説明

7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのマルチアームポリマー複合体を用いた抵抗性または難治性の癌の治療方法

哺乳動物における抵抗性または難治性の癌を治療する方法であって、下記化合物:
【化1】


を有効量で前記哺乳動物に投与する工程を有してなる方法。好ましい態様では、前記癌は、カンプトテシンまたはCPT−11での治療に対して抵抗性または難治性である。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本願は、参照することによりその内容が本願に援用される、2007年2月9日出願の米国仮特許出願第60/900,592号の優先権の利益を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、抵抗性または難治性の癌を治療する方法に関する。詳細には、本発明は、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのポリエチレングリコール複合体を使用して、カンプトテシンまたはCPT−11に対して抵抗性または難治性の癌を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
長年にわたり、多くの一般的な癌が、治癒的療法に対し、抵抗性または難治性の現象を示すことが報告されている。一部の癌は、反応を示さないか、あるいは最初は反応するが、その後間もなく治療に対して抵抗性となる。他の癌では、早期治療が成功した後に続く治療を含む療法に対し、反応を示さない。他の事例では、効果的な治療の完了後、数年で癌が再発する。化学療法、放射線治療、または他の癌治療に対する抵抗性または難治性の現象を予防または克服することができれば、医薬分野における大幅な進歩となるであろう。
【0004】
癌治療の取り組みにおいて、さまざまな抗癌剤が開発されている。それら抗癌剤候補の多くは、残念なことに、さまざまな機構を通じた薬物抵抗性を示す。一部の腫瘍は、特定のタイプの抗癌剤に対し、最初の短い治療反応を示した後、反応しなくなる。一部の事例では、癌は、最初は抗癌剤に対して反応を示していたにもかかわらず、腫瘍の縮小に逆行し、腫瘍が再び増殖し始める。
【0005】
抗癌剤候補の1つに、カンプトテシンがある。カンプトテシンおよび関連類似体は、DNAトポイソメラーゼI阻害剤として知られている。イリノテカン(CPT−11、Camptosar(登録商標))は、現在市販されているDNAトポイソメラーゼI阻害剤であり、ある程度の抗癌活性を有する。現在市販されていないが、CPT−11の活性代謝産物である7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンもまた、ある程度の抗癌活性を有すると考えられている。他の抗癌剤と同様、カンプトテシンおよびカンプトテシン誘導体にも薬物抵抗性が観察されている。たとえば、9−アミノまたは9−ニトロ置換されたカンプトテシンに対する抵抗性が、一般的な癌において報告されている。特許文献1を参照のこと。
【0006】
抗癌剤に関連した薬物抵抗性または難治性の現象を克服するため、さまざまな提案がなされている。カンプトテシンまたはカンプトテシン類似体に関連した障壁を克服するための早期の試みの1つは、毒性のより少ないCPT誘導体の開発を対象としていた。他の試みとしては、上皮細胞増殖因子受容体アンタゴニストおよびNa+/K+ ATPアーゼ阻害剤など、薬物抵抗性の潜在的遮断薬の使用が挙げられる。特許文献2および3参照。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,194,579号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0012663号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0135468号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの試みおよび進歩にもかかわらず、抵抗性または難治性の癌の治療方法の提供が依然として必要とされている。本発明はこの要求に応えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を克服し、癌治療のための療法を改善するため、哺乳動物における抵抗性または難治性の癌の治療方法を提供する。
【0010】
本発明の1つの態様では、哺乳動物における抵抗性または難治性の癌の治療方法が提供され、該方法は、
式(I)の化合物:
【化1】

【0011】
またはそれらの薬学的に許容される塩を、有効量で、哺乳動物に投与する工程を有してなり、
ここで、
1、R2、R3およびR4は、独立して、OHまたは
【化2】

【0012】
であり、
ここで、
Lは二官能性のリンカーであり、
mは0または正の整数であり、
nは正の整数であり、
1、R2、R3およびR4 のすべてがOHではないことを条件とする。
【0013】
本発明の1つの特定の態様では、抵抗性または難治性の癌の治療を目的とした7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのポリマープロドラッグには、下記構造式:
【化3】

【0014】
を有する4−アームPEG−7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン複合体が用いられ、ここでnは約28〜約341であり、約114〜約227であることが好ましく、約227であることがさらに好ましい。
【0015】
本明細書に記載する方法で治療することのできる抵抗性または難治性の癌としては、充実性腫瘍、リンパ腫、肺癌、小細胞肺癌、急性リンパ性白血病(ALL)、乳癌、結腸直腸癌、膵臓癌、膠芽細胞腫、卵巣癌および胃癌が挙げられる。前記リストは、排他的であることを意味するものではなく、当然ながら、本明細書において特に明記されない他の抵抗性または難治性の癌を含むことが意図されていることを、当業者は理解するであろう。
【0016】
本発明の1つの態様は、化学療法に対して抵抗性または難治性の癌の治療方法を提供する。1つの特定の態様では、その治療は、カンプトテシン(CPT)またはCPT−11に関連する治療に対して抵抗性または難治性の癌に有効である。あるいは、本発明は、トポイソメラーゼI介在性の抵抗性または難治性の現象を示す癌の治療方法を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は、CPTまたはCPT−11のポリエチレングリコール複合体など、ポリマープロドラッグの形態をしたCPTまたはCPT−11の投与に関連した治療に抵抗性または難治性の癌の治療方法を提供する。
【0018】
本発明にしたがった7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのポリマープロドラッグは、治療開始時またはその後の治療回において、抵抗性または難治性の癌に対して有効である。本発明は、CPT−11に感受性、すなわち、最初の治療回において阻害されているように見えるが、2回目以降の治療回では抵抗性となる、難治性の癌の治療を可能にする。7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのポリマープロドラッグは、治療の中断後の癌の再発の治療にさらに有効でありうる。
【0019】
本発明の別の態様では、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのポリマープロドラッグは、複合体の非ポリマー部分に基づいて、約0.1〜約45mg/m2/回の量で投与される。本明細書に記載されるポリマープロドラッグは、所望の結果が観察されるまで、各治療サイクルで3週間ごとに1回、または週1回投与され、その後、各サイクルで1週間の休息期間をとる。
【0020】
本発明の利点の1つは、相乗的な利益のために、別の抗癌治療薬と組み合わせて、同時に、または連続して、有効量の7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのポリマープロドラッグで患者を治療することができることである。
【0021】
本発明のさらに別の利点は、本明細書に記載されるプロドラッグ製剤が、先行技術の医薬品製剤と比較して、毒性が低減され、および/または直面する困難が克服されていることである。
【0022】
他の利点およびさらなる利点は、次の説明および図面から明らかであろう。
【0023】
本発明の目的では、「残基」という用語は、化合物の部分、すなわち、別の化合物との置換反応が行なわれた後に残る、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン、アミノ酸などを意味するものと解されるものとする。
【0024】
本発明の目的では、「ポリマー含有残基」または「PEG残基」という用語は、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン含有化合物と反応させた後に残る、ポリマーまたはPEGの部分のことを意味するものと解されるものとする。
【0025】
本発明の目的では、本明細書で用いられる「アルキル」という用語は、直鎖、分岐鎖、および環状アルキル基を含む、飽和脂肪族炭化水素のことをいう。「アルキル」という用語には、アルキル−チオ−アルキル、アルコキシアルキル、シクロアルキルアルキル、へテロシクロアルキル、C1-6ヒドロカルボニル基も含まれる。アルキル基は1〜12の炭素を有することが好ましい。約1〜7炭素の低級アルキルであることがさらに好ましく、約1〜4炭素であることがさらになお好ましい。アルキル基は、置換または非置換でありうる。置換される場合は、置換基には、好ましくは、ハロ、オキシ、アジド、ニトロ、シアノ、アルキル、アルコキシ、アルキル−チオ、アルキル−チオ−アルキル、アルコキシアルキル、アルキルアミノ、トリハロメチル、ヒドロキシル、メルカプト、ヒドロキシ、アルキルシリル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、へテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アルケニル、アルキニル、C1-6ヒドロカルボニル、アリール、およびアミノ基が含まれる。
【0026】
本発明の目的では、本明細書で用いられる「置換」という用語は、官能基または化合物に含まれる1つ以上の原子に、ハロ、オキシ、アジド、ニトロ、シアノ、アルキル、アルコキシ、アルキル−チオ、アルキル−チオ−アルキル、アルコキシアルキル、アルキルアミノ、トリハロメチル、ヒドロキシル、メルカプト、ヒドロキシ、アルキルシリル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、へテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アルケニル、アルキニル、C1-6ヒドロカルボニル、アリール、およびアミノ基の群に由来する部分のうちの1つが付加されるか、または置換されることをいう。
【0027】
本明細書で用いられる「アルケニル」という用語は、直鎖、分岐鎖、および環式基を含む、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む基のことをいう。アルケニル基は約2〜12の炭素を有することが好ましい。それは約2〜7炭素の低級アルケニルであることがさらに好ましく、約2〜4炭素であることがさらになお好ましい。アルケニル基は、置換または非置換でありうる。置換される場合は、置換基には、好ましくは、ハロ、オキシ、アジド、ニトロ、シアノ、アルキル、アルコキシ、アルキル−チオ、アルキル−チオ−アルキル、アルコキシアルキル、アルキルアミノ、トリハロメチル、ヒドロキシル、メルカプト、ヒドロキシ、アルキルシリル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、へテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アルケニル、アルキニル、C1-6ヒドロカルボニル、アリール、およびアミノ基が含まれる。
【0028】
「アルキニル」という用語は、本明細書では、直鎖、分岐鎖、および環式基を含む、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含む基のことをいう。アルキニル基は約2〜12の炭素を有することが好ましい。約2〜7炭素の低級アルキニルであることがさらに好ましく、約2〜4炭素であることがさらになお好ましい。アルキニル基は、置換または非置換でありうる。置換される場合は、置換基には、好ましくは、ハロ、オキシ、アジド、ニトロ、シアノ、アルキル、アルコキシ、アルキル−チオ、アルキル−チオ−アルキル、アルコキシアルキル、アルキルアミノ、トリハロメチル、ヒドロキシル、メルカプト、ヒドロキシ、アルキルシリル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、へテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アルケニル、アルキニル、C1-6ヒドロカルボニル、アリール、およびアミノ基が含まれる。「アルキニル」の例として、プロパギル、プロピン、および3−ヘキシンが挙げられる。
【0029】
「アリール」という用語は、本明細書では、少なくとも1つの芳香族環を含む芳香族炭化水素環系のことをいう。芳香族環は、随意的に、他の芳香族炭化水素環または非芳香族炭化水素環と縮合するか、他の方法で結合していてもよい。アリール基の例としては、例えば、フェニル、ナフチル、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、およびビフェニルが挙げられる。アリール基の好ましい例として、フェニルおよびナフチルが挙げられる。
【0030】
「シクロアルキル」という用語は、本明細書では、C3-8環状炭化水素のことをいう。シクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが挙げられる。
【0031】
「シクロアルケニル」という用語は、本明細書では、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む、C3-8環状炭化水素のことをいう。シクロアルケニルの例としては、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、1,3−シクロヘキサジエニル、シクロヘプテニル、シクロヘプタトリエニル、およびシクロオクテニルが挙げられる。
「シクロアルキルアルキル」という用語は、本明細書では、C3-8シクロアルキル基で置換されたアルキル基のことをいう。シクロアルキルアルキルの例としては、シクロプロピルメチルおよびシクロペンチルエチルが挙げられる。
「アルコキシ」という用語は、本明細書では、酸素橋を通じて親化合物部分に結合している、所望の炭素原子数のアルキル基のことをいう。アルコキシ基の例としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、およびイソプロポキシが挙げられる。
【0032】
「アルキルアリール」基は、本明細書では、アルキル基で置換されたアリール基のことをいう。
【0033】
「アラルキル」基は、本明細書では、アリール基で置換されたアルキル基のことをいう。
【0034】
「アルコキシアルキル」基という用語は、本明細書では、アルコキシ基で置換されたアルキル基のことをいう。
【0035】
「アルキル−チオ−アルキル」という用語は、本明細書では、例えばメチルチオメチルまたはメチルチオエチルなど、アルキル−S−アルキルチオエーテルのことをいう。
【0036】
「アミノ」という用語は、本明細書では、有機ラジカルによって1つ以上の水素ラジカルが置換されることにより、アンモニアから誘導される、当技術分野で既知の窒素含有基のことをいう。例えば、「アシルアミノ」および「アルキルアミノ」という用語は、それぞれ、アシルおよびアルキル置換基を有する、特定のN−置換有機ラジカルのことをいう。
【0037】
「アルキルカルボニル」という用語は、本明細書では、アルキル基で置換されたカルボニル基のことをいう。
【0038】
「ハロゲン」または「ハロ」という用語は、本明細書では、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素のことをいう。
【0039】
「ヘテロシクロアルキル」という用語は、本明細書では、窒素、酸素、および硫黄から選択される少なくとも1つのへテロ原子を含む、非芳香族環系のことをいう。ヘテロシクロアルキル環は、随意的に、他のヘテロシクロアルキル環および/または非芳香族炭化水素環と縮合するか、他の方法で結合していてもよい。ヘテロシクロアルキル基は、3〜7員環であることが好ましい。ヘテロシクロアルキル基の例として、例えば、ピペラジン、モルホリン、ピペリジン、テトラヒドロフラン、ピロリジン、およびピラゾールが挙げられる。好ましいヘテロシクロアルキル基として、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、およびピロリジニルが挙げられる。
【0040】
「ヘテロアリール」という用語は、本明細書では、窒素、酸素、および硫黄から選択される少なくとも1つのへテロ原子を含む、芳香族環系のことをいう。ヘテロアリール環は、1つ以上のヘテロアリール環、芳香族または非芳香族炭化水素環、またはヘテロシクロアルキル環と縮合するか、他の方法で結合していてもよい。ヘテロアリール基の例として、例えば、ピリジン、フラン、チオフェン、5,6,7,8−テトラヒドロイソキノリン、およびピリミジンが挙げられる。ヘテロアリール基の好ましい例として、チエニル、ベンゾチエニル、ピリジル、キノリル、ピラジニル、ピリミジル、イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、フラニル、ベンゾフラニル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、イソキサゾリル、
オキサジアゾリル、イソチアゾリル、ベンズイソチアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピロリル、インドリル、ピラゾリル、およびベンゾピラゾリルが挙げられる。
【0041】
本明細書では、「ヘテロ原子」という用語は、窒素、酸素、および硫黄のことをいう。
【0042】
一部の実施の形態では、置換アルキルは、カルボキシアルキル、アミノアルキル、ジアルキルアミノ、ヒドロキシアルキル、およびメルカプトアルキルを含み、置換アルケニルは、カルボキシアルケニル、アミノアルケニル、ジアルケニルアミノ、ヒドロキシアルケニル、およびメルカプトアルケニルを含み、置換アルキニルは、カルボキシアルキニル、アミノアルキニル、ジアルキニルアミノ、ヒドロキシアルキニル、およびメルカプトアルキニルを含み、置換シクロアルキルは、4−クロロシクロヘキシルなどの部分を含み、アリールは、ナフチルなどの部分を含み、置換アリールは、3−ブロモフェニルなどの部分を含み、アラルキルは、トリルなどの部分を含み、へテロアルキルはエチルチオフェンなどの部分を含み、置換へテロアルキルは、3−メトキシ−チオフェンなどの部分を含み、アルコキシは、メトキシなどの部分を含み、フェノキシは、3−ニトロフェノキシなどの部分を含む。
【0043】
本発明の目的では、「正の整数」は、1以上の整数を含み、当然のことながら当業者には、当業者の合理性の範囲内であるとものと解されるものとする。
【0044】
「有効量」および「十分量」という用語は、本発明の目的では、当業者に理解されるような効果として、所望の効果または治療効果を達成する量を意味するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1に記載するCPT−11難治性結腸直腸腫瘍の治療における4−アームPEG−Gly−7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンの抗癌活性。
【図2】実施例2に記載するCPT−11難治性結腸直腸腫瘍の治療における4−アームPEG−Gly−7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンの抗癌活性。
【図3】実施例3に記載するCPTに対して難治性の細胞における4−アームPEG−Gly−7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのインビトロでの細胞毒性。
【図4】実施例3に記載するCPTに対して難治性ではない細胞における4−アームPEG−Gly−7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのインビトロでの細胞毒性。
【発明を実施するための形態】
【0046】
A.概要
本発明の1つの態様では、哺乳動物における抵抗性または難治性の癌を治療する方法であって、
式(I)の化合物:
【化4】

【0047】
またはそれらの薬学的に許容される塩を、それらを必要とする哺乳動物に投与する工程を有してなり、
ここで、
1、R2、R3およびR4は、独立してOHまたは
【化5】

【0048】
であり、
ここで、
Lは二官能性のリンカーであり、
mは0または正の整数であり、1であることが好ましく、
nは正の整数であり、
1、R2、R3およびR4 が、すべてがOHではないことを条件とする、
方法を提供する。
【0049】
別の実施の形態では、R1、R2、R3およびR4のうち1つ、2つまたは3つがCH3でありうる。
【0050】
本発明の目的では、難治性または抵抗性の癌は、以前の抗癌療法または抗癌治療に対して反応しない癌として定義される。1つの好ましい態様では、癌は、CPT−11の治療に対して難治性または抵抗性である。癌は、治療の開始時に抵抗性または難治性でありうるか、または、治療の間に抵抗性または難治性になる場合もある。難治性の癌には、治療開始時に反応しないか、あるいは、最初の短い期間は反応するが、治療に対して反応しなくなる腫瘍が挙げられる。難治性の癌には、抗癌療法を用いた治療に反応するが、その後の治療回では反応しなくなる腫瘍も含まれる。本発明の目的では、難治性の癌は、抗癌療法を用いた治療によって阻害されるように見えるが、治療の中断後、5年以内、時には10年以内かそれ以上経過して再発する腫瘍も含まれる。抗癌治療は、化学療法薬単独で、放射線単独で、またはそれらを組み合わせて用いることができる。説明を簡略化するためであって、限定はしないが、難治性の癌は、抵抗性癌と置き換えることができることが、理解されよう。
【0051】
本発明の目的では、抵抗性または難治性の癌の治療の成功とは、本明細書に記載される治療の不存在下で観察される場合と比較して、抗癌治療の間および/または治療後に、抵抗性または難治性の症状または病状が予防、最小化、または軽症化されることを意味すると解されるものとする。最小化、軽症化、または予防された難治性の病状は、当業者によって予定される臨床マーカーによって確認することができる。1つの例では、本明細書に記載される治療の不存在下で観察されるものと比較した場合、細胞増殖および/または当業者によって予定される他の臨床マーカーを含めた再発において、少なくとも5%、または好ましくは10%、さらに好ましくは20%以上(すなわち、30、40、50%以上)の阻害または減少があった場合、抵抗性または難治性の癌の治療の成功が生じたとみなされるものとする。難治性の癌の重症度および規模における変化を示す臨床マーカーは、臨床医学者によって決定されうる。一部の態様では、抵抗性または難治性の癌は、次のうちの1つ以上でありうる:充実性腫瘍、リンパ腫、小細胞肺癌、急性リンパ性白血病(ALL)、膵臓癌、膠芽細胞腫、卵巣癌、胃癌など。本方法は、とりわけ、哺乳動物における、腫瘍性疾患の治療、全身腫瘍組織量の低減、新生物の転移の予防、および腫瘍/新生物の増殖の再発の予防に有用である。特定の態様では、抵抗性または難治性の癌は、充実性腫瘍または転移性の癌である。1つの特定の態様では、抵抗性または難治性の癌は、結腸直腸癌である。
【0052】
本発明は、化学療法に対して抵抗性または難治性の癌の治療方法を提供する。1つの好ましい態様では、本発明は、カンプトテシン(CPT)またはカンプトテシン類似体を用いた療法に対して抵抗性または難治性の癌の治療方法を提供する。あるいは、本明細書に記載される方法は、ポリエチレングリコールなどのポリマーと複合体化したCPTまたはCPT類似体に対して抵抗性または難治性の癌の治療に有効でありうる。さらに好ましい態様では、本発明は、カンプトテシンまたはCPT−11を用いた療法に対して抵抗性または難治性の癌の治療方法を提供する。
【0053】
カンプトテシンおよび特定の関連する類似体は、下記構造式を共有する:
【化6】

【0054】
このコア構造から、いくつかの既知の類似体が調製されている。例えば、環Aの10位、11位のいずれかまたは両方は、OHで置換されうる。環Aはまた、随意的にヘテロ原子、すなわちOまたはSが環に連結した、直鎖または分岐鎖C1-30アルキルまたはC1-17アルコキシで置換されうる。環Bは、7位を、直鎖または分岐鎖C1-30アルキル(好ましくはC2アルキル)、C5-8シクロアルキル、C1-30アルコキシ、フェニルアルキルなど、アルキルカルバメート、アルキルカルバジド、フェニルヒドラジン誘導体などで置換されうる。環C、D、およびEにおける他の置換も可能である。例えば、参照することにより本明細書に取り込まれる、米国特許第5,004,758号、同第4,943,579号、同第4,473,692号の各明細書、および米国再発行特許RE32,518号明細書を参照のこと。10−ヒドロキシカンプトテシン、11−ヒドロキシカンプトテシン、および10,11−ジヒドロキシカンプトテシン類似体は、カンレンボク(C. Acuminata)およびそれに関連する種における微量成分の1つとして天然に存在する。これらの化合物に対するさらなる置換、すなわち、7−アルキル、7−置換アルキル、7−アミノ、7−アミノアルキル、7−アラルキル、9−アルキル、9−アラルキル−カンプトテシンなどの誘導体は、既知の合成技術を使用して作られる。一部のカンプトテカ属アルカロイドは、下記の構造式を有する:
【化7】

【0055】
上記構造式において、R7は、NO2、NH2、N3、水素、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、COOH、OH、O−C1-8アルキル、SH、S−C1-3アルキル、CN、CH2NH2、NH−C1-3アルキル、CH2−NH−C1-3アルキル、N(C1-3アルキル)2、CH2N(C1-3アルキル)、O−、NH−およびS−CH2CH2N(CH2CH2OH)2、O−、NH−およびS−CH2CH2CH2N(CH2CH2OH)2、O−、NH−およびS−CH2CH2N(CH2CH2CH2OH)2、O−、NH−およびS−CH2CH2CH2N(CH2CH2CH2OH2)2、O−、NH−およびS−CH2CH2N(C1-3アルキル)2、O−、NH−およびS−CH2CH2CH2N(C1-3アルキル)2、CHOまたはC1-3アルキルのうちの1つである。
【0056】
上記構造式(II)におけるR8は、HまたはC1-8アルキル(好ましくはC2アルキル)、またはCH2NR910でありうるが、ここで、
(a)R9およびR10は、独立して、水素、C1-6アルキル、C3-7シクロアルキル、C3-7シクロアルキル−C1-6アルキル、C2-6アルケニル、ヒドロキシ−C1-6アルキル、C1-6アルコキシ−C1-6アルキルであり、あるいは、
(b)R9は、水素、C1-6アルキル、C3-7シクロアルキル、C3-7シクロアルキル−C1-6アルキル、C2-6アルケニル、ヒドロキシ−C1-6アルキル、C1-6アルコキシ−C1-6アルキルであってよく、R10は、COR11であって、ここで、R11は水素、C1-6アルキル、ペルハロ−C1-6アルキル、C3-7シクロアルキル、C3-7シクロアルキル−C1-6アルキル、C2-6アルケニル、ヒドロキシ−C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C1-6アルコキシ−C1-6アルキルであり、あるいは、
(c)R9およびR10は、それらに付加する窒素原子と共に、O、SまたはNR12基を含みうる飽和3〜7員の複素環を形成し、ここでR12は水素、C1-6アルキル、ペルハロ−C1-6アルキル、アリール、ならびに、C1-6アルキル、ハロゲン、ニトロ、アミノ、C1-6アルキルアミノ、ペルハロ−C1-6アルキル、ヒドロキシ−C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C1-6アルコキシ−C1-6アルキルおよび−COR13からなる群より選択される1つ以上の基で置換されたアリールであって、ここでR13は水素、C1-6アルキル、ペルハロ−C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、アリール、ならびに、C1-6アルキル、ペルハロ−C1-6アルキル、ヒドロキシ−C1-6アルキル、またはC1-6アルコキシ−C1-6アルキル基のうち1つ以上で置換されたアリールであり、
110−R111は、それぞれ、水素;ハロ;アシル;アルキル(たとえばC1-6アルキル);置換アルキル;アルコキシ(たとえばC1-6アルコキシ);置換アルコキシ;アルケニル;アルキニル;シクロアルキル;ヒドロキシル;シアノ;ニトロ;アジド;アミド;ヒドラジン;アミノ;置換アミノ(たとえばモノアルキルアミノおよびジアルキルアミノ);ヒドロキシカルボニル;アルコキシカルボニル;アルキルカルボニルオキシ;アルキルカルボニルアミノ;カルバモイルオキシ;アリールスルホニルオキシ;アルキルスルホニルオキシ;−C(R117)=N−(O)j−R118であって、ここでR117はH、アルキル、アルケニル, シクロアルキル、またはアリールであり、jは0または1であり、R118はH、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、または複素環である;R119C(O)O−であって、ここでR119はハロゲン、アミノ、置換アミノ、複素環、置換複素環、またはR120−O−(CH2)k−であって、ここでkは1〜10の整数であり、R120はアルキル、フェニル、置換フェニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、複素環、または置換複素環である;の中から独立して選択され、あるいは、
7がR110と共に、またはR110がR111と共に、置換または非置換のメチレンジオキシ、エチレンジオキシ、またはエチレンオキシを形成し、
112はHまたはOR'であり、ここでR'はアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ハロアルキル、またはヒドロキシアルキルである。
【0057】
アリール基はフェニルおよびナフチルでありうる。R9およびR10が、それらに付加する窒素原子と共に形成する場合の適切な複素環としては、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、イソオキサゾリジン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、テトラヒドロアゼピン、N−メチル−テトラヒドロアゼピン、チアゾリジンなどが挙げられる。
【0058】
本発明の別の態様では、本発明の治療は、本明細書に記載される化合物を有効量で、トポイソメラーゼI介在性の抵抗性または難治性の現象を示す抵抗性または難治性の癌を有する哺乳動物に投与する工程を有してなる。
【0059】
さらに別の態様では、本発明は、放射線療法単独、または第2の化学療法と組み合わせた放射線療法に関連する、抵抗性または難治性の癌を治療する方法を提供する。放射線療法の標準プロトコルは当技術分野でよく知られており、したがって、本明細書に記載される化合物を使用する併用療法は、過度の実験をすることなく行なうことができる。
【0060】
さらに別の態様では、本発明の治療は、有効量の本明細書に記載される化合物を、単独で、または第2の化学療法薬と組み合わせて、同時にまたは連続して投与する工程を有してなる。7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのマルチアーム・ポリマープロドラッグは、化学療法薬と同時に、または化学療法薬の投与後に投与することができる。したがって、本発明に用いられる化合物は、第2の化学療法薬の治療の間、または治療後に投与することができる。
【0061】
たとえば、第2の化学療法薬の非限定的なリストには、
(i)DNAトポイソメラーゼ阻害薬:アドリアマイシン、アムサクリン、カンプトテシン、CPT−11、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エニポシド、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、またはミトキサントロン;
(ii)微小管阻害薬:パクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ビンプラスチン、ノコダゾール、エポチロンおよびナベルビンを含む、タキサンなど;
(iii)DNA傷害剤:アクチノマイシン、アムサクリン、アントラサイクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シトキサン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、ヘキサメチルメラミンオキサリプラチン(hexamethylmelamineoxaliplatin)、イホスファミド(iphosphamide)、メルファラン、メルクロエタミン(merchlorehtamine)、マイトマイシン、ミトキサントロン、ニトロソウレア、プリカマイシン、プロカルバジン、タキソール、タキソレール、テニポシド、トリエチレンチオホスフォラミドまたはエトポシド(VP16);
(iv)代謝拮抗物質:葉酸拮抗薬;
(v)ヌクレオシド類似体: 5−フルオロウラシル;シトシンアラビノシド、アザシチジン、6−メルカプトプリン、アザチオプリン; 5−ヨード−2'−デオキシウリジン;6−チオグアニン、2−デオキシコホルマイシン、クラドリビン、シタラビン、フルダラビン、メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン、AZT(ジドブジン)、ACV、バラシクロビル、ファムシクロビル、アシクロビル、シドフォビル、ペンシクロビル、ガンシクロビル、リバビリン、ddC、ddI(ザルシタビン)、ラムビジン(lamuvidine)、アバカビル、アデフォビル、ディダノシン、d4T(スタブジン)、3TC、BW1592、PMEA/ビス−POM PMEA、ddT、HPMPC、HPMPG、HPMPA、PMEA、PMEG、dOTC;DAPD、Ara−AC、ペントスタチン、ジヒドロ−5−アザシチジン、チアゾフリン、サンギバマイシン、Ara−A(ビダラビン)、6−MMPR、5−FUDR(フロクスウリジン)、シタラビン(Ara−C;シトシンアラビノシド)、5−アザシチジン(アザシチジン)、HBG[9−(4−ヒドロキシブチル)グアニン]、(1S,4R)−4−[2−アミノ−6−シクロプロピル−アミノ)−9H−プリン−9−イル]−2−シクロペンテン−1−m−エタノールスクシナート(「159U89」)、ウリジン、チミジン、イドクスウリジン、3−デアザウリジン、シクロシチジン、ジヒドロ−5−アザシチジン、トリシリビン、リバビリン、フルダラビン、アシクロビル、1−β−D−アラビノフラノシル−E−5−(2−ブロモビニル)ウラシル、2'−フルオロ炭素環−2'−デオキシグアノシン; 6'−フルオロ炭素環−2'−デオキシグアノシン;1−(β−D−アラビノフラノシル)−5(E)−(2−ヨードビニル)ウラシル;{(1r−1α,2β,3α)−2−アミノ−9−(2,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロブチル)−6H−プリン−6−オン}ロブカビル、9H−プリン−2−アミン、9−((2−(1−メチルエトキシ)−1−((1−メチルエトキシ)−メチル)エトキシ)メチル)−(9Cl);トリフルオロチミジン、 9→(1,3−ジヒドロキシ−2−プロポキシ)−メチルグアニン(ガンシクロビル)、5−エチル−2'−デオキシウリジン;E−5−(2−ブロモビニル)−2'−デオキシウリジン;5−(2−クロロエチル)−2'−デオキシウリジン、ブシクロビル、6−デオキシアシクロビル;9−(4−ヒドロキシ−3−ヒドロキシメチルブト−1−イル)グアニン、E−5−(2−ヨードビニル)−2'−デオキシウリジン、5−ビニル−1−β−D−アラビノフラノシルウラシル、1−β−D−アラビノフラノシルチミン;2'−ノル−2'デオキシグアノシン;および1− β−D−アラビノフラノシルアデニン、
が含まれる。
【0062】
他の抗癌剤候補は、アルトレタミン、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナストロゾール、アスパラギナーゼ、bcg、ビカルタミド、ブレオマイシン、ブセレリン、ブスルファン、ホリン酸カルシウム、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロドロネート、コルヒチン、クリサンタスパーゼ(crisantaspase)、シクロホスファミド、シプロテロン、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエネストロール、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラジオール、エストラムスチン、エトポシド、エキセメスタン、フィルグラスチム、フルダラビン、フルドロコルチゾン、フルオロウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲムシタビン、ゲニステイン、ゴセレリン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、インターフェロン、イリノテカン、イロノテカン、レトロゾール、ロイコボリン、ロイプロリド、レバミゾール、ロムスチン、メクロレサミン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、ニルタミド、ノコダゾール、オクトレオチド、オキサリプラチン、パクリタキセル、パミドロネート、ペントスタチン、プリカマイシン、ポルフィマー、プロカルバジン、ラルチトレクスト、リツキシマブ、ストレプトゾシン、スラミン、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、テストステロン、チオグアニン、チオテパ、チタノセンジクロリド、トポテカン、トラスツズマブ、トレチノイン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンおよびビノレルビンから選択される。他の多くの抗癌剤は、参照することによりその内容を本明細書に援用する、米国特許出願公開第2006/0135468号明細書に記載されている。当業者に認識されるように、第2の化学療法薬を送達するための量およびプロトコルは、治療される病状、認識される許容量、および第2の化学療法薬の用量に応じて大幅に変化しうる。このような第2の薬剤の用量の範囲は、実施の成功のためには、当業者による過度の実験を必要としない。
【0063】
本発明の特定の実施の形態では、抵抗性または難治性の癌の治療には、下記の中の化合物が使用される:
【化8−1】

【化8−2】

【0064】
特に好ましい化合物の1つは、
【化9】

【0065】
であり、
ここで、ポリマーの4つのアームのすべてが、グリシンを介して7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンと複合化しており、nは約28〜約341であり、約114〜約227が好ましく、約227がさらに好ましい。本発明の1つの好ましい実施の形態(化合物9)は、約40,000の分子量、および、下記構造式を有する:
【化10】

【0066】
理論に縛られることはないが、CPT−11難治性腫瘍の治療における本明細書に記載される方法の予想外の効果は、少なくともある程度、本明細書に記載されるポリマー化合物の好ましい薬物動態および体内動態(biodistribution)特性に起因すると考えられる。 本明細書に記載される化合物の予想外の効果はまた、一部には、インビボにおける薬物の新規の作用機序にも基づいているであろう。もう1つのTOP1阻害剤であるトポテカンは、低酸素誘導性因子(HIF)−1αを阻害し、血管系性の著しい低下および顕著な腫瘍増殖阻害をもたらすことが報告されている。この観察と一致して、本発明の治療は細胞におけるHIF−1αの減少を誘発し、それによって、CPT−11難治性(または感受性)腫瘍におけるEPR効果に起因して、本明細書に記載される化合物を蓄積させると考えられる。しかしながら、CPT−11は、CPT−11難治性腫瘍におけるHIF−1αの減少の誘発を損ない、さらなる血管形成を生じさせると考えられる。この態様では、増強されたEPR効果に起因して、血管の多い腫瘍の治療は本明細書に記載される本発明にかかる化合物の蓄積の利益を受けることができる。
【0067】
TOP1の低い濃度は組織培養におけるCPT−11抵抗性と関係していることから、CPT−11抵抗性腫瘍はTOP1濃度が低いであろうことも報告されている。本明細書に記載される療法に従った7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのポリマーエステル誘導体は、インビボの細胞に対して、CPT−11よりも7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンの曝露を多くもたらしうる。薬物濃度は、低濃度のTOP1でも細胞を死滅させるのに十分でありうる。あるいは、さまざまな濃度のカルボキシルエステラーゼはCPT−11抵抗性をもたらす別の要因となることがあり、この酵素は本明細書に記載される7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン複合体のポリマーエステル誘導体から7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンが放出されることを必要としない。
【0068】
B.7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのマルチアームポリマー複合体
1. マルチアーム ポリマー
7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのポリマープロドラッグには、二官能性リンカーを介して7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンの20−OH基に結合する4−アームPEGが含まれる。本発明の1つの態様では、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのポリマープロドラッグには、下記構造式:
【化11】

【0069】
を有する、複合化する前の4−アームPEGが含まれ、
ここで、nは正の整数である。
【0070】
ポリマーは、参照することによりその開示が本明細書に取り込まれる、日油株式会社の薬物送達システムカタログ第8版、2006年4月に記載されるものである。
【0071】
本発明の1つの好ましい実施の形態では、ポリマーの重合度(n)は、約28〜約341であり、それによって約5,000〜約60,000の総分子量を有するポリマーを提供し、好ましくは重合度が約114〜約227であって、それにより20,000〜40,000の総分子量を有するポリマーを提供する。(n)はポリマー鎖の繰り返し単位の数を表し、ポリマーの分子量に応じて決まる。1つの特に好ましい実施の形態では、nは約227であって、約40,000の総分子量を有するポリマー部分を提供する。
【0072】
2.二官能性リンカー
本発明の特定の態様では、Lは、アミノ酸残基である。アミノ酸は、任意の既知の天然L−アミノ酸から選択されて差し支えなく、例えば、ほんの数例として、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、プロリン、および/またはそれらの組合せが挙げられる。別の態様では、Lはペプチド残基でありうる。ペプチドは、その大きさが、例えば約2〜約10の範囲のアミノ酸残基でありうる。
【0073】
天然アミノ酸の誘導体および類似体、並びに、疎水性または非疎水性の、さまざまな技術的に知られた非天然アミノ酸(D型またはL型)も、本発明の範囲内にあることが意図されている。単に例を挙げれば、アミノ酸類似体および誘導体としては、2−アミノアジピン酸、3−アミノアジピン酸、β−アラニン、β−アミノプロピオン酸、2−アミノ酪酸、4−アミノ酪酸、ピペリジン酸、6−アミノカプロン酸、2−アミノヘプタン酸、2−アミノイソ酪酸、3−アミノイソ酪酸、2−アミノピメリン酸、2,4−アミノ酪酸、デスモシン、2,2−ジアミノピメリン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、n−エチルグリシン、N−エチルアスパラギン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロイソロイシン、N−メチルグリシンまたはサルコシン、N−メチル−イソロイシン、6−N−メチルリジン、N−メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシン、オルニチンなど枚挙にいとまがなく、これらは参照することにより本明細書に取り込まれる、米国連邦規則63 Fed.Reg.,29620,29622に記載されている。一部の好ましいL基としては、グリシン、アラニン、メチオニン、またはサルコシン残基が挙げられる。例えば、化合物は下記のものでありうる:
【化12】

【0074】
説明を簡略化するためであって限定はしないが、4−アームPEGの1つのアームを示す。4−アームPEGの1つから最大4つのアームが7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンと複合化することができる。
【0075】
本発明の化合物は、リンカー基(L)としてのグリシン残基を含むことがさらに好ましい。
【0076】
あるいは、カンプトテシン類似体とポリマーとの間に付加した後のLは、下記の中から選択され:
【化13−1】

【化13−2】

【化13−3】

【0077】
ここで、
21−R29は、独立して、水素、アミノ、置換アミノ、アジド、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシル、ニトロ、シリルエーテル、スルホニル、メルカプト、C1-6アルキルメルカプト、アリールメルカプト, 置換アリールメルカプト, 置換C1-6アルキルチオ、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-19分岐鎖アルキル、C3-8 シクロアルキル、C1-6置換アルキル、C2-6 置換アルケニル、C2-6置換アルキニル、C3-8置換シクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、C1-6ヘテロアルキル、置換C1-6ヘテロアルキル、C1-6アルコキシ、アリールオキシ、C1-6ヘテロアルコキシ、ヘテロアリールオキシ、C2-6アルカノイル、アリールカルボニル、C2-6アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、C2-6アルカノイルオキシ、アリールカルボニルオキシ、C2-6置換アルカノイル、置換アリールカルボニル、C2-6置換アルカノイルオキシ、置換アリールオキシカルボニル、C2-6置換アルカノイルオキシ、および置換アリールカルボニルオキシから選択され、
(t)、(t’) および(y)は、独立して、ゼロまたは正の整数から選択され、約1〜約10が好ましく、
(v)は0または1である。
【0078】
一部の好ましい実施の形態では、Lは下記のものを含みうる:
【化14−1】

【化14−2】

【化14−3】

【0079】
ここで(t)、(t’) および(y)は、独立して、ゼロまたは正の整数から選択され、約1〜約10が好ましく、
(v)は0または1である。
【0080】
本発明の一部の態様では、化合物は、1〜約10単位の二官能性リンカーを含む。本発明の一部の好ましい態様では、化合物は、1単位、すなわちmが1の二官能性リンカーを含む。
【0081】
さらなるリンカーは、ここに参照することによりその内容が取り込まれる、Greenwaldら(Bioorganic & Medicinal Chemistry, 1998, 6:551-562)の表1に記載されている。
【0082】
C.プロドラッグの合成
一般に、本明細書に記載されるポリマー性の7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのプロドラッグは、アミノ基とポリマーのカルボン酸基との反応を有効に生じさせ、結合を形成するのに十分な条件下で、1当量以上の活性化マルチアームポリマーを、活性部位当たり1当量以上のアミノ酸−(20)−7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン化合物と反応させることにより調製される。合成の詳細は、参照することにより本明細書にその内容全体が援用される、「乳癌、結腸直腸癌、膵臓癌、卵巣癌および肺がんの治療のための7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのマルチアームポリマー複合体(Multiarm Polymeric Conjugates of 7-ethyl-10-hydroxycamptothecin For Treatment of Breast, Colorectal, Pancreatic, Ovarian and Lung Cancers)」という発明の名称の米国特許出願第11/704,607号明細書に記載されている。その合成方法にしたがって作られた化合物のHPLC分析は、平均して、4つの7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン分子が1つの4−アームPEG分子と複合体化していることを示した(4重量%)。
【0083】
D.組成物/製剤
本発明のポリマー複合体を含む医薬組成物は、例えば、さまざまな周知の混合、溶解、粒状化、粉末化、乳化、カプセル化、封入化、または凍結乾燥化の方法を使用する、当技術分野で周知の方法によって製造されうる。組成物は、活性化合物を薬学的に使用することのできる調剤に加工することを容易にする賦形剤および助剤を含む、1種類以上の生理学的に許容される担体と併せて製剤化されうる。適切な製剤は、選択される投与経路に応じて決まる。本発明の多くの態様では、非経口の経路が好ましい。
【0084】
限定はしないが、静脈、筋肉内、および皮下注射を含む注入では、本発明の化合物は水溶液、好ましくは、緩衝生理食塩水などの生理的に適合する緩衝液、または、限定はしないがピロリドンまたはジメチルスルホキシドを含む極性溶媒で製剤されうる。
【0085】
化合物は、例えばボーラス注入または持続注入などによって、非経口投与用に製剤されることが好ましい。注入用の製剤は、例えばアンプルまたは複数回用量の容器などの単位投薬形態で存在しうる。有用な組成物としては、限定はしないが、油性または水性媒体中の懸濁液、溶液または乳液が挙げられ、懸濁剤、安定剤、および/または分散剤などの添加剤を含めてもよい。非経口投与用の医薬組成物としては、限定はしないが、活性化合物の塩など、水溶性の形態の水溶液が挙げられる。さらには、活性化合物の懸濁液は、脂肪親和性の媒体中で調製されうる。適切な脂肪親和性の媒体としては、ゴマ油などの脂肪油、オレイン酸エチルおよびトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームなどの物質が挙げられる。水性の注入用懸濁液には、カルボキシルメチル・セルロース・ナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなど、懸濁液の粘性を高める物質を含めてもよい。随意的に、懸濁液には、化合物の溶解性を増大させて高濃度の溶液の調製を可能にする適切な安定剤および/または薬剤を含めてもよい。あるいは、活性成分は、使用前に、例えば殺菌された、発熱物質を含まない水などの適切な媒体で構成するための粉末の形態であって差し支えない。
【0086】
経口投与用途では、化合物は、活性化合物を、当技術分野で周知の薬学的に許容される担体と組み合わせて製剤することができる。このような担体は、本発明の化合物を、患者が経口摂取するための錠剤、丸薬、トローチ剤、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、ペースト、スラリー、溶液、懸濁液、患者の飲用水で希釈するための濃縮溶液および懸濁液、患者の食餌で希釈するためのプレミックスなどに製剤することを可能にする。経口用の医薬品は、固体の賦形剤を用いて、随意的に得られた混合物を粉砕し、混合物を顆粒に加工し、必要に応じて他の適切な助剤を加えた後、錠剤または糖衣錠のコアを得ることにより作ることができる。有用な賦形剤は、特に、乳糖、ショ糖、マンニトール、またはソルビトールを含む糖類、例えばトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、およびジャガイモデンプンなどのセルロース調製物、並びにゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピル・メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの他の材料のような充填剤である。必要に応じて、架橋結合したポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸などの崩壊剤を加えてもよい。アルギン酸ナトリウムなどの塩も使用して差し支えない。
【0087】
吸入による投与では、本発明の化合物は、通常、加圧パックまたは噴霧器、および適切な推進剤を使用して、エアゾール・スプレーの形態で送達することができる。
【0088】
化合物は、例えば、カカオバターまたは他のグリセリドなどの通常の坐剤用基剤を使用して、坐剤または保持浣腸剤(retention enemas)などの直腸用組成物に製剤化してもよい。
【0089】
前述の製剤に加えて、化合物は、持続性製剤として製剤化されうる。これらの長時間作用型の製剤は、移植(例えば、皮下または筋肉内)によって、または筋肉注射によって、投与されて差し支えない。本発明の化合物は、適切なポリマーまたは疎水性材料を用いて(例えば、薬理学的に許容できる油を用いたエマルションの形態で)、イオン交換樹脂を用いて、または限定はしないが、やや溶けにくい塩など、やや溶けにくい誘導体として、この投薬経路用に製剤化されうる。
【0090】
さらには、本化合物は、治療薬を含む固体の疎水性ポリマーの半透性マトリクスなどの持続放出系を用いて送達されてもよい。さまざまな持続放出性の材料が確立されており、当業者によく知られている。持続放出性のカプセルは、その化学的性質に応じて、数週間から最大で100日を越える期間にわたり、化合物を放出しうる。特定の化合物の化学的性質および生物学的安定性に応じて、追加の安定化方策を用いてもよい。
【0091】
リポソームおよびエマルションなど、他の送達システムも使用することができる。
【0092】
E.用量
治療に有効な量とは、カンプトテシンまたは例えばCPT−11のような関連類似体などの抗癌剤に対して抵抗性または難治性の現象を予防、軽減、または改善するのに効果的な化合物量のことをいう。治療に有効な量の決定は、特に本明細書の開示を考慮すれば、十分に当業者の能力の範囲内にある。
【0093】
本発明の方法に使用する任意の化合物では、治療に有効な量は、初めに、インビトロでのアッセイから推定することができる。次いで、用量は、効果的な用量を含む血中濃度範囲を実現するため、動物モデル用に製剤化されうる。次に、これらの情報を、患者に有用な用量をさらに正確に決定するのに使用することができる。
【0094】
例えばプロドラッグとして用いるなど、投与される組成物の量は、該組成物に含まれる親分子に応じて決まる。一般には、本治療方法に用いられるプロドラッグの量は、哺乳動物において所望の治療結果を有効に達成する量である。当然ながら、さまざまなプロドラッグ化合物の用量は、親化合物、インビボにおける加水分解速度、ポリマーの分子量などに応じて多少変化しうる。加えて、用量は、当然、投薬形態および投与経路に応じて変化しうる。
【0095】
しかしながら、一般には、本明細書に記載される7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのポリマーエステル誘導体は、全身送達のためには、約0.1〜約30mg/kg/回の範囲の量で投与することができ、約0.2〜約10mg/kg/回が好ましく、約0.6〜約6mg/kg/回がさらに好ましい。
【0096】
上記範囲は実例であって、当業者は臨床経験および治療適応に基づいて選択されるプロドラッグの最適用量を決定するであろう。さらには、的確な剤形、投与経路、および用量は、患者の病状を考慮して、個々の内科医が選択することができる。加えて、本明細書に記載される化合物の毒性および治療効果は、当技術分野で周知の方法を使用して、細胞培養または実験動物において標準的な薬学的手順によって決定することができる。
【0097】
1つの実施の形態では、本発明に係る治療には、本明細書に記載される化合物を、約0.3〜約6mg/kg/回の量で、CPTおよびCPT−11を用いた治療などに対して抵抗性または難治性の癌を有する哺乳動物に投与することを含む。
【0098】
あるいは、好ましくは、投与される化合物の量は人または他の哺乳動物の体表面積に基づきうる。したがって、本明細書の治療は、本明細書に記載される化合物を、約0.1〜約45mg/m2体表面/回の量で投与することを含む。本明細書に記載される化合物の量は、約0.2〜約25mg/m2体表面/回の範囲であることが好ましい。一部の好ましい用量は、次のうちの1つを含む:1.25、2.0、2.5、3.3、5、10、および16.5mg/m2/回。投与される量は、約1.25〜約16.5mg/m2体表面/回の範囲であることが好ましい。あるいは、約2.5〜約13mg/m2体表面/回、または約2〜約5mg/m2体表面/回であって構わない。
【0099】
治療プロトコルは、3週間ごとに1回投与される単回投与に基づいてもよく、あるいは、複数週の治療プロトコルの一環として与えられる複数回投与に分けてもよい。よって治療計画は、各治療サイクルで3週間ごとに1回の投与を含むか、あるいは、各サイクルで3週間にわたり毎週1回の投与とその後の1週間の休息期間を含みうる。
【0100】
正確な用量は当業者に認識されるように、治療される患者の病状の段階および重症度、および個々の特性に応じて決まるであろう。治療は、満足する結果が観察されるまで継続されることも意図されており、この結果には約3〜約6サイクルまたはそれ以上のサイクルが必要とされるであろうが、1サイクルの後すぐに満足する結果が得られてもよい。
【0101】
一部の好ましい実施の形態では、治療プロトコルは、3週間ごとに約1.25〜約16.5mg/m2体表面/回の範囲の量を、約3サイクル以上繰り返し、投与することを含む。各サイクル当たりの投与量は、約2.5〜約16.5mg/m2体表面/回であることがさらに好ましい。あるいは、本明細書に記載される化合物は、3週間にわたり毎週投与の後1週間治療せずにおき、これを所望の結果が観察されるまで約3サイクル以上繰り返すことができる。
【0102】
1つの特定の実施の形態では、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのポリマーエステル誘導体は、結腸癌の治療において、3週間ごとに10mg/m2などの1回用量を投与することができる。治療サイクルの用量は、2つ以上の治療サイクルを適用する場合、用量漸増法として設計することができる。ポリマー性の薬物は、静脈内注射を通じて投与することが好ましい。
【0103】
ポリマー複合体が投与される本発明のすべての態様では、記載された用量は、投与されるポリマー複合体の量ではなく、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンの量に基づいている。治療は、所望の結果がもたらされるまで、1回以上のサイクルの間、与えられるであろう。本発明の化合物の的確な量、頻度および投与期間は、当然、性別、年齢、および患者の病状、ならびに主治医によって決定される疾病の重症度に応じて変化するであろう。
【0104】
さらなる態様は、本明細書に記載される治療を、相乗的利益または付加的利益を目的として、他の抗癌治療と併用することを含む。1つの特定の実施の形態では、本明細書に記載される化合物は、エルビタックス(Erbitux(登録商標))と組み合わせて投与することができる。本明細書に記載される化合物に400mg/m2の「エルビタックス」を加えたものを、初期投与量として投与し、その後、疾患が進行するまで、毎週250mg/m2を投与してもよい。「エルビタックス」の投薬情報の詳細は、その内容が本明細書に取り込まれる、添付文書に記載されている。
【実施例】
【0105】
以下の実施例は、本発明をさらに認識するために提供されるものであって、多少なりとも、本発明の効力範囲を制限することを意味するものではない。
【0106】
実施例1:CPT−11に対して難治性のヒト結腸直腸腫瘍を異種移植したマウスにおける4−アームPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)の治療効果
ヌードマウスにおける難治性ヒトHT−29結腸直腸腫瘍の増殖に対する4−アーム PEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)の治療効果を決定した。右脇腹に1×106細胞/マウスを皮下注射することによってヌードマウスにヒトHT−29結腸直腸腫瘍を定着させた。腫瘍が100mm3の平均体積に達したときに、マウスをCPT−11で処置した(40mg/kg/回;q2d×4)。マウスの腫瘍増殖をモニターした。15日目にCPT−11を用いた療法に反応しない腫瘍を有するマウス(腫瘍体積≧3×CPT−11療法開始時の初期腫瘍体積)を、CPT−11難治性とみなした。これらのマウスを選択し、無作為化して2群に分けた。1つの群はMTD(最大耐量)のCPT−11(40mg/kg/回;q2d×5)での治療、もう一方の群はMTDの4−アーム40KPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)(化合物9)(10mg/kg/回、q2d×5)での治療を16日目に開始した。薬物は尾静脈から静脈投与された。
【0107】
結果を図1に示す。さらにCPT−11で処置したCPT−11難治性マウスでは、腫瘍は増殖し続けた。42日目には、腫瘍体積は15日目と比較して255%増加した。4−アーム40KPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)(化合物9)で処置したマウスでは、腫瘍体積は42日目には15日目と比較して25%減少した。CPT−11で処置した29%および100%の動物が、それぞれ42日目および54日目に、過剰の全身腫瘍組織量(>1,650mm3)に起因して致死した。4−アーム40KPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)で処置された群では、63日目に7匹のうちわずかに1匹のみが致死した。 4−アーム40KPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)で処置されたマウスの58%が、72日目には<1,650mm3の腫瘍を有していた。この結果は、4−アーム40KPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)が、CPT−11難治性の癌の処置において治療効果を有することを示すものである。図1のデータは平均±標準偏差(n=7)を表している。
【0108】
理論に縛られはしないが、本明細書に記載される化合物を使用する療法は、予想外に、CPT−11に関連する抵抗性を無効にする。本明細書に記載される療法は、潜在的薬物抵抗性を回避し、低減することにより、さらに効果的に癌を治療する方法を提供する。患者および臨床医学者は、癌治療におけるCPT−11系の療法と比較して、本明細書に記載される化合物に対する抵抗性が予想外に欠如していることによる恩恵を受けうる。
【0109】
実施例2:CPT−11に対して難治性のヒト結腸直腸腫瘍を異種移植したマウスの2回目の処置における4−アームPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)の治療効果
右脇腹に1×106細胞/マウスを皮下注射することによってヌードマウスにヒトHT−29結腸直腸腫瘍を定着させた。腫瘍が100mm3の平均体積に達したときに、マウスをCPT−11で処置した(40mg/kg/回;q2d×4)。マウスの腫瘍増殖をモニターした。15日目にCPT−11療法に反応するマウス(腫瘍体積<3×CPT−11療法開始時の初期腫瘍体積を有するマウス、すなわち、CPT感受性とみなされたマウス)を選択し、無作為化して2群に分けた。1つの群はMTD(最大耐量)のCPT−11(40mg/kg/回;q2d×5)でのさらなる処置、もう一方の群はMTDの4−アーム40KPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)(10mg/kg/回、q2d×5)での処置を、16日目に開始した。薬物は尾静脈から静脈投与された。
【0110】
結果を図2に示す。54日目には、CPT−11で処置したマウスでは、腫瘍体積は1日目と比較して1298%増加した。4−アーム40KPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)で処置したマウスでは、腫瘍体積は緩やかに193%増加した。さらには、CPT−11で処置した群では、61日目現在、60%の動物が過剰の全身腫瘍組織量のために致死した。4−アーム40KPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)(化合物9)で処置された群では、61日目において、致死したものはなかった。この結果は、4−アーム40KPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)が、CPT−11の治療活性よりも優れており、CPT−11難治性の癌の処置における2回目以降の回においてきわめて効果的であることを示すものである。図2のデータは平均±標準偏差(n=10)を表している。
【0111】
実施例3.CPT難治性細胞系における4−アームPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン) のインビトロにおける細胞毒性
CPT−11難治性細胞系(CEM/C2)および対応する非難治性の親細胞系をPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン、およびCPT−11で処置した。CEM/C2およびCEMは、NCIから入手した。CEM細胞系は、急性リンパ芽球性白血病細胞系である。各薬物のインビトロ細胞毒性について、MTSアッセイを使用して測定した。簡潔に説明すると、細胞を96ウェルプレートに設置し(8×104/ウェル)、次に 37℃で2日間、4−アーム40KPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)(化合物9)、CPTまたは遊離型の7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンを、連続希釈法で処置した。培養の終わりにMTS染料を加え、37℃で2〜3時間インキュベートし、 着色した生成物(ホルマザン)の形成を490nmで測定した。各薬物濃度における%生存能力を、[OD試験サンプル−バックグラウンド]/[OD対照(未処置)−バックグラウンド]として算出した。GraphPad Prismソフトウェアを使用して算出した%生存能力(生存率)およびIC50値を関数として、対数プロット(薬物)によってシグモイド型の用量反応曲線を得た。
【0112】
結果を図3および4に記載する。細胞毒性(IC50となる各化合物のμM)は、各化合物のインビトロにおける抗腫瘍有効性を示す。この研究は、CPT−難治性の癌における4−アームPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)の治療効果を決定するのに用いられた。4−アームPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)は、図3に示すようなCPTに対して難治性の急性リンパ芽球性白血病細胞系において、CPT−11よりも約10倍有効であった。さらには、4−アームPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)、CPT−11および7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンのすべてが、図4に示すような親細胞系(CEM)において同様の有効性を示した。この結果は、4−アームPEG−Gly−(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)がCPTなどのトポイソメラーゼI阻害剤に対して抵抗性の癌の治療に有効であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における抵抗性または難治性の癌の治療方法であって、
式(I)の化合物:
【化1】

またはそれらの薬学的に許容される塩を、有効量で、哺乳動物に投与する工程を有してなり、
ここで、
1、R2、R3およびR4は、独立して、OHまたは
【化2】

であり、
ここで、
Lは二官能性のリンカーであり、
mは0または正の整数であり、
nは正の整数であり、
1、R2、R3およびR4 のすべてがOHではないことを条件とする、
方法。
【請求項2】
前記抵抗性または難治性の癌が、充実性腫瘍、リンパ腫、肺癌、小細胞肺癌、急性リンパ性白血病(ALL)、乳癌、結腸直腸癌、膵臓癌、膠芽細胞腫、卵巣癌および胃癌からなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記抵抗性または難治性の癌が結腸直腸癌であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記抵抗性または難治性の癌が充実性腫瘍を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記抵抗性または難治性の癌が転移性癌を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記癌がカンプトテシンまたはカンプトテシン類似体を用いた治療に対して抵抗性または難治性であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記癌がCPT−11を用いた治療に対して抵抗性または難治性であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記癌がカンプトテシンを用いた治療に対して抵抗性または難治性であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
Lがアミノ酸またはアミノ酸誘導体の残基であり、前記アミノ酸誘導体が、2−アミノアジピン酸、3−アミノアジピン酸、β−アラニン、β−アミノプロピオン酸、2−アミノ酪酸、4−アミノ酪酸、ピペリジン酸、6−アミノカプロン酸、2−アミノヘプタン酸、2−アミノイソ酪酸、3−アミノイソ酪酸、2−アミノピメリン酸、2,4−アミノ酪酸、デスモシン、2,2−ジアミノピメリン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、n−エチルグリシン、N−エチルアスパラギン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロイソロイシン、N−メチルグリシン、サルコシン、N−メチル−イソロイシン、6−N−メチルリジン、N−メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシン、およびオルニチンからなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
Lが、グリシン、アラニン、メチオニン、またはサルコシン残基であることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
Lがグリシン残基であることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項12】
Lが下記からなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の方法であって、
【化3−1】

【化3−2】

【化3−3】

ここで、
21−R29は、独立して、水素、アミノ、置換アミノ、アジド、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシル、ニトロ、シリルエーテル、スルホニル、メルカプト、C1-6アルキルメルカプト、アリールメルカプト、置換アリールメルカプト、置換C1-6アルキルチオ、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-19分岐鎖アルキル、C3-8シクロアルキル、C1-6置換アルキル、C2-6 置換アルケニル、C2-6置換アルキニル、C3-8置換シクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、C1-6ヘテロアルキル、置換C1-6ヘテロアルキル、C1-6アルコキシ、アリールオキシ、C1-6ヘテロアルコキシ、ヘテロアリールオキシ、C2-6アルカノイル、アリールカルボニル、C2-6アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、C2-6アルカノイルオキシ、アリールカルボニルオキシ、C2-6置換アルカノイル、置換アリールカルボニル、C2-6置換アルカノイルオキシ、置換アリールオキシカルボニル、C2-6置換アルカノイルオキシ、および置換アリールカルボニルオキシから選択され、
(t)、(t’) および(y)は、独立して、ゼロまたは正の整数から選択され、
(v)は0または1である、
方法。
【請求項13】
mが約1〜約10であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項14】
mが約1であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項15】
nが約28〜約341であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項16】
nが約114〜約227であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項17】
nが約227であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記式(I)の化合物が医薬組成物の一部であり、かつ、該医薬組成物に含まれる前記式(I)の化合物が約3.9単位の:
【化4】

を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記式(I)の化合物が、下記からなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の方法:
【化5−1】

【化5−2】

【請求項20】
前記式(I)の化合物が、下記:
【化6】

であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記化合物が、約0.1〜約45mg/m2/回の量で投与されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記化合物が、約1.25〜約16.5mg/m2/回の量で投与されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記化合物が、第2の化学療法剤と組み合わせて、同時にまたは連続して投与されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項24】
哺乳動物における抵抗性または難治性の癌を治療する方法であって、下記化合物:
【化7】

を、約1.25〜約16.5mg/m2/回の有効量で、前記哺乳動物に投与する工程を有してなり、
ここで、nは約28〜約341である、
方法。
【請求項25】
前記癌が、カンプトテシンまたはCPT−11に対して抵抗性または難治性であり、nが約227であることを特徴とする請求項24記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−518120(P2010−518120A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549259(P2009−549259)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/053438
【国際公開番号】WO2008/098178
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(505354899)エンゾン ファーマスーティカルズ インコーポレイテッド (28)
【氏名又は名称原語表記】ENZON PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】