説明

CC−1065類似体の改良プロドラッグ

【課題】細胞毒性薬のプロドラッグを提供する。
【解決手段】切断可能保護基、例えばピペラジノカルバメート、4−ピペリジノ−ピペリジノカルバメート又はホスフェートを有する抗腫瘍性抗生物質CC−1065の類似体のプロドラッグであって、該保護基はプロドラッグに向上した水溶性と安定性を付与し、また該プロドラッグは抗体のような細胞結合因子に複合できるジスルフィドのような部分も有する。そのような細胞毒性薬のプロドラッグは標的化された様式で細胞毒性プロドラッグを特定の細胞集団に送達し、細胞毒性薬に酵素変換できるので、治療的用途を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞毒性薬の新規プロドラッグ及びそれらの治療的使用に関する。更に詳しくは、本発明は、CC−1065の類似体である細胞毒性薬の新規プロドラッグに関し、該プロドラッグは、細胞結合因子への化学連結部分とインビボで切断される保護基の両方を含む。該プロドラッグは、細胞結合因子(cell binding agent)に化学的に連結できるので、治療薬はインビボで活性化及び放出され、そして標的化された様式で特定の細胞集団に送達されることが可能になる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
モノクロナール抗体−薬物複合体による腫瘍細胞のターゲティングに関する多数の報告が世に出ている{Selaら、Immunoconjugates,pp.189−216(C.Vogel編、1987);Ghoseら、Targeted Drugs,pp.1−22(E.Goldberg編、1983);Dienerら、Antibody Mediated Delivery Systems,pp.1−23(J.Rodwell編、1988);Pieterszら、Antibody Mediated Delivery Systems,pp.25−33(J.Rodwell編、1988);Bumolら、Antibody Mediated Delivery Systems,pp.55−79(J.Rodwell編、1988);G.A.Pietersz & K.Krauer,2 J.Drug Targeting,183−215(1994);R.V.J.Chari,31 Adv.Drug Delivery Revs.,89−104(1998);W.A.Blattler & R.V.J.Chari,Anticancer Agents,Frontiers in Cancer Chemotherapy,317−338,ACS Symposium Series 796;及びI.Ojimaら編、American Chemical Society 2001}。メトトレキサート、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、カリチェアマイシン及びメイタンシノイド系といった細胞毒性薬が各種のマウスモノクロナール抗体に複合されている。薬物分子が中間担体分子を通じて抗体分子に連結されたこともあった。中間担体分子は、例えば、血清アルブミン{Garnettら、46 Cancer Res.2407−2412(1986);Ohkawaら、23 Cancer Immunol.Innunother.81−86(1986);Endoら、47 Cancer Res.1076−1080(1980)}、デキストラン{Hurwitzら、2 Appl.Biochem.25−35(1980);Manabiら、34 Biochem.Pharmacol.289−291(1985);Dillmanら、46 Cancer Res.4886−4891(1986);及びShovalら、85 Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.8276−8280(1988)}、又はポリグルタミン酸{Tsukadaら、73 J.Natl.Canc.Inst.721−729(1984);Katoら、27 J.Med.Chem.1602−1607(1984);Tsukadaら、52 Br.J.Cancer 111−116(1985)}である。
【0003】
今日では、そのような免疫複合体の製造に、切断可能及び切断不能リンカーを含む多様なリンカーが利用可能である。しかしながら、インビトロの細胞毒性試験によれば、抗体−薬物複合体が遊離の非複合薬と同じ細胞毒性力を達成するのは稀なことが明らかとなっている。このことは、薬物分子が複合抗体から放出される機序が極めて非効率的であることを示している。イムノトキシン分野の初期の研究で、モノクロナール抗体と触媒活性タンパク質トキシンとの間がジスルフィド架橋を介して形成された複合体は、他のリンカーを含有する複合体よりも細胞毒性が強いことが示された{Lambertら、260 J.Biol.Chem.12035−12041(1985);Lambertら、Immunotoxins 175−209(A.Frankel編、1988);Ghetieら、48 Cancer Res.2610−2617(1988)}。この改良された細胞毒性は、抗体分子とトキシン間のジスルフィド結合の効率的切断に寄与する還元型グルタチオンの細胞内濃度が高いことに起因していた。メイタンシノイド系とカリチェアマイシンは、ジスルフィド結合を介してモノクロナール抗体に連結された最初の高細胞毒性薬の例であった。これらの薬物の抗体複合体は、インビトロで高い効力及びマウスにおけるヒト腫瘍異種移植モデルで並外れた抗腫瘍活性を有することが示されている{R.V.J.Chariら,52 Cancer Res.,127−131(1992);C.Liuら、93 Proc.Natl.Acad.Sci.,8618−8623(1996);L.M.Hinmanら、53 Cancer Res.,3536−3542(1993);及びP.R.Hamannら、13,BioConjugate Chem.,40−46(2002)}。
【0004】
そのような細胞毒性複合体製造のための魅力的な候補はCC−1065で、これはストレプトマイセス・ゼレンシス(Streptomyces zelensis)の培養ブロスから単離された強力な抗腫瘍性抗生物質である。CC−1065は、一般に使用されている抗がん剤、例えばドキソルビシン、メトトレキサート及びビンクリスチンなどよりインビトロで約1000倍も強力である{B.K.Bhuyanら、Cancer Res.,42,3532−3537(1982)}。
【0005】
CC−1065(化合物1、図1A)の構造はx線結晶学によって決定されている{Martin,D.G.ら、33 J.Antibiotics 902−903(1980)、及びChidester,C.G.ら、103 J.Am.Chem.Soc.7629−7635(1981)}。CC−1065分子は、アミド結合で連結された3つの置換ピロロインドール部分からなる。“A”サブユニットは、分子中に不斉炭素のみを含有するシクロプロピル環を有する。x線データからはこれらの炭素の相対配置しか得られないが、DNAをキラル試薬として使用することにより、絶対配置は3b−R、4a−Sと推測されている{Hurley,L.H.ら、226 Science 843−844(1984)}。CC−1065の“B”及び“C”サブユニットは同一のピロロインドール部分である。
【0006】
CC−1065の細胞毒性力は、そのアルキル化活性及びそのDNA結合又はDNA挿入(インターカレーション)活性に相関している。これら二つの活性は分子の別の部分に存在する。従って、アルキル化活性はシクロプロパピロロインドール(CPI)サブユニットに含有され、DNA結合活性は二つのピロロインドールサブユニットに存在する(図1A)。
【0007】
しかしながら、CC−1065は細胞毒性薬として確かに魅力的な特徴を備えているが、治療的使用には制限がある。CC−1065をマウスに投与すると、遅延肝毒性を起こし、12.5μg/kgの静脈内1回投与後50日目に死亡した{V.L.Reynoldsら、J.Antibiotics,XXIX,319−334(1986)}。このため、遅延毒性を起こさない類似体の開発努力に拍車がかかり、CC−1065をモデルとしたより単純な類似体の合成が報告された{M.A.Warpehoskiら,J.Med.Chem.,31,590−603(1988)}。別のシリーズの類似体では、CPI部分がシクロプロパベンズインドール(CBI)部分で置換された{D.L.Bogerら、J.Org.Chem.,55,5823−5833(1990)、D.L.Bogerら、BioOrg.Med.Chem.Lett.1,115−120(1991)}。これらの化合物は、マウスに遅延毒性を起こさずに親薬物の高いインビトロ効力を維持している。CC−1065と同様、これらの化合物はDNAの副溝に共有結合様式で結合して細胞死を起こすアルキル化薬である。しかしながら、最も有望な類似体のアドゼレシン(Adozelesin)及びカルゼレシン(Carzelesin)の臨床評価は残念な結果に終わった{B.F.Fosterら、Investigational New Drugs,13,321−326(1996);I.Wolffら、Clin.Cancer Res.,2,1717−1723(1996)}。これらの薬物は全身毒性が高いために乏しい治療効果しか発揮しないのである。
【0008】
CC−1065類似体の治療的効能は、腫瘍部位への標的送達を通じてインビボの分布を変え、非標的組織への低毒性、ひいては低い全身毒性を実現させることによって大きく改善させることができる。この目標を達成するために、CC−1065の類似体及び誘導体と腫瘍細胞を特異的に標的にする細胞結合因子との複合体が報告されている{米国特許第5,475,092号;5,585,499号;5,846,545号}。これらの複合体は、典型的にはインビトロで高い標的特異的細胞毒性、及びマウスにおけるヒト腫瘍異種移植モデルで並外れた抗腫瘍活性を発揮する{R.V.J.Chariら,Cancer Res.,55,4079−4084(1995)}。
【0009】
細胞結合因子は、典型的には水性媒体にのみ可溶なので、通常水溶液中に貯蔵される。従って、これらの類似体は、細胞結合因子との効率的な反応とその結果の水溶液中製剤を可能にするに足る水溶性を持たなくてはならない。さらに、細胞結合因子複合体が有用な貯蔵寿命を持つには、これらの細胞結合因子に連結されるCC−1065類似体が水溶液中で長期間安定であることが重要である。
【0010】
これまでに報告されたCC−1065類似体(例えば図1B及び1C参照)は、水にわずかしか溶けない。CC−1065類似体が難溶性であるために、細胞結合因子との複合体化反応は、現在は極めて希薄な水溶液中で実施しなければならない。従って、これらのプロドラッグは、親薬物と比較した場合に高い水溶性を持つ必要がある。
【0011】
また、これまでに報告されたCC−1065類似体は、次の理由で水溶液中で極めて不安定である。seco形の薬物は自然にシクロプロピル形に転化し、次にこれがDNAをアルキル化しうる(存在する場合)。しかしながらシクロプロピル形と水との競合反応があると、シクロプロピル環の開環が起こり、不活性なヒドロキシ化合物が生成する。従って、水溶液中での有用な寿命を延長するために、CC−1065類似体の反応性部分を、例えばCC−1065類似体のプロドラッグの開発によって保護する必要がある。
【0012】
そこで、水溶液中での貯蔵に非常に安定なCC−1065類似体のプロドラッグを開発する必要がある。好ましくは、これらのプロドラッグはインビボでのみ活性薬物に転化すべきである。該プロドラッグは患者に注入されたら、好ましくは活性薬物に効率的に転化されるべきである。
【0013】
カルゼレシンは、アドゼレシンのフェノール基がフェニルカルバメートとして保護されたプロドラッグである{L.H.Liら、Cancer Res.,52,4904−4913(1992)}。しかしながら、このプロドラッグは治療的使用にはあまりにも不安定な上、親薬物に比較して水溶性が増大していない。第二の例では、CC−1065類似体のフェノール残基をグリコシル化してプロドラッグを製造した(米国特許第5,646,298号)。しかしながら、このプロドラッグはインビボで活性薬物に転化せず、それを細胞毒性形に転化するために細菌源由来の酵素を追加投与する必要がある。
【0014】
CC−1065とは無関係な抗がん剤で、水溶性プロドラッグに転化されている例が少しある。抗がん剤のイリノテカンでは、フェノール基が4−ピペリジノ−ピペリジノカルバメートで保護されている。この保護基は薬物に水溶性を付与することが報告されている。さらに、該プロドラッグはヒトのインビボで活性薬物に容易に転化される。これはおそらく、ヒト血清、腫瘍組織及び一部の器官に天然に存在する酵素カルボキシエステラーゼによるものであろう{A.Sparreboom,4,Clin.Cancer Res.,2747−2754(1998);L.P.Rivoryら、52,Biochem Pharmacol.,1103−1111(1996)}。
【0015】
同様に、抗がん剤のエトポシドホスフェートは、ホスフェート保護基を有するプロドラッグの1例で、インビボで容易に活性薬物に転化される。これはおそらく、内因性アルカリホスファターゼによる加水分解によると思われる{S.Z.Fieldsら、1 Clin.Cancer Res.,105−111(1995)}。
【0016】
従って、生物活性は維持しつつ水溶液中での細胞結合因子との複合を容易にするために、水溶液中での高い溶解性と安定性を有するCC−1065類似体が求められている。さらに、有毒な副作用を削減するために、CC−1065類似体は、主として所望の治療部位で好ましくは内因性因子の作用によって細胞毒性薬に転化されるプロドラッグの形態で提供されるのが好都合であろう。これら全ての利点及びその他は、以下の開示及び実施例を読めば当業者には明白なように、本明細書中に記載の発明によって提供される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の概要
本発明の目的は、水性媒体中で高い安定性及び溶解性を有するCC−1065類似体のプロドラッグを提供することである。この及びその他の目的は、分子のアルキル化部分のフェノール基(phenolic が、水溶液中での貯蔵時に薬物を安定にする官能基で保護されているプロドラッグを提供することによって達成される。その上、保護基は、保護されていない類似体と比較した場合、薬物に高い水溶性も付与する。保護基はインビボで容易に切断され、対応する活性薬物が提供される。本明細書中に記載のプロドラッグでは、フェノール置換基は、ピペラジノカルバメート、4−ピペリジノ−ピペリジノカルバメートとして、又はホスフェートとして優先的に保護される。これらはそれぞれ生理的pHで電荷を保有しているので、高い水溶性を有する。水溶性をさらに高めるために、場合によりポリエチレングリコールスペーサーを、末端インドリルサブユニットCとジスルフィド基のような切断可能連結との間の連結基に導入してもよい。このスペーサーが導入されても薬物の効力に変わりはない。
【0018】
本発明のさらに特定の態様は、水溶性及び安定性を高め、インビボで切断されうる保護基を有するseco−シクロプロパベンズインドール含有細胞毒性薬の類似体を含むプロドラッグを提供する。この特定の態様のプロドラッグは、第一及び第二のサブユニットを有し、それらは第一のサブユニットのピロール部分の第二級アミノ基から第二のサブユニットのC−2カルボキシルへのアミド結合によって連結されている。第一のサブユニットは式(I)として示され、式(II)〜(IX)から選ばれる第二のサブユニットに複合している。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
式中、Rはプロドラッグを細胞結合因子に連結する連結基を表し、そのような連結は好ましくはジスルフィド結合を介する。該連結基はポリエチレングリコールスペーサーを含んでいてもよい。R〜Rは、それぞれ独立して、水素、C〜C直鎖アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、第一級アミノ、第二級アミノ、第三級アミノ、又はアミドである。Rはインビボで切断されうる、そしてシクロプロパベンズインドール含有細胞毒性薬の水溶性を高める保護基であり、好ましくは、ピペラジノカルバメート、4−ピペリジノ−ピペリジノカルバメート又はホスフェートである。
【0022】
本発明のプロドラッグは、細胞結合因子が本発明の一つ以上のプロドラッグに連結された細胞毒性複合体に使用できる。細胞結合因子は、抗体及びそのフラグメント、インターフェロン、リンホカイン、ビタミン、ホルモン及び増殖因子などである。そのような複合体を含有する医薬組成物も提供する。
【0023】
細胞毒性複合体は、有効量の上記医薬組成物を投与することによる患者の治療法に使用できる。選択された細胞結合因子が結合する細胞の種類によって、多くの疾患がインビボ、エクスビボ又はインビトロのいずれかで治療できる。そのような疾患は、例えば、リンパ腫、白血病、肺、乳、結腸、前立腺、腎臓、膵臓などの各がんを含む多くの種類のがんの治療である。
【0024】
そこで、水溶液中で溶解性及び安定性の改良された、そして活性化されてアルキル化薬を生じたときに細胞毒性を保持した、そして特定の細胞結合因子との複合により特定の細胞種のターゲティングに有用なCC−1065類似体のプロドラッグを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1Aは、CC−1065及びそのサブユニットA、B、及びCの構造を示す図である。図1Bは、CC−1065の二つの公知類似体の構造を示す図である。図1Cは、CC−1065の二つの公知類似体の構造を示す図である。
【図2】図2は、本発明の典型的CC−1065類似体及びプロドラッグの構造を示す図である。
【図3】図3は、本発明の典型的ポリエチレングリコール含有プロドラッグの構造を示す図である。
【図4A】図4AおよびBは、(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−メチルピペラジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC2)及び(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−ピペリジノ−ピペリジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC3)の製造のための合成スキームを示す図である。
【図4B】図4AおよびBは、(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−メチルピペラジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC2)及び(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−ピペリジノ−ピペリジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC3)の製造のための合成スキームを示す図である。
【図5】図5は、DC1、DC2及びDC3のPEG化バージョン、すなわちそれぞれDC5、DC6及びDC7の合成のためのスキームを示す図である。
【図6】図6は、(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−(ホスホノキシ)−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC4)の製造のための二つの合成スキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な記述
本発明者らは、ある種のCC−1065類似体の安定性、水溶性及び有用性は、該類似体のアルキル化部分を適切な保護基で保護することによって増大することを見出した。従って本発明者らが提供するCC−1065類似体のプロドラッグは、高い水溶性及び安定性を有し、さらに細胞結合因子への連結が可能であることによってそのようなCC−1065類似体のプロドラッグの治療的効能が、腫瘍部位への該プロドラッグの標的送達を通じてインビボの分布を変えた結果、非標的組織への低毒性、ひいては低い全身毒性が実現することによって改良されたプロドラッグである。該プロドラッグが送達されると、内因性物質が実質的に該プロドラッグをその活性薬物形に転化し、細胞結合因子への切断可能リンカーを有する態様では、活性薬物形のCC−1065類似体が放出されるので、さらにその細胞毒活性が増大する。あるいは、細胞結合因子へのリンカーが標的細胞内部でまず切断され、その後活性薬物に内因的転化をしてもよい。
【0027】
この目標を達成するために、発明者らはseco−シクロプロパベンズインドール(CBI)含有細胞毒性プロドラッグであるCC−1065類似体の典型的プロドラッグ(図2〜6)を合成した。該プロドラッグは、(a)安定性及び水溶性を高めるためにフェノール性ヒドロキシルがインビボで切断される保護基によって保護されている式(I)の第一のサブユニット、及び(b)式(II)〜(IX)の一つによって表される構造を有し、該プロドラッグを細胞結合因子に複合させるための連結基を含む第二のサブユニットを含む。連結基はポリエチレングリコールスペーサーを含有することもできる(図3)。プロドラッグの保護基が除去されると親薬物の高い細胞毒性を保持する活性形の薬物が生成する。リンカーは細胞結合因子への複合に使用され、好ましくはジスルフィド結合を介する。
【0028】
ジスルフィド結合のような切断可能リンクを用いて高い細胞毒性薬を抗体に連結すると、細胞内部で十分活性な薬物の放出が確保されること、及びそのような複合体は抗原特異的様式で細胞毒性を発揮することがこれまでに示されている{R.V.J.Chariら,52 Cancer Res.127−131(1992);R.V.J.Chariら,55 Cancer Res.4079−4084(1995);並びに米国特許第5,208,020号及び5,475,092号}。本発明で発明者らは、CC−1065類似体のプロドラッグの合成、それらのモノクロナール抗体への複合法、並びにそのような複合体のインビトロの細胞毒性及び特異性の測定法について記載する。従って、本発明は、腫瘍細胞、ウィルス感染細胞、微生物感染細胞、寄生虫感染細胞、自己免疫細胞(自己抗体を産生する細胞)、活性化細胞(移植片拒絶反応又は移植片対宿主疾患に関与する細胞)、又は任意のその他の種類の病的又は異常細胞のような殺滅又は溶解されるべき病的又は異常細胞の除去を目的とした、副作用も少ない治療薬の製造に有用な化合物を提供する。
【0029】
従って、本発明は、細胞結合因子に化学的に連結でき、保護基が放出されると親化合物CC−1065の高い細胞毒性を維持しているCC−1065の類似体及び誘導体のプロドラッグの合成を教示する。さらに、活性化されると、これらの化合物は、細胞結合因子に連結されている場合、細胞結合因子が結合する細胞に対して細胞毒性を発揮し、非標的細胞に対しては極めて低毒性である。
【0030】
本発明のプロドラッグ
本発明によるプロドラッグは、分子のアルキル化部分のフェノール基が保護されているCC−1065の類似体を含み、該プロドラッグはさらに、該プロドラッグを細胞結合因子に複合することができるリンカーを含む。該プロドラッグは、アミド結合を介して連結された第一及び第二のサブユニットを含みうる。
【0031】
本発明のある態様に従って、CC−1065類似体のプロドラッグは、オープン(open)クロロメチル形のseco−CBI(シクロプロパベンズインドールユニット)である第一のサブユニットを有し、前記第一のサブユニットは、インビボで切断できる水溶性保護基によって保護されているフェノール性ヒドロキシルを有する。本発明のある態様のプロドラッグの第二のサブユニットは、2−カルボキシ−インドール又は2−カルボキシ−ベンゾフラン誘導体、又は両方であり、式(II)〜(IX)で表されるCC−1065(図1)のB及びCの結合サブユニットの類似体を含む。天然のCC−1065からも公表されている類似体の性質からも確認できるように{例えば、Warpehoskiら、31 J.Med.Chem.590−603(1988)、Bogerら、66 J.Org.Chem.6654−6661(2001)}、B及びCサブユニットは、式(II)〜(IX)のR〜Rの位置に対応するインドール又はベンゾフラン環の異なる位置で異なる置換基を持つこともでき、その場合でも強力な細胞毒活性を保持している。
【0032】
CC−1065類似体のプロドラッグを細胞結合因子に連結するには、該プロドラッグはまず、ジスルフィド結合、酸に不安定な基、光に不安定な基、ペプチダーゼに不安定な基、又はエステラーゼに不安定な基のような切断可能な連結を介して該誘導体を細胞結合因子に連結させる部分を含まなくてはならない。プロドラッグ類似体は、該類似体を、例えばジスルフィド結合、酸に不安定な基、光に不安定な基、ペプチダーゼに不安定な基、又はエステラーゼに不安定な基を介して細胞結合因子に連結するのに必要な部分を含有するように製造される。水溶液中での溶解性をさらに向上させるために、該連結基はポリエチレングリコールスペーサーを含有することができる(図3)。
【0033】
好ましくはジスルフィド連結が使用される。なぜならば、標的細胞の還元環境がジスルフィドの切断とプロドラッグ(又は薬物、プロドラッグが細胞結合因子から切断されるのと保護基の加水分解の相対的順序による)の放出をもたらし、随伴して細胞毒性も増大するからである。
【0034】
更に詳しくは、本発明のある態様に従って、CC−1065の類似体のプロドラッグは、第一及び第二のサブユニットを含み、それらは第一のサブユニットのピロール部分の第二級アミノ基から式(II)〜(IX)を有する第二のサブユニットのC−2カルボキシ基へのアミド結合を介して共有結合している。
【0035】
式(II)〜(IX)中、Rは、CC−1065類似体のプロドラッグの細胞結合因子への連結を可能にする部分を表す。該連結部分はポリエチレングリコールスペーサーを含有していてもよい。例としては、ジスルフィド結合、酸に不安定な基、光に不安定な基、ペプチダーゼに不安定な基、又はエステラーゼに不安定な基を介する連結を可能にする部分などで、当該技術分野で周知である{例えば、米国特許第5,846,545号(引用によって本明細書に援用する)参照}。好適な部分はジスルフィド結合を介する連結を可能にする部分で、例えばチオール(DC1、DC2、DC3、DC4、DC5、DC6、DC7)又はジスルフィド(DC1−SMe、DC2−SMe、DC3−SMe、DC4−SMe、DC5−SMe、DC6−SMe、DC7−SMe、図2〜6参照)である。任意の末端脱離基を含有する混合ジスルフィド、例えばチオメチル(DC1−SMe、DC2−SMe、DC3−SMe、DC4−SMe、DC5−SMe、DC6−SMe、DC7−SMe)、グルタチオン、アルキルチオール、チオピリジル、アリールチオールなども、そのようなジスルフィドがプロドラッグと細胞結合因子とのカップリングのためにジスルフィド交換反応を受けることが可能であれば、使用することができる。Rは、場合により、連結可能部分の反応基と2−カルボキシ−インドール又は2−カルボキシ−ベンゾフラン誘導体部分との間に挟まれたスペーサー領域をさらに含むこともできる。好適な態様は、NHCO(CHSZ、NHCOC(CHSZ、又はO(CHSZ、NHCO(CH(OCHCHSZ、NHCOC(CH(OCHCHSZ、又はO(CH(OCHCHSZなどで、式中、ZはH又はSRを表し、Rは、メチル、直鎖アルキル、分枝アルキル、環状アルキル、単純又は置換アリール又はヘテロサイクリックを表し、mは1〜10の整数を表し、nは4〜1000の整数を表す。Rで表される直鎖アルキルの例は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル及びヘキシルなどである。Rで表される分枝アルキルの例は、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル及び1−エチル−プロピルなどである。Rで表される環状アルキルの例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシルなどである。Rで表される単純アリールの例は、フェニル及びナフチルなどである。Rで表される置換アリールの例は、アルキル基、Cl、Br、Fのようなハロゲン、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、カルボン酸基、ヒドロキシ基及びアルコキシ基で置換されたフェニル又はナフチルのようなアリールなどである。Rで表されるヘテロサイクリックは、ヘテロ原子がO、N、及びSから選ばれる化合物で、例は、フリル、ピロリル、ピリジル、(例えば2−置換ピリミジン基)及びチオフェンなどである。Rの最も好適な態様は、NHCO(CHSH及びNHCO(CH)2SSCH、NHCO(CH(OCHCHSH及びNHCO(CH(OCHCHSSCHなどである。
【0036】
式(II)〜(IX)中、R〜Rは、同じでも異なっていてもよいが、独立して、水素、C〜C直鎖アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、第一級アミノ、第二級アミノ、第三級アミノ、又はアミドを表す。第一級アミノ基含有置換基の例は、メチルアミノ、エチルアミノ、及びイソプロピルアミノである。第二級アミノ基含有置換基の例は、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、及びエチル−プロピルアミノである。第三級アミノ基含有置換基の例は、トリメチルアミノ、トリエチルアミノ、及びエチル−イソプロピル−メチルアミノである。アミド基の例は、N−メチル−アセトアミド、N−メチル−プロピオンアミド、N−アセトアミド、及びN−プロピオンアミドなどである。
【0037】
式(II)〜(IX)中、Rは、seco−シクロプロパベンズインドール含有細胞毒性薬の水溶性を高めるインビボ切断可能保護基である。好適なインビボ切断可能保護基の例は、ピペラジノカルバメート、4−ピペリジノ−ピペリジノカルバメート及びホスフェート、並びにそれらの誘導体である。従って、ピペラジノカルバメート及び4−ピペリジノ−ピペリジノカルバメート保護基は、血清及び血漿中に存在するカルボキシルエステラーゼのような酵素によって酵素切断される。ホスフェート保護基は、アルカリホスファターゼのようなホスファターゼ酵素によって切断可能である。
【0038】
本発明のジスルフィド含有及びメルカプト含有CC−1065類似体のプロドラッグは、活性化された後にのみ、インビトロで各種の望まざる細胞株の増殖を抑制するそれらの能力について評価できる。例えば、ホスホリル基含有プロドラッグ、例えばDC4は、市販のアルカリホスファターゼとのインキュベーションによって活性化でき、一方カルバメート含有プロドラッグ、例えばDC3及びDC4は、市販のカルボキシルエステラーゼとのインキュベーションによって活性化できる。細胞株は、例えば、ヒト類表皮がん株KB、ヒト乳腫瘍株SK−BR−3、及びバーキットリンパ腫株Namalwaのような細胞株が、これらの化合物の細胞毒性の評価に容易に使用できる。評価される細胞は化合物に24時間暴露し、細胞の生存画分を公知法によって直接アッセイで測定することができる。IC50値は、次にそのアッセイの結果から算出できる。
【0039】
細胞結合因子の製造
本発明のプロドラッグ化合物の治療薬としての有効性は、適切な細胞結合因子の注意深い選択にかかっている。細胞結合因子は、現在知られている又は知られるようになったいずれの種でもよく、ペプチド及び非ペプチドを含む。一般的に、これらは、抗体(特にモノクロナール抗体)又は少なくとも一つの結合部位を含有する抗体フラグメント、リンホカイン、ホルモン、増殖因子、栄養素輸送分子(例えばトランスフェリン)、又は任意のその他の細胞結合分子又は物質でありうる。
【0040】
使用できる細胞結合因子のより具体的な例は:
モノクロナール抗体;
一本鎖抗体;
Fab、Fab’、F(ab’)及びFのような抗体のフラグメント{Parham,131 J.Immunol.2895−2902(1983);Springら、113 J.Immunol.470−478(1974);Nisonoffら、89 Arch.Biochem.Biophys.230−244(1960)};
インターフェロン;
ペプチド;
IL−2、IL−3、IL−4、IL−6のようなリンホカイン;
インスリン、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)、MSH(メラニン細胞刺激ホルモン)、アンドロゲン及びエストロゲンのようなステロイドホルモンなどのホルモン;
EGF、TGFα、インスリン様増殖因子(IGF−I、IGF−II)、G−CSF、M−CSF及びGM−CSF{Burgess,5 Immunology Today 155−158(1984)}のような増殖因子及びコロニー刺激因子;
葉酸のようなビタミン、及び
トランスフェリン{O’Keefeら、260 J.Biol.Chem.932−937(1985)}
などである。
【0041】
モノクロナール抗体技術により、特異的モノクロナール抗体の形態で極めて選択的な細胞結合因子の製造が可能である。当該技術分野で特によく知られているのは、マウス、ラット、ハムスター又は任意のその他の哺乳動物を問題の抗原、例えば無傷標的細胞、標的細胞から単離した抗原、ホール(whole)ウィルス、弱毒ホールウィルス、及びウィルスコートタンパク質のようなウィルスタンパク質で免疫感作することによって製造されるモノクロナール抗体製造技術である。
【0042】
適切な細胞結合因子の選択は、標的にされる特定の細胞集団によって決まる選択の問題であるが、一般的に、適切なのが利用できればモノクロナール抗体が好適である。
例えば、モノクロナール抗体MY9は、CD33抗原に特異的に結合するマウスIgG抗体であり{J.D.Griffinら、8 Leukemia Res.,521(1984)}、標的細胞が、急性骨髄性白血病(AML)の疾患の場合のようにCD33を発現していれば使用できる。同様に、モノクロナール抗体抗B4は、B細胞上のCD19抗原に結合するマウスIgGであり{Nadlerら、131 J.Immunol.244−250(1983)}、標的細胞がB細胞又は非ホジキンリンパ腫又は慢性リンパ芽球性白血病のようにこの抗原を発現している病的細胞であれば使用できる。
【0043】
さらに、骨髄細胞に結合するGM−CSFは、急性骨髄性白血病の病的細胞に対する細胞結合因子として使用できる。活性化T細胞に結合するIL−2は、移植片拒絶反応の予防、移植片対宿主疾患の療法及び予防、そして急性T細胞白血病の治療に使用できる。メラニン細胞に結合するMSHは黒色腫の治療に使用できる。
【0044】
プロドラッグ複合体の製造
プロドラッグと細胞結合因子の複合体は、現在知られている又は後に開発される任意の技術を用いて形成できる。seco−CBI類似体に結合させたインドリル、ベンゾフラニル、ビス−インドリル、ビス−ベンゾフラニル、インドリル−ベンゾフラニル、又はベンゾフラニル−インドリル誘導体は、遊離アミノ基を含有するように製造し、次いで酸に不安定なリンカーを介して、又は光に不安定なリンカーによって抗体又は他の細胞結合因子に連結させることができる。プロドラッグ化合物を適切な配列を有するペプチドと縮合させ、その後細胞結合因子に連結させるとペプチダーゼに不安定なリンカーを製造することができる。細胞毒性化合物を、スクシニル化できる第一級ヒドロキシル基を含有するように製造し、細胞結合因子に連結させると細胞内エステラーゼによって切断されて遊離プロドラッグを放出できる複合体が製造できる。好ましくは、プロドラッグ化合物は、PEG含有スペーサーがある場合もない場合も、遊離又は保護チオール基を含有するように合成し、次いで一つ以上のジスルフィド又はチオール含有プロドラッグをそれぞれ細胞結合因子にジスルフィド結合を介して共有結合させる。
【0045】
本発明の代表的複合体は、CC−1065類似体のプロドラッグと抗体、抗体フラグメント、上皮増殖因子(EGF)、メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、エストロゲン、エストロゲン類似体、アンドロゲン、及びアンドロゲン類似体との複合体である。
【0046】
CC−1065類似体のプロドラッグと細胞結合因子との各種複合体の代表的製造例を以下に記載する。
ジスルフィドリンカー:小細胞肺がん細胞表面に発現されるCD−56抗原に結合する抗体N901{J.D.Griffin,T.Hercend,R.Beveridge & S.F.Schlossman,J.Immunol,130:2947(1983)}は、複合体の製造に使用できる。該抗体を以前の報告通りN−スクシンイミジル−3−ピリジルジチオプロピオネートで修飾し{J.Carlsson,H.Drevin & R.Axen,Biochem.J.,173:723(1978)}、抗体分子1個につき平均4個のピリジルジチオ基を導入する。該修飾抗体をチオール含有プロドラッグと反応させてジスルフィド連結複合体を製造する。
【0047】
酸に不安定なリンカー:本発明のアミノ基含有プロドラッグは、以前の報告通り酸に不安定なリンカーを介して抗体及び他の細胞結合因子に連結させることができる{W.A.Blattlerら、Biochemistry 24,1517−1524(1985);米国特許第4,542,225号、4,569,789号、4,618,492号、4,764,368号}。
【0048】
同様に、本発明のヒドラジド基含有プロドラッグは、酸に不安定なヒドラゾンリンカーを介して抗体及び他の細胞結合因子の炭水化物部分に連結させることができる{ヒドラゾンリンカーの例については、B.C.Laguzzaら、J.Med.Chem.,32,548−555(1989);R.S.Greenfieldら、Cancer Res.,50,6600−6607(1990)参照}。
【0049】
光に不安定なリンカー:本発明のアミン基含有プロドラッグは、以前の報告通り光に不安定なリンカーを介して抗体及び他の細胞結合因子に連結してもよい{P.Senterら、Photochemistry and Photobiology,42,231−237(1985);米国特許第4,625,014号}。
【0050】
ペプチダーゼに不安定なリンカー:本発明のアミン基含有プロドラッグは、ペプチドスペーサーを介して細胞結合因子に連結してもよい。薬物と高分子タンパク質担体間の短ペプチドスペーサーは血清中では安定であるが、細胞内ペプチダーゼによって容易に加水分解されることがこれまでに示されている{A.Trouetら、Proc.Natl.Acad.Sci.,79,626−629(1982)}。アミノ基含有プロドラッグを、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド−HCl(EDC−HCl)のような縮合剤を用いてペプチドと縮合させてペプチド誘導体を製造し、これを細胞結合因子に連結すればよい。
【0051】
エステラーゼに不安定なリンカー:ヒドロキシアルキル基を持つ本発明のプロドラッグを無水コハク酸でスクシニル化し、次いで細胞結合因子に連結すると、細胞内エステラーゼで切断されて遊離薬物を放出できる複合体が製造できる{例えば、E.Aboud−Pirakら、Biochem Pharmacol.,38,641−648(1989)参照}。
【0052】
上記方法で製造した複合体は、標準のカラムクロマトグラフィー又はHPLCによって精製できる。
好ましくは、モノクロナール抗体又は細胞結合因子と本発明のプロドラッグ間の複合体は、前述のようにジスルフィド結合を介して合体させたものである。そのような細胞結合複合体は、スクシンイミジルピリジル−ジチオプロピオネート(SPDP)でモノクロナール抗体を修飾するような公知法によって製造される{Carlssonら,173 Biochem.J.723−737(1978)}。得られたチオピリジル基を次にチオール含有プロドラッグで処理して置換するとジスルフィド連結複合体が得られる。ジスルフィド架橋を介して連結された1〜10個のプロドラッグを含有する複合体はこの方法で容易に製造される。この方法による複合は米国特許第5,585,499号に十分に記載されている。前記特許は引用により本明細書に援用する。
【0053】
細胞結合因子と本発明のプロドラッグ間の複合体のインビトロ細胞毒性
本発明のプロドラッグ及びそれらの細胞結合因子との複合体の細胞毒性は、保護基を切断し活性薬物に転化してから測定できる。Namalwa及びSW2のような非付着細胞株に対する細胞毒性は、Goldmacherら、135 J.Immunol.3648−3651(1985)に記載のように、細胞増殖曲線の後方補外(back-extrapolatiion)によって測定できる。A−375及びSCaBERのような付着細胞株に対するこれらの化合物の細胞毒性は、Goldmacherら、102 J.Cell Biol.1312−1319(1986)に記載のように、クローン形成アッセイ(clonogenic assay)によって測定できる。
【0054】
選択された細胞集団の成長を抑制するための治療薬及び方法
本発明は選択された細胞集団の成長を抑制するための治療薬も提供する。該治療薬は、
(a)細胞毒量の、細胞結合因子に連結された一つ以上の上記プロドラッグ、及び
(b)製薬学的に許容しうる担体、希釈剤又は賦形剤
を含む。
【0055】
同様に、本発明は選択された細胞集団の成長を抑制するための方法も提供し、該方法は、前記選択細胞集団由来の細胞を含有すると思われる細胞集団又は組織を、細胞結合因子に連結された一つ以上の上記プロドラッグを含む細胞毒量の細胞毒性薬と接触させることを含む。
【0056】
細胞毒性薬は前述のように製造する。
製薬学的に許容しうる適切な担体、希釈剤、及び賦形剤は周知であり、臨床状況の許可するところ(clinical situation warrants) に応じて当業者が決定できる。
【0057】
適切な担体、希釈剤及び/又は賦形剤の例は、(1)約1mg/ml〜25mg/mlのヒト血清アルブミンを含有するダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(pH約7.4)、(2)0.9%生理食塩水(0.9%w/v NaCl)、及び(3)5%(w/v)デキストロースなどである。
【0058】
選択された細胞集団の成長抑制法は、インビトロ、インビボ、又はエクスビボで実施できる。
インビトロでの使用例は、標的抗原を発現していない望ましい変異株以外の全細胞を殺滅する;又は望まざる抗原を発現している変異株を殺滅するために細胞培養物を処理することなどである。
【0059】
非臨床的インビトロの条件は当業者によって容易に決定される。
エクスビボでの使用例は、病的又は悪性細胞を殺滅するために自己骨髄を処理してから同じ患者に移植すること;コンピテントT細胞を殺滅して移植片対宿主疾患(GVHD)を予防するために骨髄を処理してからそれらを移植することなどである。
【0060】
がんの治療又は自己免疫疾患の治療で自己移植前に骨髄から腫瘍細胞又はリンパ系細胞を除去する、又はGVHD予防のために移植前に同種骨髄又は組織からT細胞及び他のリンパ系細胞を除去するための臨床的エクスビボ治療は、以下のように実施できる。患者又はその他の個人から骨髄を採取し、次いで本発明の細胞毒性薬(濃度範囲約10μM〜1pM)を加えた血清含有培地中で、約37℃で約30分〜約48時間インキュベートする。濃度及びインキュベーション時間の正確な条件(=用量)は当業者によって容易に決定される。インキュベーション後、骨髄細胞を血清含有培地で洗浄し、公知法に従って静脈内注入によって患者に戻す。患者が、骨髄採取と処理細胞再注入の時間の間に外科的化学療法又は全身照射コースなどのその他の治療を受ける場合、処理された骨髄細胞は標準的医療装置を用いて液体窒素中で凍結保存される。
【0061】
臨床的インビボでの使用の場合、本発明の細胞毒性薬は、無菌性及びエンドトキシンレベルについて試験される溶液として、又は注射用滅菌水に再溶解できる凍結乾燥固体として供給されることになろう。複合体投与の適切なプロトコルの例は以下の通りである。複合体は、6週間にわたって毎週静脈内ボーラスとして投与される。ボーラス投与用量を、50〜400mlの生理食塩水に与え、これにヒト血清アルブミン(例えば0.5〜1mLのヒト血清アルブミン濃縮溶液、100mg/mL)を加えることができる。用量は、1週間当たり約50μg〜10mg/kg体重の静脈内注射である(注射当たり10μg〜100mg/kg)。6週間の治療後、患者は2回目のコースの治療を受けてもよい。投与経路、賦形剤、希釈剤、用量、時間などに関する具体的臨床プロトコルは、臨床状況の許可するところに応じて専門家が決定できる。
【0062】
選択された細胞集団を殺滅するインビボ又はエクスビボの方法に従って治療できる医学的状態の例は、あらゆる種類の悪性腫瘍、例えば、肺、乳、結腸、前立腺、腎臓、膵臓、卵巣、及びリンパ器官のがん;黒色腫;自己免疫疾患、例えば全身性狼瘡、リウマチ様関節炎、及び多発性硬化症;移植片拒絶反応、例えば腎移植拒絶反応、肝移植拒絶反応、肺移植拒絶反応、心臓移植拒絶反応、及び骨髄移植拒絶反応;移植片対宿主疾患;ウィルス感染、例えばCMV感染、HIV感染、AIDSなど;細菌感染;及び寄生虫感染、例えばランブル鞭毛虫症、アメーバ症、住血吸虫症、及び当業者が決めるその他などである。
【実施例】
【0063】
実施例
本発明をこれから非制限的実施例を引用することによって説明する。別途記載のない限り、全てのパーセント、比率、部などは重量による。
【0064】
材料及び方法
融点は電熱装置を用いて測定し、補正していない。NMRスペクトルはBruker AVANCE400(400MHz)スペクトロメータで記録した。化学シフトは、内部標準としてTMSに対するppmで報告する。質量スペクトルはBruker Esquire 3000 システムを用いて得た。紫外線スペクトルはHitachi U1200 分光光度計で記録した。HPLCは、Beckman Coulter システム GOLD 168 可変波長検出器及びWaters RADIALPAK(逆相C−18カラム)を備えたBeckman Coulter GOLD 125 システムを用いて実施した。薄層クロマトグラフィーはAnaltech GF シリカゲル TLCプレートで実施した。フラッシュカラムクロマトグラフィー用のシリカゲルはBaker製であった。テトラヒドロフランはナトリウム金属上で蒸留して乾燥させた。ジメチルアセトアミド及びジメチルホルムアミドは減圧下水素化カルシウム上で蒸留して乾燥させた。使用したその他全ての溶媒は試薬級又はHPLC級であった。
【0065】
プロドラッグDC2(2)、DC3(3)及びDC4(4)DC5DC6DC7DC8(図2〜6)の合成をここに記載する。DC2、DC3及びDC4は親薬物DC1から誘導されるが、DC6、DC7及びDC8はPEG化された(pegylatd) 親薬物DC5から製造できる。プロドラッグDC2及びDC3は水溶液中で極めて安定で、血清、血漿中又はカルボキシルエステラーゼのような酵素とインキュベーションすることにより親薬物DC1に転化できる。これらの薬物はDC1と比較した場合に水溶性も向上している。プロドラッグDC4も水溶液中で極めて安定で、さらに可溶性である。DC4をアルカリホスファターゼとインキュベーションすると親薬物DC1に転化される。
【0066】
DC1(1)の、プロドラッグDC2(2)及びDC3(3)への転化の合成スキームを図4に示す。DC1のフェノール置換基は、図3に掲載したいずれか一つの試薬と反応でき、中間体5となる。5をN−メチルピペラジンと反応させるとDC2が得られる。5を4−ピペリジノ−ピペリジンと反応させるとDC3が得られる。
【0067】
DC1は、図6に示すようにプロドラッグDC4に転化された。DC1−SMeを塩基の存在下でジベンジルホスフェート及び四塩化炭素で処理すると中間体4cが得られるが、DC1−SMeをオキシ塩化リンと反応させると中間体4bが得られる。4cのベンジル保護基を水素で除去し、随伴してジスルフィド結合を還元するとDC4が得られた。中間体4bをTCEP又はDTTで還元するとDC4が得られた。
【0068】
(実施例I)
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−メチルピペラジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メチルジチオ−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC2−SMe、2b)の製造
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−ヒドロキシ−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メチルジチオ−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC1SMe)DC1−SMe(1b、40mg、0.058mmol)のTHF(4mL)中溶液に、4−ニトロフェニルクロロホルメート(17mg、0.084mmol)及びジ−イソプロピルエチルアミン(DIPEA、15μl)を加えた。該反応混合物をアルゴン雰囲気下で3時間撹拌した。TLCによる分析で、全てのDC1が消費されてRf値0.45の中間体が形成されたことが示された(移動相は1:2のアセトン/トルエン)。該反応混合物を4−メチルピペラジン(8.3mg、0.084mmol)で処理し、次いでアルゴン下で一晩撹拌した。次に、該混合物をEtOAc/THFの1:1(v/v)混合物(15mL)及びpH5.0の1M NaHPO水溶液(5mL)で希釈した。有機層を分離し、水性層をEtOAc/THF(1:1,4×15ml)で抽出した。有機層を合わせ、MgSO上で乾燥、ろ過、蒸発、シリカゲルクロマトグラフィーによりアセトン/トルエン(3:8)で溶離して精製、そしてTHF/EtOAc/ヘキサンで再結晶化して40mg(収率85%)のDC2−SMe(2b)を得た。Rf=0.31(アセトン/トルエン、3:8);mp=225℃(分解);
【0069】
【数1】

【0070】
(実施例II)
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−メチルピペラジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC2、2a)の製造
トリス−(2−カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド(TCEP、30mg、0.104mmol)のHO(2mL)中溶液をNaHCO粉末でpH7.0に調整した。この溶液に、25mg(0.031mmol)のDMA(3mL)中DC2−SMe(2b)を加えた。2時間撹拌後、数滴のHOAcを加えてpHを3〜4に調整した。該混合物を濃縮し、分取用シリカゲルTLC(1:2のアセトン/トルエンで溶離)を用いて精製し、21mg(90%)のDC2(2a)を得た。
【0071】
【数2】

【0072】
(実施例III)
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−ピペリジノ−ピペリジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メチルジチオ−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC3−SMe、3b)(3b)(DC3−SMe)の製造
DC1−SMe、1b、(50mg、0.073mmol)のTHF(4ml)中溶液に、4−ニトロフェニルクロロホルメート(35mg、0.173mmol)及びDIPEA(50μl)を加えた。アルゴン下で3時間撹拌後、TLC分析で、全てのDC1−SMeが消費されてRf=0.45の中間体が得られたことが示された(1:2のアセトン/トルエン)。該反応混合物を4−ピペリジノ−ピペリジン(40mg、0.21mmol)で処理したところ、重い沈殿物が形成された。混合物を4時間撹拌し、20mlのEtOAc/THF(1:1)及び5mlの1M NaHPO(pH4.5)で希釈した。有機層を分離し、水性層をEtOAc/THF(1:1,4×15ml)で抽出した。有機層を合わせ、MgSO上で乾燥、ろ過、蒸発、シリカゲルクロマトグラフィー(アセトン/トルエン、3:8)で精製、そしてTHF/EtOAc/ヘキサンで結晶化してDC3−SMe(3b、45mg、収率70%)を得た。mp=285℃(分解);[α]=29.7°(DMF中 c0.5);
【0073】
【数3】

【0074】
(実施例IV)
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−ピペリジノ−ピペリジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC3、3a)(3a)(DC3)の製造
TCEP(15.2mg、0.053mmol)のHO(0.7mL)中溶液を13.5mgのNaHCO粉末の添加でpH7.0に調整した。該溶液にDMA(2mL)中DC3−SMe(3b、8.2mg、0.0093mmol)を加え、反応混合物を2時間撹拌した。次に数滴のHOAcを加えてpHを3〜4に調整した。該混合物を濃縮し、分取用シリカゲルTLCを用いアセトン/トルエン(1:2)で溶離して精製し、7mgのDC3(3a)を得た。MS m/z+854.31(M+Na)+、855.31、856.32、857.31。
【0075】
(実施例V)
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−(ホスホノキシ)−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メチルジチオ−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(4b)(DC4−SMe)の製造
DC1−SMe(1b、50mg、0.073mmol)の、THF(5ml)、CHCN(4ml)及びDMA(0.5ml)の混合物中溶液をアルゴン雰囲気下で撹拌した。該混合物に、POCl(80μL)、DIPEA(150μL)及びDMAP(3mg)を順に加えた。2時間の撹拌後、TLC及びHPLC両方の分析からDC1−SMeが完全に消費されたことが示された。pH4.0の1.0M NaHPO水溶液(2ml)を加え、混合物を一晩撹拌した。該混合物をHPOでさらに酸性化してpH2.0にし、NaClで飽和し、THF/EtOAc(1:1、6×15ml)で抽出した。有機層を分離し、濃縮し、残渣をTHF/HO/CHOHで再結晶化して47mg(84%)の標記化合物(DC4−SMe)を得た。
【0076】
【数4】

【0077】
(実施例VI)
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−(ホスホノキシ)−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(4a)(DC4)の製造
TCEP(30mg、0.104mmol)の2mlHO中溶液をNaHCO粉末の添加によってpH6.5〜7.0に調整した。該溶液に3mlのDMA/HO(1:1)中DC4−SMe(26mg、0.034mmol)を加えた。アルゴン下で2時間撹拌した後、数滴の10%HPOを加えてpH2.0にした。次に、該混合物をDMA/EtOAc(1:5、6×10ml)で抽出した。有機層を合わせ、蒸発させ、分取用HPLC(C18カラム、20×250mm、流速=8.0ml/分、移動相:A:HO中0.01%HOAc、B:CHCN中2%DMA;タイムテーブル:0−10’、5%B;20’まで、20%B;50’まで、50%B)により精製した。DC4のピークは30〜38分に溶出された。DC4含有画分をプールし、濃縮し、真空下で乾燥させて22mg(89%)の標記化合物4aを得た。
【0078】
【数5】

【0079】
あるいは、DTT(20mg)の、アセトン(3mL)及び50mM NaHPO緩衝液(3mL、pH7.0)の混合物中溶液に、DC4SMe(22mg、0.028mmol)を加えた。アルゴン下で4時間撹拌後、数滴の5%HPOを加えてpH3.0にした。該混合物を濃縮し、C18カラム(1.0×12cm)で100%水からアセトン中50%水で溶離して精製した。画分をプールし、蒸発乾固して18mg(90%)のDC4(4a)を得た。MS m/z− 716.30、718.30、717.30。
【0080】
(実施例VII)
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−(ジベンジルホスホノキシ)−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メチルジチオ−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(4c)(DC4−SMe ジベンジルホスフェート)の製造
DC1−SMe(50mg、0.073mmol)の10mlTHF/CHCN(1:1)中溶液にアルゴン下で、CCl(100μL、1.036mmol)、DIPEA(55μL、0.316mmol)、ジベンジルホスファイト(100μL、0.452mmol)及びDMAP(0.2mg、0.0016mmol)を順に加えた。アルゴン下で一晩撹拌後、TLC分析によれば反応は完了したようで、Rf=0.37(1:2のアセトン/トルエン中)を有する新生成物が形成された。混合物を5mlの1.0M NaHPO(pH4.0)及びEtOAc(10mL)で希釈した。有機層を分離し、水溶液をTHF/EtOAc(1:1、4×15ml)で抽出した。有機層を合わせ、MgSO上で乾燥、ろ過、蒸発及びシリカゲルクロマトグラフィーでアセトン/トルエン(3:7)で溶離して精製し、62mg(89%)の標記化合物4cを得た。
【0081】
【数6】

【0082】
DC4への転化
フラスコに4c(20mg、0.021mmol)を入れ、Pd/C(15mg)、氷酢酸(100μl)及びDMA(4ml)で処理した。系を真空吸引で真空排気し、次いで水素充填バルーンを通じて水素下で一晩撹拌した。触媒をろ過除去し、溶媒を蒸発させ、残渣を前述のような分取用HPLCで精製して6mg(39%)のDC4(4a)を得た。MS m/z 716.48(M−H)、717.48、718.50。
【0083】
(実施例VIII)
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−ヒドロキシ−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−ニトロ−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC0、10a)の製造
5−ヒドロキシ−3−アミノ−1−[S]−(クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−3H−ベンズ(e)インドール塩酸塩[seco−(−)CBI、20mg、0.72mmol]及び5−[5’−ニトロインドール−2’−イル−カルボニルアミノ]インドール−2−カルボン酸(9、25mg、0.068mmol)のDMA(3mL)中溶液に、アルゴン下でEDC(40mg、0.20mmol)を加えた。一晩撹拌後、数滴の50%HOAcを加え、混合物を蒸発乾固して分取用シリカゲルTLCクロマトグラフィー(トルエン中40%アセトン)で精製して25mgのDC0(10a)を得た。
【0084】
【数7】

【0085】
(実施例IX)
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−ヒドロキシ−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メチルジチオ−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド、DC1SMe(1b)の製造
フラスコに、10a(10mg、0.017mmol)、Pd/C(10mg)、HCl(濃、3μl)及びDMA(2.5ml)を入れた。空気を排気した後、水素バルーンによって水素を一晩導入した。触媒をろ過除去し、溶媒を蒸発させて10bを褐色固体として得た。該固体化合物はこれ以上精製せずにそのまま使用した。
【0086】
DMA(2mL)中の10bに、3−(メチルジチオ)プロピオン酸(5mg、0.032mmol)及びEDC(15mg、0.078mmol)をアルゴン下で加えた。一晩撹拌後、2滴の50%HOAcを加え、混合物を蒸発乾固して分取用シリカゲルTLC(トルエン中40%アセトン)で精製して6mgのDC1−SMe(1b)を得た。Rf=0.40(3:7のアセトン/トルエン);
【0087】
【数8】

【0088】
(実施例X)
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−ヒドロキシ−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(15”−メチルジチオ−4”,7”,10”,13”−テトラオキサペンタデシル−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド(DC5−SMe)の製造
10b(50mg、0.091mmol)のDMA(5mL)中溶液に、15”−メチルジチオ−4”,7”,10”,13”−テトラオキサペンタデカン酸(33mg、0.100mmol)及びEDC(88mg、0.459mmol)をアルゴン下で加えた。一晩撹拌後、2滴の50%HOAcを混合物に加え、該混合物を蒸発乾固し、シリカゲルクロマトグラフィー(トルエン中30%アセトン)で精製してDC5−SMeを得た。
【0089】
いくつかの特許及び刊行物を本開示中に引用したが、それらの教示内容はこれを以てそれぞれの全内容が引用によって本明細書に取り込まれる。
本発明をその特定の態様について詳細に説明してきたが、本発明の精神及び範囲から離れることなく多様な変形が可能であることは当業者には明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CC−1065の類似体を含むプロドラッグであって、該分子のアルキル化部分のフェノール基は保護されており、前記プロドラッグは、前記プロドラッグを細胞結合因子に複合させることができるリンカーをさらに含むプロドラッグ。
【請求項2】
前記リンカーが、チオール又はジスルフィド結合を含む、請求項1に記載のプロドラッグ。
【請求項3】
前記保護基が、前記プロドラッグの水溶性を増大させる、請求項1に記載のプロドラッグ。
【請求項4】
前記保護基が、ピペラジノカルバメート、4−ピペリジノ−ピペリジノカルバメート及びホスフェートからなる群から選ばれる、請求項3に記載のプロドラッグ。
【請求項5】
前記リンカーが、式−(−O(CH−[式中、nは2〜1000の整数]のポリエチレングリコールを含む、請求項1に記載のプロドラッグ。
【請求項6】
請求項1のプロドラッグ及び製薬学的に許容しうる担体を含む組成物。
【請求項7】
seco−シクロプロパベンズインドール含有細胞毒性薬の類似体を含むプロドラッグであって、式(I)の第一のサブユニットと式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII)又は(IX)の第二のサブユニットが、第一のサブユニットのピロール部分の第二級アミノ基から第二のサブユニットのC−2カルボキシルへのアミド結合を介して共有結合して形成された類似体からなる群から選ばれ、
式(I)は次の通りであり:
【化1】

式(II)〜(IX)は次の通りであり:
【化2】

【化3】

式中、Rは、前記プロドラッグの細胞結合因子への連結を可能にする部分を表し;R〜Rは、それぞれ独立して、水素、C〜C直鎖アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、第一級アミノ、第二級アミノ、第三級アミノ、又はアミドであり;そしてRは酵素切断可能な保護基であるプロドラッグ。
【請求項8】
Rがチオール又はジスルフィド結合を含む、請求項7に記載のプロドラッグ。
【請求項9】
〜Rが水素である、請求項7に記載のプロドラッグ。
【請求項10】
が、ピペラジノカルバメート、4−ピペリジノ−ピペリジノカルバメート及びホスフェートからなる群から選ばれる、請求項7に記載のプロドラッグ。
【請求項11】
Rが、ジスルフィド結合を介して該プロドラッグの細胞結合因子への連結を可能にする部分を表す、請求項10に記載のプロドラッグ。
【請求項12】
前記第二のサブユニットが式(II)で表され、式中、R〜Rが水素である、請求項10に記載のプロドラッグ。
【請求項13】
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−メチルピペラジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メチルジチオ−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド、又はその塩もしくは異性体である、請求項12に記載のプロドラッグ。
【請求項14】
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−メチルピペラジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド、又はその塩もしくは異性体である、請求項12に記載のプロドラッグ。
【請求項15】
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−ピペリジノ−ピペリジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メチルジチオ−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド、又はその塩もしくは異性体である、請求項12に記載のプロドラッグ。
【請求項16】
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−[(4−ピペリジノ−ピペリジノ)カルボニルオキシ]−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド、又はその塩もしくは異性体である、請求項12に記載のプロドラッグ。
【請求項17】
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−(ホスホノキシ)−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メチルジチオ−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド、又はその塩もしくは異性体である、請求項12に記載のプロドラッグ。
【請求項18】
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−(ホスホノキシ)−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド、又はその塩もしくは異性体である、請求項12に記載のプロドラッグ。
【請求項19】
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−(ジベンジルホスホノキシ)−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メチルジチオ−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド、又はその塩もしくは異性体である、請求項12に記載のプロドラッグ。
【請求項20】
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−ヒドロキシ−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−ニトロ−1H−インドール−2−カルボキサミド、又はその塩もしくは異性体である、請求項12に記載のプロドラッグ。
【請求項21】
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−ヒドロキシ−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(3−メチルジチオ−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド、又はその塩もしくは異性体である、請求項12に記載のプロドラッグ。
【請求項22】
(S)−N−[2−{(1−クロロメチル)−1,2−ジヒドロ−5−ヒドロキシ−3H−ベンズ(e)インドール−3−イル}カルボニル]−1H−インドール−5−イル]−5−[(15”−メチルジチオ−4”,7”,10”,13”−テトラオキサペンタデシル−1−オキソプロピル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボキサミド、又はその塩もしくは異性体である、請求項12に記載のプロドラッグ。
【請求項23】
請求項1又は請求項7の一つ以上のプロドラッグに連結された細胞結合因子を含むプロドラッグ複合体。
【請求項24】
前記細胞結合因子が抗体又はそのフラグメントである、請求項23に記載のプロドラッグ複合体。
【請求項25】
請求項7のプロドラッグ及び製薬学的に許容しうる担体を含む組成物。
【請求項26】
患者の治療法であって、その必要のある患者に有効量の請求項6又は25の組成物を投与することを含む方法。
【請求項27】
患者の治療法であって、その必要のある患者に有効量の請求項24のプロドラッグ複合体を投与することを含む方法。
【請求項28】
前記リンカーが、式−(−O(CH−[式中、nは2〜1000の整数]のポリエチレングリコールを含む、請求項7に記載のプロドラッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−229151(P2010−229151A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136274(P2010−136274)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【分割の表示】特願2003−583343(P2003−583343)の分割
【原出願日】平成15年3月20日(2003.3.20)
【出願人】(504039155)イミュノジェン・インコーポレーテッド (36)
【Fターム(参考)】