説明

HIV/エイズの受動免疫治療用ループス抗体

HERV DNAでコードされる抗原を認識するモノクローナル抗体及び抗体断片並びに製造方法を開示し、HIVを中和する抗体を作るループス患者のリンパ系細胞由来の組換え抗体断片を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
合衆国法典タイトル35セクション202(c)に従い、米国政府は、一部については国立保健研究所の基金(付与番号:HL59746、AI31268及びAI46029)でなされた本明細書記載の本発明において一定の権利を有することを承認する。
【0002】
微生物抗原と結合する抗体、より詳細にはgp120の保存された決定基と結合し、HIVを中和する抗体の調製と使用であって、HIVに対する免疫治療及び免疫予防の目的のためのものである。
【背景技術】
【0003】
抗体(Ab)は抗原との接触が確立される可変(V)ドメインを含む。この接触(点)の性質と数が抗体の結合特異性を決定する。異なるVドメイン配列を有する抗体の数として定義されるヒト抗体レパートリーは、1011〜1012と推定されており、それぞれ潜在的に異なる抗原結合特異性を有している。
【0004】
分子生物学における最近の発展により新規な方法の開発が可能になったため、医療上有用な抗体が天然のヒトレパートリーから単離され、更にタンパク質工学技術により改良され得る。抗体構造組織の正しい理解は、本発明の範囲を理解するのに役立ち、以下に概要を簡単に記す。
【0005】
抗原エピトープとの接触は、主に抗体の相補性決定領域(CDR)で、またそれより少ない程度ではあるがフレームワーク領域(FR)で起こる(図1)。抗体多様性は以下の過程によって生じる:(a)2つの抗体サブユニット、軽鎖(L)及び重鎖(H)のそれぞれのVドメインをコードする約50の生殖細胞系列遺伝子の継承;(b)抗体構造内の異なるL鎖とH鎖の連結によって引き起こされるコンビナトリアル多様性;(c)L鎖のV及び接合(J)遺伝子セグメント、並びにH鎖のV、多様性(D)及びJ遺伝子セグメントの組換え中に生じる接合多様性;及び(d)B細胞受容体(BCR)の構成要素として発現された抗体に対する抗原の結合を伴い、最も高い結合親和性を有するBCRを発現するB細胞の分裂の刺激に至る過程であるB細胞クローン選択の間に相補性決定領域に起こる急速な突然変異。別のレベルの多様性は、抗体によって異なる不変ドメイン、すなわち、H鎖のμ、δ、γ、α及びε領域及びL鎖のκ及びλ鎖が使用されることによって生じる。免疫応答の発生の初期に抗体はμ又はδ不変領域を含む。後に、アイソタイプのスイッチングが起こり、より分化した抗体ではμ/δ領域がγ/α/εに置換されている。
【0006】
健常な免疫系によって作られる抗体の目的は、病原体に対して防護することである。このような抗体応答は通常、外来抗原への暴露に際して、例えば微生物感染において始まる。しかしながら、場合によって、ヒト免疫系は外来抗原に事前に暴露されなくても、ある種の外来抗原に反応する抗体を作る。例えば、ウイルス抗原に対する抗体は、感染の証拠がない自己免疫疾患の患者に見出される。例として、ループス患者のヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV-1)に対する抗体及び多発性硬化症におけるレトロウイルス抗原に対する抗体がある。HIV-1の場合、未感染のループス患者又は混合結合組織病の患者は、ウイルスの外皮タンパク質に対する抗体を発現することが知られている(1,2)。
【0007】
多くの場合、感染した対象の微生物に対する感染防御免疫応答は、感染を抑えるのに不十分である。これは、例えば免疫不全のヒトに起こる。さらに、多くの微生物は感染を確立するために免疫破壊メカニズムを使い、その結果、感染した個体は感染の拡大に十分に防御しない抗体を産生する。このような個体に受動免疫治療剤として投与され得る微生物タンパク質に対するモノクローナル抗体は、感染に対する防御を提供することができた。
【0008】
本発明において、自己免疫疾患の患者がこのようなモノクローナル抗体の供給源として確認される。自己免疫疾患の患者から得られた抗微生物抗体の固有の特性は、それらの固有の起源にある程度起因しているようである。これらの抗体は増大した自己反応性免疫学的応答が原因で生産される。免疫応答の標的となる自己抗原は、高等生物の遺伝性ゲノムに見出される内在性レトロウイルス(ERV)配列由来のポリペプチドを含み、そのいくつかは今日の微生物抗原に対して配列が相同である。ヒトゲノムの1%から8%はERV(HERV)で構成されており、進化の過程で徐々に取得されて来たたと考えられる。ヒトゲノムは約30億の塩基を含み、その約3%が発現される。ヒトレトロウイルス配列は自己免疫疾患において発現されるという多数の証拠があり、このプロセスは発病させる自己免疫応答に内在するメカニズムとして提案されている(3、4の概説参照)。
【0009】
参考文献
1. Bermas, B.L., Petri, M., Berzofsky, J.A., Waisman, A., Shearer, G.M. and Mozes, E. Binding of glycoprotein120 and peptides from the HIV-1 envelope by autoantibodies in mice with experimentally induced systemic lupus erythematosus and in patients with the disease. AIDS Res Hum Retroviruses. 10:1071-1077,1994
2. Douvas, A., Takehana, Y., Ehresmann, G., Chernyovskiy, T. and Darr, E.S. Neutralization of HIV type 1 infectivity by serum antibodies from a subset of autoimmune patients with mixed connective tissue disease. AIDS Res Hum Retroviruses. 12:1509-1517,1996
3. Nelson,P.N., Carnegie, P.R., Martin, J., Davari Ejtehadi, H., Hooley, P., Roden, D., Rowland-Jones, S., Warren, P., Astley, J. and Murray, P.G. Demystified-Human endogenous retroviruses. Mol Pathol. 56:11-18, 2003
4. Urnovitz, H.B. and Murphy, W.H.Human endogenous retroviruses: nature, occurrence, and clinical implications in human disease. Clin. Microbiol Rev. 9:72-99,1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、ウイルス抗原を認識し、ウイルスの感染能力を中和する、自己免疫疾患の生物から得られたモノクローナル抗体又はその断片を提供することである。
別の目的は、ヒト内在性レトロウイルス配列(HERV)によってコードされる抗原性ポリペプチド産物及びそれらのホモログを認識するモノクローナル抗体又はその断片を提供することである。
別の目的は、全身性エリテマトーデスの患者に由来し、HIV-1を中和するモノクローナル抗体又はその断片を提供することである。
別の目的は、HIV-1を中和するHERVポリペプチドに相同的なHIV-1の抗原性エピトープを認識するモノクローナル抗体又はその断片を提供することである。
別の目的は、HIV-1を中和するHERVポリペプチドに相同的なHIV-1の抗原性エピトープに結合する抗体を産生する、ループス患者のリンパ球由来の細胞株を提供することである。
【0011】
[図面の説明]
図面の簡単な説明の欄に後記する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.自己免疫疾患における外来抗原に対する抗体の刺激物としての内在性レトロウイルス抗原
HIVgp120に対するポリクローナル抗体は、ループス及び混合結合組織病の患者の血清中に存在し、検出された(1,2)。ループス患者の血清中に見出される抗体は、gp120の残基421-436で構成されている比較的保存された決定基(以後gp120(421-436)とする)に結合するので、HIV感染に対する防御因子として興味がある。しかしながら、実験動物で免疫原としてgp120(421-436)に対応する合成ペプチドを使った研究では、このペプチドに対する抗体がHIV-1中和活性を示さないと報告された(3)。その結果、HIV-1感染の受動免疫治療用にこのような抗体を開発することにはほとんど興味が失われた。
【0013】
合成ペプチドは、大きめのタンパク質の構成要素として見出される対応するペプチドエピトープが採る形態に折り畳まれるとは限らない。したがって、gp120(421-436)に対して実験的に誘発された抗体の結果は、ループス患者に見られるgp120のこの領域に対する天然の抗体の特性を予測させない。臨床的文献はHIV-1感染とループス間の負の相関の可能性を示唆する事例証拠を含んでいる(4,5)。しかしながら、ループスの患者がHIV-1に感染するか又はAIDSを発症するリスクがより低いかどうかを確認するためにコントロールされた疫学的研究はこれまで実施されていない。
【0014】
【表1】

【0015】
内在性レトロウイルス(ERV)配列ポリペプチドに対する免疫応答は、自己免疫疾患の患者にしばしば起こる。ループス患者によるgp120に対する抗体の形成を誘発する免疫原は知られていない。本発明者は、gp120残基421-436、即ちループス抗体によって認識されるエピトープをコードするヌクレオチド配列で、内在性ヒト抗原発現相同性のデータベース検索を行った。従来のヒト抗原で検出できる相同性は検出されなかった。いくつかの自己抗原[HLAクラスI重鎖、VIP及びニューロライキン(neurolikin)]間の相同性は知られているが(6-8)、これらの相同性は、gp120残基431-436の範囲に入らない。新たに利用できるヒト内在性レトロウイルス(HERV)配列データベース(9)での検索は、gp120の422-432領域で疑う余地のない相同性を示す配列を同定した。このHERVは染色体Xに位置する。ヒト内在性レトロウイルス(HERV)配列データベース(9)を検索することにより、本発明者は、このgp120の領域と相同性を示す染色体Xに位置するHERV配列を同定した(GenBank番号AL592563.7;表1;図2)。gp120の421-436領域に対する相同性を持つ2つの更なるHERV配列が明らかになった。これらの配列は、HERV-Lファミリーメンバーのヌクレオチド1394-1433及び別のHERV-Lファミリーメンバーのヌクレオチド1254-1304に対応するが、アラインメントは、それぞれ1つ及び4つのヌクレオチドのギャップを含んでいた。ポリペプチド配列に翻訳されると、図2に示されたHERV要素は、15個のgp120アミノ酸位置の8個で同一性を示し、グランサムのスケール(24)によれば7つの突然変異の5つが化学的に類似のアミノ酸を含む。gp120残基429-436はHERV要素rv_062846と相同性を示した(GenBank AL391989.9;4/8アミノ酸同一;2/4突然変異は化学的に類似のアミノ酸を含む;gp120のこの領域に対応するヌクレオチド同一性、17/24)。
【0016】
ほとんどのHERVはそもそも、たったいくつかの個体のDNAを配列決定したヒトゲノムシーケンスプロジェクトによって同定された。HERVは異なるヒト亜集団における配列の相違に非常に影響されやすい。さらに、非発現HERVは自己免疫疾患における突然変異及び転位事象によって発現し得るようになることが知られている(10,11)。このことはループス患者が一般集団から区別できるgp120関連HERVを発現できる可能性を開く。HERVはセンス及びアンチセンス配向でゲノムに組み込まれて見出される。これらは断片又は完全長ウイルス遺伝子であり得る(12)。HERVはしばしば発現した遺伝子に近接して位置し、調節的機能を果たす。HERV配列に特徴的な長い末端反復配列はしばしばプロモーター及びエンハンサーを含む(10,11)。他のHERV配列はポリペプチドとして発現され、必須の生物学的機能を果たし、例えばシンシチン(sincytin)は、胎盤においてシンシチウム(合胞体)栄養膜への栄養膜細胞の融合を仲介するHERVコードタンパク質である。HERV配列の大部分はその生物学的機能がまだ特定されていない。ナンセンスコドンを含むHERV配列は、置換変異、欠失及び挿入などのストップコドン不活性化メカニズムにより、ループス患者で発現可能な遺伝子に変わりうる(14)。異なる個体のPBMCにおけるHERVの発現は非常に変わりやすく(15)、HERV発現は組織選択的でありうる(10)。ループスで増加したHERV発現が報告され(16)、ループス患者のHERVコードポリペプチドに対する抗体の産生が記載されている(17)。これらの抗体はSm及びsnRNPなどの自己抗原と交差反応し得る(18);HERV配列はT細胞超抗原として機能することが示唆されている(19)。HIV及びHERV間の関連はこれらの観察結果から明らかである:接合部HIVgp41-gp120 env 領域と相同なHERV要素との間の配列相同性(20);HERV-KポリペプチドとHIV Rev タンパク質との間の配列・機能相同性(21);及びERVにコードされていると考えられるヒヒ胎盤のポリペプチドに対する抗HIV抗体の結合。
【0017】
進化的な観点からみて、HERV配列は、これらの配列の転位及び突然変異が新しい機能を有するタンパク質の発生を容易にする可能性が高いという点で、有益な役割を果たし得る。一方、自己免疫疾患における頻繁なHERVの関与は、新しいタンパク質に対する免疫寛容の欠如によるのであろう。相対的に、古来のタンパク質に対する免疫寛容は進化の過程でゆっくりと発達してきたのであろう。HERV配列は従来の発現されたタンパク質よりも「遺伝的浮動(genetic drift)」に対してより感受性であり、異なる被験者における異なるHERV産生物の生成は可能なままである。先に述べたように、HERV発現は一般集団と比較して自己免疫疾患の患者で増加することが多い。これは、例えばストップコドン不活性化メカニズムを経由して非発現から発現要素にHERV配列を変換する個々の胚細胞における遺伝的変化によって説明することができる。
【0018】
2.gp120残基421-436に対する均一な抗体断片の単離
前述の検討事項から見て、本発明者は、HIVに対する抗体の標的として残基421-436からなる決定基を検討した。表2はこのエピトープのアミノ酸配列が多様なHIV-1株で保存されている程度を示す。各位置のコンセンサスアミノ酸の頻度は残基424、429及び432を除いて80%より高い。gp120のこの領域は、抗体の最も良く保存されている可能性のある標的のひとつである。
【0019】
表2.gp120残基421-436におけるコンセンサスアミノ酸の頻度 コンセンサスが由来する菌株の番号を示す(すべての株はLos Alamosデータベースで入手可能)。頻度は:(示された残基を発現する株の#×100/株の全#)
【0020】
残基 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436
Lys Gln Ile Ile Asn Met Trp Gln Glu Val Gly Lys Ala Met Tyr Ala

株,# 349 380 355 251 331 319 379 367 158 333 373 161 366 324 382 377
頻度,% 91 99 92 65 86 83 99 96 41 87 97 42 95 84 99 98
【0021】
実施例Iはgp120のこの領域に対するヒトモノクローナル抗体の供給源としてループス患者を使用する本発明者の推論を説明する。本明細書で説明するように、HIV-1感染個体は、HIV-1による感染がgp120の非常に超可変領域に対する免疫応答によって支配されるので、所望の抗体の好適な供給源ではない。本発明者はループス患者から得られたgp120に対する均一な抗体を調製することを求めた。なぜならば既に研究されたポリクローナルループス抗体調製物はエピトープ特異性の明白な決定が出来ないからである。さらにポリクローナル抗体はさまざまな抗原特異性を有する個々の抗体種の混合物であり、受動免疫療法に使用できない。
【0022】
ループス患者から得られるgp120に対する均一な抗体を開発するため本発明で使用された手順を、実施例IIに詳細に説明する。簡単に言えば、これらの手順は以下からなる。
・ループス患者の発現された抗体のレパートリーの調製。この目的のためにレパートリーの2つのタイプ、VL及びVHドメインを含む単鎖Fv構築物と、軽鎖サブユニットとを調製した。両方の場合において、数人のループス患者からプールされたリンパ球のmRNAを出発物質とした。所望のVLドメイン、VHドメイン及び軽鎖レパートリーに対応するcDNAを逆転写酵素ポリメラーゼ反応によって得て、ファージ粒子の表面上で又は細菌発現宿主中に可溶性形態で抗体断片の発現を可能にするファージミドベクターによりクローン化した。
・gp120に特異的なFv及び軽鎖クローンを、固定化したgp120にこれらの抗体断片を示すファージを結合させることにより単離した。次にFv及び軽鎖を可溶性形態で発現させ、電気泳動的に均一に精製した。
【0023】
実施例IIは結果として生じる抗体断片の機能的性質及び分子特性に関する詳細を提供する。これらの手順により得られたFv及び軽鎖のスクリーニングで、ELISA法によって決定されるgp120に対する結合を示す幾つかのクローンが同定された。一般的に、gp120の結合は合成gp120(421-436)ペプチドに対する結合と相関していた。これは、残基421-436がループス抗体断片に対する主要エピトープを構成していることを示していた。
【0024】
これらの抗体断片のVドメインcDNAの配列決定により、高度に変異したCDRの存在が示された。このことにより、抗体断片が、抗原の特異的認識に至る抗原により促進された成熟過程の産物である証拠が得られた。
【0025】
本発明の抗体断片の機能的有用性は、一次HIV-1アイソレートによるヒト末梢血単核球(PBMC)の感染を遮断する能力から明らかである。方法と結果の詳細は実施例IIで示す。PBMCはTリンパ球及びHIV-1に感染したマクロファージを含む。細胞の感染は酵素免疫測定法でp24抗原を測定することによりモニターされる。2つのループスFv断片による処理は、クレードB、C及びDから得られたHIV-1の3つの多様な株の感染を遮断した(表3)。ループス軽鎖断片はクレードC及びDから得られた2つの株による感染を遮断したが、クレードB株には効果がなかった。これらの抗体断片によるHIV-1の中和の用量反応曲線を実施例IIに示す。
【0026】
表3.ループス抗体断片によるHIV-1の中和 値は50%(IC50%)及び90%(IC90)中和するμg抗体断片/mlで示す。括弧の中はそれぞれ、方程式:%HIV中和=100%/[1+10(logIC50.抗体濃度)×傾き]に適合したカーブの傾き(Hill Slope)及び2乗相関係数である。カーブは開始点を通らせた(ゼロ中和)。傾き値は変化するパラメーターとして使用した。ntはテストなし。
【0027】
【表2】

【0028】
本発明の抗体断片は、以下のように当業者に知られたさまざまなタンパク質工学技術により容易に改善しうる。実施例IIIはこれらの方法の幾つかを述べる。簡単に言えば、工学手法は以下からなる。
・増加したインビボでの半減期及び増加したウイルス認識の結合活性を提供するために完全長IgG、IgM及びIgAとしてFv構築物を再クローニングする。動物に投与した場合、Fv構築物は血中で時間オーダーの半減期を示す。これに対して、血中の完全長抗体の半減期は2〜3週間ほどになり得る。IgG、IgM及びIgAとして一価のFvを再クローニングすることにより2、10及び4の抗原結合価がそれぞれ得られる。このことは幾つかの事例に有用である。なぜならば多価の結合は当業界で結合活性という用語で知られている見かけ上の抗原結合強度を改善するからである。
・VL、VH及びリンカードメインの配列を突然変異誘発により変化させて、抗体断片の生物学的活性を改善することができる。次に突然変異体を前述した表示ベクターの表面に発現させ、ウイルス又は純粋なウイルス抗原に結合させる。これにより、最も高いウイルス結合親和性を有する突然変異体の分離が可能になり、次には改善されたウイルス中和能を生じることが予想される。抗原との改善された接触の確立により、VL及びVHドメインにおける突然変異誘発過程は抗原結合強度を改善する。VL及びVHドメインを結ぶリンカーペプチドの突然変異誘発は、VL及びVHドメインの界面接触を改善するように設計され、その結果これらのドメインが優れた抗原結合キャビティーを形成することが可能になる。
・ループス抗体から得られたVLドメインは、gp120に対する他の抗体、例えば既知のヒト抗体クローンb12、S1-1及びF105のVHドメインと対をなすことができる。これはウイルスに対する結合強度を改善し、またエピトープ特異性に変化を生じさせてウイルス中和活性を改善することができる。
【0029】
3.HERV結合のスクリーニングによる新規な抗体の同定
本明細書に開示されているように、HERVポリペプチドを認識する抗体は、今日の微生物に対して防御機能を果たし得る。この予測に対する理論的な根拠は、HERV配列の発現が進化の過程で宿主−微生物関係の不可欠な構成要素になったということである。この理論において、本発明者は、宿主生物が防御免疫応答をすることができるポリペプチドをコードする微生物の重要な核酸配列が、破壊メカニズムとして宿主ゲノムの中に組み込まれると考えた。宿主ゲノムに組み込まれると、発現されたHERV配列は自己抗原として宿主免疫系によって処理され、発達途上の免疫系において、HERV抗原(及び重要な微生物抗原エピトープ)に対する寛容が、自己抗原に対する免疫応答を制限する通常の寛容メカニズムの過程で発達する。これらのメカニズムは、自己免疫疾患を妨げる方向に向けられる、さまざまな抗原に対するT及びB細胞のクローナルサイレンシング(clonal silencing)及び失敗の事象からなる。したがって、自己免疫疾患のない生物の生理学的環境下では、HERVの存在は、微生物によって、宿主細胞の免疫応答を損ない、感染をより簡単に起こすために使われるメカニズムとして考えられる。
【0030】
一方、自己免疫疾患では自己抗原に対する寛容に機能停止がある。その結果、HERVポリペプチド産物に対する寛容もまた機能停止し、防御抗体は自己免疫疾患の患者においては明白である。これらの概念を図3に概略的に示す。
【0031】
したがって、HERVポリペプチドに特異的に結合する抗体の同定は、免疫治療用途に有用な防御性抗微生物抗体を得る新規なルートである。これらの抗体の好ましい供給源は自己免疫疾患の患者である。抗HERV抗体を同定するいくつかの方法を実施例IVで説明する。同じ結果が得られる他の方法も考えられる。ストラテジーのアウトラインは以下の通りである。
・今日の微生物タンパク質に対して相同性を有するHERV配列を、入手可能な例えばBlastn及びHERVデータベース、http://herv.img.cas.cz.のデータベース検索で同定する。抗原エピープの最小の長さは一般的に5-7アミノ酸(15-21ヌクレオチド)であると考えられるので、微生物抗原標的の抗原エピトープ5-7に対応するDNA配列を最初に同定する。標的とされるエピトープは一般的にその機能的重要性に基づいて選択される。例えばHIVの場合、遮断されると、宿主細胞CD4受容体への結合が抑制される結果宿主細胞へのウイルス侵入が抑制されることが予想される抗原エピトープを選択することが有利である。クエリー配列との相同性の決定の統計的有意性のレベルは、クエリーと同一のヌクレオチドの数及びその同一部分におけるギャップの数を始めとする幾つかの要因に依存する。幾つかのソフトウエアプログラムが相同性の有意を判断するのに利用可能である(例えば、文献23)。相同を評価するときに同様に重要なのはクエリーペプチドエピトープとHERVペプチドエピトープ間の構造的類似の可能性である。例えば、ある種のアミノ酸の相違は大きな構造的変化を生じさせ得、例えばPro残基の導入はエピトープのらせん構造を乱し得る。文献24はペプチドの構成要素アミノ酸の化学的類似に基づいてペプチド配列を評価するアルゴリズムを記載している。このアルゴリズムは抗体の単離のための最もよいHERV候補抗原を特定するために使用できる。
・HERV抗原ペプチドに結合する抗体は、前のセクションで説明したように、適切なベクター上に表示された抗体レパートリーを使用して単離される。これとは別に、ドナー生物のリンパ球から、Epstein-Barrウイルスでの形質転換又はミエローマ細胞株を使ったハイブリドーマの形成により、細胞株を調製することができ、その細胞株によって分泌された抗体の、HERVペプチドとの結合を従来のイムノアッセイ方法でテストすることができる。
・HERVペプチド結合抗体が単離されたら、その抗体の微生物感染を遮断する能力を分析する。例えばHIVの場合、PBMCが宿主として使われ、感染はHIV抗原p24の測定に基づいて測定される。
【0032】
4.抗体の投与
本明細書に記載した抗体は、医薬品として患者に一般的に投与される。
本発明の医薬品は、例えば水、緩衝化生理食塩水、エタノール、多価アルコール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、油、界面活性剤、懸濁化剤、又はこれらの適切な混合物のような許容できる媒質と共に投与に都合がよいように処方される。選択された媒質中の抗体濃度は、媒質の疎水性又は親水性、及び抗体の他の性質に依存する。溶解限度は当業者が容易に決定し得る。
【0033】
本明細書で使用される、「生物学的に許容できる媒質」は、上に例示した医薬品の所望の投与ルートに適当であり得るすべての溶剤、分散媒などを含む。このような製薬的活性物質用の媒質の使用は当業界で公知である。従来の媒質又は物質は投与されるべき抗体に不適合である場合を除いていずれも本医薬品で使用されると考えられる。
【0034】
従来の受動免疫法は抗体を投与するときに使用される。好ましい態様において、抗体は患者に静脈内注入される。特定の内科的疾患の治療においては、生物学的効果を発揮するのに十分な量の分子が標的細胞に届くのを確実にするような措置をとらなければならない。
【0035】
分子又は分子を送達するための医薬品の親油性は、分子が標的の位置に到達できるように増大しなければならないかも知れない。さらに、本発明の抗体は、十分な数の分子が標的細胞に届くように細胞標的キャリアーに入れて送達しなければならないかも知れない。親油性の増大及び治療分子のターゲティングの方法は、本発明の抗体をカプセル化して抗体がちりばめられたリポソームにすることを含み、当業界で公知である。
【0036】
本発明の対象である抗体は抗体断片又は抗体全体として使用されるか、又は組換え分子に組み込まれるかポリエチレングリコール等のキャリアーにコンジュゲートされ得る。加えて、このような断片又は抗体全体は、前述したように細胞膜を通過して抗体又は断片の移動を起こすことのできるキャリアーに結合され得る。
【0037】
医薬品は投与の容易さ及び投薬量の均一性のため単位投与形態で処方される。本明細書で使用される単位投与形態は、治療を受けている患者に適した医薬品の物理的に分離した単位形態をいう。各投与量は所望の効果を生じるように計算された一定量の活性成分を選択された薬剤キャリアーと共に含むべきである。適切な単位投与量を決定する方法は当業者に周知である。
【0038】
抗体を含む医薬品は適切な間隔で投与され得、例えば、病的症状が低減又は軽減されるまでは1週間に2度投与され得、その後投与量は維持レベルまで低減し得る。個々のケースの適切な間隔は、通常、患者の状態及び治療しようとする病的状態に依存するであろう。
【0039】
受動免疫治療に適切な抗体は、許容される予防薬又は治療薬の標準的な基準を満たす:(1)抗体による標的ペプチド抗原の結合は、標的ペプチド抗原を機能的に不活性化することにより病理学的過程に有益な変化を導き;(2)前記抗体の投与は、得られる臨床的利益が副作用に関連した疾病率を超えるような、有利な治療指数を示す。このような基準が予防薬又は治療薬の受容性に対してどのように確立されるかの議論は当業界で一般的であり、Bert Spilker, Raven Press, New York, 1991のGuide to Clinical Trailsのテキスト等にみられる。有効性の実証における許容基準には、例えば、腫瘍治療の場合、腫瘍体積の減少、進行までの時間及び改善された生存率がある。HIV免疫治療の場合、有効性は血中のウイルス量(viral burden)の測定、CD4+ T細胞の数及び日和見感染の発生によって決定される。
【0040】
特定の標的分子の機能を抑制するように作用する従来のモノクローナル抗体は、バイオテクノロジー及び製薬会社による臨床的使用のための開発の下で最も一般的なタイプの治療剤のひとつである。これらの幾つかは実質的な臨床見込みを示した。例えば、臓器移植の分野において、T細胞受容体に結合する抗体(OKT3)はT細胞を激減させるためにインビボで使用されている。さらに、抗体は移植片対宿主病を治療するのに使用されており、ある程度成功している。多発性硬化症の治療で一部のT細胞を激減する抗CD4抗体の能力を評価する臨床試験が確立されている。従って、抗体の投与方法は当業界で通常の知識を有する臨床医に周知である。
【0041】
本発明で開示されるHERVペプチドはまた、所望の抗原に対する防御抗体応答を引き出すように設計された予防ワクチンとして使用できるであろう。例えば、ペプチドはミョウバンなどの適切なアジュバントと混合することができ、最大の抗体合成に最適化された投与量で筋肉内に投与することができる。そして血清中の抗体濃度がプラトーレベルに到達するまで、2回又は3回のブースター注射を4週間の間隔で投与できる。このように生じた防御免疫は数年間もつと推測される。なぜならばワクチン接種は、加害生物への暴露で抗体を生産するよう刺激され得る、特異的で、長く生きる記憶細胞の形成を生じさせるだろうからである。抗体濃度を決定する説明及び方法は実施例に述べる。ほとんどの抗原に対する抗体合成応答はT細胞依存であり、適切なT細胞エピトープはペプチド合成により免疫原に組み込まれ得る。これとは別に、キーホールリンペットヘモシアニン等のキャリアーは、必要に応じて抗体応答を最大にするために、Lys側鎖アミノ基又はCys側鎖スルフヒドリル基を介するカップリングを経由してHERVペプチドワクチンとコンジュゲートされうる。
【0042】
以上、本発明の好ましい態様のいくつかについて説明し具体的に例示して来たが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。本発明の範囲及び精神から逸脱することなくさまざまな修正を行うことができる。以下の実施例は本発明の理解を容易にするために提供されるものである。
【0043】
文献
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【実施例1】
【0044】
[HIV免疫治療に適切な抗体の供給源の同定]
HIV感染の治療の進歩にもかかわらず、効果的な免疫療法及びHIV用ワクチンの開発が相変らず急務である。アジドチミジンやレトロウイルスタンパク質分解酵素抑制剤などの薬剤はウイルス量(viral burden)を減少させる。しかしながら、これらの薬剤に耐性のウイルス変異株が生じ得、投薬中止は再感染を起こし得、しかも重大な副作用がある。最近、適応可能な免疫応答の効果的な武器、すなわち抗体及び細胞溶解性T細胞の両方がHIVに対する防御を達成するのに重要であるというコンセンサスが生まれた(1,2)。細胞傷害性T細胞応答はHIVに感染した対象の減少したウイルス量に一時的に一致する。しかしながら、細胞溶解性T細胞応答に依存するワクチン接種のストラテジーでは、HIVの回避変異体の発生が認められている(3、4)。細胞溶解性T細胞は感染した宿主細胞を溶解するが、細胞フリーのビリオンを不活性化しないので、無菌化免疫の可能性は示さない。体液免疫系がHIVに対して防御できるということは、SHIVマカク属サルモデルにおいて侵入抑制剤としての機能を果たし感染を抑えるモノクローナル中和抗体、例えばgp120のCD4結合部位(CD4b)に対するb12抗体、gp120のマンノース依存エピトープに対する2G12抗体及びgp41に対する2F5抗体の同定によって示唆される(5-7)。これらの抗体はHIV-1株の多くを中和するがすべてではなく、動物防御実験においてカクテル療法としての使用が奨められる(8)。
【0045】
HIV感染対象の抗体応答の考慮は、HIV免疫治療ストラテジーの開発に有益である。宿主細胞のタンパク質分解酵素によるgp160前駆物質のArg511-Ala512でのタンパク質分解切断はgp120及び不可欠な膜タンパク質gp41を生成する。gp120はウイルス表面に非共有結合の三量体として発現する(図4)。gp120が宿主細胞CD4受容体に結合した結果、ケモカインコレセプターが関与して感染が始まる。ほとんどのHIV感染個体において、抗体の応答は感染を抑えるのに効果がない。これはウイルスがもっている様々な免疫陽動テクニックのためである。またenvタンパク質の免疫優性エピトープは最も変異し易い領域である。感染した個体又は単量体のgp120で免疫化することによって産生されるgp120に対する抗体のほとんどは、V3ループ内の線状の決定基、すなわちいわゆる主要な中和決定基に対するものである(9、10)。抗V3抗体は通常株特異的である。すなわち、抗V3抗体は、感染過程で発生した変化したV3配列を有するHIV-1株又は異なる地理的位置由来の多岐にわたる株を中和しない。加えて、gp120は宿主細胞CD4受容体/ケモカインコレセプターとの相互作用で立体構造変化を受け得る。幾つかの研究では、gp120がCD4と結合した後に誘発されるネオエピトープを認識する抗体が記載されている(例えば11)。CCR5結合に関係している、より保存された残基に対する抗体の異なるクラスは、より広範囲の中和活性を発現することができる(12)。
【0046】
(a)中和抗体のFab断片(クローン17b)及びCD4と複合体を形成した末端切断型gp120の三元複合体のX線構造(図5A)及び(b)gp120の関連セグメントにおける部位特異的突然変異誘発(13-16)から、CD4-gp120の複合体化に対する洞察が得られた。CD5結合部位(CD4bs)は2番目、3番目及び4番目の保存されたセグメントに位置するアミノ酸、すなわち残基256、257、368-370、421-427及び457から構成される不連続の決定基である。CD4bsに対する抗体は感染した個体にまれに存在するが、gp120で免疫化することによって時々誘発される(17、18)。CD4bsはgp120三量体が単量体に分解するときの立体構造変化に影響されやすく(19)、単量体のCD4bsに対する幾つかの抗体による広範囲の中和を欠如する原因となる可能性がある。残基421-436を含む幾つかの線状のペプチドが抗体を生じさせる免疫原としてテストされている(20-24)。この決定基は異なるHIV株で完全ではないが概ね保存されている。立体傷害メカニズムに依存する抗体による効果的な中和は、CD4bsの完全に近い遮断を必要とするであろうことに注意することが重要である。抗体の抗原結合部位が占めるCD4bsの表面積が大きくなるほど、立体構造の遮蔽は多くなり、CD4bsの構造的違いによるウイルス回避の可能性は少なくなる。
【0047】
gp120の比較的保存された残基421-436を含む合成ペプチド(図5B)による免疫化で生じた抗体は、可能性あるHIV-1中和試薬として考えられていた。これらの抗体は、完全長gp120及びgp160(20-24)並びに多様なHIV分離株に感染した細胞表面に発現したgp120(21)を常に認識する。そのHIV感染を抑制する能力は一貫性がより小さい(20、21)。これらの抗体のいくつかは、細胞表面に発現したCD4によるのではなく、可溶性CD4によるgp120の結合を抑制する(22、23)。抗体中和活性のばらつきは、上で議論されたように、抗体の抗原結合部位とCD4bs間の接触点の細かな違いに起因するのであろう。このような違いは、全くありそうもないことではない。なぜならば、小さいペプチド免疫原は、キャリアータンパク質との接触点を始めとする微小環境によって立体配置を変えると想定されうるからである。本発明者の研究では、合成gp120(421-436)に対する抗体の完全長gp120との反応性に対する著しいキャリアータンパク質効果に注目した(24)。さらに、CD4bsの全体構造はCD4への結合を確実にするように十分に保存されているが、異なるHIV-1株との抗体の反応性はCD4bs内及び外の配列多型性によって影響され得る。
【0048】
侵入抑制メカニズムに加えて、抗HIV-1抗体は、その抗体が感染細胞内に入ったとき、ウイルスの複製及びパッケージングを妨げ得る。カルモジュリンアンタゴニストの効果によって明らかにされたように、細胞内カルモジュリンによるgp120の結合はウイルス増殖に必要である(25)。gp120のV1とV2領域間に位置するAsp180はウイルス複製にとって重要である(26)。ある完全長抗体は細胞膜を通過すると説明される。小さいサイズのため、抗HIV-1抗体の改変された断片は、完全長抗体よりももっと容易に細胞に侵入できる。
【0049】
ループスとHIVは相互に関連しているであろう。いくつかの文献がループス患者のHIV感染のまれな診断にコメントしている(27-32)。アメリカで、あるレポートはループスとHIV-1感染とが共存すると予測されるケース数が400であると見積もった。しかしたった20ケースと遭遇しただけだった(27)。ループスとHIVの関係の解釈は、2つの疾患のある共通した臨床的及び血清学的特徴によって複雑にされている(33)。同様に、ループス患者の人口統計的及び行動的パターンは、HIVのより少ない発生に寄与することができる(ループスは主に女性に発生する。ループス患者の静脈へのドラッグ使用及び安全でない性的習癖は厳しくモニターされていなかった。しかし、公表された研究で(文献27-32)、これらの要因を報告に取り入れようと、いくつかの努力がなされた)。これらの不確定性を軽減するのは、血液スクリーニング手法の制度に先立つ1978年から1983年の間に、輸血によるHIV感染した既知のループス患者はいなかったという事実である〔たとえば溶血症状の発見後にループス患者は輸血を受ける〕(28)。これはループス患者の特異的な耐性因子の存在を示唆する。HIV感染後のループスの臨床的回復は、はっきりと一般に認められた現象である(29-31)。同様の結果がレトロウイルス感染に暴露されたループスのマウスモデルに報告されている(34)。
【0050】
ループスの細胞性免疫応答の変化は説明される。しかし、これらの変化とHIV感染に対する感受性の単純な関係は見られなかった。ループス患者のCD4+細胞は若干減少し、CD8+細胞は増加した(35)。CD4+細胞はHIVの宿主であり、HIV特異的CD8+細胞はHIV感染固体において防御的役割を果たすのに関係していた。未感染のループス患者のHIV特異的CD+8細胞の存在について入手可能な情報はない。増強された抗体の産生、すなわちループスの顕著な特徴は可能性のある耐性要因である。重要なことに、gp120を結合できるポリクローナル抗体は、ループス患者及びループスのマウスモデルの両方で説明される(13、14)。前に述べたように、HIF中和に影響を与える重要な要因はエピトープの特異性である。ループス抗体はHIV感染固体で見つかった抗gp120HIV抗体と別個のエピトープ特異性を示す。前者は残基421-436から構成される線状のペプチドを認識する(36、37)。この決定基はCD4に結合するgp120に重要であり、抗体は宿主細胞へのHIV侵入を妨害できる。
これらの考察に基づいて、HIV免疫治療に適切な抗体の供給源としてループスレパートリーを検討した。
【0051】
文献
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【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】IgG抗体(A)及びIgM(B)の説明図 CDRは抗原と接触するアミノ酸の大部分を含む。突然変異をCDRに導入して抗原結合親和性を高めることができる。VL-VHコンビナトリアル多様化は抗原認識特性を高める付加的な手段である。重鎖不変領域ドメインは抗原刺激されたエフェクター機能を担う。クローン化された抗体Vドメインレパートリーに由来するcDNAを、重鎖及び軽鎖不変ドメインを含むベクターに挿入すると、完全長抗体分子の発現が可能になる。IgM抗体は全部で10個の抗原結合部位を提示する5量体構造である。単量体同士はS-S及びJ(接合)鎖によって共に保持されている。IgA抗体(図示せず)は4個の抗原結合部位を含む2量体構造であり、S(分泌)片により共に保持されている。
【図2】gp120残基 422-432をコードするコンセンサスヌクレオチド配列とHERVrv_85283との相同性 同一を(|)で示す。
【図3】HERVペプチド産物に対する寛容性の機能停止による自己免疫疾患の患者における微生物に対する防御抗体応答の概念
【図4】gp120ドメイン構造及びgp120三量体のモデル 決定基421-436は抗体標的として強調されている。Kwong,P.D.ら、J.Virol.74(4):1961-72,2000より。
【図5】A、gp120のCD4結合部位の構造 CD4結合部位の接触部及び近接した残基が赤と緑で示されている。残基421-436は藍色及び緑で示されている。Kwongら、Nature 393:648-659,1998より。B、選択されたグループM HIVサブタイプの残基421-436における相同性 C、エンベロープ相同性分析によって決定されたクレード間のHIV-1の関係
【図6】単鎖Fv(scFv)及びその工学処理された変異体の例 IgGのVL及びVH構成要素、すなわち設計されたFv(A)。M13ファージの表面に融合タンパク質として発現したFv(B)。細菌のペリプラズム又は培養上清から単離された可溶性Fvであって、そのいくつかは分子間集合を形成できるもの(C)。4価の束として集合したFv(D)、又は再クローン化されて結合活性が増加したIgM(E)。必要に応じて、改善された界面VL-VH対合ができるように、また凝集が減少するように最適化されたリンカーを含むFv(F)。インビトロにおいて組合わせのVL-VH多様化及びCDRH3突然変異誘発によって得られた親和性成熟Fv(G)。
【図7】ファージミドベクターpHEN2及びpCT5his6でそれぞれクローン化されたヒトループスFv及び軽鎖ライブラリーの特徴 PBLすなわち末梢血白血球。それぞれランダムに選択した10及び9のFv及び軽鎖クローンのジデオキシヌクレオチド配列決定により決定された挿入長及び多様性(固有配列を有するクローンの%)。ライブラリーサイズは細菌へのDNAの電気穿孔後に回収されたクローンの全数である。発現レベルはペリプラズム抽出物を使用したc-mycタグのドットブロットによって決定された。左下に、ループスFvファージ、軽鎖ファージ及びpHEN2を持つ細菌由来のパッケージされたコントロールファージ(12pmol)のSDS(2%)抽出物のSDSゲルの抗c-myc染色ブロット。融合タンパク質及びその分解産物は、異常に移動性の99kD及び72-90kDバンドとして見える。pHEN2ファージは、72kD融合タンパク質(N末端で23アミノ酸ペプチドを発現するp3)を示す。方法は、Paulら、J.Biol.Chem.276:28314-28320,2001を参照のこと。
【図8】ループスライブラリーからのファージ抗gp120抗体断片の選択(A);及び完全長gp120及び合成gp120(421-436)に対するループス抗体断片の相関した結合(B) 固定化されたgp120及び合成gp120にファージ粒子をあらかじめ結合させることによってそれぞれ単離したFc及びL鎖クローンのELISA価(選択されたクローン)、又は分画されていない供給源ライブラリーからランダムに取り上げられたFc及びL鎖クローンのELISA価(未選択クローン)を示す。N=独立したクローンの数。A、上段、固定化合成gp120(421-436)-BSAコンジュゲート。A、下段、固定化完全長gp120。B、プロットは、図1でA490>0.3を示す選択されたFv及びL鎖クローンである。示されたFvクローンは、JL409、JL413、JL437(黒塗りダイヤ)及びJL427(黒塗り四角)である。L鎖クローンは、SK18、SK45、SK41、SK51(黒塗り三角)である。回帰線のP=0.0004(Fv JL427を除いて計算;r2=0.24、このFvを含めてP=0.15)。データは、抗体挿入なしのベクターを持つ細菌のぺリプラスム抽出物による結合に対して修正された[gp120(421-436)及びgp120結合において、それぞれA490 0.10及び0.14]。10個のクローンに対して測定された組換え抗体発現は、1.9±0.5(s.e.m.)mg/l細菌培地であった。
【図9】ループス抗体断片による固定化gp120(421-436)(黒塗り四角)及び完全長単量体gp120(黒塗りダイヤ)の濃度依存性結合(A-C)、並びに固定化gp120(421-436)への結合の特異性(D) 金属アフィニティークロマトグラフィーで精製された抗体断片。Dにおいて、Fv JL427(46μg/ml)を、可溶性gp120(421-436)、ウシ血清アルブミン(BSA)、サイログロブリン(Tg)及びカルモジュリン(CaM)(1μM)の存在下で、結合についてアッセイした。挿入図;銀染色SDSポリアクリルアミド電気泳動ゲル(8-25%)が27kDの精製抗体断片(各パネルの右列)及びマーカータンパク質(左列;上から下へ、94,67,43,30,20,14kD;ファルマシア)を示す。
【図10A】ループス患者から単離されたgp120結合クローンの推測されるVドメインアミノ酸配列 相補的決定領域(CDR)が強調されている。A、Fv JL413。
【図10B】ループス患者から単離されたgp120結合クローンの推測されるVドメインアミノ酸配列 相補的決定領域(CDR)が強調されている。B、Fv JL427。
【図10C】ループス患者から単離されたgp120結合クローンの推測されるVドメインアミノ酸配列 相補的決定領域(CDR)が強調されている。C、L鎖SK18。
【図11】精製されたループス抗体断片による濃度依存HIV-1中和 A及びB、HIV-1株ZA009(クレードC)。C、HIV-1株BR004(クレードC)。宿主細胞:PBMC。値は、抗体(PBS中)の代わりに希釈液で処理したHIVを含むウェルのp24濃度のパーセントである。4つの培養レプリケートのp24濃度を個々に分析した(平均、標準誤差)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物抗原を認識し、微生物感染を中和する、自己免疫疾患を有する生物から得られるモノクローナル抗体又はその断片。
【請求項2】
微生物抗原に対して相同でありHERV DNA配列によってコードされる抗原を認識し、微生物感染を中和する、モノクローナル抗体又はその断片。
【請求項3】
HIV-1を中和する、請求項1記載の抗体又は断片。
【請求項4】
HIV-1を中和する、請求項2記載の抗体又は断片。
【請求項5】
自己免疫疾患を有する患者に由来する、請求項1記載の抗体又は断片。
【請求項6】
前記自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデスである、請求項5記載の抗体又は断片。
【請求項7】
軽鎖(VL)及び重鎖(VH)可変ドメインを含む、請求項1記載の抗体断片。
【請求項8】
軽鎖(VL)及び重鎖(VH)の抗体可変ドメインに対するcDNAを、リンパ球によって発現されたmRNAからクローニングすることにより得られる、請求項1記載の抗体断片。
【請求項9】
リンカーによって連結されたVL及びVHドメインを含む単鎖Fv構築物である、請求項1記載の抗体断片。
【請求項10】
前記リンカーがペプチドである、請求項9記載の抗体断片。
【請求項11】
N末端からC末端への構成要素の順番がVL-リンカー-VHである、請求項9記載の抗体断片。
【請求項12】
N末端からC末端への構成要素の順番がVH-リンカー-VLである、請求項9記載の抗体断片。
【請求項13】
ペプチドリンカーにより連結されたVL及びVHドメインを含む単鎖Fv構築物であって、増強されたHIV-中和活性を与えるために前記リンカーのアミノ酸配列を変えることにより得られる、請求項1記載の抗体断片。
【請求項14】
前記リンカーが突然変異誘発によって変えられたものである、請求項13記載の抗体断片。
【請求項15】
軽鎖サブユニットである、請求項1記載の抗体断片。
【請求項16】
軽鎖可変(VL)及び軽鎖不変(CL)領域に対するcDNAをクローニングすることにより得られる、請求項15記載の抗体断片。
【請求項17】
ファージ粒子の表面にFv構築物のライブラリーを発現させること、及び損なわれていないHIV、三量体のgp120、単量体の完全長gp120及びgp120のペプチド断片から成る群から選択される抗原に結合するHIV-反応性Fv粒子の亜集団を単離することによって得られる、請求項3記載の抗体断片。
【請求項18】
異なるHIVクレードに属する少なくとも3つの菌株を中和する、請求項17記載のFv構築物。
【請求項19】
HIV-1クレードB、C及びDに属する菌株を中和する、請求項17記載のFv構築物。
【請求項20】
請求項17記載のFv構築物を再クローニングすることにより得られる、モノクローナルIgG、IgA又はIgM構築物。
【請求項21】
ファージ粒子の表面に軽鎖構築物のライブラリーを発現させること、及び損なわれていないHIV、三量体のgp120、単量体の完全長gp120及びgp120のペプチド断片から成る群から選択される抗原に結合するHIV反応性軽鎖粒子の亜集団を単離することにより得られる、請求項15記載の軽鎖サブユニット。
【請求項22】
異なるHIVクレードに属する少なくとも2つの菌株を中和する、請求項21記載の軽鎖サブユニット。
【請求項23】
HIV-1クレードC及びDに属する菌株を中和する、請求項21記載の軽鎖サブユニット。
【請求項24】
請求項15記載の軽鎖VLと、異なる抗gp120抗体から得られたVHドメインとを含む、Fv構築物。
【請求項25】
請求項24記載のFv構築物を再クローニングすることにより得られる、モノクローナルIgG、IgA又はIgM構築物。
【請求項26】
自己免疫疾患の患者に由来する、請求項2記載の抗体又は断片。
【請求項27】
前記自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデスである、請求項26記載の抗体又は断片。
【請求項28】
軽鎖(VL)及び重鎖(VH)可変ドメインを含む、請求項2記載の抗体断片。
【請求項29】
リンパ球によって発現されたmRNAから得られた軽鎖(VL)及び重鎖(VH)の抗体可変ドメインに対するcDNAをクローニングすることにより得られる、請求項2記載の抗体断片。
【請求項30】
リンカーにより連結されたVL及びVHドメインを含む単鎖Fv構築物である、請求項2記載の抗体断片。
【請求項31】
前記リンカーがペプチドである、請求項30記載の抗体断片。
【請求項32】
N末端からC末端への構成要素の順番がVL-リンカー-VHである、請求項30記載の抗体又は断片。
【請求項33】
N末端からC末端への構成要素の順番がVH-リンカー-VLである、請求項30記載の抗体断片。
【請求項34】
ペプチドリンカーにより連結されたVL及びVHドメインを含む単鎖Fv構築物であって、増強されたHIV中和活性を与えるためにリンカーのアミノ酸配列を変えることにより得られる、請求項2記載の抗体断片。
【請求項35】
前記リンカーが突然変異誘発によって変えられたものである、請求項34記載の抗体断片。
【請求項36】
ファージ粒子の表面にFv構築物のライブラリーを発現させること、並びにGln-Ile-Lys-Asn-Phe-Leu-Lys-Glu-Val-Gly-Lys-Val-Val-Tyr-Ile、及びLys-Gly-Gly-Lys-Ala-Thr-Tyr-Ser(それぞれGenBank配列AL592563.7及びAL391989.9内にあるHERV配列断片に対応する)又はこれらの断片と結合するHIV反応性Fv粒子の亜集団を単離することにより得られる、請求項4記載の抗体断片。
【請求項37】
請求項36記載のFv構築物を再クローニングすることにより得られる、モノクローナルIgG、IgA又はIgM構築物。
【請求項38】
軽鎖サブユニットである、請求項2記載の抗体断片。
【請求項39】
軽鎖可変(VL)及び軽鎖不変(CL)領域に対するcDNAをクローニングすることにより得られる、請求項38記載の抗体断片。
【請求項40】
ファージ粒子の表面に軽鎖構築物のライブラリーを発現させること、並びにGln-Ile-Lys-Asn-Phe-Leu-Lys-Glu-Val-Gly-Lys-Val-Val-Tyr-Ile、及びLys-Gly-Gly-Lys-Ala-Thr-Tyr-Ser(それぞれ、以下のGenBank配列AL592563.7及びAL391989.9内にあるHERV配列断片によってコードされる)又はこれらの断片と結合するHIV反応性Fv粒子の亜集団を単離することにより得られる、請求項4記載の抗体断片。
【請求項41】
請求項40記載の軽鎖VLドメインと、異なる抗gp120抗体から得られたVHドメインとを含む、Fv構築物。
【請求項42】
請求項41記載のFv構築物を再クローニングすることにより得られる、モノクローナルIgG、IgA又はIgM構築物。
【請求項43】
ペプチドリンカーにより連結された突然変異VL及び突然変異VHを含む単鎖Fv構築物であって、増強されたHIV中和活性を与えるために前記VL及びVHドメインのアミノ酸配列を変えることにより得られる、請求項2記載の抗体断片。
【請求項44】
前記VL及びVHドメインが、突然変異誘発によって変えられたものである、請求項43記載の抗体断片。
【請求項45】
ペプチドリンカーにより連結された突然変異VL及び突然変異VHドメインを含む単鎖Fv構築物であって、増強されたHIV中和活性を与えるために前記VL及びVHドメインのアミノ酸配列を変えることにより得られる、請求項4記載の抗体断片。
【請求項46】
前記VL及びVHドメインが突然変異誘発によって変えられたものである、請求項45記載の抗体断片。
【請求項47】
生物から得られたリンパ球に由来する細胞株を微生物抗原と結合する能力についてスクリーニングすることにより得られる、請求項1記載のモノクローナル抗体。
【請求項48】
前記微生物抗原が、損なわれていないHIV、三量体のgp120、単量体の完全長gp120及びgp120のペプチド断片から成る群から選択される、請求項47記載の抗体。
【請求項49】
生物から得られたリンパ球に由来する細胞株を、HERVコードポリペプチド抗原と結合する能力についてスクリーニングすることにより得られる、請求項2記載のモノクローナル抗体。
【請求項50】
前記抗原が、Gln-Ile-Lys-Asn-Phe-Leu-Lys-Glu-Val-Gly-Lys-Val-Val-Tyr-Ile、及びLys-Gly-Gly-Lys-Ala-Thr-Tyr-Ser(それぞれ、以下のGenBank配列AL592563.7及びAL391989.9内にあるHERV配列断片によってコードされる)並びにこれらの断片から成る群から選択される、請求項49記載のモノクローナル抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−524603(P2007−524603A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509464(P2006−509464)
【出願日】平成16年3月29日(2004.3.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/009662
【国際公開番号】WO2004/087738
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(505359366)ザ ユニバーシティー オブ テキサス (6)
【Fターム(参考)】