説明

9−ヒドロキシエリプチシン誘導体による悪性表現型の復帰変異

本発明は、癌を治療するための9−ヒドロキシエリプチシン誘導体の使用に関する。9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、転移癌又は従来の細胞毒性を有する化学療法を回避した癌の治療に特に有用であることが分かる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年8月21日に出願された米国仮出願第60/838,860号に対する利益を主張するものとし、その開示は、本明細書に十分に記載されるとすれば、参照により全体として本明細書中に援用される。
【0002】
本発明は、癌を治療するための9−ヒドロキシエリプチシン誘導体の使用に関する。これらの9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、転移癌又は従来の細胞毒素を有する化学療法を回避した癌に治療に特に有用であることが分かる。
【背景技術】
【0003】
癌でない細胞では、細胞外マトリックス及び隣接する細胞への接着は、細胞の生存、増殖、分化及び運動性の調節に中心的な役割を果たす(K.A.Beningo et al.,J.Cell Biol.153(2001),pp.881−888;S.M.Frisch and R.A.Screaton,Curr.Opin.Cell Biol.13(2001),pp.555−562、及びF.M.Watt,EMBO J.21(2002),pp.3919−3926)。発癌性形質転換に応じて、細胞形態及び細胞骨格の編成、細胞運動性及び増殖因子又は接着依存性の細胞増殖において、著しい変化が生じる(総説としては、G.Pawlak and D.M.Helfma,Curr.Opin.Genet.Dev.11(2001),pp.41−47を参照されたい)。アクチン細胞骨格の崩壊及び接着斑数の同時減少は、種々の癌遺伝子によって誘導される細胞の形質転換を伴う共通の特徴である。アクチン細胞骨格が、腫瘍形成において基本的な役割を果たすことは、形質転換した細胞において、足場に依存しない増殖及び腫瘍原性とアクチンフィラメントネットワークの再配列との関連性によって示唆される(P.Kahn et al.,Cytogenet.Cell Genet.36(1983),pp.605−611)。接着相互作用は、接合斑タンパク質を介した細胞骨格に連結している特定の膜貫通受容体を必要とする(総説としては、Nagafuchi,Curr.Opin.Cell Biol.13(2001),pp.600−603を参照されたい)。α−アクチニン、ビンキュリン、トロポミオシン及びプロフィリンを含むいくつかのアクチン結合タンパク質の合成は、形質転換した細胞においてダウンレギュレートされ、腫瘍細胞におけるこれらのタンパク質の過剰発現により、腫瘍抑制因子として考えることができる形質転換した表現型が抑制される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
エリプチシンは、Apocynaceaeファミリーの常緑樹から単離された天然の植物性アルカロイド産物であり、式(I):
【0005】
【化1】

【0006】
を有する。
【0007】
エリプチシンは、細胞毒性及び抗癌活性を有することが見出された(Dalton et al.,Aust.J.Chem.,1967,20,2715)。
【0008】
9位でヒドロキシル化されたエリプチシン誘導体(9−ヒドロキシルエリプチシニウム)は、多くの実験腫瘍に関して、エリプチシンよりも高い抗腫瘍活性を有することが見出されたが(Le Pecq et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,1974,71,5078−5082)、ヒト癌を治療するには制限された活性を示すことが見出された(Le Pecq et al.,Cancer Res.,1976,36,3067)。
【0009】
ヒトの治療に適切であるエリプチシン誘導体を同定し、あるヒト癌の治療、特に乳癌の骨転移の治療に用いられているセリプチウム(Celiptium)、即ち、N2−メチル−9−ヒドロキシエリプチシニウム(NMHE)へと導くための研究が行われた。したがって、9−ヒドロキシエリプチシンから誘導される一連の化合物が開発され、それらは、式(II):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、
R及びR1は、水素又はアルキル基であり、R2は、場合により置換されたアルキル基であり、X-は、4級アニオンである)
を有していた。これらの化合物は、米国特許第4,310,667号に記載されている。
【0012】
これらの化合物の平面の多環構造は、インターカレーションを介してDNAと相互作用することが見出された。さらに、これらの化合物は、作用の複数の様式で関連していることが判明し、例えば、DNA結合、酸化的酸素種の発生及び酵素機能の修飾;最も顕著にはトポイソメラーゼII及びテロメラーゼが含まれる(例えば、Auclair,1987,Achives of Biochemistry and Biophysics,259,1−14を参照されたい)。
【0013】
薬理学的には、多数の中毒性副作用は問題であることが示されている。特に、セリプチウムは、腎臓毒性を誘導することが分かった。しかしながら、いくつかのエリプチシン誘導体、例えば2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウム−クロリド(Auclair et al.,1987,Cancer Research,47,6254−6261)は、動物において改善された安全性及び抗癌活性を有することが判明した。2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウム−クロリドの改善された性質が、フェーズI試行のために選択させるものであったが、この化合物の開発は中止された。
【0014】
他の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体、例えば2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテート、2−(ジイソプロピルアミノ−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテート及び2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムは、例えば、米国特許第4,310,667号に記載されている。
【0015】
ヒトの癌に対して有効であり、制限された中毒性副作用を有する薬物の開発は、重要な要件が残されている。このチャレンジは、特に、主として非細胞毒性プロセスを介して作用する抗癌剤の同定を成功することである。この調査の分野において、本発明者らは、細胞の表現型の変化、より具体的には細胞骨格の構造変化は、腫瘍進行の基礎となる主要な分子メカニズムの1つであり、適切な標的プロセスとなり得ると仮定した。
【0016】
本発明者らは、限られた数の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体が非細胞毒性プロセス(即ち、細胞における生物学的損傷には直結しない)、例えば、アクチンネットワークの再構成、それによる接着の救援及び運動性制御の結果である腫瘍細胞の表現型の復帰変異(reversion)を誘導することによって媒介される抗癌活性を有することを予期せずに示した。さらに、表現型の復帰変異は、非細胞毒性濃度、即ち、細胞増殖及び細胞生存の両方にほとんど影響しない濃度で得られる。
【0017】
このようにして、本発明者らによって同定された9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、主として非細胞毒性プロセスを介した抗癌剤作用を提供する。
【0018】
エリプチシン誘導体
非細胞毒性濃度で悪性表現型の復帰変異を誘導するものとして同定された9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、式(III):
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、
Xは、2又は3個の炭素原子を有するアルキル基であって、場合により分岐していてもよく、場合によりOH、NRR’、CN、OR、COORで置換されてもよく、ここで、R及びR’は、独立してH又はC1−C4アルキル基であり;
Yは、−NR1R2であり、ここで、R1及びR2は、独立してH又はC1−C6アルキル基であるか、あるいはR1及びR2は、それらが結合しているN原子と一緒になって、飽和若しくは不飽和の5又は6員の複素環を形成し、ここで、−NR1R2は、式(I)で表される化合物が酸付加塩の形態となるように、医薬として許容される無機物又は有機酸の付加から得られる第4級アンモニウム塩の形態であってもよく;
あるいは、Yは、ベンジル、フェニル又はC5若しくはC6アリール又は5若しくは6−ヘテロアリール基であり;及び
-は、医薬として許容される無機物又は有機酸の陰イオンであり;
−X−Y側鎖は、必要に応じて、T、U、V又はWに結合され;
T、U、V及びWは、ピリジル環を形成するようにC原子又はN原子であり、残りのT、U、V及び/Wは、C原子であり、
ただし、−X−Y側鎖は、N原子であるT、U、V及びWの1つと結合しており、
理解されるように、
【化4】

は、必要に応じて、単結合又は二重結合を表し、その結果、縮合したピリジル環とともに形成した系は芳香族となり、生じる陽イオン:
【化5】

が形成される)
を有し、場合により酸付加塩の形態であってもよい。
【0021】
一態様によれば、本発明の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、式(IV):
【0022】
【化6】

【0023】
(式中、
Xは、2又は3個の炭素原子を有するアルキル基であって、場合により分岐していてもよく、場合によりOH、NRR’、CN、OR、COORで置換されてもよく、ここで、R及びR’は、独立してH又はC1−C4アルキル基であり;
Yは、−NR1R2であり、ここで、R1及びR2は、独立してH又はC1−C6アルキル基であるか、あるいはN、R1及びR2は、場合により一緒になって、飽和若しくは不飽和の5又は6員の複素環を形成し、ここで、−NR1R2は、式(I)で表される化合物が酸付加塩の形態となるように、医薬として許容される無機物又は有機酸の付加から得られる第4級アンモニウム塩の形態であってもよく;
あるいは、Yは、ベンジル、フェニル又はC5若しくはC6アリール又は5若しくは6−ヘテロアリール基であり;及び
-は、医薬として許容される無機物又は有機酸の陰イオンである)
を有する。
【0024】
本明細書中で使用するとき、「アルキル」とは、鎖中に約1〜20個の炭素原子を有する、線状又は分岐状であってもよい脂肪族炭化水素を意味する。好ましいアルキル基は、鎖中に1〜約12個の炭素原子、さらに好ましくは1〜6個の炭素原子を有する。分岐とは、メチル、エチル又はプロピルなどの1個又は低級アルキル基が線状のアルキル鎖に結合したものを意味する。「低級アルキル」とは、線状又は分岐状であってもよい、約1〜約4個の炭素原子を意味する。アルキルは、同じであるか又は異なっていてもよい1以上のアルキル基置換基で置換されてもよく、例えば、ハロ、シクロアルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、アシルアミノ、アロイルアミノ、カルボキシが挙げられる。
【0025】
「アリール」とは、約5〜約14個の炭素原子、好ましくは約6〜約10個の炭素原子の芳香族単環式又は多環式環系を意味する。アリールは、同じであるか又は異なっていてもよい1以上の置換基で場合により置換され、本明細書中に記載されている通りである。例示的なアリール基には、フェニル若しくはナフチル、又は置換されたフェニル若しくは置換されたナフチルが挙げられる。
【0026】
本明細書中で使用するとき、用語「ヘテロアリール」とは、5〜14員、好ましくは5〜10員の芳香族ヘテロ、単環式、二環式又は多環式環を指し、1個の水素原子の除去によって形成される。例としては、ピロリル、ピリジル、ピラゾリル、チエニル、ピリミジニル、ピラジニル、テトラゾリル、インドリル、キノリニル、プリニル、イミダゾリル、チエニル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、フラニル、ベンゾフラニル、1,2,4−チアジアゾリル、イソチアゾリル、トリアゾイル、テトラゾリル、イソキノリル、ベンゾチエニル、イソベンゾフリル、ピラゾリル、カルバゾリル、ベンズイミダゾリル、イソキサゾリルなどが挙げられる。
【0027】
「医薬として許容される」とは、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などなしに、ヒト及びより下等な動物の細胞と接触させる使用に適切であることを意味し、合理的な損益比で釣り合いがとれている。
【0028】
医薬として許容される無機物又は有機酸は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸、ヘキサフルオロリン酸、硝酸、カルボン酸、クエン酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、乳酸、マロン酸、安息香酸、シクロヘキサンスルファミン酸、及び桂皮酸からなる群から選択されてもよい。(例えば、S.M.Berge,et al.,“Pharmaceutical Salts”,J.Pharm.Sci.,66:p.1−19(1977)を参照されたい。)上記の一般式(III)及び(IV)において、
− Z-は、上記酸から誘導される対応する一価の陰イオンである。
【0029】
好ましくは、上記式(III)及び(IV)において、Z-は、メタンスルホネート(メシラート、CH3SO3-とも呼ばれる)であり;さらに、
− −NR1R2は、上記で定義される医薬として許容される無機物又は有機酸、好ましくはメタンスルホン酸の添加から生じる第4級アンモニウムの形態であってもよく、その結果、式(I)で表される化合物は二価の正電荷を有することが可能となる。
【0030】
上記の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体において、Xは、好ましくはエチル又はプロピルである。
【0031】
Yがアリール基である場合、Yは、好都合には、ピリジン及びピリミジンからなる群から選択されてもよい。
【0032】
Yが、−NR1R2である場合、好都合には、R1及びR2のそれぞれは、エチル基であってもよく、あるいは、Yはピペリジン又はピロリジン基であってもよい。
【0033】
ある種の態様によれば、Xはエチルであり、Yはジエチルアミノ、ピロリジニル、ベンジル、フェニル、ピペリジン、ピリジン及びピリミジンからなる群から選択される。
【0034】
また、ある種の態様によれば、Xはプロピルであり、Yはジエチルアミノ、ピロリジニル、ベンジル、フェニル、ピペリジン、ピリジン及びピリミジンからなる群から選択される。
【0035】
好ましい9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、下記:
【0036】
【化7】

【0037】
であり、得られるそれらの第4級アンモニウム塩であり、式中、Z-は、上記の一価の陰イオンから選択される。
【0038】
より具体的には、本発明の使用のために、9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムクロリド、2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート、2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムクロリド、2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート及び得られるそれらの第4級アンモニウム塩であってもよい。
【0039】
さらに、好ましい9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート、2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムクロリド、及び2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート、並びに得られるそれらの第4級アンモニウム塩である。
【0040】
より好ましくは、本発明に係る9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、
【0041】
【化8】

【0042】
である。
【0043】
9−ヒドロキシエリプチシン誘導体を調製する方法は、例えば、米国特許第4,310,667号に記載されている。
【0044】
処置方法
上記の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、腫瘍細胞においてアクチン細胞骨格のリモデリングを誘導し、それにより、細胞運動性の減少及び細胞接着の回復へと導く。このプロセスは、インビボにおいて、最終的には、TCL毒性効果を伴う可能性のある宿主の免疫応答から誘導される種々のメカニズムから生じる腫瘍細胞の選択的アポトーシスへと導く。
【0045】
このようにして、本発明は、癌の治療が意図された薬剤を製造するための、式(III)又は(IV)の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体の使用に関する。本発明はまた、癌を治療し、腫瘍細胞の悪性表現型を復帰変異することによって癌を治療する方法に関し、それを必要とする被験者に、上記で定義される治療的に有効な量の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体を投与することを含む。しかしながら、この使用及び方法では、9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムクロリド、2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテート、2−(ジイソプロピルアミノ−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテート、及び2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテートではないことが好ましい場合がある。
【0046】
さらに、本発明は、腫瘍細胞の悪性表現型が復帰変異されることが意図される薬剤を製造するための、式(III)又は(IV)の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体の使用に関する。本発明はまた、腫瘍細胞の形質転換した表現型を復帰変異する方法に関し、それを必要とする被験者に、上記で定義される治療的に有効な量の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体を投与することを含む。
【0047】
本明細書中で使用するとき、用語「被験者」とは、哺乳動物、例えば、げっ歯類、ネコ、イヌ、及びブタを指す。好ましくは、本発明に係る被験者は、ヒトである。
【0048】
本発明との関連で、用語「治療すること」又は「治療」とは、本明細書中で使用するとき、このような用語が適用される障害若しくは状態、又はこのような障害若しくは状態の1以上の症状を回復させ、軽減させ、それらの進行を阻害することを意味する。
【0049】
「治療的に有効な量」とは、特定の障害又は疾患の症状の改善をもたらすのに十分である化合物の量を指す。好都合には、本発明の治療法は、細胞に毒性のない量の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体、即ち、細胞増殖及び細胞生存の両方にほとんど影響がない濃度を用いて実施されてもよい。
【0050】
本明細書中で使用するとき、用語「形質転換された表現型」とは、(i)細胞形態、及び/又は(ii)細胞骨格の編成、及び/又は(iii)細胞運動、及び/又は(iv)増殖因子若しくは接着依存性の細胞増殖において生じる可能性がある変化を指す。この形質転換された表現型は、腫瘍細胞の特徴である。
【0051】
細胞形態の変化の例には、より丸くなった形状、細胞質拡張の低下、広がった領域の減少、及び細胞/細胞接触の低減を示す細胞が含まれる。細胞骨格編成の変化は、特に、アクチン細胞骨格の崩壊である場合があり、これは、典型的には、接着斑の数の同時減少と関連付けられる。
【0052】
「腫瘍細胞の形質転換された表現型の復帰変異」とは、腫瘍細胞を正常な(即ち、腫瘍でない)細胞の表現型に回復させることを意味する。9−ヒドロキシエリプチシン誘導体による形質転換された表現型の復帰変異は、特に、アクチンネットワークの再配列によって誘導される。
【0053】
形質転換された表現型の復帰変異は、当該技術分野において容易に知られるアッセイ法を用いる技術によって評価可能である。
【0054】
これらの方法には、例えば:
−半固体又は軟寒天増殖アッセイ(クローン性アッセイ);
−細胞運動アッセイ;
−国際出願公開WO2004/057337に記載されている、細胞溶解物中の固定された重合アクチンの測定法、ここで、この方法は、腫瘍の攻撃性の指標から構成される。要約すると、この方法は、非変性条件下で細胞を溶解し、溶解物の全タンパク質濃度を調整し、蛍光標識したアクチン単量体及び内因性アクチンの重合に必要な成分(例えば、ATP)を添加し、重合したアクチンを測定することを含む;
−アクチン、ジキシン(zyxin)、アクチニン又はB−カテニンラベリング、その後の慣用的な手法による顕微鏡観察による細胞の形態変化及び細胞骨格変性の評価
が含まれる。
【0055】
本発明に係る医薬又は方法は、腫瘍細胞の選択的アポトーシスを誘導し、それにより、癌を治療するための非細胞毒性的な方法を提供する。
【0056】
本発明によれば、腫瘍細胞は、いずれかの腫瘍、例えば、原発性若しくは転移腫瘍、固形腫瘍若しくは軟部組織腫瘍又は白血病起源の細胞であってもよい。固形又は軟部腫瘍細胞の例には、膀胱、乳房、骨、脳、頸部、結腸直腸、子宮内膜、腎臓、肝臓、肺、神経系、卵巣、前立腺、睾丸、甲状腺、子宮、膵臓及び皮膚の癌細胞が挙げられる。白血病には、例えば、慢性骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、急性リンパ性白血病、B−細胞急性リンパ性白血病、T−細胞急性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫、及び慢性リンパ増殖性疾患が含まれる。
【0057】
9−ヒドロキシエリプチシン誘導体に最も応答性があると期待される腫瘍細胞は、細胞骨格崩壊、細胞運動の増加及び/又は細胞−細胞接着の減少と関連した浸潤性の表現型によって特徴付けられるものであり、それは、攻撃性肉腫、及び転移の初期段階で発生する上皮−間充織転移中に観察される場合があるためである。
【0058】
細胞の悪性表現型を復帰変異する能力に準じて、本明細書中に記載される9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、真の抗浸潤剤を構築することは、本発明の利点である。したがって、一態様によれば、腫瘍細胞は転移細胞である。よって、本発明に係る医薬又は方法は、転移の治療が意図され得る。
【0059】
さらに、本明細書に定義される9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、非細胞毒性プロセスによって媒介される抗癌活性を有する。これらの化合物は、好都合には、DNA結合剤、特にアルキル化若しくはインターカレーティング剤、代謝拮抗剤、例えばDNAポリメラーゼ阻害剤、又はトポイソメラーゼI若しくはII阻害剤などのDNA複製の阻害剤、あるいはアルカロイド類などの抗分裂剤を用いる従来の細胞毒性を有する化学療法を回避した被験者における癌を治療するために投与されてもよい。これらの細胞毒性化合物には、例えば、アクチノマイシンD、アドリアマイシン、ブレオマイシン、カルボプラチン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、5−フルオロウラシル、6−メルカプトプリンメルファラン、メトトレキセート、パクリタキセル、タキソテレ、ビンブラスチン、及びビンクリスチンが挙げられる。
【0060】
本明細書中で使用するとき、用語「細胞毒性を有する化学療法を回避した被験者」とは、特に、細胞毒性を有する化学療法が腫瘍進行を変更しない被験者を指す。
【0061】
本明細書に定義される1以上の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、治療を受けるべき被験者に同時に又は連続して投与されてもよい。
【0062】
さらに、9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、分化誘導薬、特に、ビタミンA、その合成類似体、及び代謝物(レチノイド類)、ビタミンD若しくはその類似体、又はペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)リガンドを組み合わせて(即ち、同時に又は連続して)投与されてもよい。
【0063】
レチノイドは、例えば、全トランス型レチノイン酸(ATRA)、N−(4−ヒドロキシフェニル)レチンアミド(4HPR)、13−シス−レチノイン酸(13−CRA)又は9−シス−レチノイン酸(9−CRA)であってもよい。
【0064】
ビタミンD又はその類似体には、特に、25−ジヒドロキシビタミンD3(1,25−(OH)2D3)が含まれ、これは、ビタミンD3から通常は形成されるジヒドロキシル化された代謝物であり、1アルファ−ヒドロキシ−ビタミンD3、1アルファ−ヒドロキシビタミンD2、1アルファ−ヒドロキシビタミンD5、フッ素化ビタミンD誘導体である。
【0065】
PPARリガンドは、特にPPARα又はPPARγアクチベーターである。選択的なPPARγアゴニストには、クラシックなTZD(トログリタゾン、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、及びシグリチゾン;Forman et al.,1995,Cell,83:803−812;Lehmann et al.,1995,J.Biol.Chem.270:12953−12956を参照されたい)及び非TZD型アゴニストが含まれる。後者の代表的なものには、N−(2−ベンゾイルフェニル)−L−チロシン誘導体、例えばGW1929、GI262570、及びGW7845が含まれ、今日までに同定された最も強力であり、選択的なPPARγアゴニストの中にある(Henke et al.,1988,J.Med.Chem.,41:5020−5036;Cobb et al.,1998,J.Med.Chem.,41:5055−5069を参照されたい)。GW2027、2,3−二置換インドール−5−カルボン酸はまた、強力かつ選択的なPPARγアゴニストである(Henke et al.,1999,Bioorg.Med.Chem.Lett.,9:3329−3334)。フィブレート又はファルネゾールは、PPARαアゴニストの例である。
【0066】
したがって、本発明に従って有用な9−ヒドロキシエリプチシン誘導体はまた、別の化合物と混合されて、医薬組成物(希釈剤又は担体の有無を問わず)を形成することができ、投与されると、本発明の併用療法をもたらす有効成分の組み合わせの同時投与を提供する。特に、本発明は、上記で定義される式(III)又は(IV)の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体、及び分化誘導薬を含む医薬組成物を提供する。
【0067】
同時投与に加えて、本発明に従って有用な9−ヒドロキシエリプチシン誘導体はまた、別の治療化合物、特に上記で定義される分化誘導薬と別々に又は連続して投与されてもよい。このようにして、本発明は、さらに、癌の治療、特に腫瘍細胞の形質転換した表現型を復帰変異するのに有用な同時の、別々の又は連続した使用のための組み合わせた調合物として、式(III)又は(IV)の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体、及び分化誘導薬を含む生成物を提供する。
【0068】
9−ヒドロキシエリプチシン誘導体を単独で投与することは可能ではあるが、医薬組成物として提示することが好ましい。本発明に従って有用な、獣医用及びヒト用の医薬組成物は、上記で定義される少なくとも1つの9−ヒドロキシエリプチシン誘導体、及び1以上の医薬として許容される担体、場合により他の治療成分を含む。
【0069】
ある種の好ましい態様では、併用療法に必要な有効成分は、同時投与のための1つの医薬組成物において組み合わせることができる。
【0070】
本明細書中で使用するとき、「医薬として許容される」及び文法的にその変形は、それらが、組成物、担体、希釈剤及び試薬を意味する場合、交換可能に用いられ、材料が吐き気、目眩、異常亢進などの望ましくない生理学的な効果を生じることなしに、哺乳動物に又はその上に投与することができることを示す。
【0071】
本明細書に開示され又は散見される有効成分を含む医薬組成物の調製は、当該技術分野において十分に理解され、製剤に基づいて限定されることを要しない。典型的には、このような組成物は、液体溶液又は懸濁液として注射可能なものとして調製される。しかしながら、使用前に溶液、又は懸濁液適した、液体に含まれる固体形態も好ましい。この調製物はまた、乳化することができる。特に、医薬組成物は、固体剤形、例えばカプセル、錠剤、丸薬、粉末、糖衣錠又は顆粒で調合されてもよい。
【0072】
ビヒクルの選択、及びビヒクル中の活性物質の内容物は、一般に、活性化合物の溶解性及び化学的性質、投与の特別な様式、及び薬務において順守されるべき規定に従って測定される。例えば、賦形剤、例えばラクトース、クエン酸ナトリウム、カルボン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、及び崩壊剤、例えばスターチ、アルギン酸、及びある種の複合ケイ酸塩は、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びタルクなどの潤滑剤ととともに、錠剤の調製に使用されてもよい。カプセルを調製するために、ラクトース及び高分子量のポリエチレングリコールを用いることは有利である。水性懸濁液を用いる場合、それらに乳化剤、又は懸濁を促進する薬物を含めることができる。スクロース、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール及びクロロホルム又はそれらの混合物などの希釈剤も使用可能である。
【0073】
医薬組成物は、経口、直腸、鼻腔、口腔、膣、非経口(例えば、皮下、筋内、静脈、皮内、髄腔及び硬膜外)、嚢内及び腹腔を含む局所又は全身投与によって、ヒト及び動物に適切な製剤で投与することができる。好ましい経路は、例えば、受領者の状態に基づいて変更されてもよいことは承認される。
【0074】
この製剤は、製薬の技術分野において周知である方法のいずれかによって単位剤形で調製され得る。このような方法には、1以上の副成分を構成する担体と有効成分とを関連付けさせる工程を含む。一般に、製剤は、有効成分と、液体担体若しくは微細に分割した固体担体又はその両方と均一又は密接に関連付け、必要に応じて、製造物を成形することによって調製される。
【0075】
1回又は分割した投薬量で被験者に投与される9−ヒドロキシエリプチシン誘導体の毎日の総服用量は、例えば、毎日約0.001〜約100mg/kg体重、好ましくは0.01〜10mg/kg/日、さらに好ましくは0.01〜1mg/kg/日、特に0.1〜1mg/kg/日、又は1〜10mg/kg/日の量であってもよい。毎日の服用量の例は、0.05mg/kg、0.125mg/kg、0.25mg/kg、0.5mg/kg、1mg/kg、1.25mg/kg、2.5mg/kg、5mg/kg、及び10mg/kgである。服用単位組成物は、さらに複数回の量を含んでもよく、毎日の服用量を作るように用いてもよい。しかしながら、任意の特定の患者に対する具体的な投薬レベルは、体重、一般的な健康、性別、食事、投与時間及び経路、吸収及び排出の速度、他の薬物との組み合わせ、治療されるべき特定の疾患の重症度を含む様々な因子に依存することは理解されよう。
本発明は、下記の実施例を考慮してさらに例証される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】BA016DD537(2−(β−ピペリジノエチル)−9−ヒドロキシエリプチシニウムクロリド)の構造を示す。
【図2】NIH3T3EF抽出物におけるBA016DD537によるアクチン重合の時間経過の描写である。重合バッファーとNIH3T3EF抽出物と一緒にBA016DD537をゼロ時に添加した。反応混合物は、下記の記号で示された濃度のBA016DD537を含む:100nM BA016DD537(黒三角)、200nM BA016DD537(黒菱形)、対照の悪性NIH3T3EF細胞(黒逆三角)、対照の正常NIH3T3細胞(黒四角)。データは、平均±標準偏差を示す;n=3。
【図3】NIH3T3EF抽出物における100nM BA016DD537(黒菱形)、200nM BA016CA107(白四角)、及び200nM BA016CA77(*)によるアクチン重合の時間経過の描写である。重合バッファーとNIH3T3EF抽出物と一緒に薬物をゼロ時に添加した。対照の悪性NIH3T3EF細胞(白三角)、対照の正常NIH3T3細胞(白丸)も示される。データは、平均±標準偏差を示す;n=3。
【図4】BA016DD537で処理した又は処理していないNIH3T3EF細胞におけるアクチン線維の蛍光顕微鏡試験であり、対照のNIH3T3細胞と比較した。形質転換されたNIH3T3EF細胞において、BA016DD537はアクチン線維を増加させる。正常及び悪性NIH3T3細胞は、アクチン線維を視覚化するためにFITC−パロイジンを用い、核を視覚化するためにDapiを用いて、インサイチューの免疫蛍光によって分析した。(A)対照の悪性NIH3T3EF細胞;(B)対処の正常NIH3T3細胞;(C)100nM BA016DD537で処理した悪性NIH3T3EF細胞;(D)200nM BA016DD537で処理した悪性NIH3T3EF細胞。
【図5】BA016FZ539(2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート)によって処理されたMIA PaCa−2細胞の形態変化を示す。A:対照、B:4μM BA016FZ539で3日間処理された細胞(200×)。
【図6】13CRA及びATRAの有無でBA016DD537(2−(ベータピペリジノ−2−エチル)−9−ヒドロキシエリプチシニウムクロリド)で処理されたB16BL6細胞の増殖試験を示す。使用されたレチノイン酸の濃度を10nMで固定した。
【実施例】
【0077】
実施例1:アクチン動力学の調節
アクチン動力学は、腫瘍細胞において損なわれ、その後にF−アクチンとG−アクチンとの比が減少することが知られている。アクチン動力学は、F−アクチン伸長の速度定数(k)及びF−アクチンの安定状態濃度(ΔmA)に近づける蛍光異方性アッセイを用いて腫瘍細胞抽出物において定量した。
【0078】
材料及び方法:
全ての反応は22℃で行い、蛍光異方性シグナルはBeacon 2000(Panvera)において励起490nmで520nmで回収した。Alexa 488アクチン(Molecular Probes)は、Beckman L5−50B超遠心分離機で35000rpm、2時間、4℃で遠心分離し、残りのアクチン重合体を沈殿させた。上清に残存している蛍光は、単量体又は小さなアクチン線維(5〜10単量体)によるものと考えられ、前述の条件下ではペレットにならないものである。80%の上清を回収した;濃度は、蛍光測定により決定した(490nmで励起し、シグナルを520nmで回収した)。超遠心分離したアクチン濃度は、標準として超遠心分離していないAlexa 488アクチンを用いて計算した。上清を分注し、液体窒素で凍結後、−80℃で保存した。
【0079】
実験前に、超遠心分離したAlexa 488アクチンのアリコートをGバッファー(5mM Tris pH8.1、2mM CaCl2、0.2mM DTT、0.2mM ATP)で1mg/mlの濃度に希釈した。3μlの希釈したAlexa 488アクチンは、168μlのGバッファーで混合し、アクチン単量体異方性は、4μlの重合バッファー(2.5M KCl、50mM MgCl2、25mM ATP)、化学分子の有無による5μlのGバッファー、2mg/mlの濃度で20μlの正常なNIH3T3細胞又は悪性NIH3T3EF細胞の抽出物の添加前に測定した。Alexa 488の最終濃度は、4nMであった。非標識アクチンと標識アクチンとの比は、約140/4nMであった。測定は、200秒間、10秒毎に行った。アクチン単量体異方性の値を差し引き、異方性増加(ΔmA)を得た。データは、式Y=Ymax[1−exp(−K.X)]にフィットさせた。曲線はゼロで始まり、安定状態の異方性値(ΔmA eq)に対応するYmaxまで上昇し、速度定数はKであった。Yは、単量体異方性が差し引かれた異方性値であり、Xは時間である。
【0080】
結果:
これらのパラメータに対するBA016DD537の効果は下記の通りである:
【0081】
【表1】

【0082】
異方性の増大は、2−(β−ピペリジノエチル)−9−ヒドロキシエリプチシニウムクロリド(BA016DD537)の存在下でNIH3T3EF抽出物について観察し、BA016DD537無しで測定した異方性と比較した(図2)。
【0083】
天然のNIH3T3細胞と比較すると、NIH3T3EF細胞は、アクチン伸長のより低い見せ掛けの一次速度定数、並びに安定状態でのより低量のF−アクチンを示す。したがって、NIH3T3EF細胞から調製した細胞質画分は、アクチン動力学を調節し得る分子をスクリーニングするための便利な材料であり、BA016DD537などのアクチン線維に選択的に結合することができるものが含まれる。アッセイ培地に添加すると、BA016DD537は、アクチン−F伸長の速度定数及びアクチン−F安定状態の値を増加させる。図2は、濃度増加したBA016DD537の添加後に観察された典型的な動力学を示す。200nMのBA016DD537の存在下では、NIH3T3EFの細胞質画分のアクチン動力学は、NIH3T3の細胞質画分を用いて観察されるものと類似している。このようにして、BA016DD537は、アクチン重合促進剤として用いることができる。
【0084】
実施例2:9−ヒドロキシ−2(ベータ−エチル)−エリプチシニウムアセテート(BA016CA107)及び9−ヒドロキシ−2(ベータ−メチル)−エリプチシニウムアセテート(セリプチウム(Celiptium)、BA016CA77)によるアクチン動力学の調節及び細胞運動性のエクスビボ阻害
セリプチウムは、抗癌剤として知られていた。9−ヒドロキシ−2(ベータ−エチル)−エリプチシニウムアセテート(BA016CA107)及びセリプチウム(BA016CA77)の作用機序は、安定状態の蛍光異方性測定アッセイ(材料及び方法、実施例1)によってBA016DD537と比較された。また、細胞運動性を阻害するそれらの能力を調査した(材料及び方法、実施例4)。
【0085】
結果:
図3に示されるように、BA016CA77及びBA016CA107は、アクチン−F伸長の速度定数及びアクチン−F安定状態の値を増加させない。200nMのBA016CA77及びBA016CA107の存在下では、NIH3T3EF細胞質画分のアクチン動力学は、処置なしのNIH3T3EF細胞質画分を用いて観察したものに類似している。このようにして、BA016CA77及びBA016CA107は、アクチン重合促進剤として用いることができない。
【0086】
【表2】

【0087】
BA016CA77及びBA016CA107薬物によって処理された悪性細胞の挙動はまた、創傷治癒アッセイにおける未処理の悪性細胞と比較された。処理された悪性細胞は、全領域に創傷の境界を超えて移動することが分かった(図4)。非毒性濃度の薬物で処理された細胞は、未処理の悪性細胞と同じように移動する。
【0088】
結果として、9−ヒドロキシ−2(ベータ−エチル)−エリプチシニウムアセテート及び9−ヒドロキシ−2(ベータ−メチル)−エリプチシニウムアセテート(セリプチウム)のいずれも活性であることが判明し、したがって、2位の側鎖の性質はアクチン動力学を調節するためのそれらの能力において重要な役割を果たすことを指示している。
【0089】
実施例3:腫瘍細胞におけるF−アクチンネットワークの救済
材料及び方法:
悪性NIH3T3EF細胞を2000細胞/cm2の密度でガラス製のカバースリップ上に播種した。翌日、BA016DD537を種々の非毒性濃度(100nM及び200nM)でNIH3T3EF細胞に適用した。3日後、細胞は、蛍光顕微鏡で試験される前に、4℃で3.7%のホルムアルデヒドを含むPBS中で10分間固定された。ホルムアルデヒド溶液は、50mMのNH4Clで中和された。抽出は、PBS中の0.4% Triton X−100を用いて4分間行われた。細胞をブロッキングバッファー(PBS中の3%ウシ血清アルブミン)と共に1時間インキュベートし、次に、20分間、FITC−ファロイジン(Sigma)を用いて室温でインキュベートした。カバースリップをVectashieldk(Zymed)に置き、蛍光顕微鏡(Nikon)で観察した。
【0090】
結果:
薬物BA016DD537は、図4に示される非毒性濃度で腫瘍細胞内のアクチンネットワークを再構築することができる。NIH3T3EF細胞は、非毒性濃度のBA016DD537で処理され、NIH3T3細胞に近い形態を回復する:細胞は広がり、多数の細胞間接着を有し、アクチン細胞骨格はストレスファイバーネットワークにおいて十分に編成される。
【0091】
同様の実験条件では、9−ヒドロキシ−2エチル)−エリプチシニウムアセテート及び9−ヒドロキシ−2(メチル)−エリプチシニウムアセテート(セリプチウム)はともに活性がないことが分かった。
【0092】
実施例4:細胞運動性のエクスビボ阻害
癌の進行における後期である腫瘍細胞の浸潤及び転移は、細胞運動性と明確に関係している。細胞運動の主要なエンジン、及び一般には細胞形状変化は、細胞骨格であり、動物脂肪の移動に関与する細胞骨格の主要な成分はアクチンである。結論として、アクチン動力学の調節は、順番に浸潤及び転移を抑止するべき細胞運動の機能障害をもたらし得る。
これらの理由で、BA016DD537を細胞運動性アッセイにおいて試験した。
【0093】
材料及び方法:
創傷治癒アッセイは、悪性NIH3T3EF細胞及びメラノーマ細胞株B16F10及びB16BL6の運動性に対するBA016DD537の効果を評価するために行った。全ての細胞は、加湿した5%のCO2雰囲気下、37℃でインキュベートされた。約100000〜200000細胞を6ウェルの培養プレートに播種し、BA016DD537は、様々な濃度で、24時間後に添加した。細胞を3日間増殖し、約90〜95%のコンフルエントにし、小さなスクラッチ傷(約200μm〜1mm幅)をピペットチップで作った。細胞の残骸を除去し、次に培養物を同濃度のBA016DD537の存在下、10時間完全培地でインキュベートした。その後、細胞は、4℃で、3.7%ホルムアルデヒドを含むPBS中で10分間固定された。治癒は、Zeissソフトウェアを用いて位相差光学顕微鏡で観察した。
【0094】
結果:
浸潤した悪性細胞B16F10及びB16BL6、並びに融合タンパク質EWS−FLI−1を発現している腫瘍性NIH−3T3EF細胞は、高い運動性の表現型を示す。それらの運動性の全体の評価を得るために、BA016DD537で処理した薬物悪性細胞の挙動と未処理の悪性細胞の挙動とを創傷治癒アッセイにおいて比較した。未処理悪性細胞は、創傷の全領域に創傷の境界を超えて移動する。対照的に、BA016DD537で処理された悪性細胞は、創傷に全く移動しない。BA016DD537は、投薬量に依存して悪性細胞の運動性を阻害した。50nM程度の低い濃度のBA016DD537による細胞処理は、B16F10メラノーマ及びNIH3T3EF細胞移動の完全な阻害をもたらす。また、非毒性濃度のBA016DD537によるB16BL6細胞の運動性の阻害が観察された。したがって、選択されたBA016DD537薬物の効果は、毒性効果にはよらない。
【0095】
実施例5:9−ヒドロキシエリプチシン誘導体のエクスビボの抗増殖効果
悪性細胞は、足場非依存的にメチルセルロースなどの半固体培地上で増殖する性質を示す。
【0096】
表現型の復帰変異に関連した2−(ベータピペリジノ−2−エチル)−9−ヒドロキシエリプチシニウムクロリド(BA016DD537)及び2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート(BA016FZ539)の抗腫瘍活性は、半固体培地中のコロニー形成の阻害によって評価した。いくつかの細胞株を調査した。コロニー形成の阻害は、MTT還元によって測定される細胞増殖の阻害と比較した。
【0097】
材料及び方法:
クローニングアッセイ
0.8%のメチルセルロース(Methocel MC4000、Sigma)で補足された完全培地中に細胞を埋め込み、3重で35mmディッシュ(Greiner Bio−one Ref627102、Dominique Dustscher)に播種し、加湿した5%のCO2雰囲気下、37℃でインキュベートした。播種した細胞数は、1000細胞/ディッシュであった。細胞株によって1〜3週間後、肉眼で見えるクローンをカウントした。
【0098】
MTTアッセイ
増殖試験は、[3−(4,5ジメチルチアゾール−2−イル]−2.5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミド](Sigma)比色分析を用いて行った。
【0099】
細胞株によって約1500〜5000細胞は、濃度増加したBA016DD537又はBA016FZ539を添加する前に96ウェル培養プレートで24時間播種された。プレートは、37℃で3日間インキュベートされた。10μlのMTTストック溶液(リン酸緩衝生理食塩水の5mg/ml)を各ウェルの90μlの完全培地に添加し、3時間、37℃でインキュベートを継続した。100μlの溶解バッファー(10%ドデシル硫酸ナトリウム、1% HCl 1N;pH4.7)を各ウェルに添加した。プレートを一晩インキュベートした。吸光度は、Integrated EIA Management System(Labsystem)を用いて、570nmの波長で測定された。増殖率は、未処理の細胞を100%として用いて、ODの読み取りから計算された。
得られた典型的な結果を下記の表3〜6に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
【表5】

【0103】
【表6】

【0104】
このようにして、BA016DD537及びBA016FZ539は、半固体培地のコロニー形成における顕著な阻害活性を示すことが判明した。コロニー形成の阻害は、MTT試験を用いて測定された非抗増殖濃度で生じる。
【0105】
実施例6:抗腫瘍活性
B16メラノーマに対する抗腫瘍活性は、悪性細胞のi.p.グラフト、その後のi.p.処理を用いて、マウスにおいて評価することができる。様々なバイオディスポニビリティ(biodisponibility)パラメータを回避するこの種のプロトコールは、大雑把に、所定の腫瘍に期待され得る最大の抗腫瘍活性に関する情報を提供する。
【0106】
実験プロトコール:
メラノーマB16細胞(4×105)は、J0でi.p.経路を用いてB6D2F1マウスに注入された。薬物は、無菌の蒸留水(0.5ml)に溶解し、同様に、種々の濃度でJ1〜J9までi.p.経路を用いて毎日注入された。対照のマウスは、同じプロトコールに従って、蒸留水だけを受けた。
【0107】
処理したマウス及び対照マウスを毎日カウントした。T/C(処理されたマウスの生存の平均/対照マウスの生存の平均)をJ9で計算した。T/C>125%は、有意な抗腫瘍活性を示す。
この実験の結果を下記の表7に要約する。
【0108】
【表7A】

【0109】
【表7B】

【0110】
このようにして、BA016DD537は、B16メラノーマに対して顕著な抗腫瘍活性を示す。最適な用量である3.12mg/kgは、217%のT/Cを生じる。参照薬物セリプチウムは、このプロトコールを用いて、有意な抗腫瘍活性がない。
【0111】
実施例7:抗転移活性
B16F10マウスメラノーマ細胞によって示される浸潤の表現型は、i.v.経路によって注入されるとき、肺で効率的に転移を形成する腫瘍細胞の能力によって特徴付けられる。抗浸潤性を評価するために、このプロセスに対する2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネートの効果を試験した。
【0112】
実験プロトコール:
100μlのB16F10細胞の懸濁液(4.105細胞)をi.v.経路を用いて、マウスの後眼窩洞に注入した。2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート(BA016FZ539)溶液を5mg/Kg(第1実験)及び7.5mg/kg(第2実験)の投薬量で細胞注入後の24時間及び72時間でマウスにi.v.投与した。対照群では、マウスは、生理学的な血清をiv注入された。数日後、マウスを屠殺し、肺を摘出し、転移塊を解剖顕微鏡下でカウントした。
【0113】
【表8】

【0114】
使用された実験条件では、BA016FZ539は、B16F10メラノーマ細胞のi.v.注入後の肺転移の有意な減少によって評価されるように、有意な抗浸潤活性を示す。
【0115】
実施例8:小細胞の肺癌細胞株に対する9−ヒドロキシエリプチシン誘導体のインビトロの抗増殖効果
BA016FZ539(2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート)の抗腫瘍活性は、スルホルホダミン試験によって測定されるように、細胞増殖の阻害によって評価された。
【0116】
3つの小細胞の肺癌細胞株:NCI−H510、NCI−H446及びNCI−H187を試験した。
【0117】
小細胞の肺癌(SCLC)は、毎年診断される全ての肺癌の15〜25%を占める(Bonfill et al.1975−1977及び1987−1989.Int J Cancer 65:751−754,1996)。SCLC細胞株は、2つの主要なクラス:神経内分泌マーカーレベルの上昇を表す古典的なSCLC細胞株(NCI−H187及びNCI−H510)、1以上の神経内分泌マーカーを表さない変異SCLC細胞株にさらに分類することができる。
【0118】
いくつかの試験では、変異細胞株は、古典的な細胞株とは対照的に、インビトロで放射線耐性であり、c−myc癌遺伝子(Carney et al.,Cancer Research 45,2913−2923,June 1985)の発現増加があることを示している。
【0119】
材料及び方法:SRBアッセイ
スルホルホダミンB(SRB)比色分析(Sigma)を用いて、増殖試験を行った。
SRBアッセイは、細胞のタンパク質含量の測定に基づいて、細胞密度測定のために用いられる。この方法は、96ウェルフォーマットで接着細胞における化合物の毒性スクリーニングに最適化されていた(Skehan et al.,Proc.Amer.Assoc.Cancer Res.1989,30:2436)。
【0120】
濃度増加したBA016FZ539を添加しながら、約50000個のNCI−H510、NCI−H446又はNCI−H187細胞を96ウェル培養プレートに播種した。
【0121】
インキュベーション時間後、細胞の単層を10%(wt/vol)トリクロロ酢酸で固定し、30分間染色する。その後、過剰の色素を1%(vol/vol)の酢酸で繰り返しの洗浄によって除去する。タンパク質に結合した色素は、マイクロプレートリーダーを用いて、510nmで光密度測定(OD)に対して10mM Tris系溶液に溶解される。
【0122】
増殖率は、未処理の細胞を100%として用いて、OD読み取りから計算された。
SRBタンパク質染色アッセイは、様々なヒトの小細胞の肺癌細胞株のインビトロの化学的感受性試験のために、テトラゾリム(MTT)比色分析と比較した。
【0123】
SRBアッセイは、MTTアッセイよりもいくつか利点がある。例えば、いくつかの化合物は、細胞生存率に対する影響を与えることなしに、MTT還元と直接的に干渉することができるが、SRB染色は、稀に、この種の干渉によって影響を及ぼす。さらに、SRB染色は、細胞の運動活性に依存しない。
【0124】
結果:
【0125】
【表9】

【0126】
表9では、変異SCLC細胞株(NCI−H446)は、古典的なSCLC細胞株(NCI−H510及びNCI−H187)よりもBA016FZ539に良好な耐性を示す。
【0127】
実施例9:膵癌細胞株に対する9−ヒドロキシエリプチシン誘導体のインビトロの抗増殖効果
BA016FZ539(2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート)の抗腫瘍活性は、スルホルホダミン試験によって測定されるように、細胞増殖の阻害によって評価された。
2つの膵癌細胞株:MIA PaCa−2及びPANC−1を調査した。
【0128】
材料及び方法:
MIA PaCa−2及びPANC−1膵細胞の増殖に対するBA016FZ539の効果は、500μM〜0.16μMの濃度範囲で試験され、SRB比色分析を用いて測定された。
【0129】
濃度増加したBA016FZ539を添加しながら、約5000MIA PaCa−2又はPANC−1細胞を96ウェル培養プレートに播種した。
膵細胞株の形態と数の変化は、顕微鏡観察で観察された(図5)。
【0130】
結果:
【0131】
【表10】

【0132】
図5は、BA016FZ539によるMIA PaCa−2細胞株における形質転換した表現型(図5、A)から正常な表現型(図5、B)への復帰変異を示す。
【0133】
この効果は、MIA PaCa−2細胞株にのみ観察され、PANC−1細胞株では見られなかった。形質転換した表現型の復帰変異は、ここでは、より多くの細胞質の伸長及び細胞の広がり領域の増加を含む細胞形態の変化と関連している。このようにして、BA016FZ539は、PANC−1細胞株よりもMIA PaCa−2細胞株に対して、優れた抗腫瘍活性を示す(表10)。
【0134】
結論として、ここに示されたデータは、BA016FZ539が、ヒトの癌細胞株に対する複数の抗腫瘍活性を発揮することを示す。BA016FZ539は、6〜20μMのIC50でSCLC及び膵癌細胞の細胞増殖を有意に阻害することを見出した。これらの結果はまた、膵細胞株であるMIA PaCa−2の悪性表現型を復帰変異する能力を示唆する。BA016FZ539で処理されたこれらの細胞は、細胞骨格編成の調節を示唆する形態変化を示す。
【0135】
実施例10:細胞運動性のエクスビボ阻害
9−ヒドロキシエリプチシン誘導体は、分化誘導薬、特にビタミンA、その合成類似体、及び代謝物(レチノイド)、ビタミンD又はその類似体と併用して投与されてもよい。レチノイドは、例えば、全トランス型レチノイン酸(ATRA)、N−(4−ヒドロキシフェニル)レチンアミド(4HPR)、13−シス−レチノイン酸(13CRA)又は9−シス−レチノイン酸(9CRA)であってもよい。
【0136】
この実施例では、BA016DD537(2−(ベータピペリジノ−2−エチル)−9−ヒドロキシエリプチシニウムクロリド)と上記のレチノイドとの組み合わせの効果を試験した。
【0137】
材料及び方法:
レチノイド13CRAとATRAの存在下でBA016DD537によるエクスビボの細胞生存性の阻害は、3−(4,5ジメチルチアゾール−2−イル)−2.5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミド(MTT)比色分析を用いて、B16BL6メラノーマ細胞株に対して試験された。
【0138】
10nMのレチノイドの有無で、1pM〜100pMの濃度増加したBA016DD537を添加する前の24時間、96ウェル培養プレートに約1000個の細胞を播種した。37℃で3日間、プレートをインキュベートした。10μlのMTTストック溶液(リン酸緩衝生理食塩水中の5mg/ml)を各ウェルの90μlの完全培地に添加し、3時間、37℃でインキュベーションを継続した。100μlの溶解バッファー(20%ドデシル硫酸ナトリウム、10mM HCl、1×PBS)を各ウェルに添加し、プレートを一晩インキュベートした。吸光度は、570nmの波長で、Integrated EIA Management System(Labsystem)を用いて測定された。
【0139】
結果
B16BL6浸潤性メラノーマ細胞株は、高い浸潤性表現型を示す。相乗効果アッセイの目的は、BA016DD537の最小濃度で腫瘍細胞の生存性を阻害することであった。10nMのレチノイド13CRA及びATRAだけの存在下では、細胞の生存性の阻害は観察されなかった。10nMのレチノイドの存在下で、BA016DD537のより低い投薬量での細胞処理は、腫瘍細胞の生存性の阻害を増加する結果となる(図6)。
【0140】
同時に、レチノイドがない場合に、最小濃度のBA016DD537の活性は観察されなかった。100nMのBA016DD537の効果は、ATRA 10nMの存在下の1pMと同じであった。このようにして、BA016DD537の投薬は、レチノイドなしで用いた場合より同じ結果を得るために、レチノイドを併用した場合、100000倍減少することができる。
【0141】
実施例11:2つの9−ヒドロキシエリプチシン誘導体:モノメシレート及びビメシレートの生物学的活性の比較
2つのエリプチシン誘導体である、BA016FZ539(2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート、又は「モノメシレート」)及び対応するビメシレート誘導体:
【0142】
【化9】

【0143】
(以下、「ビメシレート」)の抗腫瘍活性は、2つの独立した実験を用いて評価された。半固体培地におけるコロニー形成の阻害は、マウスのメラノーマ細胞株B16F10上でクローニングアッセイを用いて初めに評価された。
【0144】
第2に、2つのヒト膵細胞株(MIA PaCA−2及びPANC1)及び1つのマウスのメラノーマ細胞株(B16F10)の細胞増殖は、SRB及びMTT試験を用いて、モノメシレート及びビメシレートの存在下で定量された。
【0145】
材料及び方法:
クローニングアッセイ
0.8%のメチルセルロース(Methocel MC4000、Sigma)で補足された完全培地に細胞を埋め込まれ、3重で35mmディッシュに播種し、37℃、加湿した5%CO2雰囲気下でインキュベートした。播種した細胞数は、1000細胞/ディッシュであった。9日後、マウスのメラノーマ細胞株B16F10の肉眼で見えるコロニーをカウントした。
【0146】
MTT及びSRB試験
MTT及びSRB比色分析(Sigma)を用いて増殖試験を行った。濃度増加したモノメシレート又はビメシレートを添加する前に、96ウェルの培養プレートに約1500個のB16F10又は3000個の膵細胞(MIA PaCa−2及びPANC1)を播種した。
【0147】
プレートを37℃で3日間インキュベートし、次に、SRB又はMTTプロトコール(材料及び方法を参照)に従って処理した。
【0148】
これらの2つの例では、増殖率は、未処理の細胞を100%として用いて、OD読み取りから計算された。
【0149】
結果:
【0150】
【表11】

【0151】
B16F10細胞は、SRB及びMTTアッセイの両方で試験され、PANC1はSRBアッセイのみで調査された。モノメシレート及びビメシレートのIC50の間に有意な差はなかった。
【0152】
【表12】

【0153】
モノメシレート及びビメシレートは、半固体培地におけるコロニー形成に対して類似の50%阻害濃度(IC50)を示し、それぞれ67及び21nMであった。
【0154】
浸潤性メラノーマ細胞株B16F10の増殖に対する顕著な阻害効果は、これらの2つの薬物の存在下でメチルセルロースにおいて効果的に観察された。
【0155】
また、コロニー形成の阻害は、MTT試験を用いて測定される非増殖濃度で生じることを本発明者らのデータは検証した。
【0156】
結果として、モノメシレート及びビメシレートは、クローニングアッセイ及び細胞増殖試験の結果に関して、同じ生物学的活性を有する。
【0157】
これらのデータを一緒にすると、エリプチシン誘導体は抗腫瘍剤として開発に潜在性を有することを強く示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療が意図された薬剤を製造するための、場合により酸付加塩の形態である、式(III):
【化1】

(式中、
Xは、2又は3個の炭素原子を有するアルキル基であって、場合により分岐していてもよく、場合によりOH、NRR’、CN、OR、COORで置換されてもよく、ここで、R及びR’は、独立してH又はC1−C4アルキル基であり;
Yは、−NR1R2であり、ここで、R1及びR2は、独立してH又はC1−C6アルキル基であるか、あるいはR1及びR2は、それらが結合しているN原子と一緒になって、飽和若しくは不飽和の5又は6員の複素環を形成し、ここで、−NR1R2は、式(I)で表される化合物が酸付加塩の形態となるように、医薬として許容される無機物又は有機酸の付加から得られる第4級アンモニウム塩の形態であってもよく;
あるいは、Yは、ベンジル、フェニル又はC5若しくはC6アリール又は5若しくは6−ヘテロアリール基であり;及び
-は、医薬として許容される無機物又は有機酸の陰イオンであり;
−X−Y側鎖は、必要に応じて、T、U、V又はWに結合され;
T、U、V及びWは、ピリジル環を形成するようにC原子又はN原子であり、残りのT、U、V及び/Wは、C原子であり、
ただし、−X−Y側鎖は、N原子であるT、U、V及びWの1つと結合しており、
理解されるように、
【化2】

は、必要に応じて単結合又は二重結合を表し、その結果、縮合したピリジル環とともに形成した系は芳香族となり、生じる陽イオン:
【化3】

が形成される)
で表される9−ヒドロキシエリプチシン誘導体の使用。
【請求項2】
前記9−ヒドロキシエリプチシン誘導体が、場合により酸付加塩の形態である、式(IV):
【化4】

(式中、X、Y及びZ-は、請求項1に定義される通りである)
を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
Xが、エチル又はプロピルである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
Yが、−NR1R2であり、R1とR2の各々が、エチル基であり、ここで、−NR1R2は、式(I)で表される化合物が酸付加塩の形態となるように、医薬として許容される無機物又は有機酸の付加から得られる第4級アンモニウム塩の形態であってもよい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
Yが、ピペリジン、ピロリジニル、ピリジン及びピリミジン、並びにそれらの第4級アンモニウム塩からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記9−ヒドロキシエリプチシン誘導体が、
【化5】

であるか又は得られるその第4級アンモニウム塩である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記9−ヒドロキシエリプチシン誘導体が、
【化6】

であるか又は得られるその第4級アンモニウム塩である、請求項1、2、3及び5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
-がメタンスルホネートである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記9−ヒドロキシエリプチシン誘導体が、
【化7】

である、請求項1、2、3、5及び7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記薬剤が、腫瘍細胞の形質転換された表現型を復帰変異(reverse)するように意図される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記腫瘍細胞が、浸潤性の表現型によって特徴付けられる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記薬剤が、転移を治療するように意図される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記薬剤が、細胞毒性を有する化学療法を回避した被験者の癌を治療するように意図される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記薬剤が、分化誘導薬を併用して投与される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記分化誘導薬が、ビタミンA及びその合成類似体、レチノイド、ビタミンD及びその類似体、及びペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)リガンドからなる群から選択される、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
医薬として許容される担体に含まれる、請求項1〜9のいずれか1項において定義される式(III)又は(IV)で表される9−ヒドロキシエリプチシン誘導体及び分化誘導薬を含む医薬組成物。
【請求項17】
前記分化誘導薬が、ビタミンA及びその合成類似体、レチノイド、ビタミンD及びその類似体、及びペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)リガンドからなる群から選択される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
癌の治療用の同時の、別々の又は連続した使用のための併用調製物としての、請求項1〜9のいずれか1項において定義される式(III)又は(IV)で表される9−ヒドロキシエリプチシン誘導体及び分化誘導薬を含む製造物。
【請求項19】
腫瘍細胞の形質転換された表現型を復帰変異するための同時、別々の又は連続した使用のための併用調製物としての請求項18に記載の製造物。
【請求項20】
前記分化誘導薬が、ビタミンA及びその合成類似体、レチノイド、ビタミンD及びその類似体、及びペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)リガンドからなる群から選択される、請求項18又は19に記載の製造物。
【請求項21】
場合により酸付加塩の形態である、式(III):
【化8】

(式中、
Xは、2又は3個の炭素原子を有するアルキル基であって、場合により分岐していてもよく、場合によりOH、NRR’、CN、OR、COORで置換されてもよく、ここで、R及びR’は、独立してH又はC1−C4アルキル基であり;
Yは、−NR1R2であり、ここで、R1及びR2は、独立してH又はC1−C6アルキル基であるか、あるいはR1及びR2は、それらが結合しているN原子と一緒になって、飽和若しくは不飽和の5又は6員の複素環を形成し、ここで、−NR1R2は、式(I)で表される化合物が酸付加塩の形態となるように、医薬として許容される無機物又は有機酸の付加から得られる第4級アンモニウム塩の形態であってもよく;
あるいは、Yは、ベンジル、フェニル又はC5若しくはC6アリール又は5若しくは6−ヘテロアリール基であり;及び
-は、医薬として許容される無機物又は有機酸の陰イオンであり;
−X−Y側鎖は、必要に応じて、T、U、V又はWに結合され;
T、U、V及びWは、ピリジル環を形成するようにC原子又はN原子であり、残りのT、U、V及び/Wは、C原子であり、
ただし、−X−Y側鎖は、N原子であるT、U、V及びWの1つと結合しており、
理解されるように、
【化9】

は、必要に応じて単結合又は二重結合を表し、その結果、縮合したピリジル環とともに形成した系は芳香族となり、生じる陽イオン:
【化10】

が形成される)
で表される9−ヒドロキシエリプチシン誘導体であって、ただし、2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムクロリド、2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテート、2−(ジイソプロピルアミノ−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテート、及び2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテートではない前記9−ヒドロキシエリプチシン誘導体。
【請求項22】
場合により酸付加塩の形態である、前記9−ヒドロキシエリプチシン誘導体が、式(IV):
【化11】

(式中、X、Y及びZ-は、請求項19に定義される通りである)
を有し、ただし、2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムクロリド、2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテート、2−(ジイソプロピルアミノ−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテート、及び2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテートではない、請求項21に記載の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体。
【請求項23】
Xがエチルであり、Yがピペリジンである、請求項22に記載の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体であって、ただし、2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテートでない、前記9−ヒドロキシエリプチシン誘導体。
【請求項24】
2−(ベータピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート又は得られるその第4級アンモニウム塩である、請求項21〜23のいずれか1項に記載9−ヒドロキシエリプチシン誘導体。
【請求項25】
下式:
【化12】

である、請求項21〜24のいずれか1項に記載の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体。
【請求項26】
2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムメタンスルホネート又は得られるその第4級アンモニウム塩である、請求項21又は22に記載の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体。
【請求項27】
医薬として許容される担体に含まれる、請求項21〜26のいずれか1項に記載の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体を含む医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図4D】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2009−537626(P2009−537626A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511595(P2009−511595)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001307
【国際公開番号】WO2007/135538
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(507396323)
【出願人】(507088967)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【Fターム(参考)】