説明

BACE2阻害剤の同定のためのスクリーニングアッセイ

本発明はBACE2阻害剤の同定のためのスクリーニングアッセイに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BACE2阻害剤の同定のためのスクリーニングアッセイに関する。これらの化合物は、代謝異常の処理のために使用し得る。
【0002】
欠陥のあるグルコース応答性インスリン分泌および低下したβ細胞質量は、2型糖尿病の主原因である。膜貫通型タンパク質Tmem27(コレクトリン)は、膵臓のβ細胞に発現しており、そこで膵臓のβ細胞質量、およびインスリンの分泌を制御している。Tmem27は、形質膜でタンパク質分解性の切断およびシェディングにより不活性化される。
【0003】
アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は、アンジオテンシンIIのアンジオテンシンへの切断を含む生理的役割を伴ったマルチドメイン膜タンパク質である。従って上昇したACE2活性は、高血圧を含む代謝疾患に対する防御を与えるポテンシャルを有する
【表1】


。膵臓では、減少したACE2は、グルコース代謝障害と関連している
【表2】


。それゆえにACE2の保存は、糖尿病において有益な効果をも有する可能性がある。ACE2およびTMEM27は、細胞外ドメインにおいて近接な配列相同性を有し、そしてそれゆえに両者が、同一のシェディングプロテアーゼを共有することが可能である。
【0004】
BACE1は、β−セクレターゼ(APPのβ部位切断酵素)であり、アスパラギン酸プロテアーゼのクラスに属し、そしてアルツハイマー病の病因および末梢神経細胞におけるミエリン鞘の形成に関与している。BACE1は膜貫通型タンパク質であり、その細胞外タンパク質ドメインに二つのアスパラギン酸残基活性部位を含み、二量体として機能することができる。
【0005】
アルツハイマー病患者の脳内で凝集する、40または42アミノ酸長のアミロイドβ−タンパク質の生成は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の二回連続の切断を必要とする。BACE1によるAPPの細胞外での切断は、可溶性細胞外フラグメントを遊離し、そしてその後にγ−セクレターゼ(プレセニリン)による膜貫通ドメイン内でのAPPの切断が続く。二番目の切断は、APPの細胞内ドメインおよびアミロイド−βを遊離する。α−セクレターゼは、BACE1より細胞膜により近くでAPPを切断するので、アミロイド−βペプチドのフラグメントを取り除く。BACE1ではなくα−セクレターゼによるAPPの最初の切断は、最終的なアミロイドβの生成を妨げる。
【0006】
APP、およびγ−セクレターゼで重要なプレセニリンタンパク質とは異なり、BACE1をコードする遺伝子内で、早発性の、家族性のアルツハイマー病を引き起こす突然変異は、知られていない。しかしながら、この酵素のレベルが、アルツハイマー病患者において上昇していることが示されている。BACE1によるAPPおよびその他の膜貫通型タンパク質の切断の生理的目的は、知られていない。BACE2は、BACE1の近接のホモログである。
【0007】
本発明の目的は、代謝異常の処理のための化合物の同定のための新規方法を提供することである。
【0008】
本発明は、BACE2がTmem27を切断するプロテアーゼであるという知見に基づく。BACE2の阻害は、Tmem27のシェディングの阻害および全長タンパク質の増加を導く。その増殖が全長Tmem27タンパク質の存在に依存している細胞においては、BACE2を介したTmem27の切断の阻害は、細胞増殖の増加を導く。
【0009】
第一の局面において、本発明は、細胞の増殖が、BACE2を介したTmem27の切断に依存した、Tmem27ポリペプチドを発現する細胞を提供すること、BACE2ポリペプチドとTmem27ポリペプチドを発現する細胞とを含む混合物を候補化合物と接触させること、および該候補化合物が細胞増殖を調節するか否かを決定することであって、ここで、細胞増殖の増大が、BACE2阻害剤の指標である、を含む、BACE2阻害剤を同定するための方法を提供する。
【0010】
好ましい態様においては、該細胞が、Tmem27ポリペプチドとBACE2とを発現している。
【0011】
更に好ましい態様においては、該細胞が、β細胞系であり、好ましくはMIN6 B1またはISN−1e細胞系である。
【0012】
更に別の好ましい態様においては、細胞増殖が、共焦点顕微鏡によって測定される。
【0013】
第二の局面において、本発明は、下記:BACE2とTmem27に由来するBACE2切断部位またはACE2に由来するBACE2切断部位を含むペプチドとを候補化合物と接触させること、およびそのペプチドの切断を決定することを含む、BACE2阻害剤を同定するための方法を提供する。
【0014】
好ましい態様においては、Tmem27に由来するペプチドが、配列番号1に記載された配列(QTLEFLKIPS)を有するペプチドを含む。
【0015】
更に好ましい態様においては、ACE2に由来するペプチドが、配列番号14に記載された配列(NSLEFLGIQP)を有するペプチドを含む。
【0016】
更に好ましい態様においては、Tmem27に由来するペプチドまたはACE2に由来するペプチドの切断が、フルオロフォア蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイによって決定される。
【0017】
更に別の態様においては、Tmem27に由来するペプチドまたはACE2に由来するペプチドが、N末端はダブシルで、そしてC末端は蛍光色素で標識されている。
【0018】
更に好ましい態様においては、蛍光色素は、ルシファーイエローである。
【0019】
更に好ましい態様においては、Tmem27に由来するペプチドまたはACE2に由来するペプチドの切断が、蛍光消光アッセイによって決定される。
【0020】
更に別の好ましい態様においては、Tmem27に由来するペプチドまたはACE2に由来するペプチドが、N末端はMR121で、およびC末端はトリプトファンで、標識されている。
【0021】
別の局面においては、本発明は、BACE2阻害剤の同定のための、ACE2ポリペプチドの使用に関する。
【0022】
更なる局面においては、本発明は、配列番号1および配列番号5〜18からなる群より選択されるペプチドを提供する。
【0023】
本発明の方法において用いられるBACE2は、BACE2を発現している細胞から得られた細胞膜から単離することができるか、またはBACE2を発現している細胞から単離することができる。あるいは、BACE2は、従来の化学合成および/または組換えDNA技術によって部分的にまたは完全に合成することができる。
【0024】
用語「Tmem27」は、本明細書中で、いずれの動物、例えばヒトを含む哺乳類からのネイティブTmem27配列、およびTmem27バリアントを指すために使用される。Tmem27ポリペプチドは、ヒトの組織型を含む、様々な供給源から単離することができるか、または組換えおよび/または合成方法で調製することができる。
【0025】
「ネイティブ配列Tmem27」は、その調製方法に関わらず、自然に存在するTmem27ポリペプチドと同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。ネイティブ配列Tmem27は自然から単離することができるか、または組換えおよび/または合成方法で調製することができる。用語「ネイティブ配列Tmem27」は、自然に存在する切断または分泌型、具体的には自然に存在するバリアント型(例えばオルタナティブスプライシング型)、および自然に存在するTmem27の対立遺伝子多型を包含する。SwissprotデータベースにおけるヒトのTmem27ポリペプチドの識別子は、Q9HBJ8(配列番号2)である。
【0026】
用語「Tmem27バリアント」は、ネイティブ配列に一以上のアミノ酸置換および/または欠失および/または挿入を含むネイティブ配列Tmem27のアミノ酸配列バリアントを指す。一般的にアミノ酸配列バリアントは、ネイティブ配列Tmem27のアミノ酸配列と少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、更に好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%の配列相同性を有する。用語「Tmem27バリアント」は、またBACE2によってプロセシングされたTmem27フラグメント、例えばいまだBACE2の基質である切断されたTmem27ポリペプチドを指す。
【0027】
用語「BACE2」は、本明細書中で、いずれの動物、例えばヒトを含む哺乳類からのネイティブ配列BACE2、およびBACE2バリアント(下記でさらに定義される)を指すために使用される。BACE2ポリペプチドは、ヒトの組織型を含む、様々な供給源から単離することができるか、または組換えおよび/または合成方法で調製することができる。
【0028】
「ネイティブ配列BACE2」は、その調製方法に関わらず、自然に存在するBACE2ポリペプチドと同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。ネイティブ配列BACE2は自然から単離することができるか、または組換えおよび/または合成方法で調製することができる。用語「ネイティブ配列BACE2」は、具体的には自然に存在する切断または分泌型、自然に存在するバリアント型(例えばオルタナティブスプライシング型)、および自然に存在するBACE2の対立遺伝子多型を包含する。SwissprotデータベースにおけるヒトのBACE2ポリペプチドの識別子は、Q9Y5Z0(配列番号3)である。
【0029】
用語「BACE2バリアント」は、ネイティブ配列に一以上のアミノ酸置換および/または欠失および/または挿入を含むネイティブ配列BACE2のアミノ酸配列バリアントを指す。一般的にアミノ酸配列バリアントは、ネイティブ配列Tmem27のアミノ酸配列と少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、更に好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%の配列相同性を有する。
【0030】
用語「化合物」は、本明細書中で、本発明方法に関連して記述される「試験化合物」または「薬剤候補化合物」との関連で使用される。このように、これらの化合物は、合成的に得られたか、または自然供給源からの有機または無機化合物を含む。該化合物は、比較的低分子量を特徴とするポリ核酸、脂質またはホルモン類似物質といった無機または有機化合物を含む。他の生体高分子有機試験化合物は、約2から40アミノ酸を含むペプチドおよび約40から約500アミノ酸を含む、抗体または抗体コンジュゲートといったより大きいポリペプチドを含む。
【0031】
用語「Tmem27由来ペプチド」は、Tmem27ポリペプチドおよびBACE2により切断された該ペプチドの少なくとも5アミノ酸の連続したストレッチと少なくとも約80%の配列相同性を有するペプチドを指す。
【0032】
用語「用語アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)」は、本明細書中で、いずれの動物、例えばヒトを含む哺乳類からのネイティブ配列ACE2、およびACE2バリアントを指すために使用される。ACE2ポリペプチドは、ヒトの組織型を含む、様々な供給源から単離することができるか、または組換えおよび/または合成方法で調製することができる。
【0033】
「ネイティブ配列ACE2」は、その調製方法に関わらず、自然に存在するACE2ポリペプチドと同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。ネイティブ配列ACE2は自然から単離することができるか、または組換えおよび/または合成方法で調製することができる。用語「ネイティブ配列ACE2」は、自然に存在する切断または分泌型、具体的には自然に存在するバリアント型(例えばオルタナティブスプライシング型)、および自然に存在するACE2の対立遺伝子多型を包含する。SwissprotデータベースにおけるヒトのACE2ポリペプチドの識別子は、Q9BYF1(配列番号4)である。
【0034】
用語「ACE2バリアント」は、ネイティブ配列に一以上のアミノ酸置換および/または欠失および/または挿入を含むネイティブ配列ACE2のアミノ酸配列バリアントを指す。一般的にアミノ酸配列バリアントは、ネイティブ配列ACE2のアミノ酸配列と少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、更に好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%の配列相同性を有する。用語「ACE2バリアント」は、またBACE2によってプロセシングされたACE2フラグメント、例えばいまだBACE2の基質である切断されたACE2ポリペプチドを指す。
【0035】
本発明のアッセイによって同定された化合物は、代謝異常、好ましくは2型糖尿病の処理のための医薬の開発のために使用し得る。
【0036】
本発明方法でBACE2阻害剤を同定するために使用し得るフルオロフォア蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイは、当業者に公知である。適切なFRETアッセイは、例えば
【表3】


中に記載されている。要約すると、ペプチドは、プロテアーゼによって切断される様にデザインされている。該ペプチドは、N末端は例えばダブシルで、C末端は例えばルシファーイエローでラベルされていて、その結果インタクトなペプチドではルシファーイエローの蛍光はダブシルによって消光されている。該ペプチドがBACE2によって切断されたとき、消光は、除去され、そして蛍光シグナルが、発生する。
【0037】
本発明方法でBACE2阻害剤を同定するために使用し得る蛍光消光アッセイは、当業者に公知である。適切な方法は、例えば
【表4】


中に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、ウェスタンブロット解析の結果を示し、細胞アッセイ(INS−TMEM27/BACE2細胞系)での(R)−2−アミノ−6−[2−(3’−メトキシ−ビフェニル−3−イル)−エチル]-3,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−3H−ピリミジン−4−オン(阻害剤)による用量依存的な全長TMEM27の保存を示す。
【図2】図2は、ヒトTMEM27を安定に発現しそしてBACE2阻害剤で処理されたINS1e細胞の培養上清からのTMEM27のELISA測定値を示す。
【図3】図3は、ウェスタンブロット解析の結果を示し、(R)−2−アミノ−6−[2−(3’−メトキシ−ビフェニル−3−イル)−エチル]−3,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−3H−ピリミジン−4−オンによる全長TMEM27の保存および培養上清へのシェディングの随伴性の阻害を示す。CMVプロモーター制御下のTMEM27およびBACE2を安定にトランスフェクションされたHEK293細胞から得られた。
【図4】図4は、細胞アッセイの結果を示し、BACE2阻害剤(R)−2−アミノ−6−[2−(3’−メトキシ−ビフェニル−3−イル)−エチル]−3,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−3H−ピリミジン−4−オンで処理されたヒトの膵島は、全長TMEM27の保存を示す。1μM阻害剤存在下または非存在下で48時間インキュベーションされた〜2000膵島(男性;BMI=23.4;19歳)。
【図5a】図5aは、Min6細胞の増殖率の変化の測定によるBACE2阻害剤の細胞アッセイの結果を示す。
【図5b】図5bは、図5aのアッセイで使用された細胞のウェスタンブロットを示す。
【図6】図6は、Ins1e細胞の増殖率の変化の測定によるBACE2阻害剤の細胞アッセイの結果を示す。
【図7】図7は、APP、TMEM27、および無関係タンパク質に由来するペプチドを用いたFRETアッセイの結果を示す。
【図8】図8は、TMEM27ペプチドおよび参照BACE2阻害剤を用いたFRETアッセイ用量反応曲線を示す。
【図9】図9は、FRETアッセイにおける関連するペプチドに由来するペプチド基質に対するBACE2の活性を示す。
【0039】
実施例
細胞性TMEM27切断を測定することによるBACE2阻害についてのアッセイ
【0040】
1.安定した細胞系:
INS−TMEM27/BACE2は、それぞれ、ネオマイシン(G418)、ハイグロマイシン、およびゼオシンによる三工程の連続した安定した選択により樹立された、hTMEM27およびhBACE2の両方をドキシサイクリン依存的な方法における誘導発現(TetOnシステムを用いて)を可能にする安定した細胞系を意味する。
【0041】
2.培養、継代、および保存:
a).培養
基本INS−1細胞培養培地:
【表5】


−完全培地:INS−TMEM27/BACE2三種安定細胞系を、選択圧:100μg/mlG418;100μg/mlハイグロマイシン;250μg/mlゼオシンを含む基本INS−1培地中で培養する。
−培地を週に2回換える。
b).継代
週に1度、細胞をトリプシン処理する:細胞を1回PBSでリンスし、2mlのトリプシンで3分間室温でインキュベーションし、10mlの完全培養培地を添加し、そして3分割する。
c)保存:
−〜10x106細胞を1mlの10%DMSO含有FCSに再懸濁する。
−それらを凍結カプセルに移す。
−細胞を−80℃に一晩置く。
−細胞を液体窒素に保存する。
【0042】
3.アッセイ:
a).hTMEM27発現の誘導とBACE2によるその切断:
−INS−TMEM27/BACE2細胞を96ウェルプレートに播種する。
−完全培地での2〜3日培養後、ドキシサイクリンを終濃度500ng/mlで添加する(ドキシサイクリンは新たに調製すべきであり、水で溶解すべきである)。
b).BACE2阻害の測定。
−所望の濃度のBACE2化合物をドキシサイクリン投与2時間前に添加する。
−更に46時間インキュベーションする。
−培地中にシェディングされたhTMEM27をウェスタンブロットまたはELISAで検出するか、またはウェスタンブロットによって細胞ライセート中の全長TMEM27を測定する。
【0043】
4.ウェスタンブロットの読み出しの結果
図1:細胞アッセイでのBACE2阻害剤(R)−2−アミノ−6−[2−(3’−メトキシ−ビフェニル−3−イル)−エチル]−3,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−3H−ピリミジン−4−オンによる用量依存的な全長TMEM27の保存を示すウェスタンブロット。
【0044】
5.ELISA読み出しの結果
図2:図表は、ヒトTMEM27を安定に発現しそしてプロトコールに記載された様にBACE2阻害剤で処理されたINS1e細胞の培養上清からの、TMEM27のELISAの読み出しを示す。シェディングされたTMEM27は、より高い濃度のBACE2によって減少し、そして阻害剤のIC50は、Xlfitといった標準的な曲線適合プログラムによって推定することができる。今回の場合は1.112マイクロモル濃度のIC50が、決定された。
【0045】
6.別の細胞システム
図3:同様の結果が、CMVプロモーター制御下のTMEM27およびBACE2を安定にトランスフェクションされたHEK293細胞において得られた。ウェスタンブロットは、(R)−2−アミノ−6−[2−(3’−メトキシ−ビフェニル−3−イル)−エチル]−3,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−3H−ピリミジン−4−オンによる全長TMEM27の保存および培養上清へのシェディングの随伴性の阻害を示す。
【0046】
7.単離されたヒト膵島におけるTMEM27切断の測定によるBACE2阻害の検出。
図4:BACE2阻害剤(R)−2−アミノ−6−[2−(3’−メトキシ−ビフェニル−3−イル)−エチル]−3,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−3H−ピリミジン−4−オンで処理されたヒトの膵島は、全長TMEM27の保存を示す。1μM阻害剤存在下または非存在下で48時間インキュベーションされた〜2000膵島(男性;BMI=23.4;19歳)。TMEM27は、上清では検出されないが、溶解細胞への効果は、明らかである。
【0047】
Min6細胞の増殖率の変化の測定によるBACE2阻害剤についてのアッセイ
1.細胞培養、継代、および保存
a).培養
MIN6 B1またはINS−1eを、下表で記載される標準MIN6培養培地または前述の基本INS-1培地で各々培養した。
標準完全MIN6細胞培養培地:
【表6】


培地を、週に2回交換した。
b).継代:
週に一度、細胞を、トリプシン処理する:細胞を、1回PBSでリンスし、2mlのトリプシンで3分間室温でインキュベーションし、10mlの完全培養培地を添加し、そして3分割する。
必要に応じて、細胞を、10mlの完全培養培地で再懸濁した後、細胞を、ノイバウエルチャンバーを用いて計数し、所望される細胞密度に希釈した。
c)保存:
−〜10x106細胞を1mlの10%DMSO含有FCSに再懸濁する。
−それらを凍結カプセルに移す。
−細胞を−80℃に一晩置く。
−細胞を液体窒素に保存する。
【0048】
2.細胞準備プロトコール
ウェルあたり50,000個のMIN6 B1細胞を、標準的なトリプシン処理方法で96ウェルプレートに播種した。翌日、血清を補充した完全培地(前述)を取り除き、下記のように、化合物を補充された無血清および低グルコース培地(Invitrogen)に交換した:陽性対照として、10nMのexendin−4(Sigma-Aldrich)を、12時間毎に細胞に添加し、分解を回避した。1μMのRO519996は、実験の開始に添加された。絶対的な陽性対照として、細胞は、FCS補充標準培地でも培養した。細胞は、48時間培養した。
培養後、培地を捨て、10nMのEdU(Invitrogen)を含んだ血清を補充した培地に交換し、37度で1時間インキュベーションした。その後、製造業者の指示に従って、上清を注意深く取り除き、細胞を、固定し、透過処理し、適切な色素により染色した(Invitrogen、Click−It EdU kit)。
【0049】
3.増殖アッセイ:イメージ取得、顕微鏡
96ウェル用スピニングディスク共焦点顕微鏡は、ハイスループット自動イメージングシステムOpera(商標)QEHS(PerkinElmer Cellular Technologies、Hamburg、Germany)によって行われる。核染色(ヘキストまたはDAPI)を、固体レーザー405nm走査によるか、または広視野照明におけるマーキュリーUVランプにより励起した。Alexa Fluor 488で標識された増殖マーカーを、488nmの固体レーザーで励起した。標識効率の違いがあるので、輝度とコントラストを最適化し、退色を最小化するため、全ての照明光源の励起強度および持続時間を実験毎に調整した(典型的には、50mWレーザー出力、40−400ms積分時間)。各ウェルにおいて、典型的には12対の走査像を、UAPO 20x NA 0.7水浸対物レンズ(Olympus)と最適化されたフィルターを通して、2つの独立した高量子効率12ビットCCDカメラ(1.3メガピクセルモノクロ)によって記録した。残差照明の不均一性、画像シフト、またはゆがみのいずれも、別々に取得した検定試料からの画像を用いて補正した。
【0050】
4.増殖アッセイ:画像解析
共焦点顕微鏡写真を、著作権のあるソフトウェア環境であるPerkinElmer製Opera(Acapella1.8、PerkinElmer Cellular Technologies、Hamburg、Germany)によって解析した。最初に、各細胞の位置を核染色像のセグメンテーションにより同定した。いったん核を位置付けそして輪郭と領域とを決定したら、核の位置のEdU染色像の強度を各細胞に対して定量化した。このような方法により、いずれの非特異的EdU染色をも排除することができる。適切な閾値の適用後、増殖率を、EdU陽性細胞の数を識別された細胞の総数で割ることにより算出した。従って増殖率は、レーザー強度、標識効率、またはフルオロフォアの輝度とは独立している。
【0051】
5.増殖アッセイ:統計解析
実験的に決定された増殖率を、陽性対照(高FCS濃度)および陰性対照(飢餓細胞)を含む、種々の処理条件より算出した。条件間の差の有意性を、二つの条件は同一の増殖率をもつという帰無仮説H0に対して、多重検定用Bonferroni補正を伴う逆正弦変換した増殖率の両側t検定を用いて検定し、対応するp値により定量化した。
【0052】
6.結果:増殖アッセイ
飢餓細胞の基礎増殖率と比較して、試験した三つの条件全て、すなわちFCS、Exendin−4、および(R)−2−アミノ−6−[2−(3’−メトキシ−ビフェニル−3−イル)−エチル]−3,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−3H−ピリミジン−4−オン(図5a)において、きわめて有意な増殖増加を示した(p<10−6)。さらに、該ロシュ化合物は、増殖亢進においてExendin−4すらも有意に上回る。二つの異なる標本(プレートA、プレートB)は増殖に効果を示さないので(p=0.21)、このアッセイの再現性を実証する。
【0053】
図5a:Min6細胞増殖の誘導。データは、TMEM27の濃度を調節するために、BACE2、TMEM27または対照のsiRNAを形質転換した飢餓Min6細胞の三回の独立した調製からである。増殖は、TMEM27レベルに強く相関する。アッセイをまた、BACE2阻害レベルと相関する増殖に対するBACE2の活性の読み出しとして用いることができる。
図5bは、図5aのアッセイ中に用いられた細胞のウェスタンブロットを示す。
【0054】
7.別の細胞システム: Ins-1e細胞
Ins1eアッセイを、細胞培養のために標準Ins1e培地を用いたこと以外はMin6細胞のためのと同じプロトコールを用いて行った。増殖を、10μMのBrdUを用いて30分間のインキュベーションおよび製造業者のプロトコールに従ってAlexa488−抗BrdU(Invitrogen)抗体を用いて細胞を染色することにより測定した。
【0055】
図6:BACE2の阻害により誘導されるIns1e増殖の実証。BACE2阻害剤(BACE2 Inh)で処理された細胞は、低グルコース培地上で2日生育後の基底増殖率を伴う対照細胞よりも有意により高い(p<0.05)増殖率を有する。
【0056】
TMEM27およびACE2に由来するペプチドの切断の測定によるBACE2阻害剤のためのアッセイ
1.FRETアッセイの説明
FRETアッセイを、
【表7】


中に実質的に記載されたように行った。要約すると、ペプチドを、プロテアーゼによって切断されるようにデザインする。該ペプチドを、N末端はダブシルでそしてC末端はルシファーイエローで標識し、そのためにインタクトなペプチドの場合はルシファーイエローの蛍光は、ダブシルによって消光される。該ペプチドが、BACE2によってカットされると、その消光は、取り除かれ、蛍光シグナルが、発生する。
【0057】
アッセイを、Grueningerら2002中に記載されたように基質濃度5μMを用いてpH4.5でおこなった。全てのFRET‐ペプチドは、記載された形式を有する。
【0058】
TMEM27配列を基礎としたFRETペプチドを考案した。ダブシル−QTLEFLKIPS−LucY(配列番号1)。BACE2は、周知のAPPに基づく基質と関係のない、この配列に対して高い活性を有した。反対に、BACE1は、このペプチドに対して有意でない活性を有する。
【0059】
図7:種々のFRETペプチドに対するBACE1とBACE2の活性の比較。ダブシルおよびルシファーイエローで標識されたAPPに由来するペプチド、TMEM27および無関係のタンパク質による、FRETアッセイの結果。該アッセイ中で用いられた該ペプチドは、以下のアミノ酸配列を有する:
【表8】

【0060】
図8:ダブシルおよびルシファーイエローで標識されたTMEM27ペプチド(配列番号1)ならびに参照BACE2阻害剤を用いたFRETアッセイ用量反応曲線。BACE2阻害を、同一のアッセイで測定する。この例では、各濃度の(R)−2−アミノ−6−[2−(3’−メトキシ−ビフェニル−3−イル)−エチル]−3,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−3H−ピリミジン−4−オンの該アッセイへの添加によってBACE2は、阻害される。FRET活性は、阻害剤無しで得られた最大に対して正規化される。この化合物に対するIC50を、ExcelのXLFitアドインによって計算されたように0.084μMとする。
【0061】
図9:TMEM27中のBACE2切断部位に相当する部位でのACE2の配列を基礎としたペプチドも、また考案し、そのペプチドはダブシル−NSLEFLGIQP−ルシファーイエロー(配列番号14)配列を伴った。この基質は、TMEM27基質に比べてより優れた効率でBACE2によって切断された。TMEM27、APPおよびアミリンの異なる領域に由来する別の基質は、より低い効率で切断された。該アッセイ中で用いられた該ペプチドは、以下のアミノ酸配列を有する:
【表9】

【0062】
2.MR121アッセイの説明
関連するアッセイ中で、ペプチドを、N末端はMR121でそしてC末端はトリプトファンで標識された同一配列を用いて考案した。
【0063】
TMEM27に由来する基質ペプチドとMR121−ペプチド切断アッセイ中の活性。
【表10】

【0064】
アッセイのためのBACE2の調製
BACE2酵素外部ドメインを、
【表11】


中に記載されたように調製した。
【0065】
発現システムの調製
BACE2翻訳後アミノ酸配列中のアミノ酸20−465に対応するDNA配列を、BACE2配列が5’ATGでインフレームでありストップコドンによって終止されるように、pET17bのNdeIおよびXhoI部位にクローン化した。該プラスミドを、pET17b−BACE2(ecd)と名付けた。
【0066】
BL21(DE3;pLysS)細胞を、pET17b−BACE2(ecd)を用いて形質転換し、IPTG誘導性E.coli発現システムを得た。
【0067】
これらの細胞を、アンピシリンおよびクロラムフェニコールを補充した標準LB発現メディウムをOD600〜0.5まで生育した。IPTGを、最終濃度1mMまで添加する。インキュベーションを37℃で3時間継続した。細胞を、3000gで10分間遠心により回収する。
【0068】
IB調製
超音波処理またはConstant Systems細胞粉砕器を用いての細胞の機械的破壊。
5000gで10分間遠心により封入体を回収する。
沈殿物を50mMトリス、pH8.0で4回洗浄する。
沈殿物を最小量の変性バッファーで再懸濁する。
リフォールディング。
溶解されたタンパク質を変性バッファーで10から21mg/mlの間まで希釈する。
変性されたタンパク質を急速希釈により20倍量のリフォールディングバッファーIに希釈する。
穏やかに撹拌しながら一晩インキュベーションする。
急速希釈により20倍量のリフォールディングバッファーIIに希釈する。
穏やかに撹拌しながら2〜5日間インキュベーションする。
【0069】
精製
リフォールドされたタンパク質溶解液のリットル当たり300mlの飽和硫酸アンモニウム(〜4M)を添加する。
【0070】
HICバッファーBで前平衡化後、Hiprepブチルセファロース6 FF HICカラムにアプライする。3CV HICバッファーBで洗浄し、その後勾配でバッファーAで溶出する。
【0071】
大部分の活性画分が、プールされ、そして20倍量の10mMトリスpH8.0;150mM塩化ナトリウムに対して希釈された。
【0072】
バッファー:
変性バッファー:50mMトリス、pH8.0、8.0M塩酸グアニジン、30mMジチオエリトリトール
リフォールディングバッファーI:3M塩酸グアニジン、0.7Mアルギニンベース、0.5mM GSSG、1.0mM GSH 塩酸でpH10.4
リフォールディングバッファーII:1M塩化ナトリウム、0.7Mアルギニンベース、0.5mM GSSG、1.0mM GSH 塩酸でpH9.4
HICバッファーA:10mMトリス、pH8.0
HICバッファーB:10mMトリス、pH8.0、1M塩化ナトリウム、1.5M AmSO4
アッセイバッファー:10mMトリス、pH8.0、150mM塩化ナトリウム
【0073】
使用された抗体およびそれらの生成の説明。
1.9/24抗体の産生のための全細胞免疫化
Swiss系アルビノマウスの免疫化を、hTMEM27を安定に発現したINS−1e細胞を用いて生細胞の反復注入により行った。動物が、hTMEM27に対する特異的免疫応答を示すとすぐに、
【表12】


に従い脾臓細胞を取り出しAg8細胞と融合した。
【0074】
2.3/3および1/33抗体の産生のためのタンパク質免疫化
いくつかのモノクローナル抗体を、精製hTMEMタンパク質(E.Coliで産生された)を用いて2〜3週の間隔で動物を皮下免疫化し、その後の記載の通り脾臓細胞の融合により得た。
【0075】
3.抗体の使用
9/24抗体を、もっぱらELISAのために使用した。1/33を、シェディングされたタンパク質を検出するウェスタンブロットおよびELISAのために使用した。3/3を、全長タンパク質を検出するウェスタンブロットのために使用した。1/33および3/3抗体を、プロトコールによって必要なように標準的方法を用いて西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲーションした。
【0076】
可溶性TMEM27のためのELISAアッセイの記載
1.アッセイプロトコール
標準的96−ウェルイムノアッセイプレート中で
コーティング:TMEM27−9/24抗体、PBS中で5μg/ml、100μl/ウェル、40Cで一晩
洗浄:PBS−Tweenで2回
ブロッキング:B−バッファー、200μl/ウェル、370Cで1時間
洗浄:PBS−Tweenで2回
試料:培養上清、B−バッファーで希釈、50μl/ウェル、37℃で1時間
洗浄:PBS−Tweenで4回
コンジュゲート:Ec−1/33−HRPO、B−バッファー中で1μg/ml、50μl/ウェル、室温で1時間
洗浄:PBS−Tweenで4回
基質:100μl/ウェル、5分、100μl/ウェルの1M硫酸を用いた基質反応の停止
読み出し:450nmでのODの測定
【0077】
本発明の好ましい態様をここに示しそして記載している一方で、本発明がそれに限定されず、しかし以下の請求項の範囲に含まれて他の方法で様々に具体化されそして実践されるであろうことを、明確に理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の増殖が、BACE2を介したTmem27の切断に依存した、Tmem27ポリペプチドを発現する細胞を提供すること、
BACE2ポリペプチドとTmem27ポリペプチドを発現する細胞とを含む混合物を候補化合物と接触させること、および
候補化合物が、細胞増殖を調節するか否かを決定すること、ここで細胞増殖の増大が、BACE2阻害剤の指標である、
を含む、BACE2阻害剤を同定するための方法。
【請求項2】
細胞が、Tmem27ポリペプチドおよびBACE2を発現している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞が、β細胞系であり、好ましくはMIN6 B1またはISN−1e細胞系である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
細胞増殖が、共焦点顕微鏡によって測定される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
BACE2阻害剤の同定のための、Tmem27ポリペプチドを発現する細胞、およびBACE2を介したTmem27ポリペプチドの切断に依存した該細胞の増殖の使用。
【請求項6】
BACE2とTmem27に由来するBACE2切断部位またはACE2に由来するBACE2切断部位を含むペプチドとを候補化合物と接触させること、および
そのペプチドの切断を決定すること
を含む、BACE2阻害剤を同定するための方法。
【請求項7】
Tmem27に由来するペプチドまたはACE2に由来するペプチドが、配列番号1に記載されたかまたは配列番号12に記載された配列を有するペプチドを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
Tmem27に由来するペプチドまたはACE2に由来するペプチドの切断が、FRETアッセイで決定される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
Tmem27に由来するペプチドまたはACE2に由来するペプチドが、N末端はダブシルで、そしてC末端は蛍光色素で標識されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
蛍光色素が、ルシファーイエローである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Tmem27に由来するペプチドまたはACE2に由来するペプチドの切断が、蛍光消光アッセイによって決定される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項12】
Tmem27に由来するペプチドまたはACE2に由来するペプチドが、N末端はMR121で、そしてC末端はトリプトファンで標識されている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
BACE2阻害剤の同定のための、ACE2ポリペプチドの使用。
【請求項14】
実質的に本明細書に記載された、特に実施例に関連した、方法および使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−508588(P2012−508588A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543778(P2011−543778)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065918
【国際公開番号】WO2010/063640
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】