説明

4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの精製方法

【課題】本発明は、抗ヒスタミン活性を有する生理活性化合物である4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを高純度で得ることを目的とする。
【解決手段】4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの粗体を炭素数5〜7の脂肪族炭化水素溶媒85〜97質量%、炭素数1〜3のアルコール、およびアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒15〜3質量%とからなる混合溶媒により晶析することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの新規な精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)
【0003】
【化1】


で示される4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステル(以下、ロラタジンとする場合もある)は、抗ヒスタミン活性を有し、アレルギー薬用途の原薬として有用な化合物である。このような原薬は、医薬品の活性成分であり、含まれる不純物により薬害等を生じる恐れがあるため、高品質なものが望まれている。具体的には、着色が無く、純度として99.00%以上、より好ましくは99.50%以上の高い純度であることが求められている。このような高品質のロラタジンを製造するためには、原料や中間体の製造および精製、さらに、ロラタジン自体の精製が重要となる。
【0004】
ロラタジンの合成方法の一つとして、8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニル)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−オールを原料にする方法が知られている。
【0005】
具体的には、8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニル)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−オール(以下、アルコール体とする場合もある)を脱水処理して、8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニリデン)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン(以下、脱水体とする場合もある)を得、次いでクロロ炭酸エチルとの反応により、ロラタジンを得るという方法である。
【0006】
ロラタジンの中間体である脱水体の製法については、幾つかの方法が知られている。一般的な方法としては、例えば、前記アルコール体を93質量%の硫酸に溶解させ、室温で一晩攪拌を行い、次いで、ジクロロメタンを加えた後に50質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いて冷時中和を行うという方法が知られている(特許文献1参照)。この方法によれば、効率よくアルコール体を脱水体にすることができる。
【0007】
一方、最も重要となるロラタジンの精製方法についても、既に幾つかの方法が知られており、シリカゲルカラムクロマトグラフィーや再結晶による精製が行われている。例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いた精製の後に、ペンタンにより再結晶する方法(特許文献1参照)、石油エーテルで処理し、活性炭で脱色した後、イソプロピルエーテルにより再結晶する方法(特許文献2参照)、加熱したアセトニトリルに溶解させ活性炭処理を行い、その後、濃縮を行い結晶性のスラリーとする方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−289087号公報
【特許文献2】特開昭57−35586号公報
【非特許文献1】ドリス P.S.他 ジャーナル オブ オーガニックケミストリー 1989年、54巻、2244−2247ページ(Doris P.Schumacher et al. Journal of Organic Chemistry 1989,54,2244−2247)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のロラタジンの精製方法では、以下の点で改善の余地があった。例えば、特許文献1に記載された精製方法は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いているため、製造工程に大きなコストがかかる。また、ペンタンを再結晶に用いているが、ロラタジン自体が若干黄色に着色するという課題があり、改善の余地があった。特に、この着色の問題は、アルコール体を硫酸中で一晩反応させた場合、顕著であった。
【0010】
また、特許文献2に記載された精製方法は、ロラタジン自体が石油エーテルには難溶性であるため、多量の溶媒を必要としなければならず、大量生産に適応する場合には改善の余地があった。さらに再結晶の溶媒にエーテルを用いているため、安全性および危険性の点から、医薬品製造の最終工程には不適であった。
【0011】
さらに、非特許文献1に記載された精製方法は、収率が高く優れているが、高純度のものとするためには、ロラタジンに対してアセトニトリルの使用量を多くしなければならず、後処理が煩雑になる点で改善の余地があった。
【0012】
従って、本発明の目的は、ロラタジンを精製する方法において、少ない溶媒量でも、高収率で高純度のものを製造することが出来、かつ、着色の度合が非常に少ないものを製造することが出来る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねてきた。その結果、ロラタジンの精製において、特定の混合溶媒を使用して晶析することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、アルコール体と濃硫酸との反応を特定の温度条件で行うことにより、最終的に得られるロラタジンの着色をより低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記式(1)
【0015】
【化2】


で示される4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステル(ロラタジン)を、炭素数5〜7の脂肪族炭化水素溶媒80〜97質量%と、炭素数1〜3のアルコール、およびアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒20〜3質量%とからなる混合溶媒により晶析することを特徴とする4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの精製方法である。
【0016】
また、前記混合溶媒において、イソプロピルアルコールを使用することにより、高純度のロラタジンを高収率で得ることができる。
【0017】
さらに、本発明は、前記ロラタジンが、下記式(2)
【0018】
【化3】


で示される8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニル)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−オール(アルコール体)を30℃以上に加熱した濃硫酸に加えて脱水反応を行い、下記式(3)
【0019】
【化4】


で示される8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニリデン)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン(脱水体)を合成し、得られた前記式(3)で示される化合物(脱水体)とクロロ炭酸エチルとを反応させることにより合成されたものである場合に、最終的に得られるロラタジンの着色をより一層低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ロラタジンを高純度で製造することが可能であり、99.75%を超える純度、さらに条件を最適化すれば99.90%以上の純度にすることも可能である。
【0021】
さらに、脱水体の製造工程において、30℃以上に加熱した濃硫酸中に、前記アルコール体を加えることにより、脱水体を短時間で製造することができるだけでなく、最終的得られるロラタジンの着色をより低減することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、前記式(1)で示されるロラタジンを、炭素数5〜7の脂肪族炭化水素溶媒80〜97質量%、炭素数1〜3のアルコール、およびアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒20〜3質量%とからなる混合溶媒により晶析することを特徴とするロラタジンの精製方法である。
【0023】
この精製の対象となるロラタジンは、特に制限されるものではなく、公知の方法により製造することができる。中でも、本発明が特に効果を発揮するのは、前記式(2)で示されるアルコール体を濃硫酸中で反応させることにより、前記式(3)で示される脱水体を合成し、得られた前記式(3)で示される脱水体とクロロ炭酸エチルとを反応させることにより合成されたロラタジンを精製する場合である。以下、前記式(3)で示される脱水体を合成する工程、前記式(1)で示されるロラタジンを合成する工程、得られたロラタジンを前記混合溶媒で晶析する工程を、順を追って説明する。
【0024】
(脱水体を合成する工程)
本発明において用いる原料化合物、即ち、前記式(2)で示される8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニル)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−オール(アルコール体)は、特に制限されるものではなく、公知の方法により製造することができる。例えば、非特許文献1に示されている通り、8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−オンと塩化N−メチルピペリジニルマグネシウムとを乾燥テトラヒドロフラン中で反応することにより製造することが出来る。
【0025】
また、本発明においては、例えば、前記方法により得られたアルコール体を濃硫酸と混合し、脱水反応を行うことにより得られる前記式(3)で示される8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニリデン)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン(脱水体)をロラタジンの中間体とすることができる。
【0026】
この脱水体を合成する工程に用いる濃硫酸の濃度、量としては、特に制限されるものではなく、実質的に脱水反応が生じる範囲であればよい。使用する濃硫酸は、硫酸が90質量%以上の市販の硫酸を使用することができるが、脱水反応の進行速度の点から、93〜98質量%の濃度のものを使用することが好ましく、特に95〜98質量%の濃度のものを使用することが好ましい。また、濃硫酸の使用量は、前記式(2)で示されるアルコール体の濃硫酸への溶解性が低いことから、前記アルコール体1モルに対し、濃硫酸中の硫酸が5モル以上となる量であることが好ましい。一方、濃硫酸の使用量の上限は、特に制限されるものではないが、後処理で使用する塩基性水溶液の使用量が増加すればするほど脱水体の収量が低減してしまうため、通常、アルコール体1モルに対して、濃硫酸中の硫酸が20モルとなる量である。アルコール体の溶解性、および脱水体の収量を考慮すると、濃硫酸の使用量は、アルコール体1モルに対して、濃硫酸中の硫酸が6〜10モルとなることが好ましい。
【0027】
前記式(2)で示されるアルコール体を濃硫酸によって脱水する反応においては、特に制限されるものではないが、30℃以上に加熱された濃硫酸中に該アルコール体を添加することが好ましい。本発明者の検討によれば、下記に詳述する混合溶媒でロラタジンを精製することにより、高純度の着色が少ないものが得られることを見出したが、より着色を少なくするためには、濃硫酸中にアルコール体を添加する際の温度が重要であることが判明した。
【0028】
従来の方法では、該アルコール体と濃硫酸とを室温で長時間反応させることにより、脱水反応を行っていた。しかしながら、この反応時間が長くなればなるほど、最終的に得られるロラタジンが着色することが分かった。混合時の温度を高くすることにより、最終的に得られるロラタジンの着色が酷くなることも考えられたが、本発明者の検討によれば、混合時の温度よりも、反応時間に着色の原因があることが分かった。これは、溶解した該アルコール体が脱水体に変換される時間は短いが、該アルコール体が濃硫酸に溶解するのに時間がかかることが原因であると考えられる。つまり、室温における脱水反応では、該アルコール体の溶解に時間がかかり、その結果、脱水反応の時間が長くなり、延いては、ロラタジンが着色するものと考えられる。そのため、該アルコール体を濃硫酸中に加える際の温度が重要となり、本発明においては、30℃以上に加熱した濃硫酸中に該アルコール体を加えることが好ましい。特に、より脱水反応の時間を短くし、生産性を向上するためには、該アルコール体を加える濃硫酸の温度は、好ましくは30以上90℃以下、より好ましくは30℃以上70℃以下、さらに好ましくは35℃以上50℃以下である。
【0029】
また、該アルコール体を濃硫酸中に添加する際には、より脱水反応にかかる時間を短くするために、上記温度範囲に加熱した濃硫酸中に該アルコール体を分割して加えることが好ましい。特に、該アルコール体を分割して添加するに際し、添加したアルコール体が目視で溶解したのを確認した後、次いで、アルコール体を添加することが好ましい。このように分割して該アルコール体を添加することにより、室温での従来の方法と比べ、該アルコール体の硫酸に対する溶解速度を飛躍的に向上することができ、その結果、脱水反応を短時間で完了することができるため、ロラタジンの着色を低減することができる。
【0030】
さらに、該アルコール体と濃硫酸との混合においては、上記温度範囲に加熱した濃硫酸中に該アルコール体を加えるのが好ましいが、該アルコール体が濃硫酸に溶解すれば、その後の濃硫酸の温度は、特に制限されるものではなく、室温以上とすればよい。中でも、より脱水反応にかかる時間を短くするためには、該アルコール体を濃硫酸中に添加した温度よりも高い温度にすることが好ましい。脱水反応にかかる時間をより短くし、ロラタジンの生産性、着色の問題を考慮すると、該アルコール体を加える際の濃硫酸の温度を、30℃以上70℃以下とすることが好ましく、さらに35℃以上50℃以下とすることが好ましく、また、該アルコール体が溶解した後の濃硫酸の温度を、50℃を超え90℃以下とすることが好ましく、さらに55℃以上70℃以下とすることが好ましい。
【0031】
本発明において、前記式(2)で示されるアルコール体を濃硫酸中へ全量添加するのに要する時間は、反応を行うスケール、および攪拌効率により異なるが、通常は2〜8時間であれば十分である。また、アルコール体を濃硫酸へ溶解させた後の反応時間は、通常は0.5〜3時間あれば十分である。なお、脱水反応が完了したかどうかは、高速液クロマトグラフィー(HPLC)等により確認することができる。
【0032】
次に、濃硫酸中で生成された前記式(3)で示される脱水体は、特に制限されるものではないが、特許文献1に記載の方法に従い精製することができる。具体的には、前記式(3)で示される脱水体、濃硫酸を含む反応液と塩基性水溶液とを混合した混合液と、非水溶性有機溶媒とを接触させ、該脱水体を非水溶性有機溶媒中に抽出することにより、該脱水体を精製してやればよい。
【0033】
前記塩基性水溶液としては、塩基の有機層への移行を防ぐ観点から、無機塩基の水溶液が好ましい。用いる無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の水酸化アルキル金属あるいは水酸化アルカリ土類金属、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム等の炭酸水素アルカリ土類金属、炭酸水素アルカリ土類金属、炭酸ナトリウム等の炭酸塩、等が挙げられる。これらの中で、中和により生じる無機塩の溶解度、コストの面から水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0034】
また、使用する塩基性水溶液の濃度は、特に制限されるものではないが、生じた中和塩の溶解性、およびバッチ当たりの脱水体の収量の点から、3〜50質量%であることが好ましく、さらに3〜30質量%であることが好ましい。使用する塩基性水溶液の量は、前記式(3)で示される脱水体を含む濃硫酸が中和される量であればよいが、該脱水体の分解を防止するという点から、水層のpHが好ましくは10以上となる量、より好ましくは12以上となる量である。
【0035】
前記式(3)で示される脱水体の抽出に使用する非水溶性有機溶媒とは、水への溶解度が水10g当り1g以下の有機溶媒を示す。この非水溶性有機溶媒を具体的に例示すれば、n−ヘキサノール、n−オクタノール等のアルコール類、ギ酸ブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸エチル等のエステル類、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロオクタノン等の非環状または環状のケトン類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、メチルシクロヘキサン等の非環状または環状の飽和炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等を挙げることが出来る。これらの中で、次工程で溶媒置換を行う必要がなく、塩基性の条件でも分解しにくい点から、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が好ましく、その中でも特にトルエンが好ましい。
非水溶性有機溶媒の使用量としては、特に制限されるものではないが、抽出効率およびバッチ当たりの収量を勘案し、使用した塩基性水溶液量の0.1〜10倍量、好ましくは0.2〜3倍量である。
【0036】
前記非水溶性有機溶媒により前記式(3)で示される脱水体を抽出する方法において、各液の添加順序、添加方法等は、特に制限されるものではなく、該脱水体、および濃硫酸を含む反応液、該塩基性水溶液、および該非水溶性有機溶媒を混合することにより実施することができる。中でも、前記式(3)で示される脱水体の水層への析出防止、および、濃硫酸と塩基性水溶液との反応による発熱を低減する点から、塩基性水溶液および非水溶性有機溶媒を予め混合した処理液を準備し、必要に応じて処理液を冷却した後、この処理液中に前記式(3)で示される脱水体、濃硫酸を含む反応液を滴下することが好ましい。該反応液を滴下する際の処理液の温度は、特に制限されるものではないが、中和熱を低減し、かつ作業者への溶媒の暴露を防ぐ観点から、0℃以上60℃以下が好ましく、さらに10℃以上30℃以下が好ましい。また、この温度で反応液を滴下した際には、濃硫酸と塩基性水溶液との反応により生じた無機塩が水層に析出する場合があるが、この場合には、該無機塩を完全に溶解させる為に、必要に応じて加熱を行う。加熱温度は、無機塩が溶解する範囲であればよいが、好ましくは30℃以上70℃以下、更に好ましくは40℃以上60℃以下である。
【0037】
このような操作により、非水溶性有機溶媒へ該脱水体が完全に移行しない場合には、非水溶性有機溶媒を分液し、再度、非水溶性有機溶媒を加え、該脱水体が非水溶性有機溶媒へほぼ完全に移行するまで繰り返し抽出を行えばよい。通常であれば、水層と同じ量の非水溶性有機溶媒を使用して、1〜3回繰り返せば十分である。
【0038】
次いで、前記式(3)で示される脱水体を含む非水溶性有機溶媒は、必要に応じて水洗することが好ましい。この水洗は、該非水溶性有機溶媒に含まれる無機塩が除去されるまで行えばよく、通常、非水溶性有機溶媒と同量の精製水で1〜3回水洗してやればよい。
【0039】
洗浄終了後は、次の反応を考慮し、非水溶性有機溶媒に含まれる水分を除去することが好ましい。水分の除去方法については、乾燥剤を添加するか、または非水溶性有機溶媒を減圧濃縮し、該溶媒に含まれる水を除去する共沸脱水を行うことにより実施する。前記式(3)で示される脱水体の収量を考慮すると、共沸脱水を行うことが好ましい。減圧濃縮は、該脱水体が乾固するまで行うと攪拌が困難になる為、通常は、非水溶性有機溶媒が約半量の量となるまで実施する。
【0040】
このような方法により得られる前記式(3)で示される脱水体の収率は、通常、90%〜98%、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の純度は98%〜99.5%である(ただし、該純度は、非水溶性有機溶媒を含まない。)。
【0041】
本発明においては、非水溶性有機溶媒を含む上記純度の該脱水体をそのまま、次の工程の原料として使用することができる。
【0042】
(ロラタジンを合成する工程)
前記式(3)で示される脱水体とクロロ炭酸エチルとを反応させることにより、前記式(1)で示されるロラタジンを合成することができる。この反応は、特に制限されるものではないが、非特許文献1に記載の方法に従い実施することができる。
【0043】
本発明に用いるクロロ炭酸エチルの量は、特に制限されるものではなく、実質的に反応が進行する範囲で用いればよいが、原料となる前記式(3)で示される脱水体1モルに対して、1〜5モルとすることが好ましく、さらに2〜3モルとすることが好ましい。
【0044】
また、該脱水体とクロロ炭酸エチルとの反応温度は、特に制限されるものではないが、反応時間を考慮すると、60℃以上、好ましくは70℃以上100℃以下、さらに好ましくは80℃以上100℃以下である。反応時間としては、反応の進行に応じて適宜設定すればよいが、通常、撹拌下、1〜5時間である。また、この反応に使用する溶媒は、非水溶性有機溶媒であり、この非水溶性有機溶媒は、前記と同じ溶媒であることが好ましい。
【0045】
前記のような条件により前記式(1)で示されるロラタジンを合成することができるが、次いで、該ロラタジンを含む非水溶性有機溶媒を20℃以上40℃以下に冷却し、水洗することにより、主に高極性の不純物、未反応の前記式(3)で示される脱水体、および副生する塩酸を除去することが好ましい。洗浄回数としては、特に制限されるものではなく、通常1〜3回である。
【0046】
水洗浄後は、塩酸を完全に除去する点、および生成した前記式(1)で示されるロラタジンが塩酸塩となることを防止する点から、塩基性水溶液で洗浄を行うことが好ましい。洗浄に用いる塩基性水溶液としては、塩基の有機層への移行を防ぐ観点から、無機塩基からなる水溶液が好ましい。用いる無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の水酸化アルキル金属あるいは水酸化アルカリ土類金属、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム等の炭酸水素アルカリ土類金属、炭酸水素アルカリ土類金属、炭酸ナトリウム等の炭酸塩、等が挙げられる。これらの中で、前記式(1)で示されるロラタジンのN−保護基の脱離を防止する点から、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム等の炭酸水素アルカリ土類金属、炭酸水素アルカリ土類金属、炭酸ナトリウム等の炭酸塩等の弱塩基が好ましい。塩基性水溶液の濃度は、前記の点から、通常、5〜20質量%である。
【0047】
塩基性水溶液で洗浄後、必要に応じて非水溶性有機溶媒を留去し、前記式(1)で示されるロラタジンの粗体(以下、粗体(I)とする)を得ることができる。溶媒留去の際の減圧度は特に制限ないが、通常、1mmHg〜常圧である。留去温度は、減圧度に応じて調整すればよく、特に制限されるものではない。
【0048】
この粗体(I)は、そのまま下記に詳述する混合溶媒で晶析することもできるが、晶析を行う前に、該粗体(I)を溶媒に溶解させ、該溶媒中に吸着剤を加えて吸着処理することが好ましい。
【0049】
使用する吸着剤としては、活性炭、シリカゲル等が挙げられ、これら吸着剤は、単独で使用することもできるし、両者を併せて使用することもできる。特に、本発明においては、得られるロラタジンの着色を低減する効果(脱色効果)、高純度化する効果を考慮すると、活性炭およびシリカゲルを同時に使用することが好ましい。
【0050】
活性炭およびシリカゲルの使用量は、あまり少ないと効果が低減し、多すぎると前記式(1)で示されるロラタジンが吸着され、収率が低下すること、および経済性の観点から、粗体(I) 1kgに対して、それぞれ0.01〜0.5kg、好ましくは0.01〜0.3kg、さらに好ましくは0.02〜0.2kgである。
【0051】
吸着剤処理で使用する溶媒としては、該粗体(I)が溶解するものであれば特に制限されるものではなく、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール等のアルコール類、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸エチル等のエステル類,アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロオクタノン等の非環状または環状のケトン類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、メチルシクロヘキサン等の非環状または環状の飽和炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類、γ−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン等のラクトン類、水等が挙げられる。これら溶媒は、単独で使用することもできるし、2種類以上を混合したものを使用することもできる。
【0052】
これらの溶媒の中で、脱色の効率および粗体(I)の溶解性の点から、アルコール類が好ましく、特に溶解性および工程短縮の点からイソプロピルアルコール(以下、IPAとする場合もある)が好ましい。
【0053】
この吸着処理に使用する溶媒の使用量としては、特に制限されるものではないが、粗体(I)の溶解性およびバッチ当たりの収量を勘案し、通常、粗体(I)1kgに対し、0.2〜20Lである。
【0054】
吸着処理を行う温度は、あまり低いと前記式(1)で示されるロラタジンが析出し収率が低下し、高いと作業者への溶媒の暴露の可能性があるため、通常−20℃以上100℃以下、好ましくは0℃以上60℃以下、さらに好ましくは5℃以上30℃以下の範囲である。また、吸着処理の時間は、あまり短すぎると効果が発現せず、あまり長いと前記式(1)で示されるロラタジンが吸着され収率が低下するため、通常、0.1〜24時間以内で処理を行う。
【0055】
また、吸着処理後、吸着剤を分離する方法は、公知の方法を使用することができ、例えば、遠心分離ろ過、過圧ろ過、減圧濾過、デカンテーション、フィルタープレス等による分離方法が挙げられる。一般的には、ろ過助剤としてセライト等を使用し、加圧ろ過、減圧濾過、フィルタープレスでろ過する。
【0056】
吸着処理後、必要に応じて溶媒を留去し、前記式(1)で示されるロラタジンの粗体(以下、粗体(II)とする場合もある)を得る。溶媒留去の際の減圧度は特に制限ないが、通常、1mmHg〜常圧である。留去温度は、減圧度に応じて調整すればよく、特に制限されるものではない。下記の晶析工程において、混合溶媒に使用する溶媒と、吸着処理に使用した溶媒が同一で、晶析時の溶媒量と吸着処理時の溶媒量とが同量である場合には、溶媒を留去する必要はない。
【0057】
この方法により得られる粗体(II)の収率、および純度は、粗体(I)の純度、吸着処理条件に影響されるため一概に限定することはできないが、通常、収率が80%〜95%、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の純度が93%〜98.0%となる。
【0058】
このような吸着処理、および下記に詳述する混合溶媒による晶析を行うことにより、シリカゲルカラムクロマトグラフィーよりも遥かに少ないシリカゲル量で、着色のない、高純度のロラタジンを得ることができる。
【0059】
(混合溶媒による晶析工程)
本発明おいては、ロラタジンを、炭素数5〜7の脂肪族炭化水素溶媒80〜97質量%と、炭素数1〜3のアルコールおよびアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒20〜3質量%とからなる混合溶媒により晶析することにより、着色がない、純度の高いロラタジンへと精製することができる。中でも、前記方法により合成されたロラタジンの粗体、すなわち、前記ロラタジンの粗体(I)、または前記ロラタジンの粗体(II)を上記混合溶媒で晶析することにより、高純度で着色のないロラタジンを製造することができる。以下、前記粗体(I)と前記粗体(II)とを晶析するに際し、粗体に対する各溶媒の量、混合比などは変わらないため、粗体(II)を基準とした場合の例を説明する。
【0060】
本発明においては、前記方法により得られた粗体(II)を、特定の混合溶媒で再結晶(晶析)することにより、高純度のロラタジンを得ることができる。この晶析工程を行うことにより、不純物の除去が可能であり、純度が大幅に向上し、しかもロラタジンの着色をも低減することができる。
【0061】
晶析に使用する溶媒は、炭素数5〜7の脂肪族炭化水素溶媒80〜97質量%、炭素数1〜3のアルコール、およびアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒20〜3質量%とからなる混合溶媒である。
【0062】
炭素数5〜7の脂肪族炭化水素溶媒(以下、これらをまとめて「脂肪族炭化水素溶媒」とする場合もある)としては、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等の直鎖状脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素等を挙げることが出来る。これらの溶媒の中でも、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン、シクロヘキサン等が好ましく、特に医薬品原体合成の最終工程である点からノルマルヘプタンが好ましい。
【0063】
炭素数1〜3のアルコール、およびアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒(以下、これらをまとめて「高極性有機溶媒」とする場合もある)としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ノルマルプロピルアルコール等のアルコール類、アセトンを挙げることができる。本工程は医薬品製造の最終工程であり、安全性の高い溶媒を用いることが好ましいという点、特に不純物除去の効率が高いことから、これら高極性有機溶媒の中でもイソプロピルアルコールが好ましい。イソプロピルアルコールを用いることで最も優れた効果が望むことが出来、高純度、かつ着色のない白色の結晶が得られる。
【0064】
本発明においては、前記脂肪族炭化水素溶媒80〜97質量%、高極性有機溶媒20〜
3質量%の混合溶媒を使用する。脂肪族炭化水素溶媒が97質量%を超え、高極性有機溶媒が3質量%未満の場合には、得られるロラタジンの純度を十分に高くできず、着色も低減することができない。一方、脂肪族炭化水素溶媒が80質量%未満であって、高極性有機溶媒が20質量%を超える場合には、ロラタジンの回収率(収率)が低下するため好ましくない。
【0065】
晶析溶媒として使用する混合溶媒は、バッチ当たりの収量を勘案すると、前記粗体(II)1kgに対して、2〜20L、好ましくは5〜10Lである。また、晶析温度は、高いバッチ当たりの収量を確保し、高純度のロラタジンを得るためには、40℃以上70℃以下の範囲まで昇温を行うことが好ましい。粗体(II)が完全に溶解し、晶析処理液が均一溶液となった後、次いで、この晶析処理液を−10℃以上30℃以下の範囲まで冷却することが好ましい。このとき、純度及び生成効率の観点から最終到達温度は、−10℃以上30℃以下、特に0〜10℃とするのが好ましい。なお、当然のことながら、この晶析時に粗体(II)が完全に溶解しない場合には、溶解しないものを濾別して処理すればよい。
【0066】
最終到達温度までの到達時間は1〜10時間、また最終到達温度で1〜10時間保持することにより高純度のロラタジンを高収率で回収することができる。結晶が析出しづらい場合には、加熱後、種結晶を添加しても良い。
【0067】
このようにして析出したロラタジンの結晶は、ろ過や遠心分離などにより固液分離し、自然乾燥、送風乾燥、真空乾燥などにより乾燥することにより単離することが出来る。
【0068】
前記混合溶媒により晶析した前記式(1)で示されるロラタジンは、回収率50〜95%、HPLCの純度は通常99.00%以上、より条件を調整すれば99.75%を超える純度、より最適化すれば99.80%以上の純度とすることができる。また、着色については、目視による確認で白色〜微黄色の結晶性粉末とすることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0070】
実施例1
(脱水体の合成工程)
8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニル)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−オール(アルコール体)、70gを、40℃に加温した97質量%硫酸165gに3時間かけて少量ずつ加え、全量のアルコール体が溶解した後、60℃で1時間加熱を行った。反応液を室温まで冷却し、10℃に冷却した10質量%水酸化ナトリウム水溶液133gおよびトルエン300mLの処理液中に30分かけて滴下した。この時、処理液を氷冷し、40℃以下に保った。
【0071】
中和終了後、反応液が添加された処理液(混合液)を45℃に加熱し、生じた中和塩を溶解させた。このとき水層のpHは12以上であった。該混合液を分液ロートで振とう後、水層を除去した。続いて精製水200mLを加えて有機層(トルエン)の洗浄を行った。得られた有機層(トルエン)を減圧濃縮し、系中の水分を共沸脱水させた。200mL留出したところで濃縮を終了した。得られた8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニリデン)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン(脱水体)のトルエン溶液のHPLC純度は99.2%、収率は95%であった。
【0072】
(ロラタジンの合成工程)
得られた8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニリデン)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン(脱水体)のトルエン溶液に200mLのトルエンを追加し、窒素雰囲気下90℃に加熱した。そこへクロロ炭酸エチル64.4gを20分かけて滴下し、90℃で1時間加熱を行った。得られた反応液を室温まで冷却し、精製水200mlを加え、分液ロートにて振とう後、水層を除去した。続いて5質量%炭酸ナトリウム水溶液200mLを加えて有機層(トルエン)の洗浄を行い系中の塩化水素を除去した。さらに精製水200mLで洗浄を行い、得られた有機層(トルエン)を減圧濃縮し、固形物(粗体(I))を得た。
【0073】
得られた固形物(粗体(I))にイソプロピルアルコール(IPA)300mlを加え、60℃に加熱した。この溶液を5℃に冷却し、活性炭(日本エンバイロケミカル社製 商品名「精製白鷺」)7g、シリカゲル(和光純薬工業社製 商品名「ワコーゲルC−300」)3gを加え、1時間攪拌後、セライトをろ過助剤として使用し、活性炭、およびシリカゲルを取り除いた。イソプロピルアルコールを減圧留去して粗体(II)を得た。得られた粗体(II)は、4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルのHPLC純度は95.1%、収率は92%であった。粗体(II)は薄い黄色であった。
【0074】
(晶析工程)
前記粗体(II)1gに対しノルマルヘプタン91質量%、イソプロピルアルコール(IPA)9質量%からなる混合溶媒を8倍量(8mL)仕込んだ。攪拌羽で攪拌しながら水浴上で70℃まで加熱し、均一溶液とした。これを徐々に冷却し、水浴が5℃まで達した後、1時間熟成し、吸引ろ過して白色結晶を取り出した。得られた結晶は減圧乾燥し、その重量から回収率を、HPLCから純度をそれぞれ算出した。また、得られた結晶を目視にて確認し、前記粗体(II)と比較した(白色の結晶であった。)。これら結果を表1に示した。
【0075】
実施例2〜7、比較例1〜7
実施例1で合成したロラタジンの粗体(II)1gを4ツ口フラスコに秤量し、表1に示す脂肪族炭化水素溶媒と高極性溶媒の混合溶媒を、表1に示す容量倍(10倍ならば10mL、20倍ならば20mL)だけフラスコに仕込んだ。
【0076】
攪拌羽で攪拌しながら水浴上で70℃まで加熱し、均一溶液とした。これを徐々に冷却し、水浴が5℃まで達した後、1時間熟成し、吸引ろ過して結晶を取り出した。得られた結晶は減圧乾燥し、その重量から回収率を、HPLCから純度をそれぞれ算出した。また、各実施例、比較例にて得られた結晶を目視にて確認し、前記粗体(II)と比較した。目視にて、白い結晶のものを「白色」、粗体(II)よりは白いが、少し黄色がかった結晶を「微黄色」、粗体(II)と変わらないものを「黄色」として評価した。これら結果を表1に示した。
【0077】
比較例8
8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニリデン)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン、6gをトルエン40mLに溶解させ、窒素雰囲気下80℃に加熱した。そこへクロロ炭酸エチル6.2gを滴下し、80℃で2時間加熱を行った。反応液を室温まで冷却し、水酸化ナトリウム水溶液を加え、水層のpHを10とした。反応混合物を分液ロートにて振とう後、水層を除去した。得られた有機層を減圧濃縮し、黄色固形物を得た。
【0078】
得られた黄色固形物に加熱したアセトニトリルを加え、活性炭(日本エンバイロケミカル社製商品名「精製白鷺」)1gを加え、1時間攪拌後、ろ過処理を行った。得られたろ液を濃縮し、結晶性のスラリーが析出し始めたところで濃縮を停止し、5℃に冷却した。その後、5℃にて2時間保持し、結晶をろ別した。得られた白色結晶を減圧乾燥し、白色結晶として4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを4.1g得た(HPLC純度98.75%)。また、目視にて、実施例1で得られた粗体(II)と度合いを比較した。これら結果を表1に示した。
【0079】
【表1】


実施例8
実施例1の脱水体の合成工程において、8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニル)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−オール(アルコール体)と97質量%の濃硫酸の反応を室温で行い、12時間かけてアルコール体を溶解させた以外は、実施例1と同様の方法により粗体(II)を得た。この粗体(II)は、HPLC純度は99.1%、収率は94%であった。またこの粗体(II)は、実施例1で得られた粗体(II)よりも遥かに黄色であった。
【0080】
次いで、実施例1の晶析工程と同様の方法により、この粗体(II)を晶析した。最終的に得られた4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルは、HPLC純度99.97%、収率は90%であった。また、結晶の着色の度合いは、実施例1で最終的に得られたロラタジンよりも、少し黄色がかっていた(「微黄色」程度であった。)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】


で示される4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを、炭素数5〜7の脂肪族炭化水素溶媒80〜97質量%と、炭素数1〜3のアルコール、およびアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒20〜3質量%とからなる混合溶媒により晶析することを特徴とする4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの精製方法。
【請求項2】
前記炭素数1〜3のアルコール、およびアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒がイソプロピルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの精製方法。
【請求項3】
晶析する4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルが、下記式(2)
【化2】


で示される8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニル)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−オールを30℃以上に加熱した濃硫酸に加えて脱水反応を行い、下記式(3)
【化3】


で示される8−クロロ−6,11−ジヒドロ−11−(1−メチル−4−ピペリジニリデン)−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジンを合成した後、得られた前記式(3)で示される化合物とクロロ炭酸エチルとを反応させることにより合成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の4−(8−クロロ−5,6−ジヒドロ−11H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イリデン)−1−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの精製方法。

【公開番号】特開2010−105935(P2010−105935A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277658(P2008−277658)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】