説明

AC測定方法に基づく試料の特性評価

1つの態様は、血液または他の体液中の、グルコース濃度などの検体濃度を検出する方法に関する。この方法は、比較的低い印加電位差で、リニアな誘導電流応答を生み出すメディエータシステムを備える電気化学的テストストリップを利用する。交流電流の励起信号は、テストストリップ中の血液に印加される。交流電流の励起信号は、低周波信号、および低周波信号よりも高い周波数を有する高周波信号を備える。グルコース濃度は、低周波信号に対する低周波応答を測定し、高周波信号に対する高周波応答を測定し、低周波応答に基づいてグルコース濃度を推定し、また高周波応答に基づいて、1つまたは2つ以上の、誤差を引き起こす変化性の物に対してグルコース濃度を補正することによって決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
糖尿病の治療は、通常、基礎および食事時の2種類のインスリン治療をともなう。基礎的インスリンは、しばしば就寝前に摂取される、継続性の、例えば持続放出インスリンである。食事時インスリン治療は、糖類および炭水化物の代謝を含む種々の要因により生じる血中グルコースの変動を調節するための即効性インスリンの追加量を提供する。血糖変動の適正な調節は、血中のグルコース濃度の正確な測定を必要とする。これが行われない場合、失明および糖尿病患者から自身の指、手、足などの使用を最終的に奪い得る四肢の循環の損失を含む重度の合併症を生じ得る。
【背景技術】
【0002】
例えばグルコースなど、血液試料中の検体の濃度を測定するための複数の方法が知られている。このような方法は、一般的に、光学的方法および電気化学的方法の2つのカテゴリーの1つになる。光学的方法は、通常、試薬中のスペクトル変化を観測する反射分光または吸収分光を含む。このような変化は、検体の濃度を示す色変化を生じる化学的反応によってもたらされる。
【0003】
従来の電気化学的方法は、通常、所望の反応を開始させるために必要な定電位または電位ステップを印加すること、およびグルコース濃度に比例する、結果的に生じる電荷または電流を測定することを含んでいる。例えば、Columbusの米国特許第4,233,029号明細書、Paceの米国特許第4,225,410号明細書、Columbusの米国特許第4,323,536号明細書、Muggliの米国特許第4,008,448号明細書、Liljaらの米国特許第4,654,197号明細書、Szuminskyらの米国特許第5,108,564号明細書、Nankaiらの米国特許第5,120,420号明細書、Szuminskyらの米国特許第5,128,015号明細書、Whiteの米国特許第5,243,516号明細書、Dieboldらの米国特許第5,437,999号明細書、Pollmannらの米国特許第5,288,636号明細書、Carterらの米国特許第5,628,890号明細書、Hillらの米国特許第5,682,884号明細書、Hillらの米国特許第5,727,548号明細書、Crismoreらの米国特許第5,997,817号明細書、Fujiwaraらの米国特許第6,004,441号明細書、Priedelらの米国特許第4,919,770号明細書、およびShiehらの米国特許第6,054,039号明細書を参照し、これらは全体的に参照文献としてここに組み入れられる。コットレルの式によれば、対象の検体の濃度に加えて、温度、電極表面積、および拡散係数などの要素も、結果として生じる電流に寄与する。反応領域における温度変化、電極表面積の妨害物、または電極表面に対する反応物の拡散インピーダンスによって起こる、これらパラメータにおけるあらゆる変化もまた、結果として生じる電流に影響する。さらに、印加電位においても電気化学的に活性である干渉性の化合物は、付加的なDC電流を生み出す場合があり、その結果、正にバイアスされたグルコース濃度を生じ得る。
【0004】
これらの問題のいくつかは、上記の要素の寄与の程度を把握し、さらに正確なグルコース濃度の推定のためにDC電流を補正するために、ACインピーダンスを用いることによって従来は回避されてきた。これらのACに基づく方法は、可変性の周波数の電位の選択的な印加、およびセルインピーダンスの測定に存る。例えば、Kermaniらの米国特許第6,797,150号明細書、Vreekeらの米国特許出願公開第2004/0079652号明細書、およびRoche Diagnostics GmbHの欧州特許第1639355号明細書を参照し、これらは全体的に参照文献としてここに組み入れられる。しかしながら、これらの方式は、そのAC信号およびDC信号の順次の印加、ならびにDC電流の定常状態性のために、測定時間を延長する。
【0005】
ゆえに、この分野において改善に対するニーズがある。
【発明の概要】
【0006】
1つの態様は、血液または他の体液中の、グルコース濃度などの検体濃度を検出する方法に関する。この方法は、低電位でリニアな誘導電流応答を生み出すメディエータシステムを含む電気化学的テストストリップを利用する。交流電流の励起信号はテストストリップ中の血液に印加される。この交流電流の励起信号は、低周波信号と、低周波信号よりも高い周波数を有する高周波信号とを含んでいる。グルコース濃度は、低周波信号に対する低周波応答を測定し、高周波信号に対する高周波応答を測定し、低周波応答に基づいてグルコース濃度を推定し、高周波応答に基づいて1つまたは2つ以上の誤差を引き起こす変化性の物に対してグルコース濃度を補正することによって決定される。
【0007】
本発明のさらなる形式、目的、特徴、見地、利益、利点、および実施形態は、ここに備えられた詳細な説明および図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本開示の一実施形態によるデュアルメディエータシステム(dual mediating system)を図式化して示す図である。
【図2a】本開示の一実施形態による、20480Hz、10240Hz、2048Hz、1024Hz、512Hz、256Hz、および128Hzの周波数でのAC応答の、Zre対Zimのナイキストプロットである。
【図2b】本開示の一実施形態による、2つの異なる励起様式における、2つの異なるグルコース濃度に対する、20000Hz、10000Hz、2000Hz、1000Hz、512Hz、および128Hzの周波数でのAC応答の、Zre対Zimのナイキストプロットである。
【図3a】本開示の一実施形態による、テストストリップが150mg/dlのグルコース濃度を有する血液溶液を添加された、1024Hzでの5秒の測定時間にわたるインピーダンス対時間の関係を示すプロットである。
【図3b】本開示の一実施形態による、テストストリップが120mg/dlのグルコース濃度を有する血液溶液に添加された、1024Hzで5秒の測定時間にわたるインピーダンス対時間の関係を示す図である。
【図4】本開示の一実施形態による、AC励起信号が印加された後の、デュアルメディエータシステムの一連の反応を図式化して示す図である。
【図5】本開示の一実施形態による、様々なグルコース濃度での、10000Hz、1000Hz、562Hz、316Hz、177Hz、100Hz、46Hz、21Hz、10Hz、および8Hzの周波数でのAC応答の、Zre対Zimのナイキストプロットである。
【図6】本開示の一実施形態による、様々なグルコース濃度での、10000Hz、1000Hz、562Hz、316Hz、177Hz、100Hz、46Hz、21Hz、10Hz、および8Hzの周波数でのAC応答の、ZreおよびZim対周波数のボードプロットである。
【図7】本開示の一実施形態によるAC応答の、Zre対Zimのナイキストプロットである。
【図8】本開示の一実施形態による、インピーダンスデータを適合させるために使用される等価回路モデルのブロック図である。
【図9】インピーダンスデータを図8に記載の等価回路モデルに適合させることによって得られた等価回路の値を示すグラフである。
【図10】本開示の一実施形態によるAC応答の、Zre対Zimのナイキストプロットである。
【図11】インピーダンスデータを図8に記載の等価回路モデルに適合させることによって得られた等価回路の値を示すグラフである。
【図12】本開示の一実施形態による、AC励起信号が印加された後の、単一のメディエータシステムの一連の反応を図式化して示す図である。
【図13】本開示の一実施形態によるAC応答の、Zre対Zimのナイキストプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の原理をよりよく理解するために、これから図示される実施形態を参照し、また同じものを説明するために特定の用語を使用することにする。しかし、それによって発明の範囲を制限することは意図されていないことが理解されよう。記載された実施形態における、あらゆる改造およびさらなる変更、ならびにその中に記載された発明の原理のさらなる応用は、本発明が関連する分野の技術の当業者が通常想到するものと考えられる。特に、本発明は血中グルコース測定方法に関して記載されているが、本発明は他の検体および他の試料タイプも測定するということが理解される。このような代替的な実施形態は、ここで記載された実施形態にある程度の改造を求め、これについては、当業者にとっては自明である。
【0010】
以下で詳細に記載されるように、低振幅のAC波形がバイオセンサ中の体液に印加され、インピーダンスの大きさ、位相角、実数または虚数のインピーダンス、あるいは、電気化学的セルの特性やバイオセンサに相関する他の抵抗および容量成分が測定される。印加される波形の選択は、所望の処理の時定数(すなわち、高速または低速処理)によって決定され得る。測定された観測値(位相、角度、大きさ、実数または虚数のインピーダンス)はその後、それらの値を等価回路に適合させることによって、抵抗および位相定数の成分に変換されることができ、また、試料のグルコース濃度、ヘマトクリット、および/または温度の推定を提示するために使用され得る。一例では、バイオセンサは、比較的低い印加電位差において、リニアな誘導電流応答を生み出すメディエータシステムを含んでいる。印加されるAC波形の低周波での応答は、グルコース濃度を測定するために用いられ、高周波での応答は、温度およびヘマトクリットの影響を検出するために用いられる。
【0011】
作動中、試料がバイオセンサ上で検出されるとすぐに、低振幅のAC励起信号が、センサの作用電極と対抗電極との間に電位差として印加される。AC励起信号の異なる印加様式も考えられる。1つの例では、AC信号は検査時間全体にわたる単一の周波数の波形として印加され得る。印加されるAC信号の周波数は、1Hz〜20,000Hzの範囲から選択され得る。2つ目の可能性は、高周波から低周波に、または低周波から高周波に掃引することによって、複数の周波数でセルインピーダンスを測定することである。さらに、励起信号は複数の周波数の組み合わせ(すなわち、6つの別の周波数を含む波形)であってもよい。考えられる1つの状況においては、高周波のAC信号(試料のヘマトクリットおよび/または温度に対する感度が高い)が、システムインピーダンスに有意な変化が観察されなくなるまで所定の期間印加され、その後、第2の低周波のAC信号が、グルコース濃度を測定するために印加される。検査時間を短縮するために、高周波信号および低周波信号は、互いに重畳され得る。
【0012】
インピーダンスデータは、等価回路モデルに適合させることによって処理され得る。等価回路の選択は、実験データに対する適合性の質によって決定される。これは、体液中の検体の正確な測定を容易にする。特に、検体の測定は、他の方法では誤差を引き起こすような干渉物が存在しても正確なままである。例えば、この方法を用いると、血中グルコース濃度は、通常、ヘマトクリットまたは試料温度の変化によって引き起こされる誤差を伴うことなく測定される。正確な血中グルコースの測定は、血中グルコースの不適当な調整による糖尿病患者の失明、循環の損失およびその他の合併症を予防するためには非常に重要である。この方法は、測定がより迅速に、より単純な器具を用いて行われることを可能にし、糖尿病患者が自らの血中グルコースを測定することをより簡便にする。さらに、血液、尿、または他の生体の体液における他の検体の正確かつ迅速な測定は、広い範囲の病状の診断および治療に改良をもたらす。
【0013】
グルコースを測定するシステムに関して、電気化学的な血中グルコース測定器は、通常(常にというわけではないが)、試薬の存在下で血液試料の電気化学的な応答を測定するということが理解される。試薬はグルコースと反応して、反応しなければ血液中に存在しない荷電キャリアを作り出す。それゆえ、所定の信号の存在下での血液の電気化学的な応答は、第1に、血中グルコース濃度に依存することを意図されている。しかしながら第2に、所定の信号に対する血液の電気化学的な応答は、ヘマトクリットおよび温度を含む他の要因に依存している。例えば、血中グルコースの測定に対するヘマトクリットによる混同の影響を論じる米国特許第5,243,516号明細書、米国特許第5,288,636号明細書、米国特許第5,352,351号明細書、米国特許第5,385,846号明細書、米国特許第5,508,171号明細書、および米国特許第6,645,368号明細書に見られ、これらは全体的に参照文献としてここに組み入れられる。さらに、例えば尿酸、ビリルビン、および酸素を含む他の特定の化学物質も、血液試料を介した荷電キャリアの移送に干渉する場合があり、それゆえグルコースの測定において誤差を引き起こす。
【0014】
ここに開示される様々な実施形態は、より短い検査時間が達成されることを可能にする一方で、混同させる干渉物(ヘマトクリットおよび温度、または他の干渉物)に対して補正された検体測定(血中グルコースまたは他の体液試料の検体)を、なお提供する方法に関する。「検査時間」という語はここでは、第1の電気信号が試料に印加されるべき時の試料(または、両方が検出される場合には、試料の用量の充足性)検出から、濃度決定の計算で用いられる最後の測定の実行までの時間として定義される。低電位のAC励起とはここでは、リニアな応答を生み出すのに充分な、作用電極と対抗電極との間に印加されるACの電位差をいう。一実施形態では、デュアルメディエータシステムが利用される。デュアルメディエータシステムとグルコースに特有の化学的性質との組み合わせにより、開示される方法は調べられる試料の完全なスペクトルを提供できる。代替的には、単一のメディエータシステムが利用され得る。
【0015】
以下に記載される選択された実験において、測定は、AgilentのVXIコンポーネンツを基に構成され、また、要求される組み合わせおよび順序でセンサにAC電位を印加し、結果として生じるセンサの電流応答を測定するようにプログラムできる電気化学的なテストスタンドを用いて実行された。簡便なセンサのレイアウトは、電気化学的血中グルコースストリップであるACCU−CHEK(登録商標)AVIVA(トレードマーク)によって典型を示されることができ、これはグルコースに特有の化学的性質で覆われる金の作用電極および対抗電極を備える。ある実施形態において、これらの化学的試薬は、グルコースに特有の酸化をさせ、金の電極への電子の移動を容易にすることができる酵素およびメディエータを含んでいる。
【0016】
実験中、Microsoft(登録商標)Excel(登録商標)を用いた分析のために、データは電気化学的分析器からデスクトップコンピュータへと移送された。他の例での測定は、適切な周波数応答分析器およびデジタル信号取得システムを備える市販のあらゆるプログラム可能なポテンショスタットによって実行され得る。例えば、Gamry InstrumentsおよびCH Instrumentsのポテンショスタットまたはマルチチャネル高速テストスタンドが使用され得る。この方法は、商用には、ACCU−CHEK(登録商標)AVIVA(トレードマーク)血中グルコース測定器などの、専用の低価格の携帯型測定装置で実行され得る。このような場合、測定パラメータは、計測器のファームウェア、測定シーケンス、および利用者の作用無しに自動的に実行されるデータ評価に含まれるか、および/または提供される。
【0017】
選択された実施形態において、メディエータシステムは、電子シャトル/メディエータペア、補因子/メディエータペア、あるいはメディエータ1/メディエータ2ペア、または、それらの他の組み合わせを含んでいる。グルコースの存在下において一連の反応は、図1に記載される仕組みによって説明され得る。
【0018】
図1において、EredおよびEoxは、グルコースに特有の酸化をさせる酵素群から選ばれた酵素(例えば、GDH)の還元型または酸化型を表す。補因子(還元)および補因子(酸化)は、酵素活性中心からメディエータシステムまでの電子移動を容易にすることが可能な補因子(例えば、NAD/NADH)の還元型または酸化型を表す。Med1red、Med1ox、Med2red、およびMed2oxは、他のメディエータシステムに対して電極への電子移動を容易にでき、印加電位の下で再生されることが可能であって、また高速の可逆な酸化還元反応に加われる化合物群(例えば、フェナジン、キノン類、フェリシアン化物、遷移金属錯体)から選ばれるメディエータの還元型または酸化型を表す。図1に示された化学作用を用いることにより、電気化学ストリップの毛管を満たす充分な量の試料を添加すると、グルコース濃度は液体試料中で測定され得る。
【0019】
検査は、グルコース溶液(水溶液、血液、血清)をストリップに添加することを含んでいた。試料が検出されると、低振幅の電位差のAC電位(12mVRMSまたは他のもの)を含んでいる励起信号が、センサの作用電極に印加された。AC励起信号の印加には、様々な様式が考えられる。1つの実施形態では、AC励起信号は、検査時間全体(例えば、5秒またはそれ以下)またはその一部にわたる単一の周波数の波形として印加される。印加されるAC信号の周波数は、20,000Hz〜1Hzの範囲から選択される。さらなる実施形態では、セルインピーダンスが、上記の範囲内の複数の周波数で測定される。複数の周波数は、高周波から低周波への、または低周波から高周波への掃引として印加され得る。この周波数は、検査時間に沿ってブロック単位にグループ化されてもよい。さらに別の実施形態では、励起信号は、同時に印加されるように互いに重畳された異なる周波数の組み合わせである。例えば、1つの変形例における励起信号は、6つの周波数を含む波形を有する。また別の実施形態においては、波形はより少ないまたはより多い周波数を含み得る。
【0020】
図2aは、ACCU−CHEK(登録商標)AVIVA(トレードマーク)血中グルコーステストストリップに、572mg/dlのグルコースを含む対照溶液を添加することによって得られたナイキストプロットである。印加されたAC周波数は、以下のように、20480Hz、10240Hz、2048Hz、1024Hz、512Hz、256Hz、および128Hzであった。図2a中のひし形の点は、AC信号を単一の周波数として印加し、テスト中の3秒でのデータを分析することで個別の測定値からスペクトルを再構築することによって得られたものである。正方形の点は、20480Hzから1024Hzへの第1の周波数掃引としてAC信号を印加し、1024から128Hzへの周波数を有する第2のブロックを後に続けることによって得られたものである。
【0021】
図2bは、ACCU−CHEK(登録商標)AVIVA(トレードマーク)血中グルコーステストストリップに、57mg/dlおよび572mg/dlのグルコースを含む対照溶液を添加することによって得られたナイキストプロットである。図2b中のライン2(「Lin2」)は57mg/dlのグルコース溶液に対する応答を表し、ライン6(「Lin6」)は572mg/dlのグルコース溶液に対する応答を表す。印加されたAC周波数は、以下の、20000Hz、10000Hz、2000Hz、1000Hz、512Hz、および128Hzであり、測定に際して、試薬はcPES/NAの化学的性質を含んでいた。図2bには、単一の周波数、または複数の周波数のシーケンスを用いて得られたインピーダンス応答の比較が示されている。見られ得るように、応答は、単一の周波数を用いても複数の周波数を用いても、通常同等であることが分かった。その結果、全ての周波数を同時に印加することによって測定時間が減少され得るということが分かった。
【0022】
例えば、時間経過の中のインピーダンス、ナイキストプロット、およびボードプロットのように、システム応答が表され得る方法は他にも存在することに留意されたい。図2aおよび2bなどのナイキストプロットは、異なる周波数での、実数および虚数のインピーダンス成分(Zre対Zim)を表している。グラフの形状は、反応機構、溶液または電極の抵抗、および反応動態に固有の情報をもたらす。しかしながら、この種の表示の1つの問題は、これは明白な周波数情報を含んでいないということである。この情報は、インピーダンスの大きさまたは位相角が、周波数の対数に対して示されるボードプロットにおいて、よりはっきりと分かる。
【0023】
正確な測定を達成するために、測定システムの経時的な進展が理解される必要がある。正確な測定がいつ行われ得るかを知るために、いつ安定した状態が生じるかを理解することが役立つ。例えば、いつシステムの水和膜の膨張が終了するかを理解することが有用である。前述のように、ここに記載される方法は、低周波のAC信号でグルコースレベルを測定し、高周波のAC信号で温度およびヘマトクリットの影響を測定する。図3aは、概して、ヘマトクリットの測定に関して経時的な進展を示し、図3bは、概して、この進展を温度に関して記載する。特に、図3aおよび3bは、1024Hzでの、5秒の測定時間にわたるACインピーダンス応答を示す。図3aでは、ACCU−CHEK(登録商標)AVIVA(トレードマーク)血中グルコーステストストリップに、20%、45%、および70%のヘマトクリットレベルを有し、150mg/dlのグルコースを含む血液溶液が添加された。図3bでは、ACCU−CHEK(登録商標)AVIVA(トレードマーク)血中グルコーステストストリップに、120mg/dlのグルコース、ならびに、4℃、24℃、および40℃での1分間の平衡化後の僅かなヘマトクリットを含んでいる血液溶液が添加された。1つのアプローチによれば、最初に、ヘマトクリットおよび/または温度に敏感である高周波のAC信号が、システムインピーダンスに有意な変化がなくなるまで印加される。その後、第2の、低周波のAC励起信号が印加される。この低周波のAC信号の励起への応答は、試料のグルコース濃度を示す。一例では、インピーダンスデータが、等価回路モデルに適合させることによってさらに処理される。等価回路の選択は、実験データへの適合性の質によって決定される。さらに、回路内の素子の種類および配置は、試料の物理的性質および測定中に生じるプロセスと関連付けられる。
【0024】
以下に記載する例には、異なるメディエータシステムを使って水性および生体試料中のグルコース濃度を決定するために、AC励起にのみ基づく測定が利用されるいくつかの特定のケースが含まれる。
【0025】
実施例1:水溶液中のグルコース濃度の測定
実施例1の目的は、液体試料中のグルコース診断に対して、関連する周波数範囲を特定することであった。この例で利用されたグルコーステストストリップは、図1に記載された仕組みにしたがって反応し、またこの特定の例に関しては図4に記載された仕組みに詳述されるデュアルメディエータシステムを含んでいた。第1のメディエータは、酵素補因子(NAD)から電子を受け取れる置換フェナジン(cPES)である。このメディエータは、また、高速の可逆な反応に加われる。理解されるべきは、これは、低電位のAC励起信号のみを印加することにより、たとえ高周波の測定に関連付けられた時間軸であっても、メディエータの酸化型と還元型(cPES対HcPES)との間での変換を達成でき、また、セルインピーダンスに、対応する変化を生みだすことができることを表していることである。第2のメディエータはニトロソアニリン(NA)であって、これは酵素反応の存在下でキノンジイミンフォームに変換され、また、印加電位の下で金の電極と電子を交換できる。
【0026】
実施例1は2つのメディエータ型のシステムに関して記載されているが、他の例ではより少ないまたはより多いメディエータ(例えば、1つまたは3つのメディエータ)が使用され得るということを認識されたい。一般に、選択された1つまたは複数のメディエータは、高速で、可逆な、低電位の電子交換を示す。NAを取り除くことにより、化学的性質のマトリックス(chemistry matrix)は単純化され、全体のテストストリップのコストが減少する。しかしながら、メディエータシステムにNAを含むことは、定電圧電流法(bi-amperometric)システムにおける、電極の電位の設定および維持を補助し、また検査され得るグルコース範囲を拡張することを補助する。
【0027】
実施例1で行われた検査は以下の工程を含んでいた。
工程1:電気化学的ストリップに、129(lin3)mg/dl、524(lin5)mg/dl、および1000(lin1000)mg/dlのグルコースを含んでいる対照溶液が添加された。
工程2:試料が検出されるとすぐに、12mVRMSの電位差のAC信号が、ストリップ上の作用および対抗電極の間に印加された。AC励起が従来の方法、すなわち、高周波から低周波への掃引として印加される場合には、例えば20000〜10Hzの周波数範囲をカバーするために必要な測定時間は10秒を超える。しかしながら、膜の水和および膨張などの他のプロセスがこの時間枠で生じ、インピーダンス応答に寄与した。このような時間に依存した事象から酵素反応を分離するために、AC信号が、単一の周波数で、5秒間所定のグルコースストリップに印加された。測定は、選択された周波数範囲で所望の周波数の数が繰り返された。ナイキストおよびボードプロットは、その後、滴定検出後の所定の時間(例えば、3秒)で、個々の測定からインピーダンスを検討することにより、再構築される。
工程3:印加されたAC入力の下で、図4に記載された一連の反応が行われた。
【0028】
図5は、グルコースが129(lin3)mg/dl、524(lin5)mg/dl、および1000(lin1000)mg/dlの対照溶液を添加した場合に、AC測定中の3秒で、cPES/NA化学成分に対して得られたナイキストプロットを示している。印加されたAC励起信号は、以下の、10000Hz、1000Hz、562Hz、316Hz、177Hz、100Hz、46Hz、21Hz、10Hz、および8Hzの周波数を有していた。2つの異なる周波数範囲が、図5のナイキストプロットにおいて見分けられ得る。すなわち、1)高周波では、動的な範囲は、グルコース濃度に敏感である直径を備える開放した半円から構成され、また、2)低周波では、拡散範囲は、ZreとZimとのリニアな相関から構成される。
【0029】
図6は、グルコースが129(lin3)mg/dl、524(lin5)mg/dl、および1000(lin1000)mg/dlの対照溶液を添加した場合に、AC測定中の3秒で、cPES/NA化学成分に対して得られたAC応答のZreおよびZimと周波数との関係を示すボードプロットである。印加されたAC励起信号は、以下の、10000Hz、1000Hz、562Hz、316Hz、177Hz、100Hz、46Hz、21Hz、10Hz、および8Hzの周波数を有していた。図6に示されたボードプロットは、グルコース濃度の検出に関連する周波数が1000〜100Hzであることを示唆している。1000Hzよりも高い周波数では、インピーダンスデータはグルコース濃度に対し敏感でなくなる。また、100Hzよりも低い周波数では、より長い測定時間を費やしても、グルコース用量の応答に改善が見られない。
【0030】
実施例2:変動する温度およびヘマトクリットの血液試料におけるグルコース検出
実施例2は、単一の低振幅(12mVRMS)電位差のAC励起信号を、滴下検出から5秒間、20000〜100Hzの範囲をカバーする異なる周波数で印加することを含んでいた。簡略化のために、実施例2は2つの部分に分割された。1つ目の部分はグルコース濃度およびヘマトクリットの影響を調べることに焦点を当てた。1つ目の部分では、50mg/dl、150mg/dl、および500mg/dlの目標のグルコース濃度、ならびに、室温で調整された20%、45%、および70%の目標ヘマトクリット値を使って9つの溶液が調製された。2つ目の部分はヘマトクリットおよび温度の影響を調べることにのみ焦点を当てた。2つ目の部分では、9つの溶液が調製され、そのそれぞれが、120mg/dlの血中グルコース濃度と、ストリップが4℃、24℃、または40℃で平衡化された後に測定された、20%、45%、または70%のヘマトクリット値を含んでいる。
【0031】
実施例2.1:グルコース/ヘマトクリットの調査
図7は、50、150、および500mg/dlのグルコース、ならびに、室温で20、45、および70パーセントに調整されたヘマトクリットを含んでいる血液溶液を添加した場合に、cPES/NA化学成分に対して得られた9つのナイキストプロットを含んでいる。ナイキストプロットは、ヘマトクリットおよびグルコース濃度の影響は、ほぼZre軸に沿っていることを示唆している。
【0032】
この応答をさらによく理解するために、インピーダンスデータはさらに、図8の等価回路に適合された。この等価回路中の素子は、以下を表している。
s:溶液の抵抗
ct:電荷移送に対する抵抗、すなわち、反応速度の程度を表し、反応が速いほど、または表面濃度が高いほどRctは小さい。
CPEw:拡散容量
CPEdl:不均質界面に対する二重層の容量
【0033】
図9は、概略的に、インピーダンスデータを図8に示したモデルに適合させることによって得られた等価回路素子の値を示す。インピーダンスデータは、(ただの2つの例として、カイ二乗や平方和の方法のような)公知の統計的方法、ならびに調べられているシステムの情報に基づいて、等価回路に適合される。上記のように、等価回路はデータを理解しやすく、また分析しやすくする。また、等価回路素子は、所定の周波数範囲にわたる情報を有する。結果として、各素子は、単一の周波数の点よりも、ノイズによる影響を受けにくくなり得る。
【0034】
インピーダンスデータは、50mg/dl、150mg/dl、および500mg/dlのグルコース、ならびに20%、45%、および70%に調整されたヘマトクリットを含んでいる血液溶液を添加した場合に、cPES/NA化学成分から決定された。図9の分析後、ヘマトクリット値が抵抗成分に影響を及ぼすことが明らかになり、これは血球量に伴う抵抗の増加を明示している。また同時に、高いヘマトクリット値はグルコース拡散の障害物として作用し、拡散容量の低下を生じる。
【0035】
グルコースの用量の応答は、RctおよびCPEw素子に沿って見られ得るが、これはRsおよびCdlの成分には影響しない。このシステムではRsが、グルコース濃度から独立して、試料のヘマトクリットの量を与える。
【0036】
実施例2.2:ヘマトクリット/温度の調査
実施例2.2でも同様の分析が行われた。図10は、120mg/dlのグルコース、ならびに4℃、24℃、および40℃での1分間の平衡化後に20%、45%、または70%に調整されたヘマトクリットを含んでいる血液溶液を添加した場合に、cPES/NA化学成分に対して得られた9つのナイキストプロットを含んでいる。
【0037】
図10に示されるインピーダンスデータは、一定のグルコース濃度での、等価回路素子に対する温度およびヘマトクリットの影響を決定するために、上述したようなモデルに適合された。算術的な適合の結果は、図11に示されている。注目すべきは、溶液の抵抗(グルコースに依存しない成分)および電荷移送抵抗の値が、温度の上昇に伴って減少したことであり、これはヘマトクリットと比べて逆の傾向に従っている。二重層の容量は試料温度の変化に敏感である。それゆえ、これはヘマトクリットおよびグルコース濃度に依存することなく、反応領域内の温度の高さを与える。
【0038】
実施例3:新規なメディエータシステムを用いたグルコース検出
上記の実施例で提示されたグルコース検出は、電子を電極表面へとさらに移送できると共に、グルコース濃度に比例するセルインピーダンスに変化を生じさせる2つのメディエータと連結された特異的な酵素反応に基づいていた。この化学的性質は、メディエータの1つを取り除くことによってさらに単純化され得る。この場合、図4に示される反応の仕組みは、図12に示される反応の仕組みに変わる。
【0039】
印加されるAC信号の下で、酵素反応の結果としてのメディエータの酸化状態の変化がモニターされ得る。図13は、グルコースを含まない溶液、ならびに57mg/dl、572mg/dl、および1200mg/dlのグルコース濃度を有する溶液を添加した場合に、cPES化学成分に基づくストリップについて得られたナイキストプロットを示している。検査された周波数は、20000Hz、10000Hz、2000Hz、および1000Hzであった。周波数は、高周波から低周波への掃引として印加されたので、測定時間は3秒未満まで減少した。実施例3の結果は、グルコース濃度は、大部分は2000Hzおよび1000Hzでのインピーダンスに影響を及ぼすことを示している。
【0040】
印加信号の周波数の適切な選択により、ACに基づく測定は、分析されるための試料の完全なスペクトルを提供できる。
【0041】
結果として生じる試料の応答が、その後測定され、各励起周波数成分からの寄与が、離散的フーリエ変換(DFT)などの、フーリエ変換法を用いて推定され得る。ここに開示される様々な例ではマルチサイン波の励起波形を利用しているが、当業者であれば、複数の周波数の波形が、いくつかの非制限的な例を挙げれば三角形、方形、鋸歯状、デルタ状などの、あらゆる所望の形状を有する個々の波形を用いて構成され得ることを認識するだろう。複数の周波数の波形を作り出すために使用される、AC波形成分は、それぞれ、所望の周波数および所望の振幅を有していてもよい。複数周波数の技術の使用は、所望のデータを収集するために必要な時間を短縮する(AC測定は順次というよりも同時に行われるので)だけでなく、各印加周波数に対応するデータ収集の間の試料の変化は少ないことから、補正に対してより良好に相関する。
【0042】
本発明は、図面および先の記載に詳細に示され、記述されているが、これは例示的なものであって制限的な性質のものではないと考えられ、好適な実施形態のみが示され、記載されており、以下の請求項により定義される本発明の趣旨内となる、全ての変更、同等物、および修正が、保護されることを望まれるということが理解されている。本明細書で引用される全ての出版物、特許、および特許出願は、各個別の出版物、特許、および特許出願が、詳細、かつ、個別に参照により取り込まれたことが示され、その全体がここに説明されたかのように、参照によってここに取り込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低い印加電位差においてリニアな誘導電流応答を生み出すメディエータシステムを備えた電気化学的テストストリップを提供することと、
血液を前記メディエータシステムに取り入れ、前記テストストリップの電極と接触させることと、
前記テストストリップの電極間の、前記血液にわたる電位差として、交流電流の励起信号を印加することと、ここで、前記交流電流の励起信号は、低周波信号および前記低周波信号よりも高い周波数を有する高周波信号を含んでいる、
前記血液のグルコース濃度を決定すること、ここで、前記グルコース濃度を決定することが、前記低周波信号に対する低周波応答を測定すること、前記高周波信号に対する高周波応答を測定すること、前記低周波応答に基づいてグルコース濃度を推定すること、および、前記高周波応答に基づいて、1つまたは2つ以上の、誤差を引き起こす変化性の物に対してグルコース濃度を補正することを含んでいる、
とを含んでいる方法。
【請求項2】
前記1つまたは2つ以上の、誤差を引き起こす変化性の物が、ヘマトクリットおよび/または温度を含み、
前記グルコース濃度を補正することが、前記高周波応答に基づいて前記ヘマトクリットおよび/または温度に対して補正することを含む
ことをさらに含んでいる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記高周波信号および前記低周波信号が、同一の振幅を有する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記低周波信号および前記高周波信号が、順次または同時に印加される請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記交流電流の励起信号を作り出すために、前記低周波信号および前記高周波信号を重畳することをさらに含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記交流電流の励起信号が、1つの変形において、少なくとも6つの周波数を含む波形を含んでいる請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記グルコース濃度を決定することが、前記高周波信号から前記低周波信号に掃引することによって、または前記低周波信号から前記高周波信号に掃引することによって、複数の周波数でセルインピーダンスを測定することを含んでいる請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記グルコース濃度を決定することが、
前記高周波応答に、インピーダンスにおける有意な変化が見られなくなるまで前記高周波信号を印加すること、
前記高周波応答の前記インピーダンスにおける有意な変化がないことを観測すること、および、
前記高周波応答の前記インピーダンスにおける有意な変化がないことを観測することの後に、前記低周波信号を印加すること
を含んでいる請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記交流電流の励起信号が、1Hz〜20,000Hzの範囲から選択される請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記交流電流の励起信号が、最大で12mVRMSの電位を有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記低周波信号が、最大で2000Hzであって、好適には、1000Hz〜2000Hzの範囲から選択され、または100Hz〜1000Hzの範囲から選択される請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記高周波信号が、最小でも2000Hzである請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記低周波応答を測定すること、および/または前記高周波を測定することが、位相角、大きさ、抵抗、容量、および/またはインピーダンスを測定することを、独立して含んでいる請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記グルコース濃度を決定することが、前記低周波応答および前記高周波応答を等価回路に適合させることを含んでいる請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記メディエータが、単一のメディエータ型のシステム、またはデュアルメディエータ型のシステムを含んでいる請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公表番号】特表2013−516615(P2013−516615A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547455(P2012−547455)
【出願日】平成22年12月30日(2010.12.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007990
【国際公開番号】WO2011/082820
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】