説明

Fe−Ni合金スラブおよびその製造方法

【課題】非延伸性非金属介在物の個数が低減された表面性状に優れるFe−Ni合金スラブとその製造方法を提案する。
【解決手段】Ni:30〜45mass%を含有し、好ましくはさらに、Si:0.001〜0.2mass%、Mn:0.1〜0.7mass%、Al:0.0001〜0.005mass%、Ca:0.00005〜0.001mass%、Mg:0.00005〜0.001mass%、Cr:0.1mass%以下、O:0.0005〜0.007mass%を含有するFe−Ni合金スラブに、1100〜1375℃の温度で、Niの拡散距離DNiが39μm以上となる均質化熱処理を施して、スラブ内のMgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成からなる非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数をスラブ内の全介在物個数の20%以下に低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャドウマスクやリードフレーム、バイメタル用低熱膨張材等の素材として用いられるFe−Ni合金スラブとそのスラブの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、Fe−Ni合金は、その有する熱膨張係数が小さいという特性を活かして、シャドウマスクやリードフレーム、バイメタル用低熱膨張材などとして広く用いられている。上記用途に用いられるFe−Ni合金は、素材スラブを熱間圧延して板厚が2〜6mmの熱延板にした後、各用途の要求寸法に応じて0.1〜1mmの板厚に冷間圧延し、冷延製品板としている。
【0003】
その後、そのFe−Ni冷延板は、例えば、シャドウマスク用途では微細なエッチング加工を、また、リードフレーム用途では、微細な打抜き加工を施して、最終製品としている。しかし、上記のような微細加工が施されるFe−Ni合金では、微量のAl添加によって生成するMgO・Alのスピネル系介在物やAl系介在物、あるいは、Alを全く含まないMnO−MgO−SiOのシリケート系介在物の存在が大きな問題となっていた。というのは、これらの介在物は、融点が高くて延伸性に乏しいことから、圧延されても微細化されずに冷延後の鋼板表面に現れて線状欠陥となる。また、表面に現れずに内包されている場合でも、エッチング時にエッチング孔の形状不良を引き起こしたり、打抜き加工の際の断面形状を不均質化したりする。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するため、非延伸性の非金属介在物の生成を防止する技術が幾つか提案されている。例えば、特許文献1には、鋼材中の非金属介在物組成の制御に熱力学的な取扱い手法を取り入れ、Al(コランダム構造)、MgO・Al(スピネル構造)、2MgO・SiO(オリビン構造)からなる硬質結晶相を有する有害介在物の抑制のための厳密な基準を与えて、鋼材の品質安定を図る技術が開示されている。また、特許文献2には、Niを30〜50重量%含有するFe−Ni合金中の介在物を低融点化し、軟質化することで、圧延時において介在物起因の表面疵が発生するのを防止する技術を開示している。また、特許文献3には、熱延板中の非金属介在物を、JIS G0555に規定されたA系あるいはB系に制御することで、延伸性に乏しい大型の非金属介在物を低減したシャドウマスク用Fe−Ni合金板の製造技術を開示している。
【0005】
しかしながら、スピネルの生成量は、溶鋼中の酸素ポテンシャルが低いほど減少するため、スピネルの生成を抑制するには、溶鋼中の酸素量を高めに制御するのが好ましい。しかし、溶鋼中の酸素量を高くすると、逆に、シリケート系の介在物が多くなり、その結果として、溶鋼中の介在物の個数は却って増加してしまう。また、MgO・Alスピネル介在物の生成を防止するには、精練上、精緻な操業が必要となる。さらに、上記従来技術では、精練の時点で一度、非延伸性の介在物が生成されると、その非延伸性の介在物を低減したり、あるいは変質して無害化したりすることは不可能であったため、表面欠陥や内部欠陥の発生を回避することは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、延伸性に欠ける非金属介在物を多く含むFe−Ni合金スラブをそのまま熱間圧延し、冷間圧延しても、介在物は分断・微細化されずに、表面欠陥や内部欠陥を引き起こす原因となる。したがって、熱間圧延を行う前のFe−Ni合金スラブは、非延伸性の非金属介在物が少ないほど好ましい。そこで、もし仮に製造されたFe−Ni合金スラブが、非延伸性の非金属介在物を含んでいても、その非延伸性介在物を改質し、無害化することができれば、表面品質の向上や歩留り向上にとって極めて好ましいことである。
【0007】
そこで、本発明の目的は、製鋼でのスラブ製造条件に左右されることなく、非延伸性の介在物を含む非金属介在物の個数割合が低くて、表面品質に優れる冷延製品板を得ることができるFe−Ni合金スラブと、そのスラブを安定して製造する方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、Fe−Ni合金スラブに存在し、冷延板の表面欠陥の原因となるだけでなく、シャドウマスク用途ではエッチング不良を、またリードフレーム用途では打抜き断面の不均質化をもたらす非延伸性の非金属介在物の個数割合を低減するため、製鋼段階での製造条件に限定することなく、特に、スラブの均質化熱処理条件をも含めて検討を重ねた。その結果、非金属介在物は、均質化熱処理を適正条件で施すことで変質することでき、したがって、非延伸性の介在物を含む非金属介在物の個数を低減し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、Si:0.001〜0.2mass%、Mn:0.1〜0.7mass%、Ni:30〜45mass%、Al:0.0001〜0.005mass%、Ca:0.00005〜0.001mass%、Mg:0.00005〜0.001mass%、Cr:0.1mass%以下、O:0.0005〜0.007mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、MgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成からなる非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数が、スラブ内の全介在物個数の20%以下であるFe−Ni合金スラブである。
【0010】
本発明の上記Fe−Ni合金スラブ内の非金属介在物は、MnO−SiO−Al−CaO−MgO系であり、その平均組成はMnO:20〜40mass%、SiO:45〜55mass%、Al:5〜15mass%、CaO:1〜10mass%で、かつそれら各酸化物の組成の総和が100mass%であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、Ni:30〜45mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するFe−Ni合金スラブの製造方法において、上記Fe−Ni合金スラブに、1100〜1375℃の温度で、下記式;
Ni=(D・t)1/2 (μm)
ここで、D:拡散係数(=D×exp(−Q/RT))
:振動数項(=1.63×10(μm・s−1))
Q:γ−Fe中におけるNi拡散の活性化エネルギー(=2.79×10(J・mol−1))
R:気体定数(=8.31(J・mol−1・K−1))
T:温度(K)
t:焼鈍時間(s)
で得られるNiの拡散距離DNiが39μm以上となる均質化熱処理を施して、スラブ内のMgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成からなる非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数をスラブ内の全介在物個数の20%以下に低減することを特徴とするFe−Ni合金スラブの製造方法を提案する。
【0012】
本発明の製造方法における上記Fe−Ni合金スラブは、上記Niに加えてさらに、Si:0.001〜0.2mass%、Mn:0.1〜0.7mass%、Al:0.0001〜0.005mass%、Ca:0.00005〜0.001mass%、Mg:0.00005〜0.001mass%、Cr:0.1mass%以下、O:0.0005〜0.007mass%を含有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の製造方法における上記Fe−Niスラブの均質化熱処理後の非金属介在物は、MnO−SiO−Al−CaO−MgO系であり、その平均組成はMnO:20〜40mass%、SiO:45〜55mass%、Al:5〜15mass%、CaO:1〜10mass%、MgO:1〜10mass%で、かつそれら各酸化物の組成の総和が100mass%であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の製造方法における上記Fe−Niスラブの均質化熱処理前の非金属介在物は、MnO−SiO−Al−CaO−MgO系であり、その平均組成はMnO:0.5〜20mass%、SiO:10〜45mass%、Al:20〜60mass%、CaO:1〜20mass%、MgO:5〜30mass%で、かつそれら各酸化物の組成の総和が100mass%であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の製造方法における上記Fe−Ni合金スラブは、Niを30〜45mass%含有する合金溶湯に、AOD処理、VOD処理およびAOD−VOD処理のうちのいずれかの処理を施してSi脱酸およびMn脱酸後、CaO/SiO:1〜6、Al:0.5〜10mass%、MgO:2〜20mass%、F:1〜15mass%からなるCaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを用いて溶製したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非延伸性の介在物を含む非金属介在物の個数割合が低く、かつ、表面性状に優れる冷延製品板を製造することができるFe−Ni合金スラブを提供することができる。したがって、本発明のFe−Ni合金スラブを用いることにより、表面品質のみならず、内部品質にも優れたシャドウマスクやリードフレームを安定して、かつ、安価に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係るFe−Ni合金スラブの成分組成について説明する。
Ni:30〜45mass%
Niは、Fe合金の熱膨張特性に大きく影響を及ぼす元素であることが知られており、例えば、Ni含有量が36mass%近傍においては、室温での熱膨張係数が極小値(〜1×10−6/℃)を示す。そこで、Fe−Ni合金は、この低熱膨張特性を活かして、シャドウマスクやバイメタルなどの熱膨張を嫌う用途に多く用いられている。また、Niが42mass%近傍では、ガラスやセラミックスの熱膨張係数(〜4×10−6/℃)に近い値となることから、ガラス封着剤やリードフレーム材としても用いられている。このような要求特性を満たす必要性から、本発明のFe−Ni合金は、Niの含有量を30〜45mass%の範囲とする。
【0018】
本発明のFe−Ni合金スラブは、上記Ni以外の残部は、Feおよび不可避的不純物であるが、以下の成分を含有するのが好ましい。
Si:0.001〜0.2mass%
Siは、溶鋼の脱酸に必要な元素であると共に、非金属介在物をMnO−SiO−Al−CaO−MgO系に制御するのに必要な元素である。Siが0.001mass%未満では脱酸不足となり、また、介在物をMnO−SiO−Al−CaO−MgO系に制御できなくなって、均質化熱処理後の非延伸性の介在物を含む非金属介在物の個数割合を全介在物個数の20%以下に低減することが難しくなる。一方、0.2mass%を超えて添加すると、熱膨張率が大きくなって要求特性に応えられなくなる。よって、本発明のスラブでは、Siの含有量を0.001〜0.2mass%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは、0.01〜0.19mass%の範囲である。
なお、Si添加に用いるSi源としては、不純物元素の混入防止および製造原価低減の観点から、金属SiやFeSi合金を用いるのが好ましい。
【0019】
Mn:0.1〜0.7mass%
Mnは、非金属介在物の組成を制御するのに必要な元素であり、0.1mass%未満ではMnO−SiO−Al−CaO−MgO系に制御することができなくなる。一方、Mnは、熱膨張率を高める元素でもあり、0.7mass%を超えると熱膨張率が大きくなり過ぎて、要求特性を満たすことができなくなる。そこで、本発明では、Mnの含有量を0.1〜0.7mass%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは0.01〜0.4mass%の範囲である。
なお、Mn添加に用いるMn源としては、不純物元素の混入防止および製造原価低減の観点から、金属MnやSiMnを用いるのが好ましい。
【0020】
Al:0.0001〜0.005mass%
Alは、非金属介在物の組成をMnO−SiO−Al−CaO−MgO系に制御するために必要な元素であり、0.0001mass%未満では、均質化熱処理後に生成するMnO−MgO−SiO系シリケート組成の非延伸性介在物の個数割合を20%以下に制御できなくなる。一方、過剰に添加すると、硬質で延伸性に乏しいスピネル系介在物を生成し、表面疵の原因ともなる。特に、0.005mass%を超えると、均質化熱処理前および熱処理後の介在物をMnO−SiO−Al−CaO−MgO系に制御できなくなる。そこで、本発明では、Alを0.0001〜0.005mass%の範囲で含有させるのが好ましい。より好ましくは0.0005〜0.003mass%の範囲である。
なお、Alの含有量の制御に用いるAl源としては、金属Alを用いてもよいが、介在物組成制御の観点から、好ましくは、Alを0.1〜2mass%含有するFeSi合金を用いるのが好ましい。
【0021】
Ca:0.00005〜0.001mass%
Caは、非金属介在物をMnO−SiO−Al−CaO−MgO系に制御するために必要な元素であり、0.00005mass%以上含有させるのが好ましい。しかし、Caは、0.001mass%を超えて添加すると、介在物中のCaO濃度を上昇させて、耐食性、エッチング加工性に悪影響を与える。よって、本発明では、Caの含有量は0.00005〜0.001mass%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは、0.00005〜0.0009mass%の範囲である。
なお、Caの含有量の制御に用いるCa源としては、Ca歩留まり安定化の観点から、Caを0.1〜2mass%含有するFeSi合金を用いるのが好ましい。
【0022】
Mg:0.00005〜0.001mass%
Mgは、非金属介在物をMnO−SiO−Al−CaO−MgO系に制御するために必要な元素であり、0.00005mass%以上含有させることが好ましい。しかし、必要以上に添加すると、延伸性に乏しく硬質なスピネル系介在物を生成して表面疵の発生原因ともなる。また、Ca含有量が0.001mass%を超えると、均質化熱処理後に生成されるMgO・Alスピネル組成を有する非延伸性介在物の個数割合を20%以下に制御できなくなる。よって、本発明では、Mgの含有量を0.00005〜0.001mass%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは、0.00005〜0.0009mass%の範囲である。
【0023】
ここで、Mg含有量の上記範囲への制御は、金属Mgの添加による方法ではなく、Siがスラグ中のMgOを還元する下記の反応を用いて行うのが好ましい。
Si+2(MgO)=(SiO)+2Mg
ここで、括弧内はスラグ中の成分を、下線部は溶鋼中の成分を示す。
なお、スラグ中のMgOを還元する上記反応は、Si濃度を上述した本発明の範囲に制御することで達成でき、これにより、適量のMgを溶鋼中に供給することができる。
【0024】
Cr:0.1mass%以下
Crは、熱膨張率を上げる元素であり、できるだけ低減するのが望ましい。このような観点から、Crの含有量は0.1mass%以下とする。より好ましくは、0.09mass%以下である。
【0025】
O:0.0005〜0.007mass%
Fe−Ni合金中に存在するOには、合金中に固溶した状態で存在する酸素と、酸化物からなる非金属介在物として存在する酸素とがあり、通常、この両者の和を酸素含有量としている。本発明でも、両者の和を酸素含有量と規定し、その範囲を0.0005〜0.007mass%に制限する。Oの含有量が0.0005mass%よりも低いと、溶鋼中のMg含有量が0.001mass%を超えて高くなり、Fe−Ni合金中の非金属介在物は、硬質のMgO・Alスピネルが主体となる。そのため、均質化熱処理前のFe−Ni合金スラブ中の非金属介在物をMnO−SiO−Al−CaO−MgO系に制御できなくなる。一方、Oの含有量が0.007mass%を超えると、脱酸不足となり、均質化熱処理前および熱処理後の非金属介在物をMnO−SiO−Al−CaO−MgO系に制御できなくなる。そこで、本発明では、Oの含有量を0.0005〜0.007mass%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは0.001〜0.005mass%の範囲である。
なお、酸素含有量を上記範囲に制御するには、脱酸剤であるSiおよびMnの含有量を、上述した本発明の範囲に制御することで達成できる。上記Si,Mn含有量の制御に加えてさらに、スラグの塩基度(CaO/SiO:スラグ中のCaOとSiOのmass%比)を1〜6の範囲に制御するのがより好ましい。
【0026】
次に、本発明のFe−Ni合金スラブに含まれる非金属介在物について説明する。
均質化熱処理前の非金属介在物
均質化熱処理前のFe−Ni合金スラブに含まれる非金属介在物は、MnO−SiO−Al−CaO−MgO系であり、かつ、その平均組成は、MnO:5〜20mass%、SiO:10〜45mass%、Al:20〜60mass%、CaO:1〜20mass%、MgO:5〜30mass%で、かつそれら各酸化物の組成の総和が100mass%であるのが好ましい。
以下、その限定理由について説明する。
【0027】
MnO:0.5〜20mass%
均質化熱処理前の介在物中のMnOは、0.5〜20mass%の範囲であるのが好ましい。MnOが0.5mass%未満あるいは20mass%を超えると、均質化熱処理後の非金属介在物中のMnOを平均組成で20〜40mass%の範囲に制御できなくなる。また、MgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合を20%以下まで低減することができないからである。
【0028】
SiO:10〜45mass%
均質化熱処理前の介在物中のSiOは、10〜45mass%の範囲であるのが好ましい。SiOが10mass%未満では、均質化熱処理後のMgO・Alスピネル組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合を20%以下まで低減できない。一方、45mass%を超えると、均質化熱処理後のMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合を20%以下まで低減することができない。さらに、SiOが10mass%未満あるいは45mass%を超えると、均質化熱処理後の非金属介在物中のSiOを平均組成で45〜55mass%の範囲に制御することができないからである。
【0029】
Al:20〜60mass%
均質化熱処理前の介在物中のAlは、20〜60mass%の範囲であるのが好ましい。Alが20mass%未満では、均質化熱処理後のMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合を20%以下まで低減できない。一方、60mass%を超えると、均質化熱処理後のMgO・Alスピネル組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合を20%以下まで低減することができない。また、Alが20mass%未満あるいは60mass%を超えると、均質化熱処理後の非金属介在物中のAlを、平均組成で5〜15mass%の範囲に制御することができないからである。
【0030】
CaO:1〜20mass%
均質化熱処理前の介在物中のCaOは、平均組成で1〜20mass%の範囲であるのが好ましい。CaOが1mass%未満あるいは20mass%を超えると、均質化熱処理後の非金属介在物中のCaOを平均組成で1〜10mass%の範囲に制御することができないからである。
【0031】
MgO:5〜30mass%
均質化熱処理前の介在物中のMgOは、平均組成で5〜30mass%の範囲であるのが好ましい。MgOが5mass%未満あるいは30mass%を超えると、均質化熱処理後のMgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合を20%以下に低減できない。また、均質化熱処理後の非金属介在物中のMgOを平均組成で1〜10mass%の範囲に制御することができないからである。
【0032】
なお、均質化熱処理前の介在物中のMnO、SiO、Al、CaOおよびMgOの平均組成をそれぞれ上記範囲に制御するには、溶鋼中のMn,Si,Al,CaおよびMgの組成を、それぞれ本発明が規定する範囲内に制御すればよい。
【0033】
均質化熱処理前の非金属介在物における非延伸性介在物を含む個数割合
均質化熱処理前のFe−Niスラブに含まれる非金属介在物は、MnO−SiO−Al−CaO−MgO系であり、かつ、その平均組成がMnO:5〜20mass%、SiO:10〜45mass%、Al:20〜60mass%、CaO:1〜20mass%、MgO:5〜30mass%からなるものであればよく、たとえ、MgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合が100%であったとしても、後述する均質化熱処理を施すことで、非延伸性の介在物を、延伸性のある介在物に変質させて無害化することができる。
【0034】
ここで、本発明において、非金属介在物のうちのMgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合とは、スラブ中に存在する大きさが3〜100μmの非金属介在物をランダムに抽出してEDS分析を行ったときに、個々の非金属介在物中に、MgO・Alスピネルおよび/またはMnO−MgO−SiOシリケートからなる結晶相が晶出している非金属介在物の個数を、測定した介在物の全個数に対する割合として規定したものである。なお、上記測定する介在物個数は多いほどよく、7個以上が好ましい。より好ましくは、10個以上、さらに好ましくは20個以上である。
【0035】
均質化熱処理後の非金属介在物の平均組成
次に、均質化熱処理後のFe−Ni合金スラブに含まれる非金属介在物は、MnO−SiO−Al−CaO−MgO系であり、かつ、その平均組成は、MnO:20〜40mass%、SiO:45〜55mass%、Al:5〜15mass%、CaO:1〜10mass%、MgO:1〜10mass%で、かつそれら各酸化物の組成の総和が100mass%であるのが好ましい。
以下、その限定理由について説明する。
【0036】
MnO:20〜40mass%
均質化熱処理後の介在物中のMnOは、20〜40mass%の範囲であるのが好ましい。MnOが20mass%未満あるいは40mass%を超えると、介在物の融点が上昇し、延伸性に欠ける非金属介在物となるため、最終製品板において、介在物起因の欠陥が顕著に発生するようになる。よって、MnOの含有量は20〜40mass%の範囲とするのが好ましい。
【0037】
SiO:45〜55mass%
均質化熱処理後の介在物中のSiOは、45〜55mass%の範囲であるのが好ましい。SiOが45mass%未満あるいは55mass%を超えると、介在物の融点が上昇し、延伸性に欠ける非金属介在物となるため、最終製品板において、介在物起因の欠陥が顕著に発生するようになる。よって、SiOの含有量は45〜55mass%の範囲とするのが好ましい。
【0038】
Al:5〜15mass%
均質化熱処理後の介在物中のAlは、5〜15mass%の範囲であるのが好ましい。Alが5mass%未満あるいは15mass%を超えると、介在物の融点が上昇し、延伸性に欠けた非金属介在物となり、最終製品板において介在物起因の欠陥をもたらす。また、Alが5mass%未満では、均質化熱処理後のFe−Ni合金スラブに含まれるMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合を20%以下まで低減できない。よって、Alの含有量は5〜15mass%の範囲とするのが好ましい。
【0039】
CaO:1〜10mass%
均質化熱処理後の介在物中のCaOは、1〜10mass%の範囲であるのが好ましい。CaOが1mass%未満あるいは10mass%を超えると、介在物の融点が上昇し、延伸性に欠けた非金属介在物となるため、最終製品において介在物起因の欠陥をもたらす。よって、CaOの含有量は1〜10mass%の範囲とするのが好ましい。
【0040】
MgO:1〜10mass%
均質化熱処理後の介在物中のMgOは、1〜10mass%の範囲であるのが好ましい。MgOが1mass%未満あるいは10mass%を超えると、介在物の融点が上昇し、延伸性に欠けた非金属介在物となるため、最終製品において介在物起因の欠陥をもたらす。また、MgOが10mass%を超えると、均質化熱処理後のFe−Ni合金スラブに含まれるMgO・Alスピネル組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合を20%以下まで低減できない。よって、MgOの含有量は1〜10mass%の範囲が好ましい。
【0041】
なお、均質化熱処理後の介在物組成をMnO−SiO−Al−CaO−MgO系の介在物とし、かつ、その平均組成を上記範囲に制御するには、溶鋼中におけるそれぞれの成分の組成を、本発明の範囲に制御した上で、さらに、以下の説明する均質化熱処理条件を満たすことで達成することができる。
【0042】
均質化熱処理後に非延伸性非金属介在物を含む非金属介在物の個数割合:20%以下
さらに、均質化熱処理後のFe−Ni合金スラブに含まれる非金属介在物は、MgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合が20%であることが必要である。上記個数割合が20%を超えると、最終製品において、非延伸性の非金属介在物に起因する欠陥の発生が顕著となる。上記個数割合は、好ましくは10%以下、さらに好ましくは0%である。
なお、上記個数割合の定義は、均質化熱処理前の非金属介在物の個数割合と同じ、EDSで分析を行った個数に対する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合である。
【0043】
次に、本発明の特徴である、非金属介在物中に含まれる非延伸性介在物の個数割合を低減させるための均質化熱処理について説明する。
Niの拡散距離:DNi≧39μm
連続鋳造等で製造されたFe−Ni合金スラブに、下記式;
Ni=(D・t)1/2 (μm)
ここで、D:拡散係数(=D×exp(−Q/RT))
:振動数項(=1.63×10(m・s−1))
Q:γ−Fe中におけるNi拡散の活性化エネルギー(=2.79×10(J・mol−1))
R:気体定数(=8.31(J・mol−1・K−1))
T:温度(K)
t:焼鈍時間(s)
定義されるNiの拡散距離DNiが39μm以上となる均質化熱処理を施すことによって、介在物を変質させて、非金属介在物中に含まれる非延伸性の介在物の個数割合を低減させることができる。すなわち、DNiが39μm未満の均質化熱処理では、MgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性の介在物を含む非金属介在物の個数を、全介在物個数の20%以下に低減することができない。
【0044】
次に、上記DNi≧39μmとするための均質化熱処理温度、時間について説明する。
均熱温度:1100〜1375℃
本発明において、非延伸性の非金属介在物の個数割合を低減させるために、熱間圧延する前のFe−Ni合金スラブに施す均質化熱処理は、均熱温度が1100〜1375℃の範囲のものであるのが好ましい。均熱温度が1100℃未満では、非金属介在物のうちのMgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合を20%以下に低減させるのに必要なDNi:39μm以上を実現するのに要する時間が長時間となり、工業的に製造することは難しい。一方、均熱温度が1375℃を超えると、スラブが熱で変形して圧延を行うことができなくなる。よって、均熱温度は1100〜1375℃の範囲とする。因みに、DNi=39μmを達成するために所要時間は、1100℃で108時間、1375℃で2時間である。
【0045】
次に、本発明におけるFe−Ni合金スラブの製造方法について説明する。
高清浄度のFe−Ni合金スラブを製造するには、Fe−Ni合金の溶製は、溶解を電気炉で行い、その後、AOD炉、VOD炉あるいはAOD炉−VOD炉のいずれかでSiおよびMnを添加して脱酸処理後、Niを30〜45mass%含有する所定の成分組成を有する溶湯に成分調整するのが好ましい。そのときに用いるスラグは、塩基度(CaO/SiO):1〜6、Al:2〜10mass%、MgO:2〜20mass%、F:2〜10mass%のCaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを用いるのが好ましい。その後、その合金溶湯を、鋳型に鋳造して造塊後、分塊圧延(あるいは鍛造)するか、あるいは、連続鋳造機で連続鋳造して、厚さが100〜200mmのスラブとするのが好ましい。上記のようにして得たスラブは、その後、加熱炉でNiの拡散距離DNiが39μm以上となる均質化熱処理を施すことで、非金属介在物中に含まれる非延伸性の介在物の個数割合が低減されたFe−Ni合金スラブが得られる。なお、スラブを造塊法で製造する場合には、分塊圧延あるいは鍛造前の鋼塊加熱の段階で、上記均質化熱処理を施してもよい。
【0046】
次に、上記Fe−Ni合金の溶製において用いるスラグについて説明する。
CaO/SiO:1〜6
AOD炉およびVOD炉で用いるスラグの塩基度(CaO/SiO)を制御することは、溶鋼成分および非金属介在物の成分系を調整するのに有効な手段である。この(CaO/SiO)が1未満では、SiOの活量が大きくて脱酸が不十分となり、一方、6を超えると、SiOの活量が著しく小さくなり、溶鋼中の酸素ポテンシャルが低くなり過ぎて、スラグから還元されるAl,Ca,Mgが増えるため、溶鋼成分を本発明の範囲に制御することができなくなる。また、非金属介在物の成分も、(CaO/SiO)が1未満では脱酸不足のため、一方、6を超えると酸素ポテンシャルの著しい低下によりAl,Ca,Mgの酸化物成分に富んだ介在物となるため、本発明の均質化熱処理前の介在物組成に制御することができなくなる。よって、本発明においては、スラグ成分は塩基度(CaO/SiO)を1〜6の範囲に制限するのが好ましい。
【0047】
Al:0.5〜10mass%
スラグ中に含まれるAlは、均質化熱処理前および熱処理後の非金属介在物を、MnO−SiO−Al−CaO−MgO系に制御するのに有用な成分ある。しかし、Alが0.5mass%未満あるいは10mass%を超えると、介在物中のAlを20〜60mass%の範囲に制御できなくなる。また、10mass%を超えるとアルミナ介在物が生成し、これはクラスター化しやすいため、表面疵の原因ともなる。従って、スラグ中のAlは0.5〜10mass%の範囲とするのが好ましい。
【0048】
MgO:2〜20mass%
スラグ中のMgOは、均質化熱処理前および熱処理後の非金属介在物を、MnO−SiO−Al−CaO−MgO系に制御するのに有用な成分あり、MgOが2mass%未満あるいは20mass%を超えると、介在物中のMgOを5〜30mass%の範囲に制御できなくなる。よって、スラグ中のMgOは2〜20mass%の範囲とするのが好ましい。
【0049】
F:1〜15mass%
スラグ中のFは、スラグの滓化および流動性を確保するために有効な成分であり、1〜15mass%の範囲で含有していることが好ましい。Fが1mass%未満では、スラグの滓化がなされないため、溶鋼との反応が不十分となり、本発明に係る溶鋼成分とすることができなくなる。一方、Fが15mass%を超えると、スラグの粘性が著しく低下し、抜熱量の増大による安定操業が困難となる。
【実施例】
【0050】
スクラップやNiなどのFe−Ni合金の原料を60ton電気炉で溶解し、次いで、AOD処理、VOD処理およびAOD→VOD処理のいずれかの処理により脱炭、脱燐、脱クロム等を伴う酸化精錬を行い、表1のNo.1〜16に示す成分組成を有するFe−Ni合金を溶製した。なお、上記AOD処理あるいはVOD処理においては、酸化期のスラグを除去したのち、石灰石、螢石および珪砂のうちの1種または2種以上をフラックスとして添加し、スラグ成分を表1に示した塩基度(CaO/SiO)、Al、MgOに調整したのち、Si合金鉄を添加して溶鋼を脱酸した後、取鍋精錬装置で表1の成分組成となるよう溶鋼の微量成分の調整および温度調整を行った。
【0051】
上記のようにして溶製したFe−Ni合金は、その後、連続鋳造してスラブとし、表1に示した温度、時間の条件で、均質化熱処理を施した。なお、上記Fe−Ni合金の一部は、造塊後、分塊圧延または鍛造してスラブとしたが、その場合は、加熱炉で鋳塊を表1に示した温度、時間で加熱することにより均質化熱処理を施した。その後、上記スラブを、熱間圧延し、冷間圧延して最終製品の冷延板とし、冷延板の表面に発生した表面欠陥の有無を調査した。
なお、上記調査においては、Fe−Ni合金の成分組成およびスラグ組成の分析は、蛍光X線分析により定量分析した。また、一部の合金に記載される0.0001mass%未満のCa,Mgの分析値は、SIMS(二次イオン質量分析計)および鉄分離式フレームレス原子吸光法により測定したものである。
また、均質化熱処理前後の非金属介在物の組成は、EDS(エネルギ−分散型分析装置)を用いて、Fe−Ni合金スラブ中に存在する3〜100μmの大きさの介在物をランダムに10箇所ずつ定量分析して、その平均組成を非金属介在物の組成とした。
また、非金属介在物中の非延伸性介在物の個数割合は、EDS分析した上記非金属介在物10箇所のうちで、MgO・AlやMnO−MgO−SiOシリケートの存在が確認された介在物の個数をから求めた。
【0052】
【表1】

【0053】
上記測定の結果を表2にまとめて示した。表2から、本発明に適合するFe−Ni合金スラブ(No.1〜10)は、スラブ内に含まれる均質化熱処理前の非金属介在物が、平均組成がMnO:0.5〜20mass%、SiO:10〜45mass%、Al:20〜60mass%、CaO:1〜20mass%、MgO:5〜30mass%からなるMnO−SiO−Al−CaO−MgO系であり、DNiが39μm以上となる均質化熱処理を施した後の非金属介在物は、その平均組成がMnO:20〜40mass%、SiO:45〜55mass%、Al:5〜15mass%、CaO:1〜10mass%、MgO:1〜10mass%からなるMnO−SiO−Al−CaO−MgO系であり、かつ、そのうちのMgO・Alスピネル組成とMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合は全介在物の20%以下となっている。その結果、上記均質化熱処理後のスラブを、熱間圧延し、冷間圧延しても、表面疵のない表面品質に優れたFe−Ni合金冷延板を得ることができる。
なお、No.17および18の合金スラブは、均質化熱処理前の非金属介在物が本発明の範囲内でも、均質化熱処理条件が不適切であったために、所期した効果を得ることができなかった場合について示したものであり、No.17は均熱温度が低すぎてDNi不足である例、No.18は均熱温度が1400℃と高過ぎたため、熱間圧延をすることができなかった例である。
【0054】
なお、図1は、発明例のスラブ内の非金属介在物中の元素分布を、均質化熱処理前後で比較したものである。この図から、均質化熱処理後には、MgやAl,Si,Mnが介在物中に均一に分布し、非延伸性の介在物が延伸性の介在物に変質していることがわかる。
【0055】
一方、非金属介在物がMnO−SiO−Al−CaO−MgO系でも、使用したスラグが不適切であったため、均質化熱処理前の介在物の平均組成が、MnO:0.5〜20mass%、SiO:10〜45mass%、Al:20〜60mass%、CaO:1〜20mass%、MgO:5〜30mass%の範囲から逸脱した比較例のスラブ(No.11〜16)では、たとえDNiが39μm以上となる均質化熱処理を施しても、スラブ内に含まれる非金属介在物は、その平均組成がMnO:20〜40mass%、SiO:45〜55mass%、Al:5〜15mass%、CaO:1〜10mass%、MgO:1〜10mass%の範囲から逸脱したMnO−SiO−Al−CaO−MgO系となり、さらに、MgO・Alスピネル組成およびMnO−MgO−SiOシリケート組成を有する非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数割合が20%超検出されている。そして、このような介在物を含むFe−Ni合金スラブから得られる冷延板は、表面疵が顕著に発生し、表面品質の良好な製品板を得ることができなかった。
【0056】
図2は、比較例のスラブ内の非金属介在物中の元素分布を、均質化熱処理前後で比較したものである。この図から、比較例の場合には、均質化熱処理後においても、MgやAl,Si,Mnが介在物中に不均一に分布し、非延伸性の介在物のままであることがわかる。
【0057】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の技術は、シャドウマスクやリードフレーム等に用いられるFe−Ni合金に限定されるものではなく、磁気ヘッドやシールドケース材等に用いられる軟磁性材料や、表面性状に優れたステンレス鋼板等のスラブにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明例のFe−Ni合金スラブに含まれる非金属介在物の元素分布図であり、上段が均質化熱処理前、下段が均質化熱処理後である。
【図2】比較例のFe−Ni合金スラブに含まれる非金属介在物の元素分布図であり、上段が均質化熱処理前、下段が均質化熱処理後である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0060】
【特許文献1】特開平07−292409号公報
【特許文献2】特開平06−041687号公報
【特許文献3】特開2003−073779号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.001〜0.2mass%、Mn:0.1〜0.7mass%、Ni:30〜45mass%、Al:0.0001〜0.005mass%、Ca:0.00005〜0.001mass%、Mg:0.00005〜0.001mass%、Cr:0.1mass%以下、O:0.0005〜0.007mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、MgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成からなる非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数が、スラブ内の全介在物個数の20%以下であるFe−Ni合金スラブ。
【請求項2】
上記Fe−Ni合金スラブ内の非金属介在物は、MnO−SiO−Al−CaO−MgO系であり、その平均組成はMnO:20〜40mass%、SiO:45〜55mass%、Al:5〜15mass%、CaO:1〜10mass%、MgO:1〜10mass%で、かつそれら各酸化物の組成の総和が100mass%であることを特徴とする請求項1に記載のFe−Ni合金スラブ。
【請求項3】
Ni:30〜45mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するFe−Ni合金スラブの製造方法において、上記Fe−Ni合金スラブに、1100〜1375℃の温度で、下記式で得られるNiの拡散距離DNiが39μm以上となる均質化熱処理を施して、スラブ内のMgO・Alスピネル組成および/またはMnO−MgO−SiOシリケート組成からなる非延伸性介在物を含む非金属介在物の個数をスラブ内の全介在物個数の20%以下に低減することを特徴とするFe−Ni合金スラブの製造方法。

Ni=(D・t)1/2 (μm)
ここで、D:拡散係数(=D×exp(−Q/RT))
:振動数項(=1.63×10(μm・s−1))
Q:γ−Fe中におけるNi拡散の活性化エネルギー(=2.79×10(J・mol−1))
R:気体定数(=8.31(J・mol−1・K−1))
T:温度(K)
t:焼鈍時間(s)
【請求項4】
上記Fe−Ni合金スラブは、上記Niに加えてさらに、Si:0.001〜0.2mass%、Mn:0.1〜0.7mass%、Al:0.0001〜0.005mass%、Ca:0.00005〜0.001mass%、Mg:0.00005〜0.001mass%、Cr:0.1mass%以下、O:0.0005〜0.007mass%を含有することを特徴とする請求項3に記載のFe−Ni合金スラブの製造方法。
【請求項5】
上記Fe−Niスラブの均質化熱処理後の非金属介在物は、MnO−SiO−Al−CaO−MgO系であり、その平均組成はMnO:20〜40mass%、SiO:45〜55mass%、Al:5〜15mass%、CaO:1〜10mass%、MgO:1〜10mass%で、かつそれら各酸化物の組成の総和が100mass%であることを特徴とする請求項3または4に記載のFe−Ni合金スラブの製造方法。
【請求項6】
上記Fe−Niスラブの均質化熱処理前の非金属介在物は、MnO−SiO−Al−CaO−MgO系であり、その平均組成はMnO:0.5〜20mass%、SiO:10〜45mass%、Al:20〜60mass%、CaO:1〜20mass%、MgO:5〜30mass%で、かつそれら各酸化物の組成の総和が100mass%であることを特徴とする請求項3〜5に記載のFe−Ni合金スラブの製造方法。
【請求項7】
上記Fe−Ni合金スラブは、Niを30〜45mass%含有する合金溶湯に、AOD処理、VOD処理およびAOD−VOD処理のうちのいずれかの処理を施してSi脱酸およびMn脱酸後、CaO/SiO:1〜6、Al:0.5〜10mass%、MgO:2〜20mass%、F:1〜15mass%からなるCaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを用いて溶製したものであることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載のFe−Ni合金スラブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−159437(P2010−159437A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−495(P2009−495)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000232793)日本冶金工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】