説明

DNAタグによる生物の同定方法

【課題】 多大な労力を伴う従来のDNAによる生物同定方法に代わる新たな生物同定方法を提供する。
【解決手段】 特定生物又はその生物の子孫であるかどうかを同定する方法であって、予め前記特定生物又はそれに寄生若しくは共生する生物の細胞にDNAタグを導入しておき、同定対象とする生物又はそれに寄生若しくは共生する生物から抽出したDNAから前記DNAタグが検出されるかどうかにより、前記同定対象生物が前記特定生物又はその生物の子孫であるかどうかを判定することを特徴とする生物の同定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAタグを用いた生物の同定方法に関し、より具体的には、特定の塩基配列の検出により、個体、種、生息地などを同定する方法に関する。さらに具体的には、予め特定の塩基配列を意図的に検査対象に付加しておき、後にこれを検出することで個体、種、生息地などを同定する方法に関する。生物が持つDNAの塩基配列は、個体、種、生息地等ごとに異なるので、本発明の同定方法を利用することにより、生物の個体、種、生息地等を判別することができる。また、最近、食品に添付表示しているシールの偽装や遺伝子組換え体の食品への混入などが社会問題になっているが、本発明の同定方法は、これらの偽装や混入の判定などに利用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、食の安心・安全の観点から、農産物の産地判定や品種鑑別などの鑑定の必要性が増してきているが、外観だけでは産地や品種が同定できず、鑑定結果が出せない場合も多いため、最近では、DNAを用いた同定方法が用いられ始めている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
現在、DNAを用いて産地や品種の鑑別を行うには、産地や品種ごとに塩基配列の異なるDNAの部位を予め検索して決定しておき、実際の産地や品種の鑑別に際しては、検査対象となる生物のDNAのその部位の塩基配列を塩基配列解析やPCR−RFLPなどの手法で解析し、得られた塩基配列がどの産地または品種のものと同じであるかを、判別することが必要である。これまで、そのような同定に使用するDNAの部位を決定するには、同定対象の生物がもともと持っているDNAの中で、ほかの生物とは異なる塩基配列を持つ部位を探してきた(例えば、特許文献1、2、参照)。具体的には、たとえばイチゴの品種鑑別に用いるDNA部位を決定するには、まず例えば「とよのか」という同じ品種のイチゴを多数集めてそれぞれからDNAを抽出し、それぞれのDNAをいろいろな制限酵素で個別に切断した後個別に電気泳動して切断パターンを得る。次に、「とよのか」と判別したい「とちおとめ」という品種のイチゴを多数集めてそれぞれからDNAを抽出し、それぞれのDNAをいろいろな制限酵素で個別に切断した後個別に電気泳動して切断パターンを得る。その後、「とよのか」と「とちおとめ」のそれぞれの制限酵素の切断パターン同士を比較して、「とよのか」と「とちおとめ」で切断パターンが異なるものを探す。同じ制限酵素で異なる切断パターンを示すのは、制限酵素で切断できる塩基配列のある場所が、「とよのか」と「とちおとめ」で異なっているためである。そこで、この異なる切断パターンを示すDNAの部位を、「とよのか」と「とちおとめ」を判別するための部位と決定する。したがって現在、産地や品種を判別するためのDNAの部位を決定するには、膨大な時間、費用、労力が必要である。実際に産地や品種を判別する場合には、検査対象とする生物から抽出したDNAを「とよのか」と「とちおとめ」で異なる切断パターンを示す制限酵素で切断した後電気泳動して、得られた切断パターンが「とよのか」と「とちおとめ」のどちらのパターンを示すか判別をおこない、検査対象生物が「とよのか」と「とちおとめ」のどちらであるかを鑑定する。したがって、実際の産地や品種の鑑定の手法は、最初に「とよのか」と「とちおとめ」を判別するための部位を決定した手法と同じ方法を用いている。
【0004】
一方、現在試験的に行われている遺伝子組換えによる遺伝子治療や品種改良に際しては、有益な機能を発揮する遺伝子や遺伝子発現ユニットを対象内に導入して安定的に保持させ、かつ、それらの遺伝子や遺伝子発現ユニットが対象内に保持されていることを検出する、様々な手法が開発され、実用化されている(例えば、非特許文献2〜4)。
【0005】
【特許文献1】特許公開2002-112774
【特許文献2】特許公開2004-344004
【非特許文献1】平成18年7月21日農林水産省プレスリリース 平成17年産米農産物検査のDNA分析による品種判別調査結果について<http://www.maff.go.jp/www/press/2006/20060721press_3.pdf>
【非特許文献2】Sambrook J & Russell DW : Chapter16 Introducing Cloned Genes into Cultured Mammalian Cells. Molecular Cloning : A laboratory manual. 3rd Ed. 2001;pp16.1-16.62.
【非特許文献3】Sambrook J & Russell DW Protocol : Introduction to Southern hybridization (Protocols 8-10) In : Chapter6 Preparation and analysis of eukaryotic genomic DNA. Molecular Cloning : A laboratory manual. 3rd Ed. 2001; pp6.33-6.38.
【非特許文献4】Sambrook J & Russell DW Protocol 28 Screening bacterial colonies by hybridization: Small numbers. In : Chapter1 Plasmids and their usefulness in Molecular Cloning.. Molecular Cloning : A laboratory manual. 3rd Ed. 2001; pp1.1-1.142.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在DNAを用いた同定に使用されている、他のものが持つDNAの塩基配列と同定対象が持つDNAの塩基配列とをそれぞれ解析した上でそれらを相互に比較し、同定対象に固有のDNAの塩基配列を決定して、このDNAの配列を検出することで同定を行う方法は、多くの種類の塩基配列の解析と比較の作業に、大変な労力と時間および費用を必要とする。
本発明は、このような多大な労力を伴う同定方法に代わる新たな生物の同定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、同定対象に特異的な塩基配列を容易に決定し同定するために、特定のDNAの塩基配列をDNAタグとして設定し、この特定のDNAの塩基配列を検出することにより、現行の方法よりもはるかに労力と時間および費用が節約できることを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(7)を提供するものである。
【0008】
(1)特定生物又はその生物の子孫であるかどうかを同定する方法であって、予め前記特定生物又はそれに寄生若しくは共生する生物の細胞にDNAタグを導入しておき、同定対象とする生物又はそれに寄生若しくは共生する生物から抽出したDNAから前記DNAタグが検出されるかどうかにより、前記同定対象生物が前記特定生物又はその生物の子孫であるかどうかを判定することを特徴とする生物の同定方法。
(2)細胞へのDNAタグの導入が、ゲノムDNAへのDNAタグの挿入であることを特徴とする(1)に記載の生物の同定方法。
(3)DNAタグを、ゲノムDNA中の機能を持たない部位に挿入することを特徴とする(2)に記載の生物の同定方法。
(4)1種類のDNAタグをゲノムDNA中の1箇所以上の部位へ挿入することを特徴とする(2)又は(3)に記載の生物の同定方法。
(5)複数種類のDNAタグをゲノムDNA中の1箇所以上の部位へ挿入することを特徴とする(2)又は(3)に記載の生物の同定方法。
(6)DNAタグの塩基配列が、DNAタグを導入する生物のゲノムDNA中には本来存在しない塩基配列であることを特徴とする(2)乃至(5)のいずれかに記載の生物の同定方法。
(7)DNAタグの塩基配列が、DNAタグを導入する生物のゲノムDNA中に存在する塩基配列であって、その生物に本来存在しない部位にDNAタグを挿入することを特徴とする(2)乃至(5)のいずれかに記載の生物の同定方法。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)及び(2)の方法のように、特定生物に、予め特定の塩基配列を持つDNAタグを導入しておくことにより、多大な労力と時間および費用を使わずに、同定に用いるDNAの塩基配列を決定することができる。また、特定生物に寄生若しくは共生しうる生物に、予め特定の塩基配列を持つDNAタグを導入しておき、その生物を特定生物に寄生若しくは共生させた後、そのDNAタグを検出することにより、特定生物に直接DNAタグを導入することが困難な場合にも、間接的にDNAタグを導入することが出来る。
また、上記(3)の方法のように、DNAタグを、特定生物のゲノムDNA中の機能を持たない部位に挿入することにより、特定生物の性質を何も変化させることなく、DNAタグを付けることが出来る。
【0010】
また、上記(4)の方法のように、1種類のDNAタグを、特定生物のゲノムDNAの複数個所へ挿入することにより、DNAタグの種類や挿入場所を変化させることで多数のDNAタグのパターンを作成することが出来、それらを多種類の同定対象にそれぞれ用いて同定することが出来る。
また、上記(5)の方法のように、複数種類のDNAタグを特定生物のゲノムDNAの複数個所へ挿入することにより、DNAタグのコピー数や挿入場所を変化させることで多数のDNAタグのパターンを作成することが出来、それらを多種類の特定生物にそれぞれ用いて同定することが出来る。また、偶発的な組換えなどにより一部のDNAタグが脱落しても残存するDNAタグを用いて同定が出来る。
【0011】
また、上記(6)の方法のように、特定生物が本来持っていないDNAの塩基配列をDNAタグとして用いることにより、特定生物におけるDNAタグの有無が明確に同定できる。
また、上記(7)の方法のように、特定生物が本来持っているDNAの一部の塩基配列をDNAタグとして用いることにより、新たな塩基配列を考案する必要がないため、労力と時間および費用を節約してDNAタグを決定することが出来る。また、そのDNAタグを、特定生物に本来存在しない位置に挿入することにより、挿入位置の違いだけを見ることで、DNAタグであるかどうかを見分けることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の生物の同定方法は、特定生物又はその生物の子孫であるかどうかを同定する方法であって、予め前記特定生物又はそれに寄生若しくは共生する生物の細胞にDNAタグを導入しておき、同定対象とする生物又はそれに寄生若しくは共生する生物から抽出したDNAから前記DNAタグが検出されるかどうかにより、前記同定対象生物が前記特定生物又はその生物の子孫であるかどうかを判定することを特徴とするものである。
特定生物は、本発明の同定方法の実施者が任意に決めてよく、例えば、特定の個体、分類学上の特定の単位(品種、種、属など)に属する生物、特定の生息地の生物などを特定生物とすることができる。特定生物は、動物、植物、微生物いずれであってもよく、また、多細胞生物、単細胞生物のいずれであってもよい。
【0013】
DNAタグを導入する細胞は特に限定されないが、導入されたDNAタグがその生物の子孫にまで伝播していくような細胞であることが好ましい。このような細胞としては、例えば、動物細胞であれば受精卵、精子、卵などを挙げることができ、植物細胞であれば、カルスを構成する細胞のような個体に分化可能な細胞を挙げることができる。
DNAタグは、通常は、特定生物に導入するが、特定生物に寄生若しくは共生する生物に導入してもよい。特定生物とそれに寄生等する生物の具体例としては、例えば、ノリとそれと共生するアルファプロテオバクテリア、アブラムシとそれと共生するブフネラ、赤潮をつくる繊毛虫のメソディニウムとそれと共生するクリプト藻、全てのウイルスとその寄生する宿主などをあげることが出来る。
【0014】
DNAタグを細胞に導入する方法は特に限定されないが、DNAタグをゲノムDNAへ挿入する方法が好ましい。このような方法としては、例えば、相同組換えやゲノムにDNAを組み込むベクターを使用する方法などを挙げることができる。相同組換えを利用する方法(動物ゲノム:Paul D. Richardson et al., Gene Repair and Transposon-Mediated Gene Therapy. Stem Cells :2002;20:105-118、植物ゲノム:Endo M et al., Increased frequency of homologous recombination and T-DNA integration in Arabidopsis CAF-1 mutants.EMBO J. 2006 Nov 29;25(23):5579-90. Epub 2006 Nov 16.)やゲノムにDNAを組み込むベクターを使用する方法(レンチウイルスの例:Bryda EC et al., Method for detection and identification of multiple chromosomal integration sites in transgenic animals created with lentivirus. Biotechniques: 2006, Dec 41(6):715-9、レトロウイルスの例:Koo,B.C. et al., Production of germline transgenic chickens expressing enhanced green fluorescent protein using a MoMLV-based retrovirus vector. FASEB J.: 2006, Nov;20(13):2251-60)はよく知られているものであり、当業者であれば、これらの方法を利用してDNAタグをゲノムDNAへ挿入することが可能である。DNAタグを細胞に導入する方法は、DNAタグをゲノムDNAへ挿入する方法に限定されず、DNAタグがエピゾーマルな状態で細胞中に存在するように導入してもよい。このような導入方法もよく知られており(エプスタイン・バーウイルスの例:Ren, P.et al., Establishment and Applications of Epstein-Barr Virus-Based Episomal Vectors in Human Embryonic Stem Cells. Stem Cells:2006, 24 (5) 1338-1347)、当業者であれば、この方法を利用してDNAタグを細胞へ導入することが可能である。
【0015】
DNAタグをゲノムDNAへ挿入する場合、理論的に、DNAタグの塩基配列と数と長さ、挿入部位の性質と数、挿入形態、検出法の七点が大きな問題となる。
【0016】
DNAタグの塩基配列としては、理論的に、特定生物又はそれに寄生若しくは共生する生物(以下、「特定生物等」という。)に本来存在する塩基配列を用いるのか、それとも特定生物等には本来は存在しない塩基配列を用いるのか、の2通りの選択が可能である。特定のDNAの塩基配列が特定生物等に存在するかどうかは、特定生物等が持つDNAの塩基配列がすべて解析済みの生物であれば、当業者には周知のホモロジー検索用のソフトウエアを用いて、そのDNAの塩基配列データとDNAタグとして用いる予定のDNAの塩基配列とのホモロジーを検索し、容易に確認することが出来る(例えば、DNA Data Bank of Japan ホモロジー検索用ソフトFASTAの解説 <http://www.ddbj.nig.ac.jp/search/explain/fasta_txt-j.html>参照)。特定生物等が持つDNAの塩基配列がまだ全て解析済みでない場合には、特定生物等が持つDNAの塩基配列を詳細に解析することなく、サザンブロット・ハイブリダイゼーションやドットブロット・ハイブリダイゼーションなどの分子生物学の基本的な実験手法により、確認することが出来る(例えば、Sambrook J & Russell DW Protocol : Introduction to Southern hybridization (Protocols 8-10) : Chapter6 Preparation and analysis of eukaryotic genomic DNA. Molecular Cloning : A laboratory manual. 3rd Ed. 2001; pp6.33-6.38.、 特許庁 資料室 その他参考情報 標準技術集 核酸の増幅及び検出 2−2−5サザンハイブリダイゼーション <https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/kakusan/0018.html>参照 )。また、DNAタグの塩基配列については、その配列自体が何らかの機能(例えば、構造遺伝子、プロモーター、エンハンサーなど)を持つのか、それとも機能を持たないのか、という選択も可能である。機能を持つ配列、機能を持たない配列のいずれを選択してもよいが、機能を持つ配列の場合、特定生物等の表現型に何らかの変化を生じさせる可能性があるので、機能を持たない配列を選択することが好ましい。
【0017】
DNAタグの数は任意に選択することができ、1種類のDNAタグを挿入してもよく、多種類のDNAタグを挿入してもよい。DNAタグの長さも、後述するDNA検出方法に従って任意に選択することができるが、数塩基〜数千塩基ぐらいの長さが好ましく、30塩基〜1,000塩基ぐらいの長さが更に好ましい。
【0018】
DNAタグを挿入する部位としては、理論的に、特定生物等において、挿入部位が何らかの機能を持つ部位に挿入するのか、それとも機能を持たない部位に挿入するのか、の2通りの選択が可能である。しかし、特定生物等において何らかの機能を有する部位にDNAタグを挿入した場合、挿入した生物では、挿入箇所が本来果たすべき機能が欠落し、何らかの性質の変化が起きる危険性が高いため、そのような部位は、同定を目的とするDNAタグを挿入する部位としてはふさわしくない。したがって、実際には、特定生物等において機能を持たない部位にDNAタグを挿入することが望ましいと考えられる。一般に、特定の部位が特定生物等において機能を持たないことを証明することは困難である。しかし、たとえば、生物がもつ偽遺伝子の中には、完全に機能を失っていることが知られているものがある(たとえば、Julie R. Wafaei and Francis Y.M. Choy、Glucocerebrosidase recombinant allele: molecular evolution of the glucocerebrosidase gene and pseudogene in primates. Blood Cells Mol Dis.: 2005 Sep-Oct;35(2):277-85参照)。この部位にDNAタグを挿入することで、特定生物等が本来持つ機能を何ら損ねることなく、DNAタグを付加することが出来る。偽遺伝子の部位以外でも、機能を持たない部位であれば、挿入部位の候補として考えることが出来、それらの部位から1つまたは複数の部位を選択し、挿入部位とする。また、何らかの機能を有する部位であっても、その中で機能に影響が出ない場所にDNAタグを挿入してもよい。このような例としては、in vitroで合成した蛋白を精製するための、様々なHis-tag融合蛋白のHis-tag付加の場所などがあげられる(例えば、Mathur D & Garg LC. Functional phosphoglucose isomerase from Mycobacterium tuberculosis H37Rv: Rapid purification with high yield and purity. Protein Expr Purif. 2006 Oct 25[Epub ahead of print])。
【0019】
これを前提として、挿入部位の数は、任意に選択することが出来る。また、挿入形態としては、理論的に、1つのDNAタグだけを特定のひとつまたは複数の部位に挿入する場合と、複数の同種または異種のDNAタグを1部位に付き1つずつ挿入する場合、もしくは、同種または異種のDNAタグの塩基配列の向きや数を任意に繋いで1つまたは複数の部位に挿入する場合の中から、任意の組合せで選択することが可能である。
【0020】
DNAタグの検出方法としては、特定生物等に本来は存在しない塩基配列をDNAタグとして用いる場合には、そのDNAタグを挿入した特定生物等からDNAを抽出し、その中に挿入したDNAタグの特異的な塩基配列が含まれているかどうかを確認する。特定生物等からDNAを抽出するには、当業者であれば既知の様々な手法を適宜用いることで、容易に行うことが出来る(例えば、Sambrook J & Russell DW Protocol : Introduction to Southern hybridization (Protocols 8-10) : Chapter6 Preparation and analysis of eukaryotic genomic DNA. Molecular Cloning : A laboratory manual. 3rd Ed. 2001; pp6.33-6.38 参照)。また、抽出したDNAの中に挿入したDNAタグの特異的な塩基配列が含まれているかどうかを確認するには、当業者であれば既知の、DNAタグの塩基配列をプローブとしたサザンブロット・ハイブリダイゼーションやドットブロット・ハイブリダイゼーションなどの分子生物学の基本的な実験手法(例えば、Sambrook J & Russell DW Protocol : Introduction to Southern hybridization (Protocols 8-10) : Chapter6 Preparation and analysis of eukaryotic genomic DNA. Molecular Cloning : A laboratory manual. 3rd Ed. 2001; pp6.33-6.38.参照)、または塩基配列決定法(例えば、Sambrook J & Russell DW Chapter12 DNA sequencing. Molecular Cloning : A laboratory manual. 3rd Ed. 2001;pp12.1-12.120 参照)などにより、容易に行うことが出来る。
【0021】
また、特定生物等に本来存在する塩基配列をDNAタグとして用いる場合のDNAタグの検出方法としては、DNAタグの塩基配列をプローブとして特定生物等から抽出したDNAのサザンブロット・ハイブリダイゼーションを行い、複数の電気泳動のバンドにプローブがハイブリダイズすることを検出する方法(例えば、M Yoshida, M Seiki, K Yamaguchi, and K Takatsuki: Monoclonal integration of human T-cell leukemia provirus in all primary tumors of adult T-cell leukemia suggests causative role of human T-cell leukemia virus in the disease. Proc Natl Acad Sci U S A. 1984 April; 81(8): 2534-2537参照)、挿入したDNAタグの外側の挿入部位付近の塩基配列をプライマーとして用いたPCRを行い、その増幅産物を電気泳動によりDNAタグを含む長さのフラグメントを検出する方法(たとえば、S Murata, N Takasaki, M Saitoh, and N Okada : Determination of the phylogenetic relationships among Pacific salmonids by using short interspersed elements (SINEs) as temporal landmarks of evolution. Proc Natl Acad Sci U S A. 1993 August 1; 90(15): 6995-6999 参照)、同じようにPCRを行った後で二本鎖特異的な蛍光性のインターカレーターを反応させて、DNAタグを含まない場合のPCR産物より長いフラグメントが増幅されたために蛍光が強くなっていることを確認する方法、挿入したDNAタグの外側の挿入部位付近の塩基配列をプライマーとして用いたリアルタイムPCRを行い、DNAタグを含まない場合のPCR産物より長いフラグメントが増幅されたために蛍光が強くなっていることを確認する方法などを例示でき、当業者であればこれら既知の分子生物学的手法を用いることで、容易にDNAタグを検出することができる。
【0022】
ここで、本発明のうち、特定生物に本来存在しない塩基配列をDNAタグとして予め特定生物のゲノムDNAに挿入しておき、特定生物がこの塩基配列を持っているかどうかを判定することで同定する方法について、図1を用いて基本的な考え方を説明する。この同定方法は、予め特定生物にDNAタグを挿入する第1の段階と、同定対象生物がDNAタグを持っているかどうかを判定する第2の段階との2ステップから成る。図1において、第1の段階は<A>の部分、第2の段階は<B>の部分に、それぞれ図示されている。
【0023】
まず第1段階の、特定生物にDNAタグを挿入するステップについて説明する。例えば図1(a)のような特定生物1のゲノムDNAにタグを挿入する場合について説明する。まず、特定生物1の受精卵(動物)やカルスの細胞(植物)などを準備する。このような細胞等は、当業者であれば容易に調製することが可能である。特定生物1のゲノムDNAには本来存在しない塩基配列の中から、(b)のように、DNAタグ4の塩基配列を選択し、この配列を持つDNAを作成する。作成の手法は、当業者であれば既知の分子生物学的手法のいずれを用いてもよい。たとえば、DNAタグが短ければ単鎖をそれぞれ化学合成した後にアニールさせて二重鎖にする化学的合成法でもよいし、適当な鋳型DNAを用意できる比較的長いDNAタグであれば、Polymerase Chain Reaction (PCR :たとえば、Mullis K 他5名、Specific enzymatic amplification of DNA in vitro: The polymerase chain reaction. Cold Spring Harb Symp Quant Biol. 1986; 51 Pt 1:263-73参照)により作成してもよい。DNAタグ4は、シークエンス・プライマー結合配列部分2がタグ情報配列部分3の3’側に連結された構造を取っている。シークエンス・プライマー結合配列部分2は、シークエンス・プライマー13に相補的な塩基配列を持ち、塩基配列の解析によりDNAタグを検出する際に、シークエンス・プライマーが結合する部位となる。タグ情報配列部分3は、たとえば(c)に示したタグ情報配列5のような塩基配列を持ち、キャピラリー電気泳動により塩基配列を解析すると、たとえばタグ情報配列のシークエンス・パターン6のようなパターンを示す、特定生物から抽出したゲノムDNAには本来存在しない比較的短い塩基配列である。このような構造を持つDNAタグ4を、in vitroの相同組換えなどによって(たとえば、Paul D. Richardson 他3名、Gene Repair and Transposon-Mediated Gene Therapy. Stem Cells : 2002;20:105-118 参照)、受精卵(動物)やカルスの細胞(植物)などの特定生物1の細胞のゲノムDNAに挿入し、DNAタグ4の挿入されたゲノムDNA7を持つ細胞8を作成する(d)。このDNAタグ挿入部位を拡大すると(e)のように、特定生物のゲノムDNAの一部9にDNAタグ4が挿入された形となっている。このDNAタグの挿入されたゲノムDNA7を持つ細胞8から、DNAタグ4の挿入されたゲノムDNA7を持つ個体を作成する。ここまでが、第1段階の、特定生物にDNAタグを挿入するステップである。
【0024】
次に、図1<B>部分に図示した、第2段階の、同定対象生物がDNAタグを持っているかどうかを判定するステップについて説明する。(f)のような同定対象生物10、または、(g)のような同定対象生物を材料として含む加工品11から、同定対象生物中に含まれるゲノムDNA12を抽出する(h)。抽出の手法は、当業者であれば既知の分子生物学的手法の中でそれぞれの材料に適した方法であれば、どのような手法でも構わない(たとえば、Sambrook J & Russell DW Chapter6 Preparation and analysis of eukaryotic genomic DNA. Molecular Cloning : A laboratory manual. 3rd Ed. 2001; pp6.1-6.64、及びSambrook J &Russell DW Chapter7 Extraction, purification, and analysis of mRNA from eukaryotic cells. Molecular Cloning : A laboratory manual. 3rd Ed. 2001; pp7.1-7.94 参照)。同定対象生物10がDNAタグ4を持っていれば、DNAタグ4の中にシークエンス・プライマー結合配列部分2が含まれているので、次に、このシークエンス・プライマー結合配列部分2の一部に相補的な塩基配列を持つシークエンス・プライマー13を用いてシークエンス反応を行い、タグ情報配列部分3の部分の塩基配列が解析できるようなシークエンス・フラグメント14を作成して、塩基配列解析を行う。この結果得られた同定対象生物10のシークエンス・パターン15をタグ情報配列のシークエンス・パターン6と比較検査し、同定対象生物のシークエンス・パターン15中にタグ情報配列のシークエンス・パターン6が含まれているかどうかの判別を行う。同定対象生物のシークエンス・パターン15中にタグ情報配列のシークエンス・パターン6が含まれていれば、同定対象生物10、または、同定対象生物を材料として含む加工品11は、DNAタグ4を含むと鑑定できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】特定生物のDNAにDNAタグを挿入しておき、そのDNAタグを検出することで同定を行う方法の流れを示した図である。
【符号の説明】
【0026】
1・・・特定生物、2・・・シークエンス・プライマー結合配列部分、3・・・タグ情報配列部分、4・・・DNAタグ、5・・・タグ情報配列、6・・・タグ情報配列のシークエンス・パターン、7・・・DNAタグの挿入されたゲノムDNA、8・・・DNAタグの挿入されたゲノムDNAを持つ細胞、9・・・特定生物のゲノムDNAの一部、10・・・同定対象生物、11・・・同定対象生物を材料として含む加工品、12・・・同定対象生物から抽出したゲノムDNA、13・・・シークエンス・プライマー、14・・・シークエンス・フラグメント、15・・・同定対象生物のシークエンス・パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定生物又はその生物の子孫であるかどうかを同定する方法であって、予め前記特定生物又はそれに寄生若しくは共生する生物の細胞にDNAタグを導入しておき、同定対象とする生物又はそれに寄生若しくは共生する生物から抽出したDNAから前記DNAタグが検出されるかどうかにより、前記同定対象生物が前記特定生物又はその生物の子孫であるかどうかを判定することを特徴とする生物の同定方法。
【請求項2】
細胞へのDNAタグの導入が、ゲノムDNAへのDNAタグの挿入であることを特徴とする請求項1に記載の生物の同定方法。
【請求項3】
DNAタグを、ゲノムDNA中の機能を持たない部位に挿入することを特徴とする請求項2に記載の生物の同定方法。
【請求項4】
1種類のDNAタグをゲノムDNA中の1箇所以上の部位へ挿入することを特徴とする請求項2又は3に記載の生物の同定方法。
【請求項5】
複数種類のDNAタグをゲノムDNA中の1箇所以上の部位へ挿入することを特徴とする請求項2又は3に記載の生物の同定方法。
【請求項6】
DNAタグの塩基配列が、DNAタグを導入する生物のゲノムDNA中には本来存在しない塩基配列であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の生物の同定方法。
【請求項7】
DNAタグの塩基配列が、DNAタグを導入する生物のゲノムDNA中に存在する塩基配列であって、その生物に本来存在しない部位にDNAタグを挿入することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の生物の同定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−173083(P2008−173083A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11739(P2007−11739)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(501379247)日本ソフトウェアマネジメント株式会社 (12)
【出願人】(506091551)
【出願人】(506090510)
【Fターム(参考)】