説明

EGR装備ディーゼルエンジン及び潤滑油組成物

【課題】ディーゼルエンジンに改良された性能を与える潤滑油組成物を提供することにある。
【解決手段】EGR システム、特に凝縮様式で作動するEGR システムを備えた、ディーゼルエンジン、特に大型車両用ディーゼルエンジンのための潤滑油組成物のすす誘発動粘度増大が、アルキル化フェノチアジン化合物の添加により軽減し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排出ガス循環(EGR) システムを備えた、ディーゼルエンジン、特に乗用車(PCD) エンジン及び大型車両用ディーゼル(HDD) エンジン、並びにこのようなエンジンで改良された性能を与える潤滑油組成物に関する。更に特別には、本発明はアルキル化フェノチアジンすす分散剤を含む潤滑油組成物で潤滑されるEGR システムを備えた圧縮点火内燃エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
環境上の関心が圧縮点火(ディーゼル)内燃エンジンのNOx 放出を減少しようとする絶え間ない努力をもたらしていた。大型車両用ディーゼルエンジンのNOx 放出を減少するのに使用されている最近の技術が排出ガス循環即ちEGR として知られている。EGR は非燃焼性成分(排出ガス)をエンジン燃料チャンバーに導入される入ってくる空気-燃料装入物に導入することによりNOx 放出を減少する。これはピーク炎温度及びNOx発生を低下する。EGR の単純な希釈効果に加えて、NOx 放出の一層大きな減少は排出ガスがエンジンに戻される前にそれを冷却することにより達成される。一層冷たい吸入装入物がシリンダーの一層良好な充填、ひいては、改良された出力発生を可能にする。加えて、EGR 成分は入ってくる空気及び燃料混合物よりも高い比熱値を有するので、EGR ガスは燃焼混合物を更に冷却して一定のNOx 発生レベルで一層大きい出力発生及び一層良好な燃料経済性をもたらす。
ディーゼル燃料は通常300〜400ppm又はそれ以上の硫黄を含む。更には最近意図されている“低硫黄”ディーゼル燃料は50ppmまでの硫黄(例えば、10〜50ppm)を含むであろう。燃料がエンジン中で燃焼される場合、この硫黄がSOx に変換される。加えて、炭化水素燃料の燃焼の主たる副生物の一種は水蒸気である。それ故、排出スチームは或るレベルのNOx 、SOx 及び水蒸気を含む。過去に、これらの物質の存在は問題視されなかった。何とならば、排出ガスが極めて熱く留まり、これらの成分が解離されたガス状態で排出されたからである。しかしながら、エンジンがEGR システム、特にEGR 流が冷却され、その後にそれがエンジンに戻されるEGR システムを備えている場合、NOx 、SOx 及び水蒸気混合物が露点より下に冷却されて、水蒸気を凝縮させる。この水がNOx 成分及びSOx 成分と反応してEGR 流中で硝酸及び硫酸のミストを生成する。
【0003】
これらの酸の存在下で、潤滑油組成物中のすすレベルが迅速に増大し、前記条件下で、潤滑油組成物の動粘度(kv)が比較的小さいレベルのすす(例えば、3質量%のすす)の存在下でさえも許容し得ないレベルに増大することがわかった。増大された潤滑剤粘度は性能に不利に影響し、更にエンジン破損を生じ得るので、EGR システム、特に運転時間の少なくとも一部中に凝縮様式で作動するEGR システムの使用は、頻繁な潤滑剤交換を必要とする。凝縮様式で作動するEGR-装備HDD エンジンに特別に開発されたAPI-CI-4オイルはこの問題に取り組むことができないことがわかった。また、付加的な分散剤を単に添加することは有効ではないことがわかった。
それ故、EGR システム、特に凝縮様式で作動するEGR システムを備えている乗用車エンジン及び大型車両用ディーゼルエンジン中で一層良好に機能する潤滑油組成物を同定することは有利であろう。
EP-A-1 741 772 (772)は潤滑油組成物のすす誘発動粘度増大を軽減するための、EGR システム、特に凝縮様式で作動するEGR システムを備えたディーゼルエンジン、特に大型車両用ディーゼルエンジン用のその組成物へのフェニレンジアミン(PDA) 化合物の添加を記載している。772は特に一層高い窒素含量を有するPDA で明らかな、PDA の使用における可能な欠点を記述しており、PDA が分子当り2個の窒素原子を有することに注目している。また、772は分子当り1個の窒素原子を含む化合物、即ち、アルキル化ジフェニルアミン(ADPA)の比較試験を記載しており、それらがすす分散試験で不十分に機能することを見つけている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は分子当り1個の窒素原子を有し、不十分に機能するADPAとのそれらの近似した構造類似性にもかからわず上記環境で優れたすす分散特性を有すると判明される化合物、即ち、アルキル化フェノチアジンを提供することにより772の問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一の局面によれば、排出ガス循環システムを備えた乗用車又は大型車両用ディーゼルエンジンが提供され、そのエンジンは多量の潤滑粘度の油、及び少量の一種以上の油溶性又は油分散性アルキル化フェノチアジンを含む潤滑油組成物で潤滑される。
本発明の第一の局面の実施態様は吸入空気及び/又は排出ガス循環流がエンジンの運転中の時間の少なくとも10%にわたって露点より下に冷却される、第一の局面に記載された、エンジンを提供する。
本発明の第二の局面によれば、排出ガス循環システムを備えた乗用車又は大型車両用ディーゼルエンジンの運転方法が提供され、その方法はエンジンを第一の局面に記載された潤滑油組成物で潤滑することを含む。
本発明の第二の局面の実施態様はエンジンが乗用車ディーゼルエンジンであり、潤滑油を交換しないで少なくとも6,000マイルにわたって運転される、第二の局面に記載された、方法を提供する。
本発明の第二の局面の更なる実施態様は、エンジンが大型車両用ディーゼルエンジンであり、潤滑油を交換しないで少なくとも15,000マイルにわたって運転される、第二の局面に記載された、方法を提供する。
本発明の更なる局面は排出ガス循環システム、更に特別には吸入空気及び/又は排出ガス循環流が前記エンジンの運転中の時間の少なくとも10%にわたって露点より下に冷却される排出ガス循環システムを備えた内燃エンジン、特に乗用車又は大型車両用ディーゼルエンジンのクランクケースの潤滑のための潤滑油組成物のすす粘度増大を軽減するための上記アルキル化フェノチアジンの使用に関する。
本発明のその他の目的及び更なる目的、利点並びに特徴が以下の明細書を参考にして理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0006】
EGR を備えた大型車両用ディーゼルエンジンの運転中に、排出ガスの一部がエンジンの排出マニホールドからEGR ミキサーに送られ、その中でEGR システムに送られた排出ガスの一部が空気入口を通って用意された燃焼空気と混合されて空気/排出ガス混合物を生成する。排出ガス及び燃焼空気の一部が、夫々、混合される前にEGR クーラー及びアフタークーラー中で冷却されることが好ましい。EGR システムに送られた排出ガス及び/又は吸入空気の一部はEGR ミキサーを出る空気/排出ガス混合物がエンジンの運転中の時間の少なくとも10%にわたって露点より下であるように冷却されることが最も好ましい。空気/排出ガス混合物はエンジンの吸入マニホールドに供給され、燃料と混合され、燃焼される。EGR システムに送られない排出ガスは排出出口を通って排出される。
エンジンが乗用車ディーゼルエンジンであり、本発明の潤滑油組成物で潤滑される場合、このようなエンジンは潤滑油交換を必要としないで少なくとも6,000マイル、好ましくは少なくとも8,000マイル、更に好ましくは8,000マイルから12,000マイルにわたって運転し得ることが好ましい。エンジンが大型車両用ディーゼルエンジンであり、本発明の潤滑油組成物で潤滑される場合、このようなエンジンは潤滑油交換を必要としないで少なくとも15,000マイル、好ましくは少なくとも20,000マイル、更に好ましくは20,000マイルから40,000マイルにわたって運転し得ることが好ましい。
【0007】
本発明の実施に有益な潤滑油組成物は多量の潤滑粘度の油、及び少量の少なくとも一種のアルキル化フェノチアジン化合物を含む。
本発明の状況に有益な潤滑粘度の油は天然潤滑油、合成潤滑油及びこれらの混合物から選ばれてもよい。潤滑油は軽質蒸留鉱油から重質潤滑油まで、例えば、ガソリンエンジンオイル、潤滑鉱油及び大型車両用ディーゼルオイルの粘度の範囲であってもよい。一般に、油の粘度は100℃で測定して2mm2s-1から40 mm2s-1まで、特に4mm2s-1から20 mm2s-1までの範囲である。
天然油として、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)、液体石油並びにパラフィン型、ナフテン型及び混合パラフィン-ナフテン型の水素化精製され、溶剤処理され、又は酸処理された鉱油が挙げられる。石炭又はシェールに由来する潤滑粘度の油がまた有益なベースオイルとして利用できる。
合成潤滑油として、炭化水素油及びハロ置換炭化水素油、例えば、重合オレフィン及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);並びにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド及びこれらの誘導体、類似体及び同族体が挙げられる。またフィッシャー-トロプッシュ合成炭化水素からの合成軽油(gas to liquid) 方法から誘導された合成油(これらは合成軽油、又は“GTL”ベースオイルと普通称される)が有益である。
アルキレンオキサイドポリマー及び共重合体並びにこれらの誘導体(この場合、末端ヒドロキシル基がエステル化又はエーテル化により変性されていた)が既知の合成潤滑油の別のクラスを構成する。これらはエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの重合により調製されたポリオキシアルキレンポリマー、並びにポリオキシアルキレンポリマーのアルキルエーテル及びアリールエーテル(例えば、1000の分子量を有するメチル-ポリイソ-プロピレングリコールエーテル又は1000〜1500の分子量を有するポリ-エチレングリコールのジフェニルエーテル)、並びにこれらのモノ-及びポリカルボン酸エステル、例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3-C8脂肪酸エステル及びC13オキソ酸ジエステルにより例示される。
【0008】
合成潤滑油の別の好適なクラスはジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)のエステルを含む。これらのエステルの特別な例として、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることにより生成された複雑なエステルが挙げられる。
合成油として有益なエステルとして、C5-C12モノカルボン酸及びポリオール、並びにポリオールエステル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールからつくられたものがまた挙げられる。
シリコンをベースとするオイル、例えば、ポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-又はポリアリールオキシシリコーンオイル及びシリケートオイルが合成潤滑剤の別の有益なクラスを構成する。このようなオイルとして、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ-(2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(p-tert-ブチル-フェニル)シリケート、ヘキサ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン及びポリ(メチルフェニル)シロキサンが挙げられる。その他の合成潤滑油として、リン含有酸の液体エステル(例えば、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、デシルホスホン酸のジエチルエステル)及びポリマーのテトラヒドロフランが挙げられる。
潤滑粘度の油はグループI、グループII又はグループIIIの原料油又は上記原料油のベースオイルブレンドを含んでもよい。潤滑粘度の油はグループIIもしくはグループIIIの原料油、又はこれらの混合物、或いはグループI原料油と一種以上のグループII及びグループIIIの混合物であることが好ましい。多量の潤滑粘度の油がグループII、グループIII、グループIVもしくはグループVの原料油、又はこれらの混合物であることが好ましい。原料油、又は原料油ブレンドが少なくとも65%、更に好ましくは少なくとも75%、例えば、少なくとも85%の飽和物含量を有することが好ましい。原料油、又は原料油ブレンドが、90%より大きい飽和物含量を有することが最も好ましい。油又は油ブレンドが1質量%未満、好ましくは0.6%質量未満、最も好ましくは0.4質量%未満の硫黄含量を有することが好ましい。
【0009】
油又は油ブレンドの揮発度は、Noack揮発度試験 (ASTM D5880)により測定して、30%以下、好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下、最も好ましくは16%以下であることが好ましい。油又は油ブレンドの粘度指数(VI)は少なくとも85、好ましくは少なくとも100、最も好ましくは105から140までであることが好ましい。
本発明における原料油及びベースオイルに関する定義は米国石油協会(API)刊行物“エンジンオイルライセンシング及び認可システム”、工業サービス部門、第14編、1996年12月、補遺1、1998年12月に見られるものと同じである。前記刊行物は原料油を以下のとおりにカテゴリー化する。
a)グループI原料油は90%未満の飽和物及び/又は0.03%より多い硫黄を含み、表1に明記された試験方法を使用して80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
b)グループII原料油は90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、表1に明記された試験方法を使用して80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
c)グループIII原料油は90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、表1に明記された試験方法を使用して120以上の粘度指数を有する。
d)グループIV原料油はポリアルファオレフィン(PAO)である。
e)グループV原料油はグループI、II、III、又はIVに含まれない全てのその他の原料油を含む。
【0010】
表I−原料油に関する分析方法

【0011】
本発明の実施に有益なアルキル化フェノチアジン化合物として、下記の式の化合物が挙げられる。
【0012】
【化1】

【0013】
式中、R1 は4個から24個まで、例えば、4個から10個までの炭素原子を有し、アルキル基、ヘテロアルキル基又はアルキルアリール基である線状又は分岐基であり、かつR2 は、R1 とは独立に、4個から24個まで、例えば、4個から10個までの炭素原子を有し、アルキル基、ヘテロアルキル基又はアルキレニル基である線状又は分岐基であり、又は水素原子である。
上記式の例として、R1 がノニル基であり、かつR2 が水素原子又はノニル基である。
本発明のアルキル化フェノチアジンはモノ-及びジアルキル化フェノチアジンの混合物を含むことが好ましく、例えば、その場合、その混合物の15〜85質量%がモノアルキル化されている。
アルキル化フェノチアジンは当業界で知られており、当業界で知られている方法により調製されてもよい。例えば、フェノチアジンは酸触媒の存在下でC1 〜C10 オレフィン又はこれらの混合物との反応によりアルキル化されてもよく、好適なこのようなオレフィンとして、アルファオレフィン及び内部オレフィン、例えば、イソブチレン、ジイソブチレン、ノネン及び1-デセンが挙げられる。
好ましくは、一種以上のフェノチアジン化合物が0.04質量%から4.5質量%まで、好ましくは0.05質量%から2質量%まで、更に好ましくは0.08質量%から0.8質量%までの量で潤滑油組成物中に存在し、その場合、全ての質量%は潤滑油組成物の合計質量を基準とする。
【0014】
付加的な添加剤が本発明の組成物を特別な要件に満足させるためにそれらに混入されてもよい。潤滑油組成物中に含まれてもよい添加剤(上記アルキル化フェノチアジンとは異なる)の例は分散剤、清浄剤、金属錆抑制剤、粘度指数改良剤、腐食抑制剤、酸化抑制剤、摩擦改質剤、その他の分散剤、消泡剤、耐磨耗剤及び流動点降下剤である。幾つかが以下に更に詳しく説明される。
本発明の潤滑油組成物は更に一種以上の無灰分散剤(これらは潤滑油に添加された場合に、ガソリンエンジン及びディーゼルエンジン中の使用後のデポジットの形成を有効に減少する)を含んでもよい。本発明の組成物に有益な無灰分散剤は分散すべき粒子と会合し得る官能基を有する油溶性ポリマーの長い主鎖を含む。典型的には、このような分散剤は、しばしばブリッジ基を介して、ポリマー主鎖に結合されたアミン、アルコール、アミド又はエステル極性部分を含む。無灰分散剤は、例えば、長鎖炭化水素置換モノカルボン酸及びポリカルボン酸又はこれらの酸無水物の油溶性塩、エステル、アミノ-エステル、アミド、イミド及びオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボン酸塩誘導体;それに直接結合されたポリアミン部分を有する長鎖脂肪族炭化水素;並びに長鎖置換フェノールをホルムアルデヒド及びポリアルキレンポリアミンと縮合することにより生成されたマンニッヒ縮合生成物から選ばれてもよい。
好ましい分散剤として、ポリアミン誘導体化ポリα-オレフィン分散剤、特にエチレン/ブテンアルファ-オレフィン及びポリイソブチレンをベースとする分散剤が挙げられる。無水コハク酸基で置換されたポリイソブチレンから誘導され、ポリエチレンアミン、例えば、ポリエチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン;又はポリオキシアルキレンポリアミン、例えば、ポリオキシプロピレンジアミン、トリメチロールアミノメタン;ヒドロキシ化合物、例えば、ペンタエリスリトール;及びこれらの組み合わせと反応させられた無灰分散剤が特に好ましい。一つの特に好ましい分散剤組み合わせは無水コハク酸基で置換され、(B) ヒドロキシ化合物、例えば、ペンタエリスリトール;(C) ポリオキシアルキレンポリアミン、例えば、ポリオキシプロピレンジアミン、又は(D) ポリアルキレンジアミン、例えば、ポリエチレンジアミン及びテトラエチレンペンタミンと反応させられた(A)ポリイソブチレンの組み合わせである(1モルの(A)当り約0.3モル〜約2モルの(B)、(C)及び/又は(D)を使用して)。別の好ましい分散剤組み合わせは米国特許第3,632,511号に記載されたような(A)ポリイソブテニル無水コハク酸と(B)ポリアルキレンポリアミン、例えば、テトラエチレンペンタミン、及び(C)多価アルコール又はポリヒドロキシ置換脂肪族一級アミン、例えば、ペンタエリスリトール又はトリスメチロールアミノメタンの組み合わせを含む。
【0015】
無灰分散剤の別のクラスはマンニッヒ塩基縮合生成物を含む。一般に、これらの生成物は、例えば、米国特許第3,442,808号に開示されたように、1モルのアルキル置換モノ又はポリヒドロキシベンゼンを1〜2.5モルの一種以上のカルボニル化合物(例えば、ホルムアルデヒド及びパラホルムアルデヒド)及び0.5〜2モルのポリアルキレンポリアミンと縮合することにより調製される。このようなマンニッヒ塩基縮合生成物はベンゼン基の置換基としてメタロセン触媒重合のポリマー生成物を含んでもよく、又は米国特許第3,442,808号に記載された様式と同様の様式で無水コハク酸で置換されたこのようなポリマーを含む化合物と反応させられてもよい。メタロセン触媒系を使用して合成された官能化され、かつ/又は誘導体化されたオレフィンポリマーの例が上記の同定された刊行物に記載されている。
分散剤は、一般に米国特許第3,087,936号及び同第3,254,025号に教示されたような、ホウ化の如き種々の通常の後処理により更に後処理し得る。分散剤のホウ化はアシル窒素含有分散剤をアシル化窒素組成物各1モルについて0.1〜20原子比のホウ素を与えるのに充分な量の、ホウ素化合物、例えば、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ素酸、及びホウ素酸のエステルで処理することにより容易に達成される。有益な分散剤は0.05質量%から2.0質量%まで、例えば、0.05質量%から0.7質量%までのホウ素を含む。ホウ素(これは脱水されたホウ酸ポリマー(主として (HBO2)3)として生成物中に現れる)は、アミン塩、例えば、ジイミドのメタホウ酸塩として分散剤イミド及びジイミドに結合すると考えられる。ホウ化は0.5質量%から4質量%まで、例えば、1質量%から3質量%まで(アシル窒素化合物の質量を基準として)のホウ素化合物、好ましくはホウ酸を、通常スラリーとして、アシル窒素化合物に添加し、135℃から190℃まで、例えば、140℃〜170℃で1時間から5時間までにわたって撹拌しながら加熱し、続いて窒素ストリッピングすることにより行ない得る。また、ホウ素処理は水を除去しながら、ホウ酸をジカルボン酸物質とアミンの熱反応混合物に添加することにより行ない得る。当業界で普通に知られているその他の後反応方法がまた適用し得る。
【0016】
分散剤はまた更に所謂“キャッピング剤”との反応により後処理されてもよい。通常、窒素含有分散剤はこのような分散剤がフルオロエラストマーエンジンシールに対して有する不利な作用を軽減するために“キャッピングされていた”。多くのキャッピング剤及び方法が知られている。既知の“キャッピング剤”のうち、塩基性分散剤アミノ基を非塩基性部分(例えば、アミド基又はイミド基)に変換するものが最適である。窒素含有分散剤とアルキルアセトアセテート(例えば、エチルアセトアセテート(EAA))の反応が、例えば、米国特許第4,839,071号、同第4,839,072号及び同第4,579,675号に記載されている。窒素含有分散剤とギ酸の反応が、例えば、米国特許第3,185,704号に記載されている。窒素含有分散剤とその他の好適なキャッピング剤の反応生成物が米国特許第4,663,064 号(グリコール酸);同第4,612,132号、同第5,334,321号、同第5,356,552号、同第5,716,912号、同第5,849,676号、同第5,861,363号(アルキルカーボネート及びアルキレンカーボネート、例えば、エチレンカーボネート);同第5,328,622号(モノ-エポキシド);同第5,026,495号、同第5,085,788号、同第5,259,906号、同第5,407,591号(ポリ(例えば、ビス)-エポキシド)及び同第4,686,054号(無水マレイン酸又は無水コハク酸)に記載されている。上記リストは排他的ではなく、窒素含有分散剤のその他のキャッピング方法が当業者に知られている。
適切なピストンデポジットコントロールのために、窒素含有分散剤は潤滑油組成物に0.03質量%から0.15質量%まで、好ましくは0.07質量%から0.12質量%までの窒素を与える量で添加し得る。
【0017】
金属含有清浄剤又は灰形成清浄剤はデポジットを減少又は除去するための清浄剤として、また酸中和剤又は錆抑制剤として両方で機能し、それにより磨耗及び腐食を減少し、かつエンジン寿命を延長する。清浄剤は一般に長い疎水性尾部を有する極性頭部を含み、その極性頭部は酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は実質的に化学量論量の金属を含んでもよく、その場合にはそれらは通常又は中性の塩として通常記載され、典型的には0から80までの全アルカリ価即ちTBN(ASTM D2896により測定し得る)を有するであろう。多量の金属塩基が過剰の金属化合物(例えば、酸化物又は水酸化物)を酸性ガス(例えば、二酸化炭素)と反応させることにより混入し得る。得られる過塩基化清浄剤は金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外層として中和された清浄剤を含む。このような過塩基化清浄剤は150以上のTBNを有してもよく、典型的には250から450以上までのTBNを有してもよい。
使用し得る清浄剤として、金属、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、及びマグネシウムの油溶性の中性また過塩基化されたスルホン酸塩、フェネート、硫化フェネート、チオホスホン酸塩、サリチル酸塩、及びナフテン酸塩並びにその他の油溶性カルボン酸塩が挙げられる。最も普通に使用される金属はカルシウム及びマグネシウムであり、これらは両方とも潤滑剤中に使用される清浄剤中に、またカルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムの混合物中に存在してもよい。特に都合の良い清浄剤は20から450 TBNまでのTBN を有する中性及び過塩基化スルホン酸カルシウム、並びに50から450までのTBN を有する中性及び過塩基化カルシウムフェネート及び硫化フェネートである。清浄剤(過塩基化もしくは中性又はその両方)の組み合わせが使用されてもよい。
【0018】
スルホン酸塩はスルホン酸(これらは典型的にはアルキル置換芳香族炭化水素、例えば、石油の分別から、又は芳香族炭化水素のアルキル化により得られたもののスルホン化により得られる)から調製されてもよい。例として、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニル又はそれらのハロゲン誘導体、例えば、クロロベンゼン、クロロトルエン及びクロロナフタレンをアルキル化することにより得られたものが挙げられる。アルキル化は触媒の存在下で3個から70個以上までの炭素原子を有するアルキル化剤を用いて行なわれてもよい。アルカリールスルホン酸塩は通常アルキル置換芳香族部分当り9個から80個以上までの炭素原子、好ましくは16個から60個までの炭素原子を含む。
油溶性スルホン酸塩又はアルカリールスルホン酸は金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、炭酸塩、カルボン酸塩、硫化物、水硫化物、硝酸塩、ホウ酸塩及びエーテルで中和されてもよい。金属化合物の量は最終生成物の所望のTBNに関して選ばれるが、典型的には化学量論上必要とされる量の約100質量%から220質量%まで(好ましくは少なくとも125質量%)の範囲である。
フェノール及び硫化フェノールの金属塩は適当な金属化合物、例えば、酸化物又は水酸化物との反応により調製され、中性生成物又は過塩基化生成物は当業界で知られている方法により得られてもよい。硫化フェノールはフェノールを硫黄又は硫黄含有化合物、例えば、硫化水素、モノハロゲン化硫黄もしくはジハロゲン化硫黄と反応させて、一般に2以上のフェノールが硫黄含有ブリッジによりブリッジされている化合物の混合物である生成物を生成することにより調製されてもよい。
ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩が耐磨耗剤及び酸化防止剤として頻繁に使用される。金属はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、又は亜鉛、アルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルもしくは銅であってもよい。亜鉛塩が潤滑油組成物の合計質量を基準として、0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜2質量%の量で潤滑油中に最も普通に使用される。それらは既知の技術に従って最初に通常一種以上のアルコール又はフェノールとP2S5との反応により、ジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を生成し、次いで生成されたDDPAを亜鉛化合物で中和することにより調製されてもよい。例えば、ジチオリン酸は一級アルコールと二級アルコールの混合物を反応させることによりつくられてもよい。また、一方のヒドロカルビル基が特性上完全に二級であり、かつ他方のヒドロカルビル基が特性上完全に一級である場合、多種のジチオリン酸が調製し得る。亜鉛塩をつくるために、あらゆる塩基性又は中性亜鉛化合物が使用し得るが、酸化物、水酸化物及び炭酸塩が殆ど一般に使用される。市販の添加剤は中和反応中の過剰の塩基性亜鉛化合物の使用のために過剰の亜鉛を頻繁に含む。
好ましい亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートはジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、下記の式により表し得る。
【0019】
【化2】

【0020】
式中、R及びR’は1個から18個まで、好ましくは2〜12個の炭素原子を含み、かつアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルカリール基及び脂環式基の如き基を含む同じ又は異なるヒドロカルビル基であってもよい。2〜8個の炭素原子のアルキル基がR基及びR’基として特に好ましい。こうして、これらの基は、例えば、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、n-オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルであってもよい。油溶性を得るために、ジチオリン酸中の炭素原子の合計数(即ち、R及びR’)は一般に5個以上である。それ故、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートは亜鉛ジアルキルジチオホスフェートを含み得る。本発明は組成物の合計質量を基準として、0.02質量%から0.12質量%まで、例えば、0.03質量%から0.10質量%まで、又は0.05質量%から0.08質量%までのリンレベルを含む乗用車ディーゼルエンジン潤滑剤組成物、また組成物の合計質量を基準として、0.02質量%から0.16質量%まで、例えば、0.05質量%から0.14質量%まで、又は0.08質量%から0.12質量%までのリンレベルを含む大型車両用ディーゼル潤滑剤組成物とともに使用される場合に特に有益であるかもしれない。一つの好ましい実施態様において、本発明の潤滑油組成物は二級アルコールから主として(例えば、50モル%以上、例えば、60モル%以上)誘導された亜鉛ジアルキルジチオホスフェートを含む。
酸化抑制剤又は酸化防止剤は鉱油が使用中に劣化する傾向を減少する。酸化劣化は潤滑剤中のスラッジ、金属表面上のワニスのような付着物、及び増粘により証明し得る。このような酸化抑制剤として、ヒンダードフェノール、好ましくはC5-C12アルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、油溶性フェネート及び硫化フェネート、リン硫化又は硫化炭化水素、リンエステル、金属チオカルバメート、米国特許第4,867,890号に記載されたような油溶性銅化合物、及びモリブデン含有化合物が挙げられる。
【0021】
一つのアミン窒素に直接結合された少なくとも二つの芳香族基を有する典型的な油溶性芳香族アミンは6個から16個までの炭素原子を含む。アミンは二つより多い芳香族基を含んでもよい。合計少なくとも三つの芳香族基を有する化合物(二つの芳香族基が共有結合又は原子もしくは基(例えば、酸素原子もしくは硫黄原子、又は-CO-基、-SO2-基もしくはアルキレン基)により結合されており、二つが一つのアミン窒素に直接結合されている)がまた窒素に直接結合された少なくとも二つの芳香族基を有する芳香族アミンと考えられる。芳香族環は典型的にはアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、ヒドロキシ基、及びニトロ基から選ばれた1個以上の置換基により置換されている。
多重酸化防止剤は普通組み合わせて使用される。一つの好ましい実施態様において、本発明の潤滑油組成物は、すす誘発増粘を軽減するために添加される一種以上のアルキル化フェノチアジン化合物に加えて、0.1質量%から1.2質量%までのアミン系酸化防止剤及び0.1質量%から3質量%までのフェノール系酸化防止剤を含む。別の好ましい実施態様において、本発明の潤滑油組成物は0.1質量%から1.2質量%までのアミン系酸化防止剤、0.1質量%から3質量%までのフェノール系酸化防止剤及び潤滑油組成物に約10ppmから約1000ppmまでのモリブデンを与える量のモリブデン化合物を含む。好ましくは、本発明の実施に有益な潤滑油組成物、特に1200ppm以下のリンを含むことが必要とされる本発明の実施に有益な潤滑油組成物は、0.1質量%から5質量%まで、好ましくは0.3質量%から4質量%まで、更に好ましくは0.5質量%から3質量%までの量の一種以上のアルキル化フェノチアジン以外の無灰酸化防止剤を含む。リン含量が一層低いことが必要とされる場合、一種以上のアルキル化フェノチアジン以外の無灰酸化防止剤の量はそれに応じて増加されることが好ましい。
好適な粘度改質剤の代表例はポリイソブチレン、エチレンとプロピレンのコポリマー、ポリメタクリレート、メタクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸とビニル化合物のコポリマー、スチレンとアクリルエステルの共重合体、並びにスチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエン、及びイソプレン/ブタジエンの部分水素化コポリマーだけでなく、ブタジエン及びイソプレンの部分水素化ホモポリマーである。
【0022】
粘度指数改良剤分散剤は粘度指数改良剤及び分散剤の両方として機能する。粘度指数改良剤分散剤の例として、アミン、例えば、ポリアミンと、ヒドロカルビル置換モノ-又はジカルボン酸(そのヒドロカルビル置換基は粘度指数改良特性を化合物に付与するのに充分な長さの鎖を含む)の反応生成物が挙げられる。一般に、粘度指数改良剤分散剤は、例えば、ビニルアルコールのC4〜C24不飽和エステル又はC3〜C10不飽和モノカルボン酸もしくはC4〜C10ジカルボン酸と4〜20個の炭素原子を有する不飽和窒素含有モノマーのポリマー;C2〜C20オレフィンとアミン、ヒドロキシアミン又はアルコールで中和された不飽和C3〜C10モノ-又はジ-カルボン酸のポリマー;又はC4〜C20不飽和窒素含有モノマーをグラフトすることにより、又は不飽和酸をポリマー主鎖にグラフトし、次いでグラフトされた酸のカルボン酸基をアミン、ヒドロキシアミンもしくはアルコールと反応させることにより更に反応させられたエチレンとC3〜C20オレフィンのポリマーであってもよい。
最終油のその他の成分と相溶性である摩擦改質剤及び燃料経済剤がまた含まれてもよい。このような物質の例として、高級脂肪酸のグリセリルモノエステル、例えば、グリセリルモノ-オレエート;長鎖ポリカルボン酸とジオールのエステル、例えば、2量体化された不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;オキサゾリン化合物;並びにアルコキシル化アルキル置換モノ-アミン、ジアミン及びアルキルエーテルアミン、例えば、エトキシル化牛脂アミン及びエトキシル化牛脂エーテルアミンが挙げられる。
【0023】
その他の既知の摩擦改質剤は油溶性有機モリブデン化合物を含む。このような有機モリブデン摩擦改質剤はまた潤滑油組成物に酸化防止信用及び耐磨耗信用を与える。このような油溶性有機モリブデン化合物の例として、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、及びチオキサンテート、スルフィド、並びにこれらの混合物が挙げられる。モリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート及びアルキルチオキサンテートが特に好ましい。
更に、モリブデン化合物は酸性モリブデン化合物であってもよい。これらの化合物はASTM試験D-664又はD-2896滴定操作により測定して塩基性窒素化合物と反応し、典型的には6価である。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、並びにその他のアルカリ性金属モリブデン酸塩及びその他のモリブデン塩、例えば、モリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデン又は同様の酸性モリブデン化合物が含まれる。
【0024】
本発明の組成物中の有益なモリブデン化合物の中に、式
Mo(ROCS2)4及び
Mo(RSCS2)4
(式中、Rは一般に1個から30個までの炭素原子、好ましくは2-12個の炭素原子の、アルキル、アリール、アラルキル及びアルコキシアルキルからなる群から選ばれた有機基、最も好ましくは2〜12個の炭素原子のアルキルである)
の有機モリブデン化合物がある。モリブデンのジアルキルジチオカルバメートが特に好ましい。
本発明の潤滑組成物中の有益な有機モリブデン化合物の別のグループは3核モリブデン化合物、特に式Mo3SkLnQzのもの及びこれらの混合物であり、式中、Lはその化合物を油に可溶性又は分散性にするのに充分な数の炭素原子を有する有機基を有する独立に選ばれたリガンドであり、nは1から4までであり、kは4から7まで変化し、Qは中性電子供与性化合物、例えば、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテルのグループから選ばれ、かつzは0から5までの範囲であり、非化学量論値を含む。少なくとも21個の合計炭素原子、例えば、少なくとも25個、少なくとも30個、又は少なくとも35個の炭素原子が全てのリガンド有機基中に存在すべきである。
【0025】
流動点降下剤(それ以外に、潤滑油流動改良剤(LOFI)として知られている)は液体が流れ、又は注入し得る最低温度を低下する。このような添加剤が知られている。液体の低温流動性を改良するこれらの添加剤の代表はC8 -C18 ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマー、及びポリメタクリレートである。発泡コントロールはポリシロキサン型の消泡剤、例えば、シリコーンオイル又はポリジメチルシロキサンにより与えられる。
上記添加剤の幾つかは多くの効果を与えることができ、こうして、例えば、単一添加剤が分散剤−酸化抑制剤として作用し得る。このアプローチは公知であり、本明細書で更に説明される必要はない。
本発明において、ブレンドの粘度の安定性を維持する添加剤を含むことが必要であるかもしれない。こうして、極性基を含む添加剤が予備ブレンド段階で好適な低粘度を達成するが、或る種の組成物が延長された期間にわたって貯蔵された場合に増粘することが観察されていた。この増粘をコントロールするのに有効である添加剤は本明細書に先に開示された無灰分散剤の調製に使用されるモノ-又はジカルボン酸又は酸無水物との反応により官能化された長鎖炭化水素を含む。
潤滑組成物が上記添加剤の一種以上を含む場合、夫々の添加剤は典型的には添加剤がその所望の機能を与えることを可能にする量でベースオイルにブレンドされる。
潤滑組成物が上記添加剤の一種以上を含む場合、夫々の添加剤は典型的には添加剤がその所望の機能を与えることを可能にする量でベースオイルにブレンドされる。クランクケース潤滑剤中に使用される場合、このような添加剤の代表的な有効量が、以下にリストされる。リストされた全ての値は質量%活性成分として記述される。
表II
【0026】
【表1】

【0027】
本発明の完全配合乗用車ディーゼルエンジン潤滑油(PCDO)組成物は0.4質量%未満、例えば、0.35質量%未満、更に好ましくは0.03質量%未満、例えば、約0.15質量%未満の硫黄含量を有することが好ましい。完全配合PCDO(潤滑粘度の油+全ての添加剤)のNoack揮発度は13以下、例えば、12以下、好ましくは10以下であることが好ましい。本発明の完全配合PCDOは1200ppm以下、例えば、1000ppm以下、又は800ppm以下のリンを有することが好ましい。本発明の完全配合PCDOは約1.0質量%以下の硫酸塩灰分(SASH)含量を有することが好ましい。
本発明の完全配合大型車両用ディーゼルエンジン(HDD)潤滑油組成物は1.0質量%未満、例えば、0.6質量%未満、更に好ましくは約0.4質量%未満、例えば、約0.15質量%未満の硫黄含量を有することが好ましい。完全配合HDD潤滑油組成物(潤滑粘度の油+全ての添加剤)のNoack揮発度は20以下、例えば、15以下、好ましくは12以下であることが好ましい。本発明の完全配合HDD潤滑油組成物は1600ppm以下、例えば、1400ppm以下、又は1200ppm以下のリンを有することが好ましい。本発明の完全配合HDD潤滑油組成物は約1.0質量%以下の硫酸塩灰分(SASH)含量を有することが好ましい。
添加剤を含む一種以上の添加剤濃厚物(濃厚物は時折添加剤パッケージと称される)を調製することは必須ではないが、望ましいかもしれず、それにより数種の添加剤が油に同時に添加されて潤滑油組成物を生成し得る。本発明の潤滑油組成物の調製のための濃厚物は、例えば、0.1質量%から16質量%までのアルキル化フェノチアジン; 10質量%から40質量%までの窒素含有分散剤;2質量%から20質量%までのアミン系酸化防止剤及び/又はフェノール系酸化防止剤、モリブデン化合物、又はこれらの混合物;5質量%から40質量%までの清浄剤;及び2質量%から20質量%までの金属ジヒドロカルビルジチオホスフェートを含んでもよい。
最終組成物は5質量%から25質量%まで、好ましくは5〜18質量%、典型的には10〜15質量%の濃厚物を使用してもよく、残部が潤滑粘度の油及び粘度改質剤である。
本明細書に表される全ての質量%は(特に示されない限り)添加剤の活性成分(A.I.)含量、及び/又は添加剤パッケージ、又は配合物の合計質量(これは夫々の添加剤のA.I.質量+全オイル又は希釈剤の質量の合計であろう)を基準とする。
本発明が下記の実施例を参照して更に理解され、全ての部数は、特にことわらない限り、重量部である。
以下の実施例は本発明を説明するが、特許請求の範囲を限定することを目的としない。
【実施例】
【0028】
アルキル化フェノチアジンの調製
フェノチアジン(55g)及びノネン(139g)を冷却器、窒素シール(100ml/分)、メカニカルスターラー(400rpm)及び制御マントルを備えた500mLのじゃま板付き反応器中で80℃に加熱した。固体の酸クレー触媒(K5、ex Sud-Chemie、9.9g)を添加し、その反応混合物を20分間にわたって146℃に加熱した。14時間後、その反応混合物を冷却した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は少量の未反応フェノチアジンが存在することを示した。Rf=0.52及び0.42にある主要スポットは夫々ジアルキル化フェノチアジン及びモノアルキル化フェノチアジンであると推定された。
その反応混合物をセライトにより濾過し、真空で濃縮して粗生成物(約50g)を得た。その一部(30g)をカラムクロマトグラフィーにより精製し、20の画分(夫々250ml)を集めた。ジアルキル化フェノチアジン及びモノアルキル化フェノチアジンの混合物を含む、画分16-20を合わせ、溶媒抽出して最終のアルキル化フェノチアジン生成物(14:35g)を得た。
得られた生成物はガスクロマトグラフィー(GC)により15:85(面積:面積)の比のモノノニル化フェノチアジン及びジノニル化フェノチアジンの混合物からなっていた。
配合物
3種のPC-10大型車両用ディーゼル(HDD)潤滑剤配合物を以下のように調製し、この場合、数値は質量%である。
【0029】
【表2】

【0030】
油Aはアミン酸化防止剤化合物を含まない基準油であった。
油Bは16%のモノアルキル化物質、74%のジアルキル化物質及び9%のトリアルキル化物質を含む市販のアルキル化ジフェニルアミンである、DPAを含む比較油であった。
油1は上記のように調製されたアルキル化フェノチアジンを含む、本発明の油であった。
示された以外は、油A、B及び1は同じであった。
試験及び結果
エンジン中で経験される油エージングを模擬するために、160℃で96時間にわたって工業標準規格CEC L-48B試験を使用して夫々の油をエージングし、次いでカーボンブラック分散性について試験した。CABOT“バルカンXC-72R”カーボンブラックを容器中で試験油で8質量%で計り取り、これを100℃で一夜振とうし、油粘度を測定した。その操作を“Bohlin Gemini II”レオメーター中で100℃で行なった:レオメーターはせん断速度を0s-1から300s-1まで増大し、0s-1に元に下げ、粘度を測定する。せん断速度100s-1における粘度(VISC100)を計算する。高い値は不十分に分散されたすすを含む油を示し、低い値は良く分散されたすすを含む油を示す。
結果を以下に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
予想されたように、油Bは基準油(油A)よりも有効に機能しない。これは油Bがすす分散性に不利な作用を有することが知られているDPA を含んでいたからである。しかしながら、本発明の油(油1)は驚くことに比較油及び基準油よりもかなり良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出ガス循環システムを備えたディーゼルエンジンであって、前記エンジンが多量の潤滑粘度の油、及び少量の一種以上の油溶性又は油分散性アルキル化フェノチアジンを含む潤滑油組成物で潤滑されることを特徴とする前記ディーゼルエンジン。
【請求項2】
アルキル化フェノチアジンが式:
【化1】

(式中、R1 は4個から24個まで、例えば、4個から10個までの炭素原子を有し、アルキル基、ヘテロアルキル基又はアルキルアリール基である線状又は分岐基であり、かつR2 は、R1 とは独立に、4個から24個まで、例えば、4個から10個までの炭素原子を有し、アルキル基、ヘテロアルキル基又はアルキレニル基である線状又は分岐基であり、又は水素原子である)
の化合物である、請求項1記載のディーゼルエンジン。
【請求項3】
R1 が4〜10個の炭素原子を有するアルキル基であり、かつR2 が水素原子又は4〜10個の炭素原子を有するアルキル基である、請求項2記載のディーゼルエンジン。
【請求項4】
R1 がノニル基であり、かつR2 が水素原子又はノニル基である、請求項2から3のいずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項5】
アルキル化フェノチアジンはモノ-及びジアルキル化フェノチアジンの混合物を含む、請求項1から4のいずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項6】
混合物の15〜85質量%がモノアルキル化されている、請求項5記載のディーゼルエンジン。
【請求項7】
潤滑油組成物が潤滑油組成物の合計質量を基準として、0.04質量%から4.5質量%までのフェノチアジンを含む、請求項1から6に記載のディーゼルエンジン。
【請求項8】
潤滑油組成物が更に0.1質量%から5質量%までのヒンダードフェノール化合物、ジフェニルアミン化合物、及びこれらの混合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の無灰酸化防止剤化合物を含む、請求項1から7のいずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項9】
潤滑油組成物が分散剤、清浄剤、錆抑制剤、粘度指数改良剤、分散剤−粘度指数改良剤、酸化抑制剤、摩擦改良剤、流動性改良剤、消泡剤及び耐磨耗剤からなる群から選ばれた、フェノチアジン以外の、少なくとも一種の添加剤を含む、請求項1から8のいずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項10】
潤滑油組成物が0.4質量%以下の硫黄含量、1200ppm以下のリン含量、1質量%以下の硫酸塩灰分(SASH)含量、及び13以下のNoack揮発度の少なくとも一つを有する、請求項1から9のいずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項11】
潤滑油組成物が0.4質量%以下の硫黄含量、1200ppm以下のリン含量、1質量%以下の硫酸塩灰分(SASH)含量、及び13以下のNoack揮発度を有する、請求項10記載のディーゼルエンジン。
【請求項12】
排出ガス循環システムは吸入空気及び/又は排出ガス循環流がエンジンの運転中の時間の少なくとも10%にわたって露点より下に冷却される排出ガス循環システムである、請求項1から11のいずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項13】
大型車両用ディーゼルエンジンである、請求項1から12のいずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項14】
排出ガス循環システムを備えたディーゼルエンジンの運転方法であって、その方法が多量の潤滑粘度の油、及び少量の請求項1から6のいずれかに記載の一種以上のフェノチアジンを含む潤滑油組成物でエンジンを潤滑する工程を有することを特徴とする前記運転方法。
【請求項15】
潤滑剤中のアルキル化フェノチアジン添加剤(そのフェノチアジンは請求項1から6のいずれかに特定されたとおりである)の、大型車両用又は乗用車ディーゼルエンジン潤滑剤のすすにより誘発される動粘度の増大を制御し、分散性を高めるための、使用。

【公開番号】特開2012−41536(P2012−41536A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179420(P2011−179420)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】