説明

Bluetoothネットワークの通信方法およびその無線情報配信装置

【課題】Bluetoothネットワークにおける通信のルーティング機能やルーティング処理を簡単化する。
【解決手段】受信パケットを処理する無線情報配信装置の識別IDが[000 001 002]であるとき、受信パケットに記述されている宛先の識別IDが、桁数の少ない[000]や[000 002]といった上位階層側の識別ID、あるいは桁数が同じ[000 001 001]や[000 001 003]といった同一階層の識別IDであれば、受信パケットは上位装置([000 001]の無線情報配信装置)へ転送される。これに対して、宛先の識別IDが自身の識別IDよりも桁数の多い[000 001 002 001]といった下位階層側の識別IDであれば、受信パケットは下位装置へ転送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bluetooth(登録商標)ネットワークの通信方法およびその無線情報配信装置に係り、特に、マスタ動作専用のBluetoothモジュールおよびスレーブ動作専用のBluetoothモジュールを含む複数のBluetoothモジュールを備えた無線情報配信装置およびその通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルサイネージが注目されており、店舗、交通機関、キャンパス、オフィスなどに設置されたディスプレイに、映像や情報などのコンテンツをタイムリーに配信するサービスの普及が始まっている。一般的に、デジタルサイネージには情報配信サーバがネットワークケーブルにより接続され、デジタルサイネージは情報配信サーバからコンテンツを受信してディスプレイの表示内容を動的に更新するが、ネットワークケーブルの施設が困難な環境下では無線通信化の必要がある。
【0003】
現在のデジタルサイネージは、各種の案内や広告などをディスプレイに表示するものが主流であるが、今後は、商品やキャンペーンの情報をユーザが所持している携帯電話へ配信して店舗に誘導するなどのモバイル連携機能が求められる。
【0004】
複数の端末間でデータを伝播するには、各端末が無線LANアクセスポイントを中継器として通信する方式がもっとも広く普及している。無線LAN規格の一つであるIEEE802.11による通信方式は、中継機器(無線アクセスポイント)を介して通信を行うインフラストラクチャネットワークと、無線通信可能な端末のみで構成されるアドホックネットワークとに大別される。
【0005】
特許文献1には、種々の家庭用機器や個人用機器を自動構成で統合管理するインフラストラクチャネットワーク構築装置が開示されている。このインフラストラクチャネットワークは、現在利用可能な無線端末の情報を無線アクセスポイントが自動的に収集して各端末へ提示する自動接続構成管理手段を有するので、無線アクセスポイントを介して複数の無線端末を相互に接続するスター型ネットワークを構成できる。
【0006】
しかしながら、複数のインフラストラクチャネットワークが連結された階層型ネットワークを構成する場合、無線端末間で相互に通信するためのルーティング機能を提供するには高度なネットワーク設定ノウハウが必要であり、設定手順も極めて煩雑となる。また、電源やスペースの確保などにより無線アクセスポイント設備自体の設置が大掛かりになってしまう。
【0007】
一方、前記アドホックネットワークによれば、無線端末同士は無線アクセスポイントが存在しない状況でも接続できる。特許文献2には、PLC装置無線アドホック機能を利用し、端末同士をPoint-Point型の無線リンクで接続することにより、任意の無線ノード間において直接もしくは1以上の無線ノードを介して通信を可能とする技術が開示されている。
【0008】
しかしながら、アドホックネットワークを確立するためには、アドホックネットワーク上で基地局として機能する無線端末は、一時的に自身の無線通信デバイスを他の無線端末に共有させ、基地局とした無線端末とそれ以外の無線端末との間で通信設定情報(SSID:Service Set IdentifierやWEP:Wired Equivalent Privacyなど)を一致させる必要がある。また、各無線端末への情報設定は手動で行うのが一般的であり、ユーザに大きな作業負担を強いることになる。しかも、特許文献2では、複数のアドホックネットワークが連結された階層型ネットワークを構成する場合に、特定の無線端末間で相互に通信するためのルーティング機能が明らかにされていない。
【0009】
一方、省電力で多くの携帯電話に搭載されているBluetoothは、無線アクセスポイントを介さずに無線端末と他の端末や周辺機器等とを簡単に相互接続することが可能であるため、今後、テレビ、STB、ゲーム機器、コンピュータ、モバイル端末などのデバイスを相互に接続するための無線方式として有望である。
【0010】
また、Bluetoothは同じ周波数帯を利用している機器が近くにある場合、周波数をわずかにずらして通信する周波数ホッピング型スペクトル拡散方式を採用しており、無線LANと比べて干渉の影響を受けにくくなっている。
【0011】
しかしながら、Bluetoothの仕様上は1つの通信ピコネットが、通信の主導権を握るマスタとその管理下に置かれるスレーブとにより構成され、1台のマスタに接続可能なスレーブ台数は7台に制限されている。したがって、複数のピコネット間でデータを転送するためには、図9に一例を示したように、一のピコネットではスレーブ動作する端末を他のピコネットではマスタ動作させることでピコネット同士を接続し、スキャタネット(Scatternet)と呼ばれるより大きなネットワークを構成する必要がある。特許文献3、4には、このようなスキャタネットの仕組みを利用した情報配信技術が開示されている。
【0012】
しかしながら、従来のスキャタネットでは、複数のピコネットがオーバラップするエリアに属する端末は、スレーブ動作する一方のピコネットで受信したデータを、マスタ動作する他方のピコネットへ転送する際に、接続先のピコネットを切り替えながら時分割でデータ通信を行わなければならないので、比較的大きな遅延が生じるという技術課題があった。
【0013】
このような技術課題に対して、本発明の発明者等は、無線情報配信装置に、マスタ動作専用のBluetoothモジュールBTmおよびスレーブ動作専用のBluetoothモジュールBTsを装着し、スレーブ動作専用のBluetoothモジュールが上位装置から受信したBluetoothパケットを、マスタ動作専用のBluetoothモジュールから下位装置へ転送することを可能にすることで、スキャタネットと同様のネットワークを小さな転送遅延(オーバヘッダ)で実現できる技術を発明し、特許出願(特許文献5)した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−208366号公報
【特許文献2】特開2008−14150号公報
【特許文献3】特開2006−54558号公報
【特許文献4】特開2002−368758号公報
【特許文献5】特願2010−218790号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献5では、パケット転送の際のアドレッシングがマルチキャストアドレスであり、宛先の無線情報配信装置を特定した通信を簡単なルーティング機能およびルーティング処理で行うことができなかった。
【0016】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を全て解決し、一つの無線情報配信装置に、マスタ動作専用のBluetoothモジュールBTmおよびスレーブ動作専用のBluetoothモジュールBTsを装着し、スキャタネットと同様のネットワークを小さな転送遅延で実現できるBluetoothネットワークの通信方法およびその無線情報配信装置において、宛先の無線情報配信装置を特定できる通信を簡単なルーティング機能およびルーティング処理で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような構成を具備した点に特徴がある。
【0018】
(1)本発明の無線情報配信装置は、Bluetoothモジュールが装着される少なくとも2つのバスポートと、マスタ動作する上位装置との通信を制御する上位用制御プロセスと、スレーブ動作する下位装置との通信を制御する下位用制御プロセスと、各バスポートに装着された2つのBluetoothモジュールの一方に上位用制御プロセスを割り当ててスレーブ動作させ、他方に下位用制御プロセスを割り当ててマスタ動作させるプロセス割当手段と、自装置に固有の識別IDを設定するID設定手段と、探知可能状態にある下位装置を探知する探知手段と、探知された下位装置との間にBluetooth接続を確立する下位装置接続手段と、前記下位装置に割り当てる識別IDを生成するID生成手段と、宛先の識別IDが記述された受信パケットを、当該識別IDに基づいて転送する転送手段とを具備し、前記ID生成手段は、自装置と下位装置との階層関係が表現された識別IDを下位装置用に生成し、前記転送手段は、宛先の識別IDが自装置と同一階層または自装置よりも上位階層の受信パケットを上位装置へ転送し、宛先の識別IDが自装置よりも下位階層の受信パケットを下位装置へ転送するようにした。
【0019】
(2)本発明のBluetoothネットワークの通信方法は、各無線情報配信装置が、マスタ動作する上位装置に対してスレーブ動作するBluetoothモジュールと、スレーブ動作する下位装置に対してマスタ動作するBluetoothモジュールとを具備し、ルートとして機能する一の無線情報配信装置が、探知可能状態にある下位装置を探知する第1手順と、探知された下位装置との間にBluetooth接続を確立する第2手順と、自装置と下位装置との階層関係が表現された識別IDを生成して下位装置に割り当てる第3手順と、前記識別IDを割り当てられた各下位装置が、前記第1ないし第3手順を繰り返して自装置の下位装置に識別IDを割り当て、これを繰り返す第4手順と、受信パケットを、当該パケットに記述された宛先の識別IDが自装置と同一階層または自装置よりも上位階層であれば上位装置へ転送し、宛先の識別IDが自装置よりも下位階層であれば下位装置へ転送する第5手順とを含むようにした。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
【0021】
(1)各無線情報配信装置には、自装置に対してマスタ動作する上位装置側に接続された他の無線情報配信装置、およびスレーブ動作する下位装置側に接続された他の無線情報配信装置、との階層関係が表現された識別IDが割り当てられるので、パケット通信の際には、受信パケットを当該パケットに記述された宛先の識別IDに基づいて上位装置側および下位装置側のいずれかへ転送できる。したがって、メモリ消費量の大きなルーティングテーブルが不要となるのみならず、ルーティングテーブルから転送先を検索する処理も不要となる。
【0022】
(2)各無線情報配信装置に2つのBluetoothモジュールが装着されると、その一方がマスタ動作専用のBluetoothモジュールBTmとして機能し、他方はスレーブ動作専用のBluetoothモジュールBTsとして機能し、BluetoothモジュールBTmが下位装置から受信、またはBluetoothモジュールBTsが上位装置から受信したBluetoothパケットを、ぞれぞれBluetoothモジュールBTsから上位装置へ転送、またはBluetoothモジュールBTmから下位装置へ転送するので、スキャタネットと同様のネットワークを小さな転送遅延(オーバヘッダ)で実現できるようになる。
【0023】
(3)複数のBluetoothモジュールをUSBポートに接続し、各Bluetoothモジュールを無線情報配信装置にUSBデバイスとして認識させるようにしたので、複数のBluetoothモジュールを同時に認識できないプラットホーム上でも複数のBluetoothモジュールを同時に動作させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る無線情報配信装置により構成される無線ネットワークの構成を示した図である。
【図2】本発明に係る無線情報配信装置の構成を示したブロック図である。
【図3】無線情報配信装置に装着されたBluetoothモジュールに動作を割り当てる方法を示したフローチャートである。
【図4】無線情報配信装置への識別IDの設定方法を示したフローチャートである。
【図5】無線情報配信装置に識別IDが階層的に設定される様子を示した図である。
【図6】無線情報配信装置間でのデータ転送手順を示したフローチャートである。
【図7】ユーザ端末を無線情報配信装置のBluetoothモジュールへ接続し、かつ登録する手順を示したシーケンスフローである。
【図8】無線情報配信装置に装着されている複数のBluetoothモジュールの動作を制御する手順を示したフローチャートである
【図9】スキャタネットの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1は、本発明を適用した複数の無線情報配信装置1により構成されるBluetoothネットワークの構成を示した図であり、全ての無線情報配信装置1は同一または同等の構成を有し、相互にBluetooth接続されている。
【0026】
各無線情報配信装置1は、マスタ動作専用のBluetoothモジュールBTm、スレーブ動作専用のBluetoothモジュールBTs、およびマスタ/スレーブの各動作を動的に切り換え可能な少なくとも一つのBluetoothモジュールBTmsを備え、各無線情報配信装置1のBluetoothモジュールBTm,BTs,BTmsは、最大で7台まで他の無線情報配信装置1やユーザ端末2とピコネットを構築できる。
【0027】
前記マスタ/スレーブ動作するBluetoothモジュールBTmsは、待ち受け状態ではスレーブ動作することで、マスタ動作するユーザ端末2からの接続要求に備え、ユーザ端末2からの接続要求を検知すると、接続処理の過程でマスタおよびスレーブの動作を交代(ロールチェンジ)し、その後はマスタ動作することで、最大で7台までのスレーブ動作するユーザ端末2と共にピコネットを構築できるようになる。
【0028】
図2は、前記無線情報配信装置1の主要部の構成を示した機能ブロック図であり、バスポートとして複数のUSBポートPusbおよびその制御プロセスCPが実装されている。各制御プロセスCP0〜CPnには、SPP(Serial Port Profile)/RFCOMM(Radio Frequency Communication)を基準にした仮想シリアルポート通信機能が実装される。各USBポートPusbに装着されたBluetoothモジュールBTには、プロセス割当部13により所定の制御プロセスCP0〜CPnが割り当てられる。
【0029】
制御プロセスCP0は、マスタ動作する上流側の無線情報配信装置1(以下、上位装置と表現する場合もある)との通信を制御する上位用通信部51および自装置に固有の識別IDが設定されるID設定部55を備える。本実施形態では、前記ID設定部55に設定された識別IDが当該無線情報配信装置1の識別IDとなる。
【0030】
制御プロセスCP1は、スレーブ動作する下流側の無線情報配信装置(以下、下位装置と表現する場合もある)を探知する探知部56、探知された下位装置を自装置に接続する下位装置接続部57、各下位装置に設定する識別IDを生成するID生成部58および各下位装置との通信を制御する下位用通信部52を備える。
【0031】
制御プロセスCP2〜CPnは、ユーザ端末2との通信を制御する端末用通信部53およびマスタ/スレーブ動作を動的に切り換える通信役割切換部54を備える。
【0032】
本実施形態では、各USBポートPusbにBluetoothモジュールが装着され、1番目に装着されたBluetoothモジュールには、前記上位用通信部51を備えた制御プロセスCP0が前記プロセス割当部13により割り当てられるので、当該Bluetoothモジュールはスレーブ動作専用(BTs)となる。
【0033】
また、2番目に装着されたBluetoothモジュールには、前記下位用通信部52を備えた制御プロセスCP1が前記プロセス割当部13により割り当てられるので、当該Bluetoothモジュールはマスタ動作専用(BTm)となる。
【0034】
さらに、3番目以降に装着される各Bluetoothモジュールには、前記端末用通信部53を備えた制御プロセスCP2〜CPnが前記プロセス割当部13によりそれぞれ割り当てられるので、当該各Bluetoothモジュールはマスタ/スレーブ動作(BTms)する。
【0035】
前記各制御プロセスCPは、メモリバス11を介して記憶部12と接続され、各制御プロセスCPと記憶部12との間のデータ転送、各制御プロセスCP間のデータ転送、および受信パケットの転送は、転送制御部14による制御下でデータ転送指令により行われる。
【0036】
図3は、前記各無線情報配信装置1において、各USBポートPusbに装着されたBluetoothモジュールに対して、前記プロセス割当部13により、マスタ動作、スレーブ動作およびマスタ/スレーブ動作のいずれかを選択的に割り当てる方法を示したフローチャートであり、ここでは、いずれのUSBポートPusbにもBluetoothモジュールが装着されていない状態から説明を始める。
【0037】
ステップS1では、いずれかのUSBポートにBluetoothモジュールが新規に接続されたか否かが判定される。Bluetoothモジュールの新規接続が検知されるとステップS2へ進み、今回のBluetoothモジュールがいくつ目であるか判定される。
【0038】
最初は1つ目と判定されるのでステップS3へ進み、当該Bluetoothモジュールにスレーブ専用モードが要求される。ステップS4では、前記Bluetoothモジュールに前記制御プロセスCP0が割り当てられてスレーブ動作専用(BTs)となる。ステップS5では、ID設定部55に識別IDの初期値(本実施形態では、[000])が設定される。
【0039】
これに対して、2つ目と判定されるとステップS6へ進み、当該Bluetoothモジュールにマスタ専用モードが要求される。ステップS7では、前記BluetoothモジュールBTに前記制御プロセスCP1が割り当てられてマスタ動作専用(BTm)となる。
【0040】
また、3つ目以降と判定されるとステップS8へ進み、当該Bluetoothモジュールにマスタ/スレーブモードが要求される。ステップS9では、前記Bluetoothモジュールに、前記制御プロセスCP2〜CPnの中で未割当のものが割り当てられる。
【0041】
なお、上記の説明では1つ目のBluetoothモジュールがスレーブ動作専用(BTs)となり、2つ目のBluetoothモジュールがマスタ動作専用(BTm)となるものとして説明したが、これとは逆に、1つ目のBluetoothモジュールがマスタ動作専用(BTm)となり、2つ目のBluetoothモジュールがスレーブ動作専用(BTs)となるようにしても良い。
【0042】
図4は、各無線情報配信装置1が自律分散的に相互接続してBluetoothネットワークを構築する手順を示したフローチャートであり、図5は、各無線情報配信装置1に識別IDが階層的に割り当てられる様子を示した図である。本実施形態では、最上位のルート(根)として動作する無線情報配信装置(基地局)1により、トップダウン方式で下位側の各無線情報配信装置1へ識別IDが順次に設定される。
【0043】
ステップS21では、下位用通信部52を備えた制御プロセスCP1の探知部56により、探知(発見)可能状態にある周辺装置から送信されてBTmにより受信される信号に含まれるRSSI(Received Signal Strength Indication)が探知される。ステップS22では、前記RSSIから周辺装置の識別IDおよびMACアドレスが取得され、さらにその電波強度が検知される。ステップS23では、前記下位装置接続部57により、前記探知された各下位装置のMACアドレスに基づいて当該各下位装置との間にBluetooth接続が確立される。
【0044】
ステップS24では、自装置の識別ID設定部55に登録されている自身の識別ID(ここでは、[000]が登録されているものとする)に基づいて、前記接続された各下位装置に新たに設定する識別IDが生成される。本実施形態では、前記ID生成部58において、前記ID設定部55に登録されている自装置の識別IDに、前記下位装置とのBluetooth接続に割り当てられた通信ポート番号を連結することで、自装置と下位装置との階層関係が表現された識別IDを生成する。
【0045】
本実施形態では、ルートの無線情報配信装置1には識別ID[000]が割り当てられているので、当該ルートの無線情報配信装置1に最初に接続された下位装置に対しては、その通信ポート番号[001]を前記識別ID[000]に連結して得られる識別ID[000001]が、両者の階層関係を表現する識別IDとして生成される。ステップS25では、前記識別ID[000001]が下位装置に通知され、当該下位装置の識別ID設定部55に更新設定される。
【0046】
以下同様に、2番目に接続された下位装置には識別ID[000002]が割り当てられ、3番目に接続された下位装置には識別ID[000003]が割り当てられる。さらに、前記識別ID[000001]を割り当てられた下位装置が上位装置として振る舞う際は、最初に接続される下位装置には、その通信ポート番号[001]を前記識別ID[000001]に連結して得られる識別ID[000001001]が割り当てられ、2番目に接続される下位装置には識別ID[000001002]が割り当てられ、3番目に接続される下位装置には識別ID[000001003]が割り当てられる。
【0047】
次いで、各無線情報配信装置1がBluetoothパケットを受信し、この受信パケットを宛先の無線情報端末装置1へ向けて転送する手順について、図6のフローチャートを参照して説明する。
【0048】
ステップS31において、上位装置または下位装置から送信されたBluetoothパケットが、それぞれ前記スレーブ動作専用のBluetoothモジュールBTsまたはマスタ動作専用のBluetoothモジュールBTmにより受信されると、ステップS32では、前記受信パケットが受信バッファ(図示せず)に一時記憶される。ステップS33では、前記受信パケットの送信元へAckパケットが返信される。
【0049】
ステップS34では、前記受信パケットにヘッダ情報として記述された宛先の識別IDに基づいて、当該受信パケットの転送経路が分析される。ステップS35では、前記分析結果に基づいて、前記受信パケットが上位装置または下位装置へ転送されるか、あるいは自装置の記憶部12に記憶される。
【0050】
例えば、図5において識別IDが[000 001 002]の無線情報配信装置に着目し、受信パケットに記述されている宛先の識別IDが、桁数の少ない[000]や[000 002]といった上位階層側の識別ID、あるいは桁数が同じ[000 001 001]や[000 001 003]といった同一階層の識別IDであればステップS36へ進む。ステップS36では、前記受信パケットがスレーブ動作専用のBluetoothモジュールBTsから上位装置(ここでは、[000 001]の無線情報配信装置)へ、前記メモリバス11経由で転送される。
【0051】
これに対して、前記受信パケットに記述されている宛先の識別IDが自身の識別IDよりも桁数の多い[000 001 002 001]といった下位階層側の識別IDであればステップS38へ進む。ステップS38では、前記受信パケットがマスタ動作専用のBluetoothモジュールBTmから下位装置(ここでは、[000 001 002 001]の無線情報配信装置)へ、前記メモリバス11経由で転送される。
【0052】
ステップS39では、前記転送先の上位装置または下位装置から受信完了通知が受信されたか否かが判定される。受信されていなければステップS31へ戻り、次のBluetoothパケットを受信して上記の各処理が繰り返される。
【0053】
なお、前記ステップS35において、宛先の識別IDが自装置の識別IDと一致すればステップS37へ進み、前記受信パケットが自装置の記憶部12に記憶される。
【0054】
本実施形態によれば、各無線情報配信装置1に2つのBluetoothモジュールが装着されると、その一方がマスタ動作専用のBluetoothモジュールBTmとして機能し、他方はスレーブ動作専用のBluetoothモジュールBTsとして機能し、BluetoothモジュールBTmが下位装置から受信、またはBluetoothモジュールBTsが上位装置から受信したBluetoothパケットを、ぞれぞれBluetoothモジュールBTsから上位装置へ転送、またはBluetoothモジュールBTmから下位装置へ転送することが可能になるので、スキャタネットと同様のネットワークを小さな転送遅延(オーバヘッダ)で実現できるようになる。
【0055】
また、各無線情報配信装置1には、自装置に対してマスタ動作する上位装置側に接続された他の無線情報配信装置、およびスレーブ動作する下位装置側に接続された他の無線情報配信装置、との階層関係が表現された識別IDが割り当てられるので、パケット通信の際には、受信パケットを当該パケットに記述された宛先の識別IDに基づいて上位装置側および下位装置側のいずれかへ転送できる。したがって、メモリ消費量の大きなルーティングテーブルが不要となるのみならず、ルーティングテーブルから転送先を検索する処理も不要となる。
【0056】
なお、各無線情報配信装置1は、前記識別IDによるパケット転送に失敗すると、宛先または経由する無線情報配信装置1がネットワークから切り離される等してネットワークトポロジが変化したと認識し、前記ルートの無線情報配信装置1に対してネットワークの再構築を要求する。本実施形態では、自装置に割り当てられている階層構造の識別IDを参照するだけで前記ルートの宛先アドレス(本実施形態では、上位の3桁)を容易に認識できる。
【0057】
前記ルートの無線情報配信装置1は、前記再構築要求に応答して、前記図4,5を参照して説明したネットワークの構築処理を実行し、さらにトップダウン方式により各下位装置が同様の処理を順次に繰り返すことでBluetoothネットワークが再構築される。
【0058】
図7は、ユーザ端末2を無線情報配信装置1のBluetoothモジュールBTmsへ接続し、かつ登録する手順を示したシーケンスフローである。
【0059】
ユーザ端末2において、予め探知されたBluetoothモジュールBTmsに対して端末ユーザにより接続要求のキー操作がなされると、時刻t1では、ユーザ端末2のステータスがマスタMへ遷移し、待ち受け状態のBluetoothモジュールBTmsに対して接続要求(HCI_Connection_Request)メッセージが送信される。
【0060】
無線情報配信装置1では、時刻t2において当該接続要求メッセージがBluetoothモジュールBTmsで検知されて制御プロセスのRFCOMMにより受信されると、前記通信役割切換部54へ接続要求が転送される。時刻t3では、前記通信役割切換部54からRFCOMMに対してマスタMとしての役割が要求される。時刻t4では、マスタMへの遷移を要求する旨の接続応答(HCI_Accept_Connection_Request)メッセージがユーザ端末2へ返信される。
【0061】
ユーザ端末2からは、時刻t5において設定準備(HCI_Command_Status)メッセージが送信され、時刻t6において、自身の役割をマスタMからスレーブSに切り換える役割切換要求(HCI_Role_change)メッセージが送信される。時刻t7では、ユーザ端末2からRFCOMMへ接続完了(HCI_Connection_Complete)メッセージが送信される。時刻t8では、RFCOMMから前記通信役割切換部54へ役割切換の実行が要求される。時刻t9では、前記通信役割切換部54から通信部53へ役割切換の完了が通知される。これにより、ユーザ端末2の役割がマスタMからスレーブSに切り換わるので、BluetoothモジュールBTmsをマスタM、ユーザ端末2をスレーブSとするピコネットが構築される。
【0062】
時刻t10では、ユーザ端末2から無線情報配信装置1へ接続完了応答が送信される。時刻t11では、無線情報配信装置1からユーザ端末2へコンテンツ送信が開始される。その後、時刻t12において、他のユーザ端末2から接続要求(HCI_Connection_Request)メッセージが送信されると、上記と同様の手順が繰り返され、当該ユーザ端末2もスレーブSとしてピコネットに参加できるようになる。
【0063】
図8は、無線情報配信装置1に装着されている複数のBluetoothモジュールBTmsの動作を制御する手順を示したフローチャートである。本実施形態では、無線情報配信装置1に複数のBluetoothモジュールBTmsが装着されているとき、一つのBluetoothモジュールBTmsに7台のユーザ端末が接続されて空きポートが無くなるまでは他のBluetoothモジュールBTmsを待機させることで、ユーザ端末2からの接続要求に対して複数のBluetoothモジュールBTmsが同時に応答しないようにしている。
【0064】
ステップS51では、無線情報配信装置1に装着されている複数のBluetoothモジュールBTmsの中の1つのみがアクティブ化され、残りのBluetoothモジュールBTmsは全て待機モードとされる。ステップS52では、アクティブ化されているBluetoothモジュールBTms(1つとは限らない)に待ち受け状態の空きポートがなくなったか否かが判定される。最初は空きポートがあるのでステップS52へ戻る。
【0065】
その後、前記図3の接続処理が繰り返されて複数のユーザ端末2が接続され、アクティブ化されているBluetoothモジュールBTmsに空きポートが無くなるとステップS53へ進む。ステップS53では、待機中のBluetoothモジュールBTmsの中から一つが選択されて追加的にアクティブ化される。したがって、これ以降に接続要求するユーザ端末には、当該新たにアクティブ化されたBluetoothモジュールBTmsが応答することになる。
【0066】
このように、本実施形態によれば、マスタ/スレーブ動作する第3のBluetoothモジュールを、待機中はスレーブ動作させることにより、マスタ動作するユーザ端末からの接続要求に応答できるようにする一方、接続後はユーザ端末との間で役割切換を実行させてマスタ動作させるので、同時に複数(最大で7台)のユーザ端末とピコネットを構成できるようになる。
【0067】
なお、上記の実施形態では、本発明をデジタルサイネージへの適用を例にして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、イベント、会議、投票または授業などにおいて不特定の者から随時アドホックネットワークに参加する必要がある様々なケースに応用することが可能である。典型的な例としては、会議において会議参加者に携帯端末を携行させ、これによりアドホックネットワークに随時参加させ、この端末を介して会議参加者からアンケートや投票を収集する際に本発明を利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1…無線情報配信装置,2…ユーザ端末,11…メモリバス,12…記憶部,13…プロセス割当部,14…転送制御部,51…上位用通信部,52…下位用通信部,53…端末用通信部,54…通信役割切換部,55…ID設定部,56…探知部,57…下位装置接続部,58…ID生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bluetoothネットワークを構成する無線情報配信装置において、
Bluetoothモジュールが装着される少なくとも2つのバスポートと、
マスタ動作する上位装置との通信を制御する上位用制御プロセスと、
スレーブ動作する下位装置との通信を制御する下位用制御プロセスと、
前記各バスポートに装着された2つのBluetoothモジュールの一方に上位用制御プロセスを割り当ててスレーブ動作させ、他方に下位用制御プロセスを割り当ててマスタ動作させるプロセス割当手段と、
自装置に固有の識別IDを設定するID設定手段と、
探知可能状態にある下位装置を探知する探知手段と、
探知された下位装置との間にBluetooth接続を確立する下位装置接続手段と、
前記下位装置の識別IDを生成して当該下位装置に割り当てるID生成手段と、
宛先の識別IDが記述された受信パケットを、当該識別IDに基づいて転送する転送制御手段とを具備し、
前記ID生成手段は、自装置と下位装置との階層関係が表現された識別IDを下位装置用に生成し、
前記転送制御手段は、宛先の識別IDが自装置と同一階層または自装置よりも上位階層の受信パケットを上位装置へ転送し、宛先の識別IDが自装置よりも下位階層の受信パケットを下位装置へ転送することを特徴とする無線情報配信装置。
【請求項2】
前記転送制御手段は、宛先の識別IDが自装置の識別IDと一致する受信パケットを自装置に記憶することを特徴とする請求項1に記載の無線情報配信装置。
【請求項3】
前記ID生成手段は、Bluetooth接続を確立できた下位装置ごとに固有のIDを前記自装置の識別IDと連結して下位装置用の識別IDを生成することを特徴とする請求項1または2に記載の無線情報配信装置。
【請求項4】
前記固有のIDは、前記下位装置とのBluetooth接続に割り当てられた通信ポート番号であることを特徴とする請求項3に記載の無線情報配信装置。
【請求項5】
ユーザ端末との通信を制御する少なくとも一つの端末用制御プロセスをさらに具備し、
前記プロセス割当手段は、前記バスポートに装着された3つ目以降の各Bluetoothモジュールに前記端末用制御プロセスを割り当ててマスタ/スレーブ動作させることを特徴とする請求項1に記載の無線情報配信装置。
【請求項6】
前記端末用制御プロセスを割り当てられたBluetoothモジュールのマスタ/スレーブ動作を切り換える通信役割切換手段を具備したことを特徴とする請求項5に記載の無線情報配信装置。
【請求項7】
前記バスポートがUSBであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の無線情報配信装置。
【請求項8】
前記プロセス割当手段は、バスポートに1番目に装着されたBluetoothモジュールに前記上位用制御プロセスを割り当ててスレーブ動作させ、2番目に装着されたBluetoothモジュールに前記下位用制御プロセスを割り当ててマスタ動作させることを特徴とする請求項1に記載の無線情報配信装置。
【請求項9】
前記プロセス割当手段は、バスポートに1番目に装着されたBluetoothモジュールに前記下位用制御プロセスを割り当ててマスタ動作させ、2番目に装着されたBluetoothモジュールに前記上位用制御プロセスを割り当ててスレーブ動作させることを特徴とする請求項1に記載の無線情報配信装置。
【請求項10】
前記プロセス割当手段は、バスポートに3番目以降に接続された各Bluetoothモジュールに前記端末用制御プロセスを割り当ててマスタ/スレーブ動作させることを特徴とする請求項5に記載の無線情報配信装置。
【請求項11】
パケット転送の成否に基づいてネットワークトポロジの変化を認識する手段と、
前記ネットワークトポロジの変化が認識されると、階層が最上位であるルートの無線情報配信装置に対してネットワークの再構築を要求する手段とを具備し、
前記ルートの無線情報配信装置は、前記再構築要求に応答して自装置の各下位装置との間にBluetooth接続を再確立し、前記各下位装置が更に自装置の各下位装置との間にBluetooth接続を再確立し、これが繰り返されることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の無線情報配信装置。
【請求項12】
複数の無線情報配信装置がBluetooth接続されたBluetoothネットワークの通信方法において、
各無線情報配信装置が、
マスタ動作する上位装置に対してスレーブ動作するBluetoothモジュールと、
スレーブ動作する下位装置に対してマスタ動作するBluetoothモジュールとを具備し、
ルートとして機能する一の無線情報配信装置が、
探知可能状態にある下位装置を探知する第1手順と、
探知された下位装置との間にBluetooth接続を確立する第2手順と、
自装置と下位装置との階層関係が表現された識別IDを生成して下位装置に割り当てる第3手順と、
前記識別IDを割り当てられた各下位装置が、前記第1ないし第3手順を繰り返して自装置の下位装置に識別IDを更に割り当て、これを繰り返す第4手順と、
受信パケットを、当該パケットに記述された宛先の識別IDが自装置と同一階層または自装置よりも上位階層であれば上位装置へ転送し、宛先の識別IDが自装置よりも下位階層であれば下位装置へ転送する第5手順とを含むことを特徴とするBluetoothネットワークの通信方法。
【請求項13】
宛先の識別IDが自装置の識別IDと一致する受信パケットを自装置に記憶する手順を含むことを特徴とする請求項12に記載のBluetoothネットワークの通信方法。
【請求項14】
前記第3手順では、Bluetooth接続を確立できた下位装置ごとに固有のIDを前記自装置の識別IDと連結して下位装置用の識別IDを生成することを特徴とする請求項12または13に記載のBluetoothネットワークの通信方法。
【請求項15】
パケット転送の成否に基づいてネットワークトポロジの変化を認識する手順と、
前記ネットワークトポロジの変化が認識されると、階層が最上位であるルートの無線情報配信装置に対してネットワークの再構築を要求する手順とを更に含み、
前記ルートの無線情報配信装置は、前記再構築要求に応答して自装置の各下位装置との間にBluetooth接続を再確立し、前記各下位装置が更に自装置の各下位装置との間にBluetooth接続を再確立し、これが繰り返されることを特徴とする請求項12ないし14のいずれかに記載のBluetoothネットワークの通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−134617(P2012−134617A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282988(P2010−282988)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】