説明

HIVVPR−特異的T細胞受容体

本発明は、HIVタンパク質vprのAL9エピトープ(AIIRILQQQL)に結合する、1つ又はそれ以上のアミノ酸置換を有しているTCRsを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2009年3月25日出願の、米国仮特許出願第61/163,421号の優先権を主張し、その全内容は参照により本明細書に取り込まれている。
【背景技術】
【0002】
HIV(ヒト免疫不全ウィルス)感染を治療するための現在の取り組みは、主にウィルスの複製又は感染性を制限することを目的としているが、潜伏ウィルス又はウィルス感染細胞を標的にしていない。HIVの早い突然変異速度の結果、潜伏ウィルス保有宿主から現れる薬剤耐性変異株が治療患者に疾患の進展及び他の個体への感染を引き起こしている。通常、感染経過の間に生じるCTL(Cytotoxic T Lymphocyte:細胞傷害性Tリンパ球)応答からウィルスがエスケープすることを幾つかの研究が示している。エスケープ変異株は、MHC(Major Histocompatibility Complex:主要組織適合遺伝子複合体)に結合するために重要な位置、又はTCR(T Cell Receptor:T細胞受容体)とペプチド−MHC複合体との相互作用に関与する位置における配列変異の選択を通して生じ得る。これらウィルスのCTLエスケープ変異を避けることは、有効なCTL応答を誘発するために、そしてHIV−1に対するワクチンを開発するために重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、広範なHIVばかりでなく感染経過の間に進展する変異株も効果的に標的にする治療薬が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の概要)
本発明者らは、それらの同族MHC複合体中に存在しているときに、HIVのvpr(viral protein R:ウィルスタンパク質R)タンパク質に由来するペプチドと結合するTCR分子を見出した。特に本発明者らは、得られたPCR分子が、コンセンサスvprペプチドエピトープとはなおも結合している一方で、vprペプチドエピトープの変異株と結合できるように、これらのTCR内に変異を行った。
特定の実施態様では、本発明者らは、vprのAL9コンセンサスエピトープ(AIIRILQQQL、アミノ酸59〜67)に向上した結合親和性で結合する一方、このエピトープの通常の変異体とも結合する突然変異体TCRsを作成した。
【0005】
従って、一態様では、本発明は、図1に記載の野生型TCRVα又はVβ配列内に少なくとも1つの突然変異を含有している、HIV−1 vpr由来のHIVエピトープと特異的に結合する単離されたT細胞受容体(TCR)を提供する。
一実施態様では、この突然変異は、TCRの生産性、安定性、特異的結合活性、或いは機能的な活性を増大する。
別の実施態様では、突然変異は、野生型のTCRと比較してTCR突然変異体の非特異的結合を減少する。
特定な実施態様では、TCRは単鎖TCR又はヘテロ二量体TCRである。
一実施態様では、TCRは1つ以上のTCR結合ドメインを含有している。
【0006】
一実施態様では、本発明のTCRsはvprのAL9ペプチド(AIIRILQQL)を認識する。
別の実施態様では、AL9ペプチドはHLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球抗原)−A2と関連して存在している。
【0007】
一実施態様では、TCRのTCRVα鎖のアミノ酸残基39に突然変異がある。
別の実施態様では、TCRVα鎖のアミノ酸残基93に突然変異がある。
特定の実施多様では、アミノ酸残基39の突然変異は、SerからProへである。
別の特定の実施多様では、アミノ酸残基93の突然変異は、TyrからHis、Leu、Lys,Gln、又はAlaへである。
【0008】
別の実施態様では、本発明のTCRsは1つ又はそれ以上のHIV−1vpr AL9ペプチド変異体と特異的に結合する。
一実施態様では、本発明のTCRsはHILA−A2に関連してAL9ペプチド変異体を結合する。
関連する実施態様では、AL9ペプチド変異体は、AL9ペプチド配列内に1つ又はそれ以上のアミノ酸変化を含有している。
【0009】
別の実施態様では、本発明のTCRsは、野生型TCRと比べて高温における優れた安定性を有している。
本発明の好ましい実施態様では、TCRは可溶性である。
【0010】
特定の実施態様では、本発明は、HIV−1 vpr由来のAL9ペプチドに特異的に結合する単離された単鎖のT細胞受容体(TCR)を提供する。
一実施態様では、scTCRはAL9エピトープを認識する。
一実施態様では、scTCRは、図1に記載の野生型配列と比較してVα鎖に1つ又はそれ以上の突然変異を有している。
【0011】
別の実施態様では、TCRは更に、機能的ポリペプチドドメイン、診断用/画像化試薬、薬剤含有ナノ粒子、治療薬、細胞毒性薬又は抗ウィルス剤を含有している。
典型的な実施態様では、機能的ポリペプチドドメインは、サイトカイン、免疫グロブリンドメイン、受容体ドメイン又はポリペプチドタグ配列を含有している。
別の典型的な実施態様では、サイトカインはIL−2、IL−15、GM−CSF、インターフェロンを含有し、免疫グロブリンドメインはIgG1定常領域又はIgFcドメイン、又はこれらの断片を含有している。
別の典型的な実施態様では、ポリペプチドタグはbirA配列を含有している。
【0012】
別の実施態様では、TCRは更に、TCRの細胞表面発現を可能にする膜貫通ドメインを含有している。
一実施態様では、TCRは更に、細胞質ドメインを含有していて、ここで細胞質ドメインはTCR突然変異体とHIVエピトープの間の相互作用に応答する細胞内シグナル伝達を許容する。
一実施態様では、TCRは、CD3、CD28、CD8、4−1BB、Ox−40、ICOS及び/又はLckタンパク質に由来する膜貫通及び/又は細胞質シグナル伝達ドメインを含有している。
或いは、TCRは、TCR膜貫通及び/又はTCR細胞質シグナル伝達ドメインを含有してもよい。
多種の可溶性及び膜結合性融合タンパク質が既に開示されている(Card et al. 2004 Cancer Immunol Immunother. 53:345; Mosquera et al. 2005 J. Immunol. 174:4781; Zhu X et al. 2006 J. Immunol. 176:3223; Belmont et al. 2006 Clin. Immunol. 121:29; Finney et al. 2004. J. Immunol. 172: 104; Brentjens et al. 2007 Clin Cancer Res. 13, 5426; Zhang et al. 2004. Cancer Gene Therapy 11, 487)。
【0013】
別の実施態様では、突然変異は更に、野生型のTCRと比較して、HIVエピトープ提示細胞を検出するTCRの活性を増大する。
別の実施態様では、突然変異は、野生型のTCRと比較して、HIVエピトープ提示細胞に対するTCRの細胞傷害機能活性を増大する。
【0014】
別の実施態様では、本発明は、本発明のTCRs、例えば図2に示されているようなものをコードする核酸分子を提供する。
一実施態様では、本発明は、本発明の核酸分子を含有している発現ベクターを提供する。
更に別の関連する実施態様では、本発明は、本発明の発現ベクターを含有している宿主細胞を提供する。
一実施態様では、宿主細胞は哺乳動物の宿主細胞、例えば、ヒトの細胞である。
【0015】
一態様では、本発明は、細胞を本発明のTCRと接触させること及びTCRが細胞と結合するか否かを確認すること(ここで、細胞と結合するTCRはHIV感染を示唆する)によって、HIVに感染している細胞を検出する方法を提供する。
【0016】
別の態様では、本発明は、細胞を本発明のTCRと接触させて、それによってHIVに感染している細胞を死滅することによって、HIVに感染している細胞を死滅する方法を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は、個体から生体サンプルを得ること、及び生体サンプルを本発明のTCRと接触させること(ここでTCRが生体サンプルと結合することは対象がHIVに感染していることを示唆する)によって、対象がHIVに感染しているか否かを確認する方法を提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、個体に本発明のTCR又は核酸、本発明のベクター、又は本発明の宿主細胞を投与し、それによって対象を治療することによる、HIVを有している対象を治療する方法を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、個体に本発明のTCR、本発明の核酸或いはベクター、又は本発明の宿主細胞を投与し、それによって対象におけるHIV感染を阻害することによる、対象におけるHIV感染を阻害する方法を提供する。
【0020】
関連する実施態様では、方法は更に、HIV感染の危険性が高い対象を同定することを含有している。
【0021】
別の態様では、本発明は、本発明のTCR及び薬学的に許容される担体を含有している医薬組成物を提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、本発明のTCR及び使用説明書を含有しているキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】図1Aは、AL9scTCR野生型タンパク質配列を示す(CDRsはイタリック体)。
【図1B】図1Bは、AL9scTCRの単一突然変異体(Y93H)タンパク質配列を示す。
【図1C】図1Cは、AL9scTCRの二重突然変異体(S39P、Y93H)タンパク質配列を示す。
【図2A】図2Aは、AL9scTCR野生型の核酸配列を示す(CDRsはイタリック体)。
【図2B】図2Bは、AL9scTCRの単一突然変異体の核酸配列を示す。
【図2C】図2Cは、AL9scTCRの二重突然変異体の核酸配列を示す。
【図3A】図3Aは、典型的なリーダー配列を示す。
【図3B】図3Bは、各種タンパク質ドメインを示す。
【図3C】図3Cは、各種リンカー配列を示す。
【図4A】図4Aは、リーダー核酸配列を表す。
【図4B】図4Bは、融合ドメイン核酸配列を表す。
【図5】図5は、HEK−293細胞内で産生したAL9scTCRのY93及びA97 CDR3 Vα突然変異の特性評価である。
【図6】図6は、CHO細胞内で産生したY93H AL9scTCR smの特性評価である。
【図7】図7は、CHO細胞内で産生したS39P AL9scTCRの特性評価である。
【図8】図8は、CHO細胞内で産生したAL9scTCR sm 及びdm の特性評価である。
【図9】図9は、精製したAL9scTCR sm 及びdm タンパク質の特性評価である。
【図10A】図10Aは、フローサイトメトリーによる、AL9負荷T2細胞に対するAL9scTCR wt 及び sm タンパク質の滴定を表す。
【図10B】図10Bは、AL9又はp53(対照)ペプチドで負荷されたT2細胞へのwt、sm 及び dm AL9scTCR多量体の結合を表す。
【図10C】図10Cは、AL9又はp53(対照)ペプチドで負荷されたT2又はB細胞へのwt、sm 及び dm AL9scTCR多量体の結合を表す。
【図10D】図10Dは、T2細胞上に負荷された非特異的ペプチドへの wt及びsm AL9scTCR多量体の結合が欠如していることを表す。
【図11】図11は、フローサイトメトリーによる競合結合分析を表す。
【図12】図12は、異なった量のAL9ペプチドで負荷されたT2細胞への wt 及びsm AL9scTCR単量体の結合を表す。
【図13】図13は、AL9ペプチド突然変異体で負荷されたT2細胞への wt 及びsm AL9scTCR多量体の結合を表す。
【図14A】図14Aは、最も頻繁に生じるvprAL9ペプチド変異体の公表されている分析を表す(Altfeld et al. 2005. J. Virol. 79: 5000)。
【図14B】図14Bは、AL9コンセンサスと比較した、AL9ペプチド変異体と融合する wt、sm 及びdm AL9scTCRの結合のフローサイトメトリー分析を表す。
【図14C】図14Cは、AL9 I63Mペプチド滴定を表す。
【図14D】図14Dは、AL9コンセンサスと比較した、AL9ペプチド変異体と融合する wt 及びsm AL9scTCRの相対結合の概要を表す。
【図15】図15は、HIVに感染したヒトCD4T細胞が示すAL9ペプチドへのwt 及びsm AL9scTCR多量体の結合を表す。
【図16A】図16Aは、DM AL9scTCR−Ig融合タンパク質がAL9及びAL9変異体と結合することを表す。
【図16B】図16Bは、DM AL9scTCR−Ig融合タンパク質がAL9 I63M変異体と結合することを表す。
【図16C】図16Cは、WT、SM 及び DM AL9scTCR−Ig融合タンパク質がAL9及びAL9変異体と結合することを表す。
【図17A】図17Aは、DM AL9scTCR−Ig融合タンパク質がAL9で負荷したT2細胞に対する細胞溶解活性を介在することを表す。
【図17B】図17Bは、DM及びSM AL9scTCR−Ig融合タンパク質がAL9で負荷したT2細胞に対する細胞溶解活性を介在することを表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(発明の詳細な説明)
本発明者らは、それらの同族HMC複合体中に存在しているときに、HIVのvprタンパク質に由来するペプチドと結合するTCR分子を見出した。特に本発明者らは、vprのAL9エピトープ(AIIRILQQQL、アミノ酸59〜67)に結合するTCRを同定した。更に、本発明者らは、ウィルスによる感染の経過の間にAL9エピトープ内に生じる多数の共通の変異体を認識するこれらTCRsの変異体を同定した。本明細書に開示されているデータは、診断及び治療的使用のためのHIV−1特異的TCRsの配列を明らかにする。
【0025】
現在、HIV−1感染細胞を直接標的とするための、組み換えHIV−1特異抗体が入手できる。抗体による手法の1つの欠点は、HIV−1ウィルスのエンベロープのみがHIV−1抗体にアクセス可能であるのに対して、機能的に最も重要なHIVタンパク質が感染した細胞内部に隠れていて、細胞内プロセシング後及びMHCクラスI又はII分子による提示後の免疫系のみにアクセス可能である。MHC分子によって提示されると、これらのHIV遺伝子産物はTCRsによって認識されるが、抗体によっては認識されない。従って、HIV−1抗体は、非常に限定されたHIV−1感染細胞のみを標的可能にしている。本明細書に記載されている組成物がこの問題の解決法をもたらす。
【0026】
HIV−1に特異的である可溶性TCRsは、既存の手法に優る有意な利点を有している。
【0027】
TCR配列は、HIV−1感染細胞を特異的に認識できる組み換え単鎖TCRの産生に有用である。これらの組み換えTCRは、(i)免疫治療である、細胞治療手法の遺伝子導入においてHIV−1感染細胞のインビボ標的のために、(ii)リンパ球又はプロフェッショナル抗原提示細胞でのHIV抗原発現のエクスビボ評価のために特に有用である。HIV−1抗原発現の定量分析は、HIV−1免疫病原性についての検討に重要であり、そして予防及び治療方法のエクスビボのスクリーニング/モニタリングに有用である。
【0028】
現在、HIV−1感染患者の治療は抗レトロウィルス剤の使用に基づいている。これらの薬剤は非常に有効であるが、しかし蓄積毒性を有しており、高用量ピルの負荷に関連していて、ウィルス耐性を引き起こしうる。従って、これらの患者に対する別の治療選択肢が継続して必要とされている。可溶性TCRsによる免疫療法の治療方法が、HIV−感染患者集団のための代替え治療選択肢を代表している。更に、TCRはHIV−1抗原発現のエクスビボ評価のために用いられる。
【0029】
本明細書に記載されているTCRsは、HIV感染の間に通常生じるvpr遺伝子の多くの変異体を認識して、既に同定されているTCRsと比較して、本発明の分子に対する効果の増強を可能にしている。
【0030】
本発明は、ウィルス感染の診断及び治療のための方法及び組成物を特徴としている。方法は、HIV−1に特異的なT細胞受容体の同定に基づいている。特に本発明は、HIV由来vprタンパク質のエピトープに特異的に結合するTCR分子を提供する。エピトープは、vprタンパク質中に見出される短い、8〜11merペプチドを含有しているか或いはこれから成っている。特に、vprエピトープはvprタンパク質のAIIRILQQL(アミノ酸59〜67)である。
【0031】
本発明のT細胞受容体はヘテロ多量体分子であってよく、或いは単鎖TCR分子であってもよい。scTCRsは、直接に或いは可動性リンカーを介してVβ/Cβドメインと結合しているVαドメインを含有している。本発明の特定分子は更に追加のポリペプチドを含有している。この追加ポリペプチドを含有しているある特定の実施態様では、Cβドメインが最後のシステインの直前で切断されている。
【0032】
本発明は、1つ又はそれ以上のアミノ酸置換を含んでいるエピトープの認識を可能にする、可変領域内に1つ又はそれ以上の突然変異を含有しているTCRを提供する。例えば、本発明は、vprタンパク質のコンセンサスAL9エピトープのみならず、AL9エピトープ内に1つ、2つ又は3つのアミノ酸置換を含んでいるエピトープにも結合するTCRsを提供する。
【0033】
典型的な実施態様では、本発明のTCRsは、vprタンパク質のアミノ酸番号60、61、62、又は63に対応する位置に突然変異を含有しているAL9エピトープを認識する。
典型的な実施態様では、TCRのVα鎖内の1つ又はそれ以上の突然変異は変異体vprの配列の認識を可能にする。
【0034】
診断方法
可溶性TCRsは、プロフェッショナル抗原提示細胞又はHIV感染細胞上の細胞傷害性T細胞エピトープの提示についてのHLAが介在する提示を分析するために用いられる。例えば、体液、例えば血液、体組織、例えばリンパ節のサンプルを対象から得る。サンプル由来の白血球を本明細書に記載されている単鎖TCRsと接触させる。感受性を増大するために、4つの単鎖TCR構築物を例えば、中央のストレプトアビジンと共に一緒に結合して四量体複合体を形成した。この構築物を検出可能なマーカーと結合する、例えば、これを蛍光性フルオロフォアで標識する。検出可能なマーカーは、フィコエリトリン(PE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITIC)、及びアロフィコシアニン(APC)のような蛍光色素を包含する。検出は、フローサイトメトリー及び/又は組織染色(蛍光顕微鏡検査法又は免疫組織化学)によって実施する。別の例では、複数のTCR構築物をマイクロアレイ、例えば、チップ又はプレートに固定して、患者由来のサンプルをこのアレイに接触させることが可能となり、アレイを洗浄して、結合した細胞を検出する。この方法では、抗原提示細胞又は患者のHIV感染細胞上で発現又は提示されるペプチドが測定される。従って、可溶性TCRは、HIV−1エピトープ提示のエクスビボ評価及び定量のための研究ツールとしても有用である。これらは、特定のHIV−1エピトープ、例えば、vprのAL9エピトープを発現する患者を同定するための有用なツールであり、従って、本明細書に記載されている免疫治療的介入についての有望な候補である。
【0035】
治療方法
HIVに感染している患者を治療するために、可溶性単鎖TCR構築物の1つ又は混合物を投与する。一実施態様では、本発明のTCRsは、抗体依存性細胞が介在する細胞傷害性(ADCC)を誘発する。ADCCはHIV感染に対する効果的な免疫応答をもたらす。これは、ヒトにおいて遅れて進行するHIV感染である、マカクのサル免疫不全ウィルス疾患からの防御、静脈内投与薬剤使用者のHIV感染からの保護、及び生殖器のHIVウィルス量の低減と関連付けられている。例えば、高親和性AL9scTCR IgのADCC様活性を介在する能力は、HIV感染細胞に対する、標的化、強力な、先天性免疫応答を刺激するために受動免疫治療法にこれらを用いることができることを明らかにする。
【0036】
別の実施態様では、TCRsは更に、機能的ポリペプチドドメイン、診断用/画像化試薬、薬剤含有ナノ粒子、治療薬、細胞毒性薬又は抗ウィルス剤のような、第2組成物を含有している。
典型的な実施態様では、機能的ポリペプチドドメインは、サイトカイン、免疫グロブリンドメイン、受容体ドメイン又はポリペプチドタグ配列を含有している。
典型的なサイトカインは、IL−2、IL−15、GM−CSF又はインターフェロンであり、そして典型的な免疫グロブリンドメインは、IgG1定常領域又はIG Fcドメイン或いはこれらの断片を含有している。
【0037】
このような構築物の1つの利点は、増大した半減期及びこれらの試薬の感染細胞への直接的な抗原特異的送達である。この治療的戦略は、総薬物用量、投与回数、及び治療に関連する副作用を減少する。
【0038】
別の実施態様では、本発明のTCRsをコードする核酸又は本発明のTCRsを発現する細胞を、HIV感染細胞を死滅するため、又はHIV感染を予防若しくは治療するための遺伝子導入又は細胞に基づいた方法に用いることができる。
一例では、本発明のTCRsをコードする遺伝子を、本発明のTCRsを直ちに細胞表面に発現するように免疫細胞へ導入できる。次いで、TCRがHLA−A2複合体中に提示されたHIV Vprペプチドと相互作用すると、これらの細胞は免疫機能を発現するように活性化される。これらの細胞は、エクスビボでHIV感染細胞を死滅するために又は、HIV感染している患者へ注入した後、患者のHIV感染細胞を死滅するために用いることができる。
或いは、本発明のTCRsをコードする核酸を直接患者に投与することによって、患者の免疫細胞へ遺伝子を導入して、インビボでこれらの細胞上に本発明のTCRsの発現を可能にすることができる。このような細胞はHIV感染に対する予防及び治療的活性をもたらす。
【0039】
本発明のTCRは、当業者に公知の方法によって送達することができる。例えば、静脈内、皮下、筋肉内、及び腹腔内送達経路のような、非経口投与をTCRsを送達するために用いることができる。例えば、可溶性TCR融合物は、0.015〜10mg/kgの用量でマウス及びヒトに静脈注射されている。患者用量の決定は当該技術分野で周知の方法を用いて行われる。
【0040】
本発明の組成物をHIV感染を予防又は治療するため、或いはHIV感染細胞の数を減少するために投与することができる。特定の状況に対する適切な用量及び投与計画は当該技術分野の技術範囲内である。治療用タンパク質の有効量は、約0.01mg/kg〜約150mg/kgが好ましい。有効用量は、当業者に認識されるように、治療的処置の特性(すなわち、生物学的な、核酸又は細胞に基づく)、投与経路、賦形剤の使用、及び、他の薬剤又は治療薬の使用を包含する他の治療処置の併用によって変化する。治療計画は、標準的な方法を用いて、ウィルス性の病原菌による感染を患っている(又は発症する危険性がある)哺乳動物、例えば、ヒト患者を同定することによって実施される。医薬化合物を、当該技術分野で公知の方法を用いて、このような個体に投与する。好ましくは、化合物を経口、直腸内、経鼻、局所、又は非経口、例えば、皮下、腹腔内、髄腔内、筋肉内、及び静脈内、投与する。
【0041】
野生型TCR配列と比べて突然変異又は置換を含有しているポリペプチドの場合には、変異位置が同類置換であることが好ましいが、必ずしもそうではない。一般に同類置換は、以下の群内の置換を包含する:グリシン及びアラニン;バリン、イソロイシン、及びロイシン;アスパラギン酸及びグルタミン酸;アスパラギン及びグルタミン;セリン及びスレオニン;リジン及びアルギニン;並びにフェニルアラニン及びチロシン。野生型TCR配列と比べてアミノ酸置換が行われているペプチドでは、得られるTCR分子は、1つ又はそれ以上のアミノ酸突然変異を含有している1つ又はそれ以上のHIVペプチドを認識する。特定の実施態様では、HIVタンパク質はvprである。野生型TCR配列と比べてアミノ酸置換が行われているペプチドでは、T細胞受容体のそのHLA拘束性エピトープへの結合親和性が増大している。或いは、置換を含んでいる構築物は高い安定性、例えば、培養培地又は、血液、血漿、或いは血清のような体液などの生理学的に許容される溶液における長い半減期を有している。例えば、このような誘導ペプチドの結合親和性及び/又は安定性は参照するペプチド配列のそれと比べて、少なくとも5%、10%、25%、50%、75%、90%、100%、2倍、5倍、10倍、20倍又はそれ以上である。
【実施例】
【0042】
当然のことながら、本発明は次に述べられる実施例に限定することを意図しておらず;むしろ、本明細書に提供されているありとあらゆる適用及び当業者の技術範囲内の全ての均等な変化を包含することを意図している。
【0043】
実施例1:特異的突然変異を有する単鎖TCR構築物の産生
HIVの14kD付属タンパク質である、HLA−A2Vpr由来のCTLsは、ウィルスの複製及び宿主の免疫応答の抑制に重要な役割を担っている。これはタンパク質の長さに対してCTLによって最も高い頻度で標的にされるタンパク質の1つである。vprに対するCD8+T細胞の応答が個体の45%に見出された(Altfeld et al. 2001, J. Immunol. 167: 2743)。HLA−A2.1拘束性Vprエピトープ AIIRIIQQL(アミノ酸59〜67)(AL9エピトープ)は、HLA−A2陽性個体のサブセットにおける一次感染において、CD8+T細胞に対する優れた初期標的を提示できる。それはこのエピトープ内の最も共通するカレント配列(コンセンサス配列)であって、急性感染(21%)及び慢性感染(24%)の個体で同様の頻度で標的になる(Altfeld et al. 2005. J. Virol. 79: 5000)。vpr発現細胞を標的とする治療は、HIV感染細胞の除去に有用かもしれない。しかしながら、Altfeld et alの文献 も感染の急性期にコンセンサス配列を含んでいるウィルスに感染している個体はエピトープ特異的T細胞応答を組み込むことが不可能であったことを示したが、I60L変異体に感染している対象は全てこれらの応答を生じた。AL9エピトープの変異体は高い頻度で生じて、ウィルスを除去するために設計された治療による標的とする必要がある。
【0044】
可溶性T細胞受容体は、治療分子を感染細胞に効果的に送達するために用いることができる。同系ペプチドMHCに対するTCRsの本質的に低い親和性(1〜100μM)には治療及び診断の適用に大きな限界がある。TCRとペプチド−MHCとの接触は、Vα CDR1、CDR2及びCDR3、並びに/又はVβ CDR1、CDR2及びCDR3を介して生じ、CDR3ドメインでペプチドと最も接触を生じる。これらの領域内の残基の突然変異がTCRの親和性を改善することを、幾つかの研究が示している。マウスの同種反応性TCRである、2C TCRの高い親和性変異体は、CDR3α突然変異体のライブラリーからの選択に続く酵母提示によって同定した。NY−ESO−1腫瘍関連抗原及びヒトT細胞リンパ向性ウィルス1型(HTLV−1)タックスペプチドに特異的なTCRsのCDR3領域の突然変異及びこれらのファージの表面への提示もTCR親和性を改善するために用いられている。
【0045】
本実施例はvprタンパク質(AL9エピトープ)のアミノ酸59〜67を認識する単鎖TCRの産生及び特性化を、本文中にHLA−A2を用いて、記載している。天然のTCRは、殆どのTCRの高い親和性範囲である、1.8μMのKでAL9コンセンサスペプチドと結合する。しかしながら、これは感染経過の間に通常生じることが知られている幾つかの変異体を、優れた親和性では認識しない。この制限を打破してその親和性を更に増大するために、CDR3αループ領域のチロシン(Y)のヒスチジン(H)への置換によってタンパク質の突然変異体を作成した。この突然変異体はコンセンサスAIIRILQQL配列とはるかに高い親和性で結合する一方で、高度のペプチド特異性を保持している。重要なことは、HIV感染の間に高頻度で生じることが知られている変異体エピトープが、野生型TCRよりはるかに高い親和性で新たに改善されているTCRに認識されることである。また、高親和性TCRの多量体形態はHIV−1に感染したCD4+T細胞と効率的に結合できる。AL9scTCRの野生型及び高親和性突然変異体をIg重鎖定常ドメインと融合してエフェクター機能を供給した。この融合タンパク質はペプチド特異的結合活性を保持し、二量体を形成し、そしてFc依存性細胞毒性による標的細胞死滅を介在できる。
【0046】
AL9ペプチド(アミノ酸59〜67:AIIRILQQL)/HLA−A2複合体に特異的なCTLsを既に記載されているようにして、HIV−1感染患者から単離して(Altfeld et al. 2005. J. Virol. 79: 5000)、TCRα及びβcDNAsを産生するための供給源として用いた。これらのCTLsから得られる最も高い頻度で生じるTCRα及びβ鎖のV領域は、それぞれ、既に記載されているような(USSN 11/784,277)、TRAV5/TRAVJ36及びTRBV14/TRABJ2−1であった。
【0047】
高親和性TCRsを産生するために、TCR CDR領域及び隣接アミノ酸残基を突然変異させて、得られたタンパク質をスクリーニングすることができる。HLA−A2/AL9特異的TCR(AL9 TCR)、Vα及びVβCDR配列を図1Aに、対応する核酸コード領域を図2Aに示した。この実施例のために、CDR3 Vα領域内の各アミノ酸を、20の天然アミノ酸が提供する主要な側鎖化学を示すために選ばれた、9個のアミノ酸のうちの1個と系統的に置換する、突然変異戦略を用いて、VαCDR3領域を突然変異した。以前の研究は、ペプチドMHC境界面の中央に存在する、CDR3αループのアミノ酸を突然変異させて高親和性TCRsを産生することが可能であることを示している(Holler et al. 2000 PNAS 10: 5837)。従って、CDR3Vαループの5つのアミノ酸(Y−Q−T−G−A)をコードするAL9TCRの遺伝子配列を主要側鎖化学を代表する9個のアミノ酸に変異させた。これらのアミノ酸はTCR Vα鎖のaa93〜97に位置していて、93位(tyr)の変化がHLA−A2/AL9複合体に対して改善された(高い)親和性を示した。
【0048】
単離されたVα遺伝子断片に、非コンセンサスセリンコドンが、第2フレームワーク領域のaa39位に見出された。このコドンをコンセンサスプロリンコドンに突然変異させてTCR生産性、安定性及び親和性について、この変化の効果を評価した。
【0049】
Vα遺伝子に異なった突然変異をコードする配列を挿入するために、CDR3α配列を部位特異的突然変異誘発法で改変して、固有の制限酵素部位(AgeI)を含有させた。この変化はコードするアミノ酸に変化をもたらさなかった。次いで、所望の配列変化をコードするオリゴヌクレオチドプライマーを用いる標準的なPCR方法によって、突然変異遺伝子、TCRVα遺伝子断片を産生した。次いで、これらの遺伝子断片をVα遺伝子内にクローン化して野生型配列を置き換えた。TCRα及びβ鎖を、可動性リンカーを介してVβ/Cβドメインに結合しているVαドメインから成る単鎖(sc)TCRフォーマット内にクローン化した(Card et al. 2004 Cancer Immunol Immunother. 53:345; Mosquera et al. 2005 J. Immunol. 174:4781; Zhu X et al. 2006 J. Immunol. 176:3223)。Cβドメインを最終システインの直前で切断した。
【0050】
scTCR−birA融合を作るために、scTCR遺伝子断片をbirAタグ配列をコードする配列の上流にクローン化した。birAタグは、ストレプトアビジンを用いるその後の多量体化のためのタンパク質の部位特異的ビオチン化を可能にする。scTCR IgG1融合を作成するために、scTCR遺伝子断片をヒトIgG1定常鎖領域をコードする配列の上流にクローン化した。同様に、scTCR遺伝子断片を適切なサイトカイン又はサイトカイン受容体遺伝子配列と結合することによって、scTCR−IL2、scTCR−INFα、scTCRーGMCSF、scTCR−IL15及びscTCR−IL15R融合を作成した。膜発現のために、scTCR遺伝子をHLA A2膜貫通ドメイン又はCD3zeta膜貫通ドメインをコードする上流配列にクローン化した。膜発現及び細胞内シグナル伝達のために、scTCR遺伝子をCD3zeta、CD28、cd8、4−1BB、Ox−40、ICOS及び/又はLckドメインにリンクさせることができる。或いは、TCRを、TCR膜貫通及び細胞質シグナル伝達ドメインを含有しているヘテロ二量体α/βTCRとして、細胞表面上に発現させることができる。
多種の可溶性で膜結合性の融合タンパク質が既に開示されている(Card et al. 2004 Cancer Immunol Immunother. 53:345; Mosquera et al. 2005 J. Immunol. 174:4781; Zhu X et al. 2006 J. Immunol. 176:3223; Belmont et al. 2006 Clin. Immunol. 121:29; Finney et al. 2004. J. Immunol. 172: 104; Brentjens et al. 2007 Clin Cancer Res. 13, 5426; Zhang et al. 2004. Cancer Gene Therapy 11, 487)。
最適な産生、溶解性、生物活性、タンパク質−タンパク質相互作用、多量体化、又は立体障害を避けるための個々のドメインの位置決めをもたらすために、scTCRと融合タンパク質ドメインの間及び/又は異なった融合タンパク質ドメインの間に更なるペプチドリンカーを配置することができる。
【0051】
可溶性又は細胞膜の発現を可能にするために、scTCR融合構築物を発現ベクターのリーダー配列の下流にクローン化した。ベクターは、適切な遺伝子発現を可能にするためにプロモーター/エンハンサー調節配列及びポリA配列、並びに発現ベクターを含有している宿主細胞の単離を可能にするための選択可能なマーカーをコードする遺伝子を含有している。
【0052】
AL9scTCR野生型(非変異)タンパク質配列(野生型又は「wt」と称する)を図1Aに示す。TCR Vα鎖の93位にTyrのHisへの変異を含有しているAL9scTCRタンパク質配列(単一変異又は「sm」と称する)を図1Bに示す。TCR Vα鎖の93位にTyrのHisへの変異及び39位にSerのProへの変異を含有しているAL9scTCRタンパク質配列(二重変異又は「dm」と称する)を図1Cに示す。対応するAL9scTCR wt、sm及びdmの核酸配列を図2A〜Cに示す。リーダー配列、各種可溶性融合タンパク質ドメイン及びリンカー配列についてのタンパク質配列を、図3A〜Cに、対応する核酸配列を図4A〜Cに示す。
【0053】
実施例2:タンパク質の産生及び精製
哺乳動物の細胞内で融合タンパク質を生成するために、HEK−294又はCHO細胞に、リポフェクトアミン2000を用いて、発現ベクターを形質導入した。G418(2mg/ml)を含有している培地中で、限界希釈クローニングによって単一細胞クローンを選択した。
【0054】
AL9scTCR−birAの野生型及び変異体融合タンパク質を細胞培養上澄液から、Sepharose 4 Fast Flow カラム(American Bioscience)に結合させた、抗ヒトTCR抗体CβmAb(BF1)8A3.31を用いて、免疫親和性クロマトグラフィーで精製した。精製した融合タンパク質を、製造会社の説明書に従って、過剰なビオチンの存在下でビオチン−タンパク質リガーゼ(Avidity)でビオチニル化して、AL9sm/briA単量体を作成した。ビオチニル化AL9scTCR−birAタンパク質をR−PE共役ストレプトアビジン(Jackson Immunoresearch)を用いて、TCR/ストレプトアビジンのモル比4:1で、4℃で少なくとも60分かけて、多量体化した。
【0055】
精製したAL9scTCR−birAの野生型及び変異体融合タンパク質をSDS−PAGEで分析してCoomassie G−250で染色した。タンパク質の還元及び非還元条件下でのSDSゲル分析は、タンパク質が単量体で、ほぼ52kDの分子量を有していることを示した。これは分子量の計算値44.3kDより大きく、これらのタンパク質がグリコシル化されていることを示唆している。
【0056】
AL9scTCR−birA融合タンパク質をビオチン タンパク質リガーゼを用いてビオチニル化した。野生型及び突然変異体タンパク質がビオチニル化された効率を、捕捉のためにBFI抗体を、そして検出のためにSA−HRPを用いて、ELISAで比較した。その結果は両方のタンパク質が同程度ビオチニル化されたことを示した。
【0057】
AL9scTCR−IgG1融合はヒトIgG1鎖の定常ドメインに直接結合しているTCRsから成っている。IgGヒンジ領域のシステイン残基は、無傷の二量体形成を可能にして、これはタンパク質を非還元SDS−PAGEで分析すると観察される。
【0058】
実施例3:ELISAによるAL9scTCR突然変異体融合タンパク質の濃度及びペプチド−HMC結合活性の特性化
短期間細胞培養で産生されたAL9scTCR野生型及び突然変異体融合体を、TCRタンパク質濃度及びペプチドHMC四量体への結合活性についてELISAで評価した。これらのアッセイでは、96ウェルの Maxisorb プレート(Nunc, Rochester, N.Y.)をBF1 mAb((1μg/ml)でコーティングした。融合タンパク質を含有している細胞培養上澄液を閉鎖プレートに添加して室温で2時間培養した。洗浄した後、結合活性について、AL9ペプチド−HLA−A2四量体−HRP(0.5μg/ml)を用いて、又はTCRタンパク質濃度についてビオチニル化抗−ヒトTCR Cβ抗体mAb W4F(0.5μg/ml)次いでストレプトアビジン−HRP(0.5μg/ml)を用いて、タンパク質を検出した。次いで、ABTS基質を加えて、96ウェルプレートリーダー(Bio-Tek Instrument)を用いて405nmで吸光度を測定した。
【0059】
TCR Vα鎖の93及び97位における多種の突然変異を図5に示すようにこれらのアッセイで特性化した。93位における突然変異の大多数は、短期間細胞培養で、高い発現レベル及び/又は増大したタンパク質安定性を示す、タンパク質を高い濃度でもたらした。更に、突然変異の幾つかは、増大した結合活性を示す、AL9ペプチド−HLA−A2の四量体への結合の増大ももたらした。これに対して、97位(図5)又はCDR3α或いはCDR3β領域の何れかの別の位置における変化は、結合活性を改善できなかった。結合活性をタンパク質濃度について正規化すると、Y93のL、K、Q又はHへの突然変異は、AL9scTCRwtタンパク質と比べて、有意に高いレベルのAL9−HLA−A2結合活性を示した。CDR3αループにおけるY93のHへの置換は野生型TCRに比べてもっとも優れた親和性を有するTCRをもたらしていて、これをさらに特性化した。以前の研究は、AL9scTCRwtタンパク質は、温度に対して感受性があり、37℃の細胞培養条件で生産した後に、培地中にタンパク質を高濃度で観察できなかったことを示した。形質転換したCHO細胞によって産生されたsm(Y93H)及びwtAL9scTCRタンパク質の濃度を室温又は37℃に保持した短期間培養において試験した。図6に示すように、smAL9scTCRは、37℃のCHO培養において、wtAL9scTCRタンパク質よりはるかに高い濃度の発現タンパク質を表示し、改善された産出量及び/又はタンパク質安定性を示した。再度、smAL9scTCRsmは、AL9scTCRwtタンパク質よりも、AL9−HLA−A2複合体へのより良い結合を示して、タンパク質濃度について正規化すると、室温又は37℃の何れかで産生したY93H AL9scTCRsmタンパク質はwtタンパク質より高い結合活性を示した。
【0060】
同様の方法を、TCR Vα鎖におけるS39P突然変異の特性化に用いた。図7に示すように、短期間培養で形質転換CHO細胞によって発現されたAL9scTCR S39Pは、AL9scTCRwtタンパク質よりも、AL9−HLA−A2複合体への増大した結合活性を示した。S39P及びY93H突然変異を単一のAL9scTCRに組み合わせると、得られた二重突然変異体は、単一突然変異体又はwtAL9scTCRタンパク質よりも、優れた生産性、37℃における安定性、及びAL9−HLA−A2複合体への結合活性を示した(図8)。CHO上澄液からBF1 mAb親和性クロマトグラフィーで精製したタンパク質に同様な結果が観察された。AL9scTCRsm及びdm構築物の両方が、AL9scTCRwtタンパク質よりも、優れた37℃における安定性及びAL9−HLA−A2複合体への増大した結合活性を示した(図9)。
【0061】
実施例4:フローサイトメトリーによるAL9scTCR突然変異体融合タンパク質の特性化
AL9scTCRwtと突然変異体の融合タンパク質の、AL9ペプチド負荷HLA−A2陽性抗原提示細胞(T2細胞)への機能結合をフローサイトメトリーで測定した。T2細胞に50μMのコンセンサスAL9ペプチドを、37℃で3時間負荷した。SA−PEの添加によって多量体化してあるビオチニル化AL9scTCR−birAタンパク質を、1〜0.001μgの異なった濃度で、4℃で30分間加えた。洗浄工程に続いて、CellQuest ソフトウェア(BD Biosciences)を用いて、サンプルをFACSスキャンフローサイトメトリーで分析した。図10Aに示すように、smAL9scTCR−birA多量体は、TCR濃度が<0.5μg/試験のときに、wtAL9scTCR−birA多量体より2〜3倍高い、AL9ペプチド負荷細胞への結合活性を示した。
【0062】
wt及びsmAL9scTCR−birA融合体の単量体形態も、同じ実験で、標的細胞の表面上のペプチド−MHCを検出するために用いた。T2細胞に、上記のように、50μMのAL9ペプチドを負荷した。AL9wt及びAL9smTCRのビオチニル化形態は、1〜0.001μg範囲の多量体形態と等モル量を加えた。洗浄工程に続いて、結合した単量体をSA−PEで検出した。0.5〜1μgにおいて、野生型単量体に比べて2〜3倍高いAL9scTCRsmモノマーの結合があった。この相違は、0.25〜0.06μg濃度で4〜8倍に、そして0.03〜0.001μg濃度で20〜30倍に増加した。野生型及びsmAL9scTCRの間のこの相違は、scTCRの単量体形態を用いたときに特に明白であった(図10A)。野生型又は突然変異TCR単量体若しくは四量体の何れかのパルス処理していない細胞への結合は、高い濃度であってさえも、殆ど又は全くなかった。dmAL9scTCR−briA融合体で行った同様な検討も、このタンパク質がwtAL9scTCRと比べてAL9ペプチド負荷T2細胞への増大した結合活性を示した(図10B)。また、sm及びdmAL9scTCR−briA融合体の両方は、HLA−A2+B細胞によって提示されるAL9ペプチドに結合できる(図10C)。これらの試験で、264scTCR及びp53aa264〜272ペプチドを陰性対照試薬として用い、TCR及びペプチド特異性を評価して、期待された特異性を観察した。これらのデータは共に、AL9scTCRsが3ドメイン単鎖形態において生物学的機能性であること、及びAL9scTCRsm及びdm融合体が、AL9ペプチド負荷細胞に、野生型AL9scTCRと比べてより高い親和性で、特異的に結合することを裏付けている。
【0063】
野生型又はsmAL9scTCR−briAタンパク質と同族ペプチド−MHCとの間の特異的相互作用を、無関連の対照ペプチドのパネルへのそれらの結合を分析して確認した。T2細胞は、コンセンサスAL9ペプチド又はHIV−1gag(77〜85)、pol(464〜472)、CMV、HCVコア、HBVenv、p53(264〜272)、MART−1由来のペプチドで負荷するか、或いはパルス処理しないでおく。次いで、ビオチニル化野生型AL9scTCR、smAL9scTCR又は対照のMART1scTCRを加え、続いてストレプトアビジン−PEと培養した。野生型又はsmAL9scTCRsの何れかの、無関連なペプチドの何れかへの結合は観察されなかった(図10D)。従って、smAL9scTCRのより高い親和性は、そのペプチド結合特異性を損なわない。
【0064】
AL9ペプチド負荷T2細胞に結合するために互いに競合する野生型又はsmAL9scTCR−birA融合タンパク質の能力を分析した。ビオチニル化野生型又はsmAL9scTCRの結合を2〜100倍過剰の非ビオチニル化競合体の存在下又は非存在下で測定した。図11に示すように、高親和性単一突然変異体は野生型AL9scTCRと、2倍過剰であっても非常に効果的に競合した。5〜10倍過剰のより高い濃度では、わずかに優れていただけで、wtAL9scTCRの25倍過剰の突然変異体との結合は殆ど完全に破棄された。対照的に、野生型AL9scTCRはsmAL9scTCRと効果的に競合しなかった。10倍過剰又はそれ以下の野生型では殆ど又は全く阻害されなかった、25〜100倍過剰では、いくらかの阻害が観察されたが、それは大して大きな影響を与えなかった。従って、野生型AL9scTCRは、たとえ高濃度であってもsmAL9scTCRの結合を効果的に阻止できないが、突然変異体は、たとえ2倍の過剰であってもwtAL9scTCRの非常に優れた競合体である。これらのデータは、smAL9scTCRがAL9−HLA−A2複合体への高い結合活性を有していて、wtAL9TCRの結合を阻害できるという結論を裏付けている。
【0065】
wtとsmAL9scTCR−birA融合体の感受性を細胞表面上の各種量のペプチドを検出するそれらの能力を比較して評価した。T2細胞を12nM〜100μM範囲の濃度のAL9ペプチドで負荷した。次いで、0.5μgの単量体wt又はsmAL9scTCR−birAを加えて、フローサイトメトリーで結合を評価した。細胞1個に結合したPE分子の数を評価するために、ペプチドの各種濃度で得た平均蛍光強度を、ビーズ当たりのPE量が公知である、PE結合検定ビーズの標準曲線と比較した。図12に示すように、試験した全てのペプチド濃度で、AL9ペプチドで負荷したT2細胞を検出するsmAL9scTCRの能力はwtAL9scTCRと比べて有意に増大している。smAL9scTCRは、わずか12nMのAL9ペプチドでT2負荷細胞を染色できたのに対して、野生型TCRは、T2細胞表面の195nMペプチドを検出しただけであった。同様な結果が、dmAL9scTCR融合体で観察された。
【0066】
実施例5:AL9ペプチド変異体に結合しているAL9scTCR突然変異体融合タンパク質の特性化
TCR−ペプチド/HLA−A2複合体の結晶構造は、9−merペプチドの中間にあるアミノ酸がTCRのCDR3領域と接触していることを示唆している。野生型及び突然変異TCRs結合にどのペプチドアミノ酸が重要であるかを確認するために、AL9ペプチド(aa59〜67:AIIRILQQL)の60、62、64、65、66及び67位にアラニン置換を行った。HLA−A2複合体へのこれらの変異体の相対結合(IC50)を既に記載されているように(Altfeld et al. 2005. J. Virol. 79: 5000)、競合分析によって評価して、それぞれのペプチドについて図13に示す。これらのペプチドをT2細胞に負荷して、上記のように細胞をwt及びsmAL9scTCE−birA多量体で染色した。フローサイトメトリー分析を実行して、wt及びsmAL9scTCR多量対のコンセンサスペプチド及び変異ペプチド負荷細胞に対する相対的結合親和性を評価した。264scTCRを対照試薬とした。
【0067】
結果は、60、65、66及び67位におけるアミノ酸の置換はwt及びsmAL9scTCRの間の結合に何れも重要な変化をもたらさなかった(図13)。しかしながら。64位におけるLeuのAlaへの置換は野生型の結合を有意に減少したが、smAL9scTCRの結合を減少しなかった。このことは、64位は天然TCRに対して重要な接点であるが、親和性の高い突然変異体には重要ではないことを示唆している。
【0068】
62位におけるArgのAlaへの置換は、不溶性ペプチドをもたらしたのに対して、この位置のGlu置換体は可溶性だった。この置換は、単量体及び四量体形態の両方において、wt及びsmAL9scTCR多量体の両方の結合を完全に無効にして、野生型及び突然変異体両方のTCRペプチド相互作用に対して重要な接点であることを示唆した。
【0069】
HIVにおけるAL9エピトープの種々の天然変異体は、 Los Alamos データベース(http://www.hiv.lanl.gov)で報告されている。最も頻繁に生じる変異体の分析は、60位におけるイソロイシンのロイシン変異体への、及び61及び63位におけるスレオニン及びメチオニン置換を示している(図14A、Altfeld et al. 2005. J. Virol. 79: 5000)。これら及びその他の変異体に対応するペプチドを合成して、変異体ペプチドで負荷した細胞への野生型、sm又はdmAL9scTCRの結合を、図14Bに示した一連の試験においてフローサイトメトリーで比較した。上記のように、T2細胞をAL9コンセンサス又は変異ペプチド(それぞれ50μM)で3時間37℃で負荷して、PEで標識したwt、sm又はdmAL9scTCR多量体で染色した。
【0070】
wtAL9scTCR多量体は63位においてThr及びMet置換を有しているAL9変異体への結合の減少を示した。一方、sm及びdmAL9scTCR多量体はこれらの変異体への優れた結合を示した。AL9ペプチドにおける60及び61位の置換は、wt又はsmAL9scTCRの何れの結合にも影響を与えなかった。図14Cに示すように、50μM〜0nm濃度でのI63Mペプチドの滴定では、smAL9scTCRがこの変異体を確認できるが、野生型TCR四量体はできないことを確認した。
【0071】
62位におけるGluへの置換が野生型及び突然変異体AL9scTCR両方の結合を無効にすることを示したので、ArgをLysで置換することがこれらのTCRの結合にどのような効果をもたらすかを確認することに関心を持った。この置換はデータべース中にHIVの天然変異体として報告されている。62位におけるLys置換は、野生型の結合を減少するが、高親和性smAL9scTCR多量体の結合は減少しない(図14B)。
【0072】
従って、sm及びdmAL9scTCRsがAL9コンセンサスペプチドに高い親和性で結合するばかりではなく、これらのタンパク質は62、63及び64位における変異体も野生型AL9TCRよりずっと強く認識する(図14B)。図14Dは、wt及びsmAL9scTCR多量体の、AL9コンセンサスペプチドと比較した、一般的なAL9エピトープ変異体への相対的結合活性の要約を示している。smAL9scTCRは、コンセンサスペプチドについて観察したものと比べて>70%でこれらの変異体への結合活性を保持していて、この突然変異TCR融合タンパク質はこれらの変異エピトープを提示しているHIV感染細胞を認識できるはずだということを示している。
【0073】
実施例6:AL9scTCR融合タンパク質によるHIV感染ヒトT細胞上のAL9抗原提示の検出
上で示した結果は、wt及び突然変異体AL9scTCRタンパク質がAL9ペプチド−HLA−A2複合体及びHLA−A2+細胞上に提示された内因的に付加されたAL9ペプチドに結合可能でであったことを明らかにしている。しかしながら、HIV感染細胞を標的にするためには、TCR融合タンパク質は、内部発現されたHIVvprタンパク質への抗原提示経路を介して生成される細胞表面上に提示されたAL9を検出するのに十分感受性で特異的でなければならない。これを試験するために、HLA−A0201ドナーからCD4+T細胞を磁性ビーズ(Miltenyi Biotech)によって単離して、既に記載されているようにして(Migueles et al. 2002 Nat Immunol 3: 1061)、抗CD3(OKT3;Coulter)、抗CD28(PharMingen)及びIL−2を含有している培地で刺激した。3日目に、5×10個の細胞を200μlの培地中、37℃で1時間、5,000TCID50のHIVSF162で感染させて、次いで24ウェルプレート中10細胞/mlで培養液中で更に6日間保持した。6日目に、磁性ビーズを用いてCD8+細胞を枯渇させた。感染した細胞のパーセントを、Kc57−FITC又はKc57−RD1(Coulter)でp24について細胞内染色して記録した。次いで感染した細胞をwt及びsmAL9scTCR多量体及び抗−CD4mAb−APCで染色した。HIV感染はCD4の細胞表面発現の下方制御をもたらした。従って、AL9ペプチドの提示を、低レベルのCD4染色した感染細胞中で評価できる。図15に示すように、wt及びsmAL9scTCR−birA多量体はHIV感染T細胞によって提示されるAL9ペプチドを検出可能であった。感染細胞を非感染細胞と比較すると、wtAL9scTCR陽性染色細胞のパーセントに15倍の増大が、そしてsmAL9scTCR陽性染色細胞のパーセントに27倍の増大が見られた。また、下方制御されたCD4を有する細胞に増大したAL9scTCR染色が観察された。この研究において、smAL9scTCR−birA多量体はwtAL9scTCR−briA多量体より約2倍多いHIV感染細胞を検出して、TCR突然変異体のAL9ペプチドへの増大した結合活性と一致した。
【0074】
実施例7:AL9ペプチド及びペプチド変異体に結合しているAL9scTCR−Ig融合タンパク質の特性化
上で示したように、AL9scTCR−Ig融合タンパク質を産生して精製した。AL9負荷T2細胞を用いて、dmAL9scTCR−Ig融合体の結合活性を、wt及びsmAL9scTCR−birA融合体と比較した。このアッセイにおいて、TCR結合をビオチニル化BF1mAbを用い、続いてSA−PEで検出した。図16Aに示すように、dmAL9scTCR−Ig融合タンパク質はAL9コンセンサスペプチド又はAL9I63M変異体の何れかで負荷したT2細胞への優れた結合を示した。実際、二量体dmAL9scTCR−Igは、単量体smAL9scTCR−birA融合体より優れたAL9I63M変異体への結合を示した。dm及びsmAL9scTCR−Ig融合体の結合活性を、AL9コンセンサス及びAL9I63M変異体で負荷したT2細胞を用いて、wtAL9scTCR−briA多量体及びwtAL9scTCR−Ig融合体と比較した(図16B〜C)。これらの試験は、dm及びsmAL9scTCR−Ig融合体がwtAL9scTCRタンパク質よりもAL9及びAL9変異体へのより優れた結合を示すことを立証した。興味深いことに、dmAL9scTCR−Ig融合タンパク質は、wt又はsmAL9scTCR−Ig融合体の何れより、非パルス処理T2細胞へのより低いバックグラウンド結合を示す(図16C)。wt又はsmAL9scTCR−Ig融合体のより高いバックグラウンド染色はT2細胞上の受容体へのIg Fcドメインの結合によるものと思われる。dm及びsmAL9scTCRタンパク質の間のバックグラウンド結合の差異は、briA融合体多量体形態を用いては観察されず、Ig形態の二重突然変異体中のTCRα FR2突然変異が、低い非特異結合活性をもたらすことを示唆している。この効果は特異的生物活性を標的とするために有利である。
【0075】
実施例8:AL9scTCR−Ig融合タンパク質はAL9ペプチド特異性の細胞毒性を介在する
AL9負荷標的細胞に対するFc依存性細胞傷害性を誘導する、wt、dm及びsmAL9scTCR−Ig融合体の能力を試験した。これらのアッセイでは、AL9scTCR−Ig融合体はFC受容体を含む免疫エフェクター細胞とペプチド−MHC提示標的細胞を接合して、エフェクター細胞はADCC様メカニズムを径由して標的細胞溶解を介在する。本実施例において免疫エフェクター細胞として働く、ヒトPBMCsをヒト血液軟膜からHistoPague(Sigma-Aldrich)を介する勾配遠心分離によって単離した。50μg/mlのペプチドで37℃、2時間パルスしたT2細胞を標的細胞として用いた。標的細胞を50μg/mlの Calcein−AM で37℃、1時間標識化し、2回洗浄して、RPMI−10培地中2000/ウェルで、96−U−プレート中に添加した。dm、sm及びwtAL9scTCR−Igを異なった濃度でウェルに添加した。次いで、エフェクター細胞を添加して(100:1、E:T比)、培養物を37℃で2時間培養した。細胞溶解によって上澄液に放出されたCalceinの蛍光強度(FI)を蛍光プレートリーダーで測定した(励起波長=485nm、放射波長=538nm、カットオフ=530nm)。次の式を用いて特異的細胞毒性を算出した:細胞毒性のパーセント=(試験サンプルのFI−培地を伴う標的細胞のFI)÷(0.04%のトリトンX−100で処理した標的細胞のFI−培地を伴う標的細胞のFI)×100。
【0076】
図17Aに示すように、dmAL9scTCR−Ig融合タンパク質はAL9ペプチドでパルス処理したT2細胞に対するヒトPBMC細胞溶解活性を誘導したが、P53264−272ペプチドでパルス処理したT2細胞に対しては誘導しなかった。対照の264scTCR−Ig融合タンパク質はAL9負荷T2細胞に対して同じ効果を示さず、このアッセイの特異性を明らかにした。同様な結果がPBMCの異なった調製物で認められた。図17Bは、AL9負荷T2細胞に対するdm、sm及びwtAL9scTCR−Ig融合タンパク質の活性を比較している更なる細胞毒性アッセイを示す。この結果は、dm及びsmAL9scTCR−Ig融合体がAL9負荷細胞に対するADCC様活性の介在に有効であったのに対して、wtAL9scTCR−Ig融合体は有効ではなかったことを示した。これらの結果は、AL9scTCR突然変異体が、wtAL9TCRでは観察されなかった、HIV AL9エピトープを提示する細胞に対して増大した細胞溶解性生物活性をもたらすことを示す。
【0077】
同様に、HIV感染細胞に対する免疫エフェクター細胞の細胞溶解活性を誘導する突然変異AL9scTCR−Ig融合タンパク質の能力を評価する。HIV感染細胞は実施例6に記載されているようにして作成して、上記のようなCalcein放出アッセイに標的細胞として用いられる。培養培地中に突然変異AL9scTCR−Ig融合体が存在することによるHIV感染細胞の溶解における特異的な増大は、突然変異AL9scTCR−Ig融合体がHIV感染細胞に対する免疫細胞溶解活性を誘導する橋渡し分子として作用できることを明らかにするだろう。
【0078】
実施例9:突然変異AL9scTCR融合タンパク質はAL9/HLA−A2複合体に対して増大した親和性を示す。
AL9scTCR融合タンパク質:AL9/HLA−A2複合体相互作用の結合親和性パラメーターを表面プラズモン共鳴法で測定した。ビオチニル化AL9又はI63MpMHC複合体、又は無関連な対照であるpMHC複合体をストレプトアビジンセンサーチップの表面に結合した。可溶性TCR−birAタンパク質を関連細胞に影響を及ぼさないようにして、タンパク質−タンパク質相互作用を測定する応答を、BIAcore 技術を用いてリアルタイムで記録した。結合パラメータをBIAevaluation ソフトウエアを用いて評価した。AL9scTCR−birA融合タンパク質に関するこれらの分析の結果を表1に示し、そしてAL9scTCR−Ig融合タンパク質に関して表2に示す。これらの結果は、briA又はIg融合体としてsmAL9scTCRタンパク質がAL9/HLA−A2及びI63M AL9/HLA−A2複合体への結合親和性を増大することを明確に示している。また、二量体smAL9scTCR−Ig融合体は、それらの増大した親和性(avidity)に基づいて、単量体smAL9scTCR−birA分子よりもAL9/HLA−A2複合体へのより優れた結合を示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
実施例10:遺伝子導入及びHIV感染細胞を死滅するための突然変異AL9TCRsを用いる細胞に基づく手法
本発明のTCRsはHIV感染細胞を死滅するため又はHIV感染を予防又は治療するための遺伝子治療又は細胞に基づく治療手法において使用することができる。例えば、突然変異AL9 TCR並びに膜貫通及び細胞質シグナル伝達ドメインをコードするTCR遺伝子を、免疫細胞が直ちに細胞表面に高親和性AL9 TCRを発現するように、免疫細胞に導入される。これらの細胞は、AL9 TCRがHLA−A2複合体中に提示されるHIV vprペプチドと相互作用すると、免疫機能を発現するように活性化される。これらの細胞はエクスビボでHIV感染細胞を死滅することに用いられるか、又はHIV感染患者内に注入して、続いて患者においてHIV感染細胞を死滅することに用いられる。或いは、適切なベクター中のTCR遺伝子を直接患者に投与し、それによって遺伝子を患者の免疫細胞に導入して、インビボでこれらの細胞の表面に高親和性AL9 TCRを発現できるようにする。これらの細胞はHIV感染に対する予防又は治療活性をもたらすことができる。
【0082】
ある特定の例では、ヒトPBMCは、HIV感染患者から単離される。突然変異AL9 TCR、並びに膜貫通及び細胞質シグナル伝達ドメインをコードするTCR遺伝子はこれらの細胞にエクスビボで導入されて、細胞表面にTCRsの発現を可能にする。免疫細胞は患者に再導入され、そこでこれらはHIV感染細胞に対するエフェクター機能を介在する。HIV感染細胞に対する免疫細胞の細胞毒性活性も上記のcalcein放出アッセイを用いてインビトロで試験できる。
【0083】
参照による取り込み
本願を通して引用される全ての引例、特許、係属中の特許出願及び公開特許は参照により本明細書に明確に取り込まれている。
【0084】
均等物
当業者は、本明細書に記載されている本発明の特定の実施態様との多くの均等物を認識されるだろう、又は通常の実験程度を用いて確認できるだろう。そのような均等物は以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【図1A−1】

【図1A−2】

【図1B−1】

【図1B−2】

【図1C−1】

【図1C−2】

【図2A−1】

【図2A−2】

【図2A−3】

【図2A−4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
図1に記載の野生型TCR Vα又はVβ配列において少なくとも1つの突然変異を含有してなる、HIV−1vpr由来HIVエピトープに特異的に結合する単離されたT細胞受容体(TCR)。
【請求項2】
突然変異が、TCRの生産性、安定性、特異的結合活性、又は機能活性を増大する、請求項1に記載の単離されたTCR。
【請求項3】
突然変異が、野生型TCRと比較して、TCRの非特異的結合を減少する、請求項1に記載の単離されたTCR。
【請求項4】
TCRが単鎖TCRである、請求項1〜3の何れか一項に記載のTCR。
【請求項5】
TCRがヘテロ二量体TCRである、請求項1〜3の何れか一項に記載のTCR。
【請求項6】
TCRが1つ以上のTCR結合ドメインを含有している、請求項1〜3の何れか一項に記載のTCR。
【請求項7】
エピトープがAL9ペプチド(AIIRILQQL)である、請求項1に記載のTCR。
【請求項8】
AL9ペプチドがHLA−A2と関連して提示される、請求項7に記載のTCR。
【請求項9】
突然変異がTCR Vα鎖のアミノ酸残基39に存在する、請求項1〜8の何れか一項に記載のTCR。
【請求項10】
突然変異がTCR Vα鎖のアミノ酸残基93に存在する、請求項1〜9の何れか一項に記載のTCR。
【請求項11】
アミノ酸残基39にある突然変異が、SerをProへである、請求項9に記載のTCR。
【請求項12】
アミノ酸残基93にある突然変異が、TyrをHis、Leu、Lys、Gln、又はAlaへである、請求項10に記載のTCR。
【請求項13】
TCRが更に、HIV−1 vpr AL9ペプチド変異体へ特異的結合を示す、請求項1〜12の何れか一項に記載のTCR。
【請求項14】
AL9ペプチド変異体がHLA−A2に関連して提示される、請求項13に記載のTCR。
【請求項15】
AL9ペプチド変異体が、AL9ペプチド配列内に1つ又はそれ以上のアミノ酸変化を含有している、請求項13に記載のTCR。
【請求項16】
TCRが、高温で野生型TCRより優れた安定性を有している、請求項1に記載のTCR。
【請求項17】
TCRが可溶性である、請求項1〜16の何れか一項に記載のTCR。
【請求項18】
HIV−1 vpr由来AL9ペプチドに特異的に結合する単離された単鎖T細胞受容体(TCR)。
【請求項19】
TCRが更に、機能的ポリペプチドドメイン、診断用/画像化試薬、薬剤含有ナノ粒子、治療薬、細胞毒性薬又は抗ウィルス薬との融合を含有している、請求項1〜18の何れか一項に記載のTCR。
【請求項20】
機能的ポリペプチドドメインが、サイトカイン、免疫グロブリンドメイン、受容体ドメイン又はポリペプチドタグ配列を含有している、請求項19に記載のTCR。
【請求項21】
サイトカインが、IL−2、IL−15、GM−CSF、又はインターフェロンを含有していて、免疫グロブリンドメインが、IgG1定常領域、又はIg Fcドメイン、或いはこれらの断片を含有している、請求項20に記載のTCR。
【請求項22】
ポリペプチドタグがbirA配列を含有している、請求項20に記載のTCR。
【請求項23】
TCRが更に、TCRの細胞表面発現を可能にする膜貫通ドメインを含有している、請求項1〜22の何れか一項に記載のTCR。
【請求項24】
TCRが更に、細胞質ドメイン(ここで、細胞質ドメインがTCRとHIVエピトープの間の相互作用に応答する細胞内シグナル伝達を許容する)を含有している、請求項23に記載のTCR。
【請求項25】
突然変異が更に、野生型TCRと比較して、HIVエピトープを提示する細胞を検出するTCRの活性を増大する、請求項1〜24の何れか一項に記載のTCR。
【請求項26】
突然変異が更に、野生型TCRと比較して、HIVエピトープを提示する細胞に対するTCRの細胞傷害性機能活性を増大する、請求項1〜25の何れか一項に記載のTCR。
【請求項27】
請求項1〜26の何れか一項に記載のTCRをコードする核酸分子。
【請求項28】
図2に記載されている核酸配列を含有してなる、核酸分子。
【請求項29】
請求項27又は28の何れか一項に記載の核酸分子を含有してなる、発現ベクター。
【請求項30】
請求項29に記載の発現ベクターを含有してなる、宿主細胞。
【請求項31】
宿主細胞が哺乳動物の宿主細胞である、請求項30に記載の宿主細胞。
【請求項32】
哺乳動物の細胞がヒトの細胞である、請求項31に記載の宿主細胞。
【請求項33】
ヒトの細胞が末梢血単核細胞(PBMC)である、請求項32に記載の宿主細胞。
【請求項34】
宿主細胞が、細胞表面に請求項1〜26の何れか一項に記載のTCRを発現する、請求項30〜33の何れか一項に記載の宿主細胞。
【請求項35】
細胞を請求項1〜26の何れか一項に記載のTCR又は請求項30〜34の何れか一項に記載の宿主細胞と接触させること;及び
TCRが細胞と結合するか否かを確認すること(ここにおいて、細胞と結合するTCRがHIV感染を示す):
を含有してなる、HIVに感染している細胞を検出する方法。
【請求項36】
細胞を請求項1〜26の何れか一項に記載のTCR又は請求項30〜34の何れか一項に記載の宿主細胞と接触させること、
それによってHIVに感染している細胞を死滅すること:
を含有してなる、HIVに感染している細胞を死滅する方法。
【請求項37】
個体から生体サンプルを得ること;
生体サンプルを請求項1〜26の何れか一項に記載のTCR又は請求項30〜34の何れか一項に記載の宿主細胞と接触させること(ここにおいて、生体サンプルへのTCRの結合は対象がHIVに感染していることを示す):
を含有してなる、対象がHIVに感染しているか否かを確認する方法。
【請求項38】
請求項1〜26の何れか一項に記載のTCR、又は請求項27〜29の何れか一項に記載の核酸若しくはベクター、又は請求項30〜34の何れか一項に記載の宿主細胞を個体に投与すること;
それによって対象を治療すること:
を含有してなる、HIVを有している対象を治療する方法。
【請求項39】
請求項1〜26の何れか一項に記載のTCR、又は請求項27〜29の何れか一項に記載の核酸若しくはベクター、又は請求項30〜34の何れか一項に記載の宿主細胞を個体に投与すること;
それによって対象におけるHIV感染を阻害すること:
を含有してなる、対象におけるHIV感染を阻害する方法。
【請求項40】
HIV感染の増大した危険性を有している対象を同定することを更に含有してなる、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
請求項1〜26の何れか一項に記載のTCR及び薬学的に許容される担体を含有してなる、医薬組成物。
【請求項42】
請求項27〜29の何れか一項に記載の核酸或いはベクター及び薬学的に許容される担体を含有してなる、医薬組成物。
【請求項43】
請求項30〜34の何れか一項に記載の宿主細胞及び薬学的に許容される担体を含有してなる、医薬組成物。
【請求項44】
請求項1〜26の何れか一項に記載のTCR及び使用説明書を含有してなる、キット。
【請求項45】
請求項27〜29の何れか一項に記載の核酸或いはベクター及び使用説明書を含有してなる、キット。
【請求項46】
請求項30〜34の何れか一項に記載の宿主細胞及び使用説明書を含有してなる、キット。

【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B−1】
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【図3B−2】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B−1】
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【図4B−2】
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【図4B−3】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B−1】
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【図14B−2】
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【図14B−3】
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【図14C】
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【図14D】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図17A】
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【図17B】
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【公表番号】特表2012−521761(P2012−521761A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502234(P2012−502234)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/028626
【国際公開番号】WO2010/111467
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(504090190)アルター・バイオサイエンス・コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】