説明

FSH突然変異体

増加したグリコシル化と、より長い半減期を有するFSH突然変異体を説明する。ヒト患者における卵胞形成を誘発するためのFSH突然変異体の使用もまた説明する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の背景
1.本発明の分野
本発明は、ヒトの生殖に関する。より詳しく述べると、本発明は、不妊療法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
a.ゴナドトロピン
卵胞刺激ホルモン(FSH)は、ヒトの妊娠において重要な役割を果たすゴナドトロピン・ファミリーの一員である。黄体形成ホルモン(LH)及び絨毛性ゴナドトロピン(CG)も含めたゴナドトロピンは、それぞれ共通のαサブユニット(92個のアミノ酸)と、独特なβサブユニット(FSHに関しては111個のアミノ酸)から成るヘテロ二量体である。FSHの成熟型のαサブユニット及びβサブユニットのアミノ酸配列が、それぞれ、配列番号1及び配列番号2に示されている。
【0003】
ヒトFSHは、下垂体と閉経後の尿から単離され(EP 322,438)、そして、哺乳動物細胞(US 5,639,640、US 5,156,957、US 4,923,805、US 4,840,896、US5,767,251、EP 211,894、及びEP 521,586)を使って遺伝子組換えにより製造された。後者の参考文献は、また、ヒトFSHのβサブユニット遺伝子も開示している。US 5,405,945は、たった1つのイントロンしか含まない修飾ヒトαサブユニット遺伝子を開示している。
【0004】
Liu et al., J Biol Chem 1993, 15;268(2):21613-7、Grossmann et al., Mol Endocrinol 1996 10(6):769-79、Roth and Dias (Mol Cell Endocrinol 1995 1;109(2):143-9、Valove et al., Endocrinology 1994;135(6):2657-61、Yoo et al., J Biol Chem 1993 25;268(18):13034-42)、US 5,508,261、及びChappel et al., 1998, Human Reproduction, 13(3):1835には、様々な構造機能相関研究、そして、受容体の結合性及び活性化、並びにFSHの二量体化にかかわるアミノ酸残基の同定が開示されている。
b.生殖介助術におけるゴナドトロピンの使用
【0005】
ゴナドトロピンは、生殖周期において極めて重要な役割を果たすため、外因性療法におけるその使用は、体外受精(IVF)、卵細胞質内精子注入法に関連したIVF(IVF/ICSI)及び胚移植(ET)などの生殖介助術(ART)のために、並びに自然の若しくは人工受精(IUI)による体内受精をおこなった無排卵の患者の排卵誘発(OI)のために不可欠である。
【0006】
US 4,589,402及びUS 4,845,077には、LHを含まない精製ヒトFSH、及び体外受精におけるその使用が開示されている。EP 322 438には、LH活性を実質的に含まない少なくとも6200U/mgのFSH活性を有するタンパク質であって、ここで、FSHのαサブユニット及びβサブユニットのそれぞれが野性型であるか又は特定の切断型であるかもしれないものが開示されている。
【0007】
通常、女性の卵胞形成を刺激するために連続した8〜10日間、時には最長21日間、そして、精子形成を誘発するために低ゴナゴトロピン男性において最長18カ月の長期療法が、治療効果を達成するために必要である。組換えhFSHは、結果として生じる不快症状と局所的な注射部位反応の可能性を伴った連日の筋肉内若しくは皮下注射として通常投与される。投与頻度を減少させることは、療法を容易にし、そして、より使い勝手が良く、より許容でき、且つ、より患者に優しいゴナドトロピン投与を提供するだろう。
c.FSHのグリコシル化
【0008】
ゴナドトロピンは、生体内における活性及び機能に重要であるアスパラギン結合型(N結合型)オリゴ糖側鎖を持つ各サブユニットを持つ糖タンパク質である。ポリペプチドへの糖質付加(グリコシル化反応)は、特定のアスパラギン(N結合型)又はセリン/トレオニン(O結合型)アミノ酸への糖鎖の付加をもたらす翻訳後事象である。糖タンパク質のタンパク質部分の不変アミノ酸配列とは対照的に、糖鎖構造は可変性のものであり、微小不均一性と呼ばれる特性がある。例えば、同じタンパク質上のNグリコシル化部位は、異なる糖鎖構造を含むかもしれない。さらに、たとえ所定の糖タンパク質上の同じグリコシル化部位であっても、異なった糖鎖構造が見られるかもしれない。この不均一性は、糖質の非鋳型指示合成の結果である。
【0009】
タンパク質のNグリコシル化は、コンセンサス・パターンAsn-Xaa-Ser/Thrにおいて特異的に起こり、コンセンサス・パターンAsn-Xaa-Cysにおいてある程度起こる、ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸残基である。しかしながら、コンセンサス・トリペプチドの存在は、アスパラギン残基がグリコシル化されるのを確実にするには十分でない。例えば、Asn-Pro-Ser/Thr配列のNグリコシル化は、Asn-Xaa-Ser/Thrの他のコンセンサス・パターンに比べて50倍低い確率でしか起こらない。
【0010】
ヒトFSHは、4つのN結合型グリコシル化部位:2つが第52位と第78位の共通のαサブユニット上、そして、2つが第7位と第24位のβサブユニット上、を含んでいる。FSHのαサブユニットに取り付けられた糖質は、二量体会合、完全性、分泌、及びシグナル伝達に重要であるが、βサブユニット糖質は、二量体会合、ヘテロ二量体の分泌、及び循環からのクリアランスに重要である。
【0011】
Galway et al., Endocrinology 1990;127(1):93-100は、N-アセチルグルコサミン・トランスフェラーゼI CHO細胞株、又はシアル酸輸送に欠陥のあるCHO細胞株において産生されたFSH変異体が、試験管内では、野性型細胞によって分泌されたFSH、又は精製下垂体FSHと同じくらい活性であったが、生体内では活性が欠如していること(十分にグリコシル化されていない変異体の血清中での急速なクリアランスによると思われる)を実証している。D’Antonio et al., Human Reprod 1999;14(5):1160-7は、様々なFSHアイソフォームが血流中で循環していることを説明している。アイソフォームは、同一のアミノ酸配列を持っているが、それらの翻訳後修飾の程度が異なる。酸性度の低いアイソフォーム群が、酸性アイソフォーム群と比べてより速い生体内クリアランスを有する(アイソフォームの間のシアル酸含量の違いによると思われる)ことがわかった。そのうえ、Bishop et al., Endocrinology 1995;136(6):2635-40では、循環半減期が生体内における活性の主要な決定要素であるように見えるという結論が出ている。これらの観察は、ポリペプチドのシアル酸含量を増大させるように追加のグリコシル化部位を導入することによってFSHの半減期が延長できるだろうという仮説につながった。
d.FSH変異体
【0012】
hCGのカルボキシ末端ペプチド(CTP)を天然組換えヒトFSH(rhFSH)に融合することによって、延長された半減期を有するFSH作動薬が開発された。CTP部分は、第121、127、132、及び138位に位置する4つのO結合型グリコシル化部位を持つ第112〜118アミノ酸〜第145アミノ酸から成る。US 5,338,835及びUS 5,585,345には、C末端のGluにhCGのCTP部分が伸長された修飾FSH βサブユニットが開示されている。得られた修飾類似体は、天然のFSHの生物活性を有するが、延長された循環半減期を有することが示されている。US 5,405,945には、hCGのβサブユニット又はその変異体のカルボキシ末端部分がCG、FSH、及びLHのクリアランスに対して有意な効果を持っていることが開示されている。
【0013】
US 5,883,073には、CG、TSH、LH、及びFSHに対して作動薬又は拮抗薬活性を有する2つのαサブユニットを含む一本鎖タンパク質が開示されている。US 5,508,261には、糖タンパク質ホルモンαサブユニットと、そのそれぞれが特定の配列表から選択される4つの結合配列を含むアミノ酸鎖であるところの天然に存在しないβサブユニット・ポリペプチドを含んでいる、LH及びFSH受容体に対して結合親和力を有するヘテロ二量体ポリペプチドが開示されている。Klein et al.(2003)は、α及びβサブユニットが2つのN結合型グリコシル化部位を含むオリゴペプチドによって連結される、延長された半減期を有するFSHの一本鎖類似体を開示している。
【0014】
WO 01/58493には、FSHの生体内での半減期を改善する試みにおいて、FSHのαサブユニット内で作り出されうる77種類の突然変異と、FSHのβサブユニット内で作り出されうる51種類の突然変異が開示されている。加えて、WO 01/58493には、1つ以上のグリコシル化部位が、その半減期を改善するためにFSHのN末端に付加されるか、又はFSHポリペプチド内の様々な部位に挿入されうることが開示されている。WO 01/58493には、グリコシル化部位がFSHポリペプチド内に挿入されうることが記載されていながら、当業者がグリコシル化部位を挿入し、そして、FSH活性を維持できる特定の部位の手引きが提供されていなかった。WO 01/58493には、突然変異体α及びβサブユニットが個別に(1つの追加のグリコシル化部位)使用されるか、又は組合せて(2つの追加のグリコシル化部位)使用されてよいことがさらに開示されている。hCGとFSHのβサブユニットの間のたった32%の同一性にもかかわらず、hCGの構造のみに基づいて作り出されたFSHの3次元構造の50種類のモデル、及びFSHとhCGの配列アラインメントを使用することによって、128種類の候補突然変異体が同定された。WO 01/58493には、グリコシル化部位が部位特異的突然変異誘発によって導入されたいずれのFSHのα若しくはβサブユニットの製造又は試験も開示されていない。
【0015】
WO 05/020934には、βのE55N/V57Tに二重変異、すなわち、Nに変異させた第55位アミノ酸のE残基、及びTに変異させた第57位アミノ酸のV残基を含めた、FSHのα及びβサブユニットの両方に突然変異があるGM1が開示されている。βのE55N/V57Tのアミノ酸配列は、配列番号3に示されている。
【0016】
FSHの治療的な関連効果の一部又はそのすべてを提供する製品、且つ、現在利用可能なFSH製品と比較してそれほど頻繁でない間隔で投与されてよい製品、且つ、現在の治療によって得ることができるものと比較してより安定したレベルの循環FSH活性を好ましくは提供する製品に対する臨床上の必要性が存在している。
【0017】
本発明は、そのような製品、並びにそのような製品の製造手段に向けられる。
【発明の開示】
【0018】
概要
本発明は、突然変異FSH分子であって、ここで、上記FSHのαサブユニットが配列番号4〜5から成る群から選択される配列を含み、且つ、ここで、上記FSHのβサブユニットが配列番号3を含むものに関する。前記FSHは、前述の突然変異FSHの0、1、2、3、4、5、又は6個のアスパラギン残基にてNグリコシル化されてよい。1つの態様において、配列番号4の突然変異αサブユニットのN5がグリコシル化されてよい。他の態様において、配列番号5の突然変異αサブユニットのN5がグリコシル化されてよい。1つの態様において、配列番号3の突然変異βサブユニットのN55がグリコシル化されてよい。
【0019】
本発明は、また、配列番号4〜5から成る群から選択されるFSHのαサブユニット突然変異体をコードする単離DNA分子に関する。本発明は、また、配列番号3の配列を含むFSHのβサブユニットをコードする単離DNAに関する。
【0020】
本発明は、また、配列番号4〜5から成る群から選択されるFSHαサブユニット突然変異体をコードするDNAを含むベクターに関する。前記ベクターは発現ベクターであってよい。
【0021】
本発明は、また、配列番号3の配列を含むFSHのβサブユニット突然変異体をコードするDNAを含むベクターに関する。前記ベクターは発現ベクターであってよい。
【0022】
本発明は、また、第1のDNAと第2のDNAを含むベクターであって、ここで、上記第1のDNAが配列番号4〜5から成る群から選択されるFSHのαサブユニット突然変異体をコードし、且つ、ここで、上記第2のDNAが配列番号3の配列を含むFSHのβサブユニット突然変異体をコードするものに関する。前記ベクターは発現ベクターであってよい。
【0023】
本発明は、また、配列番号4〜5から成る群から選択されるFSHのαサブユニット突然変異体をコードするDNAを含むベクターを含む細胞に関する。前記ベクターは発現ベクターであってよい。前記細胞は、哺乳動物細胞、例えば、CHO細胞、であってよい。
【0024】
本発明は、また、配列番号3の配列を含むFSHのβサブユニット突然変異体をコードするDNAを含むベクターを含む細胞に関する。前記ベクターは発現ベクターであってよい。前記細胞は、哺乳動物細胞、例えば、CHO細胞、であってよい。
【0025】
本発明は、また、第1のDNAと第2のDNAを含むベクターを含む細胞であって、ここで、上記第1のDNAが配列番号4〜5から成る群から選択されるFSHのαサブユニット突然変異体をコードし、且つ、ここで、上記第2のDNAが配列番号3の配列を含むFSHのβサブユニット突然変異体をコードするものに関する。前記ベクターは発現ベクターであってよい。前記細胞は、哺乳動物細胞、例えば、CHO細胞、であってよい。
【0026】
本発明は、また、第1のベクターと第2のベクターを含む細胞であって、ここで、上記第1のベクターが配列番号4〜5から成る群から選択されるFSHのαサブユニット突然変異体をコードするDNAを含み、且つ、第2のベクターが配列番号3の配列を含むFSHのβサブユニット突然変異体をコードするDNAを含むものに関する。前記ベクターは発現ベクターであってよい。前記細胞は、哺乳動物細胞、例えば、CHO細胞、であってよい。
【0027】
本発明は、また、タンパク質をグリコシル化することができる哺乳動物細胞を培養することを含むFSH突然変異体の製造方法であって、ここで、上述の細胞が、配列番号4〜5から成る群から選択されるFSHのαサブユニット突然変異体をコードするDNAを含む第1の発現ベクターと、配列番号3の配列を含むFSHのβサブユニット突然変異体をコードするDNAを含む第2の発現ベクターを含む方法に関する。本発明の他の態様において、前記細胞は、配列番号4〜5から成る群から選択されるFSHのαサブユニット突然変異体をコードするDNAを含み、さらに、配列番号3の配列を含むFSHのβサブユニット突然変異体をコードするDNAを含む単独のベクターを含む。
【0028】
本発明は、また、FSH突然変異体、及び医薬として許容される担体又は賦形剤を含む組成物であって、ここで、上記FSHのαサブユニットが配列番号4〜5から成る群から選択される配列を含み、且つ、ここで、上記FSHのβサブユニットが配列番号3を含むものに関する。
【0029】
本発明は、また、有効量の突然変異FSHを、それを必要としている哺乳動物に投与するステップを含む不妊の哺乳動物の治療方法であって、ここで、上記FSHのαサブユニットが配列番号4〜5から成る群から選択される配列を含み、且つ、ここで、上記FSHのβサブユニットが配列番号3を含む方法に関する。
【0030】
本発明は、また、有効量の突然変異FSHを、それを必要とする哺乳動物に投与するステップを含む哺乳動物の卵胞形成の刺激方法であって、ここで、上記FSHのαサブユニットが配列番号4〜5から成る群から選択される配列を含み、且つ、ここで、上記FSHのβサブユニットが配列番号3を含む方法に関する。本発明は、また、有効量の突然変異FSHを、それを必要としている哺乳動物に投与するステップを含む哺乳動物の卵巣過剰刺激(ovarian hyperstimulation)の誘発方法であって、ここで、上記FSHのαサブユニットが配列番号4〜5から成る群から選択される配列を含み、且つ、ここで、上記FSHのβサブユニットが配列番号3を含む方法に関する。
発明の詳細な説明
【0031】
FSHの糖質含量が増加すると生体内における半減期の延長につながるかもしれないが、FSHの半減期を改善することは、単に追加のグリコシル化部位を加えることに比べてより複雑である。グリコシル化コンセンサス配列が糖質付加に必要であるが、糖質付加部位が利用されることを確実にするには不十分である。局所的なタンパク質の折り重なり、及び生合成中の立体構造などの他の要因が、オリゴ糖が所定のコンセンサス配列部位に取り付けられるか否かを決定する。加えて、追加のグリコシル化反応が生体内における半減期の延長につながるように、コンセンサス配列は、その部位のグリコシル化反応が受容体結合を妨げないか、又は糖タンパク質の折り重なり、立体構造、若しくは安定性を損なうことがないような位置に存在しなければならない。この点のために、延長された半減期を有するFSH類似体は、そのポリペプチドに追加のグリコシル化部位が含まれている融合タンパク質に主に制限された。
1.突然変異FSH
【0032】
FSH突然変異体は、追加のグリコシル化認識部位を作り出すために修飾されたことを条件とする。FSH突然変異体のαサブユニットには、野生型αサブユニットと比較して、以下の突然変異:野性型αサブユニットの第3と第4アミノ酸残基の間へのアミノ酸配列GNFTの挿入、又は野性型αサブユニットの第3と第4アミノ酸残基の間へのアミノ酸配列GNRTの挿入、の1つがあってよい。突然変異FSHは、突然変異体βサブユニット、例えば、以下の突然変異:E55N/V57Tを含むβGM1と組合せて、前記の突然変異αサブユニットのいずれかを含んでよい。組換えFSHの追加のグリコシル化部位の1つ以上が、グリコシル化されてよい。突然変異FSHの追加のグリコシル化部位の1つ以上が、試験管内において又は生体内においてグリコシル化されてよい。本明細書中に使用される場合、用語「GNFT突然変異体」は、配列番号4に示したようなαサブユニット、及び配列番号3に示したようなβサブユニット突然変異体を含むFSHを指す。本明細書中に使用される場合、用語「GNRT突然変異体」は、配列番号3に示したようなαサブユニット、及び配列番号3に示したようなβサブユニットを含む突然変異FSHを指す。
【0033】
FSH突然変異体は、当該技術分野で知られているいずれかの好適な方法によって製造されうる。これらの方法には、それぞれのFSH突然変異体をコードするヌクレオチド配列の構築、そして、好適なトランスフェクト宿主によるアミノ酸配列の発現が含まれる。FSH突然変異体は、また、化学合成によって、又は化学合成と組換えDNA技術の組合せによって製造されうる。
【0034】
FSH突然変異体は、2つの鎖の生体内における二量化が二量体ポリペプチドを形成するような場合には、2つの別々のポリペプチド鎖の形でFSHのα及びβサブユニットを含んでよく、又はそれはペプチド結合又はペプチド・リンカーによって共有結合された2つのサブユニットを含む一本鎖構築物を含んでもよい。前記リンカー・ペプチドのアミノ酸残基は、FSH突然変異体の活性を有意に妨げない特性を示しうる。
【0035】
FSH突然変異体は、野性型FSHと比較して延長された半減期を有しうる。FSH突然変異体は、また、野性型FSHと比較して増強された安定性も有しうる。FSH突然変異体は、0、1、2、3、4、5、又は6つのN結合型グリコシル化部位にてオリゴ糖を含んでよい。1つ以上のFSH突然変異体アイソフォームを含むかもしれないFSH突然変異体の集団であって、ここで、各アイソフォームが0、1、2、3、4、5、又は6つのN結合型グリコシル化部位にてオリゴ糖を含むものもまた提供される。
【0036】
FSH突然変異体のα又はβサブユニットをコードするヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号1及び2に示されるアミノ酸配列を有するhFSH-α又はhFSH-βなどのような親FSHサブユニットをコードするヌクレオチド配列を単離するか、又は合成することによって構築されうる。そして、そのヌクレオチド配列が、関連アミノ酸残基の置換又は挿入をもたらすように変更されうる。前記ヌクレオチド配列は、部位特異的突然変異誘発によって修飾され得る。あるいは、ヌクレオチド配列は、化学合成によって調製されてよく、ここで、オリゴヌクレオチドはFSH突然変異体の特定のアミノ酸配列に基づいて設計される。
【0037】
前記ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、組換えベクター内に挿入され、そして、所望のトランスフェクト宿主細胞内での上記ポリペプチドの発現に必要な制御配列に作動できるように連結されうる。前記制御配列は、ポリペプチドの発現に必要であるか、又は有利ないずれかの要素であってよい。哺乳動物細胞内での転写を指示するのに好適な制御配列の例には、SV40及びアデノウイルスの初期と後期プロモーター、例えば、アデノウイルスの2つの主要な後期プロモーター、MT-1(メタロチオネイン遺伝子)プロモーター、及びヒト・サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)、が含まれる。
【0038】
当業者は、必要以上の実験なしに、これらのベクター、発現制御配列、及び宿主の中から選定さしうる。前記組換えベクターは、自律生殖ベクター、すなわち、染色体外の実体として存在し、その複製が染色体の複製から独立しているベクター、例えば、プラスミド、であってよい。あるいは、前記ベクターは、宿主細胞内に導入されると、宿主細胞ゲノム内に組み込まれ、そして、それが統合された染色体と一緒に複製されるものであってよい。
【0039】
前記ベクターは、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列がそのヌクレオチド配列の転写に必要な追加のセグメントに作動できるように連結された発現ベクターであってよい。前記ベクターは、プラスミド又はウイルスDNA由来であってよい。本明細書中で触れられている宿主細胞内での発現に好適な多数の発現ベクターは、市販されているか、又は文献に記載されている。
【0040】
組換えベクターは、そのベクターが着目の宿主細胞内で複製されるのを可能にするDNA配列をさらに含んでよい。(宿主細胞が哺乳動物細胞であるときには)そのような配列の例は、SV40複製開始点である。前記ベクターは、また、選択マーカー、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をコードする遺伝子、又は、例えば、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン、ハイグロマイシン、又はメトトレキサートといった薬物に対する耐性を与えるものなどその産物が宿主細胞の欠陥を補足する遺伝子、を含んでよい。
【0041】
前記ベクターは、また、突然変異FSHのDNAを含んでいる増幅可能な遺伝子及び隣接配列の複数のコピーを持つ細胞が適切な培地により選択できるような、DHFRなどの増幅可能な遺伝子を含んでよい。
【0042】
FSH突然変異体のαサブユニットをコードするDNAもまた提供される。部位特異的突然変異誘発、合成、PCR法、又は他の方法によって調製されるか否かに関係なく、FSH突然変異体のα及びβサブユニットをコードするヌクレオチド配列は、また、シグナル・ペプチドをコードするヌクレオチド配列を場合により含んでよい。あるポリペプチドが発現された細胞から分泌されるべき場合に、前記シグナル・ペプチドが存在してよい。存在している場合には、そのようなシグナル・ペプチドは、そのポリペプチドの発現のために選ばれた細胞によって認識されるものであってよい。前記シグナル・ペプチドは、ポリペプチドに対して同種であるか(例えば、通常、hFSHサブユニットに付随している)、又は異種であってよく(すなわち、hFSHとは別の起源から起こる)、あるいは、宿主細胞に対して同種であるか、又は異種であってよい、すなわち、宿主細胞から通常発現されたシグナル・ペプチドであるか、又は宿主細胞から通常発現されないものである。
【0043】
細菌、(酵母を含めた)真菌、植物、昆虫、哺乳動物、他の適切な動物細胞又は細胞株、並びにトランスジェニック動物又は植物を含めたあらゆる好適な宿主が、ポリペプチドを製造するために使用されうる。好適な哺乳動物宿主細胞の例には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株(例えば、CHO-KL;ATCC CCL-61)、ミドリザル細胞株(COS)(例えば、COS 1(ATCC CRL-1650)、COS 7(ATCC CRL-1651));マウス細胞(例えば、NSIO)、ベビーハムスター腎臓(BI-EK)細胞株(例えば、ATCC CRL-1632又はATCC CCL-10)、及びヒト細胞(例えば、BEK 293(ATCC CRL-1573))、並びに組織培養状態にある植物細胞が含まれる。追加の好適な細胞株は、当該技術分野で知られていて、そして、米国基準菌株保存機構(American Type Culture Collection, USA)などの公的な預託機関から入手可能である。外来DNAを哺乳動物宿主細胞に導入する方法には、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、及びウイルス・ベクターが含まれる。
【0044】
細胞は、当該技術分野で知られているポリペプチドの製造に好適な栄養培地中で培養されうる。例えば、細胞は、ポリペプチドが発現される、及び/又は単離されるのに好適な培地、そして、それを可能にする条件下、実験室において、振盪フラスコ培養、(連続、バッチ、フェド-バッチ、又は固体発酵を含めた)小規模又は大規模な発酵、あるいは、工業発酵によって培養されうる。培養は、当該技術分野で知られている手順を用いて、炭素源及び窒素源、並びに無機塩を含む好適な培養液中で行われる。好適な培地は、商業的な供給業者から入手可能であるか、又は(例えば、米国基準菌株保存機構のカタログにおいて)公開されている組成に従って調製されうる。培養液中にポリペプチドが分泌される場合には、それは培地から直接回収される。ポリペプチドが分泌されない場合には、それは細胞溶解物から回収できる。本発明のFSH突然変異体の高収率製造法の1つは、米国特許番号第4,889,803号に記載の連続的に高められたレベルのメトトレキサートを使用することによるDHFR欠損CHO細胞におけるジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)増幅の使用によるものである。
【0045】
得られた突然変異FSHポリペプチドは、当該技術分野で知られている方法によって回収されうる。例えば、それは、例えば、これだけに制限されることなく、遠心分離、濾過、抽出、スプレードライ、留去、又は沈殿を含めた従来の手順によって培養液から回収される。突然変異FSHポリペプチドは、これだけに制限されることなく、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、疎水性、クロマトフォーカシング、及びサイズ排除)、電気泳動手順(例えば、調製用等電点電気泳動)、示差的溶解度(例えば、硫安沈殿)、SDS-PAGE、又は抽出を含めた当該技術分野で知られている様々な手順で精製されうる。
【0046】
FSH突然変異体を含む医薬組成物もまた提供される。そのような医薬組成物は、例えば、排卵誘発又は生殖介助術(ART)と併せて卵胞形成を刺激するために使用されうる。本発明のFSH突然変異体が複数の卵胞の発生と成熟を誘発するのに有効でありうるので、それは、複数の卵母細胞を回収することが望まれるARTにおける使用に特に好適でありうる。
【0047】
FSH突然変異体は、体内受精のための、OIのために単一卵胞形成を誘発するために、又はIUIのために少数の卵胞形成(paucifolliculogenesis)(最大でも約3つの卵胞)を誘発するために使用されうる。単一卵胞形成は、また、従来のFSH製剤と比較して低減された用量のFSH突然変異体、又は少ない頻度の投薬によっても達成され得る。例えば、OIにおいて、本発明のFSH製剤は、患者の応答によって、3日毎に225〜400IU又はそれより低い用量で投与されうる。患者の応答は、超音波検査法によって追跡調査されうる。
【0048】
本発明のFSH突然変異体は、調節された卵巣過剰刺激(COH)レジメンで使用されうる。COHのための標準的なレジメンには、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬の投与によって内在する黄体形成ホルモン(LH)を下方制御する下方制御相と、それに続く、通常、150〜225IU/日の、卵胞刺激ホルモン(FSH)の連日投与によって卵胞発生(卵胞形成)を誘発する刺激相が含まれる。あるいは、刺激は、自然発生的な又は誘発された月経の後のFSHと、それに続く、GnRH拮抗薬の投与によって開始されうる(刺激相の6日目周りで通常始まる)。16mmを超える(18mmのもの)少なくとも3つの卵胞が存在したときに、天然のLH急増、及び誘発排卵をまねるために、hCG(5〜10,000IU)の単独ボーラスが与えられうる。卵母細胞回収は、hCG注射後、36〜38時間の時期が選ばれうる。
【0049】
FSH突然変異体は、また、OI及びIUIに使用されうる。例えば、FSH刺激は、自然発生的な又は誘発された月経後に75〜150IUの日用量で開始されうる。1又は3つの卵胞が少なくとも16mmの直径に達したときに、排卵を誘発するために、hCGの単独ボーラスを投与してよい。精液注入は、通常の性交又はIUIによって生体内で実施されうる。
【0050】
FSH突然変異体は野性型FSH製剤に対して延長された半減期を有しうるので、先に記載したものなどのレジメンは、卵胞の数及び生存率に関して同等以上の応答を達成しながら、より低いIU用量のFSHを用いてよく、及び/又はFSH刺激期間を短縮することによって調節してよい。例えば、適当な卵胞形成は、約50〜150、50〜100、又は50〜75IUのFSHの日用量により達成されうる。FSHの投薬は、1日1回又は1日2回であってよい。投薬の期間は、約14日間、12日間、11日間、若しくは10日間、又はそれより短くてよい。OIのために、FSH突然変異体製剤は、25〜150から50〜125IU FSH/日の用量で投与されてよい。男性不妊症の治療のために、精子形成が通常の性交又はART技術のいずれかによる精液注入に適当なレベルに達するまで3×150〜300IU/週にてFSH突然変異体製剤が投与されてよい。
【0051】
突然変異FSHのより長い半減期により、それは、2日毎よりも少ない頻度で投与されうる長期間作用する製剤として投与されてよい。従来のFSHは、150IU若しくは約150IUの毎日の投与と同様の結果を得ながら、2日毎に300IU若しくは約300IUを投与されてよい。突然変異FSHは、従来のFSHの連日投与と比べて同等以上の結果を達成しながら、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、又は7日毎に投与されてよい。
【0052】
FSH突然変異体は、疾患、障害、又は病態の治療のための医薬品の製造に使用されてよい。他の側面において、本発明によるポリペプチド又は医薬組成物は、そのようなポリペプチド又は医薬組成物を、それを必要としている哺乳動物、特にヒトに投与するステップを含む哺乳動物の治療方法に使用される。
【0053】
ポリペプチド、製剤、又は組成物の有効量が、とりわけ、疾患、用量、投与スケジュール、ポリペプチド、製剤、若しくは組成物が単独若しくは他の治療薬と併せて投与されるかどうか、組成物の血中半減期、及び患者の健康全般によることは、当業者には明らかである。通常、製剤又は組成物の有効量は、治療効果を確実にするのに十分な量である。
【0054】
FSH突然変異体は、1種類以上の医薬として許容される担体又は賦形剤を含む組成物の状態で投与されうる。「医薬として許容される」は、それが投与される患者においてあらゆる有害反応を引き起こさない担体又は賦形剤を意味する。そのような医薬として許容される担体及び賦形剤は、当該技術分野で周知であり、そして、前記ポリペプチドは周知の方法によって医薬組成物中に処方されうる(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, A. R. Gennaro, Ed., Mack Publishing Company (1990);Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins, S. Frokjaer and L. Hovgaard, Eds., Taylor & Francis (2000);及びHandbook of Pharmaceutical Excipients, 3rd edition, A. Kibbe, Ed., Pharmaceutical Press(2000)を参照のこと)。前記ポリペプチドを含む組成物に使用されうる医薬として許容される賦形剤には、例えば、緩衝剤、安定化剤、保存料、等張剤(isotonifiers)、非イオン性界面活性剤若しくは洗浄剤(「湿潤剤」)、抗酸化剤、増量剤、充填剤、キレート剤、又は共溶媒が含まれる。
【0055】
FSH突然変異体を含む医薬組成物は、例えば、使用準備済の溶液若しくは懸濁液といった溶液、ゲル、凍結乾燥物、又はその他の好適な形態、例えば、溶液を調製するのに好適な散剤若しくは結晶を含めた様々な形態で処方されうる。組成物の形態は、治療される特定の適応症に依存してよく、そのことは当業者には明らかである。
【0056】
FSH突然変異体を含む医薬組成物は、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮内、皮下、舌下、頬側、鼻腔内、経皮投与、又は吸入法、あるいは、あらゆる他の許容される様式、例えば、PowderJect若しくはProLease技術、又はペン・インジェクション・システムを使用したもの、により投与されてよい。投与方法は、治療される特定の適応症に依存してよく、そのことは当業者に明らかである。前記組成物は皮下に投与してよく、それが、患者が自己投与することを可能にしうる。
【0057】
前記医薬組成物は、他の治療薬と併せて投与されてよい。これらの作用物質は、同じ医薬組成物の一部として取り込まれるか、又は同時に若しくはいずれか他の許容される治療スケジュールに従って前記ポリペプチドとは別個に投与されてよい。加えて、前記ポリペプチド、製剤、又は医薬組成物は、他の治療法の補助剤として使用されてよい。
【0058】
本発明には、以下の制限されることのない実施例によって例示される多数の側面がある。
【実施例】
【0059】
実施例1
FSH突然変異体
候補グリコシル化部位が挿入されるかもしれないFSH分子内の領域を特定するために、ヒトFSHの3次元結晶構造を使用した。2つのFSH分子(4つのサブユニット)は、結晶構造のそれぞれの非対称単位の状態で存在している。FSHポリペプチドの本来の折りたたみを妨害しないか、又はFSH活性を低減させない、Nグリコシル化部位が挿入されるかもしれない候補部位を特定するために視覚的に調べられたそれぞれの残基について、その2つのFSH分子を重ね合わせ、そして、比較した。FSHの結晶学的構造を、潜在的なNグリコシル化部位の選択のさらなる助けとするためにFSH/FSHR受容体相互作用に関する知識と併用した。主な設計基準は、3次元構造の最小限の破壊、予測される結合及び活性化部位の最小限の破壊、及びグリコシル化反応に適合する予測可能な3次元構造であった。前記の基準に基づいて、FSHのαサブユニットの以下の2つの挿入突然変異株を調製した。
【表1】

実施例2
FSH突然変異体の形態学的解析
【0060】
FSHのαサブユニット突然変異体1〜2の一過性発現からの濃縮培養上清のアリコートを、遊離のα及びβサブユニットから完全なFSHヘテロ二量体の分別を可能にする非還元条件下でのSDS-PAGEによって分析した。それぞれの突然変異ヘテロ二量体の見かけの分子量を、野生型FSHのそれと比較することによって、当業者は、突然変異FSHが野生型FSHに対して高度にグリコシル化されているか否か判断することができる。簡単に言えば、電気泳動後に、タンパク質を電気泳動的にPVDFに移し、そして、FSHのαサブユニットに対するSerono抗体9-14を使用して可視化した。対照として、野生型ヒトFSH、突然変異GM1、FSH-CTP、及びGonal Fも同様に分析した。表1は、分子量標準に基づいて算出したαサブユニット突然変異体と野生型βサブユニットによって形成されたヘテロ二量体の見かけ上の分子量を示す。
【表2】

【0061】
表1に示されているように、発現された2種類のFSH突然変異体、すなわち、GNFT及びGNRT挿入のそれぞれは、野生型ヒトFSHと比較したヘテロ二量体の見かけ上の分子量の分布シフトによって証明されるとおり、グリコシル化の増加を示した。
実施例3
FSH突然変異体の試験管内での機能
【0062】
FSH突然変異体の活性を測定するために、遺伝子組換えによりヒトFSH受容体を発現するCHO細胞株におけるcAMP産生を刺激する能力について、各突然変異体を試験した。CHO-FSHR細胞を、FSHR Growth培地[MEM α(−)(Gibco、カタログ番号12561-056)+10%の透析FBS(Gibco、カタログ番号26300-020)+600μg/mlのGeneticin(Gibco、カタログ番号10131-035)+0.02μMのMTX]中で維持した。CHO-FSHR細胞を、100μl/ウェル中に2×104細胞/ウェルにて播種し(2×106細胞/10ml=1枚のプレート)、アッセイ前に37℃にて24時間インキューベートした。少なくとも70%コンフルエントであれば、細胞をアッセイに使用した。
【0063】
12点の連続的な1:3希釈を、すべてのサンプル及び内部標準に関して67.5nMにて開始した(Gonal Fを内部標準として使用した)。すべての希釈物を、アッセイ培地[DMEM/F12(フェノール不含、Gibco、カタログ番号11039-021)+1mg/mlのBSA(Sigma、A-6003)+1mMのIBMX(3-イソブチル-1-メチルキサントン・ホスホジエステラーゼ阻害剤、Sigma、カタログ番号I-7018)]中に作製した。成長培地を、アッセイ・プレートから取り除き、25μlのアッセイ培地(MA6000 cAMP MSDキット-Meso Scale Discovery, Gaithersburg, MDに同梱されている)を加え、プレートを戻し、37℃にて15分間インキューベートした。次に、ウェルに、25μl/ウェルの試験サンプルを添加し、混合し、プレートを戻して、そして、37℃にて1時間インキューベートした。1時間のインキュベーション後に、サンプル及び培地を、ウェルから取り出した。そして、25μlの標準溶解バッファー(MA 6000 Meso Scale Discoveryキットに同梱されている)を、各ウェルに加え、プレートをプレート・シーラー(Packard、カタログ番号6005185)で覆い、そして、5分間、振盪した。5分間の溶解インキュベーションの後に、25μlの溶解細胞物質を、cAMP Meso Scale Discoveryプレート(MA6000 MSDキットに同梱されている)に移し、そして、緩やかに混合しながら室温にて30分間インキューベートした。25μlのcAMP-APコンジュゲートを、各ウェルに加え、そして、混合した。次に、25μlの抗cAMP抗体を、各ウェルに加え、そのプレートをプレート・シーラーで覆い、そして、室温にて30分間振盪した。次に、プレートを、自動プレート洗浄機により350μl/ウェルの洗浄バッファーで6回洗浄した。次に、100μlのSapphire II RTU(使用準備済み)基質エンハンサを、各ウェルに加え、プレートをプレート・シーラーで覆い、そして、暗所において25℃にて30分インキューベートした。次に、そのプレートを、高シグナルを示すcAMPは低レベルを用いて、そして、低シグナルを示すcAMPは高いレベルを用いて、1ウェルあたり1秒で読み出した。FSH突然変異体の用量-応答曲線を、図2に示している。EC50値を、計算し、そして、表2に示した。
【0064】
図2及び表2に示されているように、それぞれのFSH突然変異体が、野生型FSHのそれに匹敵する試験管内活性を有している。
【表3】

実施例4
FSH突然変異体の生体内半減期
【0065】
2つの異なるロットのGNFT突然変異体とGNRT突然変異体を、別々の薬物動力学的(pK)研究により分析した。2つの研究は、同じデザインのものであった:33匹の未成熟雌SDラット21日齢(約40gの体重;Charles River Laboratories, Wilmington, MA)を、5つの処置群(n=6)及び1つのベースライン群(n=3)に無作為に割り振った。FSH活性の生体内生物学的影響評価のための未成熟雌ラットの選別は、この年齢と性別の活用に基づく。投与群の動物に、4μgのGM1(対照)、GNFT突然変異体、GNRT突然変異体、又は8μgのGonal-F rhFSH(対照)の皮下(s.c.)注射を与えた。血液を、ベースライン群から0時間に、並びに投与群の動物から(n=3/時点;ラットを、その後の2回のサンプリング時点において血液を抜かれないように交代させた)1、2、4、6、10、24、48、及び72時間に眼窩後方の静脈洞から採取した。各出血において各ラットから約0.1mlの血液を採取し、血漿を採集し、そして、ELISAによって分析されるまで−80℃にて保存した。両方の研究からの血清中のFSHタンパク質を計測するために使用されるアッセイは、DSL FSH Coated Well ELISA(Diagnostics Systems Laboratories, Webster, TX)であった。血清サンプルを、三重反復試験でそれぞれ分析した。
GNFT突然変異体とGNRT突然変異体の半減期は、約17時間であり、それに対して、GM1及びGonal-F対照の半減期は、それぞれ、約12時間及び8時間である。これは、GNFT突然変異体とGNRT突然変異体が、野性型FSHと比べてより長い半減期を有することを示している。
実施例5
生体内における生物学的活性
【0066】
GNRT及びGNFT突然変異体の生物学的活性を評価するために使用される生体内モデルは、ラット卵巣増量アッセイである。FSH又はFSH様活性を有する分子、例えば、GNRT及びGNFT突然変異体を用いた未成熟な21日齢の雌ラットの処理は、卵巣卵胞の成長と卵母細胞の産生を引き起こした。この成長は、処理期間の終了時点の卵巣の重さの計量によって容易に検出される。モデルでは、試験すべき物質を、注射によって3日間与え、そして、最後の服用後に卵巣を回収し、計量する。このアッセイは、分類を目的として臨床製品にFSHの効力を割り当てる基準として数十年間使用された。それは、相対的なFSHの生理学的活性の尺度であり、且つ、診療における製品の能力に対して明確な相関関係を持っている。
GNRT及びGNFT突然変異体の生体内における活性を、野生型FSHのそれと比較した。すべての用量を、試験管内における効力とラットにおける半減期を考慮して、見込まれるFSHとの等価性に基づいて規定した。GNRT及びGNFT突然変異体が、野生型FSHのそれと同程度に強力なFSH活性を有することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】GNFT(配列番号4)及びGNRT(配列番号5)αサブユニット突然変異体の、FSHのヒトαサブユニット(配列番号1)に対するアラインメントを示す。残基番号は、成熟ポリペプチドの最初のアミノ酸を1とするFSHのヒトαサブユニット(配列番号1)を参照する。
【図2】野生型FSHと比較した、突然変異FSHのαサブユニットに関する用量-応答曲線を示す。クローン10c−αGNRT/GM1β。クローン11c−αGNFT/ GM1β。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FSHの突然変異αサブユニットをコードする核酸であって、ここで、上記αサブユニットが配列番号4〜5から成る群から選択される配列を含む前記核酸。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸を含むベクター。
【請求項3】
前記ベクターが発現ベクターである、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
前記ベクターが、配列番号3の配列をコードする核酸をさらに含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
請求項1に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項6】
前記細胞が哺乳動物細胞である、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項7】
βサブユニットが配列番号3の配列を含み、且つ、αサブユニットが請求項1に記載の核酸によってコードされる配列を含む突然変異FSH。
【請求項8】
0〜6個のいずれかの個数のアスパラギン残基がグリコシル化されている、請求項1に記載の突然変異FSH。
【請求項9】
前記αサブユニットが配列番号4の配列を含み、且つ、N5がグリコシル化されている、請求項7に記載の突然変異FSH。
【請求項10】
前記αサブユニットが配列番号5の配列を含み、且つ、N5がグリコシル化されている、請求項7に記載の突然変異FSH。
【請求項11】
FSH突然変異体の製造方法であって、以下のステップ:
(a)請求項1に記載の核酸、及び配列番号3をコードする第2の核酸を含む細胞を準備し;そして、
(b)第1及び第2の核酸の発現を可能にする条件下で上記細胞を培養する、
を含む前記方法。
【請求項12】
前記細胞が、タンパク質をグリコシル化することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が、請求項1に記載の核酸、及び配列番号3をコードする核酸を含む単独のベクターを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、請求項1に記載の核酸を含むベクターを含み、且つ、配列番号3をコードする核酸を含む第2のベクターをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の突然変異FSH、そして、場合により、医薬として許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項15に記載の医薬組成物を、それを必要としている哺乳動物に投与するステップを含む、不妊の哺乳動物の治療方法。
【請求項17】
請求項15に記載の医薬組成物を、それを必要とする哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における卵胞形成の刺激方法。
【請求項18】
請求項15に記載の医薬組成物を、それを必要としている哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における卵巣過剰刺激の誘発方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−521222(P2009−521222A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547571(P2008−547571)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/048898
【国際公開番号】WO2008/010840
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(507348713)ラボラトワール セローノ ソシエテ アノニム (29)
【Fターム(参考)】