説明

BNT−BT系圧電セラミックスおよびその製造方法

【課題】製造工程でバインダ等について水溶液を利用でき、低温焼成により作製しても圧電特性を高く維持できるBNT−BT系圧電セラミックスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnOで表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、主成分に対して、ビスマス/亜鉛の元素比率を0.05以上9以下とする各元素の酸化物からなる焼結助剤が0.1重量%以上4.5重量%以下添加されて焼結し、yを、x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiOに対するMnOの外割重量%としたとき、xおよびyが、0.80≦x<0.94、かつ0.01≦y≦4.5の条件を満たす。これにより、製造工程で水溶液を利用でき、低温焼成により作製しても圧電特性を高く維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BNT−BT系圧電セラミックスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧電セラミック素子材料として鉛化合物を含まない圧電磁器組成物が注目され、研究開発が進められている(たとえば、特許文献1、2参照)。このような圧電磁器組成物は鉛化合物を含まないため、自然環境に対して負荷を小さくすることができる。
【0003】
特許文献1記載の圧電セラミックス用焼結助剤は、x(Bi0.5Na0.5TiO)−(1−x)BaTiO(ただし、0<x<1)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とするBNT−BT系圧電セラミックスの製造にあたり、少なくとも酸化ビスマスと酸化亜鉛とを有し、残部が酸化ホウ素からなる。このような成分を有する焼結助剤を添加することで、BNT−BT系圧電セラミックスについて1100℃以下での緻密化を可能にしている。
【0004】
また、特許文献2記載の非鉛系圧電セラミックス用焼結助剤は、x(Bi0.5Na0.5TiO)−y(BaTiO)−z(ZnO)(ただし、x+y+z=1)の組成で表される化合物を主成分とする非鉛系圧電セラミックスの製造に用いられ、少なくとも酸化ビスマスと酸化亜鉛とを有し、残部が酸化ホウ素からなる。これにより、1100℃以下の焼成で、BNT−BT系圧電セラミックスを緻密化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−238376号公報
【特許文献2】特開2009−7181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように酸化ホウ素を含む焼結助剤を添加してBNT−BT系圧電セラミックスを作製する場合には、酸化ホウ素が水に溶けるため、水溶液のバインダを利用することができない。したがって、既存の水溶液用の設備を利用することができず、不経済である。一方、酸化ホウ素を含まない焼結助剤を添加すると、必ずしも低温焼成で圧電特性の高いBNT−BT系圧電セラミックスを作製できない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、製造工程でバインダ等について水溶液を利用でき、低温焼成により作製しても圧電特性を高く維持できるBNT−BT系圧電セラミックスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のBNT−BT系圧電セラミックスは、x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnOで表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、前記主成分に対して、ビスマス/亜鉛の元素比率を0.05以上9以下とする各元素の酸化物からなる焼結助剤が0.1重量%以上4.0重量%以下添加されて焼結し、yを、前記x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiOに対するMnOの外割重量%としたとき、xおよびyが、0.80≦x<0.94、かつ0.01≦y≦4.5の条件を満たすことを特徴としている。
【0009】
このように焼結助剤がビスマスと亜鉛の酸化物からなり、ホウ素を含まないため、シート作製時や粉末作製時に水溶液を使うことができ、有機溶剤を使う際の防爆施設等を不要にできる。また、圧電セラミックスを低温で焼結させることができ、機械電気結合係数を高くすることができる。
【0010】
(2)また、本発明のBNT−BT系圧電セラミックスは、x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnCOで表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、前記主成分に対して、ビスマス/亜鉛の元素比率を0.05以上9以下とする各元素の酸化物からなる焼結助剤が0.1重量%以上4.0重量%以下添加されて焼結し、yを、前記x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiOに対するMnCOの外割重量%としたとき、xおよびyが、0.80≦x<0.94、かつ0.01≦y≦5.9の条件を満たすことを特徴としている。これにより、製造工程で水溶液を利用でき、低温焼成により作製しても圧電特性を高く維持できる。
【0011】
(3)また、本発明のBNT−BT系圧電セラミックスの製造方法は、x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnOで表されるペロブスカイト型化合物を主成分とする仮焼粉末を作製する工程と、前記仮焼粉末に対し、ビスマス/亜鉛の元素比率を0.05以上9以下とする各元素の酸化物からなる焼結助剤を0.1重量%以上4.0重量%以下添加する工程と、前記焼結助剤を添加された仮焼粉末を1100℃以下で焼成する工程と、を含み、yを、前記x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiOに対するMnOの外割重量%としたとき、xおよびyが、0.80≦x<0.94、かつ0.01≦y≦4.5の条件を満たすことを特徴としている。これにより、製造工程で水溶液を利用でき、低温焼成により作製しても圧電特性を高く維持できる。
【0012】
(4)また、本発明のBNT−BT系圧電セラミックスの製造方法は、x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnCOで表されるペロブスカイト型化合物を主成分とする仮焼粉末を作製する工程と、前記仮焼粉末に対し、ビスマス/亜鉛の元素比率を0.05以上9以下とする各元素の酸化物からなる焼結助剤を0.1重量%以上4.0重量%以下添加する工程と、前記焼結助剤を添加された仮焼粉末を1100℃以下で焼成する工程と、を含み、yを、前記x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiOに対するMnCOの外割重量%としたとき、xおよびyが、0.80≦x<0.94、かつ0.01≦y≦5.9の条件を満たすことを特徴としている。これにより、製造工程で水溶液を利用でき、低温焼成により作製しても圧電特性を高く維持できる。
【0013】
(5)また、本発明のBNT−BT系圧電セラミックスの製造方法は、水溶液を用いて前記ペロブスカイト型化合物を主成分とする粉末を粉砕混合、仮焼し、前記仮焼粉末を作製することを特徴としている。このように水溶液を用いて粉砕混合をすることができるため、水系バインダ用の設備を利用しやすく、防爆施設等を不要にでき、コストを低減できる。
【0014】
(6)また、本発明のBNT−BT系圧電セラミックスの製造方法は、前記焼結助剤を添加された仮焼粉末に水溶性バインダを混合する工程を更に含み、前記混合により得られた混合物を用いて得られた成形体を焼成することを特徴としている。このように水溶液のバインダを用いて成形体を作製し、焼成することができるため、水系バインダ用の設備を利用しやすく、防爆施設等を不要にでき、コストを低減できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造工程で水溶液を利用でき、低温焼成により作製しても圧電特性を高く維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】各試料についての温度と比誘電率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、鉛を含まない非鉛の積層型圧電デバイスを作製するためBNT−BT系圧電セラミックスを圧電体層とした積層型圧電デバイスの開発を試みた。その過程において、本発明者は、水溶液を利用し、高い圧電特性を有する積層型圧電デバイスを低温で焼成する要請があることに着目し、マンガンの化合物および特定の焼結助剤を添加して、BNT−BT系圧電セラミックスを作製することを見出した。以下に、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
(BNT−BT系圧電セラミックスの構成)
本発明のBNT−BT系圧電セラミックスとは、x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnOまたはx(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnCOで表されるペロブスカイト型化合物を主成分とする非鉛系圧電セラミックスである。BNT−BT系圧電セラミックスは、上記のような所定の組成を有する母材に焼結助剤(以下、「BZ焼結助剤」という)が添加されて焼結したものである。
【0019】
母材の組成は、x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnOと表したとき、0.80≦x<0.94であり、x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiOに対するMnOの外割重量%であるyが0.01≦y≦4.5の条件を満たす組成である。MnOに代えてMnCOで構成する場合には、外割重量%が0.01≦y≦5.9の条件を満たすのが好適である。
【0020】
BNT−BT系圧電セラミックス等の母材の圧電特性を高く維持しつつ、セラミック部材の焼結温度を低下させるには、反応性の高く融点の低いZnOやBiを添加し、粒界相に液相を作り低温焼結を促進するのが効果的である。たとえば、4価のTiに対し、3価のBiなどの価数の異なるイオンを添加するとTiサイトで置換され、酸素イオンの空孔が生成され、この酸素空孔は焼結中のイオンの拡散を増加させる。この結果として焼結温度が効果的に低下する。
【0021】
本発明で用いられるBZ焼結助剤は、酸化ビスマスと酸化亜鉛とからなり、BNT−BT系圧電セラミックスを緻密化させるのに適している。上記のBZ焼結助剤を上記のBNT−BT系圧電セラミックスの製造工程において圧電セラミックスに添加することで、BNT−BT系圧電セラミックスは1100℃以下の焼成温度で緻密化される。
【0022】
BZ焼結助剤を構成する酸化ビスマスおよび酸化亜鉛の金属組成比は、モル比で、Bi:Znを0.05:0.95から0.1:0.9までの範囲(ビスマス/亜鉛の元素比率が0.05以上9以下)とするのが好ましい。Bi:Znの組成比を緻密化に最も効果のある組成にすることで、BNT−BT系圧電セラミックスについて1100℃以下での緻密化を達成し、かつ高い圧電特性が得られる。
【0023】
(BNT−BT系圧電セラミックスの製造方法)
BZ焼結助剤を用いてBNT−BT系圧電セラミックスを低温焼成で製造する製造方法は以下の通りである。まず、Bi、NaCO、BaTiO、MnO(またはMnCO)の粉末を秤量し、溶媒とともにミルで混合する。そして、混合粉末を乾燥させ、メッシュパスにより造粒する。次いで、粉末を800℃で仮焼し、粉砕する。そして、バインダとともに所定量のBi、ZnOを加え、乾燥、造粒する。このようにして得られた粉末を所望の形状に成形して1100℃で焼成すれば、低温焼成によるBNT−BT系圧電セラミックスの焼結体が得られる。上記のように、MnおよびBZ焼結助剤を加えることで、圧電セラミックスを低温で焼結させることができる。また、Mnを添加することで機械電気結合係数を高くすることができる。なお、Mnの添加は、MnCOまたはMnOのいずれによって行ってもよい。
【0024】
なお、上記の製造工程においては、水溶液を用いてBNT−BT系圧電セラミックスの粉末を粉砕混合、仮焼し、仮焼粉末を作製することが好ましい。また、焼結助剤を添加された仮焼粉末に水溶性バインダを混合し、混合により得られた混合物により形成した成形体を焼成することが好ましい。このように焼結助剤がビスマスと亜鉛の酸化物からなり、ホウ素を含まないため、シート作製時や粉末作製時に水溶液を使うことができ、有機溶剤を使う際の防爆施設等を不要にできる。その結果、製造コストを低減できる。
【実施例】
【0025】
(主成分の組成トレース実験)
十分な圧電特性を有するBNT−BT系圧電セラミックスを得るためには、BZ焼結助剤を添加する母材の組成も目的に適したものである必要がある。組成トレース実験では、BZ焼結助剤を各一定量添加し、組成の異なるBNT−BT系圧電セラミックスを作製した。上記の組成比xは、0.83≦x≦0.89を満たす範囲で適宜選択した。また、MnCOは、上記のyが0.5重量%となる量を添加した。このようにして、主成分の仮焼体を得た。
【0026】
Bi、ZnOの各粉末を混合して助剤混合物を作製した。そして、その助剤混合物を上記のような組成の母材仮焼粉末と混合した。焼結助剤の添加は仮焼後の粉砕時に行った。添加量はBi:Zn=3:4のモル比とし、仮焼粉末に対し外割り重量比で添加した。助剤添加割合は、母材の重量(E)に対する焼結助剤の重量(H)の割合(H/E)である。このようにしてBZを2重量%添加し、成形体を1100℃で焼成した。そして、それぞれの組成の焼結体について、密度、機械電気結合係数、比誘電率を測定した。
【0027】
焼結体の密度は、アルキメデス法により測定した。特性測定においては、各条件で形成されたペレット状の焼結体の両主面に銀ペーストを印刷し、焼成することで電極を形成し、60〜150℃、5〜20分、2〜4kV/mmの条件で、焼結体を厚み方向に分極させた。このように、焼成された試料に電極を設けて分極し、機械結合係数kr等を測定した。
【0028】
表1は、各組成のBNT−BT系圧電セラミックスについて、密度、機械電気結合係数、比誘電率を測定した結果を示す表である。図1に示すように、組成を変えてBNT−BT系圧電セラミックスを作製したところ、ほとんどの組成において機械電気結合係数krが0.11以上という結果が得られ、非鉛圧電材料の機械電気結合係数krとしては十分大きい値が得られた。
【表1】

【0029】
表1に示すいずれの組成のBNT−BT系圧電セラミックスにおいても、密度は5.7kg/m以上、機械電気結合係数krは0.11以上、比誘電率は520以上、誘電損失tanδは0.6以下であり、好ましい圧電特性を有していた。このような結果を踏まえ、上記の範囲内の組成で中央値に近い試料番号3を用いて、助剤添加の有無について実験することとした。
【0030】
(BZ焼結助剤の実験)
BZ焼結助剤が添加された試料として、上記の試料番号3の組成のBNT−BT系圧電セラミックスを用いた。一方、BZ焼結助剤が添加されない成形体を、1200℃、1150℃、1100℃で焼成した。そして、焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、試料番号3の組成を母材とし、焼成温度1200℃、BZ焼結助剤添加量無しの条件で得られたBNT−BT系圧電セラミックスの密度は5.76×10kg/mであった。また、焼成温度1150℃、1100℃のそれぞれでBZ焼結助剤添加量無しの条件で得られたBNT−BT系圧電セラミックスの密度は5.45×10kg/m、5.00×10kg/mであり、緻密化が不十分だった。一方、焼成温度1100℃、でBZ焼結助剤2wt%添加量の条件で得られたBNT−BT系圧電セラミックスの密度は5.77×10kg/mであり、十分に緻密化していた。表2は、各試料の作製条件と特性とをまとめた表である。
【表2】

【0031】
このように試料番号3の組成のBNT−BT系圧電セラミックスについて、BZ焼結助剤の添加量を2重量%以上とすることで焼成温度を1100℃としても緻密な焼結体が得られることが分かった。
【0032】
機械電気結合係数kr、比誘電率ε33T/εの測定を、上記と同様にペレット状の焼結体を生成して行った。実施例1においては、機械電気結合係数は0.11、比誘電率は521であり、いずれも十分に高いことが示された。そして、特に誘電損失tanδは0.5であり、BZ焼結助剤を添加しない試料に比べて格段に優れていることが分かった。
【0033】
表中の「−」は、分極不可能または測定不能だったことを示している。比較例3では、分極が不可能であったが、それ以外の試料はいずれも分極できた。なお、通常の焼結助剤の効果を考慮すると、実際はBZ焼結助剤2重量%以上の添加量で緻密化しているが、0.01重量%以上の添加量でも焼結体は緻密化するものと考えられる。
【0034】
また、BZ焼結助剤を2重量%添加し1100℃で焼成した試料(実施例1)およびBZ焼結助剤を添加せずに1200℃で焼成した試料(比較例1)について、温度と比誘電率との関係を測定した。図1は、各試料についての温度と比誘電率との関係を示すグラフである。図1に示すように、助剤添加のない比較例1のグラフBは150℃付近で変曲点を有しており、温度を上昇させたとき、この温度で圧電特性が失われ始めることが分かる。これに対し、助剤を添加した実施例1のグラフAは、180℃付近に変曲点を有し、助剤を添加しない試料より30℃分広い温度領域において圧電特性が安定していることが分かる。したがって、本発明にかかるBNT−BT系圧電セラミックスは高温特性が向上していることが分かる。
【0035】
以上のように、BNT−BT−Mn系の組成の母材に対して、ビスマス酸化物および亜鉛酸化物からなりホウ素を含まない焼結助剤を添加することによって、BNT−BT系圧電セラミックスの圧電特性を向上させ、キュリー点を上昇させることができ、低温焼結も可能になることが実証された。
【0036】
(積層型圧電デバイス)
なお、BZ焼結助剤を用いて焼結されたBNT−BT系圧電セラミックスは、電極と圧電体層が交互に積層された積層型圧電デバイスに用いられることで、大きな効果が得られる。BNT−BT系圧電セラミックスは、固相焼結が簡便と言う利点があり積層化に適している。積層型圧電デバイスには、たとえば積層型圧電トランスがある。積層型の圧電トランスは、小型で大きい昇圧比が得られるため、液晶ディスプレイのバックライト用等の需要がある。BZ焼結助剤を用いてBNT−BT系圧電セラミックスを圧電体層とする積層型の圧電トランスが実現することで、鉛を含まず、かつ十分な特性を有する積層型の圧電トランスを得ることができる。
【0037】
BZ焼結助剤を用いたBNT−BT系圧電セラミックスの応用例として、BNT−BT系圧電セラミックスを圧電体層とする積層型圧電トランスの製造方法を以下に説明する。まず、Bi、NaCO、BaTiO、TiOおよびMnO(またはMnCO)のそれぞれ適量を配合しボールミル等により均一に混合する。混合後のスラリは乾燥させ、800℃で仮焼する。なお、仮焼温度は800℃以下とするのが好ましい。たとえば、800℃以下とすることにより焼結体の誘電損失が小さくなる。
【0038】
次に、仮焼体を、ボールミル等で粉砕しスラリを乾燥させる。そして、BZ焼結助剤を0.01重量%以上4.0重量%以下の適量を添加し、バインダを混合してグリーンシートを成形する。BZ焼結助剤を添加し、1100℃以下で焼成することで、緻密化したBNT−BT系圧電セラミックスを得ることができる。
【0039】
グリーンシートの作製は、公知の方法、たとえば、ドクターブレード法や押出成形法、カレンダロール法等を用いることができる。グリーンシートの厚みは、たとえば、焼成後に所望の厚みとなるように調整する。こうして作製したグリーンシートを焼成収縮や加工しろを考慮して打ち抜き加工または切り取り加工等し、作製する圧電トランスの短冊状の形状に適合した所定の形状の印刷用シートを得る。印刷用シートにおける長手方向半分の領域に、AgおよびPdを含む内部電極ペーストをスクリーン印刷法等で印刷する。ここで、Ag−Pdの内部電極ペーストの印刷は、たとえば、焼成後に2μm〜5μm程度となるように印刷厚みを調節する。また、形成される内部電極をその後に一層おきに接続することが容易となるように、内部電極ペーストを印刷するパターンを定めておくことが望ましい。
【0040】
次いで、内部電極ペーストが印刷された印刷用シートを位置合わせして所定枚数ほど積層し、こうして積層された印刷用シートどうしを熱プレス等で熱圧着し、一体化する。このように、シートを所定位置に合わせて圧着させたプレス体を型抜きし、成形体を作製する。
【0041】
続いて、所定の温度パターンに従い1100℃以下で成形体を焼成する。得られた焼成体の側面や表面に必要に応じて、研削加工や研磨加工を施して形状を整える。次に、Ag−Pdペースト等を用いて、入力部の内部電極を一層おきに接続して1対の電極を形成し、また、出力部の端面に出力用電極を形成した後、所定の温度で処理してAg−Pdペースト等を焼き付ける。通常、このAg−Pdペースト等の焼き付け処理は焼成温度よりも低い温度で行なう。そして、必要に応じて形成された電極にリード線を取り付ける。得られた焼結体は、分極処理を行なう。入力部に設けられた1対の電極と、出力部の端面に設けられた電極との間に所定の電圧を印加して出力部の分極処理を行い、その後に入力部に設けられた1対の電極間に所定の電圧を印加して入力部の分極処理を行なうことで圧電トランスが作製される。
【0042】
なお、分極処理は、圧電セラミックスのキュリー点より低い所定の温度において、所定時間行われる。このようにして、非鉛のBNT−BT系積層型圧電トランスを製造することができる。このように、BNT−BT系圧電セラミックスからなる圧電体層とAg−Pd等からなる内部電極層とが交互に積層されたプレス体を、一体焼成して非鉛の積層型圧電トランスを製造することができる。
【符号の説明】
【0043】
A 実施例1のグラフ
B 比較例1のグラフ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnOで表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、
前記主成分に対して、ビスマス/亜鉛の元素比率を0.05以上9以下とする各元素の酸化物からなる焼結助剤が0.1重量%以上4.0重量%以下添加されて焼結し、
yを、前記x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiOに対するMnOの外割重量%としたとき、
xおよびyが、0.80≦x<0.94、かつ0.01≦y≦4.5の条件を満たすことを特徴とするBNT−BT系圧電セラミックス。
【請求項2】
x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnCOで表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、
前記主成分に対して、ビスマス/亜鉛の元素比率を0.05以上9以下とする各元素の酸化物からなる焼結助剤が0.1重量%以上4.0重量%以下添加されて焼結し、
yを、前記x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiOに対するMnCOの外割重量%としたとき、
xおよびyが、0.80≦x<0.94、かつ0.01≦y≦5.9の条件を満たすことを特徴とするBNT−BT系圧電セラミックス。
【請求項3】
x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnOで表されるペロブスカイト型化合物を主成分とする仮焼粉末を作製する工程と、
前記仮焼粉末に対し、ビスマス/亜鉛の元素比率を0.05以上9以下とする各元素の酸化物からなる焼結助剤を0.1重量%以上4.0重量%以下添加する工程と、
前記焼結助剤を添加された仮焼粉末を1100℃以下で焼成する工程と、を含み、
yを、前記x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiOに対するMnOの外割重量%としたとき、
xおよびyが、0.80≦x<0.94、かつ0.01≦y≦4.5の条件を満たすことを特徴とするBNT−BT系圧電セラミックスの製造方法。
【請求項4】
x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiO−y(wt%)MnCOで表されるペロブスカイト型化合物を主成分とする仮焼粉末を作製する工程と、
前記仮焼粉末に対し、ビスマス/亜鉛の元素比率を0.05以上9以下とする各元素の酸化物からなる焼結助剤を0.1重量%以上4.5重量%以下添加する工程と、
前記焼結助剤を添加された仮焼粉末を1100℃以下で焼成する工程と、を含み、
yを、前記x(Bi0.5Na0.5)TiO−(1−x)BaTiOに対するMnCOの外割重量%としたとき、
xおよびyが、0.80≦x<0.94、かつ0.01≦y≦5.9の条件を満たすことを特徴とするBNT−BT系圧電セラミックスの製造方法。
【請求項5】
水溶液を用いて前記ペロブスカイト型化合物を主成分とする粉末を粉砕混合、仮焼し、前記仮焼粉末を作製することを特徴とする請求項3または請求項4記載のBNT−BT系圧電セラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記焼結助剤を添加された仮焼粉末に水溶性バインダを混合する工程を更に含み、
前記混合により得られた混合物を用いて得られた成形体を焼成することを特徴とする請求項3から請求項5記載のBNT−BT系圧電セラミックスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−68535(P2011−68535A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222903(P2009−222903)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】