説明

9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの製造方法

【課題】高純度で且つ着色の少ない9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを簡便かつ効率よく製造可能とする。
【解決手段】フルオレノンと2−フルオロアニリンとを、不活性雰囲気中、酸触媒共存下で縮合反応させ、続いて脱色処理を行い、下記式(I)で表される9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを製造する。得られる9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンは、耐熱性、高屈折性、低複屈折性に優れたポリマーを与えるのみならず、透明性をも大幅に改善され、光学用途のポリアミド、ポリイミド等の樹脂原料としておおいに役立つ。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料の原料として有用なフルオレン誘導体の製造方法に関する。9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンは、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、ジアミン類を原料とするポリマー(例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等)において、特に光学材料の場合、一層の耐熱性、透明性及び高屈折率、低複屈折率を備えた材料が強く要望されている。カルド構造を持つビスアニリンフルオレン類はポリマー(例えば、ポリイミド、ポリアミド)化した時の耐熱性、透明性に優れ、且つ高屈折率、低複屈折率を満足するので光学樹脂の原料として有望である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−081418号公報
【特許文献2】特開2007−254336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビスアニリンフルオレン類はアニリン類とフルオレノンを縮合して得られる。工業的に使用されるアニリン類は、アニリン、アルキルアニリン等が一般的ではあるが、これを用いたポリマーの場合、透明性が不十分であった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、高純度で且つ着色の少ない9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを簡便かつ効率よく製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、本発明を完成した。
本発明の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの製造方法は、フルオレノンと2−フルオロアニリンとを、不活性雰囲気中、酸触媒共存下で縮合反応させ、続いて脱色処理を行い、下記式(I)で表される9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを得ることを最も主要な特徴とする。
【化1】

【発明の効果】
【0007】
本発明の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの製造方法によれば、光学用途のポリアミド、ポリイミド等の樹脂原料として有用な、高純度で且つ着色のない9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを、簡便かつ効率よく製造することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンのGC−MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)スペクトルを示した図である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、アニリン類とフルオレノンを縮合して得られるビスアニリンフルオレン類において、その有用性を高めるという目的を、透明性や色相等について改良することにより、耐熱性、高屈折性、低複屈折性に優れたポリマーへの適応可能性の拡大を実現した。
【0010】
不活性雰囲気中、酸触媒の存在下、フルオレノンと2−フルオロアニリンとを縮合反応させ、反応混合物を中和処理し、水相を除去して、極性溶媒などで晶析させた後、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とし、アルミナと活性炭とを混合したもので脱色することで、高純度で且つ着色のない9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンが効率よく得られる。
【0011】
すなわち、本発明では、酸触媒の存在下、フルオレノンと下記式(II)で表されるo−フルオロアニリン類とを縮合反応させ、反応混合物を中和処理し、水相を除去して、極性溶媒などで晶析させることで、下記式(III)で表される9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを効率よく製造する。
【化2】

【化3】

【0012】
この方法において、2−フルオロアニリンを反応溶媒として用いることができる。この場合、2−フルオロアニリンの量は過剰量であり、フルオレノン1当量に対して3〜50当量で、好ましくは7〜15当量である。
【0013】
酸触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸等のプロトン酸、活性白土、シリカアルミナ、イオン交換樹脂等の固体酸、塩化アルミニウム、塩化亜鉛等のハロゲン化物など、いずれの酸も使用することができる。なかでも塩酸が最も好ましい。塩酸は水溶液として用いられ、その使用量は、フルオレノンの1モル(1当量)に対して0.1〜10当量程度、好ましくは0.75〜1.25当量である。また、フルオロアニリンの塩酸塩として同量の塩酸を使用しても良い。
【0014】
フルオレノンと2−フルオロアニリンとの反応では水が副生するが、これは除去しながら反応を進めることが有利である。留出する水には2−フルオロアニリンが飛沫同伴するので、反応温度を保つために還流をかけながら反応させる。水の留出を促進させるために共沸溶媒としてトルエン等を共存させても良い。
【0015】
反応は、不活性雰囲気、概して実質的に酸素を含まない不活性雰囲気中で行うことができる。好ましくは、チッ素ガス雰囲気中で行う。空気等の酸素を含む雰囲気中で反応を行うと赤紫色に着色する。これは2−フルオロアニリンが酸化されたりすることによって生ずるものと考えられる。
【0016】
反応温度は120〜200℃の範囲に設定することができるが、反応液を130〜200℃で縮合反応させるのがよい。また、2−フルオロアニリンの沸点よりも少し低い150〜185℃が好ましい。185℃よりも高い反応温度で反応させると製品着色という問題を生じやすくなり、150℃よりも低い反応温度で反応させるとフルオレノンが残留しやすいという不具合が生じる。
【0017】
反応時間は、温度、その他の条件によっても種々に設定できるが、2〜20時間でよく、好ましくは5〜8時間の範囲が適当である。余り長時間反応させると着色の原因となりやすい。
【0018】
反応終了の判断は、液体クロマトグラフによる分析で、フルオレノンの完全消費、及び2−フルオロアニリンが1分子縮合したもの等の中間体が2−フルオロアニリンを除く全体の20面積%以下、好ましくは1面積%以下とすることができる。
【0019】
反応終了後は、9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを分離精製し、製品とする。分離は任意の方法で行うことができるが、1例として、予備処理、晶析により不純物を除くことができる。
【0020】
予備処理として中和処理、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液で加温中和し、70〜90℃の温水にて油分中に生成した塩分を除去する。水相を除去し、油水分離する。
【0021】
その後、下層の油分を晶析溶媒、例えば大量のメタノール中へ攪拌しながら投入することで、余剰の2−フルオロアニリンはメタノール中へ拡散され、9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンが晶析される。これを濾過して粗結晶を取りだし、場合によってトルエン等の溶媒により再結晶処理を行うことで、目的物を得ることができる。
【0022】
晶析溶媒として、水、アルコール類、ケトン類及びニトリル類からなる群より選ばれる少なくとも1種類の極性溶媒を用いることができる。
【0023】
再結晶処理には芳香族溶媒等を用いることができる。例として、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒、へプタン、へキサン、ペンタン等の脂肪族溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン性溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒が用いられるが、中でも芳香族溶媒が好ましい。その量は、目的物に対して1〜30重量部、好ましくは5〜20重量部用いることができる。再結晶処理回数は、1回ないし数回の洗浄又は再結晶でよい。
【0024】
反応性生物は着色が激しくなりやすく、そのため、反応後、脱色処理を要する場合が多い。脱色工程は、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、且つ脱色剤として活性炭とアルミナを用いて行うことができる。活性炭とアルミナの比率は1.8:1〜2.2:1、例えば2:1でよく、活性炭とアルミナは9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンに対して40〜50重量(wt)%、例えば45重量%使用することができる。
【0025】
脱色工程で使用する溶媒には、テトラヒドロフラン、ジオキサン等を用いることができる。脱色工程で使用する脱色剤には、活性炭、アルミナ、活性白土、ゼオライト等を用いることができる。
【0026】
得られた目的物を乾燥して(GC−MSスペクトルで確認し)、製品とする。
【0027】
得られる9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの純度はガスクロマトグラフで99.0%以上とすることができる。また、色相並びに色彩はAPHA(American Public Health Association)で10以下、Labで、L=99以上、a=0.5以下、b=5.0以下とすることができる。
【0028】
本発明の製造方法によって得られた9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンは着色がなく、高純度が可能であり、光学用途のポリアミド、ポリイミド等の樹脂原料として用いることができる。
【0029】
色相並びに色彩は、APHA、Lab(JIS)等の色相、色調の基準を用いることができ、それらの測定方法には、20%の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンのテトラヒドロフラン溶液を作成し、日本電色工業(株)製OME−2000を用いることができる。
【実施例1】
【0030】
攪拌器、冷却器、温度計、水分除去装置、及び窒素導入管を備えた1Lのガラス製反応容器に、純度99.0%のフルオレノン49.5gと2−フルオロアニリン440g及び塩酸26gを仕込み、窒素雰囲気中、120℃にて塩酸中水分を除去、生成する2−フルオロアニリン塩酸塩を溶解させた。その後170℃まで昇温し、10時間反応を継続させた。
【0031】
反応終了後、80℃まで降温し、20%の水酸化ナトリウム水溶液51.9gで加温中和処理し、次いで80℃の温水100gで生成した塩化ナトリウムを攪拌除去した。油水分離後、下層を300gのメタノール中に攪拌しながら投入し、余剰の2−フルオロアニリンを拡散、9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを晶析させ、濾過をして粗結晶を100g取得した。粗結晶の純度は99.0%で着色はなく、収率は理論収量に対して95%であった。
【0032】
得られた粗結晶を2Lのトルエンに加温溶解させ、115℃で1時間還流したのち冷却濾過乾燥して、純度99.9%、APHA10以下、LabでL=99.5、a=0.4、b=3.0の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを93g取得した。
得られた9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンのGC−MSスペクトルを図1に示す。
【実施例2】
【0033】
実施例1と同じような装置に純度99.0%のフルオレノン49.5gと2−フルオロアニリン410.3g及び2−フルオロアニリン塩酸塩39.2gを仕込み、以下実施例1と同様の反応、精製を行い、純度99.9%、APHA10以下、LabでL=99.3、a=0.4、b=2.9の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを92g取得した。
【実施例3】
【0034】
実施例1と同じような装置に純度99.0%のフルオレノン74.3gと2−フルオロアニリン440g及び塩酸26gを仕込み、以下実施例1と同様の反応、精製を行い、純度99.9%、APHA10以下、LabでL=99.6、a=0.4、b=2.8の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを141g取得した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のフルオロアニリンを縮合させた9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンは、耐熱性、高屈折性、低複屈折性に優れたポリマーを与えるのみならず、透明性をも大幅に改善され、光学用途のポリアミド、ポリイミド等の樹脂原料としておおいに役立つ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオレノンと2−フルオロアニリンとを、不活性雰囲気中、酸触媒共存下で縮合反応させ、続いて脱色処理を行い、下記式(I)で表される9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンを得ることを特徴とする9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの製造方法。
【化1】

【請求項2】
前記酸触媒が塩酸であり、フルオレノン1当量に対して0.1〜10当量の塩酸を用いることを特徴とする請求項1に記載の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの製造方法。
【請求項3】
2−フルオロアニリンを反応溶媒としても用い、2−フルオロアニリンをフルオレノン1当量に対して3〜50当量使用することを特徴とする請求項1または2に記載の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの製造方法。
【請求項4】
反応液を130〜200℃で縮合反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの製造方法。
【請求項5】
前記縮合反応後、晶析することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの製造方法。
【請求項6】
晶析溶媒として、水、アルコール類、ケトン類およびニトリル類からなる群より選ばれる少なくとも1種類の極性溶媒を用いることを特徴とする請求項5に記載の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの製造方法。
【請求項7】
脱色工程で使用する溶媒にテトラヒドロフラン(THF)を用い、かつ脱色剤である活性炭とアルミナを用い、活性炭とアルミナとの比率は1.8:1〜2.2:1であり、活性炭とアルミナは9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンに対して40〜50重量%使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの製造方法。
【請求項8】
得られた9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの純度がガスクロマトグラフで99.0%以上、色相ならびに色彩がAPHAで10以下、Labで、L=99以上、a=0.5以下、b=5.0以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレンの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−84502(P2011−84502A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237638(P2009−237638)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】