説明

Al基複合材製ネジおよびその製造方法

【課題】室温での塑性変形加工により容易かつ高い生産性で安価に製造することができるAl基複合材製ネジおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】Al基複合材製ネジ10は、Al基金属を主成分とした軸芯部12の外側に、軸芯部12と同種のAl基金属に強化材粒子が分散されてなる複合材料からなるネジ山部14が、この軸芯部12と連続して形成された構造を有している。このネジ10は、鋳型22内で強化材粒子44を分散させたAl基融体42を生成し、強化材粒子44がAl基融体42の周縁部に移動するようにAl基融体42を構成する溶融金属に電磁力を作用させ、Al基融体42を固化させて鋳型22から複合材からなる無垢棒を取り出し、これに転造法によりネジ山を形成することで製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属AlまたはAl合金と、セラミックスとからなる複合材料を用いてなるAl基複合材製ネジとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、エンジンや自転車等の軽量化が望まれる分野では、その組み立てに使用されているネジを、従来の鉄製やステンレス製のものから、軽量なアルミ製のものに替える動きが広まっている。
【0003】
しかしながら、アルミ製ネジは、強度が小さく、ネジ山が塑性変形し易いために、締め直しが困難であるという欠点がある。そのため、例えば、アルミサッシ窓の枠部材の組み立てにはステンレス製ネジが用いられている。このため、解体後のアルミリサイクルプロセスにおいては、全てのネジを取り外す必要があり、そのためのコストがかかる。
【0004】
そこで、例えば、金属をマトリックスとし、強化材としてセラミックス粒子を分散させた複合材料からなるネジが検討されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような複合材料製のネジでは、ネジ山を温間鍛造や切削加工により形成する必要があるので、加工コストが高くなるという問題がある。
【特許文献1】特開2000−343178号公報(段落[0009]、[0010]、[0016]等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、室温での塑性変形加工により容易かつ高い生産性で安価に製造することができるAl基複合材製ネジおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るAl基複合材製ネジは、軸芯部はAl基金属を主成分としており、この軸芯部と同種のAl基金属に強化材粒子が分散されてなる複合材料からなるネジ山部が、この軸芯部の外側にこの軸芯部と連続して形成された構造を有していることを特徴としている。
【0007】
このようなAl基複合材製ネジは、鋳型内で強化材粒子を分散させたAl基融体を生成する工程と、強化材粒子がAl基融体の周縁部に移動するようにAl基融体を構成する溶融金属に電磁力を作用させる工程と、Al基融体を固化させて鋳型から複合材からなる無垢棒を取り出す工程と、無垢棒に転造法によりネジ山を形成する工程とを経ることによって製造される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、外周部がAl基金属と強化材との複合材料からなり、軸芯部(中心部)がAl基金属からなる棒状基材を用いることにより、金属製のネジの製造に広く用いられている転造法を用いてAl基複合材製ネジを製造することができる。これにより、高強度なネジを、容易かつ高い生産性で安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1はAl基金属−セラミックス複合材料からなるネジ(以下「Al基複合材製ネジ」という)の組織構造を模式的に示す断面図である。
【0010】
図1に示されるように、Al基複合材製ネジ10は、Al基金属を主成分とする軸芯部12と、軸芯部12の外側に軸芯部12と連続して形成され、軸芯部12と同種のAl基金属に強化材粒子が分散されてなる複合材料からなるネジ山部14を有している。このような構造により、Al基複合材製ネジ10は、純Al製ネジと比較して、高い強度を示す。
【0011】
なお、Al基複合材製ネジ10の頭部16もまた、その中心部はAl基金属からなり、その外周部は複合材料からなる。これは、後述する通り、Al基複合材製ネジ10の製造方法に由来する。
【0012】
Al基金属としては、純AlやAl−Mg系合金等が好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。また、強化材粒子としては、SiC,Si,Al,AlN等のセラミックス粒子が好適に用いられ、これらは1種のみがAl基金属に添加されていてもよいし、2種以上がAl基金属に添加されていてもよい。さらに強化材粒子はこれらに限定されるものではなく、Al基金属よりも融点が高く、Al基金属と合金を形成しない金属材料、例えば、合金より析出する金属Si等であってもよい。
【0013】
次に、このような構造を有するAl基複合材製ネジ10の製造方法について説明する。図2にAl基複合材製ネジ10の製造に用いる無垢棒の製造装置の概略構成例を示す。この製造装置20は、Al基金属を溶融させるための有底円筒形状の鋳型(坩堝)22と、この鋳型22を鉛直姿勢で支持する台座部24と、鋳型22を囲繞するように設けられた誘導コイル26と、誘導コイル26に高周波電流を供給するための高周波電源28を有している。鋳型22には、鋳型22に充填された金属原料の高周波誘導加熱時および鋳型22内のAl基融体の電磁分離(交流磁場印加)時にその影響を受け難い材料、具体的には、SiO(石英ガラス、合成石英)製のものが好適である。台座部24は耐熱レンガ等を用いることができる。誘導コイル26の線径やターン数(巻き数)は鋳型22の大きさや鋳型22に投入される金属の溶解能力を考慮して、適宜、設定される。高周波電源28は、鋳型22に充填された金属原料の高周波誘導加熱と鋳型22内のAl基融体の電磁分離を行うことができるように、周波数と出力を調節する機能を有する。
【0014】
なお、製造装置20に、鋳型22を冷却するための冷却水を鋳型22の外周に吹き付けるための冷却水スプレー装置、鋳型22内の溶融物を撹拌するための撹拌棒、鋳型22とこのような冷却水スプレー管をその内部に収容し、誘導コイル26がその外部に配置されるように設置される保護管を設けることも好ましい。
【0015】
また、製造装置20は、1本の誘導コイルが高周波誘導加熱と電磁分離の両方を行う構成となっているが、高周波誘導加熱用コイルと電磁分離用コイルを別々に備えており、各コイルにそれぞれの駆動電源が接続された構成としてもよい。
【0016】
Al基複合材製ネジ10の製造に用いる無垢棒の製造は、まず、鋳型22に原料たるAl基金属の粉末(または塊状物)と強化材粉末を所定比で充填し、これを高周波誘導加熱することで、強化材粒子が分散したAl基融体を生成させる。このAl基融体を撹拌して強化材粒子の分布の均一化を図ることも好ましい。
【0017】
なお、強化材粒子が分散したAl基融体を生成させることができる限りにおいて、原料に制限はない。例えば、最初に純Alを鋳型22に投入してAl融体を生成させ、これに強化材粒子を添加して混合したり、或いは強化材粒子を含有するAl基金属を添加して溶解混合する等の方法も好適に用いられる。
【0018】
Al基融体の温度を一定とした後に高周波誘導加熱電源を切り、続いて電磁分離用コイルに所定周波数の交流電流を流す。これにより鋳型22内のAl基融体に電磁力を作用させて、強化材粒子をAl基融体の周縁部に移動、集積させる。
【0019】
図3に強化材粒子の移動メカニズムを模式的に示す。誘導コイル26に交流電流を通電することで発生する交流磁場32とAl基融体42中に誘導される誘導電流34との相互作用によって電磁力36が生じ、この電磁力36が発生しない強化材粒子44には電磁力36とは反対の方向に力がかかる。この反対の方向がAl基融体42の外周へと向かう方向となるので、この作用を利用して強化材粒子44をAl基融体42の周縁部に集積させることができる。
【0020】
このような電磁分離のメカニズムから、Al基金属と強化材粒子との組み合わせは、両者に導電性の差があるものであればよく、強化材粒子の濃度にも制限がないことがわかる。
【0021】
この電磁分離用コイルへの給電方法には、一定時間連続して電流を流す方法が好適に用いられる。
【0022】
強化材粒子の集積幅(以下、「表皮厚さ」という)の制御は電磁分離の際にコイルに流す電流の周波数により調節することができる。この表皮厚さδは、δ=(πμσf)−1/2(透磁率μ=4π×10−7H・m−1、導電率σ=3.80×10Ω−1−1、f:周波数)により求められる。
【0023】
したがって、先に示した図1ではネジ山部14全体が複合材料から形成されている形態としたが、表面のみが複合材料からなりその内側はAl基金属からなるネジ山部を有するAl基複合材製ネジもまた、このような強化材粒子の濃度や電磁分離の条件を制御することにより、製造することができることがわかる。
【0024】
続いて、この電磁分離処理が終了したら、鋳型22を冷却してAl基融体を固化させる。これにより鋳型22内に、その中心部は金属成分が主成分となっており、外周部に強化材粒子が集積・分散した複合材からなる無垢棒が形成される。
【0025】
この無垢棒を鋳型22から取り出し、転造法によりこの無垢棒にネジ山を形成する。転造法は、冷間塑性変形加工の一種であって、ネジの一般的な製造方法として周知であり、丸棒材(無垢棒)をネジの形をした複数の円筒状の金型(ロール)で挟み込み、回転させながら押し付けることによって丸棒材を塑性変形させ、ネジ山の形を造る方法である。
【0026】
このようにAl基複合材製ネジ10の製造プロセスにおいては、強化材粒子を所望の部位に分散させてなる複合材無垢棒を、鋳型22内での原料溶融、強化材粒子の集積、固化という簡単な操作によって行うことができる。また、ネジ山の形成に汎用されているネジの成形技術を用いることができるので、生産性が高く、安価に製造することができる。
【0027】
本例では単純化した鋳型構成を示したが、パイプ状鋳型の片端からAl基金属を連続的に供給し、電磁分離を行った後の他方端部に冷却機構を設けて、固化した丸棒を引き抜くことで、連続鋳造も可能である。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
図2に示した構造を有し、かつ、表1に記載した規格で構成された製造装置を用いて、最初に所定量の純Alを鋳型中で高周波誘導加熱(周波数:30kHz)して溶解し、750℃に保持した。続いて、高周波誘導加熱を継続しながら、この溶融AlにSiC分散Al合金(Hydro Aluminium社製、Siが9%,Mgが6%で残部がAl、SiC:23重量%、SiC平均粒径:13μm(この合金からアルカリ抽出したSiC粒子のHELOS粒径分布装置による体積基準粒度分布からの算出による))を、Al基融体におけるSiC濃度が最終的に4.5重量%となるように所定量添加し、SiC分散Al基融体を生成させ、これを750℃に保持した。なお、SiC分散Al合金の溶解は、SiC粒子の電磁分離を防止するために、Al基融体を撹拌しながら行った。
【0029】
SiC分散Al合金が完全に溶解して、その温度が750℃に安定した後に高周波誘導加熱を停止した。その後さらに20秒間、Al基融体を撹拌してSiC粒子を分散させた。その後速やかに誘導コイルに220アンペアの電流(周波数:30kHz)を30秒間連続して流すことで、Al基融体の電磁分離を行った。高周波電源を切って電磁分離を終了させ、試料を自然冷却、固化させた。鋳型から取り出した無垢棒の形状は、大凡、φ11mm×100mmであった。
【0030】
この無垢棒をその長さ方向と垂直に切断し、その断面組織を光学顕微鏡により観察した。また、この無垢棒に転造法によりネジ山を形成し、得られたネジをその長さ方向と平行に切断して、その断面組織を光学顕微鏡で観察した。
【0031】
図4に作製した無垢棒の断面の光学顕微鏡写真を示す。この写真に示されるように、無垢棒の周縁部に、SiC粒子の集積層が均一に形成されており、周波数30kHzの表皮厚さδ(=1.49mm)に対応していることが確認された。また、無垢棒の中心部分は金属Alが主成分となっていることが確認された。
【0032】
図5A〜5Dに作製したネジの断面の光学顕微鏡写真を示す。図5B,5C,5Dはそれぞれ図5A中の領域(a)部,(b)部,(c)部の拡大写真である。従来のSiCを金属Alに均一分散させた材料ではネジの作製に転造法を用いることはできなかったが、周縁部にSiCの集積層を形成し、中心部を金属Alで構成した円柱状複合材を用いれば、転造法によるネジ製造が可能であることが確認された。
【0033】
ネジ山部分の拡大写真に見られるように、加工前の無垢棒の状態と比較して、ネジ山部分ではSiC粒子の集積層が密になっている。これは、ネジ山が圧縮変形によって形作られるために、ネジの谷の部分のSiC粒子がネジ山へと押し寄せられたことによる結果であると考えられる。
【0034】
(実施例2)
鋳型に最初に投入する金属として、実施例1の純Alに代えてAl合金(Al−7075)を用いたことと、SiC分散Al合金としてSiCの平均粒径が21μmのものをもちいたことの2点を除いて、実施例1と同じ手順に従い、ネジを作製した。ネジの断面の光学顕微鏡写真を図6に示す。図6B,6Cはそれぞれ図6A中の領域(a)部,(b)部の拡大写真である。
【0035】
図6A〜6Cに示されるように、ネジ山の形状も崩れておらず、クラックの発生も見られないことから、主成分にAl基合金を用いた場合にも、転造法により容易にネジ形状に塑性変形加工することができるということが確認できた。また、ネジ山部分にSiC粒子が均一に分散していることが確認できた。
【表1】

【0036】
(トルク試験)
実施例2のネジを再び製造し、そのトルク試験を以下の方法で行った。すなわち、ネジの軸部の万力で挟んで固定し、ネジ部にステンレス製のナットを嵌め込む。その上からさらにステンレス製の長ナットを嵌め込み、下部のナットをスパナで固定しながら、上部の長ナットを10N・m刻みのトルクで締め込み、ネジ部が破断する締め付けトルクの値を求めた。比較のために、実施例2のネジの基材であるAl−7075合金のみからなるネジを2本作製して、同様に締め付けトルクを測定した。
【0037】
測定結果を表2に示す。実施例2のネジの規格はM12である。実施例2のネジは30〜40N・mの締め付けトルクではネジ山の変形が認められなかった。これに対して、Al−7075合金のみからなるネジは、表2に示す通り、20N・mの締め付けトルクを超えると、ネジ山に変形が生じることが確認された。これらのことから、実施例2のネジは、SiC粒子をネジ山部分に集積させたことで、ネジ山が変形し難くなっていると考えられる。したがって、従来のアルミネジでは小さいトルクでネジ山が変形してしまい、繰り返しの使用が困難であったが、SiC粒子をネジ山部へ集積させることにより、繰り返し使用にも耐えうるネジが作製できる。
【0038】
また、実施例2のネジは、締め付けトルクが40N・mを超えたところで、ネジ部が破断した。M12型のアルミネジの締め付け規定トルクは21N・mであり、一般的な鉄系M12型ネジの締め付け規定トルクは42N・mであることから、鉄系ネジと同等の締め付けトルクを有していることが確認された。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るAl基複合材製ネジの組織構造を模式的に示す断面図。
【図2】Al基複合材製ネジの製造に用いる無垢棒の製造装置の概略構成を示す図。
【図3】Al基融体における強化材粒子の移動メカニズムを模式的に示す図。
【図4】実施例1に係る無垢棒の断面の光学顕微鏡写真。
【図5A】実施例1のネジの断面の光学顕微鏡写真。
【図5B】図5A中の領域(a)部の拡大写真。
【図5C】図5A中の領域(b)部の拡大写真。
【図5D】図5A中の領域(c)部の拡大写真
【図6A】実施例2のネジの断面の光学顕微鏡写真。
【図6B】図6A中の領域(a)部の拡大写真。
【図6C】図6A中の領域(b)部の拡大写真。
【符号の説明】
【0040】
10…Al基複合材製ネジ、12…軸芯部、14…ネジ山部、16…頭部、20…製造装置、22…鋳型、24…台座部、26…誘導コイル、28…高周波電源、32…交流磁場、34…誘導電流、36…電磁力、42…Al基融体、44…強化材粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al基金属を主成分とする軸芯部と、
前記軸芯部の外側にこの軸芯部と連続して形成され、前記軸芯部と同種のAl基金属に強化材粒子が分散されてなる複合材料からなるネジ山部と、
を有することを特徴とするAl基複合材製ネジ。
【請求項2】
前記強化材粒子はSiCであることを特徴とする請求項1に記載のAl基複合材製ネジ。
【請求項3】
鋳型内で強化材粒子を分散させたAl基融体を生成する工程と、
前記強化材粒子が前記Al基融体の周縁部に移動するように、前記Al基融体を構成する溶融金属に電磁力を作用させる工程と、
前記Al基融体を固化させて、前記鋳型から複合材からなる無垢棒を取り出す工程と、
前記無垢棒に転造法によりネジ山を形成する工程と、を有することを特徴とするAl基複合材製ネジの製造方法。
【請求項4】
前記強化材粒子はSiCであり、前記Al基融体は純Al融体またはAl合金融体であることを特徴とする請求項3に記載のAl基複合材製ネジの製造方法。
【請求項5】
前記Al基融体に電磁力を作用させる工程は、前記鋳型を囲繞するように誘導コイルを配置し、前記鋳型の長さ方向に交流磁場を発生させることにより行うことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のAl基複合材製ネジの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公開番号】特開2008−106848(P2008−106848A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290155(P2006−290155)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】