説明

HLA−A24拘束性腫瘍抗原ペプチド

【課題】 HLA-A24陽性子宮頸癌に有効な腫瘍抗原ペプチドを同定する。
【解決手段】 下記のいずれかの腫瘍抗原ペプチド:特定のアミノ酸配列からなるペプチド、または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつHLA-A24分子と結合して細胞傷害性T細胞により認識され得るペプチド。特に、HLA−A24陽性子宮頚部癌患者の細胞障害性Tリンパ球とIgG抗体により認識されるヒトパピロマウィルスタイプ16のE6蛋白に由来する腫瘍抗原ペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HLA-A24拘束性腫瘍抗原ペプチドに関し、さらに詳しくはHLA-A24陽性子宮頸癌患者の細胞傷害性Tリンパ球とIgG抗体に認識されるヒトパピローマウイルスタイプ16のE6蛋白に由来する腫瘍抗原ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、T細胞により認識されるヒト癌関連抗原をコードする遺伝子や抗原由来ペプチドが多数同定され、免疫療法としての癌ワクチン療法の臨床試験が実施されている(非特許文献1-2)。また、本発明者らのグループにより種々の上皮性癌に対するペプチドワクチン療法が施行されている(非特許文献3-7)。子宮頸癌に対しても癌ワクチン療法が試みられ、有効例の報告もあるが、それらワクチン療法に用いられた癌抗原ペプチドの多くは、正常細胞にもある程度発現している自己抗原蛋白に由来するものであった。従って、子宮頸癌に対する有効なワクチン療法を確立するには、有用な新規抗原ペプチドを同定する必要がある。
【0003】
子宮頸癌の大部分は、ヒトパピローマウイルス(HPV)タイプ16 (以下、「HPV16」と略す)またはタイプ18(以下、「HPV18」と略す)に感染していることが知られている(非特許文献8、9)。さらに、これらのタイプのHPVのE6とE7蛋白はそれぞれp53およびRB腫瘍抑制遺伝子を不活化することにより、悪性化への形質変換やその維持に関与していることが知られている(非特許文献10、11)。よって、非自己抗原であるHPV16またはHPV18のE6蛋白やE7蛋白を標的とした免疫療法は、子宮頸癌に対して非常に有効な治療法になると考えられる。実際に、HPV16特異的CTLが子宮頸癌患者の末梢血リンパ球や腫瘍浸潤リンパ球中に同定されている(非特許文献12-14)。さらに、HLA-A2分子に提示されるHPV16のE7蛋白由来抗原ペプチドが数個同定されている(非特許文献15-17)。また、HPV16のE6およびE7蛋白由来のペプチド断片について、様々なタイプのHLA分子(A1、A2、A3、A11、A24、A29、 B7、B8、B18、B27、B35、B44、B51およびB62)との結合の可能性が示唆されている(特許文献1)。しかしながら、同文献中でも、HLA-A24分子との結合能が示唆されたペプチドによるペプチド特異的CTLの誘導や誘導されたCTLの子宮頸癌細胞に対する細胞傷害活性は検討されていない。
【0004】
このように、日本人の約6割が発現するHLA-A24分子に提示され、子宮頸癌反応性CTLを誘導できるHPV16由来のE6またはE7由来抗原ペプチドは未だ同定されておらず、癌治療の発展のためには、そのようなペプチドを同定することが強く求められている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,783,763号明細書
【非特許文献1】ブーン(Boon,T.)等、Immunol Today 81:p267-268,1997
【非特許文献2】ローゼンバーグ(Rosenberg SA)、Immunity 10:p281-287,1999
【非特許文献3】タナカ(Tanaka S)等、J Immunother 26:p357-366,2003
【非特許文献4】ツダ(Tsuda N)等、J. Immunother 27: p60-72,2004
【非特許文献5】ノグチ(Noguchi M)等、Prostate 57: p80-92, 2003
【非特許文献6】マイン(Mine T)等、Cancer Science 94: p548-556, 2003
【非特許文献7】サトウ(Sato Y)等、Cancer Science 94: p802-808, 2003
【非特許文献8】ウオルブーマース(Walboomers JM)等、J Pathol 181: p253-254, 1997
【非特許文献9】ムノズ(Munoz N)等、N Engl J Med 348: p518-527, 2003
【非特許文献10】ミュンガー(Munger K)等、J Virol 63: p4417-4421, 1989
【非特許文献11】フォンネベル(von Knebel DM)等、Int J Cancer 51: p831-834, 1992
【非特許文献12】ボルシービッチ(Borysiewicz LK)等、Lancet 347: p1523-1527, 1996
【非特許文献13】レッシング(Ressing ME)等、Cancer Res 56: p582-588, 1996
【非特許文献14】エバンス(Evans EM)等、Cancer Res. 57: p2943-2950, 1997
【非特許文献15】ニジマン(Nijman HW)等、J Immunother 14: p121-126, 1993
【非特許文献16】カスト(Kast WM)等、J Immunol 152: p3904-3912, 1994
【非特許文献17】レッシング(Ressing ME)等、J Immunol 154: p5934-5943, 1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はHLA-A24陽性子宮頸癌患者において子宮頸癌反応性の細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導しうるHPV16のE6蛋白由来抗原ペプチドを同定することを目的とするものである。
また、本発明は上記ペプチドを用いる、子宮頸癌の予防および治療のための手段を提供することを目的としている。
本発明のその他の目的は、明細書を通して明らとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、既知のHPV16のE6蛋白のアミノ酸配列に基づいて、一定の基準に従い、複数の候補ペプチドを調製し、該ペプチドでHLA-A24陽性の子宮頸癌患者の末梢血リンパ球を刺激し、ペプチド特異的CTLの誘導活性の有無を判定することにより、HLA-A24陽性の子宮頸癌に対して有効な抗原ペプチドを同定することに成功した。
即ち本発明は以下の通りである。
1.次のいずれかの腫瘍抗原ペプチド:
(1)配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
(2)配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつHLA-A24分子と結合して細胞傷害性T細胞により認識され得るペプチド。
2.前記(2)におけるペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列の第2位および/またはC末端のアミノ酸残基の、他のアミノ酸残基による置換を含むものである、1記載の腫瘍抗原ペプチド。
3.前記(2)におけるペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列の第2位のチロシンの、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンによる置換を含むものである、1記載の腫瘍抗原ペプチド。
4.前記(2)におけるペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列のC末端のロイシンの、フェニルアラニン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンによる置換を含むものである、1記載の腫瘍抗原ペプチド。
5.前記1〜4のいずれかに記載の腫瘍抗原ペプチドから選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、腫瘍の治療剤または予防剤。
6.腫瘍患者由来の単離された抗原提示能を有する細胞の表面に、HLA-A24分子と前記1〜4のいずれかに記載の腫瘍抗原ペプチドとの複合体を提示させてなる抗原提示細胞。
7.前記6記載の抗原提示細胞を有効成分として含有する、腫瘍の治療剤。
8.HLA-A24分子と前記1〜4のいずれかに記載の腫瘍抗原ペプチドとの複合体を特異的に認識する細胞傷害性T細胞。
9.前記8記載の細胞傷害性T細胞を有効成分として含有する、腫瘍の治療剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の腫瘍抗原ペプチドは、HLA-A24分子と複合体を形成し、該ペプチドとHLA-A24分子との複合体を特異的に認識するCTLを効果的に誘導することができる。また、本発明の腫瘍抗原ペプチドは、アジア人種、特に日本人の多数が陽性であるHLA-A24拘束性であることから、これらの集団におけるHLA-A24陽性の子宮頸癌の診断、予防、治療、さらには転移の予防のための有効な手段の開発を促進するという効果をも奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書中、本発明の「腫瘍抗原ペプチド」とは、(1)配列番号1若しくは2に記載のアミノ酸配列、または(2)該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつHLA-A24分子と結合して細胞傷害性T細胞により認識され得る、即ち、HLA-A24陽性子宮頸癌に対して有効なCTLを誘導し得る、HLA-A24拘束性腫瘍抗原ペプチドを指す。なお、本明細書中、(2)で定義される改変されたアミノ酸配列を有するペプチドを「(腫瘍)ペプチド誘導体」と称することもある。
【0010】
本発明に関連して、「HLA-A24分子と結合してCTLにより認識され得る」とは、本発明の腫瘍抗原ペプチドがHLA-A24分子と結合して複合体を形成し、かかる複合体をCTLが認識できることをいう。換言すれば、本発明の腫瘍抗原ペプチドが、HLA-A24分子との結合活性を有し、かつ、HLA-A24分子との複合体の形で、ペプチド特異的なCTLを誘導する活性を有することを意味する。
【0011】
本発明に関連して、「抗原提示細胞」とは、HLA-A24拘束性抗原ペプチドとHLA-A24分子との複合体を細胞表面に提示する細胞を指す。従って、抗原提示細胞は、HLA-A24拘束性の本発明の腫瘍抗原ペプチドとHLA-A24分子との複合体を細胞表面に提示することにより、CTLの活性化をもたらす機能を有する。そのような細胞には、CTL細胞障害作用の標的である腫瘍細胞も含まれる。
【0012】
上記の通り、本発明の腫瘍抗原ペプチドは、配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列を有するペプチド、および該配列において少なくとも1つのアミノ酸の欠失、置換、および/または付加により導かれる改変されたアミノ酸配列を有するペプチド誘導体であり、HLA-A24分子と結合して特異的なCTLに認識される変異ペプチドを含む。アミノ酸の改変は、具体的には、1〜数個、好ましくは1個または2個のアミノ酸における欠失、置換または付加である。変異が他のアミノ酸による置換または付加を含む場合、他のアミノ酸は、天然のアミノ酸またはアミノ酸アナログであってよく、アミノ酸アナログとしては、種々のアミノ酸のN−アシル化物、O−アシル化物、エステル化物、酸アミド化物、アルキル化物等が挙げられる。本発明の腫瘍抗原ペプチドの誘導体を得るには、配列番号1若しくは2に記載のアミノ酸配列の1以上、好ましくは1〜数個、より好ましくは1または2個のアミノ酸残基が欠失しているか、他のアミノ酸残基またはアミノ酸アナログで置換された、またはそれが付加された候補ペプチドを合成し、該候補ペプチドとHLA-A24分子との複合体がCTLにより認識されるか否かをアッセイすることにより、同定することができる。
【0013】
HLA抗原に結合して提示される抗原ペプチドの配列には規則性(モチーフ)があり、HLA-A24抗原(分子)の場合、8〜11アミノ酸よりなるペプチドのうちのN末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニンまたはトリプトファンであり、C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシ ン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンであることが知られている(パーカー(Parker KC)等、J Immunol 152: 163-175, 1994、およびラメンシー(Rammensee HG)等、Immunogenetics 41: 178-228, 1995)。また、このようなモチーフ上とり得るアミノ酸を類似の性質を持つアミノ酸で置換して得られる誘導体もHLA-A24抗原結合性ペプチドとして許容される可能性がある。
従って、配列番号1若しくは2で示されるアミノ酸配列から導かれるペプチド誘導体が他のアミノ酸による置換を含む場合、そのような置換の例として、これら配列の第2位および/またはC末端のアミノ酸残基の、モチーフ上で規定される他のアミノ酸残基による置換が含まれる。具体的には、配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列中第2位のチロシンの、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンによる置換、および/またはC末端のロイシンの、フェニルアラニン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンによる置換が挙げられる。それらのペプチド誘導体は、HLA-A24分子と結合してCTLにより認識されるという活性を有するものである。
【0014】
本発明の腫瘍抗原ペプチドは、それ自身がペプチド断片としてHLA-A24抗原と結合して抗原提示細胞表面に提示されるのみならず、適宜、標的細胞内で断片化され、配列番号1若しくは2で示されるアミノ酸配列を有するペプチド、または改変されたアミノ酸配列を有するが、HLA-A24抗原と結合してCTLにより認識されうるペプチド誘導体を与えることができるより長いペプチドも包含する。ペプチド自体がHLA-A24分子と結合する場合、本発明の腫瘍抗原ペプチドの長さはHLA-A24分子と複合体を形成し抗原提示細胞の表面に提示されて特異的なCTLを誘導するのに必要な長さ、通常、8〜11残基、好ましくは9〜10残基である。
【0015】
また、HLA-A24分子と複合体を形成し、抗原提示細胞の表面に提示されて特異的なCTLに認識されることを条件として、腫瘍抗原ペプチド のN末端や遊離のアミノ基には、ホルミル基、アセチル基、t−ブトキシカルボニル(t−Boc)基等が結合していてもよく、腫瘍抗原ペプチドのC末端や遊離のカルボキシル基には、メチル基、エチル基、t−ブチル基、ベンジル基等が結合していてもよい。さらに、本発明の腫瘍抗原ペプチドは、生体内への導入を容易にするように、修飾されていてもよい。
【0016】
ペプチドの合成
本発明の腫瘍抗原ペプチドは通常のペプチド合成により調製することができる。そのような方法として、例えば、文献(ペプタイド・シンセシス(peptide Synthesis), Interscience, New York,1966;ザ・プロテインズ(The Proteins),Vol2, Academic Press Inc.,New York,1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発続 第十四巻・ペプチド合成,広川書店,1991)などに記載されている方法が挙げられる。
【0017】
HLA抗原−拘束性のCTLによる認識
合成した候補ペプチドがHLA-A24分子に結合してCTLにより認識されるか否かは、例えば以下の一般的な方法に準じて調べることができる。
(1)J.Immunol.,154,p2257,1995に記載の方法に従い、HLA-A24抗原陽性のヒトから末梢血リンパ球を単離し、インビトロで候補ペプチドを添加して刺激した場合に、該候補ペプチドをパルスしたHLA-A24陽性細胞を特異的に認識するCTLが誘導されるか否かを調べる。ここで、CTL誘導の有無は、例えば、抗原ペプチド提示細胞に反応してCTLが産生する種々のサイトカイン(例えばIFN-γ)の量を酵素免疫測定法(ELISA)等により測定することによって調べることができる。または、51Crで標識した抗原ペプチド提示細胞に対するCTLの傷害性を測定する方法(51Cr リリースアッセイ、Int.J.Cancer,58:p317,1994)によっても調べることができる。前記アッセイで用いるHLA-A24陽性細胞と しては、子宮頸癌細胞株SKG-IIIa(JCRB 0232)、C1R-A24細胞、食道癌細胞株KE-4(FERM BP-5955)などの一般に入手可能な細胞が挙げられる。
【0018】
(2)さらに、HLA-A24cDNA発現プラスミドをCOS-7細胞(ATCC No.CRL1651)やVA-13細胞(理化学研究所細胞銀行)に導入し、得られた細胞に対して前記候補ペプチドをパルスし、HLA-A24拘束性のCTL株を反応させ、該細胞が産生する種々のサイトカイン(例えばIFN-γ)の量を測定することによっても、調べることができる(J. Exp.Med.,187:277,1998)。以上のような種々のアッセイ法は当業者に既知であり、例えば、WO97/46676等にも詳細に記載されている。
【0019】
なお、腫瘍抗原ペプチド誘導体のHLA-A24分子に対する結合親和性は、該誘導体とラジオアイソトープで標識された標準ペプチド(配列番号1若しくは2)とのHLA抗原への結合の競合阻害アッセイにより、無細胞系で容易に測定することができる(R.T.Kuboら、J.Immunol, 152:3913, 1994)。
【0020】
本発明の腫瘍抗原ペプチドはHPV16のE6蛋白由来の抗原ペプチドであり、広範なヒト対象が保有している(例えば、日本人の約60%が保有)HLA-A24分子に結合して提示され、CTLにより認識されることから、インビボおよびインビトロで、腫瘍、特に子宮頸癌の治療、予防、診断などに有用である。
【0021】
本発明は、本発明の前記腫瘍抗原ペプチドの少なくとも1種を有効成分として含有する腫瘍の治療剤または予防剤を提供するものである。
腫瘍の治療または予防を目的とする使用に際しては、本発明の腫瘍抗原ペプチドの少なくとも1種または2種以上を組み合わせ、要すれば他の腫瘍抗原ペプチド等と組み合わせて患者に投与する。本発明の腫瘍の治療剤または予防剤をHLA-A24陽性であり、かつ本発明の腫瘍抗原ペプチドが由来する腫瘍抗原蛋白(HPV16のE6蛋白に関して陽性の子宮頸癌患者に投与すると、抗原提示細胞のHLA-A24分子に腫瘍抗原ペプチド誘導体が高密度に提示され、提示されたHLA-A24抗原複合体特異的CTLが増殖して腫瘍細胞を破壊する。その結果、患者の腫瘍を治療し、または腫瘍の増殖または転移を予防することができる。
【0022】
本発明の腫瘍抗原ペプチドを含有する腫瘍の治療剤または予防剤は、細胞性免疫が効果的に成立するようにアジュバントとともに投与したり、粒子状の剤型 にして投与することができる。アジュバントとしては、文献(Clin.Microbiol.Rev.,7:277-289,1994)に記載のものなどが応用可能である。また、リポソーム製剤、直径数μmのビーズに結合させた粒子状の製剤、リピッドを結合させた製剤など外因性の抗原ペプチド誘導体をHLA抗原へ効率良く抗原提示させ得る製剤なども用いられる。投与方法としては、皮内投与、皮下投与、静脈注射など、適宜選択することができる。本発明の腫瘍抗原ペプチド誘導体の投与量は、治療すべき疾患、患者の年齢、体重等に応じて適宜調整することができるが、通常、0.0001mg〜1000mg、好ましくは0.001mg〜1000mg、より好ましくは0.1mg〜10mgであり、これを数日ないし数週に1回投与するのが好ましい。
【0023】
また、本発明の腫瘍抗原ペプチドを用いてインビトロで抗原提示細胞を誘導することができ、そのような細胞は腫瘍の治療等に有用である。
従って、本発明は、腫瘍患者由来の単離された抗原提示能を有する細胞の表面に、HLA-A24分子と本発明の腫瘍抗原ペプチドとの複合体を提示させた抗原提示細胞を提供する。
【0024】
本発明はまた、HLA-A24分子と本発明の腫瘍抗原ペプチドとの複合体を提示している抗原提示細胞を有効成分として含有する腫瘍の治療剤を提供する。
ここで「抗原提示能を有する細胞」とは、本発明の腫瘍抗原ペプチドを提示可能なHLA-A24抗原を細胞表面に発現している細胞であれば特に限定されないが、特に抗原提示能が高いとされる樹状細胞が好ましい。
【0025】
本発明の抗原提示細胞を調製するには、腫瘍患者から抗原提示能を有する細胞を単離し、該細胞に本発明の腫瘍抗原ペプチドを体外でパルスしてHLA-A24抗原と前記ペプチド誘導体との複合体を作製する(Cancer Immunol.Immunother.,46:82,1998)。
前記抗原提示細胞を有効成分として含有する腫瘍の治療剤は、抗原提示細胞を安定に維持するために、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地等を含むことが好ましい。投与方法として、静脈内投与、皮下投与、皮内投与が挙げられる。上記の腫瘍治療剤を患者の体内に戻すと、HLA-A24陽性かつ本発明の腫瘍抗原ペプチドの由来である腫瘍抗原蛋白陽性の患者の体内で効率良く特異的なCTLが誘導され、腫瘍を治療し、さらには転移を予防することができる。
【0026】
さらに、本発明の腫瘍抗原ペプチド誘導体のインビトロでの利用法として、以下の養子免疫療法における利用が挙げられる。
すなわち、メラノーマにおいては、患者本人の腫瘍内浸潤T細胞を体外で大量に培養して、これを患者に戻す養子免疫療法に治療効果が認められている(J. Natl.Cancer.Inst.,86:1159、1994)。またマウスのメラノーマにおいては、脾細胞をインビトロで腫瘍抗原ペプチドTRP-2で刺激し、腫瘍抗原ペプチドに特異的なCTLを増殖させ、該CTLをメラノーマ移植マウスに投与することにより、転移抑制が認められている(J. Exp.Med.,185:453,1997)。これは、抗原提示細胞のHLA抗原と腫瘍抗原ペプチドとの複合体を特異的に認識するCTLをインビトロで増殖させた結果に基づくものである。本発明の腫瘍抗原ペプチドを用いて、インビトロで患者末梢血リンパ球を刺激して腫瘍特異的CTLを増やした後、このCTLを患者に戻すことにより腫瘍を治療することが可能である。
【0027】
本発明は、HLA-A24抗原と本発明の腫瘍抗原ペプチドとの複合体を特異的に認識する細胞傷害性T細胞をも提供するものである。
さらに、本発明は、前記細胞傷害性T細胞を有効成分として含有する腫瘍の治療剤を提供するものである。
該治療剤は、CTLを安定に維持するために、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩 水(PBS)、培地等を含むことが好ましい。投与方法としては、静脈内投与、皮下投与、皮内投与が挙げられる。上記の治療剤を患者の体内に戻すことにより、HLA-A24陽性かつ本発明の腫瘍抗原ペプチドの由来である腫瘍抗原蛋白陽性の患者の体内でCTLによる腫瘍細胞の傷害作用が促進され、腫瘍細胞を破壊することにより、腫瘍を治療し、さらには転移を予防することができる。
【0028】
また、本発明の腫瘍抗原ペプチド誘導体を腫瘍の診断に用いるには、例えば、常法に従って該腫瘍抗原ペプチドに対する抗体を調製し、要すれば適宜標識し、それを用いて腫瘍が疑われる患者から得た試料(例えば血液,腫瘍組織など)中の抗原の存在を検出することにより腫瘍の有無を診断することができる。さ らに、本発明の腫瘍抗原ペプチドそのものを診断薬に用い、前記血液または腫瘍組織などの試料中の抗体の存在を検出することにより腫瘍の有無を診断する ことも可能である。
【0029】
本発明はまた、上記の腫瘍抗原ペプチド、該腫瘍抗原ペプチドを提示している抗原提示細胞、該腫瘍抗原ペプチドとHLA-A24抗原との複合体を特異的に認識する細胞傷害性T細胞を用いて腫瘍を治療または予防、または診断する方法を提供する。さらに、本発明の腫瘍抗原ペプチド誘導体は、当該技術分野における研究用試薬としても有用である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0030】
実施例1 HPV-16 E6蛋白由来のHLA-A24拘束性腫瘍抗原ペプチドの調製
I. 腫瘍抗原ペプチドの同定
I-1.材料と実験方法
末梢血単核球(PBMC)の調製
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が陰性である子宮頸癌患者および健常人から20 mlを採血し、Ficoll-Conrey 比重法により末梢血リンパ球と血漿を分離し、PBMCを調製した。
【0031】
細胞株
HPV16陽性でHLA-A24陽性子宮頸癌細胞株としてSKG-IIIaを、HPV16陽性でHLA-A24陰性子宮頸癌細胞株としてOMC-1を用いた。また、HPV16陰性でHLA-A24陽性癌細胞株として食道癌細胞株KE-4を用いた。
【0032】
ペプチド
既に報告されているHLA-A24結合モチーフに基づき(パーカー等、前掲、およびラメンシー等、前掲)、HPV16由来でE6蛋白由来抗原ペプチドを4種類準備した。即ち、HPV16-E6のアミノ酸配列の42-50位(VYDFAFQDL、配列番号3)、75-83位(EYRHYCYSL、配列番号1)、91-99位(QYNKPLCDL、配列番号4)、および91-100位(QYNKPLCDLL、配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドである。なお、HPV16-E6のアミノ酸配列は、NCBIのデータバンク:AJ388058に開示されている。
【0033】
ペプチド特異的CTL前駆細胞の検討
文献記載の方法に従い、準備したHPV16のE6蛋白由来抗原ペプチドを用いて子宮頸癌患者の末梢血単核球 (PBMC) を繰り返し刺激した(ヒダ(Hida N)等、Cancer Immunol Immunother 51: 219-228, 2002)。具体的には,初日にペプチド(10μg/ml)を加えてIL-2 (100 U/ml)の存在下、45% RPMI-1640、45%AIM-V培地(Gibcp BRL)、10% FCSからなる培養液中で、温度37℃で培養を開始した後、3、6、9日目に2倍濃度のペプチド(20μg/ml)とIL-2(100 U/ml)を含む培養液で半分の培養液を交換した。14日後に、培養リンパ球を回収し、刺激に用いたペプチをパルスしたC1R-A24細胞(C1Rリンパ腫のHLA-A*2402-発現亜細胞株である(Oiso M, et al., Int. J. Cancer 81: 387-394, 1999))と混合培養し、18時間後の培養上清中のIFN-γをELISA法で測定した。コントロールペプチドとして2つのHIVペプチド、HLA-A24分子に結合性を有するEBV由来のペプチド(TYGPVFMCL、配列番号5)およびFlu由来のぺプチド(RFYIQMCYEL、配列番号6)、を用いた。
【0034】
フローサイトメトリー
癌細胞株のHLA-A24分子の細胞表面での発現を検討するために、一次抗体として抗HLA-A24抗体(Cat#0041HA, One Lambde Inc., Canoga Park, CA)、2次抗体としてFITC結合性抗マウスIgGで染色し、フローサイトメトリー法で検討した。
【0035】
PCR
癌細胞よりトータルRNAを抽出後、SuperScript(登録商標)Preamplication system (Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。次いで、以下のプライマーを用いてDNAを増幅した。
センス: 5'-GTGTGTACTGCAAGCAACAG-3' (配列番号7)
アンチセンス: 5'-GCAATGTAGGTGTATCTCCA-3' (配列番号8)
また、コントロールとしてグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を以下のプライマーで増幅した。
センス: 5'-ACAACAGCCTCAAGATCATCAG-3' (配列番号9)
アンチセンス: 5'-GGTCCACCACTGACACGTTG-3' (配列番号10)
PCRは、TaqDNA ポリメラーゼを用いて、30サイクル(54℃)で常法通り行った(Matsueda S. et al., Cancer Immunol Immunother., 53: 479-489, 2004)。
【0036】
細胞傷害性試験
ペプチド刺激により誘導したCTLの、HPV16が感染しているHLA-A24陽性子宮頸癌細胞株に対する細胞傷害活性を、51Cr遊離試験により検討した。また、51Cr遊離試験時に、抗HLA-クラスI(W6/32, マウスIgG2a)、抗HLA-クラスII(H-DR-1、マウスIgG2a)、抗CD4(Nu-Th/I、マウスIgG2a)および抗CD8(Nu-Ts/c、マウスIgG2a)抗体を各10μg/ml加え、細胞傷害活性を担う細胞を検討した。さらに、子宮頸癌細胞に対する細胞傷害活性がペプチド特異的CTLに依存することを確認するために、刺激に用いたぺプチド、または、コントロールHIVペプチドをパルスした51Crで標識していないC1R-A24細胞を添加して行う、非放射性阻害検定(cold inhibition assay)も行った。
【0037】
ペプチド特異的IgGの測定
ペプチド特異的IgG抗体は、既に報告した方法に従った(コマツ(Komatsu N)等、Scand J Clin Lab Invest 64: 1-11, 2004)。具体的には、個々のペプチドを彩色カルボキシビーズ(Luminex 100(登録商標))に結合し、当該検体をペプチド結合ビーズと反応させ、ビオチン標識抗ヒトIgG(γ)抗体ならびにストレプトアビジンと反応させた。反応後、蛍光フローメトリー法(xMAP技術)により測定した。
【0038】
統計処理
結果の統計学的有意差は、two-tailed スチューデントt-testで検討し、P<0.05を有意とした。
【0039】
I-2.結果
1)HPV16-E6蛋白由来ペプチドによるCTLの誘導
HLA-A24分子への結合モチーフに基づいて調製した、HPV16のE6蛋白由来の4種の候補ペプチドと、対照として、EBVおよびFlu由来のHLA-A24結合性ペプチドを用いた(表1)。
10人のHLA-A24陽性子宮頸癌患者(Pt#1〜Pt#10)から得たPBMCを各ペプチドで刺激し、刺激ペプチド特異的CTLの誘導を、IFN-γの産生を指標として、検討した。HLA-A24陽性子宮頸癌患者のPBMCのペプチドによる刺激は、ヒダ等(前掲)により記載された方法に従って行った。14日後、培地中に遊離された、刺激したペプチドに特異的なIFN-γの量をELISAで調べた。それぞれのペプチドに関して、4ウエルで検討した。結果を表1に示す。表1のスコアーは、個々のペプチドのHLA-A24分子への結合の強さを示している。
【0040】
【表1】

表1に記載の通り、HPV16-E6 75-83ペプチドを用いた場合には10人中5人で、HPV16-E6 91-99ペプチドを用いた場合には、10人中2人、HPV16-E6 91-100ペプチドを用いた場合には、10人中4人の患者から得たPBMC試料でペプチド特異的CTLの誘導が認められた。HPV16-E6 42-50ペプチドの場合には、ペプチド特異的CTLは誘導されなかった。
【0041】
2)HPV16-E6蛋白由来ペプチドで刺激したCTLの子宮頸癌に対する細胞傷害活性
2−1)子宮頸癌細胞株でのHPV16とHLA-A24分子の発現
子宮頸癌細胞SKG-IIIaおよびOMC-1と、食道癌細胞株KE-4におけるHPV16の発現をPCR法で検討した結果を図1Aに示す。また、子宮頸癌細胞SKG-IIIaおよびOMC-1におけるHLA-A24分子の発現をフローサイトメトリー法で解析した結果を図1Bに示す。
図1Aに示すように、子宮頸癌細胞株SKA-IIIaとOMC-1にはHPV16の感染が確認されたが、陰性のコントロールである食道癌細胞株KE-4にはHPV16の感染を認めなかった。また、SKG-IIIaは、HLA-A24陽性であるが、OMC-1は陰性であることが確認された(図1B)。
【0042】
2−2)HPV16-E6 ペプチドで刺激誘導したCTLの子宮頸癌細胞に対する細胞傷害活性
HPV16-E6 75-83ペプチド、または、HPV16-E6 91-100ペプチドの刺激で誘導した子宮頸癌患者由来CTLの子宮頸癌細胞に対する細胞傷害活性を検討した。3名のHLA-A24陽性子宮頸癌患者(PT#2、PT#6、PT#7)のPBMCを個々のペプチドで刺激し、3種類の標的細胞(HLA-A24陽性HPV16陽性SKG-IIIa、HLA-A24陰性HPV16陽性OMC-1、およびHLA-A24陽性HPV16陰性のPHA刺激T細胞)に対する細胞傷害活性を51Cr放出試験で検討した。結果を図2に示す。
図2に示すように、3人のHLA-A24陽性子宮頸癌患者のPBMCからHPV16-E6 75-83ペプチドで誘導したCTLは、HPV16陽性でありHLA-A24陰性のOMC-1とPHA(フィトヘマグルチニン)で刺激して誘導したHLA-A24陽性T細胞に対するよりも、HPV16とHLA-A24の両者について陽性であるSKG-IIIaに対して、より高い細胞傷害活性を示した。同様の結果が、2人のHLA-A24陽性子宮頸癌患者(Pt#6、Pt#7)のPBMCからHPV16-E6 91-100ペプチドで誘導したCTLについても認められた。
【0043】
3)HPV16-E6蛋白由来ペプチドで刺激したCTLの子宮頸癌に対する細胞傷害活性の、クラスI拘束性ペプチド特異的CD8陽性T細胞への依存
2種類のHPV16-E6蛋白由来ペプチドで刺激・誘導したCTLの子宮頸癌に対する細胞傷害活性が、どのような細胞に依存しているかを抗体による阻害試験と競合的標的細胞を用いた非放射性阻害検定(cold inhibition assay)で検討した。結果を図3および図4に示す。
2名のHLA-A24陽性子宮頸癌患者(PT#6、PT#7)のPBMCを個々のペプチドで刺激し、3種類の標的細胞に対する細胞傷害活性を検討する51Cr放出試験において、抗HLA-クラスI(W6/32、マウスIgG2a)、抗HLA-クラスII(H-DR-1,マウスIgG2a)、抗CD4(Nu-Th/I、マウスIgG2a)および、抗CD8(Nu-Ts/c、マウスIgG2a)抗体を各10μg/ml加えて子宮頸癌細胞に対する影響を調べた(図3)。
【0044】
また、子宮頸癌細胞に対する細胞傷害活性がペプチド特異的CTLに依存することを確認するために、刺激に用いたぺプチド、または、コントロールHIVペプチドをパルスした、51Crで標識していないC1R-A24細胞を添加して非放射性阻害検定を行った(図4)。
図3に示すように、2名の子宮頸癌患者(Pt#6 とPt#7)からHPV16-E6 75-83ペプチド、または、HPV16-E6 91-100ペプチドで誘導したCTLのSKG-IIIaに対する細胞傷害活性は、抗クラスI抗体と抗CD8抗体の添加により阻害されたが、抗クラスII抗体、抗CD4抗体、抗CD14抗体の添加では阻害されなかった。また、これらのSKG-IIIaに対する細胞傷害活性は、刺激に用いたHPV16-E6ペプチドをパルスした51Crで標識していない(cold) C1R-A24細胞の添加により有意に抑制されたが、コントロールのHIVペプチドをパルスした51Crで標識していない(cold) C1R-A24細胞を添加した場合には抑制されなかった(図4)。以上の結果は、2種類のHPV16-E6蛋白由来ペプチドで刺激・誘導したCTLの子宮頸癌に対する細胞傷害活性はクラスI拘束性ペプチド特異的CD8陽性T細胞に依存していることを示している。
【0045】
4)ペプチド特異的IgG抗体
4種のHPV16-E6蛋白由来ペプチド(HPV16-E6 42-50、HPV16-E6 75-83、HPV16-E6 91-99およびHPV16-E6 91-100)に特異的なIgG抗体が、子宮頸癌患者および健常人の血漿中に同定されるか否かを蛍光フローメトリー法で測定した。結果を表2に示す。表中、各数値は蛍光強度を示している。
【0046】
【表2】

表2に記載の通り、子宮頸癌患者においては、HPV16-E6 42-50ペプチドとHPV16-E6 91-99ペプチドに対しては12人中3人で、HPV16-E6 91-100ペプチドに対しては12人中4人でペプチド反応性IgG抗体が同定できた。また、女性健常人においては、HPV16-E6 91-99ペプチドに対しては10人中1人で、HPV16-E6 91-100ペプチドに対しては10人中3人でペプチド反応性IgG抗体が同定できた。HPV16-E6 75-83ペプチドに対しては、子宮頸癌患者と女性健常人の両者においてペプチド特異的IgG抗体は同定できなかった。
【0047】
I-3.結論
以上のI-1およびI-2に記載の通り、日本人の約6割が発現するHLA-A24分子と結合して抗原提示細胞により提示され、子宮頸癌反応性CTLを誘導できるHPV16のE6蛋白由来抗原ペプチドとしてHPV16-E6 75-83ペプチドとHPV16-E6 91-100ペプチドが同定された。これらのペプチド並びにその誘導体は本願発明の目的に有用である。しかし、本発明者らのグループが行った癌ワクチン療法の臨床研究において、ワクチン投与されたペプチドに対してIgG抗体が誘導された症例では生存期間が延長する傾向が認められている(ミネ(Mine T)等、Clin Cancer Res 10: 929-937, 2004)。
従って、本発明の腫瘍抗原ペプチドはいずれもHLA-A24拘束性CTLを誘導して子宮頸癌の治療や予防に有用であるが、中でもHPV16-E6 91-100ペプチドは、効率的なCTL誘導能を有すると共にIgG抗体に認識され易い抗原ペプチドである可能性が高く、癌ワクチン療法における有効成分として極めて有用性が高いと予測される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、アジア人種、特に日本人のほぼ60%が陽性であるHLA-A24陽性の子宮頸癌を、診断、予防または治療する方法、並びに転移を予防するための手段の開発を大いに促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】子宮頸癌細胞SKG-IIIaとOMC-1と食道癌細胞株KE-4のHPV16の発現をPCR法で検討した結果を示す写真の模写図(A)および子宮頸癌細胞SKG-IIIaとOMC-1のHLA-A24分子の発現をフローサイトメトリー法で解析した結果を示す写真の模写図(B)である。
【図2】3名のHLA-A24陽性子宮頸癌患者のPBMCを各ペプチドで刺激して誘導されるCTLの、3種類の標的細胞(HLA-A24陽性HPV16陽性SKG-IIIa、HLA-A24陰性HPV16陽性OMC-1とHLA-A24陽性HPV16陰性PHA刺激T細胞)に対する細胞傷害活性を51Cr放出試験で検討した結果を示すグラフである。
【図3】2名のHLA-A24陽性子宮頸癌患者のPBMCを各ペプチドで刺激し、3種類の標的細胞に対する細胞傷害活性を検討する51Cr放出試験において、抗HLA-クラスI (W6/32,マウスIgG2a)、抗HLA-クラスII(H-DR-1,マウスIgG2a)、抗CD4(Nu-Th/I,マウスIgG2a)および、抗CD8(Nu-Ts/c,マウスIgG2a)抗体を各10μg/ml加え、その影響を検討した結果を示すグラフである。
【図4】図3と同様の試験において、子宮頸癌細胞に対する細胞傷害活性のペプチド特異的CTLへの依存を確認するために、刺激に用いたぺプチド、または、コントロールHIVペプチドをパルスした51Crで標識していないC1R-A24細胞を添加して行う非放射性阻害検定の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のいずれかの腫瘍抗原ペプチド:
(1)配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、または
(2)配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつHLA-A24分子と結合して細胞傷害性T細胞により認識され得るペプチド。
【請求項2】
前記(2)におけるペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列の第2位および/またはC末端のアミノ酸残基の、他のアミノ酸残基による置換を含むものである、請求項1記載の腫瘍抗原ペプチド。
【請求項3】
前記(2)におけるペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列の第2位のチロシンの、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンによる置換を含むものである、請求項1記載の腫瘍抗原ペプチド。
【請求項4】
前記(2)におけるペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列のC末端のロイシンの、フェニルアラニン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンによる置換を含むものである、請求項1記載の腫瘍抗原ペプチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の腫瘍抗原ペプチドから選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、腫瘍の治療剤または予防剤。
【請求項6】
腫瘍患者由来の単離された抗原提示能を有する細胞の表面に、HLA-A24分子と請求項1〜4のいずれかに記載の腫瘍抗原ペプチドとの複合体を提示させてなる抗原提示細胞。
【請求項7】
請求項6記載の抗原提示細胞を有効成分として含有する、腫瘍の治療剤。
【請求項8】
HLA-A24分子と請求項1〜4のいずれかに記載の腫瘍抗原ペプチドとの複合体を特異的に認識する細胞傷害性T細胞。
【請求項9】
請求項8記載の細胞傷害性T細胞を有効成分として含有する、腫瘍の治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−44848(P2008−44848A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346734(P2004−346734)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】