説明

EL発光素子の製造方法、及びEL発光素子

【課題】水分や酸素等による劣化を抑制し、より長寿命のEL発光素子を提供する。
【解決手段】EL発光素子1は、デシカント21の表面22に水素プラズマによる脱酸素処理を行った後、空気中に暴露することなく、デシカントがEL発光部12と対向するように配設されていることにより、脱酸素処理によって、吸酸素能を高められたデシカントが、その吸酸素能を損なうことなくEL発光部と同一空間内に封止される。封止部材内に侵入した酸素や水分をデシカントが効率よく吸収することができるため、より寿命の長いEL発光素子を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より寿命の長いEL発光素子の製造方法、及びその製造方法で製造されたEL発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
EL発光素子を利用した平面ディスプレイは、次世代のディスプレイとして大きな注目を浴びており、これについての研究開発が盛んに行われている。EL発光素子を利用することで、直流低電圧駆動、高視野角、自発光などの特徴を有する高解像度ディスプレイが実現可能であり、その利用価値は非常に高いと考えられている。
【0003】
このEL発光素子は、例えばガラス基板やプラスチック基板上に、透明電極(陽極)/発光層/金属電極(陰極)を順次積層して構成される発光部が形成されている。また、陽極には仕事関数の大きな物質が用いられ、陰極には仕事関数の小さな物質が用いられる。そして、発光層に有機材料が用いられ、両電極から注入される正孔と電子が発光層において、再結合することによって発光する。
【0004】
ここで、発光層に利用するEL発光材料は、水分や酸素等に侵されやすく、大気中でEL発光素子を駆動するとその発光特性が急激に劣化する。そこで、発光部を覆うように、ガラスやプラスチックで構成される封止板を、発光部を囲む四辺で接着することで水分や酸素等の素子内への侵入を防止し、かつ封止板の内面に、化学的に水分や酸素等を吸着するような乾燥手段を設けることで、万が一素子内に水分や酸素等が侵入しても発光層への水分や酸素等の侵入を防止する試みが行われており、その例として特許文献1に示される方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−148066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で示されている方法においては、封止は必ずしも十分とは言えないため素子内への水分や酸素等の侵入を抑えきることはできず、また、乾燥手段についても、十分な能力があるとは言えないため、EL発光素子の寿命を十分に長くするまでには至っていなかった。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、水分や酸素等による劣化を抑制し、より長寿命のEL発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明のEL発光素子の製造方法は、EL発光部と、前記EL発光部を覆うように配置され、前記EL発光部と対向する内面にデシカントを有する封止部材とを有するEL発光素子の製造方法であって、EL発光部を形成するEL発光部形成工程と、真空環境下にて、デシカントの一の表面に水素プラズマによる脱酸素処理を施すデシカント表面脱酸素工程と、真空環境下にて、前記脱酸素処理が施されたデシカントの表面が前記EL発光部に対向するようにデシカントを配置した前記封止部材により、前記EL発光部を封止する封止工程とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る発明のEL発光素子の製造方法は、EL発光部と、前記EL発光部を覆うように配置され、前記EL発光部と対向する内面にデシカントを有する封止部材とを有するEL発光素子の製造方法であって、EL発光部を形成するEL発光部形成工程と、真空環境下にて、デシカントの一の表面に水素プラズマによる脱酸素処理を施すデシカント表面脱酸素工程と、不活性ガス雰囲気下にて、前記脱酸素処理が施されたデシカントの表面が前記EL発光部に対向するようにデシカントを配置した前記封止部材により、前記EL発光部を封止する封止工程とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る発明のEL発光素子の製造方法は、請求項1乃至2の発明の構成に加え、前記デシカント表面脱酸素工程の前に、前記デシカントの一の表面にイオンエッチング処理を施して前記デシカントの一の表面を粗す、デシカント表面粗し工程を設けることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に係る発明のEL発光素子の製造方法は、請求項3に記載の発明の構成に加え、前記デシカント表面粗し工程は、その処理用ガスとして希ガス元素の気体を用いることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項5に係る発明のEL発光素子の製造方法は、請求項3乃至4に記載の発明の構成に加え、前記デシカント表面粗し工程は、パターンマスクによって決められるパターンに従って粗しパターンを形成する工程であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に係る発明のEL発光素子は、EL発光部と、前記EL発光部を覆うように配置され、前記EL発光部と対向する内面にデシカントを有する封止部材とを有するEL発光素子であって、前記デシカントは、その一の表面に水素プラズマによる脱酸素処理を施すデシカント表面脱酸素処理が施され、前記デシカント表面脱酸素処理が施されている面が前記EL発光部に対向するようにデシカントが配置された前記封止部材により、前記EL発光部が封止されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項7に係る発明のEL発光素子は、請求項6に記載の発明の構成に加え、前記封止部材に配置されているデシカントは、前記デシカントの一の表面に、イオンエッチング処理により前記デシカントの一の表面を粗す、デシカント表面粗し処理を施した後に前記デシカント表面脱酸素処理が施されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項8に係る発明のEL発光素子の製造方法は、デシカントの一の表面にイオンエッチング処理を施すデシカント表面粗し工程と、前記デシカント表面粗し工程を施したデシカントの表面に水素プラズマによる脱酸素処理を施すデシカント表面脱酸素工程とを含むデシカント処理工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明のEL発光素子の製造方法は、真空環境下にて、デシカントの一の表面に水素プラズマによる脱酸素処理を行うため、デシカントの吸酸素能を向上させることができる。また、真空環境下にて、EL発光部を封止する封止工程を行うため、デシカントに無駄に水分や酸素等を吸着させず、デシカントの吸酸素能を劣化させることなしにEL発光素子を製造することができる。よって、寿命のより長いEL発光素子を製造することが可能となる。
【0017】
請求項2に係る発明のEL発光素子の製造方法は、真空環境下にて、デシカントの一の表面に水素プラズマによる脱酸素処理を行うため、デシカントの吸酸素能を向上させることができる。また、不活性ガス雰囲気下にて、EL発光部を封止する封止工程を行うため、製造後の、封止部材内外の気圧差に起因する不用意な変形を防止できる。また、EL発光素子外部からの水分や酸素等の侵入を防止することができる。よって、寿命のより長いEL発光素子を製造することが可能となる。
【0018】
また、請求項3に係る発明のEL発光素子の製造方法は、請求項1乃至2に記載の発明の効果に加え、デシカント表面粗し工程において、デシカントの一の表面にイオンエッチング処理を施して前記デシカントの一の表面をあらかじめ粗しておくことにより、前記デシカントの一の表面の表面積を増大させ、デシカントの吸湿、吸酸素能を向上させることが可能となるため、デシカントの吸湿、吸酸素能を高め、寿命のより長いEL発光素子を製造することが可能となる。
【0019】
また、請求項4に係る発明のEL発光素子の製造方法は、請求項4に記載の発明の効果に加え、前記デシカント表面粗し工程において、その処理用ガスとして希ガス元素の気体を使用することにより、より効果的に前記デシカントの一の表面をあらすことが可能となるため、寿命のより長いEL発光素子を製造することが可能となる。
【0020】
また、請求項5に係る発明のEL発光素子の製造方法は、請求項3乃至4に記載の発明の効果に加え、前記デシカント表面粗し工程において、パターンマスクによって決められるパターンに従って粗しパターンを形成するため、粗しを行う部位について、より深く粗すことが可能となり、デシカントの、EL発光素子内部の空間に露出している表面積を増大させることができるため、特にフレキシブル性を有するEL発光素子について、寿命のより長いEL発光素子を製造することが可能となる。
【0021】
請求項6に係る発明のEL発光素子は、デシカントの一の表面に水素プラズマによる脱酸素処理を行うことにより、より吸酸素能の高いデシカントを得ることができるため、寿命のより長いEL発光素子を得ることができる。
【0022】
また、請求項7に係る発明のEL発光素子は、請求項6に記載の発明の効果に加え、デシカントの一の表面にイオンエッチング処理を施して前記デシカントの一の表面をあらかじめ粗す処理を行うことにより、デシカントの吸湿、吸酸素能の高い、寿命のより長いEL発光素子を得ることができる。
【0023】
請求項8に係る発明のEL発光素子の製造方法は、デシカントの一の表面にイオンエッチング処理を施すデシカント表面粗し工程により、前記デシカントの一の表面の表面積を増大させ、デシカントの吸湿、吸酸素能を向上させることが可能となるため、寿命のより長いEL発光素子を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】EL発光素子1の斜視図である。
【図2】EL発光素子1の上面図である。
【図3】EL発光素子1の図2に示すA−A’線における断面図である。
【図4】EL発光素子1の製造工程を示すフロー図である。
【図5】基板11の上面に第1の電極12aが形成された状態を示す断面図である。
【図6】第1の電極12a上面に発光層12bが形成された状態の断面図である。
【図7】発光層12b上面に第2の電極12cが形成され、EL発光部12が形成された状態の断面図である
【図8】水素プラズマ装置50の概略図である。
【図9】封止部材14上にデシカント21が形成された状態の断面図である。
【図10】第2実施形態のEL発光素子101の断面図である。
【図11】第2実施形態のEL発光素子101の製造工程を示すフロー図である。
【図12】イオンエッチング兼水素プラズマ装置150の概略図である。
【図13】封止部材14上にデシカント121が形成された状態の断面図である。
【図14】第2実施形態の変形例であるEL発光素子201の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の第1実施形態であるEL発光素子1について、図面を参照して説明する。図1はEL発光素子1の斜視図である。また、図2はEL発光素子1の上面図である。また、図3はEL発光素子1の図2に示すA−A’線における矢視方向断面図である。また、断面図においては図面の上方を、上面図においては図面の手前側を上とし、断面図、上面図とも図面の左方を左として説明を行う。
【0026】
EL発光素子1は、図1〜3に示す通り、基板11、基板11の中央部上に形成されたEL発光部12、EL発光部12の周囲に形成される接着層13、及び接着層13により、EL発光部12を覆うように基板11に接着される封止部材14、及び封止部材14の内面にEL発光部12と対向して設けられるデシカント21により構成される。また、EL発光部12から接着層13の外部へ、配線31、32が延出しており、EL発光部12への駆動電力の投入に使用される。
【0027】
基板11は、透明性を持つ平板状の物質であればよい。例えば、ガラス板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリスチレン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)などを用いることが可能である。EL発光素子1に可撓性を持たせる場合には、基板11も可撓性のある物質を用いる必要があり、その場合には、上述した樹脂を用いたフィルム体、または厚み0.3mm以下として可撓性を持たせた薄板ガラスが用いられる。樹脂を用いる場合には、ガスバリア性を持たせるため、片面或いは両面にSiOx、SiNの薄膜を積層させた基材を用いることが望ましい。
【0028】
EL発光部12は、図3に示す通り、基板11上に形成された第1の電極12aと、第1の電極12a上に形成された発光層12bと、発光層12b上に形成された第2の電極12cとにより構成される。
【0029】
第1の電極12aは、基板11の上面に設けられており、配線31と接続されている。第1の電極12aの材質としては、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性酸化物など、透光性のある導電性物質が適用可能である。
【0030】
発光層12bは、第1の電極12aの上面に設けられている。発光層12bの材質としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリチオフェン誘導体などの高分子発光材料、及び、TPB(テトラフェニルブタジエン)、ペリレン、クマリン、ルブレン、ナイルレッド、DCM(4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−ジメチルアミノスチリル−4−ピラン)、DCJTB(4−ジシアノメチレン−6−シーピージュロリジノスチリル−2−ターシャルブチル−4H−ピラン)、スクアリリウム、アルミニウム錯体(例えばAlq3)などの低分子系材料が利用可能である。
【0031】
第2の電極12cは、発光層12bに対して、第1の電極12aが設けられた側とは反対側の面に設けられており、配線32と接続されている。第2の電極12cの材質としては、アルミニウム、フッ化リチウム(LiF)、MgAg合金、Al/LiF積層物、Al/Ca積層物、Al/Ba積層物、及びAl/MgAg積層物などが挙げられる。
【0032】
接着層13は、EL発光部12の周囲に形成され、基板11と封止部材14とを接着している。接着層13に使用する接着剤としては、ウレタンジアクリレート、エポキシジアクリレート、ポリエステルジアクリレートなどのUV硬化樹脂や、メラミン系、アクリル系、ビスフェノール系に代表される熱硬化樹脂などが挙げられる。
【0033】
デシカント21は、薄板状に形成され、封止部材14の内面に、EL発光部12上面と対向するように設けられる。このデシカント21のEL発光部12と対向する側の表面22は、水素プラズマにより脱酸素処理が施されている。デシカント21には、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム等が用いられる。
【0034】
封止部材14は、EL発光部12を覆うように設けられ、基板11に対して接着層13にて接着されている。材質の例としては、ポリエステル樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN))、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、透明フッ素樹脂、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリウレタン、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ガラス等が挙げられる。樹脂を用いる場合には、ガスバリア性を持たせるため、片面或いは両面にSiOx、SiNの薄膜を積層させた基材を用いることが望ましい。
【0035】
配線31、32は、第1の電極12a及び第2の電極12cを通じてEL発光部12に駆動電力を図示しない電源から投入するために設けられている。配線31、32の材質としては、例えば銅などが挙げられる。
【0036】
次に、本実施形態のEL発光素子1の製造方法について図4〜図9を参照して説明する。図4は、本実施形態のEL発光素子1の製造工程を示すフロー図であり、図5は、基板11の上面に第1の電極12aが形成された状態を示す断面図である。また、図6は、第1の電極12a上面に発光層12bが形成された状態の断面図であり、図7は、発光層12b上面に第2の電極12cが形成され、EL発光部12が形成された状態の断面図である。そして、図8は、製造工程中にて使用する水素プラズマ装置50の概略図であり、図9は、封止部材14上にデシカント21が形成された状態の断面図である。
【0037】
本実施形態のEL発光素子1の製造工程は、EL発光部12の形成工程(S1)、デシカント表面脱酸素工程(S2)、及び封止工程(S3)で構成される。
【0038】
EL発光部形成工程(S1)では、まず、図5に示すように、基板11上に第1の電極12aを形成する(S11)。本実施形態では、ガラス板である基板11上に、ITOを150nmの厚みで真空成膜する。次に成膜したITO上に露光用のポジ型レジストをスピンコートにより塗布し、このレジストを、所定のパターンを形成してあるマスクを使用してマスク露光した。その後、濃硝酸と濃塩酸の混合液である王水を用いてエッチングを行い、所望の電極パターンが形成された第1の電極12aを成膜した。
【0039】
次に、図6に示すように、第1の電極12a上に発光層12bを形成する(S12)。この工程は、電極表面洗浄工程(S121)と発光層を実際に形成する発光層形成作業工程(S122)とからなる。まず、電極表面洗浄工程(S121)では、第1の電極12aの表面を、中性洗剤洗浄、アセトン洗浄、イソプロピルアルコール(IPA)洗浄、及びUVオゾン洗浄にて順次洗浄する。次いで、発光層形成作業工程(S122)において、洗浄の終わった第1の電極12a上面に、スピンコート法にて発光層12bを形成した。使用したインクは、有機発光材料であるポリフルオレン誘導体を2wt%溶解させた、シクロヘキシルベンゼン溶液であった。
【0040】
次に、図7に示すように、発光層12b上に第2の電極12cを形成する(S13)。本実施形態では、発光層12b上に、アルミニウムを蒸着することで形成した。以上の工程を行うことで、EL発光部12が形成された。そして、配線31、32を、それぞれ第1の電極12a及び第2の電極12cに接続して配設した。
【0041】
次に、デシカント表面脱酸素工程(S2)を行う。デシカント表面脱酸素工程(S2)では、まず、酸化カルシウムにて構成されているデシカント21を、図8で示されるような水素プラズマ処理装置50の、真空状態となっている水素プラズマ室51に、空気中に暴露することなしに投入し、電極52上に貼りつける。次に、Hボンベ54から水素プラズマ室51に、水素ガスを20[sccm]程度の流量となるように、マスフロコントローラー55にて調整しつつ流通させる。流通させた水素ガスは、排気ポンプ56により、排気口59から排出される。水素ガスの流量が安定したら、電源57によって、電極52、53間に100[W]程度の電力を、周波数13.65[MHz]にて30分間印加する。すると、印加された電力によってプラズマ化された水素がデシカント21の表面22の酸化カルシウムを脱酸素し、金属カルシウムとする。以上の処理により、デシカント21の、電極52とは反対側の表面22に対して脱酸素処理が完了する。
【0042】
次に、封止工程(S3)を行う。この工程は、材料を、水素プラズマ装置50と連通可能な、封止を行う真空チャンバー中に投入する材料投入工程(S31)と、封止部材14に脱酸素処理を行ったデシカント21を貼りつけるデシカント貼りつけ工程(S32)と、デシカント21を貼りつけた封止部材14をEL発光部12を覆うように基板11に貼りつける封止部材接着工程(S33)とにより構成される。
【0043】
まず、材料投入工程(S31)では、封止工程を行う真空チャンバーに、まずEL発光部12が形成された基板11、及びSiNにてガスバリア性を持たせる加工を施したPETで構成される封止部材14を投入する。次に、当該真空チャンバー内の環境を真空状態とする。そして、真空状態となっている水素プラズマ装置50と真空チャンバーとを連通させる。その後、デシカント21を、水素プラズマ処理装置50から、空気中に暴露することなく、当該真空チャンバーに投入する。
【0044】
次に、デシカント貼り付け工程(S32)では、図9に示すように、封止部材14の表面中央付近に、脱酸素処理を行ったデシカント21を貼り付ける。この際、脱酸素処理を行った表面22が、接着面と反対側の面となるようにデシカント21を貼りつける。デシカント21の貼りつけの方法は特に限定されず、ここでは、接着剤を使用しての接着を行った。この工程は、真空状態となっている真空チャンバー中にて行った。
【0045】
次に、封止部材接着工程(S33)では、図3に示すように、EL発光部12の周辺近傍に塗布した接着剤により形成される接着層13にて、EL発光部12を覆うように、封止部材14を基板11に接着する。この際、デシカント21がEL発光部12と対向するような位置となるように封止部材14を配設する。この工程も、真空状態となっている真空チャンバー中にて行った。
【0046】
以上の工程を経て製造される本実施形態のEL発光素子1は、デシカント21の一の表面22に水素プラズマによる脱酸素処理を行った後、空気中に暴露することなく真空状態の空間中にて、当該デシカント21がEL発光部12と対向するように配設して封止を行われていることで製造されている。このことにより、脱酸素処理によって、吸酸素能を高められたデシカント21が、空気暴露がないことにより、その吸酸素能を損なうことなくEL発光部12と同一空間内に封止される。よって、万が一封止部材内に酸素が侵入した場合でも、デシカント21が効率よくその酸素を吸収することができる。したがって、EL発光部が劣化しにくい、より寿命の長いEL発光素子を得ることができる。
【0047】
また、封止工程(S3)を真空環境下にて行うことにより、脱酸素処理を行ったデシカントに、不必要に水分や酸素等を吸収させることなくEL発光素子を製造できるため、デシカントの吸酸素能を劣化させることなくEL発光素子を製造でき、寿命の長いEL発光素子を得ることができる。
【0048】
なお、封止工程(S3)は、上述した実施例では真空環境下にて行う例を示したが、窒素等の不活性ガス雰囲気中にて行ってもよい。デシカント貼り付け工程(S32)を不活性ガス雰囲気中にて行った場合も、デシカントに不必要に水分や酸素等を吸収させることなくEL発光素子を製造できるため、デシカントの吸酸素能を劣化させることなくEL発光素子を製造でき、寿命の長いEL発光素子を得ることができる。この場合、各部材を封止工程を行う真空チャンバーに投入した後に当該チャンバー中を不活性ガスで満たすことにより、不活性ガス雰囲気とする。
【0049】
また、封止部材接着工程(S33)を窒素等の不活性ガス雰囲気中にて行うと、製造後、封止部材内外にて気圧差(真空環境下での作業の場合、封止後の封止部材内の気圧が低くなる)が発生することを防止できる。このため、この気圧差に起因する不用意な変形を防止できるため、意図しない破損を防止できるので、より寿命の長いEL発光素子を得ることができる。
【0050】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態のEL発光素子101について、図面を参照して説明する。なお、第1実施形態のEL発光素子1と同じ構成のものについては、同じ符号を付し、説明を省略する。図10は、第2実施形態のEL発光素子101の断面図である。
【0051】
第2実施形態のEL発光素子101は、図10に示す通り、第1実施形態のEL発光素子1に比べ、デシカント121のEL発光部12と対向する側の表面122が、イオンエッチング処理によって粗され、凹部123が設けられている、という点が異なる。
【0052】
次に、第2実施形態のEL発光素子101の製造方法について説明する。第2実施形態のEL発光素子101の製造方法は、デシカント処理工程が第1実施形態のEL発光素子1の製造方法と異なる。その製造方法について、図11〜13を参照して説明する。図11は第2の実施形態のEL発光素子101の製造工程を示すフローチャートであり、図12は、イオンエッチング兼水素プラズマ装置150の概略図である。図13は、イオンエッチング及び脱酸素処理を行ったデシカント121を封止部材14上に形成した状態を示す断面図である。
【0053】
まず、EL発光部形成工程(S1)にて、基板11上にEL発光部12を形成する。この工程は第1実施形態のEL発光素子1の製造工程と同一のため、説明を省略する。次に、第2実施形態のデシカント処理工程(S102)を行う。この工程は、デシカント表面粗し工程(S1021)及びデシカント表面脱酸素工程(S1022)で構成される。
【0054】
デシカント表面粗し工程(S1021)では、まず、デシカント121を、図12で示されるようなイオンエッチング兼水素プラズマ処理装置150の、真空状態となっているイオンエッチング兼水素プラズマ室151に、空気中に暴露することなしに投入し、電極52上に貼りつける。次に、アルゴンボンベ541からイオンエッチング兼水素プラズマ室151に、アルゴンガスを20[sccm]程度の流量となるように、マスフロコントローラー55にて調整しつつ流通させる。流通させたアルゴンガスは、排気ポンプ56により、排気口59から排出される。アルゴンガスの流量が安定したら、電源57によって、電極52、53間に100[W]程度の電力を、周波数13.65[MHz]にて30分間印加する。すると、印加された電力によってアルゴンガスがイオンプラズマ化しつつ、デシカント121の表面122とプラズマとの間に生じた自己バイアス電位によってアルゴンイオンプラズマがデシカント121に向かって加速し、表面122に衝突する。その際、イオンによるスパッタリングが生じ、結果としてデシカント121の表面122を削っていき、粗し処理を施すことができる。
【0055】
なお、使用するガスとして、アルゴンガスを例示したが、これには限定されず、イオンプラズマ化するガスであればよい。特に、アルゴンを含む希ガス元素を用いることが、良好な特性を得られるため、好ましい。
【0056】
次に、デシカント表面脱酸素工程(S1022)を行う。デシカント表面脱酸素工程(S1022)では、イオンエッチング兼水素プラズマ室151中に流通させるガスを、バルブ158を切り替えることで、Hボンベ542からの水素ガスに変更し、イオンエッチング兼水素プラズマ室151中に水素ガスが20[sccm]程度の流量となるように、マスフロコントローラー55にて調整しつつ流通させる。流通させた水素ガスは、排気ポンプ56により、排気口59から排出される。水素ガスの流量が安定したら、電源57によって、電極52、53間に100[W]程度の電力を、周波数13.65[MHz]にて30分間印加する。すると、印加された電力によってプラズマ化された水素によって、デシカント121表面の酸化カルシウムを脱酸素し、金属カルシウムとすることができる。以上の処理により、デシカント121の、電極52とは反対側の表面122に対して脱酸素処理が完了する。
【0057】
次に、封止工程(S103)を行う。この工程は、材料を、イオンエッチング兼水素プラズマ装置150と連通可能な、封止を行う真空チャンバー中に投入する材料投入工程(S1031)と、封止部材14にイオンエッチングによる粗し処理及び脱酸素処理を行ったデシカント121を貼りつけるデシカント貼りつけ工程(S1032)と、デシカント121を貼りつけた封止部材14をEL発光部を覆うように基板11に貼りつける封止部材接着工程(S1033)とにより構成される。これらの工程は、いずれも真空状態の空間中にて行われる。
【0058】
まず、材料投入工程(S1031)では、封止工程を行う真空チャンバーに、まずEL発光部12が形成された基板11、及びPETで構成される封止部材14を投入する。次に、当該真空チャンバー内の環境を真空状態とする。そして、真空状態となっているイオンエッチング兼水素プラズマ装置150と真空チャンバーとを連通させる。その後、デシカント121を、イオンエッチング兼水素プラズマ処理装置150から、空気中に暴露することなく、当該真空チャンバーに投入する。
【0059】
次に、デシカント貼り付け工程(S1032)では、図13に示すように、封止部材14の表面中央付近に、粗し処理及び脱酸素処理を行ったデシカント121を貼り付ける。この際、粗し処理及び脱酸素処理を行った面122が、接着面と反対側の面となるようにデシカント121を貼りつける。デシカント121の貼りつけの方法は特に限定されず、ここでは、接着剤を使用しての接着を行った。この工程は、真空状態となっている真空チャンバー中にて行った。そして、封止部材接着工程(S1033)のにて、封止部材を接着する。この工程については第1実施形態のS33工程と同様であるので説明は省略する。
【0060】
以上の工程を経て製造される本実施形態のEL発光素子101は、デシカント121の一の表面122にイオンエッチングによる粗し処理、及び水素プラズマによる脱酸素処理を行った後、空気中に暴露することなく真空状態の空間中、または不活性ガス雰囲気中にて、当該デシカント121がEL発光部と対向するように配設して封止を行われていることで製造されている。脱酸素処理が施されるデシカントの一の表面に、あらかじめ粗し処理を行うことで表面積が増大し、よりデシカントの吸酸素能を高めることが可能となる。吸酸素能を高められたデシカントが、空気暴露がないことにより、その吸酸素能を損なうことなくEL発光部と同一空間内に封止される。よって、万が一封止部材内に酸素が侵入した場合でも、デシカントが効率よくその酸素を吸収することができる。したがって、EL発光部が劣化しにくい、より寿命の長いEL発光素子を得ることができる。
【0061】
なお、本実施形態においても、封止工程(S103)は、第1実施形態の封止工程(S3)と同様に不活性ガス雰囲気中にて行っても良い。本実施形態においても、第1実施形態の場合と同様な効果を奏することが可能である。
【0062】
なお、デシカント表面粗し工程(S1021)においてイオンエッチング処理を行う際に、デシカントの表面122側に、適当なパターンを有するマスクを設けてもよい。このことにより、マスクの開いている部位に対して、イオンプラズマが集中して衝突させることが可能となるため、デシカントの表面122上に、当該パターン形状のより深い溝が設けられ、表面122の表面積をより大きくし、その吸酸素能を高めることが可能となる。
【0063】
また、上述したような深い溝をデシカントの表面122上に設けた場合、図14に示すEL発光素子201のように、EL発光部12とデシカント121を、その間に空間を空けずに対向させて接着させて設けてもよい。この場合、デシカント121の表面122上に設けられた溝(凹部)123から水分や酸素の吸収することが可能である。よって、空間を設けないためより薄型のEL発光素子を得ることができる。また、デシカントに溝を設けることにより折り曲げやすくなるため、折り曲げた際にデシカントの破損の可能性が少なくなり、より寿命の長い、可撓性のあるEL発光素子を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 EL発光素子
11 基板
12 EL発光部
13 接着層
14 封止部材
21 デシカント
50 水素プラズマ処理装置
51 水素プラズマ室
101 第2実施形態のEL発光素子
121 デシカント
150 イオンエッチング兼水素プラズマ処理装置
151 イオンエッチング兼水素プラズマ室
201 EL発光素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
EL発光部と、前記EL発光部を覆うように配置され、前記EL発光部と対向する内面にデシカントを有する封止部材とを有するEL発光素子の製造方法であって、
EL発光部を形成するEL発光部形成工程と、
真空環境下にて、デシカントの一の表面に水素プラズマによる脱酸素処理を施すデシカント表面脱酸素工程と、
真空環境下にて、前記脱酸素処理が施されたデシカントの表面が前記EL発光部に対向するようにデシカントを配置した前記封止部材により、前記EL発光部を封止する封止工程と
を有することを特徴とするEL発光素子の製造方法。
【請求項2】
EL発光部と、前記EL発光部を覆うように配置され、前記EL発光部と対向する内面にデシカントを有する封止部材とを有するEL発光素子の製造方法であって、
EL発光部を形成するEL発光部形成工程と、
真空環境下にて、デシカントの一の表面に水素プラズマによる脱酸素処理を施すデシカント表面脱酸素工程と、
不活性ガス雰囲気下にて、前記脱酸素処理が施されたデシカントの表面が前記EL発光部に対向するようにデシカントを配置した前記封止部材により、前記EL発光部を封止する封止工程と
を有することを特徴とするEL発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記デシカント表面脱酸素工程の前に、
前記デシカントの一の表面にイオンエッチング処理を施して前記デシカントの一の表面を粗す、デシカント表面粗し工程を設けることを特徴とする請求項1乃至2に記載のEL発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記デシカント表面粗し工程は、その処理用ガスとして希ガス元素の気体を用いることを特徴とする請求項3に記載のEL発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記デシカント表面粗し工程は、パターンマスクによって決められるパターンに従って粗しパターンを形成する工程であることを特徴とする請求項3乃至4に記載のEL発光素子の製造方法。
【請求項6】
EL発光部と、
前記EL発光部を覆うように配置されその前記EL発光部と対向する内面にデシカントを有する封止部材と
を有するEL発光素子であって、
前記デシカントは、その一の表面に水素プラズマによる脱酸素処理を施すデシカント表面脱酸素処理が施され、
前記デシカント表面脱酸素処理が施されている面が前記EL発光部に対向するようにデシカントが配置された封止部材により、前記EL発光部が封止されていることを特徴とするEL発光素子。
【請求項7】
前記封止部材に配置されているデシカントは、前記デシカントの一の表面に、イオンエッチング処理により前記デシカントの一の表面を粗す、デシカント表面粗し処理を施した後に前記デシカント表面脱酸素処理が施されていることを特徴とする請求項6に記載のEL発光素子。
【請求項8】
デシカントの一の表面にイオンエッチング処理を施すデシカント表面粗し工程と、
前記デシカント表面粗し工程を施したデシカントの表面に水素プラズマによる脱酸素処理を施すデシカント表面脱酸素工程と
を含むデシカント処理工程を有することを特徴とするEL発光素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−210532(P2011−210532A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77055(P2010−77055)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】