説明

HIVプロテアーゼ抑制剤重硫酸塩

【課題】本発明は式IIの結晶状重硫酸塩を提供する。
【解決手段】この化合物は、このアザペプチドHIVプロテアーゼ抑制剤化合物の遊離塩基形態と比較して、驚くべきことに高い溶解性/溶解率及び経口バイオアベラビリティーを示すことが見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は以下の式を有する新規な結晶状のアザペプチドHIVプロテアーゼ抑制剤重硫酸塩を提供する。

【0002】
上記化合物は他の塩と比較して、驚くべきことに顕著な水溶性/溶解性能を示し、遊離塩基に比べて動物における経口バイオアベイラビリティーが有意に改良されている。従って、この重硫酸塩は上述したプロテアーゼ抑制剤の製薬的投与形態、特に経口投与形態において有効である。
【背景技術】
【0003】
2.従来の技術
公開されたPCT特許出願WO97/40029には一連のアザペプチドHIVプロテアーゼ抑制剤が開示されており、HIVウィルスに対して高度の抑制活性を示すことが報告されている。WO 97/40029の範囲に含まれる一つの薬剤は構造式


及び化学名[3S-(3R*,8'R*,9'R*,12R*)]-3,12-ビス(1,1-ジメチルエチル)-8-ヒドロキシ-4,11-ジオキソ-9-(フェニルメチル)-6-[[4-(2-ピリジニル)-フェニルメチル]-2,5,6,10,13-ペンタアザテトラデカン二酸, ジメチルエステルを有し、HIVプロテアーゼ抑制剤の第二世代の候補として評価中である。
【0004】
WO 97/40029は化合物Iのようなアザペプチド誘導体の遊離塩基形態及び様々な薬学的に許容される酸付加塩を開示している。硫酸を含む幾つかの有機及び無機酸は可能な塩形成剤であることが記載されているが、本発明の主題である特定の重硫酸塩の記載はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の要約
本発明は下記の構造式を有する化合物Iの重硫酸塩を提供する。

【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の詳細な説明
上記に示された化合物Iは、24±3℃において1μg/mL未満の水溶性を示す弱い有機塩基である。水または油中の懸濁液としての結晶遊離塩基形態は動物において非常に低下したバイオアベイラビリティーを示すが、これは恐らくこれらのビヒクル中における極端な低溶解性によるものであろう。
【0007】
医薬剤形、特に経口投与形態の開発において、活性成分は十分な経口バイオアベイラビリティーを有していなければならない。化合物Iの遊離塩基形態はそのようなバイオアベイラビリティーを有していないので、酸付加塩が本発明者らにより研究された。塩酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、燐酸塩、硝酸塩、1,2-エタンジスルホン酸塩、イセチオン酸塩及び硫酸塩等の多数の通常使用される酸付加塩が、本発明の重硫酸塩に加えて評価された。これらの全ての塩の結晶形態は、同じ条件下において約4-5 mg/mLを示す重硫酸塩よりも低い水溶性 (24±3℃において1-3 mg/mL以下)を示した。
【0008】
固体状態の変換が、上述した他の酸付加塩を水に懸濁した場合に見られたが、これは恐らく解離により遊離塩基を形成するためであろう。多くのケースにおいて、この変換はゲル形成を伴う。上記の他の塩とは異なり、重硫酸塩の余分の部分(extra portion)が上述したように水に著しく不溶であり、低い経口バイオアベイラビリティーを有する遊離塩基への変換を妨げる。重硫酸塩の水中の異常な溶解性能についてさらに以下に詳細に述べる。
【0009】
一般に、塩の非イオン化形態への変換及びその逆もpH−溶解性理論に基づいて説明することができる。遊離塩基の水への溶解性を24±3℃におけるpHの関数として測定したものを以下に示す。化合物が最高の溶解性を示したpHを pHmaxと表し、約1.2であることが見出された。弱塩基性有機化合物のpH > pHmaxの場合には、化合物の懸濁水中の平衡固体相は遊離塩基であることが文献に報告されている。pH < pHmaxでは、平衡固体は相当する塩形態へと変換する。用語“平衡固体相”は、充分な平衡時間の後、化合物の水懸濁液中の不溶または過剰の固体を意味する。弱塩基の塩をその溶解限界を超える量で水中に平衡にさせると(i.e., 水中における塩の懸濁)、懸濁液の得られるpHは 、他の因子の中で酸の強度に依存してpHmaxのいずれかの側になるであろう。得られたpHがそのpHmaxより大きい場合には懸濁固体は遊離塩基に変換する。

【0010】
特に遊離塩基のメタンスルホネート及び塩酸塩について行われた研究から上述した文献に記載されている一般的研究結果が確認された。これらの塩の溶解性より過剰量について、24±3℃において少なくとも24時間水中で平衡させた。平衡後の懸濁液のpHは2.1±0.1であり、これはpHmaxより高い値であった。これらの懸濁液からの不溶固体は単離し、空気乾燥し、特性を調べた。熱及び元素分析から、これらの懸濁液からの不溶固体は遊離塩基であると同定された。このことは、上記のグラフに示されるpH-溶解特性及び文献に記載される研究結果に基づいて予想された。
【0011】
過剰の重硫酸塩を水中で平衡させた場合、溶液と平衡に達した固相中で修飾が起こった。しかし、懸濁液のpH(1.9±0.2)はpHmaxよりも高く、かつ上述したメタンスルホネート及び塩酸塩の懸濁液のpHと同等であったが、平衡後の不溶固相は遊離塩基ではなかった。少なくとも24時間平衡した後の固相は、元素分析により遊離塩基形態と硫酸の2:1の塩の水和化形態であると分析された(以下硫酸塩と称する)。この重硫酸塩の性質はpH-溶解性理論に基づいても予想されないことである。
【0012】
次に過剰の硫酸塩を水中で平衡させると、溶液と平衡にある固相中で修飾が起こった。この懸濁液からの不溶固体を単離し、空気乾燥し、特性を調べた。この不溶固相の熱及び元素分析から、メタンスルホネート及び塩酸塩の変換のように明確ではないが、硫酸塩から遊離塩基への変換は遊離塩基の場合と同様であることがわかった。薬学的観点から、水溶性環境における遊離塩基へ変換する塩の性質は、遊離塩基の低い経口バイオアベイラビリティーのため望ましくない。従って、その固有の溶解特性のため重硫酸塩は予期せぬ利点をもたらした。
【0013】
重硫酸塩の水中の溶解特性はまた、化合物I遊離塩基と硫酸の水中における相互作用を考慮すると予期せぬものであった。例えば、遊離塩基はpH 〜1.8(硫酸で調整)において水中で1mg/mlより低い溶解性を示し、これに対し同様のpH条件下で水中の重硫酸塩の溶解性は4-5 mg/mLであった。pH−溶解性理論に基づいて、遊離塩基及び塩は所定のpHにおいて同様の溶解性を示すことが予想される。
【0014】
重硫酸塩の増加した溶解/解離特性は、遊離塩基に比して動物における改良された経口バイオアベイラビリティーに寄与する。重硫酸塩の絶対経口バイオアベイラビリティーは、ゼラチンカプセル中に入れた非処方(unformulated)固体形態で投与した場合に犬において約20%であることが見出された。これに対し、結晶遊離塩基は犬において最小限の経口バイオアベイラビリティーを有した。
【0015】
最適溶解性に加えて、固体状態における十分な物理的安定性は薬学的塩形態の他の望ましい性質である。物理的安定性という用語は、保存/ストレス条件下においてその結晶構造(結晶溶媒がある場合にはこれを含む)を保持する塩形態の能力を意味する。微分走査型熱量測定法のような熱的方法により示されるような塩形態の物理的性質における重要な変化は望ましくない。重硫酸塩は、40℃/75% 相対湿度(RH)において9ヶ月もの長期間保存した場合、下記のIIaに示されるように良好な固体状態の物理的安定性を示した。
【0016】
微分走査型熱量測定では、非ストレス試料(密閉容器中で2〜8℃において保存した)と比較して重硫酸塩のストレス試料の熱的性質には有意の変化はみられなかった。一方、メタンスルホネート、塩酸塩及びサルフェート塩はIIb、c及びdに示されるように、40℃/75%RH条件下で2週間程度保存した場合には、熱的性質において有意の変化を示した。塩形態の物理的安定性の差異は一般的ではないが、特定の塩は溶媒和(又は結晶形態)を形成する傾向があり、保存/ストレス条件下におけるその結晶の溶媒を保持する(結晶形態の物理的安定性)能力は論理に基づいて予測できない。
【0017】

IIa. 重硫酸塩の物理的安定性 実線はストレスを受けない物質を示す。点線は40℃/75% RHで9ヶ月ストレスを受けた物質を示す。
【0018】

IIb. 塩酸塩の物理的安定性 実線はストレスを受けない物質を示す。点線は40℃/75% RHで2週間ストレスを受けた物質を示す。
【0019】

IIc. スルホン酸塩の物理的安定性 実線はストレスを受けない物質を示す。点線は40℃/75% RHで2週間ストレスを受けた物質を示す。
【0020】

IId. 硫酸塩の物理的安定性 実線はストレスを受けない物質を示す。点線は40℃/75% RHで2週間ストレスを受けた物質を示す。
【0021】
重硫酸塩は化合物Iの遊離塩基と硫酸とをアセトニトリル、イソプロパノール、エタノールまたはアセトン等の溶媒中で溶液とし、次にこのようにして形成した重硫酸塩を単離することにより製造しても良い。
重硫酸塩の高いバイオアベイラビリティー並びに良好な結晶性及び安定性のため、重硫酸塩は化合物Iの経口投与形態において非常に有効である。以下に示す実施例は経口形態の代表例の製造を示す。
重硫酸塩及びその剤形は、WO 97/40029に記載されるように、ウィルス、特にHIVウィルスのようなレトロウィルスによる疾病の治療に用いられる。
【実施例】
【0022】
特定の実施態様の記載
実施例 1
エタノールからの重硫酸塩の製造
オーバーヘッド攪拌機及び滴下ロートを備えた500 mLの三つ口丸底フラスコに、15.013g (0.0213 mole)の化合物Iの遊離塩基及び113 mLの200プルーフエタノールを攪拌下加えた。この懸濁液に、1.28 mLの濃硫酸を90秒間かけて滴下した。硫酸の添加後、透明な琥珀色の溶液が得られた。この溶液を#1ワットマンろ紙を用いてポリッシュ(polish)濾過し、5 mLの200プルーフエタノールで洗浄した。この溶液に58 mLのヘプタン及び37.5 mg (0.25 wt%)の式IIの化合物の種晶を添加し、さらに55 mLの更なるヘプタンを添加した。得られた混合物を6時間300rpmで攪拌した。得られた結晶スラリーを濾過し、50mLのエタノール/ヘプタン(1:1)溶液で洗浄し、60℃で一晩真空下乾燥し、15.11 gの目的の上記式IIを有する結晶状重硫酸塩 (88.4 mole % 収率)を得た。
【0023】
重硫酸塩の特性
Anal. Calcd. for C38H52N6O. 1.0 H2SO4: C, 56.84; H, 6.78; N, 10.37; S, 3.99.
Found: C,56.72; H,6.65; N,10.41; S,3.83.
m.p. 195.0°
H2O = 0.28% (KF)
【0024】
実施例 2
アセトンからの重硫酸塩の製造
5M H2SO4 (8.52 mL, 42.6 mM)を、50℃の油浴上で式I (30.0 g, 42.6 mM)の遊離塩基化合物のアセトン(213 mL)懸濁液を機械的に攪拌しながら滴下した。透明な溶液がすぐに得られた。この溶液を式IIの化合物の遊離塩基の結晶を用いて種晶を入れた。2分後、形成した沈殿はペースト状になった。混合物を50℃で1時間、25℃で30分間、及び0℃で2時間攪拌した。固体を濾過し、最初の濾液を用いてフラスコ中の残りの物質を濾過じょうごに移した。生成物をアセトン、次にヘプタンで洗浄し、さらに真空下一晩乾燥し、31.48 g (補正収率92%)の式IIの重硫酸塩を得た(m.p. 198-199℃ dec)。
【0025】
Anal. Calcd. C38H52N6O7. 1.0 H2SO4. 0.2 H2O : C, 56.59; H, 6.80; N, 10.42; S, 3.98; H2O, 0.45.
Found: C, 56.66; H, 6.78; N, 10.50; S, 4.20; H2O, 0.45 (KF).
【0026】
実施例 3
イソプロパノールからの重硫酸塩の製造
硫酸水溶液(5.0M, 0.20mL, 1mM)を、氷浴で冷却した、式Iの化合物(0.704g, 1.00mM)の遊離塩基のイソプロパノール(4.0 mL)懸濁液に添加した。氷浴を除去し、混合物を室温で攪拌した。懸濁液は15分間溶解した。溶液に実施例1及び2におけるように製造した結晶により種晶を入れ、5時間攪拌した。固体を濾過し、濾液を用いて、固体をフラスコからロートに移動するのに用いた。生成物をヘプタンを洗浄し、真空下乾燥して0.752gの式IIの化合物の結晶状重硫酸塩を得た(収率 90%, m.p. 160-190℃, dec.)
【0027】
Anal. Calcd. for C38H52N6O7. 1.0 H2SO4. 2.0 H2O; C, 54.40; H, 6.97; N, 10.02; S, 3.82; H2O, 4.29.
Found: C, 54.25; H, 6.73; N, 10.02; S, 3.67; H2O, 4.53 (KF).
【0028】
イソプロパノールから得られた結晶はアセトニトリル、エタノール−ヘプタンまたはアセトンから得られた結晶とは異なる、粉体(powder)X−線回折パターンを示した。以下これらをタイプ−II結晶と称する。タイプ-I結晶は無水/脱溶媒和結晶物のようであるのに対し、タイプ−II結晶は水和化された吸湿性の結晶形態である。
【0029】
実施例 4
カプセル形態の重硫酸塩の製造
A. カプセル (50及び200 mgの遊離塩基当量)
カプセルは経口投与用に用意され、ラクトース、クロスポビドン及びステアリン酸マグネシウムと共に湿顆粒(wet granulation)として調剤された式IIの重硫酸塩を含み、サイズは#0、グレー、不透明、硬カプセルである。
【0030】
B. カプセル(100 mg遊離塩基当量)
カプセルは、経口投与用に用意され、ゲルシレ(Gelucire)44/14中に懸濁された式IIの重硫酸塩を含み、サイズは#0、グレー、不透明、硬カプセルである。
ゲルシレ44/14はポリエチレングリコールのモノ−、ジ−及びトリグリセリド及びモノ−、ジ−、及びトリ脂肪酸エステルからなる飽和ポリグリコライズド(polyglycolized)グリセリドである。カプセルはゲルシレ44/14を45-70℃にて溶融し、攪拌下、重硫酸塩の添加をすることにより製造される。溶融した混合物は硬カプセル中に注入され冷却及び固化される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式IIで表される重硫酸塩化合物。

【請求項2】
請求項1に記載の重硫酸塩化合物及び薬学的に許容されるキャリアを含む医薬投与剤。

【公開番号】特開2009−102357(P2009−102357A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321240(P2008−321240)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【分割の表示】特願2000−540121(P2000−540121)の分割
【原出願日】平成10年12月22日(1998.12.22)
【出願人】(500077661)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (1)
【Fターム(参考)】