説明

6,12−ジナフチルクリセン誘導体及びこれを用いた有機発光素子

【課題】有機発光素子に用いるのに適した熱安定性の高い有機化合物とこの有機化合物を用いた有機発光素子の提供。
【解決手段】陽極と陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される有機化合物層と、を有する有機発光素子であって、前記有機化合物層のうち少なくとも一層が、下記式で例示される6,12−ジナフチルクリセン誘導体を有することを特徴とする、有機発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6,12−ジナフチルクリセン誘導体及びこれを用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、一対の電極間に蛍光性又は燐光性有機化合物を含む薄膜が挟持されている電子素子である。各電極から電子及び正孔を注入することにより、蛍光性又は燐光性化合物の励起子が生成され、この励起子が基底状態に戻る際に、有機発光素子は光を放出する。
【0003】
有機発光素子における最近の進歩は著しく、その特徴として、低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化の可能性であることが挙げられる。このことから、有機発光素子は広汎な用途への可能性を示唆している。
【0004】
ところで、有機発光素子の構成材料として要求される物性の一つとして、材料自体の耐久性がある。この耐久性を考慮した化合物の設計、研究については現在盛んに行われている。その具体例として、例えば、特許文献1や2に示されている有機化合物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−241687号公報
【特許文献2】国際公開第2009/008353号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chemistry of Materials,21(12),2452−2458,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1や2にて提案されている有機化合物及びこれを用いた有機発光素子は、実用化という観点からさらなる改善の余地がある。
【0008】
具体的には、耐久面の観点からさらに改善の余地があり、実用化のためには以下に挙げる事項が要求される。
(i)連続駆動時のさらなる長寿命化
(ii)高温下で長時間使用することを想定した際に要求される熱による劣化等への対策
【0009】
またフルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合、例えば、高温化で長時間使用するする条件下においても有機発光素子には色純度の面や効率の面で、初期の特性の継続的な維持が必要となる。しかし、これらの問題に関してもまだ十分に解決されたとはいえない。
【0010】
従って、特に、耐熱性が高い有機発光素子及びこれを実現するための材料が求められている。
【0011】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するためになされたものである。ここで、本発明の目的は、有機発光素子に用いるのに適した熱安定性の高い有機化合物とこの有機化合物を用いた有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体は、下記一般式[1]又は[2]で示される化合物であることを特徴とする。
【0013】
【化1】

(式[1]及び[2]において、Zは、ナフチル基を表し、Qは、下記一般式[3]乃至[5]のいずれから選ばれる電子吸引性の置換基である。
【0014】
【化2】

(式[5]において、R1は、水素原子あるいはメチル基である。))
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、有機発光素子に用いるのに適した熱安定性の高い有機化合物とこの有機化合物を用いた有機発光素子を提供することができる。即ち、本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体を有機発光素子の構成材料に用いることにより、広いバンドギャップと高いガラス転移温度との両方を兼ね備え、耐久性にも優れた有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の有機発光素子と、この有機発光素子に電気接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子と、を有する表示装置の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に関して詳細に説明する。まず、本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体について説明する。本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体は、下記一般式[1]又は[2]で示される化合物である。
【0018】
【化3】

【0019】
式[1]及び[2]において、Zは、ナフチル基を表す。
【0020】
式[1]及び[2]において、Qは、下記一般式[3]乃至[5]のいずれから選ばれる電子吸引性の置換基である。
【0021】
【化4】

【0022】
式[5]において、R1は水素原子又はメチル基である。
【0023】
本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体は、好ましくは、下記一般式[6]乃至[9]のいずれかから選ばれる化合物である。
【0024】
【化5】

【0025】
式[6]乃至[9]において、Zは、ナフチル基を表す。
【0026】
式[6]乃至[9]において、Qは、上記式[3]乃至[5]のいずれから選ばれる電子吸引性の置換基である。
【0027】
[化合物に関する考察]
以下、本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体についてさらに詳細を説明する。
【0028】
一般に、有機発光素子を高温下で連続的に駆動する際に、安定的な発光(安定的な素子の駆動状態)を維持していくためには、有機発光素子の構成材料の熱的安定性を高めていくことが望まれる。具体的にはガラス転移温度を高くすることが望まれる。
【0029】
ここで材料のガラス転移温度に関係する主な因子としては様々な因子があるが、中でも、下記(a)及び(b)がとりわけ重要である。
(a)化学構造
(b)分子量
【0030】
(a)に関しては、分子構造全体の対称性を低くすることが重要である。これは、同じ分子量の化合物中でも、対称性が低い化合物の方がよりガラス転移温度が高くなる傾向があることに起因する。また本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体のように一般的に低分子量の化合物に分類される化合物の場合、分子量の制約が出てくるため、分子自体の立体的な構造を制御する方法は限られる。ここで本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体には、クリセン骨格の6位及び12位にナフチル基が導入されている。そうすると、ナフチル基の1位(及び3位)又は2位に結合されている水素原子と、クリセン骨格の7位と1位の炭素原子に結合されている水素原子と、の間で立体障害が発生する。この立体障害により、ナフチル基とクリセン骨格とが同一平面上に存在することができなくなるので、分子構造全体の対称性を低くすることができる。
【0031】
また(a)に関しては、分子を構成する置換基のうち少なくとも1つの置換基に、炭素原子や水素原子以外のO、N等のヘテロ原子が導入されていることが重要である。ここで本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体には、クリセン骨格の2位に窒素原子や酸素原子を含む置換基、具体的には、式[3]乃至[5]に示される置換基が導入されている。これにより本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体は分子全体として極性を有することになる。またこの極性により、化合物のガラス転移温度が上昇する。
【0032】
(b)に関しては、分子量をなるべく大きくすることが重要である。分子量がより大きい方が、ガラス転移温度が高くなる傾向にあるからである。一般的に、分子は温度が高いほどその運動性が高くなり、自由に動くようになるとされている。ここで分子量が増加すると、分子自体が重くなり、この分子自体の重さが分子の自由な動きの妨げになり、ガラス転移温度が高くなる傾向にあるとされている。ただし分子量を大きくする場合は、有機発光素子の構成材料として要求されていることを満たしていることに注意しなければならない。特に、バンドギャップやイオン化ポテンシャル等に代表される物性要件は、無視できない物性要件となってくる。従って、これらを考慮した分子設計が重要である。
【0033】
ここで本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体においては、基本骨格であるクリセン骨格の6位及び12位の炭素原子にナフチル基が、2位の炭素原子に特定の置換基(式[3]乃至[5]に示される置換基)を有するフェニレン基が、それぞれ導入されている。これにより、分子量を大きくしつつ、上記物性要件(バンドギャップ、イオン化ポテンシャル等)を満たした構造になっている。
【0034】
有機発光素子用の材料として用いられる化合物において、求められるガラス転移温度としては、高ければ高いほどよい。ガラス転移温度が高ければ、高温下で有機発光素子を駆動した場合でも、素子特性を低下させることなく、かつ安定的に素子を駆動させることができるからである。このようにガラス転移温度が高いことは、構成材料が異なり機能が分離された有機発光素子を構成する各層において共通する物性要件となる。中でも、発光層と陰極との間にある電子注入・輸送層や正孔・エキシトンブロッキング層においては、このガラス転移温度が特に重要な物性要件であるといえる。また有機ELディスプレイを製造するプロセス上、陰極を蒸着法、スパッタ法等に代表される加熱プロセスの影響を直接受けやすいのが、電子注入・輸送層や正孔・エキシトンブロッキング層であり、これらの層を構成する材料は高いガラス転移温度を有することが必要であるからである。また陰極を形成した後において、固体封止膜を加熱によって形成する場合がある。これらの加熱プロセスでは、有機材料を加熱蒸着する場合よりも高温になる場合があるため、有機発光素子の構成材料は高い熱安定性を有することが必要となる。以上より、とりわけ電子注入・輸送層が、発光層や正孔注入・輸送層と同等もしくはそれ以上の熱安定性を有する層にする必要がある。
【0035】
ところで、有機発光素子の発光は、有機化合物層の中でもとりわけ発光層中で起こる。発光層がキャリア輸送性のホストとゲストとからなる場合、発光にいたる主な過程は、以下のいくつかの過程からなる。
1.発光層内での電子・正孔の輸送。
2.ホストの励起子生成。
3.ホスト分子間の励起エネルギー伝達。
4.ホストからゲストへの励起エネルギー移動。
【0036】
それぞれの過程における所望のエネルギー移動や発光はさまざまな失活過程との競争で起こる。有機発光素子の発光効率を高めるためには、発光中心材料そのものの発光量子収率を大きくすることは言うまでもない。しかしながら、ホスト−ホスト間、あるいはホスト−ゲスト間のエネルギー移動が如何に効率的にできるかも大きな問題となる。中でも、発光層に接している正孔輸送層や電子輸送層、場合によっては電子・エキシトンブロッキング層や正孔・エキシトンブロッキング層の物性が、発光効率に大きく寄与する。例えば、発光層と陰極との間に配置される電子輸送層や正孔・エキシトンブロッキング層では、その構成材料のイオン化ポテンシャルが発光層に含まれるホストやゲストよりも深くなければならない。
【0037】
もしイオン化ポテンシャルが浅い場合は、発光層中の正孔が電子輸送層や正孔・エキシトンブロッキング層へ漏れてしまい、発光層内の正孔の閉じ込め効率が低下し、上記「ホストの励起子生成」においてホストの励起子生成効率の低下を引き起こす。またバンドギャップについても発光層中に含まれるホストより広いことが重要である。バンドギャップがホストより狭い場合は、上記「ホストからゲストへの励起エネルギー移動」において、ホストからゲストへの励起エネルギー移動の後、ホストから電子輸送層や正孔・エキシトンブロッキング層へ優先的に励起エネルギー移動を引き起こす。この電子輸送層や正孔・エキシトンブロッキング層への励起エネルギー移動により、発光効率の低下を引き起こすためである。有機発光素子において、イオン化ポテンシャルやバンドギャップは、赤色発光層や緑色発光層よりイオン化ポテンシャルが深くかつバンドギャップが広い青色発光層を基準にする必要がある。この場合、青色発光層に含まれる青発光材料の発光ピークが430nm乃至480nmであることが一般的であり、特に、色純度のよい青色発光材料の発光ピークとしては440nm乃至460nmである。従って、特に、電子輸送層や正孔・エキシトンブロッキング層では、イオン化ポテンシャルが6.10eVより深く、バンドギャップが3.00eVより広いことが好ましい。
【0038】
ここで本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体は、上述したように、基本骨格であるクリセン骨格の6位及び12位の炭素原子にナフチル基が、2位の炭素原子に特定の置換基を有するフェニレン基が、それぞれ導入されている。これにより、下記(A)乃至(C)の特性を有することを本発明者らは見出した。
(A)ガラス転移温度が高い。
(B)イオン化ポテンシャルが深い
(C)バンドギャップが広い
【0039】
これにより、種々のホスト・ゲストとの組み合わせに依存することなく、駆動電圧が低く長い期間高輝度を保ち、通電劣化を抑えることができる。
【0040】
本発明は、以上の考察のもとに分子設計し発明がなされたものである。
【0041】
以下、本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体の具体的な構造式を示す。但し、これらはあくまでも具体例を示すものであり、本発明は、これに限定されるものではない。
【0042】
【化6】

【0043】
【化7】

【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
[有機発光素子]
次に、本発明の有機発光素子について説明する。本発明の有機発光素子は、陽極と陰極と、陽極と陰極との間に配置される有機化合物層と、を有している。ここで有機化合物層は単層又は複数の層からなる積層体であり、本発明においては、この有機化合物層のうち少なくとも一層が、本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体を有している。
【0047】
本発明の有機発光素子を構成する有機化合物層は、少なくとも発光層を含んでなる単層又は複数の層からなる積層体である。有機化合物層が複数層から構成される積層体である場合、有機化合物層は、発光層の他に、正孔注入層、正孔輸送層、正孔・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等のうちいずれかを有している積層体である。
【0048】
本発明の有機発光素子においては、素子を構成する有機化合物層が、陽極と陰極との間に配置される発光層と、この発光層と陰極との間に配置される電子輸送層と、を有する態様が好ましい。このように、有機化合物層が発光層と電子輸送層とを有している場合、本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体は電子輸送層に含まれる。
【0049】
また本発明の有機発光素子においては、素子を構成する有機化合物層が、上述した発光層及び電子輸送層の他に、発光層と電子輸送層との間に配置される正孔・エキシトンブロッキング層をさらに有する態様も好ましい。このように、有機化合物層が発光層と正孔・エキシトンブロッキング層と電子輸送層とを有している場合、本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体は正孔・エキシトンブロッキング層に含まれる。
【0050】
以下に本発明の有機発光素子の具体例を示す。
(i)(陽極/)発光層(/陰極)
(ii)(陽極/)正孔輸送層/電子輸送層(/陰極)
(iii)(陽極/)正孔輸送層/発光層/電子輸送層(/陰極)
(iv)(陽極/)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層(/陰極)
(v)(陽極/)正孔輸送層/発光層/正孔・エキシトンブロッキング層/電子輸送層(/陰極)
(vi)(陽極/)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔・エキシトンブロッキング層/電子輸送層(/陰極)
【0051】
ただし上記(i)乃至(vi)の構成は、あくまでもごく基本的な素子構成の具体例を示すものであり、本発明の有機発光素子における有機化合物層の構成はこれらに限定されるものではない。
【0052】
また本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体は発光層に含まれていてもよい。ここで本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体が発光層に含まれる場合、発光層は、本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体のみで構成されてもよいし、ホストとゲストとで構成されていてもよい。また発光層がホストとゲストとで構成される場合、本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体はゲストとして用いることができる。
【0053】
ここで、本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体をゲストとして用いる場合、ホストに対するゲストの濃度は0.1重量%以上30重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上10重量%以下であることがより好ましい。
【0054】
本発明の有機発光素子は、本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系の材料を使用することができる。具体的には、正孔注入性材料、正孔輸送性材料、ホスト、電子注入性材料、電子輸送性材料等を構成材料として一緒に使用することができる。
【0055】
以下に、これらの具体例を挙げる。
【0056】
正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料としては、正孔移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0057】
ホストとしては、トリアリールアミン誘導体、フェニレン誘導体、縮合環芳香族化合物(例えばナフタレン誘導体、フェナントレン誘導体、フルオレン誘導体、クリセン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体等)、有機金属錯体(例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、有機イリジウム錯体、有機プラチナ錯体等)及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体、ポリ(チエニレンビニレン)誘導体、ポリ(アセチレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0058】
正孔・エキシトンブロッキング層は、正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料の正孔移動度と電子注入性材料あるいは電子輸送性材料の電子移動度とのバランス、さらには高い正孔ブロック能とエキシトンブロック能をする材料で構成されるのが好ましい。
【0059】
電子注入性材料あるいは電子輸送性材料としては、正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料の正孔移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する材料としては、縮合環芳香族化合物(例えばナフタレン誘導体、フェナントレン誘導体、フルオレン誘導体、クリセン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体等)、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0060】
陽極の構成材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0061】
一方、陰極の構成材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0062】
本実施形態に係る有機発光素子において、本実施形態に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0063】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0064】
[有機発光素子の用途]
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置の構成部材として用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や、液晶表示装置のバックライト等としての用途がある。ここで本発明の有機発光素子を照明装置の構成部材として利用する場合、照明装置には、例えば、本発明の有機発光素子と本発明の有機発光素子に接続されたインバータ回路とを備えている。
【0065】
また上述した表示装置とは、本発明の有機発光素子を表示部に有する装置である。この表示部は複数の画素を有しており、各画素はそれぞれ本発明の有機発光素子と、本発明の有機発光素子の発光輝度を制御するためのTFT素子等のスイッチング素子と、を有している。ここでスイッチング素子としてTFT素子が使用されている場合、本発明の有機発光素子の構成部材である陽極又は陰極とTFT素子のドレイン電極又はソース電極とが電気的に接続されている。尚、表示装置は、例えば、PC等の画像表示装置として用いることができる。
【0066】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの情報を入力する画像入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像出力装置であってもよい。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部として、外部から入力された画像情報に基づいて画像を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。さらに表示装置はマルチファンクションプリンタ、ヘッドマウントディスプレイ、デジタルカメラの表示部に用いられてもよい。
【0067】
次に、本発明の有機発光素子を使用した表示装置について、図面を参照しながら説明する。
【0068】
図1は、本発明の有機発光素子と、この有機発光素子に電気接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子と、を有する表示装置の例を示す断面模式図である。構造の詳細を以下に説明する。
【0069】
図1の表示装置20は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極3である。符号4はゲート絶縁膜4であり、5は半導体層である。
【0070】
TFT素子8は半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。TFT素子8の上部には絶縁膜9が設けられている。コンタクトホール(スルーホール)10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。尚、本発明の表示装置は、図1の構成に限られず、陽極又は陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極又はドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0071】
図1の表示装置20において、単層あるいは多層構造である有機化合物層12は、1つの層の如き図示がなされている。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0072】
尚、本発明の表示装置において、表示装置を構成するスイッチング素子として、例えば、TFT素子やMIM素子、MOSFET等が挙げられる。またこのスイッチング素子に用いられる半導体として、例えば、酸化物半導体、単結晶シリコン、アモルファスシリコン等が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0074】
[合成例1]中間体化合物M1の合成
下記に示される合成スキームに従い中間体化合物M1を合成した。
【0075】
【化10】

【0076】
以下に、中間体化合物M1の具体的な合成方法について説明する。
【0077】
(1)まず2Lの反応容器に、下記に示される試薬、溶媒を投入した。
エタノール:500mL
2−ブロモ−5−クロロベンズアルデヒド:50g(0.23mol、1.0eq)
2−ナフタレンボロン酸:40g(0.22mol、1.02eq)
水:250mL
炭酸ナトリウム:72.5g(0.68mol、3.0eq)
【0078】
次に、反応溶液を撹拌しながら40℃に加熱し、この液温(40℃)でPd(PPh34(3.95g、3.42mmol、0.015eq)を加えた。次に、反応溶液を70℃に加熱し、この液温(70℃)で反応溶液を18時間撹拌させた。反応終了後、水500mLを加えてさらに撹拌した後で生じた白色固体(78.4g)をろ取した。次に、ショートカラム(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:トルエン)を用いて原点抜きを行った後、トルエンによる再結晶を行うことにより、白色固体の5−クロロ−2−ナフチルベンズアルデヒドを53.1g(収率87.4%)得た。
【0079】
(2)続いて、1Lの反応容器に、下記に示される試薬、溶媒を投入した。
(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド:45.5g(0.13mol、1.5eq)
脱水THF:400mL)
【0080】
次に、t−BuOK(14.9g、0.13mol、1.5eq)をゆっくり加えた後、反応溶液を40分撹拌した。次に、反応容器を水浴に浸した後、5−クロロ−2−ナフチルベンズアルデヒド(23.6g、0.088mol、1.0eq)を20分間かけて加えた。次に、反応溶液を室温で1時間撹拌した。反応終了後、水(1L)、トルエン(500mL)を加えて分液操作を行って有機層を回収した。次に、回収した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、減圧濃縮することで茶色のオイル状物質(33.6g)を得た。次に、このオイル状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=4/1)で精製することにより、薄黄色オイル状の2−(4−クロロ−2−(2−メトキシビニル)フェニル)ナフタレンを23.9g得た。
【0081】
(3)続いて、2Lの反応容器に、下記に示される試薬、溶媒を投入した。
2−(4−クロロ−2−(2−メトキシビニル)フェニル)ナフタレン:23.9g(0.081mol、1eq)
塩化メチレン:600mL
【0082】
次に、メタンスルホン酸(7.8g、0.081mol、1eq)を添加した後、反応溶液を室温で4時間撹拌した。反応終了後、反応溶液をMeOH(500mL)でクエンチした。次に、このクエンチによって析出した固体をろ取し、MeOHで洗浄した後、ろ過、乾燥を行うことにより、白色固体の2−クロロクリセンを10.4g(HPLC純度:99.9%)得た。
【0083】
また、1H−NMR測定により、得られた化合物の同定を行った。
1H−NMR、(400MHz、CDCl3)]
δ 8.74(d、1H)、8.72(d、1H)、8.67(d、1H)、8.61(d、1H)、8.00(d、1H)、7.98(dd、1H)、7.94(d、1H)、7.89(d、1H)、7.73(td、1H)、7.63(m、1H)
【0084】
(4)次に、200mLの反応容器に、下記に示される試薬、溶媒を投入した。
2−クロロクリセン:3.66g(0.014mol、1eq)
PhCl:90mL
【0085】
次に、反応溶液を65℃に加熱した。次に、反応溶液を65℃に加熱した状態でピリジン(5.5mg、0.069mmol、0.005eq)を加え、次いでBr2/PhCl(5M,5.7mL,0.028mol、2.15eq)を滴下した。次に、反応終了を確認した後、反応溶液を冷却した時に析出した固体をろ取した。次に、ろ取した固体をMeOH(50mL)で洗浄し、次いでPhClによる再結晶を行うことにより、白色固体の中間体化合物M1を4.9g(収率:84.7%)得た。
【0086】
また、1H−NMR測定により、得られた化合物の同定を行った。
1H−NMR、(400MHz、CDCl3)]
δ 9.00(s、1H)、8.90(s、1H)、8.66(d、1H)、8.60(d、1H)、8.49−8.34(m、2H)、7.76−8.72(m、3H)
【0087】
[合成例2]中間体化合物M2の合成
(中間体M2、M3、M4、M5の合成)
下記に示される合成スキームに従い中間体化合物M2を合成した。尚、下記に記載されている合成スキームは、非特許文献1に記載されている。
【0088】
【化11】

【0089】
[合成例3]中間体化合物M3の合成
合成例2において、原料の1つである4−ブロモアニリンの代わりに3−ブロモアニリンを用いた。これを除いては、合成例2と同様の方法で合成を行うことで、下記に示される中間体化合物M3を合成した。
【0090】
【化12】

【0091】
[合成例4]中間体化合物M4の合成
合成例2において、原料の1つである4−ブロモアニリンの代わりにアニリンを用い、原料の1つであるベンゾイルクロライドの代わりに、4−ブロモベンゾイルクロライドを用いた。これらを除いては、合成例2と同様の方法で合成を行うことで、下記に示される中間体化合物M4を合成した。
【0092】
【化13】

【0093】
[合成例5]中間体化合物M5の合成
合成例2において、原料の1つである4−ブロモアニリンの代わりにアニリンを用い、原料の1つであるベンゾイルクロライドの代わりに、3−ブロモベンゾイルクロライドを用いた。これらを除いては、合成例2と同様の方法で合成を行うことで、下記に示される中間体化合物M5を合成した。
【0094】
【化14】

【0095】
[合成例6]中間体化合物M6の合成
下記に示される合成スキームに従い中間体化合物M6を合成した。
【0096】
【化15】

【0097】
反応容器内に、下記に示される試薬、溶媒を投入した。
2−アミノ−3−ヒドロキシピリジン:9.77g(0.089mol、1.1eq)
4−ヨード安息香酸:20.0g(0.081mol、1.0eq)
ポリリン酸トリメチルシリルエステル:71.3g
【0098】
次に、反応溶液を180℃に加熱し、この温度(180℃)で4時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を放冷し、水(40mL)及び10%水酸化ナトリウム水溶液(320g)を加えて撹拌し、溶液のphが7になったことを確認してからろ過を行った。次に、ろ取した固体をクロロホルムに溶解させた後、水を加えて分液操作を行い有機層を回収した。次に、得られた有機層を減圧濃縮することで得た固体について、メタノールを用いたスラリー洗浄を2回行うことにより、中間体化合物M6を21.8g)収率:83.9%、純度:99.78%)得た。
【0099】
[合成例7]中間体化合物M7の合成
合成例6において、4−ヨード安息香酸の代わりに3−ヨード安息香酸を用いた。これを除いては、合成例6と同様の方法で合成を行うことで、下記に示される中間体化合物M7を得た。
【0100】
【化16】

【0101】
[実施例1]例示化合物A11の合成
下記に示される合成スキームに従い例示化合物A11を合成した。
【0102】
【化17】

【0103】
以下に、例示化合物A11の具体的な合成方法について説明する。
【0104】
(1)まず反応容器内に、下記に示される試薬、溶媒を投入した。
中間体化合物M1:16.0g(0.038mol、1.0eq)
1−ナフタレンボロン酸:14.1g(0.082mol、2.15eq)
トルエン:640mL
エタノール:160mL)
炭酸ナトリウム水溶液:160mL(6.0eq)
【0105】
次に、反応溶液を撹拌しながらさらに下記に示される試薬を加えた。
酢酸パラジウム:256mg(0.001mol、0.03eq)
トリフェニルフォオスフィン:2.39g(0.01mol、0.24eq)
【0106】
次に、反応溶液を加熱・還流させながら撹拌した。反応終了後、反応溶液を冷却し、ろ過した。次に、このろ過によって得られたろ液について水を用いて3回分液操作を行い有機層を回収した。次に、有機層にシリカゲル(59.9g)を入れ、ゲル吸着を行った。次に、シリカゲルをろ別して得たろ液を減圧濃縮することで粗生成物を22.1g得た。次に、この粗生成物をトルエン/ヘプタン混合溶媒で、スラリー洗浄しろ過することにより、2−クロロ−6,12−ジナフチルクリセンを17.9g(収率:91.3%、HPLC純度:99.4%)得た。
【0107】
(2)続いて反応容器内に、下記に示される試薬、溶媒を投入した。
2−クロロ−6,12−ジナフチルクリセン:5.0g(0.01mol、1.0eq)
ビスピナコレートジボロン:6.16g(0.024mol、2.5eq)
酢酸カリウム:2.86g(0.029mol、3.0eq)
トルエン:590mL
【0108】
次に、反応溶液を撹拌しながら、さらに下記に示される試薬を加えた。
Xphos(2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル):190mg(0.04eq)
トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム:180mg(0.02eq)
【0109】
次に、反応溶液を加熱・還流させながら撹拌した。反応終了後、反応溶液を冷却し、ろ過した。次に、このろ過によって得られたろ液について水を用いて分液操作を行い有機層を回収した。次に、有機層にシリカゲル(59.9g)を入れ、このシリカゲルを分散した。次に、シリカゲルをろ別して得たろ液を減圧濃縮することで粗生成物を得た。次に、得られた粗生成物にメタノールを加えてスラリー洗浄を行った後、ろ過を行うことにより、2−ピナコレート−6,12−ジナフチルクリセンを5.71g(収率:97.0%、HPLC純度:99.2%)得た。
【0110】
(3)次に、反応容器内に、下記に示される試薬、溶媒を投入した。
2−ピナコレート−6,12−ジナフチルクリセン:2.49g(5.2mmol、1.1eq)
中間体化合物M2:1.66g(4.7mmol、1.0eq)
トルエン:75mL
炭酸ナトリウム水溶液:25mL(3.0eq)
【0111】
次に、反応溶液を撹拌しながら、さらに下記に示される試薬を加えた。
Pd(PPh34:274mg(0.24mmol、0.05eq)
エタノール:25mL
【0112】
次に、反応溶液を加熱・還流させながら2時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を冷却した。次に、水を用いて分液操作を行い有機層を回収した。次に、得られた有機層を減圧濃縮することで粗生成物を得た。次に、得られた粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル=10/1)にて精製し、分取した溶液を減圧濃縮することで固体を得た。次に、得られた固体についてメタノールによるスラリー洗浄を行った後ろ過することにより、例示化合物A11を2.82g(収率:86.8%、HPLC純度:99.8%)得た。
【0113】
質量分析法により、この化合物のM+である748を確認した。
【0114】
また、1H−NMR測定により、得られた化合物の同定を行った。
1H−NMR、(400MHz、CDCl3)]
δ 8.93(d、1H)、8.89(s、1H)、8.87(s、1H)、8.83(d、1H)、8.09−8.01(m、4H)、7.94(dd、1H)、7.87(s、1H)、7.86(d、1H)、7.77−7.52(m、16H)、7.47−7.23(m、9H)
【0115】
また、本実施例で得られた化合物について、その物性を以下に示す方法で測定・評価した。
【0116】
(A)ガラス転移温度
示差走査熱量測定装置(NETZSCH社製、商品名:DSC204F1)を用いて、測定対象物のガラス転移温度測定を行った。温度条件は、室温から410℃まで10℃/minで昇温し、410℃で10分間保持した後、0℃まで40℃/minで冷却し、0℃で10分間保持した。次に、0℃から410℃まで20℃/minで昇温し、410℃で10分間保持した後、室温まで40℃/minで冷却した。この2回目の昇温時において現れるガラス転移温度を測定値とした。尚、測定対象化合物の使用量は、2mg〜3mgとした。
【0117】
(B)バンドギャップ
まず測定対象物をガラス基板上に加熱蒸着して、膜厚20nmの蒸着薄膜を作製した。次に、この蒸着薄膜について、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V−560)を用いて吸光スペクトルを測定した。そして、得られた吸光スペクトルの吸収端からバンドギャップを割り出した。
【0118】
(C)イオン化ポテンシャル
測定対象物とクロロホルムとを混合して調製した溶液をガラス基板上に塗布、スピンコートした後、乾燥することで膜厚15nmの薄膜を得た。この薄膜について、AC−3(理研計器株式会社製)を用いてイオン化ポテンシャルを測定した。
【0119】
本実施例で得られた例示化合物A11において、ガラス転移温度は207.2℃であり、バンドギャップは3.33eVであり、イオン化ポテンシャルは6.24eVであった。
【0120】
[実施例2]例示化合物A13の合成
実施例1(3)において、中間体化合物M2の代わりに中間体化合物M6を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法により、下記に示される例示化合物A13を合成した。
【0121】
【化18】

【0122】
質量分析法により、この化合物のM+である674を確認した。
【0123】
また、1H−NMR測定により、得られた化合物の同定を行った。
1H−NMR、(400MHz、CDCl3)]
δ 8.93(d、1H)、8.90(s、1H)、8.88(s、1H)、8.84(d、1H)、8.57(dd、1H)、8.27(d、2H)、8.09−8.02(m、5H)、7.88(ss、1H)、7.94(dd、1H)、7.76−7.52(m、14H)、7.39−7.33(m、2H)
【0124】
また本実施例で得られた例示化合物A13において、ガラス転移温度は208.9℃であり、バンドギャップは3.05eVであり、イオン化ポテンシャルは6.29eVであった。
【0125】
[実施例3]例示化合物A23の合成
実施例1(3)において、中間体化合物M2の代わりに中間体化合物M7を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法により、下記に示される例示化合物A23を合成した。
【0126】
【化19】

【0127】
質量分析法により、この化合物のM+である674を確認した。
【0128】
また、1H−NMR測定により、得られた化合物の同定を行った。
1H−NMR、(400MHz、CDCl3)]
δ 8.95(d、1H)、8.90(s、1H)、8.88(s、1H)、8.84(s、1H)、8.58(dd、1H)、8.45(s、1H)、8.23(d、2H)、8.09−7.98(m、5H)、7.86(m、2H)、7.77−7.71(m、4H)、7.68−7.33(m、11H)
【0129】
また本実施例で得られた例示化合物A23において、ガラス転移温度は192.2℃であり、バンドギャップは3.28eVであり、イオン化ポテンシャルは6.23eVであった。
【0130】
[実施例4]例示化合物B11の合成
実施例1(1)において、1−ナフタレンボロン酸の代わりに2−ナフタレンボロン酸を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法により、下記に示される例示化合物B11を合成した。
【0131】
【化20】

【0132】
質量分析法により、この化合物のM+である748を確認した。
【0133】
また、1H−NMR測定により、得られた化合物の同定を行った。
1H−NMR、(400MHz、CDCl3)]
δ 9.00(d、1H)、8.90(d、1H)、8.85(s、1H)、8.82(s、1H)、8.34(ss、1H)、8.20(s、1H)、8.17(s、1H)、8.09−8.00(m、8H)、7.89−7.75(m、6H)、7.62−7.59(m、7H)、7.36−7.27(m、8H)
【0134】
また本実施例で得られた例示化合物B11において、ガラス転移温度は175.4℃であり、バンドギャップは3.06eVであり、イオン化ポテンシャルは6.16eVであった。
【0135】
[実施例5]
本実施例では、基板上に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔・エキシトンブロッキング層、電子輸送層及び陰極が順次形成されている有機発光素子を作製した。以下に、本実施例で使用した材料の一部を示す。
【0136】
【化21】

【0137】
有機発光素子の具体的な製造方法を以下に説明する。
【0138】
スパッタ法により、ガラス基板上に、ITOを成膜して陽極を形成した。このとき陽極の膜厚を120nmとした。このようにITO電極が形成されている基板を透明導電性支持基板(ITO基板)として以下の工程で使用した。次に、このITO基板上に、下記表1に示される有機化合物層及び電極層を、1×10-5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に成膜した。このとき対向する電極(金属電極層、陰極)の面積が3mm2になるように作製した。
【0139】
【表1】

【0140】
得られた素子について、素子の特性を測定・評価した。具体的には、電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。測定の結果を表2に示す。尚、表2に記載の2%劣化寿命は、有機発光素子を25mA/cm2の定電流密度で連続駆動させた場合に、輝度が初期輝度に対して2%劣化するまでに要した時間である。
【0141】
[実施例6、7]
実施例5において、ゲストを、表2に示される化合物に適宜変更する以外は、実施例5
と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた素子について実施例5と同様に素子の特性を測定・評価した。測定の結果を表2に示す。
【0142】
[比較例1、2]
実施例5において、ゲストを、表2に示される化合物に適宜変更する以外は、実施例5と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた素子について実施例5と同様に素子の特性を測定・評価した。測定の結果を表2に示す。尚、比較例1、2でそれぞれ使用した比較化合物R1、R2の構造式を以下に示す。
【0143】
【化22】

【0144】
【表2】

【0145】
[結果と考察]
本発明の6,12−ジナフチルクリセン誘導体は、高いガラス転移温度と、広いバンドギャップと、深いイオン化ポテンシャルと、を有する有機化合物であり、有機発光素子の構成材料に用いた場合、良好な発光効率を示すと同時に特に耐久特性が良好な発光素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0146】
8:TFT素子、11:陽極、12:有機化合物層、13:陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]又は[2]で示される化合物であることを特徴とする、6,12−ジナフチルクリセン誘導体。
【化1】

(式[1]及び[2]において、Zは、ナフチル基を表し、Qは、下記一般式[3]乃至[5]のいずれから選ばれる電子吸引性の置換基である。
【化2】

(式[5]において、R1は、水素原子あるいはメチル基である。))
【請求項2】
下記一般式[6]乃至[9]のいずれかで示される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の6,12−ジナフチルクリセン誘導体。
【化3】

(式[6]乃至[9]において、Qは、下記一般式[3]乃至[5]のいずれから選ばれる電子吸引性の置換基である。
【化4】

(式[5]において、R1は、水素原子あるいはメチル基である。))
【請求項3】
陽極と陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置される有機化合物層と、を有する有機発光素子であって、
前記有機化合物層のうち少なくとも一層が、請求項1又は2に記載の6,12−ジナフチルクリセン誘導体を有することを特徴とする、有機発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層が、発光層と、前記発光層と前記陰極との間に配置される電子輸送層と、を有し、
前記電子輸送層が、前記6,12−ジナフチルクリセン誘導体を有することを特徴とする、請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記有機化合物層が、発光層と、前記発光層と前記陰極との間に配置される電子輸送層と、前記発光層と前記電子輸送層との間に配置される正孔・エキシトンブロッキング層と、を有し、
前記正孔・エキシトンブロッキング層が、前記6,12−ジナフチルクリセン誘導体を有することを特徴とする、請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項6】
複数の画素を有し、
前記画素が、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に電気接続されたスイッチング素子と、を有することを特徴とする、表示装置。
【請求項7】
画像を表示するための表示部と、
画像情報を入力するための入力部と、を有し、
前記表示部が複数の画素を有し、
前記画素が、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に電気接続されたスイッチング素子と、を有することを特徴とする、画像入力装置。
【請求項8】
請求項3乃至5のいずれかに一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子と接続されたインバータ回路とを有する照明装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−254948(P2012−254948A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128251(P2011−128251)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】