Bi2223超電導線材の製造方法およびBi2223超電導線材
【課題】超電導特性を向上できるBi2223超電導線材の製造方法を提供する。
【解決手段】まず、Bi2212相を主相とし、残部がBi2223相および非超電導相である粉末状の前駆体を金属管に充填することにより、素線を得る(ステップS1)。次に、素線を伸線する(ステップS2)。次に、伸線する工程(ステップS2)後の素線を熱処理する(ステップS5)。次に、素線を熱処理する工程後の素線を圧延することにより、線材を得る(ステップS7)。次に、線材を熱処理する(ステップS8)。素線を熱処理する工程(ステップS5)では、前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中のBi2223相の比率が70%以上になるように、前駆体粉末中のBi2212相をBi2223相へと反応させる。
【解決手段】まず、Bi2212相を主相とし、残部がBi2223相および非超電導相である粉末状の前駆体を金属管に充填することにより、素線を得る(ステップS1)。次に、素線を伸線する(ステップS2)。次に、伸線する工程(ステップS2)後の素線を熱処理する(ステップS5)。次に、素線を熱処理する工程後の素線を圧延することにより、線材を得る(ステップS7)。次に、線材を熱処理する(ステップS8)。素線を熱処理する工程(ステップS5)では、前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中のBi2223相の比率が70%以上になるように、前駆体粉末中のBi2212相をBi2223相へと反応させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はBi2223超電導線材の製造方法およびBi2223超電導線材に関し、たとえば超電導特性を向上できるBi2223超電導線材の製造方法およびBi2223超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物の焼結体が高い臨界温度で超電導特性を示すことが報告され、この超電導体を利用して超電導技術の実用化が促進されている。Bi2223超電導線材は、比較的安価で入手できる液体窒素等の冷却下でも高い臨界電流値を示す有用な線材である。
【0003】
このようなBi2223超電導線材の製造方法は、たとえば特開2007−26773号公報(特許文献1)および特表平11−506866号公報(特許文献2)に記載されている。具体的には、まず、Bi2212相を主成分とする前駆体粉末を金属管に充填した後に、伸線加工して単芯材を形成する。その後に、単芯材を複数束ねて金属管に挿入し、伸線加工して多芯構造の多芯材を形成する。その多芯材を1次圧延して、テープ状線材を形成する。続いて、テープ状線材の熱処理を行ない、Bi2212相をBi2223相に相変態させて1次線材を得る。次に、1次線材を2次圧延した後に、2回目の熱処理を行ない、Bi2223超電導線材を製造している。
【特許文献1】特開2007−26773号公報
【特許文献2】特表平11−506866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1および2のBi2223超電導線材の製造方法では、2回目の熱処理後においてBi2223相の粉末同士の接続が不十分の場合があり、超電導特性に向上の余地がある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、超電導特性を向上できるBi2223超電導線材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、Bi2223超電導線材の製造方法において臨界電流密度を向上するために、超電導相からなる結晶の配向化を向上させることに着目して、鋭意研究した結果、圧延する工程の前に結晶を大きくすることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明のBi2223超電導線材は、以下の工程を実施する。まず、Bi2212相を主相とし、残部がBi2223相および非超電導相である粉末状の前駆体を金属管に充填することにより、素線を得る。次に、素線を伸線する。次に、伸線する工程後の素線を熱処理する。次に、素線を熱処理する工程後の素線を圧延することにより、線材を得る。次に、線材を熱処理する。素線を熱処理する工程では、前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中のBi2223相の比率が70%以上になるように、前駆体粉末中のBi2212相をBi2223相へと反応させる。
【0008】
本発明によれば、素線を熱処理する工程により、Bi2212相より粒径の大きなBi2223相に相変態させることができる。そのため、その後に圧延する工程を実施することにより、Bi2223相を含む結晶をa−b面(CuOの結晶面)方向へ倒しやすいので、a−b面方向への配向を向上させることができる。また、Bi2223相に相変態させた後の圧延する工程での加工度((素線を熱処理する工程後の素線の厚み−圧延した後の線材の厚み)/(素線を熱処理する工程後の素線の厚み))が大きい。そのため、線材を熱処理する工程では、大きな加工度でかつ高配向させた状態で熱処理をするので、前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中の結晶同士の接合が良好である。よって、電流が流れやすくなるので、臨界電流密度等の超電導特性を向上できる。
【0009】
なお、上記「Bi2212相」とは、ビスマスとストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)としてビスマス(Bi):ストロンチウム(Sr):カルシウム(Ca):銅(Cu)が2:2:1:2と近似して表される酸化物超電導相、およびビスマスおよび鉛とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)としてビスマスおよび鉛(Bi+Pb):ストロンチウム(Sr):カルシウム(Ca):銅(Cu)が2:2:1:2と近似して表される酸化物超電導相のことである。より具体的には、Bi2Sr2CaCu2O8+δおよび(BiPb)2Sr2Ca1Cu2O8+δ(δは0.1に近い数)という化学式で示されるものが含まれる。
【0010】
また、上記「Bi2223相」とは、ビスマスと鉛とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)として(ビスマス+鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:2:3と近似して表される酸化物超電導相のことである。より具体的には、(BiPb)2Sr2Ca2Cu3O10+δ(δは0.1に近い数)という化学式で示されるものが含まれる。
【0011】
また、上記「Bi2223相の比率」とは、X線回折θ/2θスキャン法によって同定されたBi2212(0.0.12)のピーク強度I2212とBi2223(0.0.14)のピーク強度I2223とから(式1)にしたがって算出される値である。
Bi2223の比率=I2223/(I2223+I2212)×100・・・(式1)
【0012】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、素線を熱処理する工程におけるBi2223相の比率が80%である。
【0013】
これにより、圧延する工程で結晶をより配向させることができるので、超電導特性をより向上できる。
【0014】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、素線を熱処理する工程と線材を得る工程との間に、素線を熱処理する工程後の素線を、縮径率が5%以下になるように伸線する工程をさらに備えている。
【0015】
これにより、Bi2223相を含む超電導体の密度の均一性を向上できるので、その後の圧延する工程で超電導体の形状が乱れることを抑制できるので、配向をより向上できる。また、縮径率を5%以下とすることによって、Bi2223相を含む超電導体の変形度が金属管の塑性変形度よりも上回る。そのため、伸線する工程中に断線を引き起こすことを防止できる。
【0016】
なお、上記「縮径率」とは、以下の(式2)にしたがって算出される値を意味する。
縮径率=(熱処理された素線を伸線する前の素線の径−熱処理された素線を伸線した後の素線の径)/(熱処理された素線を伸線する前の素線の径)×100・・・(式2)
【0017】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、線材を得る工程では、線材中の超電導体を構成する部分の相対密度が90%以上になるように圧延を行なう。
【0018】
これにより、線材を熱処理する工程時に密度を向上できるので、Bi2223相の結晶粒の接合を向上できる。そのため、超電導特性をより向上できる。
【0019】
なお、上記「線材中の超電導体を構成する部分の相対密度」とは、線材を得る工程後の線材において超電導体を構成する部分の密度をアルキメデス法により求め、以下の(式3)にしたがって算出される値を意味する。
相対密度=(線材中の超電導体を構成する部分の密度)/Bi2223相の理論密度(6.3g/cm3)×100・・・(式3)
【0020】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、線材を熱処理する工程では、加圧しながら熱処理を行なう。これにより、Bi2223相を含む結晶同士の接合をより高めることができる。
【0021】
本発明のBi2223超電導線材は、上記Bi2223超電導線材の製造方法により製造される。これにより、超電導特性を向上したBi2223超電導線材が得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のBi2223超電導線材の製造方法およびBi2223超電導線材によれば、超電導特性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法により製造されたBi2223超電導線材を示す概略斜視図である。図1を参照して、本実施の形態におけるBi2223超電導線材を説明する。図1に示すように、本実施の形態におけるBi2223超電導線材1は、長手方向に延びる複数本の超電導体であるフィラメント2と、それらを被覆するシース部3とを備えている。複数本のフィラメント2の各々の材質は、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表わされるBi2223相を主相とし、残部がBi2212相および不可避的不純物からなる。シース部3の材質は、たとえば銀や銀合金などの金属よりなっている。なお、主相とは、フィラメント2においてBi2223相が60%以上含まれていることを意味する。また、フィラメント2は複数に特に限定されず、単芯構造であってもよい。
【0025】
本実施の形態のBi2223超電導線材1において、Bi2223相よりなる超電導結晶のXRDロッキングカーブで測定された(0.0.14)ピークのFWHM(Full Width at Haf Maximum:半波高全幅値)が10°以下であり、好ましくは9.4°以下である。なお、FWHMとは、XRDロッキングカーブで測定された(0.0.14)ピークの半価幅を意味し、面内配向性を示す指標となる。FWHMは、超電導線材1の延びる方向(超電導線材1に電流が流れる方向)に対するBi2223相からなる超電導結晶の延びる方向の傾角である。FWHMの値が小さいほど面内での配向性が良好であることを示す。
【0026】
続いて、図1〜図8を参照して、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法について説明する。なお、図2は、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。図3〜図8は、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法を説明するための概略図である。
【0027】
まず、図2および図3に示すように、Bi2212相((BiPb)2Sr2Ca1Cu2O8+δまたはBi2Sr2Ca1Cu2O8+δ)を主相とし、残部がBi2223相((BiPb)2Sr2Ca2Cu3O10+δ)および非超電導相である前駆体粉末11を金属管12に充填することにより、素線13を得る(ステップS1)。なお、主相とは、前駆体粉末11においてBi2212相が60%以上含まれていることを意味する。また、非超電導相とは、たとえば(Ca,Sr)CuO2、(Ca,Sr)2CuO3および(Ca,Sr)14Cu24O41等のアルカリ土類酸化物や、Ca2PbO4および(Bi,Pb)3Sr2Ca2Cu1Oz等のPb酸化物などが例示される。
【0028】
具体的には、原料粉末としてBi、Pb、Sr、CaおよびCuを用い、たとえばBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.7:0.4:1.9:2.0:3.0の組成比になるように原料粉末を混合する。これに700℃〜860℃程度の熱処理を複数回施し、相対的に多量のBi2212相、相対的に少量のBi2223相、および非超電導相から構成される前駆体粉末11を準備する。前駆体粉末は、たとえば金属硝酸塩水溶液の粒子の水分を蒸発させて、硝酸塩の熱分解、金属酸化物同士の反応および合成を瞬時に起こさせる噴霧熱分解法などにより作製される。そして、銀などからなる金属管12を準備する。その後、たとえば供給部材101を用い、前駆体粉末11の自重を利用して、前駆体粉末11を金属管12に充填する。また、前駆体粉末11を金属管12に充填した後に、加熱および加圧などを行なってもよい。
【0029】
なお、金属管12は、銀や銀合金などからなることが好ましい。これにより、前駆体粉末11と金属管12とが反応して化合物を形成することにより、前駆体粉末11の組成ずれを防止できる。
【0030】
次に、図2および図4に示すように、素線13を伸線する(ステップS2)。具体的には、伸線機102を用いて、素線13の径を細くし、かつ長さを伸ばす伸線加工をする。この伸線加工では、ステップS1で前駆体粉末11が充填された金属管の直径が、たとえば1/10〜1/100程度の縮径変形を受ける。これにより、前駆体粉末11を芯材として金属管12で被覆された、断面形状が円形または多角形状の単芯線14が作製される。
【0031】
次に、図2および図5に示すように、この単芯線14を多数束ねて、たとえば銀などの金属よりなる金属管15内に嵌合する(多芯嵌合:ステップS3)。これにより、前駆体粉末11を芯材として多数有する多芯線16が得られる。なお、この工程は省略されてもよい。
【0032】
次に、図2および図6に示すように、多芯線16を伸線する(ステップS4)。具体的には、伸線機103を用いて、多芯線16から伸線された多芯線16aに加工する。なお、この工程は省略されてもよい。
【0033】
次に、図2に示すように、伸線する工程(ステップS2〜S4)後の素線(単芯線14または多芯線16a)を熱処理する(1次熱処理:ステップS5)。ステップS5では、前駆体粉末11を熱処理することにより得られた材料17(図7参照)中のBi2223相の比率が70%以上、好ましくは80%になるように、前駆体粉末11中のBi2212相をBi2223相へと反応させる。これにより、Bi2223相の比率が70%以上になった材料17を芯材として多数有する多芯線18が得られる(図6参照)。
【0034】
具体的には、ステップS5では、1次熱処理は、大気圧下または加圧雰囲気下で、温度が820℃〜840℃、時間が30時間〜50時間、酸素を含有する雰囲気で、多芯線16aに1次熱処理を行なうことが好ましい。これにより、前駆体粉末11中のBi2212相の結晶が粒径の大きなBi2223相の結晶へ相変態する。
【0035】
1次熱処理(ステップS5)では、結晶のc軸に垂直な方向の大きさ(板状結晶の幅)の平均値が30μm以上になるように熱処理を行なうことが好ましい。本発明者は鋭意研究の結果、Bi2212相からなる結晶のc軸に垂直な方向の大きさは10μm程度であったのに対し、Bi2223相からなる結晶のc軸に垂直な方向の大きさを30μm程度まで結晶成長することができた。そのため、後述するように熱処理されたの素線(多芯線18,19)を圧延する(ステップS7)と配向ずれを低減できる。
【0036】
なお、上記「c軸に垂直な方向の大きさ」とは、以下のように測定される値である。具体的には、1次熱処理(ステップS5)後の多芯線18における金属管12内の各結晶は、a−b面方向と多芯線18の延在する方向(長手方向)とがほぼ平行になるように存在している。このような多芯線18において、長手方向に垂直な断面を観察すると、各結晶の側面(a−c面、b−c面またはab−c面)が見られる。この側面における長い方の一辺を測定する。実際の結晶は見えている側面より長い場合もあるが、少なくとも断面に表れている長さを有していることから、この長さを各結晶のc軸に垂直な方向の大きさとする。また、「c軸に垂直な方向の大きさの平均値」とは、a−b面に平行な断面の200μm四方の視野において、各結晶のc軸に垂直な方向の大きさを測定し、25視野採って測定したときのc軸に垂直な方向の大きさを意味する。
【0037】
次に、図2および図7に示すように、熱処理された素線(多芯線18)を、縮径率が5%以下になるように伸線する(2次伸線:ステップS6)。これにより、材料17中のBi2223相を含む超電導体の密度の均一性を向上できるので、形状乱れが抑制された多芯線19が得られる。なお、この工程は省略されてもよい。
【0038】
具体的には、図7に示すように、伸線機104を用いて、多芯線18を縮径率が5%以下になるように、好ましくは2%以下になるように伸線加工する。縮径率が5%以下の場合には、Bi2223相の粉砕等を防止でき、Bi2223相の大きな粒径を維持できる。また、Bi2223相を含む超電導体の変形度が金属管12の塑性変形度よりも上回るので、2次伸線(ステップS6)中に断線を引き起こすことを防止できる。縮径率が2%以下の場合には、Bi2223相の大きな粒径を効果的に維持できる。
【0039】
なお、上記「縮径率」とは、上記の(式2)にしたがって算出される値であり、本実施の形態では下記の式により算出される。
縮径率=(5%以下となるように伸線する工程(ステップS6)前の素線の径−5%以下となるように伸線する工程(ステップS6)後の素線の径)/(5%以下となるように伸線する工程(ステップS6)前の素線の径)×100
【0040】
次に、図2および図8に示すように、熱処理工程(ステップS4)後の素線(多芯線19)を圧延することにより、線材20を得る(ステップS7)。具体的には、図8に示すように、多芯線19の長手方向と垂直になる方向から2つの圧延部材105で挟み込むようにして、多芯線19に圧力を加えて、テープ状の線材20に形成する。この際、線材20中の超電導体を構成する部分の相対密度が90%以上、好ましくは92%以上になるように圧延を行なうことが好ましい。
【0041】
次に、図2に示すように、線材20を熱処理する(2次熱処理:ステップS8)。これにより、図1に示すフィラメント2と、フィラメント2を被覆するシース部3とを備えたBi2223超電導線材1が得られる。
【0042】
具体的には、大気圧下または加圧雰囲気下で、温度が820℃〜840℃、時間が30時間〜50時間、酸素を含有する雰囲気で2次熱処理を行なうことが好ましい。特に、30MPa以上の加圧雰囲気下で2次熱処理を行なうことが好ましい。2次熱処理を行なうことによって、1次熱処理(ステップS5)でBi2223相に反応しなかったBi2212相をBi2223相に相変態させる。また、Bi2223相を含む結晶を一体化させて、Bi2223相を含む結晶同士の接合を高める。
【0043】
なお、2次熱処理(ステップS8)および圧延(ステップS7)を線材20に複数回施してもよい。また、本実施の形態では、多芯構造のBi2223超電導線材1を製造する方法を説明したが、単芯構造であってもよい。単芯構造のBi2223超電導線材を製造する場合には、多芯嵌合(ステップS3)および多芯線の伸線(ステップS4)が省略される。
【0044】
次に、図2および図9〜図14を参照して、本発明のBi2223超電導線材の製造方法による効果を説明する。図9〜図14は、本発明の実施の形態における各工程時の金属管12内の状態を示す概略模式図である。図9〜図14において、前駆体粉末を構成する結晶(粒子)およびフィラメントとなる結晶(粒子)は、理論密度で充填されず隙間を省略して図示している。
【0045】
ステップS2またはステップS3後の多芯線16における前駆体粉末11には、図9に示すように、平板状のBi2212相が主相の粒径の小さい結晶11aが存在している。なお、結晶11aは、単結晶あるいは多結晶を意味し、Bi2212相のみからなる場合と、Bi2212相を主相とし、残部にBi2212相以外の相を含む場合とを含む。
【0046】
ステップS4で多芯線16を伸線すると、図10に示すように、伸線加工された後の前駆体粉末11には、伸線により結晶の少なくとも一部が砕けてその結晶11aの大きさがさらに小さくなっている。
【0047】
ステップS5で熱処理を行なうと、1次熱処理された素線(多芯線18)における材料17において、Bi2212相が反応してBi2223相が70%以上を占める。図11に示すように、材料17においてBi2223相が70%以上を占める結晶17aは、Bi2212相を含む結晶11aよりも粒径が大きい。なお、結晶17aは、単結晶あるいは多結晶を意味し、Bi2223相のみからなる場合と、Bi2223相を主相とし、残部にBi2223相以外の相を含む場合とを含む。
【0048】
ステップS6で1次熱処理された素線を伸線すると、図12に示すように、ステップS6後の多芯線19における材料17中の結晶17aの形状が整えられるとともに、結晶17aの密度の均一性を向上できる。
【0049】
ステップS7で長手方向に垂直になるように、多芯線19に外力を加えて圧延すると、図13に示すように、材料17中のBi2223相を含む結晶17aが倒れて、結晶17aがa−b面方向に配向する。
【0050】
ステップS8で線材20を2次熱処理すると、図14に示すように、2次熱処理されたBi2223超電導線材1のフィラメント(材料17)中の結晶17aが一体化されて、結晶17a同士の接合が高められる。
【0051】
図15は、従来の方法である、素線を伸線した後に熱処理をせずに圧延する工程後の金属管内を示す模式図である。図15に示すように、従来のBi2223超電導線材の製造方法では、図10に示す多芯線の伸線後に圧延した場合には、図15に示すように、a−b面方向に結晶が倒れにくく、a−b面方向への配向が起こり難い。また、圧延した後にBi2223相に相変態させると、結晶が大きくなるので、Bi2223相を含む結晶間に隙間が生じる。そのため、2次熱処理(ステップS8)を実施してもBi2223相を含む結晶を十分に接合できない。
【0052】
以上説明したように、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法によれば、前駆体粉末11を熱処理することにより得られた材料17中のBi2223相の比率が70%以上になるように、前駆体粉末11中のBi2212相をBi2223相へと反応させる1次熱処理(ステップS5)の後に、圧延(ステップS7)をしている。素線を熱処理する(ステップS5)ことにより、Bi2212相より粒径の大きなBi2223相に相変態させることができる。そのため、1次熱処理(ステップS5)後に圧延する(ステップS7)ことにより、Bi2223相を含む超電導結晶をa−b面方向へ倒しやすいので、a−b面方向への配向性を向上させることができる。また、Bi2223相に相変態させた後の圧延する工程での加工度((素線を熱処理した(ステップS5)後の素線(多芯線18)の厚み−圧延した(ステップS7)後の線材20の厚み)/(素線を熱処理した(ステップS5)後の素線(多芯線18)の厚み))が大きい。そのため、線材を熱処理する工程(ステップS8)では、高配向させた状態でかつ大きな加工度で熱処理をするので、前駆体粉末11を熱処理することにより得られた材料17中のBi2223相を含む超電導結晶同士の接合が良好である。よって、電流を流しやすくできるので、臨界電流密度等の超電導特性を向上できる。
【0053】
[実施例]
本実施例では、素線を熱処理した(ステップS5)後に圧延する(ステップS7)ことの効果について調べた。
【0054】
(実施例1〜9)
実施例1〜9のBi2223超電導線材は、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法に従って製造した。なお、下記の表1に示す工程において、左から工程順を記載し、実施した工程に○を記載している。
【0055】
具体的には、Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuOをBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.8:0.3:2:2:3の比率になるように混合した原料粉末を、大気中で700℃で8時間の熱処理、粉砕、800℃で10時間の熱処理、粉砕、820℃で4時間の熱処理、粉砕を施して、前駆体粉末11を作製した。前駆体粉末11は、Bi2212が主相の粉末であった。そして、外径25mm、内径22mmの銀からなる金属管12に前駆体粉末11を充填した(ステップS1)。
【0056】
次に、前駆体粉末11を内部に充填した金属管12(素線13)を伸線加工して、直径2.4mmの単芯線を作製した(ステップS2)。次に、この単芯線を55本束ねて、外径が25mm、内径が22mmの銀からなる金属管15内に嵌合して多芯線16を得た(ステップS3)。
【0057】
次に、多芯線16を大気中830℃で表1に記載の温度で熱処理を行なった(ステップS5)。前駆体粉末11を熱処理することにより得られた材料17中のBi2223相の比率をそれぞれ表1に記載する。
【0058】
次に、熱処理された多芯線16を、表1に記載の縮径率で伸線した(ステップS6)。次に、多芯線19中の超電導体を構成する部分の相対密度を表1に記載の相対密度となるように圧延することにより、線材20を得た(ステップS7)。圧延後の線材20の厚みは、0.23mmであった。
【0059】
次に、線材20を、830℃で50時間、酸素分圧が8kPaで全圧が30MPaの条件で熱処理を行なった(ステップS8)。以上の工程を実施することによって、実施例1〜9のBi2223超電導線材1を製造した。
【0060】
(比較例1)
比較例1は、基本的には実施例4のBi2223超電導線材の製造方法と同様に実施したが、製造する工程の順序が異なる。
【0061】
具体的には、実施例4と同様に前駆体粉末11を金属管12に充填し(ステップS1)、単芯線の伸線(ステップS2)、多芯嵌合(ステップS3)を行なった。その後、多芯線16を厚みが0.25mmになるように圧延し、実施例4と同様に30時間の熱処理を行なった(ステップS5)。前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中のBi2223相の比率は90%であった。
【0062】
次に、Bi2223相の比率が90%の線材を再度圧延した。圧延した結果、線材中の超電導体を構成する部分の相対密度は75%であった。再度圧延した後の線材の厚みは0.23mmであった。
【0063】
次に、実施例1〜9と同様に2次熱処理を行なった(ステップS8)。これにより、比較例1のBi2223超電導線材を製造した。
【0064】
【表1】
【0065】
(測定方法)
実施例1〜9および比較例1のBi2223超電導線材についてロッキングカーブ半価幅および臨界電流値Icを測定した。その結果を表2に示す。
【0066】
ロッキングカーブ半価幅は、Bi2223相よりなる超電導結晶のXRDロッキングカーブで測定された(0.0.14)ピークのFWHMを測定することにより求めた。なお、FWHMは、Bi2223相からなる超電導結晶のa−b面方向が、Bi2223超電導線材の延びる方向(Bi2223超電導線材に電流が流れる方向)に対する傾角を反映する値であり、超電導結晶の配向性を示す指標となる。FWHMの値が小さいほど各超電導結晶のa−b面が良好に配向していることを示す。
【0067】
また、臨界電流値は、温度が77Kで、自己磁場中において、臨界電流値を測定した。臨界電流値は、10-6V/cmの電界が発生したときの通電電流値とした。
【0068】
【表2】
【0069】
(測定結果)
表2に示すように、実施例1〜9のBi2223超電導線材の製造方法により得られたBi2223超電導線材は、比較例1のBi2223超電導線材よりも臨界電流値Icが高かった。これは、配向させるための圧延前に結晶を大きくしたこと、および大きな加工度で圧延したことによると考えられる。なお、1次熱処理によりBi2223相に相変態させた後の加工度は、実施例1〜9では、外径が25mmから厚み0.23mmまで加工したので、加工度は99%(=(25−0.23)/25×100)であった。一方、比較例1では、8%(=(0.25−0.23)/0.25×100)であった。そのため、実施例1〜9は、比較例1と比較して、加工度が大幅に高かった。
【0070】
また、実施例1〜9のBi2223超電導線材の製造方法により得られたBi2223超電導線材は、比較例1のBi2223超電導線材よりもロッキングカーブ半価幅を向上できた。特に、前駆体粉末を熱処理する(ステップS5)ことにより得られた材料中のBi2223相の比率が80%以上で、縮径率が5%以下となるように伸線し(ステップS6)、線材中の超電導体を構成する部分の相対密度が90%以上になるように圧延した(ステップS7)実施例3〜5および9のBi2223超電導線材は、ロッキングカーブ半価幅が10°以下で、臨界電流値Icが220Aを越えた非常に良好な超電導特性を有していた。
【0071】
以上より、本実施例によれば、前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中のBi2223相の比率が70%以上になるように、前駆体粉末中のBi2212相をBi2223相へと反応させる素線を熱処理した(ステップS6)後に圧延する(ステップS7)ことによって、超電導特性を向上できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のBi2223超電導線材の製造方法により製造されるBi2223超電導線材は、超電導特性を向上できる。そのため、本発明のBi2223超電導線材の製造方法により製造されるBi2223超電導線材は、たとえば超電導ケーブル、超電導変圧器、超電導限流器、および電力貯蔵装置などの超電導機器に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法により製造されたBi2223超電導線材を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における素線を得る工程を示す概略斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態における素線を伸線する工程を示す概略斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態における多芯嵌合する工程を示す概略斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態における多芯線の伸線をする工程を示す概略斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態における熱処理された素線の伸線をする工程を示す概略斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態における線材を得る工程を示す概略斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態における素線を得る工程後の金属管内を示す模式図である。
【図10】本発明の実施の形態における伸線する工程後の金属管内を示す模式図である。
【図11】本発明の実施の形態における素線を熱処理する工程後の金属管内を示す模式図である。
【図12】本発明の実施の形態における5%以内になるように伸線する工程後の金属管内を示す模式図である。
【図13】本発明の実施の形態における圧延する工程後の金属管内を示す模式図である。
【図14】本発明の実施の形態における線材を熱処理する工程後の金属管内を示す模式図である。
【図15】従来の方法である、素線を伸線した後に圧延する工程後の金属管内を示す模式図である。
【符号の説明】
【0074】
1 超電導線材、2 フィラメント、3 シース部、11 前駆体粉末、11a,17a 結晶、12,15 金属管、13 素線、14 単芯線、16,16a,18,19 多芯線、17 材料、20 線材、101 供給部材、102〜104 伸線機、105 圧延部材。
【技術分野】
【0001】
本発明はBi2223超電導線材の製造方法およびBi2223超電導線材に関し、たとえば超電導特性を向上できるBi2223超電導線材の製造方法およびBi2223超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物の焼結体が高い臨界温度で超電導特性を示すことが報告され、この超電導体を利用して超電導技術の実用化が促進されている。Bi2223超電導線材は、比較的安価で入手できる液体窒素等の冷却下でも高い臨界電流値を示す有用な線材である。
【0003】
このようなBi2223超電導線材の製造方法は、たとえば特開2007−26773号公報(特許文献1)および特表平11−506866号公報(特許文献2)に記載されている。具体的には、まず、Bi2212相を主成分とする前駆体粉末を金属管に充填した後に、伸線加工して単芯材を形成する。その後に、単芯材を複数束ねて金属管に挿入し、伸線加工して多芯構造の多芯材を形成する。その多芯材を1次圧延して、テープ状線材を形成する。続いて、テープ状線材の熱処理を行ない、Bi2212相をBi2223相に相変態させて1次線材を得る。次に、1次線材を2次圧延した後に、2回目の熱処理を行ない、Bi2223超電導線材を製造している。
【特許文献1】特開2007−26773号公報
【特許文献2】特表平11−506866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1および2のBi2223超電導線材の製造方法では、2回目の熱処理後においてBi2223相の粉末同士の接続が不十分の場合があり、超電導特性に向上の余地がある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、超電導特性を向上できるBi2223超電導線材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、Bi2223超電導線材の製造方法において臨界電流密度を向上するために、超電導相からなる結晶の配向化を向上させることに着目して、鋭意研究した結果、圧延する工程の前に結晶を大きくすることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明のBi2223超電導線材は、以下の工程を実施する。まず、Bi2212相を主相とし、残部がBi2223相および非超電導相である粉末状の前駆体を金属管に充填することにより、素線を得る。次に、素線を伸線する。次に、伸線する工程後の素線を熱処理する。次に、素線を熱処理する工程後の素線を圧延することにより、線材を得る。次に、線材を熱処理する。素線を熱処理する工程では、前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中のBi2223相の比率が70%以上になるように、前駆体粉末中のBi2212相をBi2223相へと反応させる。
【0008】
本発明によれば、素線を熱処理する工程により、Bi2212相より粒径の大きなBi2223相に相変態させることができる。そのため、その後に圧延する工程を実施することにより、Bi2223相を含む結晶をa−b面(CuOの結晶面)方向へ倒しやすいので、a−b面方向への配向を向上させることができる。また、Bi2223相に相変態させた後の圧延する工程での加工度((素線を熱処理する工程後の素線の厚み−圧延した後の線材の厚み)/(素線を熱処理する工程後の素線の厚み))が大きい。そのため、線材を熱処理する工程では、大きな加工度でかつ高配向させた状態で熱処理をするので、前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中の結晶同士の接合が良好である。よって、電流が流れやすくなるので、臨界電流密度等の超電導特性を向上できる。
【0009】
なお、上記「Bi2212相」とは、ビスマスとストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)としてビスマス(Bi):ストロンチウム(Sr):カルシウム(Ca):銅(Cu)が2:2:1:2と近似して表される酸化物超電導相、およびビスマスおよび鉛とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)としてビスマスおよび鉛(Bi+Pb):ストロンチウム(Sr):カルシウム(Ca):銅(Cu)が2:2:1:2と近似して表される酸化物超電導相のことである。より具体的には、Bi2Sr2CaCu2O8+δおよび(BiPb)2Sr2Ca1Cu2O8+δ(δは0.1に近い数)という化学式で示されるものが含まれる。
【0010】
また、上記「Bi2223相」とは、ビスマスと鉛とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)として(ビスマス+鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:2:3と近似して表される酸化物超電導相のことである。より具体的には、(BiPb)2Sr2Ca2Cu3O10+δ(δは0.1に近い数)という化学式で示されるものが含まれる。
【0011】
また、上記「Bi2223相の比率」とは、X線回折θ/2θスキャン法によって同定されたBi2212(0.0.12)のピーク強度I2212とBi2223(0.0.14)のピーク強度I2223とから(式1)にしたがって算出される値である。
Bi2223の比率=I2223/(I2223+I2212)×100・・・(式1)
【0012】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、素線を熱処理する工程におけるBi2223相の比率が80%である。
【0013】
これにより、圧延する工程で結晶をより配向させることができるので、超電導特性をより向上できる。
【0014】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、素線を熱処理する工程と線材を得る工程との間に、素線を熱処理する工程後の素線を、縮径率が5%以下になるように伸線する工程をさらに備えている。
【0015】
これにより、Bi2223相を含む超電導体の密度の均一性を向上できるので、その後の圧延する工程で超電導体の形状が乱れることを抑制できるので、配向をより向上できる。また、縮径率を5%以下とすることによって、Bi2223相を含む超電導体の変形度が金属管の塑性変形度よりも上回る。そのため、伸線する工程中に断線を引き起こすことを防止できる。
【0016】
なお、上記「縮径率」とは、以下の(式2)にしたがって算出される値を意味する。
縮径率=(熱処理された素線を伸線する前の素線の径−熱処理された素線を伸線した後の素線の径)/(熱処理された素線を伸線する前の素線の径)×100・・・(式2)
【0017】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、線材を得る工程では、線材中の超電導体を構成する部分の相対密度が90%以上になるように圧延を行なう。
【0018】
これにより、線材を熱処理する工程時に密度を向上できるので、Bi2223相の結晶粒の接合を向上できる。そのため、超電導特性をより向上できる。
【0019】
なお、上記「線材中の超電導体を構成する部分の相対密度」とは、線材を得る工程後の線材において超電導体を構成する部分の密度をアルキメデス法により求め、以下の(式3)にしたがって算出される値を意味する。
相対密度=(線材中の超電導体を構成する部分の密度)/Bi2223相の理論密度(6.3g/cm3)×100・・・(式3)
【0020】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、線材を熱処理する工程では、加圧しながら熱処理を行なう。これにより、Bi2223相を含む結晶同士の接合をより高めることができる。
【0021】
本発明のBi2223超電導線材は、上記Bi2223超電導線材の製造方法により製造される。これにより、超電導特性を向上したBi2223超電導線材が得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のBi2223超電導線材の製造方法およびBi2223超電導線材によれば、超電導特性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法により製造されたBi2223超電導線材を示す概略斜視図である。図1を参照して、本実施の形態におけるBi2223超電導線材を説明する。図1に示すように、本実施の形態におけるBi2223超電導線材1は、長手方向に延びる複数本の超電導体であるフィラメント2と、それらを被覆するシース部3とを備えている。複数本のフィラメント2の各々の材質は、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表わされるBi2223相を主相とし、残部がBi2212相および不可避的不純物からなる。シース部3の材質は、たとえば銀や銀合金などの金属よりなっている。なお、主相とは、フィラメント2においてBi2223相が60%以上含まれていることを意味する。また、フィラメント2は複数に特に限定されず、単芯構造であってもよい。
【0025】
本実施の形態のBi2223超電導線材1において、Bi2223相よりなる超電導結晶のXRDロッキングカーブで測定された(0.0.14)ピークのFWHM(Full Width at Haf Maximum:半波高全幅値)が10°以下であり、好ましくは9.4°以下である。なお、FWHMとは、XRDロッキングカーブで測定された(0.0.14)ピークの半価幅を意味し、面内配向性を示す指標となる。FWHMは、超電導線材1の延びる方向(超電導線材1に電流が流れる方向)に対するBi2223相からなる超電導結晶の延びる方向の傾角である。FWHMの値が小さいほど面内での配向性が良好であることを示す。
【0026】
続いて、図1〜図8を参照して、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法について説明する。なお、図2は、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。図3〜図8は、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法を説明するための概略図である。
【0027】
まず、図2および図3に示すように、Bi2212相((BiPb)2Sr2Ca1Cu2O8+δまたはBi2Sr2Ca1Cu2O8+δ)を主相とし、残部がBi2223相((BiPb)2Sr2Ca2Cu3O10+δ)および非超電導相である前駆体粉末11を金属管12に充填することにより、素線13を得る(ステップS1)。なお、主相とは、前駆体粉末11においてBi2212相が60%以上含まれていることを意味する。また、非超電導相とは、たとえば(Ca,Sr)CuO2、(Ca,Sr)2CuO3および(Ca,Sr)14Cu24O41等のアルカリ土類酸化物や、Ca2PbO4および(Bi,Pb)3Sr2Ca2Cu1Oz等のPb酸化物などが例示される。
【0028】
具体的には、原料粉末としてBi、Pb、Sr、CaおよびCuを用い、たとえばBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.7:0.4:1.9:2.0:3.0の組成比になるように原料粉末を混合する。これに700℃〜860℃程度の熱処理を複数回施し、相対的に多量のBi2212相、相対的に少量のBi2223相、および非超電導相から構成される前駆体粉末11を準備する。前駆体粉末は、たとえば金属硝酸塩水溶液の粒子の水分を蒸発させて、硝酸塩の熱分解、金属酸化物同士の反応および合成を瞬時に起こさせる噴霧熱分解法などにより作製される。そして、銀などからなる金属管12を準備する。その後、たとえば供給部材101を用い、前駆体粉末11の自重を利用して、前駆体粉末11を金属管12に充填する。また、前駆体粉末11を金属管12に充填した後に、加熱および加圧などを行なってもよい。
【0029】
なお、金属管12は、銀や銀合金などからなることが好ましい。これにより、前駆体粉末11と金属管12とが反応して化合物を形成することにより、前駆体粉末11の組成ずれを防止できる。
【0030】
次に、図2および図4に示すように、素線13を伸線する(ステップS2)。具体的には、伸線機102を用いて、素線13の径を細くし、かつ長さを伸ばす伸線加工をする。この伸線加工では、ステップS1で前駆体粉末11が充填された金属管の直径が、たとえば1/10〜1/100程度の縮径変形を受ける。これにより、前駆体粉末11を芯材として金属管12で被覆された、断面形状が円形または多角形状の単芯線14が作製される。
【0031】
次に、図2および図5に示すように、この単芯線14を多数束ねて、たとえば銀などの金属よりなる金属管15内に嵌合する(多芯嵌合:ステップS3)。これにより、前駆体粉末11を芯材として多数有する多芯線16が得られる。なお、この工程は省略されてもよい。
【0032】
次に、図2および図6に示すように、多芯線16を伸線する(ステップS4)。具体的には、伸線機103を用いて、多芯線16から伸線された多芯線16aに加工する。なお、この工程は省略されてもよい。
【0033】
次に、図2に示すように、伸線する工程(ステップS2〜S4)後の素線(単芯線14または多芯線16a)を熱処理する(1次熱処理:ステップS5)。ステップS5では、前駆体粉末11を熱処理することにより得られた材料17(図7参照)中のBi2223相の比率が70%以上、好ましくは80%になるように、前駆体粉末11中のBi2212相をBi2223相へと反応させる。これにより、Bi2223相の比率が70%以上になった材料17を芯材として多数有する多芯線18が得られる(図6参照)。
【0034】
具体的には、ステップS5では、1次熱処理は、大気圧下または加圧雰囲気下で、温度が820℃〜840℃、時間が30時間〜50時間、酸素を含有する雰囲気で、多芯線16aに1次熱処理を行なうことが好ましい。これにより、前駆体粉末11中のBi2212相の結晶が粒径の大きなBi2223相の結晶へ相変態する。
【0035】
1次熱処理(ステップS5)では、結晶のc軸に垂直な方向の大きさ(板状結晶の幅)の平均値が30μm以上になるように熱処理を行なうことが好ましい。本発明者は鋭意研究の結果、Bi2212相からなる結晶のc軸に垂直な方向の大きさは10μm程度であったのに対し、Bi2223相からなる結晶のc軸に垂直な方向の大きさを30μm程度まで結晶成長することができた。そのため、後述するように熱処理されたの素線(多芯線18,19)を圧延する(ステップS7)と配向ずれを低減できる。
【0036】
なお、上記「c軸に垂直な方向の大きさ」とは、以下のように測定される値である。具体的には、1次熱処理(ステップS5)後の多芯線18における金属管12内の各結晶は、a−b面方向と多芯線18の延在する方向(長手方向)とがほぼ平行になるように存在している。このような多芯線18において、長手方向に垂直な断面を観察すると、各結晶の側面(a−c面、b−c面またはab−c面)が見られる。この側面における長い方の一辺を測定する。実際の結晶は見えている側面より長い場合もあるが、少なくとも断面に表れている長さを有していることから、この長さを各結晶のc軸に垂直な方向の大きさとする。また、「c軸に垂直な方向の大きさの平均値」とは、a−b面に平行な断面の200μm四方の視野において、各結晶のc軸に垂直な方向の大きさを測定し、25視野採って測定したときのc軸に垂直な方向の大きさを意味する。
【0037】
次に、図2および図7に示すように、熱処理された素線(多芯線18)を、縮径率が5%以下になるように伸線する(2次伸線:ステップS6)。これにより、材料17中のBi2223相を含む超電導体の密度の均一性を向上できるので、形状乱れが抑制された多芯線19が得られる。なお、この工程は省略されてもよい。
【0038】
具体的には、図7に示すように、伸線機104を用いて、多芯線18を縮径率が5%以下になるように、好ましくは2%以下になるように伸線加工する。縮径率が5%以下の場合には、Bi2223相の粉砕等を防止でき、Bi2223相の大きな粒径を維持できる。また、Bi2223相を含む超電導体の変形度が金属管12の塑性変形度よりも上回るので、2次伸線(ステップS6)中に断線を引き起こすことを防止できる。縮径率が2%以下の場合には、Bi2223相の大きな粒径を効果的に維持できる。
【0039】
なお、上記「縮径率」とは、上記の(式2)にしたがって算出される値であり、本実施の形態では下記の式により算出される。
縮径率=(5%以下となるように伸線する工程(ステップS6)前の素線の径−5%以下となるように伸線する工程(ステップS6)後の素線の径)/(5%以下となるように伸線する工程(ステップS6)前の素線の径)×100
【0040】
次に、図2および図8に示すように、熱処理工程(ステップS4)後の素線(多芯線19)を圧延することにより、線材20を得る(ステップS7)。具体的には、図8に示すように、多芯線19の長手方向と垂直になる方向から2つの圧延部材105で挟み込むようにして、多芯線19に圧力を加えて、テープ状の線材20に形成する。この際、線材20中の超電導体を構成する部分の相対密度が90%以上、好ましくは92%以上になるように圧延を行なうことが好ましい。
【0041】
次に、図2に示すように、線材20を熱処理する(2次熱処理:ステップS8)。これにより、図1に示すフィラメント2と、フィラメント2を被覆するシース部3とを備えたBi2223超電導線材1が得られる。
【0042】
具体的には、大気圧下または加圧雰囲気下で、温度が820℃〜840℃、時間が30時間〜50時間、酸素を含有する雰囲気で2次熱処理を行なうことが好ましい。特に、30MPa以上の加圧雰囲気下で2次熱処理を行なうことが好ましい。2次熱処理を行なうことによって、1次熱処理(ステップS5)でBi2223相に反応しなかったBi2212相をBi2223相に相変態させる。また、Bi2223相を含む結晶を一体化させて、Bi2223相を含む結晶同士の接合を高める。
【0043】
なお、2次熱処理(ステップS8)および圧延(ステップS7)を線材20に複数回施してもよい。また、本実施の形態では、多芯構造のBi2223超電導線材1を製造する方法を説明したが、単芯構造であってもよい。単芯構造のBi2223超電導線材を製造する場合には、多芯嵌合(ステップS3)および多芯線の伸線(ステップS4)が省略される。
【0044】
次に、図2および図9〜図14を参照して、本発明のBi2223超電導線材の製造方法による効果を説明する。図9〜図14は、本発明の実施の形態における各工程時の金属管12内の状態を示す概略模式図である。図9〜図14において、前駆体粉末を構成する結晶(粒子)およびフィラメントとなる結晶(粒子)は、理論密度で充填されず隙間を省略して図示している。
【0045】
ステップS2またはステップS3後の多芯線16における前駆体粉末11には、図9に示すように、平板状のBi2212相が主相の粒径の小さい結晶11aが存在している。なお、結晶11aは、単結晶あるいは多結晶を意味し、Bi2212相のみからなる場合と、Bi2212相を主相とし、残部にBi2212相以外の相を含む場合とを含む。
【0046】
ステップS4で多芯線16を伸線すると、図10に示すように、伸線加工された後の前駆体粉末11には、伸線により結晶の少なくとも一部が砕けてその結晶11aの大きさがさらに小さくなっている。
【0047】
ステップS5で熱処理を行なうと、1次熱処理された素線(多芯線18)における材料17において、Bi2212相が反応してBi2223相が70%以上を占める。図11に示すように、材料17においてBi2223相が70%以上を占める結晶17aは、Bi2212相を含む結晶11aよりも粒径が大きい。なお、結晶17aは、単結晶あるいは多結晶を意味し、Bi2223相のみからなる場合と、Bi2223相を主相とし、残部にBi2223相以外の相を含む場合とを含む。
【0048】
ステップS6で1次熱処理された素線を伸線すると、図12に示すように、ステップS6後の多芯線19における材料17中の結晶17aの形状が整えられるとともに、結晶17aの密度の均一性を向上できる。
【0049】
ステップS7で長手方向に垂直になるように、多芯線19に外力を加えて圧延すると、図13に示すように、材料17中のBi2223相を含む結晶17aが倒れて、結晶17aがa−b面方向に配向する。
【0050】
ステップS8で線材20を2次熱処理すると、図14に示すように、2次熱処理されたBi2223超電導線材1のフィラメント(材料17)中の結晶17aが一体化されて、結晶17a同士の接合が高められる。
【0051】
図15は、従来の方法である、素線を伸線した後に熱処理をせずに圧延する工程後の金属管内を示す模式図である。図15に示すように、従来のBi2223超電導線材の製造方法では、図10に示す多芯線の伸線後に圧延した場合には、図15に示すように、a−b面方向に結晶が倒れにくく、a−b面方向への配向が起こり難い。また、圧延した後にBi2223相に相変態させると、結晶が大きくなるので、Bi2223相を含む結晶間に隙間が生じる。そのため、2次熱処理(ステップS8)を実施してもBi2223相を含む結晶を十分に接合できない。
【0052】
以上説明したように、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法によれば、前駆体粉末11を熱処理することにより得られた材料17中のBi2223相の比率が70%以上になるように、前駆体粉末11中のBi2212相をBi2223相へと反応させる1次熱処理(ステップS5)の後に、圧延(ステップS7)をしている。素線を熱処理する(ステップS5)ことにより、Bi2212相より粒径の大きなBi2223相に相変態させることができる。そのため、1次熱処理(ステップS5)後に圧延する(ステップS7)ことにより、Bi2223相を含む超電導結晶をa−b面方向へ倒しやすいので、a−b面方向への配向性を向上させることができる。また、Bi2223相に相変態させた後の圧延する工程での加工度((素線を熱処理した(ステップS5)後の素線(多芯線18)の厚み−圧延した(ステップS7)後の線材20の厚み)/(素線を熱処理した(ステップS5)後の素線(多芯線18)の厚み))が大きい。そのため、線材を熱処理する工程(ステップS8)では、高配向させた状態でかつ大きな加工度で熱処理をするので、前駆体粉末11を熱処理することにより得られた材料17中のBi2223相を含む超電導結晶同士の接合が良好である。よって、電流を流しやすくできるので、臨界電流密度等の超電導特性を向上できる。
【0053】
[実施例]
本実施例では、素線を熱処理した(ステップS5)後に圧延する(ステップS7)ことの効果について調べた。
【0054】
(実施例1〜9)
実施例1〜9のBi2223超電導線材は、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法に従って製造した。なお、下記の表1に示す工程において、左から工程順を記載し、実施した工程に○を記載している。
【0055】
具体的には、Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuOをBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.8:0.3:2:2:3の比率になるように混合した原料粉末を、大気中で700℃で8時間の熱処理、粉砕、800℃で10時間の熱処理、粉砕、820℃で4時間の熱処理、粉砕を施して、前駆体粉末11を作製した。前駆体粉末11は、Bi2212が主相の粉末であった。そして、外径25mm、内径22mmの銀からなる金属管12に前駆体粉末11を充填した(ステップS1)。
【0056】
次に、前駆体粉末11を内部に充填した金属管12(素線13)を伸線加工して、直径2.4mmの単芯線を作製した(ステップS2)。次に、この単芯線を55本束ねて、外径が25mm、内径が22mmの銀からなる金属管15内に嵌合して多芯線16を得た(ステップS3)。
【0057】
次に、多芯線16を大気中830℃で表1に記載の温度で熱処理を行なった(ステップS5)。前駆体粉末11を熱処理することにより得られた材料17中のBi2223相の比率をそれぞれ表1に記載する。
【0058】
次に、熱処理された多芯線16を、表1に記載の縮径率で伸線した(ステップS6)。次に、多芯線19中の超電導体を構成する部分の相対密度を表1に記載の相対密度となるように圧延することにより、線材20を得た(ステップS7)。圧延後の線材20の厚みは、0.23mmであった。
【0059】
次に、線材20を、830℃で50時間、酸素分圧が8kPaで全圧が30MPaの条件で熱処理を行なった(ステップS8)。以上の工程を実施することによって、実施例1〜9のBi2223超電導線材1を製造した。
【0060】
(比較例1)
比較例1は、基本的には実施例4のBi2223超電導線材の製造方法と同様に実施したが、製造する工程の順序が異なる。
【0061】
具体的には、実施例4と同様に前駆体粉末11を金属管12に充填し(ステップS1)、単芯線の伸線(ステップS2)、多芯嵌合(ステップS3)を行なった。その後、多芯線16を厚みが0.25mmになるように圧延し、実施例4と同様に30時間の熱処理を行なった(ステップS5)。前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中のBi2223相の比率は90%であった。
【0062】
次に、Bi2223相の比率が90%の線材を再度圧延した。圧延した結果、線材中の超電導体を構成する部分の相対密度は75%であった。再度圧延した後の線材の厚みは0.23mmであった。
【0063】
次に、実施例1〜9と同様に2次熱処理を行なった(ステップS8)。これにより、比較例1のBi2223超電導線材を製造した。
【0064】
【表1】
【0065】
(測定方法)
実施例1〜9および比較例1のBi2223超電導線材についてロッキングカーブ半価幅および臨界電流値Icを測定した。その結果を表2に示す。
【0066】
ロッキングカーブ半価幅は、Bi2223相よりなる超電導結晶のXRDロッキングカーブで測定された(0.0.14)ピークのFWHMを測定することにより求めた。なお、FWHMは、Bi2223相からなる超電導結晶のa−b面方向が、Bi2223超電導線材の延びる方向(Bi2223超電導線材に電流が流れる方向)に対する傾角を反映する値であり、超電導結晶の配向性を示す指標となる。FWHMの値が小さいほど各超電導結晶のa−b面が良好に配向していることを示す。
【0067】
また、臨界電流値は、温度が77Kで、自己磁場中において、臨界電流値を測定した。臨界電流値は、10-6V/cmの電界が発生したときの通電電流値とした。
【0068】
【表2】
【0069】
(測定結果)
表2に示すように、実施例1〜9のBi2223超電導線材の製造方法により得られたBi2223超電導線材は、比較例1のBi2223超電導線材よりも臨界電流値Icが高かった。これは、配向させるための圧延前に結晶を大きくしたこと、および大きな加工度で圧延したことによると考えられる。なお、1次熱処理によりBi2223相に相変態させた後の加工度は、実施例1〜9では、外径が25mmから厚み0.23mmまで加工したので、加工度は99%(=(25−0.23)/25×100)であった。一方、比較例1では、8%(=(0.25−0.23)/0.25×100)であった。そのため、実施例1〜9は、比較例1と比較して、加工度が大幅に高かった。
【0070】
また、実施例1〜9のBi2223超電導線材の製造方法により得られたBi2223超電導線材は、比較例1のBi2223超電導線材よりもロッキングカーブ半価幅を向上できた。特に、前駆体粉末を熱処理する(ステップS5)ことにより得られた材料中のBi2223相の比率が80%以上で、縮径率が5%以下となるように伸線し(ステップS6)、線材中の超電導体を構成する部分の相対密度が90%以上になるように圧延した(ステップS7)実施例3〜5および9のBi2223超電導線材は、ロッキングカーブ半価幅が10°以下で、臨界電流値Icが220Aを越えた非常に良好な超電導特性を有していた。
【0071】
以上より、本実施例によれば、前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中のBi2223相の比率が70%以上になるように、前駆体粉末中のBi2212相をBi2223相へと反応させる素線を熱処理した(ステップS6)後に圧延する(ステップS7)ことによって、超電導特性を向上できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のBi2223超電導線材の製造方法により製造されるBi2223超電導線材は、超電導特性を向上できる。そのため、本発明のBi2223超電導線材の製造方法により製造されるBi2223超電導線材は、たとえば超電導ケーブル、超電導変圧器、超電導限流器、および電力貯蔵装置などの超電導機器に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法により製造されたBi2223超電導線材を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における素線を得る工程を示す概略斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態における素線を伸線する工程を示す概略斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態における多芯嵌合する工程を示す概略斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態における多芯線の伸線をする工程を示す概略斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態における熱処理された素線の伸線をする工程を示す概略斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態における線材を得る工程を示す概略斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態における素線を得る工程後の金属管内を示す模式図である。
【図10】本発明の実施の形態における伸線する工程後の金属管内を示す模式図である。
【図11】本発明の実施の形態における素線を熱処理する工程後の金属管内を示す模式図である。
【図12】本発明の実施の形態における5%以内になるように伸線する工程後の金属管内を示す模式図である。
【図13】本発明の実施の形態における圧延する工程後の金属管内を示す模式図である。
【図14】本発明の実施の形態における線材を熱処理する工程後の金属管内を示す模式図である。
【図15】従来の方法である、素線を伸線した後に圧延する工程後の金属管内を示す模式図である。
【符号の説明】
【0074】
1 超電導線材、2 フィラメント、3 シース部、11 前駆体粉末、11a,17a 結晶、12,15 金属管、13 素線、14 単芯線、16,16a,18,19 多芯線、17 材料、20 線材、101 供給部材、102〜104 伸線機、105 圧延部材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi2212相を主相とし、残部がBi2223相および非超電導相である前駆体粉末を金属管に充填することにより、素線を得る工程と、
前記素線を伸線する工程と、
前記伸線する工程後の素線を熱処理する工程と、
前記素線を熱処理する工程後の素線を圧延することにより、線材を得る工程と、
前記線材を熱処理する工程とを備え、
前記素線を熱処理する工程では、前記前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中のBi2223相の比率が70%以上になるように、前記前駆体粉末中のBi2212相をBi2223相へと反応させる、Bi2223超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記素線を熱処理する工程における前記Bi2223相の比率が80%である、請求項1に記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記素線を熱処理する工程と前記線材を得る工程との間に、前記素線を熱処理する工程後の素線を、縮径率が5%以下になるように伸線する工程をさらに備えた、請求項1または2に記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記線材を得る工程では、前記線材中の超電導体を構成する部分の相対密度が90%以上になるように圧延を行なう、請求項1〜3のいずれか1つに記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記線材を熱処理する工程では、加圧しながら熱処理を行なう、請求項1〜4のいずれか1つに記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のBi2223超電導線材の製造方法により製造された、Bi2223超電導線材。
【請求項1】
Bi2212相を主相とし、残部がBi2223相および非超電導相である前駆体粉末を金属管に充填することにより、素線を得る工程と、
前記素線を伸線する工程と、
前記伸線する工程後の素線を熱処理する工程と、
前記素線を熱処理する工程後の素線を圧延することにより、線材を得る工程と、
前記線材を熱処理する工程とを備え、
前記素線を熱処理する工程では、前記前駆体粉末を熱処理することにより得られた材料中のBi2223相の比率が70%以上になるように、前記前駆体粉末中のBi2212相をBi2223相へと反応させる、Bi2223超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記素線を熱処理する工程における前記Bi2223相の比率が80%である、請求項1に記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記素線を熱処理する工程と前記線材を得る工程との間に、前記素線を熱処理する工程後の素線を、縮径率が5%以下になるように伸線する工程をさらに備えた、請求項1または2に記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記線材を得る工程では、前記線材中の超電導体を構成する部分の相対密度が90%以上になるように圧延を行なう、請求項1〜3のいずれか1つに記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記線材を熱処理する工程では、加圧しながら熱処理を行なう、請求項1〜4のいずれか1つに記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のBi2223超電導線材の製造方法により製造された、Bi2223超電導線材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−70616(P2009−70616A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235643(P2007−235643)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]