説明

4サイクルエンジンおよび船外機

【課題】空気と燃料とを含む混合気の均一性を確保し、吸気系の自由度を高めること。
【解決手段】4サイクルエンジン2は、シリンダヘッド18と、シリンダボディ17と、燃料噴射弁34とを含む。シリンダボディ17は、シリンダヘッド18に連結されている。シリンダヘッド18は、燃焼室20と、燃焼室20に連通する吸気ポート21と、燃焼室20に連通する排気ポート22とを形成している。燃料噴射弁34は、燃焼室20に向けて燃料のミストを噴射することにより、燃料のミストを燃焼室20に直接供給する。燃料噴射弁34は、排気ポート22よりシリンダボディ17側でシリンダヘッド18に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、4サイクルエンジン、およびこれを備えた船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
液体の燃料を燃焼室に直接供給して、出力および燃費を高める直噴エンジン(direct-injection engine)が知られている。
直噴エンジンでは、シリンダ内で燃料が気化することにより、シリンダ内が冷却される。そのため、シリンダ内への空気の充填量を増加させて、エンジンの出力を高めることができる。さらに、シリンダ内の温度が下がるので、ノッキングを抑制することができる。したがって、混合気の圧縮比を増加させて、燃費を高めることができる。
【0003】
特許文献1には、液体の燃料を燃焼室に直接供給する船外機用のエンジンが開示されている。特許文献1記載のエンジンでは、燃料を噴射する燃料噴射弁が吸気ポートの近傍に配置されている。吸気ポートは、シリンダごとに2つずつ設けられており、燃料噴射弁は、2つの吸気ポートの間に配置されている。
また、特許文献2には、気化させた燃料を燃焼室に供給するエンジンが開示されている。特許文献2記載のエンジンでは、燃料を噴射する燃料噴射弁が排気ポートの近傍に配置されている。燃料噴射弁から噴射された液体の燃料は、燃料気化室に供給される。燃料気化室は、燃焼室に隣接しており、燃焼室から伝達される燃焼熱によって高温になっている。したがって、燃料噴射弁から燃料気化室に液体の燃料が供給されると、燃料が燃料気化室で気化する。そして、燃料気化室で気化した燃料は、排気ポートの近傍から燃焼室に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−138925号公報
【特許文献2】特開平8−200074号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述のように、特許文献1記載のエンジンでは、燃料を噴射する燃料噴射弁が吸気ポートの近傍に配置されている。したがって、燃料噴射弁から燃焼室に噴射された燃料は、吸気ポートから噴射された流速の高い吸気とぶつかり合う。そのため、燃料の流れる方向が大きく変化し、意図する方向とは異なる方向に燃料が流される。そのため、シリンダ内での燃料の広がりに偏りが生じ易く、シリンダ内での燃料の広がりが不均一になり易い。
【0006】
さらに、特許文献1記載のエンジンでは、燃料噴射弁が2つの吸気ポートの間に配置されているので、吸気ポートが湾曲している。しかしながら、吸気ポートの湾曲が大きいと、吸気ポートでの流体抵抗が大きいので、吸気ポートからシリンダ内に充填される空気の流量が減少する。そのため、直噴による効果が減少する。
一方、特許文献2記載のエンジンでは、気化した燃料が燃焼室に供給される。そのため、燃料の気化潜熱を利用してシリンダ内を冷却することができない。さらに、特許文献2記載のエンジンでは、高温の排気に晒される排気ポートの近傍に燃料噴射弁が配置されている。したがって、燃料噴射弁が吸気ポートの近傍に配置されている場合よりも、燃料噴射弁の近傍の温度が高い。後述するように、燃料噴射弁の近傍の温度が高いと、カーボン(すす)が堆積し、燃料噴射弁の噴射口が詰まるおそれがある。
【0007】
そこで、この発明の目的は、空気と燃料とを含む混合気の均一性を確保することができ、吸気系の自由度が高い直噴式の4サイクルエンジン、およびこれを備えた船外機を提供することである。
前記目的を達成するための本発明の一実施形態は、燃焼室と、前記燃焼室に連通する吸気ポートと、前記燃焼室に連通する排気ポートとが形成されたシリンダヘッドと、前記シリンダヘッドに連結されたシリンダボディと、前記排気ポートより前記シリンダボディ側で前記シリンダヘッドに保持されており、前記燃焼室に向けて燃料のミストを噴射することにより、燃料のミストを前記燃焼室に直接供給するように構成された燃料噴射弁とを含む、4サイクルエンジンを提供する。
【0008】
この構成によれば、燃料噴射弁は、排気ポートよりシリンダボディ側でシリンダヘッドに保持されている。すなわち、燃料噴射弁は、排気ポートとシリンダボディとの間に配置されており、排気ポートから燃料噴射弁までの距離が、吸気ポートから燃料噴射弁までの距離よりも短い。したがって、燃料噴射弁は、排気ポート側に配置されている。燃料噴射弁から噴射された燃料のミストは、燃焼室に直接供給される。したがって、シリンダ内で燃料を気化させて、シリンダ内を冷却することができる。そのため、4サイクルエンジンの出力および燃費を高めることができる。さらに、燃料噴射弁が排気ポート側に配置されているので、シリンダ内での燃料のミストの流れが、吸気ポートから燃焼室に流入した吸気によって妨げられることを抑制することができる。さらに、燃料噴射弁が吸気ポートの近傍に配置されていないので、吸気ポートの形状やレイアウトの自由度を高めることができる。そのため、吸気ポートの流体抵抗を減少させて、シリンダ内への空気の充填量を増加させることができる。これにより、4サイクルエンジンの出力を増加させることができる。
【0009】
前記4サイクルエンジンは、直線状に配列された複数のシリンダを含む直列エンジンであってもよいし、V字ラインに沿って配置された複数のシリンダを含むV型エンジンであってもよい。前記4サイクルエンジンがV型エンジンである場合、前記燃料噴射弁は、前記V字ラインの内側に配置されていてもよいし、前記V字ラインの外側に配置されていてもよい。
【0010】
また、前記シリンダヘッドに、前記排気ポートと前記燃料噴射弁との間に位置するウォータージャケットが形成されていてもよい。この場合、前記4サイクルエンジンは、外部からの水が前記ウォータージャケットに供給されるように構成されていてもよい。
また、前記目的を達成するための本発明の他の実施形態は、前記4サイクルエンジンと、前記4サイクルエンジンによって駆動されることにより、船外機の外の水を前記ウォータージャケットに供給するように構成されたウォーターポンプとを含む、船外機を提供する。
【0011】
この構成によれば、4サイクルエンジンがウォーターポンプを駆動することにより、外部の水、つまり、船外機の外の水が、4サイクルエンジンに設けられたウォータージャケットに冷却水として供給される。船外機の外の水は、エンジンや船外機の運転状況による影響を殆ど受けないので、ほぼ一定の温度の冷却水がウォータージャケットに供給される。したがって、エンジンや船外機の運転状況に拘わらず、排気ポートおよび燃料噴射弁自体や、これらの近傍を低温に保つことができる。これにより、すすの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る船外機を鉛直面で切断した模式的な断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る船外機を水平面で切断した断面図である。
【図3】図2の一部を拡大した図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るシリンダヘッドを燃焼室側から見た図である。
【図5】本発明の比較形態に係るシリンダ内での流体の流れについて説明するための模式図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係るシリンダ内での流体の流れについて説明するための模式図である。
【図7】本発明の比較形態に係るシリンダ内での流体の流れのシミュレーション結果を示す図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係るシリンダ内での流体の流れのシミュレーション結果を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る船外機を鉛直面で切断した模式的な断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る船外機を水平面で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る船外機1を鉛直面で切断した模式的な断面図である。
船外機1は、エンジン2と、ドライブシャフト3と、歯車機構4と、プロペラシャフト5と、これらの構成2〜5を収容するケーシング6とを含む。エンジン2は、上下方向に延びる回転軸線R1まわりに回転可能なクランクシャフト7を含む。ドライブシャフト3は、エンジン2から下方に延びている。ドライブシャフト3の上端部は、クランクシャフト7に連結されており、ドライブシャフト3の下端部は、歯車機構4を介してプロペラシャフト5の前端部に連結されている。プロペラシャフト5は、ケーシング6内で前後方向に延びている。プロペラシャフト5の後端部は、ケーシング6から後方に突出しており、このプロペラシャフト5の後端部にプロペラ8が連結されている。エンジン2によってドライブシャフト3が回転駆動されると、ドライブシャフト3の回転が、歯車機構4を介してプロペラシャフト5に伝達される。これにより、プロペラ8がプロペラシャフト5と共に回転し、船舶を推進させる推力が発生する。
【0014】
船外機1は、エンジン2に冷却水を供給するウォーターポンプ9を含む。さらに、船外機1は、船外機1の外面(ケーシング6の外面)で開口する取水口10および排水口11と、船外機1の内部に設けられた冷却水供給路12および冷却水排出路13とを含む。取水口10は、冷却水供給路12によってエンジン2に接続されており、排水口11は、冷却水排出路13によってエンジン2に接続されている。ウォーターポンプ9がエンジン2によって駆動されると、船外機1の外部の水が取水口10に吸い込まれる。そして、この吸い込まれた水は、冷却水供給路12、エンジン2、および冷却水排出路13を通過した後、排水口11から排出される。
【0015】
具体的には、ウォーターポンプ9は、ドライブシャフト3に連結されており、ドライブシャフト3と共に回転するインペラを含む。したがって、エンジン2がドライブシャフト3を回転させると、インペラの回転によって吸引力が発生し、この吸引力によって船外機1の外部の水が取水口10に吸い込まれる。そして、取水口10に吸い込まれた水は、冷却水供給路12を介してエンジン2に供給される。エンジン2に供給された水は、エンジン2内に設けられたウォータージャケット23(図3参照)を通過した後、冷却水排出路13に排出される。さらに、冷却水排出路13に排出された水は、排水口11から船外機1の外部に排出される。このように、エンジン2は、エンジン2の外部(より具体的には、船外機1の外部)からの水が供給されるように構成されている。
【0016】
図2は、本発明の第1実施形態に係る船外機1を水平面で切断した断面図である。以下の説明において、エンジン2の上下方向は、クランクシャフト7の回転軸線R1が延びる方向であり、エンジン2の前後方向は、平面視においてV字ラインV1(図2参照)の内側の領域を二等分する線(二等分線)に沿う方向である。以下では、図1〜図2を参照する。
【0017】
図2に示すように、エンジン2は、たとえば、V型の4サイクルエンジン(内燃機関)である。したがって、エンジン2は、V字ラインV1に沿って配置された複数のシリンダ14を含む。第1実施形態では、エンジン2は、たとえば、6つのシリンダ14を含む。
6つのシリンダ14のうちの3つのシリンダ14は、上下方向に配列された一方の列15を構成しており、残りの3つのシリンダ14は、上下方向に配列された他方の列16を構成している。図2に示すように、一方の列15と他方の列16とは、平面視V字状に配置されている。さらに、一方の列15と他方の列16とは、側面視において重なり合っている。一方の列15の上端は、他方の列16の上端より上方に配置されている。
【0018】
図2に示すように、エンジン2は、シリンダボディ17と、2つのシリンダヘッド18と、クランクケース19とを含む。シリンダボディ17は、後向きに開いた平面視V字状であり、Vバンクを形成している。2つのシリンダヘッド18は、それぞれ、シリンダボディ17の2つの後端部に連結されており、クランクケース19は、シリンダボディ17の前端部に連結されている。シリンダボディ17およびシリンダヘッド18は、複数のシリンダ14を形成している。各シリンダ14は、水平方向に延びる中心軸線C1を有している。各シリンダ14の中心軸線C1は、V字ラインV1上に配置されている。言い換えると、V字ラインV1は、一方の列15を構成するシリンダ14の中心軸線C1を含む鉛直な平面と、他方の列16を構成するシリンダ14の中心軸線C1を含む鉛直な平面とによって構成されている。
【0019】
図2に示すように、シリンダヘッド18は、混合気が燃焼される燃焼室20と、燃焼室20に連通する吸気ポート21と、燃焼室20に連通する排気ポート22とを形成している。さらに、シリンダヘッド18は、冷却水が流通するウォータージャケット23(図2においてクロスハッチングされた部分)を形成している。ウォータージャケット23は、排気ポート22を取り囲んでいる。ウォータージャケット23の一部は、シリンダヘッド18の外面と排気ポート22との間に配置されている。したがって、シリンダヘッド18の外面が高温になることが防止されている。さらに、ウォータージャケット23の一部は、排気ポート22と、後述する燃料噴射弁34との間に配置されている。したがって、排気ポート22からの熱による燃料噴射弁34の温度上昇が抑制されている。
【0020】
図2に示すように、エンジン2は、さらに、複数のピストン24と、ピストン24とクランクシャフト7とを連結する複数のコンロッド25とを含む。さらに、エンジン2は、クランクケース19の前方に配置された吸気サージタンク26と、吸気サージタンク26に連結された複数の吸気管27とを含む。複数の吸気管27は、シリンダボディ17、シリンダヘッド18、およびクランクケース19の外側に配置されている。すなわち、吸気管27は、V字ラインV1の外側でシリンダヘッド18に連結されており、シリンダヘッド18から前方に延びている。吸気管27の前端部は、吸気サージタンク26に連結されている。
【0021】
図2に示すように、吸気ポート21は、V字ラインV1の外側に配置されている。吸気ポート21は、シリンダヘッド18の側部から燃焼室20に延びている。吸気ポート21は、シリンダヘッド18の外部と燃焼室20とを連通している。吸気管27の内部は、吸気ポート21に連通している。したがって、吸気サージタンク26に供給された吸気は、吸気管27を介して吸気ポート21に供給される。その一方で、燃焼室20で発生した排気は、排気ポート22を介してエンジン2の外部に排出される。すなわち、燃焼室20で発生した排気は、排気ポート22を介して、船外機1の内部に設けられた主排気路28(図1参照)に排出される。図1に示すように、主排気路28は、プロペラ8で開口する排気出口29を形成している。したがって、主排気路28に排出された排気は、水中に排出される。
【0022】
図3は、図2の一部を拡大した図であり、エンジン2の一部の横断面を示している。図4は、本発明の第1実施形態に係るシリンダヘッド18を燃焼室20側から見た図である。以下では、図2〜図4を参照する。
図2に示すように、エンジン2は、複数の吸気バルブ30と、複数の排気バルブ31と、吸気バルブ30および排気バルブ31を駆動するバルブ駆動機構32とを含む。吸気バルブ30および排気バルブ31は、シリンダ14ごとに例えば2つずつ設けられている。したがって、図4に示すように、吸気ポート21および排気ポート22も、シリンダ14ごとに2つずつ設けられている。吸気ポート21および排気ポート22は、燃焼室20で開口している。図2に示すように、吸気ポート21および排気ポート22の開口部は、シリンダ14の中心軸線C1に対して互いに反対側に配置されている。吸気ポート21および排気ポート22は、それぞれ、吸気バルブ30および排気バルブ31によって開閉される。
【0023】
また、図3に示すように、エンジン2は、燃焼室20で混合気を燃焼させる点火プラグ33と、燃料(たとえばガソリン)を燃焼室20に噴霧する燃料噴射弁34とを含む。点火プラグ33は、シリンダヘッド18に形成されたプラグ収容孔35に収容されており、燃料噴射弁34は、シリンダヘッド18に形成された噴射弁収容孔36に収容されている。プラグ収容孔35は、シリンダ14の中心軸線C1に沿って延びており、噴射弁収容孔36は、シリンダ14の中心軸線C1に対して傾いた水平方向に延びている。したがって、点火プラグ33は、シリンダ14の中心軸線C1に沿って延びており、燃料噴射弁34は、シリンダ14の中心軸線C1に対して傾いている。
【0024】
図3に示すように、プラグ収容孔35および噴射弁収容孔36は、燃焼室20で開口している。プラグ収容孔35の開口部は、シリンダ14の中心軸線C1上に配置されている。その一方で、噴射弁収容孔36の開口部は、プラグ収容孔35の開口部よりも外方(シリンダ14の中心軸線C1から離れる方向)で、かつ、プラグ収容孔35の開口部よりもシリンダボディ17側に配置されている。火花を発する点火プラグ33の先端は、プラグ収容孔35の開口部を通過して、燃焼室20に達している。その一方で、燃料のミストを噴射する噴射口が形成された燃料噴射弁34の先端34aは、噴射弁収容孔36内に配置されている。したがって、燃料噴射弁34の先端34aは、噴射弁収容孔36の開口部を介して燃焼室20に対向している。燃料噴射弁34の先端34aは、燃焼室20に達していてもよい。
【0025】
図3に示すように、燃料噴射弁34は、排気ポート22よりシリンダボディ17側でシリンダヘッド18に保持されている。つまり、シリンダボディ17は、燃焼室20に対して排気ポート22とは反対側に配置されており、燃料噴射弁34は、排気ポート22とシリンダボディ17との間でシリンダヘッド18に保持されている。図2に示すように、燃料噴射弁34は、V字ラインV1の内側に配置されている。さらに、燃料噴射弁34に燃料を供給する燃料供給管37の端部は、V字ラインV1の内側で燃料噴射弁34に接続されている。燃料噴射弁34は、燃料供給管37から供給された燃料を燃焼室20内に噴霧する。燃料噴射弁34の先端34aから噴射された燃料のミストは、噴射弁収容孔36の開口部を介して燃焼室20に供給される。これにより、燃料のミストが燃焼室20に直接供給される。
【0026】
図4に示すように、シリンダヘッド18を燃焼室20側から見ると、同一のシリンダ14に対応する4つのポートの開口部(2つの吸気ポート21の開口部と2つの排気ポート22の開口部)は、格子状に配置されている。つまり、同一のシリンダ14に対応する4つのポートの開口部は、それぞれ、シリンダ14の中心軸線C1を取り囲む四角の4つの頂点に配置されている。したがって、プラグ収容孔35の開口部は、この四角の中に配置されており、4つのポートの開口部によって取り囲まれている。さらに、シリンダヘッド18を燃焼室20側から見ると、噴射弁収容孔36の開口部の一部は、2つ排気ポート22の開口部の間に配置されており、残りの部分は、2つ排気ポート22の開口部よりも外方(シリンダ14の中心軸線C1から離れる方向)に配置されている。
【0027】
図5は、本発明の比較形態に係るシリンダ内での流体の流れについて説明するための模式図である。図6は、本発明の第1実施形態に係るシリンダ内での流体の流れについて説明するための模式図である。また、図7は、本発明の比較形態に係るシリンダ内での流体の流れのシミュレーション結果を示す図である。図8は、本発明の第1実施形態に係るシリンダ内での流体の流れのシミュレーション結果を示す図である。
【0028】
図7および図8は、同じタイミングでのシリンダ内の様子を示している。すなわち、4サイクルエンジンでは、4つの工程(吸気工程、圧縮工程、爆発工程、排気工程)が行われることにより、クランクシャフトの回転角が720度変化する。図7および図8は、同じ回転角でのシリンダ内の様子を示している。以下では、図4〜図8を参照する。
第1実施形態と比較形態との主要な相違点は、燃料噴射弁の配置が異なることである。すなわち、図5と図6とを比較すると分かるように、第1実施形態では、排気ポートの近傍に燃料噴射弁が配置されおり、比較形態では、吸気ポートの近傍に燃料噴射弁が配置されている。したがって、比較形態では、吸気ポートの近傍から燃料のミストが燃焼室に噴射される。
【0029】
吸気バルブが駆動されて、吸気ポートが開かれると、吸気ポートに供給された吸気が、吸気ポートの内壁面と吸気バルブとの間の隙間から燃焼室に噴射される。これにより、吸気が燃焼室に供給される。第1実施形態および比較形態のいずれの形態においても、エンジンは、吸気ポートから燃焼室に噴射された吸気によって、タンブル流(tumble flow:図5および図6参照)が形成されるように構成されている。すなわち、吸気ポートから燃焼室に吸気が噴射されると、シリンダの中心軸線に直交する軸まわりに回転する縦渦(タンブル流)がシリンダ内に形成される。
【0030】
一方、第1実施形態および比較形態のいずれの形態においても、燃料噴射弁は、シリンダ内に燃料が均一に行き渡るように、燃料のミスト、すなわち、液体の燃料を所定の狙い方向(図5〜図8参照)に噴射するように構成されている。狙い方向は、たとえば、燃料噴射弁の先端からシリンダの中心軸線に向かうシリンダの中心軸線に対して傾いた方向である。
【0031】
図4に示すように、第1実施形態では、燃料噴射弁34の先端34aが、シリンダ14の中心軸線C1に対して吸気ポート21とは反対側に配置されている。その一方で、図4において二点鎖線で示すように、比較形態では、燃料噴射弁の先端X1が、シリンダ14の中心軸線C1に対して排気ポート22とは反対側に配置されている。したがって、吸気ポートから燃料噴射弁までの距離は、比較形態よりも第1実施形態の方が長い。
【0032】
第1実施形態および比較形態のいずれの形態においても、燃料噴射弁は、吸気ポートから燃焼室に吸気が噴射されているタイミングで、燃料のミストを燃焼室に噴射する。したがって、シリンダ内で吸気が燃料にぶつかる。そのため、燃料は、静的な環境、つまり、シリンダ内に気流がない環境とは異なる方向に流れる。よって、第1実施形態および比較形態のいずれの形態においても、燃料の流れる方向は、タンブル流による影響を受ける。
【0033】
具体的には、比較形態では、吸気ポートから燃料噴射弁までの距離が短いので、燃料噴射弁から噴射された燃料は、流速の高い吸気とぶつかり合う。そのため、図5に示すように、タンブル流によって燃料の流れる方向が大きく変化し、狙い方向とは異なる方向に燃料が流される(図5において二点鎖線で示す矢印参照)。そのため、シリンダ内での燃料の広がりに偏りが生じ易く、シリンダ内での燃料の広がりが不均一になり易い。具体的には、図7に示すように、燃料の液滴や気化した燃料の広がりが小さく、殆どの燃料が燃料噴射弁とは反対側(排気ポート側)まで到達していない。したがって、点火プラグが火花を発生した時点で、燃料が均一に拡散していない場合がある。
【0034】
一方、第1実施形態では、吸気ポートから燃料噴射弁までの距離が長いので、燃料噴射弁から噴射された燃料は、流速の高い吸気にぶつかり難い。そのため、図6および図8に示すように、燃料噴射弁から噴射された燃料は、狙い方向または狙い方向とほぼ同じ方向に流れる。したがって、燃料を拡散させる強制的な流れを作らなくても、燃料をシリンダ内に均一に供給することができる。具体的には、図7と図8とを比較すると分かるように、燃料の液滴や気化した燃料の広がりは、比較形態よりも第1実施形態の方が大きい。さらに、第1実施形態では、比較形態よりも燃料が燃料噴射弁とは反対側まで到達し易い。したがって、第1実施形態では、均一な混合気(空気と燃料の混合気)を形成することができる。
【0035】
以上のように第1実施形態では、燃料噴射弁34は、排気ポート22よりシリンダボディ17側でシリンダヘッド18に保持されている。すなわち、燃料噴射弁34は、排気ポート22とシリンダボディ17との間に配置されており、排気ポート22から燃料噴射弁34の先端34aまでの距離が、吸気ポート21から燃料噴射弁34の先端34aまでの距離よりも短い。したがって、燃料噴射弁34は、排気ポート22側に配置されている。燃料噴射弁34から噴射された燃料のミストは、燃焼室20に直接供給される。したがって、シリンダ14内で燃料を気化させて、シリンダ14内を冷却することができる。そのため、エンジン2の出力および燃費を高めることができる。さらに、燃料噴射弁34が排気ポート22側に配置されているので、シリンダ14内での燃料のミストの流れが、吸気ポート21から燃焼室20に流入した吸気によって妨げられることを抑制することができる。さらに、燃料噴射弁34が吸気ポート21の近傍に配置されていないので、吸気ポート21の形状やレイアウトの自由度を高めることができる。そのため、吸気ポート21の流体抵抗を減少させて、シリンダ14内への空気の充填量を増加させることができる。これにより、エンジン2の出力を増加させることができる。
【0036】
また第1実施形態では、シリンダヘッド18にウォータージャケット23が形成されており、このウォータージャケット23の一部が排気ポート22と燃料噴射弁34との間に配置されている。排気ポート22は、ウォータージャケット23に供給された冷却水によって冷却される。したがって、排気ポート22から燃料噴射弁34に伝達される熱量を減少させることができる。そのため、燃料噴射弁34が高温になることを防止することができる。よって、燃料噴射弁34の先端34aが、すすによって詰まることを防止することができる。
【0037】
具体的には、すすは、燃料の濃度が高く、高温の雰囲気で発生し易い。燃料を噴射する噴射口が燃料噴射弁34の先端34aに形成されているので、燃料噴射弁34の先端34a近傍は燃料の濃度が高い。したがって、燃料噴射弁34の先端34a近傍の温度が高いと、すすが発生し易い。しかしながら、第1実施形態では、燃料噴射弁34が高温になることが防止されているので、燃料噴射弁34の先端34a近傍の温度が低い。したがって、すすの発生を防止できる。さらに、排気ポート22がウォータージャケット23によって覆われているので、燃料噴射弁34や燃料供給管37から燃料が漏れたとしても、この漏れた燃料が高温の壁面に接触することを防止することができる。
【0038】
また第1実施形態では、外部からの水がウォータージャケット23に供給される。したがって、エンジン2の運転状況に拘わらずほぼ一定の温度の冷却水がウォータージャケット23に供給される。すなわち、たとえば自動車に備えられているような冷却水を循環させる冷却装置では、エンジン2の発熱量が増加すると、ウォータージャケット23に供給される冷却水の温度が上昇してしまう場合がある。その一方で、外部の水の温度、つまり海や湖の水温は、エンジン2の運転状況よる影響を殆ど受けないので、ほぼ一定の温度の冷却水がウォータージャケット23に供給される。そのため、エンジン2の運転状況に拘わらず、シリンダヘッド18を低温に保つことができる。したがって、エンジン2の運転状況に拘わらず、排気ポート22の近傍を低温に保つことができる。そのため、すすの発生を防止することができる。
【0039】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態と前述の第1実施形態との主要な相違点は、吸気ポートと排気ポートとの配置が異なることである。すなわち、第1実施形態では、吸気ポートがV字ラインの外側に配置されているのに対し、第2実施形態では、吸気ポートがV字ラインの内側に配置されている。以下の図9〜図10において、前述の図1〜図8に示された各部と同等の構成部分については、図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0040】
図9は、本発明の第2実施形態に係る船外機201を鉛直面で切断した模式的な断面図である。図10は、本発明の第2実施形態に係る船外機201を水平面で切断した断面図である。
第2実施形態に係る船外機201は、第1実施形態に係る船外機1と同様の構成を備えている。すなわち、船外機201は、第1実施形態に係るエンジン2に代えて、エンジン202を含む。エンジン202は、第1実施形態に係るエンジン2と同様の構成を備えている。すなわち、図10に示すように、エンジン202は、たとえば、V字ラインV1に沿って配置された複数のシリンダ14を含むV型の4サイクルエンジン(内燃機関)である。
【0041】
図10に示すように、エンジン202は、2つのシリンダヘッド218と、シリンダヘッド218に連結された複数の吸気管227と、複数の吸気管227に連結された吸気サージタンク226とを含む。シリンダヘッド218は、燃焼室20と、燃焼室20に連通する吸気ポート221と、燃焼室20に連通する排気ポート222とを形成している。吸気ポート221は、V字ラインV1の内側に配置されている。したがって、排気ポート222や燃料噴射弁34は、V字ラインV1の外側に配置されている。また、吸気サージタンク226および吸気管227は、シリンダヘッド218よりも後方に配置されている。吸気サージタンク226および吸気管227は、V字ラインV1の内側に配置されている。
【0042】
このように、第2実施形態では、吸気サージタンク226および吸気管227がV字ラインV1の内側に配置されている。したがって、第1実施形態よりもエンジン202の幅(左右方向への長さ)が小さい。そのため、エンジン202および船外機201を小型化することができる。さらに、第2実施形態では、燃料噴射弁34が、V字ラインV1の外側に配置されている。したがって、シリンダヘッド218に対して燃料噴射弁34をシリンダヘッド218の外側から取り付けることができる。そのため、燃料噴射弁34がV字ラインV1の内側に配置されている場合よりも、シリンダヘッド218に対して燃料噴射弁34を取り付け易い。さらに、第2実施形態では、燃料噴射弁34が排気ポート222側に配置されているので、第1実施形態と同様に、均一な混合気を形成することができる。
【0043】
この発明の実施の形態の説明は以上であるが、この発明は、前述の第1および第2実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
たとえば、前述の第1および第2実施形態では、エンジン2、202が、船外機1、201に備えられている場合について説明した。しかし、エンジン2、202が備えられる装置は、船外機以外の装置であってもよい。
【0044】
また、前述の第1および第2実施形態では、エンジン2、202が、V型エンジンである場合について説明した。しかし、エンジン2、202は、直線状に配列された複数のシリンダを含む直列エンジンであってもよい。
また、前述の第1実施形態では、吸気ポート21および排気ポート22が、シリンダ14ごとに2つずつ設けられている場合について説明した。同様に、前述の第2実施形態では、吸気ポート221および排気ポート222が、シリンダ14ごとに2つずつ設けられている場合について説明した。しかし、同一のシリンダ14に対応する吸気ポート21、221の数は、1つであってもよい。排気ポート22、222についても同様である。
【0045】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
以下に、特許請求の範囲に記載された構成要素と前述の実施形態における構成要素との対応関係を示す。
燃焼室:燃焼室20
吸気ポート:吸気ポート21、221
排気ポート:排気ポート22、222
シリンダヘッド:シリンダヘッド18、218
シリンダボディ:シリンダボディ17
燃料噴射弁:燃料噴射弁34
4サイクルエンジン:エンジン2、202
V字ライン:V字ラインV1
シリンダ:シリンダ14
ウォータージャケット:ウォータージャケット23
ウォーターポンプ:ウォーターポンプ9
船外機:船外機1、201
【符号の説明】
【0046】
1 船外機
2 エンジン
9 ウォーターポンプ
14 シリンダ
17 シリンダボディ
18 シリンダヘッド
20 燃焼室
21 吸気ポート
22 排気ポート
23 ウォータージャケット
34 燃料噴射弁
201 船外機
202 エンジン
218 シリンダヘッド
221 吸気ポート
222 吸気ポート
V1 V字ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室と、前記燃焼室に連通する吸気ポートと、前記燃焼室に連通する排気ポートとが形成されたシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドに連結されたシリンダボディと、
前記排気ポートより前記シリンダボディ側で前記シリンダヘッドに保持されており、前記燃焼室に向けて燃料のミストを噴射することにより、燃料のミストを前記燃焼室に直接供給するように構成された燃料噴射弁とを含む、4サイクルエンジン。
【請求項2】
前記4サイクルエンジンは、V字ラインに沿って配置された複数のシリンダを含むV型エンジンであり、
前記燃料噴射弁は、前記V字ラインの内側に配置されている、請求項1記載の4サイクルエンジン。
【請求項3】
前記4サイクルエンジンは、V字ラインに沿って配置された複数のシリンダを含むV型エンジンであり、
前記燃料噴射弁は、前記V字ラインの外側に配置されている、請求項1記載の4サイクルエンジン。
【請求項4】
前記シリンダヘッドに、前記排気ポートと前記燃料噴射弁との間に位置するウォータージャケットが形成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の4サイクルエンジン。
【請求項5】
前記4サイクルエンジンは、外部からの水が前記ウォータージャケットに供給されるように構成されている、請求項4記載の4サイクルエンジン。
【請求項6】
請求項5記載の4サイクルエンジンと、
前記4サイクルエンジンによって駆動されることにより、船外機の外の水を前記ウォータージャケットに供給するように構成されたウォーターポンプとを含む、船外機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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