説明

GPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法及びGPS衛星信号の品質監視機能を備えたGPS衛星信号品質監視装置

【課題】単独のGPS受信機により、GPS衛星の故障による信号歪みを検出するとともに、この信号歪みによりどれだけ誤差が検出されたかを実際の数値として判定するGPS衛星信号品質監視方法およびGPS衛星信号の品質監視機能を備えたGPS衛星信号品質監視装置を提供する。
【解決手段】GPS受信機内で捕捉したいGPS衛星に対応するC/Aコードを生成し、このC/Aコードと受信信号のC/Aコードとの相関をとり、追尾点における相関値を用いて左右対称でない相関点の組み合わせとすることにより不感を解消し、信号歪みをみるとともに、相関点の交点と追尾点の測距値差を求め、この信号歪みによりどれだけ誤差が検出されたかを実際の数値として判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GPS衛星信号の品質監視機能を有する品質監視方法及びGPS衛星信号の品質監視機能を備えた品質監視装置に関し、特に、GPS衛星の故障による異常信号の検出方法及びこの異常信号を検出するためのしきい値を決定する方法とそれらの装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、GPS衛星において測距信号の生成・変調の過程で、何らかの故障によりGPS衛星からの送信信号に劣化が発生した場合、GPS受信機内で信号を捕捉するために生成したレプリカ信号とGPS衛星から受信した測距信号との相関波形に歪みが生じる。この相関波形の歪みが測距誤差の原因となっている。
【0003】
この測距誤差はGPS受信機の相関器幅などにより異なるため、DGPS(Differential GPS)の測位の利用者が基準局と異なる機種を利用している場合、特に、相関器ペアのチップ[chip]幅の異なる受信機同士の場合、大きな測距誤差を生じる原因となっている。
【0004】
そこで、発明者は、現在開発中の地上型衛星航法補強システム(GBAS:Ground Based Augmentation System)や静止衛星型衛星航法補強システム(SBAS:Satellite
Based Augmentation System)などの全地球的航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite
System)を用いた航空機の航法システムについて開発しているが、このGNSSを用いた航空機の航空システムでは、高い信頼性が求められるため、このようなGPS衛星の故障による異常信号を検出し、警報を発するモニタとして、GPS衛星信号の信号品質監視(SQM:Signal
Quality Monitoring)機能をシステムに組み込むことが必要である。
【0005】
そこで、発明者は、GPS衛星信号の品質監視機能を実現するため、相関波形が取得可能なGPS衛星信号品質監視装置を開発し、この装置で得られる相関波形からGPS衛星信号歪みを検出する方法のひとつとして、異常信号により生じる測距値差を推定する方法を提案し、擬似信号へ適用し、その評価を行った。
【0006】
一方、一般に、図15に示すように、GPS衛星から送信される測距信号は、GPS衛星毎に異なるPRN(Pseudo Random Noise:擬似ランダム雑音)符号(C/Aコード)で変調されている(図15(a))。従って、GPS受信機では、このGPS衛星からのGPS衛星信号を捕捉するために、GPS受信機内で受信したPRN符号に対応するC/Aコード(レプリカ信号)を生成している(図15(b))。次いで、このGPS受信機内で生成したレプリカ信号のC/Aコード(図15(b))とGPS衛星から受信したPRN符号(C/Aコード)(図15(a))との相関をとり、その相関波形のピークを追尾することにより、GPS衛星信号を捕捉して距離測定(測距)している。
【0007】
基本的に相関波形の形状は、図15(c)に示すように、ピーク(追尾点Ip)を中心として左右対称であるため、ピークの前(アーリー)と後(レイト)の相関器ペアの出力が同レベルとなるようにすることで、その中心点を追尾点Ipとし、測距を行うことができる。この方法はアーリーレイトコリレーションと呼ばれ、多くのGPS受信機で、この方式が採用されている。この相関器ペアのチップ幅は、GPS受信機の機種により、相関器ペアの幅を、1.0[chip]としたワイドコリレータ、相関器ペアの幅を、0.1[chip]としたアーリーレイトコリレータがある。
【0008】
又、アーリーレイトコリレーションの他に、チップ幅の異なる2つのコリレータの差分を用いるダブルコリレーションと呼ばれる方法などもある。
【0009】
又、特表2004−513370号公報に記載されているように、測位システム衛星信号歪みを検出するための装置は相関曲線に沿った位置で、複数の相関測定値を求める相関器を有し、相関測定値は、受信された衛星信号と基準との相関に基づいており、信号歪み検出器は、相関曲線に沿った相関測定値間の差を求め、この差から信号を検出するようにしたナビゲーション衛星信号品質監視用の装置もある。
【0010】
このナビゲーション衛星信号品質監視用の装置では、測位システム衛星によって伝送される信号に影響を及ぼす信号歪みを検出する方法として、伝送された信号を第1の基準と相関させて、相関曲線に沿った第1の点で第1の相関測定値を求め、伝送された信号を第2の基準と相関させて、相関曲線に沿った第2の点で第2の相関測定値を求め、伝送された信号を第3の基準と相関させて、相関曲線に沿った第3の点で第3の相関測定値を求め、第1の相関測定値と第2の相関測定値から第1の差を求め、第2の相関測定値と第3の相関測定値から第2の差を求め、第1の差を第1のしきい値と直接比較し、第2の差を第2のしきい値と直接比較し、第1及び第2の差と第1及び第2のしきい値との比較に基づいて、衛星での信号歪みを検出するようにしたものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「測距誤差推定によるGPS劣化信号検出について」第7回電子航法研究所発表会講演概要 2007年6月
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2004−513370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特表2004−513370号公報に記載の従来のものは、相関曲線に沿った相関測定値間の差を求め、単に、相関測定値間の差から信号歪みを見ているのみである。即ち、相関波形の直線からのずれを見ているだけである。従って、信号歪みによりどれだけ誤差が検出されるかは判定できないという問題がある。
【0014】
又、従来のものは、複数の受信機を使用する必要があるため、相関器ペアのチップ[chip]幅の異なる受信機同士の場合、大きな測距誤差を生じる原因となっている。
一方、先に発明者が発表したGPS衛星信号の歪みを検出する方法として異常信号により生じる測距値差を推定する方法とは別に、より正確な測距誤差推定方法や新たな異常信号検出方法及びその装置の開発が待たれていた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、GPS受信機内で捕捉したいGPS衛星に対応するC/Aコードを生成し、この生成したC/Aコードと受信信号のC/Aコードとの相関を取り、この相関波形のピークを追尾点Iとして追尾することにより、GPS衛星信号を捕捉し、この捕捉したGPS衛星信号の異常信号を検出する品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法において、GPS衛星信号品質監視方法により取得した相関波形から追尾点Iから順に、この追尾点Iの前の相関点IE1、相関点IE2、・・・・・相関点IEn及び後の相関点IL1、相関点IL2、・・・・相関点ILnである相関点を、n点ずつそれぞれ設定し、相関点IEiと相関点IEnを通る直線と追尾点Iと相関点ILjを通る直線の交点Iと、追尾点Iとの差から測距値差ΔRを求め、相関点IEjと追尾点Iを通る直線と相関点ILiと相関点ILnを通る直線の交点Iと、追尾点Iとの差から測距値差ΔRを求め、i、jは、i<j≦nを満足する整数とし、測距値差ΔR、測距値差ΔRの平均μ、μを算出し、測距値差ΔR、測距値差ΔRを、平均μ、μと標準偏差σ(C/N)、σ(C/N)により正規化して、ΔR1,std、ΔR2,stdを求め、(ΔR1,std)、(ΔR2,std)の二乗和の平方根

を求め、この測距値差ΔR(t)がしきい値を超えた時、故障と判定するようにしたGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法である。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、相関点n=2、整数i=1、整数j=2としたGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法である。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1〜請求項2の何れかに記載の発明において、しきい値は、GPS衛星信号の正常時の分布と異常時の分布との間に設定するようにしたGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法である。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項1〜請求項3の何れかに記載の発明において、しきい値は、GPS衛星信号の正常時の分布の時の誤検出確率に対応する値に設定するようにしたGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法である。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項1〜請求項3の何れかに記載の発明において、しきい値は、GPS衛星信号の異常時の分布の時の未検出確率に対応する値に設定するようにしたGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法である。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項1〜請求項3の何れかに記載の発明において、しきい値を、誤検出確率と未検出確率にそれぞれ対応する値が一致する値に設定することにより、最小検出可能誤差(MDE)を求めるようにしたGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法である。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項1〜請求項4、請求項6の何れかに記載の発明において、GPS衛星信号が正常時の分布の場合、前記ΔR1,std(t)とΔR2,std(t)の二乗和ΔR(t)を求め、このΔR(t)から自由度2のχ分布を求め、この自由度2のχ分布の累積分布(上側)をQ(x)とし、このQ(x)が誤検出確率に対応する時の値を、測距値差ΔR(t)のしきい値に設定し、ΔR(t)に対するしきい値を、ΔR1,stdとΔR2,stdに分配して測距値差に対するしきい値ΔRstd_thを求め、ΔRstd_thにσ(標準偏差)を乗算することにより、測距値差に対するしきい値ΔRn_thを求めるようにしたGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法である。
【0022】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の発明において、GPS衛星信号が異常時の分布の場合、自由度2、非心度λの非心χ分布を求め、この自由度2、非心度λの非心χ分布の累積分布(下側)を、P(x)とし、このP(x)が未検出確率と一致する時の値(非心度)を求め、この非心度を平方根してΔR(t)の最小検出可能誤差(MDE)を求め、測距値差ΔR(t)に対するMDEを、ΔR1,stdとΔR2,stdに分配してΔRstd_MDEを求め、ΔRstd_MDEにσ(標準偏差)を乗算することにより、測距値差に対する最小検出可能誤差ΔRn_MDEを求めるようにしたGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法である。
【0023】
請求項9に係る発明は、GPS衛星信号品質監視装置により取得した相関波形から追尾点Iから順に、この追尾点Iの前の相関点IE1、相関点IE2、・・・・・相関点IEn及び後の相関点IL1、相関点IL2、・・・・・相関点ILnである相関点をそれぞれ設定する手段と、相関点IEiと相関点IEnを通る直線と追尾点Iと相関点ILjを通る直線の交点Iと、追尾点Iとの差から測距値差ΔRを求める手段と、相関点IEjと追尾点Iを通る直線と相関点ILiと相関点ILnを通る直線の交点Iと、追尾点Iとの差から測距値差ΔRを求める手段と、i、jは、i<j≦nを満足する整数とし、測距値差ΔR、測距値差ΔRの平均μ、μを算出する手段と、測距値差ΔR、測距値差ΔRを、前記平均μ、μと標準偏差σ(C/N)、σ(C/N)により正規化して、ΔR1,std、ΔR2,stdを求める手段と、(ΔR1,std)、(ΔR2,std)の二乗和の平方根

を求める手段と、この測距値差ΔR(t)がしきい値を超えた時、故障と判定する手段とを有するGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置である。
【0024】
請求項10に係る発明は、請求項9に記載の発明において、相関点をn=2に設定する手段と、整数i=1、整数j=2としたGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置である。
【0025】
請求項11に係る発明は、請求項9〜請求項10の何れかに記載の発明において、しきい値を、GPS衛星信号の正常時の分布と異常時の分布との間に設定する手段を有するGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置である。
【0026】
請求項12に係る発明は、請求項9〜請求項11の何れかに記載の発明において、GPS衛星信号の正常時の分布の時の誤検出確率を求める手段と、しきい値を、誤検出確率に対応する値に設定する手段を有するGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置である。
【0027】
請求項13に係る発明において、請求項9〜請求項11の何れかに記載の発明において、GPS衛星信号の異常時の分布の時の未検出確率を求める手段と、しきい値を、未検出確率に対応する値に設定する手段を有するGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置である。
【0028】
請求項14に係る発明において、請求項9〜請求項11の何れかに記載の発明において、誤検出確率と未検出確率にそれぞれ対応する値が一致することを判定する手段と、しきい値を、誤検出確率と未検出確率にそれぞれ対応する値が一致する値に設定することにより、最小検出可能誤差(MDE)を求める手段を有するGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置である。
【0029】
請求項15に係る発明において、請求項9〜請求項12、請求項14の何れかに記載の発明において、GPS衛星信号が正常時の分布の場合、ΔR1,std(t)とΔR2,std(t)の二乗和ΔR(t)を求める手段と、ΔR(t)から自由度2のχ分布を求める手段と、この自由度2のχ分布の累積分布(上側)をQ(x)とし、このQ(x)が誤検出確率に対応する時の値を、測距値差ΔR(t)のしきい値に設定する手段と、ΔR(t)に対するしきい値を、ΔR1,stdとΔR2,stdに分配して測距値差に対するしきい値ΔRstd_thを求める手段と、ΔRstd_thにσ(標準偏差)を乗算することにより、測距値差に対するしきい値ΔRn_thを求める手段を有するGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置である。
【0030】
請求項16に係る発明において、請求項15に記載の発明において、GPS衛星信号が異常時の分布の場合、自由度2、非心度λの非心χ分布を求める手段と、この自由度2、非心度λの非心χ分布の累積分布(下側)を、P(x)とし、このP(x)が未検出確率と一致する時の値(非心度)を求める手段と、この非心度を平方根してΔR(t)の最小検出可能誤差(MDE)を求める手段と、ΔR(t)に対するMDEを、ΔR1,stdとΔR2,stdに分配してΔRstd_MDEを求める手段と、ΔRstd_MDEにσ(標準偏差)を乗算することにより、測距値差に対する最小検出可能誤差ΔRn_MDEを求める手段を有するGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置である。
【発明の効果】
【0031】
請求項1に係る発明は、上記のように構成したので、追尾点における相関値を用いて左右対称でない相関点の組み合わせとすることにより、モデルA信号の場合の不感を解消することが出来る。さらに、信号歪みを見るとともに、この信号歪みによりどれだけ誤差が検出されたかを実際の数値として判定することが出来る。
【0032】
請求項2に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1に記載の発明と同様な効果がある。さらに、相関点を追尾点(ピーク点)の前後に2点ずつとしたので、異常信号を検出するための計算が簡単になる。
【0033】
請求項3に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1〜請求項2に記載の発明と同様な効果がある。
【0034】
請求項4に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1〜請求項3に記載の発明と同様な効果に加え、さらに誤検出確率に対応する値に、しきい値を設定しているので、実際には故障していないのに、誤って故障であると検出される確率をなくすことができ、従来のものに比べて信号歪みの検出確率が向上する。
【0035】
請求項5に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1〜請求項3に記載の発明と同様な効果に加え、さらに未検出確率に対応する値に、しきい値を設定しているので、実際には故障しているのに、故障していないと検出される確率をなくすことができ、従来のものに比べて信号歪みの検出確率が向上する。
【0036】
請求項6に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1〜請求項3に記載の発明と同様な効果がある。さらに、誤検出確率及び未検出確率にそれぞれ対応する値に一致する値にしきい値を設定しているので、請求項4あるいは請求項5に記載のものより、さらにより正確に信号歪みの検出確率を向上させることが出来る。
【0037】
請求項7に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1〜請求項4、請求項6に記載の発明と同様な効果に加え、さらに従来のものでは得られなかった測距値差に対する値を実際的な数値で求めることが出来る。
【0038】
請求項8係る発明は、上記のように構成したので、請求項7に記載の発明と同様な効果に加え、さらに、最小検出可能誤差(MDE)が得られるとともに、測距値差へ換算しているので、従来のものでは得られなかった測距値差に対する最小検出可能誤差(MDE)を、実際的な数値で求めることが出来る。
【0039】
請求項9に係る発明は、上記のように構成したので、GPS衛星信号の品質監視機能を備えた装置を単独の受信機として用いることが可能である。航空機に搭載している受信機は、基本的には1個であるから、GPS衛星信号の品質監視機能を備えた装置を受信機として用いることで、品質監視機能のために機上の装置を余分に複数設ける必要もなく、経済的である。単独の受信機であるため、従来のように、相関器ペアのチップ[chip]幅の異なる受信機同士の場合、即ち、受信機の機種の相違による大きな測距誤差を生じることはない。
【0040】
又、追尾点における相関値を用いて左右対称でない相関点の組み合わせとすることにより、従来、モデルA信号の場合の不感を解消することが出来る。さらに、信号歪みを見るとともに、この信号歪みによりどれだけ誤差が検出されるかを実際的な数値として判定することが出来る。
【0041】
請求項10に係る発明は、請求項9に記載の発明と同様な効果がある。さらに、相関点を追尾点(ピーク点)の前後に2点ずつとしたので、異常信号を検出するための計算が簡単になり、それだけ装置を簡単にすることが出来る。
【0042】
請求項11に係る発明は、請求項9及び請求項10に記載の発明と同様な効果がある。
【0043】
請求項12に係る発明は、請求項9〜請求項11に記載の発明と同様な効果に加え、さらに誤検出確率に対応する値に、しきい値を設定しているので、実際には故障していないのに、誤って故障であると検出される確率が小さくなり、従来のものに比べて信号歪みの検出確率が向上する。
【0044】
請求項13に係る発明は、上記のように構成したので、請求項9〜請求項11に記載の発明と同様な効果に加え、さらに未検出確率に対応する値に、しきい値を設定しているので、実際には故障しているのに、故障していないと検出される確率をなくすことができ、従来のものに比べて信号歪みの検出確率が向上する。
【0045】
請求項14に係る発明は、上記のように構成したので、請求項9〜請求項11に記載の発明と同様な効果がある。さらに、誤検出確率及び未検出確率にそれぞれ対応する値に一致する値にしきい値を設定しているので、請求項12あるいは請求項13に記載のものより、さらに正確に信号歪みの検出確率を向上させることが出来る。
【0046】
請求項15に係る発明は、上記のように構成したので、請求項9〜請求項11に記載の発明と同様な効果に加え、さらに従来のものでは得られなかった測距値差に対する値を実際的な数値で求めることが出来る。
【0047】
請求項16に係る発明は、上記のように構成したので、請求項15に記載の発明と同様な効果に加え、さらに、最小検出可能誤差(MDE)が得られるとともに、測距値差へ換算しているので、従来のものでは得られなかった測距値差に対する最小検出可能誤差(MDE)を、実際的な数値で求めることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】この発明の第1の実施例を示すもので、ICAOのSARPsで定義されているGPS衛星の故障時の異常信号のモデルAを示し、この発明のGPS衛星信号品質監視装置を用いたハードウエアシュミレーションで取得した相関波形を示すもので、(a)図はモデルAの受信信号の入力波形、(b)図はその相関波形である。
【図2】この発明の第1の実施例を示すもので、ICAOのSARPsで定義されているGPS衛星の故障時の異常信号のモデルBを示し、この発明のGPS衛星信号品質監視装置を用いたハードウエアシュミレーションで取得した相関波形を示すもので、(a)図はモデルBの受信信号の入力波形(b)図はその相関波形である。
【図3】この発明の第1の実施例を示すもので、ICAOのSARPsで定義されているGPS衛星の故障時の異常信号のモデルCを示し、この発明のGPS衛星信号品質監視装置を用いたハードウエアシュミレーションで取得した相関波形を示すもので、(a)図はモデルCの受信信号の入力波形(b)図はその相関波形である。
【図4】この発明の第1の実施例を示すもので、異常信号の検出に用いる相関値を示す図である。
【図5】この発明の第1の実施例を示すもので、この発明によるGPS衛星信号品質監視装置を用いたハードウエアシュミレーションで取得したGPS衛星故障時の異常信号とGPS衛星正常時の正常信号を交互に入力した時のΔR(t)と、ΔR1,std(t)、ΔR2,std(t)を示し、モデルAと正常信号を交互に入力した場合を示す図である。
【図6】この発明の第1の実施例を示すもので、この発明によるGPS衛星信号品質監視装置を用いたハードウエアシュミレーションで取得したGPS衛星故障時の異常信号とGPS衛星正常時の正常信号を交互に入力した時のΔR(t)と、ΔR1,std(t)、ΔR2,std(t)を示し、モデルCと正常信号を交互に入力した場合を示す図である。
【図7】この発明の第2の実施例を示すもので、しきい値と最小検出可能誤差MDEの考え方を示す概念図である。
【図8】この発明の第2の実施例を示すもので、λ=74.38の時のχ分布と非心χ分布を示す図で、(a)図はχ分布、(b)図は非心χ分布である。
【図9】この発明の第2の実施例を示すもので、この発明によるGPS衛星信号品質監視装置を用いて実信号を受信し、実信号におけるPRN10での算出した結果を示す図で、測距値差ΔR(t)の計算例を示す図である。
【図10】この発明の第2の実施例を示すもので、図9に示す2337700秒付近を拡大した図である。
【図11】この発明の第2の実施例を示すもので、(a)図はΔR1,std(t)の計算例を示す図、(b)図はΔR2,std(t)の計算例を示す図である。
【図12】この発明の第2の実施例を示すもので、(a)図はΔRとのしきい値及びMDEの計算例を示す図、(b)図はΔRとのしきい値及びMDEの計算例を示す図である。
【図13】この発明の第2の実施例を示すもので、ΔR1,std(t)とΔR2,std(t)との相関を示す図である。
【図14】この発明の第2の実施例を示すもので、ΔR(t)の分布とχ分布を示す図である。
【図15】従来例を示すもので、先に発明者が発表したGPS衛星信号の捕捉について説明するための波形を示す説明図で、(a)図はGPS衛星から受信したPRN符号のC/Aコードの波形図、(b)図はGPS受信機内で生成したC/Aコードの波形図、(c)図は(a)図と(b)図の相関波形である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
GPS衛星信号品質監視方法により取得した相関波形から追尾点Ip付近に、この追尾点Ipから順に、追尾点Ipの前の相関点IE1、相関点IE2・・・相関点IEn及び後の相関点IL1、相関点IL2、・・・相関点ILnである2点の相関点をそれぞれ設定し、相関点IE1、相関点IE2を通る直線と追尾点Ipと相関点IL2を通る直線の交点Iと追尾点Ipとの差から測距値差ΔRを求める。
次いで、追尾点Ipと相関点IL2を通る直線と追尾点Ipと相関点IE2を通る直線の交点Iと追尾点Ipとの差から測距値差ΔRを求め、測距値差ΔR、測距値差ΔRの平均μ、μを算出し、さらに、測距値差ΔR、測距値差ΔRを、平均μ、μと標準偏差σ(C/N)、σ(C/N)により正規化して、ΔR1,std、ΔR2,stdを求める。さらに、(ΔR1,std)、(ΔR2,std)の2乗和の平方根

を求め、この測距値差ΔR(t)がしきい値を超えた時、故障と判定する。
【0050】
次いで、GPS衛星信号が正常時の分布の場合には、ΔR1,std(t)とΔR2,std(t)の二乗和ΔR(t)を求め、ΔR(t)から自由度2のχ分布を求め、この自由度2のχ分布の累積分布(上側)をQ(x)とする。
このQ(x)が誤検出確率に対応する時の値を、測距値差ΔR(t)のしきい値に設定し、ΔR(t)に対するしきい値を、ΔR1,stdとΔR2,stdに分配して測距値差に対するしきい値ΔRstd_thを求め、ΔRstd_thにσ(標準偏差)を乗算することにより、測距値差に対するしきい値ΔRn_thを求める。
【0051】
次に、GPS衛星信号が異常時の分布の場合、自由度2、非心度λの非心χ分布を求め、この自由度2、非心度λの非心χ分布の累積分布(下側)を、P(x)とする。このP(x)が未検出確率と一致する時の値(非心度)を求め、この非心度を平方根してΔR(t)の最小検出可能誤差(MDE)を求める。測距値差ΔR(t)に対するMDEを、ΔR1,stdとΔR2,stdに分配してΔRstd_MDEを求め、ΔRstd_MDEにσ(標準偏差)を乗算することにより、測距値差に対する最小検出可能誤差ΔRn_MDEを求める。
【実施例1】
【0052】
GPS衛星が故障すると異常信号が送信される。この異常信号の脅威モデル(threat model)として、国際民間航空機関(以下、ICAOと記す)(ICAO:International Civil
Aviation Organization)の国際標準及び勧告方式(以下、SARPsと記す)(SARPs:International Standards
and Recommended Practices)では、下記に示すモデルA(model A)、モデルB(model B),モデルC(model C)の3種類のモデルが定義されている。以下これについて説明する。
【0053】
図1〜図3は、本願のGPS衛星信号品質監視装置を用いたハードウエアシュミレーションで取得した相関波形を示すもので、図1は、Δ=0.1とした時のモデルAを示し、(a)図は受信信号の入力波形(b)図はその相関波形、図2はf=6、σ=6とした時のモデルBを示し、(a)図は受信信号の入力波形(b)図はその相関波形、図3は、f=5、σ=4、Δ=0.08とした時のモデルCを示し、(a)図は受信信号の入力波形(b)図はその相関波形である。
【0054】
なお、モデルAは、クロックタイミングのずれなどのように、デジタル回路が故障した場合に発生する異常信号のモデルで、矩形波の幅が変動する。
モデルBは、増幅器・送信部などのアナログ回路が故障した場合に発生する異常信号のモデルで、リンギングが生じる。
モデルCは、モデルAとモデルBの複合した場合に発生する異常信号のモデルで、リンギングの上に矩形波が乗った形状となる。
【0055】
ここで、モデルAとモデルCのデジタル回路部の故障によるC/Aコード信号の立ち上がりの遅延を、Δ[chip]で表し、本来の正常時の信号がt=0で立ち下がるとすると、モデルAは、下記式(1)で表される。
【0056】
【数1】

【0057】
又、モデルBとモデルCのアナログ部の故障については、t=0で信号が立ち上がるとすると、振動成分をω(=2πf)、減衰成分をσとすると、式(2)で表される。なお、各パラメータの値は、SARPsにおいて表1に示す範囲であると規定され、ここでは、ω=2πfである。
【0058】
【数2】

【0059】
【表1】

【0060】
次いで、この発明の第1の実施例を、図4〜図6に基づいて詳細に説明する。図4はこの実施例1で異常信号の検出に用いる相関値を示す図である。図5及び図6は、この発明によるGPS衛星信号品質監視装置を用いたハードウエアシュミレーションで取得したGPS衛星故障時の異常信号とGPS衛星正常時の正常信号を交互に入力した時のΔR(t)と、ΔR1,std(t)、ΔR2,std(t)を示すもので、図5は、モデルAと正常信号を交互に入力した場合、図6は、モデルCと正常信号を交互に入力した場合である。なお、この実施例1では、GPS受信機で受信したGPS衛星の故障による異常信号を、図4に示すように、5つの相関点の値から検出する方法について説明する。
【0061】
図4は、三角形の相関波形で、受信機の追尾点I(以下、単にIと記す。)の前に相関点IE1、IE2(それぞれ、以下、単にIE1、IE2と記す。)を設定し、追尾点Iの後に相関点IL1、IL2(それぞれ、以下、単にIL1、IL2と記す。)を設定する5点法を表している。ここで、IE1は、Iより0.025575[chip]前の点、IE2は、Iより0.076725[chip]前の点にそれぞれ設定され、IL1は、Iより0.025575[chip]後の点、IL2は、Iより0.076725[chip]後の点にそれぞれ設定されている。
【0062】
次いで、IE1とIE2を通る直線と、IとIL2を通る直線の交点IとIとの差から求めた測距値差ΔR[m]と、IL1とIL2を通る直線とIとIE2を通る直線の交点IとIとの差から求めた測距値差ΔR[m]を求める。ここで、GPS衛星の故障がなく、GPS衛星からの信号が正常である場合は、ΔRとΔRは、それぞれ理想的には0[m]となり、図4に示す相関波形もきれいな三角波形となる。また、GPS衛星からの信号が異常である場合は、ΔRとΔRは、図4に示すように、それぞれ大きなバイアス成分となって表される。
【0063】
なお、この実施例では、Iの前後2点ずつの相関点を用いた5点法を用いているが、これに限定されることはない。Iの前後n点ずつの相関点を用い、IEiとIEnを通る直線と、IとILjを通る直線の交点IとIとの差から求めた測距値差ΔR[m]と、ILiとILnを通る直線とIとIEjを通る直線の交点IとIとの差から求めた測距値差ΔR[m]を求めるようにしてもよい。なお、i、jは、i<j≦nを満足する整数である。
【0064】
ここで、ΔRとΔRは、GPS衛星の仰角や信号強度C/Nに依存するので、C/Nの関数となる。また、ΔR、ΔRそれぞれの平均値μ、μをあらかじめ算出しておく。この平均値μ、μと標準偏差σ(C/N)、σ(C/N)によりΔR、ΔRを下記式(3)に示すように正規化する。この式(3)により、どの程度故障するかをみることが出来る。
【0065】
【数3】

【0066】
次いで、下記式(4)に示すように、二乗和の平方根の値を検出に用い、この値がしきい値を越えた場合に故障(異常信号)と判定する。
【0067】
【数4】

【0068】
次に、発明者は、この発明によるGPS衛星信号品質監視装置を用いたハードウエアシュミレーションを行った。即ち、図5及び図6は、GPS衛星信号品質監視装置で取得したGPS衛星故障時の異常信号とGPS衛星正常時の正常信号を交互に入力した時のΔR(t)と、ΔR1,std(t)、ΔR2,std(t)の値をそれぞれ示している。図5及び図6に示すように、GPS衛星の故障による異常信号が発生した場合は、ΔR(t)に対してΔR1,std(t)とΔR2,std(t)の片方あるいは両方にバイアスとなって現れるため、しきい値をGPS衛星信号の正常時の分布とGPS衛星信号の異常時の分布の2つの分布の間に設定すれば、GPS衛星の故障の検出が可能となる。
【0069】
なお、上記したように、ΔRとΔRは、GPS衛星の仰角や信号強度C/Nに依存している。さらに、この信号強度は、受信機、受信アンテナ、設置場所等に依存するため、式(3)等で用いるμ、μやσ、σは、この発明のGPS信号品質監視装置を設置するサイト毎にデータを取得し決定する必要があるため、あらかじめ算出している。
【0070】
また、この実施例では、ΔRとΔRは、4次式を用いて表されているが、この実施例に限定されることなく、精度を上げるためにより高次の多項式を用いても良いし、処理速度を上げるためにさらに近似した低次の多項式を用いても良い。
【実施例2】
【0071】
この発明の第2の実施例を、図7及び図8に基づいて詳細に説明する。図7は、しきい値と後述する最小検出可能誤差MDEの考え方を示す概念図である。図8は、λ=74.38の時のχ分布と非心χ分布を示す図で、(a)図はχ分布、(b)図は非心χ分布である。この実施例2では、GPS衛星の故障を検出するためのしきい値を決定する方法について説明する。なお、実施例1と同一のものは、同一名称、同一番号を付し、その説明を省略する。
【0072】
まず、統計量が正規分布する一般的な場合について説明する。図7において、GPS衛星信号の正常時の分布は実線で、GPS衛星信号の異常時の分布は点線で示している。異常時には、正常時の分布に対してバイアスが発生するので、通常はこの正常時の分布と異常時の分布の間にしきい値を設定するのが一般的である。なお、図7においては、この異常時に生じるバイアスをEとしている。
【0073】
まず、実際は故障していないのに、故障として検出される確率を、誤検出確率とし、その値を1.5×10−7とした場合、この誤検出確率に対応するしきい値は、正常時の分布の中心(0)から5.26σ離れた値(±5.26σ)となる。
【0074】
一方、実際は故障しているのに、故障として検出出来ない確率を、未検出確率とし、その値を10−3とした場合、この未検出確率に対応するしきい値は、異常時の分布の中心(E)から3.09σ小さい値(E−3.09σ)となる。
【0075】
上記した誤検出確率に対応するしきい値と未検出確率に対応するしきい値とが一致する時の異常時の分布の中心は、この値をしきい値とした時に検出可能な最小誤差となる。従って、この時の異常時の分布の中心の値を最小検出誤差(MDE:Minimum Detectable Error、以下、MDEと記す。)という。
【0076】
次に、上記を踏まえ、この発明による手法を用いてしきい値を決定する方法について説明する。正規化されたΔR1,std(t)とΔR2,std(t)は、標準正規分布に従うため、それらの二乗和であるΔR(t)は、自由度2のχ分布に従う。ここで、図8に基づいて、正規分布の場合と同様に、この場合のしきい値及びMDEについて説明する。
【0077】
図8において、(a)図では、この自由度2のχ分布の累積分布(上側)をQ(x)としている。このQ(x)の値が、誤検出確率である1.5×10−7のときのxの値は、図8の(a)図からx=31.42と求められる。従って、ΔR(t)に対するしきい値ΔRthは、下記式(5)に示す値から求められる。
【0078】
【数5】

【0079】
一方、異常時の分布は、ΔR1,std(t)とΔR2,std(t)の片方あるいは両方にバイアスが生じるため、自由度2、非心度λの非心χ分布となる。この分布の累積分布(下側)をP(x)とし、x=31.42におけるP(x)の値が未検出確率である10−3のときの非心度λを求めると、λ=74.38と求められる。この非心度λの平方根がΔR(t)に対するMDEに相当し、ΔR(t)に対するMDEであるΔRMDEは、下記式(6)に示す値から求められる。
【0080】
【数6】

【0081】
上記式(5)及び式(6)により求められたΔR(t)に対するしきい値ΔRthとΔR(t)に対するMDEであるΔRMDEとを、下記式(7)及び式(8)に示すように、ΔR1,std(t)とΔR2,std(t)とに分配する。
【0082】
【数7】

【0083】
【数8】

【0084】
上記式(7)及び式(8)により、ΔR1,std(t)とΔR2,std(t)に対するしきい値ΔRstd_thとMDEであるΔRstd_MDEとが求められる。これらΔRstd_thとΔRstd_MDEとを、下記式(9)及び式(10)に示すように、それぞれのσを乗ずることで、測距値差に換算することが出来る。
【0085】
【数9】

【0086】
【数10】

【実施例3】
【0087】
発明者は、この発明によるしきい値と最小検出可能誤差MDEを評価するために、この発明によるGPS衛星信号品質監視装置を用いて実際にGPS衛星から信号(以下、実信号と記す)を受信してその解析を試みた。これについて、第3の実施例として、図9〜図14に基づいて詳細に説明する。図9〜図12は、この発明によるGPS衛星信号品質監視装置を用いて実信号を受信し、この実信号におけるPRN10での算出した結果を示す図で、図9は測距値差ΔR(t)の計算例、図10は図9に示す2337700秒付近を拡大した図である。
【0088】
図11において、(a)図はΔR1,std(t)の計算例を示す図、(b)図はΔR2,std(t)の計算例を示す図である。図12において、(a)図はΔRとのしきい値及びMDEの計算例を示す図、(b)図はΔRとのしきい値及びMDEの計算例を示す図である。図13はΔR1,std(t)とΔR2,std(t)との相関を示す図、図14はΔR(t)の分布とχ分布を示す図である。なお、実施例1と同一のものは、同一名称、同一番号を付し、その説明を省略する。
【0089】
この実施例では、実施例2で説明し、あらかじめ算出したしきい値と最小検出可能誤差MDEに対し、GPS衛星からの実信号を用いて解析した結果について説明する。この実施例で説明する結果は、2008年7月14日に行ったPRN10での結果で、後述する解析の際、計算で使用するσμは、24時間分のデータから算出している。
【0090】
まず、図9に示すように、237700秒付近でしきい値を越えている事が明らかである。この237700秒付近を拡大した図10にも示すように、しきい値を越えているが、実験を行った2008年7月14日にGPS衛星の故障は発生しておらず、この結果は誤検出であったと考えられる。
【0091】
この誤検出があった237700秒付近に着目して、さらに図11及び図12を用いて解析を進めて説明する。図11は、(a)図がΔR1,std(t)の算出した結果を示す図、(b)図がΔR2,std(t)の算出した結果で、図12は(a)図がΔRとのしきい値及び最小検出可能誤差MDEの算出した結果を示す図、(b)図がΔRとのしきい値及び最小検出可能誤差MDEの算出した結果を示す図である。この内、図12で示されているしきい値及び最小検出可能誤差MDEは、測距値差への換算した算出結果であり、この結果により、測距値差に対する最小検出可能誤差MDEは、最大で2m程度である事が判明した。
【0092】
次に、図13において、プロットされたΔR1,std(t)とΔR2,std(t)との相関に着目すると、ΔR1,std(t)とΔR2,std(t)とに若干の正の相関があることが判明した。
【0093】
さらに、図14において、黒の実線で示す部分がΔR(t)の分布であり、灰色の実線で示しているのがχ分布である。図14において、ΔR(t)の分布は、図14の図中真ん中から右側にかけての部分、いわばΔR(t)の分布の裾の部分でχ分布から乖離していることが判明した。
【0094】
以上の解析結果から、ΔR1,std(t)とΔR2,std(t)との間で相関があることにより、ΔR(t)の分布がχ分布から乖離し、誤検出の原因となっていると考えられる。
【0095】
現在ICAOによって検討中の高カテゴリGBAS(FAST−D)のレンジングモニタに要求される許容誤差(未検出確率:10−9)は、1.65[m]である。この規格は、滑走路が目視出来ない状況での計器着陸の規格である。実信号について発明者の行った解析結果により、測距値差に対する最小検出可能誤差MDEは、最大で2m程度であることが示されているが、この1.65には達していない。
【産業上の利用可能性】
【0096】
この発明によるGPS衛星信号品質監視装置は、GPS衛星からの信号の品質を監視可能なので、GPS衛星信号を用いた測位や航法全ておいて、その測位や航法の品質、信頼性の向上に好適である。
【符号の説明】
【0097】
E1、IE2、・・・IEn 相関点
L1、IL2、・・・ILn 相関点
Ip 追尾点
ΔR(t) 測距値差
MDE 最小検出可能誤差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS受信機内で捕捉したいGPS衛星に対応するC/Aコードを生成し、この生成したC/Aコードと受信信号のC/Aコードとの相関を取り、この相関波形のピークを追尾点Iとして追尾することにより、GPS衛星信号を捕捉し、この捕捉したGPS衛星信号の異常信号を検出する品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法において、
GPS衛星信号品質監視方法により取得した相関波形から前記追尾点Iから順に、この追尾点Iの前の相関点IE1、相関点IE2、・・・・・相関点IEn及び後の相関点IL1、相関点IL2、・・・・・相関点ILnである相関点を、n点ずつそれぞれ設定し、
前記相関点IEiと相関点IEnを通る直線と前記追尾点Iと相関点ILjを通る直線の交点Iと、追尾点Iとの差から測距値差ΔRを求め、
前記相関点IEjと追尾点Iを通る直線と相関点ILiと相関点ILnを通る直線の交点Iと、追尾点Iとの差から測距値差ΔRを求め、
前記i、jは、i<j≦nを満足する整数とし、
前記測距値差ΔR、測距値差ΔRの平均μ、μを算出し、
前記測距値差ΔR、測距値差ΔRを、前記平均μ、μと標準偏差σ(C/N)、σ(C/N)により正規化して、ΔR1,std、ΔR2,stdを求め、
前記(ΔR1,std)、(ΔR2,std)の二乗和の平方根

を求め、
この測距値差ΔR(t)がしきい値を超えた時、故障と判定すること
を特徴とするGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法。
【請求項2】
前記相関点n=2、整数i=1、整数j=2としたこと
を特徴とする請求項1に記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法。
【請求項3】
前記しきい値は、GPS衛星信号の正常時の分布と異常時の分布との間に設定すること
を特徴とする請求項1〜請求項2の何れかに記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法。
【請求項4】
前記しきい値は、GPS衛星信号の正常時の分布の時の誤検出確率に対応する値に設定すること
を特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法。
【請求項5】
前記しきい値は、GPS衛星信号の異常時の分布の時の未検出確率に対応する値に設定すること
を特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法。
【請求項6】
前記しきい値を、前記誤検出確率と未検出確率にそれぞれ対応する値が一致する値に設定することにより、最小検出可能誤差(MDE)を求めること
を特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法。
【請求項7】
GPS衛星信号が正常時の分布の場合、前記ΔR1,std(t)とΔR2,std(t)の二乗和ΔR(t)を求め、
前記ΔR(t)から自由度2のχ分布を求め、
この自由度2のχ分布の累積分布(上側)をQ(x)とし、
このQ(x)が誤検出確率に対応する時の値を、測距値差ΔR(t)のしきい値に設定し、
前記ΔR(t)に対するしきい値を、ΔR1,stdとΔR2,stdに分配して測距値差に対するしきい値ΔRstd_thを求め、
前記ΔRstd_thにσ(標準偏差)を乗算することにより、測距値差に対するしきい値ΔRn_thを求めること
を特徴とする請求項1〜請求項4、請求項6の何れかに記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法。
【請求項8】
GPS衛星信号が異常時の分布の場合、自由度2、非心度λの非心χ分布を求め、
この自由度2、非心度λの非心χ分布の累積分布(下側)を、P(x)とし、
このP(x)が未検出確率と一致する時の値(非心度)を求め、
この非心度を平方根してΔR(t)の最小検出可能誤差(MDE)を求め、
前記測距値差ΔR(t)に対する前記MDEを、ΔR1,stdとΔR2,stdに分配してΔRstd_MDEを求め、
前記ΔRstd_MDEにσ(標準偏差)を乗算することにより、測距値差に対する最小検出可能誤差ΔRn_MDEを求めること
を特徴とする請求項7に記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視方法。
【請求項9】
GPS衛星信号品質監視装置により取得した相関波形から前記追尾点Iから順に、この追尾点Iの前の相関点IE1、相関点IE2、・・・・・相関点IEn及び後の相関点IL1、相関点IL2、・・・・・相関点ILnである相関点をそれぞれ設定する手段と、
前記相関点IEiと相関点IEnを通る直線と前記追尾点Iと相関点ILjを通る直線の交点Iと、追尾点Iとの差から測距値差ΔRを求める手段と、
前記相関点IEjと追尾点Iを通る直線と相関点ILiと相関点ILnを通る直線の交点Iと、追尾点Iとの差から測距値差ΔRを求める手段と、
前記i、jは、i<j≦nを満足する整数とし、
前記測距値差ΔR、測距値差ΔRの平均μ、μを算出する手段と、
前記測距値差ΔR、測距値差ΔRを、前記平均μ、μと標準偏差σ(C/N)、σ(C/N)により正規化して、ΔR1,std、ΔR2,stdを求める手段と、
前記(ΔR1,std)、(ΔR2,std)の二乗和の平方根

を求める手段と、
この測距値差ΔR(t)がしきい値を超えた時、故障と判定する手段と
を有することを特徴とするGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置。
【請求項10】
前記相関点をn=2に設定する手段と、
前記整数i=1、整数j=2としたこと
を特徴とする請求項9に記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置。
【請求項11】
前記しきい値を、GPS衛星信号の正常時の分布と異常時の分布との間に設定する手段を有すること
を特徴とする請求項9〜請求項10の何れかに記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置。
【請求項12】
GPS衛星信号の正常時の分布の時の誤検出確率を求める手段と、
前記しきい値を、前記誤検出確率に対応する値に設定する手段を有すること
を特徴とする請求項9〜請求項11の何れかに記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置。
【請求項13】
GPS衛星信号の異常時の分布の時の未検出確率を求める手段と、
前記しきい値を、前記未検出確率に対応する値に設定する手段を有すること
を特徴とする請求項8又は請求項9に記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置。
【請求項14】
前記しきい値を、前記誤検出確率と未検出確率にそれぞれ対応する値が一致する値に設定することにより、最小検出可能誤差(MDE)を求める手段を有すること
を特徴とする請求項9〜請求項11の何れかに記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置。
【請求項15】
GPS衛星信号が正常時の分布の場合、前記ΔR1,std(t)とΔR2,std(t)の二乗和ΔR(t)を求める手段と、
前記ΔR(t)から自由度2のχ分布を求める手段と、
この自由度2のχ分布の累積分布(上側)をQ(x)とし、このQ(x)が誤検出確率に対応する時の値を、測距値差ΔR(t)のしきい値に設定する手段と、
前記ΔR(t)に対するしきい値を、ΔR1,stdとΔR2,stdに分配して測距値差に対するしきい値ΔRstd_thを求める手段と、
前記ΔRstd_thにσ(標準偏差)を乗算することにより、測距値差に対するしきい値ΔRn_thを求める手段を有すること
を特徴とする請求項9〜請求項12、請求項14の何れかに記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置。
【請求項16】
GPS衛星信号が異常時の分布の場合、自由度2、非心度λの非心χ分布を求める手段と、
この自由度2、非心度λの非心χ分布の累積分布(下側)を、P(x)とし、このP(x)が未検出確率と一致する時の値(非心度)を求める手段と、
この非心度を平方根してΔR(t)の最小検出可能誤差(MDE)を求める手段と、
前記ΔR(t)に対する前記MDEを、ΔR1,stdとΔR2,stdに分配してΔRstd_MDEを求める手段と、
前記ΔRstd_MDEにσ(標準偏差)を乗算することにより、測距値差に対する最小検出可能誤差ΔRn_MDEを求める手段を有すること
を特徴とする請求項15に記載のGPS衛星信号の品質監視機能を有するGPS衛星信号品質監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−281667(P2010−281667A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134904(P2009−134904)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月4日、 社団法人 電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会2009年総合大会講演論文集」により発表
【出願人】(501152352)独立行政法人電子航法研究所 (44)
【Fターム(参考)】