説明

DNA中の突然変異検出方法

所定の DNA配列において DNA突然変異、一塩基多型および挿入・欠失を検出するための方法であり、a)遺伝子工学処理されたポリメラーゼによって、4種類の天然 DNA塩基のうちの少なくとも1種類の一部または全部が非天然塩基で置換された、前記所定の DNA配列の複製物を作製する工程;b)前記非天然塩基を使用して、工程a)で得られた複製物を開裂させ、配列特異的断片を表す DNA生成物を作製する工程;c)工程b)で得られた前記配列特異的断片を質量分析法で分析して、配列特異的断片のパターンを得る工程;およびd)工程c)で得られた配列特異的断片パターンを用いて、前記所定の DNA配列に関して配列の変化を同定する工程を含む方法。 DNA変異、一塩基多型および挿入・欠失の検出のためのキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の DNA配列において DNA突然変異、一塩基多型 (single nucleotide polymorphism, SNP)、および挿入・欠失 (indel)を検出するための方法、並びにこの検出のためのキットに関する。
【0002】
ゲノムプロジェクトにおいて最も重要なこと、即ちヒトゲノムの完全な配列は現在解析が完了している。このプロジェクトは、このゲノム中の300 万塩基の完全配列、および推定100,000 遺伝子すべての相対的位置を明らかにしている。この配列の取得により、遺伝子機能および異なる遺伝子の相互作用を解明するのための無限の可能性が開かれる。近年、ヒトゲノム中の SNPを同定するために組織的努力 (SNP 協会) が進行中であり、これまで様々なヒトの間の数百万のこれらの違いが同定された。しかしながら、頻度の高いものも稀なものもかなりの数の SNPが見落とされていると考えられる。
【0003】
コストの点から、現在使用されている方策、例えば標準的 DNA配列決定により SNPの検出を続けるとは考えられない。また、突然変異がランダムに生物中に導入されている場合、プロジェクトには突然変異の性質および位置を同定するための効率的方法が必要となる。
【0004】
以前に同定した突然変異、 SNPまたはindel の遺伝子型を決定するためのいくつかの方法が提案されてきた。マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法 (matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry, MALDI) は生体分子の質量分析方法を根本的に変えた (Karas M. & Hillenkamp F., Anal.Chem. 60, 2299-2301 (1988))。質量分析法による DNA分析の分野は、最近、TostおよびGut (Mass Spectrometry Reviews, 21, 388-418 (2002)) 並びに Sauerおよび Gut (Journal of Chromatography B, 782, 73-87 (2002)) により大幅に見直された。 MALDIは、 PCR生成物の分析から、一ヌクレオチドプライマー伸長反応へのアレル特異的終結および配列決定を用いる方法にわたる変法において DNAの分析に適用されてきた (Liu Y.-H.et al., Rapid Commun. Mass Spectrom. 9, 735-743 (1995); Chang L.-Y.et al., Rapid Commun. Mass Spectrom. 9, 772-774 (1995); Little D.P.et al., J. Mol. Med. 75, 745-750 (1997); Haff L. & Smimov I.P., Genome Res. 7, 378-388 (1997); Fei Z.et al., Nucleic Acids Res. 26, 2827-2828 (1998); Ross P.et al., Nature Biotech. 16, 1347-1351 (1998); Ross P.L.et al.,P., Anal.Chem.69, 4197-4202 (1997); Griffin T.J.et al.,L.M.Nature Biotech.15, 1368-1372 (1997); Koster H.et al.,米国特許第6,043,031 号 )。質量分析の前に、スピンカラム精製および/または磁気ビーズ技術、逆相精製またはイオン交換樹脂が適用されることが多い。
【0005】
質量分析的検出を用いる DNA分析方法のほとんどが、既知の突然変異または SNPの分析に適用されてきた (TostおよびGut, Mass Spectrometry Reviews, 21, 388-418 (2002)) 。プライマーの開裂による、既知の突然変異、 SNPおよび indelの分析が、Montforte et al. (US 5,830,655およびUS 6,566,055) により教示されている。そこで試験される DNA位置は、開裂位置とは直ちに関連せず、開裂機能性はプライマー中に化学的に合成される。
【0006】
プライマー配列に存在する光開裂性 DNA塩基がEP 0855403およびDE 10108453 に記載されている。
さらに、それまで未知の突然変異または SNPの検出については少数の文献が論じているだけである (Hahner et al., Nucleic Acid Research, 25, 1957-1964 (1997), Rodi et al., BioTechniques, 32, S62-S69 (2002), Krebs et al., Nucleic Acids Research, 31, e37 (2003)) 。これらの文献においては、標的配列が PCRによって増幅される。プライマーの1つが転写開始部位を含有する。第2の反応において PCR生成物を RNAに転写する。この RNAを塩基特異的RNアーゼにより開裂させ、生成物を質量分析法によって分析する。これらの方法は、 DNAポリメラーゼおよび RNAポリメラーゼ反応およびRNアーゼ分解を必要とする。これらの酵素の価格のため、これらの操作は非常に高価になる。
【0007】
US 6,468,748はまた、配列特異的制限、制限エンドヌクレアーゼによる消化、および質量分析法によるこれらの記録により PCR生成物のフィンガープリントを作成することを提案した。
【0008】
リボヌクレオチド導入のための DNAポリメラーゼが報告されてきた。しかしながら、ある場合においてはこれらは熱安定性でなく、従ってサイクル伸長反応および PCRにおいて使用するには適当でない (Astatke et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 95, 3402-3407 (1998))。あるいは、それらの使用の目的は、低割合の1種の NTPにより伸長反応を止め、アルカリ開裂後に断片のネスティド(nested)セットを作成することにより、ザンガーのターミネーター配列決定法に変わる方法を提供することである (US 5,939,292) 。そこでは、それは蛍光プライマーの使用、および電気泳動分離によるサイジングと組み合わせて示されている。これらの刊行物における目的は、その後に分析される断片フィンガープリントの作成ではない。目的は、配列を読み取ることを可能にする断片のネスティドセットを作成することであった。
【0009】
さらに、化学的ミスマッチ開裂およびマクサム・ギルバート配列決定法において使用されるのに類似した化学を用いた化学的開裂を示した方法が提案された。US 5,217,863では、化学的ミスマッチ開裂により、蛍光または放射標識された DNA断片のゲル移動による検出を用いて未知の突然変異を検出することが可能となる。しかしながら、化学的ミスマッチ開裂を、質量分析的検出と組み合わせることは、これまで示されておらず、ミスマッチに隣接する位置および末端ヌクレオチドへの化学的攻撃のために問題があった。
【0010】
Pirrung およびZhaoはUS 6,294,659において、プライマー伸長反応または PCRに配列特異的に含有されることができる、光開裂可能なヌクレオチド三リン酸を報告した。
【発明の開示】
【0011】
従って、本発明者等は、価格的に有利で、迅速、正確、高信頼性であり、容易に自動化され、従って高い処理量を与える、これまで未知の突然変異、既知の突然変異、未知および既知の SNP、並びに未知および既知のindel(挿入および欠失) を検出するための新規な方法を提供する研究を行った。
【0012】
この目的は、以下に記載された検出方法により達成される。
本発明は、所定の DNA配列において DNA突然変異、 SNPおよびindel を検出するための、以下の工程を含む方法に関する:
a)遺伝子工学処理されたポリメラーゼによって、4種類の天然 DNA塩基のうちの1種類の少なくとも50%が非天然塩基で置換された、前記所定の DNA配列の複製物を作製する工程;
b)前記非天然塩基を使用して、工程a)で得られた複製物を開裂させ、配列特異的断片を表す DNA生成物を作製する工程;
c)工程b)で得られた前記配列特異的断片を質量分析法で分析して、配列特異的断片のパターンを得る工程;および
d)工程c)で得られた配列特異的断片パターンを用いて、前記所定の DNA配列に関して配列の変化を同定する工程。
【0013】
本発明においては、「突然変異」なる用語はこれまで未知または既知の突然変異を意味する。
自然界では、複製中に DNA構築片(dATP, dGTP, dCTP, TTP)を加工処理するために DNAポリメラーゼが特異的に進化した。 DNAポリメラーゼは例えば PCRで用いられる。一方、逆転写酵素は、ポリメラーゼ反応で RNAを産生するために進化してきた。 DNAおよび RNAの複製機構は非常に異なり、互いの基質を使用しないようになっている。このように、NTP は DNAポリメラーゼに適した基質ではない。
【0014】
本発明において、「遺伝子工学処理されたポリメラーゼ」は、NTP を加工処理するように DNAポリメラーゼの実質的修飾を行ったことを意味する。かかる遺伝子工学処理ポリメラーゼは、標的化突然変異またはランダム突然変異、その後の選択により作製される。この種のポリメラーゼの例は米国特許第 5,939,292号に見られる。
【0015】
本発明において、「非天然塩基」とは、使用塩基が、Taq-ポリメラーゼのような酵素により通常は使用されず、そして処理されることができないことを意味する。かかる塩基は、別の既知の塩基、例えばdNTPの代わりのNTP 、または化学的に修飾した塩基でありうる。当業者であれば、遺伝子工学処理したポリメラーゼに適合するにちがいない修飾塩基を想像しうる。
【0016】
本発明において、「一部または全部」とは、調査する目的により、複製プロセス中に4種の天然の塩基のうち1種を全て交換するか、またはその一部のみを交換することを意味する。
【0017】
本発明の方法は、開裂可能な塩基、例えば、複製された試料をアルカリで処理した場合に骨格の開裂を生じる RNA塩基を組み込むことにより、突然変異、 SNPおよびindel を検出するための容易で極めてより経済的な方法である。質量分析法により断片の分析を非常に効率的に行うことができる。
【0018】
本発明方法のもう1つの利点は、ある個体のゲノム全体を質量分析計により数週間で再配列決定しうることである。
本発明の効率的方法は、多数の生成物を同時に1つのスペクトルにおいて区別する質量分析計の可能性を使用して、数秒で単一のスペクトルを記録しうる。
【0019】
本発明方法は、質量分析法により所定範囲の DNA配列断片のシグナチャー (signature)を記録し、それを参照と比較することからなる。2つのシグナチャー間の違いは、突然変異、 SNPおよび挿入/欠失を示す。質量プロフィールにより、突然変異の位置および性質が明確に割り当てられる。追加の配列分析は必要ない。 PCRなどの DNA複製方法により鋳型 DNA分子から DNAが製造され、その間に化学的または酵素的誘導性のヌクレオチドが取り込まれる。化学的または酵素的開裂により、標的 DNAの配列特異的断片化を行う。これらのヌクレオチドが DNA鎖を特異的に開裂させるように引き金を引いて、質量分析のために必要な断片を生じさせる。断片分析は配列特異的フィンガープリントを与え、これは参照 DNA配列と未知試料の間の差を同定可能にする。
【0020】
本発明の有利な形態の態様によれば、工程a)の非天然塩基は、 RNA塩基 (ATP, GTP, CTP,またはUTP)、ホスホロチオアート (phosphorotioate)塩基、ホスホロセレノアート (phosphoroselenoate) 塩基、光化学的開裂誘導性の塩基からなる群より選ばれる。
【0021】
本発明のより有利な形態の態様では、工程a)の非天然塩基は、 RNA塩基 (ATP, GTP, CTP,またはUTP)である。
本発明の別の有利な形態の態様によれば、工程a)で得られる複製物において、4種の天然 DNA塩基のうちの1種が70%より多く、非天然塩基で交換されている。
【0022】
当業者が、工程a)で得られる複製物中での交換すべき塩基の数、および割合を所望のように変えることができることは当然である。
本発明の別の有利な形態の態様によれば、工程a)で得られる複製物において、4種の天然 DNA塩基のうちの1種が 100%、非天然塩基で交換されている。
【0023】
本発明の別の有利な形態の態様によれば、 RNA塩基はアルカリ処理および高温での温置により工程b)において開裂する。
本発明の別の有利な形態の態様によれば、ホスホロチオアートまたはホスホロセレノアート塩基は、工程b)において、式、OH-(CH2)n -I (式中、n=2〜5)の化合物の縮合、および高温での温置により開裂する。
【0024】
本発明の別の有利な形態の態様によれば、光化学的開裂誘導性の塩基は、工程b)において光への暴露により開裂する。
本発明の別の有利な形態の態様によれば、複製物を製造する工程a)は、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)および直鎖 DNAコピー操作 (linear DNA copying procedure) 、より詳しくはローリングサークル複製からなる群より選ばれた操作により行われる。
【0025】
本発明の別の有利な形態の態様によれば、本方法はさらに、工程a)と工程b)との間に工程a') を含み、工程a') においては配列特異的断片を、例えば逆相材料またはイオン交換樹脂で精製する。
【0026】
本発明の別の有利な形態の態様によれば、本方法はさらに、工程b)と工程c)との間に工程b') を含み、工程b') においては配列特異的断片を、例えば逆相材料またはイオン交換樹脂で精製する。
【0027】
本発明のさらに別の有利な形態の態様では、工程c)で使用される質量分析計はMALDI またはESI 質量分析計である。
本発明方法においては、ある範囲のゲノム DNA配列を、 PCRのような操作により複製する。しかしながら、通常の PCRまたはその他の DNA複製システムに対し、4種類のヌクレオチド基質(dATP, dGTP, dCTPまたはTTP)の1種またはそれ以上が少なくとも一部、修飾ヌクレオチド均等物で置換されている。修飾ヌクレオチドは、例えばリボヌクレオチド (ATP, GTP, CTP またはUTP)、ホスホロチオアート (α-S-dATP,α-S-dGTP,α-S-dCTP またはα-S-TTP) 、塩基修飾ヌクレオチドなどである。前述のように、当業者は新しい修飾塩基またはヌクレオチドを想像することができる。
【0028】
修飾ヌクレオチドを容易かつ配列特異的に、通常の基質と同様の反応速度で DNAポリメラーゼにより取り込むことができることが、本発明の重要な点である。修飾ヌクレオチドの1種の取り込みの度合いが50%以上で、断片フィンガープリントの劇的な単純化がもたらされる。
【0029】
さらに、配列が完全に複製されることを確実にするために、 DNAポリメラーゼが、3'−5'プルーフリーディング (校正) 能をいくらか有することが望ましい。また、エキソヌクレアーゼ耐性塩基を、その分解を防止するためにプライマー中に含ませることができる。これらはホスホロチオアート架橋でありうる。
【0030】
その後、修飾ヌクレオチドを含む PCR生成物は、修飾ヌクレオチドの位置において骨格の塩基−、従って配列−特異的開裂に至る処理を受ける。修飾基質の PCRへの直接取り込みは、技術的に困難であり、遺伝子工学処理した DNAポリメラーゼの適用によって行うことができる。
【0031】
PCRは、新たな分子が前の1ラウンドからの生成物を鋳型として用いて製造される指数関数的プロセスであるので、既に修飾を有する分子を別の修飾含有分子にコピーすることは困難なことがある。この問題を解消するために、十分な鋳型集団を産生させるように通常の基質で PCRを行うことができる。次いで、残存ヌクレオチドを酵素的に、例えばエビのアルカリホスファターゼにより破壊しうる。第2ラウンドにおいて、修飾ヌクレオチドを含むヌクレオチドセットを、それに応じて遺伝子工学処理した DNAポリメラーゼと共に加える。2つの反応においてプライマーの量を変えることにより、2つの DNA鎖のうちの一方、好ましくは質量分析法により分析される鎖、の富化を行うことができる。ただ1つの鎖のみの開裂を分析すれば、質量スペクトルの複雑さが軽減される。
【0032】
開裂の化学は、例えば RNA含有 PCR生成物のアルカリ加水分解、OH-(CH2) n -I (式中、n=2〜5)のような化合物の添加およびその後の加熱処理によるホスホロチオアートの位置での開裂、光開裂性塩基を用いた光化学開裂である。
【0033】
アルカリ処理を行うための好ましい基質はNH4OH (水酸化アンモニウム) である。この化合物は、続く質量分析に十分耐え、信号抑制およびアルカリ付加物の問題を軽減する。しかしながら、NaOH, KOH などのその他の任意の塩基を、適切な脱塩と組み合わせて適用してもよい。
【0034】
精製工程a') またはb') は、ZipTips (Millipore) などの逆相材料上で、または質量分析において解像度を低下させるかもしれない塩を除去するためのイオン交換樹脂によって行うことができる。
【0035】
質量分析は好ましくはMALDI により行われる。しかしながら、エレクトロスプレーイオン化質量分析も適切であろう。質量シグナチャーを用いて標的配列を再組み立てする。基準標的配列からの偏りは、図4に概略を示した異なる表示により同定でき、a)ポリメラーゼ反応において交換される塩基を含む塩基変化はピークの出現または消失をもたらし、b)2つの開裂位置間の変化は、塩基置換によるそのピークのシフトという結果をもたらす。
【0036】
本発明の方法によれば、 RNA含有 PCR生成物は好ましくは直接製造され、アルカリ開裂を受け、そして質量分析計で分析される。さらに、2またはそれ以上の独立した反応が行われ、そこでは別の塩基が常に置換される。このように、異なる置換のパターンを、参照配列に関して試験配列の実証のために組み合わせことができる。偏りを図4の表示によって解釈する。
【0037】
本発明の別の目的は、請求項1の方法を実施するための、所定の DNA配列中の DNA変異、一塩基多型および挿入および欠失の検出のための、以下を含むキットである:
・遺伝子工学処理した DNAポリメラーゼ、
・非天然塩基およびdNTPのセット、
・緩衝液。
【0038】
上記組み合わせとは別に、本発明はまた、本発明方法の態様の例および添付の図面に関する以下の記載から明らかなその他の組み合わせも含む。
図1は、NH4OH による処理を受ける、5つのウラシル塩基を有する24の塩基の合成配列を示す。3塩基より大きいすべての可能な開裂生成物が見出され、明確に断片に割り当てることができる。開裂生成物をMALDI で分析する。
【0039】
図2は、NH4OH による処理を受ける、5つのシトシン(RNA) 塩基を有する24の塩基の合成配列を示す。2塩基より大きいすべての可能な開裂生成物が見出され、明確に断片に割り当てることができる。2127Daにおけるピークは、開裂前に存在する疑似断片 (短縮された) に相当し、実際の開裂生成物には相当しない。
【0040】
図3は、単一の配列の断片パターンの理論的重複を示す。常に、4種の塩基のうちの1種が RNA塩基で交換され、部位特異的に開裂する。これは、2種の塩基の100 %の交換において (2つのレーンを記録) 、十分な配列のカバーが配列中の変化の同定のためになされることを実証する。
【0041】
図4は、異なる配列を有する合成鋳型上でのプライマーの酵素的伸長を示す。プライマーは、3'末端から4番目の塩基上に RNA塩基を含む。このように、プライマーの主要部分は、NH4OH 処理の間に開裂する。この例では、1番目の塩基における即時終結が見られる (Cトラックにおける1528Da、およびAトラックにおける1552Daのピーク) 。これらのピークは、3'末端のリン酸基の欠失により同定できる。これは DNAポリメラーゼの衰えによる。しかしながら、一旦ポリメラーゼが動き出すと、この問題は減少し、これは1593DaにおけるAACAG 断片および990Da におけるAGG 断片から明らかであり、そこではリン酸基の欠けた対応する生成物は見られない。これらの初期の終結断片はすべての記録において一貫して見られる。注:プライマーは非RNA のGを与える。従って、開裂はこの塩基においては生じない。
【0042】
図5は、dATPの代わりにATP を100 %用いたリボ PCR生成物の開裂を示す (実施例5による) 。生成物は以下の配列をもつ216 塩基対である。
【0043】
【化1】

【0044】
(太字はプライマー配列) 。アルカリ開裂により生成する断片をMALDI MSにより分析する。標識された質量はすべて、予想生成物に相当する。
【0045】
図6は、4つの塩基からなる断片の拡大図である。
図7は、7つの塩基からなる断片の拡大図である。
図8は、dATPに対して変化量のATP により伸長した、十分な伸長生成物の対照実験を示す。分析は、蛍光標識プライマーおよびキャピラリーシークエンサー (Megabace 1000, Amersham Bioscience) での生成物のサイジングを用いて行う。生成物のサイズは216 塩基である。
【0046】
以下の実施例は、本発明の目的の例示のためだけに示され、決して制限を加えるものでないことは当然である。
【実施例1】
【0047】
一般的方法
鋳型 DNA、2つのプライマー (3'末端近くに1つのホスホロチオアート架橋を含む) 、dATP, dGTP, dCTP, UTP 、緩衝液、マグネシウムおよび遺伝子工学処理した DNAポリメラーゼを用い、55℃で15秒、72℃で30秒、95℃で15秒の温度プロフィールの30サイクルにより、50〜1000塩基範囲の DNAを増幅する。 PCR生成物を55℃で一晩、25M NH4OH(全体のpH=11) により処理する。その後、溶液を、ZipTip逆相カラム (Millipore) 上か、イオン交換樹脂の添加により脱塩し、MALDI 標的上に移す。標的はマトリックスで予め被覆することができるか、またはマトリックス溶液を試料と混合し、MALDI 標的表面に移して乾燥させる。MALDI 標的をMALDI 質量分析計に入れ、分析する。質量スペクトルは、 PCR生成物全体の断片に相当する、複合ピークパターンを示す ( 図1、2および4参照)。
【実施例2】
【0048】
1つの増幅工程による候補断片の再配列決定
PCR:
フォワードプライマー (3.75pmol) 、リバースプライマー (3.75pmol) 、10× PCR緩衝液 (UP2 、pH8.8)1μl、MgCl2 (20mM)1μl、 dCTP, dATP, dGTP,および UTP (各2mM) をそれぞれ0.125 μl、遺伝子工学処理 DNAポリメラーゼ (5U/ μl)0.25 μlを水で10μlに満たして用いた。
【0049】
サイクルは以下の通りである:
1.95℃、2分、2.95℃20秒、3.68℃、30秒、4.72℃30秒、5.72℃、4分、工程2〜4を35回繰り返す。
【0050】
場合により、 PCR生成物をこの段階で精製することができる。可能な方法は、エタノール沈殿、逆相精製などである。
開裂:
25M NH4OH を PCR生成物に添加し、55℃に一晩温置する。 RNA塩基のアルカリ開裂は、リン酸基の3'位で生じる。これにより、 DNAポリメラーゼ伸長反応の早期終結と、開裂生成物との差を区別することが容易である (開裂生成物はリン酸基により、より重い)(図4参照))。
MALDI 分析
飽和3-HPA マトリックス0.5 μlを、試料0.5 μlと混合し、MALDI 標的表面に置く。分析は、400 μm アンカー標的を用いてMALDI 質量分析計で陽または陰イオンモードのいずれかで行う。
【0051】
PCRを1種の修飾ヌクレオチド三リン酸で100 %置換して行う必要はない。
しかしながら、各Nmodified−Nunmodified断片が50%より多くなるように、70%より多く置換すべきである。Nmodified−Nunmodifiedを有する断片は配列割り当て (sequence assingment)にも使用でき、生成物はより高い質量範囲にある。さらに続いて、T、C、GおよびAをこの操作において個々に置換することができる。各置換により、全く異なるフィンガープリントを生じる(図3)。2つの異なる塩基交換の情報を合わせると、二本鎖 DNAの全配列決定には通常十分である。このように、2つの反応は二本鎖の再配列決定には十分である。これは、蛍光染料ターミネーター配列決定に必要なことに対応する。
【実施例3】
【0052】
予備増幅工程による候補断片の再配列決定
PCR:
フォワードプライマー (0.5pmol)、リバースプライマー (3.75pmol) 、10× PCR緩衝液 (UP2 、pH8.8)1μl、MgCl2 (20mM)1μl、 dCTP, dATP, dGTP およびdTTP (各2mM) をそれぞれ0.125 μl、Taq-ポリメラーゼ (5U/ μl)0.25 μlを水で10μlに満たして用いる。
【0053】
サイクルは以下の通りである:
1.95℃、4分、2.95℃20秒、3.68℃、30秒、4.72℃30秒、5.72℃、4分、工程2〜4を35回繰り返す。
開裂:
エビのアルカリホスファターゼ消化を、SAP(1U/1μl)0.5μlおよび添加した水1.5 μlを用いて行い、反応物を37℃に60分間温置し、次いでSAP を90℃で10分間変性させる。
複製:
フォワードプライマー (20pmol) 、dCTP, dATP, dGTPおよび UTP (各4mM) をそれぞれ0.125 μl、遺伝子工学処理 DNAポリメラーゼ (10U/μl)0.25 μlを水で12μlに満たして用いる。合計容積20μl。
【0054】
サイクルは以下の通りである:
1.95℃、2分、2.95℃20秒、3.68℃、2分、4.72℃15秒、5.72℃、4分、工程2〜4を35回繰り返す。
開裂:
25M NH4OH を PCR生成物に添加し、55℃に一晩温置する。
MALDI 分析:
飽和3-HPA マトリックス 0.5μlを、試料0.5 μlと混合し、MALDI 標的表面に置く。400 μm アンカーを有するアンカー標的を使用するのが好ましい。分析は、MALDI 質量分析計でリニア陽または陰イオンモードのいずれかで行う。
【実施例4】
【0055】
全ゲノムの再配列決定の方策
1個体からの精製ゲノム DNAを、慣用の切断制限酵素 (例、EcoRI)で消化する。あるいは、全ゲノム DNAを超音波の助けにより非特異的クローン化可能な小断片に破壊することもできる。この断片をベクターにクローニングし、このベクターで細胞をトランスフェクトする。操作後生存する細胞を平板培養し、増殖させ、コロニーを選ぶ (この操作は、Celniker et al., Genome Biololgy, 3, 1-14, (2002) で使用される操作に準じて行う) 。クローニングベクターに特異的な2つのプライマーを、クローン化挿入物を PCR増幅するのに使用する (実施例1または2による) 。個々の結果を用いて、ヒト参照配列と分析した個体との間の配列の違いをバイオ情報科学的に割り当てる。
【実施例5】
【0056】
1つの増幅工程を用いた候補断片の再配列決定 (図5)
リボ PCR:
ゲノム DNA 10ng 、フォワードプライマー 7.5pmol、リバースプライマー 7.5pmol、200mM トリス/HCl緩衝液 (pH8.3)1.25μl、酢酸カリウム (500mM) 0.7μl、MgCl2 (50mM)0.47μl、MnCl2 (5mM)0.25 μl、dCTP, dTTP, dGTPおよび ATP (各4mM) をそれぞれ0.25μl、Taq-ポリメラーゼ (10U/μl)0.5μlを水で10μlに満たして用いた。
【0057】
サイクルは以下の通りである:
1.95℃、4分、2.95℃30秒、3.54℃、2分、4.72℃30秒、5.72℃、4分、工程2〜4を40回繰り返す。
開裂:
水10μlを添加し、G50 による濾過で精製し、speed vac で乾燥。0.3M NaOH を 10 μl添加し、70℃に90分間温置。水10μlおよびAG 50W-X8 イオン交換樹脂 (BioRad) 2mgを添加し、室温に20分間温置。
質量分析:
上清0.5 μlを、400 μm アンカー標的上にクエン酸アンモニウムマトリックスを有する3-HPA 0.5 μlを用いてMALDI 標的に移すのに使用する。陽イオンモードでの分析。
【実施例6】
【0058】
予備増幅工程を用いる候補断片の再配列決定
PCR:
ゲノム DNA 10ng 、フォワードプライマー7.5pmol 、リバースプライマー 7.5pmol、10× PCR緩衝液1μl、MgCl2(50mM) 0.2 μl、dCTP, dATP, dGTPおよびdTTP (各4mM) をそれぞれ0.25μl、Taq-ポリメラーゼ (5U/ μl)0.2μlを水で10μlに満たして用いた。
【0059】
サイクルは以下の通りである:
1.95℃、4分、2.95℃30秒、3.66℃、45秒、4.72℃30秒、5.72℃、4分、工程2〜4を35回繰り返す。
開裂:
1×ExoI 0.5μl、エビアルカリホスファターゼ (1U/ μl)0.5μlおよび水1μlを添加し、これを37℃に1時間温置し、次いで90℃で10分間変性させることによりExo/SAP 処理を行う。
複製:
フォワードプライマー (20pmol) 、dCTP, dTTP, dGTPおよび ATP (各4mM) をそれぞれ0.25μl、200mM トリス/HCl (pH=8.3) 1.5μl、500mM 酢酸カリウム0.4 μl、MgCl2(50mM) 0.8 μl、遺伝子工学処理 DNAポリメラーゼ (5U/ μl) 1μlを用い、水で8μlに満たした。最終容積20μl。
サイクルは以下の通りである:
1.95℃、2分、2.95℃15秒、3.65℃、2分、4.72℃20秒、工程2〜4を40回繰り返す。生成物をG50 濾過で精製する。
開裂:
0.6M NaOH 5μl+水5μlを添加し、70℃に1.5 時間温置する。その後溶媒をspeedvac、水20μlおよびAG 50W-X8 イオン交換樹脂 (BioRad) 2mgで除去し、室温で20分間温置。
MALDI 分析:
飽和3-HPA マトリックス0.5 μlを、上清0.5 μlと混合し、MALDI 標的表面に置く。400 μm アンカーを有するアンカー標的が好ましく使用される。分析は、MALDI 質量分析計で陽または陰イオンモードのいずれかで行う。
【0060】
開裂プロフィールの例を図1、2、4、5および6に示す。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】NH4OH による処理を受ける、5つのウラシル塩基を有する24の塩基の合成配列を示す。
【図2】NH4OH による処理を受ける、5つのシトシン(RNA) 塩基を有する24の塩基の合成配列を示す。
【図3】単一の配列の断片パターンの理論的重複を示す。
【図4】異なる配列を有する合成鋳型上でのプライマーの酵素的伸長を示す。
【図5】dATPの代わりにATP を100 %用いたリボ PCR生成物の開裂を示す (実施例5による) 。
【図6】4つの塩基からなる断片の拡大図である。
【図7】7つの塩基からなる断片の拡大図である。
【図8】dATPに対して変化量のATP により伸長した、十分な伸長生成物の対照実験を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の DNA配列において DNA突然変異、一塩基多型、並びに挿入および欠失を検出するための、以下の工程を含む方法:
a)遺伝子工学処理されたポリメラーゼによって、4種類の天然 DNA塩基のうちの1種類の少なくとも50%が非天然塩基で置換された、前記所定の DNA配列の複製物を作製する工程;
b)前記非天然塩基を使用して、工程a)で得られた複製物を開裂させ、配列特異的断片を表す DNA生成物を作製する工程;
c)工程b)で得られた前記配列特異的断片を質量分析法で分析して、配列特異的断片のパターンを得る工程;および
d)工程c)で得られた配列特異的断片パターンを用いて、前記所定の DNA配列に関して配列の変化を同定する工程。
【請求項2】
工程a)における非天然塩基が、 RNA塩基 (ATP, GTP, CTP,またはUTP)、ホスホロチオアート塩基、ホスホロセレノアート塩基、光化学的開裂誘導性の塩基からなる群より選ばれる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
複製物において、4種類の天然 DNA塩基のうちの1種類が70%より多く非天然塩基で置換されている、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
複製物において、4種類の天然 DNA塩基のうちの1種類が 100%、非天然塩基で置換されている、請求項3記載の方法。
【請求項5】
RNA塩基を、工程b)においてアルカリ処理および高温での温置により開裂させる、請求項2記載の方法。
【請求項6】
ホスホロチオアートまたはホスホロセレノアート塩基を、工程b)において、式、OH-(CH2)n -I (式中、n=2〜5)の化合物の縮合、および高温での温置により開裂させる、請求項2記載の方法。
【請求項7】
光化学的開裂誘導性の塩基を、工程b)において光への暴露により開裂させる、請求項2記載の方法。
【請求項8】
複製物を製造する工程a)が、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)および直鎖 DNAコピー操作からなる群より選ばれた操作により行われる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
直鎖コピー操作がローリングサークル複製である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
さらに、工程a)と工程b)との間に工程a') を含み、工程a') においては複製物を、例えば逆相材料またはイオン交換樹脂で精製する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
さらに、工程b)と工程c)との間に工程b') を含み、工程b') においては配列特異的断片を、例えば逆相材料またはイオン交換樹脂で精製する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
工程c)で使用される質量分析計がMALDI またはESI 質量分析計である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
請求項1の方法を実施するための、所定の DNA配列中の DNA突然変異、一塩基多型、並びに挿入および欠失の検出のための、以下を含むキット:
・遺伝子工学処理した DNAポリメラーゼ、
・非天然塩基およびdNTPのセット、
・緩衝液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−521000(P2007−521000A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516604(P2006−516604)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002435
【国際公開番号】WO2005/003390
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(506000379)コンソルシウム・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシュ・アン・ジェノミク(セーエヌエールジェ) (1)
【氏名又は名称原語表記】CONSORTIUM NATIONAL DE RECHERCHE EN GENOMIQUE (CNRG)
【Fターム(参考)】