説明

ACLED用蛍光組成物、および、該組成物を用いて製造されるACLED

【課題】AC LED用蛍光組成物で、電圧変換時に発生するAC LEDのデッド時間を、その半減期によって補償することが可能な蛍光組成物を提供すること、および、その蛍光組成物を用いて製造されるAC LEDを提供すること。
【解決手段】本発明は、AC LED用蛍光組成物であって、下式(I):

M1-x-ySi2O2-wN2+2w/3:Eux,Ry (I)

によって表される蛍光組成物を提供する。上式において、M、R、x、y、およびwは、明細書と同様に定義される。さらに、本発明は、該蛍光組成物を用いて製造されるAC LEDを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流発光ダイオード(AC LED)用蛍光組成物、および、該組成物を用いて製造されるAC LEDに関し、より詳細には、AC LEDのシンチレーション現象を抑制することが可能な、AC LED用蛍光組成物、および、該組成物を用いて製造されるAC LEDに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、先進国の人々は、エネルギー節約および環境保護の観点から、従来の照明装置の代わりに白色LEDを使用している。LEDの体積は非常に小さく、そのため、LEDは、小サイズの装置に応用することが可能である。LEDの電力消費は、従来の白熱電球の8分の1または10分の1、蛍光灯の半分である。さらに、LEDは、寿命が長い(>10万時間)、発熱が低い(低熱放射)、反応時間が短いという利点を有する。そのため、LEDは、白熱電球において存在する問題点を解決することが可能である。したがって、白色LEDは、21世紀の新しい光源である。LEDはまた、そのエネルギー節約および環境保護特性のために「緑の光源」とも呼ばれる。
【0003】
交流によってDC LEDを動作させるためには、交流(AC)を直流(DC)に変換するために、LEDと共に変圧器および整流器を使用しなければならない。しかしながら、変圧器の寿命は、一般に約2万時間であるが、LEDの寿命は10万時間を超える。したがって、対応する変圧器の期限切れによるLEDの浪費は、コストの増大を招く。さらに、変圧器の動作時、大量の熱が発生するが、この熱は、装置の寿命の短縮、および電力消費の増大を招く。
【0004】
交流によってDC LEDを動作させることによって生ずる問題点を解決するために、交流発光ダイオード(AC LED)が開発された。AC LEDでは、電力を単一チップに集中させるために、一つのDC LEDチップが切り分けられて、たくさんのマイクロチップに変えられる。そのため、変圧器を排除することが可能となり、熱発生を低減することが可能となり、双方向性接続の実現が可能となる。さらに、静電気による損傷を阻止することが可能となる。
【0005】
しかしながら、従来のAC LEDは、シンチレーションおよび重複像という問題を抱える。図1は、AC LEDの動作原理を示す透視(perspective)図である。一般に、AC LEDの動作入力電圧は80Vであり、周波数は120Hz以下である。電圧が変換されるとき、1/120秒(10 msec)の空白時間(time gap)、すなわち、デッド時間が発生する。この空白時間が、シンチレーション現象と高度に関連する。
【0006】
したがって、AC LED用の蛍光組成物を提供することが望ましく、その蛍光組成物の半減期は、電圧変換時に発生するデッド時間を補償することが可能であり、シンチレーション問題を解決する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、AC LED用蛍光組成物であって、そこにおいて、電圧変換時に発生するAC LEDのデッド時間を、該蛍光組成物の半減期によって補償することが可能な蛍光組成物を提供することである。
【0008】
本発明のもう一つの目的は、前述の蛍光組成物を用いて製造されるAC LEDを提供することである。電圧変換時に発生するデッド時間は、該蛍光組成物の半減期によって補償することが可能であり、したがって、AC LEDのシンチレーション(scintillation)現象を低減することが可能であり、重複像(multiple images)の発生を排除することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明のAC LED用蛍光組成物は、下式(I):

M1-x-ySi2O2-wN2+2w/3:Eux,Ry (I)

によって表され、上式において、Mは、少なくとも一つのアルカリ土類金属であり、Rは、遷移金属またはランタノイド(lanthanide)元素、0 < x ≦1, 0 < y < 1、および0 ≦ w < 4である。
【0010】
さらに、本発明は、LEDチップ、および、該LEDチップの発光面に配される、前述の式(I)によって表される蛍光組成物を含むAC LEDを提供する。
【0011】
本発明の蛍光組成物によれば、該蛍光組成物の発光波長は、N/O比を調整することによって調節することが可能である。したがって、黄色範囲から青緑色範囲の光を発射することが可能な蛍光組成物を取得することが可能である。さらに、本発明の蛍光組成物の半減期は、msec(ミリ秒)スケールであり、したがって、電圧変換時に発生するデッド時間は、この蛍光組成物によって補償することが可能である。さらに、本発明の蛍光組成物を用いて製造されるAC LEDによれば、該蛍光組成物の半減期は、電圧変換時に発生するデッド時間を補償し、したがって、このAC LEDのシンチレーション現象は低減することが可能であり、重複像の発生は排除することが可能である。
【0012】
本発明の蛍光組成物、および、該蛍光組成物を用いて製造されるAC LEDによれば、Mは、Ca、Sr、およびBaから成る群から選ばれる少なくとも一つであり、Rは、Mn、Ce、またはDyであってもよい。好ましくは、Mは、SrおよびBaから成る群から選ばれる少なくとも一つであり、RはMnである。
【0013】
さらに、本発明の蛍光組成物によれば、該蛍光組成物は、360-480 nmの励起波長を有する。したがって、本発明のAC LEDによれば、LEDチップは、本発明の蛍光組成物を励起するように、UV-LEDチップか、または青色LEDチップであってもよい。
【0014】
さらに、本発明の蛍光組成物、および、該蛍光組成物を用いて製造されるAC LEDによれば、蛍光組成物は、480-600 nmの発光波長を有する。この発光波長は、該蛍光組成物におけるN/O比を調整することによって調節することが可能である。w = 0である場合、蛍光組成物は、青緑色光を発射する。0 < w ≦ 2である場合、蛍光組成物は、黄-緑色光を発射する。さらに、2 < w ≦ 4である場合、蛍光組成物は黄色光を発射する。
【0015】
本発明の蛍光組成物、および、該蛍光組成物を用いて製造されるAC LEDによれば、該蛍光組成物の半減期は1-500 msである。
【0016】
さらに、本発明の蛍光組成物は、ソリッドステート(固相)合成法によって調製することが可能である。したがって、本発明の蛍光組成物を合成するためのプロセスは非常に単純であり、大規模生産を簡単に実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】AC LEDの動作原理を示す透視図である。
【図2】本発明の実施例1〜2、および比較例の蛍光組成物の励起スペクトルである。
【図3】本発明の実施例1〜2、および比較例の蛍光組成物の発光スペクトルである。
【図4】本発明の実施例1の蛍光組成物の半減期を示す曲線である。
【図5】本発明の実施例2の蛍光組成物の半減期を示す曲線である。
【図6】本発明の比較例の蛍光組成物の半減期を示す曲線である。
【図7】本発明の実施例3のAC LEDの透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
これまで、本発明は、例示的に説明されてきたわけであるが、使用される用語は、限定のためではなく、説明を意図するものであることを理解しなければならない。上述の教示に徴すれば、本発明について多くの改変および変異態様が可能である。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲内において、特異的に記述されたものとは別のやり方で実行することが可能であることを理解しなければならない。
【実施例1】
【0019】
Sr0.88Si2O2N2:Eu0.04Mn0.08の式を実現するように、適当量のSrCO3, Si3N4, Eu2O3, およびMnCO3を化学量論比において秤量した。これらの粉末を混ぜ合わせ、乳鉢において磨りつぶし、次いで、25% H2-75% N2 雰囲気中1500℃1時間で焼結させ、淡黄色産物を得た。この淡黄色産物は、本実施例の蛍光組成物、すなわち、Sr0.88Si2O2N2:Eu0.04Mn0.08である。
【実施例2】
【0020】
Sr0.46Ba0.46Si2O1.5N3.5:Eu0.04 Mn0.04の式を実現するように、適当量のBaCO3, SrCO3, Si3N4, Eu2O3, およびMnCO3 を化学量論比において秤量した。これらの粉末を混ぜ合わせ、乳鉢において磨りつぶし、次いで、10% H2-90% N2 雰囲気中1500℃1時間で焼結させ、淡黄色産物を得た。この淡黄色産物は、本実施例の蛍光組成物、すなわち、Sr0.46Ba0.46Si2O1.5N3.5:Eu0.04 Mn0.04である。
【比較例】
【0021】
Sr0.96Si2O2N2:Eu0.04 の式を実現するように、適当量のSrCO3, Si3N4, およびEu2O3 を化学量論比において秤量した。これらの粉末を混ぜ合わせ、乳鉢において磨りつぶし、次いで、25% H2-75% N2 雰囲気中1500℃1時間で焼結させ、淡黄色産物を得た。この淡黄色産物は、本例の蛍光組成物、すなわち、Sr0.96Si2O2N2:Eu0.04 である。
【0022】
蛍光組成物の発光評価
フォトルミネッセンス(PL)分光光度計測を用いて、実施例1〜2および比較例の蛍光組成物の励起スペクトルおよび発光スペクトルを分析した。結果を図2および3に示す。図2は、実施例1〜2および比較例の蛍光組成物の励起スペクトルであり、図3は、実施例1〜2および比較例の蛍光組成物の発光スペクトルである。
【0023】
図2に示すように、実施例1〜2の蛍光組成物は、いずれも、360-480 nmの波長を持つ光によって励起することが可能であり、これは、実施例1〜2の蛍光組成物が、UV-LEDチップか、または青色LEDチップによって励起することが可能であることを示す。さらに、図3に示すように、実施例1と比較例の蛍光組成物は青緑色光を発射するが、実施例2の蛍光組成物は黄色光を発射する。
【0024】
蛍光組成物の半減期評価
図4は、実施例1の蛍光組成物の半減期を示す曲線である。該蛍光組成物を励起し、その半減期を測定するには、460 nmの波長を持つ光を用いた。
【0025】
図4に示すように、実施例1の蛍光組成物の半減期は6.2 msecである。さらに、実施例2の半減期も、図5に示すように、msecのスケールにある。一方、比較例の蛍光組成物の半減期は、図6に示すように、0.0008 msecにある。したがって、実施例1の蛍光組成物の半減期は、比較例の蛍光組成物の半減期よりもはるかに長い。したがって、電圧変換時に発生するデッド時間(約10 msec)は、実施例1〜2の蛍光組成物の半減期によって補償することが可能であり、そのため、シンチレーションおよび重複像の問題を改善することが可能である。
【実施例3】
【0026】
AC LEDの調製
実施例1の蛍光組成物を用いて製造されるAC LEDを準備する。
図7に示すように、本実施例のAC LEDは:基板51;基板51の上に形成され、第1部分521および第2部分522を有するエピタキシャル層52;エピタキシャル層52の第1部分521の上に配される第1電極53;エピタキシャル層52の第2部分522の上に配される第2電極54;および、エピタキシャル層52および基板51を覆う、透明封入層55を含み、この構成において、蛍光組成物は、透明封入層55の中に含まれ、光は、エピタキシャル層52の発光表面523から発射して、透明封入層55を通過する。この態様において、基板51、エピタキシャル層52、第1電極53、および第2電極54は、LEDチップとして形成される。さらに、LEDチップは、UV-LEDチップ、または青色LEDチップであってもよい。
【0027】
結論として、本発明は、発光波長の調整が可能な、AC LED用蛍光組成物を提供する。さらに、本発明の蛍光組成物は、ソリッドステート(固相)合成法によって調製されるので、単純な方法で大規模に調製することが可能である。さらに、本発明は、この蛍光組成物を用いて製造されるAC LEDを提供する。この蛍光組成物の半減期は、電圧変換時に発生するデッド時間を補償することが可能であり、そのため、AC LEDのシンチレーション現象を低減することが可能であり、重複像の発生を排除することが可能である。
【0028】
これまで、本発明を、その好ましい実施態様との関連において説明してきたわけであるが、他にも、多くの可能な改変および変異態様を、下記に主張する本発明の特許請求の範囲から逸脱することなく実行することが可能であることを理解しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AC LED用蛍光組成物であって、下式(I):

M1-x-ySi2O2-wN2+2w/3:Eux,Ry (I)

によって表され、上式において、Mは少なくとも一つのアルカリ土類金属であり、Rは遷移金属またはランタノイド元素であり、0 < x ≦1、0 < y < 1、および0 ≦ w < 4である、蛍光組成物。
【請求項2】
Mが、Ca、Sr、およびBaから成る群から選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の蛍光組成物。
【請求項3】
Rが、Mn、Ce、またはDyである、請求項1に記載の蛍光組成物。
【請求項4】
Mが、SrおよびBaから成る群から選ばれる少なくとも一つであり、RがMnである、請求項1に記載の蛍光組成物。
【請求項5】
前記蛍光組成物が、360-480 nmの励起波長を有する、請求項1に記載の蛍光組成物。
【請求項6】
前記蛍光組成物が、480-600 nmの発光波長を有する、請求項1に記載の蛍光組成物。
【請求項7】
前記蛍光組成物の半減期が1-500 msである、請求項1に記載の蛍光組成物。
【請求項8】
前記蛍光組成物が、w = 0である場合、青緑色光を発射する、請求項1に記載の蛍光組成物。
【請求項9】
前記蛍光組成物が、0 < w ≦ 2である場合、黄-緑色光を発射する、請求項1に記載の蛍光組成物。
【請求項10】
前記蛍光組成物が、2 < w ≦ 4である場合、黄色光を発射する、請求項1に記載の蛍光組成物。
【請求項11】
AC LEDであって:
LEDチップ;および、
該LEDチップの発光面の上に配される蛍光組成物を含み、該蛍光組成物が、下式(I):

M1-x-ySi2O2-wN2+2w/3:Eux,Ry (I)

によって表され、
上式において、Mは少なくとも一つのアルカリ土類元素であり、Rは遷移金属またはランタノイド元素であり、0 < x ≦1、0 < y < 1、および0 ≦ w < 4である、AC LED。
【請求項12】
前記LEDチップが、UV-LEDチップ、または青色LEDチップである、請求項11に記載のAC LED。
【請求項13】
Mが、Ca、Sr、およびBaから成る群から選ばれる少なくとも一つである、請求項11に記載のAC LED。
【請求項14】
Rが、Mn、Ce、またはDyである、請求項11に記載のAC LED。
【請求項15】
Mが、SrおよびBaから成る群から選ばれる少なくとも一つであり、RがMnである、請求項11に記載のAC LED。
【請求項16】
前記蛍光組成物が、480-600 nmの発光波長を有する、請求項11に記載のAC LED。
【請求項17】
前記蛍光組成物の半減期が1-500 msである、請求項11に記載のAC LED。
【請求項18】
前記蛍光組成物が、w = 0である場合、青緑色光を発射する、請求項11に記載のAC LED。
【請求項19】
前記蛍光組成物が、0 < w ≦ 2である場合、黄-緑色光を発射する、請求項11に記載のAC LED。
【請求項20】
前記蛍光組成物が、2 < w ≦ 4である場合、黄色光を発射する、請求項11に記載のAC LED。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−21130(P2012−21130A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260775(P2010−260775)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(505428282)フォワード エレクトロニクス カンパニー リミテッド (6)
【Fターム(参考)】