール、および必要に応じて置換されたアリールアルキルからなる群より選択され;そして
およびRは、各々独立して、水素、必要に応じて置換された低級アルキル、必要に応じて置換されたシクロアルキル、必要に応じて置換されたアリール、および必要に応じて置換されたアリールアルキルからなる群より選択される。
【0024】
「必要に応じて置換された」とは、水素を一価のラジカルで置換することをいう。適切な置換基としては、例えば、ヒドロキシル、アルキル、低級アルキル、アルコキシ、低級アルコキシ、アルケニル、低級アルケニル、ニトロ、アミノ、シアノ、ハロゲン(すなわち、ハロ)、チオなどが挙げられる。
【0025】
用語「低級アルキル」とは、置換されていないか、または例えば、1つ以上のハロ、ヒドロキシルまたは他の基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、トリフルオロメチルなどが挙げられる)で置換された、1個〜約6個の炭素原子を有する分枝状または直鎖状のアルキル基をいうために本明細書中で使用される。用語「シクロアルキル」とは、3個〜約6個の炭素原子を有する炭素環式アルキル部分、および3個〜約6個の原子を有する複素環式アルキル部分をいい、ここで少なくとも1つの環原子は、ヘテロ原子であり、他の原子は、炭素原子である。「ヘテロ原子」とは、本明細書中で、酸素、窒素または硫黄をいう。
【0026】
用語「低級アルケニル」とは、1個以上の二重結合および2個〜約6個の炭素原子を有する分枝状または直鎖状の基をいうために本明細書中で使用される。本発明の実施において使用される低級アルケニル基は、本明細書中に記載される基(例えば、ハロ、ヒドロキシル、低級アルキルなどを含む)で必要に応じて置換されていてもよい。
【0027】
本明細書中で使用される場合、用語「低級アルコキシ」とは、Rが低級アルキルまたは低級アルケニルである−ORをいう。本発明の実施において使用される適切な低級アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、t−ブトキシ、トリフルオロメトキシなどが挙げられる、用語「アリールオキシ」とは、本明細書中で、RがアリールであるRO−をいう。本明細書中で使用される場合、用語「アリール」とは、3〜約14個の骨格炭素またはヘテロ原子を有する単環式芳香族基および多環式芳香族基をいい、炭素環式アリール基および複素環式アリール基の両方を含む。炭素環式アリール基は、芳香族環における全ての還元しが炭素であるアリール基である。複素環式アリール基は、芳香族環における環原子として1個〜約4個のヘテロ原子を有し、環原子の残りが炭素原子であるアリール基である。本発明において置換基として使用される例示的なアリール基としては、例えば、フェニル、ピリジル、ピリミジニル、ナフチルなどが挙げられる。
【0028】
用語「アリールアルキル」とは、本明細書中で、アリール基で置換されたアルキル基をいう。例示的なアリールアルキル基としては、ベンジル、ピコリルなどが挙げられる。置換されたアリールアルキル基は、アリールアルキル基のアリール部分およびアルキル部分のいずれかまたは両方が置換され得る。本明細書中で使用される場合、用語「アリールアルコキシ」とは、RがアリールアルキルであるRO−をいう。
【0029】
用語「シクロアルコキシ」とは、本明細書中で、Rが必要に応じて置換されたC〜CシクロアルキルであるRO−をいう。用語「アミノ」とは、基−NHをいうために本明細書中で使用される。用語「低級アルキルアミノ」とは、本明細書中で、Rが水素または低級アルキルであり、R’が低級アルキルである基−NRR’をいう。用語「シクロアルキルアミノ」とは、本明細書中で、Rが必要に応じて置換された、3個〜約8個の炭素原子を有する二価脂肪族ラジカルであり、よって、NおよびRが、環式構造(例えば、ピロリジノ、ピペリジノなど)を形成する、基−NRをいう。
【0030】
本発明の実施において使用され得る化合物IAの特定の4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルとしては、4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルエステル(すなわち、Xが塩素であり、R、R、R、R、およびRが水素であり、Rがエチルである)、4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸メチルエステル(すなわち、Xが塩素であり、R、R、R、R、およびRが水素であり、Rがメチルである)、4−ブロモ−3−ヒドロキシ酪酸エチルエステル(すなわち、Xが臭素であり、R、R、R、R、およびRが水素であり、Rがエチルである)、4−ブロモ−3−ヒドロキシ酪酸メチルエステル(すなわち、Xが臭素であり、R、R、R、R、およびRが水素であり、Rがメチルである)、t−ブチル−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エステル(すなわち、Xが塩素であり、R、R、R、R、およびRが水素であり、Rがt−ブチルである)、t−ブチル−4−ブロモ−3−ヒドロキシ酪酸エステル(すなわち、Xが臭素であり、R、R、R、R、およびRが水素であり、Rがt−ブチルである)、およびt−ブチル−4−ヨード−3−ヒドロキシ酪酸エステル(すなわち、Xがヨウ素であり、R、R、R、R、およびRが水素であり、Rがt−ブチルである)が挙げられる。特定の実施形態において、R、R、R、R、およびRのうちの少なくとも1つは、低級アルキル(例えば、メチル、エチル、またはプロピルである)である。
【0031】
本発明の実施において使用され得る化合物IBの適切な4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドとしては、4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸アミド(すなわち、Xが塩素であり、R、R、R、R、R、R、およびRが水素である)、4−ブロモ−3−ヒドロキシ酪酸アミド(すなわち、Xが臭素であり、R、R、R、R、R、R、およびRが水素である)、4−ヨード−3−ヒドロキシ酪酸アミド(すなわち、Xがヨウ素であり、R、R、R、R、R、R、およびRが水素である)が挙げられる。特定の実施形態において、R、R、R、R、およびRのうちの少なくとも1つは、低級アルキル(例えば、メチル、エチル、またはプロピルである)である。
【0032】
4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステル基質および4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミド基質の4−ハロ置換基は、好ましくは、エンドおよび臭素から選択される。特に好ましいのは、4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エステル基質および4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸アミド基質である。
【0033】
本発明の方法において生成される4−置換−ヒドロキシ酪酸エステルおよび4−置換−ヒドロキシ酪酸アミドは、それぞれ、以下の構造IIAおよびIIBを有する基質を包含する:
【0034】
【化11】

ここでR、R、R、R、R、R、R、およびRは、構造IAおよびIBにおいて規定されるとおりであり;そして
Nuは、−CN、−N、および−ONOからなる群から選択される。
【0035】
化合物IAの構造を有する4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステル基質を、シアニドおよびハロヒドリンデハロゲナーゼと反応させる場合、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステル生成物が生成され、以下の化合物IIIの構造を有する:
【0036】
【化12】

ここでR、R、R、R、R、およびRは、構造IAにおいて規定されるとおりである。
【0037】
ハロヒドリンデハロゲナーゼは、求核剤の存在下で、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドを、対応する4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸アミドに変換することを触媒するために本発明の実施において使用される。用語「ハロヒドリンデハロゲナーゼ」および「HHDH」は、本発明のプロセスにおいて、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルおよび/または4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドを、シアニドのような求核剤の存在下で、それぞれ、4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルおよび/または4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸アミドへ変換することを触媒する酵素をいうために、本明細書中で交換可能に使用される。適切なハロヒドリンデハロゲナーゼとしては、天然に存在する(野生型)ハロヒドリンデハロゲナーゼ、ならびにヒトの操作によって生成される天然に存在しないハロヒドリンデハロゲナーゼが挙げられる。例示的な天然に存在するハロヒドリンデハロゲナーゼおよび天然に存在しないハロヒドリンデハロゲナーゼならびに天然に存在するハロヒドリンデハロゲナーゼコードポリヌクレオチドおよび天然に存在しないハロヒドリンデハロゲナーゼコードポリヌクレオチドは、本明細書中に記載されるものを包含する。
【0038】
天然に存在するハロヒドリンデハロゲナーゼコード遺伝子は、Agrobacterium radiobacter AD1(hheC)、Agrobacterium tumefaciens(halB)、Corynebacterium sp.(hheAコードIaおよびhhBコードIb)、Arthrobacter sp.(hheAAD2)、およびMycobacterium sp.GP1(hheBGP1)において同定された。See van Hylckama Vlieg,J.E.T.,L.Tang,J.H.Lutje Spelberg,T.Smilda,G.J.Poelarends,T.Bosma,A.E.J.van Merode,M.W.Fraaije&Dick B.Janssen,「Halohydrin Dehalogenases are structurally and mechanistically related to short−chain dehydrogenases/reductases(2001) Journal of Bacteriology,183:5058−5066(アラインメントにおいてこれらのハロヒドリンデハロゲナーゼのアミノ酸配列を提供する)を参照のこと。
【0039】
これらの天然に存在するハロヒドリンデハロゲナーゼは、ある程度まで特徴づけられている。Agrobacterium radiobacter AD1に由来するHHDHは、28kDサブユニットのホモ四量体である。Corynebacterium sp.N−1074は、2つのHHDH酵素を生成し、そのうちの一方は、28kDサブユニット(Ia)から構成される一方で、他方は、35kDおよび/または32kD(Kb)の関連するサブユニットから構成される。それらのサブユニットの解離をもたらすプロセスにおいて、酸化条件下で容易に不活性化される、いくつかの供給源に由来するHHDHは、pH8〜9の広い至適pHおよび50℃の至適温度を有する(Tang,Enz.Microbiol.Technol.(2002)30:251−258;Swanson,Curr.Opinion Biotechnol.(1999)10:365−369)を参照のこと。HHDH触媒エポキシド形成のための至適pHは、8.0〜9であり、その至適温度は、45〜55℃の範囲である(Van Hylckama Vliegら,J.Bacteriol.(2001)183:5058−5066;Nakamuraら,Appl.Environ.Microbiol.(1994)60:1297−1301;Nagasawaら,Appl.Microbiol.Biotechnol.(1992)36:478−482)。逆反応のための至適pH、塩素による開環は、2つのCornebacterium sp.N−1074酵素について報告されており、7.4(Ia)または5(Ib)である。AD1に由来するハロヒドリンデハロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドは、本明細書中に、配列番号13、15および17として提供される。配列番号13、15、および17に対応するそのポリヌクレオチドは、同じアミノ酸配列をコードする改変体である(その転写された配列は、配列番号14、16および18として提供される)。
【0040】
天然に存在しないハロヒドリンデハロゲナーゼは、公知の方法を使用して生成され得る。その公知の方法としては、例えば、変異誘発、指向性進化などが挙げられる。いくつかの例示的方法が、本明細書中以降に記載される。その酵素は、実施例4に記載される方法を使用して、活性について容易にスクリーニングされ得る。このようなスクリーニング方法はまた、他の天然に存在するハロヒドリンデハロゲナーゼの同定に容易に適用され得る。適切な天然に存在しないハロヒドリンデハロゲナーゼは、配列番号24(HHDH B−03)、配列番号26(HHDH C−04)、配列番号28(HHDH E−01)、配列番号30(HHDH G−08)、32(HHDH2G5)、配列番号34(HHDH Mzl.1A5)、配列番号36(HHDH cys1.10)、配列番号38(HHDH cys2.12)、配列番号74(HHDH B−12)、配列番号76(HHDH Mzl/4H6)、配列番号78(HHDH F−04)、配列番号80(HHDH A−08)、配列番号82(HHDH G9)、配列番号84(HHDH F9)、配列番号86(HHDH H10)、配列番号88(HHDH A1)、配列番号90(HHDH A−03)、および配列番号92(HHDH E−03)に対応するものを包含する。これらのハロヒドリンデハロゲナーゼをコードする例示的なポリヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号73、配列番号75、配列番号77、配列番号79、配列番号81、配列番号83、配列番号85、配列番号87、配列番号89、および配列番号91に対応するポリヌクレオチド配列を包含する。本発明の実施において使用するために適切した、さらなる天然に存在しないハロヒドリンデハロゲナーゼは、代理人整理番号0353.110USに対応し、米国特許出願第 号が付与されたする、標題「Improved Halohydrin Dehalogenases and Related Polynucleotides」という特許出願(2003年8月11日)(その全体が本明細書中に参考として援用される)に提供される。
【0041】
本発明の実施において使用するために適したハロヒドリンデハロゲナーゼは、天然に存在しても、天然に存在しなくても、実施例4に記載される方法を用いて、当業者によって容易に同定され得る。本発明の実施において使用されるハロヒドリンデハロゲナーゼは、代表的には、目的の4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステル基質または4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミド基質を使用して、実施例4に記載されるアッセイにおいて、少なくとも約1μmol/分/mgの活性を示す。本発明の実施において使用されるハロヒドリンデハロゲナーゼは、実施例4に記載されるアッセイにおいて、少なくとも約10μmol/分/mg、ときおり、少なくとも約10μmol/分/mgの活性、および約10μmol/分/mgまでもしくはそれ以上の活性を示し得る。
【0042】
ハロヒドリンデハロゲナーゼは、精製酵素、細胞抽出物、細胞溶解物、またはハロヒドリンデハロゲナーゼをコードする遺伝子で形質転換された全細胞の形態において、反応混合物に提供され得る。ハロヒドリンデハロゲナーゼコード遺伝子で形質転換された全細胞ならびに/またはその細胞抽出物および/もしくは細胞溶解物は、種々の異なる形態(固体(例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥など)または半固体(例えば、粗製ペースト)が挙げられる)において使用され得る。その細胞抽出物または細胞溶解物は、沈澱(硫酸アンモニウム、ポリエチレンイミン、熱処理など)、その後の凍結乾燥前の脱塩手順(例えば、限外濾過、透析など)によって、部分的に精製され得る。任意の細胞調製物が、公知の架橋剤(例えば、グルタルアルデヒド)または固相(例えば、Eupergit Cなど)への固定化を用いて架橋することによって安定化され得る。
【0043】
固体反応物(例えば、酵素、塩など)は、種々の異なる形態(粉末(例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥など)、溶液、エマルジョン、懸濁液などを含む)において提供され得る。この反応物は、当業者に公知の方法および装置を用いて、容易に凍結乾燥または噴霧乾燥され得る。例えば、そのタンパク質溶液は、少量のアリコートにおいて−80℃で凍結され得、次いで、予め冷却した凍結乾燥チャンバに入れられ、続いて、真空適用される。サンプルから水分を除去した後、温度は、代表的には、真空を取り除いて凍結乾燥サンプルを回収する前に、2時間にわたって4℃まで上昇される。
【0044】
4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステル基質または4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸基質を対応する4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステル生成物または4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸アミド生成物へ変更することを行うにあたって、その基質は、代表的には、溶媒中のハロヒドリンデハロゲナーゼおよび求核剤と接触される。4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸アミドを、4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたは4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸アミドに変換することを行うための適切な溶媒としては、水、有機溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、1−オクタノール、ヘプタン、オクタン、メチルt−ブチルエーテル(MTBE)、トルエンなど)、イオン性液体(例えば、1−エチル4−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートなど)、および共溶媒系(水性共溶媒系などを含む)が挙げられる。好ましい溶媒は、水性溶媒(水および水性共溶媒系を含む)である。
【0045】
例示的な水性共溶媒系は、水および1種以上の有機溶媒を有する。一般に、水性共溶媒系の有機溶媒成分は、その有機溶媒成分が、本発明の方法において使用される酵素触媒を不活性化しないように選択される。適切な共溶媒系は、実施例4に記載される酵素アッセイを利用して、候補溶媒系において、目的の基質で酵素活性を測定することによって容易に同定され得る。
【0046】
水性共溶媒系の有機溶媒成分は、水性成分と混和性であり得、単一の液体相を提供するか、あるいは水性成分と部分的に混和性または非混和性であり得、2つの液体相を提供する。代表的には、水性共溶媒系が使用される場合、二相であるように選択され、水が有機溶媒中に分散されるか、またはその逆である。一般的に、水性共溶媒系が利用される場合、水相から容易に分離され得る有機溶媒を選択することが望ましい。一般的に、共溶媒系中の水:有機溶媒の比は、代表的に、約90:10〜約10:90(v/v)の範囲の有機溶媒:水、および80:20と20:80(v/v)との間の有機溶媒:水である。共溶媒系は、反応混合物に添加する前に予め形成され得るか、または反応容器中でインサイチュで形成され得る。
【0047】
水性溶媒(水または水性共溶媒系)は、pH緩衝化され得るかまたは緩衝化されない。4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドの、4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへの変換は、約5以上のpHで実行され得る。一般的に、この変換は、約10以下のpH、または通常、約5〜約10の範囲で、実行される。代表的に、この変換は、約9以下のpH、通常、約5〜約9の範囲である。好ましくは、この変換は、約8以下のpH、通常、約5〜約8の範囲、より好ましくは、約6〜約8の範囲である。この変換はまた、約7.8以下のpH、または7.5以下で実行され得る。あるいは、この変換は、中性のpH、すなわち、約7で実行され得る。
【0048】
変換の過程の間、反応混合物のpHは、変化し得る。反応混合物のpHは、変換の過程の間、酸または塩基の添加によって、所望のpHまたは所望のpHの範囲で維持され得る。あるいは、pHの変化は、緩衝液を含む水性溶媒を使用することによって制御され得る。所望のpH範囲を維持するための適切な緩衝液は、当該分野で公知であり、例えば、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液などが挙げられる。緩衝剤および酸または塩基の添加の組み合わせがまた使用され得る。
【0049】
上に記載されるように、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸誘導体への変換が所望される場合、シアニドは、シアニド塩、代表的にアルカリ塩(例えば、NaCN、KCNなど)の形態で、ヒドロシアン酸(気体または溶液)の形態で、あるいはこれらの混合物で提供され得る。ヒドロシアノ酸は、弱酸である。そのpKa(pKa=水中で9.1)のいくつかのpH単位内の水溶液で、シアニドは、平衡濃度において、CNおよびHCNの両方として存在する。約9以下のpH値で、シアニドは、主にHCNとして存在する。
【0050】
シアニドがシアニド塩によって提供される場合、反応混合物は、代表的に、緩衝化または酸性化またはその両方で、所望のpHを提供する。塩基性シアニド塩溶液の酸性化のための適切な酸としては、有機酸(例えば、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸など)、鉱酸(例えば、ヒドロハロ酸(例えば、塩酸)、硫酸、リン酸など)、酸性塩(例えば、リン酸二水素塩(例えば、KHPO)、重硫酸塩(例えば、NaHSO)など、ならびにシアン化水素が挙げられる。シアン化物塩を酸性化するために使用される酸または酸塩は、得られる溶液中で緩衝液を提供するために選択され得る。例えば、リン酸またはリン酸二水素塩での酸性化は、リン酸緩衝液範囲(約pH6〜8)においてHCNのリン酸緩衝化溶液を提供するために使用され得る。
【0051】
シアン化物がシアン化水素およびそのように作製されるよりも高いpHによって提供される場合、反応混合物は、代表的に、所望のpHを提供するために、緩衝されるか、または塩基を添加することによって、あまり酸性にされない。シアン化水素の中和のための適切な塩基は、有機塩基(例えば、アミン、アルコキシドなど)、および無機酸(例えば、水酸化物塩(例えば、NaOH)、炭酸塩(例えば、NaHCO)、重炭酸塩(例えば、KCO)、塩基性リン酸塩(例えば、KHPO、NaPO)など、ならびにシアン化物塩である。
【0052】
シアン化物が主にHCNとして存在する約9以下のpH値について、式(1)は、非緩衝化水性反応混合物中での4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルとHCNとのハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒反応を記載する。
【0053】
【化13】

シアン化水素の消費、弱い酸(pKa約9)およびハロ水素酸の放出、強酸(pKa<0)は、水性ハロ水素酸(H+X)がそれ以外で中和されない場合、反応混合物のpHを低下させる。反応混合物のpHは、標準的な緩衝化技術によって所望のレベルに維持され得、ここで、この緩衝液は、提供される緩衝化能力まで、または変換の過程で同時に塩基の添加によって、中和される。このような添加は、反応混合物のpHをモニターしながら手動で、またはより簡便には、pHスタットのような自動滴定器を使用することによってなされ得る。部分緩衝化能力および塩基添加の組み合わせがまたプロセス制御のために使用され得る。
【0054】
pHが変換の過程にわたって緩衝化または塩基の添加によって維持される場合、水性ハロ水素酸よりもハロゲン化物塩が、全体のプロセスの生成物である。例えば、式(2)は、水性水酸化ナトリウム(Na+OH)が、最初のpHを約9以下に維持するために反応の過程にわたって添加される場合、全体のプロセスを表す。
【0055】
【化14】

シアン化物塩が塩基として添加されて、生成物であるハロ水素酸を中和する実施形態において、中和は、HCNを再生し、全体のシアン化物濃度(HCN+CN)ならびに反応混合物中のpHを維持する。これは、そうでなければ、変換の速度が、シアン化物濃度が減少するにつれて、減少する場合、有利であり得る。例えば、式(3)は、水性シアン化ナトリウム(Na+CN)が、最初のpHを維持するために反応の過程にわたって添加される場合、全体のプロセスを表す。シアン化物が反応混合物中において主にHCNとして存在する間、HCN濃度は、維持されるが、一方、正味のこの変換は、添加される塩基シアン化物塩を消費する。
【0056】
【化15】

塩基の添加が、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドの、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへのハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒反応の間に放出されるハロ水素酸を中和するために使用される場合、この変換の進行は、pHを維持するために添加される塩基の量によってモニターされ得る。代表的には、変換の過程にわたって、非緩衝化または部分的に緩衝化した反応混合物へ添加される塩基は、水溶液中で添加される。
【0057】
求核剤が、反応溶液の初期pHより有意に下のpKaを有する強酸の共役アニオンである場合、求核剤は、主にそのアニオン形態で存在し、その結果、HCNとは異なり、その反応においてプロトンが放出されない。従って、このような求核剤の反応における反応混合物pHは、化学量論の緩衝液または塩基の添加無しに維持され得る。例えば、アジドの共役酸、アジ化水素酸は、4.7のpKaを有し、亜硝酸塩の共役酸、亜硝酸は、3.3のpKaを有する。従って、中性pHにおいて、求核剤は、それぞれ、NおよびONO由来のアニオン形態で主に存在する。すなわち、中性反応混合物は、それぞれ、水性アジドおよび亜硝酸塩を含む。このような混合物中でのこれらの反応は、ハロゲン化物アニオンを放出して、水性ハロゲン化物塩を形成し、水性ハロ水素酸を形成しない。
【0058】
当業者は、例えば、実施例4の方法によって決定されるHHDHの活性に基づく、使用されるHHDH、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミド基質および求核剤の量、所望の生成物の量などを、容易に、決定し得る。説明するために、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドの量は、約10mg〜約30gのハロヒドリンデハロゲナーゼを使用して、約10〜約500g/Lの範囲であり得る。求核剤の化学量論量は、容易に決定され得る。さらなる例示的な例を本明細書中に提供する。
【0059】
本発明のHHDH触媒変換を実行するための適切な条件は、HHDH、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミド基質、および求核剤を、実験pHおよび温度で接触させ、そして例えば、本明細書中に提供される実施例に記載される方法を使用して、生成物を検出することを含む、慣用的な実験によって容易に最適化され得る。4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドの、4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへのHHDH触媒変換は、代表的に、約15℃〜約75℃の範囲の温度で実行される。より代表的には、この反応は、約20℃〜約55℃の範囲、代表的には、約20℃〜約45℃の範囲の温度で実行される。この反応はまた、周囲条件で実行され得る。
【0060】
4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドの、4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドのHHDH触媒変換は、一般的に、基質の本質的に完全なまたは完全近くの変換まで、進行し得る。基質の生成物への変換は、基質および/または生成物を検出することによって、公知の方法を使用してモニターされ得る。適切な方法としては、ガスクロマトグラフィー、HPLCなどが挙げられる。反応混合物中で生成される4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドの収率は、一般的に、約50%よりも大きく、約60%よりも多くあり得、約70%よりも多くあり得、約80%よりも多くあり得、しばしば、約90%よりも多い。
【0061】
4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドは、反応混合物から収集され得、必要に応じて、当業者に周知の方法および実施例に記載の方法を使用して精製され得る。
【0062】
本発明の好ましい4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミド基質は、キラルであり、3位においてステレオジェン(stereogenic)があり、ラセミまたは非ラセミであり得る。本発明のプロセスにおいて使用される特定のハロヒドリンデハロゲナーゼ酵素は、キラル基質を4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドに、ステレオジェンの3位における絶対的な立体化学を保持して、変換する。非ラセミキラル4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミド基質は、立体純度をほとんどまたは全く失わずに、実質的に等しい非ラセミ4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドに変換され得る。実施例は、本発明の実施形態が高いエナンチオ純度を提供することを示す。(立体化学を指定するための決まり事に起因して、(S)として指定されるエチル4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートのエナンチオマーおよび(R)として指定されるエチル4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートは、3−位において同一の立体化学を有する)。
【0063】
本発明の他の実施形態において、特定のハロヒドリンデハロゲナーゼ酵素は、キラル4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミド基質の1つの立体異性体について立体特異的であり得る。このような立体特異的な酵素を使用する本発明のプロセスは、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドの立体異性体混合物(例えば、ラセミ混合物)の1つの立体異性体と反応し、一方で、他の立体異性体を実質的に未反応のままにして混合物の動力学的分割を提供するために使用され得る。
【0064】
本発明のさらに有意な特徴は、生成される4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミド生成物の純度が、大規模な精製手順(例えば、減圧蒸留)の必要なしに非常に高いことである。代表的に、本発明の方法によって精製される4−求核剤置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミド生成物の純度は、少なくとも約80%、通常、少なくとも約90%、代表的に、少なくとも約95%である。生成物の純度は、HPLCまたはガスクロマトグラフィーのような従来の方法によって決定され得る。
【0065】
(II.ハロヒドリンのケトレダクターゼ触媒生成)
本発明は、さらに、以下による、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドを作製するための酵素方法を提供する:
(a)4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドを提供する工程であって、ここで、このハロ置換基が、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択される、工程;および
(b)4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドを4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドに変換するための反応混合物を形成するのように適切な条件下で、この4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドをケトレダクターゼ、補因子、および補因子再生系と接触させる、工程。
【0066】
用語「ケトレダクターゼ」および「KRED」は、本発明のプロセスにおいて、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドの、対応する4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへの還元を触媒する酵素をいうために、本明細書中で交換可能に使用される。このような酵素活性は、本明細書中以下で実施例4に記載されるようなアッセイで検出され得る。
【0067】
本明細書中で使用される場合、用語「補因子」は、目的の反応を触媒する酵素と組み合わせて操作する非タンパク質化合物をいう。本発明の実施において使用される適切な補因子としては、NADP(ニコチンアミド−アデニンジヌクレオチドホスフェート)、NADPH(すなわち、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートの還元形態)、NAD(すなわち、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)、およびNADH(すなわち、NADの還元形態)などが挙げられる。補因子の還元形態は、補因子再生系を用いて酸化された補因子を還元することによって再生される。
【0068】
本発明のプロセスにおいて、ケトレダクターゼは、補因子の還元形態による、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドの還元を触媒する。式(4)は、NADHまたはNADPHによる4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドのケトレダクターゼ触媒還元を記載する。
【0069】
【化16】

4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドの、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへの還元を実行するための適切なケトレダクターゼは、天然に存在するケトレダクターゼ、およびヒトの操作によって生成される非天然のケトレダクターゼの両方を含む。例示的な天然および非天然のケトレダクターゼおよびケトレダクターゼコードポリヌクレオチドとしては、本明細書中に記載されるものが挙げられる。
【0070】
天然に存在するKRED酵素は、幅広い範囲の細菌および酵母において見いだされ得る。いくつかの天然に存在するKRED遺伝子および酵素の配列は、文献において報告されている:例えば、Candida magnoliae(Genbank Acc.No.JC7338;GI:11360538)、Candida parapsilosis(Genbank Ac.No.BAA24528.1;GI:2815409)、Sporobolomyces salmicolor(Genbank Acc.No.AF160799;GI 6539734)。Candida magnoliae由来のケトレダクターゼをコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号1(CR2−5)、3(CR1−2)、5(CR1−3)、および7(CR2−4)として提供される。配列番号1(CR2−5)、5(CRl−3)、および7(CR2−4)は、C.magncliaeタンパク質をコードする改変体である(配列番号:2、6、および8)。配列番号3(CRl−2)は、1つのアミノ酸変化によってC.magncliaeタンパク質とは異なる改変体をコードする。β−ケトエステルの酵素的還元は、Rhodococcus erythropolis(Peters.Appl.Microbiol.Biotechnol.(1992)38:334−340;Zelinski,J.Biotechnol.(1994)33:283−292)由来のカルボニルレダクターゼ、Sporoboromyces salmonicolor AKU 4429(Shimizu.Biotechnol.Lett.(1990)12:593−596;Appl.Environ.Microbiol.(1990)56:2374−2377)由来のアルデヒドレダクターゼについて報告されている。S.cerevisiae(J.Org.Chem.(1991)56:4778;Biosci.Biotech.Biochem.(1994)58:2236)、Sporobolomyces salmonicolor(Biochim.Biophs.Acta(1992)1122:57)、Sporobolomyces sp.(Biosci.Biotech.Biochem.(1993)57:303;Japanese patent publication JP2566960)、Candida albicans(Biosci.Biotech.Biochem.(1993)57:303)、Candida macedoniensis(Arch.Biochem.Biophs.(1992)294−469)、Geotrichium candidum(Enzyme Microbiol.Technol.(1992)14:731)は、エチル4−クロロ−3−アセトアセテート(ECAA)の還元のために使用されている。米国特許第6,168,935号は、グリセロールデヒドロゲナーゼ(Tetrahedron Lett.(1988)29:2453)、Thermoanaerobium brockii(JACS(1985)107:4028)、またはSulfolobus solfataricus(Biotechnol.Lett.(1991)13:31)またはPseudomonas sp.(米国特許第5,385,833号;J.Org.Chem.(1992)57:1526)由来のアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の使用を記載する。
【0071】
適切な非天然ケトレダクターゼは、公知の方法(変異誘発、指向された進化などを含む)を適用し、実施例4に記載の方法を使用して、活性についてスクリーニングすることによって容易に同定され得る。例えば、これらの方法は、天然に存在するケトレダクターゼ(本明細書中に記載されるものを含む)に対して容易に適用され得る。例示的な非天然ケトレダクターゼは、配列番号40(KRED krh133c)、42(KRED krh215)、44(KRED krh267)、46(KRED krh287)、48(KRED krh320)、50(KRED krh326)、52(KRED krh408)、54(KRED krh417)、56(KRED krh483)、58(KRED krh476)、および60(KRED krh495)として本明細書中で提供される。それらをコードするポリヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、および配列番号59として、本明細書中で提供される。本発明の実施において使用するのに適したさらなる非天然のケトレダクターゼは、2003年8月11日に出願された、代理人整理番号0190.110US/15077US01に対応し、米国出願番号 として割り当てられた、「Improved Ketoreductase Polypeptides and Related Polynucleotides」と題された特許出願(これは、その全体が、本明細書中において参考として援用される)に提供される。
【0072】
本発明の実施において使用されるケトレダクターゼは、代表的に、目的の4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミド基質を使用して、実施例4に記載されるアッセイにおいて少なくとも約1μmol/分/mgの活性を示す。本発明の実施において使用されるケトレダクターゼは、少なくとも1μmol/分/mg〜約10μmol/分/mg、時々、少なくとも10μmol/分/mg、約10μmol/分/mg以上までの活性を示し得る。
【0073】
本発明の実施において使用される4−ハロ−3−ケト酪酸エステルおよびアミドは、容易に購入され得るかまたは公知の方法を使用して合成され得る。例示的な4−ハロ−3−ケト酪酸エステル基質としては、構造IV:
【0074】
【化17】

を有するものが挙げられ、ここで:
Xは、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択されるハロゲンであり;そして
、R、R、R、およびRは、構造1Aについて記載されるように選択される。
【0075】
本発明の実施において使用され得る特定の4−ハロ−3−ケト酪酸エステルとしては、エチル4−クロロ−3−ケト酪酸エステル(すなわち、Xが塩素であり、R、R、R、およびRが各々水素であり、そしてRがエチルである)、メチル4−クロロ−3−ケト酪酸エステル(すなわち、Xが塩素であり、R、R、R、およびRが各々水素であり、そしてRがメチルである)、エチル4−ブロモ−3−ケト酪酸エステル(すなわち、Xが臭素であり、R、R、R、およびRが各々水素であり、そしてRがエチルである)、エチル4−ヨード−3−ケト酪酸エステル(すなわち、Xがヨウ素であり、R、R、R、およびRが各々水素であり、そしてRがエチルである)、メチル4−ブロモ−3−ケト酪酸エステル(すなわち、Xが臭素であり、R、R、R、およびRが各々水素であり、そしてRがメチルである)、メチル4−ヨード−3−ケト酪酸エステル(すなわち、Xがヨウ素であり、R、R、R、およびRが各々水素であり、そしてRがメチルである)、t−ブチル4−クロロ−3−ケト酪酸エステル(すなわち、Xが塩素であり、R、R、R、およびRが各々水素であり、そしてRがt−ブチルである)、t−ブチル4−ブロモ−3−ケト酪酸エステル(すなわち、Xが臭素であり、R、R、R、およびRが各々水素であり、そしてRがt−ブチルである)、ならびにt−ブチル4−ヨード−3−ケト酪酸エステル(すなわち、Xがヨウ素であり、R、R、R、およびRが各々水素であり、そしてRがt−ブチルである)が挙げられる。特定の実施形態において、R、R、R、およびRのうちの少なくとも1つが、低級アルキル(例えば、メチル、エチル、またはプロピル)である。
【0076】
化合物IVの構造を有する4−ハロ−3−ケト酪酸エステル基質が、本発明のKRED触媒変換の間に減少される場合、構造Vを有する4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸が生成される:
【0077】
【化18】

ここで、X、R、R、R、RおよびRは、構造IVについて記載される通りである。
【0078】
次いで、本発明のケトレダクターゼ触媒還元法によって生成される4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドは、本発明のハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒変換に直ちに使用され得る。例えば、構造Vに対応する4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルは、シアニドの存在下で、HHDHによる変換の基質として使用されて、構造VIを有する4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを生成し得る:
【0079】
【化19】

ここで、X、R、R、R、RおよびRは、化合物Vについて記載される通りである。
【0080】
本明細書中で、用語「補因子再生系」とは、酸化型の補因子(例えば、NADPHに対してNADP)を還元する反応に参加する一連の反応物質をいう。4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドのケトレダクターゼ触媒還元によって酸化された補因子は、補因子再生系によって還元型で再生される。補因子再生系は、還元性水素等価物の供給源でありかつ補因子の酸化型を還元し得る化学量論還元剤を含む。補因子再生系は、還元によって補因子の酸化型の還元を触媒する触媒(例えば、酵素触媒)をさらに含み得る。NADまたはNADPからNADHまたはNADPHを再生するための補因子再生系は、それぞれ、当該分野で公知であり、本発明で使用され得る。
【0081】
本発明の実施において使用される適切な補因子再生系は、グルコースおよびグルコースデヒドロゲナーセ、ホルメートおよびホルメートデヒドロゲナーゼ、グルコース−6−ホスフェートおよびグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、イソプロピルアルコールおよび第二級アルコールデヒドロゲナーゼなどを含み、補因子としてNADP/NADPHまたはNAD/NADHのいずれかと組み合わせて使用され得る。
【0082】
本明細書中で、用語「グルコースデヒドロゲナーゼ」および「GDH」は、それぞれ、Dグルコースのグルコン酸への変換およびNADのNADHへの変換を触媒するNAD依存性酵素、あるいはNADPのNADPHへの変換を触媒するNADP依存性酵素をいうために同義的に使用される。式(5)は、グルコースによるNADまたはNADPのグルコースデヒドロゲナーゼ触媒還元を記載する。
【0083】
【化20】

本発明の実施において使用するのに適切なグルコースデヒドロゲナーゼは、天然に生じるグルコースデヒドロゲナーゼ、および非天然に生じるグルコースデヒドロゲナーゼの両方を含む。遺伝子をコードしている天然に生じるグルコースデヒドロゲナーゼは、文献に報告されている。例えば、Bacillus subtilis 61297GDH遺伝子は、E.coli中で発現され、その天然の宿主中で生成される酵素と同一の物理化学特性を示すことが報告された(Vasanthaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1983)80:785)。Genbank Acc.番号M12276に相当するB.subtilis GDH遺伝子の遺伝子配列は、Lampelらによって報告され(J.Bacteriol.(1986)166:238−243)、YamaneらによってGenbank Acc.番号D50453として訂正型が報告された(Microbiology(1996)142:3047−3056)。天然に生じるGDH遺伝子はまた、 B.cereus ATCC由来のGDHをコードする遺伝子(Nature(2003)423:87−91;Genbank Acc.番号AE017013)およびB.megaterium由来のGDHをコードする遺伝子(Eur.J.Biochem.(1988)174:485−490、Genbank Acc.番号X12370;J.Ferment.Bioeng.(1990)70:363−369、Genbank Acc.番号GI216270)を含む。Bacillus sp.由来のグルコースデヒドロゲナーゼは、本明細書中で、配列番号10および12(それぞれ、配列番号9および11に対応するポリヌクレオチド配列によってコードされる)として提供される。
【0084】
非天然に生じるグルコースデヒドロゲナーゼは、例えば、変異誘発、有向進化などのような公知の方法を使用して生成され得る。天然に生じようと非天然に生じようと、適切な活性を有するGDH酵素は、実施例4に記載されるアッセイを使用して容易に同定され得る。例示的な非天然に生じるハロヒドリンデハロゲナーゼは、本明細書中で、配列番号62(GDH2313)、配列番号64(GDH2331)、配列番号66(GDH2279)、および配列番号68(GDH2379)として提供される。これらをコードするポリヌクレオチド配列は、本明細書中で、それぞれ、配列番号61、63、65、および67として提供される。本発明の実施において使用するために適切なさらなる非天然に生じるグルコースデヒドロゲナーゼは、2003年8月11日に提出された代理人明細書番号0352.110US/15076US01および譲渡された米国出願の出願番号_____に対応するタイトル「改良型グルコースデヒドロゲナーゼポリペプチドおよび関連するポリヌクレオチド(Improved Glucose Dehydrogenase Polypeptides and Related Polynucleotides)」の特許出願(その全体が本明細書中に参考として援用される)において提供される。
【0085】
本発明の実施において使用されるグルコースデヒドロゲナーゼは、実施例4に記載されるアッセイにおいて、少なくとも約10μmol/分/mg、時折少なくとも約10μmol/分/mgまたは約10μmol/分/mg、約10μmol/分/mgまであるいはそれ以上の活性を示し得る。
【0086】
グルコースおよびグルコースデヒドロゲナーゼが、補因子再生系として使用される場合、4−ハロ−3−ケト酪酸またはアミドがケトレダクターゼおよびNADHもしくはNADPHによって還元されるように、得られるNADまたはNADPは、グルコースの共役酸化により、グルコースデヒドロゲナーゼによってグルコン酸に還元される。正味の反応は、式(6)(これは、式(4)と式(5)の総和である)によって記載される:
【0087】
【化21】

4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドのケトレダクターゼ触媒還元は、一般的に溶媒中で実行される。溶媒は、例えば、水性共溶媒系のような共溶媒系であり得る。この変換を実行するために適切な溶媒(共溶媒系を含む)は、上記の4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへの4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドのHHDH触媒変換のための溶媒と同一である。
【0088】
水性溶媒(水または水性共溶媒)は、pH緩衝化されていてもpH緩衝化されていなくてもよい。4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへの4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドの変換は、約5またはそれ以上のpHで実行され得る。一般的には、変換は、約10またはそれ以下のpH、通常は、約5〜約10の範囲内で実行される。代表的には、変換は、約9またはそれ以下のpH、通常は、約5〜約9の範囲内で実行される。好ましくは、変換は、約8またはそれ以下のpH、通常は、約5〜約8の範囲内、より好ましくは、約6〜約8の範囲内で実行される。あるいは、変換は、中性のpH(すなわち、約7)で実行され得る。
【0089】
グルコース/グルコースデヒドロゲナーゼ補因子再生系が使用される場合、式(6)に示されるようなグルコン酸の副生成(pKa=3.6)は、生じる水性グルコン酸がそれ以外の方法では中和されない場合に反応混合物のpHを低下させる。反応混合物のpHは、標準的な緩衝技術(ここで、緩衝液は、提供される緩衝能力までグルコン酸を中和する)によってか、または変換の経過と共に塩基を添加することによって所望のレベルに維持され得る。一連の変換中に、緩衝化のために適切な緩衝液および手順ならびに塩基の添加のために適切な塩基および手順は、上記の4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルおよびアミドへの4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルおよびアミドのHHDH触媒変換のためのものと同一である。
【0090】
補因子再生のためにグルコース/グルコースデヒドロゲナーゼを使用する4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドのケトレダクターゼ触媒還元において、一連の変換にわたってpHが緩衝化または塩基の添加によって維持される場合、水性グルコン酸ではなく水性グルコン酸塩が、全体のプロセスの生成物である。例えば、式(7)は、pHを維持するために水酸化ナトリウム(Na+OH)が一連の反応にわたって添加される場合の全体のプロセスを示す:
【0091】
【化22】

塩基の添加が、グルコース/グルコースデヒドロゲナーゼ補因子再生系を使用する4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドのケトレダクターゼ触媒還元中に放出されるグルコン酸を中和するために使用される場合、その変換のプロセスは、pHを維持するために添加される塩基の量によってモニターされ得る。一連の変換にわたって緩衝化されていないかまたは部分的に緩衝化された反応混合物に添加される代表的な塩基は、水溶液として添加される。
【0092】
用語「ホルメートデヒドロゲナーゼ」および「FDH」は、それぞれ、ホルメートの二酸化炭素への変換およびNADのNADHへの変換を触媒するNAD依存性酵素、あるいはNADPのNADPHへの変換を触媒するNADP依存性酵素をいうために、本明細書中で同義的に使用される。本発明の実施において使用するために有用なホルメートデヒドロゲナーゼは、天然に生じるホルメートデヒドロゲナーゼ、および非天然に生じるホルメートデヒドロゲナーゼの両方を含む。ホルメートデヒドロゲナーゼとしては、配列番号70(Pseudomonas sp.)および72(Candida boidinii)(それぞれ、配列番号69および71に相当するポリヌクレオチド配列によってコードされる)に相当するホルメートデヒドロゲナーゼが挙げられる。天然に生じようと非天然に生じようと、本発明の実施において使用されるホルメートデヒドロゲナーゼは、少なくとも約1μmol/分/mg、時折少なくとも約10μmol/分/mg、または少なくとも約10μmol/分/mg、約10μmol/分/mgまであるいはそれ以上の活性を示し得、そして実施例4に記載されるアッセイで活性について選別され得る。
【0093】
本明細書中で使用される場合、用語「ホルメート」とは、ホルメートアニオン(HCO)、ギ酸(HCOH)、およびそれらの混合物をいう。ホルメートは、塩の形態(代表的には、アルカリ塩またはアンモニウム塩(例えば、HCONa、KHCONHなど))、ギ酸の形態(代表的には、水性ギ酸)、またはそれらの混合物の形態で提供され得る。ギ酸は、中程度の酸である。そのpKa(水中でpKa=3.7)に関していくつかのpH群の範囲内の水溶液中で、ギ酸は、平衡濃度においてHCOおよびHCOHの両方として存在する。約4以上のpHにて、ホルメートは、HCOとして優先的に存在する。ホルメートがギ酸として提供される場合、反応混合物は、代表的には所望のpH(代表的には、約5またはそれ以上のpH)を提供するために塩基を添加することによって緩衝化されるかまたは酸性が弱められる。ギ酸の中和のために適切な塩基は、上記でシアン化水素の中和のために記載されるような塩基である。
【0094】
ホルメートがHCOとして優先的に存在する約5以上のpH値について、式(8)は、ホルメートによるNADまたはNADPのホルメートデヒドロゲナーゼ触媒還元を記載する:
【0095】
【化23】

ホルメートおよびホルメートデヒドロゲナーゼが、補因子再生系として使用される場合、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドがケトレダクターゼおよびNADHもしくはNADPHによって還元されるように、得られるNADまたはNADPが、ホルメートデヒドロゲナーゼによる二酸化炭素へのホルメートの共役酸化によって還元される。正味の反応は、式(9)(この式は、式(4)および式(8)の総和である)によって記載される:
【0096】
【化24】

式(9)は、ホルメート/ホルメートデヒドロゲナーゼ補因子再生系が、約5以上のpHを有する水溶液中で4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドの還元のために使用される場合に、溶液中のプロトンが消費され、反応が、それ以外の方法では緩衝化も再酸性化もされない場合に反応混合物のpHの上昇を引き起こすことを示す。反応混合物のpHは、標準的な緩衝技術(ここで、緩衝液は、提供される緩衝能力までプロトンを放出する)によってか、または変換の経過と共に酸を添加することによって、所望のレベルに維持され得る。一連の反応中にpHを維持するために添加するのに適切な酸としては、有機酸(例えば、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸など)、無機酸(例えば、ハロゲン化水素酸(例えば、塩酸)、硫酸、リン酸など)、酸性塩(例えば、二水素リン酸塩(例えば、KHPO)、重硫酸塩(例えば、NaHSO))などが挙げられる。特に好ましくは、ギ酸であり、これによってホルメート濃度および溶液のpHの両方が維持される。例えば、式(10)は、ギ酸(HCOH)が一連の反応にわたって最初の約5以上のpHを維持するために添加される場合の、全体プロセスを示す。ホルメートは、反応混合物中でHCOとして優先的に存在するが、HCO濃度は添加したギ酸の正味の消費において変換の間、維持される。
【0097】
【化25】

酸の添加が、ホルメート/ホルメートデヒドゲナーゼ補因子再生系を使用する4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドのケトレダクターゼ触媒還元中に、pHを維持するために使用される場合、その変換のプロセスは、pHを維持するために添加された酸の量によってモニターされ得る。一連の反応にわたって緩衝化されていないかまたは部分的に緩衝化された反応混合物に添加される代表的な酸は、水溶液として添加される。
【0098】
本発明の方法を実行することにおいて、酸化型の補因子または還元型の補因子のいずれかが最初に提供され得る。上記のように、補因子再生系は、酸化された補因子をその還元型に変換し、これは次いで、ケトレダクターゼ基質(すなわち、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミド)の対応するハロヒドリンへの還元に使用される。
【0099】
ハロヒドリンデハロゲナーゼと同様に、ケトレダクターゼおよび補因子再生系の酵素は、精製した酵素、細胞抽出物、細胞溶解物、またはケトレダクターゼおよび補因子再生系の酵素をコードする遺伝子で転換された細胞全体の形態において、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドを変換するために反応混合物に提供され得る。酵素をコードする遺伝子は、別個にか、または同じ宿主細胞に一緒にかのいずれかで、宿主細胞に転換され得る。例えば、1つの実施形態において、一組の宿主細胞は、遺伝子をコードするケトレダクターゼで転換され得、別の組の宿主細胞は、遺伝子をコードする補因子再生系の酵素(例えば、GDh、FDHなど)で転換され得る。両方の組の転換細胞は、それらに由来する細胞全体または細胞溶解物または細胞抽出物の形態における反応混合物中で一緒に使用され得る。あるいは、宿主細胞は、ケトレダクターゼおよび補因子再生系の酵素の両方をコードする遺伝子で転換され得、その結果、各々の細胞が、ケトレダクターゼおよび補因子再生系の酵素の両方を発現する。さらなる実施形態において、宿主細胞は、ケトレダクターゼ、補因子再生系の酵素、およびハロヒドリンデハロゲナーゼをコードする遺伝子で転換され得る。これらの細胞は、細胞全体、細胞溶解物、または細胞抽出物の形態で酵素を提供するために本発明の方法において使用され得る。HHDH触媒法の反応混合物について記載されるように、固体反応物(すなわち、酵素、塩、補因子再生系、補因子など)は、種々の異なる形態(粉末(例えば、凍結乾燥された粉末、噴霧乾燥された粉末など)、溶液、乳濁液、懸濁液など)で提供され得る。
【0100】
還元工程で使用される反応物の量は、一般的に、望まれる4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドの量、および付随して使用されるケトレダクターゼ基質の量に依存して変化する。以下の指針は、使用されるケトレダクターゼ、補因子、および補因子再生系の量を決定するために使用され得る。一般的に、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドは、10mg〜約5mgのケトレダクターゼおよび約25mg〜約5mgの補因子を使用して、約10〜500グラム/リットルの濃度で使用される。当業者は、これらを所望のレベルの生産性および生成スケールに調整するために、これらの量を変化させる方法を理解している。適切な量の補因子再生系は、使用される補因子および/またはケトレダクターゼの量に基づく慣用的な実験によって容易に決定され得る。一般的に、還元剤(例えば、グルコース、ホルメート)は、ケトレダクターゼ基質の実質的に完全な変換または完全に近い変換を達成するために、ケトレダクターゼ基質の等モルレベル以上のレベルで使用される。
【0101】
反応物の添加の順序は、重要ではない。反応物は、溶媒(例えば、単相溶媒、二相水性共溶媒系など)中に同時に添加され得るか、あるいは、反応物のうちいくつかは別個に添加され得、そしていくつかは異なる時間に一緒に添加され得る。例えば、補因子再生系、補因子、ケトレダクターゼ、およびケトレダクターゼ基質は、最初に溶媒に添加され得る。
【0102】
水性共溶媒系が使用される場合の改善した混合効率のために、補因子再生系、ケトレダクターゼ、および補因子は、通常は、最初に水相に添加されて混合される。次いで、有機相が、添加されて混合され、その後、ケトレダクターゼ基質が添加される。あるいは、ケトレダクターゼ基質は、水相に添加される前に、有機相中で予備混合される。
【0103】
4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルおよびアミドのハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒変換に関して、本発明の4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルおよびアミドのケトレダクターゼ触媒還元を実行するために適切な条件は、当業者によって容易に決定し得る広範な条件を含む。還元工程を実行するために適切な温度は、代表的には、約15℃〜約75℃の範囲である。通常は、反応は、約20℃〜約55℃の範囲、好ましくは、約20℃〜約45℃の温度で実行される。反応はまた、周囲条件下で実行され得る。
【0104】
ハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒反応の場合、ケトレダクターゼ触媒反応は、当該分野で公知の方法を使用して本質的に基質の完全な変換が観察されるか、または完全に近い基質の変換が観察されるまで進行することを可能にされる。ハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒反応の場合、ケトレダクターゼ触媒反応の進行は、上記のように、それ以外の方法では特定の補因子再生系によって生じ得るpHの変化に対抗するために添加される塩基または酸の量をモニターすることによってモニターされ得る。
【0105】
4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミド基質のケトレダクターゼ触媒還元は、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミド生成物の3位での新しい立体性炭素を生成する。代表的には、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドは、3位での比較的高い立体選択性を伴って生成される。従って、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドのケトレダクターゼ触媒還元によって生成される4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドは、代表的に、キラルでありかつラセミ体ではない。本発明で使用されるケトレダクターゼ反応は、代表的には、少なくとも約90%e.e.、好ましくは約95%e.e.、そして代表的には99%e.e.のe.e.を有する、好ましい非ラセミ体のキラルな4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルを生じる。実施例は、99%e.e.を超えるe.e.を有するエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートを提供する実施形態を示す。
【0106】
本明細書中で使用される場合、用語「鏡像体過剰率」または「e.e.」とは、メジャーな鏡像異性体(F(+))のモル比もしくは重量比と、マイナーな鏡像異性体(F(−))のモル比もしくは重量比との間の絶対的な差(すなわち、|F(+)−F(−)|)(ここで、F(+)−F(−)=1である)をいう。鏡像異性の組成物は、本明細書中以下の実施例6に記載されるガスクロマトグラフィー法、および当該分野で公知の方法を使用することによって容易に特徴付けされ得る。
【0107】
上記のように、これらの非ラセミ化キラル4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドが本発明のハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒反応において基質として使用される場合、得られる4−置換−4−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドは、立体純度においてほとんど減少しないか、または、全く減少せずに、実質的に同等に非ラセミ化されている。非ラセミ化4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドのケトレダクターゼ触媒生成の高度な立体選択性と、対応する非ラセミ化4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへの、これらのハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒の変換の高度な立体フィデリティーの組み合わせは、例えば(e.e.)、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドからの、高度な非ラセミ化4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドの生成全体のために特に魅力的な本発明のプロセスを提供する。
【0108】
本発明のさらに有意な特徴は、作製されるキラル生成物の収率が非常に高いことである。代表的に、本発明の方法に従って作製される4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミド、および、4−求核性置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミド生成物の収率は、少なくとも約70%、通常は少なくとも約80%、代表的には少なくとも約90%であり、そして、少なくとも約95%であり得る。得られる生成物の組成物は、提供される最初の物質量と、反応混合物中に形成される生成物の量に基づく。生成物4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドは、必要に応じて、ハロヒドリンデハロゲナーゼと接触させる前に、精製され得る。本明細書中で使用される場合、用語「精製される」とは、分離プロセスが混合物に適用され、混合物中での一方の成分の他の成分に対する濃度の増加を生じるプロセスを指す。本発明の実施において採用される適切な精製プロセスとしては、例えば、濾過、固相または液相抽出、蒸留などが挙げられる。
【0109】
4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドが、ケトレダクターゼ反応混合物から精製される場合、引き続いて、ハロヒドリンデハロゲナーゼおよび求核性が溶媒(例えば、単相性溶媒、二相性水性共溶媒系)に添加される。
【0110】
(III.単一の反応容器内での、4−ハロ−3−ケト酪酸エステル/アミドの4−求核性置換−3−ヒドロキシ酪酸エステル/アミドへの酵素的変換)
本発明は、単一の反応容器内での、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルおよびアミドの、対応する4−求核性置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルおよびアミドへの変換を行うための方法を提供し、この方法は、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドを、ケトレダクターゼ、補因子、補因子再生系、求核性、およびハロヒドリンデハロゲナーゼと接触させて、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドを4−求核性置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへ変換するための反応混合物を形成する工程を包含する。
【0111】
機構的には、この単一容器法は、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドのケトレダクターゼ触媒変換によって進行し、インサイチュで4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドを提供し、その後、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドの対応する4−求核性置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへの有意なハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒変換が続く。有意なことには、ケトレダクターゼ触媒反応により生成する4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドは、4−求核性置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへの変換のためにハロヒドリンデハロゲナーゼおよび求核性(例えば、シアニドなど)と接触する前に、分離または回収されない。
【0112】
適切な反応物質(基質、酵素、補因子)、溶媒、pH、温度および他の反応条件、ならびに、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドの4−求核性置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへの単一容器変換のための手順は、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルおよびアミドの、対応する4−求核性置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルおよびアミドへのハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒変換を実施するために、上記されたものと同じである。
【0113】
グルコースおよびグルコースデヒドロゲナーゼを、補因子再生系として使用し、そして塩基の2つの等価物が反応の過程で添加され、グルコン酸および生成されるヒドロハロ酸(hydrohalic acid)の両方を中和し、そして、反応混合物の最初のpH(約5〜約9の範囲の最初のpH)を維持する場合、単一容器反応における全プロセスは、等式(10)により説明され、この等式は、等式(2)および(7)の和であり、水酸化ナトリウム水溶液が、塩基として例示される。
【0114】
【化26】

他の単一容器の全プロセス等式は、別個に実施される反応について上記されたように、ハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒反応(例えば、塩基としてシアニド塩を使用する)および/またはケトレダクターゼ反応(例えば、補因子再生系としてギ酸塩およびギ酸デヒドロゲナーゼを使用する)を実施するための他の選択肢を記載する等式を合計することによって生じ得る。
【0115】
同じ単一容器の結果が、最初に、上記のように別個にケトレダクターゼ反応を実施し、次いで、その後、ハロヒドリンデハロゲナーゼおよびシアニドをケトレダクターゼ反応混合物に添加することによって、そして、ケトレダクターゼ反応成分の存在下で、ハロヒドリンデハロゲナーゼ反応を実施することによって、得られ得ることがまた、理解される。
【0116】
4−ハロ−3−ケト酪酸エステルを4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルへの変換のための単一容器プロセスの実施形態を、実施例24に例示する。
【0117】
(IV.組成物)
本発明はさらに、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドの4−求核性置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドへの酵素的変換に有用な組成物を提供する。これらの組成物は、ハロヒドリンデハロゲナーゼ、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミド、および、求核電子を含む。好ましい組成物において、求核電子は、シアニドである。
【0118】
さらなる実施形態において、本発明は、ケトレダクターゼ、補因子再生系、補因子、およびハロヒドリンデハロゲナーゼを有する、4−求核性置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルおよびアミドを調製するために有用な組成物を提供する。これらの組成物はさらに、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミドを含み得る。
【0119】
任意の以前に記載されたケトレダクターゼ、補因子再生系の成分、補因子、ハロヒドリンデハロゲナーゼ、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルまたはアミド、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルまたはアミドおよび求核電子が、これらの組成物において使用され得る。
【0120】
本発明の組成物は、固体(例えば、散剤)または液体(例えば、溶液、エマルジョン、懸濁液など)の形態であり得る。例えば、この組成物は、凍結乾燥もしくは噴霧乾燥された散剤の形態であり得る。あるいは、この組成物はさらに、溶媒を含み得る。
【0121】
この組成物はさらに、pH調整または加工可能性のための成分(例えば、塩、酸、塩基、緩衝液、溶解剤などが挙げられる)を含み得る。
【0122】
(V.ハロヒドリンデハロゲナーゼ、ケトレダクターゼおよび補因子再生系の酵素および対応するポリヌクレオチド)
本明細書中に記載される特定の酵素およびポリヌクレオチドに加えて、当業者は、公知の技術が、本発明の実施における用途に適する酵素をコードする、天然に存在するポリヌクレオチドおよび天然に存在しないポリヌクレオチドの両方の発見に、容易に適用され得ることを認識する。例えば、以下を参照のこと:
【0123】
【化27】

これらおよび他の方法が、本明細書中に記載されるアッセイと一緒に、例えば、本明細書中に記載される活性、ならびに、他の望ましい特性(例えば、変更された温度および/またはpH最適条件、耐溶剤性など)を有する他のケトレダクターゼおよびハロヒドリンデハロゲナーゼ、および、補因子再生系を同定するために、容易に適用され得る。例えば、ケトレダクターゼは、一方の補因子型が、他方に勝る優先傾向(例えば、NAD 対 NADP、または、逆もまた同じである)を有するケトレダクターゼを同定するためにスクリーニングされ得る。
【0124】
本発明において使用される酵素をコードするポリ核酸配列は、発現について選択された宿主生物からの最適な生成物について最適化されたコドンであり得る。当業者は、広範囲の生物についてのコドン参照情報を提供する表および他の参考文献が容易に入手可能であることを認識する。例えば、HenautおよびDanchin,「Escherichia coli and Salmonella」Neidhardtら編,ASM Press,Washington,D.C.(1996)pp.2047〜2066を参照のこと。
【0125】
本発明の実施において使用される酵素は、ハロヒドリンデハロゲナーゼまたは補因子再生系の酵素をコードするポリヌクレオチドを含有するベクターを、周知の分子生物学的技術を使用して宿主細胞に形質転換することによって生成され得る。
例えば、BergerおよびKimmel、「Guide to Molecular Cloning Techniques」Methods in Enzymology,Volume 152,Academic Press,Inc.,San Diego,CA;Sambrookら「Molecular Cloning A Laboratory Manual」第2版、Vol.1〜3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,1989;ならびに「Current Protocols in Molecular Biology」F.M.Ausubelら編、Current Protocols、Greene Publishing Associates,Inc.とJohn Wiley & Sons,Inc.との間のジョイントベンチャー(1999から補遺)を参照のこと。酵素を作製するための方法は、実施例1および2に例示される。
【0126】
本発明の以上および他の局面は、以下の非限定的な実施例と組み合せてより良く理解され得る。
【実施例】
【0127】
(実施例1:ハロヒドリンデハロゲナーゼ、ケトレダクターゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼの発現のための発現構築物の構築)
(1)ハロヒドリンデハロゲナーゼ(HHDH)
ハロヒドリンデハロゲナーゼについての遺伝子は、Agrobacterium種由来のハロヒドリンデハロゲナーゼのアミノ酸配列に基づいて、E.coliにおいて発現するためにコドン最適化した。この遺伝子を、60マーのオリゴマーを使用して合成し、T5プロモーターの制御下で、発現ベクターpCK110700(図2に示す)にクローニングした。このベクターをE.coli TOP10(Invitrogene,Carlsbad,CA)に形質転換し、このE.coliから、標準的な方法を使用してプラスミドDNAを調製した。次いで、プラスミドDNAを、標準的な方法を使用して、E.coli BL21(Stratagene,La Jolla,CA)(発現宿主)に形質転換した。いくつかのクローンが、活性なHHDHを発現する発現ライブラリーにおいて見出された。これらのクローンからの遺伝子を配列決定した(配列番号13(HHDH.1)、15(HHDH.2)、および17(HHDH.16)を参照のこと)、これらは、それぞれ、配列番号14、16および18のポリペプチド配列をコードする)。
【0128】
(2)ケトレダクターゼ(KRED)
ケトレダクターゼについての遺伝子は、Candida magnoliaeに由来するケトレダクターゼのアミノ酸配列に基づいて、E.coliにおける発現のためにコドン最適化した。この遺伝子を、60マーのオリゴマーを使用して合成し、lacプロモーターおよびlacIリプレッサー遺伝子の制御下で、発現ベクターpCK110900(図3に示す)にクローニングした。この発現ベクターは、p15A複製起点およびクロラムフェニコール耐性遺伝子を含む。このプラスミドを、標準的な方法を使用して、E.coli発現宿主に形質転換した。いくつかのクローンが、活性なケトレダクターゼを発現することが見出され、それらの遺伝子を、配列決定して、DNA配列を確認した(配列番号1(ケトレダクターゼ1)、3(ケトレダクターゼ2)、5(ケトレダクターゼ3)および7(ケトレダクターゼ4)(これらは、それぞれ、配列番号2、4、6および8のポリペプチド配列をコードする)を参照のこと)。
【0129】
(3)グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)
グルコースデヒドロゲナーゼについての遺伝子を、Bacillus subtilisおよびBacillus megaterium由来のゲノムDNA調製物からのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して増幅した。増幅反応のためのプライマーを、公開されているB.subtilisおよびB.megateriumのグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子配列を使用して設計し、これらは、以下の通りであった:
【0130】
【化28】

PCR生成物を、lacプロモーターおよびlacIリプレッサー遺伝子の制御下で、発現ベクターpCK110900(図3に示す)のSfiIクローニング部位にクローニングした。この発現ベクターは、p15A複製起点およびクロラムフェニコール耐性遺伝子を含む。このプラスミドを、標準的な方法を使用して、E.coli発現宿主に形質転換した。いくつかのクローンが、活性なGDHを発現することが見出され、それらの遺伝子を、配列決定して配列を確認した(配列番号9(グルコースデヒドロゲナーゼS06−3)および11(グルコースデヒドロゲナーゼM02−6(これらはそれぞれ、配列番号10および12のポリペプチド配列をコードする)を参照のこと)。
【0131】
(4)葉酸デヒドロゲナーゼ(FDH)
葉酸デヒドロゲナーゼについての遺伝子を、Pseudomonas種株101(タンパク質データベース登録番号2NAD_A)およびCandida boidinii(Genbank登録番号CAA09466)由来の葉酸デヒドロゲナーゼのアミノ酸配列に基づいて、E.coliにおける発現のためにコドン最適化した。これらの遺伝子を、60マーのオリゴマーを使用して合成し、lacプロモーターおよびlacIリプレッサー遺伝子の制御下で、発現ベクターpCK110900(図3に示す)のSfiIクローニング部位にクローニングした。この発現ベクターは、p15A複製起点およびクロラムフェニコール耐性遺伝子を含む。このプラスミドを、標準的な方法を使用して、E.coli発現宿主に形質転換した。いくつかのクローンが、活性な葉酸デヒドロゲナーゼを発現することが見出され、その遺伝子を、配列決定してDNA配列を確認した(配列番号69および71(これらは、それぞれ、配列番号70および72のポリペプチド配列をコードする)。
【0132】
(実施例2:酵素の生成)
(1)HHDH酵素:
通気撹拌した発酵槽において、0.528g/L 硫酸アンモニウム;7.5g/Lのリン酸水素二カリウム三水和物;3.7g/Lのリン酸二水素カリウム;2g/LのTastone−154酵母エキス;0.05g/L 硫酸鉄;および3ml/Lの微量元素溶液(2g/Lの塩化カルシウム二水和物、2.2g/Lの硫酸亜鉛七水和物、0.5g/L 硫酸マンガン一水和物、1g/L 硫酸銅六水和物および0.1g/l ホウ酸ナトリウム十水和物を含有する)および0.5g/L EDTAを含有する10.0Lの増殖培地を、30℃の温度にした。発酵槽を、実施例1に記載したように、HHDHポリヌクレオチドを含有するプラスミドを備えたEscherchia coli BL21(Stratagene,La Jolla,CA)の最指数的培養物で接種し、次いで、LB、1%グルコース(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)および30μg/ml クロラムフェニコール(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)を含有する振盪フラスコ中で、0.5〜2.0の600nmでの開始光学濃度(OD600)まで増殖させた。発酵槽を、500〜1500rpmで撹拌し、1.0〜15.0L/分にて発酵容器に空気を補充し、30%以上の飽和溶解酸素レベルを維持した。20%v/vの水酸化アンモニウムを添加することによって、培養物のpHを7.0に調整した。培養物が、40のOD600に到達した後、温度を25℃まで下げ、ハロヒドリンデハロゲナーゼの発現を、イソプロピル−β−ジチオガラクトシド(IPTG)(Sigma Chemical Corp.,St.Louis,MO)により、1mMの最終濃度まで誘導した。培養物をさらに15時間増殖させた。誘導後、遠心分離により細胞を回収し、10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で洗浄した。細胞ペーストを、下流の回収プロセスにおいて直接使用するか、または、使用まで−80℃にて保存した。
【0133】
(ケトレダクターゼ酵素)
通気攪拌発酵槽において、0.528g/Lの硫酸アンモニウム、7.5g/Lのリン酸水素二カリウム三水和物、3.7g/Lのリン酸二水素カリウム、2g/LのTastone−154酵母抽出物、0.05g/Lの硫酸鉄(II)、および3ml/Lの微量元素溶液(2g/Lの塩化カルシウム二水和物、2.2g/Lの硫酸亜鉛七水和物、0.5g/Lの硫酸マンガン一水和物、1g/Lの硫酸銅(II)七水和物、0.1g/Lホウ酸ナトリウム十水和物および0.5g/LのEDTAを含む)を含む、10.0Lの増殖培地を、温度30℃にした。
【0134】
この発酵槽に、LB、1%グルコース(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)および30μg/mlクロラムフェニコール(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)を含む振盪フラスコ中で増殖させた、Escherichia coli W3110(pCR2−5)の対数増殖後期培養物を、600nmにおける開始光学密度(OD600)0.5〜2.0まで接種した。この発酵槽を、500〜1500rpmにて攪拌し、そして空気を、1.0〜15.0L/分にて発酵容器に供給し、そして培養物のpHを、20%v/v水酸化アンモニウムの添加により7.0にて制御した。培養物がOD600 4.0に達した後に、温度を25℃まで低下させ、そしてグルコースデヒドロゲナーゼの発現を、イソプロピル−β−D−チオガラクトシダーゼ(IPTG)(Sigma Chemical Corp.,St.Louis,MO)を最終濃度1mMまで添加することにより、誘導した。培養物を、さらに15時間増殖させた。この誘導の後、細胞を遠心分離により採集し、10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で洗浄した。細胞ペーストを、下流回収プロセスにおいて直接使用したか、または使用するまで−80℃にて保存した。
【0135】
((3)グルコースデヒドロゲナーゼ酵素)
通気攪拌発酵槽において、0.528g/Lの硫酸アンモニウム、7.5g/Lのリン酸水素二カリウム三水和物、3.7g/Lのリン酸二水素カリウム、2g/LのTastone−154酵母抽出物、0.05g/Lの硫酸鉄(II)、および3ml/Lの微量元素溶液(2g/Lの塩化カルシウム二水和物、2.2g/Lの硫酸亜鉛七水和物、0.5g/Lの硫酸マンガン一水和物、1g/Lの硫酸銅(II)七水和物、0.1g/Lホウ酸ナトリウム十水和物および0.5g/LのEDTAを含む)を含む、10.0Lの増殖培地を、温度30℃にした。
【0136】
この発酵槽に、LB、1%グルコース(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)および30μg/mlクロラムフェニコール(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)を含む振盪フラスコ中で増殖させた、(pGDHS06またはpGDHM02)の対数増殖後期培養物を、600nmにおける開始光学密度(OD600)0.5〜2.0まで接種した。この発酵槽を、500〜1500rpmにて攪拌し、そして空気を、1.0〜15.0L/分にて発酵容器に供給し、そして培養物のpHを、20%v/v水酸化アンモニウムの添加により7.0にて制御した。培養物がOD600 4.0に達した後に、温度を25℃まで低下させ、そしてグルコースデヒドロゲナーゼの発現を、イソプロピル−β−D−チオガラクトシダーゼ(IPTG)(Sigma Chemical Corp.,St.Louis,MO)を最終濃度1mMまで添加することにより、誘導した。培養物を、さらに15時間増殖させた。この誘導の後、細胞を遠心分離により採集し、10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で洗浄した。細胞ペーストを、下流回収プロセスにおいて直接使用したか、または使用するまで−80℃にて保存した。
【0137】
((4)ギ酸デヒドロゲナーゼ)
通気攪拌発酵槽において、3.5g/LのNaNHHPO/4H2O、7.5g/LのKHPO・3HOおよび3.7g/LのKHPO(Lageveenら、1988、Appl.Environ.Microbiol.54:2924(1988)参照)、2g/LのNHCl、0.528g/Lの(NHSO、pH7.0、5ml/LのR2微量元素(Reisenbergら、Appl.Microbiol.Biotechnol 1990 34:77参照)、20ml/Lの10%酵母抽出物水溶液、5ml/L 1M MgSO、および40ml/Lの50%グルコース水溶液を含む、10.0Lのオートクレーブ済み最小培地を、添加した。この培地の温度を、温度30℃にした。
【0138】
クロラムフェニコールを、濃縮ストック溶液から、最終濃度30μg/mlまで添加した、この発酵槽を、R2微量元素溶液(pH7.0)、0.2%酵母抽出物、1%グルコース、および30μg/mlクロラムフェニコールを含む、上記最小培地を含む振盪フラスコ中で増殖させた、Escherichia coli W3110(pFDHPs3またはPFDHCb13)の一晩培養物を、600nmにおける開始光学密度(OD600)0.04〜1.0まで接種した。空気を、5.0L/分にて発酵容器に供給し、そして培養物のpHを、水酸化カリウム濃縮水溶液を使用して7.0にて維持した。この培養物をOD600 12〜15まで増殖させ、その時点で、50%グルコース、6%塩化アンモニウムおよび0.5%の硫酸マグネシウムの供給溶液を、30〜40%の空気飽和の最終溶存酸素濃度を生じる速度にて開始した。供給ポンプ速度を、気流速度10L/分および攪拌速度600rpmにて発酵槽中の溶存酸素が約30%で維持されるように、制御した。培養物がOD600 15に達して供給レジメンに2〜3時間曝露された後に、ギ酸デヒドロゲナーゼの発現を、1mMのIPTGを添加することにより、誘導した。培養物を、さらに8〜18時間増殖させた後、培養物を遠心分離により採集した。
【0139】
(実施例3:酵素調製)
((1)ケトレダクターゼ)
細胞ペーストを、1容量の湿重量の細胞ペーストを3容量の100mM Tris/硫酸(pH7.2)中に懸濁し、その後、Sorval 12BP中で5000gにて40分間遠心分離することによって、洗浄した。洗浄した細胞ペーストを、2容量の100mM Tris/硫酸(pH7.2)中に懸濁した。細胞内KREDを、最初の通過のために圧力14,000psigを使用し2回目の通過のために圧力8,000psigを使用してこの懸濁物をホモジナイザーに2回通過させることにより、細胞から放出させた。溶解物を室温まで加温し、その後、10%w/vのポリエチレンイミン(PEI)溶液(pH7.2)を、最終PEI濃度0.75%まで溶解物に添加し、30分間攪拌した。処理したホモジネートを、Beckman実験室遠心機中で10,000rpmにて60分間遠心分離した。上清をデカントし、浅い容器中に分配し、−20℃にて凍結し、そして凍結乾燥した。
【0140】
((2)グルコースデヒドロゲナーゼ)
細胞ペーストを、1容量の湿重量の細胞ペーストを3容量の100mM Tris/硫酸(pH7.2)中に懸濁し、その後、Sorval 12BP中で5000gにて40分間遠心分離することによって、洗浄した。洗浄した細胞ペーストを、2容量の100mM Tris/硫酸(pH7.2)中に懸濁した。細胞内HHDHを、最初の通過のために圧力14,000psigを使用し2回目の通過のために圧力8,000psigを使用してこの懸濁物をホモジナイザーに2回通過させることにより、細胞から放出させた。ホモジネートを、Beckman実験室遠心機中で10,000rpmにて60分間遠心分離した。上清をデカントし、浅い容器中に分配し、−20℃にて凍結し、そして凍結乾燥した。
【0141】
((3)ハロヒドリンデハロゲナーゼ)
細胞ペーストを、1容量湿重量の細胞ペーストを3容量の100mM Tris/硫酸(pH7.2)中に懸濁し、その後、Sorval 12BP中で5000gにて40分間遠心分離することによって、洗浄した。洗浄した細胞ペーストを、2容量の100mM
Tris/硫酸(pH7.2)中に懸濁した。細胞内HHDHを、最初の通過のために圧力14,000psigを使用し2回目の通過のために圧力8,000psigを使用してこの懸濁物をホモジナイザーに2回通過させることにより、細胞から放出させた。細胞溶解物を、ホモジナイザーを通す通過の間に4℃まで冷却させた。ホモジネートを、Beckman実験室遠心機中で10,000rpmにて60分間遠心分離した。上清をデカントし、浅い容器中に分配し、−20℃にて凍結し、そして凍結乾燥した。
【0142】
発酵後の調製物の品質を評価するために、発現したハロヒドリンデハロゲナーゼ酵素を含む細胞溶解物を、以下のプロトコルに従ってアッセイした。10mM Tris−SO4、100mM NaCN,pH8.0中の清澄化した細胞溶解物約50μlを、10mMのエチル−(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレート(Sigma Aldrich,St.Louis,MOまたは本明細書中に記載されるケトレダクターゼ触媒法に従って調製)と混合した。総反応容量は、0.2mlであった。この反応物を、室温にて30分間〜1時間インキュベートした。この反応物を、7容量の酢酸エチルで抽出し、有機層を1.8ml GCバイアルに取り出した。この有機層を、エチル−(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチレート生成物の存在についてGCにより分析した。生成した生成物の量を、調製した標準曲線との比較により決定し、同じ条件下で分析した。
【0143】
((4)ギ酸デヒドロゲナーゼ)
発現したギ酸デヒドロゲナーゼを含む細胞溶解物を、1容量の100mMトリエタノールアミン(pH7.0)中に細胞ペーストを4℃にてホモジナイゼーションすることによって、調製した。細胞溶解物を、ホモジナイザーを通す間に4℃まで冷却させた。細胞溶解物を、4℃にて遠心分離によって清澄化した。清澄化した溶解物を、実施例4に記載したようにアッセイした。
【0144】
(実施例4.酵素活性の特徴付け)
(ケトレダクターゼ(KRED))
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中のエチル−4−クロロ−3−ケト酪酸エステルの溶液に、同じ緩衝液中に予め溶解した溶液としてケトレダクターゼ酵素を添加した。この反応を、NADPH(最終1mM)を添加することにより開始し、反応の経過を、340nmでの吸光度の減少を測定することにより追跡した。この吸光度は、NADPH濃度に対応する。結果を、吸光度単位(NADPH) 対 時間としてプロットし、プロットの傾き(吸光度単位/分)を決定した。吸光度 対 時間 プロットの傾きを、NADPHの吸光係数を使用して濃度単位へと変換し、ケトレダクターゼの活性を、μmol(生成したNADPH)/分/mg(総ケトレダクターゼ触媒)にて決定した。この測定はまた、NADPHについて340nmの励起を使用する蛍光検出を使用して実施し得、放出を455nmにて測定した。目的の他の基質で、エチル4−クロロ−3−ケト−酪酸エステルを置換して、他の基質に関するケトレダクターゼ活性を評価し得る。
【0145】
((2)グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH))
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中の50mMグルコースの溶液に、同じ緩衝液中に予め溶解した溶液としてグルコースデヒドロゲナーゼ酵素を添加した。この反応を、NADPH(最終1mM)を添加することにより開始し、反応の経過を、340nmでの吸光度の増加を測定することにより、または蛍光(励起340nm、放出455nm)の増加を測定することにより、追跡した。結果を、吸光度単位(NADPH) 対
時間としてプロットし、プロットの傾き(吸光度単位/分)を決定した。吸光度 対 時間 プロットの傾きを、NADPHの吸光係数を使用して濃度単位へと変換し(上記(1)参照)、グルコースデヒドロゲナーゼの活性を、μmol(消費したNADPH)/分/mg(総グルコースデヒドロゲナーゼ触媒)にて決定した。
【0146】
((3)ハロヒドリンデハロゲナーゼ(HHDH))
300mMリン酸カリウム中のエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸(10mM)溶液、300mM NaCN緩衝液(pH8.0)に、同じ緩衝液中に予め溶解した溶液としてハロゲンデヒドロゲナーゼ酵素を添加した。経時的に、この混合物のアリコートを取り出し、3容量の酢酸エチルで抽出した。その後、その有機層を、下記実施例6において記載されるように、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析した。サンプルを種々の時点で採取し、生成物であるシアノヒドリン,エチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸のピーク面積を、時間の関数としてプロットした。ピーク面積を、エチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸について調製した標準曲線を使用して、濃度単位へと変換した。ハロヒドリンデハロゲナーゼの活性を、μmol(生成したシアノヒドリン)/分/mg(総ハロヒドリンデハロゲナーゼ触媒)の単位で決定した。目的の他の求核試薬および/または基質でシアン化物を置換して、他の求核試薬および/または基質に関してハロヒドリンデハロゲナーゼ活性を評価し得る。
【0147】
((4)ギ酸デヒドロゲナーゼ)
100mMトリエタノールアミン緩衝液(pH7.0)中の150mMギ酸溶液に、同じ緩衝液中に予め溶解した溶液としてギ酸デヒドロゲナーゼ酵素を添加した。この反応を、NADの添加(最終2mM)により開始し、反応の経過を、340nmでの吸光度の増加を測定することにより、または蛍光(励起340nm、放出455nm)の増加を測定することにより、追跡した。結果を、吸光度単位(NADH) 対 時間としてプロットし、プロットの傾き(吸光度単位/分)を決定した。吸光度 対 時間 プロットの傾きを、NADHの吸光係数を使用して濃度単位へと変換し(上記(1)参照)、ギ酸デヒドロゲナーゼの活性を、μmol(生成したNADH)/分/mg(総ギ酸デヒドロゲナーゼ触媒)にて決定した。
【0148】
(実施例5:エチル4−クロロアセトアセテートからの(エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートを経由する)エチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートの調製)
室温の100mMリン酸カリウム緩衝液、500mM NaCl(pH7)の十分に攪拌した溶液(1L)に、グルコース(160g、830mmole、1.1当量)を添加した。これに、ケトレダクターゼ(配列番号2)(0.9g)、グルコースデヒドロゲナーゼS06(配列番号10)(0.5g)およびNADP(0.5g)を、凍結乾燥粉末として添加した。一旦溶解すると、酢酸エチル(500mL)を添加してエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに、酢酸ブチル(500mL)中のエチル4−クロロアセトアセテート(100g、608mmole)の溶液を、3時間にわたって滴下した。そのpHを、NaCO(水中2M、合計約160mL)を供給する自動滴定器により、6.8と7との間に維持した。40時間後、塩基の自動添加を停止した。ガスクロマトグラフィーによって、残留出発物質は存在しなかった。これらの層を分離し、水相を、酢酸エチル(500mL)で洗浄した。合わせた有機物を、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、そしてロータリーエバポレーターでエバポレートして、本質的に純粋な(約97%の)エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートを得た。
【0149】
300mMリン酸カリウム緩衝液、300mM NaCN pH8.0中のエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレート(8.25g、50mmole)の十分に攪拌した溶液(1L)(30℃)に、ハロヒドリンデハロゲナーゼ(配列番号14)(9g)を、凍結乾燥粉末として添加した。57時間後、混合物を酢酸エチルで(250mLで2回)洗浄し、合わせた有機物を、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。混合物を濾過し、ロータリーエバポレーターにてエバポレートして、ガスクロマトグラフィー法および本明細書中以下の実施例6に記載される溶出時間のデータを使用して決定すると、本質的に純粋なエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートを得た。
【0150】
この実施例は、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステル(エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレート)をハロヒドリンデハロゲナーゼおよびシアン化物(シアン化塩であるNaCNにより提供される)と接触させることによって、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステル(エチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチレート)が生成される本発明のプロセスを示す。本実施例はさらに、4−ハロ−3−ケト酪酸エステル(エチル4−クロロアセトアセテート)をケトレダクターゼ、補因子(NADHにより提供されるNADPH)および補因子再生系(グルコースおよびグルコースデヒドロゲナーゼ)と接触させることによって、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルが提供される本発明のプロセスを示す。本実施例はさらに、アキラルエチル4−クロロアセトアセテートからの非ラセミキラルエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートを、高価な精製手順を伴わずに、高い収量かつ高純度で全体的に生成することを示す。
【0151】
(実施例6:エチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートの特徴付け)
実施例5において生成したエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートを、Agilent HP−5カラム、30m長、0.25μm内径を使用し、以下のプログラムを使用する、水素炎イオン化(FID)検出によるガスクロマトグラフィーを使用して分析した:100℃にて1分間、5℃/分を10分間;25℃/分を2分間;その後、200℃にて2分間。入口温度および出口温度は、両方とも300℃であった。流量は、2ml/分であった。これらの条件下で、エチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートは、6.25分で溶出し、エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートは、4.5分で溶出し、エチル4−クロロアセトアセテートは、4.1分で溶出する。
【0152】
上記の種の化学純度を、ガスクロマトグラフィーの結果からの積分したピーク面積を使用して測定した。
【0153】
エチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートに関するハロヒドリンデハロゲナーゼ(HHDH)のエナンチオ選択性を、Restek gammaDex SAカラム(30m長、0.32μm内径)を使用し、以下のプログラムを使用する、ガスクロマトグラフィーおよびFID検出によって測定した:165℃にて25分間および流量2ml/分。入口温度および出口温度は、両方とも、230℃であった。これらの条件下で、エチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートは、19.6分で溶出し、エチル(S)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチレートは、19.2分で溶出する。
【0154】
(実施例7;エチル4−クロロアセトアセテートからのエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートの調製)
機械的攪拌器を備え、pH電極による自動滴定器および塩基添加用供給チューブに接続された、3首ジャケット付き3Lフラスコに、トリエタノールアミン(6.6mL)およびHO(492mL)を充填して、100mMトリエタノールアミン溶液を生成した。そのpHを、37%HClを用いて7に調整した。その後、D−グルコース(125g)を添加した。フラスコジャケットに循環する水を、30℃に設定した。10分間後、ケトレダクターゼ(配列番号2)(5.7g)およびグルコースデヒドロゲナーゼS06(配列番号10)(3.1g)の粉末を、添加した。10分間後、β−NAD(125g)を添加し、生じた混合物を、5分間攪拌させた。その後、酢酸ブチル(250mL)を充填した。添加漏斗を使用して、2.4Mのエチル4−クロロアセトアセテート(250mL、酢酸ブチル167mL中100g)を、3時間かけてゆっくり添加した。そのpHを、自動滴定器により2MのNaCO(152mL)を15時間かけて添加することによって、7に維持した。セライト(16g)を添加し、反応混合物を10分間攪拌させた。その溶液をセライトパッドに通して濾過し、有機層を分離した。水層を酢酸ブチル(2×200mL)で抽出した。有機層を合わせ、溶媒をロータリーエバポレーションにより真空下で除去して、87gのエチル(S)4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートを得た。エナンチオマー過剰は、実施例8においてそれをエチル(R)−シアノ−3−ヒドロキシブチレートに変換した後に決定すると、>99%であった。
【0155】
(実施例8:エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからのエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの調製
機械撹拌機を備え、pH電極および塩基の添加のための供給管によって自動滴定装置に接続した3つ首ジャケット付き3Lフラスコに、HO(1200mL)、NaCN(37.25g)およびNaHPO(125g)をチャージし、溶液をpH7にした。水循環器を40℃に設定した。10分後、ハロヒドリンデハロゲナーゼ配列番号32を細胞可溶化物(250mL)として加えた。反応混合物を、5分間撹拌した。添加漏斗を用い、エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(実施例7からの物質45g)をゆっくりと1時間にわたって加えた。自動滴定機による10M NaOH(27mL)の17時間にわたる添加によって、pHを7に維持した。その後、反応サンプルのガスクロマトグラフィーにより、生成物への完全な変換が見られた。セライト(16g)をフラスコに加え、次いで、ダイアフラムに接続し、その排気を5M NaOH(200mL)中で泡立て、HCNを除去した。この混合物を、100mm Hgの圧力下で60℃まで過熱した。1時間後、水中の空気バブラーを溶液に加え、HCNの除去を補助した。3時間後、HCN検出器は、着たい廃棄物中5ppm HCN未満を示した。この混合物を、室温まで冷却し、次いでセライトのパッドを通して濾過した。濾液を酢酸ブチル(3×800mL)で抽出し、そして合わせた有機層を、活性炭のパッドを通して濾過した。この溶媒を、回転蒸発により真空化で除去し、28.5gのエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートを得た。純度は、HPLCで98%(w/w)であり、鏡像異性の過剰は>99%であった(キラルGCにより、S鏡像異性体は検出されなかった)。
【0156】
(実施例9:エチル4−クロロ−アセトアセテートからのエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートの調製)
pH電極および塩基の添加のための供給管によって自動滴定機に接続した100mL容器に、100mMトリエタノールアミンpH7緩衝液中グルコース(7.5g)溶液をチャージした。この溶液に、ケトレダクターゼ配列番号42(100mg);50mg GDH配列番号66およびNADP(6.25mg)をチャージした。次いで、酢酸ブチル(10ml)をチャージした。次いで、酢酸ブチル(10ml)中エチル4−クロロアセトアセテート(6g)をチャージした。自動滴定機による4M NaOH(7.5mL)の7時間にわたる添加によって、pHを7に維持した。反応混合物のサンプルを、等量の酢酸ブチルで抽出し、そして有機層をGCによって分析した。この分析は、エチル4−クロロアセトアセテートからエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートへの99%の変換を示した。
【0157】
(実施例10:エチル4−クロロ−アセトアセテートからのエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートの調製)
この手順は、400mgのケトレダクターゼ配列番号42を使用したことおよびNADPの代わりにNAD+(12.5mg)を添加したことを除き、実施例9の手順と同一であった。自動滴定機によるNaOH溶液の添加は、11時間で完了し、そしてGC分析は、エチル4−クロロアセトアセテートからエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートへの99%の変換を示した。
【0158】
(実施例11:エチル4−クロロ−アセトアセテートからのエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートの調製)
pH電極および塩基の添加のための供給管によって自動滴定機に接続した100mL容器に、水(30mL)中グルコース(12g)溶液をチャージした。この溶液に、ケトレダクターゼ配列番号42(100mg);50mgGDH配列番号66およびNADP(6.25mg)をチャージした。次いで、酢酸ブチル(10ml)をチャージした。次いで、エチル4−クロロアセトアセテート(10g)を、以下のシリンジポンプを介してチャージした:1mLを迅速にチャージし、次いで残りをandthe1mL/時間の速度でチャージした)。自動滴定機による4M NaOHの18時間にわたる添加によって、pHを7に維持した。撹拌を止め、そして相を分離させた。有機層は、幾らかのエマルジョンを含んだ。この有機層(幾らかのエマルジョンを含む)を、分離し、そして10mLの水で洗浄した。合わせた水層を、20mLの酢酸ブチルで2度抽出した。この有機抽出物を合わせ、そして減圧下で回転蒸発し、水を除去した。さらなる酢酸ブチルを、蒸発の間に添加し、水の除去を補助した。水が除去されたとき、酢酸ブチル溶液を固体からフラスコにデカントした。次いで、減圧下での溶媒の蒸発は、非常に純度の高い8.85gのエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(収率87.4%)を生じた。
【0159】
(実施例12:エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからのエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの調製)
pH電極および塩基の添加のための供給管によって自動滴定機に接続した170mL容器に、NaCN(1.5g,31mmol)および水(50mL)をチャージした。この容器を密封し、そしてヘッドスペースを窒素で脱気した。濃HSO(0.9mL)の添加により、pHを7に調整した。この反応混合物を、40℃まで過熱し、そしてハロヒドリンデヒドロゲナーゼ配列番号32の溶液(42μLの14M β−メルカプトエタノール含有水10mL中1.2g)で処理した。次いで、エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(1.8g、10.8mmol)を、シリンジを介して添加した。自動滴定機による2M NaOHの添加により、pHを7で維持した。15時間後、反応は完了し、計4.6mLの2M NaOHを加えた。反応混合物のサンプルを、等量の酢酸ブチルで抽出した。有機抽出物のGC分析は、エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートへの変換が>99%であったことを示した。
【0160】
(実施例13:エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからのエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの調製)
この手順は、2M NaOHの代わりに4M NaCNを塩基として使用したことを除き、実施例12の手順と同一であった。8時間後、反応は完了し、計2.3mLの4M NaCNを加えた。GC分析により、エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートへの変換は>99%であったことを示した。
【0161】
この実施例は、アルカリシアン化物を塩基として使用する本発明のプロセスが、反応混合物定数のpHおよびシアン化物濃度の両方を維持することを示す。
【0162】
(実施例14:エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからのエチル−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの調製)
pH電極および塩基(7.5M NaOH)の添加のための供給管によって自動滴定機に接続した250mL容器に、水(83.5mL)および0.7gのハロヒドリンデハロゲナーゼ配列番号24をチャージした。この混合物を30分間撹拌した。滴定機を活性化させ、そしてpH7を維持するように設定した。次いで、HCN 25%水溶液(9.26ml、8.6g)を、20分間に渡ってチャージし、2.3% HCN溶液を作製した。この混合物を40℃で10分間過熱し、次いでエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(5g)を1時間に渡ってチャージした。自動滴定機による2M NaOHの添加により、pHを7で維持した。20時間後、反応サンプルの酢酸ブチル抽出物のGC分析は、エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートへの変換が95%であったことを示した。
【0163】
この実施例は、シアン化物の供給源としてシアン化水素水溶液を用いた本発明の過程を示す。
【0164】
(実施例15:エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからのエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの調製)
20mLスクリューキャップ容器に、NaCN(250mg)およびNaHPO(830mg)を添加した。水(10mL)を加え、その後ハロヒドリンデハロゲナーゼ配列番号32を凍結乾燥粉末(200mg)で加えた。次いで、エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(300mg)を加えた。容器にふたをし、湯浴中で40℃で加熱した。4時間後、反応サンプルの酢酸ブチル抽出物のGC分析は、エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートへの54%の変換を示した。72時間後、GC分析は、変換の完了を示した。
【0165】
(実施例16:エチル−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからのエチル(S)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの調製)
この手順は、(S)−鏡像異性体の代わりにエチル4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートの(R)−鏡像異性体を反応させたことおよび全ての反応成分の量を半分にしたこと除き、実施例15の手順と同一であった。1時間の反応時間後、GC分析は、エチル(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからエチル(S)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートへの55%変換を示した。
【0166】
前の実施例と組み合わせて、この実施例は、本発明のプロセスが、ヒドロキシ酪酸エステルのいずれかの鏡像異性体を、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステルの対応する鏡像異性体に変換するために使用し得ることを示す。
【0167】
(実施例17:メチル4−クロロ−アセトアセテートからのメチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートの調製)
この手順は、エチル4−クロロアセトアセテートの代わりに等モル量のメチル4−クロロアセトアセテートを反応させたことおよび使用した酵素がケトレダクターゼ配列番号50およびグルコースデヒドロゲナーゼ配列番号62であったことを除き、実施例9の手順と同一であった。この反応は、11時間で完了し、そしてGC分析は、>99%のメチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートを示した。生成物を酢酸ブチルへの抽出によって単離し、そして溶媒蒸発およびその同一性をHおよび13C NMRによって確認した。
【0168】
(実施例18:メチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからのメチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの調製)
この手順は、エチル(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートの代わりに等モル量のメチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(実施例17で調製)を反応させたことを除き、実施例16の手順と同一であった。1時間の反応時間後、GC分析はメチル(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからメチル(S)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートへの38%の変換を示した。この生成物を、Hおよび13
NMRによって特徴付けた。
【0169】
(実施例19:エチル(S)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチラートからのエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの調製)
この手順は、エチル(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートの代わりに等モル量のエチル(S)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチラートを反応させたことを除き、実施例16の手順と同一であった。1時間の反応時間後、GC分析はエチル(S)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチラートからエチル(S)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートへの90%の変換を示した。この生成物を、Hおよび13C NMRによって特徴付けた。
【0170】
この実施例は、4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルのハロ置換基が臭素である、本発明のプロセスを示す。
【0171】
(実施例20:エチルアセトアセテートからのエチル3−ヒドロキシブチラートの調製)
この手順は、メチル4−クロロアセトアセテートの代わりに等モル量のエチルアセトアセテートを反応させたことならびに200mgのケトレダクターゼ配列番号50および100mgグルコースデヒドロゲナーゼ配列番号62を使用したことを除き、実施例17の手順と同一であった。反応は6時間で完了した。生成物を、酢酸ブチル中への抽出および溶媒蒸発により単離し、Hおよび13C NMRによって特徴付けた。
【0172】
前の実施例と組み合わせて、この実施例は、本発明の実施形態において、エチルアセトアセテートからエチル3−ヒドロキシブチラートへの還元のための活性を有する酵素であるケトレダクターゼは、4−ハロ−3−ケト酪酸エステルから4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルへの還元のために有用であることを実証する。
【0173】
(実施例21:エチル4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートとシアン化物の酵素的試験反応および非酵素的試験反応のオフプロフィール)
25mg/mLシアン化ナトリウムを含む水溶液を、85%リン酸の添加により、pHメーターでモニタリングしながらpH5.0、pH6.0、pH7.0、pH7.5、pH8.0、pH8.5およびpH9.0で調製した。ハロヒドリンデハロゲナーゼ配列番号38(20mg)を各容器に添加し、その後エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(50mg,0.30mモル)を添加した。火酵素的反応実験について、手順は、酵素を省いたことを除き同一であった。容器にふたをし、そして湯浴中で55℃で3時間加熱し、次いで取り出して室温で冷却した。核反応混合物の0.4mLサンプルを1mL酢酸ブチルで抽出し、そして抽出物を、ガスクロマトグラフィーで分析した。
【0174】
各容器の基質および生成物の分析した量を表Iに示し、そしてpHに対するグラフを図1に示す。どちらにおいても、クロロヒドリンは、エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートを、シアノヒドリンはエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートを,そしてクロトネートはエチル4−ヒドロキシ黒とネートを意味する。表において、NDは、検出されないことを意味する。
【0175】
(表I:ハロヒドリンデハロゲナーゼ使用または不使用で試験反応において分析されたミリモルのクロロヒドリン、シアノヒドリンおよびクロトネート副生成物。実施例21参照)
【0176】
【表1】

最終試験反応混合物のpHを、再測定した。ハロヒドリンデハロゲナーゼを含有し、pH7以上である混合物(クロロヒドリンからシアノヒドリンへほぼ変換が完了した混合物)について、最終混合物のpHは、最初のpHより0.4〜0.6のpH単位下回った。他の混合物は、その最初の値からpHにおいてずっと低く示された。
【0177】
これらの反応条件および時間におけるデータは、8未満の試験したいかなるpHにおいても、シアン化物によるエチル4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートの測定可能な非酵素的反応はなかった。pH8以上において、シアン化物によりエチル4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートを形成する非酵素的反応は、pHが上昇するにつれ増加し、そしてエチル4−ヒドロキシクロトネート副生成物の形成の増加によって達成された。対照的に、ハロヒドリンデハロゲナーゼによる酵素的反応は、5より高い全ての試験pHで生じ、試験したいかなるpHでもエチル4−ヒドロキシクロトネートの測定可能な形成はなかった。さらに、酵素的試験および非酵素的試験の両方について、8より高いpHにおけるモルGC分析生成物の総量は、最初に提供された0.30mモルから減少した(エチル4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート反応物として)。このことは、8より高いpHの上昇により、分析不可能な副産物の形成が増加することを示す。反応物および生成物のエステル基は、8より高いpHで次第に加水分解されてカルボン酸基になり、生じたカルボン酸は、GCにより分析された反応混合サンプルの抽出物に抽出されない。実施例22を参照。
【0178】
(実施例22:エチル4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの非酵素的加水分解)
リン酸水溶液を、40mL水中に0.48gのNaHPOを溶解し、そしてpHメーターによりモニタリングしながら2M NaOHを添加してpHの調整し、pH7.0、pH7.5、pH8.0、pH8.5、およびpH9.0で作製した。5mLの各溶液を、別々の20mLスクリューキャップ容器にチャージした。次いで、エチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラート(46mg、0.29mmol)を添加した。この容器にふたをし、そして湯浴中で55℃で3時間加熱し、そして室温で冷却した。0.4mLの各反応混合物を、1mLの酢酸ブチルで抽出し、この抽出物を、GCによって分析した。外部標準のために、二連のpH7.0混合物を、新しく調製し、そしてただちに抽出した。各容器中のエチル4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの分析した量を、表IIに示す。その加水分解の産物は、反応サンプル抽出物中に検出されなかった。このエステルの加水分解のカルボン酸生成物が、GCによって分析された抽出物中に抽出されないことは、別々に確立された。
【0179】
(表II:試験加水分解反応において分析したミリモルのクロロヒドリンおよびシアノヒドリン。実施例22を参照)
【0180】
【表2】

最終試験混合物のpHを、再測定した。最初のpHが各々8.0、8.5、および9.0である混合物は、7.4の最終pHを有した。最初のpHが7.5である混合物は、7.3の最終pHを有し、そして最初のpHが7である混合物は、変わらなかった。高いpHサンプルにおいてカルボン酸の生成が起きる事実は、リン酸緩衝化範囲における溶液の中和をもたらす。
【0181】
この実施例は、実施例21と共に、8より高いpHにおいてpHの上昇につれてエチル4−シアノ−3−ヒドロキシ−ブチラートが加水分解されることを示し、ここでエチル4−シアノ−3−ヒドロキシ−ブチラートは、エチル4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートのシアン化物による非酵素的反応によって生成される。
【0182】
(実施例23:エチル4−クロロアセトアセテートからのエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの調製(エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートを介する))
pH電極および塩基(4M NaOH)の添加のための供給管によって自動滴定機に接続した100mL容器に、100mMトリエタノールアミンpH7緩衝液中グルコース(7.5g)溶液(25mL)をチャージした。この溶液に、ケトレダクターゼ配列番号50(50mg);50mg グルコースデヒドロゲナーゼ配列番号62およびNADP(1.5mg)をチャージした。次いで、さらなる酢酸ブチル(10ml)中酢酸ブチル(10ml)およびエチル4−クロロアセトアセテート(6g)をチャージした。自動滴定機による4M NaOHの撹拌混合物への13時間にわたる添加によって、pHを7に維持した。次いで、相を30分間分離させ、そしてエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート中間体を含む有機層(25mL)を取り出した。
【0183】
pH電極および塩基(2M NaOH)の添加のための供給管によって自動滴定機に接続した170mL容器に、シアン化ナトリウム(1.5g)をチャージし、続いて水(50mL)をチャージした。この容器を密封し、そしてヘッドスペースを窒素で脱気した。濃HSO(0.9mL)の添加により、pHを7に調整した。この反応混合物を、40℃まで過熱し、そしてハロヒドリンデヒドロゲナーゼ配列番号32の溶液(42μLの14M β−メルカプトエタノール含有水10mL中1.2g)で処理した。次いで、エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートを、シリンジを介して添加した。撹拌混合物への自動滴定機による2M NaOHの添加により、pHを7で維持した。示したように、15時間後、エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートからエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートへの変換は、計5mLの塩基の添加により、33%であった(完全な変換に15mL必要であると予測される)。
【0184】
(実施例24:エチル4−クロロアセトアセテートからのエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートの調製(エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートを介する))
20mLの容器に、NaHPO(415mg、3.46mmol)およびグルコース(750mg、3.8mmol)を加えた。水(5mL)を加え、その後NADP(2mg)、ケトレダクターゼ配列番号56(50mg)、グルコースデヒドロゲナーゼ配列番号62(50mg)、およびハロヒドリンデハロゲナーゼ配列番号32(100mg)を加えた。次いで、0.5mL酢酸ブチル中エチル4−クロロ−アセトアセテート(24mg、0.15mmol)を加えた。この容器にふたをし、油浴中で30℃で加熱した。1時間後、反応サンプルの酢酸ブチル抽出物のGC分析は、エチル4−クロロ−アセトアセテートからエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートへの100%の変換を96%の選択性で、そしてエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラートを4%の選択性で示した。次いで、反応容器を、40℃で15時間過熱した。次いで、酢酸ブチル抽出物のGC分析は、2%のエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシ−ブチレート残渣を、開始エチル4−クロロアセテートに基づき、全体でエチル(R)−4−シアノ−3−ヒドロキシブチラート収率98%で示した。
【0185】
この実施例は、4−シアノ−3−ヒドロキシ酪酸エステル(エチル4−シアノ−3−(R)−ヒドロキシブチラート)が、中間4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステル(エチル4−クロロ−3−(S)−ヒドロキシブチラート)を介して、4−ハロ−3−ケト酪酸エステル(エチル4−クロロアセトアセテート)の、ケトレダクターゼ、補因子(NADPとして提供されるNADPH)、補因子再生成系(グルコースおよびグルコースデヒドロゲナーゼ)、ハロヒドリンデハロゲナーゼ、およびシアン化物(シアン化物塩NaCNによって提供される)との接触により生成され、全ての反応物が、反応混合物中で同時に提示される、本発明のプロセスを示す。
【0186】
全ての刊行物、特許、特許出願および本明細書中に挙げた他の文献は、本明細書によりその全体が、各々独立の刊行物、特許出願または特許が、その全体が個別に全ての目的で参考として援用されることを示されるのと同じ程度に、本明細書中で全ての目的で参考として援用される。
【0187】
本発明の好ましい実施形態が説明および記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の改変が種々の改変がなされ得ることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書または図面に記載の発明

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−172348(P2010−172348A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115827(P2010−115827)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【分割の表示】特願2004−528083(P2004−528083)の分割
【原出願日】平成15年8月11日(2003.8.11)
【出願人】(502427921)コデクシス, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】