説明

GDNF由来ペプチド

本発明は、TGFベータスーパーファミリーに属するタンパク質に由来するペプチドフラグメント、それらのペプチドフラグメントを含む医薬組成物、および、神経細胞の分化、神経細胞の生存の刺激、学習および記憶に関連する神経可塑性の刺激および/または炎症反応の抑制作用が治療に有益な疾患または症状の治療のための前記ペプチドフラグメントおよび医薬組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TGFベータスーパーファミリーに属するタンパク質に由来するペプチドフラグメント、それらのペプチドフラグメントを含む医薬組成物、および、神経細胞分化、神経細胞の生存の刺激、学習および記憶に関連する神経可塑性の刺激および/または炎症反応の抑制作用が治療に有益である疾患または症状を処置するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
GDNFは初め、1990年代の初期に精製され、中脳ドーパミン作動性神経細胞の生存および分化を補助する神経栄養因子として特徴付けられ、またGDNFのアミノ酸配列に基づきGDNF遺伝子のクローニングが実現した(Lin et al., 1993)。ニュールツリン(Neurturin)(NRTN。NTNとしても知られる。)は、交感神経細胞の生存を促進する能力に基づいて1996年に単離された(Kotzbauer et al., 1996)。その後、ペルセフィン(persephin)(PSPN。PSPとしても知られる。)およびアルテミン(artemin)(ARTN。ARTとしても知られる。)が配列相同性に基づいてクローニングされた(Milbrandt et al., 1998; Baloh et al., 1998)。報告によると、ゲノムデータベースの分析では他の機能性GDNFファミリーリガンド(GFL)は発見されそうにないことが示されている(Airaksinen & Saarma, 2002)。
【0003】
様々な生物学的作用がGFLに基づくものである。NRTN、PSPNおよびARTNもGDNFのように、中脳のドーパミン作動性神経細胞の生存を促進する(Lin et al., 1993; Milbrandt et al., 1998; Baloh et al., 1998a)。中枢運動神経(Milbrandt et al., 1998)およびノルアドレナリン作動性神経(Arenas et al., 1995)を含むCNSのいくつかの他の神経サブ集団の生存がGFLにより補助されている。GDNF、NRTNおよびARTNはまた、交感神経、副交感神経、感覚神経(Kotzbauer et al., 1996; Baloh et al., 1998)および腸神経(Hearn et al., 1998)を含むPNSの神経の生存も補助する。GFLは生存促進作用に加え、神経の分化も促進する(Lin et al., 1993; Baloh et al., 1998a; Yan et al., 2003; Paratcha et al., 2003)。
【0004】
分泌タンパク質に典型的なように、GDNFファミリーのこの4メンバーは不活性なプレプロ型として合成される。GDNFのプレプロ型からシグナルペプチドが切断され、プロGDNFが分泌される。プロGDNFはさらなる切断により134アミノ酸長の成熟GDNFとなる。成熟NRTNは100アミノ酸を含有し、成熟PSPNは96アミノ酸からなり、成熟ARTNは113アミノ酸を含有する(Kotzbauer et al., 1996; Milbrandt et al., 1998; Baloh et al., 1998)。これらのGFLは53から64%の配列類似性を共有し完全に相同体である。プロGFLを成熟GFLへと切断するプロテアーゼの同定は未だできていない。
【0005】
この4つのGFL配列には成熟タンパク質内に7つの保存的システイン残基が存在することが明らかになっている。これらの残基は、形質転換増殖因子(TGF)-βスーパーファミリーのメンバーにおける7つの保存的システイン残基と同様に間隔をおいて配置されている。それ故、これらのGFLが示す同じファミリーの他のメンバーとの配列類似性は20%より低いが、これらのGFLはTGF-βスーパーファミリーのメンバーと見なされ、独自のサブファミリーを構成している(Lin et al., 1993; Kotzbauer et al., 1996; Milbrandt et al., 1998; Baloh et al., 1998)。TGF-βスーパーファミリーのメンバーは全てシステインノット増殖因子スーパーファミリーに属する(Saarma&Sariola, 1999)。このファミリーのタンパク質は、3つのシステイン残基により形成されるトポロジカルなノットを含有する二量体タンパク質であることを特徴とする。これらのシステイン残基のうち2つは隣接するアミノ酸とともに共有環を形成し、そこを第3のシステインが通る。
【0006】
GDNFの、可能性あるGFRα結合部位については2つの研究において調べられている(Eketjall et al., 1999; Baloh et al., 2000)。初めの研究では、GDNFのGFRα1への結合に決定的に重要な、フィンガー1の3つの負電荷アミノ酸およびフィンガー2の1つの負電荷アミノ酸が同定された(Eketjall et al., 1999)。これらの残基はフィンガーの最先端部に位置し、GDNFのGFRα1への結合に決定的に重要であることが示されており、また4つの疎水性アミノ酸(フィンガー1上に1つ、フィンガー2上に残り)も同様である。さらに、GDNFのN末端領域が可動性であることも、GFRα1への結合に重要であることが示されている。対照的に、踵部(heel)に集中する正電荷アミノ酸はGFRα1への結合には関与しないようであった(Eketjall et al., 1999)。驚くべきことに、フィンガー2で同定された負電荷残基もフィンガー1の疎水性残基も、これらの位置で変異したGDNF分子が依然としてRetのリン酸化を誘導することができたため、Ret存在下でのGDNFの結合には必要なかった。N末端領域が欠失してもRetのリン酸化が阻害されることはなかった。従って著者らはGFRα1に2つの異なるGDNF結合部位が存在することを提唱した。GFRα1レセプターのみからなる結合部位がRetの非存在下でのGDNFの結合に用いられ、一方GFRα1の残基およびRetからなる結合部位は、GDNFが、予め結合しているGFRα1−Ret複合体と相互作用する際に働くようである(Eketjall et al., 1999)。
【0007】
Baloh et al. (2000)の研究において、GDNFがGFRα1を通じたRetの活性化を誘導するのにフィンガー2の2領域が重要である一方、可動性N末端は必要ないことが分かった。同様の実験により、NRTNおよびARTNの対応する2領域が、これらのGFLがそれぞれGFRα2およびGFRα3を通じてRetを活性化する能力に重要であることが示された。NRTNおよびARTNにおいては、Ret活性化のためにラージαへリックスのN末端の最先端部を含む領域も必要であった(Baloh et al., 2000)。
【0008】
まとめると、2つの研究からGFLには複数の結合部位が存在することが示され、どのフィンガーが最も重要であるかについては相違があるようであるがEketjall et al. (1999)とBaloh et al. (2000)の研究はレセプター複合体へのGDNFの結合およびそれに次ぐRetの活性化にはフィンガー領域が重要であることを明確に示している。
【0009】
NCAMとGDNF/GFRα間のヘテロフィリックな相互作用の解明は依然として非常に限られているが、研究によってGDNFおよびGFRα1の両者がNCAMへ結合すること、またNCAMのGDNFへの結合はGFRα1の存在下でかなり増強することが示されている(Paratcha et al., 2003)。さらに、同じ研究で、GDNF誘導性の神経突起伸長は、FGFRとも、またおそらくホモフィリックなNCAMトランス相互作用とも独立して起こることが、示唆されている。GDNF−GFRα−NCAM相互作用は実際にホモフィリックなNCAM相互作用を干渉するようであった(Paratcha et al., 2003)。
【0010】
参考文献
Airaksinen MS, Saarma M. The GDNF family: signalling, biological functions and therapeutic value. Nat Rev Neurosci. 2002;3:383-94.
Arenas E, Trupp M, Akerud P, Ibanez CF. GDNF prevents degeneration and promotes the phenotype of brain noradrenergic neurons in vivo. Neuron. 1995;15:1465-73.
Baloh RH, Tansey MG, Lampe PA, Fahrner TJ, Enomoto H, Simburger KS, Leitner
ML, Araki T, Johnson EM Jr, Milbrandt J. Artemin, a novel member of the GDNF ligand family, supports peripheral and central neurons and signals through the GFRα3-RET receptor complex. Neuron. 1998;21:1291-302.
Baloh RH, Tansey MG, Johnson EM Jr, Milbrandt J. Functional mapping of receptor specificity domains of glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF) family ligands and production of GFRα1 RET-specific agonists. J Biol Chem. 2000;275:3412-20.
Eketjall S, Fainzilber M, Murray-Rust J, Ibanez CF. Distinct structural elements in GDNF mediate binding to GFRα1 and activation of the GFRα1-c-Ret receptor complex. EMBO J. 19991;18:5901-10.
Hearn CJ, Murphy M, Newgreen D. GDNF and ET-3 differentially modulate the numbers of avian enteric neural crest cells and enteric neurons in vitro. Dev Biol. 1998;197:93-105.
Kotzbauer PT, Lampe PA, Heuckeroth RO, Golden JP, Creedon DJ, Johnson EM Jr, Milbrandt J. Neurturin, a relative of glial-cell-line-derived neurotrophic factor. Nature. 1996;384:467-70.
Lin LF, Doherty DH, Lile JD, Bektesh S, Collins F. GDNF: a glial cell line-derived neurotrophic factor for midbrain dopaminergic neurons. Science. 1993;260:1130-2.
Milbrandt J, de Sauvage FJ, Fahrner TJ, Baloh RH, Leitner ML, Tansey MG, Lampe PA, Heuckeroth RO, Kotzbauer PT, Simburger KS, Golden JP, Davies JA, Vejsada R, Kato AC, Hynes M, Sherman D, Nishimura M, Wang LC, Vandlen R, Moffat B,
Klein RD, Poulsen K, Gray C, Garces A, Johnson EM Jr, et al. Persephin, a novel neurotrophic factor related to GDNF and neurturin. Neuron. 1998;20:245-53.
Paratcha G, Ledda F, Ibanez CF. The neural cell adhesion molecule NCAM is an alternative signaling receptor for GDNF family ligands. Cell. 2003;113:867-79.
Ronn LC, Ralets I, Hartz BP, Bech M, Berezin A, Berezin V, Moller A, Bock E. A simple procedure for quantification of neurite outgrowth based on stereological principles. J Neurosci Methods. 2000;100:25-32.
Saarma M, Sariola H. Other neurotrophic factors: glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF). Microsc Res Tech. 1999;45:292-302.
Yan H, Newgreen DF, Young HM. Developmental changes in neurite outgrowth responses of dorsal root and sympathetic ganglia to GDNF, neurturin, and artemin. Dev Dyn. 2003;227:395-401.
【発明の開示】
【0011】
[発明の概要]
本発明は、TGFベータスーパーファミリーに属するタンパク質、特にGDNF、NRTN、PSPN、ARTN、TGFベータ-1、TGFベータ-2、TGFベータ-3およびTGFベータ-4の、神経細胞の分化、神経細胞の生存および学習や記憶に関連する神経可塑性を刺激することができ、炎症反応を抑制することができる短ペプチドフラグメントを開示する。本発明によると、本明細書に記載するペプチドフラグメントは全て、構造的に類似している、すなわち、それらのペプチドの生物学的活性に必須である共通のアミノ酸モチーフを含んでいる。
【0012】
従って、第一の局面において、本発明は以下の式のモチーフからなる6から22の連続したアミノ酸残基配列を有するペプチドに関する:
Xa-(x)-Xb-Xc-Xd-Xf
[式中、
Xaは、アミノ酸残基D、E、AまたはGであり、
(x)は、アミノ酸残基A、D、E、G、I、K、L、P、Q、S、TおよびVからなる群から選択される2-3のアミノ酸残基または単一のアミノ酸残基配列であり、
Xbはアミノ酸残基YもしくはH、または疎水性アミノ酸残基であり、
Xc、XdまたはXfのうち少なくとも1つは荷電性または疎水性アミノ酸残基である。
【0013】
本発明はGDNF、NRTN、PSPN、ARTN、TGFベータ-1、TGFベータ-2、TGFベータ-3およびTGFベータ-4に由来する特定のペプチド配列を開示する。これらは全て上記のモチーフを含み、神経細胞の分化、神経細胞の生存および/または学習および記憶に関連する神経可塑性を刺激することができる。
【0014】
さらに、本発明は、上記のモチーフを含むペプチド配列を含む化合物、特にGDNF、NRTN、PSPN、ARTN、TGFベータ-1、TGFベータ-2、TGFベータ-3またはTGFベータ-4に由来する配列を含む化合物に関する。
【0015】
また、本発明は、医薬を製造するためおよび/または抗体を産生するための、開示のペプチド配列およびそれらを含む化合物の使用に関する。本発明はまた、本発明のペプチド、化合物および/または抗体を含む医薬組成物に関する。
【0016】
神経突起細胞の分化、神経細胞の生存および/または学習および記憶に関連する神経可塑性を刺激する方法であって、本発明のペプチド、化合物、抗体および/または医薬組成物を用いることを含む方法、ならびに有効量の本発明のペプチド、化合物、抗体または医薬組成物を必要とする個体へ投与することを含む治療方法も、本発明の保護の範囲にある。
【0017】
[発明の詳細な説明]
ペプチド配列
第一の局面において、本発明は、以下のモチーフを含む6から22の隣接するアミノ酸残基配列を有するペプチドに関する:
Xa-(x)-Xb-Xc-Xd-Xf
[式中、
Xaはアミノ酸残基D、E、A またはGであり、
(x)はアミノ酸残基A、D、E、G、I、K、L、P、Q、S、TおよびVからなる群から選択される2-3のアミノ酸残基または単一アミノ酸残基配列であり、
Xbはアミノ酸残基YもしくはH、または疎水性アミノ酸残基であり、
Xc、XdまたはXfの少なくとも1つは荷電性または疎水性アミノ酸残基である]。
【0018】
本発明によると、好まし一実施態様において、Xaは酸性アミノ酸残基、例えばEまたはDであり得る。別の好ましい実施態様において、XaはAまたはGであり得る。
【0019】
いくつかの実施態様において、上記モチーフの(x)位は好ましくはいずれかの2つのアミノ酸残基配列により占められていてもよく、ここで、好ましい配列は残基L、G、A、S、T、KまたはIのうちいずれか2つの配列であり、配列L-G、L-A、L-S、T-Q、T-TまたはK-Iがより好ましい。
【0020】
他の実施態様において、(x)はいずれかの3つのアミノ酸残基、好ましくはL、G、A、S、T、K、Iから選択される残基の配列であってもよく、より好ましくは配列L-X-G(Xはいずれかのアミノ酸残基)であり、最も好ましくは配列L-Q-Gである。
【0021】
さらなる他の実施態様において、(x)はいずれかの単一のアミノ酸残基、好ましくは荷電性または疎水性アミノ酸残基であってもよい。より好ましくは、そのアミノ酸残基はD、E、A、VまたはPから選択され得る。
【0022】
好ましい一実施態様において、上記モチーフのXb位の残基はA、L、VまたはWであり得る。別の好ましい実施態様において、XbはHであり得る。さらに別の好ましい実施態様において、XbはYであり得る。
【0023】
本発明によると、残基Xc、XdまたはXfは独立していずれかのアミノ酸残基であり得るが、Xc、XdまたはXfのうち少なくとも1つは荷電性または疎水性アミノ酸残基から選択されるのが好ましい。特に、荷電性または疎水性残基はXf位にあるのが好ましく、ここで、疎水性残基のうち残基A、I、V、LまたはMが最も好ましく、荷電性残基のうち残基R、EまたはDが最も好ましい。
【0024】
本発明はさらに以下の式のアミノ酸配列を含むペプチドに関する:
x1-x2-x3-x4-x5-x6-x7-x8-x9-x10
[式中、
x1はD、A、EまたはHから選択されるアミノ酸残基であり、
x2はL、G、T、D、A、E、VまたはPから選択されるアミノ酸残基であり、
x3はG、Q、I、S、G、L、T、VまたはAから選択されるアミノ酸残基であり、
x4はL、W、G、A、Y、H、S、F、PまたはTから選択されるアミノ酸残基であり、
x5はG、K、M、A、R、L、S、FまたはIから選択されるアミノ酸残基であり、
x6はY、H、W、K、N、S、R、A、M、L、DまたはVから選択されるアミノ酸残基であり、
x7はE、R、A、I、V、W、L、DまたはYから選択されるアミノ酸残基であり、
x8はT、S、H、L、R、D、V、AまたはYから選択されるアミノ酸残基であり、
x9はK、D、E、R、G、Q、A、S、N、H、VまたはIから選択されるアミノ酸残基であり、
x10はE、P、N、A、R、G、LまたはSから選択されるアミノ酸残基であり、
ここで、このアミノ酸配列は上記のモチーフを含む]。
【0025】
上記のアミノ酸配列を含むペプチドは、好ましくは10から22アミノ酸残基長であるか、または、それらのフラグメント(本発明のモチーフを含む少なくとも6のアミノ酸残基を含む)である。本発明によると、そのようなアミノ酸配列は好ましくは以下の配列から選択される配列を含む:
LNVTDLGLGYETKEE(配列番号1)
VPVRALGLGHRSDEL(配列番号2)
VRVSELGLGYASDET(配列番号3)
LSVAELGLGYASEEK(配列番号4)
IDFRKDLGWKWIHEPKG(配列番号5)
IDFKRDLGWKWIHEPKG(配列番号6)
IDFRQDLGWKWVHEPKG(配列番号7)
IDLQGMKWAKNWVLEPPG(配列番号8)
ETTYDKILKNLSRNR(配列番号9)
RSPHDLSLASLLGAG(配列番号10)
ARVYDLGLRRLRQRR(配列番号11)
RTQHGLALARLQGQG(配列番号12)
WSLDTQYSKVLALYN(配列番号13)
WSSDTQHSRVLSLYN(配列番号14)
RSADTTHSTVLGLYN(配列番号15)
DDLSFLDDNLVY(配列番号16)
EAVSFMDVNSTW(配列番号17)
DEVSFLDAHSRY(配列番号18)
DVAFLDDRHRWQ(配列番号19)
EPLPIVYYVGRK(配列番号20)
EPLTILYYIGKT(配列番号21)または
EPLTILYYVGRT(配列番号22)。
【0026】
いくつかの好ましい実施態様において、本発明のペプチドは以下の配列のいずれかを含み得る:
LNVTDLGLGYETKEE(配列番号1)
VPVRALGLGHRSDEL(配列番号2)
VRVSELGLGYASDET(配列番号3)もしくは
LSVAELGLGYASEEK(配列番号4)またはそれらのフラグメント。
【0027】
他の好ましい実施態様において、本発明のペプチドは以下の配列のいずれかを含み得る:
IDFRKDLGWKWIHEPKG(配列番号5)
IDFKRDLGWKWIHEPKG(配列番号6)
IDFRQDLGWKWVHEPKG(配列番号7)もしくは
IDLQGMKWAKNWVLEPPG(配列番号8)またはそれらのフラグメント。
【0028】
さらなる他の好ましい実施態様において、本発明のフラグメントは以下の配列のいずれかを含み得る:
ETTYDKILKNLSRNR(配列番号9)
RSPHDLSLASLLGAG(配列番号10)
ARVYDLGLRRLRQRR(配列番号11)もしくは
RTQHGLALARLQGQ(配列番号12)またはそれらのフラグメント。
【0029】
さらなる他の実施態様において、本発明のフラグメントは以下の配列のいずれかを含み得る:
WSLDTQYSKVLALYN(配列番号13)
WSSDTQHSRVLSLYN(配列番号14)もしくは
RSADTTHSTVLGLYN(配列番号15)またはそれらのフラグメント。
【0030】
さらなる他の好ましい実施態様において、本発明のペプチドは以下の配列のいずれかを含み得る:
DDLSFLDDNLVY(配列番号16)
EAVSFMDVNSTWR(配列番号17)
DEVSFLDAHSRY(配列番号18)もしくは
DVAFLDDRHRWQ(配列番号19)またはそれらのフラグメント。
【0031】
いくつかの実施態様は好ましくは、以下の配列のいずれかを含むペプチドに関する:
EPLPIVYYVGRK(配列番号20)
EPLTILYYIGKT(配列番号21)もしくは
EPLTILYYVGRT(配列番号22)またはそれらのフラグメント。
【0032】
いくつかの好ましい実施態様において、本発明は以下の配列を含むペプチドに関する:
VPVRALGLGHRSDEL(配列番号2)
VRVSELGLGYASDET(配列番号3)
ETTYDKILKNLSRNR(配列番号9)
RSPHDLSLASLLGAG(配列番号10)
ARVYDLGLRRLRQRR(配列番号11)
DDLSFLDDNLVY(配列番号16)
EAVSFMDVNSTWR(配列番号17)
DEVSFLDAHSRY(配列番号18)。
【0033】
上記のように、本発明のペプチドは6から22の隣接するアミノ酸残基を包含する。しかしながら、ペプチドの長さは好ましくは、例えば6から10アミノ酸残基(7から9アミノ酸残基など)の範囲から、または11から15アミノ酸残基(12から14アミノ酸残基など)の範囲から選択され得る。ペプチドの長さはまた16から20アミノ酸残基の範囲、例えば17から19アミノ酸残基であり得る。また、21または22アミノ酸残基であり得る。
【0034】
例えば、好ましい一実施態様において、本発明のペプチドは18アミノ酸残基の配列であり得る。ここで、本発明の好ましい18アミノ酸残基配列は、配列IDLQGMKWAKNWVLEPPG(配列番号8)である。
【0035】
別の好ましい実施態様において、本発明のペプチドは17アミノ酸残基配列であり得る。この場合、好ましい17アミノ酸残基配列は以下のアミノ酸配列から選択され得る:
IDFRKDLGWKWIHEPKG(配列番号5)
IDFKRDLGWKWIHEPKG(配列番号6)または
IDFRQDLGWKWVHEPKG(配列番号7)。
【0036】
さらに、別の好ましい実施態様において、本発明のペプチドは15アミノ酸残基配列であり得る。そのような配列は好ましくは以下の配列から選択され得る:
LNVTDLGLGYETKEE(配列番号1)
VPVRALGLGHRSDEL(配列番号2)
VRVSELGLGYASDET(配列番号3)
LSVAELGLGYASEEK(配列番号4)
ETTYDKILKNLSRNR(配列番号9)
RSPHDLSLASLLGAG(配列番号10)
ARVYDLGLRRLRQRR(配列番号11)
RTQHGLALARLQGQG(配列番号12)
WSLDTQYSKVLALYN(配列番号13)
WSSDTQHSRVLSLYN(配列番号14)または
RSADTTHSTVLGLYN(配列番号15)。
【0037】
さらに、別の好ましい実施態様において、上記ペプチドは12アミノ酸残基配列であり得る。そのようなペプチドは好ましくは以下の配列から選択され得る:
DDLSFLDDNLVY(配列番号16)
EAVSFMDVNSTWR(配列番号17)
EVSFLDAHSRY(配列番号18)
VAFLDDRHRWQ(配列番号19)
EPLPIVYYVGRK(配列番号20)
EPLTILYYIGKT(配列番号21)または
EPLTILYYVGRT(配列番号22)。
【0038】
従って、以下の配列のいずれかを含むペプチドは本発明の好ましい実施態様の1つである:
LNVTDLGLGYETKEE(配列番号1)
VPVRALGLGHRSDEL(配列番号2)
VRVSELGLGYASDET(配列番号3)
LSVAELGLGYASEEK(配列番号4)
IDFRKDLGWKWIHEPK(配列番号5)
IDFKRDLGWKWIHEPKG(配列番号6)
IDFRQDLGWKWVHEPKG(配列番号7)
IDLQGMKWAKNWVLEPPG(配列番号8)
ETTYDKILKNLSRNR(配列番号9)
RSPHDLSLASLLGAG(配列番号10)
ARVYDLGLRRLRQRR(配列番号11)
RTQHGLALARLQGQ(配列番号12)
WSLDTQYSKVLALYN(配列番号13)
WSSDTQHSRVLSLYN(配列番号14)
RSADTTHSTVLGLYN(配列番号15)
DDLSFLDDNLVY(配列番号16)
EAVSFMDVNSTWR(配列番号17)
DEVSFLDAHSRY(配列番号18)
DVAFLDDRHRWQ(配列番号19)
EPLPIVYYVGRK(配列番号20)
EPLTILYYIGKT(配列番号21)または
EPLTILYYVGRT(配列番号22)。
【0039】
本出願において、アミノ酸残基の標準的3文字コードに加え、標準的一文字コードも適用する。アミノ酸の略号は、生化学命名法のIUPAC-IUB合同委員会(IUPAC-IUB Joint Commission on Biochemical Nomenclature)の勧告に従っている(Eur. J. Biochem, 1984, vol. 184, pp 9-37)。明細書および特許請求の範囲を通して、天然アミノ酸についての3文字コードまたは1文字コードのいずれかを用いている。LまたはD型を特定していない場合、問題のアミノ酸は、形成されたペプチドがL型、D型またはL型とD型の混合配列のアミノ酸で構成されるように、天然のL型(Pure & Appl. Chem. Vol. (56(5) pp 595-624 (1984)を参照)またはD型を有すると解釈されたい。
【0040】
何も特定されていない場合は、本発明のペプチドのC末端アミノ酸は遊離のカルボン酸として存在すると解されたく、またこれは「-OH」とも特定され得る。しかしながら、本発明の化合物のC末端アミノ酸はアミド化誘導体でもよく、その場合「-NH2」と示す。他に何も述べられていない場合は、ポリペプチドのN末端アミノ酸は遊離のアミノ基を含み、またこれは「H-」とも特定され得る。
【0041】
他に何も特定していない場合は、アミノ酸は天然または非天然のいずれかのアミノ酸、例えばアルファアミノ酸、ベータアミノ酸および/またはガンマアミノ酸から選択され得る。従って、そのグループには以下が含まれるがこれらに限定されない:Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Phe、Trp、Met、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Gln、Asp、Glu、Lys、Arg、His Aib、Nal、Sar、Orn、リシン類似体、DAP、DAPAおよび4Hyp。
【0042】
また、本発明によると、化合物/ペプチドの修飾、例えばアミノ酸のグリコシル化および/またはアセチル化もなされ得る。
【0043】
本発明によると、塩基性アミノ酸残基はアミノ酸残基Arg、LysおよびHisにより代表され、酸性アミノ酸残基はアミノ酸残基GluおよびAspにより代表される。塩基性およびアミノ酸残基は荷電性アミノ酸残基のグループを構成する。疎水性アミノ酸残基のグループはアミノ酸残基Leu、Ile、Val、Phe、Trp、TyrおよびMetにより代表される。
【0044】
一実施態様において、変異体とは、挿入、欠失および保存的置換を含む置換の数および範囲が増加するにつれ、好ましい規定の配列から徐々に異なっていくアミノ酸配列を示すものと解することができる。この差異は、規定の配列と変異体との間の相同性の減少として測定する。
【0045】
本発明は、天然、合成的/組換え的に調製したペプチド配列/フラグメントおよび/またはより大きなポリペプチドの酵素的/化学的切断により調製されたペプチド配列/フラグメントに関し、ここで前記ペプチド配列/フラグメントは前記のより大きなポリペプチドの不可欠な部分である。本発明は単離された個々のペプチド配列に関する。
【0046】
本発明はまた、上記のペプチド配列の変異体に関する。
【0047】
一局面において、「ペプチド配列の変異体」なる用語は、ペプチドが、例えば1以上のアミノ酸残基の置換によって修飾されている可能性があることを意味する。L型およびD型の両アミノ酸が用いられ得る。他の修飾には、エステル、糖などの誘導体が含まれ得る。その例にはメチルおよびアセチルエステルなどがある。
【0048】
別の局面において、本発明によるペプチドフラグメントの変異体は、同じ変異体もしくはそのフラグメント中に、または別の変異体もしくはそのフラグメント間に、少なくとも1つの置換、例えば互いに独立して導入された複数の置換を含み得る。従って、複合体の変異体またはそのフラグメントは互いに独立して保存的置換を含んでもよく、ここで、複合体の変異体またはそのフラグメントの少なくとも1つのグリシン(Gly)はAla、Val、LeuおよびIleからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのアラニン(Ala)はGly、Val、LeuおよびIleからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのバリン(Val)はGly、Ala、LeuおよびIleからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのロイシン(Leu)はGly、Ala、ValおよびIleからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのイソロイシン(Ile)はGly、Ala、ValおよびLeuからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのアスパラギン酸(Asp)はGlu、AsnおよびGlnからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのアスパラギン(Asn)はAsp、GluおよびGlnからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのグルタミン(Gln)はAsp、GluおよびAsnからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸により置換され、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのフェニルアラニン(Phe)はTyr、Trp、His、Proからなるアミノ酸群から選択される、好ましくはTyrおよびTrpからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのチロシン(Tyr)はPhe、Trp、His、Proからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸、好ましくはPheおよびTrpからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、複合体のフラグメントの少なくとも1つのアルギニン(Arg)はLysおよびHisからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのリシン(Lys)はArgおよびHisからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのプロリン(Pro)はPhe、Tyr、TrpおよびHisからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸ならびにそれぞれの独立した変異体もしくはそのフラグメントにより置換され、複合体の変異体もしくはそのフラグメントの少なくとも1つのシステイン(Cys)はAsp、Glu、Lys、Arg、His、Asn、Gln、Ser、ThrおよびTyrからなるアミノ酸群から選択されるアミノ酸により置換される。
【0049】
ペプチド配列の変異体についての他の基準は以下に記述する。
【0050】
従って上記から、ペプチドフラグメントの同じ機能を有する等価物またはその機能的等価物のフラグメントは、本明細書の上記に記載のような2以上の保存的アミノ酸群からの2以上の保存的アミノ酸置換を含み得るということになる。「保存的アミノ酸置換」なる用語は本明細書において「相同的アミノ酸置換」なる用語と同義に用いられる。
【0051】
保存的アミノ酸群は以下の通りである:
P、A、G(中性、弱疎水性)、
S、T(中性、親水性)
Q、N(親水性、酸性アミン)
E、D(親水性、酸性)
H、K、R(親水性、塩基性)
A、L、I、V、M、F、Y、W(疎水性、芳香族性)
C(架橋結合形成)。
【0052】
保存的置換は本発明の好ましい規定のペプチドまたはそのフラグメントのいずれかの位置に導入され得る。しかしながら、非保存的置換、限定されないが具体的には1以上のいずれかの位置における非保存的置換を導入することが望ましい場合もある。
【0053】
本発明のペプチドの機能的に同等なフラグメントの形成を導く非保存的置換には、例えば極性が実質的に異なるもの、例えば、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、AsnもしくはGlnのような極性側鎖を有する残基またはAsp、Glu、ArgもしくはLysのような荷電性アミノ酸と置換された非極性側鎖(Ala、Leu、Pro、Trp、Val、Ile、Leu、PheもしくはMet)を有する残基、または、非極性残基の荷電性または極性残基への置換;および/またはii)ペプチド基本骨格の配向への影響が実質的に異なるもの、例えばProまたはGlyの別の残基による置換;および/またはiii)電荷が実質的に異なるもの、例えばLys、HisまたはArgのような正電荷残基からGluまたはAspのような負電荷残基への置換(およびその逆);および/またはiv)立体容積が実質的に異なるもの、例えばAla、GlyまたはSerのような小さな側鎖を有する残基からHis、Trp、PheまたはTyrのようなかさ高い残基への置換(およびその逆)があり得る。
【0054】
一実施態様において、アミノ酸置換は、疎水性および親水性の程度ならびにアミノ酸側鎖の置換基の電荷、大きさなどの相対的な類似性に基づいてなされ得る。上記の様々な特性を踏まえた典型的なアミノ酸置換は当業者によく知られるところであり、以下を含む:アルギニンとリシン;グルタミン酸とアスパラギン酸;セリンとスレオニン;グルタミンとアスパラギン;およびバリンとロイシンとイソロイシン。
【0055】
これまで述べたように、本発明は上記のペプチド配列のフラグメント、変異体および相同体に関する。
【0056】
本文脈において、
i) フラグメントは、本発明のモチーフを含む配列に相当する配列、特に配列番号1-22の配列から選択される配列の長さの少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは 少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%を有する配列である。配列番号1-22の配列から選択される配列のフラグメントは、上記のモチーフXa-(x)-Xb-Xc-Xd-Xfの少なくとも4つのアミノ酸残基、より好ましくは前記モチーフの残基Xb-Xc-Xd-Xf、例えば配列番号16、17および18に表した配列のフラグメントにそれぞれ対応する配列DLSFLDDNLVY(配列番号23)、VSFMDVNSTWR(配列番号24)、EVSFLDAHSRY(配列番号25)を含むのが好ましい。
【0057】
ii) 変異体は、本発明のモチーフを含む配列、特に配列番号1-22の配列から選択される配列に対して少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95%の相同性を有するアミノ酸配列であるか、または本発明のモチーフを含む配列、特に配列番号1-22の配列と比較して少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95%の正のアミノ酸マッチを有するアミノ酸配列である。本明細書において、正のアミノ酸マッチを2つの比較配列において同じ位置にあるアミノ酸の物理的および/または化学的特性により規定される同一性または類似性と定義する。本発明の好ましい正のアミノ酸マッチは、KとR、EとD、LとM、QとE、IとV、IとL、AとS、YとW、KとQ、SとT、NとSおよびQとRである。あるアミノ酸配列と別のアミノ酸配列との相同性は、照合した2配列における同一アミノ酸の割合と定義する。配列の相同性はBLO-SUM 30、BLOSUM 40、BLOSUM 45、BLOSUM 50、BLOSUM 55、BLO-SUM 60、BLOSUM 62、BLOSUM 65、BLOSUM 70、BLOSUM 75、BLO-SUM 80、BLOSUM 85またはBLOSUM 90のようなよく知られているアルゴリズムを用いて計算してもよい。
【0058】
iii) 相同体は、本発明のモチーフを含む配列、特に配列番号1-22の配列に対して、30%を超えるが60%未満の、例えば50-59%(55%など)、例えば40-49%(45%など)、例えば30-39%(35%など)の相同性を有するアミノ酸配列である。
【0059】
上記のフラグメント、変異体および相同体は、オリジナル配列の少なくともいくつかの生物学的活性、例えば神経細胞の分化に関連するような、および/または記憶および学習に関連するような神経可塑性を刺激する能力、アポトーシスの抑制、オリジナル配列が由来するタンパク質のレセプターの活性化のような細胞の生存を刺激する能力を保持していると推定される。
【0060】
上記のように、本発明は、天然、合成的または組換え的に調製されたペプチド、およびより大きなポリペプチド配列の酵素的/化学的切断により調製されたペプチドの両方に関する。より大きなポリペプチド配列の酵素的切断により産生されたペプチド、ならびに組換え体の発現または化学的合成により調製されたペプチド(ここで、前記ペプチド配列はより大きなポリペプチドまたはタンパク質の不可欠な配列に対応する)は、本発明によると、そのより大きなポリペプチドまたはタンパク質の配列に由来するものである。
【0061】
本発明は好ましくは、TGFベータスーパーファミリーのタンパク質に属するタンパク質、特にGDNF、ARTN、NRTN、PSTN、TGFベータ-1、TGFベータ-2、TGFベータ-3およびTGFベータ-4の配列に由来するペプチドに関する。
【0062】
このように、一実施態様において、本発明のペプチドは、グリア細胞由来の神経栄養因子(GDNF)の不可欠な配列に対応する配列を有しうる、または含み得る。本発明によると、そのようなペプチドは、グリア細胞由来の神経栄養因子(GDNF)に由来する。本発明のペプチド配列の基準に合致するDGNF由来配列の例は、配列番号1、9および16である。
【0063】
本発明によるとペプチドは、アルテミン(ARTN)に由来するペプチド配列を有しうる、または含み得る。本発明の好ましいARTN由来ペプチド配列は、本明細書において、配列番号2、10および17として表す。ペプチド配列はまたニュールツリン(NRTN)またはペルセフィン(PSTN)に由来し得る。NRTNおよびPSTNに由来する本発明の配列は、本明細書において、それぞれ、配列番号3、11および18ならびに配列番号4、12および19として表す。
【0064】
本発明のペプチドは、形質転換増殖因子ベータ-1(TGFベータ-1)、形質転換増殖因子ベータ-2(TGFベータ-2)、形質転換増殖因子ベータ-3(TGFベータ-3)または形質転換増殖因子ベータ-4(TGFベータ-4)に由来する配列を含み得る。ここで、これらのタンパク質に由来する好ましい配列は、本明細書において、それぞれ配列番号5-8、13-15または20-22として表す。
【0065】
本発明によると、上記のような単離ペプチド配列は化合物として形成され得る。
【0066】
化合物は上記のいずれかから選択される個々のアミノ酸配列の単一コピーを含有してもよく、またはそのようなアミノ酸配列の2以上のコピーを含有してもよい。このことは、本発明の化合物を、単一の個々のペプチド配列を含有するなど、ペプチド配列の単量体として形成してもよく、またはペプチド配列の多量体、つまり2以上の個々のペプチド配列として形成してもよいということを意味する(個々のペプチド配列は、同じ配列の2以上のコピー、または2以上の異なる個々のペプチド配列と表すことができる)。多量体はまた、完全長配列および1以上のそのフラグメントの組み合わせを含み得る。一実施態様において、化合物は2つのアミノ酸配列を含み得るが、そのような化合物は本明細書において二量体と記載し、別の実施態様において、化合物は2より多いアミノ酸配列、例えば3、4またはそれ以上の配列を含み得る。本発明は好ましくは、本発明の2または4のペプチド配列を含有する化合物に関する。しかしながら、3、5、6、7、8又それ以上の配列を含む化合物も本発明の範囲内にある。
【0067】
二量体または多量体として形成されたペプチドフラグメントは、同一アミノ酸配列を有していてもよく、または異なるアミノ酸配列を有していてもよい。そのような化合物の一例には配列番号1および配列番号9を含む化合物があり得る。別の例には配列番号1および配列番号16を含む化合物があり得る。本発明の配列のあらゆる他の組み合わせを様々な実施態様によって作製できる。配列はペプチド結合によって互いに連結されていてもよく、またはリンカー分子またはグルーピングによって互いに連結していてもよい。
【0068】
本発明の化合物は、配列の2以上の同一コピー、例えば配列番号1-22から選択される配列の2コピーを含んでもよく、ここで、その2つの配列はリンカー分子またはグルーピングによって互いに連結し得る。配列がリンカーグルーピングにより連結している化合物が好ましい。そのような連結グルーピングの一例は、アキラルなジ、トリまたはテトラカルボン酸であり得る。適切なアキラルなジ、トリまたはテトラカルボン酸およびそのような化合物の産生法(リガンド掲示構築法(ligand presentation assembly method)(LPA))は国際公開第0018791号および国際公開第2005014623号パンフレットに記載されている。可能性あるリンカーの別の例は、アミノ酸リシンであり得る。個々のペプチド配列はリシンのようなコア分子に結合してもよく、これにより個々のペプチド配列の樹状多量体(デンドリマー)が形成される。デンドリマーの産生はまた当分野においてよく知られており(PCT/US90/02039、Lu et al., (1991) Mol Immunol. 28:623-630; Defoort et al., (1992) Int J Pept Prot Res. 40:214-221; Drijfhout et al. (1991) Int J Pept Prot Res. 37:27-32)、デンドリマーは研究および医薬用途に現在広く用いられている。リシンコア分子に結合した4つの個々のアミノ酸配列を含むデンドリマー化合物を提供することは、本発明の好ましい実施態様である。4つの個々のアミノ酸配列のうち少なくとも1つが上記の式のアミノ酸配列を含むことも好ましい。デンドリマー化合物の4つの個々のアミノ酸配列の全てが独立して上記の式のアミノ酸配列を含むと、さらにより好ましい。
【0069】
LPA二量体またはリシンデンドリマーのような本発明の多様体化合物は、本発明の好ましい化合物である。しかしながら、本発明の2以上の個々の配列を含む他種の多量体化合物も、実施態様によって好ましい場合がある。
【0070】
2. 生物学的活性
本発明のペプチド配列および本発明の配列を含む化合物は生物学的活性を有する。本発明は好ましくは以下から選択される生物学的活性に関する:
−神経細胞分化に関連する神経可塑性を刺激する能力、例えば神経突起伸長を刺激する能力、
−記憶および学習に関連する神経可塑性の能力、例えばシナプス効力(synaptic efficacy)を刺激する能力、
−細胞の生存を刺激する能力、例えばアポトーシスを抑制する能力、
−炎症を抑制する能力、例えば抗炎症反応を刺激する能力、
−GDNFファミリーレセプターアルファ(GFRアルファ)と結合し、例えばRetレセプターチロシンキナーゼと関連するシグナル伝達、または神経細胞接着分子(NCAM)と関連するシグナル伝達のような、シグナル伝達を活性化するまたは抑制する能力、
−GFR/神経細胞接着分子(NCAM)複合体の成分と結合する能力。
このように、好ましい一実施態様において、本発明によるペプチドはNCAMと結合する。
【0071】
従って、一実施態様において、上記の単離ペプチド配列は、GFRアルファ-1、GFRアルファ-2、GFRアルファ-3またはGFRアルファ-4から選択されるGFRアルファレセプターと結合することができる。
【0072】
本発明の発明者らは、TGFベータスーパーファミリータンパク質に属するタンパク質群、特にタンパク質GDNF、ARTN、NRTN、PSTN、TGFベータ-1、TGFベータ-2、TGFベータ-3およびTGFベータ-4に存在するアミノ酸モチーフを同定し、このモチーフの存在と前記タンパク質およびそれらに由来する本発明のペプチドフラグメントの生物学的活性とを関連づけた。本発明によるモチーフは、本発明のペプチド配列が、レセプター、特にGFRアルファレセプター、さらにより具体的にはGFRアルファ-1、GFRアルファ-2、GFRアルファ3またはGFRアルファ4に結合するのに不可欠である。
【0073】
GFRアルファレセプターは脳における主要なレセプターである。GFRアルファレセプターは、レセプターチロシンキナーゼRetとともに多成分性のレセプター複合体を形成し、シグナル伝達を生じて神経前駆細胞の分化、軸索伸長、神経細胞の生存の促進、学習および記憶の項目に関連する神経可塑性を駆動する。本発明のペプチド配列の、GFRアルファ−Retまたはレセプター複合体と結合し活性化する能力は、レセプター複合体の活性に依拠する生物学的反応を調節する働きをする。従って、本発明はGFRアルファ-Retレセプター複合体の活性を調節する方法であって、本発明の単離ペプチド配列またはその配列を含む化合物を用いることを含む方法を提供する。好ましい実施態様において、本発明はGFRアルファレセプターを活性化する方法に関する。
【0074】
別の実施態様において、上記の単離ペプチド配列はGFRアルファ−神経細胞接着分子(NCAM)レセプター複合体と結合し、それによりNCAMが関連するシグナル伝達を活性化または抑制することができる。
【0075】
NCAMは神経細胞の主要な細胞接着分子の役割を持ち、同時に神経細胞における複数の細胞内シグナル伝達経路と関連するレセプター様分子としての役割も持つ。GFRアルファへのGDNFの結合により活性化するシグナル伝達複合体においてGFRアルファレセプターはNCAMを動員することが最近示されている(Paratcha et al. (2003) Cell 113:867-879)。
【0076】
従って、本発明によると本発明の単離ペプチド配列は、上記のGFNアルファレセプター複合体の1つを活性化することを通して神経細胞の分化を刺激することができる。「神経細胞の分化」なる用語は、本明細書において、神経前駆細胞または神経幹細胞の分化、および例えば神経細胞の成熟のような神経細胞のさらなる分化の両方を指すと解する。そのような分化の例には、未成熟神経細胞からの神経突起伸長、神経突起の分枝、さらに神経細胞の再分化などがあり得る。
【0077】
従って、好ましい一実施態様において、本発明は神経前駆/幹細胞または未成熟神経細胞の分化の刺激に関連するペプチド配列の生物学的活性に関し、別の好ましい実施態様において本発明は、成熟神経細胞、例えば外傷を受けたが生存しており損傷した突起(process)の再生途中にある神経細胞からの神経突起伸長を刺激することに関する。従って、本発明は神経細胞分化を刺激する方法であって、本発明のペプチド配列またはその配列を含む化合物を用いることを含む方法にも関する。
【0078】
本発明の最も好ましい実施態様の1つは、ペプチド配列の学習および記憶に関連する活性、特にペプチド配列のシナプス可塑性、スパイン形成、シナプス効力を刺激する能力に関する。従って、本発明は、記憶および/または学習を刺激する方法であって、本発明のペプチド配列および/またはその配列を含む化合物を用いることを含む方法にも関する。本発明は短期間の記憶および長期間の記憶の両方に関する。
【0079】
本発明のペプチド配列は神経細胞の生存も刺激し得る。本発明は、外傷または変性疾患を負った神経細胞の生存を刺激する能力に関する。従って、本発明は、細胞の生存、好ましくは神経細胞の生存を、本発明のペプチド配列および/またはその配列を含む化合物を用いて刺激する方法に関する。
【0080】
さらに別の実施態様において、本発明のペプチド配列は、細胞接着、特にNCAM媒介性の細胞接着を調節し得る。「細胞接着を調節する」なる用語は、細胞接着を刺激することおよび抑制することの両方を含む。ペプチド配列のこの活性は、多数の成長段階の突起に影響し、数々の病態、例えば癌に対して大いに関連がある。従って、本発明のペプチド配列またはその配列を含む化合物を用いて、細胞接着、特にNCAM媒介性の細胞接着を調節する方法も、本発明の範囲に含まれる。
【0081】
本発明のペプチド配列およびそれを含む化合物は、細胞成長培地の可溶性/可動性物質および細胞成長基質の不動性物質の両方として、生物学的に活性である。いくつかの実施態様においては、ペプチドまたはそれを含む化合物を可溶性物質として用いるのが好ましく、一方、他の実施態様においては、ペプチド配列を細胞基質として用いるのが好ましい場合がある。しかしながら、可溶性ペプチド配列またはそれを含む化合物がより好ましい。
【0082】
別の実施態様において、本発明のペプチド配列はまた、炎症過程、特に脳における炎症過程を抑制することができる。
【0083】
炎症は、機械的損傷または細菌、ウイルスもしくは他の生物感染に起因する組織障害により引き起こされる防衛反応である。炎症反応には3つの腫瘍段階が含まれる:第一は、毛細血管が拡張し血流が増加する段階;第二は、微小血管の構造が変化し、血流から血漿タンパク質が漏出する段階;第三は、内皮を通して白血球が遊出し、損傷および感染部位に蓄積する段階。炎症反応は、炎症性メディエーターの放出とともに始まる。炎症性メディエーターは、組織の損傷および感染部位において局所的に作用し、またより離れた部位においては炎症反応の結果として起こる事象に影響する、可溶性の拡散性分子である。炎症性メディエーターは、例えば細菌産物もしくは毒素といった外来性のものもあり、または、免疫系自体において産生されるもの、ならびに損傷した組織細胞、リンパ球、マスト細胞および血液タンパク質といった内在性のものもある。
【0084】
神経炎症は、アルツハイマー病の進行に顕著な役割を持ち、海馬のような脆弱な領域の変性の一因となり得る。神経炎症は、上昇した細胞外グルタミン酸レベル、また潜在的にグルタミン酸のN-メチル-D-アスパラギン酸レセプターの増強された刺激に関連する。
【0085】
抗炎症性は、本発明のペプチド配列の別の重要な生物学的活性である。従って、本発明は特に脳における持続性の炎症反応の阻害剤として働くことができる抗炎症性のペプチドに関する。
【0086】
細菌産物の持続的な存在または外傷および/または感染から数日または数週間後もなお局所的に生存する細菌に反応して、炎症性メディエーター、例えば体内TNFアルファが連続的に存在すると、例えば熱、膨脹および痛みといった炎症反応へと進行する。持続的な炎症反応は身体に対して非常に有害であることが判明している。細菌産物または生細菌が局所的増殖巣から体内に広く拡散すると、炎症反応が圧倒的になって制御不能になり、敗血症が最終的には重篤な敗血症および敗血症性ショックへとさらに進行する。抗炎症性のペプチドは、血液ならびに肺、肝臓、腸、脳および腎臓のような重要臓器における強力で有害なサイトカインカスケードに代表される圧倒的な持続性炎症反応をブロックまたは抑制するのに用いることができる。
【0087】
本文脈において、「抗炎症性化合物」なる用語は、少なくとも1つの以下の活性を有し得る化合物を意味する:
i)免疫性細胞、好ましくは単核球/マクロファージにおける、細菌産物、生細菌または外傷に反応して炎症性メディエーターおよび炎症性メディエーターのシグナル伝達に関与する転写因子に対するレセプターを含む、内在性の炎症性メディエーターを産生する遺伝子発現を減少させる、または抑制する(ここで炎症性メディエーターは好ましくは、TNFアルファIL-1、IL-6、G-CSF、GM-CSF、M-CSFの群から選択されるサイトカイン、IL-8、MCP-1を含む群から選択されるケモカイン、組織因子およびIL-2Rアルファの群から選択されるレセプターを含む群から選択される);
ii)接触相系によるブラジキニンの産生を減少させる、または阻害する;
iii)単核球に対する誘引能を減少させる、または阻害する;および/または
iv)単核球、好中球およびアポトーシスの誘導因子として働く他の免疫細胞の寿命を減少させる、または阻害する;
v)阻害する血管内皮細胞が接着分子を発現するのを減少させる、または阻害する(接着分子は好ましくはPECAM、ICAM-1、Eセレクチン、VCAM-1を含む群から選択される);
vi)接触相系が活性化してブラジキニンを産生し血管透過性の増大が起こるのを減少させる、または阻害する;
vii)IL-10およびIL-12の群から選択される抗炎症性メディエーターの合成を刺激する;
viii)補体活性化を阻害する;
ix)慢性神経炎症下において、神経細胞、例えばグルタミン酸のN-メチル-D-アスパラギン酸レセプターを発現する神経細胞が変性する危険性を減少させる。
【0088】
本発明のペプチド配列およびそれを含む化合物の生物学的活性の例の1つを以下の適用に示すが、これに限定されない。
【0089】
神経突起伸長の刺激
ある種の内在性栄養因子のような、神経突起伸長を促進し、ならびに神経細胞の再生および/または分化を刺激する能力を持つ物質は、例えば神経細胞の再生および他の形態の神経可塑性を促進する化合物を探索する第一標的である。本発明の化合物の能力を評価するために、以下の能力を調査することができる:シグナル伝達に関連する神経突起伸長を刺激する;細胞接着を干渉する;神経突起伸長を刺激する;神経を再生する。本発明の化合物は、神経突起伸長を促進することが示され、従って、神経連絡の再生、およびそれによる損傷後の機能的回復のための良好な促進剤であり、ならびにそのような効果が要求される他の症状における神経機能の促進剤であると考えられる。
【0090】
本文脈における「分化」は、神経細胞の成熟過程、およびその神経細胞の最後の細胞分裂後に起こる神経突起の伸長に関する。本発明の化合物は、神経細胞分裂を止め、その細胞の成熟を開始させる、例えば神経突起の伸長を開始させる能力を持ち得る。あるいは、「分化」は、神経前駆細胞、未成熟神経細胞または胚幹細胞の遺伝学的、生物学的、形態学的および生理学的な形質転換過程を開始させ、当分野にて明らかにされているような正常な神経細胞の機能的特性を有する細胞の形成を導くことに関する。本発明において、「未成熟神経細胞」とは、当分野にて神経細胞に特徴的な特性として認められている神経細胞の少なくとも1つの特性を有する細胞として記載する。
【0091】
本発明によると、少なくとも1つの上記ペプチド配列を含む化合物は、神経突起伸長を刺激することができる。本発明は、神経突起伸長の改善/刺激、例えば対照/非刺激細胞の神経突起伸長値に対する約75%の改善/刺激、例えば50%、例えば約150%、例えば100%、例えば約250%、例えば200%、例えば約350%、例えば300%、例えば約450%、例えば400%、例えば約500%の改善/刺激に関する。
【0092】
候補化合物の神経突起伸長を刺激する能力の評価は、例えば以下の実施例に記載のような、神経突起伸長を評価するためのあらゆる既知の方法またはアッセイを用いて行うことができる。
【0093】
本発明によると、化合物は、細胞成長基質の不溶性の不動性成分としても、細胞成長培地の可溶性成分としても、神経突起生成活性を有する。本文脈において、「不動性」とは、化合物が水または水溶液に溶解しない物質に結合/付着し、それによりその溶液において同様に不溶性となることを意味する。医薬用途においては、不溶性および可溶性の両化合物がその用途に考えられるが、可溶性化合物が好ましい。「可溶性化合物」とは、水または水溶液に溶解する化合物と解する。
【0094】
個々のペプチド配列の産生
本発明のペプチド配列は、あらゆる従来の合成法、組換えDNA技術、ペプチド配列が由来する完全長タンパク質の酵素的切断またはこれらの方法の組み合わせによって調製できる。
【0095】
組換え体の調製
従って、一実施態様において、本発明のペプチドは組換えDNA技術を用いて産生する。
【0096】
ペプチドまたはそのペプチドが生じる対応する完全長タンパク質をコードするDNA配列は、確立された標準法、例えばBeaucage and Caruthers, 1981, Tetrahedron Lett. 22:1859-1869に記載のホスホアミジン法(phosphoamidine method)、またはMatthes et al., 1984, EMBO J. 3:801-805に記載の方法によって合成的に調製することができる。ホスホアミジン法によると、オリゴヌクレオチドは、例えばDNA自動合成装置にて合成し、精製し、アニーリングし、適切なベクターにライゲートしてクローニングする。
【0097】
ペプチドをコードするDNA配列は、ペプチドの起源の対応する完全長タンパク質をコードするDNA配列を、標準的プロトコル(Sambrookら、「Molecular cloning:A Laboratory manual」第2版、CSHL Press、Cold Spring Harbor, NY, 1989)に従ってDNAase Iを用いて断片化することにより調製することもできる。本発明は、上記のタンパク質群から選択される完全長タンパク質に関する。本発明の完全長タンパク質をコードするDNAは、あるいは、特異的制限エンドヌクレアーゼを用いて断片化することができる。DNAフラグメントは、Sambrookら、「Molecular cloning:A Laboratory manual」第2版、CSHL Press、Cold Spring Harbor、NY、1989に記載の標準的手順を用いてさらに精製する。
【0098】
完全長タンパク質をコードするDNA配列はまた、ゲノムまたはcDNA起源であってもよく、例えば、標準的技術(Sambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor, 1989を参照)に従って、ゲノムまたはcDNAライブラリーを調製し、合成オリゴヌクレオチドプローブを用いたハイブリダイゼーションにより完全長タンパク質の全部または一部をコードするDNA配列をスクリーングすることによって得られる。DNA配列はまた、例えば米国特許第4,683,202号明細書またはSaiki et al., 1988, Science 239:487-491に記載されているように、特異的プライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応によっても調製することができる。
【0099】
次いでDNA配列を組換え発現ベクターに挿入するが、このベクターにはあらゆるベクターがあり得、組換えDNA技術に便利に用いることができるものであり得る。ベクターの選択はしばしば、ベクターを導入する宿主細胞に依拠する。従って、ベクターは、自己複製ベクター、つまりその複製が染色体の複製から独立している、染色体外物質として存在するベクター、例えばプラスミドであり得る。あるいは、ベクターは、宿主細胞に導入されると、宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体とともに複製されるものであり得る。
【0100】
ベクターにおいて、ペプチドまたは完全長タンパク質をコードするDNA配列は適切なプロモーター配列に作動可能に連結されているべきである。プロモーターは、選択した宿主細胞において転写活性を示し、宿主細胞に対して相同性または異種性のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子に由来し得る、あらゆるDNA配列であり得る。哺乳類細胞におけるコードDNA配列の転写を導く適切なプロモーターの例には、SV40プロモーター(Subramani et al., 1981, Mol. Cell Biol. 1:854-864)、MT-1(メタロチオネイン遺伝子)プロモーター(Palmiter et al., 1983, Science 222: 809-814)またはアデノウイルス2主要後期プロモーターがある。昆虫細胞に用いるのに適切なプロモーターには、ポリヘドリンプロモーター(Vasuvedan et al., 1992, FEBS Lett. 311:7-11)がある。酵母宿主細胞に用いるのに適切なプロモーターには、酵母の解糖系遺伝子からのプロモーター(Hitzeman et al., 1980, J. Biol. Chem. 255:12073-12080; Alber and Kawasaki, 1982, J. Mol. Appl. Gen. 1: 419-434)またはアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(「Genetic Engineering of Microor-ganisms for Chemicals」、Hollaenderら編、Plenum Press, New YorkのYoungら、1982)またはTPI1(米国特許第4,599,311号明細書)またはADH2-4c(Russell et al., 1983, Nature 304:652-654)プロモーターなどがある。糸状菌宿主細胞に用いるのに適切なプロモーターには、例えば、ADH3プロモーター(McKnight et al., 1985, EMBO J. 4:2093-2099)またはtpiAプロモーターがある。
【0101】
コードDNA配列はまた、ヒト成長ホルモンターミネーター(Palmiter et al., op. cit.)または(真菌宿主のための)TPI1(Alber and Kawasaki, op. cit.)もしくはADH3(McKnight et al., op. cit.)プロモーターのような、適切なターミネーターと作動可能に連結していてもよい。ベクターは、ポリアデニル化シグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5 Elb領域から)、転写エンハンサー配列(例えばSV40エンハンサー)および翻訳エンハンサー配列(例えばアデノウイルスVA RNAをコードする配列)のような要素をさらに含んでもよい。
【0102】
組換え発現ベクターは、問題の宿主細胞においてベクターの複製を可能にするDNA配列をさらに含み得る。かかる配列の例(宿主細胞が哺乳類細胞の場合)にはSV 40の複製起点がある。ベクターは、選択可能マーカー、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)またはネオマイシン、ハイグロマイシン(hydromycin)またはメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を与える産物をコードする遺伝子のような、宿主細胞における欠陥を補完する産物をコードする遺伝子をさらに含み得る。
【0103】
ペプチドまたは完全長タンパク質をコードするDNA配列、プロモーターおよびターミネーターをそれぞれライゲートし、複製に必要な情報を含む適切なベクターにそれらを導入するのに用いる方法は、当業者によく知られている(例えばSambrook et al., op.cit.を参照)。
【0104】
本発明の組換えペプチドを得るために、コードDNA配列を第2のペプチドコード配列およびプロテアーゼ切断部位コード配列と効果的に誘導させて、融合タンパク質をコードするDNAコンストラクトを得ることができる(ここでプロテアーゼ切断部位コード配列はHBPフラグメントおよび第2のペプチドコードDNA間に位置し、組換え発現ベクターに導入され、組換え宿主細胞において発現される)。一実施態様において、第2のペプチドは、グルタチオン-S-レダクターゼ、仔ウシチモシン、細菌チオレドキシンまたはヒトユビキチンの天然もしくは合成変異体あるいはそれらのを含む群から選択されるがこれらに限定されない。別の実施態様において、プロテアーゼ切断部位を含むペプチド配列は、切断部位アミノ酸配列IEGRを有するXa因子、アミノ酸配列DDDDKを有するエンテロキナーゼ、アミノ酸配列LVPR/GSを有するトロンビン、またはアミノ酸配列XKXを有するアクロモバクターリティカス(Acharombacter lyticus)であり得る。
【0105】
発現ベクターを導入する宿主細胞は、ペプチドまたは完全長タンパク質を発現することができ、好ましくは無脊椎動物(昆虫)細胞または脊椎動物細胞(例えばアフリカツメガエル(Xenopus laevis)卵母細胞もしくは哺乳類細胞)のような真核細胞であるあらゆる細胞があり得、特に昆虫および哺乳類細胞であり得る。適切な哺乳類細胞株の例は、HEK293(ATCC CRL-1573)、COS(ATCC CRL-1650)、BHK(ATCC CRL-1632、ATCC CCL-10)またはCHO(ATCC CCL-61)細胞株である。哺乳類細胞をトランスフェクトし、その細胞に導入されたDNA配列を発現させる方法は、例えばKaufman and Sharp, J. Mol. Biol. 159, 1982, pp. 601-621;Southern and Berg, 1982, J. Mol. Appl. Genet. 1:327-341;Loyter et al., 1982, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79: 422-426; Wigler et al., 1978, Cell 14:725;Corsaro and Pearson, 1981, in Somatic Cell Genetics 7, p. 603; Graham and van der Eb, 1973, Virol. 52:456;およびNeumann et al., 1982, EMBO J. 1:841-845に記載されている。
【0106】
あるいは、真菌細胞(酵母細胞など)を宿主細胞として用いてもよい。適切な酵母細胞の例には、サッカロミセス種(Saccharomyces spp.)または分裂酵母種(シゾサッカロミセス種)(Schizosaccharomyces spp.)の細胞、特に出芽酵母(サッカロミセス・セレビシエ)(Saccharomyces cerevisiae)株などがある。他の真菌細胞の例には、糸状菌、例えばアスペルギルス種(Aspergillus spp.)またはアカパンカビ種(ニューロスポラ種)(Neurospora spp.)、特にコウジカビ(アスペルギルス・オリザエ)(Aspergillus oryzae)またはクロコウジカビ(アスペルギルス・ニゲル)(Aspergillus niger)株の細胞がある。タンパク質発現のためにアスペルギルス種を使用することは、例えば欧州特許第238023号明細書に記載されている。
【0107】
細胞の培養に用いられる培地は、哺乳類細胞の成長に適したあらゆる従来の培地、例えば適切な補助剤を含有する血清含有もしくは無血清培地、または昆虫、酵母もしくは真菌細胞の成長に適切な培地であり得る。適切な培地は市場から入手可能であり、または公開方法(例えばアメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Cul-ture Collection)のカタログ)従って調製してもよい。
【0108】
次いで、細胞から組換え技術により産生されたペプチドまたは完全長タンパク質は、遠心分離またはろ過により培地から宿主細胞を分離し、塩、例えば硫酸アンモニウムにより上清または濾液のタンパク質性成分を沈殿させ、様々なクロマトグラフィー方法、例えばHPLC、イオン交換クロマトフラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどにより精製することを含む従来法によって、培養培地から回収できる。
【0109】
合成的調製
ペプチドの合成的産生方法は当分野においてよく知られている。合成ペプチドを産生するための詳細な説明ならびに実施アドバイスは、「Synthetic Peptides:A User's Guide(Advances in Molecular Biology)」、Grant G. A.編、Oxford University Press、2002または「Pharmaceutical Formulation:Devel-opment of Peptides and Proteins」、FrokjaerとHovgaard編、Taylor and Francis、1999に見ることもできる。
【0110】
ペプチドは、例えばFmoc chemistryおよびAcm保護システインを用いて合成することができる。ペプチドを逆相HPLCにより精製した後、ペプチドをさらに加工して例えば環状のCまたはN末端修飾アイソフォームを得ることができる。環化および末端修飾方法は当分野でよく知られており、上記に引用のマニュアルに詳細に記載されている。
【0111】
好ましい実施態様において、本発明のペプチド配列は、合成的に、特に配列補助ペプチド合成(Sequence Assisted Peptide Synthesis)(SAPS)法によって産生する。
【0112】
SAPSによって、濾過用にポリプロピレンフィルターを備えたポリエチレンの血管、または、N-a-アミノ保護基として9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)またはtert-ブチルオキシカルボニル(Boc)を、および側鎖機能のために適切な一般的保護基を用いた完全自動ペプチド合成装置上のポリアミド固相法(Dryland, A. and Sheppard, R.C., (1986) J.Chem. Soc. Perkin Trans. I, 125 - 137)の連続流のいずれかにおいて、バッチ式にペプチドを合成することができる。
【0113】
合成した個々のペプチド配列は、次いで当分野においてよく知られている技術を用いて多量体として形成することができる。例えば、配列のダイマーは国際公開第00/18791号パンフレットに記載されているLPA法によって、樹状ポリマー(denrimeric polymer)は国際特許出願第PCT/US90/02039号明細書に記載されているMAP合成によって得ることができる。
【0114】
抗体
本発明の目的は、GDNF、ARTN、NRTN、PSTN、TGFベータ-1、TGFベータ-2、TGFベータ-3および/またはTGFベータ-4上の、本発明のモチーフまたは配列番号1-22から選択される配列またはその配列のフラグメントを含むエピトープを認識し、選択的に結合できる抗体、抗原結合フラグメントまたはその組換えタンパク質を提供することである。
【0115】
「エピトープ」なる用語は、(その抗原の)抗体により認識される(これにより免疫反応が引き起こされる)(抗原分子上の)特異的な原子団を意味する。「エピトープ」なる用語は「抗原決定基」なる用語と同等である。エピトープは、連続したアミノ酸配列内のように近接近して位置するか、または抗原のアミノ酸配列の遠隔部位に位置するがタンパク質の折り畳みにより互いに接近している、3以上のアミノ酸残基、例えば4、5、6、7、8アミノ酸残基を含み得る。
【0116】
抗体分子は、基本構成要素である免疫グロブリン群またはドメインが免疫系や他の生物学的認識系の多くの分子において様々な形態で用いられる、免疫グロブリンと呼ばれる血漿タンパク質ファミリーに属する。典型的な免疫グロブリンは、可変領域として知られる抗原結合領域および定常領域として知られる非可変領域を含む4つのポリペプチド鎖を有する。
【0117】
天然抗体および免疫グロブリンは通常、2つの同一軽(L)鎖および2つの同一重(H)鎖からなる約150,000ダルトンのヘテロ四量体の糖タンパク質である。各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合により重鎖と結合しているが、ジスルフィド結合の数は種々の免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。各重鎖および軽鎖はまた、一定の間隔をおいて鎖内ジスルフィド架橋を有する。各重鎖は、一方の末端に、いくつかの定常領域が附随する可変領域(VH)を有する。各軽鎖は、一方の末端に可変領域(VL)を有し、他方の末端に定常領域を有する。軽鎖の定常領域は重鎖の第1の定常領域とともに整列し、軽鎖の可変領域は重鎖の可変領域とともに整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖と重鎖の可変領域の間の界面を形成していると考えられている(Novotny J, & Haber E. Proc Natl Acad Sci U S A. 82(14):4592-6, 1985)。
【0118】
免疫グロブリンは、重鎖の定常領域のアミノ酸配列によって、別のクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンには少なくとも5つの主なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM。これらのいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられる:例えば、IgG-1、IgG-2、IgG-3およびIgG-4;IgA-1およびIgA-2。各クラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常領域は、それぞれ、アルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)およびミュー(μ)と呼ばれている。抗体の軽鎖は、定常領域のアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる明らかに異なる2つのタイプの1つに割り当てられる。サブユニットの構造および各クラスの免疫グロブリンの3次元立体配置は周知である。
【0119】
抗体の可変領域の文脈における「可変」なる用語は、可変領域の特定部分の配列が抗体間で大規模に異なることを意味する。可変領域は結合のためのもので、特定の抗原に対するそれぞれの特定の抗体の特異性を決定する。しかしながら、その可変性は抗体の可変領域を通して均一には分布していない。軽鎖および重鎖両方の可変領域の、相補性決定領域(CDR)と呼ばれ超可変領域としても知られるセグメントに可変性が集中している。
【0120】
可変領域の、より高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれている。天然の重鎖および軽鎖の可変領域はそれぞれ4つのFR領域を含み、大部分はβシートの配置をとり、3つのCDRにより連結されており、これらCDRはβシート構造を連結する、いくつかの場合はβシート構造の一部を成すループを形成している。各鎖のCDRはFR領域により互いに近接近してまとまっており、他の鎖のCDRとともに抗体の抗原結合部位の形成に貢献している。定常領域は、抗原への抗体の結合には直接関与しないが、抗体依存性細胞毒性における抗体の関与のような、様々なエフェクター機能を展開する。
【0121】
本発明における使用が考えられる抗体は、このように、全免疫グロブリン、抗体フラグメント(Fv、Fabおよび同様のフラグメントなど)、可変領域の相補性決定領域(CDR)を含む単鎖抗体、および同様の形態を含む、様々な形態のいずれかであり得、全て本明細書において用いる「抗体」なる広義語の分類に入る。本発明は、ポリクローナルまたはモノクローナルのような、あらゆる特異性の抗体の使用を考慮しており、特定の抗原を認識し免疫反応する抗体に限定されない。好ましい実施態様において、以下に記載する治療方法およびスクリーニング方法の両方の文脈においては、本発明の抗原またはエピトープに対して免疫特異的な抗体またはそのフラグメントを用いる。
【0122】
「抗体フラグメント」なる用語は、完全長抗体の一部分、一般に抗原結合または可変領域を意味する。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、F(ab')2およびFvフラグメントなどがある。抗体のパパイン消化により、Fabフラグメントと呼ばれる2つの同一抗原結合フラグメント(それぞれ単一の抗原結合部位を有する)、および容易に結晶化する性質から「Fc」フラグメントと呼ばれる残りのフラグメントが産生される。ペプシンで処理すると、抗原と架橋結合可能な2つの抗原結合フラグメントを有するF(ab')2フラグメント、および残りの他のフラグメント(pFc'と呼ばれる)が生じる。さらなるフラグメントには、二重特異性抗体、直線状(linear)抗体、単鎖抗体分子および抗体フラグメントから形成される多選択性抗体などがあり得る。本明細書において用いられる、抗体に関する「機能的フラグメント」はFv、F(ab)およびF(ab')2フラグメントを意味する。
【0123】
「抗体フラグメント」なる用語は、本明細書において「抗原結合フラグメント」なる用語と互換的に用いられる。
【0124】
抗体フラグメントは、約4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、9アミノ酸、約12アミノ酸、約15アミノ酸、約17アミノ酸、約18アミノ酸、約20アミノ酸、約25アミノ酸、約30アミノ酸またはそれ以上と同じ程度に小さくてもよい。一般的に、本発明の抗体フラグメントは、配列番号1-22として本明細書において示す配列またはそれらの配列のフラグメントのいずれかから選択されるペプチド配列を含むエピトープに特異的に結合する抗体と同様の特性または前記抗体と関連する免疫学的特性を有する限りの、大きさの上限を有し得る。従って、本発明の文脈において、「抗体フラグメント」なる用語は「抗原結合フラグメント」なる用語と同義である。
【0125】
抗体フラグメントは、その抗原またはレセプターと選択的に結合する能力をある程度保持している。いくつかのタイプの抗体フラグメントを以下に記載する:
(1)Fabは一価の抗原結合フラグメントを含む抗体分子のフラグメントである。Fabフラグメントは、無傷の軽鎖と1つの重鎖の一部を生じる、酵素パパインによる全抗体の消化によって産生することができる。
【0126】
(2)Fab'は、無傷の軽鎖と重鎖の一部を生じる、ペプシンによる全抗体の処理およびそれに次ぐ還元によって得ることができる抗体分子のフラグメントである。1抗体分子につき2つのFab'フラグメントが得られる。
Fab'フラグメントは、重鎖のCH1ドメインのカルボキシル末端に、抗体のヒンジ領域からの1以上のシステインを含むいくつかの残基が加わっていることで、Fabフラグメントとは異なる。
【0127】
(3)(Fab')2は、全抗体を酵素ペプシンにより処理し、後の還元を行わないで得られる抗体のフラグメントである。
【0128】
(4)F(ab')2は、2つのジスルフィド結合によりまとまっている2つのFab'フラグメントの二量体である。
Fvは、完全な抗原認識および結合部位を含む最小の抗体フラグメントである。この領域は、1つの重鎖および1つの軽鎖の可変領域の、強い非共有結合による二量体からなる(VH−VL二量体)。この立体配置において、各可変領域の3つのCDRが相互作用してVH−VL二量体の表面上の抗原結合部位を形成している。まとめると、6つのCDRによって抗体に抗原結合特異性が生じている。しかしながら、単一の可変領域(または抗原に特異的なただ3つのCDRを含むFvの半分)であっても、完全な結合部位より親和性は低いが、抗原を認識し結合する能力を有している。
【0129】
(5)単鎖抗体(「SCA」)は、適切なポリペプチドリンカーにより結合した軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含有する遺伝子改変分子として規定される、遺伝子融合した単鎖分子である。このような単鎖抗体は、「単鎖Fv」または「sFv」抗体フラグメントとも称する。一般に、Fvポリペプチドは、VHおよびVLドメイン間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これによりsFvは抗原結合のために望ましい構造を形成することができる。sFvの総説については、「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」のPluckthun、113: 269-315、RosenburgとMoore編、Springer-Verlag、NY、1994を参照のこと。
【0130】
「二重特異性抗体」なる用語は、同じポリペプチド鎖内に軽鎖可変領域(VL)に連結した重鎖可変領域(VH)を含む(VH-VL)、2つの抗原結合部位を有する小抗体フラグメントを意味する。短すぎて同じ鎖上の2つのドメインが対合できないリンカーを用いて、そのドメインが別の鎖の相補的ドメインと対合するようにし、2つの抗原結合部位を生じさせる。二重特異性抗体は、例えば欧州特許第404,097号明細書;国際公開第93/11161号パンフレットおよびHollinger et al., Proc, Natl, Acad Sci, USA 90: 6444-6448 (1993)により完全に記載されている。
【0131】
本発明は、本発明によるエピトープと結合可能な、ポリクローナルおよびモノクローナル両抗体、抗原結合フラグメントおよびそれらの組換えタンパク質を考慮に入れている。
【0132】
ポリクローナル抗体の調製は当業者によく知られている。例えば、「Immunochemical Protocols」(Manson編)、1992、(Humana Press)1-5頁のGreenら、「Production of Polyclonal Antisera」;「Current Pro-tocols in Immunology」2.4.1節のColiganら、「Production of Polyclonal Antisera in Rabbits, Rats Mice and Hamsters」(参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
【0133】
同様にモノクローナル抗体の調製も慣習的である。例えば、Kohler & Milstein, Nature, 256:495-7 (1975);Coliganら、2.5.1-2.6.7節;「Antibodies: A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Pub. (1988) 726頁のHarlowらを参照のこと。モノクローナル抗体は、確立された様々な技術によってハイブリドーマ培養物から単離、精製できる。そのような単離技術には、プロテインAセファロース(Protein-A Sepharose)によるアフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーなどがある。例えばColiganら、2.7.1-2.7.12節および2.9.1-2.9.3節;「Methods in Molecular Biology」、1992、10:79-104、Humana Press、NYのBarnesら、「Purification of Immu-noglobulin G(IgG)」を参照のこと。
【0134】
モノクローナル抗体のインビトロおよびインビボ操作法は当業者によく知られている。例えば、本発明によって用いられるモノクローナル抗体は初めにKohler and Milstein, 1975, Nature 256, 495-7に記載されたハイブリドーマ法によって作製してもよく、または例えば米国特許第4,816,567号明細書に記載のような組換え方法によって作製してもよい。本発明に用いられるモノクローナル抗体はまた、Clackson et al., 1991, Nature 352: 624-628ならびにMarks et al., 1991, J Mol Biol 222: 581-597に記載の技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。別の方法に、組換え方法によりモノクローナル抗体をヒト化してヒト特異的および認識可能配列を含有する抗体を作製するといったものがある。総説については、Holmes, et al., 1997, J Immunol 158:2192-2201およびVaswani, et al., 1998, Annals Allergy, Asthma & Immunol 81:105-115を参照のこと。
【0135】
本明細書において用いられる「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団(つまり、その集団を構成する個々の抗体は少量存在し得る潜在的な天然の変異を除いて同一である)から得られる抗体を意味する。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して方向付けられている。さらに、一般にそれぞれの決定基(エピトープ)に対して方向付けられた種々の抗体を含む従来のポリクローナル抗体の調製とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対して方向付けられている。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体はハイブリドーマ培養により合成され、他の免疫グロブリンによって汚染されていないという利点がある。修飾語「モノクローナル」とは、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の特性を指し、いかなる特定の方法による抗体の産生を要求すると解釈すべきでない。
【0136】
本明細書においてモノクローナル抗体は、具体的には、望ましい生物学的活性を示す限り(米国特許第4,816,567号明細書)、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の種に由来する抗体、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であり、一方、鎖の残りの部分が別の種に由来する抗体、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体、ならびにそのような抗体のフラグメントと同一または相同である、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)も含む;Morrison et al., 1984, Proc Natl Acad Sci 81: 6851-6855。
【0137】
抗体フラグメントを作製する方法は当分野でよく知られている(例えばHarlowとLaneの「Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory、NY、1988(参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと)。本発明の抗体フラグメントは、抗体のタンパク質加水分解によって、またはフラグメントをコードするDNAを大腸菌(E. coli)において発現させることによって、調製することができる。抗体フラグメントは、従来法により全抗体をペプシンまたはパパインで消化することによって得ることができる。例えば、抗体フラグメントは、抗体をペプシンにより酵素的に切断してF(ab')2を示す5Sフラグメントを生じさせることによって産生できる。このフラグメントをチオール還元剤および必要に応じてジスルフィド結合の切断により生じるスルフヒドリル基の保護基を用いてさらに切断し、一価の3.5S Fab'フラグメントを産生することができる。あるいは、ペプシンを用いる酵素的切断により2つの一価のFab'フラグメントおよび1つのFcフラグメントを直接産生する。これらの方法は例えば、米国特許第4,036,945号および米国特許第4,331,647号明細書およびそこに含まれる参考文献に記載されている。これらの特許は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0138】
抗体を切断して、例えば重鎖を分離して一価の軽鎖−重鎖フラグメントを形成し、さらにフラグメントを切断する他の方法、または他の酵素学的、化学的もしくは遺伝学的技術も、無傷の抗体により認識される抗原にそのフラグメントが結合するならば、用いることができる。例えば、Fvフラグメントは対合したVHおよびVL鎖を含む。この対合は非共有結合であり得る、または可変鎖が分子間ジスルフィド結合によって連結し得る、もしくはグルタルアルデヒドのような化合物による架橋結合し得る。好ましくは、Fvフラグメントはペプチドリンカーにより連結されたVHおよびVL鎖を含む。これらの単鎖抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドにより連結されたVHおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって調製する。構造遺伝子は発現ベクターに挿入し、次いで大腸菌などの宿主細胞に導入する。生じた組換え宿主細胞により、2つのVドメインを架橋するリンカーペプチドを有する単鎖ポリペプチド鎖が合成される。sFvを産生する方法は、例えば「Methods:A Companion to Methods in Enzymology」の2:97のWhitlowら、1991;Bird et al., 1988, Science 242:423-426;米国特許第4,946,778号明細書;およびPack, et al., 1993, BioTechnology 11:1271-77に記載されている。
【0139】
抗体フラグメントの別の形態は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位」)はしばしば抗原の認識および結合に関与する。CDRペプチドは、目的の抗体のCDRをコードする遺伝子をクローニングまたは構築することにより得ることができる。そのような遺伝子は、例えばポリメラーゼ連鎖反応を用いて抗体産生細胞のRNAからの可変領域を合成することにより調製する。例えばLarrickら、「Methods:a Companion to Methods in Enzymology」第2巻、106頁(1991)を参照のこと。
【0140】
本発明は、非ヒト(例えばマウス)抗体のヒトおよびヒト化型も考慮に入れる。そのようなヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列、例えば配列を認識するエピトープを含有するキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはそれらのフラグメント(Fv、Fab、Fab'、F(ab')2または他の抗体の抗原結合サブ配列など)である。大部分において、ヒト化抗体は、レピシエントの相補的決定領域(CDR)からの残基が、望まれる特異性、親和性および能力を有するヒト以外の種、例えばマウス、ラットまたはウサギのCDRからの残基(ドナー抗体)によって置換されているヒト免疫グロブリン(レピシエント抗体)である。本発明の抗体の最小配列、例えば本明細書に記載のエピトープを認識する配列を含むヒト化抗体は、本発明の好ましい実施態様の1つである。
【0141】
いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基により置換されている。さらに、ヒト化抗体は、レピシエント抗体にも移入したCDRまたはフレームワーク配列にも見られない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体の性能をさらに改良し最適化するために行う。一般に、ヒト化抗体は、全てまたは実質的に全てのCDR領域が非ヒト免疫グロブリンのCDR領域と対応し、全てまたは実質的に全てのFR領域がヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である、実質的に全ての、少なくとも1つの、典型的には2つの可変領域を含むであろう。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)の少なくとも一部を含むであろう。さらなる詳細については、Jones et al., 1986, Nature 321, 522-525;Reichmann et al., 1988, Nature 332, 323-329;Presta, 1992, Curr Op Struct Biol 2:593-596;Holmes et al., 1997, J Immunol 158:2192-2201およびVaswani, et al., 1998, Annals Allergy, Asthma & Immunol 81:105-115を参照のこと。
【0142】
抗体の産生は、抗原として配列番号1-22から選択される配列を含む、ヒトGDNF、ARTN、NRTN、PSTN、TGFベータ-1、TGFベータ-2、TGFベータ-3およびTGFベータ-4の天然または組換えフラグメントを用いて、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を産生する当分野のあらゆる標準的方法により行うことができる。そのような抗体は、配列番号1-22のペプチド配列の変異体、相同体またはフラグメントを用いても産生することができ、これらの変異体、相同体およびフラグメントは以下の基準を満たす免疫原生ペプチド配列である:
(i)少なくとも6つのアミノ酸の連続的なアミノ酸配列である;
(ii)本発明のモチーフを含む。
【0143】
抗体は、本発明による免疫原生フラグメントを処置すべき個体に投与することにより、その個体によってインビボ的に産生することもできる。従って、本発明はさらに、上記の免疫原生フラグメントを含むワクチンに関する。
【0144】
本発明はまた、本発明の抗体を産生する方法であって、上記の免疫原生フラグメントを供与する段階を含む方法に関する。
【0145】
本発明は、GDNF、ARTN、NRTN、PSTN、TGFベータ-1、TGFベータ-2、TGFベータ-3およびTGFベータ-4の生物学的機能、特に神経細胞の分化、生存および/または可塑性に関連する機能を調節する、例えば促進するまたは減弱することができる抗体と、前記タンパク質を認識し、その生物学的活性を改変せずに特異的に結合することができる抗体の両方に関する。
【0146】
本発明は、以下のために上記抗体を用いることに関する:1)ヒトGDNF、ARTN、NRTN、PSTN、TGFベータ-1、TGFベータ-2、TGFベータ-3およびTGFベータ-4の活性の調節が必要な場合の治療に適用する、2)診断を目的として前記タンパク質をインビトロおよび/またはインビボにおいて検出および/またはモニターする、3)研究目的。
【0147】
医薬組成物
本発明はまた、神経突起伸長および/または神経細胞の分化、神経細胞の生存を刺激する、および/または学習および/または記憶を刺激することができる、1以上の上記化合物を含む医薬組成物に関する。従って、本発明は、神経細胞の分化を刺激する、および/または神経細胞の再生を刺激する、および/または学習および記憶に関連する神経細胞の可塑性を刺激する、および/または神経細胞の生存を刺激することができる医薬組成物に関する。
【0148】
本発明の文脈において、「医薬組成物」なる用語は、「医薬」なる用語と同義に用いられる。
【0149】
組成物において、ペプチド配列は、個々の単離ペプチドフラグメントまたはそれらの上記で論じたような多量体もしくは二量体を含むように製剤化することができる。
【0150】
対象に投与した医薬組成物は、インビトロまたはインビボにおいて細胞に対して上記の効果を有し得る。
【0151】
本発明の医薬は、有効量の1以上の上記化合物または上記組成物を製薬的に許容される添加物と組み合わせて含む。そのような医薬は、経口、経皮、筋肉内、静脈内、頭蓋内、くも膜下腔内、脳室内、鼻腔内または肺投与のために適切に製剤化することができる。
【0152】
本発明の化合物に基づく医薬および組成物の製剤開発の方法は、一般にあらゆる他のタンパク質に基づく薬物生産の製剤方法に対応する。潜在的な問題およびこれらの問題の解決に必要なガイドラインは、いくつかの教科書、例えば「Therapeutic Peptides and Protein Formulation Processing and Delivery Systems」、A.K. Banga編、Technomic Publishing AG、Basel、1995において扱われている。
【0153】
注射剤は通常、溶液もしくは懸濁液として、または注射前に溶液または懸濁液といった液体にするのに適する固体形態として調製する。その調製物は乳化されていてもよい。活性成分はしばしば、製薬的に許容され、その活性成分に適合性の賦形剤と混合する。適切な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセリン、エタノールなど、およびそれらの組み合わせである。さらに、必要であれば、その調節物は、少量の補助剤、例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、または調製物の有効性または輸送を促進する物質を含有してもよい。
【0154】
本発明の化合物の製剤は当業者に既知の技術によって調製することができる。製剤は、微粒子、リポソーム、マイクロカプセル、ナノ粒子などの製薬的に許容される担体および賦形剤を含有し得る。
【0155】
製剤は、注射によって、必要であれば活性成分が効果を発揮すべき部位に、適切に投与され得る。他の投与様式に適するさらなる製剤には、坐剤、経鼻、肺、および場合により経口製剤が含まれる。坐剤においては、伝統的な結合剤および担体に、ポリアルキレングリコールおよびトリグリセリドなどがある。そのような坐剤は0.5%から10%、好ましくは1-2%の範囲の活性成分を含有する混合物から調製できる。経口製剤は、例えば医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどのような通常用いられる賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放性製剤または散剤の形態を取り、一般に10-95%、好ましくは25-70%の活性成分を含有する。
【0156】
他の製剤には、例えば吸入器およびエアロゾルのような経鼻および肺投与に適するものがある。
【0157】
活性化合物は、中性または塩の形態で製剤化してもよい。医薬上許容される塩には、酸付加塩(ペプチド化合物の遊離アミノ基で形成される)、および例えば塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸で形成される塩などがある。遊離カルボキシル基で形成される塩は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは水酸化第二鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基から由来してもよい。
【0158】
製剤は投与剤形に適合する方法で、治療的に有効な量を投与する。投与すべき量は処置すべき対象、例えば対象の体重および年齢、処置すべき疾患および疾患段階に依拠する。適切な用量の範囲は、1投与、体重1キロにつき通常数百μgのオーダー、好ましくは約0.1μgから5000μgの範囲の活性成分である。単量体型の化合物を用いる場合、適切な用量はしばしば体重1キロにつき0.1μgから5000μgの範囲、例えば約0.1μgから3000μgの範囲、特に約0.1μgから1000μgの範囲である。多量体型の化合物を用いる場合、適切な用量はしばしば体重1キロにつき0.1μgから1000μgの範囲、例えば約0.1μgから750μgの範囲、特に約0.1μgから500μgの範囲、例えば約0.1μgから250μgの範囲である。特に経鼻投与する場合は、他の経路で投与する時よりも少ない用量が用いられる。投与は1回だけ行っても、続いて複数回投与してもよい。用量は投与経路にも依拠し、処置すべき対象の年齢や体重によって変化するであろう。多量体型の好ましい用量は体重70kgにつき1mgから70mgの間であり得る。
【0159】
適応症によっては、局在化または実質的に局在化して適用するのが好ましい。
【0160】
本発明の化合物は、そうでない場合を除いて充分に活性であり、製剤が製薬的に許容される添加剤および/または担体をさらに含むと効果は増大されるであろう。そのような添加物および担体は当分野で既知である。場合によっては、活性物質の標的への輸送を促進する化合物を含むと有利となる。
【0161】
多くの場合、製剤を複数回投与する必要がある。投与は、連続的な注入であってもよく(例えば脳室内注入)、または複数回投与することであってもよい(例えば1日数回、毎日、週に数回、毎週など)。医薬の投与は、細胞死を引き起こし得る因子に個体が接触する前またはその直後に始めるのが好ましい。好ましくは、因子の接触から8時間以内、例えば因子の接触から5時間以内に医薬を投与する。多くの化合物は長期効果を示すので、1週間または2週間のような長い間隔で化合物の投与を行えばよい。
【0162】
神経ガイドへの使用に関しては、活性化合物の放出の制御に基づいて、投与は連続的にまたはごく少しにしてもよい。さらに、放出速度および/または放出部位を制御するために前駆体を用いてもよい。そのほか移植や経口投与も同様に放出の制御および/または前駆体の使用に基づいて行えばよい。
【0163】
上記に論じたように、本発明は、インビトロまたはインビボにおける神経細胞の分化の誘導、神経細胞の再生、可塑性および生存の刺激のために、個体を処置することに関し、この処置には有効量の1以上の上記化合物を投与することが含まれる。
【0164】
別の投与方法に、問題の化合物を発現し分泌することができる細胞を移植または注射する方法がある。これにより化合物を作用する場所で産生することができる。
【0165】
処置
さらなる局面において、本発明は、神経細胞の分化の誘導および/または神経細胞の再生、可塑性および/または生存の刺激に用いる、前記ペプチド、それらのフラグメントまたは変異体に関する。それらは、中枢および末梢神経系および筋または様々な器官の疾患や症状を防ぐ処置のために用いる。
【0166】
本発明による化合物/組成物を使用する処置は、移植(implantまたはtransplant)した細胞の分化の誘導、増殖の調節、再生、神経可塑性および生存の刺激に有用な実施態様である。この処置は長期効果を有する化合物を用いると特に有用である。
【0167】
従って、前記の処置は、以下のような中枢および末梢神経系の疾患または症状に関連する細胞死の処置および/または予防を含む:術後神経障害、外傷性神経障害(例えば脊椎損傷にによる)、神経線維の髄鞘形成障害、虚血後障害(例えば卒中による)、多発梗塞性認知症、多発性硬化症、糖尿病に関連する神経変性、神経−筋変性、統合失調症、アルツハイマー病、パーキンソン病またはハンチントン病。
【0168】
また、遺伝性または外傷性の萎縮性筋疾患のような神経−筋連絡機能障害を有する症状を含む、筋の疾患または症状に関連して;あるいは様々な器官の疾患または症状、例えばI型およびII型糖尿病などの生殖腺、膵臓の変性状態、ネフローゼなどの腎臓の変性状態などの処置において、本発明による化合物は、分化の誘導、増殖の調節、再生、神経可塑性および生存の刺激、すなわち生存の刺激に用いることができる。
【0169】
さらなる実施態様において、学習能力および/または短期間および/または長期間の記憶能力を刺激するために本発明の化合物および/または医薬組成物を使用する。
【0170】
特に、本発明の化合物および/または医薬組成物は、例えば以下のような臨床症状の処置に用いることができる:精神病(老年期および初老期の器質性精神病症状、アルコール精神病、一過性の器質性精神病症状、アルツハイマー病など)、脳リピドーシス(cerebral lipidoses)、癲癇、進行麻痺(梅毒)、肝レンズ核変性症、ハンチントン舞踏病、ヤーコプ−クロイツフェルト病、多発性硬化症、脳のピック病、梅毒、統合失調症、感情病(affective psychoses)、神経症性障害、性格神経症、器質性脳症候群に関連する非精神病性の人格障害、妄想性人格障害、狂信者(fanatic personality)、妄想性人格(障害)、妄想性基質(paranoid traits)、性的倒錯および疾患などの人格障害、精神遅滞、神経系および感覚器の疾患、認知異常(cognitive anomalies)、中枢神経系の炎症性疾患(髄膜炎、脳炎など)、脳変性(アルツハイマー病、ピック病、脳の老年性変性など)、交通性水頭症、閉塞性水頭症、パーキンソン病(他の錐体外路障害および異常運動障害を含む)、脊椎小脳疾患、小脳性運動失調、マリー運動失調、サンガー・ブラウン失調、ミオクローヌス性小脳性共同運動障害、原発性小脳変性症(primary cerebellar degenetration)(脊椎性筋萎縮症、家族性、若年性、成人型脊椎性筋萎縮症、運動神経疾患、筋萎縮性側索硬化症、運動神経疾患、進行性球麻痺、仮性球麻痺、原発性側索硬化症、他の前角細胞疾患、前角細胞疾患、詳細不明の、他の脊椎の疾患、脊髄空洞症および延髄空洞症など)、血管性脊髄症(myelopathy)、急性脊髄梗塞(塞栓性)(非塞栓性)、脊髄動脈血栓症、脊髄浮腫、亜急性壊死脊髄症、他に分類される疾患における亜急性脊髄連合変性症、脊髄症、薬物性、放射線誘発性骨髄炎、自律神経系疾患、末梢自律神経系、交感神経、副交感神経または植物性系の疾患、家族性自律神経失調症(ライリー・デイ症候群)、突発性末梢自律神経障害(neuropathy)、頚動脈洞性失神または症候群、頚部交感神経ジストロフィまたは麻痺;他に分類される疾患における末梢自律神経障害、アミロイド症、末梢神経系疾患、上腕神経叢の病変、頚肋症候群、肋骨鎖骨症候群、前斜角筋症候群、胸郭出口症候群、腕神経炎または神経根炎(新生児を含む)、炎症性および毒性神経障害(急性感染性多発神経炎、ギラン・バレー症候群、感染後多発神経炎、膠原病性脈管疾患における多発神経障害(polyneuropathy)を含む)、眼の多重構造に影響する疾患、化膿性内眼球炎、耳および乳様突起の疾患、新生児における器官および軟部組織の異常(神経系を含む)、分娩(labor)および出産(delivery)における麻酔剤または他の鎮静剤の投与の合併症、肌の疾患(感染、不十分な循環の問題、術後、圧力による損傷(crushing injury)、火傷などの損傷を含む)、神経および脊髄への損傷(神経断裂、持続的な損傷(lesion in continuity)(開放創のある場合またはない場合)、外傷性神経腫(開放創のある場合またはない場合)、外傷性一過性麻痺(開放創のある場合またはない場合)、医学的手技過程での偶発的穿刺または裂傷を含む)、視神経および視覚経路への損傷、視神経の損傷、第II脳神経、視交叉への損傷、視覚経路への損傷、視覚野への損傷、詳細不明の失明、他の脳神経への損傷、他のおよび詳細不明の神経への損傷。薬物中毒、医学および生物学的物質、遺伝性または外傷性萎縮性筋疾患;
またはI型およびII型糖尿病などの生殖腺、膵臓の変性状態、ネフローゼなどの腎臓の変性状態など、様々な器官の疾患または症状の処置のために用いることができる。
【0171】
脳の炎症はしばしば、感染、自己免疫過程、毒素および他の条件により生じる。
【0172】
ウイルス感染はこの症状の比較的頻度の高い原因である。脳炎は以下の感染の第一のまたは第二の徴候として起こり得る:トガウイルス感染;ヘルペスウイルス感染;アデノウイルス感染;;フラビウイルス感染;ブニヤウイルス感染;ピコナウイルス感染;パラミクソウイルス感染;オルソミクソウイルス感染;レトロウイルス感染;およびアレナウイルス感染。
【0173】
従って、本発明のペプチド、化合物または医薬組成物は、ウイルス感染に伴う脳の炎症を処置するために用いられ得る。
【0174】
多数の臨床および実験データにより、補体活性化がギラン・バレー症候群における神経細胞およびグリア細胞損傷の重要なメカニズムであることが示されている。従って、補体活性化の抑制により、疾患の進行が抑えられると予想される(Halstead et al.(2005) Annals of Neurology 58:203-21)。
【0175】
従って、別の実施態様において、ペプチド配列、化合物および医薬組成物は、ギラン・バレー症候群、その変異型、例えばミラー・フィッシャー症候群および他の補体依存性神経筋障害(complement dependent neuromuscular disorder)の処置に用いることが出来得る。
【0176】
ペプチド配列、化合物および医薬組成物は自閉症の、小児の自閉症に用いることも出来得る。
【0177】
自閉症は小児期早期に始まる脳障害であり、成人期も持続し;発達の以下の3つの重要な部分に影響する:コミュニケーション、社会的相互作用および創造的なまたは想像力のいる遊び(play)。子供1000人に2から5人が苦しめられ、男子に起こる確率は女子の4倍であると推定される。自閉症の子供は社会的相互作用およびコミュニケーションに困難を抱えており、繰り返し行動を見せることがあり、物や慣習事に対して異常な執着を持つ。
【0178】
近年は、小児の自閉症には免疫系に変則性があるという科学的な手がかりが得られている。
【0179】
従って、ペプチド配列、化合物またはそれらを含む組成物は、炎症、特に脳の炎症を処置するために用いることが出来得る。
【0180】
本発明のさらなる局面は、有効量の1以上の本発明の化合物、または1以上の製薬的に許容される添加剤もしくは担体を含む本発明による医薬組成物を混合することを含む、医薬組成物を産生する過程、および有効量の少なくとも1つのそれらの化合物または医薬組成物を対象に投与する方法である。
【0181】
上記方法の一実施態様において、人工神経ガイドである人工器官と組み合わせて化合物を用いる。従って、さらなる局面において、本発明は、1以上の上記のような化合物または医薬組成物を含むことを特徴とする人工神経ガイドに関する。神経ガイドは当分野で知られている。
【0182】
本発明の別の局面は、上記のような化合物の使用に関する。特に、医薬組成物の生産のために本発明による化合物を用いる。医薬組成物は好ましくは、上記の疾患および症状のいずれかの処置または予防のために用いる。
【0183】
さらなる別の局面において、本発明は、本明細書に記載のような化合物を投与することによって上記のような疾患または症状を処置する方法に関する。
【実施例】
【0184】
1.GDN、アルテミンおよびニュールツリンタンパク質、ならびにこれらのタンパク質に由来するペプチドフラグメントA1、A2、A3、G1、G2、G3、N1 およびN2の、神経細胞分化に対する効果
【0185】
ペプチド
G1 LNVTDLGLGYETKEE(配列番号1) GDNFフラグメント
A1 VPVRALGLGHRSDEL(配列番号2) アルテミンフラグメント
N1 VRVSELGLGYASDET(配列番号3) ニュールツリンフラグメント
G2 ETTYDKILKNLSRNR(配列番号9) GDNFフラグメント
A2 RSPHDLSLASLLGAG(配列番号10) アルテミンフラグメント
N2 ARVYDLGLRRLRQRR(配列番号11) ニュールツリンフラグメント
G3 DLSFLDDNLVY(配列番号23) GDNFフラグメント
A3 VSFMDVNSTWR(配列番号24) アルテミンフラグメント
N3 EVSFLDAHSRY(配列番号25) ニュールツリンフラグメント
【0186】
方法
異なる2つのバージョン(単培養と共培養)の神経突起伸長アッセイを本研究に用いた。
【0187】
単培養において、神経細胞をプラスチック上で直接培養し、神経突起生成の刺激は唯一添加物質により与えられる。共培養において、神経細胞はNCAM-140(LBN110)またはNCAM陰性対照線維芽細胞(LVN212)を発言する線維芽細胞のコンフルエントな単層の頂点において培養する。神経細胞上のNCAMはLBN110細胞上のNCAMと相互作用し、これにより神経細胞からの神経突起伸長が刺激される。従って、この系により、NCAM-NCAM相互作用およびNCAMと他の分子との相互作用の研究が可能となる。
【0188】
全ての実験において、最終容量が8ウェルLabTek(登録商標)Permanox Chamber slideにおいて300μl/ウェルに、または4ウェルLabTek(登録商標)Permanox Chamber slideにおいて500μl/ウェルになるように上記のような補助剤を加えた神経細胞基礎培地において細胞を培養した。
【0189】
単培養において、8ウェルLabTek(登録商標)Permanox Chamber slideに10000細胞/ウェルの密度で初代海馬神経細胞を播種した。
【0190】
共培養において、8ウェルLabTek(登録商標)Permanox Chamber slideに100000細胞/ウェルの密度でL細胞を播種し、ただしトランスフェクション実験においては4ウェルLabTek(登録商標)Permanox Chamber slideに200000細胞/ウェルの密度で細胞を播種した。10%(v/v)FCS、1%(v/v)グルタマックス(glutamax)、100 U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、2.5μg/mlファンギゾン(fungizone)および567μg/mlネオマイシン(G418)を補足したDMEMにおいてL細胞を24時間培養し、補助剤を加えた神経細胞基礎培地にて2回洗浄し、8ウェルスライドに7000細胞/ウェルまたは4ウェルスライドに20000細胞/ウェルの密度で初代海馬神経細胞を播種した。
【0191】
神経突起伸長に対するペプチドの効果を評価するために、GDNFならびにペプチド、G1、G2、G3、A1、A2、A3、N1、N2およびN3を適切な濃度に希釈し、播種から約10分後の神経細胞に加えた。対照には培地のみを加え、細胞を24時間インキュベートした。
【0192】
細胞内シグナル伝達経路の関与を評価するために、薬理学的阻害剤、具体的にはFGFRの阻害剤のSU5402およびFynキナーゼの阻害剤のPP2を適切な濃度に希釈し、播種直後の神経細胞に加えた。10分後、GDNF、GDNFp1または培地(対照)を加え、細胞を24時間インキュベートした。
【0193】
さらに、薬理学的FGFR阻害剤を使用する代わりに、FGFRのドミナントネガティブ型(dnFGFR)により神経細胞を一過性にトランスフェクトした。dnFGFRプラスミドはキナーゼドメインを欠くFGFRをコードしている。この変異体レセプターは、結合してキナーゼ活性を欠く二量体となることにより、野生型FGFRの機能を抑制する。空のベクターでトランスフェクトした細胞を対照として用いた。FGFRの過剰発現作用を評価するために、wtFGFRによってもトランスフェクションを行った。
【0194】
NCAM-180およびNCAM-140の役割を調べるために、それぞれNCAM-180またはNCAM-140の細胞質内ドメインをコードするプラスミドによりトランスフェクションを行った。過剰発現した細胞質内ドメインは、細胞質内標的について内在性NCAM分子の細胞質内ドメインと競合し、おそらくNCAM-180またはNCAM-140シグナル伝達の阻害剤として機能する。空のベクターでトンスフェクトした細胞を対照として用いた。
【0195】
Nucleofector(商標)装置およびRat Neuron Nucleofector(商標)キット(Amaxa Inc., Gaithersburg, MD, USA)を用いてトランスフェクションを行った。このトランスフェクト方法は、親油性物質を含有するNucleofector(商標)溶液と組み合わせたエレクトロポレーションに基づいている。これらの物質は、プラスミドDNAを含むリポソームを形成し、エレクトロポレーション過程で細胞へ入る。この方法により、神経細胞のような分裂しない細胞のトランスフェクションが可能となる。関心のプラスミド3μgをNucleofector(商標)溶液と混合し、初代海馬神経細胞をその混合物中に再懸濁し、Nucleofector(商標)装置でエレクトロポレーションし、補助剤および5%(v/v)FCSを補足した神経細胞基礎培地へ移した。次いで細胞を2時間インキュベートし、その後無血清培地へ再懸濁し、カウントし、播種し、6時間インキュベートし、GDNFまたはGDNFp1を加えた。対照には培地のみを加え、細胞を18時間インキュベートした。
【0196】
この研究における一時的なトランスフェクションは全て、プラスミドをコードするEGFPとの共トランスフェクションを含み、これによりトランスフェクトされた細胞の同定が可能となる。EGFP発現細胞も全て目的のプラスミドによって確実にトランスフェクトされるようにするために、EGFPコードプラスミドと目的のプラスミドの割合を1:5とした(つまり各トランスフェクションに0.5μgのEGFPコードプラスミドを用いた)。
【0197】
一定時間経過後細胞を固定して神経突起伸長実験を終了した。神経細胞およびそれらの神経突起を可視化するために、GAP-43の免疫染色を行った。この染色は神経細胞に特異的である。トランスフェクト細胞およびそれらの神経突起は、GFPが蛍光を放射するので免疫染色をしなくとも目に見えるはずである。しかしながら、本研究においては、GFP自体の蛍光強度が弱すぎて、トランスフェクト細胞を適切に同定し、神経突起長を分析するのに必要な画質が得られないことが分かった。GFPは細胞質タンパク質であり、薄い神経突起は細胞質を少量しか含まないので、GFPはほとんどの神経突起において少量しか見られなかった。従って、細胞がGFPとGAP-43に対して免疫染色される二重染色法を採用した。この方法により、GFP染色に基づくトランスフェクション細胞の同定と組み合わせてGAP-43染色に基づく神経突起の可視化が可能となった。
【0198】
先に培地を除去することはせずに、300μl/ウェル(8ウェルスライド)または500μl/ウェル(4ウェルスライド)の、0.4 mM CaCl2、0.05Mスクロースおよび8%(v/v)ホルムアルデヒドを含有するPBS溶液を培養物に加えて20分間おいた。その後、細胞をPBSにて10分間洗浄し、次いで1%(w/v)BSAを含むPBSにて20分間洗浄し、その後、細胞を一次抗体により4℃で一晩インキュベートした。
【0199】
ウサギ抗ラットGAP-43抗体を、非トランスフェクト細胞染色用に1:1000に希釈し、トランスフェクト細胞染色用に1:2000に希釈した。マウス抗GFP抗体を1:1000に希釈した。非特異的結合をブロックするための7%(v/v)FCS、固定に用いられたホルムアルデヒドをブロックするための50 mMグリシン、細胞を透過処理するための0.2%(v/v)サポニンおよび後に用いられる抗体を保護するための0.02 %(v/v)NaN3を含有するPBS溶液に抗体を希釈した。
【0200】
翌日、細胞をPBSにて10分間洗浄し、次いで1%(w/v)BSAを含むPBSにて20分間洗浄した。次いで1%(w/v)BSAを含むPBSに希釈した二次抗体によって細胞を室温で1時間インキュベートした。Alexa 488にコンジュゲートしたヤギ抗ウサギIgG抗体を非トランスフェクト細胞用に1:1000に希釈し、トランスフェクト細胞用に1:2000に希釈した。Alexa 546にコンジュゲートしたヤギ抗マウスIgG抗体を1:1000に希釈した。最後に、細胞をPBSにて7分間、3回洗浄し、蛍光性封入剤をマウントした。
【0201】
ビデオカメラ(Grundig Electronics Germany)と繋げたNikon Plan 20x対物レンズを備えたNikon diaphot倒立顕微鏡(Nikon、東京、日本)を用いてコンピュータベースの蛍光顕微鏡検査法を行った。各実験における各条件について、系統的な一連の視野の中に約200細胞(非トランスフェクト細胞)または100細胞(トランスフェクト細胞)の画像を得た(ここで、初めの画像の位置はRonn et al.(2000c)に記載されているように無作為に選択される)。ここでは全ての細胞に選択される機会が均等に与えられる。それぞれの視野のトランスフェクト細胞について、まずGFP染色を記録し(緑の光)、その後光を青に切り替えてGAP-43染色を記録した。そして光を元に戻して次の視野へと移った。
【0202】
不偏性のカウント用フレームにおける神経突起とテストラインの交差の数をProtein Laboratoryが開発したソフトウェアパッケージ「ProcessLength」を用いてカウントし、神経突起伸長を解析した(Ronn et al., 2000)。後は、神経突起伸長を細胞あたりの交差数として定量化できる(細胞あたりの交差数を式:L=(πdI)/2(I=細胞あたりの交差数、d=フレームの2平行線間の垂直距離)によって細胞あたりの絶対的神経突起長(L)と関係付ける)。
【0203】
結果
神経細胞分化の重要な部分は、樹状突起の軸策(まとめると神経突起として知られる)の伸長である。従って神経突起伸長アッセイは神経細胞分化アッセイであり、所定物質の神経突起生成能を試験するのにしばしば用いられる。基本的に、神経細胞を関心分子の存在下で一定期間培養し、その後神経突起の伸長を定量する。さらに、種々の阻害剤を投入することにより、観察された神経突起生成反応の根底にあるシグナル伝達メカニズムを調べることが出来る。
【0204】
2.神経細胞の生存に対するGDNF、アルテミン、ニュールツリン由来ペプチドの、神経細胞の生存に対する効果
初代細胞培養
ドーパミン作動性神経細胞
ドーパミン作動性神経細胞を15日齢の胎生期のウィスターラット胚から調製した(Charles River, Sulzfeld, Germany or Mollegaard, Denmark)。妊娠中のラットを屠殺し、子宮を摘出し、ハンクス緩衝塩類液(ハンクス液)(HBSS; Gibco, BRL)中、氷上においた。胚の脳から中脳腹側部を摘除し、グルコース5g/l(Sigma-Aldrich)を補足したゲイ緩衝塩類溶液(Gey's balanced salt solution)(GBSS; Gibco, BRL)中、氷上でホジナイズし、その後トリプシン処理した。解離した細胞をDNAse 1および大豆トリプシン阻害剤(Sigma-Aldrich)の存在下で洗浄した。
【0205】
小脳顆粒神経細胞
小脳顆粒神経細胞(CGN)を、大部分、先にSchousboe et al. (1989)により報告されている通りに、生後7日齢のウィスターラットから調製した。小脳組織を調整クレブス・リンゲル液に摘除し、氷上に置き、上記の海馬神経細胞における記載のように処理した。全ての細胞培養物を5%CO2を含む湿気のある雰囲気において37℃でインキュベートした。動物は全て、動物福祉についての国のガイドラインに沿って扱った。
【0206】
生存アッセイ
ドーパミン作動性神経細胞
ドーパミン作動性神経細胞を、上記のようなポリ-D-リシンでコートした24ウェルの細胞培養プレートに150,000細胞/cm2の密度で播種した。神経細胞を種々の濃度のペプチドと共に、またはペプチドなしで6日間おいて分化させ、その後100μM濃度の6-OHDAを加えて2時間おいた。6-OHDAは酸化を防ぐために濃度が10mMになるように0.1%(w/v)のメタ重亜硫酸ナトリウムに希釈して貯蔵液を調製した。6-OHDAを加えてから2時間後、培地を補助剤およびペプチドを加えた神経細胞基礎培地へ変え、細胞培養物をさらに24時間インキュベートし、固定し、チロシンヒドロキシラーゼについて免疫染色した。個々の実験において各実験条件について98画像を自動的にビデオに記録した。
【0207】
小脳顆粒神経細胞
ポリ-L-リシンでコートした8ウェルのパーマノックススライド(permanox slide)上の、2%(v/v)B27、0.5%(v/v)グルタマックス、100 U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよびKClを補足したNeurobasal-A medium(Gibco, BRL)に100,000細胞/cm2の密度でCGNの初代培養を蒔き、培地内のKClの終濃度を40mMにした。初代培養を蒔いてから24時間後、グリア細胞の増殖を避けるためにシトシン-β-D-アラビノフラノシド(Ara-C; Sigma-Aldrich)を終濃度が10μMになるように加え、その後神経細胞を37℃でさらに6日間おいて分化させた。細胞を洗浄し、培地を、種々の濃度のペプチドとともに、1%(v/v)グルタミン、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシン、3.5g/l D-グルコースおよび1%(v/v)ピルビン酸ナトリウム(Gibco BRL)を補足したイーグル基礎培地(Basal Medium Eagle)(BME; Gibco BRL)に変え、アポトーシス細胞死を誘導した。これにより培養物のカリウム濃度が5mM KClに減少した(D'Mello et al., 1993)。アポトーシス誘導から2日後、Kruman et al. (1997)に記載のように、細胞を4%(v/v)ホルムアルデヒドで固定し、Hoechst 33258で25分間染色した。海馬の神経突起伸長アッセイにおいて記載したようにコンピュータベースの蛍光顕微鏡検査法を用いて、それぞれの実験において各グループについて1000-1500神経細胞の画像を無作為に記録した。死および生神経細胞の核をProtein Laboratoryが開発したソフトウェアパッケージPrimaを用いてカウントし、神経細胞の総数に対する生神経細胞の割合を推定した。
【0208】
結果
結果は図25および図29から33にまとめて示す。
【0209】
3.GDNF、アルテミンおよびニュールツリン由来ペプチドのGFRおよびNCAMへの結合。
表面プラズモン共鳴(SPR)分析
BIAcoreX装置(Biosensor AB, Uppsala, Sweden)を採用し、ランニング緩衝液として150mM NaClを含有する10mM pH7.4のリン酸ナトリウム(リン酸塩緩衝食塩水、PBS)を用いて25℃で結合分析を行った。流速は5μl/分であった。メーカーのソフトウェアを用いてデータを非線形の曲線の当てはめ(non-linear curve-fitting)によって解析した。レセプタータンパク質、例えばNCAMのIg1-Ig2およびGFRタンパク質をAmine Coupling Kit(Biosensor AB)を用いて以下のようにセンサーチップCM5上に固定した:チップを20μl活性化溶液によって活性化し;10mMナトリウムリン酸緩衝液(pH6.0)中20μg/mlタンパク質を12μl用いてタンパク質を固定化し;チップを35μlブロッキング溶液によってブロックした。示した濃度の種々のペプチドをセンサーチップに注射した。レセプターに結合しているチップと空のチップ間の差に対応する曲線を分析に用いた。
【0210】
結果
結果は図26から28および図34から38にまとめて示す。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】図1:初代海馬神経細胞のGDNF誘導性の神経突起伸長。細胞をGDNF(1、5、10、50および100ng/ml)により24時間刺激した。培地のみにて培養した神経細胞を対照とした。対照における神経突起伸長の絶対的な長さは11.65μm±1.57μmであった。結果を対照に対する比率で示し、平均±S.E.Mで表した。図は独立した5回の実験結果に基づいている。一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて、平均の神経突起伸長の長さを、繰り返した測定の結果と比較した。F(5, 24)=5.903、p<0.01は、GDNF処理に統計学的に有意な総合的効果があることを示す。
【0212】
【図2】図2:G1は初代海馬神経細胞において神経突起伸長を誘導しない。細胞をG1(0.3、1、3、9および27μg/ml)により24時間刺激した。培地のみにて培養した神経細胞を対照として用いた。対照における神経突起伸長の絶対的な長さは、11.68μm±2.20μm (A)または11.00μm±0.94μm (B)であった。結果を対照に対する比率で示し、平均±S.E.Mで表した。図は5回(A)または4回(B)の独立した実験結果に基づいている。one-way ANOVAを用いて、平均の神経突起伸長の長さを、繰り返した測定結果と比較した。F(5, 24)=0.4873、p=0.7823は、G1処理の総合的な効果が統計学的に有意でないことを示す。
【0213】
【図3】図3:初代海馬神経細胞のG2誘導性の神経突起伸長。細胞をG2(0.1、0.3、1、3および9μg/ml)により24時間刺激した。培地のみにて培養した神経細胞を対照として用いた。対照における神経突起伸長の絶対的な長さは11.50μm±2.20μmであった。結果を対照に対する比率で示し平均±S.E.Mで表した。図は4回の独立した実験結果に基づいている。one-way ANOVAを用いて、平均の神経突起伸長の長さを、繰り返した測定の結果と比較した。F(5, 18)=91.91、p<0.0001は、G2処理には、統計学的に有意な総合的効果があることを示す。チューキーの多重比較試験による事後試験を用いてG2の個々の濃度における効果を対照と比較した。
【0214】
【図4】図4:G3は初代海馬神経細胞において神経突起伸長を誘導しない。細胞をG3(0.3、1、3、9および27μg/ml)により24時間刺激した。培地のみにて培養した神経細胞を対照として用いた。対照における神経突起伸長の絶対的な長さは11.68μm±2.20μm (A)または11.00μm±0.94μm (B)であった。結果を対照に対する比率で示し、平均±S.E.Mで表した。図は5回 (A)または4回 (B)の独立した実験結果に基づいている。one-way ANOVAを用いて、平均の神経突起伸長の長さを、繰り返した測定の結果と比較した。F(5, 18)=1.710、p=0.1833は、G3処理の総合効果は統計的に有意でないことを示す。
【0215】
【図5】図0:対照線維芽細胞またはNCAM発現線維芽細胞との共培養にて培養した海馬神経細胞におけるGDNF誘導性の神経突起伸長。神経細胞を対照線維芽細胞(黒の曲線)またはNCAM発現線維芽細胞(赤の曲線)のいずれかの上で培養し、GDNF(1、5、10、50および100 ng/ml)により24時間刺激した。培地のみにて培養した神経細胞を対照として用いた。結果を対照(対照線維芽細胞上の非刺激神経細胞)に対する比率で示し、平均±S.E.Mで表した。対照線維芽細胞上の対照における神経突起伸長の絶対的な長さは38.97μm±0.21μmであった。図は独立した4回の実験結果に基づいている。one-way ANOVAを個別に用いて、平均の神経突起伸長の長さを、繰り返した測定の結果と比較した。F(5, 18)=27.33、p<0.0001は、対照線維芽細胞上にて培養した神経細胞に対するGDNF処理には有意な総合的効果があることを示す。F(5, 18)=9.967、p<0.001は、NCAM発現線維芽細胞上にて培養した神経細胞に対するGDNF処理には有意な総合的効果があることを示す。チューキーの多重比較試験による事後試験を用いて個々のGDNF濃度における効果を対応する対照と比較した。黒は対照線維芽細胞上にて培養した非刺激細胞と比較したp値を示し、一方、赤はNCAM発現線維芽細胞上にて培養した非刺激細胞と比較したp値を示す。2つの対照を対応のあるt検定(paired t-test)を用いて比較したところ、それらは統計学的に有意に異なっていることが示された(p値は黒+により示す)。各濃度において、対照線維芽細胞上にて培養した神経細胞およびNCAM発現線維芽細胞上にて培養した神経細胞の間の神経突起伸長の差異を計算し、対照(対照線維芽細胞上の非刺激神経細胞)に対する比率で示した(青の曲線)。繰り返した測定の結果に対するOne-way ANOVAでは、平均の差異は全て同じではないことが示された(F(5, 18)=5.835, p<0.05)。チューキーの多重比較試験による事後試験を用いて個々のGDNF濃度における差異を2つの対応する対照の差異(NCAM媒介性の神経突起伸長)と比較した。青はp値を示す。
【0216】
【図6】図6:G1は、対照線維芽細胞またはNCAM発現線維芽細胞との共培養にて培養した海馬神経細胞におけるNCAM誘導性の神経突起伸長を干渉する。神経細胞を対照線維芽細胞(黒の曲線)またはNCAM発現線維芽細胞(赤の曲線)のいずれかの上で培養し、G1(0.3、1、3、9、27および81μg/ml)により24時間刺激した。培地のみにて培養した神経細胞を対照として用いた。結果を対照(対照線維芽細胞上の非刺激神経細胞)に対する比率で示し、平均±S.E.Mで表した。対照線維芽細胞上の対照における神経突起伸長の絶対的な長さは34.64μm±0.63μmであった。図は独立した4回の実験結果に基づいている。one-way ANOVAを個別に用いて、平均の神経突起伸長を、繰り返した測定の結果と比較した。F(4, 15)=1.581、p=0.2422は、対照線維芽細胞上にて培養した神経細胞に対するG1処理には有意な総合的効果はないことを示す。F(4, 15)=10.45、p<0.001は、NCAM発現線維芽細胞上にて培養した神経細胞に対するG1処理には統計学的に有意な総合的効果があることを示す。この効果はより高い濃度のG1において抑制的であるようである。チューキーの多重比較試験による事後試験を用いて個々のG1濃度における効果を対応する対照と比較した。赤はNCAM発現線維芽細胞上にて培養した非刺激細胞と比較したp値を示す。2つの対照を対応のあるt検定を用いて比較したところ、それらは統計学的に有意に異なっていることが示された(p値は黒+により示す)。各濃度において、対照線維芽細胞上にて培養した神経細胞およびNCAM発現線維芽細胞上にて培養した神経細胞の間の神経突起伸長の差異を計算し、対照(対照線維芽細胞上の非刺激神経細胞)に対する比率で示した(青の曲線)。繰り返した測定の結果に対するOne-way ANOVAでは、平均の差異は全て同じではないことが示された(F(4, 15)=3.389, p<0.05)。チューキーの多重比較試験による事後試験を用いて個々のGDNFp2濃度における差異を2つの対照の差異(NCAM媒介性の神経突起伸長)と比較した。青はp値を示す。
【0217】
【図7】図7:対照線維芽細胞またはNCAM発現線維芽細胞との共培養にて培養した海馬神経細胞におけるG2誘導性の神経突起伸長。神経細胞を対照線維芽細胞(黒の曲線)またはNCAM発現線維芽細胞(赤の曲線)のいずれかの上で培養し、G2(0.1、0.3、1、3および9μg/ml)により24時間刺激した。培地のみにて培養した神経細胞を対照として用いた。結果を対照(対照線維芽細胞上の非刺激神経細胞)に対する比率で示し、平均±S.E.Mで表した。対照線維芽細胞上の対照における神経突起伸長の絶対的な長さは38.74μm±0.47μmであった。図は独立した4回の実験結果に基づいている。one-way ANOVAを個別に用いて、平均の神経突起伸長の長さを、繰り返した測定の結果と比較した。F(5, 18)=81.76、p<0.0001は、対照線維芽細胞上にて培養した神経細胞に対するG2処理には有意な総合的効果があることを示す。F(5, 18)=176.6, p<0.0001は、NCAM発現線維芽細胞上にて培養した神経細胞に対するG2処理には有意な総合的効果があることを示す。チューキーの多重比較試験による事後試験を用いて個々のG2濃度における効果を対応する対照と比較した。黒は対照線維芽細胞上にて培養した非刺激細胞と比較したp値を示し、一方、赤はNCAM発現線維芽細胞上にて培養した非刺激細胞と比較したp値を示す。2つの対照を対応のあるt検定を用いて比較したところ、それらは統計学的に有意に異なっていることが示された(p値は黒+により示す)。各濃度において、対照線維芽細胞上にて培養した神経細胞およびNCAM発現線維芽細胞上にて培養した神経細胞の間の神経突起伸長の差異を計算し、対照(対照線維芽細胞上の非刺激神経細胞)に対する比率で示した(青の曲線)。繰り返した測定の結果に対するOne-way ANOVAでは、平均の差異は全て同じではないことが示された(F(5, 18)=3.761, p<0.05)。チューキーの多重比較試験による事後試験を用いてGDNF またはGDNFp1の個々の濃度における差異を2つの対応する対照の差異(NCAM媒介性の神経突起伸長)と比較した。青はp値を示す。
【0218】
【図8】図8:G3は、対照線維芽細胞またはNCAM発現線維芽細胞との共培養にて培養した海馬神経細胞におけるNCAM誘導性の神経突起伸長を干渉する。神経細胞を対照線維芽細胞(黒の曲線)またはNCAM発現線維芽細胞(赤の曲線)のいずれかの上で培養し、G3(0.3、1、3、9、27および81μg/ml)により24時間刺激した。培地のみにて培養した神経細胞を対照として用いた。結果を対照(対照線維芽細胞上の非刺激神経細胞)に対する比率で示し、平均±S.E.Mで表した。対照線維芽細胞上の対照における神経突起伸長の絶対的な長さは34.20μm±0.68μmであった。図は独立した4回の実験結果に基づいている。one-way ANOVAを個別に用いて、平均の神経突起伸長の長さを、繰り返した測定の結果と比較した。F(4, 15)=2.440、p=0.1039は、対照線維芽細胞上にて培養した神経細胞に対するGDNFp3処理には有意な総合的効果がないことを示す。F(4, 15)=5.967、p<0.01は、NCAM発現線維芽細胞上にて培養した神経細胞に対するG3処理には統計学的に有意な総合的効果があることを示す。この効果はより高いG3濃度において抑制的であるようである。チューキーの多重比較試験による事後試験を用いて個々のG3濃度における効果を対応する対照と比較した。赤はNCAM発現線維芽細胞上にて培養した非刺激細胞と比較したp値を示す。2つの対照を対応のあるt検定を用いて比較したところ、それらは統計学的に有意に異なっていることが示された(p値は黒+により示す)。各濃度において、対照線維芽細胞上にて培養した神経細胞およびNCAM発現線維芽細胞上にて培養した神経細胞の間の神経突起伸長の差異を計算し、対照(対照線維芽細胞上の非刺激神経細胞)に対する比率で示した(青の曲線)。繰り返した測定の結果に対するOne-way ANOVAでは、平均の差異は全て同じではないことが示された(F(4, 15)=1.314, p=0.3199)。チューキーの多重比較試験による事後試験を用いて個々のGDNF p2濃度における差異を2つの対照の差異と比較した。青はp値を示す。
【0219】
【図9】図9:GDNFまたはG2により媒介される神経突起伸長におけるNCAMの関与。cyt-NCAM-A、cyt-NCAM-Bまたは空のベクターによりトランスフェクトした海馬神経細胞を対照線維芽細胞上にて培養し、10 ng/mlのGDNFまたは3μg/mlのGDNFp1により18時間刺激した。対照には培地のみを加えた。**p<0.01、***p<0.001。
【0220】
【図10】図10:GDNFまたはG2により媒介される神経突起伸長におけるNCAMの関与。cyt-NCAM-A、cyt-NCAM-Bまたは空のベクターによりトランスフェクトした海馬神経細胞をNCAM発現線維芽細胞上にて培養し、10 ng/mlのGDNFまたは3μg/mlのGDNFp1により18時間刺激した。対照には培地のみを加えた。**p<0.01、***p<0.001。
【0221】
【図11】図11:Fynキナーゼ阻害剤PP2は海馬神経細胞におけるGDNF誘導性の神経突起伸長を減少させる。神経細胞を対照線維芽細胞(黒の曲線)またはNCAM発現線維芽細胞(赤の曲線)のいずれかの上で培養した。10 ng/mlのGDNFを刺激に用い、神経細胞をPP2(0.2、1、5および25μM)とともに24時間インキュベートした。PP2を加えずにGDNFにより刺激した神経細胞を陽性対照として用いた。培地のみにて培養した神経細胞を陰性対照として用い、曲線と繋がっていない黒および赤の丸により示す。結果を陰性対照(対照線維芽細胞上の非刺激神経細胞)に対する比率で示し、平均±S.E.Mで表す。図は独立した6回の実験結果に基づいている。one-way ANOVAを個別に用いて平均の神経突起長を比較した。***および+++はp<0.001(対応する対照と比較した場合)。
【0222】
【図12】図12:Fynキナーゼ阻害剤PP2は、海馬神経細胞におけるG2誘導性の神経突起伸長を減少させる。神経細胞を対照線維芽細胞(黒の曲線)またはNCAM発現線維芽細胞(赤の曲線)のいずれかの上で培養した。刺激に3μg/mlのG2を用い、神経細胞をPP2(0.2、1、5、25および100μM)とともに24時間インキュベートした。PP2を加えずにG2により刺激した神経細胞を陽性対照として用いた。培地のみにて培養した神経細胞を陰性対照として用い、曲線と繋がっていない黒および赤の丸により示す。結果を陰性対照(対照線維芽細胞上の非刺激細胞)に対する比率で示し、平均±S.E.Mで表す。図は独立した6回の実験結果に基づいている。one-way ANOVAを個別に用いて平均の神経突起長を比較した。***および+++はp<0.001、または++++はp<0.0001(対応する対照と比較した場合)。
【0223】
【図13】図13:FGFR阻害剤SU5402は海馬神経細胞においてGDNF誘導性の神経突起伸長を減少させる。神経細胞を対照線維芽細胞(黒の曲線)またはNCAM発現線維芽細胞(赤の曲線)のいずれかの上で培養した。刺激に10 ng/mlのGDNFを用い、神経細胞をSU5402(1、5および25μM)とともにインキュベートした。SU5402を加えずにGDNFにより刺激した神経細胞を陽性対照として用いた。培地のみにて培養した神経細胞を陰性対照として用い、曲線と繋がっていない黒および赤の丸により示す。結果を陰性対照(対照線維芽細胞上の非刺激細胞)に対する比率で示し、平均±S.E.Mで表す。one-way ANOVAを用いて平均の神経突起伸長を比較した。黒は対照線維芽細胞上にて培養した陽性対照と比較したp値を示し、一方、赤はNCAM発現線維芽細胞上にて培養した陽性対照と比較したp値を示す。2つの陰性対照を対応のあるt検定を用いて比較したところ、それらは統計学的に有意に異なっていることが示された(p値は黒+で示す)。
【0224】
【図14】図14:FGFR阻害剤SU5402は、海馬神経細胞におけるG2誘導性の神経突起伸長を減少させる。神経細胞を対照線維芽細胞(黒の曲線)またはNCAM発現線維芽細胞(赤の曲線)のいずれかの上で培養した。刺激に3μg/ml GDNFp1を用い、神経細胞をSU5402(1、5、25および100μM)とともに24時間インキュベートした。SU5402を加えずにG2により刺激した神経細胞を陽性対照として用いた。培地のみにて培養した神経細胞を陰性対照として用い、曲線と繋がっていない黒および赤の丸により示す。結果を陰性対照(対照線維芽細胞上の非刺激細胞)に対する比率で示し、平均±S.E.Mで表す。one-way ANOVAを用いて平均の神経突起伸長を比較した。チューキーの多重比較試験による事後試験を用いて個々のSU5402濃度における効果を対応する陽性対照と比較した。黒は対照線維芽細胞上にて培養した陽性対照と比較したp値を示し、一方、赤はNCAM発現線維芽細胞上にて培養した陽性対照と比較したp値を示す。2つの陰性対照を対応のあるt検定を用いて比較したところ、それらは統計学的に有意に異なっていることが示された(p値は黒+で示す)。
【0225】
【図15】図15:ドミナントネガティブなFGFRをトランスフェクトすることによりGDNFまたはG2媒介性の神経突起伸長が減少する。dnFGFR、wtFGFRまたは空のベクターによりトランスフェクトした海馬神経細胞を対照線維芽細胞上にて培養し、10 ng/mlのGDNFまたは3μg/mlのGDNFp1により18時間刺激した。対照には培地のみを加えた。図は独立した5回の実験結果に基づいている。対応のあるt検定にかけて統計学的評価を行った。p<0.05、***p<0.001(対応する対照と比較した場合)。
【0226】
【図16】図16:ドミナントネガティブなFGFRをトランスフェクトすると、GDNFまたはG2媒介性の神経突起伸長が減少する。dnFGFR、wtFGFRまたは空のベクターによりトランスフェクトした海馬神経細胞をNCAM発現線維芽細胞上にて培養し、10 ng/mlのGDNFまたは3μg/mlのGDNFp1により18時間刺激した。対照には培地のみを加えた。図は独立した5回の実験結果に基づいている。対応のあるt検定にかけて統計学的評価を行った。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001(対応する対照と比較した場合)。
【0227】
【図17】図17:小脳顆粒神経細胞(CGN)からの神経突起伸長に対するアルテミンの効果。p<0.05(未処置対照と比較した場合)。
【0228】
【図18】図18:CGNからの神経突起伸長に対するA1ペプチドの効果。p<0.05、**p<0.01(未処置対照と比較した場合)。
【0229】
【図19】図19:CGNからの神経突起伸長に対するA2ペプチドの効果。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001(未処置対照と比較した場合)。
【0230】
【図20】図20:CGNからの神経突起伸長に対するA3ペプチドの効果。***p<0.001、**** p<0.0001(未処置対照と比較した場合)。
【0231】
【図21】図21:CGNからの神経突起伸長に対するニュールツリンの効果。 p<0.05、** p<0.01(未処置対照と比較した場合)。
【0232】
【図22】図22:CGNからの神経突起伸長に対するN1ペプチドの効果。 p<0.05(未処置対照と比較した場合)。
【0233】
【図23】図23:CGNからの神経突起伸長に対するN2ペプチドの効果。 p<0.05、p< 0.0001(未処置対照と比較した場合)。
【0234】
【図24】図24:CGNからの神経突起伸長に対するN3ペプチドの効果。 p<0.05(未処置対照と比較した場合)。
【0235】
【図25】図25:ドーパミン作動性神経細胞の生存に対するGDNF由来ペプチド、Gah(配列番号9; ETTYDKILKNLSRNR)の効果。図はGahによりドーパミン作動性神経細胞の生存が増加することを示す。 C3dは陽性対照である(このペプチドはドーパミン作動性神経細胞の生存を増加させる。Ditlevsen et al., J. Neurochem., 2003を参照のこと。)。
【0236】
【図26】図26:表面プラズモン共鳴(SPR)による結合解析。GDNF由来ペプチド、Gah(配列番号9 ETTYDKILKNLSRNR)の、NCAMのIg1-2分子への結合。結果は、Gahペプチドがおそらく神経細胞接着分子(NCAM)に対するGDNFの結合部位の一部であることを示す。
【0237】
【図27】図27:表面プラズモン共鳴(SPR)による結合解析。SPRはGDNF由来ペプチド、Gah(配列番号9, ETTYDKILKNLSRNR)の、GFRα1レセプターへの結合を示す。
【0238】
【図28】図28:表面プラズモン共鳴(SPR)による結合解析。図は、GDNF由来ペプチド、Gi(配列番号16, DDLSFLDDNLVY)の、GFRα1レセプターへの結合を示す。
【0239】
【図29】図29:小脳顆粒神経細胞(CGN)の生存に対するアルテミン由来ペプチド、ArtGah(配列番号10, RSPHDLSLASLLGAG)の効果。図はArtGahはCGNの生存を増加させることを示す。
【0240】
【図30】図30:小脳顆粒神経細胞(CGN)の生存に対するアルテミン由来ペプチド、ArtGg(配列番号2, VPVRALGLGHRSDEL)の効果。図は、ArtGgがCGNの生存を増加させることを示す。
【0241】
【図31】図31:小脳顆粒神経細胞(CGN)の生存に対するアルテミン由来ペプチド、ArtGi(配列番号17, EAVSFMDVNSTWR)の効果。図は、ArtGiがCGNの生存を増加させることを示す。
【0242】
【図32】図32:小脳顆粒神経細胞(CGN)の生存に対するニュールツリン由来ペプチド、NeuGg(配列番号3, VRVSELGLGYASDET)の効果。図は、NeuGgがCGNの生存を増加させることを示す。
【0243】
【図33】図33:小脳顆粒神経細胞(CGN)の生存に対するニュールツリン由来ペプチド、NeuGi(配列番号18, DEVSFLDAHSRY)の効果。図はNeuGiがCGNの生存を増加させることを示す。
【0244】
【図34】図34:表面プラズモン共鳴(SPR)による結合解析。図は、ニュールツリン由来ペプチド、NeuGah(配列番号11, ARVYDLGLRRLRQRR)の、GFRαレセプターへの結合を示す。
【0245】
【図35】図35:表面プラズモン共鳴(SPR)による結合解析。図は、ニュールツリン由来ペプチド、NeuGg(配列番号3, VRVSELGLGYASDET)の、GFRαレセプターへの結合を示す。
【0246】
【図36】図36:表面プラズモン共鳴(SPR)による結合解析。図は、ニュールツリン由来ペプチド、NeuGi(配列番号18, DEVSFLDAHSRY)の、GFRαレセプターへの結合を示す。
【0247】
【図37】図37:表面プラズモン共鳴(SPR)による結合解析。図は、アルテミン由来ペプチド、ArtGah(配列番号10, RSPHDLSLASLLGAG)の、GFRαレセプターへの結合を示す。
【0248】
【図38】図38:表面プラズモン共鳴(SPR)による結合解析。図はアルテミン由来ペプチド、ArtGi(EAVSFMDVNSTWR)の、GFRαレセプターへの結合を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式のモチーフを含む6から22の隣接するアミノ酸残基配列を有するペプチド:
Xa-(x)-Xb-Xc-Xd-Xf
[式中、
Xaは、アミノ酸残基D、E、AまたはGであり、
(x)は、アミノ酸残基A、D、E、G、I、K、L、P、Q、S、TおよびVからなる群から選択される2-3のアミノ酸残基または単一のアミノ酸残基の配列であり、
Xbは、アミノ酸残基YもしくはHまたは疎水性アミノ酸残基であり、
Xc、XdまたはXfの少なくとも1つは、荷電性または疎水性アミノ酸残基である]。
【請求項2】
(x)が2アミノ酸残基の配列である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
前記配列がL-G、K-I、L-S、G-L、T-QまたはT-Tである、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
(x)が、式L-x-G(式中xはいずれのアミノ酸残基でもよい)の3アミノ酸残基の配列である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
前記配列がL-Q-Gである、請求項4に記載のペプチド。
【請求項6】
(x)が荷電性または疎水性アミノ酸残基から選択される単一のアミノ酸残基である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項7】
(x)が荷電性アミノ酸残基である、請求項6に記載のペプチド。
【請求項8】
(x)がDまたはEである、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
(x)が疎水性アミノ酸残基である、請求項6に記載のペプチド。
【請求項10】
(x)がA、PまたはVである、請求項9に記載のペプチド。
【請求項11】
XaがDまたはEである、請求項1から10のいずれかに記載のペプチド。
【請求項12】
XaがGである、請求項1から10のいずれかに記載のペプチド。
【請求項13】
XaがAである、請求項1から10のいずれかに記載のペプチド。
【請求項14】
XbがA、L、VまたはWである、請求項1から13のいずれかに記載のペプチド。
【請求項15】
XbがYである、請求項1から13のいずれかに記載のペプチド配列。
【請求項16】
XbがHである、請求項1から13のいずれかに記載のペプチド。
【請求項17】
Xc、XdまたはXfの少なくとも1つが荷電性アミノ酸残基である、請求項1から16のいずれかに記載のペプチド。
【請求項18】
Xc、XdまたはXfの少なくとも1つが疎水性アミノ酸残基である、請求項1から16のいずれかに記載のペプチド。
【請求項19】
前記ペプチドが請求項1に記載のモチーフを含む以下の式のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のペプチド:
x1-x2-x3-x4-x5-x6-x7-x8-x9-x10
[式中、
x1はD、A、EまたはHから選択されるアミノ酸残基であり、
x2はL、G、T、D、A、E、VまたはPから選択されるアミノ酸残基であり、
x3はG、Q、I、S、G、L、T、VまたはAから選択されるアミノ酸残基であり、
x4はL、W、G、A、Y、H、S、F、PまたはTから選択されるアミノ酸残基であり、
x5はG、K、M、A、R、L、S、FまたはIから選択されるアミノ酸残基であり、
x6はY、H、W、K、N、S、R、A、M、L、DまたはVから選択されるアミノ酸残基であり、
x7はE、R、A、I、V、W、L、DまたはYから選択されるアミノ酸残基であり、
x8はT、S、H、L、R、D、V、AまたはYから選択されるアミノ酸残基であり、
x9はK、D、E、R、G、Q、A、S、N、H、VまたはIから選択されるアミノ酸残基であり、
x10はE、P、N、A、R、G、LまたはSから選択されるアミノ酸残基である]。
【請求項20】
配列番号1-22に示す配列、または該配列のフラグメント、変異体もしくは相同体から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1から19のいずれかに記載のペプチド。
【請求項21】
以下から選択される配列を含む、請求項20に記載のペプチド:
LNVTDLGLGYETKEE(配列番号1)
VPVRALGLGHRSDEL(配列番号2)
VRVSELGLGYASDET(配列番号3)または
LSVAELGLGYASEEK(配列番号4)。
【請求項22】
以下から選択される配列を含む、請求項20に記載のペプチド:
IDFRKDLGWKWIHEPKG(配列番号5)
IDFKRDLGWKWIHEPKG(配列番号6)
IDFRQDLGWKWVHEPKG(配列番号7)または
IDLQGMKWAKNWVLEPPG(配列番号8)。
【請求項23】
以下から選択される配列を含む、請求項20に記載のペプチド:
ETTYDKILKNLSRNR(配列番号9)
RSPHDLSLASLLGAG(配列番号10)
ARVYDLGLRRLRQRR(配列番号11)または
RTQHGLALARLQGQ(配列番号12)。
【請求項24】
以下から選択される配列を含む、請求項20に記載のペプチド:
WSLDTQYSKVLALYN(配列番号13)
WSSDTQHSRVLSLYN(配列番号14)または
RSADTTHSTVLGLYN(配列番号15)。
【請求項25】
以下から選択される配列を含む、請求項20に記載のペプチド:
DDLSFLDDNLVY(配列番号16)
EAVSFMDVNSTW(配列番号17)
DEVSFLDAHSRY(配列番号18)または
DVAFLDDRHRWQ(配列番号19)。
【請求項26】
以下から選択される配列を含む、請求項20に記載のペプチド:
EPLPIVYYVGRK(配列番号20)
EPLTILYYIGKT(配列番号21)または
EPLTILYYVGRT(配列番号22)。
【請求項27】
グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)に由来する、請求項20に記載のペプチド。
【請求項28】
配列番号1、9または16の配列から選択される配列を含む、請求項27に記載のペプチド。
【請求項29】
アルテミンに由来する、請求項20に記載のペプチド。
【請求項30】
配列番号2、10または17の配列から選択される配列を含む、請求項29に記載のペプチド。
【請求項31】
ニュールツリンに由来する、請求項20に記載のペプチド。
【請求項32】
配列番号3、11または18の配列から選択される配列を含む、請求項32に記載のペプチド。
【請求項33】
ペルセフィンに由来する、請求項20に記載のペプチド。
【請求項34】
配列番号4、12または19の配列から選択される配列を含む、請求項32に記載のペプチド。
【請求項35】
形質転換増殖因子ベータ-1(TGFベータ-1)、形質転換増殖因子ベータ-2(TGFベータ-2)、形質転換増殖因子ベータ-3(TGFベータ-3)または形質転換増殖因子ベータ-4(TGFベータ-4)に由来する、請求項20に記載のペプチド。
【請求項36】
配列番号5-8、13-15または20-22の配列から選択される配列を含む、請求項35に記載のペプチド。
【請求項37】
神経前駆細胞分化の刺激、神経突起伸長の刺激、神経細胞の生存の刺激、記憶および学習に関連する神経可塑性の刺激および/または炎症反応の抑制が可能な、前記請求項のいずれかに記載のペプチド。
【請求項38】
以下の配列のいずれかからなるペプチドまたはそれらのフラグメント、変異体もしくは相同体:
LNVTDLGLGYETKEE(配列番号1)
VPVRALGLGHRSDEL(配列番号2)
VRVSELGLGYASDET(配列番号3)
LSVAELGLGYASEEK(配列番号4)
IDFRKDLGWKWIHEPKG(配列番号5)
IDFKRDLGWKWIHEPKG(配列番号6)
IDFRQDLGWKWVHEPKG(配列番号7)
IDLQGMKWAKNWVLEPPG(配列番号8)
ETTYDKILKNLSRNR(配列番号9)
RSPHDLSLASLLGAG(配列番号10)
ARVYDLGLRRLRQRR(配列番号11)
RTQHGLALARLQGQG(配列番号12)
WSLDTQYSKVLALYN(配列番号13)
WSSDTQHSRVLSLYN(配列番号14)
RSADTTHSTVLGLYN(配列番号15)
DDLSFLDDNLVY(配列番号16)
EAVSFMDVNSTW(配列番号17)
DEVSFLDAHSRY(配列番号18)
DVAFLDDRHRWQ(配列番号19)
EPLPIVYYVGRK(配列番号20)
EPLTILYYIGKT(配列番号21)または
EPLTILYYVGRT(配列番号22)。
【請求項39】
前記フラグメントが以下から選択される、請求項38のペプチド:
DLSFLDDNLVY(配列番号23)、
VSFMDVNSTWR(配列番号24)または
EVSFLDAHSRY(配列番号25)。
【請求項40】
請求項1から39のいずれかに記載のペプチドを含む化合物。
【請求項41】
前記ペプチドが、個々のペプチド配列の単一コピーからなる単量体として形成される、請求項40に記載の化合物。
【請求項42】
前記ペプチドが、個々のペプチド配列の二量体または四量体を含む、個々のペプチド配列の2以上のコピーからなる多量体として形成される、請求項41に記載の化合物。
【請求項43】
多量体がデンドリマーである、請求項42に記載の化合物。
【請求項44】
医薬を製造するための請求項1から39のいずれかに記載のペプチドまたは請求項40から43のいずれかに記載の化合物の使用。
【請求項45】
請求項1から39のいずれかに記載のペプチドおよび/または請求項40から43のいずれかに記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項46】
神経突起の伸長、神経細胞の生存、神経前駆細胞の分化の刺激および/または炎症の抑制の方法であって、請求項1から39のいずれかに記載のペプチド、請求項40から43のいずれかに記載の化合物または請求項45に記載の医薬組成物を使用することを含む方法。
【請求項47】
神経突起の伸長、神経細胞の生存、神経前駆細胞の分化の刺激および/または炎症の抑制のための、請求項1から39のいずれかに記載のペプチド、請求項40から43のいずれかに記載の化合物または請求項45に記載の医薬組成物の使用。
【請求項48】
神経突起の伸長、神経細胞の生存、神経前駆細胞の分化および/または炎症の抑制が治療に有益である症状または疾患を処置するための、請求項1から39のいずれかに記載のペプチド、請求項40から43のいずれかに記載の化合物または請求項45に記載の医薬組成物の使用。
【請求項49】
症状または疾患が中枢および末梢神経系の症状または疾患である、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
症状または疾患が、術後神経障害、外傷性神経障害、神経線維の髄鞘形成障害、卒中後におけるものを含む虚血後障害、糖尿病に関連する神経変性、概日時計または神経−筋伝達に影響する疾患から選択される、請求項49に記載の使用。
【請求項51】
症状または疾患が、臓器移植後の症状または遺伝的もしくは外傷性萎縮性筋疾患を含む、神経−筋連結の機能障害を有する症状を含む筋の症状または疾患から選択される、請求項48に記載の使用。
【請求項52】
症状または疾患が癌である、請求項48に記載の使用。
【請求項53】
癌が血管新生を含むいずれかの癌である、請求項52に記載の使用。
【請求項54】
癌が神経系の癌である、請求項52に記載の使用。
【請求項55】
症状または疾患が学習能力障害および/または記憶障害である、請求項49に記載の使用。
【請求項56】
症状または疾患が、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病または多発梗塞性認知症を含む認知症である、請求項55に記載の使用。
【請求項57】
症状または疾患が、思考および/または気分障害、双極性(BPD)、遺伝子関連性単極性感情障害、妄想性障害、パラフレニー、妄想性精神病、統合失調症、統合失調症型障害、統合失調感情障害、統合失調感情双極性および遺伝子関連性単極性感情障害、心因性精神病、緊張病、周期性双極性および遺伝子関連性単極性感情障害、循環型精神病、統合失調質人格障害、妄想性人格障害、双極性および遺伝子関連性単極性感情障害に関係する感情障害および単極性感情障害のサブタイプを含む精神神経疾患を含む精神疾患である、請求項49に記載の使用。
【請求項58】
症状または疾患がアルコール消費による身体障害である、請求項48に記載の使用。
【請求項59】
症状または疾患がプリオン病である、請求項48に記載の使用。
【請求項60】
症状または疾患が持続性の炎症反応の存在を特徴とする、請求項47に記載の使用。
【請求項61】
症状または疾患が脳炎症または自己免疫疾患である、請求項60に記載の使用。
【請求項62】
症状または疾患がギラン・バレー症候群、ミラー・フィッシャー症候群を含むその変異形態または別の補体依存性神経筋障害である、請求項60に記載の使用。
【請求項63】
症状または疾患が自閉症である、請求項60に記載の使用。
【請求項64】
症状または疾患がウイルスまたは細菌感染である、請求項61に記載の使用。
【請求項65】
症状または疾患が末梢自己免疫疾患または炎症状態である、請求項60に記載の使用。
【請求項66】
症状または疾患が1型糖尿病、リウマチ性関節炎、乾癬、皮膚障害、種々のアレルギー、糸球体腎炎である、請求項65に記載。
【請求項67】
抗体を産生するための請求項1から39のいずれかに記載のペプチドまたは請求項40から43のいずれかに記載の化合物の使用。
【請求項68】
請求項1に記載のアミノ酸モチーフおよび/または請求項1から40のいずれかに記載のペプチドを含むエピトープを認識し結合することができる抗体。
【請求項69】
有効量の請求項1から40のいずれかに記載のペプチド、請求項40から43のいずれかに記載の化合物、請求項45に記載の医薬組成物および/または請求項61に記載の抗体を必要とする個体に投与することを含む治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公表番号】特表2009−504689(P2009−504689A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526375(P2008−526375)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【国際出願番号】PCT/DK2006/000448
【国際公開番号】WO2007/019860
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(506354755)ユニバーシティ オブ コペンハーゲン (5)
【Fターム(参考)】