説明

APPの神経活性断片

本出願は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)の新規の神経活性断片を提供する。断片は、APPのAβ領域に由来する配列を含むが、上流にも及ぶ。断片は水溶液に可溶性であり、大半のバンドは約10kDa以上であり、二量体または三量体の予測分子量とは対応しない。断片およびその小断片は、脳内におけるAβの沈着を特徴とするアルツハイマー病および他のアミロイド形成性疾患を治療する免疫療法における免疫原として用いることができる。APPより上流の断片部分、またはAβと上流配列との間の境界に対する抗体も、このような治療法において用いることができる。断片は、疾患の診断もしくは予後予測または作用物質のスクリーニングで検出することができるマーカーとしても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、仮出願でなく、すべての目的でその全体が参照により組み込まれている2006年6月1日出願の第60/810,245号の利益を請求するものである。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、老年認知症を生じる進行性疾患である。全般にはSelkoe、TINS、第16巻、403〜409頁、1993年;Hardyら、国際公開第92/13069号;Selkoe、J.Neuropathol.Exp.Neurol.、第53巻、438〜447頁、1994年;Duffら、Nature、第373巻、476〜477頁、1995年;Gamesら、Nature、第373巻、523頁、1995年を参照のこと。大まかに言って、該疾患は、老年(65+歳)に生じる遅発型、および老年期のはるか以前、すなわち、35〜60歳の間に発症する早発型の2つの型に分類される。疾患のいずれの型においても病態は同じであるが、若年に始まる症例における方が、異常がより重症でより広範に及ぶ。該疾患は、脳における少なくとも2つの型の病変である老人斑および神経原線維変化を特徴とする。老人斑とは、中央部に細胞外アミドイド沈着を伴う最大150μm径の無秩序な神経網領域であり、脳組織切片の顕微鏡解析により見ることができる。神経原線維変化は、互いに巻きつき合い対合する2つの線維体からなる微小管に関連するタウタンパク質の細胞内沈着である。
【0003】
プラークの主要成分は、Aβまたはβアミロイドペプチドと称するペプチドである。Aβペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と称する前駆体タンパク質の39〜43アミノ酸からなる内部断片である。APPタンパク質内における複数の突然変異が、アルツハイマー病の存在と相関している。例えば、Goateら、Nature、第349巻、704頁、1991年(バリン717からイソロイシンへ);Chartier−Harlinら、Nature、第353巻、844頁、1991年(バリン717からグリシンへ);Murrellら、Science、第254巻、97頁、1991年(バリン717からフェニルアラニンへ);Mullanら、Nature Genet.、第1巻、345頁、1992年(リシン595−メチオニン596をアスパラギン595−ロイシン596に変化させる二重突然変異)を参照のこと。このような突然変異が、APPからAβへのプロセシングの増大または変化、特に、長型のAβ(すなわち、Aβ1−42およびAβ1−43)の量が増加するAPPプロセシングによりアルツハイマー病を引き起こすと考えられる。プレセニリン遺伝子であるPS1およびPS2などの他の遺伝子における突然変異は、長型Aβの量を増加させるAPPプロセシングに間接的な影響を及ぼすと考えられる(Hardy、TINS、第20巻、154頁、1997年を参照のこと)。
【0004】
プラークへと凝集したアミロイドペプチドの病理的役割は、多年にわたり知られている。しかし、認知症の重症度は、プラーク密度との相関が弱いのに対して、可溶性Aβレベルとの間には著明な相関が存在する(McLeanら、Ann.Neurol.、1999年、第46巻、860〜866頁)。近年の研究は、Aβオリゴマーが、hAPPトランスジェニックマウスにおけるシナプス毒性および記憶障害に関わることを示唆している(Muckeら、J Neurosci.、第20巻、4050〜4058頁、2000年;Morganら、Nature、第408巻、982〜985頁、2000年;Dodartら、Nat Neurosci、第5巻、452〜457頁、2002年)。Aβオリゴマーは、海馬長期増強をも阻害するが、同モノマーまたは同原線維はこれを阻害しない(Walshら、Nature、第416巻、535〜539頁、2002年)。「Aβオリゴマー」の神経毒性種の一次構造が、活発な探求領域である。該神経毒性種は、Aβの2位(アスパラギンに続くアラニン)に始まるAβペプチドからなるオリゴマーであることが示唆されている(Podlisny,M.ら、JBC、1995年、第270巻、9564〜9570頁)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基444〜595または444〜596(APP695の番号付け)内のエピトープに特異的に結合する抗体を提供する。場合によっては、抗体は、モルモットアミロイド前駆体タンパク質に対する特異的結合性を欠く。場合によっては、抗体は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基551〜570内のエピトープに特異的に結合する。場合によっては、抗体は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基530〜580内のエピトープに特異的に結合する。場合によっては、抗体は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基676〜695内のエピトープに特異的に結合する。場合によっては、抗体は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基545〜555内のエピトープに特異的に結合する。場合によっては、抗体は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質に対する特異的結合について、モノクローナル抗体8E5と競合する。場合によっては、抗体は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質に対する特異的結合について18B10と競合する。場合によっては、抗体は、8E5または18B10のヒト化形態またはキメラ形態である。場合によっては、抗体は、モノクローナル抗体である。
【0006】
本発明は、アルツハイマー病を予防的または治療的に処置する方法であって、該疾患に罹患しているまたは該疾患の危険性がある患者に、APPのアミノ酸516〜595または596の間の少なくとも4つの連続した残基を含む断片の治療的に有効なレジメンを施し、それによって該疾患を予防的または治療的に処置するステップを含む方法をさらに提供する。場合によっては、断片は、APPのアミノ酸551〜595または596の間の少なくとも5つの連続した残基を含む。場合によっては、断片は、APPのアミノ酸544〜596または597の間の少なくとも7つの連続した残基を含む。場合によっては、断片は、APPの残基551〜595または596を含む。場合によっては、断片は、APPの残基551〜638を含む。場合によっては、投与するステップでは、各々がAPPの残基551〜595または596の間の少なくとも4つの連続したアミノ酸を含む複数の断片を投与する。場合によっては、断片は、APPの残基551〜595または596の間の少なくとも4〜20個の連続したアミノ酸を含む。場合によっては、断片は、APPの残基516〜595または596の間の少なくとも4〜20個の連続したアミノ酸を含む。場合によっては、断片は、APPの残基551〜595または596の間の少なくとも4〜10個の連続したアミノ酸を含む。場合によっては、断片は、APPの残基516〜595または596の間の少なくとも4〜10個の連続したアミノ酸を含む。場合によっては、断片は、第1および第2のセグメントを含み、第1のセグメントがAβのセグメントであり、第2のセグメントがAβの上流にあるAPPセグメントである。場合によっては、第1および第2のセグメントは、ヒトAPPの連続したセグメントである。場合によっては、断片は、コンジュゲートとして担体と連結し、その担体は、断片に対する抗体を含む免疫応答を引き起こす一助となる。場合によっては、該方法は、アジュバントを患者に投与するステップをさらに含み、アジュバントが、断片に対する抗体を含む免疫応答を引き起こす一助となる。場合によっては、方法は、Aβに対する抗体または該抗体を生成する免疫原を投与するステップをさらに含む。場合によっては、免疫原を投与し、免疫原がAβの断片である。
【0007】
本発明は、アルツハイマー病を予防的または治療的に処置する方法であって、該疾患に罹患するまたは該疾患の危険性がある患者に、(a)ヒトAPPの残基516〜595内のエピトープに特異的に結合する抗体、または(b)このような抗体を生成する免疫原の治療的に有効なレジメンを投与し、それによって該疾患を予防的または治療的に処置するステップを含む方法をさらに提供する。
【0008】
場合によっては、抗体は、ヒトAPPの残基530〜595内のエピトープに特異的に結合する。場合によっては、抗体は、上記に定義される任意の抗体である。場合によっては、抗体は、APP断片のN末端に結合する末端特異的抗体であり、N末端が残基535〜555の間のアミノ酸残基である。場合によっては、抗体は、APP516〜638またはAPP536〜638のN末端に結合する末端特異的抗体である。場合によっては、その方法は、Aβに対する抗体または該抗体を生成する免疫原を投与するステップをさらに含む。場合によっては、免疫原を投与し、免疫原がAβの断片である。
【0009】
本発明は、アルツハイマー病を治療するのに有用な活性について作用物質をスクリーニングする方法であって、非ヒトトランスジェニック動物を作用物質と接触させるステップであって、非ヒトトランスジェニック動物がAPPをコードするセグメントを含むゲノムを含み、Aβおよび他の断片にプロセシングされるアミロイド前駆体タンパク質へと発現されるステップと、APPの551〜595または596位の間の少なくとも25アミノ酸を含む50〜150アミノ酸の水溶性APP断片を抽出するステップと、可溶性APP断片の量を、作用物質で処置していない対照トランスジェニックマウス由来の量と比較するステップであって、可溶性断片の量の減少から、作用物質がアルツハイマー病の治療に有用な活性を有することが示唆されるステップとを含む方法をさらに提供する。場合によっては、APPはヒトAPPである。場合によっては、断片は、ヒトAPPの残基551〜638を含む。場合によっては、断片は、抗体8E5および/または18B10によって特異的に結合されうる。場合によっては、断片は、APP516〜638、APP516〜639、APP536〜638、またはAPP536〜639である。
【0010】
本発明は、アルツハイマー病を治療するのに有用な活性について作用物質をスクリーニングする方法であって、単離された細胞を作用物質と接触させるステップであって、細胞がAPPをコードする核酸を含み、核酸が、Aβおよび他の断片にプロセシングされるアミロイド前駆体タンパク質へと発現されるステップと、APPの551〜595または596位の間の少なくとも25アミノ酸を含む50〜150アミノ酸の水溶性APP断片を培地内で検出するステップと、可溶性APP断片の量を、作用物質で処置していない対照細胞の量と比較するステップであって、可溶性断片の量の減少から、作用物質がアルツハイマー病の治療に有用な活性を有することが示唆されるステップとを含む方法をさらに提供する。
【0011】
場合によっては、単離された細胞に、APPをコードする核酸を含む構築物をトランスフェクトする。場合によっては、水溶性断片は、APP516〜638、APP516〜639、APP536〜638、またはAPP536〜639である。
【0012】
本発明は、アルツハイマー病を治療するのに有用な活性について作用物質をスクリーニングする方法であって、APPの551〜595または596位の間の少なくとも25アミノ酸を含む50〜150アミノ酸の水溶性APP断片を、細胞集団および作用物質と接触させるステップと、作用物質のない状態で可溶性断片と接触させた対照細胞集団から残存した細胞と比較した、生存細胞の数を比較するステップであって、作用物質の存在下における生存細胞の増加から、作用物質がアルツハイマー病の治療に有用な活性を有することが示唆されるステップとを含む方法をさらに提供する。
【0013】
場合によっては、細胞は、神経細胞である。場合によっては、水溶性断片は、APP516〜638、APP516〜639、APP536〜638、またはAPP536〜639である。
【0014】
本発明は、ヒトAPPの551〜595または596位の間の少なくとも25アミノ酸を含む50〜150アミノ酸のアミロイド前駆体タンパク質の単離された断片をさらに提供する。単離された断片は、場合によっては、ヒトAPPの残基551〜638を含む。単離された断片は、場合によっては、ヒトAPPの残基551〜638からなる。場合によっては、断片は、100アミノ酸長以下の長さである。場合によっては、断片は、抗体8E5および/または18B10によって特異的に結合される。場合によっては、断片は、APP516〜638、APP516〜639、APP536〜638、およびAPP536〜639である。
【0015】
本発明は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基595および596を含むエピトープにおいて、ヒトアミロイド前駆体タンパク質に特異的に結合する抗体をさらに提供する。本発明は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基596および597を含むエピトープにおいて、ヒトアミロイド前駆体タンパク質に特異的に結合する抗体をさらに提供する。
【0016】
本発明は、ヒトAPP断片のN末端に特異的に結合する末端特異的抗体であって、N末端アミノ酸がヒトAPPの残基535〜555の間に位置する末端特異的抗体をさらに提供する。
【0017】
本発明は、APP516〜638、APP516〜639、APP536〜638、またはAPP536〜639のN末端に特異的に結合する、特許請求に係る末端特異的抗体をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】抗Aβ抗体および抗APP抗体によるPDAPPマウス脳の免疫沈降(IP)およびウェスタンブロットを示す図である。
【図2】免疫沈降した脳調製物に対する各種の塩洗浄後における抗Aβ(12A11)抗体および抗APP(8E5)抗体によるPDAPPマウス脳のIPおよびウェスタンブロットを示す図である(図2Aおよび2B)。7PA2 CMの免疫沈降は比較のためである。
【図3】抗Aβ抗体および抗APP(8E5)抗体による7PA2 CMのIPおよび8E5または2H3による画像化を示す図である。
【図4】7PA2 CMのサイズ除外クロマトグラフィー(SEC)を示す図である。
【図5A】7PA2 CMのSECを示す図である(図5A、B、C)。8E5樹脂および12B4樹脂により免疫沈降させた後で、3D6、8E5、および2H3によりウェスタンブロット法による画像化を行った分画を示す。
【図5B】7PA2 CMのSECを示す図である(図5A、B、C)。8E5樹脂および12B4樹脂により免疫沈降させた後で、3D6、8E5および2H3によりウェスタンブロット法による画像化を行った分画を示す。
【図5C】7PA2 CMのSECを示す図である(図5A、B、C)。8E5樹脂および12B4樹脂により免疫沈降させた後で、3D6、8E5および2H3によりウェスタンブロット法による画像化を行った分画を示す。
【図6A】ヘパリンセファロース、8E5樹脂、および12B4樹脂により免疫沈降させた後で、抗Aβ抗体および抗APP抗体によりウェスタンブロット法による画像化を行った7pA2の馴化培地を示す図である(図6AおよびB)。
【図6B】ヘパリンセファロース、8E5樹脂、および12B4樹脂により免疫沈降させた後で、抗Aβ抗体および抗APP抗体によりウェスタンブロット法による画像化を行った7pA2の馴化培地を示す図である(図6AおよびB)。
【図7】7PA2 CMの8E5による免疫親和性精製から得られたアミノ末端配列の結果を示す図である。
【図8】アラマーブルーにより分析した、ヒト皮質ニューロンに対するAPP516〜638ポリペプチドおよびAPP536〜638ポリペプチドの毒性を示す図である。
【図9】分枝点平均(9A)または細胞体からの平均分枝点距離(9B)により分析した、ヒト皮質ニューロンに対するAPP516〜638ペプチドおよびAPP536〜638ペプチドの毒性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
アミノ酸置換を保存的置換または非保存的置換に分類するため、アミノ酸を以下の通りに群別する。グループI(疎水性側鎖):ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;グループII(中性の親水性側鎖):cys、ser、thr;グループIII(酸性の側鎖):asp、glu;グループIV(塩基性の側鎖):asn、gln、his、lys、arg;グループV(鎖の配向に影響する残基):gly、pro;およびグループVI(芳香族側鎖):trp、tyr、phe。保存的置換は、同じクラス内におけるアミノ酸間の置換に関与する。非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のメンバーと交換するステップを構成する。
【0020】
「all−D」という用語は、≧75%、≧80%、≧85%、≧90%、≧95%、および100%のD立体配置アミノ酸を有するペプチドを指す。
【0021】
「作用物質」という用語は、薬理活性を有するまたは有しうる化合物について述べるのに用いる。作用物質は、既知の薬剤、薬理活性が同定されているがさらなる治療的評価を受けつつある化合物、ならびに薬理活性についてスクリーニングされるコレクションおよびライブラリーのメンバーである化合物を含む。
【0022】
本発明の治療的作用物質は、望ましくない不純物を実質的に含まないことが通例である。これは、作用物質が、通例少なくとも約50% w/w(重量/重量)の純度であるほか、干渉性のタンパク質および不純物を実質的に含まないことを意味する。作用物質が、少なくとも約80% w/wの純度であり、より好ましくは、少なくとも90または約95% w/wの純度であることもある。しかし、既存のタンパク質精製技術を用いると、少なくとも99% w/wの均一なペプチドを得ることができる。本発明の治療的作用物質は、アミロイド沈着と関連する疾患の症状を緩和するか、同疾患を予防する(prevent, effect prophylaxis of)か、または同疾患を治療しうる。
【0023】
2つの実体の間の特異的結合とは、実体が、無関係の抗原や、異なる抗原に対する抗体などの対照に対する各実体の親和性を少なくとも10倍、100倍、または100倍上回る相互の親和性を有することを意味する。2つの実体の相互の親和性は、少なくとも10、10、10−1または1010−1であることが通例である。10−1を超える親和性が好ましい。Aβ内のエピトープに対するポリクローナル抗体の特異的結合とは、ポリクローナル抗体集団内における抗体が、Aβの他のエピトープに結合する(適合するよう変化する)ことなしに、Aβの1つのエピトープに特異的に結合することを意味する。
【0024】
「抗体」または「免疫グロブリン」という用語は、完全な抗体およびその結合断片を含むように用いられる。断片は通例、それらが由来した完全な抗体と、抗原断片に対する特異的結合について競合し、個別の重鎖、軽鎖、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fabc、およびFvを含む。別個の鎖は、ナノボディー(Nanobody)抗体(すなわち、場合によってはヒト化された、ラクダまたはラマに由来する抗体重鎖の単離されたVH断片)を含む。単離されたVH断片は、ヒト抗体など他の供給源からも得ることができる。断片は、組み換えDNA技術により、または完全な免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的分離により作製される。「抗体」という用語は、他のタンパク質との融合タンパク質と化学的にコンジュゲートする、または同融合タンパク質として発現される、1つまたは複数の免疫グロブリンをも含む。「抗体」という用語は、二重特異的な抗体をも含む。二重特異的または二重機能的な抗体は、2つの異なる重/軽鎖対合および2つの異なる結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体である。二重特異的抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の連結を含む各種の方法により作製することができる。例えば、SongsivilaiおよびLachmann、Clin.Exp.Immunol.、第79巻、315〜321頁、1990年;Kostelnyら、J.Immunol.、第148巻、1547〜1553頁、1992年を参照のこと。
【0025】
非凝集Aβまたはその断片とは、単量体ペプチド単位を意味する。非凝集Aβまたはその断片は、一般に可溶性であり、自己凝集して可溶性オリゴマーを形成する能力がある。Aβオリゴマーおよびその断片は、可溶性であることが通例であり、おもにαヘリックスまたはランダムコイルとして存在する。単量体Aβを調製する1つの方法は、凍結乾燥したペプチドを、純DMSO中で超音波処理により溶解することである。結果として得られる溶液は、遠心分離して任意の不溶性粒子を除去する。凝集Aβまたはその断片とは、単量体単位が非共有結合により結合され、不溶性のβシート構築物に組み上げられる、Aβオリゴマーまたはその免疫原性断片を意味する。凝集Aβまたはその断片は、原線維ポリマーをも意味する。原線維は、不溶性であることが通例である。
【0026】
「抗原」とは、抗体が特異的に結合する実体である。
【0027】
「エピトープ」または「抗原決定基」という用語は、B細胞および/またはT細胞が反応する抗原の部位を指す。B細胞エピトープは、連続したアミノ酸またはタンパク質の3次元的な折りたたみにより並置される連続しないアミノ酸のいずれからも形成することができる。連続したアミノ酸から形成されるエピトープは、変性溶媒への曝露時に保持されるのが通例であるのに対し、3次元的な折りたたみにより形成されるエピトープは、変性溶媒による処置時に失われるのが通例である。エピトープは、固有の空間的構造内に少なくとも3のアミノ酸を含むのが通例であり、また、少なくとも5または8〜10のアミノ酸を含むのがより通例である。エピトープの空間的構造を決定する方法は、例えば、x線結晶解析および2次元核磁気共鳴法を含む。例えば、「Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology」、第66巻、Glenn E.Morris編、1996年を参照のこと。同一のエピトープを認識する抗体は、1つの抗体が標的抗原に対する別の抗体の結合を遮断する能力を示す、簡素なイムノアッセイにより同定することができる。T細胞は、CD8細胞に対する約9アミノ酸からなる連続的なエピトープ、またはCD4細胞に対する約13〜15アミノ酸からなる連続的なエピトープを認識する。エピトープを認識するT細胞は、エピトープに応答する、初回抗原刺激を受けたT細胞によるH−チミジンの取り込み(Burkeら、J.Inf.Dis.、第170巻、1110〜1119頁、1994年)、抗原依存的死滅(細胞傷害性Tリンパ球アッセイ、Tiggesら、J.Immunol.、第156巻、3901〜3910頁)、またはサイトカイン分泌が決定する通り、抗原依存的増殖を測定するin vitroアッセイにより同定することができる。
【0028】
「免疫学的」応答または「免疫」応答という用語は、受容患者においてアミロイドペプチドに対して向けられる有益な体液性(抗体を介する)応答および/または細胞性(抗原特異的なT細胞またはその分泌産物を介する)応答の発現である。このような反応は、免疫原の投与によって誘導される能動応答、または抗体もしくは初回抗原刺激を受けたT細胞の投与によって誘導される受動応答でありうる。細胞性免疫応答は、CD4ヘルパーT細胞および/またはCD8細胞傷害T細胞を活性化する、抗原特異的なクラスIまたはクラスII MHC分子と関連するポリペプチドエピトープの提示により引き起こされる。該応答は、単球、マクロファージ、NK細胞、好塩基球、樹状細胞、星状膠細胞、小グリア細胞、好酸球、または生得的免疫の他の成分の活性化にも関与しうる。細胞媒介免疫応答の存在は、増殖アッセイ(CD4T細胞)またはCTL(細胞傷害性Tリンパ球)アッセイ(Burke、前出;Tigges、前出を参照のこと)により判定することができる。免疫原の保護的または治療的効果に対する体液性応答および細胞性応答の相対的な寄与は、免疫感作した同遺伝子型の動物に由来する抗体およびT細胞を個別に単離し、別の対象における保護的または治療的効果を測定することにより識別することができる。
【0029】
「免疫原性作用物質」または「免疫原」は、哺乳動物への投与時に、場合によってはアジュバントとの併用で、それ自体に対する免疫応答を誘発することができる。
【0030】
「裸のポリヌクレオチド」という用語は、コロイド状の物質と複合体を形成しないポリヌクレオチドを指す。裸のポリヌクレオチドは、プラスミドベクター中にクローン化されることがある。
【0031】
「アジュバント」という用語は、抗原と併用投与すると抗原に対する免疫応答を増大させるが、単独で投与すると抗原に対する免疫応答を生じない化合物を指す。アジュバントは、リンパ球の動員、B細胞および/またはT細胞の刺激、ならびにマクロファージの刺激を含むいくつかの機序により、免疫応答を増大させることができる。
【0032】
「患者」という用語は、予防的または治療的な処置を受けるヒト対象および他の哺乳動物対象を含む。
【0033】
抗体間の競合は、試験下の免疫グロブリンが、Aβなどの共通抗原に対する基準抗体の特異的結合を阻害するアッセイにより判定する。多くの種類の競合的結合アッセイ、例えば、固相の直接または間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相の直接または間接酵素イムノアッセイ(EIA)、サンドウィッチ競合アッセイ(Stahliら、Methods in Enzymology、第9巻、242〜253頁、1983年を参照のこと);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Kirklandら、J.Immunol.、第137巻、3614〜3619頁、1986年を参照のこと);固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドウィッチアッセイ(HarlowおよびLane、「Antibodies,A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Press社、1988年を参照のこと);I−125標識を用いる固相直接標識RIA(Morelら、Molec.Immunol.、第25巻、第1号、7〜15頁、1988年を参照のこと);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Cheungら、Virology、第176巻、546〜552頁、1990年);および直接標識RIA(Moldenhauerら、Scand.J.Immunol.、第32巻、77〜82頁、1990年)が知られている。通例、こうしたアッセイは、固体表面に結合した精製抗原またはこれらのいずれかを有する細胞、非標識被験免疫グロブリン、および標識基準免疫グロブリンの使用を含む。競合的阻害は、被験免疫グロブリンの存在下において、固体表面または細胞に結合した標識の量を決定することにより測定する。通常、被験免疫グロブリンは、過剰に存在する。競合アッセイにより同定される抗体(競合抗体)は、基準抗体と同一のエピトープに結合する抗体、および基準抗体が結合するエピトープの十分近くに隣接するエピトープに結合して立体障害が生じる抗体を含む。通常、競合抗体が過剰に存在すると、共通抗原に対する基準抗体の特異的結合を、少なくとも50または75%阻害する。
【0034】
長期増強(LTP)とは、シナプスを介してメッセージを繰り返し送受信することにより発現する、ある種の「感受性の上昇」である。
【0035】
列挙した1つまたは複数の要素を「含む」組成物または方法は、具体的に列挙しない他の要素を含んでよい。例えば、Aβペプチドを含む組成物は、単離されたAβペプチドと、より大きなポリペプチド配列の一成分としてのAβペプチドとの両方を含む。
【0036】
文脈から別段に明らかでない限り、本発明の各実施形態、各要素、各ステップ、または各特徴は、任意の他の実施形態、他の要素、他のステップ、または他の特徴と併用することができる。
【0037】
I.全般
本出願は、部分的には、ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)の新規の神経活性断片の同定を前提とする。断片は、APPのAβ領域に由来する配列を含むが、上流にも及ぶ。断片は通常水溶液中で可溶性であり、前述でAβ「オリゴマー」として分類したのと同一の分子量分画において単離することができるのが通例である。大半のバンドは約10kDa以上であり、Aβ二量体または三量体の予測分子量には対応しない。Aβオリゴマーとの分子量の類似性およびAβ抗体に対する交差反応性のために、本断片は、擬似オリゴマー(fauxligomers)として知られる場合がある。断片とその小断片は、脳内におけるAβの沈着を特徴とするアルツハイマー病および他のアミロイド形成性疾患を治療する免疫療法における免疫原として用いることができる。APPの上流にある断片の一部に対する抗体、またはAβと上流配列との間の境界も、このような治療法において用いることができる。断片は、疾患の診断もしくは予後予測または作用物質のスクリーニングで検出することができるマーカーとしても有用である。アルツハイマー病のトランスジェニック動物における、こうした断片のレベルを低減する能力について、作用物質をスクリーニングする。
【0038】
II.APPとAβ
APP695、APP751、およびAPP770とは、それぞれ、ヒトAPP遺伝子がコードする、695、751、および770アミノ酸長のポリペプチドを指す。Kangら、Nature、第325巻、773頁、1987年;Ponteら、Nature、第331巻、525頁、1988年;およびKitaguchiら、Nature、第331巻、530頁、1988年を参照のこと。ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)内のアミノ酸には、別段に示さない限り、APP695アイソフォーム(配列番号2)の配列に従う番号が指定される。ヒト以外の種に由来するAPPにおけるアミノ酸は、配列を最大限に整列した場合のヒトAPPにおいて対応するアミノ酸の番号と同様に番号付けする。モルモットAPPは、548および551位を含む複数の位置において、ヒトAPPとは異なる。
【0039】
アミロイド前駆体タンパク質は、その1つがAβの産生をもたらす、少なくとも2つの経路を介してプロセシングされうる。Aβの産生は、AβのN末端およびATF−βAPPとして知られるアミノ末端断片(米国特許第6,018,024号を参照のこと)を形成する、APPの残基596および597の間におけるβセクレターゼによる切断により開始される。Aβの末端は、APPの膜貫通領域内での、γセクレターゼによる切断により形成される。別の、おそらくは非病理的経路では、APPが、Aβ配列内において、別の大きな分泌N末端断片およびC末端断片を産生するαセクレターゼにより切断される。
【0040】
βアミロイドペプチド、またはA4ペプチドとしても知られる(米国特許第4,666,829号;GlennerおよびWong、Biochem.Biophys.Res.Commun.、第120巻、1131頁、1984年を参照のこと)Aβは、39〜43アミノ酸のペプチドであり、アルツハイマー病の特徴的なプラークの主要成分である。Aβは、複数の自然発生形態を有する。Aβの天然ヒト形態は、Aβ39、Aβ40、Aβ41、Aβ42、およびAβ43と呼ばれる。これらのペプチドの配列およびAPP前駆体に対するその関係は、Hardyら、TINS、第20巻、155〜158頁、1997年の図1により示される。例えば、Aβ42は、
【化1】

という配列を有する。
【0041】
Aβ39、Aβ40、Aβ41、Aβ42、およびAβ43などの用語は、それぞれ、アミノ酸残基1〜39、1〜40、1〜41、1〜42、および1〜43を含むAβペプチドを指す。Aβ41、Aβ40、およびAβ39は、C末端からのそれぞれ、Ala、Ala−Ile、およびAla−Ile−Valの欠落により、Aβ42とは異なる。Aβ43は、C末端におけるスレオニン残基の存在により、Aβ42とは異なる。同様に、APP516〜638という用語は、以下に記載の通り、APPの残基516〜638からなるAPPポリペプチド、好ましくは、Kangの天然ヒト配列を意味する。同様に、APP536〜638という用語は、残基536〜638からなるAPP断片を意味する。APP配列は、以下で詳細に論じる配列番号1のヒト配列またはその変異体でありうる。変異体を含む場合、変異体は、天然の対立遺伝子変異体、特に、コドン642(695の番号付け)における変異体の1つなど、アルツハイマー病に関連することが知られるまたは推測される天然の変異体であることが好ましい。このようなAPPポリペプチドは、APPに対する異種ペプチドに連結されうる、例えば、精製を支援しうる、または免疫応答を誘導しうる。類似の命名法を用いて、APP516〜639またはAPP536〜639など、他のAPP断片について記載する。
【0042】
文脈から別段に明らかでない限り、APPまたはAβへの言及は、Kang、前出(配列番号2)の天然ヒトアミノ酸配列のほか、対立遺伝子種および誘導された変異体を含む類似体を含む。APPまたはAβの類似体は、それぞれ、天然ヒトAPPまたはAβペプチドと特異的に結合する抗体を誘導する。APPまたはAβの類似体は、類似体の全長にわたり、天然ヒトAPPまたはAβ配列に対して少なくとも90%の配列同一性を示すことが通例である。アミノ酸置換は、保存的置換であることが多い。APPにおける既知の対立遺伝子変異体の例は、Glu590Asp()、Lys/Met595,596Asn/Leu(、スウェーデン型)、Ala598Thr、His602Arg()、Asp603Asn()、Ala617Gly、Glu618Gly()、Glu618Gln、Glu618Lys、Asp619Asn()、Ala638Thr()、Ala638Val、Thr639Ile()、Thr639Ala()、Val640Met()、Val640Met()、Ile641Val()、Ile641Thr()、Val642Phe()、Val642Gly()、Val642Ile()、Val642Leu()、およびLeu648Pro()を含む(=アルツハイマー病と関連することが知られるまたは推測される)(Alzheimer’s Research Forum APP Mutations Directory、2001年7月24日改訂、を参照のこと)。断片は、天然のヒト配列と比べて、5つ以下の置換のみを含むことが通例である。
【0043】
APPまたはAβまたはAβ断片の一部の類似体はまた、1、2、5、10箇所の位置において、またはすべての位置においても、非天然のアミノ酸またはN末端もしくはC末端のアミノ酸修飾を含む。例えば、Aβの1および/または7位における天然のアスパラギン酸残基は、イソアスパラギン酸に置換されうる。非天然アミノ酸の例は、D−アミノ酸、αアミノ酸、α二置換アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸、4−ヒドロキシプロリン、γカルボキシグルタミン酸、ε−N,N,N−トリメチルリシン、ε−N−アセチルリシン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリシン、オメガ−N−メチルアルギニン、βアラニン、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、チロキシン、γアミノ酪酸、ホモセリン、シトルリン、およびイソアスパラギン酸である。本発明の一部の治療的作用物質は、完全D型ペプチドである。断片および類似体は、以下に述べる通り、非処置またはプラセボ対照と比較するトランスジェニック動物において、予防的または治療的有効性についてスクリーニングすることができる。
【0044】
APP、Aβ、およびその断片、および類似体は、固相ペプチド合成もしくは組み換え発現により合成することができるか、または天然の供給源から得ることができる。自動ペプチド合成機が、California州、Foster City、Applied Biosystems社など、多数の製造元から市販されている。組み換え発現は、大腸菌などの細菌、酵母、昆虫細胞または哺乳動物細胞などにおいて行うことができる。組み換え発現の手順は、Sambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、ニューヨーク、C.S.H.P.Press社、第2版、1989年に記載されている。Aβペプチドの一部の形態は、市販もされている(例えば、カリフォルニア州、サニーベール、American Peptides Company社、およびカリフォルニア州、ナパ、California Peptide Research社)。
【0045】
III.本発明による断片
本発明は、神経毒性を与えるAPP断片の新規のクラスを提供する。断片は、場合によっては、界面活性剤なしでも、中性pHのトリス/NaCl緩衝液中で、例えば、図8および/または図9Aおよび図9Bに示す濃度範囲において可溶性である。断片は、APPをコードする核酸をトランスフェクトしたトランスジェニック動物モデル、初代皮質細胞、および細胞系において見出されている。類似の分子量を有する断片は、アルツハイマー病患者においても見出すことができる。断片は、単離された形態においても提供される。断片は、例えば、実施例に記載の条件下において、ヒト皮質ニューロンに対する毒性を示すことが好ましい。断片は、APPのAβ領域の上流の配列の存在を特徴とする。上流の配列は、APPの551〜595または596位の間の少なくとも25の連続したアミノ酸であることが通例である。一部の断片は、APPの551〜595または596位の間の各残基を含む。断片は、約50〜200アミノ酸、好ましくは、80〜100アミノ酸、85〜95アミノ酸の長さを有する。こうして、断片は、APPのN末端の実質的な部分(例えば、少なくとも約100〜約400)を欠く。一部の断片は、APPのC末端までいっぱいに延びるのでなく、残基676〜695からなるAPP断片に対して惹起された13G8など、APPのC末端抗体に対する特異的結合を欠く。一部の断片は、APPのAβ領域からの配列およびその上流の付加配列を含む。一部のこのような断片は、第1のセグメントがAβに由来し、第2のセグメントがAβの上流にあり、第1および第2のセグメントがAPPの連続した断片を形成する第1および第2のセグメントを含む。例えば、一部の断片は、APPの残基548または551に始まり残基636、637、638、または639(それぞれ、Aβ40、Aβ41、Aβ42、およびAβ43のC末端)まで延びるAPPのセグメントを含む。好ましい断片は、APPの548〜638位に由来する残基からなる。一部の断片は、APPの残基516〜525および/または536〜545を含む。一部の断片は、APPの444〜550の間の残基に始まり、同636、637、638、または639からなる群から選択される残基に終わる。一部の断片は、APPの444〜550の間の残基に始まり、636〜675位の間の残基に終わる。一部の断片は、APPの444〜550位の間の残基に始まり、同残基595または596〜675の間の位置に終わる。一部の断片は、APPの残基535または536に始まり、同残基634、635、636、637、638、639、640、641、または642からなる群から選択される残基に終わる。一部の断片は、APPの残基516に始まり、同残基634、635、636、637、638、639、640、641、または642に終わる。好ましい断片は、APP516〜638、APP516〜639、APP536〜638、APP536〜639を含む。
【0046】
一部の断片は、Aβ領域の上流のAPPにおいてエピトープを有するモノクローナル抗体に特異的に結合する能力を特徴とする。結合は、例えば、活性化NHSセファロース(登録商標)樹脂に連結された抗体を用いて検出することができる。これらの抗体は、(APP444〜592に対して産生された)8E5および(APP530〜580に対して産生された)8E10を含む。一部の断片は、Aβ内にエピトープを有する特定の抗体にも特異的に結合する(実施例を参照のこと)。
【0047】
治療的な目的のためには、上記の断片の小断片を投与することができる。小断片は、ヒトAPPの551〜595または596位の間の少なくとも4、5、7、10、15、または25の連続した残基を含む、または同残基からなることが通例であるが、これらの配列座標を超えて延びることもありうる。場合によっては、APPの小断片は、516〜596位の間、または536〜596位の間にある、APPの4〜25残基、好ましくは、APPの5〜15残基、もしくは同5〜10残基からなる。
【0048】
IV.本発明の抗体
本発明は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基444〜595、444〜596、または444〜592内のエピトープに特異的に結合する抗体を提供する。一部の抗体は、548および551位においてヒトAPPと異なるモルモットAPPには特異的に結合せず、ヒトAPPに特異的に結合する能力を特徴とする。一部の抗体は、ヒトAPPの残基540〜595、または同540〜596内のエピトープに特異的に結合する。一部の抗体は、ヒトAPPの残基545〜595、または同545〜596内のエピトープに特異的に結合する。一部の抗体は、ヒトAPPの残基545〜555内のエピトープに特異的に結合する。一部の抗体は、ヒトAPPの残基530〜580内のエピトープに特異的に結合する。
【0049】
2つの例示的な抗体は、8E5および18B10である。該抗体は、それぞれ、8E5および18B10と呼ばれるハイブリドーマにより産生されるマウスモノクローナル抗体である。本明細書で参照される他の抗体も同様に、別段に注記しない限り、同名のハイブリドーマから産生されるマウス抗体である。8E5は、残基444〜595からなるヒトAPPの断片に対して惹起された。しかし、8E5は、残基548および551においてヒトAPPと異なるモルモットAPPには特異的に結合せず、これにより、APPのこれらの残基を含むセグメントまたはこれに近接するセグメントにエピトープを限定する。18B10は、残基残基530〜580からなるAPP断片に対して惹起された。本発明は、ヒトAPPに対する特異的結合について、8E5または18B10と競合する抗体をさらに提供する。抗体間の競合とは、これらが同一のエピトープ、または抗体の結合がヒトAPPに対する互いの特異的結合を干渉し合うほどに近接するエピトープに結合することを指す。
【0050】
本発明は、Aβまたは上流配列に単独で特異的に結合することなく、Aβと上流配列との間の接合部または境界に特異的に結合する抗体をも提供する。このような抗体のエピトープは、Aβ領域に由来する少なくとも1つのAPP残基およびAβ領域の上流の少なくとも1つの残基を含む。
【0051】
本発明は、本発明の新規の断片のN末端に末端特異的アミノ酸をさらに提供する。このような断片のN末端は、ヒトAPPのコドン530〜560の間、またはヒトAPPの残基540〜551または同535〜555の間でありうる。一部の末端特異的抗体は、断片APP516〜638もしくはAPP516〜639、または断片APP536〜638もしくはAPP536〜639のN末端に末端特異的である。末端特異的とは、抗体が、全長APP(断片を内部配列として含む)に特異的に結合することなく、このような断片のN末端に特異的に結合することを意味する。
【0052】
抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルでありうる。ポリクローナル血清は、APPの全長に沿う複数のエピトープに特異的に結合する抗体の混合集団を含むことが通例である。しかし、ポリクローナル血清は、APP551〜595または同551〜596などの特定のAPPセグメントに特異的でありうる。好ましい抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体(Queenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第86巻、10029〜10033頁、1989年、および国際公開第90/07861号、米国特許第5,693,762号、米国特許第5,693,761号、米国特許第5,685,089号、米国特許第5,530,101号、およびWinter、米国特許第5,225,539号を参照のこと)、またはヒト抗体(Lonbergら、国際公開第93/12227号、1993年;米国特許第5,877,397号、米国特許第5,874,299号、米国特許第5,814,318号、米国特許第5,789,650号、米国特許第5,770,429号、米国特許第5,661,016号、米国特許第5,633,425号、米国特許第5,625,126号、米国特許第5,569,825号、米国特許第5,545,806号、Nature、第148巻、1547〜1553頁、1994年、Nature Biotechnology、第14巻、826頁、1996年、Kucherlapati、国際公開第91/10741号、1991年、欧州特許第148008号、Bleck、Bioprocessing Journal、第1巻、2005年9/10月、米国特許出願第2004132066号、米国特許出願第2005008625号、国際公開第2004072266号、国際公開第2005065348号、国際公開第2005069970号、および国際公開第2006055778号)である。8E5または18B10のヒト化形態またはキメラ形態が好ましい。ヒト化抗体またはキメラ抗体には、ヒトアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4を用いることができる。ヒトアイソタイプIgG1は、食細胞におけるFcRI受容体に対し、ヒトアイソタイプで最も高い親和性を有する。一部の抗体は、約10、10、10、または1010−1以上の結合親和性でAPPに特異的に結合する。
【0053】
V.スクリーニング法
本発明の新規の断片は、アルツハイマー病および脳内におけるAβの沈着を特徴とする他の疾患の治療に有用な薬理活性について作用物質をスクリーニングするのに有用である。スクリーニングは、アルツハイマー病のトランスジェニック動物モデルまたはAPPを発現する細胞において実施するのが通例である。トランスジェニック動物モデルは、APPを発現し、これをAβおよび他の断片にプロセシングする。その1つまたは複数が本発明の断片である。同様に、APPを発現する細胞は、これをAβおよび本発明の1つまたは複数の断片にプロセシングする。該方法は、トランスジェニック動物モデルまたは細胞を被験作用物質に接触させるステップと、該動物の脳内または細胞培地内における本発明の断片のレベルを測定するステップとを伴う。断片は、脳から実施例に記載の可溶性分画中に抽出することができる。脳内また細胞培地内における断片のレベルは、スクリーニングされている作用物質で処置していない対照のトランスジェニック動物または細胞中における断片の対応するレベルと比較する。本発明の断片レベルが測定誤差の通常の限界を超えて低下する場合は、スクリーニングされている作用物質が、アルツハイマー病および脳内におけるAβの沈着を特徴とする他の疾患の治療に有用な薬理活性を有することを示す。
【0054】
トランスジェニック動物モデルは、一般に、APPがAβおよび他の断片にプロセシングされ、該動物がアルツハイマー病の1つまたは複数の特徴を発現しやすいよう、APPおよびこれに作動的に連結する1つまたは複数の調節エレメントをコードする核酸を含むゲノムを有する。このようなモデルは、例えば、Gamesら、前出が述べるAPPの717(APP770の番号付け)突然変異を有するマウス、およびMcConlogueら、米国特許第5,612,486号およびHsiaoら、Science、第274巻、99頁、1996年;Staufenbielら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第94巻、13287〜13292頁、1997年;Sturchler−Pierratら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第94巻、13287〜13292頁、1997年;Borcheltら、Neuron、第19巻、939〜945頁、1997年;Richardsら、J.Neurosci.第23巻、8989〜9003頁、2003年;Cheng、Nat Med.、第10巻、第11号、1190〜1192頁、2004年;Hwangら、Exp Neurol.、2004年3月などが述べるAPPの670/671(APP770の番号付け)スウェーデン変異を有するマウスを含む。トランスジェニック動物における封入体に適するAPP突然変異は、野生型Val717(APP770の番号付け)コドンのIle、Phe、Gly、Tyr、Leu、Ala、Pro、Trp、Met、Ser、Thr、Asn、またはGlnに対するコドンへの転換を含む。Val717に対する好ましい置換はPheである。別の適切な突然変異は、北極変異E693G(APP770の番号付け)である。アミロイド前駆体タンパク質およびプレセニリントランス遺伝子をともに有するPSAPPマウスは、Takeuchiら、American Jounal of Pathology、2000年、第157巻、331〜339頁に記載されている。アミロイド前駆体タンパク質、プレセニリン、およびタウトランス遺伝子を有する三重トランスジェニックマウスは、LaFerla、2003年、Neuron、第39巻、409〜421頁に記載されている。別の有用なトランスジェニックマウスは、APPトランス遺伝子およびTGF−βトランス遺伝子を有する。トランス遺伝子中のタンパク質をコードする配列は、神経発現に適する1つまたは複数の調節エレメントと作動的に連結される。このようなエレメントは、PDGF、プリオンタンパク質、およびThy−1プロモーターを含む。別の有用なトランスジェニックマウスは、スウェーデン変異および717変異をともに有するAPPトランス遺伝子を有する。別の有用なトランスジェニックマウスは、北極変異(E693G)を有するAPPトランス遺伝子を有する。
【0055】
適切な細胞は、検出可能な量のAPPを天然に発現する細胞、およびその発現を確保する少なくとも1つの調節的配列と作動的に連結されるAPPをコードする核酸をトランスフェクトした細胞を含む。適切な細胞株にはヒト細胞株および動物細胞株が含まれ、293ヒト腎細胞株、ヒト神経膠腫細胞株、ヒトHeLa細胞、初代上皮細胞(例えば、HUVEC細胞)、初代ヒト線維芽細胞または同リンパ芽球(APP突然変異を有する患者に由来する内生細胞を含む)、初代ヒト混合脳細胞(ニューロン、星状膠細胞および神経膠を含む)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などが含まれる。
【0056】
本発明は、in vitroにおいて本発明の断片を神経細胞と接触させ、作用物質で処置しない同種類の対照細胞と比べた保護作用について作用物質をスクリーニングするスクリーニング法をさらに提供する。細胞は、皮質細胞、好ましくはヒト皮質細胞の初代培養物である。神経毒性は、LD50値として、長期増強に対する効果として、アラマーブルー染色により、または実施例に記載の分枝数または分枝距離に対する効果により測定することができる。
【0057】
このような方法により活性についてスクリーニングされる作用物質は、可溶性断片の濃度を多様な機序により低下させることができる。1つの機序は、断片を生成するのを担う酵素の阻害を介する。これらの酵素は、C末端を生成するγセクレターゼおよびN末端を生成する未だ同定されない酵素を含み得る。こうして、スクリーニング対象の作用物質は、βセクレターゼまたはγセクレターゼの阻害について既に同定されている阻害剤を含むプロテアーゼ阻害剤を含む。他の作用物質は、例えば、海洋微生物、藻類、植物、および真菌などの天然の供給源から得ることができる。あるいは、化合物は、ペプチドもしくは小分子を含む作用物質のコンビナトリアルライブラリーから、または産業において、例えば、化学産業、製薬産業、環境産業、農業、水産業、化粧品産業、製薬業、およびバイオテクノロジー産業により合成される化合物の既存のレパートリーから得ることができる。化合物は、例えば、薬剤、治療物質、環境作用物質、農業用作用物質、または産業用作用物質、汚染物質、化粧品、薬物、有機化合物、脂質、グルココルチコイド、抗生剤、ペプチド、タンパク質、糖、炭水化物、およびキメラ分子を含むことができる。
【0058】
ペプチドまたは他の化合物の無作為ライブラリーもスクリーニングすることができる。段階的に合成することのできる多種類の化合物について、コンビナトリアルライブラリーを作製することができる。このような化合物は、ポリペプチド、βターン模倣体、多糖、リン脂質、ホルモン、プロスタグラジン、ステロイド、芳香族化合物、ヘテロ環化合物、ベンゾジアゼピン、オリゴマーN置換型グリシン、およびオリゴカルバミン酸を含む。大規模の化合物コンビナトリアルライブラリーは、Affymax、国際公開第95/12608号、Affymax、国際公開第93/06121号、コロンビア大学、国際公開第94/08051号、米国薬局方、国際公開第95/35503号、およびScripps、国際公開第95/30642号(これらの各々は、すべての目的について、参照により組み入れられる)に記載のコードされた合成ライブラリー(encoded synthetic libraries)(ESL)法により構築することができる。ペプチドライブラリーは、ファージディスプレイ法によっても作製することができる。例えば、Devlin、国際公開第91/18980号を参照のこと。
【0059】
VI.コンジュゲート
ペプチドの免疫原は、適切な担体分子に連結することにより、該ペプチドに対する抗体を含む免疫応答を引き起こす一助となるコンジュゲートを形成することができる。単一の作用物質は、単一の担体に連結することができ、作用物質の多重コピーは、後に相互に連結し合う担体の多重コピーに連結することができ、作用物質の多重コピーは、担体の単一コピーに連結することができ、または作用物質の単一コピーは、担体の多重コピーもしくは異なる担体に連結することができる。適切な担体は、血清アルブミン、キーホールリンペットヒモシアニン、免疫グロブリン分子、Qβ(国際公開第04/016282号)、サイログロブリン、オボアルブミン、破傷風トキソイド、あるいはジフテリア菌、大腸菌、コレラ菌もしくはピロリ菌などの他の病原菌に由来するトキソイドまたは弱毒化した毒素誘導体を含む。T細胞エピトープも、適切な担体分子である。他の適切な担体は、B型肝炎ウイルス、百日咳菌、破傷風菌、ペルツサリア・トラキタリーナ(Pertusaria trachythallina)、大腸菌、トラコーマクラミジア、ジフテリア菌、熱帯熱マラリア原虫、およびマンソン住血吸虫に由来するヘルパーT細胞無差別エピトープ(米国特許第6,906,169号、米国特許出願第2003−0068325号、および国際公開第2002/096350号を参照のこと)を含む。他の担体は、破傷風毒素、百日咳毒素、ジフテリア毒素、麻疹ウイルスFタンパク質、B型肝炎ウイルス表面抗原、トラコーマクラミジア主要外膜タンパク質、熱帯熱マラリア原虫スポロゾイト周囲タンパク質、マンソン住血吸虫トリオースリン酸イソメラーゼ、または大腸菌TraTに由来するヘルパーT細胞エピトープ(国際公開第01/42306号を参照のこと)である。
【0060】
一部のコンジュゲートは、本発明の作用物質を免疫刺激性ポリマー分子(例えば、トリパルミトイル−S−グリセリンシステイン(PamCys)、マンナン(マンノースポリマー)、またはグルカン(β1→2ポリマー))、サイトカイン(例えば、IL−1、IL−1αおよびβペプチド、IL−2、γINF、IL−10、GM−CSF)、およびケモカイン(例えば、MIP1αおよびβ、ならびにRANTES)に連結することにより形成することができる。O’Mahony、国際公開第97/17613号および国際公開第97/17614号に記載の通り、免疫原性作用物質は、組織を横断しての輸送を高めるペプチドにも連結することができる。免疫原は、スペーサーアミノ酸(例えば、gly−gly)を有するまたは有さない担体に連結されうる。
【0061】
一部のコンジュゲートは、本発明の作用物質を少なくとも1つのT細胞エピトープに連結することにより形成することができる。T細胞無差別エピトープもあるが、T細胞普遍エピトープもある。T細胞無差別エピトープは、多様なHLA型を示す広範な対象におけるT細胞免疫性の誘発を高める能力を有する。T細胞無差別エピトープに対して、T細胞普遍エピトープは、異なるHLA−DR対立遺伝子によりコードされる多様なHLA分子を示す対象の大半、例えば、少なくとも75%におけるT細胞免疫性の誘発を高める能力を有する。
【0062】
破傷風トキソイド(例えば、P2およびP30エピトープ)、B型肝炎ウイルス表面抗原、百日咳トキソイド、麻疹ウイルスFタンパク質、トラコーマクラミジア主要外膜タンパク質、ジフテリアトキソイド、熱帯熱マラリア原虫スポロゾイト周囲タンパク質T、熱帯熱マラリア原虫スポロゾイト周囲タンパク質抗原、マンソン住血吸虫トリオースリン酸イソメラーゼ、大腸菌TraT、およびインフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)など多数の天然のT細胞エピトープが存在する。本発明の免疫原性ペプチドは、Sinigaglia F.ら、Nature、第336巻、778〜780頁、1988年;Chiez R.M.ら、J.Exp.Med.、第178巻、27〜47頁、1993年;Hammer J.ら、Cell、第74巻、197〜203頁、1993年;Falk K.ら、Immunogenetics、第39巻、230〜242頁、1994年;国際公開第98/23635号;および、Southwood S.ら、J.Immunology、第160巻、3363〜3373頁、1998年(これらの各々は、すべての目的について、参照により組み入れられる)に記載のT細胞エピトープとコンジュゲートすることもできる。さらなる例は:
インフルエンザ赤血球凝集素:HA307〜319
マラリアスポロゾイト周囲タンパク質:T3エピトープ EKKIAKMEKASSVFNV(配列番号3)
B型肝炎ウイルス表面抗原:HBsAg19〜28 FFLLTRILTI(配列番号4)
熱ショックタンパク質65:hsp65153〜171 DQSIGDLIAEAMDKVGNEG(配列番号5)
カルメット−ゲラン桿菌 QVHFQPLPPAVVKL(配列番号6)
破傷風トキソイド:TT830〜844 QYIKANSKFIGITEL(配列番号7)
破傷風トキソイド:TT947〜967 FNNFTVSFWLRVPKVSASHLE(配列番号8)
HIVgp120T1:KQIINMWQEVGKAMYA(配列番号9)
【0063】
あるいは、コンジュゲートは、本発明の作用物質を、pan DRエピトープ(「PADRE」)など、大部分のMHCクラスII分子に結合する能力を有する、少なくとも1つの人工T細胞エピトープに連結することによって作製することができる。PADREは、米国特許第5,736141号、国際公開第95/07707号、およびAlexander Jら、Immunity、第1巻、751〜761頁、1994年(これらの各々は、すべての目的について、参照により組み入れられる)に記載されている。好ましいPADREペプチドは、AKXVAAWTLKAAA(配列番号11)であり、Xは、シクロヘキシルアラニンチロシンまたはフェニルアラニンであることが好ましく、シクロヘキシルアラニンが最も好ましい。
【0064】
免疫原性作用物質は、化学的架橋形成により担体に連結することができる。免疫原を担体に連結する技術は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジル−チオ)プロピオン酸(SPDP)およびスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸(SMCC)を用いるジスルフィド結合の形成を含む(ペプチドがスルフヒドリル基を欠く場合、システイン残基の付加により供給することができる)。これらの試薬は、自身と1つのタンパク質におけるペプチドのシステイン残基との間のジスルフィド結合、およびリシンにおけるイプシロンアミノ基または他のアミノ酸における他の遊離アミノ基を介するアミド結合を形成する。このような各種のジスルフィド/アミド形成試薬は、Immun.Rev.、第62巻、185頁、1982年に記載されている。他の二機能結合作用物質は、ジスルフィド結合よりもむしろチオエーテルを形成する。これらのチオエーテル形成作用物質の多くは市販されており、6−マレイミドカプロン酸、2−ブロモ酢酸、および2−ヨード酢酸、4−(N−マレイミド−メチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸の反応性エステルを含む。カルボキシル基は、これらをスクシンイミドまたは1−ヒドロキシル−2−ニトロ−4−スルホン酸、ナトリウム塩と組み合わせて活性化することができる。
【0065】
免疫原性は、Tエピトープと本発明のペプチド免疫原との間にスペーサー残基(例えば、Gly−Gly)を付加することにより改善することができる。TエピトープをB細胞エピトープ(すなわち、ペプチド免疫原)から物理的に分離することに加えて、グリシン残基が、Tエピトープをペプチド免疫原と接合することによって創出される任意の人工的な二次構造を解体し、それによってT細胞応答および/またはB細胞応答の間の干渉を除去することができる。こうして、ヘルパーエピトープと抗体誘発ドメインとの間の立体構造的分離が、提示される免疫原と適切なT細胞およびB細胞との間のより有効な相互作用を可能にする。
【0066】
本発明の作用物質に対して多様なHLA型を示す大部分の対象におけるT細胞免疫性の誘発を高めるために、異なるT細胞エピトープを有するコンジュゲートの混合物を調製することができる。混合物は、異なるT細胞エピトープを有する少なくとも2つのコンジュゲートの混合物、異なるT細胞エピトープを有する少なくとも3つのコンジュゲートの混合物、または異なるT細胞エピトープを有する少なくとも4つのコンジュゲートの混合物を含んでよい。混合物は、アジュバントとともに投与してよい。
【0067】
免疫原性ペプチドは、担体(すなわち、異種ペプチド)との融合タンパク質としても発現することができる。免疫原性ペプチドは、そのアミノ末端、カルボキシル末端、またはその両方において、担体と連結することができる。場合によっては、免疫原性ペプチドの多重反復が、融合タンパク質において存在しうる。場合によっては、免疫原性ペプチドは、例えば、該ペプチドのN末端およびC末端の両方において異種ペプチドの多重コピーに連結することができる。場合によっては、免疫原性ペプチドの多重コピーは、相互に連結し合う異種ペプチドの多重コピーに連結することができる。一部の担体ペプチドは、担体ペプチドに対するヘルパーT細胞反応を誘発する一助となる。次いで誘発されたヘルパーT細胞は、担体に連結された免疫原性ペプチドに対するB細胞応答を誘発する。
【0068】
一部の融合タンパク質は、米国特許第5,196,512号、欧州特許第378,881号、および欧州特許第427,347号などに記載の破傷風トキソイドエピトープに連結された本発明のAPPセグメントを含む。一部の融合タンパク質は、米国特許第5,736,142号に記載の少なくとも1つのPADREペプチドに連結された本発明のAPPセグメントを含む。T細胞無差別エピトープである異種ペプチドもあり、T細胞普遍エピトープである異種ペプチドもある。一部の方法において、投与用の作用物質は、単に、異種セグメントと線状形態で連結した本発明のAPPセグメントとの単一の融合タンパク質である。本発明の治療用作用物質は、式を用いて表すことができる。例えば、一部の方法において、作用物質は、xを1〜5の整数とする式2により表される融合タンパク質のマルチマーである。xは、1、2、または3であることが好ましく、2が最も好ましい。xが2であるとき、このようなマルチマーは、MAP4と呼ばれる(米国特許第5,229,490号を参照のこと)好ましい立体構造に連結された4つの融合タンパク質を有する。
【0069】
担体の他の例は、国際公開第2004069182号に記載されている。本出願に記載のAPP断片は、国際公開第2004069182号に記載のコンジュゲートに連結されたAβ断片の代わりに用いることができる。
【0070】
同一または類似の担体タンパク質および連結法は、APPまたはその免疫原性断片に対する抗体の生成に用いる免疫原の生成に用いることができる。例えば、担体に連結されたAPPまたはAPPの免疫原性断片は、APPまたはその免疫原性断片に対するモノクローナル抗体の作製において、実験動物に投与することができる。
【0071】
VII.DNA免疫感作
APPセグメントに対する免疫応答は、本発明の新規の断片およびその小断片、他のペプチド免疫原、または受動免疫感作に用いる抗体およびその成分鎖をコードする核酸の投与によっても誘発することができる。このような核酸は、DNAまたはRNAでありうる。免疫原または抗体をコードする核酸セグメントは、目的とする患者の標的細胞におけるDNAセグメントの発現を可能とするプロモーターおよびエンハンサーなどの調節エレメントに連結されることが通例である。軽鎖または重鎖免疫グロブリン遺伝子に由来するプロモーターおよびエンハンサーエレメントまたはCMV主要中間初期プロモーターおよび同エンハンサーが、発現を導くのに適する。連結された調節エレメントおよびコード配列は、ベクター内にクローン化されることが多い。二本鎖抗体を投与する場合は、同一または別個のベクターにおいて該二本鎖をクローン化することができる。
【0072】
レトロウイルス系(例えば、LawrieおよびTumin、Cur.Opin.Genet.Develop.、第3巻、102〜109頁、1993年を参照のこと);アデノウイルスベクター(例えば、Bettら、J.Virol.、第67巻、5911頁、1993年を参照のこと);アデノ関連ウイルスベクター(例えば、Zhouら、J.Exp.Med.、第179巻、1867頁、1994年を参照のこと)、ワクシニアウイルスおよび鶏痘ウイルスを含むポックスファミリーに由来するウイルスベクター、シンドビスウイルスおよびセムリキ森林熱ウイルスに由来するウイルスベクター(例えば、Dubenskyら、J.Virol.、第70巻、508〜519頁、1996年を参照のこと)などのアルファウイルス属に由来するウイルスベクター、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(米国特許第5,643,576号を参照のこと)、および水胞性口内炎ウイルス(国際公開第96/34625号を参照のこと)および乳頭腫ウイルス(Oheら、Human Gene Therapy、第6巻、325〜333頁、1995年;Wooら、国際公開第94/12629号、ならびに、XiaoおよびBrandsma、Nucleic Acids Res.、第24巻、2630〜2622頁、1996年)などのラブドウイルスを含む多数のウイルスベクター系を用いることができる。
【0073】
免疫原をコードするDNAまたはそのDNAを含むベクターは、リポソーム中に封入することができる。適切な脂質および関連の類似体は、米国特許第5,208,036号、同第5,264,618号、同第5,279,833号、および同第5,283,185号により記載されている。ベクターおよび免疫原をコードするDNAは、その例がポリメチルメタクリレートポリマーおよびポリラクチドおよびポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(例えば、McGeeら、J.Micro Encap.、1996年を参照のこと)を含む粒子状の担体に吸着または結合させることもできる。
【0074】
遺伝子治療用ベクターまたは裸のDNAは、通例では全身投与(例えば、静脈内注入、腹腔内注入、鼻腔内注入、胃内注入、皮内注入、筋肉内注入、皮下注入、または頭蓋内注入)または外用塗布(例えば、米国特許第5,399,346号を参照のこと)により、個々の患者にin vivoにおいて送達することができる。このようなベクターは、ブピバカイン(米国特許第5,593,970号)などの促進化作用物質をさらに含むことができる。DNAは、遺伝子銃を用いて投与することもできる。XiaoおよびBrandsma、前出、を参照のこと。免疫原をコードするDNAは、微細な金属ビーズの表面に沈析させる。微小発射体は、ショック波または膨張ヘリウムガスにより加速され、複数細胞層の深さまで組織に貫入する。例えば、ウィスコンシン州、ミドルトン、Agacetus社製のAccel(商標)遺伝子送達器が適する。あるいは、単に、化学的または機械的な刺激とともに皮膚上にDNAを塗布することにより、裸のDNAは、皮膚を経て血流中に移行しうる(国際公開第95/05853号を参照のこと)。
【0075】
さらなる変更において、免疫原をコードするベクターは、個々の患者から外植される細胞(例えば、リンパ球、骨髄吸引物、組織生検)または万能供血者の造血幹細胞などの細胞に、ex vivoにおいて送達し、続いて、通常はベクターを組み込んだ細胞の選択後に該細胞を患者に再移植することができる。
【0076】
VIII.治療しやすい患者
治療しやすい患者は、疾患の危険性があるが症状を示さない個体のほか、現在症状を示す患者をも含む。治療対象となる疾患は、アルツハイマー病、ならびに、ダウン症および軽度の認知障害など、脳内におけるAβの沈着を特徴とする他の疾患を含む。アルツハイマー病の場合、十分に長生きするほとんどだれもが、アルツハイマー病に罹患する危険性がある。従って、本方法は、対象患者の危険性に対する評価の必要なしに、一般の集団に予防的に実施することができる。本方法は、特に、アルツハイマー病の既知の遺伝的危険性を有する個体に有用である。このような個体は、本疾患を経験した親族を有する個体、遺伝的または生化学的マーカーの解析によりその危険性が決定される個体を含む。アルツハイマー病への危険性の遺伝的マーカーは、APP遺伝子における突然変異、特に、ハーディー変異およびスウェーデン変異と呼ばれる717位ならびに670および671位における突然変異を含む(Hardy、TINS、前出、を参照のこと)。危険性の他のマーカーは、プレセニリン遺伝子であるPS1およびPS2、ならびにアポE4における突然変異、AD、高コレステロール血症、またはアテローム性動脈硬化の家族歴である。現在アルツハイマー病に罹患する個体は、特徴的な認知症のほか、上述の危険性因子の存在からも認知することができる。加えて、ADを有する個体を同定する多数の診断検査が可能である。これらは、CSF中のタウレベルおよびAβ42レベルの測定を含む。タウレベルの上昇およびAβ42レベルの低下が、ADの存在を意味する。アルツハイマー病に罹患する個体は、実施例セクションで論じるADRDA基準によっても診断することができる。
【0077】
無症状患者の場合、治療はどの年齢(例えば、10、20、30歳)においても開始することができる。しかし、患者が40、50、60、または70歳に達するまでは治療を開始する必要はないことが通例である。治療は、一定期間にわたる複数回投与を伴うのが通例である。治療は、治療用作用物質(例えば、Aβペプチド)に対する抗体、または活性化T細胞もしくはB細胞の応答を経時的に分析することによりモニターすることができる。応答が低下する場合は、追加抗原投与が示唆される。潜在的なダウン症患者の場合、生前、母体に治療用作用物質を投与することによって、または生後すぐに治療を開始することができる。
【0078】
IX.治療レジメン
予防的な適用の場合、本発明の作用物質(ペプチドまたは抗体)を含む薬剤組成物または薬剤は、アルツハイマー病に罹患しやすい、またはこれ以外にアルツハイマー病の危険性がある患者に、該疾患の生化学的、組織学的、および/または行動学的症状、その合併症、ならびに該疾患の発症中に存在する病理的な中間表現型を含む、該疾患の危険性を除去もしくは低減する、同重症度を軽減する、または同発症を遅延させるのに十分な量で投与される。治療的な適用の場合、組成物または薬剤は、このような疾患が推測される、または既にこれに罹患する患者に、その合併症、ならびに該疾患の発症における病理的な中間表現型を含む、該疾患の(生化学的、組織学的、および/または行動学的)症状を治癒させる、または少なくとも部分的に阻止するのに十分な量で投与される。こうして、該疾患を有するまたは有すると推測される患者の症状を少なくとも部分的に緩和するまたはそのさらなる悪化を抑制するレジメンは、患者が該疾患から完全に治癒するかどうかに関わりなく、患者を治療する。一部の方法において、作用物質の投与は、いまだ特徴的なアルツハイマー病の病態を発現していない患者における筋認知的な障害を軽減または除去する。
【0079】
治療的または予防的処置を達成するのに十分な量は、治療的または予防的に有効な用量として定義される。治療的または予防的処置を達成するのに十分な投与量および投与回数は、治療的または予防的に有効なレジメンとして定義される。予防的レジメンおよび治療的レジメンのいずれにおいても、作用物質は、十分な免疫応答が達成されるまで複数回の投与において投与されるのが通例である。免疫応答をモニターし、免疫応答が減弱し始めたら反復投与を行うのが通例である。
【0080】
前述の状態の治療のための、本発明の組成物の有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理状態、患者がヒトであるか動物であるか、投与される他の薬剤、および処置が予防的であるかまたは治療的であるかを含む多数の異なる因子に応じて変化する。通常、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含む非ヒト哺乳動物も治療することができる。治療用量は、漸増して安全性および有効性を最適化する必要がある。アジュバントなしの場合、より高用量が必要とされるので、免疫原の量は、アジュバントも投与するかどうかに依存する。免疫原の投与量は、患者当たり1〜500μgで変化することもあるが、ヒト投与の場合、注射当たり5〜500μgで変化するのが通例である。場合によっては、注射当たり1〜2mgの高用量を用いる。ヒト注射ごとに約10、20、50、または100μgを用いるのが通例である。免疫原の質量も、免疫原全体の質量に対する、免疫原内の免疫原性エピトープの質量比に依存する。マイクログラム単位の免疫原に対して、10−3〜10−5マイクロモルの免疫原性エピトープを用いるのが通例である。注射のタイミングは、1日1回から年に1回、10年に1回まで有意に変化しうる。免疫原の用量を投与する任意の所定日において、該用量は、アジュバントも投与する場合は、患者当たり1μgを上回り、患者当たり10μgを上回ることが通例であり、アジュバントなしの場合は、患者当たり10μgを上回り、100μgを上回ることが通例である。通例のレジメンは、免疫感作に続く、6週間隔などの時間間隔での追加抗原注射からなる。別のレジメンは、免疫感作に続く、1ヶ月後、2ヶ月後および12ヶ月後での追加抗原注射からなる。別のレジメンは、生涯にわたる2カ月ごとの注射を伴う。あるいは、追加抗原注射は、免疫応答のモニタリングが指示する通りに、不規則に行うことができる。
【0081】
抗体による受動免疫感作の場合、用量は、宿主体重に対して約0.0001〜100mg/kgの範囲であり、同0.01〜5mg/kgの範囲であることがより通例である。例えば、用量は、体重比1mg/kgまたは同10mg/kgまたは1〜10mg/kgの範囲内でありうる。例示的な治療レジメンは、2週間ごとに1回または1カ月ごとに1回または3〜6カ月ごとに1回の投与を伴う。一部の方法では、異なる結合特異性を有する2種類以上のモノクローナル抗体を同時に投与し、この場合、投与される各抗体の用量は、指示される範囲内に該当する。抗体は、複数回において投与されるのが通例である。各投与間の間隔は、毎週、毎月、毎年でありうる。間隔は、患者におけるAβに対する抗体の血中レベルを測定することにより示される通りに、不規則でもありうる。一部の方法では、用量を調整して1〜1000μg/mlの血漿抗体濃度を達成し、また一部の方法では、25〜300μg/mlの血漿抗体濃度を達成する。あるいは、抗体は、徐放製剤として投与することができ、この場合、必要な投与回数は減少する。用量および投与回数は、患者における抗体の半減期に応じて変化する。一般に、ヒト抗体が最長の半減期を示し、これにヒト化抗体、キメラ抗体、および非ヒト抗体が続く。投与量および投与回数は、処置が予防的であるかまたは治療的であるかに応じて変化しうる。予防的な適用では、長期間にわたり、相対的に低頻度の間隔で相対的な低用量を投与する。患者によっては、残りの生涯にわたって治療を受け続ける。治療的な適用では、疾患の進行が低減または終結されるまで、好ましくは、患者が疾患症状の部分的または完全な改善を示すまで、相対的に短い間隔で相対的な高用量が必要とされることがある。その後、患者には、予防的なレジメンを実施することができる。
【0082】
免疫原をコードする核酸の用量は、患者当たり約10ng〜1g、100ng〜100mg、1μg〜10mg、または30〜300μgの範囲のDNAである。感染性ウイルスベクターの用量は、投与当たり10〜100ビリオンまたはそれ以上で変化する。
【0083】
免疫応答を誘発する作用物質は、予防的および/または治療的処置のための非経口、外用、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭該内、腹腔内、鼻腔内、または筋肉内の投与手段により投与することができる。免疫原性作用物質の最も通例の投与経路は、皮下経路であるが、他の経路も同様に有効でありうる。これに次いで最も通例の経路は、筋肉内注射である。この種の注射は、腕部または脚部の筋肉において実施するのが最も通例である。一部の方法、例えば、頭該内注射では、沈着物が蓄積している特定の組織内に直接に作用物質を注射する。抗体投与では、静脈内注入に対して筋肉内注射が好まれる。一部の方法では、特定の治療用抗体が、頭該内に直接に注射される。一部の方法では、徐放組成物またはMedipad(商標)器などの徐放機器として、抗体を投与する。
【0084】
本発明の作用物質は、場合によっては、アミロイド形成性疾患の治療において少なくとも部分的に有効な他の作用物質と併用して投与することができる。APPのAβ領域に由来するペプチドまたはAβに特異的に結合する抗体を用いる能動免疫感作法および受動免疫感作法は、例えば、米国特許第6,866,850号、米国特許第6,787,637号、および米国特許第6,818,218号により記載されている。本発明の作用物質は、本発明の作用物質の血液脳関門の通過を増加させる他の作用物質と併用して投与することもできる。
【0085】
ペプチドなど、本発明の免疫原性作用物質は、アジュバントと併用して投与されることがある。各種のアジュバントをAPP断片と併用して、免疫応答を引き起こすことができる。好ましいアジュバントは、応答の質的な形態に影響する、免疫原において立体構造変化を生じることなく、免疫原に対する内因性反応を増大させる。好ましいアジュバントは、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム、3 De−O−アシル化モノホスホリル脂質A(MPL(商標))(英国特許第2220211号[現在Corixa社の一部をなす、モンタナ州、ハミルトン、RIBI ImmunoChem Research社]を参照のこと)を含む。Stimulon(商標)QS−21は、南米原産のシャボンノキの樹皮から単離されたトリエルペングリコシドまたはサポニン(Kensilら、「Vaccine Design:The Subunit and Adjuvant Approach」、PowellおよびNewman編、ニューヨーク、Plenum Press社、1995年;米国特許第5,057,540号を参照のこと)(マサチューセッツ州、フラミンガム、Aquila BioPharmaceuticals社製)である。他のアジュバントは、場合によっては、モノホスホリル脂質A(Stouteら、N.Engl.J.Med.、第336巻、86〜91頁、1997年を参照のこと)などの免疫刺激剤との併用における水中油型乳剤(スクアレンまたはピーナッツ油など)である。別のアジュバントは、CpG(国際公開第98/40100号)である。あるいは、Aβをアジュバントに結合させることができる。しかし、このような結合が、Aβの立体構造を実質的に変化させ、それへの免疫応答の性質に影響を及ぼさないようにすべきである。アジュバントは、有効作用物質を有する治療用組成物の成分として、または治療用作用物質投与の前に、同投与と同時に、もしくは同投与の後に別個に投与することができる。
【0086】
アジュバントの好ましいクラスは、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム塩(ミョウバン)である。このようなアジュバントは、MPLまたは3−DMP、QS−21、ポリグルタミン酸またはポリリシンなどのポリマーアミノ酸または単量体アミノ酸などの他の特異的な免疫刺激作用物質とともに、またはこれらを伴わずに用いることができる。別のクラスのアジュバントは、水中油型乳剤による製剤である。このようなアジュバントは、ムラミルペプチド(例えば、N−アセチルムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(MTP−PE)、N−アセチルグルコサミニル−N−アセチルムラミル−L−Al−D−イソグル−L−Ala−ジパルミトキシプロピルアミド(DTP−DPP):Theramide(商標))、または他の細菌細胞壁成分などの他の特異的な免疫刺激作用物質とともに、またはこれらを伴わずに用いることができる。水中油型乳剤は、(a)110Y型マイクロフルイダイザー(マサチューセッツ州、ニュートン、Microfluidics社製)などのマイクロフルイダイザーを用いてサブミクロン粒子に調合した、5%スクアレン、0.5% Tween 80、および0.5% Span 85(場合によっては、様々な量のMTP−PEを含む)を含むMF59(国際公開第90/14837号)と、(b)サブミクロン乳剤にマイクロフルイダイズするか、またはより大きな粒径の乳剤を産生するようにボルテックスした、10%スクアレン、0.4% Tween 80、5%のプルロニック型ブロックポリマーL121、およびthr−MDPを含むSAFと、(c)2%スクアレン、0.2% Tween 80、ならびに、モノホスホリル脂質A(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)、好ましくは、MPL+CWS(Detox(商標))からなる群からの1つまたは複数の細菌細胞壁成分を含むRibi(商標)アジュバントシステム(RAS)(モンタナ州、ハミルトン、RIBI ImmunoChem社製)とを含む。好ましいアジュバントの別のクラスは、Stimulon(商標)(QS−21、マサチューセッツ州、フラミンガム、Aquila社製)またはこれより産生されたISCOM(免疫刺激複合体)およびISCOMATRIXなどの粒子などのサポニンアジュバントである。他のアジュバントは、フロイント完全アジュバント(CFA)およびフロイント不完全アジュバント(IFA)を含む。他のアジュバントは、インターロイキン(IL−1、IL−2、およびIL−12)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインを含む。
【0087】
アジュバントは、免疫原とともに単一の組成物として投与することもでき、免疫原の投与前に、同投与と同時に、もしくは同投与後に投与することもできる。免疫原およびアジュバントは、同一のバイアルに包装して供給することもでき、個別のバイアルに包装して使用前に混合することもできる。免疫原およびアジュバントは、目的とする治療適用を示す表示とともに包装されるのが通例である。免疫原およびアジュバントを個別に包装する場合、該包装は、使用前の混合についての指示書を含むのが通例である。アジュバントおよび/または担体の選択は、アジュバントを含む免疫原製剤の安定性、投与経路、投与スケジュール、ワクチン投与される種に対するアジュバントの有効性に依存し、ヒトの場合、薬剤として許容されるアジュバントは、ヒトへの投与に関し関連の規制機関により承認された、または承認可能なアジュバントである。例えば、フロイント完全アジュバントは、ヒトへの投与には適さない。ミョウバン、MPL、およびQS−21が好ましい。RC529−SE(Corixa社製)も、好ましいアジュバントである。場合によっては、2つ以上の異なるアジュバントを同時に用いることができる。好ましい組み合わせは、MPLとミョウバン、QS−21とミョウバン、QS−21とMPL、ならびにミョウバン、QS−21、およびMPLをともにである。場合によっては、ミョウバン、QS−21、およびMPLのいずれか、およびそのすべての組み合わせとの併用で、フロイント不完全アジュバントを用いることもできる(Changら、Advanced Drug Delivery Reviews、第32巻、173〜186頁、1998年)。
【0088】
本発明の作用物質は、有効治療作用物質および薬剤として許容される他の多様な成分を含む、薬剤組成物として投与されることが多い。「Remington’s Pharmaceutical Science」、第15版、ペンシルベニア州、イーストン、Mack Publishing Company社、1980年を参照のこと。好ましい形態は、意図する投与方式および治療適用に依存する。組成物は、所望の製剤に応じて、薬剤として許容される無毒性の担体または希釈剤であって、動物またはヒトへの投与のための薬剤組成物を調合するのに用いるのが通例である媒体として定義される担体または希釈剤をも含みうる。希釈剤は、組み合わせの生物学的活性に影響しないように選択される。このような希釈剤の例は、蒸留水、リン酸緩衝生理食塩液、リンゲル液、デキストロース溶液、ハンクス液である。加えて、薬剤組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または無毒性、非治療用、非免疫原性の安定剤などをも含んでよい。
【0089】
薬剤組成物は、タンパク質、キトサンなどの多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびコポリマー(ラテックス官能化セファロース(商標)、アガロース、セルロースなど)、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマー、および脂質凝集体(油滴またはリポソームなど)など、大型で代謝の遅い高分子をも含みうる。加えて、これらの担体は、免疫刺激作用物質(すなわち、アジュバント)として機能しうる。
【0090】
非経口投与の場合、本発明の作用物質は、水油、生理食塩液、グリセロール、またはエタノールなどの無菌液体でありうる薬剤担体を有する、生理的に許容される希釈剤中における物質の注射可能な用量の溶液または懸濁液として投与することができる。加えて、湿潤剤または乳化剤、界面活性剤、pH緩衝物質などの補助物質が、組成物中に存在しうる。薬剤組成物の他の成分は、石油、動物、植物、または合成起源の成分、例えば、ピーナッツ油、大豆油、およびミネラル油である。一般に、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどのグリコールが、特に、注射可能な溶液に好ましい液体の担体である。抗体は、蓄積注射、または、有効成分の徐放を可能とする方式で調合しうる移植式製剤の形態で投与することができる。例示的な組成物は、HClによりpH6.0に調整した、50mM L−ヒスチジン、150mM NaClからなる水溶性緩衝液中で調合された5mg/mLのモノクローナル抗体を含む。
【0091】
組成物は、溶液または懸濁液として、注射剤として調製されるのが通例であるが、溶液または懸濁液に適する固体形態を、注射前に液体の媒体中で調製することもできる。製剤は、上記に論じた通り、乳化するか、あるいはリポソーム、またはポリラクチド、ポリグリコリド、もしくはアジュバント効果を高めるコポリマーなどの微粒子中に封入することもできる(Langer、Science、第249巻、1527頁、1990年、およびHanes、Advanced Drug Delivery Reviews、第28巻、97〜119頁、1997年を参照のこと)。本発明の作用物質は、蓄積注射、または、有効成分の徐放またはパルス放出を可能とする方式で調合しうる移植式製剤の形態で投与することができる。
【0092】
他の投与方式に適するさらなる製剤は、経口製剤、鼻腔内製剤、および肺内製剤、坐薬、ならびに外用塗布剤を含む。
【0093】
坐薬の場合、結合剤および担体は、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含み、このような坐薬は、0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%の範囲にある有効成分を含む混合物から作製することができる。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、および炭酸マグネシウムなどの賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放製剤、または粉末の形態をとり、10%〜95%、好ましくは25%〜70%の有効成分を含む。
【0094】
外用塗布剤は、経皮送達または皮内送達をもたらすことができる。外用投与は、コレラトキシンまたはその無毒化した誘導体もしくはサブユニット、あるいは他の同様の細菌性トキシンを有する作用物質の共投与により容易化することができる(Glennら、Nature、第391巻、851頁、1998年)。共投与は、該成分を混合物として、または化学的架橋形成もしくは融合タンパク質としての発現により得られる連結分子として用いることにより達成することができる。
【0095】
あるいは、経皮送達は、皮膚用パッチ剤を用いるか、またはトランスフェロソーム(Paulら、Eur.J.Immunol.、第25巻、3521〜3524頁、1995年;Cevcら、Biochem.Biophys.Acta、第1368号、201〜215頁、1998年)を用いて達成することができる。
【実施例】
【0096】
これらの実施例は、馴化細胞培地およびPDAPP脳抽出物に由来する分子量の明らかなAβオリゴマーによる免疫反応種の概略を示す。
【0097】
コンフルエントに近い細胞に由来する無血清培地中での15〜18時間の後、7PA2細胞由来の馴化培地(CM)を回収した。1,000rpmで30分間、CMをスピンした。CMを新しい試験管に移してすぐに評価するか、または−80℃で凍結させた。CMは、NHSセファロース樹脂に結合した抗体により免疫沈降(IP)させ、ウェスタンブロット法により対応する物質を検出した。
【0098】
Lambert,J.、Neurochem.、2001年、第79巻、595〜605頁により最初に記載された通りに、PDAPP脳組織に由来する可溶性のオリゴマー種を評価するプロトコールを実施した。略述すると、氷上、2% SDSおよびプロテアーゼ阻害剤(1/10wt/vol)を含む20mMトリス、pH7.6、137mM NaCl中で、Dounce社製ホモジナイザーにより脳組織をホモジナイズした。1回目の遠心分離後、可溶種を含む上清を、200,000gで2時間遠心分離した。上清を等量に分割し、−80℃で貯蔵するか、または間をおかずに免疫沈降に用いた。
【0099】
12カ月齢のマウスに由来するPDAPP皮質抽出物における免疫反応バンドのプロファイルを、図1の上方に示す。抗Aβ抗体樹脂および抗APP抗体樹脂によりIPを実施した後で、Aβのアミノ酸4〜6に対するエピトープを有する抗Aβ抗体である2H3によりウェスタンブロット画像を得た。12A11 IPと8E5 IPとの比較は、ウェスタンブロット画像に示される分子量マーカー7kDa〜34kDaの間の領域において、同様の免疫反応プロファイルを示す。免疫沈降に用いた各種抗体のエピトープ特異性は、Aβのアミノ酸1〜5に対する3D6、Aβのアミノ酸3〜7に対する12A11、Aβのアミノ酸16〜23に対する266、Aβのアミノ酸19〜22に対する6H9、APP(エピトープのマッピングなし)のアミノ酸444〜592に対する8E5である。
【0100】
図2AおよびBの上方におけるウェスタンブロット画像より、IP物を様々な濃度のNaClで洗浄した。8E5樹脂または12A11樹脂によりPDAPP脳から同定される免疫反応バンドのIPプロファイルは、異ならないように見える。両抗体による逐次的な免疫沈降をも評価した。12A11および8E5による7PA2 CM免疫反応バンドは、12A11免疫沈降により同定される単量体Aβバンド(約4kDa)を例外として、8E5抗体および12A11抗体により免疫沈降した皮質脳ホモジネートときわめて類似するプロファイルを示す。図2AおよびBは、同じブロットの濃い露光と軽い露光である。
【0101】
抗Aβ抗体(266、12B4、12A11、および21F12)および抗APP抗体8E5からの免疫沈降物を、8E5または2H3(Aβのアミノ酸3〜7)によりプローブされるウェスタンブロット画像において同定した。8E5の免疫反応プロファイルは、2H3により画像化される抗Aβ抗体のIPにより検出される約4kDaの単量体Aβを例外として、抗Aβ抗体による、8E5または2H3により画像化されるウェスタンブロットからのプロファイルときわめて類似した(図3)。Aβのアミノ酸3〜7に対するブロット12B4、Aβのアミノ酸34〜43に対するブロット21F12、エピトープのマッピングがないAPPの444〜592に対するブロット1G55において、さらなる抗体特異性を用いた。
【0102】
サイズ除外クロマトグラフィー(SEC)を実施して、異なるAβオリゴマー種を分離し、これらを機能アッセイまたは配列決定に用いることができた。プロトコールは、7PA2細胞に由来する馴化培地を用いて最適化した。Vivaspin 5,000 MWCOにより、30mlのCMを2.5mlに濃縮した。濃縮したCMは、Superdex 75分取グレード16/60カラムに投入した。溶出緩衝液として50mM酢酸アンモニウム緩衝液を用い、PBS+1% BSA+0.05% NaNにより予め一晩ブロックした96ウェルプレートに350μl分画を回収した。266/3D6によるELISA法を用いて、総Aβについて分画を分析した。プールした分画を、12A11−NHSセファロース樹脂によっても免疫沈降させ、対応する物質をウェスタンブロット法により検出した。ELISA法により総Aβについて分画を分析したところ、分画1〜31ではAβが検出されず、分画31〜81にAβの主要なピークが存在した(図4、下パネル)。
【0103】
分画から免疫沈降した物質を、16%トリシンゲルにロードし、2H3抗体(Aβ 4のアミノ酸4〜6)により、対応するブロットをプローブした(図4、上パネル)。
【0104】
上述のSEC手順を用いた後に、図4に述べたIP/ウェスタンブロット手順を続けた。プールした分画(プール当たりの分画n=10)をSECプレート3から回収し、図4の上側で免疫反応性を同定した。7PA2 SECからプールした分画は、8E5樹脂または12B4樹脂により免疫沈降させ、これに3D6(Aβのアミノ酸1〜5)、8E5(APPのアミノ酸444〜592)、または2H3(Aβのアミノ酸4〜6)による画像化を続けた。3D6によるウェスタンブロット画像は、12B4−IPによる約4kDaバンドに免疫反応性を示した(図5A、B、C)。8E5ウェスタンブロット画像は、8E5樹脂または12B4樹脂により免疫沈降させた免疫反応バンドのいくつかが同様にみえることを示す。このことは、2H3のウェスタンブロット画像に従う。8E5 IPによる左の2H3画像は、の分子量マーカー7kDaを超える免疫反応バンドを示す。12B4 IPによる2H3画像は、8E5 IPと比べて同数以上の免疫反応バンドを示し、12B4 IP−2H3画像は、8E5が捕捉しない7〜8kDa範囲におけるバンドを捕捉する。
【0105】
図6AおよびBは、7PA2馴化培地(CM)をヘパリンセファロース8E5樹脂および12B4樹脂により免疫沈降し、その後抗Aβ抗体および抗APP抗体を用いるウェスタンブロット法による画像化を示す。図6Aは、7PA2 CMに由来する、12B4および8E5によりIPした免疫反応バンドを比較する。ヘパリンセファロースは、APP種に結合するので別の比較物であるAPPに結合する。図6Bは、APPにおける類似の領域に対する2つの抗体である、8E5および18G10により画像化したウェスタンブロットを示す。これらは、類似の免疫反応性を示す。Aβ特異抗体2G3によるブロットも、8E5 IP物および12B4 IP物の双方における12kDaバンドの反応性を示す。
【0106】
8E5免疫沈降断片のN末端のエドマン配列決定(試料当たり10サイクル)によりAPP内に2つの配列を同定した(図5A、B、Cに示す)。APP695の番号付けに基づいて、同定された配列は、APP516〜525および同536〜545であった。いずれの配列も、444〜592である8E5免疫原内に該当した。Aβ42末端特異抗体21F12による免疫沈降法は、少なくとも一部の同定した断片がAβの残基42で終結することを示唆した。このことから、同定した2つの断片が、APPの残基516〜638および同536〜638であることを意味した。他の断片は他のAβ末端部位を含む可能性が高く、これらは、APPの残基約634〜642に及ぶ。
【0107】
N末端エドマン配列決定から得られたデータに基づき、APP516〜638断片およびAPP536〜638断片をコードするDNA断片を、APP断片のN末端に隣接して6×ヒスチジンタグおよび因子Xaプロテアーゼ切断部位を有するpET21細菌発現ベクター内にクローン化した。APP断片は、BL21(DE3)化学的コンピテント細胞に形質転換され、通例のIPTG誘導プロトコールにより16℃で発現した。該断片を、まず、固定化金属親和性カラム(IMAC)に通し、6×ヒスチジン親和性タグにより均質に精製した。組み換えAPP516〜638断片およびAPP536〜638断片を生成するため、4℃で一晩かけて、IMACにより精製した断片を因子Xaにより切断した。タンデムIMACおよび因子Xa除去樹脂により、非切断断片、切断した6×ヒスチジンタグ、および遊離因子Xaを反応混合物から除去した。均一の組み換えAPP断片は、特性解析用のアッセイ緩衝液に緩衝液交換した。
【0108】
Cellomics社製のNeuronal Profiling Bioapplicationを用いて、ニューロン形態を定量化した。NP Bioapplicationは、2〜6個のイメージングチャネルからの情報を統合して、細胞ベースの測定を実行する。DNAに結合するヘキスト染料により細胞を染色し、核領域を同定する。大きさ、形状、および明暗度など、核の特徴を測定する。
【0109】
チューブリンに対するモノクローナル抗体を用いて神経細胞体および神経突起を同定し、次いで、蛍光標識した二次抗体で染色した。Bioapplicationにより、ニューロン長、平均カウント分枝点(BPAC)、および細胞体からの平均分枝点距離(BPADCB)などの神経突起の特徴を自動的に計算した。NP Bioapplicationにおける最も有用なリードアウトパラメータの1つであるBPADCBは、具体的に、選択した細胞体からのすべての神経突起の分枝点距離の和を、分枝点総カウントで除して計算した。さらにBPACは、分枝点総カウントを神経突起カウントで除して計算した。細胞は、Cellomics社製のArrayScan Readerを用いて、24、96、または384ウェル形式で画像化できる。
【0110】
図8は、アラマーブルーを用いる代謝活性に関する8日間アッセイ用の、精製済み516および536物質により処置したヒト皮質ニューロンを示す。調べた最高用量(516に対して40uM、および536に対して22uM)において、ペプチドによる処置は、516および536の処理細胞の生存率をいずれも20〜30%低下させた。
【0111】
図9Aおよび9Bは、精製済み516および536物質により1日間処置したヒト皮質ニューロンを示し、細胞を固定し、βチューブリンについて染色して、細胞形態を同定した。細胞は、細胞当たりの神経突起分枝点の平均数(9A)と、細胞体からの平均分枝点距離(9B)とを含むニューロン形態について、Cellomics社製のArrayScanを用いて分析した。ペプチドによる処理は、対照と比べてニューロン形態のいずれのパラメータをも低下させ、これは、神経毒性の初期徴候を示す。
【化2−1】

【化2−2】

【0112】
上記の実施例は、例示的であるにすぎず、本発明を定義するものではない。当業者には、他の変形が容易に明らかであろう。本発明の適用範囲は、本明細書から生じる1つまたは複数の任意の特許請求の範囲により包含される。従って、本発明の適用範囲は、上記の記載を参照して決定されるのではなく、むしろ、これと等価な記載の全適用範囲を含んで発される特許請求の範囲を参照して決定されるべきである。本出願において引用されたすべての刊行物、参照物、および特許文献は、各個の刊行物または特許文献が個別に示されると仮定した場合と同程度に、すべての目的について、その全体において、参照により組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基444〜595(APP695の番号付け)内のエピトープに特異的に結合する抗体。
【請求項2】
モルモットアミロイド前駆体タンパク質に対する特異的結合性を欠く、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基551〜570内のエピトープに特異的に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基530〜580内のエピトープに特異的に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基576〜595内のエピトープに特異的に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基545〜555内のエピトープに特異的に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
ヒトアミロイド前駆体タンパク質に対する特異的結合についてモノクローナル抗体8E5と競合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
ヒトアミロイド前駆体タンパク質に対する特異的結合について18B10と競合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項9】
8E5またはそのヒト化形態もしくはキメラ形態である、請求項1に記載の抗体。
【請求項10】
18B10またはそのヒト化形態もしくはそのキメラ形態である、請求項1に記載の抗体。
【請求項11】
モノクローナル抗体である、請求項1〜10のいずれかに記載の抗体。
【請求項12】
アルツハイマー病を予防的または治療的に処置する方法であって、前記疾患に罹患しているまたは前記疾患の危険性がある患者に、APPのアミノ酸516〜595の間の少なくとも4つの連続した残基を含む断片の治療的に有効なレジメンを施し、それによって前記疾患を予防的または治療的に処置するステップを含む方法。
【請求項13】
断片が、APPのアミノ酸551〜595の間の少なくとも5つの連続した残基を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
断片が、APPのアミノ酸544〜596または597の間の少なくとも7つの連続した残基を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
断片が、APPの残基551〜595を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
断片が、APPの残基551〜638を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
施すステップで、各々がAPPの残基551〜595の間の少なくとも4つの連続したアミノ酸を含む複数の断片を投与する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
断片が、APPの残基551〜595の間の4〜20個の連続したアミノ酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
断片が、APPの残基516〜595の間の4〜20個の連続したアミノ酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
断片が、APPの残基551〜595の間の4〜10個の連続したアミノ酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
断片が、APPの残基516〜595の間の4〜10個の連続したアミノ酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
断片が第1および第2のセグメントを含み、第1のセグメントがAβのセグメントであり、第2のセグメントがAβの上流にあるAPPのセグメントである、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
第1および第2のセグメントが、ヒトAPPの連続したセグメントである、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
断片がコンジュゲートとして担体と連結し、担体が、断片に対する抗体を含む免疫応答を引き起こす一助となる、請求項12に記載の方法。
【請求項25】
アジュバントを患者に投与するステップをさらに含み、アジュバントが断片に対する抗体を含む免疫応答を引き起こす一助となる、請求項12に記載の方法。
【請求項26】
Aβに対する抗体または前記抗体を生成する免疫原を投与するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項27】
免疫原を投与し、免疫原がAβの断片である、請求項12に記載の方法。
【請求項28】
アルツハイマー病を予防的または治療的に処置する方法であって、前記疾患に罹患するまたは前記疾患の危険性がある患者に、(a)ヒトAPPの残基516〜595内のエピトープに特異的に結合する抗体、または(b)このような抗体を生成する免疫原、のいずれかの治療的に有効なレジメンを施し、それによって前記疾患を予防的または治療的に処置するステップを含む方法。
【請求項29】
抗体が、ヒトAPPの残基530〜595内のエピトープに特異的に結合する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
抗体が、請求項2から8のいずれかにおいて定義される、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
抗体が、APP断片のN未満に結合する末端特異的抗体であり、N末端が残基535〜555の間のアミノ酸残基である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
抗体が、APP516〜638またはAPP536〜638のN末端に結合する末端特異的抗体である、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
Aβに対する抗体または前記抗体を生成する免疫原を投与するステップをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
免疫原を投与し、免疫原がAβの断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
アルツハイマー病を治療するのに有用な活性について作用物質をスクリーニングする方法であって、
非ヒトトランスジェニック動物を作用物質と接触させるステップであって、非ヒトトランスジェニック動物が、APPをコードするセグメントを含むゲノムを含み、セグメントがAβおよび他の断片にプロセシングされるアミロイド前駆体タンパク質へと発現されるステップと、
APPの551〜595位の間の少なくとも25アミノ酸を含む50〜150アミノ酸の水溶性APP断片を抽出するステップと、
可溶性APP断片の量を、作用物質で処置していない対照トランスジェニックマウスの量と比較するステップであって、可溶性断片の量の減少から、作用物質がアルツハイマー病の治療に有用な活性を有することを示すステップと
を含む方法。
【請求項36】
APPがヒトAPPである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
断片が、ヒトAPPの残基551〜638を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
断片が、抗体8E5および/または18B10によって特異的に結合されうる、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
断片が、APP516〜638、APP516〜639、APP536〜638、またはAPP536〜639である、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
アルツハイマー病を治療するのに有用な活性について作用物質をスクリーニングする方法であって、
単離された細胞を作用物質と接触させるステップであって、細胞がAPPをコードする核酸を含み、核酸が、Aβおよび他の断片にプロセシングされるアミロイド前駆体タンパク質へと発現されるステップと、
APPの551〜595位の間の少なくとも25アミノ酸を含む50〜150アミノ酸の水溶性APP断片を培地内で検出するステップと、
可溶性APP断片の量を、作用物質で処置していない対照細胞の量と比較するステップであって、可溶性断片の量の減少から、作用物質がアルツハイマー病の治療に有用な活性を有することを示すステップと
を含む方法。
【請求項41】
単離された細胞に、APPをコードする核酸を含む構築物をトランスフェクトする、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
水溶性断片が、APP516〜638、APP516〜639、APP536〜638、またはAPP536〜639である、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
アルツハイマー病を治療するのに有用な活性について作用物質をスクリーニングする方法であって、
APPの551〜595位の間の少なくとも25アミノ酸を含む50〜150アミノ酸の水溶性APP断片を、細胞集団および作用物質と接触させるステップと、
作用物質のない状態で可溶性断片と接触させた対照細胞集団から残存した細胞と比較して、生細胞数を比較するステップであって、作用物質の存在下における生細胞の増加から、作用物質がアルツハイマー病の治療に有用な活性を有することを示すステップと
を含む方法。
【請求項44】
細胞が神経細胞である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
水溶性断片が、APP516〜638、APP516〜639、APP536〜638、またはAPP536〜639である、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
ヒトAPPの551〜595位の間の少なくとも25アミノ酸を含む50〜150アミノ酸のアミロイド前駆体タンパク質の単離された断片。
【請求項47】
ヒトAPPの残基551〜638を含む、請求項43に記載の単離された断片。
【請求項48】
ヒトAPPの残基551〜638からなる、請求項43に記載の単離された断片。
【請求項49】
断片が、100アミノ酸以下の長さである、請求項43に記載の単離された断片。
【請求項50】
断片が、抗体8E5および/または18B10によって特異的に結合される、請求項43に記載の単離された断片。
【請求項51】
APP516〜638、APP516〜639、APP536〜638、およびAPP536〜639である、特許請求に係る単離された断片。
【請求項52】
ヒトアミロイド前駆体タンパク質の残基596および597を含むエピトープにおいて、ヒトアミロイド前駆体タンパク質に特異的に結合する抗体。
【請求項53】
ヒトAPP断片のN末端に特異的に結合する末端特異的抗体であって、N末端アミノ酸がヒトAPPの残基535〜555の間に位置する末端特異的抗体。
【請求項54】
APP516〜638またはAPP536〜638のN末端に特異的に結合する、特許請求に係る末端特異的抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−538924(P2009−538924A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513332(P2009−513332)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/013128
【国際公開番号】WO2008/042024
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(399013971)エラン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (75)
【Fターム(参考)】