説明

GPS測位演算方法及び装置

【課題】疑似距離の計算方法を簡素化しつつ計算精度の向上を図り、結果的に測定点での測位精度の改善が可能な技術を提供する。
【解決手段】GPS衛星21〜23から発せられる信号を受信して測定点の位置測位を行うGPS測位演算方法であって、GPS測位演算装置10は、受信した信号に含まれる航法データから、GPS衛星が信号を発信した時点におけるGPS衛星の、位置Aと、時刻tbと、軌道速度vとを含む軌道情報を取得し(S105)、測定点が信号を受信した時刻trでのGPS衛星の位置Bを時刻差t=tr−tbから算出し(S106)、ここで算出したGPS衛星の位置Bと測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ctを疑似距離として算出して(S107)、測位演算を行う(S111)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のGPS(Global Positioning System)衛星から発せられる信号を受信して地上の測定点の位置検出を行う、GPS測位演算方法及び測位演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS受信機が現在地の位置検出を行うためには、GPS衛星までの距離と、GPS衛星の位置とを知る必要がある。GPS衛星から送られてくる信号には、航法メッセージと呼ばれるデータ(以下、航法データという)が変調されており、この航法データの中に軌道情報が含まれている。
【0003】
GPS受信機は、複数のGPS衛星から航法データを受信し、GPS衛星の位置や、GPS衛星から測定点までの距離を測定することにより、例えば、自動車、船舶、航空機、作業用車両、携帯端末等、測定点となる移動体の位置を検出する。
【0004】
ところで、GPS受信機では、GPS衛星から信号が発せられる発信時点と、この信号を受信した受信時点とで時刻差が発生する。この場合、GPS受信機が備えている時計と、GPS衛星が備えている原子時計との間で時刻が完全に一致していれば、電波の伝播時間だけ遅れて航法データを受信することになる。従って、GPS受信機では、この電波の伝播時間に光速(電磁場の伝播速度)を乗算すれば、GPS衛星との間の距離を求めることができる。
【0005】
しかしながら、双方の時計の間で時刻が完全には一致していない場合が多い。このため、GPS受信機では、GPS衛星との間の距離を、時間誤差を含む「疑似距離(Pseudo-range)」として求めている。ここで、「疑似距離」とは、GPS衛星とGPS受信機間の距離であり、正確な距離にGPS受信機の時計の進みによる誤差が加わって測定されたものである。つまり、GPS受信機は、信号を受信した時刻からGPS衛星が信号を発信した時刻を減算して得られる伝播時間に光速を乗算することによって疑似距離を求めている。そして、航法データのエフェメリスを受信することにより求められる、GPS衛星の発信時点における位置と、算出された疑似距離とから3次元でGPS測定点の位置を求めることになる(例えば、特許文献1(図8)参照。)。
【0006】
ところでGPS受信機は、上記した時間誤差が少なければ、3台のGPS衛星からの信号による3変数で測定点の位置を算出できるはずである。しかしながら、その時間誤差が非常に大きいため、時間誤差の1変数を加えた4変数を用いて測定点の現在地の検出を行う技術が知られている。
例えば、図6に示すように、GPS受信機105は、最低でも4基のGPS衛星101〜104からの航法データの受信を必要とする。
【0007】
また、4基以上のGPS衛星からの航法データを用いる方法がある(例えば、特許文献2の図1参照)。)。これらの技術によれば、いずれも算出した疑似距離に大きな誤差を生じる。結果的に測位精度の向上に限界があった。そこで、図7に示すように、参照する地上の基地局(固定局受信機106)での測位結果であるディファファレンシャルデータから疑似距離の誤差を推定する方法等、精度を高めるために様々な方法が提案されている。これらの方法は、システムの複雑化を招き、計算時間やコストが増大する等の欠点があった。
【0008】
誤差の要因として、GPS衛星では時計の誤差や軌道の誤差、信号伝播では電離層屈折や対流圏屈折、そして、GPS受信機ではアンテナ位相中心の変化、時計の誤差、マルチパス等が考えられる。又、時計の誤差には、時計自身の誤差によるものと、相対論効果と呼ばれる特殊相対論や一般相対論による時間遅れ等が含まれる。更に、ランダムノイズの影響も考えられる。
【0009】
これらの誤差による影響を抑制するため、従来多くの試みがなされている。しかしながら、現状は、決め手となる対策が存在せず、未だに試行錯誤がなされている状況にある。そのため、上述したように、4基以上のGPS衛星からデータを取得し、あるいは、参照する地上の基地局での測位結果から疑似距離を推定する方法が取られてきた。
又、例えば、図8に、仰角と測位誤差との関係がグラフ表示されているように、誤差の要因として、仰角(あるいは天頂角)に対する依存特性が明らかになっている。このため、比較的測距離誤差の少ない、仰角が大きいGPS衛星のデータを優先的に使用するのが一般的であり、これら誤差のために疑似距離の計算方法やシステムが複雑化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2005/017552号パンフレット
【特許文献2】特許3524018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、疑似距離の計算方法を簡素化しつつ計算精度の向上を図り、結果的に測定点における現在地の検出精度の改善が可能な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明では、少なくとも3基のGPS衛星が発信した信号を受信機によって受信し、前記信号に基づき演算器が地平線上の測定点の位置を測位するGPS測位演算方法であって、前記受信機が受信した前記信号に含まれる航法データから、前記演算器が、前記信号を発信した時点における前記GPS衛星の、位置Aと、時刻tbと、軌道速度vとを含む軌道情報を取得する第1のステップと、前記演算器が、前記第1のステップで取得した軌道速度vと時刻tbとから、前記測定点が前記信号を受信した時刻trでの前記GPS衛星の位置Bを時刻差t=tr−tbから算出する第2のステップと、前記第2のステップで算出した前記GPS衛星の位置Bと前記測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ctを算出する第3のステップと、前記第3のステップで算出した前記少なくとも3基のGPS衛星の位置と前記測定点の位置Oとの間のそれぞれの距離ctから前記測定点の位置Oを算出する第4のステップと、を有することを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明では、少なくとも3基のGPS衛星から発せられる信号を受信機によって受信し、演算器が地平線上における測定点の位置Oを求めるGPS測位演算装置であって、前記受信機が受信した前記信号に含まれる航法データから、前記信号を発した時点における前記GPS衛星の、位置Aと、時刻tbと、軌道速度vとを含む軌道情報を取得する航法データ取得部と、前記取得した軌道速度vと時刻tbとから、前記測定点が前記信号を受信した時刻trでの前記GPS衛星の位置Bを時刻差t=tr−tbから算出し、この算出した前記GPS衛星の位置Bと前記測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ctを算出する疑似距離演算部と、この疑似距離演算部で算出した前記それぞれのGPS衛星の各位置Bと前記測定点の位置Oとの間のそれぞれの距離ctから、前記測定点の位置Oを算出する測位演算部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明では、請求項2記載のGPS測位演算装置において、前記疑似距離算出部は、更に、前記測定点の位置Oから、前記GPS衛星の位置Aと前記測定点の位置Oとを結ぶ第2の線分の距離csを算出し、前記算出された第2の線分の距離csを疑似距離として前記測位演算部に入力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、演算器が、GPS衛星から取得した、軌道速度vと時刻tbの航法データから、測定点が信号を受信した時刻trでのGPS衛星の位置Bを時刻差t=tr−tbから算出し、ここで算出したGPS衛星の位置Bと測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ctを疑似距離として測位演算することとした。
【0016】
GPS衛星が信号を発信した時刻tbと測定点がその信号を受信した時刻trとの差(t=tr−tb)に光速cを乗じて得られるctは、測定点が信号を受信したときのGPS衛星と測定点との間の距離を示すことになる。このため、GPS衛星から取得されるGPS衛星の位置Aと測定点との間の距離ctを疑似距離としていた従来例と比較すれば、GPS衛星の位置Bを演算により求める必要があるが、極めて高い精度で疑似距離計算が可能になる。
【0017】
そして、少なくとも3基のGPS衛星の信号受信時における位置情報と算出されたそれぞれの疑似距離とに基づき、測定点Oの位置を求めることにより、測定点Oでの位置検出精度の改善を可能にする。このため、測位演算に必要なGPS衛星を減らすことができ、且つ、地上の基地局からの参照測位データを不要とするため、疑似距離の計算方法が簡素化される。
【0018】
請求項2に係る発明では、疑似距離算出部が、GPS衛星から取得した、軌道速度vと時刻tbの航法データから、測定点が信号を受信した時刻trにおけるGPS衛星の位置Bを時刻差t=tr−tbから算出し、この算出したGPS衛星の位置Bと測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ctを疑似距離として算出する構成とした。このため、GPS衛星から取得されるGPS衛星の位置Aと測定点との間の距離ctを疑似距離としていた従来例と比較すれば、GPS衛星の位置Bを演算により求める必要があるが、極めて高い精度で疑似距離の計算が可能になる。
【0019】
そして、測位演算部が、信号受信時におけるGPS衛星の位置情報Bと、算出された疑似距離ctとに基づき、測定点の測位演算を行うことにより、測定点での位置の検出精度の改善を可能とするGPS測位演算装置を提供することができる。又、測位演算に必要なGPS衛星の数を減らすことができ、且つ、地上の基地局からの参照測位データを不要とした疑似距離の計算が可能になるため、計算方法が簡素化される。
【0020】
請求項3に係る発明では、疑似距離算出部は、測定点の位置Oから、GPS衛星の位置Aと測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離csを算出し、ここで算出された距離csを疑似距離として測位演算部に入力することとした。このため、演算工数は増えるが、仰角を使用せずに疑似距離csの計算が可能になることから計算精度が向上し、既存のGPS測位システムを使用した演算が可能になることから演算負荷も軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例に係るGPS測位演算装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係るGPS測位演算方法の基本的な考え方を2つの慣性系で表現した図である。
【図3】図2の慣性系において、測定点を底辺とするGPS衛星との間の角度αとβとの関係を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係るGPS測位演算装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施例に係るGPS測位演算方法の基本的な考え方を回転慣性系で表現した図である。
【図6】従来のGPS測位演算方法を説明するために引用した図である。
【図7】従来の固定局受信機によるディファレンシャルデータを用いたGPS測位演算方法を説明するために引用した図である。
【図8】仰角とGPS測位による測距誤差との関係をグラフで示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0023】
先ず、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明の実施例に係るGPS測位演算装置10は、受信機11と、アナログ・デジタル変換器12(A/D(analog/digital)変換器12)と、相関器13と、演算器14と、制御部15と、記憶部16と、により構成される。尚、受信機11は、アンテナ11aと、高周波回路11b(以降ではRF(Radio Frequency Circuit)回路11bという)とによって構成される。
【0024】
RF回路11bは、少なくとも3基のGPS衛星21〜23から発せられた信号(電波)をアンテナ11aを介して受信し、中間周波数帯(IF:Intermediate Frequency)の信号にダウンコンバートしてA/D変換器12へ出力する。
A/D変換器12は、RF回路11bから出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して相関器13及び制御部15に出力する。
【0025】
相関器13は、入力したデジタル信号に基づき受信周波数を検出する。具体的に、相関器13は、A/D変換器12が出力するデジタル信号を、GPS衛星のC/A(Coarse and Access)コードから復調し、電波伝播遅れを算出する。
【0026】
制御部15は、A/D変換器12から出力されたデジタル信号から航法データを取得して演算器14に出力すると共に、演算器14に対し、疑似距離の演算を含む測位指令を発して、演算器14に疑似距離の演算、及び測位演算を行わせる機能を有する。
【0027】
ところで、GPS測位に用いられる航法データには、「アルマナックデータ」と「エフェメリスデータ」とが含まれている。
「アルマナックデータ」には、全てのGPS衛星の概略位置がわかるパラメータが記述されており、約2週間使用することができる。この時間制限は、GPS衛星の軌道が時間と共にずれていくことによる制限であり、データの有効期間に相当する。「エフェメリスデータ」は、各衛星軌道情報の詳細なパラメータを記述したデータであり、制御部15が各GPS衛星の位置を算出する際に用いられる。エフェメリスデータの制限時間は約2時間である。又、事後にプレサイスエフェメリスデータから、より詳細な軌道情報が報告される。
【0028】
演算器14は、制御部15によるプログラム制御の下で、以下の第1のステップから第4のステップを実行する。具体的に、第1のステップでは、RF回路11が受信した信号に含まれる航法データから、信号を発信した時点での3基のGPS衛星21〜23の各位置A1、A2、A3(つまり、A)と、各時刻tと、各軌道速度vとを含む軌道情報を取得する。続く第2のステップでは、第1のステップで取得した各軌道速度vと各時刻tとから、測定点が信号を受信した時点での3基のGPS衛星の位置B1、B2、B3(つまり、B)を算出する。
【0029】
次に第3のステップでは、第2のステップで算出した各GPS衛星の位置Bと測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ct1、ct2、ct3(つまり、ct)を算出する。
【0030】
そして、第4のステップでは、第3のステップで算出した少なくとも3基のGPS衛星の位置B(B1〜B3)と測定点の位置Oとの間のそれぞれの距離ct(ct1〜ct3)から測定点の位置Oを算出する。
【0031】
上記した第1のステップ〜第4のステップは、予めプログラミングされ、記憶部16に格納されているものとする。制御部15は、例えば、マイクロプロセッサにより構成されており、記憶部16に格納されたプログラムを逐次読み出し実行することにより、演算器14に、上記した距離ct(疑似距離)を算出させ、最終的に、測定点の位置Oの測位演算を行なわせる。
【0032】
尚、記憶部16には、他に、制御部15により参照される、地球の中心位置と半径r、GPS信号の受信対象となるGPS衛星21〜23の周波数、及び光速c等の情報も格納されている。
【0033】
尚、上記した距離ct、及び測定点の位置Oの測位演算は、いずれも制御部15による制御の下で演算器14が実行するものとして説明するが、演算器14に代わって制御部15が実行しても良い。
【0034】
以下、本発明の実施例に係るGPS測位演算装置10についての動作説明を行うが、その前に、実施例を説明する上で基本となるGPS測位演算の考え方について、図2、図3を用いて簡単に説明する。
【0035】
ここでは、図2(a)に示すように、時刻0(Time=0)の時点で、位置AにいるGPS衛星から発せられる信号を、測定点O(P)のGPS測位演算装置10で受信する場合を想定する。測定点のGPS測位演算装置10がその信号を受信する時点において、GPS衛星は、既に位置Aにはなく、位置Bに移動している。以降の説明では、便宜上、位置AをGPS衛星の基準位置、位置BをGPS衛星の現在位置という。尚、図2(a)において、GPS衛星は記号Sで示されている。
【0036】
この様子を、図2(b)に四角形(平行四辺形)の点線で示すK座標、即ちGPS衛星の座標と、図2(c)に四角形の点線で示すQ座標、即ち地上の座標で説明する。
図2(b)によれば、K座標の対角にO点とB点がある。また、図2(c)によれば、Q座標の上辺の右側にA点がある。K座標はQ座標に対して速度vで右方向に運動している。ここで、GPS衛星Sは、常にK座標のB点にある。この2つの慣性系(慣性の法則が成立する座標系)が、Time=0で重なっている様子を図2(d)に示す。
【0037】
図2(d)において、基準位置Aと現在位置Bは重なっている。この状態で、Time=0の時点で、K慣性系のB点からO点に向け、GPS衛星が電波伝播速度(光速c)で信号を発したとすれば、時刻t経過後のTime=tでその信号がO点に到達する。このように、B点とO点の距離はctになるように設定してある。また、O点とP点の間の距離は、vtになるように設定してある。
【0038】
時刻t経過後の、Time=tで、O点とP点が重なったときの様子を図2(e)に示す。図2(e)によれば、GPS衛星によりB点から発信される信号はO点に到達する。別のQ慣性系に位置するGPS測位演算装置10は、A点から発せられる信号がP点に到達したように見える。このとき、Q慣性系でも信号は光速で伝播するため、A点からP点までの距離をcsとする。ここで重要なことは、GPS衛星Sが信号を発信した時刻と測定点が信号を受信した時刻との差に光速cを乗じたctは、測定点が信号を受信したときのGPS衛星衛星Sと測定点との距離を示すことである。
【0039】
図2(e)の慣性系で示す信号と運動の関係に角度を反映させたものが図3に示されている。ここでは、GPS衛星の信号発信時の仰角(地平線eに対する、GPS衛星Sの基準位置Aと測定点の位置Oとを結ぶ線分の角度)がβ、その信号をGPS測位演算装置10が受信する時点での仰角(地平線eに対する、GPS衛星の現在位置Bと測定点の位置Oとを結ぶ線分の角度)がαである。尚、GPS衛星Sの高度はhであり、この高度h他、軌道速度v、時刻tに関する情報は、いずれもGPS衛星Sから発信される航法データから算出される。
【0040】
図3から、距離csは、直角三角形△AOCに基づく3平方の定理から以下の演算式(1)で表現することができる。
【0041】
【数1】

【0042】
ここで、ct・sinαは、高度hに等しい。そして、2つの直角三角形(△OAC、△OBD)の長さの関係式であるct・sinα=cs・sinβに、上記の演算式(1)を代入すると、次の関係式(2)が導出される。これを更に変形すると、次の角度関係式(3)が導出される。続いてこの角度関係式(3)に対して上記の長さの関係式を考慮すると、次の時間変化式(4)が導出される。
【0043】
【数2】

【0044】
上記の角度関係式(3)に従い、測定点は、GPS衛星Sの現在位置Bと測定点の位置Oとを結ぶ線分の地平線eに対する角度αと、GPS衛星の基準位置Aと測定点の位置Oとを結ぶ線分の地平線eに対する角度βとを算出することができる。そして、この角度関係式(3)で算出された角度αから、GPS衛星Sからの信号受信時における測定点とGPS衛星Sとの間の距離csが次の関係式(5)により求まる。
【0045】
【数3】

【0046】
ところで、上記した角度関係式(3)で、β=π/2の場合α=cos−1(v/c)となり、このときの時間変化式(4)は、次の演算式(6)に変形される。
【0047】
【数4】

【0048】
上記の演算式(6)は特殊相対論による時間遅れと一致する。つまり、特殊相対論では角度αと角度βとの関係が考慮できないことを示している。このため、従来は、図8のグラフに示したように、仰角が大きい衛星からの信号に基づいて疑似距離を算出しないと誤差が大きくなる傾向があった。この傾向は、従来誤差として報告されている天頂角遅延量に類似している。即ち、天頂角が大きくなるにつれてその遅延量も概ね1/cosの割合で大きくなるため誤差も大きくなっている。
【0049】
これに対し、本実施例では、角度αと角度βの関係を疑似距離の算出に反映させることで、天頂角に依存しない精度の高い疑似距離の算出を可能にするものである。又、特殊相対論を考慮してGPS衛星の時計を受信局の時計に対して遅らせる必要も無い。すなわち、GPS衛星の時計と受信局の時計は同期させればよい。以上が相対運動を行う2つの慣性系の疑似距離計算のベースとなる考え方である。
【0050】
次に、図1に示す本発明の実施例1に係るGPS測位演算装置10の動作について、図4に示す制御部15の処理フローチャートを参照しながら詳細に説明する。
【0051】
制御部15は、まず、ステップS101で、プログラムに割り当てられたカウンタのカウント値iに”0”をセットする。カウンタは、信号受信の対象となるGPS衛星の数をカウントするものであり、ここでは、n基(例えば、3基)のGPS衛星21〜23を使用して測定点の位置を検出するものとして説明する。
【0052】
次に制御部15は、ステップS102において、信号受信の対象となる第1のGPS衛星21が発信した高周波アナログ信号をRF回路11bが受信したか否かを判定し、受信したことを確認すると、RF回路11bがステップS103でIF信号にダウンコンバートしてA/D変換器12に出力する。
【0053】
次に制御部15は、A/D変換器12に信号変換指令を発する。これをうけてA/D変換器12は、ステップS104において、I/F信号をデジタル信号に変換して相関器13及び制御部15に出力すると、制御部15は、ステップS105において、先にA/D変換されたデジタル信号から航法データ(軌道速度v、時刻tb)を取得して演算器14に出力する。このとき同時に、演算器14に対して疑似距離の算出指令を発する。
【0054】
演算器14は、制御部15から疑似距離の算出指令を受けると、ステップS105で取得した軌道速度vと時刻tbとから、測定点が信号を受信した時刻trでのGPS衛星の位置Bを時刻差t=tr−tbから算出する。そして、ステップS107において、GPS衛星が信号を発信した時刻と測定点が信号を受信した時刻の差(t=tr−tb)に光速cを乗算することにより、測定点が信号を受信したときのGPS衛星Sと測定点との距離ctを算出する。続いて演算器14は、その演算結果を制御部15に引き渡す。
【0055】
制御部15は、演算器14から疑似距離ctを受け取ると、ステップS108で、記憶部16の所定の領域に保存し、ステップS109でカウンタのカウント値iを”1”だけ増加させる。
【0056】
続いて制御部15は、ステップS110でカウンタの値iと、受信対象とするGPS衛星の数”n”とを比較する。ここで、信号を受信したGPS衛星の数が”n”に満たない場合は、ステップS102のGPS信号受信判定処理に戻り、以降、GPS衛星22〜23に関し、上述したGPS衛星21の信号受信と同様の処理(ステップS102〜S109)を繰り返し実行する。
【0057】
制御部15は、ステップS110において、カウンタの値iが、受信対象とするGPS衛星の数”n”に達したことを確認すると、演算器14に測位演算の指令を発する。
【0058】
演算器14は、制御部15から測位演算の指令を受けると、ステップS111で、先に取得したGPS衛星21〜23の3次元位置S(x、y、z)と、算出されたそれぞれのGPS衛星21〜23との疑似距離ct1〜ct3とに基づき、測定点の測位演算を行ない、その結果を制御部15に引き渡す。
【0059】
演算器14は、GPS衛星21〜23の位置S1〜S3と、算出された疑似距離ct1〜ct3とに基づく測定点の3次元位置O(x、y、z)の測位演算を行うにあたり、次の関係式(7)を演算により求める。
【0060】
【数5】

【0061】
上述した関係式(7)(連立方程式による測位関係式)を解くことにより、測定点の3次元位置O(x、y、z)を求めることができる。
【0062】
最後に、制御部15は、ステップS112で、測定点の位置と時刻とを、例えば、経路案内等、カーナビゲーション用のアプリケーションソフトウエアに引き渡し、上述した測定点の測位演算のための一連の処理を終了する。
【0063】
上述した本発明の実施例に係るGPS測位演算装置10によれば、疑似距離演算部は、3基以上のGPS衛星(ここでは21〜23)から発せられる信号に含まれる航法データから取得した速度vと時刻tbに関する航法データから、測定点が信号を受信した時刻trでのGPS衛星の位置Bを時刻差t=tr−tbから算出し、この算出したGPS衛星の位置Bと測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ctを算出する構成とした。
【0064】
このように、疑似距離ctを算出するにあたり、信号受信時のGPS衛星の位置Bを予め演算により求める必要はあるが、信号発信時のGPS衛星の位置と測定点との距離にctを用いていた従来例に比較して極めて高い精度で疑似距離の計算が可能になる。
【0065】
そして、測位演算部が、信号受信時におけるGPS衛星の位置情報Bと、算出された疑似距離ctとに基づき、測定点の測位演算を行うことにより、測定点での位置の検出精度の改善を可能とするGPS測位演算装置を提供することができる。又、測位演算に必要なGPS衛星の数を削減でき、且つ、地上の基地局からの参照測位データを不要とした疑似距離の計算が可能になるため、計算方法が簡素化される。
【0066】
尚、ここでは、算出したGPS衛星の位置Bと測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ctを疑似距離としたが、更に、測定点の位置Oから、GPS衛星の位置Aと測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離csを算出し、ここで算出された線分の距離csを疑似距離としてもよい。この場合、演算工数は増えるが、仰角を使用せずに疑似距離csの計算が可能になり、既存のGPS測位システムを使用した演算が可能になることから演算負荷も軽減される。
【0067】
又、図4のフローチャートにおいて、ステップS105は、GPS測位演算装置10を構成する「受信機が受信した信号に含まれる航法データから、信号を発した時点でのGPS衛星の位置Aと、時刻tbと、軌道速度vとを含む軌道情報を取得する航法データ取得部」に相当し、ステップS106とS107は、「取得した軌道速度vと時刻tbとから、測定点が信号を受信した時刻trでのGPS衛星の位置Bを時刻差t=tr−tbから算出し、この算出したGPS衛星の位置Bと測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ctを算出する疑似距離演算部」に相当し、ステップS111は、「算出したそれぞれのGPS衛星の各位置B(B1〜B3)と測定点の位置Oとの間のそれぞれの距離ct(ct1〜ct3)から、測定点の位置Oを算出する測位演算部」に相当する。
【0068】
ところで、上記した実施例では、2つの慣性系を用いて疑似距離の計算を試みた。ところが、実際上、GPS衛星21〜23と地上の測定点との間の関係は相対的な円軌道又は楕円軌道になることから回転慣性系になる。以降では、回転慣性系の回転運動と信号伝達の関係について、図5を参照しながら説明する。
【0069】
図5において、K座標から見た信号伝達概念を図5(a)に、Q座標から見た信号伝達の概念を図5(b)に示す。
図5(a)では、K座標からみた場合、地上の測定点にあるGPS測位演算装置10は、時刻tでPの位置からOの位置に角度ωtだけ移動することになる。また、図5(b)では、Q座標からみた場合、GPS衛星が時刻tでAの位置からBの位置に角度ωtだけ移動することになる。
【0070】
このことから、K座標で次の関係式(8)を求めることにより、回転運動における運動と時間の関係を計算することができ、又、Q座標において、次の関係式(9)を求めることにより、回転運動における運動と時間の関係を計算することができる。
ここで、ωは、地上の測位点にあるGPS測位演算装置10とGPS衛星21〜23の相対角速度であり、rは、地球の半径、RはGPS衛星の軌道の半径である。
【0071】
【数6】

【0072】
尚、楕円や、更に複雑な軌道の衛星に対しても、ct,cs,vtの関係は変化しないため、同様のct,cs,vtからなる三角形のベクトルを描くことにより、疑似距離ctを求めることが可能である。
従って、GPS測位演算装置10において、疑似距離ctを求めるにあたり、運算部14が、回転運動における運動と時間の関係を上述した関係式(8)及び(9)により求めることを除いては、上述した実施例と同様の動作を行う。
【0073】
このように、円軌道を行うGPS衛星21〜23と地上の測定点との関係は回転慣性系で表現でき、このときの回転運動と時間の関係について上述した関係式(8)及び(9)を求めることにより、楕円他、より複雑な軌道をとる場合にも上述した実施例と同様、誤差を生じない精度の高い疑似距離ctを求めることができる。
【0074】
尚、本発明のGPS測位方法は、例えば、図1に示すように、少なくとも3基のGPS衛星21〜23から発信される信号を受信して地平線e上の測定点(GPS測位演算装置10)の位置検出を行うGPS測位方法である。
【0075】
そのGPS測位方法は、例えば、図4に示すように、第1のステップから第4のステップを有する。ここで、第1のステップは、S105のように、信号に含まれる航法データから、信号を発信した時点でのGPS衛星の位置Aと、時刻tbと、軌道速度vとを含む軌道情報を取得する。そして第2のステップは、S106のように、取得した軌道速度vと時刻tbとから、測定点が信号を受信した時刻trでのGPS衛星の位置Bを時刻差t=tr−tbから算出する。
【0076】
第3のステップは、S107のように、第2のステップで算出したGPS衛星の位置Bと測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ctを算出する。そして、第4のステップは、S111に示されるように、第3のステップで算出した少なくとも3基のGPS衛星の位置B(B1〜B3)と、測定点の位置Oとの間のそれぞれの距離ct(ct1〜ct3)から測定点の位置Oを算出する。
【0077】
本発明のGPS測位方法によれば、極めて高い精度での測定点の位置検出を行うことができる。本発明のGPS測位方法によれば、GPS衛星が信号を発信した時刻と測定点がその信号を受信した時刻との差(t=tr−tb)に光速cを乗じて得られるctは、測定点が信号を受信したときのGPS衛星と測定点との距離を示すことになる。このため、GPS衛星から取得される信号発信時のGPS衛星の位置Aと測定点との距離にctを用いていた従来例に比較すれば、GPS衛星の位置Bを演算により求める必要はあるが、極めて高い精度で疑似距離の計算が可能になる。
【0078】
そして、少なくとも3基のGPS衛星の信号受信時における位置情報と算出されたそれぞれの疑似距離とに基づき、測定点Oの位置を求めることにより、測定点Oでの位置検出精度の改善を可能にする。このため、GPS衛星を多数使用することなく、且つ、地上の基地局からの参照測位データを不要とするため、疑似距離の計算方法が簡素化される。又、円軌道又は楕円軌道他の場合にも同様、誤差を生じない精度の高い疑似距離の計算が可能である。
【0079】
更に、本発明のGPS測位方法は、仰角依存特性を考慮することができる計算方法であり、これによって疑似距離の算出精度を大幅に改善することができる。疑似距離の算出精度が向上すれば、結果的に測定点の位置検出の精度の大幅な向上につながる。又、計算方法の簡素化、使用するGPS衛星の数の削減等、産業上得られる効果は極めて大きい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のGPS測位演算装置は、カーナビゲーションシステムに限らず、船舶、航空機、作業用車両、携帯端末等、測定点となる移動体の位置検出に用いることが可能である。又、ディファレンシャルデータから疑似距離の誤差を推定する等の方法を採れば、更に精度を向上することが可能である。又、位置検出以外にも、大気遅延量、電離圏遅延量等を高精度に算出できるため、気象観測における飛躍的な精度向上が望める。
【符号の説明】
【0081】
10…GPS測位演算装置、11…受信機、11a…アンテナ、11b…RF回路、12…A/D変換器、13…相関器、14…演算器、15…制御部、16…記憶部、、21〜23…GPS衛星。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3基のGPS衛星が発信した信号を受信機によって受信し、前記信号に基づき演算器が地平線上の測定点の位置を測位するGPS測位演算方法であって、
前記受信機が受信した前記信号に含まれる航法データから、前記演算器が、前記信号を発信した時点における前記GPS衛星の、位置Aと、時刻tbと、軌道速度vとを含む軌道情報を取得する第1のステップと、
前記演算器が、
前記第1のステップで取得した軌道速度vと時刻tbとから、前記測定点が前記信号を受信した時刻trでの前記GPS衛星の位置Bを算出する第2のステップと、
前記第2のステップで算出した前記GPS衛星の位置Bと前記測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ctを時刻差t=tr−tbから算出する第3のステップと、
前記第3のステップで算出した前記少なくとも3基のGPS衛星の位置と前記測定点の位置Oとの間のそれぞれの距離ctから前記測定点の位置Oを算出する第4のステップと、
を有することを特徴とするGPS測位演算方法。
【請求項2】
少なくとも3基のGPS衛星から発せられる信号を受信機によって受信し、演算器が地平線上における測定点の位置Oを求めるGPS測位演算装置であって、
前記受信機が受信した前記信号に含まれる航法データから、前記信号を発した時点における前記GPS衛星の、位置Aと、時刻tbと、軌道速度vとを含む軌道情報を取得する航法データ取得部と、
前記取得した軌道速度vと時刻tbとから、前記測定点が前記信号を受信した時刻trでの前記GPS衛星の位置Bを時刻差t=tr−tbから算出し、この算出した前記GPS衛星の位置Bと前記測定点の位置Oとを結ぶ線分の距離ctを算出する疑似距離演算部と、
この疑似距離演算部で算出した前記それぞれのGPS衛星の各位置Bと前記測定点の位置Oとの間のそれぞれの距離ctから、前記測定点の位置Oを算出する測位演算部と、
を備えたことを特徴とするGPS測位演算装置。
【請求項3】
前記疑似距離算出部は、
更に、前記測定点の位置Oから、前記GPS衛星の位置Aと前記測定点の位置Oとを結ぶ第2の線分の距離csを算出し、前記算出された第2の線分の距離csを疑似距離として前記測位演算部に入力することを特徴とする請求項2記載のGPS測位演算装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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