説明

H形鋼の製造方法及び製造装置

【課題】 溶接により生じる歪みの矯正工程と仮付け溶接工程が不要なH形鋼の製造方法及び製造装置の提供。
【解決手段】 溶接によって生じるウェッブ板方向の反り度合に対応して、予めウェッブ板方向とは反対方向の逆反りをフランジ板に付与して溶接処理するH形鋼の製造方法;ウェッブ板とフランジ板との隅部を斜め上方から溶接処理するH形鋼の製造方法。ウェッブ板方向とは対方向の逆反りをフランジ板に付与する逆反りローラー機構部と溶接機構部とを備えたH形鋼の製造装置;ウェッブ板とフランジ板との隅部を斜め上方から溶接処理する溶接機を備えたH形鋼の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はH形鋼の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般にH形鋼は図6に示す工程により製造されている。
すなわち、まず、図6(1)〜(3)に示すように、ウェッブ板aの一方の端部にフランジ板bを、当該ウェッブ板aとフランジ板bによって形成される各隅部を順に溶接機60で溶接処理して略逆T字状体とする。尚、図中sは溶接部を示す。次いで、クレーンで当該略逆T字状体を反転せしめて、ウェッブ板aの他方の端部にも、同様に他のフランジ板bを溶接処理して図6(4)に示すような略H字状体とする。
【0003】
しかしながら、溶接後の冷却により金属が熱収縮するため、図6(2)〜(4)に示す如く、フランジ板bがウェッブ板aを支点として該ウェッブ板a方向に反り、所謂傘状の歪みが発生してしまうことが避けられなかった。
そこで、従来は、斯かる傘状歪みを、歪み矯正ローラーにて矯正する工程が不可欠であり、この矯正により初めて図6(5)に示す如きH形鋼が得られていたのが実状であった(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、従来は、効率性の点から溶接を鉛直方向で行なっていたため、ウェッブ板aとフランジ板bとにより形成される隅部を、図6(1)に示す如く、溶接機60の垂下に位置せしめる必要があった。
しかしながら、当該位置を確保するように、ウェッブ板aとフランジ板bを傾斜状態で保持することは困難なため、本付け溶接の前に、ウェッブ板aとフランジ板bとを仮付けする溶接工程(図示省略)が不可欠なのが実状であった。
【特許文献1】特開2003−33816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の如き従来の問題と実状に鑑みてなされたものであり、溶接により生じる傘状歪みの矯正工程が不要なH形鋼の製造方法及び製造装置を提供すること、及びウェッブ板とフランジ板とを仮付けする溶接工程が不要なH形鋼の製造方法及び製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を、ウェッブ板の一方の端部にフランジ板を溶接した後、当該ウェッブ板の他方の端部に他のフランジ板を溶接してH形鋼を製造する方法において、予め当該各フランジ板に、溶接後金属の熱収縮により各フランジ板に生じるウェッブ板方向の反り度合に対応するウェッブ板とは反対方向の逆反りを形成せしめた後、溶接処理することにより解決したものである。
【0007】
また、本発明は、前記課題を、上記H形鋼の製造方法において、ウェッブ板と逆反りフランジ板を、ウェッブ板が鉛直方向に位置する略逆T字状体とし、当該略逆T字状体においてウェッブ板の両サイドに形成される逆反りフランジ板との両隅部を、斜め上方から同時に溶接処理することにより解決したものである。
【0008】
また、本発明は、前記課題を、予めフランジ板に、溶接後金属の熱収縮によりフランジ板に生じるウェッブ板方向の反り度合に対応するウェッブ板とは反対方向の逆反りを形成する逆反りローラー機構部と、ウェッブ板の端部に逆反りフランジ板を溶接する溶接機構部とを備えているH形鋼の製造装置により解決したものである。
【0009】
また、本発明は、前記課題を、上記H形鋼製造装置において、ウェッブ板と逆反りフランジ板を、ウェッブ板が鉛直方向に位置する略逆T字状体とするホールド部と、当該略逆T字状体においてウェッブ板の両サイドに形成される逆反りフランジ板との両隅部を斜め上方から同時に溶接する溶接機とを有する溶接機構部を設けることにより解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、溶接前のフランジ板に予めウェッブ板とは反対方向の逆反りが形成されているので、溶接後の熱収縮に伴ない、フランジ板にウェッブ板方向の反りが生じることによりフランジ板が反りのない元の平板体となる結果、従来の如き傘状歪みの矯正工程が不必要となり、効率良くH形鋼を製造することができる。
【0011】
特に、ウェッブ板と逆反りフランジ板を、ウェッブ板を鉛直方向に位置する略逆T字状体として、当該ウェッブ板の両サイドに形成される逆反りフランジ板との両隅部を斜め上方から同時に溶接する形態で本発明方法を実施すれば、ウェッブ板と逆反りフランジ板を略逆T字の状態で保持することは容易なため、従来の如きウェッブ板とフランジ板の仮付け溶接工程が不必要となるので、更に効率の良いH形鋼の製造が可能となる。
【0012】
また、本発明装置を用いれば、フランジ板に予めウェッブ板とは反対方向の逆反りを形成せしめた後、溶接することができるので、溶接後の熱収縮に伴ない、フランジ板にウェッブ板方向の反りが生じることによりフランジ板が反りのない元の平板体となる結果、従来の如き傘状歪みの矯正工程が不必要となり、効率良くH形鋼を製造することができる。
【0013】
特に、ウェッブ板と逆反りフランジ板を、ウェッブ板が鉛直方向に位置する略逆T字状体とするホールド部と、当該ウェッブ板の両サイドに形成される逆反りフランジ板との両隅部を斜め上方から同時に溶接する溶接機とを有する溶接機構部を設けて本発明装置を実施すれば、ウェッブ板と逆反りフランジ板を鉛直方向において略逆T字の状態で保持することは容易なため、従来の如きウェッブ板とフランジ板の仮付け溶接工程が不必要となるので、更に効率の良いH形鋼の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の実施の形態を図面と共に説明する。
【0015】
まず、本発明のH形鋼の製造方法を図1を用いて説明する。
図1(1)に示すように、水平状態のフランジ板bの中央にウェッブ板aを鉛直方向に立てて逆T字状体とし、その状態で後述するH形鋼の製造装置の略紡錘状の固定ローラー部10でフランジ板bの下面を受止しつつ、円柱状の上下可動ローラー部20を下降せしめてフランジ板bの上面を加圧して、フランジ板bの両サイドをウェッブ板aとは反対方向に逆反りさせる(図1(2)参照)。
【0016】
この逆反りの程度は、ウェッブ板aの一方の端部にフランジ板bをそのまま溶接した場合、金属の熱収縮によりフランジ板bに生じるウェッブ板a方向の反りに対応した度合、換言すれば、溶接後にフランジ板bが元の平板体に戻る度合とする。
因に、当該ウェッブ板a方向の反りは、フランジ板bの板厚や板巾によって変化するが、それらのデータは事前試験や既に行なわれた製造実績に基き容易に得られるので、当該データに基いて逆反りの度合、従ってまた上下可動ローラー20の加圧程度を予め設定することができる。
【0017】
次いで、図1(2)に示すように、ウェッブ板aと逆反りフランジ板bを、ウェッブ板aが鉛直方向に位置する略逆T字状体のまま、当該ウェッブ板aの両サイドに形成される逆反りフランジ板bとの両隅部を、溶接機60により斜め上方(通常仰角30〜60°)から同時に溶接処理する。尚、溶接後は上下可動ローラー部20をやや上昇せしめ、逆反りフランジ板bのウェッブ板a方向の反りに支障とならないようにする。
【0018】
この溶接後、冷却に伴なう金属の熱収縮により、図1(3)に示すように、逆反りフランジ板bが元の平板体となり、逆T字状体が得られる。尚、図中sは溶接部を示す。
【0019】
次いで、クレーンで当該逆T字状体を反転せしめ、ウェッブ板aの他方の端部にも上記と同様にしてフランジ板bを溶接して図1(4)に示すようなH形鋼を得る。
【0020】
次に、本発明のH形鋼の製造装置を図2〜図5を用いて説明する。
図2は本発明装置の正面、特に逆反りローラー機構部を示すもので、フランジ板bの下面を受止する略紡錘状の固定ローラー部10と、フランジ板bの上面をウェッブ板aの両サイドにおいて加圧する上下可動ローラー部20とが、フランジ板bを挾持する位置関係にて配設されている。
【0021】
ここに、固定ローラー部10は、フランジ板bに逆反りを形成し得るように、中央部において最大径を呈し、両端部に向うに従って徐々に弧状小径となる略紡錘状のものであれば良いが、特に図3に示すように、当該最大径を呈する中央部において、ウェッブ板aの板厚よりやや広い巾Lの水平周端面11を形成するのが、ウェッブ板aとフランジ板bとのホールド時にフランジ板bがズレ動せず、有利である。
因に、当該水平周端面11の巾Lとしては、通常10〜25mm、就中15mm前後が好ましい。
【0022】
また、本発明の逆反りローラー機構部Aには、上記固定ローラー部10及び上下可動ローラー部20の他、フランジ板bの両側部にフランジ側面押えローラー30、ウェッブ板aの両側部にウェッブ芯出し用ローラー40、ウェッブ板aの真上部にウェッブ押えローラー50がそれぞれ配設されており、これによりウェッブ板aとフランジ板bとを、ウェッブ板aが鉛直方向の逆T字状に保持し得るホールド部Cが構成されている。
【0023】
図4は本発明装置の側面を示すもので、上記の逆反りローラー機構部Aの後工程部に、ウェッブ板aの端部に逆反りフランジ板bを溶接する溶接機構部Bが配設されている。
【0024】
この溶接機構部Bは、ウェッブ板aと逆反りフランジ板bとを、ウェッブ板aが鉛直方向の略逆T字状に保持し得るように、上記と同様にフランジ側面押えローラー30、ウェッブ芯出用ローラー40、ウェッブ押えローラー50から成るホールド部Cと、ウェッブ板aの両サイドに形成される逆反りフランジ板との両隅部を斜め上方から同時に溶接する溶接機60とから構成されている(図4においては逆反りローラー機構部Aにおけるホールド部Cの図示省略)。
【0025】
ここに溶接機60は、図4及び図5に示すように、逆反りウェッブ板bの各サイドに異なる角度でそれぞれ2本ずつ計4本配設するのが、斜め方向からの溶接を精度良く行なう上で望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のH形鋼の製造方法を示す概略工程説明図。
【図2】本発明のH形鋼の製造装置の概略正面説明図。
【図3】本発明のH形鋼の製造装置における固定ローラー部の要部拡大説明図。
【図4】本発明のH形鋼の製造装置の概略側面説明図。
【図5】本発明のH形鋼の製造装置における溶接機の設置位置を示す概略説明図。
【図6】従来のH形鋼の製造方法を示す概略工程説明図。
【符号の説明】
【0027】
a:ウェッブ板
b:フランジ板
s:溶接部
A:逆反りローラー機構部
B:溶接機構部
C:ホールド部
L:水平周端面巾
10:固定ローラー部
11:水平周端面
20:上下可動ローラー部
30:フランジ側面押えローラー
40:ウェッブ芯出し用ローラー
50:ウェッブ押えローラー
60:溶接機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェッブ板の一方の端部にフランジ板を溶接した後、当該ウェッブ板の他方の端部に他のフランジ板を溶接してH形鋼を製造する方法において、予め当該各フランジ板に、溶接後金属の熱収縮により各フランジ板に生じるウェッブ板方向の反り度合に対応するウェッブ板とは反対方向の逆反りを形成せしめた後、溶接処理することを特徴とするH形鋼の製造方法。
【請求項2】
ウェッブ板と逆反りフランジ板を、ウェッブ板が鉛直方向に位置する略逆T字状体とし、当該略逆T字状体においてウェッブ板の両サイドに形成される逆反りフランジ板との両隅部を、斜め上方から同時に溶接処理することを特徴とする請求項1記載のH形鋼の製造方法。
【請求項3】
予めフランジ板に、溶接後金属の熱収縮によりフランジ板に生じるウェッブ板方向の反り度合に対応するウェッブ板とは反対方向の逆反りを形成する逆反りローラー機構部と、ウェッブ板の端部に逆反りフランジ板を溶接する溶接機構部とを備えていることを特徴とするH形鋼の製造装置。
【請求項4】
逆反りローラー機構部が、少なくとも、フランジ板の下面を受止する略紡錘状の固定ローラー部と、フランジ板の上面をウェッブ板の両サイドにおいて加圧する円柱状の上下可動ローラー部とを有していることを特徴とする請求項3記載のH形鋼の製造装置。
【請求項5】
逆反りローラー機構部が、ウェッブ板とフランジ板を、ウェッブ板が鉛直方向に位置する逆T字状とするホールド部を更に有していることを特徴とする請求項4記載のH形鋼の製造装置。
【請求項6】
略紡錘状の固定ローラー部が、最大径を呈する中央部において、ウェッブ板の板厚よりやや広い水平周端面を有していることを特徴とする請求項4又は5記載のH形鋼の製造装置。
【請求項7】
溶接機構部が、ウェッブ板と逆反りフランジ板を、ウェッブ板が鉛直方向に位置する略逆T字状体とするホールド部と、当該略逆T字状体においてウェッブ板の両サイドに形成される逆反りフランジ板との両隅部を斜め上方から同時に溶接する溶接機とを有していることを特徴とする請求項3〜6の何れか1項記載のH形鋼の製造装置。
【請求項8】
溶接機が、ウェッブ板の各サイドに異なる角度でそれぞれ2本ずつ配設されていることを特徴とする請求項7記載のH形鋼の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−116549(P2006−116549A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303765(P2004−303765)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(592098687)株式会社桂スチール (3)
【Fターム(参考)】