説明

EGRクーラ

【課題】複数段積層されたガス流路23を備えるEGRクーラ5において、ガス流路23毎の流量ばらつきを改善する。
【解決手段】本発明のEGRクーラ5は、排気ガスが流れる扁平なガス流路23を区画する複数の流路ユニット22が積層状態で配置され、低温流体が流れる扁平な低温流体流路26とガス流路23とが積層方向に対して交互に形成された熱交換部27と、熱交換部27における排気ガスの導入箇所に設けられた排気ガス導入空部28と、熱交換部27における排気ガスの排出箇所に設けられた排気ガス排出空部と、排気ガス導入空部及び排気ガス排出空部の少なくとも一方に収容され、抵抗材21aを通過させることで排気ガスに流路抵抗を付与する整流部材21とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気系統に導入される排気ガスを冷却するためのEGRクーラに関する。
【背景技術】
【0002】
EGRクーラやオイルクーラ等の熱交換器には、扁平な流路を区画する流路ユニットを積層することで多段の流路を設けた積層型のものがある。そして、このような積層型熱交換器には、高温流体を導入する空部に、高温流体の流れを調整する整流部を配置したものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の熱交換器では、上記の制流部として、半円筒状であって横長の切欠孔を設けた製流体が用いられている。また、特許文献2に記載の熱交換器では、円錐台状の外観形状を有する整流体が、高温流体を導入する空部の床面から立設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−240081号公報
【特許文献2】特開2007−71434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の整流体は、高温流体による熱応力を緩和する目的で設けられている。このため、流路毎の流量のばらつきは何等考慮する必要がなかった。また、特許文献2の整流体は、流路毎の流量のばらつきが考慮されているものの、図3に示されるように下段の流路ほど流量が増えるものに特化されている。
【0006】
ところで、EGRクーラにおいては、特許文献2の流体とは異なり、下段の流路ほど流量が増えるという傾向が現れないものがある。例えば、上下方向の間で流量の多い段と少ない段が存在する。このような流量のばらつきが生じるEGRクーラでは、各特許文献の整流体を用いたとしても、流路毎の流量ばらつきを改善することは困難である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、EGRクーラにおいて流路毎の流量ばらつきを改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、内燃機関の排気系統から取り込まれた排気ガスを前記排気ガスよりも低温の低温流体と熱交換し、熱交換後の前記排気ガスを前記内燃機関の吸気系統へ向けて排出するEGRクーラであって、前記排気ガスが流れる扁平なガス流路を区画する複数の流路ユニットが積層状態で配置され、前記低温流体が流れる低温流体流路と前記ガス流路とが積層方向に対して交互に形成された熱交換部と、前記熱交換部における前記排気ガスの導入箇所に設けられ、積層方向に並ぶ複数の前記ガス流路のそれぞれに連通された排気ガス導入空部と、前記熱交換部における前記排気ガスの排出箇所に設けられ、積層方向に並ぶ複数の前記ガス流路のそれぞれに連通された排気ガス排出空部と、前記排気ガス導入空部及び前記排気ガス排出空部の少なくとも一方に収容され、抵抗材を通過させることで前記排気ガスに流路抵抗を付与する整流部材とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、抵抗材に流路抵抗があるため、排気ガスは、抵抗材の通過時にその流速が落とされるとともに、その流れが拡散するように変化すると考えられる。これにより、流路毎における排気ガスの流れの偏りが減少し、流量のばらつきを改善できる。
【0010】
前述のEGRクーラにおいて、抵抗材の単位面積当たりの圧力損失を0.25Paから1.0Paの範囲に定めた場合には、流量のばらつきを改善しつつ必要な量の排気ガスを流すことができる。
【0011】
前述のEGRクーラにおいて、抵抗材を金属メッシュのシート材又は金属ウールのシート材によって作製された袋状部材若しくは有底筒状部材によって構成した場合には、耐熱性に優れた抵抗材を得ることができる。
【0012】
前述のEGRクーラにおいて、整流部材にガスケットを設けて抵抗材の開口をガスケットの開口に接合し、排気系統及び吸気系統の配管を取り付けるための一対のフランジ部によって、このガスケットを挟持させた場合には、整流部材が配管取り付け用のガスケットとしても機能するので、部品点数の削減が図れる。また、抵抗材の交換が容易である。
【0013】
前述のEGRクーラにおいて、整流部材に、排気系統又は吸気系統の配管と接合されるフランジ部を設け、抵抗材の開口をフランジ部の開口に接合してこのフランジ部と一体に設けた場合には、フランジ部が抵抗材を支持する部材としても機能するので、部品点数の削減が測れる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、EGRクーラにおいて流路毎の流量ばらつきを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エンジン、吸気系統、排気系統、及び、EGRクーラを有するEGRシステムを説明する図である。
【図2】解析モデルを説明する図であり、(a)はEGRクーラの外観斜視図であり、(b)は整流部材が挿入される部分を切り欠いたEGRクーラの外観斜視図である。
【図3】整流部材が配置されたEGRクーラの部分拡大断面図である。
【図4】抵抗材の種類を圧力損失の大きさ毎に示した図である。
【図5】各流路での流量ばらつきの大きさと抵抗材の圧力損失との関係を示した図である。
【図6】排気ガスの流量を各段のガス流路について示した図である。
【図7】流路毎の流量を、各段の流路と圧力損失の範囲毎に示した図である。
【図8】EGRクーラの一例を説明する図である。
【図9】整流部材の外観を説明する図であり、(a)はフランジ側から見た斜視図、(b)は袋状の抵抗体側から見た斜視図である。
【図10】整流部材の製造手順を説明する図であり、(a)は帯状素材からのピースの切り出しを説明する図、(b)は一対のピースを袋状に加工する作業を説明する図、(c)は抵抗材をフランジ部に取り付けた状態を説明する図である。
【図11】有底円筒状の抵抗体を備えた整流部材を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1に示すEGRシステム1は、ディーゼルエンジン2と、吸気系統3と、排気系統4と、EGRクーラ5とを有している。
【0018】
ディーゼルエンジン2は、内燃機関に相当するものである。このディーゼルエンジン2では、吸気系統3から送られた混合ガスを、シリンダー内でピストンによって急激に圧縮して高温とする。そして、高温の空気に燃料を噴射して点火爆発させることによって動力を得る。
【0019】
吸気系統3は、外部から取り込んだ空気と、EGRクーラ5で冷却された排気ガスとの混合ガスをディーゼルエンジン2に供給する部分である。吸気系統3は、エアクリーナ(図示せず)からディーゼルエンジン2に至る吸気主管6、及び、EGRクーラ5の排出口から吸気主管6に至る吸気枝管7を含んで構成される。この吸気系統3には、過給器及びインタークーラ(いずれも図示せず)を有するものがある。過給器とインタークーラを有する場合、吸気枝管7は、インタークーラよりも下流側(すなわちディーゼルエンジン2側)で吸気主管6に接続される。また、吸気枝管7の途中にはEGRバルブ8が設けられている。このEGRバルブ8は排気ガスの環流量を定める部分である。すなわち、弁開度や開弁時間に応じて排気ガスの環流量が定められる。
【0020】
排気系統4は、ディーゼルエンジン2から排出された排気ガスを導いて排出する部分である。排気系統4は、ディーゼルエンジン2から消音器(図示せず)に至る排気主管9と、排気主管9の途中から分岐され、排気主管9とEGRクーラ5の吸入口の間を連通する排気枝管10を含んで構成される。なお、過給器がターボチャージャーの場合、排気枝管10は、過給器よりも上流側(すなわちディーゼルエンジン2側)で排気主管9に接続される。
【0021】
EGRクーラ5は、吸気系統3と排気系統4の間に設けられ、排気系統4からの排気ガスを冷却して吸気系統3へ向けて排出する。すなわち、EGRクーラ5は、排気枝管10を流れてきた排気ガスを吸気口から取り込み、冷却媒体との間で熱交換を行うことで冷却し、冷却後の排気ガスを排気口から吸気枝管7へ排出する。このため、EGRクーラ5には、熱交換前の冷却媒体を供給する冷却媒体供給パイプ11と、熱交換後の冷却媒体を排出するための冷却媒体排出パイプ12とが接続されている。なお、EGRクーラ5については、後で説明する。
【0022】
このように構成されたEGRシステム1では、ディーゼルエンジン2から排出された排気ガスの一部を、EGRクーラ5に導いて冷却する。そして、EGRクーラ5で冷却された排気ガスを吸気系統3に環流させて、空気と排気ガスとの混合ガスを生成する。この混合ガスをディーゼルエンジン2に供給することで吸気中の酸素濃度を低下させ、エンジン内での燃焼温度を下げることでNOの発生を抑制する。
【0023】
このように、EGRシステム1では、エンジン内での燃焼温度を下げることが重要である。ここで、ディーゼルエンジン2から排出された直後の排気ガスは高温であるため、吸気系統3へ環流させる場合には十分に冷却することが求められる。排気ガスの冷却はEGRクーラ5で行われるため、このEGRクーラ5では冷却効率が高い程好ましい。
【0024】
排気ガスに対する冷却効率を高めるため、EGRクーラ5には、熱交換用の扁平なガス流路を区画するユニットを複数積層して一体化し、熱交換用の多段ガス流路を設けたものがある。このEGRクーラ5では、高温流体である排気ガスを各ガス流路に流し、低温流体である冷却媒体(冷却水等)と熱交換させることで排気ガスを冷却している。
【0025】
冷却効率を高める観点からすると、熱交換用の各ガス流路には冷却対象の排気ガスが均等に流れることが好ましいといえる。この観点から本実施形態では、ガス流路が多段に構成されたEGRクーラ5において、各ガス流路を流れる排気ガスの流量ばらつきを抑制するための整流部材21(図2(b),図3等を参照)を設けている。以下、この整流部材21を中心にして、EGRクーラ5に関する説明をする。
【0026】
この整流部材21では、各段のガス流路を流れる排気ガスの流量ばらつきを抑制することが求められる。また、EGRバルブ8が開放された際に、弁開度に応じた流量が流せる程度の流路抵抗であることも求められる。そこで、これらの条件を満たす整流部材21の条件について検討した。以下、検討内容について説明する。
【0027】
図2(a)はEGRクーラ5における解析モデルの外観を説明する斜視図であり、図2(b)はこの解析モデルにおける整流部材21が挿入される部分を切り欠いた斜視図である。
【0028】
この解析モデルは、複数の流路ユニット22を積層して一体化することで作製されている。この流路ユニット22は、平面から見て、長方形の短辺を外向きの半円形にした長円形状をしている。そして、長円形状のプレート部材を2枚積層方向に間隔を空けた状態で配し、周縁部のみを接合することで作製されている。この流路ユニット22では、プレート部材が積層方向に間隔を空けて配置され、周縁部が接合されているので、内部には扁平なガス流路が区画される。
【0029】
図3の部分拡大断面図に示すように、この解析モデルでは、流路ユニット22が6個重ねて一体化されており、積層方向に6段のガス流路23を備える構成になっている。ガス流路23のそれぞれにはインナーフィン24が収容されている。また、積層方向に隣り合う流路ユニット22の間、最上部の流路ユニット22と上側のエンドプレート25との間、及び、最下部の流路ユニット22と下側のエンドプレート25との間には、他の扁平流路が区画される。この扁平流路を冷却水等の低温流体が流れる低温流体流路26としている。そして、ガス流路23と低温流体流路26とが交互に積層されることによって熱交換部27が構成される。
【0030】
また、図2に示すように、解析モデルにおいて、流路ユニット22の長手方向両端部には、排気ガスを導入する導入空部28と、排気ガスを排出する排出空部(図示せず)とが設けられている。これらの導入空部28と排出空部は、流路ユニット22が区画する各ガス流路23に連通されており、各低温流体流路26とは連通されていない。そして、この解析モデルのおける導入空部28と排出空部は、同じ形状に定められている。
【0031】
図2(b)及び図3に示す導入空部28について説明すると、平面視円形の開口が各流路ユニット22における底面を除く部分に設けられることで形成されている。この導入空部28に収容される整流部材21は、抵抗材21aとリング状部21bとを有している。抵抗材21aは、排気ガスに流路抵抗を付与する部分であり、図示の例では、上部が開放された有底円筒状の部材によって構成されている。リング状部21bは、抵抗材21aの開放端に接合される部材であり、流路ユニット22の開口よりも一回り大きな外径の円形リング状をしている。このリング状部21bの内周縁は、抵抗材21aの開放端と同じ大きさとされ、この開放端が接合されている。
【0032】
解析モデルのEGRクーラ5において、排気枝管10は、整流部材21が収容された導入空部28に接続される。同様に、吸気枝管7は排出空部に接続される。従って、このEGRクーラ5では、排気枝管10からの排気ガスがEGRクーラ5内に導入され整流部材21を通過する。その後、排気ガスは各ガス流路23に分配されて熱交換される。そして、熱交換後の排気ガスが排出空部で合流され、吸気枝管7から排出される。
【0033】
ここで、整流部材21が導入空部28に収容されていることから、抵抗材21aで区画された空間に導入された排気ガスは、抵抗を与えられながらこの抵抗材21aを通過する。この抵抗材21aにより、各ガス流路23を流れる排気ガスの流量ばらつきを抑制できる。以下、この点について詳しく説明する。
【0034】
排気ガスの流量ばらつきを抑制する効果は、上記解析モデルを対象としたシミュレーションによって確認した。
【0035】
シミュレーションの条件は次の通りである。
ガス流路23:流路幅90mm,流路高さ6mm,流路長50mm,段数=6段;
ガス導入圧力:出口大気開放;
整流部材21:なし,低圧損,中圧損,中高圧損,高圧損の5種類(圧損=圧力損失)
抵抗材21aの直径:40mm
抵抗材21aの高さ:50mm
【0036】
整流部材21の抵抗材21aについて補足すると、図4に示すように、低圧損とは50メッシュ〜200メッシュ相当の抵抗材21aを意味する。この低圧損の抵抗体としては、200メッシュ以下の金属メッシュ材(金属メッシュのシート材)、或いは、不織布状の金属ウール(金属ウールのシート材)が用いられる。中圧損とは200メッシュ相当よりも細かく、かつ、500メッシュ相当以下の抵抗材21aを意味する。中圧損の抵抗体としては、低圧損で用いられたものよりも高精細の金属メッシュ材や高密度の金属ウールが用いられる。中高圧損とは500メッシュ相当よりも細かく、かつ、1000メッシュ相当以下の抵抗材21aを意味する。中高圧損の抵抗体としては、500メッシュよりも細かく、かつ、1000メッシュ以下の金属メッシュ材が好適に用いられる。高圧損とは1000メッシュ相当以上の抵抗体を意味する。そして、抵抗体として金属メッシュ材や金属ウールを用いることにより、耐熱性に優れた整流部材21を実現できる。
【0037】
図5は、各ガス流路23での流量ばらつきの大きさと抵抗材21aの圧力損失との関係を示した図である。また、図6は、排気ガスの流量を各段のガス流路23について示した図であり、図5の関係を導く際の基となったデータである。また、図7は、図5と図6の結果を3次元のグラフに纏めたものである。
【0038】
図5における縦軸は、最大過剰供給率〔%〕を示している。この最大過剰供給率は、各ガス流路23での流量ばらつきの大きさを示す数値であり、6段あるガス流路23において全ての段が同じ流量である場合を0%に定めている。そして、ガス流路23において流量のばらつきがあるとき、最も流量の多いガス流路23の流量が、全てのガス流路23で均等に流れた場合の流量(平均流量)よりも何パーセント多いかを示している。
【0039】
図5における横軸は、抵抗材21aの単位面積当たりの圧力損失〔Pa〕を示している。ここで、圧力損失0.0Paは抵抗材21aがない状態、すなわち整流部材21が非装着の状態を示している。そして、圧力損失0.25Paは低圧損の抵抗材21aを備える整流部材21が装着された状態を示し、圧力損失0.5Paは中圧損の抵抗材21aを備える整流部材21が装着された状態を示す。同様に、圧力損失1.0Paは中高圧損の抵抗材21aを備える整流部材21が装着された状態を示し、圧力損失3.0Paは高圧損の抵抗材21aを備える整流部材21が装着された状態を示す。
【0040】
図6における縦軸は排気ガスの流量〔m/s〕を示し、横軸はガス流路23の段番号〔−〕を示している。段番号に関し、図2や図3に示す解析モデルにおける最上段から順に若い番号を付している。すなわち、最上段のガス流路23を1段目とし、上から2段目のガス流路23を2段目とし、最下段のガス流路23を6段目としている。なお、図6には前述の圧力損失のうち一部について結果を記載している。具体的には、圧力損失0.0Pa(整流部材非装着)、圧力損失0.25Pa(低圧損の整流部材21)、圧力損失3.0Pa(高圧損の整流部材21)についての結果を記載している。
【0041】
図7におけるX軸は排気ガスの流量〔m/s〕を示し、Y軸はガス流路23の段番号〔−〕を示し、Z軸は圧力損失〔Pa〕を示している。すなわち、図7は、図5の内容と図6の内容とを一つに纏めた図になっている。
【0042】
図5〜図7のシミュレーション結果より、次のことが判った。
【0043】
まず、整流部材21を用いることにより、整流部材21を用いない場合よりも、ガス流路23毎の流量ばらつきが少なくなることが判った。そして、整流部材21に関しては、抵抗材21aによって与えられる圧力損失が大きいほど、言い換えれば抵抗材21aの流路抵抗が大きいほどガス流路23毎の流量ばらつきが小さくなることが判った。また、抵抗材21aの流路抵抗がある程度大きくなると、流量ばらつきは所定の大きさに収束することも判った。
【0044】
例えば図5の最大過剰供給率(%)に関し、圧力損失0.0Paの場合(整流部材21を用いない場合)は約7.3%、圧力損失0.25Paの場合(低圧損の整流部材21を用いた場合)は約2.8%、圧力損失0.5Paの場合(中圧損の整流部材21を用いた場合)は約1.5%であった。同様に、圧力損失1.0Paの場合(中高圧損の整流部材21を用いた場合)も約1.5%、圧力損失3.0Paの場合(高損の整流部材21を用いた場合)は約1.3%であった。
【0045】
また、積層方向の中間部に位置するガス流路23において、最も流量が少なくなる傾向が確認できた。図6の流量に関し、圧力損失0.0Paの場合には2段目の流路の流量が最も少なく、3段目の流路の流量が2番目に少なかった。また、6段目の流路の流量が最も多くなっていた。また、圧力損失0.25Paの場合には4段目の流路の流量が最も少なく、6段目の流路の流量が最も多かった。同様に、圧力損失1.0Paの場合には4段目の流路の流量が最も少なく、1段目の流路の流量が最も多かった。
【0046】
以上の結果より、圧力損失0.25Pa以上の抵抗材21aを備えた整流部材21を導入空部28に収容することで、整流部材21を用いない場合よりも各ガス流路23における流量のばらつきを改善できることが判った。これは、抵抗材21aを通過する際に排気ガスの流速が落とされ、その流れが拡散するように変化したためと考えられる。これは、水道の蛇口に焼結フィルタを取り付けた場合のように、排気ガスが拡がって流れたためと考えられる。その結果、ガス流路23毎の排気ガスの流れの偏りが少なくなり、流量のばらつきが改善されたと考えられる。
【0047】
なお、抵抗材21aの流路抵抗を過度に大きくしてしまうと、排気ガスの流れが妨げられ、必要とする流量が得られない。このことを考慮すると、抵抗材21aの圧力損失は1.0Pa以下であることが好ましいといえる。以上より、抵抗材21aの圧力損失は0.25Pa以上、1.0Pa以下の範囲に定められることが好ましいといえる。
【0048】
次に、上記のシミュレーション結果を反映させた具体例について説明する。
【0049】
図8は、EGRクーラ5の具体例を説明する斜視図である。例示したEGRクーラ5は、略直方体状の外観形状をしており、長方形状のエンドプレート25と、長方形状の流路ユニット22とを備えている。そして、一対のエンドプレート25の間に複数の流路ユニット22が積層され、ろう付け等によって一体化されている。また、一方のエンドプレート25において対角線上に位置する一対の隅各部には、導入側フランジ部31及び排出側フランジ部32が設けられている。同様に、残りの隅各部には、供給接続部33及び排出接続部34が設けられている。
【0050】
導入側フランジ部31は、冷却前の排気ガスをEGRクーラ5に導入するための部分であり、排気枝管10の端部に設けられたフランジ部(図示せず)に接続される部分である。本実施形態の導入側フランジ部31は、横長菱形の各頂部を曲面で面取りした外形をしており、長手方向の各頂部近傍には固定用のボルト部31aが設けられている。排出側フランジ部32は、冷却後の排気ガスをEGRクーラ5から排出するための部分であり、吸気枝管7の端部に設けられたフランジ部(図示せず)に接続される部分である。そして、導入側フランジ部31と同様に横長菱形の各頂部を曲面で面取りした外形とされ、固定用のボルト部32aが設けられている。
【0051】
供給接続部33はEGRクーラ5に冷却媒体を供給するための管状部分であり、排出接続部34は、熱交換後の冷却媒体をEGRクーラ5から排出するための管状部分である。冷却媒体には、例えば水に不凍液を添加した冷却水が用いられる。そして、この冷却水を供給する冷却媒体供給パイプ11(図1を参照)の端部を供給接続部33に挿入して固定し、冷却水を排出する冷却媒体排出パイプ12(図1を参照)の端部を排出接続部34に挿入して固定する。
【0052】
そして、供給接続部33から供給された冷却水は、図3で説明したように、流路ユニット22同士の間や流路ユニット22の周囲に形成された低温流体流路26を流れる。そして、熱交換部27において流路ユニット22内のガス流路23を流れる排気ガスとの間で熱交換がなされ、排出接続部34から排出される。
【0053】
導入側フランジ部31に連通する導入空部28には、整流部材21が配置されている。例えば図9に示す整流部材21Aは、ガスケット21cと袋状抵抗材21dとを有している。
【0054】
ガスケット21cは、排気枝管10のフランジ部(図示せず)と導入側フランジ部31とによって挟持され、排気ガスが漏れないようにシールする部材である。このため、導入側フランジ部31と同様に、横長菱形の各頂部を曲面で面取りした外形をしており、排気ガスが通るガス用開口21eとボルト部31aが挿通されるボルト用開口21fとが設けられている。また、ガス用開口21eの開口縁には、導入空部28側に向けてリブ21gが形成されている。このガスケット21cは、薄手のステンレス板によって作製されている。
【0055】
袋状抵抗材21dは、前述の抵抗材21aを袋状に形成した部材であり、円形の開口縁を有するとともに、開口縁から離隔する程に内径が縮径され、先端部が平坦に潰された深底のコーヒーフィルタ形状をしている。そして、図9の整流部材21では抵抗材21aとして中圧損のステンレスメッシュが用いられている。
【0056】
この整流部材21Aは、例えば次の手順で作製される。まず、図10(a)に一点鎖線で示すように、帯状のステンレスメッシュシートAを台形状に切断し、次に図10(b)に示すように、台形状のステンレスメッシュBを2枚重ねて開口となる部分以外の縁部を溶接で接合して袋状抵抗材21dを得る。更に、袋状抵抗材21dの開口縁を円形に拡げてガスケット21cのリブ21gに嵌め込み、溶接で一体化する。
【0057】
この整流部材21Aでは、配管取り付け用のガスケット21cとしての機能を有しているので、部品点数の削減が図れる。また、抵抗材21aはガスケット21cとともに交換部品として構成されるため、抵抗材21aを容易に交換できる。
【0058】
図11に示す整流部材21Bは、有底筒状に作製された筒状抵抗材21hを導入側フランジ部31と一体に設けている点が前述の整流部材21と大きく相違している。
【0059】
この整流部材21Bは、フレーム21iと筒状抵抗材21hとを有している。フレーム21iは、筒状抵抗材21hを支持するためのものである。このフレーム21iは、筒状抵抗材21hのメッシュよりも十分に大きな格子を有する金属格子で作製された筒状部材である。本実施形態では薄手のステンレス板によって作製されている。このフレーム21iの開口縁は導入側フランジ部31が有するガス用開口の開口縁に溶接等によって接合されている。
【0060】
筒状抵抗材21hは、前述の抵抗材21aを有底筒状にした部材であり、この具体例では中圧損のステンレスメッシュが用いられている。そして、筒状抵抗材21hは、フレーム21iの内側空間にこのフレーム21iに沿って配置され、開口縁を溶接する等によってフレーム21iに接合されている。すなわち、この具体例では、筒状抵抗材21hの開口縁を、フレーム21iを介してフランジ部の開口縁に接合している。
【0061】
この整流部材21Bでは、導入側フランジ部31と筒状抵抗材21hとが一体化されており、導入側フランジ部31が筒状抵抗材21hを支持する部材としても機能するので、部品点数の削減が測れる。
【0062】
ところで、以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共にその等価物が含まれることは勿論である。例えば、次のように構成してもよい。
【0063】
まず、整流部材21(21A,21B)に関し、前述の解析モデルや具体例では導入空部28に配置されていたが、これに限定されない。例えば、排出空部に配置されてもよく、導入空部28と排出空部の両方に配置されてもよい。いずれの構成であっても排気ガスが抵抗材21a,21d,21hを通過する際にその流速が落とされるとともに、その流れが拡散するように変化すると考えられるため、流路毎における排気ガスの流れの偏りが減少し、流量のばらつきを改善できる。
【0064】
また、ガス流路23に関し、前述の解析モデルや具体例では直線状のガス流路23を複数段有するEGRクーラ5を例示したが、これに限定されない。例えば、U字状のガス流路を有するEGRクーラであってもよい。
【0065】
また、内燃機関に関し、ディーゼルエンジン2に限られない。ガソリンエンジンであっても同様に構成できる。
【符号の説明】
【0066】
1…EGRシステム,2…ディーゼルエンジン,3…吸気系統,4…排気系統,5…EGRクーラ,6…吸気主管,7…吸気枝管,8…EGRバルブ,9…排気主管,10…排気枝管,11…冷却媒体供給パイプ,12…冷却媒体排出パイプ,21…整流部材,21A…整流部材,21B…整流部材,21a…抵抗材,21b…リング状部,21c…ガスケット,21d…袋状抵抗材,21e…ガス用開口,21f…ボルト用開口,21g…リブ,21h…筒状抵抗材,21i…フレーム,22…流路ユニット,23…ガス流路,24…インナーフィン,25…エンドプレート,26…低温流体流路,27…熱交換部,28…導入空部,31…導入側フランジ部,31a…ボルト部,32…排出側フランジ部,32a…ボルト部,33…供給接続部,34…排出接続部,A…帯状のステンレスメッシュシート,B…台形状のステンレスメッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気系統から取り込まれた排気ガスを前記排気ガスよりも低温の低温流体と熱交換し、熱交換後の前記排気ガスを前記内燃機関の吸気系統へ向けて排出するEGRクーラであって、
前記排気ガスが流れる扁平なガス流路を区画する複数の流路ユニットが積層状態で配置され、前記低温流体が流れる低温流体流路と前記ガス流路とが積層方向に対して交互に形成された熱交換部と、
前記熱交換部における前記排気ガスの導入箇所に設けられ、積層方向に並ぶ複数の前記ガス流路のそれぞれに連通された排気ガス導入空部と、
前記熱交換部における前記排気ガスの排出箇所に設けられ、積層方向に並ぶ複数の前記ガス流路のそれぞれに連通された排気ガス排出空部と、
前記排気ガス導入空部及び前記排気ガス排出空部の少なくとも一方に収容され、抵抗材を通過させることで前記排気ガスに流路抵抗を付与する整流部材と
を有することを特徴とするEGRクーラ。
【請求項2】
前記抵抗材は、単位面積当たりの圧力損失が0.25Paから1.0Paの範囲に定められていることを特徴とする請求項1に記載のEGRクーラ。
【請求項3】
前記抵抗材は、金属メッシュのシート材又は金属ウールのシート材によって作製された袋状部材若しくは有底筒状部材であることを特徴とする請求項2に記載のEGRクーラ。
【請求項4】
前記整流部材はガスケットを有し、
前記抵抗材の開口は前記ガスケットの開口に接合され、
前記ガスケットは、前記排気系統及び前記吸気系統の配管を取り付けるための、一対のフランジ部によって挟持されていることを特徴とする請求項3に記載のEGRクーラ。
【請求項5】
前記整流部材は、前記排気系統又は前記吸気系統の配管と接合されるフランジ部を有し、
前記抵抗材の開口は前記フランジ部の開口に接合され、前記フランジ部と一体に設けられていることを特徴とする請求項3に記載のEGRクーラ。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−172534(P2012−172534A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32497(P2011−32497)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000220804)東京濾器株式会社 (84)
【Fターム(参考)】