説明

5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物及びその製造方法

【課題】 高純度の5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩100重量部に対し、グリコール0.5〜6重量部を含有し、遷移金属含有率が0.0001重量部以下である組成物。
【化1】


式(1)中、Rは炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、Mn+はn価のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオン、nは1または2の整数をそれぞれ示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された製造方法により得られる5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩は、ポリエステルやポリアミドなどのカチオン染色剤、コーティング剤や接着剤、塗料等を目的として広く利用されている。例えば、特許文献1〜3には、5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩を共重合したポリエステルについて開示されている。
【0003】
5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩のうち、例えば5−スルホイソフタル酸ジエチレングリコールエステルナトリウム塩は市販品が入手できるが、未反応物や副生成物、環状化合物等の不純物が混入しており、純度は80〜85%程度である。これを共重合ポリエステルの共重合成分として用いる場合、このような不純物の混入は、得られる共重合体の重合度低下やポリマーの物性低下を招く原因となるため、原料の高純度化が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭34−10497号公報
【特許文献2】特開平4−194020号公報
【特許文献3】特開2003-147248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記事情に着目してなされたものであり、その目的は、高純度の5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物およびその製造方法を提供することである。
本発明の製造方法は、市販品と比較し、不純物が少なく高純度で得られる。また、再結晶で精製できるため、安価に製造できる点からも有用である。さらには使用する有機溶媒等を極少量に抑えることが可能なため、環境負荷低減も期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物を含むエチレングリコール溶液から、再結晶により5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物を高純度かつ安価に製造できることを見出した。さらに、遷移金属が存在すると再結晶が困難であり、その金属含有量がICP発光分析装置の検出下限濃度である1mg/kg以下の溶液であれば再結晶できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の構成よりなる。
(1) 下記式(1)で示される5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩100重量部に対し、グリコール0.5〜6重量部を含有し、遷移金属含有率が0.0001重量部以下である組成物。
【化1】

式(1)中、Rは炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、Mn+はn価のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオン、nは1または2の整数をそれぞれ示す。
(2) 前記遷移金属がMnである請求項1記載の組成物。
(3) 5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩の純度が93重量%以上かつ二量体の含有率が1重量%以下かつ環状オリゴマーの含有率が0.2重量%以下である請求項1または2に記載の組成物。
(4) 式(1)で示される5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩を30〜60質量%含むグリコール溶液から再結晶することにより請求項1〜3いずれかに記載の組成物を得る5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、高純度かつ安価に5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物を提供することができる。また本発明の製造方法によれば、現在国内で入手できる市販品に比べ高純度の5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物を得ることができる。また、再結晶というシンプルな製造法であるため、工程数が少なく安価に製造できる点からも有用である。さらには多量の有機溶媒を使用しないため、環境負荷を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物は、下記式(1)で示される。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)において、Rは炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基を示し、Mn+はLi、Na、K、Mg等の1価または2価の金属イオンを示す。これらの中で、エステル交換性の点で、ヒドロキシアルキル基がヒドロキシエチル基、金属がアルカリ金属であるものが好ましく、5−スルホイソフタル酸ジエチレングリコールエステルナトリウム塩がより好ましい。
【0012】
本発明に係る5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物の製造方法は、5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩を30〜60重量%含むグリコール溶液からの再結晶により得る方法である。高純度化の点から、好ましくは30〜50重量%、より好ましくは30〜40重量%の5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩を含む溶液からの再結晶が挙げられる。
【0013】
上記グリコール溶液は、例えば、5−スルホイソフタル酸ジメチルエステルと酢酸ナトリウムをエチレングリコール中、180℃で反応させることにより調製される。
【0014】
また、5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物に含有されるグリコールの濃度は、5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩100重量部に対し、グリコール0.5〜6重量部である。含有されるグリコールの濃度が高すぎると、本願の5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物を乳酸系樹脂の共重合成分の原料として用いた場合に重合度が上がらない、組成の調整が困難になる、などの問題が生じる場合がある。
【0015】
さらに、5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物に含有される遷移金属の濃度は、5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩100重量部に対し、0.0001重量部以下である。遷移金属がこれよりも高濃度で含有されていると、結晶が生成しにくいため、再結晶により高純度の5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物を得ることはできない。遷移金属としては、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Snなどを挙げることができる。従来市販されている5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物に含まれている代表的な遷移金属系の不純物としては、5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩の合成の際に触媒として使用されることがあるMnを挙げることができる。
【0016】
なお、遷移金属存在下では再結晶が困難である理由として、金属と5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物がキレート構造を取るためと推察されるが、詳細は明らかとなっていない。
【0017】
本発明の好ましい実施態様によれば、更に、5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩の純度が93%以上、かつ二量体が1%以下、かつ環状オリゴマーが0.2%以下、かつグリコールが6%以下の5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物を得ることができる。前記二量体および環状オリゴマーは、例えば、5−スルホイソフタル酸ジエチレングリコールエステルナトリウム塩の場合には、二量体は下記式(2)、環状オリゴマーは主として下記式(3)、下記式(4)で表されるものが含まれている。
【0018】
【化2】

【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
なお、本発明において、オリゴマーとは、分子量700以下であり、何らかの繰り返し単位を有する重合体を指すものとする。
【実施例】
【0022】
以下に実例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の主旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。なお、実施例中の純度、金属含有量は以下のように測定したものである。
【0023】
純度:生成物15mgをDMSO−d6 0.5mlに溶解し、400MHzの核磁気共鳴(NMR)スペクトル装置(Varian製)を用いて1H−NMR分析を行った。測定条件は、室温、d1=26sである。例えば、5−スルホイソフタル酸ジエチレングリコールエステル金属塩の場合、エチレングリコール残基のメチレン基に由来するプロトンの積分値とメチルエステルのメチル基に由来するプロトンの積分値から純度を算出した。
【0024】
金属含有量:白金るつぼに試料1.0gを精秤した後、電気マッフル炉により550℃/8時間の条件で加熱した。加熱後、1.2M塩酸溶液20mlを加え、ICP測定用の試料溶液とした。ICP発光分析装置(島津製作所製、ICPS−2000)を用いて発光強度を測定し、金属量を定量化した。なお、今回用いた測定法による検出下限濃度は、遷移金属について1mg/kgである。
【0025】
(実施例1)
5−スルホイソフタル酸ジメチルエステルと酢酸ナトリウムをエチレングリコール中、180℃で反応させることにより、5−スルホイソフタル酸ジエチレングリコールエステルナトリウム塩を33重量%含むエチレングリコール溶液を調製した。この溶液を室温に戻し、7日間放置した。生じた結晶を加圧ろ過により分取し、2−プロパノールで洗浄後、80℃で乾燥させた。
得られた固体について、1H−NMR測定を行った。その結果を表1に示す。また、生成物と原料溶液のICP発光分析結果を表2に示す。
【0026】
(実施例2)
実施例1で調製した5−スルホイソフタル酸ジエチレングリコールエステルナトリウム塩を33重量%含むエチレングリコール溶液を減圧濃縮し、45重量%溶液を調製した。この溶液を常温で7日間放置し、生じた結晶を加圧ろ過により分取した。2−プロパノールで洗浄後、80℃で乾燥させた。
得られた固体について、1H−NMR測定を行った。その結果を表1に示す。
【0027】
(比較例1)
市販の5−スルホイソフタル酸ジエチレングリコールエステルナトリウム塩を34%含むエチレングリコール溶液を常温で放置した。1ヶ月放置したが、析出物は生じなかった。この溶液のICP発光分析結果を表2に示す。
【0028】
(比較例2)
市販の5−スルホイソフタル酸ジエチレングリコールエステルナトリウム塩について、1H−NMR測定を行った。その結果を表1に示す。
【0029】
表1、2に示す結果の通り、本発明により得られる5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物は、二量体、環状化合物の含有量が少なく、高純度であることが明らかとなった。また、グリコール含有量も少ない。また、再結晶というシンプルな製造法であるため、工程数が少なく安価に製造できる。また、多量の有機溶媒を使用しないため、環境負荷を低減することができる。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によると、高純度の5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物が得られるため、これを共重合ポリエステルの共重合成分として用いると、得られる共重合体の重合度の制御が容易であり、優れた物性の樹脂を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩100重量部に対し、グリコール0.5〜6重量部を含有し、遷移金属含有率が0.0001重量部以下である組成物。
【化1】

式(1)中、Rは炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、Mn+はn価のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオン、nは1または2の整数をそれぞれ示す。
【請求項2】
前記遷移金属がMnである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩の純度が93重量%以上かつ二量体の含有率が1重量%以下かつ環状オリゴマーの含有率が0.2重量%以下である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
式(1)で示される5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩を30〜60質量%含むグリコール溶液から再結晶することにより請求項1〜3いずれかに記載の組成物を得る5−スルホイソフタル酸ジグリコールエステル金属塩組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−132157(P2011−132157A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292089(P2009−292089)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】