説明

DNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液

【課題】
DNAマイクロアレイ上のプローブへの蛍光標識されたターゲットのハイブリダイゼーションを促進させることで、高感度に検出することを可能にするハイブリダイゼーション緩衝溶液を提供し、特にハイブリダイゼーション操作を自動化する装置において適用することで、感度の高い検出を可能にする。
【解決手段】
DNAマイクロアレイ用に用いられるハイブリダイゼーション緩衝溶液に、5%(重量/溶液)以上15%(重量/溶液)以下の範囲の濃度のポリエチレングリコールを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAマイクロアレイにおける核酸ハイブリダイゼーション用の緩衝溶液(以下「DNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液」という)の試薬組成および方法に関する。本発明は、DNAマイクロアレイ上のプローブへの、蛍光標識したターゲットのハイブリダイズを促進するもので、特にDNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置において効果を示すものである。
【背景技術】
【0002】
DNAマイクロアレイとは、ガラス基盤上に整列させて配置したcDNAもしくはオリゴヌクレオチドを固定化したものをいう。DNAマイクロアレイ解析技術は、mRNAから調整した蛍光標識したcDNAをガラス基板上のcDNAもしくはオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせて検出することで、遺伝子の発現状況を定量化することを可能とするものである。なおガラス基板上に配置したcDNAもしくはオリゴヌクレオチドをプローブとよび、蛍光標識したcDNAをターゲットとよぶ。またDNAマイクロアレイでは、一度のハイブリダイゼーション操作で、ガラス基板上のプローブの数だけ発現状況を調べることが可能であり、強力な発現解析ツールとなっている。
【0003】
従来はDNAマイクロアレイのスライドガラスにハイブリダイゼーション緩衝溶液を滴下し、カバーガラスでシールしてハイブリダイゼーションが行われていたが、近年、より簡便にかつ均一にハイブリダイズさせることが可能なDNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置が登場し、同装置に適したハイブリダイゼーション方法が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、装置を用いずにDNAマイクロアレイのガラスにカバーガラスを用いてシールしてハイブリダイゼーションを行う方法(以下、「手動ハイブリダイゼーション法」)では、必要とされるハイブリダイゼーション緩衝溶液量が最も少量で行われる場合には10から20μlですむのに対し、DNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置では、必要とされるハイブリダイゼーション緩衝溶液量は100から200μlとなる。従って、同じ量の蛍光標識したターゲットを用いた場合に、ターゲット濃度がDNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置を用いた場合には、手動ハイブリダイゼーション法の1/10程度となり、結果として検出感度の大幅な低下をもたらすことになる。
【0005】
また、蛍光標識されたターゲットの調製は非常に高価であり、DNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置のためにターゲットを大量に調製することは、コストの面から大変難しい状況である。そのためにDNAマイクロアレイ上のプローブへのターゲットのハイブリダイゼーションを促進させることで検出感度を向上させ、DNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置を用いても手動ハイブリダイゼーション法と同等の検出が可能となるハイブリダイゼーション緩衝溶液およびその適用方法の開発が求められている。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、より感度を向上させることが可能なDNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、DNAマイクロアレイのハイブリダイゼーション緩衝溶液として一般に用いられている組成に5%以上15%以下のPEG(ポリエチレングリコール:Poly Ethylene Glycol)を添加することでDNAマイクロアレイ上のプローブへのターゲットの結合が促進され、検出されるシグナル強度が増大することを見いだした。またナイロンメンブレンなどを用いた場合とは異り、PEGを添加してもバックグランドの明瞭な増加は認められず、S/N比が向上することを見いだした。更に、PEGには重合度の違いによってさまざまな平均分子量の種類が存在するため、平均分子量として1000から20000までのPEGについてハイブリダイゼーション促進効果を検討し、至適分子量が平均2000以上10000未満であることを見出し、本発明を完成させるに至った。なお本明細書でいう「平均分子量」はJIS規格による中和滴定法によって算定される。
【0008】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
(1)5%(重量/容量)以上15%(重量/溶量)以下の範囲の濃度でPEGを含むDNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液。
(2)PEGの平均分子量は2000以上10000未満の範囲である上記(1)のDNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液。
(3)5%(重量/容量)以上10%(重量/溶量)以下の範囲の濃度でPEGを含むDNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液。
(4)PEGの平均分子量は2000以上10000未満の範囲である上記(3)のDNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液。
【発明の効果】
【0009】
以上、DNAマイクロアレイ解析においてハイブリダイゼーション緩衝溶液にPEGを添加することによりDNAマイクロアレイのガラス上のプローブへのターゲットの結合が促進され、より検出感度が向上する。特に、手動ハイブリダイゼーション法に比較して、操作は簡易であるが(同量のターゲットを用いる場合に)感度が落ちるとされているDNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置を用いた場合であっても、検出感度を大幅に改善する効果が得られる。更に、高いコストがかかるターゲット作製においても、必要とされるターゲット量の低減を図ることができ、DNAマイクロアレイ解析のコスト削減の効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
本DNAマイクロアレイ用のハイブリダイゼーション緩衝溶液は、PEGを5%(重量/容量)以上15%(重量/溶量)以下の範囲の濃度でPEGを含むDNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液である。また本DNAマイクロアレイ用のハイブリダイゼーション緩衝溶液の他の成分としては特段に制限は無く、一般に使用されている組成のものを用いることができる。例えば、5×SSC溶液(20×SSCの組成:3M
NaCl、0.3M クエン酸ナトリウム、pH7.0)や、5×SSC、0.5%SDS溶液(SDSはラウリル硫酸ナトリウムを示す)等を使用することができる。用いるPEGの濃度としては、5%以上15%未満の範囲であることが望ましく、より望ましくは5%以上10%以下の範囲である。PEGの添加量が5%よりも少ない場合は、ハイブリダイゼーションにおける感度向上の効果を得ることが難しくなる一方、15%よりも多くなってしまうと、緩衝溶液の粘度が増加しすぎてターゲットをプローブに均一にハイブリダイズさせることが困難となってしまうためである。また、PEGの平均分子量としては、2000以上10000未満であることが好ましく、より望ましくは2000以上8000以下である。分子量が2000より小さいとPEGによる感度向上の効果が得にくく、分子量が10000以上の場合も、緩衝溶液の粘度が増加し、ターゲットをプローブに均一にハイブリダイズさせることが困難となるためである。
【0012】
本DNAマイクロアレイ用のハイブリダイゼーション緩衝溶液が有効な効果を発揮するハイブリダイゼーション装置としては様々な装置を用いることができるが、例えば、スライドガラスを基板とするDNAマイクロアレイ用のハイブリダイゼーション装置が好適である。これらの装置ではハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーション後のDNAマイクロアレイの洗浄などが自動で行えるようになっており、熟練が必要とされる手動ハイブリダイゼーション法とは異り、簡便にDNAマイクロアレイのハイブリダイゼーションを行うことができる。
【0013】
DNAマイクロアレイ上のcDNA若しくはオリゴヌクレオチドなどのプローブに結合させるターゲットとしては、mRNA若しくはtotal RNAから逆転写によって蛍光標識されたcDNAを用いるのが一般的である。標識に用いる蛍光物質にはCy3やCy5が用いられる。なお標識には市販されているキットを用いることができ、通常、一回の標識に25μgのtotal RNAを用いて逆転写を行い、得られた蛍光標識されたcDNAをターゲットとしてハイブリダイゼーションに用いる。標識方法には蛍光標識された核酸を基質に用いる直接法と、化学修飾された核酸を基質に用い、合成されたcDNAにあとから蛍光物質を結合させる間接法があるが、どちらの方法で調製されたターゲットであっても適用可能である。
【0014】
以上、DNAマイクロアレイのガラス上のプローブへのターゲットの結合が促進され、検出感度をより向上させることができる。特に、手動ハイブリダイゼーション法に比較して、操作は簡易であるが(同量のターゲットを用いる場合に)感度が落ちるとされているDNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置を用いた場合であっても、検出感度を大幅に改善する効果が得られる。更に、高いコストがかかるターゲット作製においても、必要とされるターゲット量の低減を図ることができ、DNAマイクロアレイ解析のコスト削減の効果も得られる。なお、具体的な効果の確認については以下記載の実施例により明らかとなる。
【0015】
(実施例1)DNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液へのPEG添加がシグナル強度に与える影響の検討
【0016】
本実施例のDNAマイクロアレイ用のハイブリダイゼーション緩衝溶液における一例として、5×SSC、0.5%SDS、に0〜5%のPEG#6000(平均分子量6000)のものを用いた。
【0017】
(1)タバコcDNAマイクロアレイの作製
(i)タバコcDNAの単離
タバコの幼植物体からtotal RNAを調製し、逆転写反応によりcDNAに変換した。得られたcDNAをプラスミドベクターに接続し、cDNAライブラリーを作製した。そしてこのcDNAライブラリーから任意に選んだcDNAクローンの塩基配列を決定し、176種の異なる塩基配列を有するクローンを選抜した。
(ii)cDNAの増幅と精製
選ばれたcDNAクローンのインサート部分をPCRにより増幅し、増幅産物であるcDNAをガラス繊維に吸着させた後、エタノールで洗浄し、蒸留水に溶出させることで精製した。この精製には日本ミリポア社のマルチスクリーンFBを用いた。cDNAの濃度は吸光度を測定することで定量し、濃度を0.1μg/μlに調整した。
(iii)cDNAのガラス基盤へのスポッティング
上記した176種のcDNAを、アマシャムバイオサイエンス社のLucidea ArraySpotterを用いて、タカラバイオ社のTaKaRa−Hubble Slide Glassにスポッティングした。スポッティング用溶液は0.1μg/μlのcDNA溶液15μlに等量のクロスリンカー溶液(東洋鋼鈑株式会社製)を加えて調製した。スポッティングはLucidea Array Spotterの取扱説明書に従いキャピラリーペンにより行った。スポッティングが済んだTaKaRa−Hubble Slide Glassは、アルカリ溶液による洗浄と蒸留水による洗浄からなる後処理をTaKaRa−Hubble Slide Glassの取扱説明書に従って行い、タバコcDNAマイクロアレイとした。
【0018】
(2)ターゲットの作製
(i)タバコの葉よりtotal RNAを抽出し、インビトロジェン社製のFluoroscript(登録商標) cDNA labeling systemキットを用いて、Cy3標識cDNA(ターゲット)を調製した。逆転写反応には1サンプルあたり12.5μgのtotal RNAを用いた。標識反応はキットの取扱説明書に従って行った。
(ii)ターゲットは標識後にキットに付属のカラムで精製し、真空遠心エバポレーターで乾燥させた。
(iii)乾燥させたそれぞれのサンプルに133μlの下記(a)〜(c)の組成の溶液を加えて溶解させた後、95℃で3分間熱変性させた。
(a)5×SSC
(b)5×SSC、5% PEG#6000(平均分子量6000)
(c)5×SSC、10% PEG#6000(平均分子量6000)
(iv)変性後室温に5分間放置し、10%SDS溶液を7μl加え、終濃度を0.5%としてターゲット含有ハイブリダイゼーション緩衝溶液を調製した。その後ハイブリダイゼーション開始時まで75℃で保温した。
【0019】
(3)DNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置によるハイブリダイゼーション
(i)ゲノミックソリューションズ社製のGene TAC(登録商標) Hybridization StationにタバコcDNAマイクロアレイをセットし、以下の条件でハイブリダイゼーションを行った。
(a)O−リングの馴染ませ処理:75℃ 2分
(b)ターゲット溶液の注入:75℃
(c)ハイブリダイゼーション第1ステップ:65℃ 3時間 保温
(d)ハイブリダイゼーション第2ステップ:55℃ 3時間 保温
(e)ハイブリダイゼーション第3ステップ:50℃ 12時間 保温
(f)洗浄第1ステップ :2×SSC、0.2%SDS溶液にて25℃、5分間洗浄
(g)洗浄第2ステップ :2×SSC溶液にて25℃、2分間洗浄
【0020】
(4)スキャニング
洗浄が終了したスライドガラスを遠心乾燥した。プローブにハイブリダイズしたターゲットの蛍光は、Cy3の蛍光を読み取ることができるスキャナ(ゲノミックソリューションズ社製Gene TAC(登録商標)UC−4)を用いて行った。
【0021】
(5)得られた蛍光強度の定量化
各cDNAにハイブリダイズしたターゲットから得られる蛍光強度は、スキャナに付属の定量化ソフトによって定量した。スポットの周囲のガラス基板の蛍光強度をバックグラウンドとして、各スポットの蛍光強度の比をS/N比として算出した。176種のcDNAスポットから得られたS/N比を平均した。
【0022】
(6)結果
スキャニングによって得られた画像を図1に示す。これはターゲット溶液中のPEG#6000の濃度によるハイブリダイゼーション促進効果の検討を行ったものである。この結果、PEG濃度が上昇するにつれてシグナルが増強することがわかった。また、バックグラウンドの蛍光強度に対する各cDNAのスポット上の蛍光強度の比であるS/N比を計算し、176種のcDNAスポットに対して平均化した結果を図2に示す。ターゲット溶液中にPEGを10%添加した場合、PEGを添加しない場合に比べて2倍もS/N比が増加していることがわかった。この結果はPEGの添加が、バックグラウンドの蛍光強度を上げることなくハイブリダイゼーションを促進する効果があることを示している。ただし15%を越える濃度のPEGをハイブリダイゼーション緩衝溶液に加えた場合には、ターゲットをプローブに均一にハイブリダイズさせることが困難であった。
【0023】
(実施例2)重合度の異なるPEGがハイブリダイゼーションに与える影響の検討
【0024】
(1)タバコcDNAマイクロアレイの作製
上記実施例1と同様にタバコcDNAマイクロアレイを作製した。
【0025】
(2)ターゲットの作製
(i)タバコの葉よりtotal RNAを抽出し、インビトロジェン社のFluoroscript(登録商標) cDNA labeling systemキットを用いて、Cy3標識cDNA(ターゲット)を調製した。逆転写反応には1サンプルあたり12.5μgのtotal
RNAを用いた。標識反応はキットの取扱説明書に従って行った。
(ii)ターゲットは標識後にキットに付属のカラムで精製し、真空遠心エバポレーターで乾燥させた。
(iii)乾燥させたそれぞれのサンプルに133μlの下記(a)〜(f)の組成の溶液を加えて溶解させた後、95℃で3分間熱変性させた。
(a)5×SSC
(b)5×SSC、5% PEG#1000(平均分子量1000)
(c)5×SSC、5% PEG#2000(平均分子量2000)
(d)5×SSC、5% PEG#6000(平均分子量6000)
(e)5×SSC、5% PEG#10000(平均分子量10000)
(f)5×SSC、5% PEG#20000(平均分子量20000)
(iv)変性後室温に5分間放置し、10%SDS溶液を7μl加え、終濃度を0.5として、ターゲット含有ハイブリダイゼーション緩衝溶液を調製した。その後ハイブリダイゼーション開始時まで75℃で保温した。
【0026】
(3)DNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置によるハイブリダイゼーション
ゲノミックソリューションズ社製のGene TAC(登録商標) Hybridization StationにタバコcDNAマイクロアレイをセットし、上記実施例1と同様な操作方法によりハイブリダイゼーションおよびDNAマイクロアレイの洗浄を行った。
【0027】
(4)スキャニング
洗浄が終了したスライドガラスは、遠心乾燥させた。プローブにハイブリダイズしたターゲットの蛍光は、Cy3の蛍光を読み取ることができるスキャナ(ゲノミックソリューションズ社製のGene TAC(登録商標) UC−4)を用いて行った。
【0028】
(5)得られた蛍光強度の定量化
各cDNAにハイブリダイズしたターゲットから得られる蛍光強度は、スキャナに付属の定量化ソフトによって定量した。スポットの周囲のガラス基板の蛍光強度をバックグラウンドとして、各スポットの蛍光強度の比をS/N比として算出した。上記の176種のcDNAスポットから得られたS/N比を平均した。
【0029】
(6)結果
バックグラウンドの蛍光強度に対する各cDNAのスポット上の蛍光強度の比であるS/N比を計算し、176種のcDNAスポットに対して平均化した結果を図3に示す。ターゲット溶液中に各種の重合度のPEGを5%添加した場合、PEGの平均分子量の違いによってハイブリダイゼーションの促進効果に大きな違いが生じることが明らかになった。ハイブリダイゼーションの促進効果は平均分子量が2000のPEGから認められ、平均分子量が6000のものではS/N比がPEGを添加していなサンプルと比較して2倍以上に向上した。しかし、平均分子量10000、20000のPEGでは、DNAマイクロアレイのハイブリダイゼーションを促進する効果は認められなかった。
【0030】
(実施例3)ハイブリダイゼーション緩衝溶液中のターゲット濃度が検出結果に与える影響の検討
【0031】
(1)タバコcDNAマイクロアレイの作製
実施例1と同様にタバコcDNAマイクロアレイを作製した。
【0032】
(2)ターゲットの作製
(i)タバコの葉よりtotal RNAを抽出し、インビトロジェン社のFluoroscript(登録商標) cDNA labeling systemキットを用いて、Cy3標識cDNA(ターゲット)を調製した。逆転写反応には50μgのtotal RNAを用いた。標識反応はキットの取扱説明書に従って行った。
(ii)Cy3 標識cDNAはキットに付属のカラムで精製し、下記(a)から(c)に記載の量にそれぞれ分割した。通常の方法では、1回のDNAマイクロアレイに25μgのtotal RNAから得られた蛍光標識cDNAを用いる。したがって、12.5μg及び6.25μg分のtotal RNAから得られた蛍光標識は、本来用いる量の1/2および1/4となる。
(a)25μg分のtotal RNAから調製されたターゲット(1/1希釈)
(b)12.5μg分のtotal RNAから調製されたターゲット(1/2希釈)
(c)6.25μg分のtotal RNAから調製されたターゲット(1/4希釈)
そして、この(a)から(c)のターゲットを真空遠心エバポレーターで乾燥させた。
(iii)乾燥させたそれぞれのターゲットに133μlの5×SSC、5% PEG#6000溶液を加えて溶解させた後、95℃で3分間熱変性させた。
(iv)変性後室温に5分間放置し、10%SDS溶液を7μl加え、終濃度を0.5%として、ターゲット含有ハイブリダイゼーション緩衝溶液を調製した。その後ハイブリダイゼーション開始時まで75℃で保温した。
【0033】
(3)DNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置によるハイブリダイゼーション
ゲノミックソリューションズ社製のGene TAC(登録商標) Hybridization StationにタバコcDNAマイクロアレイをセットし、実施例1と同様な操作方法によりハイブリダイゼーションおよびDNAマイクロアレイの洗浄を行った。
【0034】
(4)スキャニング
洗浄が終了したスライドガラスは、遠心乾燥させた。プローブにハイブリダイズしたターゲットの蛍光は、Cy3の蛍光を読み取ることができるスキャナ(ゲノミックソリューションズ社製のGene TAC(登録商標) UC−4)を用いて行った。
【0035】
(5)得られた蛍光強度の定量化
各cDNAにハイブリダイズしたターゲットから得られる蛍光強度は、スキャナに付属の定量化ソフトによって定量した。スポットの周囲のガラス基板の蛍光強度をバックグラウンドとして、各スポットの蛍光強度の比をS/Nとして算出した。176種のcDNAスポットから得られたS/N比を平均した。
【0036】
(6)結果
PEGは水分子を周囲に引きつけるがターゲット分子は引きつけないために、水に溶けているターゲットの濃度を高めるのと同様な効果をもたらすことで、ハイブリダイゼーションの促進効果をもたらしていると考えられる。そこで、ターゲットの濃度が濃いサンプルと薄いサンプルに対する、PEGの効果を調べた。すると、ターゲットの濃度が本来用いる量の1/4になっても得られるS/N比は薄めていないものと同等であり、また得られる画像のパターンも基本的に同じであることが見出された。この結果は、PEGのハイブリダイゼーションの促進効果によって、ターゲット濃度がある程度異なっても、安定したハイブリダイゼーションの結果を得ることが可能であることを示している。
【0037】
(実施例4)平均分子量2000のPEGがハイブリダイゼーションに与える影響の検討
【0038】
(1)
タバコcDNAマイクロアレイの作製
上記実施例1と同様にタバコcDNAマイクロアレイを作製した。
【0039】
(2)
ターゲットの作製
(i)タバコの葉よりtotal RNAを抽出し、インビトロジェン社のFluoroscript(登録商標) cDNA labeling systemキットを用いて、Cy3標識cDNA(ターゲット)を調製した。逆転写反応には1サンプルあたり12.5μgのtotal
RNAを用いた。標識反応はキットの取扱説明書に従って行った。
(ii)ターゲットは標識後にキットに付属のカラムで精製し、真空遠心エバポレーターで乾燥させた。
(iii)乾燥させたそれぞれのサンプルに133μlの下記(a)〜(c)の組成の溶液を加えて溶解させた後、95℃で3分間熱変性させた。
(a)5×SSC、5% PEG#6000(平均分子量6000)
(b)5×SSC、10% PEG#2000(平均分子量2000)
(c)5×SSC、15% PEG#2000(平均分子量2000)
(iv)変性後室温に5分間放置し、10%SDS溶液を7μl加え、終濃度を0.5%として、ターゲット含有ハイブリダイゼーション緩衝溶液を調製した。その後ハイブリダイゼーション開始時まで75℃で保温した。
【0040】
(3)DNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置によるハイブリダイゼーション
ゲノミックソリューションズ社製のGene TAC(登録商標) Hybridization StationにタバコcDNAマイクロアレイをセットし、上記実施例1と同様な操作方法によりハイブリダイゼーションおよびDNAマイクロアレイの洗浄を行った。
【0041】
(4)スキャニング
洗浄が終了したスライドガラスは、遠心乾燥させた。プローブにハイブリダイズしたターゲットの蛍光は、Cy3の蛍光を読み取ることができるスキャナ(ゲノミックソリューションズ社製のGene TAC(登録商標) UC−4)を用いて行った。
【0042】
(5)得られた蛍光強度の定量化
各cDNAにハイブリダイズしたターゲットから得られる蛍光強度は、スキャナに付属の定量化ソフトによって定量した。スポットの周囲のガラス基板の蛍光強度をバックグラウンドとして、各スポットの蛍光強度の比をS/N比として算出した。上記の176種のcDNAスポットから得られたS/N比を平均した。
【0043】
(6)結果
バックグラウンドの蛍光強度に対する各cDNAのスポット上の蛍光強度の比であるS/N比を計算し、176種のcDNAスポットに対して平均化した結果を図5に示す。5%の添加では平均分子量6000のPEGが平均分子量2000のPEGよりもハイブリダイゼーションの促進効果は高い。ただし平均分子量2000のPEG5%溶液は同じ濃度の平均分子量6000のPEG溶液と比較して粘性が低い。そこで平均分子量2000のPEGをより高濃度に含む緩衝液によるハイブリダイゼーションの促進効果を調べた。その結果、平均分子量2000のPEGを10%もしくは15%含む緩衝液では、平均分子量6000のPEGを5%添加した場合と比較して、よりハイブリダイゼーションを促進する効果があった。しかしながら、15%以上の濃度では粘性が大きくなり、均一なハイブリダイゼーションを得ることが難しいため、望ましいハイブリダイゼーション緩衝溶液としては、平均分子量2000のPEGを15%未満、より望ましくは10%以下含む緩衝溶液が好適である。
【0044】
以上のように、DNAマイクロアレイ解析においてハイブリダイゼーション緩衝溶液にPEGを添加することで、DNAマイクロアレイのプローブにターゲットが結合するのが促進され、検出感度が向上することが見出された。手動ハイブリダイゼーション法に比較して、操作は簡易であるが感度が落ちるとされているDNAマイクロアレイ用自動ハイブリダイゼーション装置に適用することで、検出感度が大幅に改善する効果が得られる。また、高いコストがかかるターゲット作製においても、必要とされるターゲット量の低減も本発明により可能になるために、DNAマイクロアレイ解析のコスト削減の効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】PEGを添加したハイブリダイゼーション緩衝溶液と添加していない緩衝液でのタバコcDNAマイクロアレイの結果を示す図。
【図2】176個のプローブにハイブリダイズしたターゲットの蛍光強度とバックグラウンドとのS/N比に及ぼすPEGの添加の効果を示す図。
【図3】176個のプローブにハイブリダイズしたターゲットの蛍光強度とバックグラウンドとのS/N比に及ぼす平均分子量の異なるPEGの添加の効果を示す図。
【図4】濃度の異なるターゲットを含有するハイブリダイゼーション緩衝溶液によって得られる、176個のプローブにハイブリダイズしたターゲットの蛍光強度とバックグラウンドの蛍光強度のS/N比を示す図。
【図5】176個のプローブにハイブリダイズしたターゲットの蛍光強度とバックグラウンドとのS/N比に及ぼす平均分子量2000のPEGを10%および15%の濃度で添加した場合の効果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5%(重量/容量)以上15%(重量/溶量)以下の範囲の濃度でポリエチレングリコールを含むDNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液。
【請求項2】
前記PEGの平均分子量は2000以上10000未満の範囲であることを特徴とする請求項1記載のDNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液。
【請求項3】
5%(重量/容量)以上10%(重量/溶量)以下の範囲の濃度でポリエチレングリコールを含むDNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液。
【請求項4】
前記PEGの平均分子量は2000以上10000未満の範囲であることを特徴とする請求項3記載のDNAマイクロアレイ用ハイブリダイゼーション緩衝溶液。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−258784(P2006−258784A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155701(P2005−155701)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】