説明

FRP製自動車用ボンネット

【課題】ボンネットのFRP化による高剛性と軽量化の利点を活かしつつ、そのFRP製ボンネットの衝撃エネルギー吸収機能を高め、衝突事故時等における歩行者の頭部保護機能を高めることが可能な、自動車用ボンネットを提供する。
【解決手段】FRP製のアウターと、その裏面側に接合されるFRP製のインナーとを有する自動車用ボンネットであって、アウターが、FRPスキン板間にコア材として軟質フォーム材を介在させたサンドイッチ構造に構成し、コア材である軟質フォーム材のFRPスキン板に面した部分に、樹脂が錯雑に入り組んだ表面中継ぎ領域を有することを特徴とする自動車用ボンネット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP(繊維強化プラスチック)化による軽量化の利点を最大限発揮させつつ、優れた衝撃エネルギー吸収性能を得ることができるようにした自動車用ボンネットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量化を第1目的として、FRP製の自動車用ボンネットが開発されつつあり、主として必要な部分の強度や剛性を向上することを目的とした各種の横造が提案されている(例えば、特許文献1)。FRP製ボンネットは、通常、表面側の高剛性のアウターと、その裏面側に接合され、例えばハット形の横断面のスチフナ構造を有するインナーとから横成されるが、理論的には一枚物のFRP製ボンネットに横成することも可能である。FRP製ボンネットのアウターは、必要な剛性を確保しつつ、軽量化の利点を最大限引き出すために、FRPスキン板間にコア材を介在させたサンドイッチ構造を採用することが有効であることが知られている。この場合のサンドイッチ横造においては、各FRPスキン板とコア材とは強固に接合されており、コア材は曲げ外力に対して剪断方向の荷重を支えている。
【0003】
−方、上記のようなFRP製ボンネットの構造とは別に、近年、自動車には、衝突時等における安全性を高めることが要求されており、とくに、衝突事故時等の歩行者保護性能を高めることが要求されており、この機能を極力高めるために、ボンネットには優れた衝撃エネルギー吸収機能が望まれている。自動車が歩行者に衝突した際には、歩行者は、自動車の前部やボンネット等に対し、脚や頭部に衝撃荷重を受けることになるが、とくに死亡事故の低減には、頭部へのダメージを低減することが不可欠であると言われている。この頭部へのダメージの低減に関しては、ボンネットの衝撃緩和性能として規制値が規格化されつつあり、とくに、頭部が受ける加速度とその持続時間で計算される頭部傷害値(HIC)を所定のレベル以下に抑えることが望まれる。
【0004】
このような要求が高まりつつある折、FRP製ボンネットに関して前記のような従来のサンドイッチ構造を採用すると、サンドイッチ構造を有するアウターの剛性が高いため、衝突事故時等に歩行者の頭部には大きな加速度が生じてしまい、ボンネットに優れた衝撃エネルギー吸収機能を発揮させることが難しくなるという問題があった。
【0005】
サンドイッチ構造のアウターの剛性は、コア材の厚さを薄くすることで下げることが出来るが、この時、薄いコアは成形工程において折損しやすく、取り扱い性が悪化するという問題が発生する。この問題を回避するために、薄くても折れにくいコアとして軟質フォーム材の選択があるが、軟質フォーム材はサンドイッチ構造を構成するFRP板との接着性が悪く、サンドイッチ構造として期待する剛性を得ることができないという問題があった。
【特許文献1】特開2003−146252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】

そこで本発明の課題は、上記のような実情に鑑み、ボンネットのFRP化による軽量化の利点を活かしつつ、そのFRP製ボンネットの衝撃エネルギー吸収機能を高め、衝突事故時等における歩行者の頭部保護機能を高めることが可能な、自動車用ボンネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るFRP製自動車用ボンネットは、FRPスキン板間にコア材として軟質フォーム材を介在させたサンドイッチ構造で構成したことを特徴とし、コア材のFRPスキン板に対向した部分には、樹脂が錯雑に入り組んだ表面中継ぎ領域を有することを特徴とする。
【0008】
軟質フォーム材とは、ガラス転移温度が使用環境温度以下(例えば、−20℃以下)であるフオーム材(発泡材)のことを言い、このような軟質フオーム材として、例えばポリプロピレン発泡材を使用することができるが、とくにこの材質に限定されるものではない。
【0009】
この本発明に係る構造は、一枚物のFRP製ボンネットにも適用できるし、FRP製アウターとFRP製インナーとの接合構造を有するFRP製ボンネットにも適用できる。とくに後者のFRP製ボンネットに適用することにより、一層優れた効果が得られる。
【0010】
すなわち、FRP製のアウターと、その裏面側に接合されるFRP製のインナーとを有する自動車用ボンネットに本発明を適用する場合には、アウターが、FRPスキン板間にコア材として軟質フォーム材が介在させたサンドイッチ構造であり、該コア材の表面には樹脂が錯雑に入り込んだ表面中継ぎ領域を有し、コア材はこの表面中継ぎ領域を介してFRPスキン板と適度な接着状態をにあるサンドイッチ構造として、その構成が採用される。
【0011】
このようなアウター/インナー接合構造の場合には、アウターとインナーは、例えば接着剤を介して接着することができる。また、インナーの設置位置はとくに限定されないが、ボンネット全体として必要な剛性が確保でき、かつ、アウターに部分的に、とくにアウターの中央部に適切な変位による衝撃エネルギー吸収性能を持たせるためには、インナーを、アウターの外縁に沿って延びるように設けることが好ましい。この場合、インナーは、アウターの外線に沿って、アウターの全周にわたって延びていてもよく、部分的に延びていてもよい。インナーは、アウターの補強材として機能するので、適切なスチフナ構造に構成すればよく、例えば、ハット形の横断面形状に形成すればよい。
【0012】
このような自動車用ボンネットにおいては、ボンネットのFRP化により全体として軽量性を保ちながら、FRPスキン板間にコア材として軟質フオーム材を介在させたサンドイッチ構造とし、コア材の表面に樹脂が錯雑に入り込んだ表面中継ぎ領域とすることで、衝撃エネルギーを良好に吸収できる構造となる。
【0013】
とくにコア材である軟質フオーム材の表面に表面中継ぎ領域を有することで、コア材である軟質フォーム材とFRPスキン板との接着が適度に得られ、サンドイッチ横造としての剛性を発現しつつ、良好に衝撃エネルギーを吸収できる構造となる。コア材である軟質フォーム材の表面に設けた表面中継ぎ領域は、両FRPスキン板に対してコア材である軟質フォーム材を堅固な接着状態から、非接着に近い状態までの中間的な状態で繋ぎ止めることができる。そのため、構造的には、厳密なサンドイッチ構造と、2枚のFRPスキン板の重ね梁構造の中間に位置する構造となる。したがって、この場合には、アウターに必要な剛性は、サンドイッチ構造と重ね梁構造を両極端として設計すればよく、ボンネット全体としては、例えばインナー接合構造を加えて主構造、つまり、必要な剛性を備えた主構造を担わせるようにすればよい。
【0014】
このようにコア材として介在された軟質フォーム材を、表面中継ぎ領域により両側のFRPスキン板と適度な接着状態とすることにより、ボンネットとしての構造を維持すること共に、衝突事故時等に歩行者の頭部が衝突した時に、衝撃を支える2枚のFRPスキン板の反力発生にタイムラグを生じさせる作用を奏し、2枚のFRPスキン板はあたかもハンモックのように変形して、歩行者の頭部に加わる加速度を緩和して衝撃エネルギーを良好に吸収できるようになる。また、FRPスキン板自体、応力波の伝播過程において、エネルギーを減衰させる効果を有するから、これによっても歩行者の頭部への反力を軽減することができる。
【0015】
また、軟質フォーム材が両側のFRPスキン板に挟まれる横造であるので、裏面側に高剛性のインナーを接合しても、いわゆるボンデイングラインが表面側に現れることを防止でき、ボンネット表面の良好な意匠性を確保することが可能になる。
【0016】
さらに、表側のFRPスキン板がたとえ薄肉の板であっても、裏面側において軟質フオーム材のコア材の裏打ち効果があるので、表側FRPスキン板の過大な変形は阻止され、ボンネット表面側特性として望ましい適度なべコ感が付与されることになる。さらに、防音、断熱特性を有する軟質フォームをコア材として使用することにより、ボンネット自体に防音、断熱の機能を持たせることができるようになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る自動車用ボンネットによれば、FRPスキン板間にコア材を介在させたサンドイッチ構造とすることにより、必要な剛性を確保しつつボンネットのFRP化による軽量化の利点を最大限発揮させつつ、コア材を軟質フオーム材とし、その表面に樹脂が錯雑に入り込んだ表面中継ぎ領域を設けて両側のFRP層と適度な接着状態で介在させることにより、そのFRP製ボンネットの衝撃エネルギー吸収機能を高め、衝突事故時等における歩行者の頭部保護機能を高めることできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施態様に係るFRP製自動車用ボンネットを示しており、とくに、FRP製のアウターと、その裏面側に接合されるFRP製のインナーとを有する自動車用ボンネットに本発明を適用した場合の一例を示している。図1において、1は自動車用ボンネット全体を示しており、該ボンネット1は、表面側に位置するFRP製のアウター2と、その裏面側に接合されるFRP製のインナー3とからなる。FRP製のアウター2は、面方向にボンネット全面にわたって広がっており、車種に応じて、必要な曲面形状に形成されている。このアウター2が、FRPスキン板4、5間にコア材としての軟質フォーム材6を介在させたサンドイッチ構造に構成されている。
【0020】
図2は、図1のサンドイッチ構造部分の拡大図である。図2において、8はボンネットのサンドイッチ構造を示しており、概サンドイッチ構造8は、コア材しての軟質フォーム材6の表面、すなわち、FRPスキン板4、5と対向する面に、樹脂が錯雑に入り込んだ表面中継ぎ領域9、10を有している。
【0021】
図3は、本発明に係わるコア材の表面中継ぎ領域を模式的に示した図である。コア材である軟質フォーム材6の表面に、コア材の表面位置から厚さの概中心方向に向かって切り込まれた複数の切り欠き凹部11があり、該切り欠き凹部11に樹脂12が概充填されている。
【0022】
図4は、本発明に係わるコア材の表面中継ぎ領域の別の形態を模式的に示した図である。コア材である軟質フォーム材6のFRPスキン板4に対向した面の表層領域13は、コア材の他の部分に比べて連泡率が高い。この連泡率の高い表層領域13の連泡中に樹脂14が概充填されて、コア材の表面中継ぎ領域を構成している。なお、連泡率の高い表層領域13とコア材の他の部分は、連泡率に明確な差がある領域に分離できるものに限らず、連泡率が表層領域から内側に向かって徐々に減少していても良い。このような形態の場合、表面中継ぎ領域は、連泡中への樹脂が充填されているところまでを表すものとする。
【0023】
また、図3における切り欠き凹部11や、図4における表層領域13の連泡中に概充填されている樹脂は、FRPスキン板を構成するマトリックス樹脂と同一の樹脂または樹脂硬化物であることがFRPスキン板とコア材である軟質フォーム材との接着性の観点から好ましく、FRPスキン板を構成するマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合は、FRPスキン板の成形硬化時に同時に充填硬化したものであれば更に好ましい。
【0024】
図1では、上記FRP製のアウター2の裏面側に、ハット形の横断面形状を有するスチフナ構造に構成されたFRP製のインナー3が、接着剤7を介して接着されている。このようなインナー3は、例えば図示の如く、アウター2の外線に沿って配置され、アウター2の外周全周にわたって延びている構造、部分的に延びている構造のいずれも採用可能である。
【0025】
本発明におけるFRPの強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維や、ケブラー繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維からなる強化繊維を使用することが可能である。面剛性の制御の容易性の面からは、炭素繊維の使用が好ましい。FRPのマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不蝕和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂の樹脂硬化物が挙げられ、さらには、ポリアミド樹脂、ポリオレフイン樹脂、ジシクロペンタジェン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂も使用可能である。
【0026】
このように構成された自動車用ボンネット1においては、2枚のFRPスキン板4、5間に軟質フォーム材6を介在させた積層構造のサンドイッチ構造とし、フォーム材の表面に樹脂が錯雑に入り込んだ表面中継ぎ領域を設けて両側のFRP層と適度な接着状態で介在させることにより、ボンネット全体としての剛性と軽量性を確保しつつ、前述の如く、外部からの衝撃エネルギーを効率よく吸収することができ、衝突事故時等における歩行者の頭部等を適切に保護できるようになる。
【0027】
軟質フオーム材6からなるコア材が間に介在することにより、裏側のFRPスキン板5にインナー3を接合しても、そのボンデイングラインが表側のFRPスキン板4の表面に現れることを効果的に防止でき、ボンネット表面の良好な意匠性を確保することができる。また、表側のFRPスキン板4が軟質フォーム材6からなるコア材で裏打ちされることにより、ボンネット表面に適度の望ましいべコ感を付与することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施態様に係る自動車用ボンネットの部分断面図である。
【図2】図1のサンドイッチ構造部分の拡大図である。
【図3】本発明の一実施態様に係わるコア層の表面中継ぎ領域の模式図である。
【図4】本発明の別の実施態様に係わるコア層の表面中継ぎ領域の模式図である。
【符号の説明】
【0029】
1 自動車用ボンネット
2 FRP製のアウター
3 FRP製のインナー
4、5 FRPスキン板
6 コア材としての軟質フォーム材
7 接着剤
8 ボンネットのサンドイッチ構造部分
9、10 表面中継ぎ領域
11 切り欠き凹部
12 樹脂
13 連泡率の高い表層領域
14 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FRPスキン板間にコア材として軟質フォーム材を介在させたサンドイッチ構造で構成し、該コア材のFRPスキン板に対向した面の表層領域に、樹脂が錯雑に入り込んだ表面中継ぎ領域を有することを特徴とするFRP製自動車用ボンネット。
【請求項2】
FRPスキン板に対向したコア材の表面中継ぎ領域が、コア材の表面位置から厚さの概中心方向に向かって切り込まれた複数の切り欠き凹部を有し、該切り欠き凹部に樹脂が概充填されている形態である請求項1に記載のFRP製自動車用ボンネット。
【請求項3】
コア材の表面中継ぎ領域においてコア材の切り欠き凹部に概充填されている樹脂が、FRPスキン板を構成するマトリックス樹脂と同一の樹脂である、請求項2に記載のFRP製自動車用ボンネット。
【請求項4】
FRPスキン板に対向したコア材の表面中継ぎ領域が、コア材表層領域の連泡率が他の部分よりも高いコア材の高連泡率領域であり、かつその領域の連泡中に樹脂が概充填されてなる請求項1に記載のFRP製自動車用ボンネット。
【請求項5】
コア材の表面中継ぎ領域において連泡中に概充填している樹脂が、FRPスキン板を構成するマトリックス樹脂と同一の樹脂である請求項4に記載のFRP製自動車用ボンネット。
【請求項6】
FRP製のアウターと、その裏面側に接合されるFRP製のインナーとを有する自動車用ボンネットであって、前記アウターが、FRPスキン板間にコア材として軟質フォーム材を介在させたサンドイッチ構造に構成されている、請求項1〜5のいずれかに記載のFRP製自動車用ボンネット。
【請求項7】
前記アウターとインナーが接着剤を介して接着されている、請求項6のFRP製自動車用ボンネット。
【請求項8】
前記インナーが、前記アウターの外縁に沿って設けられている、請求項6または7のFRP製自動車用ボンネット。
【請求項9】
前記インナーが、ハット形の横断面形状に形成されている、請求項6〜8のいずれかに記載のFRP製自動車用ボンネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−123788(P2006−123788A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315959(P2004−315959)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】