説明

BMPまたはPTHを放出するマトリックスを用いた骨欠陥の局所治療

骨粗しょう症または骨嚢胞などの特定の骨欠陥の局所治療法は、PTHまたはBMP2またはBMP7を含む第一のドメイン、および共有的に架橋可能な基質ドメインを含む第二のドメインを含有する融合ペプチド;ならびに細胞増殖または内殖に適した生物分解性マトリックスを形成するのに適した材料を含む、配合物を局所投与する工程を含み、融合ペプチドはマトリックスに共有連結している。1つの態様において、マトリックスは、1以上の造影剤を含有し、そして好ましくは、増殖因子の非存在下で形成される。マトリックスは、Tarlov嚢胞、卵巣嚢胞、クモ膜嚢胞、動脈瘤性骨嚢胞、または肝嚢胞などの液体充満嚢胞の治療に使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、骨嚢胞の局所治療法、および骨粗しょう症によって侵された、健康でない骨中の領域の予防的局所治療に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
骨粗しょう症
骨損失は、平均40〜50歳の間に始まる、1年あたり0.6〜1.2%の率の骨量を喪失する、男性および女性両方の加齢の自然現象である。女性では、閉経後、骨損失は、1年あたり2〜3%に加速する。しかし、特に閉経後の女性においては、骨損失率は、劇的に増加しうる。この疾患状態は、骨粗しょう症と呼ばれる。骨粗しょう症は、世界的に重要な大問題であり、ほぼ2億人の人々が侵されている。現在、米国では、1000万人の人々が骨粗しょう症を患い、そしてさらに1800万人が骨減少症を有し、該疾患を発展させるリスクにさらされている。リスクにさらされているこの集団のうち、80%が女性である。骨粗しょう症は、全身性の骨格疾患であり、一般的に全骨格が侵され、侵された箇所では、全骨量が減少し、そして骨構造が劣化し、これによって骨多孔性が増加する。骨量および構造のこれらの変化は、骨の全体の強度を減少させ、そして骨折しやすくする。
【0003】
骨粗しょう症は、全身性ホルモンおよび局所因子の間の複雑な相互作用であり、そして骨粗しょう症の正確な細胞機構は依然として明らかにされていない。その結果、現在の療法は、状態の原因に直接対処していない。例えば、最も一般的に用いられる療法剤の誘導体、ビスホスホネートは、骨折発生率を減少させる際に、せいぜい50%の有効性しか持たない。現在使用が認可されているビスホスホネートには、アレンドロネート(FOSAMAX(登録商標))、エチドロネート(DIDROCAL(登録商標))およびリゼドロネート(ACTONEL(登録商標))が含まれる。錠剤の型または静脈内のいずれかで投与されるビスホスホネートは、骨をコーティングし、そして破骨細胞活性を防止することによって、骨粗しょう症を防止し、そして治療するのに用いられる薬剤のファミリーである。
【0004】
骨嚢胞
骨嚢胞は、よく明示されそして細い骨内膜境界を持つ、通常、長い骨の近位端の良性単房性溶解性領域である。単房性骨嚢胞は、別に単純骨嚢胞としても知られ、骨中の液体充満腔であり、圧縮線維性組織によって裏打ちされている。これは、通常、成長中の小児の長い骨に発生し、特に上腕の上部(その時期の50〜60%)または大腿の上部(その時期の25〜30%)で発生する。しかし、他の骨が侵される可能性もある。これらの嚢胞は、通常、主に5〜15歳の間の小児を侵すが、より大きい小児または成人が侵されることもある。より大きい小児および成人においては、これらは平面骨(骨盤、顎、頭蓋骨または胸郭)または大きい踵の骨(踵骨)で起こる傾向がある。
【0005】
単房性骨嚢胞は良性と見なされる。これらは骨を超えて転移(伝播)しない。あるものは自発的に治癒し、一方、他のものは肥大する。より侵襲性の嚢胞は、骨幹端(骨幹が骨の末端と連結される、遷移性領域)の大部分を満たすまで成長し、そして病理学的骨折として知られるものを引き起こしうる。より侵襲性の嚢胞はまた、骨の成長板も破壊し、骨の短縮も導きうる。これらの嚢胞は、ときに、「活性」または「潜在的」のいずれかに分類される。活性嚢胞は成長板に隣接し、そして肥大して、上述の問題を引き起こす傾向がある。潜在的嚢胞は、成長板が嚢胞から離れて移動してしまったため、治療で治癒する傾向がより高いものである。
【0006】
現在の治療は、主に、再発性骨折を防止することを目的とする。現在、以下の外科的処置が適用される:掻爬術/骨移植(先端に、さじ、ループまたはリングを有する、キュレットと呼ばれる特別な器具を用いた、嚢胞の外科的掻爬)、ステロイド注射、または骨髄注射。
【0007】
関節周囲軟骨下骨嚢胞はまた、軟骨下嚢胞病変(SCL)とも呼ばれ、若いウマで生じ、そしてヒトにおける単房性骨嚢胞と類似の病型である。これらは、一般的に、若いウマにおいてしばしば跛行を導く、病理学的臨床単位と認識される。SCLに直面する最も一般的な部位は、後膝関節(ヒトの膝と同等)中である。具体的には、骨嚢胞は、後膝関節の主な体重負荷面(中央大腿顆)で見られ、そしてまれに、関節内の他の部位(近位側面脛骨および側面大腿顆)で見られる。SCLは、発生段階に応じて、強膜の縁を介して、周囲組織からよく区別されており、そして一般的に、線維性結合組織、および滑液に似た漿液が満たされている、骨の放射線透過性領域である。ウマでは、重層する関節軟骨表面への関節の連結が、症例の3分の1で見出されうる。中央大腿嚢胞の大きさは、浅いドーム型の欠陥(およそ8mmx3mm)から40mmx30mmの大きい卵形嚢胞まで多様である。
【0008】
跛行を引き起こすSCLに対する治療オプションには、長期休養、抗関節および関節内コルチコステロイド療法および手術が含まれる。9〜12ヶ月の小放牧場での休養を必要としうる保守的療法が、跛行の解決と関連付けられてきている。不運なことに、保守的療法によって管理され、獣医学的文献で評価されているウマの数は非常に限られているが、成功率はおよそ50%である。
【0009】
ウマ骨嚢胞の治療では、多くの外科的技術が用いられてきている。現在推奨される治療は、嚢胞内容物、嚢胞裏打ち、および重層する支持されていない軟骨の関節鏡視下除去(掻爬)を伴う。治癒を増進し、そして転帰を改善する試みにおいて用いられたさらなる技術には、骨穿孔および移植が含まれており、これらはどちらも、現在、利点をまったく提供しないと見なされている。さらに、骨嚢胞は、拡大し続け、そして最終的に、ウマ関節において、続発性変形性関節症を導きうる。
【0010】
過去20年に渡って、骨組織の再生に影響を及ぼす能力に関して、いくつかの生物活性因子が調べられてきた。副甲状腺ホルモン(PTH)は、副甲状腺によって作製されそして分泌される、84アミノ酸のペプチドである。このホルモンは、骨を含む多様な組織に対する作用を通じて、血清カルシウム・レベルを制御するのに、主な役割を果たす。副甲状腺ホルモンの多様な型を用いた、ヒトにおける研究によって、全身適用された際に、骨に対して同化効果があることが立証されている。このため、副甲状腺ホルモンは、骨粗しょう症および関連する骨障害の全身治療に関して興味深いものとなっている(Chorevらに対する米国特許第5,747,456号およびEli Lilly & Co.に対するWO 00/10596)。副甲状腺ホルモンは、細胞表面受容体に結合することによって、細胞に作用する。この受容体は、新規骨形成の原因となる細胞である、骨芽細胞上に見られることが知られる。
【0011】
ヒト副甲状腺ホルモンのN末端の34アミノ酸ドメインは、全長副甲状腺ホルモンと生物学的に同等であると報告されてきている。副甲状腺ホルモン1−34およびその作用様式は、米国特許第4,086,196号に最初に報告された。副甲状腺ホルモン1−34、ならびに例えば1−25、1−31および1−38のような天然ヒト副甲状腺ホルモンの他の一部切除型に関する研究が行われている(例えば、Rixon, RHら, J Bone Miner. Res., 9(8):1179−89(Aug.1994)を参照されたい)。
【0012】
PTHが骨リモデリングに影響を及ぼす機構は複雑であり、矛盾する結果を導いてきており、そして続いて、関与する正確な機構に関するかなりの数の研究がなされてきている。PTHが連続方式で全身投与されたならば、骨密度が減少するであろうことが立証されてきている。対照的に、同じ分子が、パルス様式で全身投与されたならば、骨密度が増加するであろうことが報告されている(例えばEli Lilly & Co.に対するWO 99/31137を参照されたい)。この外見上の矛盾は、PTHが骨リモデリングを、そして続いて骨密度の観察可能なパラメーターを調節する機構によって説明可能である。成熟骨内で、PTH受容体は、骨芽細胞系譜の細胞の表面上にのみ存在し、破骨細胞上には存在しないことが示されてきている。PTHが骨リモデリングにおいて果たす役割は、破骨細胞ではなく骨芽細胞を通じて導かれる。しかし、骨芽細胞系譜の異なる段階の細胞は、副甲状腺ホルモンに結合すると、異なって反応する。したがって、PTHが異なる方法を用いて投与される場合に観察される劇的な相違は、骨芽細胞系譜内の異なる細胞に対して同じ分子が有する異なる効果を理解することによって、説明可能である。
【0013】
PTHが間充織幹細胞に結合すると、該細胞はプレ骨芽細胞に分化するよう誘導される。したがって、系にPTHを添加することによって、プレ骨芽細胞集団が増加する。しかし、これらのプレ骨芽細胞もまた、PTH受容体を有し、そして続いて、PTHがこれらの細胞上の受容体に結合すると、異なる反応が導かれる。PTHがプレ骨芽細胞に結合すると、骨吸収を導く、2つの別個の結果が生じる。第一に、これは、プレ骨芽細胞の骨芽細胞へのさらなる分化を阻害する。第二に、これは、プレ骨芽細胞からのインターロイキン6(IL−6)の分泌を増加させる。IL−6は、プレ骨芽細胞分化を阻害するとともに、プレ破骨細胞の破骨細胞への分化を増加させる。骨芽細胞系譜内の細胞からのこの二重反応は、骨リモデリングおよびPTH曝露間の複雑な反応を提供するものである。PTHが短期間に周期的に投与されたならば、間充織幹細胞は骨芽細胞に分化するよう誘導される。投与期間が短いため、新規に形成されるプレ骨芽細胞のIL−6産生が妨げられ、破骨細胞の活性化が妨げられる。したがって、投与間隔の間、これらの新たに形成されたプレ骨芽細胞は、骨芽細胞にさらに分化可能であり、骨形成を生じる。しかし、PTHの不変の用量が適用された場合、プレ骨芽細胞は、IL−6を産生し始め、したがって破骨細胞を活性化し、そして自身を阻害し、反対の効果:骨吸収を導く機会がある。
【0014】
研究されている別の生物活性因子は、骨形成タンパク質(BMP)およびトランスフォーミング増殖因子(TGFβ)の群である。少なくとも20の構造的および機能的に関連するBMPおよびいくつかのTGFβがあり、これらはTGF−ベータ・スーパーファミリーのメンバーである。BMPは元来、軟骨および骨形成のタンパク質制御因子として同定された。これらはまた、胚形成ならびに多様な組織および臓器の形態形成にも関与している。BMPは、間充織細胞、上皮細胞、造血細胞および神経細胞を含む、多様な細胞種の増殖、分化、走化性、およびアポトーシスを制御する。他のTGF−ベータ・ファミリーのタンパク質同様、BMPは、動物種に渡って、非常に保存されている。
【0015】
骨形成タンパク質2および7(BMP2および7)は、骨または軟骨形成適用において、特に興味深い。BMP2は、軟骨および骨両方の形成を誘導する。タンパク質は、プレプロペプチドとして合成される。全長ヒト・プレプロペプチドBMP2は、19アミノ酸のシグナル配列、263アミノ酸のプロ領域および114アミノ酸の成熟セグメントからなる396アミノ酸配列を有する、グリコシル化されたポリペプチドである。プロ領域の切断が、分離前に起こる。成熟型は、7つのシステイン部分および1つのN連結グリコシル化部位を有する。該タンパク質の機能型は、ジスルフィド連結された2つの成熟鎖からなる。アミノ酸283〜396などの、BMP2の成熟アミノ酸配列の一部のみからしかならないBMP2変異体もまた、生物学的活性を示すことが見出されている。
【0016】
ヒトBMP7または骨形成タンパク質−1(Op−1)は、49kDa、431アミノ酸のプレプロタンパク質であり、BMP2と同様に切断されて、292アミノ酸のプレプロ領域および139アミノ酸の成熟セグメントを生じる。成熟セグメントは、3つの潜在的なN連結グリコシル化部位に加えて、7つのシステイン残基を含有する。
【0017】
組織修復または再生のため、細胞は、創傷床内に遊走し、増殖し、マトリックス構成要素を発現するかまたは細胞外マトリックスを形成し、そして最終的な組織形状を形成する必要がある。しばしば、多数の細胞集団がこの形態形成反応に関与し、これにはしばしば血管細胞および神経細胞が含まれる。生物活性因子が組み入れられているマトリックスは、これが起こることを非常に増進することが立証されており、そしていくつかの場合には、これが起こるために必須であることが見出されてきている。天然起源または合成起源あるいは両方の混合物からマトリックスを発展させるアプローチが取られてきている。天然細胞内殖マトリックスは、細胞の影響によるリモデリングにさらされ、これらはすべて、例えばプラスミン(フィブリンを分解する)およびマトリックス・メタロプロテイナーゼ(コラーゲン、エラスチンなどを分解する)による、タンパク質分解に基づく。こうした分解は、非常に局在化され、そして遊走している細胞との直接接触に際してのみ起こる。さらに、増殖因子などの特異的細胞シグナル伝達タンパク質の送達は厳重に制御されている。天然モデルにおいて、マクロ多孔性細胞内殖マトリックスは用いられず、むしろ、細胞がマトリックス内に遊走するにつれて、局所的に、そして要求に応じて、細胞が分解可能である、ミクロ多孔性マトリックスが形成される。免疫原性、費用がかかる産生、限定された入手可能性、バッチ間の可変性、および精製に関する懸念のため、修飾ポリエチレングリコールなど、合成前駆体分子に基づくマトリックスが、体内および/または体の上での組織再生のために開発されてきている。
【0018】
上述のように、PTHの全身効果を研究する多くの研究がなされてきているが、PTHの局部または局所投与はほとんど研究されていない。WO 03/052091において、PTHの局所投与法が記載されている。WO 03/052091は、合成および天然マトリックス、特にフィブリンおよびポリエチレングリコール・マトリックスに共有結合したものとして副甲状腺ホルモンを記載する。この方式で、副甲状腺ホルモンを、徐放方式で、必要な部位で局所投与しそして放出してもよい。WO 03/052091において、この系は、健康な骨において、骨組織の形成を誘発することが示されてきている。
【0019】
本発明の目的は、健康でない骨、すなわち骨粗しょう症によって侵された骨、またはすなわち骨嚢胞および骨腫瘍によって侵された骨中の領域を局所治療する方法を提供することである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
発明の概要
驚くべきことに、健康でない骨の領域、例えば骨粗しょう症または骨嚢胞または骨腫瘍によって侵され、そして弱められた骨または特定の骨領域を、生物活性因子の局所投与によって、有効に治療可能であることが見出された。
【0021】
したがって、本発明は、健康でない骨領域を局所的に治療するための薬剤製造のための、PTHおよびBMPからなる群より選択される生物活性因子、または第一のドメイン中にPTHもしくはBMPを、そして第二のドメイン中に共有的に架橋可能な基質ドメインを含む、融合ペプチド、ならびに治療が必要な骨の部位でマトリックスを形成可能な組成物を含む、配合物の使用に関する。
【0022】
健康でない骨の領域の局所再生または健康でない骨の領域における骨密度の局所増加に適した、生物活性因子を含有するマトリックス(本明細書において、「強化(supplemented)マトリックス」とも称される)、および該マトリックスを作製し、そして用いる方法を、本明細書に記載する。好ましい態様において、生物活性因子は、マトリックス内に放出可能に取り込まれる。マトリックスは、健康でない骨領域の部位で、in situで形成されることも可能であるし、または適応症に応じて、体の外で形成して、そしてあらかじめ成形された型で、手術を通じて、体に適用することも可能である。生物活性因子は、マトリックスから放出され、そして局所的に骨組織の再生を誘発する。適切な生物活性因子には、骨組織の再生を誘発する能力を有する分子、ペプチドおよびタンパク質が含まれる。生物活性因子は、好ましくはPTHまたはBMPである。副甲状腺ホルモンは、PTH1−84(天然)、PTH1−38、PTH1−34、PTH1−31、PTH1−28もしくはPTH1−25、または骨組織の再生を誘発する能力を有するPTHの任意の修飾型もしくは対立遺伝子型、あるいはBMPまたはBMPであってもよい。最も好ましい生物活性因子は、PTH1−34またはBMPである。1つの態様において、生物活性因子は融合ペプチド中にある。融合ペプチドは、生物活性因子、好ましくはPTHまたはBMPを含む第一のドメイン、および架橋可能基質ドメインを含む第二のドメインを含有する。
【0023】
さらに好ましい態様において、生物活性因子は、侵された骨における必要な部位で、強化マトリックスを形成するのに適した前駆体組成物の一部を形成する。強化マトリックスを形成するための組成物は、好ましくは注射可能であり、そして液体(25℃で)前駆体構成要素(単数または複数)から形成される。強化マトリックスを健康でない骨の領域に、そして/または該領域内に投与する1つの方法は、生理学的温度でマトリックスを形成可能な少なくとも1つの液体前駆体構成要素および生物活性因子を必要とし、そして前駆体構成要素および生物活性因子を、健康でない骨の領域に、そして/または該領域内に適用することを必要とする。骨欠陥、すなわち健康でない骨の領域は、一般的に、骨粗しょう症、骨嚢胞または骨腫瘍によって侵されている骨領域である。骨粗しょう症骨の場合、治療は、例えば大腿骨頸または椎骨であってもよい骨の骨粗しょう症部分における骨密度の局所増加(そしてしたがって骨または骨の一部のより低い骨折率)を生じる。その意味で、本出願に記載するような強化マトリックスで骨の健康でない領域を治療する方法は、特に骨折予防のための予防的治療である。清浄にした骨嚢胞腔において、または骨腫瘍の除去後に、強化マトリックスを適用するかまたはそこで該マトリックスを形成する場合、強化マトリックスは、腔における骨形成を誘導し、これが、機能的ならびに構造的の両方で、骨の完全性を回復する際に働く。
【0024】
好ましくは、マトリックスはフィブリン・マトリックスまたはポリエチレングリコールに基づくマトリックスである。
また、移植時点より前にまたは移植時点に、あるいは移植時点より後にさえ、マトリックスを形成するポリマーの架橋時または架橋に続いてのいずれかで、マトリックスに細胞を添加してもよい。これは、マトリックスを架橋して、細胞増殖または内殖を促進するよう設計された格子型空間を生じることに加えてかまたはその代わりであってもよい。
【0025】
1つの態様において、マトリックスは、1以上の造影剤を含有し、そしてまた増殖因子の非存在下でも形成可能である。一般的に、造影剤は、注入またはゲル化中に、配合物の分布および位置を画像化することを可能にする。生物活性因子を含まずに配合物を用いる場合、マトリックスは、好ましくは、Tarlov嚢胞、卵巣嚢胞、クモ膜嚢胞、動脈瘤性骨嚢胞、または肝嚢胞などの液体充満嚢胞の治療に使用可能である。
【0026】
したがって、本発明はまた、
i)生理学的条件下でマトリックスを形成可能な組成物;
ii)PTH、BMP、または第一のドメインがPTHもしくはBMPを含み、そして第二のドメインが架橋可能基質ドメインを含む、少なくとも2つのドメインを含む、融合ペプチド;および
iii)造影剤
を含む、配合物にも関する。
【0027】
本発明はまた、天然または合成マトリックス材料、PTHおよびBMPからなる群より選択される生物活性因子、ならびに造影剤を含む、強化マトリックスにも関する。
本発明はまた、フィブリノーゲン、トロンビン、カルシウム供給源、PTHおよびBMPからなる群より選択される生物活性因子、ならびに造影剤を含む、キットにも関する。
【課題を解決するための手段】
【0028】
発明の詳細な説明
健康でない骨の骨欠陥および構造(健康でない骨の要約された(summarized)領域)の局所治療法を本明細書に記載する。好ましくは、治療されるのは、骨粗しょう症骨および/または骨嚢胞および/または骨腫瘍の領域である。方法は、マトリックス中に放出可能に組み入れられた生物活性因子、特にPTHまたはBMPを有する天然および合成マトリックスを用いる。強化マトリックスは、生体適合性でそして生物分解性であり、そして移植時点でin vitroまたはin vivoで形成可能である。生物活性因子は、マトリックス内に組み入れられ、そしてその生物活性を完全に保持することも可能である。徐放ビヒクルとして強化マトリックスを用いて、強化マトリックスを直接または間接的に組織修復に使用可能であるように、どのように、そしていつ、そしてどの程度の度合いまでPTHまたはBMPが放出されるかに関する制御を提供する技術を用いて、特に好ましい生物活性因子、PTH1−34、BMP2またはBMP7を、共有または非共有相互作用によって、放出可能に組み入れることも可能である。
【0029】
定義
「接着部位または細胞付着部位」は、本明細書において、一般的に、細胞表面上の分子、例えば接着促進受容体が結合する、ペプチド配列を指す。接着部位の例には、限定されるわけではないが、フィブロネクチン由来のRGD配列、およびラミニン由来のYIGSR(配列番号1)配列が含まれる。接着部位は、フィブリン・マトリックスに架橋可能な基質ドメインを含めることによって、場合によって、マトリックス内に組み入れ可能である。
【0030】
「生物学的活性」は、本明細書において、一般的に、関心対象のタンパク質に仲介される機能的事象を指す。いくつかの態様において、これには、ポリペプチドと別のポリペプチドの相互作用を測定することによってアッセイされる事象が含まれる。これにはまた、関心対象のタンパク質が、細胞増殖、分化、死、遊走、接着、他のタンパク質との相互作用、酵素活性、タンパク質リン酸化または脱リン酸化、転写、あるいは翻訳に対して有する影響をアッセイすることもまた含まれる。
【0031】
「共役不飽和結合」は、本明細書において、一般的に、炭素−炭素、炭素−ヘテロ原子またはヘテロ原子−ヘテロ原子多重結合の単結合での改変、あるいは合成ポリマーまたはタンパク質などの巨大分子への官能基の連結を指す。こうした結合は、付加反応を経ることも可能である。
【0032】
「共役不飽和基」は、本明細書において、一般的に、炭素−炭素、炭素−ヘテロ原子またはヘテロ原子−ヘテロ原子多重結合の単結合での改変を含有する分子または分子領域であって、付加反応を経ることも可能な多重結合を有する、前記分子または分子領域を指す。共役不飽和基の例には、限定されるわけではないが、ビニルスルホン、アクリレート、アクリルアミド、キノン、およびビニルピリジニウム、例えば2−または4−ビニルピリジニウムおよびイタコネートが含まれる。
【0033】
「造影剤」は、本明細書において、一般的に、画像のコントラストを増加させるために用いられ、そして体における物質または分子の監視を可能にする、分子または物質を意味する。
【0034】
「架橋」は、本明細書において、一般的に、共有連結の形成を意味する。
「架橋密度」は、本明細書において、一般的に、それぞれの分子の2つの架橋間の平均分子量(M)を指す。
【0035】
「平衡状態」は、本明細書において、一般的に、水中の一定な条件下で保存された場合、ヒドロゲルが質量増加または損失を経験しない状態を指す。
「同等の重量」は、本明細書において、一般的に、官能基mmol/物質gを指す。
【0036】
「フィブリン・マトリックス」は、本明細書において、一般的に、前駆体構成要素、フィブリノーゲンおよびトロンビンの実質的にすべてが、カルシウム供給源および因子XIIIaの存在下で架橋して、三次元ネットワークを形成するプロセスの産物を意味する。用語、マトリックス、ゲルおよび三次元またはポリマー性ネットワークは、同義に用いられる。
【0037】
「官能性を持たせる」は、本明細書において、一般的に、官能基または部分の付着を生じる方式で、分子を修飾することを指す。例えば、分子を強い求核剤または共役不飽和分子にする分子の導入によって、分子に官能性を持たせることも可能である。好ましくは、分子、例えばPEGに官能性を持たせて、チオール、アミン、アクリレート、またはキノンにする。タンパク質もまた、特に、未結合(free)チオールを生成する、ジスルフィド結合の部分的または完全還元によって、有効に官能性を持たされうる。
【0038】
「官能性」は、本明細書において、一般的に、分子上の反応性部位の数を指す。
「分岐点の官能性」は、本明細書において、一般的に、分子の1つの点から伸長するアームの数を指す。
【0039】
「融合ペプチドまたはタンパク質」は、本明細書において、一般的に、少なくとも第一のドメインおよび第二のドメインを含有するペプチドまたはタンパク質を指す。一方のドメインは、生物活性因子、好ましくはPTH 1−34、BMP2またはBMP7を含有し、そして他方のドメインは、形成中または形成後にマトリックスに架橋可能な基質ドメインを含有する。酵素的または加水分解的分解部位もまた、第一のドメインおよび第二のドメインの間に存在してもよい。
【0040】
「マトリックス」は、本明細書において、一般的に、材料に応じて、永続的または一時的のいずれかで、生物学的系に干渉して、任意の組織または組織の機能を治療するか、増大させるか、または置換するよう意図される材料を指す。マトリックスは、組み入れられた生物活性因子の送達デバイスとして、そして/または細胞内殖マトリックスとして働きうる。本明細書記載のマトリックスは、体の必要な部位で足場を形成可能な液体前駆体構成要素から形成される。用語「マトリックス」および「ゲル」は、本明細書において同義に用いられる。用語「マトリックス」および「ゲル」は、前駆体構成要素が一緒に混合された後に形成される組成物を指す。したがって、用語「マトリックス」および「ゲル」は、部分的にまたは完全に架橋されたポリマー性ネットワークを含む。これらは、液体、ペーストなどの半固体、または固体の形であってもよい。
【0041】
前駆体材料の種類に応じて、マトリックスは、水で膨張するが、水に溶解しない、すなわちある期間に渡って体に留まるヒドロゲルを形成することも可能である。
「多官能性」は、本明細書において、一般的に、分子(すなわちモノマー、オリゴおよびポリマー)あたりの、1より多い求電子および/または求核官能基を指す。
【0042】
「天然存在前駆体構成要素またはポリマー」は、本明細書において、一般的に、天然に見られうる分子を指す。
「健康でない骨または健康でない骨の領域」は、本明細書において、一般的に、骨粗しょう症、骨嚢胞におけるような局所炎症または癌におけるような腫瘍増殖によって引き起こされる構造的劣化または遺伝子劣化によって引き起こされる障害を有する骨または骨の一部を指し、すなわち疾患の種類に関わらず、疾患状態にある骨構造を指す。骨粗しょう症骨の骨折は、本発明の意味において骨欠陥であると意図される。
【0043】
「骨粗しょう症」は、本明細書において、一般的に、少ない骨量および骨組織の構造的劣化によって特徴付けられる、全身性の骨格疾患であって、骨多孔性および骨折に対する感受性を増加させる。骨損失は無症候性であり、骨折を患うまで骨粗しょう症であることに気付かない人もいる。2つの主な種類の骨粗しょう症:原発性骨粗しょう症および続発性骨粗しょう症が知られる。原発性骨粗しょう症は、閉経開始が骨損失加速を引き起こしている女性が侵される、I型骨粗しょう症;および加齢プロセスが骨密度の減少を導いている人々が侵される、II型骨粗しょう症に細分割される。続発性骨粗しょう症は、他の疾患に続いて骨損失を経験しているか、または特定の種類の薬剤を用いる人々で起こる。手首、椎骨および臀部が、骨粗しょう症に関連する骨折に主に影響を受けやすい部位である。好ましいのは、I型骨粗しょう症の治療である。
【0044】
「ポリエチレングリコール・マトリックス」は、本明細書において、一般的に、官能基を含む少なくとも2つの前駆体ポリエチレングリコール構成要素が、互いに自己選択的に架橋して、三次元架橋ネットワークを形成するプロセスの産物を意味する。これらの系が知られ、そして例えばWO 03/052091に記載される。
【0045】
「PTH」は、本明細書において、PTH1−84のヒト配列、ならびに骨形成特性を示す、特に、好ましくはフィブリン・マトリックスに共有結合して組み入れられた際に、該特性を示す、PTHの一部切除型、修飾型および対立遺伝子型すべてを含む。PTHの好ましい一部切除型は、PTH1−38、PTH1−34、PTH1−31またはPTH1−25である。最も好ましいのはPTH1−34である。好ましくは、PTHはヒトPTHであるが、ウシPTHなどの他の供給源由来のPTHが適切でありうる。
【0046】
「骨膜」は、本明細書において、関節構造を形成する部分を例外として、全骨構造を覆い、そして骨組織外部に栄養分を与える血管系を含有する、密集した線維層を形成する骨の外層を意味する。
【0047】
「生理学的」は、本明細書において、一般的に、生存する脊椎動物において見られうるような条件を意味する。特に、生理学的条件は、温度およびpHなどのヒト体内の条件を指す。生理学的温度は、特に、35℃〜42℃の間の温度範囲、好ましくは37℃前後を意味する。
【0048】
「ポリマー性ネットワーク」は、本明細書において、一般的に、モノマー、オリゴまたはポリマーの実質的にすべてが、利用可能な官能基を通じた分子間共有結合によって結合されて、1つの巨大分子を生じる、プロセスの産物を意味する。
【0049】
「強い求核剤」は、本明細書において、一般的に、極性結合形成反応において、電子対を求電子剤に供与可能な分子を指す。好ましくは、強い求核剤は、生理学的pHで、水よりも求核性である。強い求核剤の例は、チオールおよびアミンである。
【0050】
「合成前駆体分子」は、本明細書において、一般的に、天然には存在しない分子を指す。
「自己選択的反応」は、本明細書において、一般的に、組成物の第一の前駆体構成要素が組成物の第二の前駆体構成要素と、そしてその逆で、混合物中または反応部位に存在する他の化合物とよりも、はるかにより迅速に反応することを意味する。本明細書において、求核剤は、他の生物学的化合物に対してよりも、求電子剤に優先的に結合し、そして求電子剤は、強い求核剤に優先的に結合する。
【0051】
「膨張」は、本明細書において、一般的に、マトリックスによる水の取り込みによる体積および量の増加を指す。用語「水の取り込み」および「膨張」は、本出願全体で、同義に用いられる。
【0052】
「強化マトリックス」は、本明細書において、一般的に、生物活性因子、場合によって融合ペプチドが、放出可能に組み入れられたマトリックスを指す。生物活性因子は、共有または非共有相互作用を通じて組み入れられる。
【0053】
I.強化マトリックス
A.マトリックス材料
マトリックスは、イオン的に、共有的に、またはその組み合わせによって、前駆体分子を架橋してポリマー性ネットワークにすることによって、そして/または1以上のポリマー性材料、すなわちマトリックスを膨張させて、細胞のマトリックスへの内殖または遊走を可能にするのに十分なポリマー間空間を有するポリマー性ネットワークを形成することによって、形成される。1つの態様において、マトリックスは、タンパク質、好ましくはマトリックスを移植しようとする患者に天然に存在するタンパク質で形成される。特に好ましいマトリックス・タンパク質はフィブリンであるが、コラーゲンおよびゼラチンなど、他のタンパク質で作製されるマトリックスもまた使用可能である。多糖および糖タンパク質もまた、マトリックスを形成するのに使用可能である。イオン性結合または共有結合によって架橋可能な合成ポリマーを用いることもまた可能である。
【0054】
フィブリン・マトリックス
フィブリンは、いくつかの生物医学適用に関して報告されている天然材料である。フィブリンは、Hubbellらに対する米国特許第6,331,422号において、細胞内殖マトリックス用の材料として記載されてきている。フィブリン・ゲルは、多くの組織に結合可能であり、そして創傷治癒において天然に役割を有するため、シーラントとして用いられてきている。いくつかの特定の適用には、血管移植片付着用、心臓弁付着用、骨折および腱修復における骨配置用のシーラントとしての使用が含まれる。さらに、これらのゲルは、薬剤送達デバイスとして、そしてニューロン再生のため、用いられてきている。フィブリンは、組織再生および細胞内殖のための固体支持体を提供するが、単量体には、これらのプロセスを直接増進する活性配列はほとんどない。
【0055】
フィブリノーゲンが重合してフィブリンになるプロセスもまた、性質決定されてきている。まず、プロテアーゼが二量体フィブリノーゲン分子を2つの対称部位で切断する。フィブリノーゲンを切断可能な、ありうるプロテアーゼがいくつかあり、これには、トロンビン、ペプチダーゼ、およびプロテアーゼIIIが含まれ、そしてこれらは各々、異なる部位で該タンパク質を切断する。フィブリノーゲンが切断されたら、フィブリノーゲン単量体が一体となり、そして非共有的に架橋されたポリマー・ゲルを形成する、自己重合工程が起こる。この自己組み立ては、プロテアーゼ切断が起こった後に、結合部位が暴露されるために起こる。ひとたび暴露されると、分子中央のこれらの結合部位は、ペプチド鎖端に存在する、フィブリノーゲン鎖上の他の部位に結合可能になる。この方式でポリマー・ネットワークが形成される。次いで、トロンビン・タンパク質分解によって因子XIIIから活性化されたトランスグルタミナーゼである因子XIIIaが、ポリマー・ネットワークを共有架橋しうる。他のトランスグルタミナーゼが存在し、そしてこれらもまた、フィブリン・ネットワークへの共有架橋および移植に関与しうる。
【0056】
ひとたび架橋フィブリン・ゲルが形成されたら、続く分解は厳重に制御される。フィブリン分解を制御する際に重要な分子の1つは、α2−プラスミン阻害剤である。この分子は、因子XIIIaの作用を通じて、フィブリンのα鎖に架橋することによって作用する。自身をゲルに付着させることによって、高濃度の阻害剤がゲルに局在化可能である。次いで、阻害剤は、フィブリンへのプラスミノーゲンの結合を防止し、そしてプラスミンを不活性化することによって、作用する。α2−プラスミン阻害剤は、グルタミン基質を含有する。正確な配列は、NQEQVSPL(配列番号2)と同定されており、最初のグルタミンが架橋のための活性アミノ酸である。
【0057】
因子XIIIa基質配列および生物活性ペプチド配列を含有する2ドメインのペプチドをフィブリン・マトリックス内に架橋することも可能であり、そしてこの生物活性ペプチドはin vitroでその細胞活性を保持することが立証されている。
【0058】
適応症およびフィブリン・マトリックス内に混合される材料に応じて、トロンビンの濃度は多様でありうる。1つの好ましい態様において、フィブリン・マトリックスは、フィブリン・マトリックス1ミリリットルあたり5〜65mg、より好ましくは、フィブリン・マトリックス1ミリリットルあたり15〜60mg、さらにより好ましくは、フィブリン・マトリックス1ミリリットルあたり25〜55mg、そして最も好ましくは、フィブリン・マトリックス1ミリリットルあたり30〜45mgの範囲内で、フィブリノーゲンを含有する。トロンビンは、フィブリン・マトリックス1ミリリットルあたり0.5〜5I.U.の範囲内で、より好ましくは、フィブリン・マトリックス1ミリリットルあたり1.25〜3.25I.U.の範囲内で、最も好ましくは、フィブリン・マトリックス1ミリリットルあたり1.5〜2.5I.U.で存在する。さらに、カルシウム・イオン供給源は、フィブリン・マトリックスが形成されるのを補助する。カルシウム・イオン供給源は、好ましくは、フィブリン・マトリックス1mlあたり0.5〜5mgの濃度内、さらにより好ましくは、フィブリン・マトリックス1mlあたり2〜3.5mgの濃度内、最も好ましくは、フィブリン・マトリックス1mlあたり2.5〜3mgの濃度内のCaCl*2HOである。I.U.は、トロンビンの1国際単位を表し、そしてヒト・トロンビンの第一国際標準の0.0853mgに含有される活性として定義される。これらの濃度範囲で存在する材料で形成される強化フィブリン・マトリックスは、好ましくは、骨嚢胞および骨腫瘍のように、造影剤の添加を必要としないすべての適応症に対して用いられる。
【0059】
1以上の造影剤がマトリックスに存在する場合、フィブリン・マトリックス中のトロンビンの量は、一般的に、造影剤の非存在下での同じフィブリン・マトリックス中のトロンビンの量より多い。造影剤は、好ましくは、強化マトリックスが、骨粗しょう症骨において、骨折を防止する予防的治療として、すなわち椎骨または大腿骨頸への注射として用いられる場合に添加される。これらの場合、フィブリン・マトリックスは、典型的には、フィブリン・マトリックス1ミリリットルあたり7.5〜125I.U.のトロンビンの間の濃度範囲内で、好ましくは、フィブリン・マトリックス1ミリリットルあたり25〜50I.U.のトロンビンの間の範囲内で、そして最も好ましくは、フィブリン・マトリックス1ミリリットルあたり35〜40I.U.のトロンビンの間の範囲内で、トロンビンを含有する。
【0060】
フィブリン・マトリックスを形成するための前駆体溶液
好ましくは、2つの前駆体溶液を用いて、フィブリン・マトリックスを形成する。第一の前駆体溶液は、フィブリノーゲン、好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり10〜130mgのフィブリノーゲン、より好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり30〜120mgのフィブリノーゲン、さらにより好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり50〜110mgのフィブリノーゲン、そして最も好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり60〜90mgのフィブリノーゲンを含有する。マトリックスを形成するために、トロンビンを添加しなければならず、そして適応症が1以上の造影剤を必要とする場合、第二の前駆体溶液は、トロンビン、好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり15〜250I.U.のトロンビン、より好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり50〜100I.U.のトロンビン、そして最も好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり70〜80I.U.のトロンビンを含有する。さらに、カルシウム・イオン供給源が、前駆体溶液の少なくとも1つに存在してもよい。カルシウム・イオン供給源は、好ましくは前駆体溶液1mlあたり1〜10mg、さらにより好ましくは前駆体溶液1mlあたり4〜7mg、最も好ましくは前駆体溶液1mlあたり5〜6mgの濃度内のCaCl*2HOである。場合によって、因子XIIIaのように、マトリックス形成を触媒可能な酵素を、少なくとも1つの前駆体溶液に添加する。好ましくは、因子XIIIaは、前駆体溶液1ミリリットルあたり0.5〜100I.U.、より好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり1〜60I.U.、そして最も好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり1〜10I.U.の濃度内で存在する。
【0061】
造影剤の存在が必要でない場合、フィブリン・マトリックスは、好ましくは、2つの前駆体溶液から形成される。第一の前駆体溶液は、典型的には、フィブリノーゲン、好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり10〜130mgのフィブリノーゲン、より好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり30〜120mgのフィブリノーゲン、さらにより好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり50〜110mgのフィブリノーゲン、そして最も好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり60〜90mgのフィブリノーゲンの濃度範囲内を含有する。マトリックスを形成するために、トロンビンを添加しなければならない場合、第二の前駆体溶液は、トロンビン、前駆体溶液1ミリリットルあたり1〜10I.U.のトロンビン、より好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり2.5〜6.5I.U.のトロンビン、最も好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり3〜5I.U.の濃度範囲内のトロンビンを含有する。さらに、カルシウム・イオン供給源が、前駆体溶液の1つ中にある。カルシウム・イオン供給源は、好ましくは、前駆体溶液1mlあたり1〜10mgの濃度範囲内、さらにより好ましくは、前駆体溶液1mlあたり4〜7mg、最も好ましくは、前駆体溶液1mlあたり5〜6mgのCaCl*2HOである。場合によって、因子XIIIaのように、マトリックス形成を触媒可能な酵素を、前駆体溶液に添加する。好ましくは、因子XIIIaは、前駆体溶液1ミリリットルあたり0.5〜100I.U.、より好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり1〜60I.U.、そして最も好ましくは、前駆体溶液1ミリリットルあたり1〜10I.U.の濃度範囲内で存在する。
【0062】
合成マトリックスおよび前駆体溶液
体における適用のための合成マトリックスを形成するための架橋反応には(i)Hernら, J. Biomed. Mater. Res. 39:266−276(1998)に記載されるような不飽和二重結合を含有する2以上の前駆体間のフリーラジカル重合、(ii)Rheeらに対する米国特許第5,874,500号に開示されるような、アミン基を含む前駆体およびスクシンイミジル基を含む前駆体間などの、求核置換反応、(iii)縮合反応および付加反応、ならびに(iv)強い求核基および共役不飽和基または結合(強い求電子基として)の間のマイケル型付加反応が含まれる。特に好ましいのは、求核基としてチオール基またはアミン基を有する前駆体分子および求電子基としてアクリレート基またはビニルスルホン基を含む前駆体分子間の反応である。最も好ましい求核基はチオール基である。マイケル型付加反応は、Hubbellらに対するWO 00/44808に記載される。マイケル型付加反応は、感受性生物学的材料の存在下であってさえ、自己選択的方式で、生理学的条件下、少なくとも第一および第二の前駆体構成要素のin situ架橋を可能にする。前駆体構成要素の1つが、少なくとも2つの官能性を有し、そして他の前駆体構成要素の少なくとも1つが、2より多い官能性を有する場合、系は自己選択的に反応して、架橋された三次元マトリックスを形成するであろう。
【0063】
好ましくは、共役不飽和基または共役不飽和結合は、アクリレート、ビニルスルホン、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、ビニルスルホン、2−または4−ビニルピリジニウム、マレイミド、またはキノンである。
【0064】
求核基は、好ましくは、チオール基、アミノ基またはヒドロキシル基である。チオール基は、実質的に、非プロトン化アミン基より反応性である。この縮合ではpHが重要である:脱プロトン化されたチオールは、プロトン化されたチオールより実質的により反応性である。したがって、アクリレートまたはキノンのような共役不飽和とチオールを伴い、2つの前駆体構成要素をマトリックスに変換する付加反応は、しばしば、およそ8のpHで、最も迅速に、そして自己選択的に、最適に行われる。およそ8のpHで、関心対象のチオールの大部分は、脱プロトン化され(そしてしたがってより反応性であり)、そして関心対象のアミンの大部分は、なおプロトン化されている(そしてしたがってより反応性でない)。第一の前駆体分子としてチオールを用いる場合、アミンに比較してチオールに対する反応性において選択的である共役構造が非常に望ましい。
【0065】
適切な第一および第二の前駆体分子には、タンパク質、ペプチド、ポリオキシアルキレン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレン−コ−ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン−コ−アクリル酸)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレン−コ−ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン−コ−マレイン酸)、ポリ(アクリルアミド)、およびポリ(エチレンオキシド)−コ−ポリ(酸化プロピレン)ブロックコポリマーが含まれる。特に好ましい前駆体分子はポリエチレングリコールである。
【0066】
ポリエチレングリコール(PEG)は、好適な構築ブロックを提供する。直鎖(2つの端を持つことを意味する)または分枝鎖(2より多い端を持つことを意味する)PEGは容易に購入または合成可能であり、そして次いでPEG端基を官能化して、チオールなどの強い求核基、あるいはアクリレートまたはビニルスルホンなどの共役構造のいずれかを導入することも可能である。わずかに塩基性の環境において、これらの構成要素が互いに、または対応する構成要素と混合されると、第一および第二の前駆体構成要素間の反応によって、マトリックスが形成されるであろう。PEG構成要素を非PEG構成要素と反応させることも可能であり、そしてどちらかの構成要素の分子量または親水性を制御して、機械的特性、浸透性、および生じるマトリックスの水含量を操作することも可能である。
【0067】
マトリックス、特にin vivoで分解することが望ましいマトリックスの形成において、ペプチドは非常に好適な構築ブロックを提供する。2以上のシステイン残基を含有するペプチドを合成するのは容易であり、そしてこの構成要素は次いで、求核基を含む第一の前駆体構成要素として容易に働きうる。例えば、2つの未結合システイン残基を含むペプチドは、PEGトリビニルスルホン(アームそれぞれにビニルスルホンを含む、3つのアームを有するPEG)と、生理学的pHまたはわずかにより高いpH(例えば8〜9)で混合された際、マトリックスを容易に形成するであろう。ゲル化はまた、さらに高いpHでもよく進行可能であろうが、自己選択性が犠牲になる可能性がある。2つの液体前駆体構成要素をともに混合する場合、これらは、数分の期間に渡って反応して、PEG鎖のネットワークからなり、ネットワークのノードを所持し、連結リンクとしてのペプチドを伴う、弾力性があるゲルを形成する。フィブリン・マトリックスにおけるものなど、タンパク質に基づくネットワークにおいてなされるように、細胞によって浸潤および分解可能なネットワークを作製するため、ペプチドをプロテアーゼ基質として選択してもよい。好ましくは、ドメイン中の配列は、細胞遊走に関与する酵素の基質(例えばコラゲナーゼ、プラスミン、メタロプロテイナーゼ(MMP)またはエラスターゼなどの酵素の基質のようなもの)であるが、適切なドメインはこれらの配列に限定されない。1つの特に有用な配列は、酵素プラスミンの基質である。ゲルの分解特性は、架橋ノードとして働くペプチドの詳細を変化させることによって操作可能である。コラゲナーゼによって分解可能であるがプラスミンには分解されない、あるいはプラスミンによって分解可能であるがコラゲナーゼには分解されないゲルを作製することも可能である。さらに、酵素反応のkまたはkcat、あるいは両方を改変するため、単に、アミノ酸配列を変化させることによって、こうした酵素に反応して、より迅速にまたはより緩慢にゲルが分解されるようにすることも可能である。したがって、細胞の正常のリモデリング特性によってリモデリング可能である点で、生体模倣物であるマトリックスを作製することも可能である。例えば、こうした研究は、重要なプロテアーゼ、プラスミンの基質部位を示す。ペプチドを含むPEGのゲル化は自己選択的である。
【0068】
場合によって、生体機能剤をマトリックス内に組み入れて、他の種(例えば組織表面)に対する化学的結合を提供してもよい。マトリックス内に組み入れられたプロテアーゼ基質を有することは、PEGビニルスルホンからマトリックスを形成する際に重要である。PEGアクリレートおよびPEGチオールの反応から形成されるマトリックス以外に、PEGビニルスルホンおよびPEGチオールから形成されるマトリックスは、加水分解的に分解可能な結合を含有しない。したがって、プロテアーゼ基質の組み入れは、マトリックスが体内で分解することを可能にする。
【0069】
合成マトリックスは、操作上、形成が簡単である。2つの液体前駆体を混合し;一方の前駆体は、求核基を含む前駆体分子を含有し、そして他方の前駆体分子は、求電子基を含有する。生理学的生理食塩水は、溶媒として働きうる。反応によって、最小限の熱しか生成されない。したがって、有害な毒性を伴わずに、組織と直接接触させて、in vivoまたはin vitroで、ゲル化を行うことも可能である。したがって、テレケリックに(telechelically)修飾されたか、または側鎖上で修飾されたかいずれかの、PEG以外のポリマーを用いてもよい。
【0070】
治癒する適応症の大部分では、マトリックスの適合した分解速度と組み合わされた、細胞内殖またはマトリックスへの細胞の遊走の速度が、全体の治癒反応のために非常に重要である。加水分解的に分解不能なマトリックスが、細胞によって侵襲されるようになる可能性は、主に、ネットワーク密度の関数である。分岐点またはノードの間に存在する空間が、細胞のサイズに関して小さすぎるか、あるいはマトリックス内により多くの空間の生成を生じる、マトリックスの分解速度が遅すぎる場合、非常に限定された治癒反応しか観察されないであろう。体内の傷害に対する反応として形成される、例えばフィブリン・マトリックスなどの、天然に見られる治療的マトリックスは、非常に容易に細胞が侵襲しうる、非常にゆるいネットワークからなることが知られる。浸潤は、フィブリン・ネットワークと一体化した部分である、細胞接着のためのリガンドによって促進される。
【0071】
ポリエチレングリコールのような合成親水性前駆体分子から作製されるマトリックスは、ポリマー性ネットワーク形成後、水性環境中で膨張する。体内でのマトリックスのin situ形成中、十分に短いゲル化時間(7〜8の間のpHおよび36〜38℃の範囲の温度で、3〜10分の間)および定量的反応を達成するため、前駆体分子の出発濃度は、十分に高くなければならない。こうした条件下では、マトリックスが水性環境中で分解不能である場合、ネットワーク形成後の膨張は起こらないであろうし、そして必要な出発濃度は、細胞が浸潤するには密度が高すぎるマトリックスを導くであろう。したがって、ポリマー性ネットワークの膨張は、分岐点間の空間を拡大し、そして広げるのに重要である。
【0072】
前駆体分子の出発濃度と関わりなく、4アームPEGビニルスルホンおよびSH基を持つペプチドなどの、同じ合成前駆体分子から作製されるヒドロゲルは、平衡状態で、同じ水含量に膨張する。これは、前駆体分子の出発濃度が高ければ高いほど、平衡状態に達した際のヒドロゲルの最終体積が高くなることを意味する。体内で利用可能な空間が、十分な膨張を可能にするには小さすぎる場合、そして特に、前駆体構成要素から形成される連結が加水分解的に分解可能でない場合、細胞浸潤および治癒反応の速度は減少するであろう。その結果、体内での適用のための2つの相反する必要性の間の最適条件を見つけなければならない。分子量が実質的に類似の少なくとも3つのアームを持つ三重官能分枝ポリマーおよび少なくとも二重官能分子である第二の前駆体分子の反応から形成される三次元ポリマー性ネットワークで、優れた細胞浸潤およびそれに続く治癒反応が観察されてきている。第一および第二の前駆体分子の官能基の当量の比は、0.9〜1.1の間である。生じるポリマー性ネットワークの水含量が、当量%〜水取り込み完了後のポリマー性ネットワークの総重量の92重量%の間であるように、第一の前駆体分子のアームの分子量、第二の前駆体分子の分子量、および分岐点の官能性を選択する。好ましくは、水含量は、水取り込み完了後のポリマー性ネットワークおよび水の総重量の93〜95重量%の間である。平衡濃度に到達したとき、またはマトリックス中で利用可能な空間がさらなる体積増加を可能にしないときのいずれかで、水取り込みの完了を達成してもよい。したがって、前駆体構成要素の出発濃度が出来る限り低くなるように選択することが好ましい。これはすべての膨張可能マトリックスに当てはまるが、特に、細胞が仲介する分解を経て、そしてポリマー性ネットワーク中で加水分解的に分解可能な連結を含有しないマトリックスに当てはまる。
【0073】
特に加水分解的に分解不能なゲルに関して、ゲル化時間および低い出発濃度の間のバランスは、前駆体分子の構造に基づいて最適化されなければならない。特に、第一の前駆体分子のアームの分子量、第二の前駆体分子の分子量および分枝の度合い、すなわち分岐点の官能性を、適宜、調整しなければならない。実際の反応機構は、この相互作用に軽微な影響を有する。
【0074】
第一の前駆体分子が、各アームの端に官能基を含む、3または4アーム・ポリマーであり、そして第二の前駆体分子が直鎖二重官能性分子、好ましくは、少なくとも2つのシステイン基を含有するペプチドである場合、第一の前駆体分子のアームの分子量および第二の前駆体分子の分子量は、好ましくは、ネットワーク形成後の分岐点間の連結が、10〜13kDaの間(連結が直鎖であり分枝していない条件下で)、好ましくは、11〜12kDaの範囲内の分子量を有するように、選択される。これによって、第一および第二の前駆体分子の合計の出発濃度が、溶液中の第一および第二の前駆体分子の総重量(ネットワーク形成前)の8〜12重量%の間、好ましくは9〜10重量%の間の範囲内であることが可能になる。第一の前駆体構成要素の分枝の度合いが8に増加し、そして第二の前駆体分子がなお直鎖二重官能性分子である場合、分岐点間の連結の分子量を、好ましくは、18〜24kDaの分子量に増加させる。第二の前駆体分子の分枝の度合いが、直鎖から3または4アームの前駆体構成要素に増加する場合、分子量、すなわち連結の長さを、適宜、増加させる。好ましい態様において、第一の前駆体分子として、三重官能3アーム15kDポリマー、すなわち各アームが5kDの分子量を有するもの、および第二の前駆体分子として、0.5〜1.5kDの間の範囲内、さらにより好ましくは1kD前後の分子量の二重官能性直鎖分子の組成を選択する。好ましくは、第一および第二の前駆体構成要素は、ポリエチレングリコールである。
【0075】
好ましい態様において、第一の前駆体構成要素には、官能基として共役不飽和基または結合、最も好ましくはアクリレートまたはビニルスルホンが含まれ、そして第二の前駆体分子の官能基には、求核基、好ましくはチオール基またはアミノ基が含まれる。本発明の別の好ましい態様において、第一の前駆体分子は、各アームの末端に官能基を有する、4アームの15〜20kDポリマー、好ましくは15kDポリマーであり、そして第二の前駆体分子は、3〜4kDaの間の範囲内、好ましくは3.4kDaの間の分子量の二重官能性直鎖分子である。好ましくは、第一の前駆体分子は、アクリレート基を有するポリエチレングリコールであり、そして第二の前駆体分子は、チオール基を有するポリエチレングリコールである。両方の好ましい態様において、第一および第二の前駆体分子の合計の出発濃度は、第一および第二の前駆体分子および水の総重量(ポリマー性ネットワーク形成前)の8〜11重量%、好ましくは、9〜10重量%の間、10分未満のゲル化時間を達成するには、好ましくは、5〜8重量%の間の範囲である。これらの組成は、pH8.0および37℃で、混合後、約3〜10分のゲル化時間を有する。
【0076】
マトリックスが、例えばアクリレートおよびチオール間の好ましい反応によって形成される、加水分解的に分解可能な連結を含有する場合、細胞浸潤に関するネットワーク密度は、最初は特に重要であるが、水性環境において、連結は加水分解され、そしてネットワークがゆるみ、細胞浸潤が可能になるであろう。ポリマー性ネットワークの全体の分枝の度合いが増加するにつれて、相互連結の分子量、すなわち連結の長さが増加するはずである。
【0077】
B.細胞付着部位
細胞は、細胞表面で、タンパク質−タンパク質、タンパク質−オリゴ糖およびタンパク質−多糖相互作用を通じて、環境と相互作用する。細胞外マトリックス・タンパク質は、細胞に多数の生物活性シグナルを提供する。細胞を補助するには、この濃密なネットワークが必要であり、そしてマトリックス中の多くのタンパク質が、細胞接着、伸展、遊走、および分化を制御することが示されてきている。特に活性であることが示されている特定のタンパク質のいくつかには、ラミニン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、フィブリン、フィブリノーゲンおよびコラーゲンが含まれる。ラミニンの多くの研究が行われてきており、そしてラミニンが、in vivoで神経の、そしてin vitroで神経細胞の発生および再生において、ならびに血管新生において、きわめて重要な役割を果たすことが示されてきている。細胞受容体と直接相互作用し、そして接着、伸展またはシグナル伝達を引き起こす特定の配列のいくつかが同定されてきている。
【0078】
ラミニンは、巨大な多ドメイン・タンパク質であり、いくつかの受容体結合ドメインを含む3つの鎖からなることが示されてきている。これらの受容体結合ドメインには、ラミニンB1鎖のYIGSR(配列番号1)配列、ラミニンA鎖のLRGDN(配列番号3)、およびラミニンB1鎖のPDGSR(配列番号4)が含まれる。細胞に関するいくつかの他の認識配列が、同定されてきている。これらには、ラミニンA鎖のIKVAV(配列番号5)、およびラミニンB2鎖の配列RNIAEIIKDI(配列番号6)が含まれる。特に好ましいのは、フィブロネクチン由来のRGD配列である。
【0079】
さらに好ましい態様において、細胞接着のためのペプチド部位、すなわち細胞表面上の接着促進受容体に結合するペプチドが、マトリックス内に組み入れられる。こうした接着促進ペプチドには、上述のものが含まれる。特に好ましいのは、フィブロネクチン由来のRGD配列、ラミニン由来のYIGSR(配列番号1)配列である。細胞付着部位の組み入れは、合成マトリックスで特に好ましい。しかし、いくつかの天然マトリックスでもまた、細胞付着部位が含まれてもよい。組み入れは、例えば、システイン含有細胞付着ペプチドと、PEGアクリレート、PEGアクリルアミドまたはPEGビニルスルホンなどの共役不飽和基を含む、前駆体分子を混合することによって、達成可能である。この工程は、チオール含有前駆体構成要素などの求核基を含む、残りの前駆体構成要素と混合する前に、短期間で、例えば数分で起こることも可能である。細胞付着部位がシステインを含まない場合、システインを含むように化学的に合成してもよい。この工程中に、接着促進ペプチドは、共役不飽和で多重に官能化された前駆体の一端に組み入れられるようになり;残りのマルチチオールが系に添加されると、架橋されたネットワークが形成されるであろう。
【0080】
マトリックス内に共有結合した接着部位の濃度は、細胞浸潤の速度に影響を及ぼしうる。例えば、所定のヒドロゲルに関して、ある濃度範囲のRGDをマトリックスに組み入れて、最適な方式で細胞内殖および細胞遊走を支持することも可能である。RGDのような接着部位の最適濃度範囲は、特に、水取り込み終了後、平衡濃度〜92重量%の間の水含量を有するマトリックスに関しては、0.04〜0.05mMの間、そしてさらにより好ましくは、0.05mMである。
【0081】
好ましい態様は、生物活性因子、プロテアーゼ分解部位GCRPQGIWGQDRC(配列番号7)および0.050mM RGDと架橋した、約20,000Daの分子量を持つ4アーム・ポリエチレングリコールを含有する強化マトリックスであり;このマトリックスは、特に優れた細胞内殖結果および骨欠陥の治癒を示す。好ましくは、マトリックスは、該マトリックスに共有結合したPTH 1−34を含有する。PEGおよびペプチドの出発濃度は、分子および水の総重量(膨張前)の10重量%未満である。ゲルは、使用可能なコンシステンシーを有し、そして骨芽細胞および前駆体細胞が、マトリックスに容易に浸潤するのを可能にする。
【0082】
C.生物活性因子
生物活性因子は、健康でない骨、例えば骨粗しょう症および骨嚢胞の特定の骨欠陥領域の治療のための活性成分である。驚くべきことに、特定の生物活性因子、すなわちPTHおよびBMP、特にPTH1−34、BMP2およびBMP7が、骨粗しょう症骨および骨領域、ならびに骨嚢胞および骨腫瘍の領域の局所治療に適していることが見出された。過去、これらの骨因子は全身性治療に関して研究されてきた。しかし、骨欠陥の治療に関係する限り、これらが局所適用配合物の有用な活性成分でありうるという示唆はなかった。これらの生物活性因子が、注入可能マトリックス配合物内に組み入れられ、そして健康でない骨の特定の骨欠陥領域内に注入されると、該因子は、その骨領域における骨密度を増加させる。好ましくは、生物活性因子は、上述のマトリックスに共有結合し、こうして、生物活性因子の徐放を確実にする。生物活性因子は、第一のドメインに生物活性因子を、そして第二のドメインに共有的に架橋可能な基質ドメインを含有する、融合ペプチドの形であってもよい。場合によって、第一のドメインおよび第二のドメインの間に、分解部位が位置する。
【0083】
a. PTH
用語「PTH」には、本明細書において、PTH1−84のヒト配列、ならびに生物分解性天然または合成マトリックスに共有結合した際に、骨形成特性を示す、PTHの一部切除型、修飾型および対立遺伝子型すべてが含まれる。PTHの好ましい一部切除型は、PTH1−38、PTH1−34、PTH1−31、PTH1−28またはPTH1−25である。最も好ましいのはPTH1−34である。好ましくは、PTHはヒトPTHであるが、ウシPTHなどの他の供給源由来のPTHが適切でありうる。
【0084】
b. BMP
骨形成タンパク質は、既知のBMP、あるいは骨形成特性を示すBMPの任意の修飾型または対立遺伝子型であってもよい。特に好ましいのはBMP2およびBMP7である。
【0085】
BMP2
用語「BMP2」には、本明細書において、BMP21−396のヒト配列、ならびに生物分解性天然または合成マトリックスに共有結合した際に、類似の生物学的活性を示す、BMP2の一部切除型、修飾型および対立遺伝子型すべてが含まれる。BMP2の好ましい一部切除型は、BMP2283−396である。好ましくは、BMP2はヒトBMP2であるが、他の供給源由来のBMP2が適切でありうるし、特に、ヒト、マウスまたはラット由来のBMP2のアミノ酸配列が100%同一であることを考慮すると、マウスまたはラット由来のものが適切でありうる。
【0086】
BMP7
用語「BMP7」には、本明細書において、BMP71−431のヒト配列、ならびに生物分解性天然または合成マトリックスに共有結合した際に、類似の生物学的活性を示す、BMP7の一部切除型、修飾型および対立遺伝子型すべてが含まれる。BMP7の好ましい一部切除型は、BMP7293−431である。好ましくは、BMP7はヒトBMP7であるが、他の供給源由来のBMP7が適切でありうるし、特に、ヒトおよびマウス由来のBMP7のアミノ酸配列が98%同一であることを考慮すると、マウス由来のものが適切でありうる。
【0087】
c.融合ペプチド
架橋可能基質ドメイン
融合ペプチドは少なくとも2つのドメインを含み、第一のドメインは生物活性因子を含み、そして第二のドメインは、マトリックスの形成前、形成中または形成後に、マトリックスに架橋可能な基質ドメインを含む。基質ドメインは、酵素に関するドメイン、好ましくはトランスグルタミナーゼの基質ドメイン(「トランスグルタミナーゼ基質ドメイン」)、より好ましくは組織トランスグルタミナーゼの基質ドメイン(「組織トランスグルタミナーゼ基質ドメイン」)であってもよく、そして最も好ましくは因子XIIIaの基質ドメイン(「因子XIIIa基質ドメイン」)である。
【0088】
トランスグルタミナーゼは、タンパク質に結合したグルタミニル残基のガンマ−カルボキサミド基およびリジン残基のイプシロン−アミノ基の間のアシル−トランスファー反応を触媒し、N−イプシロン−(ガンマ−グルタミル)リジン・イソペプチド側鎖架橋の形成を生じる。融合ペプチドのアミノ酸配列は、酵素的または加水分解的切断部位をさらに含有するように設計可能であり、したがって、一次構造がほとんどまたはまったく修飾されずに、生物活性因子が放出されることも可能である。トランスグルタミナーゼ基質ドメイン、および特に因子XIIIa基質ドメインは、フィブリン・マトリックスに融合ペプチドを連結するのに適しているが、ぶら下がった(pending)一次アミノ基が合成分子に存在する場合、合成マトリックスに連結するのにも適している。フィブリン・マトリックスとともに用いた場合、融合ペプチドにおける分解部位は、好ましくは酵素的に分解可能であり、したがって、PTHの放出は、局在化されたタンパク質分解のように、細胞特異的プロセスによって制御される。
【0089】
架橋可能基質ドメインには、GAKDV(配列番号8)、KKKK(配列番号9)、YRGDTIGEGQQHHLGG(配列番号10)、またはNQEQVSPL(配列番号2)が含まれてもよい。
【0090】
最も好ましい因子XIIIa基質ドメインは、NQEQVSPL(配列番号2)のアミノ酸配列を有し、そして本明細書において、「TG」およびTG−PTHと呼ばれる。
PTH融合ペプチドを組換え的にまたは化学合成によって産生してもよい。PTH 1−34融合ペプチドは、好ましくは、化学合成によって産生される。BMP融合ペプチドは、組換え的に、好ましくは細菌プロセスによって産生される。
【0091】
合成前駆体構成要素から形成されるマトリックスへのPTH、BMP2またはBMP7の組み入れのため、架橋可能基質ドメインとして、好ましくはPTH1−34、BMP2またはBMP7のN末端に少なくとも1つのさらなるシステイン基(−SH)を含んで合成した際、PTHまたはBMP融合ペプチドまたは任意の他のペプチドもまた取り込み可能である。システインは、PTH1−34、BMP2またはBMP7に直接付着させても、あるいはリンカー配列を通じて付着させてもいずれでもよい。リンカー配列にはさらに、酵素的にまたは加水分解的に分解可能なアミノ酸配列が含まれてもよく、したがって、PTH、BMP2またはBMP7は、実質的に天然型で、酵素によってマトリックスから切断可能である。未結合システイン基は、マイケル型付加反応で、前駆体構成要素の共役不飽和基と反応する。システインのチオール基は、合成ポリマー上の共役不飽和結合と反応して、共有連結を形成することも可能である。
【0092】
これらの部位は非特異的加水分解(すなわちエステル結合)によって分解可能であってもよいし、またはこれらは特定の酵素的(タンパク質分解的分解性または多糖分解性のいずれか)分解の基質であってもよいし、いずれでもよい。
【0093】
分解部位は、一次ペプチド配列がほとんどまたはまったく修飾されずに、PTH、BMP2またはBMP7が放出されることを可能にし、これは、因子のより高い活性を生じうる。さらに、これによって、因子の放出が、細胞特異的プロセスによって制御されることが可能になる。これによって、材料内の細胞の位置に応じて、同じ材料内で、因子が異なる速度で放出されることが可能になる。これはまた、放出が細胞プロセスによって制御されるため、必要とされるPTH1−34、BMP2またはBMP7の総量も減少させる。マトリックスに組み入れられ、そして好ましくはマトリックスに結合したPTHを用いた、上述の骨欠陥の強い治癒に関する1つのありうる説明において、PTHが、延長された期間に渡って(すなわち単一のパルス用量であるだけでなく)局所投与されるが、連続様式でないことが重要であるようである。これは、マトリックスの酵素的切断または加水分解的切断のいずれかを通じた、緩慢な分解によって達成される。この方式では、次いで、分子が偽パルス効果を通じて送達され、これは持続された期間に渡って起こる。プレ骨芽細胞がマトリックスに浸潤すると、該細胞はPTH分子と出会い、該分子はプレ骨芽細胞のさらなる増殖を誘導するとともに、新規骨形成に決定的に重要な多数の増殖因子の合成を誘導するであろう。しかし、その特定の細胞が、結合しているPTHをマトリックスから遊離させ続けないならば、該細胞はインターロイキン−6を産生し始めず、それによってより遅い段階での破骨細胞形成に対する異化効果が回避されるであろう。次いで、最終結果は、より高い骨量および骨マトリックスの正味形成である。最後に、ペプチドの療法効果は、欠陥領域に局在化され、そして続いて拡大される。
【0094】
融合ペプチドの分解部位
酵素的または加水分解的分解部位が、融合ペプチドの第一のドメインおよび第二のドメインの間に存在してもよい。分解部位は、特異的な酵素的分解によって分解可能であってもよい。好ましくは、分解部位は、プラスミンおよびマトリックス・メタロプロテイナーゼからなる群より選択される酵素によって切断可能である。この酵素的分解部位のKおよびKcatを注意深く選択することによって、マトリックス形成の前または後のいずれかで、そして/または類似のまたは似ていない酵素を利用してマトリックスを分解することによって、分解が起こるように制御してもよい。これらの分解可能部位は、マトリックスからの生物学的活性因子のより特異的な放出を操作することを可能にする。分解可能部位は、マトリックスに侵襲した細胞から放出される酵素によって切断可能である。分解部位によって、その位置での、そして/またはマトリックス内での細胞活性に応じて、マトリックス内の異なる位置で送達速度が多様になることが可能になる。さらなる利点には、送達系内の総薬剤用量がより少ないこと、および空間的な放出制御が、最大細胞活性時に放出される薬剤の割合がより高くなるのを可能にすることが含まれる。分解部位は、本明細書において、「pl」と略される。
【0095】
タンパク質分解的に分解可能な部位には、コラゲナーゼ、プラスミン、エラスターゼ、ストロメリシン、またはプラスミノーゲン活性化因子の基質が含まれうる。例示的な基質を以下に列挙する。N1〜N5は、タンパク質分解が起こる部位から、タンパク質のアミノ末端に向かうアミノ酸1〜5位を示す。N1’〜N4’は、タンパク質分解が起こる部位から、タンパク質のカルボキシ末端に向かうアミノ酸1〜4位を示す。
表1:プロテアーゼの実例の基質配列
【0096】
【表1】

【0097】
好ましい態様において、第一のドメインおよび第二のドメインの間に配列YKNR(配列番号11)が位置し、そしてこれが連結をプラスミン分解可能にしている。
特に好ましいPTH融合ペプチドはTGplPTH:
NQEQVSPLYKNRSVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNF(配列番号12)
である。
【0098】
タンパク質分解的分解に使用可能な酵素は数多い。タンパク質分解的に分解可能な部位には、コラゲナーゼ、プラスミン、エラスターゼ、ストロメリシン、またはプラスミノーゲン活性化因子の基質が含まれうる。
【0099】
別の好ましい態様において、オリゴ−エステル・ドメインを、第一のドメインおよび第二のドメインの間に挿入してもよい。これは、乳酸のオリゴマーなどのオリゴ−エステルを用いて達成可能である。
【0100】
組み入れのための融合タンパク質の設計
好ましい融合タンパク質には:
TG−PTH1−34:これは天然PTHのアミノ酸1−34とともに、TG(トランスグルタミナーゼ)基質ドメインを含むPTHの修飾型である:
NQEQVSPLSVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNF(配列番号13)
TG−pl−PTH1−34:この型は、TG配列およびPTH1−34の間にプラスミン分解可能配列(pl)をさらに含有する点を除いて、TG−PTHに対応する:
NQEQVSPLYKNRSVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNF(配列番号12)
TG−BMP2283−396:これは、天然PTHのアミノ酸283−396とともに、TG(トランスグルタミナーゼ)基質ドメインを含むBMP2の修飾型である:
Met−Asn−Gln−Glu−Gln−Val−Ser−Pro−Leu−Pro−Val−Glu−Leu−Pro−Leu−Ile−Lys−Met−Lys−Pro−His−BMP2283−396(配列番号14)
が含まれる。
【0101】
マトリックスまたは前駆体構成要素および生物活性因子の組み合わせ
好ましい態様において、強化合成またはフィブリン・マトリックス(それぞれ、その前駆体溶液)は、マトリックスおよびPTHまたはPTH融合ペプチドを、好ましくは、0.01〜2mg PTHまたはPTH融合ペプチド/mlマトリックスまたは該マトリックスを形成する前駆体構成要素の間、好ましくは、0.02〜1.0mg PTHまたはPTH融合ペプチド/mlマトリックスまたは該マトリックスを形成する前駆体構成要素の間、より好ましくは、0.03〜0.5mg PTHまたはPTH融合ペプチド/mlマトリックスまたは該マトリックスを形成する前駆体構成要素の間の濃度範囲内で、そして最も好ましくは、0.05〜0.2mg PTHまたはPTH融合ペプチド/mlマトリックスまたは該マトリックスを形成する前駆体構成要素の間の範囲内で含む。患者の年齢に応じて、PTH濃度またはPTH融合ペプチド濃度の特定の部分的範囲が好ましい。強化マトリックスを小児における骨嚢胞を治療するために適用する場合、PTHまたはPTH融合ペプチドの濃度は、好ましくは、0.01〜0.35mg PTHまたはPTH融合ペプチド/mlマトリックスまたは該マトリックスを形成する前駆体構成要素の間の範囲内であり、そして最も好ましくは、0.05〜0.15mg PTHまたはPTH融合ペプチド/mlマトリックスまたは該マトリックスを形成する前駆体構成要素の間の濃度範囲内である。成人において、骨粗しょう症骨の骨密度を局所的に増加させるために配合物を適用する場合、PTHまたはPTH融合ペプチドの好ましい濃度は、0.5〜2mg PTHまたはPTH融合ペプチド/mlマトリックスまたは該マトリックスを形成する前駆体構成要素の間、より好ましくは、0.7〜1.5mg PTHまたはPTH融合ペプチド/mlマトリックスまたは前駆体構成要素の間、そして最も好ましくは、0.9〜1.1mg PTHまたはPTH融合ペプチド/mlマトリックスまたは該マトリックスを形成する前駆体構成要素の間の範囲内である。好ましい態様において、マトリックスはフィブリン・マトリックスである。
【0102】
II.生物活性因子の組み入れおよび/または放出法
PTH、またはBMPのような生物活性因子、あるいは融合ペプチドの、マトリックス内への組み入れのための1つの好ましい態様において、生物活性因子は、マトリックスのゲル化中、マトリックス内に物理的または化学的に組み入れられるであろう。フィブリン・マトリックスの場合、因子XIIIaはフィブリンへの凝固中に活性であるトランスグルタミナーゼである。この酵素は、トロンビンによる切断によって因子XIIIから天然に形成されるか、またはより高い濃度が必要な場合はフィブリン前駆体溶液にさらに添加されて、グルタミン側鎖およびリジン側鎖の間に形成されるアミド連結を介して、フィブリン鎖を互いに付着させるよう機能する。該酵素はまた、凝固中、フィブリンに、他のペプチドを付着させるようにも機能する。具体的には、配列NQEQVSPL(配列番号2)が、因子XIIIaの有効な基質として機能することが立証されてきている。合成マトリックスの場合、融合ペプチドは、体内の生理学的条件下で、合成マトリックスを形成する前駆体構成要素の官能基と反応可能な官能基でなければならない。例えば、前駆体分子が、アクリレート基を含有する場合、融合ペプチドは、未結合チオール基を含有しなければならず、これがマイケル型付加反応において、アクリレート基と反応する。生物活性因子の性質に応じて、非修飾因子の混合もまた、マトリックスからの持続放出を達成可能である。
【0103】
III.適用法
別個の前駆体構成要素の注入に際して、所望の部位で、in situで強化マトリックスを形成してもよいし、またはあらかじめ形成して、そして次いで、所望の部位に移植してもよい。適応症に応じて、異なるゲル化段階で、強化マトリックスを適用するかまたは注入する。マトリックスを骨嚢胞内に注入する場合、好ましくは、前駆体溶液を混合した直後、すなわちまだ液体である状態で、マトリックスを適用する。強化マトリックスの注入が、骨粗しょう症によって侵された、健康でない骨の領域内である場合、これらは好ましくは、プレゲル化状態で注入される。前駆体溶液を混合し、そしてゲル化後(通常、約30秒〜2分後)、太い注射針を通じて、骨の侵された領域内に、ゲルを注入する。これは、まだ液体であるマトリックスの、血液循環内への漏洩を防止するために行う。
【0104】
いくつかの適応症に関しては、注射中に、適用される骨領域における材料の分布を見ることが望ましいこともある。好ましい態様において、X線造影剤、好ましくはマトリックス材料に可溶性であるものを、マトリックス前駆体材料に添加する。
【0105】
一般的に、造影剤は、イオン性および非イオン性造影剤として分類される。非イオン性造影剤が好ましいが、イオン性造影剤もまた使用可能である。ヨウ素含有X線造影剤が好ましい。
【0106】
好ましい非イオン性造影剤には、イオジキサノール、イオヘキソール、イオパミドール、イオペントール、イオプロミド、イオメプロール(iorneprol)、イオシミド、イオタスル、イオトロラン、イオベルソール、イオキシラン、およびメトリザミドが含まれる。最も好ましい非イオン性造影剤はイオヘキソール(CAS No.66108−95−0)である。イオヘキソールを添加して、蛍光顕微鏡またはX線下でゲルを視覚化する場合、マトリックスは、好ましくは、マトリックスまたは該マトリックスを形成する前駆体溶液1ミリリットルあたり100〜600mg、より好ましくは、マトリックスまたは該マトリックスを形成する前駆体構成要素1ミリリットルあたり250〜500mg、最も好ましくは、マトリックスまたは該マトリックスを形成する前駆体構成要素1ミリリットルあたり300〜450mgを含有する。
【0107】
好ましいイオン性造影剤には、ジアトリゾエート、イオベンザメート、イオカルメート、イオセタメート、ヨーダミド、ヨージパミド、ヨードキサメート、イオグリケート、イオグリカメート、イオパノエート、イオフェンジレート、イオプロネート、イオセレート、イオタラメート、イオトロキセート、イオキサグレート、イオキシタラメート、およびメトリゾエートが含まれる。
【0108】
造影剤は商業的に入手可能であり、そして当業者に周知であるように、容易に合成可能である。
当該技術分野に一般的に用いられる方法で、例えばX線、磁気共鳴画像化(MRI)または超音波画像化によって、造影剤の監視を達成してもよい。造影剤は、該剤が分布している体の部位のX線吸収特性を変更することによるか、水プロトンの緩和時間を変更することにより、そしてしたがって、磁気共鳴画像化を介して観察可能であるか、あるいは該剤が分布している体の部位において音速または密度を変更するかのいずれかで、機能することが周知である。本発明にしたがって、X線画像化によって監視可能な造影剤を用いることが望ましい。
【0109】
本明細書に記載するように、異なるゲル化段階で、体内に注入された強化マトリックス配合物は、in situで、体内または体の上でゲル化可能である。別の態様において、強化マトリックスを体の外で形成して、そして次いであらかじめ形成した形状で適用してもよい。用いる前駆体構成要素の種類に関わらず、構成要素の重合またはゲル化を可能にする条件下で、互いとの化合または接触を防止するため、前駆体構成要素は、体への混合物の適用前には分離されているべきである。投与前の接触を防止するため、組成物を互いに分離するキットを用いてもよい。重合を可能にする条件下で混合した際、組成物は、生物活性因子が強化された三次元ネットワークを形成する。前駆体構成要素およびその濃度に応じて、ゲル化は、混合後、擬似瞬間的に(quasi−instantaneously)起こりうる。
【0110】
1つの態様において、マトリックスはフィブリノーゲンから形成される。フィブリノーゲンは、適切な温度およびpHで、トロンビンおよびカルシウム供給源と接触させられると、多様な反応カスケードを通じてゲル化して、マトリックスを形成する。3つの構成要素、フィブリノーゲン、トロンビン、およびカルシウム供給源は、別個に保存しなければならない。しかし、3つの構成要素のうち少なくとも1つが分離されたままである限り、他の2つの構成要素を投与前に合わせてもよい。
【0111】
1つの態様において、フィブリノーゲンを生理学的pH(pH6.5〜8.0、好ましくはpH7.0〜7.5の範囲内)の緩衝溶液に溶解して(安定性を増加させるため、さらにアプロチニンを含有してもよい)第一の前駆体溶液を形成し、そして塩化カルシウム緩衝液(例えば40〜50mMの濃度範囲)中のトロンビン溶液と別個に保存する。フィブリノーゲンの緩衝溶液は、さらに150mMの好ましい濃度のNaClを含む50mMの好ましい濃度のヒスチジン緩衝溶液またはTRIS緩衝生理食塩水(好ましくは33mMの濃度)であってもよい。
【0112】
好ましい態様において、キットは、融合タンパク質、フィブリノーゲン、トロンビン、およびカルシウム供給源を含有する。場合によって、キットは、因子XIIIaなどの架橋酵素を含有してもよい。融合タンパク質は、生物活性因子、架橋酵素の基質ドメイン、ならびに場合によって、基質ドメインおよび生物活性因子の間の分解部位を含有する。融合タンパク質は、フィブリノーゲンまたはトロンビン前駆体溶液中のいずれかに存在してもよい。好ましい態様において、フィブリノーゲン前駆体溶液は、融合タンパク質を含有する。
【0113】
溶液は、好ましくは、2方向シリンジ・デバイスによって混合され、該デバイス中で、チャンバーおよび/または針および/または静的ミキサーを通じて、両方のシリンジの内容物を押し込むことによって、混合が起こる。
【0114】
好ましい態様において、フィブリノーゲンおよびトロンビンの両方を、凍結乾燥型で別個に保存する。2つのどちらかが、好ましくは融合タンパク質である生物活性因子を含有してもよい。使用前に、trisまたはヒスチジン緩衝液をフィブリノーゲンに添加し、緩衝液は、さらに、アプロチニンを含有してもよい。凍結乾燥トロンビンを、塩化カルシウム溶液に溶解する。続いて、フィブリノーゲンおよびトロンビン溶液を、別個の容器/バイアル/シリンジ本体にいれ、そして2方向シリンジなどの2方向連結デバイスによって混合する。場合によって、容器/バイアル/シリンジ本体は、2つの部分からなり、したがって、シリンジ本体の壁に垂直な調節可能な仕切りによって分離された2つのチャンバーを有する。チャンバーの一方は、凍結乾燥フィブリノーゲンまたはトロンビンを含有する一方、他方のチャンバーは、適切な緩衝溶液を含有する。プランジャーを押し込むと、仕切りが移動し、そして緩衝液がフィブリノーゲン・チャンバー内に放出されて、フィブリノーゲンが溶解する。フィブリノーゲンおよびトロンビンの両方が溶解したら、両方の2部分シリンジ本体を、2方向連結デバイスに取り付けて、そして連結デバイスに取り付けられた注射針を通じて内容物を押し込むことによって、これらを混合する。場合によって、連結デバイスは、内容物の混合を改善するため、静的ミキサーを含有する。
【0115】
好ましい態様において、混合前に、フィブリノーゲンを8倍に希釈して、そしてトロンビンを20倍に希釈する。この比は、およそ1分間のゲル化時間を生じる。
別の好ましい態様において、マイケル型付加反応を経ることが可能な合成前駆体構成要素から、強化マトリックスを形成する。求核前駆体構成要素(マルチチオール)は、塩基性pHでしか、マルチアクセプター構成要素(共役不飽和基)と反応しないため、混合前に別個に保存しておかなければならない3つの構成要素は:塩基、求核構成要素、およびマルチアクセプター構成要素である。マルチアクセプターおよびマルチチオール構成要素はどちらも緩衝液中の溶液として保存される。どちらの組成物も、細胞付着部位およびさらに生物活性分子を含んでもよい。したがって、系の第一の組成物は、例えば、求核構成要素の溶液を含んでもよく、そして系の第二の組成物は、マルチアクセプター構成要素の溶液を含んでもよい。2つの構成要素のどちらかまたは両方が塩基を含んでもよい。別の態様において、マルチアクセプターおよびマルチチオールが、第一の組成物中に溶液として含まれてもよく、そして第二の組成物が塩基を含んでもよい。連結および混合は、フィブリノーゲンに関して前述するのと同じ方式で起こる。2つに分かれたシリンジ本体は、合成前駆体構成要素にも等しく適している。フィブリノーゲンおよびトロンビンの代わりに、マルチアクセプターおよびマルチチオール構成要素が、チャンバーの一方に粉砕型で保存され、そして他方のチャンバーが塩基性緩衝液を含有する。
【0116】
さらに、上述の成分に加えて、他の構成要素が本発明の系に組み入れられていてもよい。例えば、カルシウム・ミネラルを含有する材料、すなわち、ヒドロキシアパタイトなどの、カルシウム・イオンを含有する天然存在均質物質を用いてもよい。
【0117】
好ましい態様に関して、組成物および方法を記載してきたが、当業者には、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書記載の組成物に、方法に、そして方法の工程において、または方法の工程の順序において、変動を適用してもよいことが明らかであろう。
【実施例】
【0118】
実施例
実施例1:PTH1−34およびTGplPTH1−34の生物活性
標準的固相状態ペプチド合成法によって、全長PTH1−84と類似の活性を示すPTH1−34ペプチド、およびこの長さのタンパク質を合成してもよい。
【0119】
標準的9−フルオレニルメチルオキシカルボニル化学反応を用い、自動化ペプチド合成装置を用いて、固形樹脂上で、すべてのペプチドを合成した。c18クロマトグラフィーによってペプチドを精製し、そして純度を決定するためにHPLCを介した逆相クロマトグラフィーを用いるとともに、各産物の分子量を同定するために質量分析(MALDI)を用いて、分析した。この方法を用いて、PTH1−34ならびにTG−pl−PTH1−34(NQEQVSPLYKNRSVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNF(配列番号12))およびTGPTH1−34(NQEQVSPLSVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNF(配列番号13))を合成した。TGplPTH1−34およびTGPTH1−34は、因子XIIIa基質ドメインをさらに含む点がPTH1−34とは異なり、該ドメインは、TGplPTH1−34の場合はプラスミン分解可能pl配列YKNR(配列番号15)を介して、そしてTGPTH1−34の場合は直接、PTH1−34に連結されている。
【0120】
PTH融合ペプチドの生物活性を調べるため、レポーター遺伝子アッセイを確立した。このアッセイにおいて、副甲状腺ホルモン受容体のプロモーターに連結されたルシフェラーゼ・レポーター遺伝子を含有するプラスミドを、細胞にトランスフェクションする。次いで、細胞がPTHに曝露され、そして続いてPTHが細胞上の受容体に結合すると、上昇したcAMPレベルを通じて指示されるシグナル・カスケードが開始される。天然のフィードバック制御を通じて、これは次いで、PTH受容体レベルの減少を導く。減少がプロモーターを通じて指示されるため、これはまた、次いで、連結されたレポーター遺伝子産生の減少も導く。このアッセイを用いて、天然PTH1−34ならびにTG−pl−PTH1−34の両方の活性を研究し、そして国際標準に比較した。どちらに関するレポーター遺伝子発現の減少も同じであり、そしてこの活性レベルは、国際標準に関するものと同じであったため、これらの分子の両方が、類似のレベルの活性を示すことが観察された。結果を図1に示す。
【0121】
実施例2:フィブリン・マトリックスからのPTH放出
フィブリン・マトリックスを、TISSEEL(登録商標)キット(Baxter AG、CH−8604 フォルケツヴィル/ZH)フィブリン前駆体構成要素から作製した。組成を表2に列挙する。次いで、0.1μg/mlのPTH1−34またはTGPTH1−34の存在下で、トロンビンに添加し、そして混合して均質な濃度を生じた。TGPTH1−34は、分解部位を含まず、アミノ末端にトランスグルタミナーゼ配列を有するのみである。したがって、TGPTH1−34は、フィブリン・マトリックス自体の分解によってのみ遊離可能である。このペプチドを実施例1に上述するように合成した。
【0122】
最初の放出アッセイのため、1mlフィブリン・マトリックスあたり0.1mgのPTHまたはTGPTHを含む50μlのフィブリン・マトリックスを、10ml緩衝液中、37℃でインキュベーションした。したがって、総放出の場合、緩衝液中のPTHまたはTGPTHの濃度は、0.5μg PTHまたはTGPTH/mlフィブリン・マトリックスであろう。アッセイ中のPTHまたはTGPTHの安定性を比較するため、PTHまたはTGPTHの試料を、緩衝液中で直接希釈して、0.5μg PTHまたはTGPTH/mlフィブリン・マトリックスの濃度にした。異なる緩衝液を試験した:蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水、tris緩衝生理食塩水。
【0123】
第0日、第1日、第2日、第4日および第6日にアリコットを採取し、そして直接ELISAによって分析した。結果によって、PTHがどの緩衝液中でも2日を超えては安定でないことが示された。したがって、放出データに関して、結論はまったく出せなかった。PTH安定性は、PTHの低濃度および最適でない緩衝液によって、明らかに影響を受けた。
【0124】
10mM酢酸ナトリウム緩衝液中、50mMマンニトールを含有する安定化緩衝液を用いることによって、放出実験を反復した。さらに、ペプチドのいかなる分解も防止するため、2日ごとに緩衝液を交換した。PTHまたはTGPTHの濃度を、100μlフィブリン・マトリックス中、1mg PTHまたはTGPTH/mlフィブリン・マトリックスに増加させ、そして1ml緩衝液中でインキュベーションを達成した。全放出された場合、緩衝液中のPTHまたはTGPTHの濃度は、100μg/mlフィブリン・マトリックスであろう(前回の200倍多い)。最初の実験におけるように、スパイク処理試料(対照としての、緩衝液中に溶解された、同じ量のPTHまたはTGPTH)を調製して、実験中のPTHまたはTGPTH(100μg/ml)の安定性を評価した。2週間の間、2〜4日ごとに試料を収集し(緩衝液を交換しながら)、そして直接ELISAによって分析した。スパイク処理試料もまた、2日ごとに収集した。結果によって、これらの条件下で、PTHおよびTGPTHは2週間を超えて安定であることが示された。
【0125】
図2からわかるように、フィブリン・マトリックスからの主な放出は、3日以内で達成される。第3日以降には、ほぼ60%のPTHおよび13%のTGPTHが放出された。これらのデータは、TG配列の添加によってフィブリン・マトリックス中のPTHの保持が非常に増進されることを立証する。
【0126】
実施例3:PTH融合ペプチドを含む強化フィブリン・マトリックスの合成
TISSEEL(登録商標)キット(Baxter AG、CH−8604 フォルケツヴィル/ZH)から出発してフィブリン・マトリックスを形成して、4mlフィブリン・マトリックスを得た。TISSEEL(登録商標)は、ヒト由来のプールした血漿から産生され、そして活性成分の内容は、あらかじめ定義された範囲内で、ロット間で多様である可能性もある。表2は、用いた最終組成を列挙する。
表2:TISSEEL(登録商標)および活性構成要素を含む、最終組成
【0127】
【表2】

【0128】
フィブリン溶解(fibrolysis)を減少させるのを補助して、フィブリン・マトリックスの完全性を保持するセリンプロテアーゼ阻害剤、アプロチニンを含む溶液中に、フィブリノーゲンを懸濁した。この溶液を、2方向シリンジの第一のチャンバー(シリンジ1)に挿入した。2方向シリンジの第二のチャンバー(シリンジ2)中の塩化カルシウム溶液中、トロンビンを別個に提供した。フィブリン・シーラントはまた、血漿フィブロネクチン、因子XIII、プラスミノーゲン、およびヒト・アルブミンなどのフィブリン足場の他の構成要素も含有した。TGpl−PTH1−34をフィブリノーゲン構成要素中に配合して、マトリックス中、0.1mg/ml〜10mg/mlのマトリックス中の最終濃度を生じた。正確な組成を表2に提供する。
【0129】
フィブリノーゲンおよびトロンビン構成要素が等体積で混合されると、凝固プロセスが起こって、天然細胞外マトリックスであるフィブリンが形成される。ゲル化プロセス中、TGpl−PTH1−34がマトリックスに架橋される。凝固プロセスは、45〜60秒に渡って起こり、これによってミキサー先端を通じて、欠陥内への液体の同時注入が可能になり、欠陥箇所でゲルが固化する。
【0130】
実施例4:注射可能フィブリン・マトリックスに架橋されたPTH1−34を用いた、軟骨下嚢胞病変の治療
ウマにおける軟骨下骨嚢胞は、ヒトにおける単房性骨嚢胞と類似の病型であり、そしてしたがって、フィブリン・マトリックスに架橋したPTH1−34の治癒潜在能力を評価するモデルとしてこれを用いた。
【0131】
12頭のウマ(12の嚢胞)を手術に供して、それによって、排出掻爬により嚢胞内容物を取り除いた。嚢胞は、前肢ならびに後肢の多様な関節に位置した。
等体積のフィブリノーゲンおよびトロンビンを含有する実施例3の組成物を、最終濃度10、1および0.4mg/mlのTGplPTH1−34と一緒にSCL内に注入し、そしてin situで重合させた。平均体積2mlの強化マトリックスを用いて、欠陥に充填し、体積は0.2〜5mlの強化マトリックスの範囲であった。ウマの年齢は、2ヶ月〜11歳の範囲であった。X線写真上の治癒ならびに臨床的治癒を調べる追跡調査を、手術2ヵ月後、4ヵ月後、6ヵ月後および12ヵ月後に行った。
【0132】
病変内投与は、SCLの非常に優れた治癒を生じた。分析したウマのすべてが、臨床的治癒およびX線写真上の治癒の有意な進行を示した。X線写真上の治癒は、より高い密度の嚢胞内容物および嚢胞サイズの減少によって反映され、そして手術の2〜6ヵ月後に起こり、より低い濃度のPTH1−34でより迅速に治癒する傾向があった。ほぼすべてのウマが、手術のわずか2〜4ヵ月後に臨床的に治癒し、そしてしたがって、跛行をもはやまったく示さなかった。
【0133】
骨再生の特に劣った予後を有することが知られる3歳以上の成体のウマで、治癒の成功が達成されたため、これらの結果は、特に有望である。
0.4〜10mg/mlの濃度が有効であることが示されており、より低い濃度で、より優れた治癒を示す傾向があった。
【0134】
より低い用量のTGplPTH1−34(0.1mg/ml)を含有する強化マトリックスでの治療もまた、SCLの治癒を促進することが示されてきている。
表3:全般的な患者情報およびSCLの部位
【0135】
【表3】

【0136】
表4:治療前および治療中の跛行段階
【0137】
【表4】

【0138】
治癒=跛行がまったく存在しない
−=対照来診がない
表5に示す基準を用いて、跛行を等級付けした。
表5:跛行段階および対応する基準
【0139】
【表5】

【0140】
実施例5:ウサギ骨梁モデル
フィブリン−TGplPTHが骨梁の骨内肥厚を誘導する潜在能力を研究するため、ウサギ・モデルを確立した。150μlの数回の用量のフィブリン中のTGplPTHを、16匹のNew Zealand Whiteウサギの遠位大腿内に注入した。ウサギを麻酔し、そして大腿顆を暴露した。皮質骨を通じて、顆の側部に小さい穴をドリルで開け、そして1mlシリンジに連結した22G注射針を通じて、骨内に材料を導入した。試験した用量は、0、0.1、0.4、および1.0mg TGplPTH1−34/mlフィブリン・マトリックスであり、各ウサギの反対の足が未治療対照であった。8週間後、動物を屠殺し、そして大腿顆をμCTに供して、治療後の骨密度を評価した。骨密度は、1mg TGplPTH1−34/mlフィブリン・マトリックスでの治療後、およそ10%増加した。
【0141】
実施例6:ヒツジ骨内に注入した放射線不透過フィブリンの視覚化、監視および取り扱い試験
蛍光顕微鏡およびX線下で、骨内のフィブリン・マトリックスの流れを視覚化するため、ヨウ素に基づく造影剤、イオヘキソールを、フィブリン・マトリックス内に組み入れた。600〜800mgのイオヘキソールを、トロンビン前駆体溶液中に溶解して、フィブリン・マトリックスあたり300〜400mg/mlイオヘキソールの最終濃度を生じた。トロンビン前駆体組成物中のトロンビンのある範囲(4〜10U/ml)を試験した。フィブリン・マトリックスの他の構成要素を表2に記載した。
【0142】
ゲル化試験によって、ゲルを形成するには、より高い濃度のトロンビンが必要であることが示された。どちらの構成要素も、骨内に配置された二重シリンジおよび注射針を介して、ヒツジ椎骨および遠位大腿内に、液体として同時に注入して、そしてin situで重合させた。X線および蛍光顕微鏡を用いて、ゲルを明らかに可視化することも可能であった。
【0143】
実施例7:ヒツジ骨内に注入した、あらかじめ重合させたフィブリン、視覚化および取り扱い試験
蛍光顕微鏡およびX線下で、骨内の、あらかじめ重合させたフィブリン・マトリックスを視覚化し、そしてその取り扱いを試験するため、ヨウ素に基づく造影剤、イオヘキソールを、ゲル内に組み入れた。600〜800mgのイオヘキソールを、トロンビン希釈緩衝液中に溶解して、フィブリン・マトリックス中、300〜400mg/mlのイオヘキソールの最終濃度を生じた。75U/ml緩衝溶液の濃度で、トロンビン前駆体を緩衝イオヘキソール溶液に添加した。フィブリン・マトリックスの他の構成要素を表2に記載した。
【0144】
ゲル化試験によって、トロンビンおよびフィブリノーゲン構成要素を含む前駆体構成要素を混合すると、マトリックスが迅速に形成されることが示された。どちらの前駆体溶液も、ねじ山を持つ第三のシリンジに、液体として同時に注入し、そして完全に重合させた。造影剤含有マトリックスを、骨中に配置した大きな注射針を通じて、ヒツジ椎骨に導入した。X線および蛍光顕微鏡を用いて、ゲルを明らかに可視化することも可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】図1は、PTH変異体の生物活性を示す。PTH受容体のプロモーターに連結したレポーター遺伝子でトランスフェクションした細胞を、等量のPTH1−34、TG−pl−PTH1−34(本明細書に記載)または国際的84アミノ酸標準のいずれかで処理した。ルシフェラーゼ・レポーター遺伝子の発現の阻害を測定し、そして溶液中、PTHに曝露されていないトランスフェクション細胞(対照)と比較した。
【図2】図2は、フィブリン・マトリックスからのPTH放出アッセイの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
健康でない骨領域を局所的に治療するための薬剤製造のための、PTHおよびBMPからなる群より選択される生物活性因子、または第一のドメイン中にPTHもしくはBMPを、そして第二のドメイン中に共有的に架橋可能な基質ドメインを含む、融合ペプチド、ならびに治療が必要な骨の部位でマトリックスを形成可能な組成物を含む、配合物の使用。
【請求項2】
融合ペプチドが、形成中にマトリックスに共有連結される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
マトリックスを形成可能な組成物が注入可能である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
健康でない骨領域が、骨粗しょう症によって侵された骨領域、骨嚢胞および骨腫瘍からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
融合ペプチドが、第一のドメインおよび第二のドメインの間に分解部位をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
PTHが、PTH1−84、PTH1−28、PTH1−34、PTH1−31およびPTH1−25からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
PTHがPTH1−34である、請求項6記載の使用。
【請求項8】
BMPがBMP2またはBMP7である、請求項1〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
融合ペプチドの第二のドメインが、トランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む、請求項1〜8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
トランスグルタミナーゼ基質ドメインが因子XIIIa基質ドメインである、請求項9記載の使用。
【請求項11】
マトリックスを形成可能な組成物が、フィブリノーゲン、トロンビン、およびカルシウム供給源を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
n個の求核基を含む第一の前駆体分子およびm個の求電子基を含む第二の前駆体分子の間のマイケル型付加反応によって、マトリックスが形成される、ここでnおよびmが少なくとも2であり、そしてn+mの合計が少なくとも5である、請求項1〜11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
求電子基が共役不飽和基であり、そして求核基がチオールおよびアミンからなる群より選択される、請求項12記載の使用。
【請求項14】
前駆体構成要素が官能化ポリエチレングリコールである、請求項12記載の使用。
【請求項15】
融合ペプチドの第二のドメインが少なくとも1つのシステインを含む、請求項1〜14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
マトリックスを形成可能な組成物が1より多い構成要素を含み、そしてマトリックスを形成可能な組成物の構成要素の少なくとも1つを、組成物の他の構成要素から分離して保存するキット中で、配合物が提供される、請求項1〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
キットが架橋酵素をさらに含む、請求項16記載の使用。
【請求項18】
(i)生理学的条件下でマトリックスを形成可能な組成物;
(ii)PTH、BMP、または第一のドメインがPTHもしくはBMPを含み、そして第二のドメインが架橋可能基質ドメインを含む、少なくとも2つのドメインを含む、融合ペプチド;および
(iii)造影剤
を含む、配合物。
【請求項19】
PTHがPTH1−34である、請求項18記載の配合物。
【請求項20】
マトリックスを形成可能な組成物が、フィブリノーゲン、トロンビン、およびカルシウム供給源を含む、請求項18または19に記載の配合物。
【請求項21】
マトリックスを形成可能な組成物が、n個の求核基を含む第一の前駆体分子およびm個の求電子基を含む第二の前駆体分子を含む、ここでnおよびmが少なくとも2であり、そしてn+mの合計が少なくとも5である、請求項18〜20のいずれかに記載の配合物。
【請求項22】
造影剤が、イオジキサノール、イオヘキソール、イオパミドール、イオペントール、イオプロミド、イオメプロール(iorneprol)、イオシミド、イオタスル、イオトロラン、イオベルソール、イオキシラン、およびメトリザミドからなる群より選択される、請求項18〜21のいずれかに記載の配合物。
【請求項23】
造影剤がイオヘキソールである、請求項22記載の配合物。
【請求項24】
マトリックスを形成可能な組成物が1より多い構成要素を含み、そしてマトリックスを形成可能な組成物の構成要素の少なくとも1つを、組成物の他の構成要素から分離して保存するキット中で、配合物が提供される、請求項18または23のいずれかに記載の配合物。
【請求項25】
天然または合成マトリックス材料、PTHおよびBMPからなる群より選択される生物活性因子、ならびに造影剤を含む、強化(supplemented)マトリックス。
【請求項26】
強化マトリックスが、マトリックスを形成可能な組成物、および第一のドメイン中に生物活性因子を、そして第二のドメイン中に共有的に架橋可能な基質ドメインを含む、融合ペプチドから形成される、請求項25記載の強化マトリックス。
【請求項27】
PTHが、PTH1−84、PTH1−28、PTH1−34、PTH1−31およびPTH1−25からなる群より選択される、請求項25または26記載の強化マトリックス。
【請求項28】
PTHがPTH1−34である、請求項27記載の強化マトリックス。
【請求項29】
BMPがBMP2またはBMP7である、請求項25〜28のいずれかに記載の強化マトリックス。
【請求項30】
融合ペプチドの第二のドメインが、トランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む、請求項26〜29のいずれかに記載の強化マトリックス。
【請求項31】
トランスグルタミナーゼ基質ドメインが因子XIIIa基質ドメインである、請求項30記載の強化マトリックス。
【請求項32】
マトリックス材料がフィブリンを含む、請求項25〜31のいずれかに記載の強化マトリックス。
【請求項33】
n個の求核基を含む第一の前駆体分子およびm個の求電子基を含む第二の前駆体分子の間のマイケル型付加反応によって、マトリックス材料が形成される、ここでnおよびmが少なくとも2であり、そしてn+mの合計が少なくとも5である、請求項25〜32のいずれかに記載の強化マトリックス。
【請求項34】
フィブリノーゲン、トロンビン、カルシウム供給源、PTHおよびBMPからなる群より選択される生物活性因子、ならびに造影剤を含む、キット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−526811(P2008−526811A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549893(P2007−549893)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/050070
【国際公開番号】WO2006/072623
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(507207144)クロス・バイオサージェリー・アクチェンゲゼルシャフト (7)
【Fターム(参考)】