説明

Dexamethasone−inducedproteinの遺伝子領域、抗癌剤耐性判別キット、抗癌剤感受性回復方法、抗癌剤組成物、siRNA、アポトーシス回復組成物

【課題】抗癌剤耐性の判定マーカーの遺伝子領域を提供する。
【解決手段】
抗癌剤耐性判定方法を提供する。Dexamethasone−induced protein遺伝子の新規機能を同定した。このDexamethasone−induced protein遺伝子は、プロモーター領域がメチル化されており、このメチル化によりDexamethasone−induced proteinの発現が少なくなると、カスパーゼのカスケードによるアポトーシスが抑制される。このため、本発明は、癌細胞のDexamethasone−induced protein遺伝子領域のメチル化を検出し、該メチル化されている場合に抗癌剤耐性があると判定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Dexamethasone−induced proteinの遺伝子領域、抗癌剤耐性判別キット、抗癌剤感受性回復方法、抗癌剤組成物、siRNA、アポトーシス回復組成物に係り、抗癌剤治療におけるメチル化を介した薬剤耐性獲得の指標に係るDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域、抗癌剤耐性判別キット、抗癌剤感受性回復方法、抗癌剤組成物、siRNA、アポトーシス回復組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、大腸癌の化学療法は、進行癌の手術後に再発予防を目的とした補助化学療法と、根治目的の手術が不可能な進行癌または再発癌に対する生存期間の延長及びQOL(Quality of Life)の向上を目的とした化学療法とが存在する。
このうち、進行・再発大腸癌の化学療法においては、1980年代より5FU(フルオロウラシル、Fluorouracil)、1990年代よりオキサリブラチン(Oxaliplatin、L−OHP)、イリノテ力ン(irinotecan)のような抗癌剤が開発され、臨床応用されている。
【0003】
このような大腸癌の化学療法に用いる従来の抗癌剤としては、特許文献1を参照すると、癌細胞の増殖を抑制できるのみならず、浸潤や転移をも抑制でき、且つ血管新生の阻害作用をも有する上に、副作用の少ない抗癌剤とジフェニレンヨードニウム化合物のように、新しい抗癌剤も開発されてきている(以下、従来技術1とする。)。
【0004】
さらに、これらの抗癌剤を併用して使用する療法が開発され、治療成績が向上してきた。
近年、大腸癌の化学療法の標準治療方法として、2種類の薬剤を用いるFOLFOX(5FU+オキサリプラチン)、FOLFILI(5FU+イリノテカン)という併用療法が考案されていた。
この併用療法により、腫瘍の縮小が確認できる割合である「奏効率」が改善され、患者の生存期間も延長した。
【0005】
しかしながら、大腸癌を始めとする癌の化学療法においては、その治療過程において癌細胞が薬剤耐性(抵抗性)を備えるようになるという問題があった。
進行・再発大腸癌の抗癌剤治療において、薬剤に抵抗性を有する場合、薬剤の変更による二次治療を行っても、その効果は薬剤を変更する前の一次治療に比べて格段に下がるという問題があった。
【0006】
ここで図13を参照して、進行・再発した大腸癌の標準抗癌剤治療の効果と予後の観察例について説明する。
奏功率は、治療により腫瘍の縮小が認められた割合を示す。
肝切除率は、各群において肝臓に転移した大腸癌を再手術した割合を示す。
PFSは無増悪生存期間のことであり、その患者の癌が再び増大するか、患者が癌によって死亡するまでの期間(月)を示す。
OSは、無作為割り付けの時点から理由を問わず死亡するまでの期間(月)を示す。
このように、一次治療でFOLFOX、FOLFOLIのいずれかを使用しても、奏功率は55%程度であるが、二次治療における奏功率は、4%、15%と大きく低下する。同様に、PFSも低下する。
このように、進行・再発した大腸癌においては、FOLFOX、FOLFOLIのいずれも、10ヶ月程度で治療効果がなくなってくることが知られていた。
【0007】
次に、図14を参照して、抗癌剤の耐性のモデルについて説明する。
元々、癌細胞は、細胞の遺伝物質であるDNA(Deoxyribo Nucleic Acid)の損傷により、患者本人の体細胞が変異して発生する。癌細胞は、DNAの損傷により、通常の細胞が備えるべき細胞周期/増殖の制御、細胞死(アポトーシス)、DNA修復機構といった細胞の正常性を保つために必要な機構が働かない状態になっていることが多い。このため、癌細胞のなかには、DNAの損傷が修復されないまま生き残るものが存在し、癌の進行とともに、性質の変化した癌細胞が現れるという特徴がある。このため、癌細胞が抗癌剤に対する耐性を獲得する。
この抗癌剤に対する癌細胞の耐性機能としては、1次耐性と2次耐性があると考えられる。1次耐性は、癌細胞が生来有する耐性機能で、2次耐性は、治療の過程で癌細胞の性質が変化することにより獲得した耐性機能と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−57330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の抗癌剤や従来技術1の抗癌剤を用いて併用療法を行っても、二次治療の奏功率は低いという問題点があった。
このため、進行・再発大腸癌の標準抗癌剤治療において、癌が耐性を獲得した場合でも、現状では薬を換えることで対処するしかなかった。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域は、メチル化を抗癌剤耐性マーカーとして用いる癌細胞のDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域であることを特徴とする。
本発明のDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域は、前記癌細胞は、大腸癌の細胞又は胃癌の細胞であることを特徴とする。
本発明の抗癌剤耐性判別キットは、癌細胞のDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域のメチル化により抗癌剤耐性が判別されることを特徴とする。
本発明の抗癌剤感受性回復方法は、癌細胞のDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域のメチル化を検出し、メチル化されている場合には脱メチル化することを特徴とする。
本発明の抗癌剤組成物は、癌細胞のDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域のメチル化を検出し、メチル化されている場合に、脱メチル化剤と抗癌剤とを用いることを特徴とする。
本発明の抗癌剤組成物は、前記癌細胞は、大腸癌の細胞又は胃癌の細胞であることを特徴とする。
本発明のsiRNAは、癌細胞のDexamethasone−induced proteinの発現量を低下させることを特徴とする。
本発明のsiRNAは、配列(9)に記載された配列を用いて合成することを特徴とする。
本発明のアポトーシス回復組成物Dexamethasone−induced proteinの遺伝子産物を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Dexamethasone−induced protein遺伝子の異常メチル化の有無を判定して、メチル化がされていれば、脱メチル化剤と抗癌剤とを併用する組成物を用いることで、より長く抗癌剤の効果を持続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係るメチル化が遺伝子の転写阻害を起こすメカニズムを示す概念図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るDEX遺伝子による大腸癌の治療戦略を示す概念図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る(A)MSPで検出したメチレーション、(B−1)バイサルファイト・シーケンシングによりメチル化していたCpG、(B−2)バイサルファイト・シーケンシングの結果を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るメチル化とDEX遺伝子の発現の減少を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態に係るsiRNA添加によるDEX遺伝子の発現の現象を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態に係る(A)DEX遺伝子のsiRNAとカンプトテシンを加えたヘキスト染色の観察例を示す図、(B)DEX遺伝子のメチル化異常による耐性獲得のモデルを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るDEX遺伝子のsiRNAとカンプトテシンを加えると、カンプトテシンに耐性を備えることを示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態に係るDEX遺伝子のsiRNAを投与して48時間低酸素ストレスを与えた際のカスパーゼの発現を示す写真である。
【図9】本発明の実施の形態に係る脱メチル化剤のモデルを示す概念図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る脱メチル化剤を加えた前後でのDEX遺伝子の発現量を示すグラフである。
【図11】本発明の実施の形態に係る(A)脱メチル化剤とカンプトテシンを加えたヘキスト染色の観察例を示す図、(B)DEX遺伝子が脱メチル化剤により抗癌剤への感受性を回復するモデルを示す図である。
【図12】本発明の実施の形態に係るDEX遺伝子と脱メチル化剤を加えると抗癌剤への感受性を回復することを示すグラフである。
【図13】従来の抗癌剤の併用療法に係る一次治療と二次治療の治療効果を示す図である。
【図14】従来の抗癌剤の耐性獲得のモデルを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態>
抗癌剤治療の問題点の1つとして薬剤耐性があげられる。切除不能の大腸癌の抗癌剤治療において、薬剤に抵抗性を有する場合の対処方法は薬剤の変更であるが、その奏功率は一次治療に比べ下がる。
本発明の発明者らは、こうした耐性に関わる遺伝子を検索するため鋭意検討と実験を行った。
ここで、本発明の発明者らは、性質の変化した癌細胞では、DNAのメチル化の異常がしばしば起こることに着目した。メチル化は、DNAの修飾の一種であり、脊椎動物のゲノムではCpG(CG)配列がメチル化により修飾されることがある。このCpG配列は、遺伝子がmRNA(Messenger ribonucleic acid)に転写される際の発現制御に大きく関わっている。
【0015】
本発明の発明者らは、このメチル化が癌を悪性化させる遺伝子の発現制御にも関わっている可能性を考え、癌細胞のゲノム(染色体)全体からメチル化の異常に関する遺伝子を検出した。このメチル化異常を検出するために、本発明の発明者らは、ゲノムDNAなどを制限酵素で断片化し、特定の塩基配列を持つものだけを取得するメチレーション・センシティブAFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism、以下MS−AFLPと呼ぶ。)法を用いた。しかし、これに限られず、メチル化アレイといった手法も用いることができる。
【0016】
本発明の発明者らは、ヒトの胃癌、大腸癌で高頻度に異常メチル化されているDexamethasone−induced protein(デキサメサゾン誘導タンパク質)の遺伝子であり、Am J Respir Cell Mol Biol, Vol.25, No.1,pp119−24 (2001)で報告され、NCBIのデータベースに登録された公知のLOC642755遺伝子(以下DEX遺伝子とよぶ。)に注目した。
【0017】
LOC642755のmRNA及びProteinの番号は下記の通りである:

Gene Name: LOC642755
Gene ID : 642755
Chromosome Location: 15q11.2
Isoform (mRNA) Accession#: XM_926382
Protein Accession#: XP_931475
【0018】
ゲノム上のこのDEX遺伝子は、オープン・リーディング・フレームを基に、ローカル・アラインメントにより推定上のタンパク質の配列として特定され、まだ未確定の状態であるものの、上述の文献と以下のID(Identification)によりゲノム配列を特定可能である:

GeneID:642755(LOC642755)
なお、NCBI Entrez Geneにおいて、2009年6月26日のupdateにて遺伝子番号の変更が行われ、GeneID:100133165に変更された。しかしながら、本発明の実施の形態においては、上述のLOC642755を用いて説明する。

(LOC100133165 hypothetical protein LOC100133165)
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=gene&cmd=Retrieve&dopt=full_report&list_uids=642755)
【0019】
このDEX遺伝子は、ヒト15番染色体q11.2領域のインプリント遺伝子の近傍に存在し、肺胞上皮細胞株でストレス下でステロイドを投与すると発現量が増えることが分かっている。また、DEX遺伝子が翻訳されたタンパク質は、膜貫通型ドメインとしてロイシン・ジッパー(Leucine zipper)モチーフを備えると推測されていた。
しかしながら、このDEX遺伝子の具体的な機能は知られていなかった。
そこで、本発明の発明者らは、DEX遺伝子が、どのようにメチル化されて大腸癌に関わるのかの機構を解明し、本発明の実施の形態に係る抗癌剤治療における異常メチル化を介した薬剤耐性獲得の指標の判別方法、及び治療戦略方法の発明に至った。
【0020】
まず、図1を参照して、ゲノムDNAのメチル化と、発現の制御の関係について説明する。
ヒトを始めとする脊椎動物の核内のゲノムのDNAには、mRNAに転写され、タンパク質に翻訳される遺伝子領域と、この遺伝子の発現を制御するプロモーター領域が存在する。このプロモーター領域には、転写因子(転写制御因子)と呼ばれるDNA結合タンパク質が結合し、この刺激によりmRNAへの転写が行われる。
ここで、プロモーター領域のDNAの転写制御に関わる部位のCpG配列がメチル化されると、転写因子が結合しにくくなり、DNAからmRNAへの転写が阻害されることが考えられる。この場合、このDNA配列の後流の遺伝子が発現しにくくなる。
本発明の発明者らは、DEX遺伝子においても、胃癌、大腸癌で高頻度にプロモーター領域の異常メチル化が起こり、この異常メチル化によりDEX遺伝子のmRNAの発現が抑制されている事を明らかにした。この異常メチル化の検出は、配列番号(1)〜(4)のプライマーを用いたバイサルファイト・シーケンシング(Bisulfite sequencing)法により行うことが可能である。
バイサルファイト・シーケンシング法は、バイサルファイト処理を行なったゲノムDNAにおいては、メチル化シトシンは変換されず、非メチル化シトシンのみがウラシルに変換されるという反応を利用したDNAシーケンシングを用いた公知の検出方法である。バイサルファイト処理の前後では、シトシンとチミン(ウラシル)の差異が配列データとして得られるため、これによりプロモーター領域でメチル化されているCpG配列を特定することができる。
なお、このバイサルファイト・シーケンシング法以外にも、メチル化センシティブな制限酵素を用いる等の方法にて、プロモーター領域の異常メチル化を検知可能である。
【0021】
本発明の発明者らは、さらにsiRNAを用いて遺伝子発現を抑制し機能解析を行ったところ、DEX遺伝子は、カンプトテシン(抗癌剤)の細胞死の耐性誘導に関わる事を明らかにした。
そこで耐性の誘導された大腸癌細胞株に対し、脱メチル化剤を投与しDEX遺伝子のプロモーター領域の異常メチル化を改善させ、遺伝子発現を回復させた。その後、再度、細胞株にカンプ卜テシンを投与したところ、細胞死の誘導が回復した。
このように、本発明の実施の形態に係る癌細胞判定方法は、DEX遺伝子のプロモーター領域に異常メチル化があるかを判定する。そして、異常メチル化により耐性を獲得したと考えられる癌細胞に対して、脱メチル化剤により抗癌剤に対する感受性を回復させる治療戦略を用いることができる。
なお、本発明のDEX遺伝子領域とは、このDEX遺伝子の上流のプロモーター領域に限られず、ヒト又は動物の染色体のDNAにおいてDEX遺伝子の発現制御に関わる領域を全て含んでおり、DEX遺伝子のエキソン、イントロン、上流領域、下流領域等の数十〜数千kbase単位の近傍の領域を含む。また、DEX遺伝子の偽遺伝子や、発現調整を行っている、離れた領域のDNA配列等も含むものである。
また、DEX遺伝子は、いくつかのオルタナティブフォームが存在することが考えられる。それによりDEX遺伝子のプロモーター領域は異なるものの、これらのプロモーター領域もすべて含むものである。
【0022】
図2を参照して、DEX遺伝子を指標として、進行・再発大腸癌における抗癌剤抵抗性腫蕩に対する治療戦略について説明する。
DEX遺伝子のプロモーター領域の異常メチル化の有無を評価することにより耐性誘導の経路を特定できれば、一次治療を継続しながら脱メチル化剤を併用する事により腫瘍の抗癌剤耐性を克服することが可能になると考えられる。
また、DEX遺伝子がメチル化をしていない形質をもつ大腸癌の場合には、一次治療で耐性が生じた場合には、ただちに別の抗癌剤を投与したり、別の治療法に切り換えて、患者のQOLを向上させることができる。
このように、DEX遺伝子のプロモーター領域のメチル化を判定するメチル化判定方法により、大腸癌の化学治療に対する方針を得ることができるという効果が得られる。
また、本発明の発明者らは、DEX遺伝子は、カスパーゼのカスケードの上流に関わっていることを明らかにしている。よって、DEX遺伝子を欠失した大腸癌においても、このDEX遺伝子やDEXタンパク質を導入することで、正常な細胞死を誘導することができると考えられる。
【0023】
以上のように、本発明の実施の形態に係るDEX遺伝子を用いて、抗癌剤耐性マーカーを実現することができる。すなわち、本発明の実施の形態において、DEX遺伝子のプロモーター領域を、大腸癌においてDNAメチル化異常を介した薬剤耐性の獲得に関わる新規の抗癌剤耐性マーカーとして用いることができる。
また、本発明の実施の形態に係る抗癌剤耐性マーカーを用いたメチル化判定方法により、抗癌剤抵抗性腫蕩に対する治療戦略を得ることができる。
これにより、有効な薬剤が少ない、進行、再発した大腸癌や胃癌等において、耐性の克服を目指した治療戦略を確立することができる。
【0024】
また、DEX遺伝子は、大腸癌においてDNAメチル化異常を介した薬剤耐性の獲得に関わっており、脱メチル化剤使用時期の判定を行うことができる。
すなわち、DEX遺伝子のメチル化異常の有無を判定し、メチル化異常がある場合、脱メチル化剤と化学療法剤との組み合わせた療法を行うことができる。
これにより、FOLFOX(5FU+オキサリプラチン)あるいはFOLFILI(5FU+イリノテカン)使用にあたり、2次治療の奏功率が低下する問題を解消する方法を提供することができる。
【0025】
本発明の組成物は、他の組成物等と併用することも可能である。また、他の組成物と同時に本発明の組成物を投与してもよく、また間隔を空けて投与してもよいが、その投与順序は特に問わない。
【0026】
また、本発明の実施の形態において、疾患が改善または軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善または軽減であってもよいし、一定期間の改善または軽減であってもよい。
【実施例】
【0027】
〔本発明の実施の形態に係る治療用組成物の実施例〕
以下で、本発明の実施の形態に係る治療用組成物について、具体的な実験を基にして、実施例としてさらに具体的に説明する。
【0028】
〔実験の方法と手順〕
(細胞系統(セル・ライン)と細胞培養)
ヒトの皮膚繊維芽細胞細胞の細胞株として、NHDF(AD、クラボウ、倉敷紡績株式会社製、大阪、日本)を使用した。
ヒトの大腸癌細胞株(colorectal cancer cell line)として、HCT116(ATCC、マナッサス、バージニア州、米国)から得た。
さらに、ヒトの結腸・大腸癌(colon carcinoma)細胞株として、COLO320DM(JCRB、大阪、日本)を使用した。
NHDFは、低血清増殖添加剤(LSGS)を加えた培養液106S(倉敷紡績株式会社製)で培養された。
HCT116とCOLO320DMは、10%のウシ胎児血清(FBS)であるCellect Gold(MPバイオメディカル社製、オーロラ、オハイオ州、アメリカ)、10,000ユニット/mlのペニシリンG、安定化した抗生剤・抗真菌剤である10mg/mlの硫酸ストレプトマイシン、及び25μg/mlのアムホテリシンB(SIGMA社製、ミズーリ州、アメリカ)を加えたDulbecco修正イーグル培地(DMEM)により培養された。
【0029】
(核酸抽出)
DNA抽出には、DNeasyR Blood & Tissue Kit (QIAGEN、東京、日本)を用いた。抽出は、メーカーの説明書に従って行った。
RNAはTRIzolR Plus RNA Purification Kit (invitrogen、Carlsbad、カリフォルニア州、アメリカ)を用いた。抽出は、メーカーの説明書に従って行った。
【0030】
(MS−AFLP)
MS−AFLPは、網羅的にゲノム全域のメチル化の異常を検知するための非常に有効な方法である。
MS−AFLPは、MS−AFLPは、suzukiらによって既に報告されている方法(Koichi Suzuki, Global DNA demethylation in gastrointestinal cancer is age dependent and precedes genomic damage, CANCER CELL 9, 199−207, MARCH 2006)に従って行った。
PCR産物はゲルから溶出され、MS−AFLPに対して使用されたのと同じプライマーにより増幅された。
再増幅されたDNAは、QIAクイックPCR抽出キット(QIAGEN社製、ヒルデン、ドイツ)により抽出され、ABI PRISMダイ・ターミネーター・サイクル・シーケンシング・キット(パーキン・エルマー)により配列が決定された。
MS−AFLPで得られた断片の塩基配列は、配列検索ツールであるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)で検索を行い、それを基に配列を決定した。
【0031】
(バイサルファイト処理)
ゲノムDNAにバイサルファイト(亜硫酸水素ナトリウム)による処理を行うと、メチル化されていないシトシンはウラシルに変化し、一方でメチル化されたシトシンに対しては何も修飾しないという処理である。
バイサルファイト処理はEpiTect(登録商標)バイサルファイト・キット(QIAGEN社製、ヒルデン、ドイツ)を用いて、メーカーの説明書に従って行った。
【0032】
(メチレーション特異的PCR、MSP)
メチル化の有無を識別するために、メチル化特異的PCR法(MSP、Methylation−specific PCR)を行った。
PCR増幅は、1×PCRバッファー、0.25mM dNTPミックス、0.025U/μl HotStarTaq DNAポリメラーゼ(QIAGEN社製、ヒルデン、ドイツ)、及び0.5μMのそれぞれのプライマー(Forward primerとReverse primer)によりトータル20μlの反応液組成で行った。

【0033】
メチル化DNA特異的なプライマーの配列は以下のとおりである:
Forward primer:
5’−ATTCGGAGGACGACGTCGCGGTC−3’ …… 配列(1)
Reverese primer:
5’−GCAAAAACCTCGCAAAACCGACGAAA−3’ …… 配列(2)

非メチル化DNA特異的なプライマーの配列は以下のとおりである:
Forward primer:
5’−TGTGATTTGGAGGATGATGTTGTGGTT−3’ …… 配列(3)
Reverese primer:
5’−CTCACAAAAACCTCACAAAACCAACAAAA−3’ …… 配列(4)
【0034】
PCR反応は、初期熱変性を95℃で5分間行った後、熱変性を95℃で45秒、アニーリングを56℃で45秒、伸長反応を72℃で1分を1サイクルとして38サイクル行い、最終伸長反応を72℃で10分間行った。PCR産物は10℃で保存した。
PCR産物は1.5%のアガロースゲル電気泳動法で確認された。
【0035】
(バイサルファイト・シーケンシング法)
バイサルファイト処理されたDNAを、バイサルファイト処理により影響されない位置に設計されたプライマーを用いてPCR増幅した。このPCR反応は、1×PCRバッファー、0.25mM dNTPミックス、0.025U/μlのHotStarTaq Plus DNAポリメラーゼ(QIAGEN社製、ヒルデン、ドイツ)、及び0.5μMのそれぞれのプライマー(Forward primerとReverse primer)によりトータル20μlの反応液組成で行った。
このバイサルファイト・シーケンシング用のプライマーの配列は以下のとおりである:
Forward primer:
5’−GAAGAGGGGAGGTGATTTTG−3’ …… 配列(5)
Reverese primer:
5’−CCTACAAACCCAACACCCAT−3’ …… 配列(6)
【0036】
PCRは、初期熱変性を95℃で5分間行った後、熱変性を95℃で45秒、アニーリングを56℃で45秒、伸長反応を72℃で1分を1サイクルとして38サイクル行い、最終伸長反応を72℃で10分間行った。PCR産物は10℃で保存した。
PCR産物は、EXOSAP IT(USB株式会社製、クリーヴランド、オハイオ、米国)で精製後、pGEM−T Easy ベクター(Promega社製、メディソン、ウィスコンシン州、米国)によるTA cloningを行ってシーケンシングに用いた。
シーケンシングには、ABI PRISM(登録商標)3100、ジェネティック・アナライザー(アプライド・バイオシステムズ社製、フォスター・シティ、カリフォルニア、米国)を用いた。
【0037】
(リアルタイム定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応、Real−time qRT−PCR)
Real−time qRT−PCRを用いてRNAの定量を行った。この定量は、ロッシュLightCycler(登録商標)(ロッシュ社製、マンハイム、ドイツ)、SuperScript III Platinum(登録商標)ワンステップ定量RT−PCRシステム(Invitrogen社製、カールスバード、カリフォルニア、米国)を用いて行った。
Real−time qRT−PCRに用いるプライマーとしては、D−LUX デザイナー・ソフトウェア(https://orf.invitrogen.com/lux/luxDesign.jsp)により設計されたLUX Fluorogenicプライマー(Invitrogen社製、カールスバード、カリフォルニア、米国)を用いた。当該プライマー配列は以下のとおりである:
Forward primer:
5’−TTCTACGTGGGCCTGTTCTT−3’ …… 配列(7)
Reverese primer:
5’−TCCAAGTACCCATCAAAGACG−3’ …… 配列(8)

internal controlとして、ハウスキーピング遺伝子(hGAPDH)を使用した。
【0038】
(RNAi、トランスフェクション)
Custom Stealth RNAi (invitrogen、カールスバード、カリフォルニア、米国)は、BLOCK−iT RNAiデザイナー・ソフトウェア(https://rnaidesigner.invitrogen.com/rnaiexpress/)により設計された。
siRNA(XM_926382_stealth_539)の配列は以下のとおりである:

5'−CCUCUAUGUUCUACGUGGGCCUGUU−3' …… 配列(9)

siRNAは、PrimaPort siRNAトランスフェクションReagent(登録商標)(CREDIA−JAPAN社製、京都、日本)を用いて、NHDF細胞株に遺伝子導入(トランスフェクション)された。
【0039】
トランスフェクションの1日前に、35mmディッシュ上に抗生物質を含まない培地1500μlに対して5×104の細胞を播き、37℃、5%のCO2インキュベーター内で24時間培養した。トランスフェクション時に、約30〜50%のコンフルーエンスとした。
また、PrimaPortを6.0μl、Opti−MEM(Invitrogen社製、カールスバード、カリフォルニア、米国)75.0μlに混和し、siRNA200pmolをOpti−MEM75.0μlに混和後、これらの2つの溶液をゆっくりと混ぜ、室温で30分インキュベートした。この混合液に培地を加え1,500μlとし、37℃、5%のCO2を含む環境のインキュベーター内で48時間培養した。
【0040】
(アポトーシス)
カンプトテシン(シグマ社製、カタログ No.C−9911)によるアポトーシスの誘導を行った。
カンプトテシンの添加は、SiRNA導入48時間後に、NHDFに対して20μM、HCT116に対して10μMになるよう行った。添加後、37℃、5%のCO2を含む環境のインキュベーター内で24時間培養し、アポトーシスの評価を行った。
【0041】
(ヘキスト染色)
アポトーシスを起こした細胞は、核凝縮及びDNAがフラグメント化するため、これを検出するため、ヘキスト33342(SIGMA社製、東京、日本)で染色し、UVフィルタ(330−380nm)およびバンド・パス・フィルタ(420nm)を用いて蛍光顕微鏡(ニコン社製、BioStaition IM CELL−SIP)にて観測した。染色は、ヘキストを3μg/mlとなるように添加し、室温で5分インキュベートした。
【0042】
(フローサイトメトリー、FACS流動細胞計測法分析)
細胞のアポトーシス誘導および細胞周期の検知については、培養細胞をかきだして集め、5分間2,000rpmで遠心分離して取得した。
細胞はクエン酸で固定する前にPBSで洗浄した。細胞を固定した後、核をpropidium iodide(PI)にて染色し、フローサイトメトリー(Flow cytometry、FACS)計測法でアポトーシスの比率および細胞周期を分析した。
【0043】
(免疫組織化学分析)
Ki−67の免疫組織化学分析は、ウサギモノクローナル抗体Ki67(Thermo Fisher Scientific Anatomical Pathology、カリフォルニア、米国)を用いて行った。
【0044】
(細胞老化)
細胞老化については、老化細胞染色キット(SIGMA、ミズーリ、米国)を用いて行った。
【0045】
(統計分析)
値は、少なくとも3つの別個の実験から、平均と±SDを求めた。群の間の違いはスチューデントのt検定により評価された。
P<0.05の場合、違いが重要(有意)であると考えられた。
【0046】
〔実験結果の考察〕
(癌細胞株におけるDEX遺伝子プロモーター領域のメチル化状態)
まず、図3を参照して、癌細胞株におけるDEX遺伝子である、DEX遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態について説明する。
図3のA.において、上述の実験法により、メチル化を評価したところ、胃癌セルライン(H111、GSS、HGC27、AZ521)、大腸癌細胞株(CW2、CACO2、HCT116、COLO320DM)のDEX遺伝子(LOC642755)はメチル化(M)されていた。しかし、正常組織の繊維芽細胞のセルライン(NHDF)では、メチル化されていなかった(U)。また、COLO320DMは、メチル化されたプライマーと、メチル化されていないプライマー両方でPCR産物を得た。
図3のB1.は、DEX遺伝子のプロモーター領域のCpGサイトの位置関係を示している。
図3のB2.は、バイサルファイト・シーケンシングを行い、各CpGサイトのメチレーションを検出した結果である。各クローンについて、CpGがメチル化された状態(メチル化)を暗い丸にて、メチル化していない状態(非メチル化)を明るい丸にて示した。この結果、ほとんどすべての癌細胞株のCpGがメチル化されていた。逆に、正常組織由来のNHDF細胞株ではCpGはメチル化されなかった。そして、大腸癌細胞株であるCOLO320DMについては、この部位の30%のCpGがメチル化され、これはPCRと同様の結果であった。
【0047】
図4は、コントロールとしてGAPDHを使用して、リアルタイムqRT−PCRの結果を要約したグラフである。HCT116とCOLO320DMのDEX遺伝子は、NHDFよりRNAの発現が抑制されている。すなわち、プロモーター領域のメチル化により、DEX遺伝子のRNAの発現が抑制されることを示している。
このように、胃癌、大腸癌の細胞において、LOC642755のプロモーター領域が異常メチル化されることにより、DEX遺伝子の発現が抑制される。
【0048】
(DEX遺伝子のsiRNAの添加による抗癌剤由来のアポトーシスの減少)
次に、上述の方法で作成したsiRNAを用いてDEX遺伝子の発現を減少させた。
図5を参照すると、正常細胞であるNHDF細胞株に、siRNAを遺伝子導入し、DEX遺伝子のノックダウンを行って、qRT−PCRにてDEX遺伝子の発現量を測定した結果である。上述のように、NHDFのDEX遺伝子プロモーター領域は、メチル化されていない状態であり、DEX遺伝子を発現している。これに対して、siRNAを導入すると、DEX遺伝子のRNAの発現は40%程度、抑制された。
【0049】
図6を参照して、NHDF細胞株にDEX遺伝子のsiRNAを導入した例について説明する。図6のA.によると、コントロールであるNHDF細胞株にカンプトテシン(CPT)のみを与えて、ヘキスト染色した細胞を目視により確認したところ、細胞はアポトーシスを起こして抗癌剤由来の細胞死を来した。これに対して、NHDF細胞株にカンプトテシンとsiRNAを加えたところ、細胞死の割合は減少した。このように、DEX遺伝子用のsiRNAは、カンプトテシンに耐性を持たせることがわかる。すなわち、線維芽細胞のDEX遺伝子の発現を抑制すると抗癌剤による細胞死の誘導が抑えられ、耐性が誘導された。
図7を参照して、図6の結果のグラフについて説明する。まず、コントロールのNHDF細胞株にsiRNAのみを導入し、毒性のないことを確認した。すなわち、アポトーシスによる細胞死の割合は0.5%から2.7%に増えただけで有意ではなかった。カンプトテシンを加えると、40.5%(53/131例)の細胞がアポトーシスを起こした。しかしながら、siRNAの遺伝子導入により、抗癌剤によるアポトーシスを起こした細胞は7.3%(10/137例)に減少した。
ここで、図6のB.のモデルを参照すると、元々、カンプトテシンのような抗癌剤は、通常の細胞よりも増殖の盛んな癌細胞にアポトーシスを誘導する働きがある。このため、DEX遺伝子を発現している形質をもつ癌細胞においても、アポトーシスを起こさせることができる。
逆に、DEX遺伝子の発現量が少ない形質に変化した癌細胞は、抗癌剤に耐性となりアポトーシスが起こらなくなると考えられる。
【0050】
図8を参照して、DEX遺伝子用のsiRNAが細胞死を抑制する例について説明する。図8は、低酸素状態のストレスを48時間与えた後で、コントロール群とsiRNA導入群でアポトーシスのネットワークに関わるシステインプロテアーゼであるカスパーゼ(caspase)の発現量を比較したものである。
写真は、カスパーゼを免疫組織化学分析により蛍光染色したもので、コントロール群に比べて、siRNA導入群は、明らかにカスパーゼの発現が少なくなっている。また、siRNAを導入しないコントロール群に比べて、siRNA導入群はコントロール群に比べ有意に細胞死が少なかった。
このように、DEX遺伝子は、アポトーシスを誘導するカスパーゼのカスケードに関わっており、遺伝子ネットワークにおいては、カスパーゼの手前に関わると考えられる。
【0051】
(DEX遺伝子プロモーター領域の脱メチル化によるカンプトテシン感受性の回復)
まず、図9を参照して、脱メチル化剤について説明する。本発明の発明者らは、上述のように、DEX遺伝子の発現を回復させると、抗癌剤への感受性は回復するかについて検証するため、脱メチル化剤を用いることを考えた。
脱メチル化剤としては、5−aza cytidineを用いることにした。この5−aza cytidine(薬剤名Vidaza、Pharmion社製)は、骨髄異形成症候群(MDS)の抗癌剤として開発中のものである。
5−aza cytidineは、メチル化されたCpGを脱メチル化する。
【0052】
図10は、脱メチル化剤である5−aza cytidineを1μM、2日添加してメチル化を除いて、qRT−PCRを行ってDEX遺伝子の発現量の変化をみたグラフである。
この実験により、HCT116とCOLO320DMは、共に、DEX遺伝子のRNAの発現量が有意に回復することが分かる。
すなわち、大腸癌細胞株を5−aza cytidineで処理することで、DEX遺伝子の発現量が回復する。
【0053】
図11を参照して、HCT細胞株に、5−aza cytidineを1μM、2日添加して異常メチル化を回復した細胞に、カンプトテシンを投与した例について説明する。
図11のA.によると、コントロールである5−aza cytidineで処理していないHCT細胞株にカンプトテシン(CPT)を与えて、ヘキスト染色した細胞を目視により確認したところ、細胞はあまりアポトーシスを起こしていなかった。これに対して、5−aza cytidineを添加して脱メチル化したHCT細胞株にカンプトテシンを加えたところ、多くの細胞がアポトーシスを起こしていた。
図12は、図11の結果をグラフ化したものである。コントロールの5−aza cytidineのみを投与した際のアポトーシスによる細胞死は1.0%から7.3%へ増えただけであった。また、DEX遺伝子のプロモーター領域がメチル化しているHCT細胞株にカンプトテシンを投与しても、目視により確認したところ、20.6%(33/160例)しかアポトーシスを起こしていなかった。これに対して、脱メチル化したHCT細胞株にカンプトテシンを投与した場合は、60.4% (55/91例)と有意にアポトーシスを起こしていた。
このように、脱メチル化剤の投与により抗癌剤の感受性が回復したことが分かる。すなわち、脱メチル化剤によりDEX遺伝子の発現を誘導すると、抗癌剤の感受性が回復する。
図11のB.のモデルを参照すると、たまたまカンプトテシンに耐性がない形質の細胞のみが細胞死する。これに対して、脱メチル化を行うことで、これまで耐性があった癌細胞にカンプトテシンへの感受性を回復させ、この感受性を回復させた細胞を細胞死させることができる。
【0054】
なお、上述の他の実験により、DEX遺伝子は、細胞老化、細胞増殖、細胞周期には、ほぼ影響しないという知見を得ている。
【0055】
以上のように、イリノテカンや5FUなどの化学療法では、抗癌剤の耐性により奏功率が低下する。本発明の発明者らは、この原因を探るため、大腸癌及び胃ガン患者のメチル化異常のある遺伝子を解析したところ、双方の患者とも約半数にDEX遺伝子でメチル化異常を検出した。
そこで、当該遺伝子のメチル化異常のないヒト皮膚線維芽細胞株NHDF及びメチル化異常のある大腸癌由来細胞株にてDEX遺伝子のメチル化異常の有無によるアポトーシスへの影響を調べた。そして、DEX遺伝子のメチル化異常でDEX遺伝子の発現量が減ると、アポトーシスが抑制されることを示した。
また、正常細胞株でsiRNAにて当該遺伝子の発現を抑制したところ、カンプトテシンによるアポトーシスが見られなかった。一方、当該大腸癌由来細胞株は、カンプトテシンによるアポトーシス誘導がなく、抗癌剤耐性を示した。
このように、本発明の発明者らは、DEX遺伝子のプロモーター領域のメチル化により、癌細胞が抗癌剤に対する耐性を獲得することを明らかにした。
さらに、大腸癌由来細胞株に脱メチル化剤を用いて処理したところ、DEX遺伝子の発現が回復し、カンプトテシンによる細胞死を誘導することができた。
しかしながら、この実施例は一例にすぎず、これに限定されるものではない。
【0056】
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
まず、従来技術1のような新しい抗癌剤や従来の抗癌剤を併用した標準療法において、癌細胞が抗癌剤への耐性を獲得すると、薬剤を変更するしかなかった。しかしながら、変更可能である有効な薬剤は少なく、二次治療の治療成績は悪かった。
これに対して、本発明の実施の形態に係る抗癌剤耐性判定方法は、DEX遺伝子のプロモータ領域のメチル化異常を指標にして、カンプトテシンやイリノテカンなどの抗癌剤に対する耐性の有無を判定することが可能になる。
【0057】
また、5−aza cytidineは、ゲノムDNAのメチル化を解除する働きがあり、脱メチル化することにより、細胞分化や成長を調節する役割の腫瘍抑制遺伝子が正常機能を回復し、5−aza cytidine自体の細胞毒性により正常な成長抑制機能に反応しなくなった分裂の早い細胞を死滅させるという作用効果が期待されている。
これに対して、DEX遺伝子のプロモーター領域がメチル化されている癌に対して、5−aza cytidineのような脱メチル化剤を用いると、抗癌剤への感受性を回復させるという効果が得られる。このため、単純に抗癌剤を使用したり、5−aza cytidineを使用するだけ、又は両剤を単純に併用するのに比べて、より長く効果的に同じ抗癌剤を使用した化学療法を続けられるという効果が得られる。また、5−aza cytidineの効果が認められている癌以外の胃癌や大腸癌にも用いることができるという効果が得られる。
これにより、手術による回復の見込みのない大腸癌患者の生存期間を延ばすことが推測でき、患者の回復率やQOLを向上させることができる。
すなわち、抗癌剤に対する耐性誘導の経路を特定し、一次治療を継続しながら脱メチル化剤を併用して腫瘍の抗癌剤耐性を押さえることができる。
【0058】
また、従来、化学治療に係わる費用は高額であり、患者の家計を圧迫しているという問題があった(日経メディカル:2007.10.31;第45回日本癌治療学会会「高度化する癌化学療法が家計を圧迫、経済的理由で治療変更せざるを得ない患者も」(東北大学医療管理 濃沼信夫教授)、参照)。
これに対して、本発明においては、同じ抗癌剤を、これまでより多量に使用できるため、該抗癌剤の大量生産によるコストの削減が期待できる。
【0059】
また、本発明の実施の形態に係る抗癌剤耐性判定方法においては、DEX遺伝子を介したカスパーゼのカスケードについての知見が得られたため、分子標的薬を作成するために用いることもできる。
さらに、DEX遺伝子そのものを導入することで、アポトーシスを誘導できると考えられるため、抗癌剤の開発用のターゲットとしてDEX遺伝子とDEXの遺伝子産物を用いることも可能である。
【0060】
また、本発明の実施の形態に係る配列(9)のsiRNAは、カスパーゼのカスケードに係るアポトーシスを抑制するため、脳梗塞や潜水病のような低酸素状態に用いることで、神経細胞等への損傷を抑えることができると考えられる。
同様に、DEX遺伝子に係るsiRNAやPNA等を用いて、細胞死に係る疾病に適用可能である。
【0061】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、DEX遺伝子のプロモーター領域のメチル化異常を指標にすることで、抗癌剤に対する耐性の有無を判定することができ、薬剤の選択等に関わるオーダーメイド医療の指標の1つとして用いることができ、産業上利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチル化を抗癌剤耐性マーカーとして用いる癌細胞のDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域。
【請求項2】
前記癌細胞は、大腸癌の細胞又は胃癌の細胞である
ことを特徴とする請求項1に記載のDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域。
【請求項3】
癌細胞のDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域のメチル化により抗癌剤耐性が判別される
ことを特徴とする抗癌剤耐性判別キット。
【請求項4】
癌細胞のDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域のメチル化を検出し、
メチル化されている場合には脱メチル化する
ことを特徴とする抗癌剤感受性回復方法。
【請求項5】
癌細胞のDexamethasone−induced proteinの遺伝子領域のメチル化を検出し、
メチル化されている場合に、脱メチル化剤と抗癌剤とを用いる
ことを特徴とする抗癌剤組成物。
【請求項6】
前記癌細胞は、大腸癌の細胞又は胃癌の細胞である
ことを特徴とする請求項5に記載の抗癌剤組成物。
【請求項7】
癌細胞のDexamethasone−induced proteinの発現量を低下させるsiRNA。
【請求項8】
配列(9)に記載された配列を用いて合成することを特徴とする請求項7に記載のsiRNA。
【請求項9】
Dexamethasone−induced proteinの遺伝子産物を用いたアポトーシス回復組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−45291(P2011−45291A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196707(P2009−196707)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(505246789)学校法人自治医科大学 (49)
【Fターム(参考)】