説明

G6PC2コードβ細胞表面タグ

本発明は、G6PC2コードβ細胞表面マーカー、ならびに完全に分化したβ細胞を含む培養細胞を同定し、得る方法に関する。このような細胞を選別する方法、単離細胞およびその組成物も企図されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、G6PC2によってコードされる膵島特異的グルコース-6-リン酸触媒サブユニット関連タンパク質(IGRP)の細胞外部分であり、完全に分化した膵内分泌β細胞の表現型を有する特定の細胞サブセットの選択および定量を可能にする、選択的細胞表面マーカーに関する。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグはスプライス変異体である。その配列ならびに完全に分化したβ細胞を含む組成物、細胞培養物および細胞集団もまた、完全に分化したβ細胞を生産する方法や完全に分化したβ細胞を検出する方法と共に企図されている。
【背景技術】
【0002】
β細胞の移植は、1型糖尿病治療を改善することが非常に期待されているが、まず多くの障害を克服する必要がある。これら障害の中でも、利用できるドナー膵島の不足が挙げられる。胚性幹(ES)細胞由来のβ細胞は、原理的には無限の数の移植用β細胞を供給できるが、十分に機能的なβ細胞を作製するための確実なプロトコルはまだ開発されていない。胚性幹細胞から胚体内胚葉(DE)細胞の形成は、例えば国際公開第2005/116073号、国際公開第2005/063971号および米国特許出願公開第2006/0148081号において、マウスおよびヒトES細胞の両方で報告されている。例えばDE細胞から膵臓内胚葉(PE)細胞の効率的な作製は、糖尿病治療のためのインスリン産生β細胞の作製に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/116073号
【特許文献2】国際公開第2005/063971号
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0148081号
【特許文献4】国際公開第2004001008号
【特許文献5】米国特許第5,830,741号
【特許文献6】米国特許第5,753,485号
【特許文献7】米国特許第5,739,033号
【特許文献8】米国特許第5,762,959号
【特許文献9】米国特許第5,550,178号
【特許文献10】米国特許第5,578,314号
【特許文献11】国際出願PCT/US02/41616号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】D'Amour, K. A.ら(2006)、Nat Biotechnol 24、1392-401
【非特許文献2】Jiang, J.ら(2007)、Stem Cells 25、1940-53
【非特許文献3】Kroon, E.ら(2008)、Nat Biotechnol、2008 Feb 20、[印刷前Epub]
【非特許文献4】Aoi, T.ら(2008)、Science、2008 Feb 14、[印刷前Epub]
【非特許文献5】Takahashi, K.ら(2007)、Cell 131、861-72
【非特許文献6】Takahashi, K.およびYamanaka、S.(2006)、Cell 126、663-76
【非特許文献7】Wernig, M.ら(2007)、Nature 448、318-24
【非特許文献8】Current Protocols in Molecular Biology (Ausubelら、eds. 2001 supplement)
【非特許文献9】HarlowおよびLane、Using Antibodies: A Laboratory Manual、ニューヨーク: Cold Spring Harbor Laboratory Press (1998)
【非特許文献10】Hollingsworth、Ann N YAcad Sci 880:38-49(1999)
【非特許文献11】Zhouら、J Biol Chem 272:25648-51(1997)
【非特許文献12】Heimberg, H.ら(2000)、Diabetes 49、571-9
【非特許文献13】Heremans, Y.ら(2002)、J Cell Biol 159、303-12
【非特許文献14】Miralles, F.ら(1998)、Development 125、1017-24
【非特許文献15】Miralles, F.ら(1999)、Dev Dyn 214、116-26
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【非特許文献20】Peckら、Ann Med 33:186-92 (2001)
【非特許文献21】Carlssonら、Ups J Med Sci 105 (2):107-23 (2000)
【非特許文献22】Kuhtreiber, WM、Cell Encapsulation Technology and Therapeutics、Birkhauser、ボストン、1999
【非特許文献23】Soon-Shiong, P.ら、PNAS USA 90:5843-5847 (1993)
【非特許文献24】Soon-Shiong, P.ら、La71cet 343:950-951 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
完全に分化した膵島細胞を培養する試みにおいて、その目的は従来から、膵β細胞または膵島に分化することのできる膵内分泌前前駆細胞(pre-progenitor cell)を含む膵細胞を単離することであった。外分泌系列から膵内分泌系列を単離する際の重要な1ステップは、膵内分泌前前駆細胞および/またはその後代に特異的で認識可能な細胞マーカー、特に成熟インスリン産生β細胞に特異的なマーカーを同定することであろう。細胞内および細胞外マーカーの両方がこの目的のために研究された。細胞内マーカー、特に完全に分化した島細胞に発達する胚性膵細胞で検出された転写因子が、前駆体マーカーとして広範に研究された。例えばPdx-1、Ngn3、Pax6およびIsl-1などの転写因子が研究された。これらは胚発生において膵内分泌細胞になるようプログラムされた細胞で発現する。しかし、これらマーカーの発現解析は、細胞を死滅させるか、または細胞内にレポーター遺伝子を導入するための遺伝子工学によって細胞を永続的に修飾することを必要とするため、これら細胞内マーカーは細胞外マーカーよりも実用的価値が小さい。
【0006】
細胞外マーカーは、同定されると、マーカーを発現している細胞を無菌条件下で選別でき、細胞が生存しているという利点をもたらす。Ep-CAMやインテグリンなど、上皮細胞接着分子が膵島前駆体マーカーとして研究されてきた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態において、本発明は、G6PC2によってコードされる単離ペプチドであって、前記ペプチドがMDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYTFLNFMSNVGDPRNIFFIYFPLCFQFNQTVGTKMIWVAVIGDWLNLIFKWKSIWPCNGRILCLVCHGNRCPEPHCLWDGでない場合、i)細胞外部分と、ii)G6PC2の1個または複数のエクソンにおける欠失とを含むペプチドに関する。一実施形態において、本発明は、G6PC2によってコードされる単離ペプチドであって、i)細胞外部分と、ii)G6PC2の1個または複数のエクソンにおける欠失とを有するペプチド、さらに前記ペプチドをコードする単離ヌクレオチドおよび前記ペプチドを発現する単離細胞に関する。一実施形態において、本発明は、完全に分化したβ細胞を同定する方法であって、膵細胞を含む細胞集団をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させるステップを含む方法に関する。
【0008】
一実施形態において、本発明は、完全に分化したβ細胞の培養物を得る方法であって、膵細胞を含む細胞集団をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させるステップと、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞の画分中の、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と結合する細胞を、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と結合しない細胞から分離するステップとを含む方法に関する。
【0009】
一実施形態において、本発明は、少なくとも1種の膵ホルモンの産生を欠損した哺乳類に膵内分泌機能を提供する方法であって、本明細書に記載の方法によって細胞が得られ、前記方法が、哺乳類において測定可能量の少なくとも1種の膵ホルモンを産生するのに十分な量の得られた細胞を哺乳類に埋め込むステップをさらに含む方法に関する。一実施形態において、前記少なくとも1種の膵ホルモンはインスリンである。一実施形態において、前記哺乳類はヒトである。
【0010】
一実施形態において、本発明は、a)細胞をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させ、b)G6PC2コードβ細胞表面タグを細胞表面マーカーとして提示する細胞(G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞)の量を決定することにより、膵細胞を含む、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞を定量する方法に関する。
【0011】
一実施形態において、本発明は、G6PC2コードβ細胞表面タグを発現している細胞(G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞)の数が定期的にモニターされる、in vitroプロトコルを最適化するための方法に関する。
【0012】
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の方法によって得られる、単離された完全に分化したβ細胞に関する。
【0013】
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の方法によって得られる、単離された完全に分化したβ細胞を含む組成物に関する。
【0014】
一実施形態において、本発明は、G6PC2コードβ細胞表面タグを細胞表面マーカーとして発現する細胞を同定または選択するための、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬の使用に関する。一実施形態において、本発明は、膵内分泌細胞の培養物を得るための、G6PC2コードβ細胞表面タグの細胞表面マーカーとしての使用に関する。一実施形態において、膵内分泌細胞の培養物を得るために、1種または複数のさらに別の細胞表面マーカーが同時にまたは連続的に使用される。一実施形態において、さらに別の細胞表面マーカーは、DNERタンパク質、DDR1タンパク質、プロミニン1(CD133としても知られる)およびCD49fからなる群から選択される。一実施形態において、さらに別の細胞表面マーカーはDNERタンパク質またはDDR1タンパク質である。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグは、IGRP全長の一部である。
【0015】
一実施形態において、本発明は、G6PC2コードβ細胞表面タグに特異的に結合する抗体に関する。
【0016】
一実施形態において、本発明は、前記G6PC2コードβ細胞表面タグは、本明細書に記載のものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】膜貫通ストレッチならびにER内腔5領域および細胞質5領域を示す、ヒト全長G6PC2コードペプチドの全体構造を表す図である。エクソン-エクソン境界はグレーの丸と矢印で示されている。活性中心を有することが予想されるアミノ酸残基は塗りつぶした黒丸で示されている。残基92〜94におけるAsnリンク糖鎖付加部位は、オリゴ糖のアクセプターとして機能する。
【図2】マウスおよびヒトG6PC2コードペプチドの全長ClustalWアライメントを示す図である。ヒトおよびマウスのタンパク質配列間の列において、同一残基はアミノ酸の一文字記号で示され、保存的置換は「+」で示され、非保存的置換は「 」、すなわちスペースで示されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
驚くべきことに、G6PC2コードエピトープ、場合によってそのスプライス変異体は、完全に分化したβ細胞の有用なマーカーを提供することが判明した。一実施形態において、G6PC2コード全長ペプチドおよび/またはその断片は、完全に分化したβ細胞の有用なマーカーを提供する。一実施形態において、G6PC2コード非全長ペプチドおよび場合によってそのスプライス変異体は、完全に分化したβ細胞の有用なマーカーを提供する。一実施形態において、非全長G6PC2コードペプチドは、このような細胞の表面に送られる。一実施形態において、本明細書に記載のG6PC2の特定のスプライス変異体におけるN末端配列は、このような細胞の表面に送られる。一実施形態において、G6PC2のあらゆる公知のスプライス変異体は、通常はER(小胞体)内腔に向かって局在する全長変異体と同一のN末端アミノ酸配列を共有する。一実施形態において、非全長スプライス変異体はER内に保持されず、細胞表面の原形質膜に最終的に存在し、その結果N末端配列はそこでβ細胞の精製タグとして機能する。
【0019】
一実施形態において、単離ペプチドは、細胞外表面に存在し、かつ/または検出可能である。一実施形態において、同定方法などの本明細書に記載の方法を使用して、細胞外表面上に存在し、かつ/または検出可能であるかを決定することができる。
【0020】
G6PC2
本明細書において、「G6PC2コードペプチド」、「膵島特異的グルコース-6-リン酸触媒サブユニット関連タンパク質」または「IGRP」は、IGRPのヒトおよびマウスを含むあらゆる哺乳類の型を意味する。一実施形態において、G6PC2は、IGRPをコードするヒト遺伝子である。IGRPは非常に限定的な内分泌β島発現を行う。IGRPは胸腺でも低レベルの発現が行われる。全長IGRPは5個のエクソンによってコードされ、ER内腔方向に向かう5タンパク質領域および細胞質方向に向かう5領域を生じる9個の膜貫通ストレッチを備えた、小胞体(ER)の膜タンパク質複合体である。図1を参照。マウスG6PC2のアミノ酸配列(配列番号2)を図2に示す。ヒトG6PC2のアミノ酸配列(配列番号1)を下に示す。図中、下線を引かれたアミノ酸はエクソン連結を示す。
1 MDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYTFLNFMSNVGDPRNIFFIYFPLCFQFNQTVGTKMIWV
61 AVIGDWLNLIFKWILFGHRPYWWVQETQIYPNHSSPCLEQFPTTCETGPGSPSGHAMGAS
121 CVWYVMVTAALSHTVCGMDKFSITLHRLTWSFLWSVFWLIQISVCISRVFIATHFPHQVI
181 LGVIGGMLVAEAFEHTPGIQTASLGTYLKTNLFLFLFAVGFYLLLRVLNIDLLWSVPIAK
241 KWCANPDWIHIDTTPFAGLVRNLGVLFGLGFAINSEMFLLSCRGGNNYTLSFRLLCALTS
301 LTILQLYHFLQIPTHEEHLFYVLSFCKSASIPLTVVAFIPYSVHMLMKQSGKKSQ
【0021】
小胞体(ER)膜タンパク質としてのG6PC2コードタンパク質は、その細胞内局在のために細胞表面マーカー候補とは認められていない。しかし、選択的mRNAプロセシングによってER保持シグナル(これはER保持シグナルとして古典的なC末端KDEL配列と比べて未定義の特性を有してもよい)の欠損を生じる可能性があり、したがってこのようなスプライス変異体は表面に送られるであろう。
【0022】
本明細書に開示されている新規データは、従来不明であったランゲルハンス島で発現するG6PC2コードスプライス変異体の同定を示す。これら変異体のいくつかは、エピトープにおける新たな一続きのアミノ酸をもたらすと共に、短縮されたタンパク質を細胞表面に送り、そこで島β細胞に特有のマーカーとして機能させるフレームシフトに関連する。一実施形態において、スプライス変異体は未変化のN末端を保持する。数種のスプライス変異体は、特定領域の細胞質から細胞外露出への変換や、ER保持シグナルの欠損、細胞表面膜における蓄積を含む、実質的な構造変化を示す。
【0023】
本発明は、IGRPのβ細胞選択的スプライス変異体によって生じたエピトープに加えてN末端エピトープが、成熟インスリン産生細胞の新規表面タグであることを見出した。一実施形態において、前記エピトープ(タグまたは表面タグとも呼ばれる)は、例えば、抗体を介した細胞集団(hESCを分化させることによって生じたヒトβ細胞など)から成熟β細胞の細胞精製、ならびにin vitroおよびin vivoにおけるβ細胞集団の定量またはイメージングの標的としてのこのようなタグの利用に用いることができる。
【0024】
一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグに対して作製された抗体は、混成細胞集団から成熟β細胞を精製するために使用することができる。一実施形態において、混成細胞集団は膵組織および/または分化幹細胞に由来する内分泌培養物から得られる。
【0025】
本明細書における「G6PC2コードβ細胞表面タグ」、「G6PC2コードエピトープ」、「G6PC2コードβ細胞表面マーカー」または「G6PC2スプライス変異体コードβ細胞表面タグ」は、G6PC2によってコードされるIGRPまたはそのスプライス変異体の細胞外配列を意味する。
【0026】
一実施形態において、本発明に係る単離ペプチドは、G6PC2コードβ細胞表面タグとして使用することができる。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグは、本発明に係る単離ペプチドに含まれる。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグは、本発明に係る単離ペプチドである。
【0027】
一実施形態において、本発明は、i)細胞外部分と、ii)G6PC2の1個または複数のエクソンにおける欠失とを含む、G6PC2によってコードされる単離ペプチドに関する。一実施形態において、前記ペプチドは細胞外部分を含む。一実施形態において、前記ペプチドは細胞外部分からなる。一実施形態において、前記細胞外部分はエピトープを含む。一実施形態において、前記単離ペプチドは、G6PC2のエクソン1、エクソン2、エクソン3、エクソン4およびエクソン5からなる群から選択される1個または複数のエクソンに含まれる配列を含む。一実施形態において、前記単離ペプチドは、G6PC2のエクソン1、エクソン2、エクソン3、エクソン4およびエクソン5からなる群から選択される1個のエクソンまたは数個の連続するエクソンに含まれる配列の断片である。一実施形態において、前記単離ペプチドは、G6PC2のエクソン1、エクソン2、エクソン3、エクソン4およびエクソン5からなる群の1個または複数から選択される配列における欠失を含む。
【0028】
一実施形態において、前記単離ペプチドは、N末端のG6PC2コードスプライス変異体部分の連続的な配列を含み、C末端において切断されている。一実施形態において、前記単離ペプチドは、MDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYT(配列番号3)、MLVAEAFEHTPGIQ(配列番号8)、LLSCRGGNNY(配列番号5)およびHMLMKQSGKKSQ(配列番号6)ならびにそれらの変異体からなる群から選択される配列を含む。一実施形態において、前記単離ペプチドは、配列MLVAEAFEHTPGIQTASLGT(配列番号4)またはその変異体を含む。一実施形態において、前記単離ペプチドはMDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYT(配列番号3)、MLVAEAFEHTPGIQ(配列番号8)、LLSCRGGNNY(配列番号5)およびHMLMKQSGKKSQ(配列番号6)ならびにそれらの変異体からなる群から選択される配列からなる。一実施形態において、前記単離ペプチドは、配列MLVAEAFEHTPGIQTASLGT(配列番号4)またはその変異体からなる。一実施形態において、G6PC2スプライス変異体コードβ細胞表面タグは、G6PC2のエクソン1に含まれる。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグのN末端は、MDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYT(配列番号3)である。一実施形態において、G6PC2スプライス変異体コードβ細胞表面タグは、G6PC2のエクソン1、2および5に由来する。一実施形態において、G6PC2スプライス変異体コードβ細胞表面タグは、MLVAEAFEHTPGIQ(配列番号8)、LLSCRGGNNY(配列番号5)およびHMLMKQSGKKSQ(配列番号6)からなる群から選択される。一実施形態において、G6PC2スプライス変異体コードβ細胞表面タグは、MLVAEAFEHTPGIQTASLGT(配列番号4)である。
【0029】
一実施形態において、前記単離ペプチドは、MDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYT(配列番号3)、MLVAEAFEHTPGIQ(配列番号8)、LLSCRGGNNY(配列番号5)およびHMLMKQSGKKSQ(配列番号6)からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば少なくとも90%または少なくとも96%の同一性を有する天然に存在するアミノ酸配列を含む。一実施形態において、前記単離ペプチドは、アミノ酸配列MLVAEAFEHTPGIQTASLGT(配列番号4)に対して少なくとも80%、例えば少なくとも90%または少なくとも96%の同一性を有する天然に存在するアミノ酸配列を含む。一実施形態において、G6PC2スプライス変異体コードβ細胞表面タグは、少なくとも4、例えば少なくとも6、8、10、12、14または16アミノ酸からなる。
【0030】
一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグは全長IGRPの一部である。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグはIGRPの非全長スプライス変異体の一部である。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグはIGRPの非全長スプライス変異体である。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグは、G6PC2のエクソン1、エクソン2、エクソン3、エクソン4およびエクソン5からなる群から選択される1個のエクソンまたは数個の連続したエクソンに含まれる配列の断片である。
【0031】
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載のペプチドをコードする単離ヌクレオチドに関する。一実施形態において、本発明は、本明細書に記載のペプチドを発現する単離細胞に関する。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグは細胞外配列を含む。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグは細胞外配列からなる。
【0032】
一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグは本明細書に記載の単離ペプチドの断片である。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグは全長IGRPの一部である。一実施形態において、本発明は、本明細書に記載のG6PC2コードβ細胞表面タグをコードする単離ヌクレオチドに関する。一実施形態において、本発明は、本明細書に記載のG6PC2コードβ細胞表面タグを発現する単離細胞に関する。
【0033】
本明細書における「スプライス変異体」は、一次遺伝子転写産物(mRNA前駆体)のエクソンを切り離し再結合することによって代替的なリボヌクレオチド配置を作成する、RNAスプライシング変異メカニズムを意味する。このような一次結合(linear combination)は続いて、特異的で独自のアミノ酸配列を定めてイソ型タンパク質を生じる翻訳プロセスを行う。本明細書における「〜の断片」は、言及されている配列よりも短い配列を意味する。本明細書における「〜の一部」または「非全長」は、言及されているさらに長い配列に含まれている配列を意味する。
【0034】
一実施形態において、用語「ペプチド」および「アミノ酸配列」は、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質配列またはそれらのいずれかの断片を意味する。一実施形態において、用語「アミノ酸」および「アミノ酸配列」は、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質配列またはそれらのいずれかの断片、および天然に存在するまたは合成の分子を意味する。「アミノ酸配列」が天然に存在するタンパク質分子配列を意味するように記述されている場合、「アミノ酸配列」および類似の用語は、アミノ酸配列を記述されているタンパク質分子に関連する完全に天然のアミノ酸配列に限定することを意味しない。
【0035】
一実施形態において、特定の核酸配列の「変異体」は、特定の核酸配列に対して、これら核酸配列の内、一方のある長さにわたって少なくとも40%の配列同一性を有する核酸配列として定義されている。一実施形態において、特定の核酸配列の「変異体」は、特定の核酸配列に対して、デフォルトパラメーターに設定した「BLAST 2 Sequences」ツールVersion 2.0.9(1999年5月7日)を備えたblastnを用いて、これら核酸配列の内、一方のある長さにわたって少なくとも40%の配列同一性を有する核酸配列として定義されている。このような一対の核酸は、ある規定の長さにわたって例えば少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%以上の配列同一性を示すことができる。スプライス変異体は、基準分子に対して有意な同一性を有する可能性があるが、mRNAプロセシングにおける代替的なスプライシングのため、一般により多いまたはより少ない数のポリヌクレオチドを有するであろう。対応するポリペプチドは、追加的な機能領域を有すること、あるいは基準分子に存在する領域を欠くことができる。一実施形態において、特定のポリペプチド配列の「変異体」は、特定のポリペプチド配列に対して、これらポリペプチド配列の内、一方のある長さにわたって少なくとも40%の配列同一性または配列類似性を有するポリペプチド配列として定義されている。一実施形態において、特定のポリペプチド配列の「変異体」は、その特定のポリペプチド配列に対して、デフォルトパラメーターに設定した「BLAST 2 Sequences」ツールVersion 2.0.9(1999年5月7日)を備えたblastpを用いて、これらポリペプチド配列の内、一方のある長さにわたって少なくとも40%の配列同一性または配列類似性を有するポリペプチド配列として定義されている。このような一対のポリペプチドは、これらポリペプチドの内、一方のある規定の長さにわたって例えば少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%以上の配列同一性または配列類似性を示すことができる。
【0036】
一実施形態において、「同一性」または「配列同一性」は、比較のなされる配列、すなわち基準配列の全長にわたって決定される。二配列間の配列同一性を決定するための方法の例として、QBCDEとABCDEを整列させる。ABCDEに対するQBCDEの配列同一性は、整列させた同一残基の数から異なる残基の数を引き、ABCDEの全残基数で割ることによって得られる。したがって、前記の例において配列同一性は(5-1)/5である。
【0037】
一実施形態において、ポリペプチド配列に対して用いられている語句「パーセント同一性」および「%同一性」は、標準化アルゴリズムを用いて整列した少なくとも2本のポリペプチド配列間でマッチする同一残基率を意味する。ポリペプチド配列のアライメント方法はよく知られている。いくつかのアライメント方法は、保存的アミノ酸置換を考慮に入れる。このような保存的置換は通常、置換部位における電荷および疎水性を保存し、したがってポリペプチドの構造(したがって機能)を保存する。一実施形態において、ポリペプチド配列に対して用いられている語句「パーセント類似性」および「%類似性」は、標準化アルゴリズムを用いて整列した少なくとも2本のポリペプチド配列間の同一残基マッチや保存的置換を含む残基マッチ率を意味する。それとは対照的に、保存的置換は、ポリペプチド配列間のパーセント同一性の計算には含まれていない。
【0038】
一実施形態において、ポリペプチド配列間の配列同一性などのパーセント同一性は、MEGALIGNのversion3.12e配列アライメントプログラムに組み込まれたCLUSTAL Vアルゴリズムのデフォルトパラメーターを用いて決定できる。CLUSTAL Vを用いたポリペプチド配列のペアアライメントにおいて、デフォルトパラメーターは次の通りに設定された。Ktuple=1、gap penalty=3、window=5および「diagonals saved」=5。PAM250マトリクスは、default residue weight tableとして選択される。一実施形態において、NCBI BLASTソフトウェア一式は、配列同一性などのパーセント同一性決定のために用いることができる。例えば、2本のポリペプチド配列のペア比較のために、デフォルトパラメーターに設定されたblastpを備えた「BLAST 2 Sequences」ツールVersion 2.0.12(2000年4月21日)を用いることができる。このようなデフォルトパラメーターは、例えば、Matrix:BLOSUM62;Open Gap:11およびExtension Gap:I penalties;Gap x drop-off.-50;Expect:10;Word Size:3;Filter:onとなることができる。
【0039】
一実施形態において、配列同一性などのパーセント同一性は、定義されているポリペプチド配列、例えば特定の配列番号によって定義された配列の全長にわたって測定、あるいはより短い長さにわたって、例えばより長い定義されたポリペプチド配列から得られた断片、例えば連続した少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも70または少なくとも150残基の断片長にわたって測定され得る。このような長さは単なる具体例であり、本明細書、表、図または配列表に示されている配列によって支持されるあらゆる断片長が、パーセント同一性を測定できる長さの説明に用いられ得ることが理解される。
【0040】
一実施形態において、本発明は、国際公開第2004001008号に記載のMDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYTFLNFMSNVGDPRNIFFIYFPLCFQFNQTVGTKMIWVAVIGDWLNLIFKWKSIWPCNGRILCLVCHGNRCPEPHCLWDGまたは配列番号38に関するものではない。
【0041】
膵内分泌細胞およびその前駆体
膵臓には、数種類の異なるタイプの膵細胞が存在し得る。これらの細胞は、例えば複能性(multi-potent)膵前駆体、管/内分泌前駆細胞、内分泌前前駆細胞、内分泌前駆細胞、初期内分泌細胞、完全に分化した内分泌細胞および/または完全に分化したβ細胞を含む。
【0042】
本明細書において同義的に用いられている「膵内分泌細胞」または「膵ホルモン発現細胞」は、次のホルモン、すなわち、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチドおよびグレリンのうちの少なくとも1種を発現できる細胞を意味する。
【0043】
本明細書における「膵ホルモン分泌細胞」は、次のホルモン、すなわちインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチドおよびグレリンのうちの少なくとも1種を分泌できる膵内分泌細胞を意味する。
【0044】
本明細書における「膵内分泌前前駆細胞」(「膵内分泌前先駆体」や「内分泌前先駆体」とも言う)は、膵管および外分泌細胞に発達する能力を失った、まだNgn3タンパク質を発現しておらず、ホルモン発現細胞ではないが、膵内分泌細胞または膵ホルモン分泌細胞に分化する能力を有し、また通常少なくとも部分的にこれら細胞の表現型特性を共有する細胞である。
【0045】
本明細書における「膵内分泌前駆細胞」(「膵内分泌先駆体」や「内分泌先駆体」とも言う)は、Ngn3タンパク質発現細胞であるがホルモン発現細胞ではなく、一方で膵内分泌細胞または膵ホルモン分泌細胞に分化する能力を有し、また通常少なくとも部分的にこれら細胞の表現型特性を共有する細胞である。
【0046】
本明細書における「初期内分泌細胞」(「初期膵内分泌細胞」とも言う)は、Ngn3の発現は止まったが、グルコースに対する応答性など、成体膵臓のランゲルハンス島に存在する完全に分化した膵内分泌細胞のあらゆる特性を共有している訳ではない内分泌細胞である。初期内分泌細胞は、膵内分泌ホルモン(インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチドおよびグレリン)のうちの1種に対して陰性または陽性となることができる。
【0047】
本明細書における「完全に分化した内分泌細胞」(「成熟膵内分泌細胞」とも言う)は、成体膵臓のランゲルハンス島に存在する完全に分化した膵内分泌細胞のあらゆる特性を共有している細胞である。「膵ホルモン発現細胞」および「膵ホルモン分泌細胞」は、初期から完全に分化した表現型に及ぶ「膵内分泌細胞」であると考えられている。
【0048】
本明細書における「完全に分化したβ細胞」(「成熟β細胞」とも言う)は、成体膵臓のランゲルハンス島を構成する主要な細胞型を特徴付ける、グルコース感受性インスリン産生β細胞である。
【0049】
本明細書における「β細胞系列」は、転写因子Pdx-1、ならびに次の転写因子、Ngn-3、Nkx2.2、Nkx6.1、NeuroD、Isl-1、Hnf-3β、MafA、Pax4およびPax6のうちの少なくとも1種に対して正の遺伝子発現を行う細胞を意味する。β細胞系列に特徴的なマーカーを発現する細胞はβ細胞を含む。
【0050】
本明細書における「管/内分泌前駆細胞」は、膵発生初期において中央部に存在し、成熟管細胞、完全に分化した内分泌細胞または完全に分化したβ細胞になる二分化能(bi-potential)を保持する細胞である。さらに、この細胞は転写因子Pdx1およびNkx6.1を発現するがPtf1aは発現しない。管/内分泌前駆細胞の例は、マウスの発生ステージ約el2.0に見出すことができる。
【0051】
本明細書における「複能性膵前駆細胞」は、膵臓の最初期の細胞を表す細胞である。この細胞は、3種類の主要な転写因子Pdx1+/Nkx6.1+/Ptf1a+に対して三重に陽性の細胞として独自に特徴付けられる。
【0052】
本明細書における「マーカー」は、目的細胞においてディファレンシャルに発現する核酸またはポリペプチド分子である。これに関してディファレンシャルな発現とは、ポジティブマーカーにおいては濃度増加、ネガティブマーカーにおいては濃度減少を意味する。マーカー核酸またはポリペプチドの検出可能な濃度は、本技術分野における公知の様々な方法のいずれかを用いて目的細胞を他の細胞から同定および区別できるように、他の細胞と比べて目的細胞において十分により高いまたはより低い。
【0053】
一実施形態において、本発明に係る方法によって得られた膵内分泌細胞は、インスリン産生細胞であり、場合によってグルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチドおよび/またはグレリン産生細胞に分化した細胞と一緒になっている。本明細書において、「インスリン産生細胞」は、検出可能な量のインスリンを産生し、貯蔵または分泌する細胞を意味する。「インスリン産生細胞」は、個々の細胞または細胞集合となることができる。
【0054】
細胞の「継代」は通常、播種した培養容器が部分的にコンフルエントな状態からコンフルエントな状態に移行し、この時点で細胞が培養容器から移されてより低密度で培養容器に再播種されることを意味する。なお、細胞はコンフルエントになる前に継代されてもよい。継代は通常、コンフルエントになるにつれて細胞集団の増殖をもたらす。細胞集団の増殖は最初の播種密度に依存するが、通常1〜10、1〜5、1〜3または1〜2倍の増殖である。したがって、継代は一般に、細胞が培養において複数回の細胞分裂ができることを必要とする。
【0055】
膵細胞を含む細胞集団
本明細書における用語「膵細胞を含む細胞集団」は、腺房および管細胞、複能性膵前駆細胞、管/内分泌前駆細胞、膵内分泌前前駆細胞、膵内分泌前駆細胞、初期膵内分泌細胞、膵内分泌細胞、膵β細胞、膵ホルモン分泌細胞、胎児膵細胞、成体膵細胞ならびに他の非膵細胞からなる群から選択される1種または複数の細胞型を含む細胞集団を意味する。細胞「集団」は、出発細胞の特定の単離または培養手順によって得られた複数の細胞を意味する。細胞集団の性質は一般に、特定の性質を備える個々の細胞の割合(例えば、特定のマーカーに対して陽性に染色される細胞の割合)、または集団全体を測定したときの性質の容量平均値(例えば、細胞集団から得られたライセートにおけるmRNA量、あるいはNgn3、Pax6、インスリンまたはグルカゴンなど、組織化学的に検出可能なマーカーに対して陽性の細胞の割合)によって定義される。
【0056】
一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は、膵臓から得られる。一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は、胎児膵臓または成体膵臓から得られる。一実施形態において、膵臓は、ヒトなどの哺乳類から得られる。
【0057】
本発明の一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は、体細胞集団から得られる。本発明の一実施形態において、体細胞集団は、胚様幹(ES、例えば多能性(pluripotent))細胞に脱分化誘導された。このような脱分化細胞はまた、人工多能性幹細胞(iPS)とも言う。
【0058】
一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は、胚性幹(ES、例えば多能性)細胞から得られる。一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は、ES細胞などの多能性細胞である。一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は、ES様細胞などの多能性細胞である。
【0059】
一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は胚分化幹(ESまたは多能性)細胞である。分化は胚様体および/または単層細胞培養またはその組み合わせで行われる。
【0060】
一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は哺乳類由来のものである。一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団はヒト由来のものである。本発明の一実施形態において、細胞集団は膵内分泌系列に分化した。
【0061】
一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は1個または複数のドナー膵臓から得られる。本明細書に記載されている方法は、ドナー膵臓の年齢に依存しない。したがって、胚から成体にわたる年齢の範囲のドナーから単離された膵臓材料を利用できる。
【0062】
膵臓はドナーから回収されると、通常様々な方法による培養のために加工されて個々の細胞または小グループの細胞が得られる。このような方法の一つは、回収された膵組織が消毒されて酵素消化のために下処理されることを必要とする。酵素処理は、結合組織を消化し、これによって回収した組織の実質が膵細胞材料のさらに小さな単位に解離できるよう用いられる。回収された膵組織は、1種または複数の酵素で処置され、回収された器官の全体構造から膵細胞材料、基礎構造および個々の膵細胞を分離する。コラーゲナーゼ、DNAse、Liberase調製液(米国特許第5,830,741号および5,753,485号を参照)および他の酵素が、本明細書に開示されている方法を用いた使用のために企図される。
【0063】
単離された原材料は、さらに加工されて1個または複数の所望の細胞集団に濃縮されてもよい。なお、培養のために解離されたがまだ分画されていない膵組織もまた、さらに分離することなく直接的に本発明の培養方法に用いることができる。一実施形態において、単離された膵細胞材料は密度勾配(例えば、ナイコデンツ、フィコールまたはパーコール)を用いた遠心分離によって精製される。例えば、米国特許第5,739,033号に記載されている勾配法は、加工された膵島材料を濃縮するための手段として用いることができる。ドナー源から回収された細胞混合物は、通常異種混成であり、したがってα細胞、β細胞、δ細胞、ε細胞、管細胞、腺房細胞、条件的(facultative)前駆細胞および他の膵細胞型を含むであろう。
【0064】
通常の精製手順により、単離した細胞材料はいくつもの層や界面に分離される。通常2つの界面が形成される。上の界面は膵島豊富であり、懸濁液中通常10〜100%の島細胞を含む。第二の界面は通常、島、腺房および管細胞を含む混成細胞集団である。下層は勾配の底に形成されたペレットである。この層は通常、一次腺房細胞、少量の取り込まれた島および少量の管細胞を含む。管樹状成分(ductal tree component)は、さらなる操作のために別々に回収することができる。さらなる操作のために選択された画分の細胞構成は、勾配のどの画分が選択されたか、また各単離操作の最終結果に依存して変化するであろう。
【0065】
島細胞が所望の細胞型である場合、単離された画分において適切に濃縮された島細胞集団は、少なくとも10%〜100%の島細胞を含んでいるであろう。他の膵細胞型および濃度もまた、濃縮に従って回収することができる。例えば、本明細書に記載されている培養方法は、用いられている精製勾配に応じて、第二の界面から、ペレットからまたは他の画分から単離された細胞に用いることができる。
【0066】
一実施形態において、中間的膵細胞培養物は島豊富(上)画分から作製される。しかし、島、腺房および管細胞の混成細胞集団、または管樹状成分、腺房細胞および少量の取り込まれた島細胞を通常含む、さらに異種混成の第二の界面および下層画分もまた、それぞれ培養に用いることができる。両方の層は本明細書に記載されているG6PC2陽性集団を生じることのできる細胞を含むが、各層は開示されている方法による使用のための特定の利点を有することができる。一実施形態において、G6PC2陽性膵細胞の培養物は、島豊富(上)画分から作製される。
【0067】
一実施形態において、細胞集団は幹細胞の集団である。本発明の一実施形態において、細胞集団は膵内分泌系列に分化した幹細胞の集団である。
【0068】
幹細胞は、単細胞レベルで自己再生するその能力、また分化して自己再生前駆体、非再生前駆体および最終分化細胞など、後代の細胞を生じるその能力の両方によって定義された未分化細胞である。幹細胞はまた、複数の胚葉(内胚葉、中胚葉および外胚葉)由来の様々な細胞系列の機能細胞にin vitroで分化し、さらに移植後に複数の胚葉の組織を生じ、胚盤胞に注射した後に全部ではないにしろ実質的にほとんどの組織をもたらすその能力によっても特徴付けられる。
【0069】
幹細胞は、その発達能力によって次のように分類される。(1)あらゆる胚および胚体外の細胞型を生じ得ることを意味する全能性(totipotent)、(2)あらゆる胚細胞型を生じ得ることを意味する多能性、(3)細胞系列のサブセットであるが、特定の組織、器官または生理的システム内のすべてを生じ得ることを意味する複能性(例えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己再生)、血球限定的な寡能性(oligopotent)前駆体ならびに通常の血液成分のあらゆる細胞型および要素(例えば、血小板)などの後代を産生できる)、(4)複能性幹細胞よりも限定的な細胞系列サブセットを生じ得ることを意味する寡能性、(5)単一の細胞系列を生じ得ることを意味する単能性(unipotent)、(例えば、精子形成幹細胞)。
【0070】
幹細胞から膵細胞を得るためのプロトコルは、D'Amour, K. A.ら(2006)、Nat Biotechnol 24、1392-401、Jiang, J.ら(2007)、Stem Cells 25、1940-53およびKroon, E.ら(2008)、Nat Biotechnol、2008 Feb 20、[印刷前Epub]に記載のプロトコルによって例示されているが、これらに限定されない。
【0071】
膵細胞を体細胞または例えばES様細胞など、多能性細胞に脱分化するよう誘導された体細胞から得るためのプロトコルは、Aoi, T.ら(2008)、Science、2008 Feb 14、[印刷前Epub]、D'Amour, K. A.ら(2006)、Nat Biotechnol 24、1392-401、Jiang, J.ら(2007)、Stem Cells 25、1940-53、Kroon, E.ら(2008)、Nat Biotechnol、2008 Feb 20、[印刷前Epub]、Takahashi, K.ら(2007)、Cell 131、861-72、Takahashi, K.およびYamanaka, S.(2006)、Cell 126、663-76およびWernig, M.ら(2007)、Nature 448、318-24に記載のプロトコルによって例示されているが、これらに限定されるものではない。
【0072】
分化とは、未特殊化(「未拘束」)の細胞または特殊化していない細胞が、特殊化した細胞、例えば神経細胞や筋細胞の特性を獲得する過程である。分化または分化誘導細胞は、細胞系列内のより特殊化した(「拘束された」)地位を得た細胞である。分化過程に用いられている場合、用語「拘束された」は、分化経路において通常の環境下では特定の細胞型または細胞型サブセットまで分化を続け、通常の環境下では異なる細胞型に分化、あるいはより未分化の細胞型に戻ることのできないポイントまで進行した細胞を意味する。脱分化は、細胞が細胞系列内のより特殊化していない(すなわち未拘束の)地位に戻る過程を意味する。本明細書において、細胞系列は細胞の遺伝、すなわちどの細胞に由来するか、どの細胞を生じることができるかを定義する。細胞系列は、発生および分化の遺伝図式内に細胞を位置付ける。系列特異的マーカーは、目的系列の細胞の表現型に特異的に関連する特性を意味し、未拘束の細胞の、目的系列への分化を評価するために用いることができる。
【0073】
本明細書において、「分化する」または「分化」は、未分化の状態から分化した状態に、未成熟な状態から未成熟でない状態に、または未成熟状態から成熟状態に細胞が進行する過程を意味する。例えば、初期未分化の胚性膵細胞は増殖し、Pdx-1、Nkx6.1およびPtf1aなど、特徴的なマーカーを発現できる。成熟または分化した膵細胞は、増殖することなく高レベルの膵内分泌ホルモンまたは消化酵素を分泌する。例えば、完全に分化したβ細胞は、グルコースに応答して高レベルのインスリンを分泌する。細胞が未分化細胞マーカーを失い、分化細胞マーカーを得るにつれて、細胞の相互作用の変化と成熟が起こる。ある単一マーカーの喪失あるいは獲得は、細胞が「成熟または完全に分化」したことを示すことができる。用語「分化因子」は、膵細胞に添加してインスリン産生β細胞も含む成熟内分泌細胞への分化を促進する化合物を意味する。例示的な分化因子として、肝細胞増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、exendin-4、塩基性線維芽細胞増殖因子、インスリン様増殖因子-1、神経増殖因子、上皮増殖因子、血小板由来増殖因子およびグルカゴン様ペプチド1が挙げられる。一実施形態において、細胞分化は、1種または複数の分化因子を含む培地において細胞を培養するステップを含む。
【0074】
膵内分泌系列に特徴的なマーカーは、Ngn-3、NeuroD、islet-1、Pdx-1、Nkx6.1、Nkx2.2、MafA、MafB、Arx、Brn4、Pax-4、Pax-6、Glut2、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチド(PP)およびグレリンからなる群から選択される。一実施形態において、膵内分泌細胞は次のホルモン、すなわち、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、PPおよびグレリンのうちの少なくとも1種を発現できる。本発明における使用のために適切であるのは、膵内分泌系列に特徴的なマーカーのうちの少なくとも1種を発現する細胞である。本発明の一実施形態において、膵内分泌系列に特徴的なマーカーを発現している細胞は、膵内分泌細胞である。膵内分泌細胞は、膵ホルモン発現細胞となることができる。あるいは膵内分泌細胞は、膵ホルモン分泌細胞となることができる。
【0075】
本発明の一実施形態において、膵内分泌細胞は、β細胞系列に特徴的なマーカーを発現している細胞である。β細胞系列に特徴的なマーカーを発現している細胞は、Pdx1、ならびに次の転写因子、Ngn-3、Nkx2.2、Nkx6.1、NeuroD、Isl-1、Hnf-3β、MafA、Pax4およびPax6のうちの少なくとも1種を発現する。本発明の一実施形態において、β細胞系列に特徴的なマーカーを発現している細胞はβ細胞である。一実施形態において、膵内分泌細胞はNkx6.1マーカーを発現している細胞である。本発明の一実施形態において、膵内分泌細胞はPdx1マーカーを発現している細胞である。本発明の一実施形態において、膵内分泌細胞はNkx6.1およびPdx1マーカーを発現している細胞である。
【0076】
本明細書で用いられる「Pdx-1」は、膵発生に関係するホメオドメイン転写因子を意味する。本明細書で用いられる「Pax-4」はβ細胞特異的転写因子であり、また本明細書における「Pax-6」は膵島細胞(特異的)転写因子であり、両者は膵島発生に関係する。「Hnf-3β」は、高度に保存されたDNA結合領域と2個の短いカルボキシ末端領域によって特徴付けられる、転写因子の肝臓核因子ファミリーに属する。本明細書における「NeuroD」は、神経発生に関係するベーシック・へリックス-ループ-へリックス(bHLH)転写因子である。本明細書における「Ngn-3」は、ベーシック・ループ-へリックス-ループ転写因子の神経ファミリーのメンバーである。本明細書における「Nkx-2.2」および「Nkx-6.1」は、Nkx転写因子ファミリーのメンバーである。本明細書における「islet-1」または「Isl-1」は、転写因子のLIM/ホメオドメインファミリーのメンバーであり、発達中の膵臓で発現する。本明細書における「MafA」は、膵臓で発現する転写因子であり、インスリン生合成および分泌に関わる遺伝子の発現を調節する。
【0077】
Nkx6.1およびPdx-1は、成体膵臓に存在するあらゆる細胞型(例えば、腺房、管および内分泌細胞)に発達することのできる初期膵臓複能性細胞において、Ptf1aと共発現する。この細胞集団内には、一過的にNgn3も発現する細胞が存在する。細胞は、ひとたびNgn3を発現すると、あるいは発現したら、内分泌系列の一部となり、後にランゲルハンス島を形成する内分泌細胞を生じる(ある種はインスリン産生β細胞である)。Ngn3を欠くと、膵発生において内分泌細胞が形成されない。発生が進むにつれ、Nkx6.1およびPdx-1は、その時点ではPtf1aの発現を欠くようになった膵臓のより中心領域で共発現し、Nkx6.1およびPdx-1陽性細胞は腺房細胞を生じることができなくなる。このNkx6.1およびPdx-1陽性細胞集団内で顕著な数の細胞が一過的にNgn3を共発現し、より発生初期における内分泌系列様細胞としてマークされる。
【0078】
DNER
本明細書において、「DNER」、「Dner」、「DNERタンパク質」または「Dnerタンパク質」は、DNERのヒトやマウスなど、あらゆる哺乳類の型を意味する。ヒト型は、「delta/notch様EGFリピート含有」として知られ、また例えば「bet」および「UNQ26」としても知られている。マウス型は、「delta/notch様EGF関連レセプター」として知られ、また例えば「BET」、「Bret」、「MGC39059」および「A930026D19Rik」としても知られている。DNERは、単一の膜貫通領域をそのC末端に備え、推定細胞表面タンパク質であると推測される。これはまた、その細胞外領域に多くのEGF様リピートを備え、その細胞質カルボキシ末端領域はチロシンベースの選別モチーフを含む。ヒトとマウスの両方において737アミノ酸長であり、マウスとヒトとの間の類似性は90%である。1種類のファミリーメンバーがマウスで同定された。Dnerは、マウス小脳のバーグマングリアの細胞形態形成においてNotchのリガンドとして作用する。細胞間接触においてDnerはNotch1と結合し、in vitroでのNotchシグナル伝達を活性化する。
【0079】
DDR1
本明細書において、「DDR1タンパク質」または「Ddr1タンパク質」は、DDR/TKT型プロテインキナーゼ、Discoidin領域レセプターファミリー、メンバー1(Discoidin Domain Receptor family, member 1)を意味する。本明細書に用いられている場合、この用語はすべて大文字で「DDR1」と記されてもよいし、あるいは最初の文字だけを大文字で「Ddr1」と記されてもよく、ヒトやマウスを含む任意の哺乳類由来のDiscoidin領域レセプターファミリー、メンバー1を意味する。DDR1は、I〜IV型を含む様々な型のコラーゲンによって活性化される。コラーゲンのDDR1タンパク質への結合は、自己リン酸化をもたらし、チロシンキナーゼ活性を遅らせるが持続させる。DDR1は、細胞間相互作用または認識において機能することができる。876、913および919アミノ酸の異なるタンパク質イソ型をもたらす少なくとも3種類のmRNA変異体が、ヒトで報告された。マウスにおいては、それぞれ874および911アミノ酸の2種類のイソ型が報告された。DDR1タンパク質は、ヒトの胸部、卵巣、食道および小児脳腫瘍において過剰発現を示した。このタンパク質は、細胞内レセプターチロシンキナーゼ活性を有し、様々な型のコラーゲンによって活性化される。その自己リン酸化は試験した全コラーゲン(I型〜VI型およびXI)によって達成される。
【0080】
同定方法
一実施形態において、本発明は、完全に分化したβ細胞を同定する方法であって、膵細胞を含む細胞集団をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させるステップを含む方法に関する。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と結合する細胞(G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞)の数および/または比率が決定され得る。
【0081】
一実施形態において、本発明は、a)細胞をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させ、b)G6PC2コードβ細胞表面タグを細胞表面マーカーとして提示する細胞(G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞)の量を決定することにより、膵細胞を含む、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞を定量する方法に関する。
【0082】
当業者であれば、G6PC2コードβ細胞表面タグを検出するための多くの方法があることを認めるであろう。例えば、G6PC2コードβ細胞表面タグに特異的に結合する抗体は、G6PC2コードβ細胞表面タグを検出するために用いることができる。G6PC2コードβ細胞表面タグに特異的な抗体は当業者に知られており、例えばR&D Systems、Research Diagnostics, Inc.、Abcam、Ancell Immunology Research Products、eBioscience、アイオワ大学発生研究ハイブリドーマバンク、およびZymed Laboratories, Inc.、Abnova Corporation、-Affinity BioReagents BioLegend、GeneTex Lifespan Biosciences、MBL International Novus Biologicals、Proteintech Group, Inc.、Santa Cruz Biotechnology, Inc.から市販されている。G6PC2コードβ細胞表面タグの細胞外部分を認識する抗体は、本発明において細胞選別のために使用することができる。G6PC2コードβ細胞表面タグの細胞外部分の異なるエピトープを認識する異なる抗体は、単独でも組み合わせによっても用いることができる。細胞外領域、膜貫通領域および細胞内領域におけるG6PC2コードβ細胞表面タグの任意の部分を認識する任意のG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬は、G6PC2コードβ細胞表面タグの発現をモニターするために用いることができる。当業者であれば、G6PC2コードβ細胞表面タグの検出に関する本明細書の記載が、本発明におけるマーカーとしての使用のために企図され得る他の細胞外タンパク質にも用いられ得ることを理解できるであろう。
【0083】
多くの異なる蛍光分子、例えばフルオレセイン、cy2、cy3、cy5、PE、Alexa488またはローダミンが抗体との結合に利用できる。当業者は、数例において、蛍光分子と結合した異なる抗体を用いることによって複数の細胞外マーカーが検出され得ることに気付いている。FACS分析は複数の目的細胞外マーカーを同定するための条件下で行うことができる。
【0084】
一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬は、G6PC2コードβ細胞表面タグと特異的に結合する抗体である。一実施形態において、本発明は、G6PC2コードβ細胞表面タグに特異的に結合する抗体に関する。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグは、全長IGRPの一部である。
【0085】
「抗体」は、抗原に特異的に結合し認識する、免疫グロブリン遺伝子由来のフレームワーク領域またはその断片を有するポリペプチドを意味する。抗体(免疫グロブリンとしても知られる)は、脊椎動物の血液または他の体液に存在するタンパク質であり、免疫系によって細菌やウイルスなどの異物を同定または中和するために用いられる。あらゆる抗体の一般構造は非常に似通っているが、タンパク質先端における小さな領域が非常に可変的であり、先端構造がわずかに異なる何百万種類もの抗体が存在できるようになっている。この領域は超可変領域として知られている。これら変異体のそれぞれが、抗原として知られている異なる標的に結合できる。抗体のこのように大きな多様性によって、免疫系は抗原の同様に大きな多様性を認識することができる。抗体によって認識される抗原の独自部分はエピトープと呼ばれる。このエピトープは、抗体が生物を構成する何百万種類もの異なる分子の中からその独自の抗原のみを同定し結合できる、誘導適合と呼ばれる非常に特異的な相互作用において自身の抗体と結合する。
【0086】
培養または単離細胞におけるタンパク質および/またはmRNAの発現を評価するための方法は、本技術分野において標準的であり、定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、ノーザンブロットおよびin situハイブリダイゼーション(例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Ausubelら、eds. 2001 supplement)を参照)、切片材料の免疫組織化学分析、ウェスタンブロッティングなどのイムノアッセイ、ならびに無傷細胞に利用できるマーカーのためのフローサイトメトリー分析(FACS)(例えば、HarlowおよびLane、Using Antibodies: A Laboratory Manual、ニューヨーク: Cold Spring Harbor Laboratory Press (1998)を参照)を含む。従来の内分泌細胞分化の組織化学的マーカーを用いてもよい。免疫組織化学によって検査する細胞は、顕微鏡検査のためにガラスチャンバースライド上で培養してもよい。あるいは、従来の組織培養で増殖した細胞を手作業で、酵素を用いてまたは酵素を含まない細胞解離バッファーを用いて培養物から移し、切片作製のためにパラフィンまたはTissueTechに包埋してもよい。細胞分化マーカーは多様であり、従来の免疫組織化学によって検出できる。次に、一般に適用できるプロトコルを記す。
【0087】
チャンバースライド内の細胞をPBSで穏やかにリンスし、4%パラフォルムアルデヒド溶液で45分間固定した。次に細胞をPBSでリンスし、使用まで+5℃で保存した。使用当日に細胞を段階的エタノールシリーズ(70%から始め、96%に移し、次に99%、続いて再度99%、続いて96%、最後に70%、各濃度5分間インキュベートする)に浸透し、次に正常血清またはTNB(Perkin Elmer製TSA(チラミドシグナル増幅)キットより)を含むブロッキング溶液において室温でインキュベートする。一次抗体を適切な希釈で調製して細胞に添加し、湿室中室温(RT)で一晩(O/N)インキュベートする。一次抗体でインキュベートした後、細胞をPBSでリンスした。適切な希釈で調製した蛍光二次抗体を細胞に添加し、暗所でインキュベートする。細胞核の対比染色のために、二次抗体にDAPI染色剤が含まれていてもよい。次に細胞をリンスし、余分な液体を除去し、スライドのチャンバー部を取り外し、スライドにカバーグラスを載せる。スライドを乾かし、共焦点顕微鏡などの蛍光顕微鏡を用いて検鏡するまで暗所で保存する。
【0088】
あるいは、細胞をHRP(ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ)法を用いた免疫細胞化学のために調製してもよい。二次抗体としてビオチン結合二次抗体を用いる。続いてスライドをPBSでリンスし、アビジン-HRPとインキュベートした。スライドを再度リンスし、TSA試薬とインキュベートして一次抗体を可視化する。従来の光学顕微鏡による検鏡用にスライドをマウントする。
【0089】
組織切片におけるタンパク質同定のため、組織を4%PFA(パラフォルムアルデヒド)でO/N固定し、次に30%ショ糖でO/N凍結保護し、TissueTechに包埋する。続いてミクロトームで切片を作製し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)でリンスし、0.01Mクエン酸バッファー(pH6.0)中で15分間電子レンジにかけてエピトープを回復させる。このような切片は続いて上述または本明細書のいずれかに記載されている方法を用いて染色できるが、段階的エタノール処理は割愛される。HRPに基づくアッセイを用いる場合、内因性ペルオキシダーゼ活性を抑制するため過酸化水素水を用いた。
【0090】
分析的FACS選別は、Lillys固定剤で45分間固定した細胞で実施する。上清を除去するため細胞を2mlチューブにおいて1400rpm、10分間、RTでペレット化する。この操作の後、細胞を0.1%BSA添加PBSで洗浄し、二次抗体を作製した動物由来の血清を10%血清(最終濃度)になるよう添加することによって細胞を1時間ブロッキングする。次に細胞をペレット化して上清を除去する。一次抗体溶液を添加し、O/N、RTでインキュベートした。翌日、細胞を3×5分間、2mlチューブにおいて(1.8mlを用いて)洗浄する。二次抗体を添加し、1時間、RTでインキュベートする。細胞を0.1%BSA添加PBSで3×5分間(1.8mlを用いて)洗浄する。最後に細胞をFACSによって検査する。
【0091】
完全に分化したβ細胞の同定は、細胞集団をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させ、染色を評価することによって達成できる。この分析は、蛍光励起細胞分取(FACS)、磁気細胞分離(MACS)、免疫組織化学(IHC)、ウエスタンブロット、PCRまたはELISAなどの方法を用いて行うことができる。
【0092】
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の方法によって得られる、単離された完全に分化したβ細胞に関する。
【0093】
一実施形態において、本発明は、G6PC2コードβ細胞表面タグを細胞表面マーカーとして発現する細胞を同定または選択するための、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬の使用に関する。一実施形態において、本発明は、膵内分泌細胞の培養物を得るための、G6PC2コードβ細胞表面タグの細胞表面マーカーとしての使用に関する。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と組み合わせて、同時にまたは連続的に、1種または複数の追加的な結合試薬が使用される。一実施形態において、前記追加的な結合試薬は、DNER、DDR1、プロミニン1(CD133としても知られる)およびCD49f結合試薬からなる群から選択される。一実施形態において、膵内分泌細胞の培養物を得るために、1種または複数のさらに別の細胞表面マーカーが同時にまたは連続的に使用される。一実施形態において、さらに別の細胞表面マーカーは、DNERタンパク質、DDR1タンパク質、プロミニン1(CD133としても知られる)およびCD49fからなる群から選択される。一実施形態において、さらに別の細胞表面マーカーは、DNERタンパク質またはDDR1タンパク質である。
【0094】
分離方法
一実施形態において、本発明は、完全に分化したβ細胞の培養物を得る方法であって、膵細胞を含む細胞集団をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させるステップと、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞の画分中の、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と結合する細胞を、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と結合しない細胞から分離するステップとを含む方法に関する。
【0095】
一実施形態において、分離ステップは蛍光励起細胞分取(FACS)によってなされる。一実施形態において、モニタリングステップはFACSによってなされる。一実施形態において、分離ステップはパニングによってなされる。一実施形態において、分離ステップはMACSによってなされる。
【0096】
通常は抗体である、G6PC2コードβ細胞表面タグと特異的に結合する蛍光標識した分子は、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞を選択するために、蛍光励起細胞分取装置(FACS)と併用して使用される。すなわち、一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は蛍光標識抗体とインキュベートされ、抗体結合の後、細胞はFACSによって分析される。セルソーターは、液体に懸濁した各細胞を蛍光光度計を経由して通過させる。蛍光量を測定し、コントロールの非標識細胞と比べて検出可能な程強い蛍光レベルを有する細胞を陽性細胞として選択する。
【0097】
β細胞上のG6PC2に結合した特異抗体を鉄粒子標識二次抗体とインキュベートし、続いて磁気を用いて選別することによって、磁気細胞分離(MACS)が行われる。
【0098】
膵細胞を含む細胞集団が膵臓から単離される一実施形態において、細胞はまず1回または複数回の継代の間培養され、次にG6PC2コードβ細胞表面タグに特異的な抗体で標識される。続いてFACSを用いて細胞を走査し、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞をG6PC2コードβ細胞表面タグ陰性細胞から分離する。本例は標識抗体を用いたFACS分析について記述しているが、G6PC2コードβ細胞表面タグと特異的に結合する他の分子、例えばレクチンやコラーゲンその他の上述または本明細書に列挙されているものなど、G6PC2コードβ細胞表面タグの結合相手もまた、本発明の実施に用いることができる。
【0099】
一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞をG6PC2コードβ細胞表面タグ陰性細胞から分離する方法は、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞を固体担体にアフィニティー吸着することによって行われる。
【0100】
G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞は、固体担体に取り付けられたG6PC2コードβ細胞表面タグ特異的な結合分子を用いることによって、G6PC2コードβ細胞表面タグ陰性細胞から分離することもできる。当業者は、G6PC2コードβ細胞表面タグ特異的分子がプロテインGまたはプロテインAなどの抗体結合分子を介して固体担体に結合できること、あるいは固体担体に直接的に結合できることを認めるであろう。抗G6PC2コードβ細胞表面タグ抗体を取り付けた固体担体は、例えば、両者共にStem Cell Technologies製であるStemSepおよびEasySepTMの磁気ビーズが市販されている。
【0101】
G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞は、パニングの技法によってG6PC2コードβ細胞表面タグ陰性細胞から分離することもできる。パニングは、固体表面をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬でコートし、膵細胞を表面上で適切な時間、適切な条件下でインキュベートすることによって行われる。平面、例えば培養皿が、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬でコートされる。
【0102】
膵細胞を前記表面に添加し、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と結合させる。
【0103】
次に培養皿を洗い、G6PC2コードβ細胞表面タグ陰性細胞を培養皿から除去する。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグ特異抗体は、培養皿をコートして、膵細胞集団におけるG6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞を「パニング」するために用いられる。
【0104】
一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグによる選択の前または後に、細胞をPtprn/IA2陽性細胞とPtprn/IA2陰性細胞とに分離することによって、細胞を精製できる。一実施形態において、細胞はAbcc8/Sur1陽性細胞とAbcc8/Sur1陰性細胞とに分離することができる。一実施形態において、細胞はSlc30a8/ZnT-8陽性細胞とSlc30a8/ZnT-8陰性細胞とに分離することができる。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグによる選択の前または後に、DNERタンパク質またはDDR1タンパク質など、1種または複数のさらに別の細胞外マーカーと組み合わせて細胞を精製することができる。一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団はβ細胞陽性画分である。一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団はptprn/IA2陽性画分である。一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団はAbcc8/Sur1陽性画分である。一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団はSlc30a8/ZnT-8陽性画分である。
【0105】
一実施形態において、本明細書に記載されている方法によって得られた膵内分泌細胞の培養物は、β細胞陽性画分においてさらに分離される。一実施形態において、本明細書に記載されている方法によって得られた膵内分泌細胞の培養物は、ptprn/IA2陽性画分においてさらに分離される。一実施形態において、本明細書に記載されている方法によって得られた膵内分泌細胞の培養物は、Abcc8/Sur1陽性画分においてさらに分離される。一実施形態において、本明細書に記載されている方法によって得られた膵内分泌細胞の培養物は、Slc30a8/ZnT-8陽性画分においてさらに分離される。一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は、Ptprn陽性画分、Abcc8陽性画分および/またはSlc30a8陽性画分など、β細胞陽性画分である。また、本明細書に記載されているいずれかの方法によって得られた膵内分泌細胞の培養物は、Ptprn陽性/陰性画分、Abcb9陽性/陰性画分および/またはSlc30a8陽性/陰性画分など、β細胞陽性/陰性画分においてさらに分離することもできる。
【0106】
当業者であれば、分離方法に関する本明細書または上節におけるあらゆる詳細は、G6PC2コードβ細胞表面タグに関して明確に記されているが、他の細胞外タンパク質にも適用できることを理解できるであろう。このような細胞外タンパク質は、DNER、DDR1、プロミニン1(CD133としても知られる)およびCD49fからなる群から選択されるタンパク質を含む。特に、このような細胞外タンパク質はDNERまたはDDR1となることができる。
【0107】
胚性幹(ES)細胞がβ細胞に分化する間に、例えば神経細胞や非膵臓内胚葉など、他の細胞型もまた産生され得ることが予想される。ES細胞は、アクチビンAによって内胚葉細胞に、続いて膵細胞に分化できる。ひとたび膵発生運命が獲得されると、所望の細胞を単離することができる。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬は、膵臓の完全に分化したβ細胞と特異的に結合するであろう。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグのマーカーとしての使用は、完全に分化したβ細胞を含み、膵細胞以外の内胚葉細胞など、他の細胞型の割合が小さい、例えば20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2%未満または他の細胞型を全く含まない細胞集団を提供するであろう。一実施形態において、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と1種または複数の追加的な結合試薬を用いて、二重選別が行われる。一実施形態において、膵内分泌細胞を含み、実質的に他の細胞型を含まない組成物を製造することができる。一実施形態において、完全に分化したβ細胞を含み、実質的に他の細胞型を含まない組成物を製造することができる。一実施形態において、表現「実質的に含まない」は、細胞培養物または細胞集団が、全細胞数に対して20%未満の、完全に分化したβ細胞以外の細胞型を含む細胞培養物または細胞集団であると理解するべきである。
【0108】
一実施形態において、本発明は、得られた細胞集団が少なくとも30%、例えば少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%の完全に分化したβ細胞からなる方法に関する。
【0109】
一実施形態において、本発明は、出発細胞集団が内胚葉由来のものであり、得られた細胞集団が少なくとも30%、例えば少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%の完全に分化したβ細胞からなる方法に関する。
【0110】
一実施形態において、追加的な結合試薬は、Kir6.2およびSur1からなる群から選択される。一実施形態において、追加的な結合試薬は、DNER、DDR1、プロミニン1(CD133としても知られる)およびCD49f結合試薬からなる群から選択される。本発明の一実施形態において、追加的な結合試薬はDNERまたはDdr1結合試薬である。
【0111】
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の方法のいずれかによって得られる、完全に分化したβ細胞からなる群から選択される単離細胞に関する。
【0112】
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の方法によって得られる、単離された完全に分化したβ細胞を含む組成物に関する。
【0113】
細胞分化マーカー
膵細胞集団を同定するために使用することができる、多くの細胞マーカーが存在する。単離され培養されたドナー細胞は、分化した膵細胞の様々な表現型と遺伝子型の印を表し始める。表現型と遺伝子型の印の例として、条件的前駆細胞集団に存在し、変化する(例えば、促進または抑制される)様々な分子マーカーが挙げられる。これら分子マーカーは、CK-19またはPdxl/Nkx6.1/Ptf1a三重陽性細胞を含み、これは膵条件的幹細胞(すなわち、複能性膵幹細胞)のマーカーであるとの仮説が立てられている。
【0114】
通常、哺乳類幹細胞は、その最終発生過程の終点に成熟するにつれ多くの発生段階を経て進行する。発生段階は多くの場合、発達中の細胞に存在するあるいは存在しないマーカーを同定することによって決定できる。ヒト内分泌細胞は同様の仕方で発達するため、幹細胞様表現型から疑性島表現型に移行する細胞を同定するために、様々なマーカーを用いることができる。
【0115】
本発明の方法によって増殖または分化するよう誘導された細胞におけるマーカーの発現は、通常のヒト膵発生における一連のマーカー発現とある程度の類似性を有する。発生の非常に初期において、始原上皮細胞はホメオドメイン核因子初期細胞マーカーであるPdx-1を発現する。細胞が発達するにつれ、細胞は出芽し管を形成する。この細胞は、上皮管細胞のマーカーであるサイトケラチン19を発現し、一時的にNgn-3を発現して発生的に内分泌細胞に導く。この細胞は、内分泌細胞に向かって発達し続けるにつれてインスリン、ソマトスタチン、グルカゴン、グレリンまたは膵ポリペプチドを発現する能力を獲得する。最終分化した細胞は1種類だけを発現でき、α細胞(グルカゴン)、β細胞(インスリン)、δ細胞(ソマトスタチン)、ε細胞(グレリン)およびPP細胞となる。
【0116】
ptprn/IA2、Abcc8/Sur1およびSlc30a8/ZnT-8などの他のタンパク質は、完全に分化したβ細胞を同定、濃縮および/または単離するために用いることができる。
【0117】
目的マーカーは、膵臓において時間および組織特異的なパターンで発現する分子である(Hollingsworth、Ann N YAcad Sci 880:38-49(1999)を参照)。この分子マーカーは、3種類の一般的なカテゴリーに分けられる。すなわち、転写因子、notch経路マーカーおよび中間径フィラメントマーカーである。転写因子マーカーの例として、Pdx-1、NeuroD、Nkx-6.1、Isl-1、Pax-6、Pax-4、Ngn-3およびHES-1が挙げられる。
【0118】
Notch経路マーカーの例として、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Jagged1、Jagged2、Dll1およびRBPjkが挙げられる。中間径フィラメントマーカーの例として、CK19とnestinが挙げられる。膵β細胞前駆体のマーカーの例として、Pdx-1、Pax-4、Ngn-3およびHb9が挙げられる。完全に分化した膵β細胞のマーカーの例として、インスリン、ptprn/IA2、Abcc8/Sur1およびSlc30a8/ZnT-8が挙げられる。
【0119】
インスリンmRNA発現
膵細胞の独自性、分化または成熟を特徴付けるために用いることのできる1マーカーは、インスリンmRNAレベルである。例えば、本発明の中間的細胞集団は、規定範囲内のインスリンmRNA発現を示す。インスリンmRNAを定量するための方法として、ノーザンブロットや、ヌクレアーゼプロテクション、プライマー伸長法が挙げられる。
【0120】
一実施形態において、RNAは培養細胞集団から抽出され、プロインスリンメッセンジャーの量は定量逆転写PCRによって測定される。逆転写に続いて、インスリンcDNA配列にハイブリダイズするプライマーと、増幅産物量がサンプル中に存在するmRNA量に関連するような増幅条件とを用いて、サンプルからインスリンcDNAを特異的および定量的に増幅する(例えば、Zhouら、J Biol Chem 272:25648-51(1997)を参照)。出発mRNAレベルを決定できる正確性を有するため、動的定量の手順が好ましい。
【0121】
多くの場合、インスリンmRNA量は、アクチン特異的プライマーを用いて同一RNAサンプルから特異的に増幅されたアクチンなど、構成的発現mRNAに対して正規化される。したがって、インスリンmRNA発現レベルは、インスリンmRNA増幅産物のアクチンmRNA増幅産物に対する比率、あるいは単にインスリン:アクチンmRNA比として報告することができる。他の膵ホルモン(例えば、ソマトスタチンやグルカゴン)をコードするmRNAの発現も、同様の方法で定量できる。インスリンとアクチンのmRNAレベルは、in situハイブリダイゼーションによって決定することもでき、続いてインスリン:アクチンmRNA比を決定するために使用することができる。in situハイブリダイゼーション法が当業者に知られている。
【0122】
増殖方法
一実施形態において、本発明は、完全に分化したβ細胞の数を増殖する方法であって、上述または本明細書に記載の方法に従って精製された細胞を得るステップと、続いて完全に分化したβ細胞の増殖を促進する条件下で、得られた細胞を培養するステップとを含む方法に関する。
【0123】
胎児/成体組織および幹細胞由来の膵細胞を増殖するためのプロトコルは、Heimberg, H.ら(2000)、Diabetes 49、571-9、Heremans, Y.ら(2002)、J Cell Biol 159、303-12、Miralles, F.ら(1998)、Development 125、1017-24、およびMiralles, F.ら(1999)、Dev Dyn 214、116-26に記載のプロトコルに例示されているが、これらに限定されるものではない。
【0124】
機能アッセイ
β細胞の重要な機能の一つに、グルコース濃度に応じて自身のインスリン分泌を調整することが挙げられる。通常、静的グルコース刺激(SGS)アッセイを、増殖している付着膵細胞で行って、細胞が様々なグルコース濃度に応じてインスリンを分泌できるかどうか確認することができる。細胞は通常、ほぼコンフルエントになるまで適切な基質上で培養される。SGS試験の3日前に、培地を同じ特性だがインスリンを含まず、グルコースを1g/Lだけ含む培地に交換する。3日間毎日培地を交換し、4日目にSGS試験を行う。
【0125】
試験前に、グルコースおよびインスリン分析のために培地を回収することができる。試験用に細胞を準備するため、細胞をDulbeccoリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)+0.5%BSAで2回、各回5分間インキュベートしつつ洗浄し、次にDPBS単独で1回、同様に5分間インキュベートしつつ洗浄する。洗浄後、細胞を10ml(100mm皿)または5ml(60mm皿)の60mg/dlグルコース添加Krebs-Ringers SGS溶液(KRB-60)で30分間、37℃のインキュベータでインキュベートする。続いてこのインキュベートを繰り返す。
【0126】
SGSアッセイを行うため、細胞を3ml(100mm皿)、4ml(T75フラスコ)または2ml(60mm皿)のKRB-60で37℃、20分間インキュベートする。培地を吸引し、スピンし、LG-1(低グルコース刺激ステップ)としてのインスリンアッセイのため回収する。次にKRB-450+theo(450mg/dlグルコースおよび10mMテオフィリン添加KRB)を上と等量添加し、上と同じ条件下で細胞を培養する。HG(高グルコース刺激)としてのインスリンアッセイのため、上清を回収する。次に細胞を再度KRB-60でインキュベートし、培地をLG-2として、さらにもう一度LG-3として回収する。インスリン分析のため培地を回収し、インスリン含有量を放射免疫測定(RIA)または他の適切なアッセイによって決定するまで-20℃で保存する。
【0127】
SGS試験の結果は、多くの場合、HGインスリン値をLG-1インスリン値で割った値として定義された刺激指数として表される。一般に、約2以上の刺激指数はSGSアッセイにおいて陽性の結果であると考えられるが、他の値(例えば、1.5、2.5、3.0、3.5など)は特定の細胞集団を定義するために用いることができる。
【0128】
治療方法
一実施形態において、本発明は、少なくとも1種の膵ホルモンの産生を欠損した哺乳類に膵内分泌機能を提供する方法であって、上述または本明細書に記載の方法のいずれかによって細胞が得られ、前記方法が、哺乳類において測定可能量の少なくとも1種の膵ホルモンを産生するのに十分な量の得られた細胞を哺乳類に埋め込むステップをさらに含む方法に関する。
【0129】
当業者であれば、G6PC2コードβ細胞表面タグを用いて選択された細胞またはさらに培養された細胞が、埋め込みおよび哺乳類の膵機能回復のために再生可能な資源を提供することを認めるであろう。
【0130】
ユーザーの必要に応じて、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞は、埋め込み前にカプセル封入することができる。
【0131】
哺乳類に埋め込む前の膵細胞分化は、グルコース応答性インスリン産生β細胞、すなわち単離ランゲルハンス島のβ細胞に相当する細胞など、完全に分化した内分泌細胞および完全に分化したβ細胞からなる群から選択される分化ステージとなることができる。いわゆるEdmontonプロトコルを用いた単離ランゲルハンス島の埋め込みの例は、Shapiro AM(2000)、N Engl J Med.; 343(4):230-8に見出すことができる。
【0132】
G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞のカプセル封入は、カプセル内における細胞凝集塊の形成をもたらす。カプセル封入によって、宿主動物の免疫応答を最小限にしつつ膵細胞を1型糖尿病の宿主に移植することができる。封入膜の孔は、宿主の免疫系が外来細胞に接近するのを制限しつつインスリンなどの生体材料がカプセルから分泌できるよう選択できる。
【0133】
カプセル封入法は本技術分野において公知であり、次の参考文献、van Schelfgaarde &de Vos、J. Mol. Med. 77: 199-205 (1999)、Uludagら、Adv. DrugDel Rev. 42: 29-64 (2000)ならびに米国特許第5,762,959号、第5,550,178号および第5,578,314号、に開示されている。
【0134】
カプセル封入法は、参照により本明細書に組み込まれている国際出願PCT/US02/41616号に詳述されている。
【0135】
哺乳類への埋め込みまたは移植と、それに続く内分泌機能のモニタリングは、膵島移植に通常用いられる方法に従って行うことができる。例えば、Ryanら、Diabetes 50: 710-19 (2001)、Peckら、Ann Med 33: 186-92 (2001)、Shapiroら、N Engl J Med 343 (4): 230-8 (2000)、Carlssonら、Ups J Med Sci 105 (2): 107-23 (2000)およびKuhtreiber、WM、Cell Encapsulation Technology and Therapeutics、Birkhauser、ボストン、1999を参照。埋め込みに好ましい部位は、腹膜腔、肝臓および腎臓被膜を含む。
【0136】
当業者であれば、未成熟膵細胞を含む膵細胞を用いて移植を行う場合、膵ホルモンや血糖値の測定など、β細胞機能の測定は、移植後少なくとも2週間、例えば少なくとも4週間、少なくとも6週間または少なくとも8週間後に行われるべきことを理解するであろう。対照的に、分化した膵細胞を用いて移植を行う場合、膵ホルモンや血糖値の測定など、β細胞機能の測定は、移植の直後、例えば移植後12時間より前、24時間より前または36時間より前に行われるべきである。
【0137】
当業者であれば、対象レシピエントに対して、完全に分化したβ細胞またはマイクロカプセルの数の適切な用量を決定できるであろう。用量は、レシピエントのインスリン要求性に依存するであろう。規定数のβ細胞またはマイクロカプセルによって分泌されたインスリンレベルは、免疫学的にあるいは生物活性量によって決定できる。レシピエントの体重も用量決定の際に勘案することができる。必要に応じて、レシピエントの(場合によってカプセル封入された)細胞に対する反応をモニターしながら複数回の埋め込みを行うことができる。したがって、埋め込みに対する反応は、(場合によってカプセル封入された)細胞用量の指針として用いることができる。(Ryanら、Diabetes 50: 710-19 (2001))
【0138】
レシピエントにおける(場合によってカプセル封入された)細胞の機能は、レシピエントのグルコースに対する反応をモニターすることによって決定できる。(場合によってカプセル封入された)細胞の埋め込みは、血糖値の調節をもたらすことができる。その上、膵内分泌ホルモン、インスリン、C-ペプチド、グルカゴンおよびソマトスタチンレベル上昇の徴候は、移植(場合によってカプセル封入された)細胞の機能を示すことができる。
【0139】
当業者であれば、血糖の調節は様々な方法でモニターできることを認めるであろう。例えば、血糖は体重やインスリン要求で可能なように直接的に測定できる。経口グルコース負荷試験もまた可能である。腎機能もまた、他の代謝パラメーターで可能なように決定できる。(Soon-Shiong, P.ら、PNAS USA 90: 5843-5847 (1993); Soon-Shiong、P.ら、La71cet 343: 950-951 (1994))
【0140】
本明細書において、用語「インスリン産生内分泌膵細胞」は、インスリンを産生し、血糖依存的な仕方でインスリンを分泌する細胞を意味する。
【0141】
一実施形態において、膵細胞を含む細胞集団は培養ソースから単離される(本発明)。次に単離細胞は、例えば、さらなる培養、あるいは米国特許第5,762,959号のマイクロカプセル封入方法に従ったマイクロカプセル封入に用いられる。
【0142】
用語「膵機能を、そのような機能を必要とする哺乳類に提供する」は、膵ホルモンを、そのようなホルモンを独力で産生できない哺乳類の体で産生する方法を意味する。一実施形態において、膵ホルモンは、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチドおよびグレリンからなる群から選択される。一実施形態において、インスリンは糖尿病哺乳類の体で産生される。膵機能は、本開示の方法によって作製されたインスリン産生膵細胞を哺乳類に埋め込むまたは移植することによって提供される。埋め込まれた凝集塊の数は、哺乳類において測定可能量のインスリンを産生するのに十分な量である。インスリンは、ELISAアッセイもしくは放射免疫アッセイ、または血糖値の維持などのインスリン機能アッセイを含む、当業者に知られた他の検出方法によって測定できる。
【0143】
インスリンは、等モル量のC-ペプチドと共分泌する。したがって、インスリン分泌活性は、血液中のC-ペプチドを検出することによっても測定できる。一実施形態において、膵機能の提供は、哺乳類の体外で産生されたインスリンへの依存を減らすまたはなくすのに十分である。
【0144】
「カプセル封入」は、細胞がアルギン酸ナトリウムやポリリジンなど、生体適合性無細胞材料に取り囲まれるプロセスを意味する。好ましくは、砂糖などの小分子や低分子量タンパク質が、カプセル封入細胞を取り巻く環境中から取り込まれてもよいし、あるいは環境中に分泌されてもよい。同時に、カプセル封入細胞への大きな分子や免疫細胞の接近は制限されている。
【0145】
「埋め込み」とは、細胞をレシピエントに移植または配置することである。これはカプセル封入細胞と非カプセル封入細胞を含む。細胞は、当技術分野において公知の方法によって皮下、筋肉内、門脈内または腹腔内に配置することができる。
【0146】
一実施形態において、分離ステップは蛍光励起細胞分取によってなされる。一実施形態において、分離ステップはパニングによってなされる。一実施形態において、分離ステップは流動層によってなされる。
【0147】
一実施形態において、本発明は、G6PC2コードβ細胞表面タグを細胞表面マーカーとして発現する細胞を同定または選択するための、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬の使用に関する。一実施形態において、本発明は、G6PC2コードβ細胞表面タグを細胞表面マーカーとして発現する細胞を同定または選択するための、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と同じ分析ステップに付される1種または複数の追加的な結合試薬と組み合わせた、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬の同時の、または連続的な使用に関する。一実施形態において、追加的な結合試薬はKir6.2およびSur1からなる群から選択される。一実施形態において、追加的な結合試薬はDNER、DDR1、プロミニン1(CD133としても知られる)およびCD49f結合試薬からなる群から選択される。一実施形態において、追加的な結合試薬はDNERまたはDDR1結合試薬である。
【0148】
本発明の一実施形態において、追加的な結合試薬は、Ptprn/IA2、Abcc8/Sur1およびSlc30a8/ZnT-8結合試薬からなる群から選択され、これらの試薬を使用して、初期および完全に分化した内分泌細胞を単離することができる。
【0149】
一実施形態において、本発明は、膵機能をそのような機能を必要とする哺乳類に提供することによって1型糖尿病を治療する方法に関する。
【0150】
本発明の実施形態
1.G6PC2によってコードされる単離ペプチドであって、i)細胞外部分と、ii)G6PC2の1個または数個のエクソンにおける欠失とを含み、ただし、MDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYTFLNFMSNVGDPRNIFFIYFPLCFQFNQTVGTKMIWVAVIGDWLNLIFKWKSIWPCNGRILCLVCHGNRCPEPHCLWDGではないペプチド。
【0151】
2.細胞外部分からなる、実施形態1に記載の単離ペプチド。
【0152】
3.G6PC2のエクソン1、エクソン2、エクソン3、エクソン4およびエクソン5からなる群から選択される1個または複数のエクソンに含まれる配列を含む、実施形態1または2に記載の単離ペプチド。
【0153】
4.G6PC2のエクソン1、エクソン2、エクソン3、エクソン4およびエクソン5からなる群からの1個または複数から選択される配列における欠失を含む、実施形態1から3のいずれかに記載の単離ペプチド。
【0154】
5.MDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYT(配列番号3)、MLVAEAFEHTPGIQTASLGT(配列番号4)、LLSCRGGNNY(配列番号5)、HMLMKQSGKKSQ(配列番号6)およびMLVAEAFEHTPGIQ (配列番号8)ならびにそれらの変異体からなる群から選択される配列を含む、実施形態1から4のいずれかに記載の単離ペプチド。
【0155】
6.MDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYT(配列番号3)、MLVAEAFEHTPGIQTASLGT(配列番号4)、LLSCRGGNNY(配列番号5)、HMLMKQSGKKSQ(配列番号6)およびMLVAEAFEHTPGIQ (配列番号8)ならびにそれらの変異体からなる群から選択される配列からなる、実施形態1から5のいずれかに記載の単離ペプチド。
【0156】
7.MDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYT(配列番号3)、MLVAEAFEHTPGIQTASLGT(配列番号4)、LLSCRGGNNY(配列番号5)、HMLMKQSGKKSQ(配列番号6)およびMLVAEAFEHTPGIQ(配列番号8)からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、例えば少なくとも90%または少なくとも96%の同一性を有する天然に存在するアミノ酸配列を含む、実施形態1から6のいずれかに記載の単離ペプチド。
【0157】
8.実施形態1から7に記載の単離ペプチドの断片または全長IGRPの一部である、実施形態1から7のいずれかに記載の単離ペプチド。
【0158】
9.実施形態1から8のいずれかに記載のペプチドをコードする単離ヌクレオチド。
【0159】
10.実施形態1から8のいずれかに記載のペプチドを発現する単離細胞。
【0160】
11.完全に分化したβ細胞を同定する方法であって、膵細胞を含む細胞集団をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させるステップを含み、G6PC2コードβ細胞表面タグが場合によって、実施形態1から8のいずれかに記載のものである方法。
【0161】
12.完全に分化したβ細胞の培養物を得る方法であって、膵細胞を含む細胞集団をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させるステップと、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞の画分においてG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と結合する細胞を、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と結合しない細胞から分離するステップとを含み、G6PC2コードβ細胞表面タグが場合によって、実施形態1から87のいずれかに記載のものである方法。
【0162】
13.少なくとも1種の膵ホルモンの産生を欠損した哺乳類に膵内分泌機能を提供する方法であって、実施形態11から12のいずれか一実施形態に記載の方法によって細胞が得られ、前記方法が、哺乳類において測定可能量の少なくとも1種の膵ホルモンを産生するのに十分な量の得られた細胞を哺乳類に埋め込むステップをさらに含む方法。
【0163】
14.前記少なくとも1種の膵ホルモンが、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチドおよびグレリンからなる群から選択される、実施形態11から13のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0164】
15. a)細胞をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させ、b)G6PC2コードβ細胞表面タグを細胞表面マーカーとして提示する細胞(G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞)の量を決定することにより、膵細胞を含む、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞を定量する方法であって、G6PC2コードβ細胞表面タグが場合によって、実施形態1から8のいずれかに記載のものである方法。
【0165】
16.G6PC2コードβ細胞表面タグを発現している細胞(G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞)の数が定期的にモニターされる、in vitroプロトコルを最適化するための方法であって、G6PC2コードβ細胞表面タグが場合によって、実施形態1から8のいずれかに記載のものである方法。
【0166】
17.1種または複数の追加的な結合試薬が、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と組み合わせて同時にまたは連続的に使用される、実施形態11から16のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0167】
18.追加的な結合試薬が、DNER、DDR1、プロミニン1(CD133としても知られる)およびCD49f結合試薬からなる群から選択される、実施形態17に記載の方法。
【0168】
19.追加的な結合試薬がDNERまたはDDR1結合試薬である、実施形態17に記載の方法。
【0169】
20.膵細胞を含む細胞集団が膵臓から得られる、実施形態11から19のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0170】
21.膵細胞を含む細胞集団が体細胞集団から得られる、実施形態11から19のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0171】
22.膵細胞を含む細胞集団が、ES細胞などの多能性細胞から得られる、実施形態11から19のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0172】
23.膵細胞を含む細胞集団が哺乳類由来である、実施形態11から22のいずれかに記載の方法。
【0173】
24.膵細胞を含む細胞集団がヒト由来である、実施形態11から23のいずれかに記載の方法。
【0174】
25.膵細胞を含む細胞集団がβ細胞陽性画分である、実施形態11から24のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0175】
26.膵細胞を含む細胞集団がptprn/IA2陽性画分である、実施形態11から24のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0176】
27.膵細胞を含む細胞集団がAbcc8/Sur1陽性画分である、実施形態11から24のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0177】
28.膵細胞を含む細胞集団がSlc30a8/ZnT-8陽性画分である、実施形態11から24のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0178】
29.実施形態1から28のいずれかに記載の方法によって得られる膵内分泌細胞の培養物が、β細胞陽性画分においてさらに分離される、実施形態11から24のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0179】
30.実施形態1から29のいずれかに記載の方法によって得られる膵内分泌細胞の培養物が、ptprn/IA2陽性画分においてさらに分離される、実施形態11から24のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0180】
31.実施形態1から30のいずれかに記載の方法によって得られる膵内分泌細胞の培養物が、Abcc8/Sur1陽性画分においてさらに分離される、実施形態11から24のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0181】
32.実施形態1から31のいずれかに記載の方法によって得られる膵内分泌細胞の培養物が、Slc30a8/ZnT-8陽性画分においてさらに分離される、実施形態11から24のいずれか一実施形態に記載の方法。
【0182】
33.G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬が、G6PC2コードβ細胞表面タグと特異的に結合する抗体である、実施形態11から32のいずれかに記載の方法。
【0183】
34.分離ステップまたはモニタリングステップが蛍光励起細胞分取によってなされる、実施形態11から33のいずれかに記載の方法。
【0184】
35.分離ステップがパニングによってなされる、実施形態11から34のいずれかに記載の方法。
【0185】
36.前記少なくとも1種の膵ホルモンがインスリンである、実施形態13に記載の方法。
【0186】
37.哺乳類がヒトである、実施形態11から37に記載の方法。
【0187】
38.細胞が完全に分化したβ細胞である、実施形態11から37のいずれかに記載の方法。
【0188】
39.G6PC2コードβ細胞表面タグが、実施形態1から8のいずれかに記載のものである、実施形態11から38のいずれかに記載の方法。
【0189】
40.G6PC2コードβ細胞表面タグが全長IGRPの一部である、実施形態11から38のいずれかに記載の方法。
【0190】
41.実施形態11から40のいずれかに記載の方法によって得られる、単離された完全に分化した内分泌β細胞。
【0191】
42.実施形態11から40のいずれかに記載の方法によって得られる、単離された完全に分化したβ細胞を含む組成物。
【0192】
43.G6PC2コードβ細胞表面タグを細胞表面マーカーとして発現する細胞を同定または選択するための、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬の使用であって、G6PC2コードβ細胞表面タグが場合によって、実施形態1から8のいずれかに記載のものである使用。
【0193】
44.膵内分泌細胞の培養物を得るための、G6PC2コードβ細胞表面タグの細胞表面マーカーとしての使用であって、G6PC2コードβ細胞表面タグが場合によって、実施形態1から8のいずれかに記載のものである使用。
【0194】
45.膵内分泌細胞の培養物を得るために1種または複数のさらに別の細胞表面マーカーが同時にまたは連続的に使用される、実施形態44に記載の使用。
【0195】
46.さらに別の細胞表面マーカーが、DNERタンパク質、DDR1タンパク質、プロミニン1(CD133としても知られる)およびCD49fからなる群から選択される、実施形態45に記載の使用。
【0196】
47.さらに別の細胞表面マーカーがDNERタンパク質またはDDR1タンパク質である、実施形態45に記載の使用。
【0197】
48.G6PC2コードβ細胞表面タグが、実施形態1から8のいずれかに記載のものである、実施形態43から47のいずれかに記載の使用。
【0198】
49.G6PC2コードβ細胞表面タグが全長IGRPの一部である、実施形態43から48のいずれかに記載の使用。
【0199】
50.G6PC2コードβ細胞表面タグに特異的に結合する抗体であって、G6PC2コードβ細胞表面タグが場合によって、実施形態1から8のいずれかに記載のものである抗体。
【0200】
51.G6PC2コードβ細胞表面タグが実施形態1から8のいずれかに記載のものである、実施形態50に記載の抗体。
【0201】
52.G6PC2コードβ細胞表面タグが全長IGRPの一部である、実施形態50に記載の抗体。
【0202】
53.細胞の外表面に存在し、かつ/または検出可能である、実施形態1から52のいずれかに記載の単離ペプチド。
【実施例】
【0203】
(実施例1)
インスリン発現とG6PC2の共局在
成人の膵組織を回収し、4%パラフォルムアルデヒド(PFA)/PBSで一晩(O/N)固定した。組織を30%ショ糖/PBSで平衡化しTissueTechに包埋した。8μmの切片を作製し、-80℃で保存した。切片を室温(RT)で解凍し、PBSで洗浄し、0.01Mクエン酸バッファー中で電子レンジにかけ、1%H2O2/PBSで30分間インキュベートし、続いて0.5%TNBブロッキング試薬(Perkin-Elmer製)でブロッキングした。抗G6PC2抗体は、C末端のシステインを介してウサギにおけるKLH(キーホール・リンペット・ヘモシアニン)と結合したMDFLHRNGVLIIQHLQKDYRAYYTFCに対して作製した。次に1:9000のウサギ抗G6PC2抗体(Rb-抗-G6PC2)、1:150のモルモット抗インスリン抗体(Gp-抗-Ins)を添加し、O/NでRTでインキュベートした。翌日、切片をPBSで洗浄し、ビオチン化ロバ抗ウサギ抗体およびロバ抗モルモット抗体-cy2を添加し、45分間インキュベートした。PBSで細胞を洗浄した後、ストレプトアビジン-HRPを添加し、15分間インキュベートした。その後、細胞をPBSで洗浄した。最後に、着色を現像するためにチラミド-cy3を添加した。
【0204】
その結果、ランゲルハンス島において健常なG6PC2発現が示された。ランゲルハンス島の外側に、より弱い発現も観察された。ランゲルハンス島においてG6PC2のシグナルはインスリンと共局在し、G6PC2がβ細胞で発現することを示した。
【0205】
(実施例2)
in vitroプロトコルの最適化
一実施形態において、膵細胞を含むin vitro培養物はG6PC2コードβ細胞表面タグの発現に対して定期的にモニターされる。一実施形態において、1種または複数の追加的なマーカーをG6PC2コードβ細胞表面タグと組み合わせて、同時にあるいは連続的に用いることができる。一実施形態において、追加的なマーカーは、DNER、プロミニン1(CD133としても知られる)、CD49f、DISP2、LRP11、SLC30A8およびSEZ6L2からなる群から選択される。一実施形態において、追加的なマーカーは、DNER、DDR1タンパク質、プロミニン1(CD133としても知られる)およびCD49fからなる群から選択される。一実施形態において、追加的なマーカーはDNERまたはDDR1タンパク質である。
【0206】
胚性幹細胞分化の効率的な最適化のため、完全に分化した内分泌細胞および/または完全に分化したβ細胞に向かう膵細胞発生の様々なステージを同定するマーカーを有することが非常に重要である。G6PC2コード表面タグは、これまで他のマーカーによっては検出することができなかった細胞分化の重要で特異的なステージを特定するために用いることができる。G6PC2コード表面タグは、1種または複数の追加的なマーカーと組み合わせて用いることができる。
【0207】
G6PC2コードβ細胞表面タグを発現する細胞は、本明細書に記載されている方法、例えばFACS、パニング、MACSを用いて同定、濃縮および/または単離することができる。
【0208】
本明細書に引用されている刊行物、特許出願および特許を含むあらゆる参考文献は、これによりその全体が、あたかも各参考文献が参照により組み込まれることがそれぞれ具体的に示され、その全体が本明細書において(法律が許す最大限の範囲で)説明されているのと同じ範囲で、参照により本明細書に組み込まれている。
【0209】
あらゆる見出しと小見出しは、単に便宜のためだけに本明細書に用いられており、本発明を限定するものとして理解してはならない。
【0210】
本明細書に提示されているありとあらゆる例または例示的な用語(例えば、「などの」)の使用は、単に本発明をより良く説明することを目的としており、別のことが主張されていない限り本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書における用語は、特許請求の範囲に記載されていない要素が発明の実施に必要であることを示すものとして理解するべきではない。
【0211】
本明細書における特許文書の引用および援用は便宜のためだけになされるものであり、このような特許文書の有効性、特許性および/または権利行使可能性に関するいかなる意見も反映していない。
【0212】
本発明は、適用法に許されているように、本明細書に添付の特許請求の範囲に記述されている対象のあらゆる変形と均等物とを含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全に分化したβ細胞を同定する方法であって、膵細胞を含む細胞集団をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させるステップを含む方法。
【請求項2】
完全に分化したβ細胞の培養物を得る方法であって、膵細胞を含む細胞集団をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させるステップと、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞の画分中の、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と結合する細胞を、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と結合しない細胞から分離するステップとを含む方法。
【請求項3】
少なくとも1種の膵ホルモンの産生を欠損した哺乳類に膵内分泌機能を提供する方法であって、請求項1または2に記載の方法によって細胞が得られ、前記方法が、哺乳類において測定可能量の少なくとも1種の膵ホルモンを産生するのに十分な量の得られた細胞を哺乳類に埋め込むステップをさらに含む方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の膵ホルモンが、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ポリペプチドおよびグレリンからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
a)細胞をG6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と接触させ、b)G6PC2コードβ細胞表面タグを細胞表面マーカーとして提示する細胞(G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞)の量を決定することにより、膵細胞を含む、G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞を定量する方法。
【請求項6】
G6PC2コードβ細胞表面タグを発現している細胞(G6PC2コードβ細胞表面タグが陽性である細胞)の数が定期的にモニターされる、in vitroプロトコルを最適化するための方法。
【請求項7】
1種または複数の追加的な結合試薬が、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬と組み合わせて同時にまたは連続的に使用される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
追加的な結合試薬が、DNER、DDR1、CD133としても知られるプロミニン1およびCD49f結合試薬からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
細胞が完全に分化したβ細胞である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
G6PC2コードβ細胞表面タグが全長IGRPの一部である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって得られる、単離された完全に分化した内分泌β細胞。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって得られる、単離された完全に分化したβ細胞を含む組成物。
【請求項13】
G6PC2コードβ細胞表面タグを細胞表面マーカーとして発現する細胞を同定または選択するための、G6PC2コードβ細胞表面タグ結合試薬の使用。
【請求項14】
膵内分泌細胞の培養物を得るための、細胞表面マーカーとしてのG6PC2コードβ細胞表面タグの使用。
【請求項15】
G6PC2コードβ細胞表面タグに特異的に結合する抗体。

【図2】
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【図1】
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【公表番号】特表2012−504230(P2012−504230A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−528369(P2011−528369)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062696
【国際公開番号】WO2010/037784
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(509091848)ノヴォ ノルディスク アー/エス (42)
【Fターム(参考)】