AAVベクターの末梢注入を使用する広範囲におよぶ運動ニューロンへの遺伝子の送達
本発明は、哺乳動物の中枢神経系の細胞、例えば脳ニューロン又はグリア細胞、特に脊髄の運動ニューロン又はグリア細胞に遺伝子を送達するための、rAAVの全身注入に基づいた、組成物及び方法、特に方法に関する。本発明はまた、治療遺伝子の発現による、哺乳動物における運動ニューロン障害の処置法にも関する。本発明は、AAVベクターの末梢注入により、血液脳関門が迂回され、運動ニューロンに大規模感染するという、予期せぬ発見からもたらされる。本発明は、ヒト被験体を含む任意の哺乳動物に使用し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の中枢神経系の細胞に遺伝子を送達するための組成物及び方法に関する。本発明はまた、治療遺伝子の発現による、哺乳動物における運動ニューロン障害の処置法にも関する。本発明は、AAVベクターの末梢注入により血液脳関門が迂回され、中枢神経系における運動ニューロン並びに他の細胞に大規模に感染するという予期せぬ発見からもたらされる。本発明は、ヒト対象を含む、任意の哺乳動物において用いることができる。
【0002】
序論
運動ニューロン(MN)疾病、例えば脊髄性筋萎縮症(SMA)、筋萎縮性側策硬化症(ALS)、又はケネディー病は、脊髄、脳幹、及び/又は運動皮質における運動ニューロンの選択的変性により特徴づけられる神経変性疾患である(Monani 2005;Pasinelli及びBrown 2006);(MacLean, Warne et al.1996)。これらの疾病の処置法はない。なぜなら殆どの場合、全身注入を介した運動ニューロンへの薬物送達は、「血液脳関門」(BBB)の存在により妨害されるためである。この解剖学的及び生理学的障壁は、中枢神経系(CNS)毛細血管の内皮細胞間の密接な接合により形成され、血液循環とCNSの間を分子が容易に通過することを防いでいる(Scherrmann 2002)。組換えタンパク質を有する運動ニューロンをCNS実質に直接注入し供給する代替的な方法も、手術手順の侵襲性のために困難であり、臨床適応の可能性を妨げている。
【0003】
古典的な薬理学では失敗したため、科学社会は、特に、ウイルスベクターを使用した遺伝子導入技術に基づいた新規な治療戦略を開発するに至った。しかしながら、従来のウイルスベクターは一般的にBBBを通過せず、最初に提案された遺伝子導入戦略には、ベクターのくも膜下腔内送達、又は、脊髄実質への直接的注入が含まれていた(Davidson, PNAS 2000)(Azzouz, Hottinger et al.2000)。しかしながら、これらの侵襲的アプローチは、効率的で広範囲におよぶCNSの形質導入をもたらすことはできなかった。脳脊髄液(CSF)における治療タンパク質の分泌及びCNS実質への更なる拡散を介して、脈絡叢及び脳室上皮を上皮細胞に形質導入する目的で、脳室へのウイルスベクターの注入も使用された(Passini and Wolfe 2001)。しかしながら、全神経組織への組換えタンパク質の拡散は、決して最適とは言い難いものであり、ここでも、手術手順に関連したリスクの可能性が、この方法の臨床適用における障害物である。筋肉内(i.m.)注入によるウイルスベクターの運動ニューロンへの逆行性軸索輸送を使用した代替的な非侵襲的戦略が更に開発された。遺伝子ベクター、例えばアデノウイルス、アデノ随伴ベクター(AAV)、又は狂犬病G糖タンパク質で偽型にしたウマ貧血ウイルス(EIAV)は、実際に、筋肉内注入後に運動ニューロン軸索に沿って逆行性の輸送を受け、実験動物における下位運動ニューロンの形質導入に成功裏に使用された(Finiels et al.、1995;Kaspar et al.、2003;Azzouz et al.、2004)。しかしながら、この方法の臨床的価値は、患者の運動単位の大部分が罹患している病態における運動ニューロンをターゲティングするのに必要とされる、注入部位の数及びウイルス粒子の数がどちらも大きいため、問題が依然として残っている。
【0004】
これらの困難を克服するために、我々は、マウスにおいて、筋肉内(i.m.)、静脈内(i.v.)、及び腹腔内(i.p.)送達後の、新規なAAV血清型及びゲノムの運動ニューロン形質導入効率を試験した。特に、我々は、マウスのCNS形質導入を媒介する際の、血清型1及び9の組換え一本鎖AAVベクター及び自己相補性AAVベクター(それぞれ、ssAAV及びscAAV)の効率を比較した。
【0005】
我々の主な結果により、組換えAAVベクター(例えば、scAAV9)が、マウスにおいて静脈内送達された後に、脊髄運動ニューロンを形質導入するのに特に効率的であることが実証される。更に、我々は、LIX1遺伝子の欠損を伴う、ヒトSMAIII型に類似した常染色体劣性SMAの大型動物モデルであるイエネコモデルにおいてこの方法が実現可能であることを示す(Fyfe et al.,2006)。我々の方法により、CNSの他の細胞(グリア細胞、海馬及び手綱核のニューロン、及びアストロサイトを含む)の形質導入も可能となる。本発明は、初めて、対象の遺伝子をマウスへの1回の静脈内注射後に運動ニューロンへと移動させることにより、脊髄及び/又は他の神経細胞への広範囲におよぶ遺伝子の送達が行なわれ、それ故、運動ニューロン疾病の処置に対して新しい手段を提供することができることを示す。
【0006】
発明の要約
本発明は、組換えAAVベクターを使用して、CNSへ治療産物を送達するための新規な組成物及び方法に関する。より具体的には、本発明は、AAVベクターの末梢投与により、哺乳動物被験体の運動ニューロン又はグリア細胞に遺伝子を送達するための組成物及び方法に関する。
【0007】
本発明の目的は、より具体的には、被験体へのAAVベクターの末梢投与により、中枢神経系の細胞、特に運動ニューロン又はグリア細胞に遺伝子を送達するための医薬品の製造における、対象の遺伝子(例えば、治療産物又は診断産物をコードする)を含む該AAVベクターの使用に関する。
【0008】
本発明の他の目的は、被験体へのAAVベクターの末梢投与により、脊髄運動ニューロンに遺伝子を送達するための医薬品の製造における、対象の遺伝子(例えば、治療産物又は診断産物をコードする)を含む該AAVベクターの使用に関する。
【0009】
本発明の更なる目的は、哺乳動物における、中枢神経系の細胞、特に運動ニューロン又はグリア細胞に、遺伝子を送達する方法にあり、該方法は、該遺伝子を含むAAVベクターを哺乳動物に末梢経路により投与することを含み、該投与により、中枢神経系の細胞、特に運動ニューロン又はグリア細胞の、該AAVベクターによる感染が可能となり、これにより、中枢神経系の細胞、特に運動ニューロン又はグリア細胞への該遺伝子の送達が可能となる。
【0010】
本発明の目的はまた、被験体の運動ニューロン障害処置用の医薬品の製造のための治療遺伝子を含むAAVベクターの使用に関し、該AAVベクターは、末梢注入により該被験体に投与され、該投与により、(脊髄)運動ニューロンの感染及び(脊髄)運動ニューロンにおける該遺伝子の発現が引き起こされる。
【0011】
本発明の別の目的は、AAVベクターの末梢注入により被験体の(脊髄)運動ニューロン中に治療タンパク質又はRNAを産生するための医薬品の製造における、該AAVベクターの使用に関する。
【0012】
本発明はまた、血液脳関門を通過することにより、中枢神経系の細胞、特に運動ニューロン又はグリア細胞に遺伝子を送達するためのAAVベクターの使用に関する。
【0013】
本発明はまた、哺乳動物被験体において血液脳関門を通過する遺伝子治療法に関し、該方法は、被験体へのAAVベクターの末梢投与を含む。
【0014】
本発明の更なる目的は、哺乳動物被験体において中枢神経系の細胞、特に運動ニューロンを遺伝子的に改変する方法に関し、ここで該方法は、被験体へのAAVベクターの末梢投与を含む。
【0015】
本発明はまた、AAVベクターの末梢投与により、脊髄に遺伝子を送達するための医薬品の製造における該AAVベクターの使用に関する。
【0016】
本発明はまた、被験体の脊髄に遺伝子を送達する方法に関し、該方法は、該遺伝子を含むAAVベクターの被験体への末梢投与を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】筋肉内AAV注入後の新生仔マウス筋肉及びCNSへの広範囲におよぶ遺伝子送達(青色:mSEAPの組織学的染色)。ss−又はscAAV1又はAAV9の注入から3日後(PN4)又は7日後(PN8)の(a)腓腹筋、(b)脳(第3脳室)、及び(c)脊髄の代表的な横断面。NI:注入せず;PN4、生後4日目;PN8、生後8日目;ss、一本鎖;sc、自己相補性。尺度バー(b、c)100μm。
【図2】腹腔内AAV注入後の新生仔マウス筋肉及びCNSへの広範囲におよぶ遺伝子送達(青色:mSEAPの組織化学的染色)。(a)横隔膜筋、(b)第3脳室(矢印:mSEAPを発現している脈絡叢細胞;矢頭を有する矢印:上衣細胞)、(c)CNS実質(矢印:ニューロン細胞)。NI:注入せず;PN4、生後4日目;PN8、生後8日目;ss、一本鎖;sc、自己相補性。尺度バー(a、b、c)100μm;(d)40μm。
【図3】自己相補性AAV9−GFPの腹腔内送達は、新生仔マウスにおけるCNS形質導入を媒介する。AAV送達から7日後にGFP免疫組織化学検査のために処理された代表的な脳及び脊髄横断面。導入遺伝子発現は、(a)脈絡叢上皮細胞、(b)ニューロン(矢頭を有する矢印及び上のボックス)及びグリア(矢印及び下のボックス)の形態を有する海馬細胞、(c)嗅内皮質細胞(矢印は、典型的なニューロン形態を有する細胞を示す)、(d、e)脊髄細胞(矢印は、運動ニューロン形態を有するGFP標識細胞を示す)、及び(f)頸髄の感覚神経線維、において検出された。尺度バー40μm。
【図4】自己相補性AAV9ベクターの筋肉内送達により、新生仔マウスにおけるCNS細胞の形質導入が可能となる。脳及び脊髄の組織学的切片を、AAV注入から7日後にGFP免疫組織化学検査法で処理した。導入遺伝子発現は、(a)脈絡叢(矢印)及び上衣(矢頭を有する矢印)の上皮細胞、(b、c)中隔の神経細胞、及び(d、e)嗅内皮質の神経細胞、及び(f)頸髄の錐体交差準位における皮質脊髄路、において検出された。尺度バー20μm。
【図5】自己相補性AAV9ベクターの静脈内送達は、新生仔マウスのCNSにおけるGFP発現を媒介する。AAV注入から7日後のGFP免疫染色で処理された脳及び脊髄の組織学的切片の代表的な顕微鏡写真。GFP陽性細胞は、(a)脈絡叢(矢印)及び上衣(矢頭を有する矢印)の上皮細胞、(c)脳血管、(d、f)ニューロン(矢印)及びグリア(矢頭を有する矢印)形態を有する海馬細胞、(g)嗅内皮質のニューロン様細胞、において検出された。多くの運動ニューロン様細胞体(矢印)及び線維(矢頭を有する矢印)が、(h)頸髄、(i)胸髄、及び(j)腰髄準位において脊髄全体を通じて効率的に形質転換された。(b)第3脳室、又は(e)海馬、又は(k〜m)脊髄の代表的な切片において示されるように、注入されていないマウスのCNSには染色は観察されなかった。尺度バー(a、b)100μm、(c、d、f)40μm、(e、g)100μm、(h〜m)20μm。
【図6】GFPを発現している一本鎖AAV9ベクターは、新生仔マウスのCNSにおいて導入遺伝子発現を媒介する。ssAAV9ベクターの静脈内注入から3週間後にGFP免疫組織化学検査法で処理した新生仔マウス由来の脳及び脊髄の切片の代表的な顕微鏡写真。(a)脈絡叢(アステリスク)、海馬(矢頭を有する矢印及びボックス)、及び手綱核(矢印)、(b)正中隆起、及び(c〜e)腹側脊髄の運動ニューロン様細胞、におけるGFP陽性細胞。尺度バー パネルb:100μm;c、d、e:20μm。
【図7】組換えAAV9ベクターは、成体マウスCNSにおける導入遺伝子の発現を媒介する。mSEAPを発現しているscAAV9(a、c)、ssAAV9(b)、scAAV1(d)、及びssAAV1(e)の3×1011(b)又は1×1012(c〜h)個のベクターゲノムの静脈内送達から4週間後の、成体C57bl6マウス由来の代表的な冠状脳切片;尺度バー パネルg、h、j:100μm;パネルi、k、l:20μm。
【図8】静脈内注入された組換えAAV9ベクターは、成体マウスの脊髄において導入遺伝子の発現を媒介する。mSEAPを発現しているssAAV9(a、b)、scAAV9(c、g)の1×1012個のベクターゲノムの静脈内送達から4週間後の、成体C57bl6マウス由来の代表的な横断脊髄切片。尺度バー(a、b、e):40μm、ボックス:20μm;(c、d):100μm;(f):50μm;(g):20μm。
【図9】LIX−1ネコにおけるAAV9−GFPの静脈内注入は、脊髄全体を通じた導入遺伝子の発現を媒介する。2日目のLIX1ヘテロ接合型ネコの代表的な横断脊髄切片を、GFP発現scAAV9の頸静脈への注入から10日後に、レーザー走査共焦点顕微鏡を使用して観察したか(図9a、c)、又は、GFP免疫組織化学検査法で処理した(図9b、d)。尺度バー(a):200μm;(b、d):50μm;(c):100μm。
【図10】LIX−1ネコへのGFP発現AAV9(1.5×1012個のベクターゲノムを含むscAAV9−CMV−eGFPの粒子)の静脈内注入は、運動ニューロンにおける導入遺伝子の発現を媒介する。GFPに対する抗体及びコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を使用した二重免疫染色解析により、SMA罹患子ネコ(a〜c)及び非罹患子ネコ(d〜f)の両方において、GFP陽性細胞のかなりの部分が運動ニューロンであることが示された。
【図11】広範囲におよぶ脊髄の形質導入は、成体マウスにおいて高濃度scAAV9の静脈内送達により媒介される。2×1012個のウイルスゲノムのscAAV9の静脈内注入から4週間後の、GFP免疫染色のために処理した(a〜c)頸髄、及び(d、e)腰髄、(f)後根神経節切片における、ニューロン(矢印)細胞及びグリア(矢頭を有する矢印)細胞におけるGFPの高い発現。(g、j)GFP及び(h、k)GFAP(アストロサイトのマーカーであるグリア線維性酸性タンパク質、赤色)のための(g〜l)二重免疫蛍光解析により、いくつかのアストロサイトにおけるGFPの発現が示される(矢頭を有する矢印は、二重標識された細胞を示す)。(i、l)混合。尺度バー(a、b、d〜l):50μm、(c):20μm。
【0018】
発明の詳細な説明
脊髄への広範囲におよぶ遺伝子送達は、運動ニューロン(MN)疾病、例えば脊髄筋硬化症(SMA)又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置に対する重要な挑戦である。本明細書において、我々は、1回の組換えAAVベクターの末梢注入後に効率的な運動ニューロン形質導入を可能とする、新規な遺伝子導入法を記載する。我々は、血清型1及び9の組換え一本鎖(ss)AAVベクター及び自己相補性(sc)AAVベクターを、新生仔又は成体マウスに腹腔内、筋肉内、又は静脈内(i.v.)注入し、中枢神経系(CNS)における導入遺伝子の発現を解析した。組換えss−及びscAAV9ベクターの両方が、神経細胞及び上皮脳細胞、重要なことには、脊髄における運動ニューロン及びグリア細胞をターゲティングすることが判明した。背側感覚神経線維及び後根神経節もまた高度に形質導入された。最も印象的な形質導入効率は、scAAV9ベクターの静脈内注入により得られた。我々は更に、ネコのSMAモデルにおいて静脈内注入されたscAAV9が血液脳関門を迂回し、下位運動ニューロンを形質導入することができることを確認した。この戦略は、脊髄への広範囲におよぶ導入遺伝子の送達を達成した最初の非侵襲的な手順を示し、運動ニューロン疾病の処置のための新規な手段を提供するものである。
【0019】
AAVベクター
本発明の内容において、用語「AAVベクター」は、AAVの成分を含むか、又はAAVの成分から得られ、そして哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞を感染するのに適切である、任意のベクターのことをいう。用語AAVベクターは、典型的には、治療タンパク質をコードする少なくとも1種類の核酸分子を含む、AAV型ウイルス粒子(又はビリオン)のことをいう。以下に考察されているように、AAVは、様々な血清型(血清型の組合せ(すなわち「偽型」AAV)を含む)、又は様々なゲノム(例えば一本鎖又は自己相補性)から得られる。更に、AAVベクターは、複製欠損でもよく、そして/又はターゲティングされていてもよい。
【0020】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、約20nmのサイズの依存性パルボウイルスである。他のパルボウイルスと同様に、AAVは、2つのオープンリーディングフレームを含む、約5000ヌクレオチド長のゲノムを有する、一本鎖でエンベロープを持たないDNAウイルスである。左手オープンリーディングフレームは、複製(Rep)に関与するタンパク質をコードし、一方、右手オープンリーディングフレームは、カプシド(Cap)の構造タンパク質をコードする。オープンリーディングフレームは、2つのITR配列によりフランキングされており、この配列は、ウイルスゲノムの複製起点として働く。更に、ゲノムはまた、ウイルスゲノムがAAVカプシドにパッケージングされることを可能とする、パッケージング配列も含む。
【0021】
AAVは、培養細胞中で産生的な感染を受けるために、同時ヘルパー機能(例えばアデノウイルスにより、又は適切なパッケージング細胞もしくはヘルパープラスミドにより提供され得る)を必要とする。このようなヘルパー機能がなければ、AAVビリオンは本質的に細胞に侵入し、一本鎖DNA分子として核に移動し、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVは、感染する宿主範囲が広範であり(ヒト細胞を含む)、ヒトにおいて遍在性であり、完全に非病原性である。
【0022】
AAVベクターは、ヒト被験体において遺伝子送達を媒介するために(治療目的を含む)、設計され、作製され、使用されてきた。AAVベクターを使用した臨床試験が現在、様々な国において進行中である。典型的には、遺伝子導入に使用されるAAVベクターには、機能的Rep及びCapコードウイルス配列を欠失した複製欠損AAVゲノムが含まれる。このような複製欠損AAVベクターは、より好ましくは、Rep及びCapコード配列の殆ど又は全てを欠失し、本質的に1つ又は2つのAAV ITR配列及びパッケージング配列を保持している。
【0023】
パッケージング細胞、補助ウイルスもしくはプラスミド、及び/又はバキュロウイルス系の使用を含む、このようなAAVベクターの作製法は文献に開示されている(Samulski et al.,(1989)J.Virology 63、3822;Xiao et al.,(1998)J.Virology 72,2224;Inoue et al.,(1998)J.Virol.72,7024;国際公開公報第98/22607号;国際公開公報2005/072364号)。偽型AAVベクターの作製法(例えば国際公開公報第00/28004号)、並びに、インビボでの投与時にその免疫原性を低減させるためのAAVベクターの様々な改変又は調合が報告されている(例えば、国際公開公報第01/23001号;国際公開公報第00/73316号;国際公開公報第04/112727号;国際公開公報第05/005610号;国際公開公報第99/06562号を参照)。
【0024】
AAVベクターは、様々な血清型のAAVから調製又は誘導し得、これらを一緒に又は他の型のウイルスと混合して、キメラ(例えば偽型)AAVウイルスを作製してもよい。
【0025】
特定の態様において、本発明で使用されるAAVベクターは、ヒトAAVウイルスに由来する。このようなヒトAAV(カプシド及びITR)は、任意の既知の血清型から、例えば血清型1〜11のいずれか1つ、好ましくはAAV2、AAV4、AAV6、AAV8、及びAAV9、より好ましくはAAV6、AAV8、及びAAV9、更により好ましくはAAV9から得られる。このようなAAVベクターの具体例は、AAV2由来カプシド中にAAV2由来ゲノム(治療タンパク質をコードする核酸に作動可能に連結された、AAV2由来ITR及びAAV2由来パッケージング配列、好ましくは2つのAAV2由来ITRにフランキングされたAAV2由来パッケージング配列及び治療タンパク質をコードする核酸を含む、核酸分子)を含むベクター;AAV4由来カプシド中にAAV4由来ゲノムを含むベクター;AAV6由来カプシド中にAAV6由来ゲノムを含むベクター;AAV8由来カプシド中にAAV8由来ゲノムを含むベクター;AAV9由来カプシド中にAAV9由来ゲノムを含むベクターである。
【0026】
別の特定の態様において、AAVベクターは、偽型AAVベクターであり、すなわち、少なくとも2つの異なるAAV血清型を起源とする配列又は成分を含む。特定の態様において、偽型AAVベクターは、あるAAV血清型(例えばAAV2)から得られたAAVゲノムと、別個のAAV血清型から少なくとも一部は得られたカプシドとを含む。このような偽型AAVベクターの具体例には、AAV4由来カプシド中にAAV2由来ゲノムを含むベクター;又は、AAV6由来カプシド中にAAV2由来ゲノムを含むベクター;又は、AAV8由来カプシド中にAAV2由来ゲノムを含むベクター;又は、AAV9由来カプシド中にAAV2由来ゲノムを含むベクターが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0027】
更に特定の態様(これは、上記のいずれかの態様と組合せ得る)において、AAVベクターは、ベクターの指向性を変化させるための、改変されたカプシド(ウイルス起源ではないか又は構造的に改変されたタンパク質又はペプチドを含む)を含み得る。特定の例としては、カプシドは、特定のレセプター又は特定のリガンドを発現している細胞型にベクターをターゲティングさせるための、それぞれ、該レセプターのリガンド、又は該リガンドのレセプターを含み得る。
【0028】
本発明に使用されるAAVベクターにおけるAAVゲノムは、一本鎖核酸又は二本鎖の自己相補性核酸(McCarty et al.,Gene Therapy,2001)、より好ましくは自己相補性核酸であり得る。
【0029】
前記で考察したように、AAV由来ゲノムは、治療タンパク質をコードする核酸を含む。典型的には、該核酸はまた、コードされたタンパク質、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム侵入部位(IRES)、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)をコードする配列などの、発現、好ましくは分泌を可能とする、調節配列も含む。これに関して、該核酸は、最も好ましくは、感染細胞において治療タンパク質の発現を引き起こすか又は向上させる、コード配列に作動可能に連結された、プロモーター領域を含む。このようなプロモーターは、感染組織におけるタンパク質の効率的かつ適切な産生を可能とするように、遍在的、組織特異的、強い、弱い、調節された、キメラなどであり得る。プロモーターは、コードされたタンパク質と相同でも、又は異質でもよく、これには、細胞性、ウイルス性、真菌性、植物性、又は合成のプロモーターが挙げられる。本発明に使用される最も好ましいプロモーターは、神経細胞、特にヒト細胞、より好ましくは運動ニューロンにおいて機能的であろう。このような調節されたプロモーターの例には、Tetオン/オフエレメント含有プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター、及びメタロチオネインプロモーターが挙げられるがそれらに限定されるわけではない。運動ニューロンに特異的なプロモーターの例には、公知の運動ニューロン由来因子であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin Gene-Related Peptide、CGRP)のプロモーターが挙げられる。運動ニューロンにおいて機能的である他のプロモーターには、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)プロモーター、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、シナプシンプロモーター、又は遍在性プロモーター(ニューロン特異的サイレンサーエレメント(NRSE)を含む)が挙げられる。遍在性プロモーターの例には、ウイルスプロモーター、特にCMVプロモーター、RSVプロモーター、SV40プロモーターなど、及び細胞性プロモーター、例えばPGK(ホスホグリセレートキナーゼ)プロモーターが挙げられる。
【0030】
好ましい態様において、該核酸は、コードされたタンパク質の分泌を可能とするリーダー配列を含む。対象の導入遺伝子を、分泌シグナルペプチドをコードする配列(通常、分泌ポリペプチドのN末端に位置する)と融合することにより、形質導入細胞からCSF中に分泌され得る形態で治療タンパク質を産生することが可能となる。このようなシグナルペプチドの例には、アルブミン、β−グルクロニダーゼ、アルカリプロテアーゼ、又はフィブロネクチン分泌シグナルペプチドが挙げられる。
【0031】
別の具体的な態様によると、導入遺伝子を、PTD配列、例えばTat又はVP22配列と融合することにより、形質導入細胞からの治療タンパク質の分泌、及び、隣接細胞による再取り込みを引き起こすか又は向上させる。
【0032】
特定の態様において、該核酸は、コードされたタンパク質の発現及び分泌を可能とする、作動可能なリンカー、プロモーター、及びリーダー配列を含む。
【0033】
更に特定の態様において、該核酸は、コードされたタンパク質の発現及び分泌を可能とする、作動可能なリンカー、プロモーター、リーダー配列、及びPTD配列を含む。
【0034】
最も好ましい態様において、プロモーターは、運動ニューロンにおいて特異的又は機能的であり、すなわち、該細胞における導入遺伝子の(優先的な)発現を可能とするものである。
【0035】
前記に考察したように、AAVベクターは、実施例において更に例示されているように、当技術分野においてそれ自体公知である技術により作製され得る。
【0036】
末梢投与
本発明は、運動ニューロン又はグリア細胞における遺伝子の効率的かつ広範囲におよぶ発現は、AAVベクターの末梢投与により、非侵襲的な技術を用いて達成することができるという予期せぬ発見に基づいている。このような末梢投与には、脳への直接注入を意味しない任意の投与経路が含まれるがそれらに限定されるわけではない。より特定すると、末梢投与には、全身注入、例えば筋肉内(i.m.)、静脈内(i.v.)、腹腔内(i.p.)、動脈内、皮下、又は経皮注入が含まれる。末梢投与には、AAVベクターの経口投与(国際公開公報第96/40954号)、インプラントを使用した送達(国際公開公報第01/91803号)、又は、例えばスプレー、エアゾール、もしくは任意の他の適切な製剤を使用した、呼吸器系を通した滴下による投与も含まれる。
【0037】
最も好ましい末梢投与には、末梢注入、特に全身注入、最も好ましくは筋肉内、腹腔内、又は静脈内注入が含まれる。
【0038】
AAVベクターの用量は、例えば、疾病容態、被験体、処置計画などに応じて、当業者により容易に適応され得る。典型的には、マウスにおいて1用量あたり、109〜1014個のウイルスゲノム(形質導入単位)、好ましくは1011〜1013個のウイルスゲノムが投与される。典型的には、ヒトに投与されるAAVベクターの用量は、1011〜1017、好ましくは1013〜1016個のウイルスゲノムの範囲であり得る。本発明の内容において好ましい有効量は、脊髄細胞(運動ニューロン及び/又はグリア細胞)の最適な形質導入を可能とする用量である。
【0039】
AAVベクターは、任意の適切な形態で、液状溶液又は懸濁液のいずれかとして、注入前の液体中の溶液又は懸濁液に適した固体形として、ゲル又はエマルションとして投与され得る。AAVベクターは、典型的には、任意の適切で薬学的に許容され得る賦形剤、担体、補助剤、希釈剤などと共に調合される。注入用の賦形剤は、液状で等張な溶液、緩衝液、例えば、滅菌された発熱物質を含まない水、又は滅菌された発熱物質を含まないリン酸緩衝生理食塩水であり得る。吸入用の賦形剤は、粒子形であり得る。
【0040】
AAVベクターは、典型的には、「治療有効」量で、すなわち、疾病状態に関連した症状の少なくとも1つを軽減(例えば減少、低減)するに十分な量、又は、被験体の容態を改善するに十分な量で投与される。必要であれば、同じもしくは異なる末梢投与経路及び/又は同じもしくは異なるAAV血清型を使用して、反復投与を行なってもよいことを指摘する。
【0041】
本発明者らは初めて、末梢投与されたAAVベクター、特にscAAVベクターが血液脳関門を通過し、実質的にCNS細胞への感染を引き起こすことを示した。この効果は、血液脳関門破壊剤の使用を必要とせずに得られるものである。高熱、マンニトール、ブラジキニン、及びNS1619は、例示的な血液脳関門破壊剤である。
【0042】
従って、特定の態様において、本発明は、AAVベクター、好ましくはscAAVベクター、より好ましくはscAAV9ベクターの末梢投与を含み、血液脳関門破壊剤が全く用いられていない、前記に定義されたような使用又は方法に関する。更に、本発明は、マンニトールが被験体に全く注入されない、前記で定義されたような使用又は方法に関する。
【0043】
又は、別の特定の態様において、本発明は、本発明で実施されるscAAVベクターの血液脳関門の通過を更に増加させるために、血液脳関門破壊剤又は破壊方法を用いて血液脳関門を破壊することを更に含む、前記で定義したような使用又は方法に関する。
【0044】
運動ニューロン障害
本発明は、初めて、末梢に投与されたAAVベクターが血液脳関門を通過し、CNS細胞、特に脊髄全体におよぶ運動ニューロンへの実質的な感染を引き起こすことを示す。提示された結果により、感染が、脊髄の頸髄セグメントから腰髄セグメントまで効果を及ぼし、これにより運動ニューロンへの広範囲におよぶ遺伝子の送達がなされたことが示される。
【0045】
本発明を使用して、治療産物をCNS細胞(運動ニューロンを含む)へ送達することにより、様々な疾患を処置し得る。治療産物は、細胞もしくは被験体におけるタンパク質の不在もしくは欠損から生じる症状を軽減もしくは低減し得るか、又は、別の点で被験体に利点を付与し得る、任意のタンパク質、ペプチド、又はRNAであり得る。治療タンパク質の例には、成長因子、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質、酵素、抗アポトーシス因子、血管新生因子、及び、「生存運動ニューロン」タンパク質(SMN)などの病的疾患において突然変異していることが知られている任意のタンパク質が挙げられる。治療RNAの例には、本明細書で後述するいずれかの疾病おいて治療的関心を有するタンパク質をコードする、アンチセンスRNA又はRNAiターゲティングメッセンジャーRNAが挙げられる。例えば、ALS処置の観点では、スーパーオキシドジスムターゼ酵素をターゲティングしたRNAiが、前記に定義したようなAAVベクターによりコードされ得る。
【0046】
治療産物に応じて、本発明を使用することにより、様々な疾病を処置することができ、これには、治療タンパク質を神経組織に発現することにより処置又は予防し得る任意の疾病が含まれる。このような疾病には、CNS疾患、好ましくは、神経変性疾病、神経筋疾病、リソソーム病、外傷、骨髄損傷、疼痛(神経障害性疼痛を含む)、神経系の癌、脱髄疾病、神経系の自己免疫疾病、神経毒症候群、睡眠障害から選択されたCNS疾患が含まれる。
【0047】
疾病の具体例には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、トゥレット症候群、統合失調症、スライ病、ハンター病、痴呆、妄想性障害、強迫性障害、学習障害、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、シャルコー・マリー・トゥース病、脊髄小脳失調症、痙性麻痺、ケネディ病、神経膠芽腫、神経芽細胞腫、自閉症、ゴーシュ病、ハーラー病、クラッベ病、及び挙動変化(例えば睡眠障害、知覚障害、又は認知障害)が挙げられる。
【0048】
本発明は、予防処置又は治癒処置のために、任意の哺乳動物、特にヒト被験体(成人を含む)において使用され得る。
【0049】
本発明はまた診断法において使用することにより、哺乳動物被験体における運動ニューロンの状態又は活性又は成長を検出することもできる。このような適用では、ベクターは、典型的には、検出可能な遺伝子(蛍光、発光など)を含み、そしてマーカーとして使用される。
【0050】
本発明はまた動物被験体において使用することにより、例えば、CNS疾患を処置するための候補薬物の研究を支援したり、そして/又は運動ニューロンの成長、分化、活性などのメカニズムを解明することもできる。
【0051】
本発明の更なる局面及び利点は、以下の実験の章で開示されており、これは、単なる例示として捉えるべきであり、本発明の範囲を限定するものと捉えるべきではない。
【0052】
実施例
材料及び方法
動物。妊娠した成体(6〜8週令の雌)のC57Bl/6マウスは、Charles River Laboratories(Les Oncins, France)から購入した。新生仔に誕生日(生後1日目、PN1)に注入した。SMAネコブリーダー(ヘテロ接合性で冒された動物)はFyfe博士(米国ミシガン州所在、Laboratory of Comparative Medical Genetics)から入手し、ナント(Nantes)獣医学校のCenter of Boisbonneで飼育した。SMA子ネコの遺伝子型同定は、以前に記載されているように実施した(Fyfe、Menotti-Raymond et al.2006)。実験は、地域倫理委員会(CREEA)により承認された。全ての動物実験は、人間による実験動物の世話及び使用に関する欧州ガイドラインに従って実施した。
【0053】
ベクター調製。
偽型AAV2/1及びAAV2/9ベクターは、AAV2_をベースとした組換え一本鎖(ss)及び自己相補性(sc)ゲノムをAAV1及び9カプシドにパッケージングすることにより作製された。簡潔には、ベクターは、(1)アデノウイルスヘルパープラスミド、(2)rep2及びcap1もしくは9遺伝子をコードするAAVパッケージングプラスミド(AAV1ではpLTRC02、AAV9ではp5E18−VD2/9)、(3)ss又はscゲノムとしてmSEAP又はGFP(サイトメガロウイルス最初期(CMV IE)プロモーターの制御下)を含むAAV2ベクタープラスミド(Xiao,Li et al.1998)を用いて、HEK293細胞におけるヘルパーウイルスを含まない3種プラスミド同時トランスフェクションを使用して作製された。この後者のプラスミドは、逆位末端配列の1つから、D配列及び末端分離部位(trs)を欠失させることにより作製された。組換えベクターは、二回のCsCl超遠心分離にかけ、その後、リン酸緩衝食塩水に対して透析することにより精製した。物理的粒子は、マウスに注入されたベクターについてはリアルタイムPCRにより、ネコに注入されたベクターについてはドットブロットハイブリダイゼーションにより定量し、ベクター力価は、ウイルスゲノム/ml(vg/ml)として表現した。
【0054】
AAVベクターのインビボでの注入
新生仔マウスに、誕生日(生後1日目、PN1)に注入した。筋肉内注入では、mSeAP又はGFPをコードするAAVベクター溶液(ssAAV2/1(n=2)、ssAAV2/9(n=2)、scAAV2/1(n=2)、又はscAAV2/9(n=3))を、三頭筋及び腓腹筋の両方に注入した(1筋肉あたり1か所の注入部位、1回の注入につき5μl、マウス1匹あたり8×109〜2×1010個のウイルスゲノム)。腹腔内注入では、mSeAP又はGFPをコードするウイルス溶液(ssAAV2/1、n=2、ssAAV2/9、n=1、scAAV2/1、n=1、及びscAAV2/9、n=2)を、1日令のC57Bl/6マウスの腹腔に注入した(100μl、マウス1匹あたり3×1010〜1011個のウイルスゲノム)。静脈内注入では、1日令のC57Bl/6マウスの側頭静脈に、scAAV2/9−GFPベクターを注入した(50μl、マウス1匹あたり1.5×1010個のウイルスゲノム、n=3)。成体C57Bl/6マウスの尾静脈に、scAAV2/9−mSeAP又はscAAV2/9−GFPベクターを注入した(500μl、マウス1匹あたり3×1011個のウイルスゲノム)。生誕2日後、合計で1.5×1012個のベクターゲノムを含むscAAV9−CMV−eGFPの粒子を、1匹のSMA罹患ネコ及び1匹のSMAヘテロ接合性ネコの頸静脈に注入した。
【0055】
組織学的検査のための灌流及び組織加工
筋肉、脳、及び脊髄を、新生仔マウスから注入の1日後(PN2)、3日後(PN4)、もしくは7日後(PN8)に、又は、成体マウスから注入の7日後及び35日後に取り出した。成体C57Bl6マウスを麻酔し(キシラジン10mg/kg、ケタミン100mg/kg)、0.1Mリン酸緩衝食塩水(PBS)で、次いでPBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)を用いて心内を灌流した。組織を取り出し、4時間、同溶液中で後固定し、その後、一晩4℃で脳及び筋肉については15%スクロースに移し、脊髄については30%スクロースに移した。新生仔を断頭し、組織を4%PFA中に4時間浸漬し、その後4℃で一晩凍結保護した。試料を冷イソペンタン(−50℃)中で凍結させ、連続切片をクリオスタットで切り出し、更なる解析のために−80℃で保存した。
【0056】
注入から10日後、ネコを麻酔し(メデトミジン150μg/kg、ケタミン10mg/kg)、10mlのリン酸緩衝食塩水で、次いで100mlの4%PFAを用いて経心的に灌流した。脳及び脊髄を取り出し、切り出して冠状の5mmの平板とし、次いで、4%PFAで後固定し、その後、30%スクロース中で一晩凍結保護し、その後、OCT化合物中でドライアイス上で凍結させた。脊髄切片は、1×100μmの間隔で切り出し、その後、クリオスタットで5×10μmの間隔で切り出した。共焦点顕微鏡によるGFPシグナルの検査に100μmの厚さの切片が使用され、免疫細胞化学検査には10μmの厚さの切片が使用された。
【0057】
導入遺伝子発現の評価
mSeAP組織化学的検査では、新生仔マウスの筋肉、脳、及び脊髄を、注入から1日後、3日後、及び7日後に取り出し、冷イソペンタン(−50℃)中で凍結させ、即時使用のために−80℃で維持した。成体動物の脳及び脊髄は、注入から35日後に収集し、同条件下で処理した。脳及び脊髄では16μmの厚さの組織切片を、筋肉では8μmの厚さの組織切片をクリオスタットで作製し、その後、導入遺伝子発現のために加工した。該切片を、0.5%グルタルアルデヒドで固定し、PBSで洗浄し、内因性アルカリホスファターゼを30分間65℃で熱により失活させた。その後、切片を、一晩37℃で、0.165mg/mlの5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート及び0.33mg/mlのニトロブルーテトラゾリウムの、100mMトリス−HCl、100mMのNaCl及び50mMのMgCl2溶液中でインキュベートし、ヘマトキシリン−エオシンで対比染色し、Eukitを用いてマウントした。
【0058】
マウスにおけるGFP免疫組織化学的検査においては、切片をPBS中で洗浄し、内因性ペルオキシダーゼを阻害するために過酸化水素溶液(ペルオキシダーゼ遮断溶液、Dako)中で30分間インキュベートした。PBS中で洗浄した後、切片を、10%ヤギ血清(Dako)及び0.4%Tritonを含むPBS中で室温で1時間かけて遮断し、その後、ウサギポリクローナル抗GFP(Abcam;1:3000)と共に一晩インキュベートした。ビオチンにコンジュゲートさせた二次抗体(Vectastain、1:200)及びVectastain Elite ABCキットを使用し、DAB基質キット(Vector Laboratories)を用いてペルオキシダーゼについてのDABの染色を明らかにした。切片をアルコール及びキシレン中で脱水し、Eukitを用いてマウントした。
【0059】
ネコにおけるGFP免疫細胞化学的検査は、10μmの脊髄凍結切片で行なった。簡潔には、脊髄切片を、PBS中0.2%Tween20(pH7.4)を用いて透過処理し、5%ヤギ血清を用いて遮断し、ポリクローナル抗体AB3080:GFP(Chemicon、1:50)と共に二晩4℃でインキュベートし、ビオチニル化ヤギ抗ウサギ抗体と共にインキュベートした。ジアミノベンジジン基質のペルオキシダーゼを使用することにより、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ複合体と共にインキュベートした後に免疫標識が明らかになった。切片を、ヘマトキシリンを用いて対比染色した。
【0060】
運動ニューロンのコリンアセチルトランスフェラーゼを、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)ヤギポリクローナルChAT抗体(AB144P、Chemicon、フランス、1:100)を用いて標識した。簡潔には、脊髄切片を、1%ウサギ血清のPBS/T×100 0.4%溶液中で遮断し、一次抗体と共に一晩室温でインキュベートし、ビオチニル化ウサギ抗ヤギ抗体と共にインキュベートした。免疫標識は、ストレプトアビジンアレクサ555蛍光と共にインキュベートした後に明らかとなり、切片を、共焦点顕微鏡下で観察するためにMowiol媒体(Calbiochem, USA)を加えてカバーガラスをかけた。
【0061】
レーザー共焦点走査顕微鏡
GFPの発現及び免疫細胞化学的検査は、488nm(緑)及び543nm(赤)でそれぞれ単色光線を放出するブルーアルゴンイオンレーザー及びヘリウムネオンレーザーを備えた、倒立ニコンTE−2000レーザー走査共焦点顕微鏡を用いて観察した。スライドを、油浸20倍の対物レンズを使用して連続的に走査した。各画像を別々のチャネルで記録し(GFPではチャネル緑で、ストレプトアビジン555ではチャネル赤)、同所に局在する蛍光シグナルの検出が可能となるように重層させた。
【0062】
実施例1.mSEAP発現AAVベクターの新生仔マウスの筋肉内への注入
我々は初めに、血清型1及び9ss−又はscAAVベクターが、筋肉内注入後にCNS細胞を形質導入できるかについて評価した。サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター下のマウス分泌アルカリホスファターゼ(mSEAP)をコードするssAAV1、ssAAV9、scAAV1、又はscAAV9を、1日令のC57Bl6マウスの三頭筋及び腓腹筋の両方に注入した(マウス1匹あたり8×109〜2×1010個のウイルスゲノム、1群あたり3匹のマウス)。注入された筋肉、脳、及び脊髄組織を、注入から1日後、3日後、又は7日後に取り出し、組織化学的検査を使用してmSEAP発現について解析した。
【0063】
mSEAP発現は、ssAAV9以外の、各AAV血清型の注入から3日後及び7日後に、注入された筋肉において検出され、発現レベルは時間と共に劇的に増加した(図1a)。CNSでは、導入遺伝子の発現は、scAAV9の筋肉内注入後のみで検出された。興味深いことに、mSEAPの発現は、脳脊髄液(CSF)において多くのタンパク質及び毒素の分泌及び排除に重要な役割を果たしている(Redzic, 2005)、脈絡叢の上皮細胞において検出された(図1b)。脈絡叢におけるmSEAP発現は、注入から早くも3日後(PN4)に見出され、発現レベルはここでも時間と共に増加した。scAAV9ベクターの筋肉内注入後、弱い導入遺伝子の発現もまた、脳血管中又は脳血管周辺及び脊髄に位置していた(図1c)。
【0064】
実施例2.mSEAP発現AAVベクターの新生仔マウスの腹腔内への注入
我々は、その後、ssAAV1、ssAAV9、scAAV1、及びscAAV9の、1日令のC57Bl6マウスの腹腔内への投与(100μl、マウス1匹あたり3×1010〜1×1011個のウイルスゲノム)により、注入から1日後、3日後、又は7日後にCNSにおいて導入遺伝子の発現が媒介され得るかどうかを解析した。
【0065】
低いレベルのmSEAP発現が、ssAAV1を注入したマウスの横隔膜筋線維において、注入から3日後までに検出され、これは、scAAV1で観察されたものと類似しており(図2a)、注入から7日後の両方のベクターで観察されたものとも類似していた(図2a)。ssAAV9は、注入から21日後のみにおいて、いくつかの筋肉線維を形質導入したが、一方、scAAV9を使用した場合、注入から3日後の横隔膜において強力なmSEAP染色が判明した(図2a)。この高レベルの形質導入は、上腕三頭筋及び腓腹筋などの他の筋肉においても観察された(データは提示せず)。
【0066】
脈絡叢及び上衣の上皮細胞は、scAAV9の注入後に明瞭に標識されたようであった(図2b)。注入から7日後にこれらの領域において頑強な形質導入が更に観察された(図2b)。導入遺伝子の発現は、注入から7日後に脳及び脊髄全体の両方における髄膜及び血管内に観察され、筋肉内注入後に観察されたものよりも高かった(図2c)。興味深いことに、mSEAP発現はまた、脳及び脊髄中のいくつかの神経細胞にも検出された(図2d)。共に合わせて考えると、これらの結果により、mSEAPタンパク質を発現する、筋肉内又は腹腔内注入されたscAAV9ベクターは、CNS、特に脈絡叢及び上衣の上皮細胞を効率的にターゲティングできることが示される。
【0067】
実施例3.scAAV9−GFPの新生仔マウスの筋肉内又は腹腔内注入後のCNSにおける導入遺伝子の発現
mSEAPは分泌されたタンパク質であるので、AAVの末梢注入後にCNSにおいて観察された導入遺伝子発現は、AAV細胞形質導入からではなくむしろ、タンパク質経細胞輸送から生じた可能性があった。それ故、我々は、分泌されないタンパク質を使用して類似の結果を得ることができるかどうかを確かめた。
【0068】
「緑蛍光タンパク質」(GFP)を発現している組換えscAAV9ベクターを、新生仔マウスの腹腔内(マウス1匹あたり3×1010個のウイルスゲノム、100μl)又は筋肉内(マウス1匹あたり、20μl中8×109個のウイルスゲノム、1つの筋肉あたり5μl)に注入した。7日後、scAAV9−mSEAPで観察されたのと同様に、GFPの発現は、脳室に位置する脈絡叢及び上衣細胞において観察された(図3a及び図4a)。更に、我々は、この場合、いくつかの脳領域における多くのGFP陽性神経細胞が、特に、脳室の近くに位置することを見出した。海馬中の細胞体及び線維(図3b)、中隔(図4b、c)、及び嗅内皮質(図3c、図4d〜e)が効率的に形質導入されたようであった。
【0069】
重要なことには、GFP発現は、AAV投与から7日後に脊髄細胞(運動ニューロン様の表現型を有する細胞を含む)において検出された(図3d、e)。強力なGFP発現がまた、頸髄準位で横断する皮質脊髄路の線維にも見出された(図3f及び4h)。これらの線維の形質導入は、上位運動ニューロン(その細胞体は運動皮質に位置し、これもGFP免疫陽性のようであった)へのターゲティングから生じたようである(図3d)。全般的に、多数のGFP免疫陽性細胞が、筋肉内注入後よりも腹腔内注入後にCNSにおいて検出され、これは、注入経路間の効力の差、又は、腹腔内手順で使用されたベクターが高い力価であったことに起因していた。
【0070】
実施例4.GFP発現scAAV9の新生仔マウスの静脈内への注入後のCNSにおける導入遺伝子の発現
組換えscAAV9ベクターは、筋肉内又は腹腔内送達後にCNS細胞形質導入を媒介する上で最も効率的なベクターであるように思われたので、我々は、静脈内投与経路を使用することによりこのベクターを改善することができるかどうかを評価した。
【0071】
従って、GFP発現scAAV9ベクターを、1日令のC57Bl6マウスの側頭静脈に注入し(50μl、マウス1匹あたり1.5×1010個のウイルスゲノム)、CNS組織を取り出し、その7日後に免疫染色のために加工した。強力なGFP発現が、脈絡叢及び上衣細胞の両方(図5a)及び脳血管(図5c)において検出された。ここでも、我々は、脳全体におよぶニューロン様及びグリア様表現型の両方の細胞内に、特に嗅内皮質(図5d)及び海馬(図5e、f)においてGFP発現を見出した。
【0072】
非常に高いレベルの導入遺伝子発現が、脊髄全体に(頸髄セグメントから腰髄セグメントにかけて)、運動ニューロン様表現型及び位置(腹側脊髄)を有する細胞において見られた(図5h〜i)。これはおそらく、ベクターが、血管を通して血液循環から脳実質へと拡散、又は/及び、上位CNS領域からの軸索順行輸送により拡散することから生じる。
【0073】
その後、我々は、ssAAV9もまたBBBを通過し、静脈内送達後にCNS細胞を形質導入できるかどうか、又は、この特性が二本鎖ゲノムに特異的であるかどうかを決定する。この目的では、GFP発現ssAAV9ベクターを、新生仔マウスの側頭静脈に注入し、GFP発現を3週間後(ゲノムが二本鎖DNAへと変換されるように)に解析した。
scAAV9で観察されたのと同じように、ssAAV9−GFPは、静脈内送達後にCNS細胞の形質導入を媒介することが判明したが、その効力は、scAAV9の効力よりも低かった。ここでも、脈絡叢及び上衣細胞が大量のGFPを発現し、脳室に近い多くの脳領域が形質導入されたことが判明した(図6a)。例えば、GFP陽性ニューロンは、海馬及び手綱核(図6a)並びに正中隆起(図6b)において検出された。興味深いことに、いくつかの運動ニューロン様細胞は、腹側脊髄においてGFPを発現することが判明した(図6c〜e)。数個のCNS細胞もまた、組換えssAAV9の筋肉内又は腹腔内送達後にGFPを発現することが判明した(データは提示せず)。
【0074】
共に合わせて考えると、これらのデータにより、血清型9AAVベクター(通常形態又は自己相補性形態)が、新生仔マウスへの1回の静脈内注入後に、BBBを通過し、新生仔マウスにおけるCNS細胞(下位運動ニューロンを含む)を形質導入することができるという予期せぬ能力が示唆される。
【0075】
実施例5.成体マウスにおけるss及びscAAV9ベクターの静脈内注入
BBBは新生仔マウスにおいて不完全に形成されているので、我々は、AAV9ベクターが新生仔マウスの神経細胞を形質導入する能力が、成体マウスでも保存されているかどうかを評価した。mSEAPをコードするss及びscAAVベクター(マウス1匹あたり、3×1011個又は1×1012個のウイルスゲノム)を成体マウスの尾静脈に注入し、CNSにおける導入遺伝子の発現を、その4週間後に解析した。scAAV9−mSEAPの静脈内送達後、導入遺伝子の発現持続が、多くの脳領域、例えば正中隆起(図7f)、海馬(図7g)、又は脳梁(図7h)において見られた。
【0076】
重要なことは、組換え血清型9AAVベクターの静脈内送達後に、脊髄全体を通じて多くのmSEAP陽性の細胞及び線維が存在していたことであった(図8a〜g)。ここでも、従来のssAAV9ベクターを用いた場合よりも、scAAV9ベクターを使用した場合の方が、より高いレベルの導入遺伝子発現が観察された(図8a、b対8c〜g)。
【0077】
scAAV9−GFPを使用した類似の注入により、脊髄への全身からの遺伝子の送達における、scAAV9の優位性が実証された。2×1012個のウイルスゲノムのscAAV9の静脈内注入から4週間後に多くが発現することが判明し、GFPは、脊髄の神経細胞及びグリア細胞の両方において発現しており、これはアストロサイトのマーカーであるグリア線維酸性タンパク質(GFAP)の免疫染色を使用して実証された(図11)。
【0078】
従って、我々の結果により、BBBが完全に形成されている成体マウスへの組換えAAV9ベクターの静脈内送達後における、CNS細胞(下位運動ニューロン及びグリア細胞を含む)の効率的な形質導入が示される。これは、これらのベクターが、血液循環からBBBを通ってCNS実質へと通過し、神経細胞への広範囲におよぶ遺伝子導入を達成するという特異な特性を強調するものである。
【0079】
実施例6.大型動物モデルにおけるAAV9−GFPの静脈内注入
大型動物モデルにおけるこの新規なCNS遺伝子導入戦略の検証は、ヒトへの臨床応用に必須である。我々は、組換えscAAV9ベクターの静脈内送達後に、LIX−1ネコの脊髄における導入遺伝子の発現を評価した。2日令のネコ(1匹はホモ接合型、1匹はヘテロ接合型)の頸静脈に、GFP発現scAAV9を注入した。10日後、脊髄組織切片を、レーザー走査共焦点顕微鏡を使用してGFP発現について解析した。強力なGFPシグナルが、脊髄に沿って頸部から馬尾までの灰白質及び白質の両方において観察され、発現パターンは、ヘテロ接合型動物及び罹患動物の両方において類似していたようであった。薄束及び楔状背側感覚路の神経線維は、高レベルのGFPを発現していた(図9a)。更に、GFP発現は、GFPの蛍光(図9a、c)及び免疫組織化学的解析(図9b〜d)の両方の観察後に、腹側脊髄の多くの細胞体で検出された。GFPに対する抗体及びコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を使用した二重免疫染色解析により、SMA罹患ネコ及び非罹患ネコの両方において、GFP陽性部分のかなりの部分が、運動ニューロンであることが示された(図10)。
【0080】
【表1】
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の中枢神経系の細胞に遺伝子を送達するための組成物及び方法に関する。本発明はまた、治療遺伝子の発現による、哺乳動物における運動ニューロン障害の処置法にも関する。本発明は、AAVベクターの末梢注入により血液脳関門が迂回され、中枢神経系における運動ニューロン並びに他の細胞に大規模に感染するという予期せぬ発見からもたらされる。本発明は、ヒト対象を含む、任意の哺乳動物において用いることができる。
【0002】
序論
運動ニューロン(MN)疾病、例えば脊髄性筋萎縮症(SMA)、筋萎縮性側策硬化症(ALS)、又はケネディー病は、脊髄、脳幹、及び/又は運動皮質における運動ニューロンの選択的変性により特徴づけられる神経変性疾患である(Monani 2005;Pasinelli及びBrown 2006);(MacLean, Warne et al.1996)。これらの疾病の処置法はない。なぜなら殆どの場合、全身注入を介した運動ニューロンへの薬物送達は、「血液脳関門」(BBB)の存在により妨害されるためである。この解剖学的及び生理学的障壁は、中枢神経系(CNS)毛細血管の内皮細胞間の密接な接合により形成され、血液循環とCNSの間を分子が容易に通過することを防いでいる(Scherrmann 2002)。組換えタンパク質を有する運動ニューロンをCNS実質に直接注入し供給する代替的な方法も、手術手順の侵襲性のために困難であり、臨床適応の可能性を妨げている。
【0003】
古典的な薬理学では失敗したため、科学社会は、特に、ウイルスベクターを使用した遺伝子導入技術に基づいた新規な治療戦略を開発するに至った。しかしながら、従来のウイルスベクターは一般的にBBBを通過せず、最初に提案された遺伝子導入戦略には、ベクターのくも膜下腔内送達、又は、脊髄実質への直接的注入が含まれていた(Davidson, PNAS 2000)(Azzouz, Hottinger et al.2000)。しかしながら、これらの侵襲的アプローチは、効率的で広範囲におよぶCNSの形質導入をもたらすことはできなかった。脳脊髄液(CSF)における治療タンパク質の分泌及びCNS実質への更なる拡散を介して、脈絡叢及び脳室上皮を上皮細胞に形質導入する目的で、脳室へのウイルスベクターの注入も使用された(Passini and Wolfe 2001)。しかしながら、全神経組織への組換えタンパク質の拡散は、決して最適とは言い難いものであり、ここでも、手術手順に関連したリスクの可能性が、この方法の臨床適用における障害物である。筋肉内(i.m.)注入によるウイルスベクターの運動ニューロンへの逆行性軸索輸送を使用した代替的な非侵襲的戦略が更に開発された。遺伝子ベクター、例えばアデノウイルス、アデノ随伴ベクター(AAV)、又は狂犬病G糖タンパク質で偽型にしたウマ貧血ウイルス(EIAV)は、実際に、筋肉内注入後に運動ニューロン軸索に沿って逆行性の輸送を受け、実験動物における下位運動ニューロンの形質導入に成功裏に使用された(Finiels et al.、1995;Kaspar et al.、2003;Azzouz et al.、2004)。しかしながら、この方法の臨床的価値は、患者の運動単位の大部分が罹患している病態における運動ニューロンをターゲティングするのに必要とされる、注入部位の数及びウイルス粒子の数がどちらも大きいため、問題が依然として残っている。
【0004】
これらの困難を克服するために、我々は、マウスにおいて、筋肉内(i.m.)、静脈内(i.v.)、及び腹腔内(i.p.)送達後の、新規なAAV血清型及びゲノムの運動ニューロン形質導入効率を試験した。特に、我々は、マウスのCNS形質導入を媒介する際の、血清型1及び9の組換え一本鎖AAVベクター及び自己相補性AAVベクター(それぞれ、ssAAV及びscAAV)の効率を比較した。
【0005】
我々の主な結果により、組換えAAVベクター(例えば、scAAV9)が、マウスにおいて静脈内送達された後に、脊髄運動ニューロンを形質導入するのに特に効率的であることが実証される。更に、我々は、LIX1遺伝子の欠損を伴う、ヒトSMAIII型に類似した常染色体劣性SMAの大型動物モデルであるイエネコモデルにおいてこの方法が実現可能であることを示す(Fyfe et al.,2006)。我々の方法により、CNSの他の細胞(グリア細胞、海馬及び手綱核のニューロン、及びアストロサイトを含む)の形質導入も可能となる。本発明は、初めて、対象の遺伝子をマウスへの1回の静脈内注射後に運動ニューロンへと移動させることにより、脊髄及び/又は他の神経細胞への広範囲におよぶ遺伝子の送達が行なわれ、それ故、運動ニューロン疾病の処置に対して新しい手段を提供することができることを示す。
【0006】
発明の要約
本発明は、組換えAAVベクターを使用して、CNSへ治療産物を送達するための新規な組成物及び方法に関する。より具体的には、本発明は、AAVベクターの末梢投与により、哺乳動物被験体の運動ニューロン又はグリア細胞に遺伝子を送達するための組成物及び方法に関する。
【0007】
本発明の目的は、より具体的には、被験体へのAAVベクターの末梢投与により、中枢神経系の細胞、特に運動ニューロン又はグリア細胞に遺伝子を送達するための医薬品の製造における、対象の遺伝子(例えば、治療産物又は診断産物をコードする)を含む該AAVベクターの使用に関する。
【0008】
本発明の他の目的は、被験体へのAAVベクターの末梢投与により、脊髄運動ニューロンに遺伝子を送達するための医薬品の製造における、対象の遺伝子(例えば、治療産物又は診断産物をコードする)を含む該AAVベクターの使用に関する。
【0009】
本発明の更なる目的は、哺乳動物における、中枢神経系の細胞、特に運動ニューロン又はグリア細胞に、遺伝子を送達する方法にあり、該方法は、該遺伝子を含むAAVベクターを哺乳動物に末梢経路により投与することを含み、該投与により、中枢神経系の細胞、特に運動ニューロン又はグリア細胞の、該AAVベクターによる感染が可能となり、これにより、中枢神経系の細胞、特に運動ニューロン又はグリア細胞への該遺伝子の送達が可能となる。
【0010】
本発明の目的はまた、被験体の運動ニューロン障害処置用の医薬品の製造のための治療遺伝子を含むAAVベクターの使用に関し、該AAVベクターは、末梢注入により該被験体に投与され、該投与により、(脊髄)運動ニューロンの感染及び(脊髄)運動ニューロンにおける該遺伝子の発現が引き起こされる。
【0011】
本発明の別の目的は、AAVベクターの末梢注入により被験体の(脊髄)運動ニューロン中に治療タンパク質又はRNAを産生するための医薬品の製造における、該AAVベクターの使用に関する。
【0012】
本発明はまた、血液脳関門を通過することにより、中枢神経系の細胞、特に運動ニューロン又はグリア細胞に遺伝子を送達するためのAAVベクターの使用に関する。
【0013】
本発明はまた、哺乳動物被験体において血液脳関門を通過する遺伝子治療法に関し、該方法は、被験体へのAAVベクターの末梢投与を含む。
【0014】
本発明の更なる目的は、哺乳動物被験体において中枢神経系の細胞、特に運動ニューロンを遺伝子的に改変する方法に関し、ここで該方法は、被験体へのAAVベクターの末梢投与を含む。
【0015】
本発明はまた、AAVベクターの末梢投与により、脊髄に遺伝子を送達するための医薬品の製造における該AAVベクターの使用に関する。
【0016】
本発明はまた、被験体の脊髄に遺伝子を送達する方法に関し、該方法は、該遺伝子を含むAAVベクターの被験体への末梢投与を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】筋肉内AAV注入後の新生仔マウス筋肉及びCNSへの広範囲におよぶ遺伝子送達(青色:mSEAPの組織学的染色)。ss−又はscAAV1又はAAV9の注入から3日後(PN4)又は7日後(PN8)の(a)腓腹筋、(b)脳(第3脳室)、及び(c)脊髄の代表的な横断面。NI:注入せず;PN4、生後4日目;PN8、生後8日目;ss、一本鎖;sc、自己相補性。尺度バー(b、c)100μm。
【図2】腹腔内AAV注入後の新生仔マウス筋肉及びCNSへの広範囲におよぶ遺伝子送達(青色:mSEAPの組織化学的染色)。(a)横隔膜筋、(b)第3脳室(矢印:mSEAPを発現している脈絡叢細胞;矢頭を有する矢印:上衣細胞)、(c)CNS実質(矢印:ニューロン細胞)。NI:注入せず;PN4、生後4日目;PN8、生後8日目;ss、一本鎖;sc、自己相補性。尺度バー(a、b、c)100μm;(d)40μm。
【図3】自己相補性AAV9−GFPの腹腔内送達は、新生仔マウスにおけるCNS形質導入を媒介する。AAV送達から7日後にGFP免疫組織化学検査のために処理された代表的な脳及び脊髄横断面。導入遺伝子発現は、(a)脈絡叢上皮細胞、(b)ニューロン(矢頭を有する矢印及び上のボックス)及びグリア(矢印及び下のボックス)の形態を有する海馬細胞、(c)嗅内皮質細胞(矢印は、典型的なニューロン形態を有する細胞を示す)、(d、e)脊髄細胞(矢印は、運動ニューロン形態を有するGFP標識細胞を示す)、及び(f)頸髄の感覚神経線維、において検出された。尺度バー40μm。
【図4】自己相補性AAV9ベクターの筋肉内送達により、新生仔マウスにおけるCNS細胞の形質導入が可能となる。脳及び脊髄の組織学的切片を、AAV注入から7日後にGFP免疫組織化学検査法で処理した。導入遺伝子発現は、(a)脈絡叢(矢印)及び上衣(矢頭を有する矢印)の上皮細胞、(b、c)中隔の神経細胞、及び(d、e)嗅内皮質の神経細胞、及び(f)頸髄の錐体交差準位における皮質脊髄路、において検出された。尺度バー20μm。
【図5】自己相補性AAV9ベクターの静脈内送達は、新生仔マウスのCNSにおけるGFP発現を媒介する。AAV注入から7日後のGFP免疫染色で処理された脳及び脊髄の組織学的切片の代表的な顕微鏡写真。GFP陽性細胞は、(a)脈絡叢(矢印)及び上衣(矢頭を有する矢印)の上皮細胞、(c)脳血管、(d、f)ニューロン(矢印)及びグリア(矢頭を有する矢印)形態を有する海馬細胞、(g)嗅内皮質のニューロン様細胞、において検出された。多くの運動ニューロン様細胞体(矢印)及び線維(矢頭を有する矢印)が、(h)頸髄、(i)胸髄、及び(j)腰髄準位において脊髄全体を通じて効率的に形質転換された。(b)第3脳室、又は(e)海馬、又は(k〜m)脊髄の代表的な切片において示されるように、注入されていないマウスのCNSには染色は観察されなかった。尺度バー(a、b)100μm、(c、d、f)40μm、(e、g)100μm、(h〜m)20μm。
【図6】GFPを発現している一本鎖AAV9ベクターは、新生仔マウスのCNSにおいて導入遺伝子発現を媒介する。ssAAV9ベクターの静脈内注入から3週間後にGFP免疫組織化学検査法で処理した新生仔マウス由来の脳及び脊髄の切片の代表的な顕微鏡写真。(a)脈絡叢(アステリスク)、海馬(矢頭を有する矢印及びボックス)、及び手綱核(矢印)、(b)正中隆起、及び(c〜e)腹側脊髄の運動ニューロン様細胞、におけるGFP陽性細胞。尺度バー パネルb:100μm;c、d、e:20μm。
【図7】組換えAAV9ベクターは、成体マウスCNSにおける導入遺伝子の発現を媒介する。mSEAPを発現しているscAAV9(a、c)、ssAAV9(b)、scAAV1(d)、及びssAAV1(e)の3×1011(b)又は1×1012(c〜h)個のベクターゲノムの静脈内送達から4週間後の、成体C57bl6マウス由来の代表的な冠状脳切片;尺度バー パネルg、h、j:100μm;パネルi、k、l:20μm。
【図8】静脈内注入された組換えAAV9ベクターは、成体マウスの脊髄において導入遺伝子の発現を媒介する。mSEAPを発現しているssAAV9(a、b)、scAAV9(c、g)の1×1012個のベクターゲノムの静脈内送達から4週間後の、成体C57bl6マウス由来の代表的な横断脊髄切片。尺度バー(a、b、e):40μm、ボックス:20μm;(c、d):100μm;(f):50μm;(g):20μm。
【図9】LIX−1ネコにおけるAAV9−GFPの静脈内注入は、脊髄全体を通じた導入遺伝子の発現を媒介する。2日目のLIX1ヘテロ接合型ネコの代表的な横断脊髄切片を、GFP発現scAAV9の頸静脈への注入から10日後に、レーザー走査共焦点顕微鏡を使用して観察したか(図9a、c)、又は、GFP免疫組織化学検査法で処理した(図9b、d)。尺度バー(a):200μm;(b、d):50μm;(c):100μm。
【図10】LIX−1ネコへのGFP発現AAV9(1.5×1012個のベクターゲノムを含むscAAV9−CMV−eGFPの粒子)の静脈内注入は、運動ニューロンにおける導入遺伝子の発現を媒介する。GFPに対する抗体及びコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を使用した二重免疫染色解析により、SMA罹患子ネコ(a〜c)及び非罹患子ネコ(d〜f)の両方において、GFP陽性細胞のかなりの部分が運動ニューロンであることが示された。
【図11】広範囲におよぶ脊髄の形質導入は、成体マウスにおいて高濃度scAAV9の静脈内送達により媒介される。2×1012個のウイルスゲノムのscAAV9の静脈内注入から4週間後の、GFP免疫染色のために処理した(a〜c)頸髄、及び(d、e)腰髄、(f)後根神経節切片における、ニューロン(矢印)細胞及びグリア(矢頭を有する矢印)細胞におけるGFPの高い発現。(g、j)GFP及び(h、k)GFAP(アストロサイトのマーカーであるグリア線維性酸性タンパク質、赤色)のための(g〜l)二重免疫蛍光解析により、いくつかのアストロサイトにおけるGFPの発現が示される(矢頭を有する矢印は、二重標識された細胞を示す)。(i、l)混合。尺度バー(a、b、d〜l):50μm、(c):20μm。
【0018】
発明の詳細な説明
脊髄への広範囲におよぶ遺伝子送達は、運動ニューロン(MN)疾病、例えば脊髄筋硬化症(SMA)又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置に対する重要な挑戦である。本明細書において、我々は、1回の組換えAAVベクターの末梢注入後に効率的な運動ニューロン形質導入を可能とする、新規な遺伝子導入法を記載する。我々は、血清型1及び9の組換え一本鎖(ss)AAVベクター及び自己相補性(sc)AAVベクターを、新生仔又は成体マウスに腹腔内、筋肉内、又は静脈内(i.v.)注入し、中枢神経系(CNS)における導入遺伝子の発現を解析した。組換えss−及びscAAV9ベクターの両方が、神経細胞及び上皮脳細胞、重要なことには、脊髄における運動ニューロン及びグリア細胞をターゲティングすることが判明した。背側感覚神経線維及び後根神経節もまた高度に形質導入された。最も印象的な形質導入効率は、scAAV9ベクターの静脈内注入により得られた。我々は更に、ネコのSMAモデルにおいて静脈内注入されたscAAV9が血液脳関門を迂回し、下位運動ニューロンを形質導入することができることを確認した。この戦略は、脊髄への広範囲におよぶ導入遺伝子の送達を達成した最初の非侵襲的な手順を示し、運動ニューロン疾病の処置のための新規な手段を提供するものである。
【0019】
AAVベクター
本発明の内容において、用語「AAVベクター」は、AAVの成分を含むか、又はAAVの成分から得られ、そして哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞を感染するのに適切である、任意のベクターのことをいう。用語AAVベクターは、典型的には、治療タンパク質をコードする少なくとも1種類の核酸分子を含む、AAV型ウイルス粒子(又はビリオン)のことをいう。以下に考察されているように、AAVは、様々な血清型(血清型の組合せ(すなわち「偽型」AAV)を含む)、又は様々なゲノム(例えば一本鎖又は自己相補性)から得られる。更に、AAVベクターは、複製欠損でもよく、そして/又はターゲティングされていてもよい。
【0020】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、約20nmのサイズの依存性パルボウイルスである。他のパルボウイルスと同様に、AAVは、2つのオープンリーディングフレームを含む、約5000ヌクレオチド長のゲノムを有する、一本鎖でエンベロープを持たないDNAウイルスである。左手オープンリーディングフレームは、複製(Rep)に関与するタンパク質をコードし、一方、右手オープンリーディングフレームは、カプシド(Cap)の構造タンパク質をコードする。オープンリーディングフレームは、2つのITR配列によりフランキングされており、この配列は、ウイルスゲノムの複製起点として働く。更に、ゲノムはまた、ウイルスゲノムがAAVカプシドにパッケージングされることを可能とする、パッケージング配列も含む。
【0021】
AAVは、培養細胞中で産生的な感染を受けるために、同時ヘルパー機能(例えばアデノウイルスにより、又は適切なパッケージング細胞もしくはヘルパープラスミドにより提供され得る)を必要とする。このようなヘルパー機能がなければ、AAVビリオンは本質的に細胞に侵入し、一本鎖DNA分子として核に移動し、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVは、感染する宿主範囲が広範であり(ヒト細胞を含む)、ヒトにおいて遍在性であり、完全に非病原性である。
【0022】
AAVベクターは、ヒト被験体において遺伝子送達を媒介するために(治療目的を含む)、設計され、作製され、使用されてきた。AAVベクターを使用した臨床試験が現在、様々な国において進行中である。典型的には、遺伝子導入に使用されるAAVベクターには、機能的Rep及びCapコードウイルス配列を欠失した複製欠損AAVゲノムが含まれる。このような複製欠損AAVベクターは、より好ましくは、Rep及びCapコード配列の殆ど又は全てを欠失し、本質的に1つ又は2つのAAV ITR配列及びパッケージング配列を保持している。
【0023】
パッケージング細胞、補助ウイルスもしくはプラスミド、及び/又はバキュロウイルス系の使用を含む、このようなAAVベクターの作製法は文献に開示されている(Samulski et al.,(1989)J.Virology 63、3822;Xiao et al.,(1998)J.Virology 72,2224;Inoue et al.,(1998)J.Virol.72,7024;国際公開公報第98/22607号;国際公開公報2005/072364号)。偽型AAVベクターの作製法(例えば国際公開公報第00/28004号)、並びに、インビボでの投与時にその免疫原性を低減させるためのAAVベクターの様々な改変又は調合が報告されている(例えば、国際公開公報第01/23001号;国際公開公報第00/73316号;国際公開公報第04/112727号;国際公開公報第05/005610号;国際公開公報第99/06562号を参照)。
【0024】
AAVベクターは、様々な血清型のAAVから調製又は誘導し得、これらを一緒に又は他の型のウイルスと混合して、キメラ(例えば偽型)AAVウイルスを作製してもよい。
【0025】
特定の態様において、本発明で使用されるAAVベクターは、ヒトAAVウイルスに由来する。このようなヒトAAV(カプシド及びITR)は、任意の既知の血清型から、例えば血清型1〜11のいずれか1つ、好ましくはAAV2、AAV4、AAV6、AAV8、及びAAV9、より好ましくはAAV6、AAV8、及びAAV9、更により好ましくはAAV9から得られる。このようなAAVベクターの具体例は、AAV2由来カプシド中にAAV2由来ゲノム(治療タンパク質をコードする核酸に作動可能に連結された、AAV2由来ITR及びAAV2由来パッケージング配列、好ましくは2つのAAV2由来ITRにフランキングされたAAV2由来パッケージング配列及び治療タンパク質をコードする核酸を含む、核酸分子)を含むベクター;AAV4由来カプシド中にAAV4由来ゲノムを含むベクター;AAV6由来カプシド中にAAV6由来ゲノムを含むベクター;AAV8由来カプシド中にAAV8由来ゲノムを含むベクター;AAV9由来カプシド中にAAV9由来ゲノムを含むベクターである。
【0026】
別の特定の態様において、AAVベクターは、偽型AAVベクターであり、すなわち、少なくとも2つの異なるAAV血清型を起源とする配列又は成分を含む。特定の態様において、偽型AAVベクターは、あるAAV血清型(例えばAAV2)から得られたAAVゲノムと、別個のAAV血清型から少なくとも一部は得られたカプシドとを含む。このような偽型AAVベクターの具体例には、AAV4由来カプシド中にAAV2由来ゲノムを含むベクター;又は、AAV6由来カプシド中にAAV2由来ゲノムを含むベクター;又は、AAV8由来カプシド中にAAV2由来ゲノムを含むベクター;又は、AAV9由来カプシド中にAAV2由来ゲノムを含むベクターが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0027】
更に特定の態様(これは、上記のいずれかの態様と組合せ得る)において、AAVベクターは、ベクターの指向性を変化させるための、改変されたカプシド(ウイルス起源ではないか又は構造的に改変されたタンパク質又はペプチドを含む)を含み得る。特定の例としては、カプシドは、特定のレセプター又は特定のリガンドを発現している細胞型にベクターをターゲティングさせるための、それぞれ、該レセプターのリガンド、又は該リガンドのレセプターを含み得る。
【0028】
本発明に使用されるAAVベクターにおけるAAVゲノムは、一本鎖核酸又は二本鎖の自己相補性核酸(McCarty et al.,Gene Therapy,2001)、より好ましくは自己相補性核酸であり得る。
【0029】
前記で考察したように、AAV由来ゲノムは、治療タンパク質をコードする核酸を含む。典型的には、該核酸はまた、コードされたタンパク質、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム侵入部位(IRES)、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)をコードする配列などの、発現、好ましくは分泌を可能とする、調節配列も含む。これに関して、該核酸は、最も好ましくは、感染細胞において治療タンパク質の発現を引き起こすか又は向上させる、コード配列に作動可能に連結された、プロモーター領域を含む。このようなプロモーターは、感染組織におけるタンパク質の効率的かつ適切な産生を可能とするように、遍在的、組織特異的、強い、弱い、調節された、キメラなどであり得る。プロモーターは、コードされたタンパク質と相同でも、又は異質でもよく、これには、細胞性、ウイルス性、真菌性、植物性、又は合成のプロモーターが挙げられる。本発明に使用される最も好ましいプロモーターは、神経細胞、特にヒト細胞、より好ましくは運動ニューロンにおいて機能的であろう。このような調節されたプロモーターの例には、Tetオン/オフエレメント含有プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター、及びメタロチオネインプロモーターが挙げられるがそれらに限定されるわけではない。運動ニューロンに特異的なプロモーターの例には、公知の運動ニューロン由来因子であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin Gene-Related Peptide、CGRP)のプロモーターが挙げられる。運動ニューロンにおいて機能的である他のプロモーターには、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)プロモーター、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、シナプシンプロモーター、又は遍在性プロモーター(ニューロン特異的サイレンサーエレメント(NRSE)を含む)が挙げられる。遍在性プロモーターの例には、ウイルスプロモーター、特にCMVプロモーター、RSVプロモーター、SV40プロモーターなど、及び細胞性プロモーター、例えばPGK(ホスホグリセレートキナーゼ)プロモーターが挙げられる。
【0030】
好ましい態様において、該核酸は、コードされたタンパク質の分泌を可能とするリーダー配列を含む。対象の導入遺伝子を、分泌シグナルペプチドをコードする配列(通常、分泌ポリペプチドのN末端に位置する)と融合することにより、形質導入細胞からCSF中に分泌され得る形態で治療タンパク質を産生することが可能となる。このようなシグナルペプチドの例には、アルブミン、β−グルクロニダーゼ、アルカリプロテアーゼ、又はフィブロネクチン分泌シグナルペプチドが挙げられる。
【0031】
別の具体的な態様によると、導入遺伝子を、PTD配列、例えばTat又はVP22配列と融合することにより、形質導入細胞からの治療タンパク質の分泌、及び、隣接細胞による再取り込みを引き起こすか又は向上させる。
【0032】
特定の態様において、該核酸は、コードされたタンパク質の発現及び分泌を可能とする、作動可能なリンカー、プロモーター、及びリーダー配列を含む。
【0033】
更に特定の態様において、該核酸は、コードされたタンパク質の発現及び分泌を可能とする、作動可能なリンカー、プロモーター、リーダー配列、及びPTD配列を含む。
【0034】
最も好ましい態様において、プロモーターは、運動ニューロンにおいて特異的又は機能的であり、すなわち、該細胞における導入遺伝子の(優先的な)発現を可能とするものである。
【0035】
前記に考察したように、AAVベクターは、実施例において更に例示されているように、当技術分野においてそれ自体公知である技術により作製され得る。
【0036】
末梢投与
本発明は、運動ニューロン又はグリア細胞における遺伝子の効率的かつ広範囲におよぶ発現は、AAVベクターの末梢投与により、非侵襲的な技術を用いて達成することができるという予期せぬ発見に基づいている。このような末梢投与には、脳への直接注入を意味しない任意の投与経路が含まれるがそれらに限定されるわけではない。より特定すると、末梢投与には、全身注入、例えば筋肉内(i.m.)、静脈内(i.v.)、腹腔内(i.p.)、動脈内、皮下、又は経皮注入が含まれる。末梢投与には、AAVベクターの経口投与(国際公開公報第96/40954号)、インプラントを使用した送達(国際公開公報第01/91803号)、又は、例えばスプレー、エアゾール、もしくは任意の他の適切な製剤を使用した、呼吸器系を通した滴下による投与も含まれる。
【0037】
最も好ましい末梢投与には、末梢注入、特に全身注入、最も好ましくは筋肉内、腹腔内、又は静脈内注入が含まれる。
【0038】
AAVベクターの用量は、例えば、疾病容態、被験体、処置計画などに応じて、当業者により容易に適応され得る。典型的には、マウスにおいて1用量あたり、109〜1014個のウイルスゲノム(形質導入単位)、好ましくは1011〜1013個のウイルスゲノムが投与される。典型的には、ヒトに投与されるAAVベクターの用量は、1011〜1017、好ましくは1013〜1016個のウイルスゲノムの範囲であり得る。本発明の内容において好ましい有効量は、脊髄細胞(運動ニューロン及び/又はグリア細胞)の最適な形質導入を可能とする用量である。
【0039】
AAVベクターは、任意の適切な形態で、液状溶液又は懸濁液のいずれかとして、注入前の液体中の溶液又は懸濁液に適した固体形として、ゲル又はエマルションとして投与され得る。AAVベクターは、典型的には、任意の適切で薬学的に許容され得る賦形剤、担体、補助剤、希釈剤などと共に調合される。注入用の賦形剤は、液状で等張な溶液、緩衝液、例えば、滅菌された発熱物質を含まない水、又は滅菌された発熱物質を含まないリン酸緩衝生理食塩水であり得る。吸入用の賦形剤は、粒子形であり得る。
【0040】
AAVベクターは、典型的には、「治療有効」量で、すなわち、疾病状態に関連した症状の少なくとも1つを軽減(例えば減少、低減)するに十分な量、又は、被験体の容態を改善するに十分な量で投与される。必要であれば、同じもしくは異なる末梢投与経路及び/又は同じもしくは異なるAAV血清型を使用して、反復投与を行なってもよいことを指摘する。
【0041】
本発明者らは初めて、末梢投与されたAAVベクター、特にscAAVベクターが血液脳関門を通過し、実質的にCNS細胞への感染を引き起こすことを示した。この効果は、血液脳関門破壊剤の使用を必要とせずに得られるものである。高熱、マンニトール、ブラジキニン、及びNS1619は、例示的な血液脳関門破壊剤である。
【0042】
従って、特定の態様において、本発明は、AAVベクター、好ましくはscAAVベクター、より好ましくはscAAV9ベクターの末梢投与を含み、血液脳関門破壊剤が全く用いられていない、前記に定義されたような使用又は方法に関する。更に、本発明は、マンニトールが被験体に全く注入されない、前記で定義されたような使用又は方法に関する。
【0043】
又は、別の特定の態様において、本発明は、本発明で実施されるscAAVベクターの血液脳関門の通過を更に増加させるために、血液脳関門破壊剤又は破壊方法を用いて血液脳関門を破壊することを更に含む、前記で定義したような使用又は方法に関する。
【0044】
運動ニューロン障害
本発明は、初めて、末梢に投与されたAAVベクターが血液脳関門を通過し、CNS細胞、特に脊髄全体におよぶ運動ニューロンへの実質的な感染を引き起こすことを示す。提示された結果により、感染が、脊髄の頸髄セグメントから腰髄セグメントまで効果を及ぼし、これにより運動ニューロンへの広範囲におよぶ遺伝子の送達がなされたことが示される。
【0045】
本発明を使用して、治療産物をCNS細胞(運動ニューロンを含む)へ送達することにより、様々な疾患を処置し得る。治療産物は、細胞もしくは被験体におけるタンパク質の不在もしくは欠損から生じる症状を軽減もしくは低減し得るか、又は、別の点で被験体に利点を付与し得る、任意のタンパク質、ペプチド、又はRNAであり得る。治療タンパク質の例には、成長因子、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質、酵素、抗アポトーシス因子、血管新生因子、及び、「生存運動ニューロン」タンパク質(SMN)などの病的疾患において突然変異していることが知られている任意のタンパク質が挙げられる。治療RNAの例には、本明細書で後述するいずれかの疾病おいて治療的関心を有するタンパク質をコードする、アンチセンスRNA又はRNAiターゲティングメッセンジャーRNAが挙げられる。例えば、ALS処置の観点では、スーパーオキシドジスムターゼ酵素をターゲティングしたRNAiが、前記に定義したようなAAVベクターによりコードされ得る。
【0046】
治療産物に応じて、本発明を使用することにより、様々な疾病を処置することができ、これには、治療タンパク質を神経組織に発現することにより処置又は予防し得る任意の疾病が含まれる。このような疾病には、CNS疾患、好ましくは、神経変性疾病、神経筋疾病、リソソーム病、外傷、骨髄損傷、疼痛(神経障害性疼痛を含む)、神経系の癌、脱髄疾病、神経系の自己免疫疾病、神経毒症候群、睡眠障害から選択されたCNS疾患が含まれる。
【0047】
疾病の具体例には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、トゥレット症候群、統合失調症、スライ病、ハンター病、痴呆、妄想性障害、強迫性障害、学習障害、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、シャルコー・マリー・トゥース病、脊髄小脳失調症、痙性麻痺、ケネディ病、神経膠芽腫、神経芽細胞腫、自閉症、ゴーシュ病、ハーラー病、クラッベ病、及び挙動変化(例えば睡眠障害、知覚障害、又は認知障害)が挙げられる。
【0048】
本発明は、予防処置又は治癒処置のために、任意の哺乳動物、特にヒト被験体(成人を含む)において使用され得る。
【0049】
本発明はまた診断法において使用することにより、哺乳動物被験体における運動ニューロンの状態又は活性又は成長を検出することもできる。このような適用では、ベクターは、典型的には、検出可能な遺伝子(蛍光、発光など)を含み、そしてマーカーとして使用される。
【0050】
本発明はまた動物被験体において使用することにより、例えば、CNS疾患を処置するための候補薬物の研究を支援したり、そして/又は運動ニューロンの成長、分化、活性などのメカニズムを解明することもできる。
【0051】
本発明の更なる局面及び利点は、以下の実験の章で開示されており、これは、単なる例示として捉えるべきであり、本発明の範囲を限定するものと捉えるべきではない。
【0052】
実施例
材料及び方法
動物。妊娠した成体(6〜8週令の雌)のC57Bl/6マウスは、Charles River Laboratories(Les Oncins, France)から購入した。新生仔に誕生日(生後1日目、PN1)に注入した。SMAネコブリーダー(ヘテロ接合性で冒された動物)はFyfe博士(米国ミシガン州所在、Laboratory of Comparative Medical Genetics)から入手し、ナント(Nantes)獣医学校のCenter of Boisbonneで飼育した。SMA子ネコの遺伝子型同定は、以前に記載されているように実施した(Fyfe、Menotti-Raymond et al.2006)。実験は、地域倫理委員会(CREEA)により承認された。全ての動物実験は、人間による実験動物の世話及び使用に関する欧州ガイドラインに従って実施した。
【0053】
ベクター調製。
偽型AAV2/1及びAAV2/9ベクターは、AAV2_をベースとした組換え一本鎖(ss)及び自己相補性(sc)ゲノムをAAV1及び9カプシドにパッケージングすることにより作製された。簡潔には、ベクターは、(1)アデノウイルスヘルパープラスミド、(2)rep2及びcap1もしくは9遺伝子をコードするAAVパッケージングプラスミド(AAV1ではpLTRC02、AAV9ではp5E18−VD2/9)、(3)ss又はscゲノムとしてmSEAP又はGFP(サイトメガロウイルス最初期(CMV IE)プロモーターの制御下)を含むAAV2ベクタープラスミド(Xiao,Li et al.1998)を用いて、HEK293細胞におけるヘルパーウイルスを含まない3種プラスミド同時トランスフェクションを使用して作製された。この後者のプラスミドは、逆位末端配列の1つから、D配列及び末端分離部位(trs)を欠失させることにより作製された。組換えベクターは、二回のCsCl超遠心分離にかけ、その後、リン酸緩衝食塩水に対して透析することにより精製した。物理的粒子は、マウスに注入されたベクターについてはリアルタイムPCRにより、ネコに注入されたベクターについてはドットブロットハイブリダイゼーションにより定量し、ベクター力価は、ウイルスゲノム/ml(vg/ml)として表現した。
【0054】
AAVベクターのインビボでの注入
新生仔マウスに、誕生日(生後1日目、PN1)に注入した。筋肉内注入では、mSeAP又はGFPをコードするAAVベクター溶液(ssAAV2/1(n=2)、ssAAV2/9(n=2)、scAAV2/1(n=2)、又はscAAV2/9(n=3))を、三頭筋及び腓腹筋の両方に注入した(1筋肉あたり1か所の注入部位、1回の注入につき5μl、マウス1匹あたり8×109〜2×1010個のウイルスゲノム)。腹腔内注入では、mSeAP又はGFPをコードするウイルス溶液(ssAAV2/1、n=2、ssAAV2/9、n=1、scAAV2/1、n=1、及びscAAV2/9、n=2)を、1日令のC57Bl/6マウスの腹腔に注入した(100μl、マウス1匹あたり3×1010〜1011個のウイルスゲノム)。静脈内注入では、1日令のC57Bl/6マウスの側頭静脈に、scAAV2/9−GFPベクターを注入した(50μl、マウス1匹あたり1.5×1010個のウイルスゲノム、n=3)。成体C57Bl/6マウスの尾静脈に、scAAV2/9−mSeAP又はscAAV2/9−GFPベクターを注入した(500μl、マウス1匹あたり3×1011個のウイルスゲノム)。生誕2日後、合計で1.5×1012個のベクターゲノムを含むscAAV9−CMV−eGFPの粒子を、1匹のSMA罹患ネコ及び1匹のSMAヘテロ接合性ネコの頸静脈に注入した。
【0055】
組織学的検査のための灌流及び組織加工
筋肉、脳、及び脊髄を、新生仔マウスから注入の1日後(PN2)、3日後(PN4)、もしくは7日後(PN8)に、又は、成体マウスから注入の7日後及び35日後に取り出した。成体C57Bl6マウスを麻酔し(キシラジン10mg/kg、ケタミン100mg/kg)、0.1Mリン酸緩衝食塩水(PBS)で、次いでPBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)を用いて心内を灌流した。組織を取り出し、4時間、同溶液中で後固定し、その後、一晩4℃で脳及び筋肉については15%スクロースに移し、脊髄については30%スクロースに移した。新生仔を断頭し、組織を4%PFA中に4時間浸漬し、その後4℃で一晩凍結保護した。試料を冷イソペンタン(−50℃)中で凍結させ、連続切片をクリオスタットで切り出し、更なる解析のために−80℃で保存した。
【0056】
注入から10日後、ネコを麻酔し(メデトミジン150μg/kg、ケタミン10mg/kg)、10mlのリン酸緩衝食塩水で、次いで100mlの4%PFAを用いて経心的に灌流した。脳及び脊髄を取り出し、切り出して冠状の5mmの平板とし、次いで、4%PFAで後固定し、その後、30%スクロース中で一晩凍結保護し、その後、OCT化合物中でドライアイス上で凍結させた。脊髄切片は、1×100μmの間隔で切り出し、その後、クリオスタットで5×10μmの間隔で切り出した。共焦点顕微鏡によるGFPシグナルの検査に100μmの厚さの切片が使用され、免疫細胞化学検査には10μmの厚さの切片が使用された。
【0057】
導入遺伝子発現の評価
mSeAP組織化学的検査では、新生仔マウスの筋肉、脳、及び脊髄を、注入から1日後、3日後、及び7日後に取り出し、冷イソペンタン(−50℃)中で凍結させ、即時使用のために−80℃で維持した。成体動物の脳及び脊髄は、注入から35日後に収集し、同条件下で処理した。脳及び脊髄では16μmの厚さの組織切片を、筋肉では8μmの厚さの組織切片をクリオスタットで作製し、その後、導入遺伝子発現のために加工した。該切片を、0.5%グルタルアルデヒドで固定し、PBSで洗浄し、内因性アルカリホスファターゼを30分間65℃で熱により失活させた。その後、切片を、一晩37℃で、0.165mg/mlの5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート及び0.33mg/mlのニトロブルーテトラゾリウムの、100mMトリス−HCl、100mMのNaCl及び50mMのMgCl2溶液中でインキュベートし、ヘマトキシリン−エオシンで対比染色し、Eukitを用いてマウントした。
【0058】
マウスにおけるGFP免疫組織化学的検査においては、切片をPBS中で洗浄し、内因性ペルオキシダーゼを阻害するために過酸化水素溶液(ペルオキシダーゼ遮断溶液、Dako)中で30分間インキュベートした。PBS中で洗浄した後、切片を、10%ヤギ血清(Dako)及び0.4%Tritonを含むPBS中で室温で1時間かけて遮断し、その後、ウサギポリクローナル抗GFP(Abcam;1:3000)と共に一晩インキュベートした。ビオチンにコンジュゲートさせた二次抗体(Vectastain、1:200)及びVectastain Elite ABCキットを使用し、DAB基質キット(Vector Laboratories)を用いてペルオキシダーゼについてのDABの染色を明らかにした。切片をアルコール及びキシレン中で脱水し、Eukitを用いてマウントした。
【0059】
ネコにおけるGFP免疫細胞化学的検査は、10μmの脊髄凍結切片で行なった。簡潔には、脊髄切片を、PBS中0.2%Tween20(pH7.4)を用いて透過処理し、5%ヤギ血清を用いて遮断し、ポリクローナル抗体AB3080:GFP(Chemicon、1:50)と共に二晩4℃でインキュベートし、ビオチニル化ヤギ抗ウサギ抗体と共にインキュベートした。ジアミノベンジジン基質のペルオキシダーゼを使用することにより、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ複合体と共にインキュベートした後に免疫標識が明らかになった。切片を、ヘマトキシリンを用いて対比染色した。
【0060】
運動ニューロンのコリンアセチルトランスフェラーゼを、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)ヤギポリクローナルChAT抗体(AB144P、Chemicon、フランス、1:100)を用いて標識した。簡潔には、脊髄切片を、1%ウサギ血清のPBS/T×100 0.4%溶液中で遮断し、一次抗体と共に一晩室温でインキュベートし、ビオチニル化ウサギ抗ヤギ抗体と共にインキュベートした。免疫標識は、ストレプトアビジンアレクサ555蛍光と共にインキュベートした後に明らかとなり、切片を、共焦点顕微鏡下で観察するためにMowiol媒体(Calbiochem, USA)を加えてカバーガラスをかけた。
【0061】
レーザー共焦点走査顕微鏡
GFPの発現及び免疫細胞化学的検査は、488nm(緑)及び543nm(赤)でそれぞれ単色光線を放出するブルーアルゴンイオンレーザー及びヘリウムネオンレーザーを備えた、倒立ニコンTE−2000レーザー走査共焦点顕微鏡を用いて観察した。スライドを、油浸20倍の対物レンズを使用して連続的に走査した。各画像を別々のチャネルで記録し(GFPではチャネル緑で、ストレプトアビジン555ではチャネル赤)、同所に局在する蛍光シグナルの検出が可能となるように重層させた。
【0062】
実施例1.mSEAP発現AAVベクターの新生仔マウスの筋肉内への注入
我々は初めに、血清型1及び9ss−又はscAAVベクターが、筋肉内注入後にCNS細胞を形質導入できるかについて評価した。サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター下のマウス分泌アルカリホスファターゼ(mSEAP)をコードするssAAV1、ssAAV9、scAAV1、又はscAAV9を、1日令のC57Bl6マウスの三頭筋及び腓腹筋の両方に注入した(マウス1匹あたり8×109〜2×1010個のウイルスゲノム、1群あたり3匹のマウス)。注入された筋肉、脳、及び脊髄組織を、注入から1日後、3日後、又は7日後に取り出し、組織化学的検査を使用してmSEAP発現について解析した。
【0063】
mSEAP発現は、ssAAV9以外の、各AAV血清型の注入から3日後及び7日後に、注入された筋肉において検出され、発現レベルは時間と共に劇的に増加した(図1a)。CNSでは、導入遺伝子の発現は、scAAV9の筋肉内注入後のみで検出された。興味深いことに、mSEAPの発現は、脳脊髄液(CSF)において多くのタンパク質及び毒素の分泌及び排除に重要な役割を果たしている(Redzic, 2005)、脈絡叢の上皮細胞において検出された(図1b)。脈絡叢におけるmSEAP発現は、注入から早くも3日後(PN4)に見出され、発現レベルはここでも時間と共に増加した。scAAV9ベクターの筋肉内注入後、弱い導入遺伝子の発現もまた、脳血管中又は脳血管周辺及び脊髄に位置していた(図1c)。
【0064】
実施例2.mSEAP発現AAVベクターの新生仔マウスの腹腔内への注入
我々は、その後、ssAAV1、ssAAV9、scAAV1、及びscAAV9の、1日令のC57Bl6マウスの腹腔内への投与(100μl、マウス1匹あたり3×1010〜1×1011個のウイルスゲノム)により、注入から1日後、3日後、又は7日後にCNSにおいて導入遺伝子の発現が媒介され得るかどうかを解析した。
【0065】
低いレベルのmSEAP発現が、ssAAV1を注入したマウスの横隔膜筋線維において、注入から3日後までに検出され、これは、scAAV1で観察されたものと類似しており(図2a)、注入から7日後の両方のベクターで観察されたものとも類似していた(図2a)。ssAAV9は、注入から21日後のみにおいて、いくつかの筋肉線維を形質導入したが、一方、scAAV9を使用した場合、注入から3日後の横隔膜において強力なmSEAP染色が判明した(図2a)。この高レベルの形質導入は、上腕三頭筋及び腓腹筋などの他の筋肉においても観察された(データは提示せず)。
【0066】
脈絡叢及び上衣の上皮細胞は、scAAV9の注入後に明瞭に標識されたようであった(図2b)。注入から7日後にこれらの領域において頑強な形質導入が更に観察された(図2b)。導入遺伝子の発現は、注入から7日後に脳及び脊髄全体の両方における髄膜及び血管内に観察され、筋肉内注入後に観察されたものよりも高かった(図2c)。興味深いことに、mSEAP発現はまた、脳及び脊髄中のいくつかの神経細胞にも検出された(図2d)。共に合わせて考えると、これらの結果により、mSEAPタンパク質を発現する、筋肉内又は腹腔内注入されたscAAV9ベクターは、CNS、特に脈絡叢及び上衣の上皮細胞を効率的にターゲティングできることが示される。
【0067】
実施例3.scAAV9−GFPの新生仔マウスの筋肉内又は腹腔内注入後のCNSにおける導入遺伝子の発現
mSEAPは分泌されたタンパク質であるので、AAVの末梢注入後にCNSにおいて観察された導入遺伝子発現は、AAV細胞形質導入からではなくむしろ、タンパク質経細胞輸送から生じた可能性があった。それ故、我々は、分泌されないタンパク質を使用して類似の結果を得ることができるかどうかを確かめた。
【0068】
「緑蛍光タンパク質」(GFP)を発現している組換えscAAV9ベクターを、新生仔マウスの腹腔内(マウス1匹あたり3×1010個のウイルスゲノム、100μl)又は筋肉内(マウス1匹あたり、20μl中8×109個のウイルスゲノム、1つの筋肉あたり5μl)に注入した。7日後、scAAV9−mSEAPで観察されたのと同様に、GFPの発現は、脳室に位置する脈絡叢及び上衣細胞において観察された(図3a及び図4a)。更に、我々は、この場合、いくつかの脳領域における多くのGFP陽性神経細胞が、特に、脳室の近くに位置することを見出した。海馬中の細胞体及び線維(図3b)、中隔(図4b、c)、及び嗅内皮質(図3c、図4d〜e)が効率的に形質導入されたようであった。
【0069】
重要なことには、GFP発現は、AAV投与から7日後に脊髄細胞(運動ニューロン様の表現型を有する細胞を含む)において検出された(図3d、e)。強力なGFP発現がまた、頸髄準位で横断する皮質脊髄路の線維にも見出された(図3f及び4h)。これらの線維の形質導入は、上位運動ニューロン(その細胞体は運動皮質に位置し、これもGFP免疫陽性のようであった)へのターゲティングから生じたようである(図3d)。全般的に、多数のGFP免疫陽性細胞が、筋肉内注入後よりも腹腔内注入後にCNSにおいて検出され、これは、注入経路間の効力の差、又は、腹腔内手順で使用されたベクターが高い力価であったことに起因していた。
【0070】
実施例4.GFP発現scAAV9の新生仔マウスの静脈内への注入後のCNSにおける導入遺伝子の発現
組換えscAAV9ベクターは、筋肉内又は腹腔内送達後にCNS細胞形質導入を媒介する上で最も効率的なベクターであるように思われたので、我々は、静脈内投与経路を使用することによりこのベクターを改善することができるかどうかを評価した。
【0071】
従って、GFP発現scAAV9ベクターを、1日令のC57Bl6マウスの側頭静脈に注入し(50μl、マウス1匹あたり1.5×1010個のウイルスゲノム)、CNS組織を取り出し、その7日後に免疫染色のために加工した。強力なGFP発現が、脈絡叢及び上衣細胞の両方(図5a)及び脳血管(図5c)において検出された。ここでも、我々は、脳全体におよぶニューロン様及びグリア様表現型の両方の細胞内に、特に嗅内皮質(図5d)及び海馬(図5e、f)においてGFP発現を見出した。
【0072】
非常に高いレベルの導入遺伝子発現が、脊髄全体に(頸髄セグメントから腰髄セグメントにかけて)、運動ニューロン様表現型及び位置(腹側脊髄)を有する細胞において見られた(図5h〜i)。これはおそらく、ベクターが、血管を通して血液循環から脳実質へと拡散、又は/及び、上位CNS領域からの軸索順行輸送により拡散することから生じる。
【0073】
その後、我々は、ssAAV9もまたBBBを通過し、静脈内送達後にCNS細胞を形質導入できるかどうか、又は、この特性が二本鎖ゲノムに特異的であるかどうかを決定する。この目的では、GFP発現ssAAV9ベクターを、新生仔マウスの側頭静脈に注入し、GFP発現を3週間後(ゲノムが二本鎖DNAへと変換されるように)に解析した。
scAAV9で観察されたのと同じように、ssAAV9−GFPは、静脈内送達後にCNS細胞の形質導入を媒介することが判明したが、その効力は、scAAV9の効力よりも低かった。ここでも、脈絡叢及び上衣細胞が大量のGFPを発現し、脳室に近い多くの脳領域が形質導入されたことが判明した(図6a)。例えば、GFP陽性ニューロンは、海馬及び手綱核(図6a)並びに正中隆起(図6b)において検出された。興味深いことに、いくつかの運動ニューロン様細胞は、腹側脊髄においてGFPを発現することが判明した(図6c〜e)。数個のCNS細胞もまた、組換えssAAV9の筋肉内又は腹腔内送達後にGFPを発現することが判明した(データは提示せず)。
【0074】
共に合わせて考えると、これらのデータにより、血清型9AAVベクター(通常形態又は自己相補性形態)が、新生仔マウスへの1回の静脈内注入後に、BBBを通過し、新生仔マウスにおけるCNS細胞(下位運動ニューロンを含む)を形質導入することができるという予期せぬ能力が示唆される。
【0075】
実施例5.成体マウスにおけるss及びscAAV9ベクターの静脈内注入
BBBは新生仔マウスにおいて不完全に形成されているので、我々は、AAV9ベクターが新生仔マウスの神経細胞を形質導入する能力が、成体マウスでも保存されているかどうかを評価した。mSEAPをコードするss及びscAAVベクター(マウス1匹あたり、3×1011個又は1×1012個のウイルスゲノム)を成体マウスの尾静脈に注入し、CNSにおける導入遺伝子の発現を、その4週間後に解析した。scAAV9−mSEAPの静脈内送達後、導入遺伝子の発現持続が、多くの脳領域、例えば正中隆起(図7f)、海馬(図7g)、又は脳梁(図7h)において見られた。
【0076】
重要なことは、組換え血清型9AAVベクターの静脈内送達後に、脊髄全体を通じて多くのmSEAP陽性の細胞及び線維が存在していたことであった(図8a〜g)。ここでも、従来のssAAV9ベクターを用いた場合よりも、scAAV9ベクターを使用した場合の方が、より高いレベルの導入遺伝子発現が観察された(図8a、b対8c〜g)。
【0077】
scAAV9−GFPを使用した類似の注入により、脊髄への全身からの遺伝子の送達における、scAAV9の優位性が実証された。2×1012個のウイルスゲノムのscAAV9の静脈内注入から4週間後に多くが発現することが判明し、GFPは、脊髄の神経細胞及びグリア細胞の両方において発現しており、これはアストロサイトのマーカーであるグリア線維酸性タンパク質(GFAP)の免疫染色を使用して実証された(図11)。
【0078】
従って、我々の結果により、BBBが完全に形成されている成体マウスへの組換えAAV9ベクターの静脈内送達後における、CNS細胞(下位運動ニューロン及びグリア細胞を含む)の効率的な形質導入が示される。これは、これらのベクターが、血液循環からBBBを通ってCNS実質へと通過し、神経細胞への広範囲におよぶ遺伝子導入を達成するという特異な特性を強調するものである。
【0079】
実施例6.大型動物モデルにおけるAAV9−GFPの静脈内注入
大型動物モデルにおけるこの新規なCNS遺伝子導入戦略の検証は、ヒトへの臨床応用に必須である。我々は、組換えscAAV9ベクターの静脈内送達後に、LIX−1ネコの脊髄における導入遺伝子の発現を評価した。2日令のネコ(1匹はホモ接合型、1匹はヘテロ接合型)の頸静脈に、GFP発現scAAV9を注入した。10日後、脊髄組織切片を、レーザー走査共焦点顕微鏡を使用してGFP発現について解析した。強力なGFPシグナルが、脊髄に沿って頸部から馬尾までの灰白質及び白質の両方において観察され、発現パターンは、ヘテロ接合型動物及び罹患動物の両方において類似していたようであった。薄束及び楔状背側感覚路の神経線維は、高レベルのGFPを発現していた(図9a)。更に、GFP発現は、GFPの蛍光(図9a、c)及び免疫組織化学的解析(図9b〜d)の両方の観察後に、腹側脊髄の多くの細胞体で検出された。GFPに対する抗体及びコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を使用した二重免疫染色解析により、SMA罹患ネコ及び非罹患ネコの両方において、GFP陽性部分のかなりの部分が、運動ニューロンであることが示された(図10)。
【0080】
【表1】
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の遺伝子を含むAAVベクターの被験体への末梢投与により該遺伝子を運動ニューロン又はグリア細胞に送達するための医薬品の製造のための該遺伝子を含むAAVベクターの使用であって、該AAVベクターは二本鎖自己相補性AAVベクターである、該使用。
【請求項2】
対象の遺伝子を含むAAVベクターの被験体への末梢投与により該遺伝子を脊髄に送達するための医薬品の製造のための該遺伝子を含むAAVベクターの使用であって、該AAVベクターは二本鎖自己相補性AAVベクターである、該使用。
【請求項3】
被験体における運動ニューロン障害を処置するための医薬品の製造のための治療遺伝子を含むAAVベクターの使用であって、該AAVベクターは、該被験体への末梢注入により投与され、該投与により、運動ニューロン又はグリア細胞の感染と、運動ニューロン又はグリア細胞における該遺伝子の発現が引き起こされ、該AAVベクターは、二本鎖自己相補性AAVベクターである、該使用。
【請求項4】
AAVベクターを末梢注入することにより被験体の運動ニューロンにおいて治療タンパク質又はRNAを産生するための医薬品の製造のための該AAVベクターの使用であって、該AAVベクターは二本鎖自己相補性AAVベクターである、該使用。
【請求項5】
末梢注入には、腹腔内(i.p.)、筋肉内(i.m.)又は静脈内(i.v.)注入、好ましくは静脈内注入が含まれる、請求項1〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
該AAVベクターは、ヒト血清型AAVベクター、好ましくは、血清型3、4、5、6、7、8、9、10及び11から選択され、より好ましくはAAV6、AAV8、及びAAV9から選択され、最も好ましくはAAV9である、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
AAVベクターは、偽型AAVベクター、好ましくはAAV2/9ベクターである、請求項1〜6のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
AAVベクターは、機能的Rep及びCapコードウイルス配列を欠損した複製欠損AAVゲノムを含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
AAVベクターは、偽型であり得るscAAV9である、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
遺伝子は、治療RNA、又は、成長因子、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質、酵素、抗アポトーシス因子、血管新生因子、「運動ニューロンの生存」タンパク質(SMN)などの病的疾患において突然変異していることが知られている任意のタンパク質から選択された治療タンパク質をコードする、請求項1〜9のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
疾患は、神経変性疾病、神経筋疾病、疼痛、リソソーム病、外傷、骨髄損傷、神経系の癌、脱髄疾病、神経系の自己免疫疾病、神経毒性症候群、睡眠障害から選択される、請求項1〜10のいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
ベクターにおける治療タンパク質の発現は、遍在的な、調節された、及び/又は組織特異的なプロモーターにより制御される、請求項1〜11のいずれか1項記載の使用。
【請求項1】
対象の遺伝子を含むAAVベクターの被験体への末梢投与により該遺伝子を運動ニューロン又はグリア細胞に送達するための医薬品の製造のための該遺伝子を含むAAVベクターの使用であって、該AAVベクターは二本鎖自己相補性AAVベクターである、該使用。
【請求項2】
対象の遺伝子を含むAAVベクターの被験体への末梢投与により該遺伝子を脊髄に送達するための医薬品の製造のための該遺伝子を含むAAVベクターの使用であって、該AAVベクターは二本鎖自己相補性AAVベクターである、該使用。
【請求項3】
被験体における運動ニューロン障害を処置するための医薬品の製造のための治療遺伝子を含むAAVベクターの使用であって、該AAVベクターは、該被験体への末梢注入により投与され、該投与により、運動ニューロン又はグリア細胞の感染と、運動ニューロン又はグリア細胞における該遺伝子の発現が引き起こされ、該AAVベクターは、二本鎖自己相補性AAVベクターである、該使用。
【請求項4】
AAVベクターを末梢注入することにより被験体の運動ニューロンにおいて治療タンパク質又はRNAを産生するための医薬品の製造のための該AAVベクターの使用であって、該AAVベクターは二本鎖自己相補性AAVベクターである、該使用。
【請求項5】
末梢注入には、腹腔内(i.p.)、筋肉内(i.m.)又は静脈内(i.v.)注入、好ましくは静脈内注入が含まれる、請求項1〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
該AAVベクターは、ヒト血清型AAVベクター、好ましくは、血清型3、4、5、6、7、8、9、10及び11から選択され、より好ましくはAAV6、AAV8、及びAAV9から選択され、最も好ましくはAAV9である、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
AAVベクターは、偽型AAVベクター、好ましくはAAV2/9ベクターである、請求項1〜6のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
AAVベクターは、機能的Rep及びCapコードウイルス配列を欠損した複製欠損AAVゲノムを含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
AAVベクターは、偽型であり得るscAAV9である、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
遺伝子は、治療RNA、又は、成長因子、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質、酵素、抗アポトーシス因子、血管新生因子、「運動ニューロンの生存」タンパク質(SMN)などの病的疾患において突然変異していることが知られている任意のタンパク質から選択された治療タンパク質をコードする、請求項1〜9のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
疾患は、神経変性疾病、神経筋疾病、疼痛、リソソーム病、外傷、骨髄損傷、神経系の癌、脱髄疾病、神経系の自己免疫疾病、神経毒性症候群、睡眠障害から選択される、請求項1〜10のいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
ベクターにおける治療タンパク質の発現は、遍在的な、調節された、及び/又は組織特異的なプロモーターにより制御される、請求項1〜11のいずれか1項記載の使用。
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図4e】
【図4f】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図5e】
【図5f】
【図5g】
【図5h】
【図5i】
【図5j】
【図5k】
【図5l】
【図5m】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図6e】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図7e】
【図7f】
【図7g】
【図7h】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図8e】
【図8f】
【図8g】
【図9】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図11d】
【図11e】
【図11f】
【図11g】
【図11h】
【図11i】
【図11j】
【図11k】
【図11l】
【図10】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図4e】
【図4f】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図5e】
【図5f】
【図5g】
【図5h】
【図5i】
【図5j】
【図5k】
【図5l】
【図5m】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図6e】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図7e】
【図7f】
【図7g】
【図7h】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図8e】
【図8f】
【図8g】
【図9】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図11d】
【図11e】
【図11f】
【図11g】
【図11h】
【図11i】
【図11j】
【図11k】
【図11l】
【図10】
【公表番号】特表2010−540598(P2010−540598A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527467(P2010−527467)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063297
【国際公開番号】WO2009/043936
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(503197304)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063297
【国際公開番号】WO2009/043936
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(503197304)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】
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