説明

Helicobacterpylori付着およびHelicobacterpylori感染を阻害するための組成物ならびに方法

本発明は、細菌感染を処置または予防するための組成物および方法を提供する。Lewisb糖質エピトープを発現する遺伝子組換え細胞もまた、本発明によって提供される。1つの局面において、本発明は、第2のポリペプチドに作動可能に結合された第1のポリペプチドを含有する融合ポリペプチドを提供し、第1のポリペプチドは、a)O−結合型グリカン上で、α1,3/4フコシルトランスフェラーゼ、α1,2フコシルトランスフェラーゼ、β1,3ガラクトシルトランスフェラーゼおよびβ1,3,N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼによってグリコシル化されるか、またはb)N−結合型グリカン上で、α1,3/4フコシルトランスフェラーゼ、α1,2フコシルトランスフェラーゼおよびβ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼによってグリコシル化され;そして、第2のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドの少なくとも1つの領域を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、H.pylori感染を処置または予防するための組成物および方法に関し、そしてより具体的には、H.pylori付着を媒介する糖質エピトープを含む、融合ポリペプチドおよび細胞株を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ヒトは、継続的に、異なる病原体(例えば、ウイルスおよび細菌)に曝される。これらの病原体のいくつかは、種特異的であるが、他の病原体は、多様な種にコロニー形成し得、そして感染し得る。病原体の宿主細胞に対する付着は、ほとんどの感染ならびに多くの細菌、ウイルスおよび細菌毒素について必要条件であり、結合は、異なる糖質エピトープを認識し、そしてそれに対して結合するレクチンによって媒介される。現在、細菌感染に対する最も一般的な処置は、種々の抗生物質の使用である;一般的に使用される抗生物質に耐性である病原性株の出現、およびアレルギーを含む有害作用によって複雑にされ得る処置。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の要旨)
本発明は、H.Pylori付着およびH.Pylori感染を媒介する糖質エピトープが、高密度にて、ムチン型タンパク質骨格上の異なるコア糖鎖によって特異的に発現され得るという知見に一部基づく。上記ポリペプチドは、本明細書中で、HP融合ポリペプチドと称される。
【0004】
1つの局面において、本発明は、α1,3/4フコシルトランスフェラーゼ(FUT3)、α1,2フコシルトランスフェラーゼ(FUT2)およびβ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼによってグリコシル化され、第2のポリペプチドに作動可能に結合された第1のポリペプチドを含む融合ポリペプチドを提供する。必要に応じて、上記第1のポリペプチドは、O−結合型グリカンを付加するために、β1,3,N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼによってさらにグリコシル化される。
【0005】
上記第1のポリペプチドは、例えば、ムチンポリペプチド(例えば、PSGL−1またはその部分)である。好ましくは、上記ムチンポリペプチドは、PSGL−1の細胞外部分である。あるいは、上記第1のポリペプチドは、α糖タンパク質(例えば、α1−酸性糖タンパク質(すなわち、オロソムコイド(orosomuciod)またはAGP)、またはその部分である。
【0006】
上記第2のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドの少なくとも1つの領域を含む。例えば、上記第2のポリペプチドは、重鎖免疫グロブリンポリペプチドの1つの領域を含む。あるいは、上記第2のポリペプチドは、免疫グロブリン重鎖のFC領域を含む。
【0007】
上記HP融合ポリペプチドは、マルチマーである。好ましくは、上記HP融合ポリペプチドは、ダイマーである。
【0008】
HP融合ポリペプチドをコードする核酸、ならびに本明細書中に記載されるHP融合ポリペプチドをコードする核酸を含むベクター、本明細書中に記載されるベクターまたは核酸を含む細胞もまた、本発明に含まれる。あるいは、上記ベクターは、α1,3/4フコシルトランスフェラーゼ(FUT3)をコードする核酸、α1,2フコシルトランスフェラーゼ(FUT2)をコードする核酸およびβ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする核酸をさらに含む。必要に応じて、上記ベクターは、β1,3,N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼをコードする核酸をさらに含む。
【0009】
別の局面において、本発明は、細菌または細菌毒素の細胞に対する付着を阻害する(例えば、低下させる)方法を提供する。付着は、上記細胞と上記HP融合ポリペプチドとを接触させることによって阻害される。上記細胞は、インビボ、インビトロまたはエキソビボで接触される。この細胞は、例えば、胃細胞である。本発明はまた、細菌感染に罹患しているかまたは細菌感染を発症する危険性がある被験体を同定し、そしてその被験体にHP融合ポリペプチドを投与することによって、この被験体において、微生物感染の症状または微生物感染に関連する障害を予防または緩和する方法を特徴とする。上記細菌は、例えば、Helicobacter pyloriである。
【0010】
上記被験体は、哺乳動物(例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ)である。上記被験体は、細菌感染または細菌感染に関連する障害に罹患しているかまたは細菌感染または細菌感染に関連する障害を発症する危険性がある。細菌感染または細菌感染に関連する障害に罹患しているかまたはこれらを発症する危険性がある被験体は、当該分野で公知の方法(例えば、組織の目視試験、または組織もしくは血液に関連する微生物のコロニー形成の検出)によって同定される。微生物感染または微生物感染に関連する障害の症状としては、異常な疼痛、吐き気または嘔吐が挙げられる。Helicobacter pyloriのような細菌感染または細菌感染に関連する障害に罹患している被験体は、当該分野で公知の血液、息または便の試験で同定される。
【0011】
HP融合ポリペプチドを含む薬学的組成物もまた、本発明に含まれる。
【0012】
本発明は、H.pylori付着を媒介する糖質エピトープ(例えば、Le)を発現する遺伝的に改変された細胞および細胞培養物を、さらに提供する。上記細胞は、本明細書中で「LBC」細胞と称される。上記細胞は、β1,3,N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子(βGn−T6)をコードする核酸、β1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ(β3Gal−T5)遺伝子をコードする核酸、α1,3/4フコシルトランスフェラーゼ遺伝子(Fuc−T3)をコードする核酸およびα1,2フコシルトランスフェラーゼ遺伝子(FucT−2)をコードする核酸によって遺伝的に改変される。
【0013】
H.pylori相互作用のインヒビターまたはエンハンサーは、LBCと、H.pylori細菌と、試験化合物とを、LBCとH.pylori細菌とが複合体を形成し得る条件下において接触させることによって同定され、そしてその複合体形成の量が、決定される。上記試験化合物の非存在下と比較した場合の、その試験化合物の存在下における複合体形成の量の低下は、その試験化合物がH.pylori付着のインヒビターであることを示す。対照的に、上記試験化合物の非存在下と比較した場合の、その試験化合物の存在下における複合体形成の量の増加は、その試験化合物がH.pylori付着のエンハンサーであることを示す。
【0014】
本発明はまた、LBCとLeエピトープ結合因子とを接触させ(例えば、H.pylori細菌と試験薬剤とを接触させる)、そしてその薬剤がそのLBCを結合する(例えば、複合体を形成する)か否かを決定することによってLe糖質エピトープを結合する薬剤を同定する方法を、提供する。上記試験化合物の非存在下と比較した場合の、その試験化合物の存在下における複合体形成の量の低下は、試験化合物が、Le糖質エピトープを結合することを示す。
【0015】
本発明はまた、これらのスクリーニング方法によって同定される調節因子化合物、およびこの調節因子を含む薬学的組成物を含む。
【0016】
特に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書中で記載されるものと同様かまたは同じ方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、適切な方法および材料が、以下に記載される。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それらの全体が参考として援用される。矛盾する場合は、本明細書(定義を含む)が、支配する。さらに、この材料、方法、および例は、単なる例示に過ぎず、限定することを意図しない。
【0017】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、および特許請求の範囲から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
本発明は、Helicobacter pylo I(H.pylori)付着を媒介する糖質エピトープが、糖タンパク質(例えば、ムチン型糖タンパク質およびα糖タンパク質)のタンパク質骨格上で、高密度にて特異的に発現され得るという知見に一部基づく。このより高密度の糖質エピトープは、一価のオリゴ糖と比較して、増加した原子価および増加した親和性を生じる。本発明は、H.pylori付着を媒介する糖質エピトープを発現し、H.pylori付着を阻害する化合物を同定するのに有用である遺伝的に改変された細胞をさらに提供する。
【0019】
糖質抗原(シアリルLewis(sialyl Lewis)(例えば、Le、Leb、Le、Le))は、細胞付着分子に対するリガンドである。ヒトの胃病原体であるHelicobacter pyloriは、Lewis抗原またはそれらの表面のリポ多糖(LPS)O−抗原を発現する。
【0020】
H.pyloriは、世界の半分を超える人口に存在するグラム陰性菌である。H.pyloriは、胃粘膜に存在するか、または胃を内張りする(line)上皮細胞に存在する。H.pyloriは、消化性潰瘍疾患、粘膜関連リンパ組織(MALT)のリンパ腫および胃腺癌の発症に関連する。全ての感染した患者が胃癌を発症しない理由は、未知である。異なる複合糖質に対するH.pyloriの結合特性は、広範に研究されており、そして多くの結合特異性が、同定されている。これらのうちの2つは、糖質エピトープである、Lewis(Le)およびシアリル−Lewis(Le)である。
【0021】
その宿主にコロニー形成するために、細菌は、上皮に接着する必要がある。H.pyloriに対する多くの異なるレセプターが、記載されている。それらのレセプターのほとんどが、糖質であり、そして2つ(Lewis B(Le)およびシアリル−Lewis X(SLe)が、特に重要であると考えられる。この接着を媒介する付着因子である、BabA(1)およびSabA(2)は、それぞれ、最近クローニングされた。Leに結合するH.pyloriの能力が、悪性疾患の発症に関する主要な危険因子であり(3〜5)、そしてSLeに対する結合と胃癌との間の相関関係が、示唆されている(2)。数種のモデルは、H.pyloriの接着を研究するために使用されている。1つの成功したストラテジーは、H.pyloriによる感染に対して通常は罹患しにくいマウスにおいて、その糖質レセプターを操作することであった。このモデルにおいて、Leに対する結合は、接着する細菌の数を増大させないが、炎症の重症度を増大させることが、示された(6)。
【0022】
微生物付着の糖質ベースのインヒビターを感染症を処置および/または予防する手段として使用することが、積年の一般的な見解であった。しかし、現在、このストラテジーは、ヒトの臨床試験において、不十分であると証明されている。糖質ベースの一価インヒビターの効力の欠如に関する有力な説明は、糖質リガンドがそのレセプターを結合する通常は低い親和性である。
【0023】
対照的に、本発明は、ムチンベースの組換えタンパク質およびα−酸性糖タンパク質ベースの組換えタンパク質を提供し、これらの組換えタンパク質は、それぞれ、O−結合型グリカン上の血液型LeエピトープおよびN−結合型グリカン上の血液型Leエピトープによって多く置換される。さらに、本発明は、一価の糖質インヒビターを用いる先の研究とは異なり、規定された糖質結合特異性を有するH.pylori株が、本発明の一価Le置換型タンパク質に付着することを示す。
【0024】
さらに、現在、インビトロでの付着研究のために、規定された糖質(例えば、Lewis b(Le))に対して所望の特性を有する利用可能な細胞株は、存在しない。HT−29、AGS、Kato III、HuTu−80およびHep−2は、全て、H.pyloriを用いた付着実験に使用されている細胞である。Takahashiらによる最近の報告(7)は、ムチンを発現するように作製されたマウス胃細胞株の、H.pyloriについてのモデル系としての使用を記載した。しかし、これら全ての細胞株は、それらの糖質の表現型に関して、あまり特徴付けられていない。さらに、胃腸由来の細胞株はまた、膜結合型および分泌型の両方の内因性ムチンを発現し、この内因性ムチンは、この細胞株を、可能なレセプターの概観を得ることについて、より難しくする。したがって、インビトロH.pylori付着研究のため、ならびに細菌付着および細菌感染のインヒビターを同定するための安定な細胞株に対する必要性が、存在する。したがって、さらなる局面において、本発明は、上記糖質抗原Leを発現する遺伝的に改変された細胞を提供する。
【0025】
本発明は、β3Gal−T5、βGn−T6、Fuc−T3およびFucT−2を安定して発現することにより、CHO−K1細胞において、Leを、O−グリカン、N−グリカンおよび糖脂質上に作製することが可能であることを示す。さらに、規定されたH.pylori株を使用して、上記細胞に対するH.pylori接着がBabA特異的であること、およびそのH.pylori接着がLeを必要とすることが、示された。Leを発現する細胞は、異なる組換えタンパク質の一過性の発現によって示されるように、上記エピトープを保有する組換えタンパク質を産生するため、および例えば、H.pyloriを用いた付着実験のために使用され得る。興味深いことに、1つのクローンである1C5は、LeをO−グリカン上に発現するが、LeをN−グリカンまたは糖脂質上に発現しない。その他のクローンである2C2は、LeをO−グリカンおよびN−グリカンならびに糖脂質上に発現する。上記2つのLe発現クローン(1C5はLeを発現しないのに対し、2C2はLeを発現する)の間の細胞表面の染色における興味深い違いもまた、存在する。グリカンのレパートリーにおけるこれらの違いにもかかわらず、これらのクローンの間でH.pyloriの付着性に関して明確な違いは、検出されなかった。これらの細胞は、H.pylori接着に対する宿主細胞の応答および細菌の応答における、分子生物学的研究ならびに細胞生物学的研究のためのインビトロモデルとして有用である。
【0026】
本発明は、複数のシアリル−Lewisエピトープを含む糖タンパク質−免疫グロブリン融合タンパク質(本明細書中では、「HP融合タンパク質またはHP融合ペプチド」と称される)を提供し、これは、細菌または細菌毒素と、細胞との間の付着相互作用をブロック(すなわち、阻害)する際に有用である。好ましくは、上記HP融合タンパク質は、Leエピトープを含む。上記HP融合タンパク質は、細胞に対する細菌または毒素の付着の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、または100%を阻害する。例えば、上記HP融合タンパク質は、胃粘膜に対するH.pyloriの付着を阻害する際に有用である。
【0027】
上記HP融合ペプチドは、野生型シアリル−Leの遊離糖類と比較した場合、微生物または毒素の付着を阻害する際に、糖質分子を基準にして、より有効である。上記HP融合ペプチドは、等量の野生型シアリル−Le決定基の遊離糖類と比較した場合、2倍、4倍、10倍、20倍、50倍、80倍、100倍またはそれ以上の数の細菌または細菌毒素を阻害する。
【0028】
本発明のHP融合タンパク質は、シアリルLewis抗原に対して特異的なエピトープを保有する。例えば、上記HP融合タンパク質は、Leエピトープ、Leエピトープ、LeエピトープまたはLeエピトープのいずれかを保有する。好ましくは、HP融合タンパク質は、Leエピトープを保有する。あるいは、HP融合体は、2つのシアリルLewis抗原を保有する。例えば、HP融合タンパク質は、LeエピトープおよびLeエピトープの両方を保有する。あるいは、HP融合タンパク質は、4種全てのエピトープ(すなわち、A、B、XおよびY)を保有する。これらのシアリルLewis抗原は、O−結合される。あるいは、これらのシアリルLewis抗原は、N−結合される。必要に応じて、上記融合タンパク質は、O−結合されたシアリルLewis抗原およびN−結合されたシアリルLewis抗原を含む。
【0029】
(融合ポリペプチド)
種々の局面において、本発明は、糖タンパク質の少なくとも一部(例えば、ムチンポリペプチドまたはα−グロブリンポリペプチド)を含み、第2のポリペプチドに作動可能に結合された、第1のポリペプチドを含む融合タンパク質を提供する。本明細書中で使用される場合、「融合タンパク質」または「キメラタンパク質」は、非ムチンポリペプチドに作動可能に結合された糖タンパク質ポリペプチドの少なくとも一部を含む。
【0030】
「ムチンポリペプチド」とは、ムチンドメインを有するポリペプチドをいう。上記ムチンポリペプチドは、1個、2個、3個、5個、10個、20個またはそれ以上のムチンドメインを有する。上記ムチンポリペプチドは、O−グリカンで置換されたアミノ酸配列によって特徴付けられる任意の糖タンパク質である。例えば、ムチンポリペプチドは、2個おきのアミノ酸もしくは3個おきのアミノ酸がセリンまたはスレオニンであるアミノ酸を有する。上記ムチンポリペプチドは、分泌タンパク質である。あるいは、上記ムチンポリペプチドは、細胞表面タンパク質である。
【0031】
ムチンドメインは、スレオニン、セリンおよびプロリンのアミノ酸が豊富であり、それらのアミノ酸において、オリゴ糖が、N−アセチルガラクトサミンを介してヒドロキシアミノ酸に結合する(O−グリカン)。ムチンドメインは、O−結合型グリコシル化部位を含むか、あるいはO−結合型グリコシル化部位からなる。ムチンドメインは、1、2、3、5、10、20、50、100またはそれ以上のO−結合型グリコシル化部位を有する。あるいは、上記ムチンドメインは、N−結合型グリコシル化部位を含むか、あるいはN−結合型グリコシル化部位からなる。ムチンポリペプチドは、その質量の50%、60%、80%、90%、95%または100%がグリカンに起因する。ムチンポリペプチドは、MUC遺伝子(すなわち、MUC1、MUC2、MUC3など)によってコードされる任意のポリペプチドである。あるいは、ムチンポリペプチドは、P−セレクチン糖タンパク質リガンド1(PSGL−1)、CD34、CD43、CD45、CD96、GlyCAM−1、MAdCAM、または赤血球細胞グリコホリンである。好ましくは、上記ムチンは、PSGL−1である。
【0032】
「α−グロブリンポリペプチド」とは、血清糖タンパク質をいう。α−グロブリンとしては、例えば、肺および肝臓により生成される酵素、ならびにハプトグロビン(これは、ヘモグロビンに一緒に結合する)が挙げられる。α−グロブリンは、αグロブリンまたはαグロブリンである。αグロブリンは、大部分は、αアンチトリプシン(肺および肝臓によって生成される酵素)である。αグロブリン(これは、血清ハプトグロビンを含む)は、ヘモグロビンを結合して、腎臓によるその排泄を防止するタンパク質である。他のαグロブリンは、炎症、組織損傷、自己免疫疾患または特定の癌の結果として生成される。好ましくは、α−グロブリンは、α−1酸糖タンパク質(すなわち、オロソムコイド)である。
【0033】
「非ムチンポリペプチド」とは、その質量の少なくとも40%未満がグルカンに起因するポリペプチドをいう。
【0034】
本発明のHP融合タンパク質において、上記ムチンポリペプチドは、ムチンタンパク質の全てまたは一部に対応する。HP融合タンパク質は、ムチンタンパク質の少なくとも一部を含む。「少なくとも一部」とは、ムチンポリペプチドが、少なくとも1つのムチンドメイン(例えば、O結合型グリコシル化部位)を含むことを意味する。上記ムチンタンパク質は、上記ポリペプチドの細胞外部分を含む。例えば、上記ムチンポリペプチドは、PSGL−1の細胞外部分を含む。
【0035】
αグロブリンポリペプチドは、αグロブリンポリペプチドの全てまたは一部に対応し得る。HP融合タンパク質は、αグロブリンポリペプチドの少なくとも一部を含む。「少なくとも一部」とは、αグロブリンポリペプチドが少なくとも1つのN−結合型グリコシル化部位を含むことを意味する。
【0036】
上記第1のポリペプチドは、1つ以上の血液型トランスフェラーゼによってグリコシル化される。上記第1のポリペプチドは、2個、3個、5個またはそれ以上の血液型トランスフェラーゼによってグリコシル化される。グリコシル化は、連続的または継続的である。あるいは、グリコシル化は、同時またはランダム(すなわち、特定の順序がない)である。例えば、第1のポリペプチドは、α1,3/4フコシルトランスフェラーゼ(FUT3)、α1,2フコシルトランスフェラーゼ(FUT2)およびβ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼによってグリコシル化される。必要に応じて、第1のポリペプチドは、O−結合型グリカンを付加するために、β1,3,N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼによってさらにグリコシル化される。
【0037】
α1,3/4フコシルトランスフェラーゼポリペプチドおよびα,3/4フコシルトランスフェラーゼポリペプチドをコードする核酸の適切な供給源としては、それぞれ、GenBankアクセッション番号NP_000140およびNM_000149、GenBankアクセッション番号BAA13941およびD89324、GenBankアクセッション番号BAA13942およびD89325が挙げられ、そしてこれらは、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0038】
α1,2フコシルトランスフェラーゼポリペプチドおよびα1,2フコシルトランスフェラーゼポリペプチドをコードする核酸の適切な供給源としては、それぞれ、GenBankアクセッション番号NP_000502およびNM_000511が挙げられ、そしてこれらは、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0039】
β1,3ガラクトシルトランスフェラーゼポリペプチドおよびβ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼポリペプチドをコードする核酸の適切な供給源としては、それぞれ、GenBankアクセッション番号NP_058584およびNM_016888が挙げられ、そしてこれらは、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0040】
β1,3,N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼポリペプチドおよびβ1,3,N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼポリペプチドをコードする核酸の適切な供給源としては、それぞれ、GenBankアクセッション番号NP_653278およびNM_144677、GenBankアクセッション番号NP_945193およびNM_198955が挙げられ、そしてこれらは、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0041】
上記第1のポリペプチドは、ネイティブ(すなわち、野生型)のポリペプチドより多くグリコシル化される。上記第1のポリペプチドは、その質量の40%、50%、60%、70%、80%、90%、または95%より多くが糖質に起因する。
【0042】
上記融合タンパク質において、用語「作動可能に結合された」とは、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドが、第1のポリペプチドのO−結合型グリコシル化および/またはN−結合型グリコシル化を可能にする様式で、(最も代表的には、ペプチド結合のような共有結合を介して)化学的に結合されていること示すことを意図する。融合ポリペプチドをコードする核酸を言及するために使用される場合、用語「作動可能に結合された」とは、ムチンまたはαグロブリンポリペプチドをコードする核酸および非ムチンポリペプチドをコードする核酸が、互いにインフレームで融合されていることを意味する。上記非ムチンポリペプチドは、ムチンもしくはαグロブリンポリペプチドのN末端またはC末端に融合され得る。
【0043】
上記HP融合タンパク質は、1つ以上のさらなる部分に結合される。例えば、上記HP融合タンパク質は、GST融合タンパク質にさらに結合され得、ここで、上記HP融合タンパク質の配列は、GST(すなわち、グルタチオンS−トランスフェラーゼ)配列のC末端に融合される。このような融合タンパク質は、上記HP融合タンパク質の精製を容易にし得る。あるいは、上記HP融合タンパク質は、固体支持体にさらに結合され得る。種々の固体支持体が、当業者に公知である。このような組成物は、抗血液型抗体の除去を容易にする。例えば、上記HP融合タンパク質は、例えば、金属化合物、シリカ、ラテックス、ポリマー材料から作製される粒子;マイクロタイタープレート;ニトロセルロースもしくはナイロン、またはそれらの組み合わせに結合される。固体支持体に結合された上記HP融合タンパク質は、生物学的サンプル(例えば、胃組織、血液または血漿)から微生物または細菌毒素を除去するための吸収体として使用される。
【0044】
上記融合タンパク質は、異種シグナル配列(すなわち、ムチン核酸またはグロブリン核酸によってコードされるポリペプチドに存在しないポリペプチド配列)をそのN末端に含む。例えば、ムチンまたはα−糖タンパク質のネイティブのシグナル配列は、除去され、そして別のタンパク質由来のシグナル配列と置換される。特定の宿主細胞(例えば、哺乳動物宿主細胞)において、ポリペプチドの発現および/または分泌は、異種シグナル配列の使用によって増加され得る。
【0045】
本発明のキメラタンパク質または融合タンパク質は、標準的な組換えDNA技術によって生成され得る。例えば、異なるポリペプチド配列をコードするDNAフラグメントは、従来の技術に従って、例えば、ライゲーションのための平滑末端またはスタガー末端(stagger−ended termini)、適切な末端を提供するための制限酵素消化、適切な場合、付着末端の充填、所望しない結合を回避するためのアルカリホスファターゼ処理、および酵素的ライゲーションを用いることによって、一緒にインフレームで結合される。上記融合遺伝子は、自動化DNA合成機を含む従来の技術によって合成される。あるいは、遺伝子フラグメントのPCR増幅が、2つの連続した遺伝子フラグメント(これは後に、キメラ遺伝子配列を生成するように、アニーリングされそして再増幅され得る)の間の相補オーバーハング(overhang)を生じるアンカープライマーを使用して実施される(例えば、Ausubelら(編)、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley & Sons,1992を参照のこと)。さらに、融合部分(例えば、免疫グロブリン重鎖のFc領域)をコードする多くの発現ベクターが市販されている。ムチンをコードする核酸またはα−グロブリンをコードする核酸は、このような発現ベクターにクローニングされ得、その結果、この融合部分が免疫グロブリンタンパク質にインフレームで結合される。
【0046】
HP融合ポリペプチドは、オリゴマー(例えば、ダイマー、トリマーまたはペンタマー)として存在し得る。好ましくは、HP融合ポリペプチドは、ダイマーである。
【0047】
上記第1のポリペプチド、および/または第1のポリペプチドをコードする核酸は、当該分野で公知のムチンコード配列またはα−グロブリンコード配列を用いて構築される。ムチンポリペプチドおよびムチンポリペプチドをコードする核酸の適切な供給源としては、それぞれ、GenBankアクセッション番号NP663625およびNM145650、GenBankアクセッション番号CAD10625およびAJ417815、GenBankアクセッション番号XP140694およびXM140694、GenBankアクセッション番号XP006867およびXM006867ならびにGenBankアクセッション番号NP00331777およびNM009151が挙げられ、そしてこれらは、その全体が本明細書中に参考として援用される。α−グロブリンポリペプチドおよびα−グロブリンポリペプチドをコードする核酸の適切な供給源としては、ぞれぞれ、GenBankアクセッション番号AAH26238およびBC026238;NP000598;ならびにBC012725、GenBankアクセッション番号AAH12725およびBC012725、ならびにGenBankアクセッション番号NP44570およびNM053288が挙げられ、そしてこれらは、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0048】
上記ムチンポリペプチド部分は、増大した糖質含量(非変異配列と比較して)をもたらす、天然に存在するムチン配列(野生型)における変異を有する改変体ムチンポリペプチドとして提供される。例えば、上記改変体ムチンポリペプチドは、野生型ムチンと比較して、さらなるO−結合型グリコシル化部位を含む。あるいは、上記改変体ムチンポリペプチドは、野生型ムチンポリペプチドと比較して、増大した数のセリン残基、スレオニン残基、またはプロリン残基を生じるアミノ酸配列変異を含む。この増大した糖質含量は、当業者に公知の方法によって、ムチンのタンパク質:糖質の比を決定することによって評価され得る。
【0049】
同様に、上記α−グロブリンポリペプチド部分は、増大した糖質含量(非変異配列と比較して)をもたらす、天然に存在するα−グロブリン配列(野生型)における変異を有する、改変体α−グロブリンポリペプチドとして提供される。例えば、上記改変体α−グロブリンポリペプチドは、野生型α−グロブリンと比較して、さらなるN−結合型グリコシル化部位を含んだ。
【0050】
あるいは、上記ムチンポリペプチド部分またはα−グロブリンポリペプチド部分は、タンパク質分解に対する、より耐性(非変異配列と比較して)のムチン配列またはα−グロブリン配列をもたらす、天然に存在するムチン配列(野生型)または天然に存在するα−グロブリン配列(野生型)における変異を有する改変体ムチンポリペプチドまたは改変体α−グロブリンポリペプチドとして提供される。
【0051】
上記第1のポリペプチドは、全長PSGL−1を含む。あるいは、上記第1のポリペプチドは、全長未満のPSGL−1ポリペプチド(例えば、PSGL−1の細胞外部分)を含む。例えば、上記第1のポリペプチドは、400未満のアミノ酸長(例えば、300アミノ酸長、250アミノ酸長、150アミノ酸長、100アミノ酸長、50アミノ酸長、または25アミノ酸長以下)である。
【0052】
上記第1のポリペプチドは、全長α酸性−グロブリンを含む。あるいは、上記第1のポリペプチドは、全長未満のα酸性グロブリンポリペプチドを含む。例えば、上記第1のポリペプチドは、200未満のアミノ酸長(例えば、150アミノ酸長、100アミノ酸長、50アミノ酸長または25アミノ酸長以下)である。
【0053】
上記第2のポリペプチドは、好ましくは可溶性である。いくつかの実施形態において、上記第2のポリペプチドは、上記HP融合ポリペプチドと、第2のムチンポリペプチドまたは第2のαグロブリンポリペプチドとの結合を容易にする配列を含む。上記第2のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドの少なくとも1つの領域を含む。「少なくとも1つの領域」とは、免疫グロブリン分子の任意の部分(例えば、軽鎖、重鎖、FC領域、Fab領域、Fv領域またはそれらの任意のフラグメント)を含むことを意味する。免疫グロブリン融合ポリペプチドは、当該分野で公知であり、そして例えば、米国特許第5,516,964号;同第5,225,538号;同第5,428,130号;同第5,514,582号;同第5,714,147号;および同第5,455,165号に記載される。
【0054】
上記第2のポリペプチドは、全長免疫グロブリンポリペプチドを含む。あるいは、上記第2のポリペプチドは、全長未満の免疫グロブリンポリペプチド(例えば、重鎖、軽鎖、Fab、Fab、FvまたはFc)を含む。好ましくは、上記第2のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドの重鎖を含む。より好ましくは、上記第2のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドのFc領域を含む。
【0055】
上記第2のポリペプチドは、野生型免疫グロブリン重鎖のFc領域のエフェクター機能より低いエフェクター機能を有する。あるいは、上記第2のポリペプチドは、野生型免疫グロブリン重鎖のFc領域と同様か、またはより大きいエフェクター機能を有する。Fcエフェクター機能としては、例えば、Fcレセプター結合、補体結合およびT細胞枯渇活性が挙げられる(例えば、米国特許第6,136,310号を参照のこと)。T細胞枯渇活性、Fcエフェクター機能、および抗体安定性をアッセイする方法は、当該分野で公知である。1つの実施形態において、上記第2のポリペプチドは、Fcレセプターに対して低い親和性を有するか、または全く親和性を有さない。あるいは、上記第2のポリペプチドは、補体タンパク質C1qに対して低い親和性を有するか、または全く親和性を有さない。
【0056】
本発明の別の局面は、ムチンポリペプチド、またはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログをコードする核酸を含むベクター、好ましくは、発現ベクターに関する。そのベクターは、免疫グロブリンポリペプチド、またはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログをコードする核酸に作動可能に結合された、ムチンポリペプチドまたはαグロブリンポリペプチドをコードする核酸を含む。さらに、そのベクターは、α1,3フコシルトランスフェラーゼのような血液型トランスフェラーゼをコードする核酸を含む。この血液型トランスフェラーゼは、HP融合タンパク質のムチン部分またはα−グロブリン部分のペプチド骨格上のシアリルLewis決定基の付加を促進する。本明細書中で使用される場合、用語「ベクター」とは、別の核酸(これに対してそのベクターが結合される)を輸送し得る核酸分子をいう。ベクターの1つの型は、「プラスミド」であり、プラスミドとは、さらなるDNAセグメントが結合され得る環状の二本鎖DNAループをいう。ベクターの別の型は、ウイルスベクターであり、ここでさらなるDNAセグメントは、そのウイルスゲノムに結合される。特定のベクターは、これが導入される宿主細胞において自己複製し得る(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよび哺乳動物のエピソームベクター)。他のベクター(例えば、哺乳動物の非エピソームベクター)は、宿主細胞に導入される際に、宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより、宿主ゲノムとともに複製され得る。さらに、特定のベクターは、これらが作動可能に結合される遺伝子の発現を指向し得る。このようなベクターは、本明細書中で「発現ベクター」といわれる。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、しばしば、プラスミドの形態である。本明細書中において、「プラスミド」および「ベクター」は、プラスミドがベクターの最も一般的に使用される形態であるので、交換可能に使用される。しかし、本発明は、等価な機能を提供する、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)のような他の形態の発現ベクターを含むことが意図される。
【0057】
本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞において核酸の発現に適切な形態で本発明の核酸を含み、これは、この組換え発現ベクターが、発現のために使用される宿主細胞に基づいて選択される1つ以上の調節配列を含み、これは、発現される核酸配列に作動可能に結合されることを意味する。組換え発現ベクターにおいて、「作動可能に結合される」とは、(例えば、インビトロ転写/翻訳系において、またはベクターが宿主細胞内に導入される場合には宿主細胞において)ヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で、その目的のヌクレオチド配列が、調節配列に結合されることを意味することが意図される。
【0058】
用語「調節配列」は、プロモーター、エンハンサー、および他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むことが意図される。このような調節配列は、例えば、Goeddel,GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOZY 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)に記載される。調節配列は、多くの型の宿主細胞におけるヌクレオチド配列の構成的発現を方向付けるものおよび特定の宿主細胞のみにおいてヌクレオチド配列の発現を方向付けるもの(例えば、組織特異的調節配列)を含む。発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の選択、所望されるタンパク質の発現のレベルなどのような因子に依存し得ることが、当業者に理解される。本発明の発現ベクターは、宿主細胞中に導入され、それにより本明細書中に記載されるような核酸によりコードされる融合タンパク質もしくは融合ペプチド(例えば、HP融合ポリペプチド、HP融合ポリペプチドの変異形態など)を含むタンパク質またはペプチドを産生し得る。
【0059】
本発明の組換え発現ベクターが、原核細胞または真核細胞におけるHP融合ポリペプチドの発現のために設計され得る。例えば、HP融合ポリペプチドは、Escherichia coliのような細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用する)、酵母細胞または哺乳動物細胞で発現され得る。適切な宿主細胞は、Goeddel,GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)でさらに考察される。あるいは、上記組換え発現ベクターは、例えば、T7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを使用して、インビトロで転写かつ翻訳され得る。
【0060】
原核生物におけるタンパク質の発現は、Escherichia coliにおいて、融合タンパク質または非融合タンパク質のいずれかの発現を指向する構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターを含むベクターを用いて最も頻繁に行われる。融合ベクターは、多くのアミノ酸をそのベクター中にコードされるタンパク質に(通常は、組換えタンパク質のアミノ末端に)加える。このような融合ベクターは、代表的に、3つの目的に寄与する:(i)組換えタンパク質の発現を増大するため;(ii)組換えタンパク質の可溶性を上昇させるため;および(iii)アフィニティー精製においてリガンドとして作用することにより、組換えタンパク質の精製を補助するため。しばしば、融合発現ベクターにおいて、タンパク質分解性切断部位は、融合部分と組換えタンパク質との接合部において導入され、融合部分からの組換えタンパク質の分離を可能にし、その後、融合タンパク質の精製が続く。このような酵素およびその同族認識配列(cognate recognition sequence)としては、第Xa因子、トロンビンおよびエンテロキナーゼが挙げられる。代表的な融合発現ベクターとしては、それぞれ、標的の組換えタンパク質に対し、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、またはプロテインAを融合する、pGEX(Pharmacia Biotech Inc;SmithおよびJohnson,1988.Gene 67:31−40)、pMAL(New England Biolabs,Beverly,Mass.)およびpRIT5(Pharmacia,Piscataway,N.J.)が挙げられる。
【0061】
適切な誘導性非融合E.coli発現ベクターの例としては、pTrc(Amrannら,(1988)Gene 69:301−315)およびpET 11d(Studierら,GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)60−89)が挙げられる。
【0062】
E.coliにおける組換えタンパク質発現を最大にする1つのストラテジーは、タンパク質分解的に組換えタンパク質を切断する能力が損なわれた宿主細菌においてタンパク質を発現することである。例えば、Gottesman,GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)119−128を参照のこと。別のストラテジーは、発現ベクターに挿入されるべき核酸の核酸配列を変え、それによって各アミノ酸についての個々のコドンがE.coliにおいて優先的に利用されるコドンとなるようにすることである(例えば、Wadaら,1992.Nucl.Acids Res.20:2111−2118を参照のこと)。このような本発明の核酸配列の変更は、標準的なDNA合成技術によって実行され得る。
【0063】
HP融合ポリペプチド発現ベクターは、酵母発現ベクターである。酵母Saccharomyces cerivisaeにおける発現のためのベクターの例としては、pYepSec1(Baldariら,1987.EMBO J.6:229−234)、pMFa(KurjanおよびHerskowitz,1982.Cell 30:933−943)、pJRY88(Schultzら,1987.Gene 54:113−123)、pYES2(Invitrogen Corporation,San Diego,Calif.)およびpicZ(InVitrogen Corp,San Diego,Calif.)が挙げられる。
【0064】
あるいは、HP融合ポリペプチドは、バキュロウイルス発現ベクターを用いて、昆虫細胞において発現され得る。培養昆虫細胞(例えば、SF9細胞)におけるタンパク質の発現のための利用可能なバキュロウイルスベクターとしては、pAc系列(Smithら,1983.Mol.Cell.Biol.3:2156−2165)およびpVL系列(LucklowおよびSummers,1989.Virology 170:31−39)が挙げられる。
【0065】
本発明の核酸は、哺乳動物発現ベクターを使用して、哺乳動物細胞において発現される。哺乳動物発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed,1987.Nature 329:840)およびpMT2PC(Kaufmanら,1987.EMBO J.6:187−195)が挙げられる。哺乳動物細胞において使用される場合、発現ベクターの制御機能は、しばしば、ウイルス調節エレメントによって提供される。例えば、一般に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス、およびシミアンウイルス40に由来する。原核細胞および真核細胞の両方についての他の適切な発現系については、例えば、Sambrookら,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL.第2版,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989の第16章および第17章を参照のこと。
【0066】
本発明の別の局面は、本発明の組換え発現ベクターが導入されている宿主細胞に関する。用語「宿主細胞」および「組換え宿主細胞」は、本明細書中で、相互交換可能に使用される。このような用語は、特定の目的細胞だけでなく、このような細胞の子孫または潜在的な子孫をも指すことが理解される。続く産生において、変異または環境的影響のいずれかに起因して特定の改変が起こり得るので、実際には、このような子孫は、親細胞と同一でない場合があるが、なおも、本明細書中で使用される用語の範囲内に含まれる。
【0067】
宿主細胞は、任意の原核細胞または任意の真核細胞であり得る。例えば、HP融合ポリペプチドは、E.coliのような細菌細胞、昆虫細胞、酵母細胞または哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞)において発現され得る。他の適切な宿主細胞は、当業者に公知である。
【0068】
ベクターDNAは、従来の形質転換技術または従来のトランスフェクション技術を介して、原核細胞または真核細胞に導入され得る。本明細書中で使用される場合、用語「形質転換」および「トランスフェクション」は、外来核酸(例えば、DNA)の宿主細胞への導入のための、分野で認められた(art−recognized)種々の技術をいうことを意図する。これらの技術としては、リン酸カルシウム共沈殿または塩化カルシウム共沈殿、DEAE−デキストラン媒介性トランスフェクション、リポフェクション、またはエレクトロポレーションが挙げられる。宿主細胞を形質転換するかまたはトランスフェクトするための適した方法は、Sambrookら(MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL.第2版,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989)および他の研究室マニュアルにおいて見出され得る。
【0069】
哺乳動物細胞の安定なトランスフェクションのために、使用される発現ベクターおよびトランスフェクト技術に依存して、細胞の小さい画分のみが、外来DNAをそれらのゲノム中に組込み得ることが公知である。これらの組込み物を同定し、選択するために、一般的に、選択マーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子が、目的の遺伝子とともに宿主細胞に導入される。種々の選択マーカーとしては、薬物(例えば、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキサート)に対する耐性を与える選択マーカーが挙げられる。選択マーカーをコードする核酸が、上記融合ポリペプチドをコードする同一のベクターにより宿主細胞に導入され得るかまたは別個のベクターにより導入され得る。導入された核酸で安定にトランスフェクトされた細胞は、薬物選択(例えば、選択マーカー遺伝子を組み込んだ細胞が、生存するのに対して、他の細胞は死滅する)により同定され得る。
【0070】
本発明の宿主細胞(例えば、培養された原核宿主細胞または真核宿主細胞)は、HP融合ポリペプチドを産生する(すなわち、発現する)ために使用され得る。従って、本発明はさらに、本発明の宿主細胞を使用してHP融合ポリペプチドを産生する方法を提供する。1つの実施形態において、その方法は、HP融合ポリペプチドが産生されるような、適した培地中での本発明の宿主細胞(HP融合ポリペプチドをコードする組換え発現ベクターが導入されている)の培養を包含する。別の実施形態において、その方法はさらに、培地または宿主細胞からのHP融合ポリペプチドの単離を包含する。
【0071】
上記HP融合ポリペプチドは、従来の条件(例えば、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動など)に従って単離され得、そして精製され得る。例えば、上記免疫グロブリン融合タンパク質は、溶液を、固定化したプロテインAまたはプロテインG(これらは、この融合タンパク質のFc部分に選択的に結合する)を含むカラムに通すことによって精製され得る。例えば、Reis,K.J.ら、J.Immunol.132:3098〜3102(1984);PCT出願公開番号WO87/00329を参照のこと。上記融合ポリペプチドは、カオトロピック塩を用いた処理、または酢酸水溶液(1M)を用いた溶出により溶出され得る。
【0072】
あるいは、本発明に従うHP融合ポリペプチドは、当該分野で公知の方法を使用して化学的に合成され得る。種々のタンパク質合成方法が、当該分野で一般的であり、その方法としては、ペプチド合成機を使用する合成が挙げられる。ポリペプチドの化学的合成は、例えば、以下に記載される。例えば、Peptide Chemistry、A Practical Textbook、Bodasnsky編、Springer−Verlag、1998;Merrifield、Science 232:241〜247(1986);Baranyら、Intl.J.Peptide Protein Res.30:705〜739(1987);Kent、Ann.Rev.Biochem.57:957〜989(1988)およびKaiserら、Science 243:187〜198(1989)を参照のこと。上記ポリペプチドは、標準的なペプチド精製技術を使用して、それらのポリペプチドが化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まないように精製される。用語「化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」とは、そのペプチドの合成に関与する化学的前駆体または他の化学物質からそのペプチドが分けられるペプチドの調製を含む。1つの実施形態において、用語「化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」とは、約30%未満(乾燥重量による)の化学的前駆体または非ペプチド化学物質を有するペプチドの調製、より好ましくは約20%未満の化学的前駆体または非ペプチド化学物質を有するペプチドの調製、よりさらに好ましくは約10%未満の化学的前駆体または非ペプチド化学物質を有するペプチドの調製、そして最も好ましくは約5%未満の化学的前駆体または非ペプチド化学物質を有するペプチドの調製を含む。
【0073】
ポリペプチドの化学合成は、改変されたアミノ酸またはD―アミノ酸を含む非天然のアミノ酸および他の小さな有機分子の取り込みを促進する。ペプチド中の1つ以上のL−アミノ酸の対応するD−アミノ酸アイソフォームによる置換は、酵素的加水分解に対するペプチドの抵抗性を増加させるため、および生物学的に活性なペプチドの1つ以上の特性(すなわち、レセプターの結合、機能的な潜在性または作用の持続性)を増強するために使用され得る。例えば、Dohertyら,1993.J.Med.Chem.36:2585−2594;Kirbyら,1993.J.Med.Chem.36:3802−3808;Moritaら,1994.FEBS Lett.353:84−88;Wangら,1993.Int.J.Pept.Protein Res.42:392−399;FauchereおよびThiunieau,1992.Adv.Drug Res.23:127−159を参照のこと。
【0074】
ペプチド配列の中への共有結合性架橋の導入は、立体配置的かつトポグラフィックにそのポリペプチド骨格を束縛し得る。このストラテジーは、増加した潜在性、増加した選択性および増加した安定性を備える上記融合ポリペプチドのペプチドアナログを開発するために使用され得る。環状ペプチドの立体配置的エントロピーがその線形の対応物より低いので、特異的な立体配置の受け入れは、非環状アナログより環状アナログに対するエントロピーにおいて、より小さな減少が生じ得、それにより、より好まれる結合のための自由エネルギーを生じる。大環状化は、ペプチドのN末端とペプチドのC末端との間のアミド結合の形成、および側鎖とN末端もしくはC末端との間のアミド結合の形成(例えば、pH8.5でKFe(CN)による)(Samsonら,Endocrinology,137:5182−5185(1996))、あるいは2つのアミノ酸側鎖間のアミド結合の形成によりしばしば遂行される。例えば、DeGrado,Adv Protein Chem,39:51−124(1988)を参照のこと。ジスルフィド架橋もまた、それらの柔軟性を減少させるために線形配列へ導入される。例えば、Roseら,Adv Protein Chem,37:1−109(1985);Mosbergら,Biochem Biophys Res Commun,106:505−512(1982)を参照のこと。さらに、システイン残基のペニシラミン(Pen、3−メルカプト−(D)バリン)による置換は、いくつかのオピオイド−受容体相互作用の選択性を増加させるために使用された。LipkowskiおよびCarr,Peptides:Synthesis,Structures,and Applications,Gutte編,Academic Press pp.287−320(1995)。
【0075】
(細菌付着を低下させる方法)
細菌または細菌毒素の細胞への付着は、組織または細胞と本発明のHP融合ペプチドとを接触させることによって阻害される(例えば、低下する)。あるいは、付着は、HP融合ペプチドをコードする核酸を細胞に導入することによって阻害される。微生物は、例えば、細菌、ウイルスまたは真菌である。細菌は、例えば、Helicobacter pyloriである。処置される組織としては、腸組織、心臓組織、肺組織、真皮組織、または肝臓組織が挙げられる。例えば、上記組織は、胃粘膜組織である。細胞としては、例えば、胃細胞、心臓細胞または肺細胞が挙げられる。
【0076】
付着の阻害は、罹患組織の細菌のコロニー形成の低下によって特徴付けられる。組織または細胞は、HPペプチドと直接接触される。あるいは、インヒビターが、被験体に全身投与される。HPペプチドは、細菌付着を低下させる(例えば、阻害する)のに十分な量で投与される。あるいは、付着は、当該分野で公知の標準的な付着アッセイを使用して測定される。
【0077】
上記方法は、種々の微生物感染または微生物感染に関連する疾患の症状を緩和するのに有用である。この微生物感染は、例えば、細菌感染、ウイルス感染または真菌感染である。細菌感染は、例えば、Helicobacter pylori感染である。微生物感染(例えば、Helicobacter pylori感染)に関連する疾患としては、例えば、消化酸疾患(例えば、胃潰瘍および十二指腸潰瘍、胃萎縮、胃MALTリンパ腫および胃腺癌)が挙げられる。
【0078】
本明細書中に記載される方法は、本明細書中に記載されるような微生物感染または障害の1つ以上の症状の重篤度の減少またはこの症状の緩和をもたらす。微生物感染または微生物感染に関連する障害は、代表的には、標準的な方法を使用して医師によって、診断され、そして/またはモニタリングされる。
【0079】
Helicobacter pylori感染およびHelicobacter pylori感染に関連する障害の症状としては、例えば、異常な不快さ、体重減少、食欲不振、鼓脹、げっぷ、吐き気または嘔吐が挙げられる。Helicobacter pylori感染は、血液、息、便および組織の試験を使用して診断される。潰瘍は、例えば、上部GIシリーズまたは内視鏡で診断される。胃MALTリンパ腫および胃腺癌は、例えば、生検によって組織病理学的に診断される。
【0080】
上記被験体は、例えば、任意の哺乳動物(例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ)である。上記処置は、微生物感染または障害の診断の前に施される。あるいは、処置は、被験体が感染を有した後に施される。
【0081】
処置の有効性は、特定の細菌感染または微生物感染に関連する障害を診断または処置するための任意の公知の方法と関連して決定される。微生物感染または障害の1つ以上の症状の緩和は、上記化合物が臨床的利益を与えることを示す。
【0082】
(HP融合ポリペプチドまたはそれをコードする核酸を含む薬学的組成物)
本発明のHP融合タンパク質またはこれらの融合タンパク質をコードする核酸分子(本明細書中で、「治療剤」または「活性化合物」と称される)、ならびにそれらの誘導体、フラグメント、アナログおよびホモログは、投与に適切な薬学的組成物に組み込まれ得る。このような組成物は、代表的に、上記核酸分子、タンパク質、または抗体、および薬学的に受容可能なキャリアを含む。本明細書中で使用される場合、「薬学的に受容可能なキャリア」とは、医薬投与に適合性の、任意および全ての溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含むことを意図する。適切なキャリアは、当該分野で標準的な参考テキストであるRemington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版(これは、本明細書中に参考として援用される)に記載される。このようなキャリアおよび希釈剤の好ましい例としては、水、生理食塩水、フィンガー溶液、デキストロース溶液および5%ヒト血清アルブミンが挙げられるが、これらに限定されない。リポソームおよび非水性ビヒクル(例えば、不揮発性油)もまた使用され得る。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は、当該分野で周知である。任意の従来の媒体または薬剤が活性化 合物と適合性である限り、上記組成物におけるその使用が企図される。補助活性化合物もまた、上記組成物に組み込まれ得る。
【0083】
本明細書中に開示される活性剤はまた、リポソームとして処方され得る。リポソームは、当該分野で公知の方法(例えば、Epsteinら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:3688(1985);Hwangら,Proc.Natl Acad.Sci.USA,77:4030(1980);ならびに米国特許第4,485,045号および同第4,544,545号に記載される方法)によって調製される。増大した循環時間を有するリポソームは、米国特許第5,013,556号に開示される。
【0084】
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG−誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む脂質組成を用いて、逆相エバポレーション法によって生成され得る。リポソームは、所望の直径を有するリポソームを生成するために、規定された孔サイズのフィルターを通して押し出される。
【0085】
本発明の薬学的組成物は、その意図された投与経路と適合するように処方される。投与経路の例としては、非経口投与(例えば、静脈、皮内、皮下)、経口投与(例えば、吸入)、経皮投与(例えば、局所)、経粘膜投与および経腸投与が挙げられる。非経口適用、経皮適用または皮下適用に使用される溶液または懸濁液は、以下の成分を含み得る:滅菌希釈剤(例えば、注射用水、食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒);抗菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA);緩衝液(例えば、酢酸、クエン酸またはリン酸);および張度の調整のための薬剤(例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース)。pHは、酸または塩基(例えば、塩酸または水酸化ナトリウム)を用いて調整され得る。非経口調製物は、ガラス製またはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは複数回用量バイアル中に入れられ得る。
【0086】
注射用用途に適切な薬学的組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)、または分散液、および滅菌注射用溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。静脈内投与について、滅菌キャリアとしては、生理食塩水、静菌水(bacteriostatic water)、Cremophor ELTM(BASF、Parsippany,N.J.)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において、上記組成物は、無菌であり、かつ容易にシリンジ中に(syringeability)存在する程度まで、流動性でなければならない。その組成物は、製造条件下および貯蔵条件下で安定でなければならず、かつ細菌および真菌のような微生物の夾雑作用に対して保護されなければならない。キャリアは、溶媒または分散媒体であり、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、ポリプロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含む。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング剤を使用すること、必要な粒径を維持すること(分散液の場合)、および界面活性剤を使用することによって、維持され得る。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)によって達成され得る。多くの場合、上記組成物中に等張剤(例えば、糖、ポリアルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール)、塩化ナトリウム)を含めることが好ましい。上記注射用組成物の延長した吸収は、この組成物に、吸収を遅延させる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)を含めることによってもたらされ得る。
【0087】
滅菌注射用溶液は、上記活性化合物(例えば、HP融合タンパク質)を必要な量で、必要に応じて上記の成分の1つまたは組み合わせと共に、組込み、次いで滅菌濾過することによって、調製され得る。一般に、分散液は、上記活性化合物を滅菌ビヒクル(これは基本的な分散媒体および必要な上記の他の成分を含む)に組み込むことによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、これは上記活性成分と、その予め滅菌濾過した溶液由来の任意のさらなる所望の成分とを生じ得る。
【0088】
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤または食用キャリアを含む。その組成物は、ゼラチンカプセルに封入されても、錠剤に圧縮されてもよい。治療的経口投与の目的のために、上記活性化合物は、賦形剤と共に組み込まれ得、そして錠剤、トローチまたはカプセル剤の形態で使用され得る。経口組成物はまた、うがい薬として使用するための流体キャリアを使用して調製され得、ここでこの流体キャリア中の化合物は、経口適用され、そしてうがいされ、そして吐き出されるかまたは嚥下される。薬学的に適合性の結合剤および/またはアジュバント材料は、上記組成物の一部として含まれ得る。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチなどは、以下の任意の成分のいずれか、または類似の性質の化合物を含み得る:結合剤(例えば、微結晶性セルロース、トラガカントゴムまたはゼラチン);賦形剤(例えば、デンプンまたは乳糖);崩壊剤(例えば、アルギニン酸、Primogelまたはトウモロコシデンプン);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはSterotes);流動促進剤(glidant)(例えば、コロイド状二酸化ケイ素);甘味剤(例えば、ショ糖またはサッカリン);あるいは香味剤(例えば、ペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジフレーバー)。
【0089】
吸入による投与について、上記化合物は、適切な噴霧剤(例えば、二酸化炭素のような気体)またはネブライザーを含む加圧容器またはディスペンサーからエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0090】
全身投与はまた、経粘膜手段または経皮手段により得る。例えば、経粘膜投与または経皮投与について、透過されるべきバリアに適切な透過剤が、処方物に使用される。このような透過剤は一般に、当該分野で公知であり、そして例えば、経粘膜投与については、洗浄剤、胆汁酸塩、およびフジシン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻スプレーまたは坐剤の使用によって達成され得る。経皮投与について、上記活性化合物は、当該分野で周知である軟膏(ointmentまたはsalve)、ゲルまたはクリームに処方される。
【0091】
これらの化合物はまた、坐剤(例えば、従来の坐剤基剤(例えば、カカオ脂および他のグリセリド)を用いて)、または腸送達のための保持浣腸剤の形態で調製され得る。
【0092】
上記活性化合物は、化合物が身体から迅速に排泄されるのを防ぐキャリアを用いて調製される(例えば、移植物および微小カプセル化送達システムを含む制御放出処方物、)。生分解性の生体適合性ポリマー(例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ酪酸)が使用され得る。このような処方物を調製するための方法は、当業者に明らかである。これらの材料はまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から市販され得る。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を有する、感染細胞を標的とするリポソームを含む)もまた、薬学的に受容可能なキャリアとして使用され得る。これらは、当業者に公知の方法(例えば、米国特許第4,522,811号に記載の方法)に従って調製され得る。
【0093】
経口組成物または非経口組成物は、容易な投与および投薬量の一貫性のための投薬単位形態で処方される。本明細書中で使用される場合、投薬単位形態とは、処置される被験体の単位投薬量として適した物理的に別個の単位をいう;各々の単位は、必要な薬学的キャリアと共に所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の投薬単位形態のための仕様書は、上記活性化合物の固有の特性および達成されるべき特定の治療効果、ならびに個体を処置するための活性化合物のような化合物の当該分野における固有の制限によって決定され、そしてこれらに直接依存する。
【0094】
本発明の核酸分子は、ベクターに挿入され得、そして遺伝子治療ベクターとして使用され得る。遺伝子治療ベクターは、例えば、静脈内注射、局所投与(例えば、米国特許第5,328,470号を参照のこと)、または定位注射(例えば、Chenら,1994.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3054−3057を参照のこと)によって、被験体に送達され得る。上記遺伝子治療ベクターの薬学的調製物は、受容可能な希釈剤中の遺伝子治療ベクターを含み得るか、または遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれる徐放性マトリクスを含み得る。あるいは、完全遺伝子送達ベクター(例えば、レトロウイルスベクター)が組換え細胞からインタクトで産生され得る場合、上記薬学的調製物は、遺伝子送達系を生じる1つ以上の細胞を含み得る。
【0095】
持続放出性調製物が、所望の場合、調製され得る。持続放出性調製物の適切な例としては、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透過性マトリクスが挙げられ、このマトリクスは、成形物品(例えば、フィルムまたはマイクロカプセル)の形態である。持続放出性マトリクスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリアクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタメートとのコポリマー、非分解性エチレン酢酸ビニル、分解性乳酸−グリコール酸コポリマー(例えば、LUPRON DEPOTTM(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドから構成される注射用マイクロスフェア))およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン酢酸ビニルおよび乳酸−グリコール酸のようなポリマーは、100日間にわたる分子の放出を可能にするが、特定のヒドロゲルは、より短い期間にわたってタンパク質を放出する。
【0096】
上記薬学的組成物は、容器、パックまたはディスペンサー中に、投与のための指示書と共に含まれ得る。
【0097】
(Leb発現細胞)
本発明は、遺伝的に改変されたLeb発現細胞(本明細書中でLBCと称される)を提供する。
【0098】
用語「遺伝的な改変」とは、外因性DNAの意図的な導入によるLBCの遺伝子型の、安定した変化または一過性の変化をいう。DNAは、合成であっても、天然に由来してもよく、そしてそのDNAは、遺伝子、遺伝子の部分、または他の有用なDNA配列を含み得る。本明細書中で使用される場合、用語「遺伝的な改変」とは、天然のウイルス活性、天然の遺伝的組換えなどによって生じるような、天然に存在する変化を含むことを意味しない。
【0099】
上記細胞は、β1,3,N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子(βGn−T6)をコードする核酸、β1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ(β3Gal−T5)遺伝子をコードする核酸、α1,3/4フコシルトランスフェラーゼ遺伝子(Fuc−T3)をコードする核酸およびα1,2フコシルトランスフェラーゼ遺伝子(FucT−2)をコードする核酸を用いて遺伝的に改変される。適切な供給源またはこれらの遺伝子をコードする核酸配列は、当該分野で周知であり、そしてこれらとしては、本明細書中に記載されるものが挙げられる。
【0100】
上記遺伝的な改変は、ウイルスベクター(レトロウイルスベクター、改変型ヘルペスウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなど)による感染、または当該分野で公知の方法(リポフェクション、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーションなど)を使用するトランスフェクションのいずれかによって行なわれる(Maniatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.,1982)を参照のこと)。例えば、上記キメラ遺伝子構築物は、ウイルス(例えば、レトロウイルス)の長い末端反復配列(LTR)、シミアンウイルス40(SV40)、サイトメガロウイルス(CMV);または、所望のタンパク質をコードする構造遺伝子の発現を指向する哺乳動物細胞特異的プロモーター(例えば、チロシンヒドロキシラーゼ(TH、ドパミン細胞についてのマーカー)、DBH、フェニルエタノールアミンN−メチルトランスフェラーゼ(PNMT)、ChAT、GFAP、NSE、NFタンパク質(NE−L、NF−M、NF−Hなど))を含み得る。さらに、上記ベクターは、薬物選択マーカー(例えば、試験遺伝子と一緒に同時感染したとき、ジェネティシン(G418)(タンパク質合成インヒビター)に対する耐性を与えるE.coliアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ遺伝子)を含み得る。
【0101】
LBCは、発現ベクターによるトランスフェクションを使用して遺伝的に改変され得る。1つのプロトコルにおいて、上記遺伝子を含むベクターDNAは、0.1×TE(1mM Tris(pH8.0)、0.1mM EDTA)中に、40μg/mlの濃度まで希釈される。22μlのそのDNAは、使い捨ての5ml滅菌プラスチックチューブ中の250μlの2×HBS(280mM NaCl、10mM KCl、1.5mM NaHPO、12mMデキストロース、50mM HEPES)に添加される。31μlの2M CaClが、ゆっくりと添加され、そしてその混合物は、室温にて30分間(minuteまたはmin)インキュベートされる。この30分間のインキュベーションの間、細胞は、800gで5分間、4℃にて遠心分離される。その細胞は、20容量の氷冷したPBS中に再懸濁され、そして1×10個の細胞からなるアリコートに分けられ、これらのアリコートは、再び遠心分離される。各アリコートの細胞は、1mlのDNA−CaCl懸濁液中に再懸濁され、そして室温で20分間インキュベートされる。次いでその細胞は、増殖培地中に希釈され、そして5%〜7%のCOにおいて37℃で6時間〜24時間インキュベートされる。その細胞は、再び遠心分離され、PBSで洗浄され、そして10mlの増殖培地中に48時間戻される。
【0102】
LBCはまた、リン酸カルシウムトランスフェクション技術を使用して遺伝的に改変される。標準的なリン酸カルシウムトランスフェクションのために、上記細胞は、単一細胞懸濁液へと機械的に分けられ、そして50%コンフルエンス(cmあたり50,000個〜75,000個の細胞)にて培養処理したディッシュ上にプレートされ、そして一晩接着させられる。1つのプロトコルにおいて、改変型リン酸カルシウムトランスフェクション手順は、以下の通りに行われる:滅菌TE緩衝液(10mM Tris、0.25mM EDTA、pH7.5)中のDNA(15〜25μg)は、TEによって440μLまで希釈され、そして60μLの2M CaCl(1M HEPES緩衝液により5.8のpH)が、そのDNA/TE緩衝液に添加される。合計で500μLの2×HeBS(HEPES緩衝化生理食塩水;275mM NaCl、10mM KCl、1.4mM NaHPO、12mMデキストロース、40mM HEPES緩衝剤粉末、pH6.92)が、この混合物に滴下される。その混合物は、室温にて20分間静置される。その細胞は、1×HeBSによって簡単に洗浄され、そして1mlのリン酸カルシウム沈殿したDNA溶液が、各プレートに添加され、そしてその細胞は、37℃で20分間インキュベートされる。このインキュベーションの後、10mlの培地が、その細胞に添加され、そしてそのプレートは、インキュベーター(37℃、9.5%のCO)内に、さらに3〜6時間おかれる。そのDNAおよびその培地は、インキュベーション期間の終わりにおいて吸引によって取り出され、そしてその細胞は、3回洗浄され、次いでそのインキュベーターに戻される。
【0103】
上記LBCは、それぞれの細胞分裂によって、少なくとも1つの娘細胞がまた、LBC細胞であるような、自発維持(self−maintenance)が可能である。LBCは、100倍、250倍、500倍、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍またはそれ以上に拡大培養され(expanded)得る
例示的なLBCとしては、1C5および2C2が挙げられる。上記LBCの表現型解析(Phenotyping)は、1C5がO−グリカン上にLeを発現するが、N−グリカンまたは糖脂質上にLeを発現しないことを示す。対照的に、2C2は、LeをO−グリカンおよびN−グリカンならびに糖脂質上に発現する。さらに、1C5はLeを発現しないにの対して、2C2はLeを発現する。グリカンのレパートリーにおけるこれらの違いにもかかわらず、これらのクローンの間でH.pyloriの付着性に関して違いが、検出された。
【0104】
LBCは、長期培養物においてインビトロで維持され得る。LBCは、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回またはそれ以上の培養を経過(pass)し得る。
【0105】
LBCは、当該分野で周知の方法を使用して増殖される。培養するための条件は、生理学的条件に近くあるべきである。培養培地のpHは、生理学的pHに近くあるべきである(例えば、pH6〜pH8の間、pH約7〜pH約7.8の間、またはpH7.4)。生理学的温度は、約30℃〜40℃の間の範囲である。LBCは、約32℃〜約38℃の間(例えば、約35℃〜約37℃の間)の温度で培養される。
【0106】
一般的に、インビトロで約3〜10日後、増殖するLBCから上記培地を吸引し、そしてその培養フラスコに新鮮な培地を添加する。必要に応じて、その吸引した培地は、回収され、濾過され、そしてその後のLBCの継代にコンディション培地(condition medium)として使用される。例えば、10%、20%、30%、40%またはそれ以上のコンディション培地が、使用される。
【0107】
上記LBC細胞培養は、増殖を再開する(reinitiate)ために容易に継代され得る。例えば、インビトロで3〜7日後、上記培養フラスコは、十分に振盪され、次いでLBCは、50ml遠心チューブに移され、そして低速で遠心分離され、その培地は、吸引され、そのLBCは、少量の培養培地中に再懸濁される。次いでその細胞は、数えられ、そして増殖を再開するために、所望の密度にて再度プレートされる。この手順は週に1回繰り返されて、各継代における生存可能な細胞の数の対数的増加をもたらす。この手順は、所望の数のLBCが得られるまで継続される。
【0108】
LBCおよびLBCの子孫は、それらが必要とされるまで、当該分野において公知である任意の方法によって低温保存され得る(例えば、米国特許第5,071,741号、PCT国際特許出願WO93/14191、同WO95/07611、同WO96/27287、同WO96/29862および同WO98/14058、Karlssonら,65 Biophysical J.2524−2536(1993)を参照のこと)。上記LBCは、特定の低温保存剤(cryopreservant)を含む等張溶液(好ましくは、細胞培養培地)中に再懸濁され得る。このような低温保存剤としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロールなどが挙げられる。これらの低温保存剤は、5〜15%(例えば、8〜10%)の濃度で使用される。細胞は、−10℃〜−150℃(例えば、−20℃〜−100℃、または−70℃〜−80℃)の温度まで徐々に冷凍される。
【0109】
(Le発現細胞に対する薬物の効果をスクリーニングするための方法)
LBC培養物は、有力な治療用組成物のスクリーニングのために使用され得る。例えば、LBCは、H.pylori付着を媒介(例えば、増強または阻害)するか、またはLeb糖質エピトープを結合する化合物を同定するために使用される。これらの試験組成物は、培養中の細胞に、異なる投薬量にて適用され得、そしてその細胞の応答は、種々の時期についてモニタリングされる。その細胞の物理的特性は、顕微鏡法を用いて細胞増殖および形態を観察することによって分析され得る。
【0110】
種々の方法において、H.pylori相互作用のインヒビターまたはエンハンサーは、LBCと、H.pylori細菌と、試験化合物とを、LBCとH.pylori細菌とが複合体を形成し得る条件下において接触させることによって同定され、そしてその複合体形成の量が、決定される。上記試験化合物の非存在下と比較した場合の、その試験化合物の存在下における複合体形成の量の低下は、その試験化合物がH.pylori付着のインヒビターであることを示す。対照的に、上記試験化合物の非存在下と比較した場合の、その試験化合物の存在下における複合体形成の量の増加は、その試験化合物がH.pylori付着のエンハンサーであることを示す。
【0111】
本発明はまた、LBCとLeエピトープ結合因子とを接触させ(例えば、H.pylori細菌と試験薬剤とを接触させる)、そしてその薬剤がそのLBCを結合する(例えば、複合体を形成する)か否かを決定することによって、Le糖質エピトープを結合する薬剤を同定する方法を提供する。上記試験化合物の非存在下と比較した場合の、その試験化合物の存在下における複合体形成の量の低下は、試験化合物が、Le糖質エピトープを結合することを示す。
【0112】
本発明はまた、これらのスクリーニング方法によって同定された調節因子化合物、およびこの調節因子を含む薬学的組成物を含む。
【0113】
本発明は、以下の非限定的な実施例においてさらに例示される。
【実施例】
【0114】
(実施例1:一般的方法)
(抗体)
マウス抗Le(IgM、クローンT218)抗体を、Signet(Dedham、MA、USA)から購入し、マウス抗シアリル−Le抗体(IgM、クローンKM93)を、Calbiochem−Novabiochem(San Diego、CA、USA)から購入し、そしてCSLEX(IgM)抗体を、CSLEXマウスハイブリドーマ細胞株(ATCC、Manassas、VA、U.S.A.)によって産生した。HRPに結合体化したヤギ抗マウスIgM抗体を、Cappel(Durham、NC、USA)から購入した。
【0115】
FACSに関する全ての免疫組織化学染色実験を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の1%ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma)において行なった。Alexa 488に結合体化(Molecular Probes)したヤギ抗マウスIgMおよびIgGを、1:2,000希釈〜1:4,000希釈にて、二次抗体として使用した。抗Le(T174、IgG;Calbiochem)を、1:50希釈〜1:100希釈において使用した。抗Le(78FR2.3;IgM;Biomed)を、1:200希釈において使用した。
【0116】
抗Le(BG−6、IgM;Signet)を、1:200希釈において使用した。抗Le(F3、IgM;Calbiochem)を、1:200希釈において使用した。
【0117】
(H.pylori株および培養)
LeとSLeとに結合するHelicobacter pylori株Cag7.8を、10%ウシ血液および1%アイソバイタルエックス(IsoVitalex)を補充したブルセラ寒天培地(Brucella agar)上で、微好気性雰囲気において37℃にて2日間増殖させた(BBL GasPak Plus,Becton Dickinson and Company,Sparks,MD 2152)。
【0118】
H.pylori株17875/Leを、使用した(18)。H.pyloriを、2% FCSおよびアイソバイタルエックスを補充した血液寒天プレート上で48〜72時間培養した。細菌を、滅菌した白金耳(inoculation loop)(Sarstedt)およびPBSを使用して1.5mlエッペンドルフチューブに移した。その細胞を、5,000rpmにて遠沈し、上清を除去し、そしてその細菌を、1mlのPBS中に再懸濁した。OD600を、0.1に調整した。
【0119】
上記細菌を、FITC標識し、そして細胞を、先に記載されるように細菌によって重層した(19)。
【0120】
(細胞培養)
CHO−K1細胞およびその安定なトランスフェクト体を、先に記載(15)されるように、10%熱非働化ウシ胎仔血清(FBS;Gibco)およびグルタミン(Gibco)を補充したDMEM(Gibco)中で培養した。
【0121】
(CHO−K1細胞のトランスフェクション)
付着性CHO−K1細胞を、75cm Tフラスコに播種し、そして約24時間後に70〜80%の細胞密集度にてトランスフェクトした。一過性トランスフェクションを、改変型ポリエチレンイミン(PEI)トランスフェクション法にとってか、または製造業者(Invitrogen)によって記載される通りにリポフェクトアミン(lipofectamine)によって達成した。
【0122】
全てのトランスフェクション混合物において、19.5μgの融合タンパク質プラスミドを使用した。低いトランスフェクション効率に起因して、CHO−K1細胞を、リポフェクトアミン2000を用いて、製造業者によって推奨される通りにトランスフェクトした。安定なトランスフェクト体について、プラスミドを、AvrIIまたはSpe1を用いて直線化し、次いでそのプラスミドを、リポフェクトアミン2000を使用し、製造業者(Invitrogen)に従ってCHO−K1細胞中にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、各Tフラスコ中の細胞を、5個の100mmペトリ皿へと分け、そして選択培地中でインキュベートした。異なる選択薬物の濃度は、ゼオシン、ハイグロマイシンB、およびG418について、それぞれ、400μg/ml、200μg/ml、および0.5mg/mlであった。Gpt発現細胞を、ミコフェノール酸(25μg/ml)、キサンチン(13.6μg/ml)およびヒポキサンチン(0.25mg/ml)を含む培地における増殖によって選択した。その選択培地を、3日おきに取り換えた。薬物耐性クローンは、約2週間後に形成された。クローンを、顕微鏡下において同定し、そしてそのクローンを、ピペットマンを使用して慎重に選抜した。選択したクローンを、96ウェルプレートで、選択薬物の存在下においてさらに2週間培養した。
【0123】
(1次元SDS−PAGEおよびウェスタンブロッティング)
SDS−PAGEを、MES緩衝液および非還元条件を用いて、4〜12% Bis−Trisの不連続型のポリアクリルアミドゲル(NuPAGE; Invitrogen,California,U.S.A)で行なった。分離したタンパク質を、Mini Trans−Blot電気泳動転写セル(electrophoretic transfer cell)(Bio−Rad,Hercules,CA)を使用して、ニトロセルロース膜(Invitrogen)上に、電気泳動的にブロットした。膜を、0.2% Tween−20(PBS−T)および3% BSAを含むリン酸緩衝化生理食塩水中で一晩ブロックし、次いでブロッキング緩衝液に希釈した上記抗Le抗体と一緒に、室温で1時間インキュベートした。膜を、PBS−Tを用いて5回洗浄し、そして上記HRPに結合体化した二次抗体と一緒にインキュベートした。結合した抗体を、ECLウェスタンブロッティング試薬(Amersham Biosciences)を使用し、次いでHyperfilm ECL(Amersham Biosciences)上にその膜を曝すことによって検出した。
【0124】
組換え融合タンパク質を、先に行われた通り(15)、免疫沈降によって精製した。手短には、トランスフェクトした細胞由来の10mlの上清を、スラリーの100μlのヤギ抗マウスIgG−アガロースビーズ(Sigma)と一緒に、4℃にて一晩インキュベートした。そのビーズを約200gにて15分間遠沈し、上清を廃棄し、そのビーズを、1.5mlエッペンドルフチューブに移し、そしてPBS中で2回洗浄した。ビーズを、100μlの2×LDS−サンプル緩衝液(Invitrogen)と混合し、そして70℃にて10分間加熱した。サンプル(代表的には、10μl)を、4〜12% NUPAGE−ゲル(Invitrogen)にロードした。電気泳動を、200Vにて約60分間行った。ウェスタンブロッティングのために、そのサンプルを、0.2μmのニトロセルロース膜(Invitrogen)上に、40Vにて2時間ブロットした。膜を、0.05% Tween 20(PBST)を含む3% BSA/PBSを用いて、4℃にて一晩ブロックするか、または室温にて1時間ブロックした。一次抗体と一緒に1時間インキュベートし、次いで3回洗浄し、そして二次抗体と一緒に1時間インキュベートし、3回の洗浄を繰り返した。その後、製造業者の指示書に従ってECL plus(Amersham)を使用し、膜を現像した。
【0125】
ヤギ抗マウスIgM HRP(Pierce)を、1:80,000希釈〜1:160,000希釈にて使用した。ウェスタンブロットを、3% BSA/PBSTにおいて行った。
【0126】
(H.pylori付着アッセイ)
細菌等級(bacterial grade)のペトリ皿を、PBS中で20μg/mlの濃度のヤギ抗マウスIgG Fc特異的抗体(50μl)を用いて、4℃にて一晩コーティングした。インキュベーション後、そのディッシュを、PBS中で3回洗浄し、そのPBSを、最後の洗浄後に完全に吸引した。その後、安定にトランスフェクトした細胞株(SLe保有PSGL−1/mIgG2bは、293T細胞由来であった)由来の100μlの粗製上清または一過性にトランスフェクトした細胞株(Le保有PSGL−1/mIgG2bおよびLe保有PSGL−1/mIgG2bは、CHO−K1由来であった)由来の100μlの粗製上清を、各ドットに添加した。コントロールPSGL−1/mIgG2bを、昆虫細胞株(Hi−5)において産生した。ディッシュを、室温にて3時間インキュベートし、次いでPBSを用いて3回洗浄した。100μlのH.pylori懸濁液(1mlあたり約1×10個の細菌)を、各ドットに添加した。ディッシュを、氷上で30分間インキュベートし、次いでPBSを用いて2回洗浄した。付着した細菌を、PBS中のホルムアルデヒドによって固定し、そしてその細菌を、倒立位相差顕微鏡法によって分析した。
【0127】
(FACS分析)
FACSortフローサイトメーター(BectonDickinson)を使用し、そして10000のイベントを収集した。細胞を、分析のために以下の様式で調製した:細胞を、最初に、PBSを用いて2回洗浄した。次いでその細胞を、それらが解離されるまで、1% EDTAと一緒にインキュベートした。細胞を、PBS中に懸濁し、そして200gにて5分間遠沈した。上清を取り除き、そしてその細胞を、PBS中に再懸濁し、そしてさらに1回遠沈した。一次抗体を添加し、そして染色を4℃にて30分間行った。PBSにおける2回の洗浄工程を行い、そして二次抗体による染色を、一次抗体に関する染色の通りに行った。次いで、その細胞を、PBS中で2回洗浄し、そしてFACS分析まで4℃に保持した。ネガティブコントロールの染色を、二次抗体のみを用いて行った。
【0128】
(ベクターの構築)
融合タンパク質。P−セレクチン糖タンパク質リガンド−1マウスIgG2b融合タンパク質をコードする発現プラスミドを、先に記載(参照)される通りに構築した。α−酸性糖タンパク質(AGP)コード配列を、その停止コドンおよびそのリーダーペプチド(表I)を除いて、ヒト肝臓cDNAライブラリーからPCR増幅した。そのAGP cDNAを、発現カセット中のNheI部位およびBamHI部位を使用して、CD5リーダー配列(上流)およびマウスIgG2bのFc部分(下流)をコードするcDNAとインフレームで融合した。同じベクター骨格を、両方の融合タンパク質構築物について使用した。
【0129】
β3GlcNAc−T6。C3 β3GlcNAc−T6(20)を、順方向プライマーとしてcgc ggg aag ctt acc atg gct ttt ccc tgc cgcを使用し、かつ逆方向プライマーとしてcgc ggg tct aga tca gga gac ccg gtg tccを使用してヒト胃cDNAからPCR増幅し、そしてHindIIIおよびXbaIを使用してCDM8にサブクローニングした。
【0130】
β3Gal−T5。β3Gal−T5(21)を、鋳型としてヒト胎盤由来のゲノムDNAを使用して、順方向プライマーとしてcgc ggg aag ctt acc atg gct ttc ccg aag atg を用い、かつ逆方向プライマーとしてcgc ggg cgg ccg ctt tag aca ggc gga caa tct tcを用いたPCRによって増幅し、次いでHindIIIおよびNotIを使用してCDM8発現プラスミドにサブクローニングした。
【0131】
α1,2Fuc−T2。FUT−II(分泌型遺伝子(secretor gene))(22)cDNAを、増幅し、そして記載(23)される通りにサブクローニングした。
【0132】
α1,3/4Fuc−TIII。Lewis遺伝子にコードされるα1,3/4フコシルトランスフェラーゼ(FUT−III)(24)の発現プラスミドは、Prof.Brian Seed,Dept.of Molecular Biology,MGH,Boston,MA,USAの親切な贈呈品であった。
【0133】
安定なトランスフェクト体を作製するために使用したベクターは、両方向性であり、そのベクターは、CDM8のものと同一のポリリンカーのCMVプロモーター(上流)、スプライス供与部位およびスプライス受容部位、ならびにSV40の両方向性ポリ(A)付加シグナル(この転写ユニットに対して方向性が反対)を有し、そして反対方向からのそのポリ(A)シグナルの利用は、HSV TKプロモーター、ならびにそれに続くグアノシンホスホリボシルトランスフェラーゼ(CMV/Gpt)、ハイグロマイシンb耐性遺伝子(CMV/Hyg)、ゼオシン耐性遺伝子(CMV/Zeo)およびネオマイシン耐性遺伝子(CMV/Neo)についてのコード配列からなる第2の転写ユニットである(J.HolgerssonおよびB.Seed、未発表)。上に記載したcDNAを、上に記載した制限酵素を使用して、安定な発現のためにそのベクター中に置き換えた。C3 GnT−VIは、ゼオシン耐性遺伝子を保有し;GaIT−Vプラスミドは、GPTを保有し;FUT−IIは、ネオマイシン耐性遺伝子を保有し;FUT−IIIは、ハイグロマイシン耐性遺伝子を保有した。
【0134】
(Le糖質エピトープを保有するPSGL−l/mIgG2bおよびAGP/mIgG2bを安定して発現するCHO細胞の構築)
付着性CHO−K1細胞を、PSGL−1/mIgG2bまたはAGP/mIgG2b、β3GlcNAcT6、β3GalT5、FUT2およびFUT3(これらの各々はまた、薬物選択エレメント(それぞれ、ピューロマイシン、ゼオシン、グアノシンホスホリボシルトランスフェラーゼ、ネオマイシンおよびハイグロマイシンb)を含んだ)をコードする直線化した発現プラスミドを使用して、上に記載する通りにトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、各Tフラスコ中の細胞を、5個の100mmペトリ皿へと分け、そして選択培地中でインキュベートした。その選択培地を、3日おきに取り換えた。薬物耐性クローンは、約2週間後に形成された。クローンを、顕微鏡下で同定し、そしてピペットマンを使用して慎重に選抜した。選択したクローンを、96ウェルプレートで、選択薬物の存在下においてさらに2週間培養した。細胞培養上清を、細胞が80〜90%の密集度に到達したときに、回収し、そしてPSGL−1/mIgG2bの濃度およびLe決定基の濃度を、ヤギ抗マウスIgG Fc抗体または抗Le抗体を使用し、次いでHRPまたは、ALPに結合体化した、抗マウスIgM二次抗体を使用するELISAによって評価した。
【0135】
(実施例2:ムチン型融合タンパク質、Le糖質決定基を保有するPSGL−1/mIgG2bの、CHO−K1細胞における発現)
CHO−K1細胞を、PSGL−1/mIgG2b、ならびにグリコシルトランスフェラーゼのβ3GlcNAcT6、β3GalT5、FUT2(Se遺伝子にコードされるα1,2フコシルトランスフェラーゼ)およびFUT3(Lewis遺伝子にコードされるα1,3/4フコシルトランスフェラーゼ)をコードする発現プラスミドによって、一過性にトランスフェクトした。トランスフェクトしたCHO細胞の細胞培養上清を、抗マウスIgG抗体に結合したアガロースビーズと一緒にインキュベートした;次いでそのビーズを、洗浄し、そしてSDS−PAGEサンプル緩衝液中で煮沸した。トランスフェクトしたCHO細胞の上清からアフィニティー精製したタンパク質を、SDS−PAGEによって分離し、そして抗Leモノクローナル抗体を使用したウェスタンブロッティングによって分析した(図1)。レーン1、レーン2およびレーン5、レーン6において、上述したcDNAの全てによってトランスフェクトしたCHO細胞の上清から単離し、イムノアフィニティー精製したIg含有タンパク質の強いLe反応性を、見出したが、β3GalT5(レーン3およびレーン4)、FUT2(レーン7およびレーン8)、またはFUT2およびFUT3の両方(レーン9)をコードするプラスミドを、トランスフェクション混合物から除外した場合、モノマーのPSGL−1/mIgG2bの予想サイズからなるイムノアフィニティー精製したIg含有タンパク質の非常に弱い抗Le反応性が、見られた(図1Aおよび図1B)。全てのcDNAを含まないレーンにおいて見られる弱い染色は、おそらく、二次抗体の結合によって引き起こされるバックグラウンド染色の結果であろう。
【0136】
(実施例3:Le糖質エピトープを保有するPSGL−1融合タンパク質またはLe糖質エピトープを保有するAGP mIgG2b融合タンパク質を産生する安定なCHO細胞の構築)
CHO−K1細胞を、グリコシルトランスフェラーゼのcDNAであるβ3GlcNAcT6、β3GalT5、FUT2およびFUT3を、それぞれ、ゼオシン、ミコフェノール酸、ネオマイシンおよびハイグロマイシンbの混合物によって選択され得る薬物耐性エレメントと組み合わせて含むプラスミドによって、同時にトランスフェクトした。数種のクローンを、ピペットマンを使用して慎重に選抜し、そしてそれらのクローンのうちの3種(図2、クローン1C5、クローン2C2およびクローン5C5)は、抗Le抗体による強い表面の染色を示した。P−セレクチン糖タンパク質リガンド−1(PSGL−1)のマウスIgG2b融合体またはα−酸性糖タンパク質(AGP)のマウスIgG2b融合体をコードする発現プラスミドによる、これらのクローンの一過性トランスフェクションの後、PSGL−1/mIgG2bタンパク質およびAGP/mIgG2bタンパク質を、抗mIgGアガロースビーズを使用して上清から単離した。ウェスタンブロッティングは、3種全てのクローンで発現したPSGL−1/mIgG2bにおいてLe反応性を示した(図2)が、一方で、強いLe反応性は、クローン2C2で産生されたAGP/mIgG2bにおいてのみ見出された。1C5で産生されたAGP/mIgG2bは、任意のLe決定基を保有しないようであり、そして5C5で産生されたAGP/mIgG2bは、弱い抗Le反応性を示した(図2)。この観察は、CHO細胞がN−グリカン生合成における変化に対して感受性であり、その結果、上述したグリコシルトランスフェラーゼについての前駆体の鎖を欠く改変体が、CHO培養および選択の間に生じ得ることを示す。対照的に、O−グリカン生合成は、O−結合型グリカン構造における培養誘導性の変化に対して、より安定であり、そしてそれに対して、より低い感受性であるようである。Le保有AGP/mIgG2bを分泌するCHO安定体(stables)を、AGP/Igおよびピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼをコードするプラスミドを用いて、上に記載されるクローン2C2を安定にトランスフェクトすることによって構築した。Le保有PSGL−1/mIgG2bを産生するCHO−K1安定体を、上述したグリコシルトランスフェラーゼプラスミドの全てと共にPSGL−1/Ig発現プラスミドを用いて、同時トランスフェクトすることによって作製した。
【0137】
(実施例4:β3GalT1,β3GalT2およびβ3GalT5は、全て、FUT2およびFUT3の存在下においてN−グリカン上のLe生合成を補助し得る)
AGP/mIgG2b(N−結合型グリカンのみを保有するレポータータンパク質)を使用して、β3GalT1、β3GalT2およびβ3GalT5がN−結合型グリカン上のLe生合成を補助する能力(図3)を、調査した。FUT2およびFUT3を同時トランスフェクトした場合(図3)、β3GalT1、β3GalT2およびβ3GalT5は、全て、AGP/Ig上のLe生合成を補助し得る。β3GlcNAcT6トランスフェラーゼ(これは、PSGL−1/mIgG2bのO−結合型グリカン上のLe生合成に必要である)がN−グリカン上のLe生合成に必要とされなかったことに、留意すべきである。
【0138】
(実施例5:Le置換型PSGL−1/mIgG2bおよびシアリル−Le置換型PSGL−1/mIgG2bは、Helicobacter pylori付着を補助する)
Le置換型PSGL−1/mIgG2bおよびシアリル−Le置換型PSGL−1/mIgG2bがH.pylori付着を補助する能力を、付着アッセイにおいて調査した。短いコア1構造を保有するPSGL−1/mIgG2b(図4A)と比較して、Le置換型PSGL−1/mIgG2b(図4D)およびそのほかにシアリル−Le置換型PSGL−1/mIgG2b(図4B)は、Le保有複合糖質およびシアリル−Le保有複合糖質に結合することが公知であるH.pylori株の結合を補助した(図4)。
【0139】
(実施例6:Lewis Bを発現する安定なCEO−K1細胞株の作製)
β3GlcNAc−T6、β3Gal−T5、α2Fuc−T2およびα3/4Fuc−T3をコードする発現ベクターの同時トランスフェクションの後、多くのクローンを、ピペットマンを使用して選び、そして96ウェルプレートに移した。拡大培養(expansion)の後、増殖する細胞を含むウェルを、二つ組のウェルに分け、そして抗Le抗体を用いて染色した。2つのポジティブクローン(1C5および2C2)を、さらに拡大培養し、そしてウェル1つあたり0.3個の細胞の推定細胞密度を用いて単一細胞にクローニング(single−cell clone)した。フローサイトメトリーによって、両方のクローンがLeエピトープおよびLeエピトープを発現することを、見出したが、2C2のみが、Leと称されるLeの2型異性体を発現した(図5)。いずれのクローンも、あらゆる検出可能なLeを発現しなかった。
【0140】
(実施例7:1C5および2C2は、Lewis Bを異なるグリカン上で発現する)
1C5および2C2を、a1−酸性糖タンパク質(AGP)の免疫グロブリン融合タンパク質をコードするプラスミドおよびP−セレクチン糖タンパク質リガンド−1(PSGL−1)の免疫グロブリン融合タンパク質をコードするプラスミドを用いてトランスフェクトした(これらの融合タンパク質は、それぞれ、N−結合型グリカンおよびO−結合型グリカンを保有するタンパク質である)。培養培地への分泌後、AGP/mIgG2bおよびPSGL−1/mIgG2bを、抗マウスIgGアガロースビーズにおいてアフィニティー精製し、そしてSDS−PAGE、ならびに抗Le抗体および抗マウスIgG抗体を使用したウェスタンブロッティングによって分析した(図6)。興味深いことに、2C2細胞で発現された融合タンパク質が、N−グリカンおよびO−グリカンの両方においてLeを発現したのに対して、1C5細胞で発現された融合タンパク質は、PSGL−1/mIgG2b(ほぼO−グリカンのみを保有する融合タンパク質)においてのみ、Leを発現した(図6)。さらに、2C2細胞のみが、グリコスフィンゴリピドにおいてLeを発現し、そして1C5細胞は、グリコスフィンゴリピドにおいてLeを発現しなかった(これらのグリコスフィンゴリピドは、それぞれの細胞株から単離した)(図7)。
【0141】
(実施例8:BabAを介するH.pyloriの接着は、Le発現に依存するが、Leを保有するグリカン型に依存しない)
Le結合性H.pylori株(17875/Le)は、両方のLe発現クローンに対して接着したが、この17875/Leは、2C2クローンに対して、より大きい数で接着した(図8および図9)。親のCHO−K1細胞(図8および図9)、またはLe発現細胞およびH1型発現細胞に対するこのH.pylori株の結合は、見られなかった。
【0142】
(参考文献)
【0143】
【化1】

【0144】
【化2】

【0145】
【化3】

(他の実施形態)
本発明は、その詳細な説明と共に記載されているが、上述の説明は、例示を意図し、そして添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定することを意図しない。他の局面、利点、および改変は、添付の特許請求の範囲の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】図1は、抗Leモノクローナル抗体の結合に由来する発光を示すウェスタンブロットの写真である。レーン1、レーン2、レーン5およびレーン6は、抗マウスIgG2bに結合したアガロースビーズと一緒にインキュベートされた、β3GlcNAcT6、βGalT5、FUT2、およびFUT3を発現するCHO細胞由来の溶解物から得られた溶出物を含む。レーン3およびレーン4は、抗マウスIgG2bに結合したアガロースビーズと一緒にインキュベートされた、β3GlcNAcT6、βGalT5、およびFUT3を発現するCHO細胞の溶解物から得られた溶出物を含む。レーン7およびレーン8は、抗マウスIgG2bに結合したアガロースビーズと一緒にインキュベートされた、β3GlcNAcT6、FUT2、およびFUT3を発現するCHO細胞由来の溶解物から得られた溶出物を含む。レーン9は、抗マウスIgG2bに結合した結合したアガロースビーズと一緒にインキュベートされた、β3GlcNAcT6およびβGalT5を発現するCHO細胞の溶解物から得られた溶出物を含む。
【図2】図2は、抗マウスIgG抗体の結合または抗Leモノクローナル抗体の結合に由来する発光を示すウェスタンブロットの写真である。それらのレーンは、抗マウスIgG2bに結合したアガロースビーズと一緒にインキュベートされた、β3GlcNAcT6、βGalT5、FUT2、およびFUT3についての発現プラスミドによってトランスフェクトされたCHO細胞の1C5株、2C2株または5C5株のいずれかに由来する溶解物から得られた溶出物を含み、これらのCHO細胞は、P−セレクチン糖タンパク質リガンド−1(PSGL−1)またはα−酸性糖タンパク質(AGP)のいずれかを発現するように、一過性にトランスフェクトされている。
【図3】図3は、抗マウスIgG抗体の結合または抗Leモノクローナル抗体の結合に由来する発光を示すウェスタンブロットの写真である。それらのレーンは、抗マウスIgG2bに結合したアガロースビーズと一緒にインキュベートされた、α−酸性糖タンパク質(AGP)、FUT2およびFUT3、ならびにβGalT1、βGalT2、βGalT5またはその3種全てのいずれかについての発現プラスミドによってトランスフェクトされたCHO細胞に由来する溶解物から得られた溶出物を含む。
【図4A】図4Aは、付着アッセイの写真であり、ここでマウスIgGは、ディッシュ上でインキュベートされる。PSGL−1/mIgG2bを含み、いずれのLewisエピトープも含まない昆虫細胞株Hi−5由来の溶解物は、その溶解物がマウスIgGと結合するようにそのディッシュ上にスポットされる。次いでH.pyloriが、そのディッシュに添加され、そしてホルムアルデヒドによって固定され、ここでそれらの存在は、倒立位相差顕微鏡法によって識別された。
【図4B】図4Bは、付着アッセイの写真であり、ここでマウスIgGは、ディッシュ上でインキュベートされる。SLe保有PSGL−1/mIgG2bを含む293T細胞由来の溶解物は、その溶解物がマウスIgGと結合するようにそのディッシュ上にスポットされる。次いでH.pyloriが、そのディッシュに添加され、そしてホルムアルデヒドによって固定され、ここでそれらの存在は、倒立位相差顕微鏡法によって識別された。
【図4C】図4Cは、付着アッセイの写真であり、ここでマウスIgGは、ディッシュ上でインキュベートされる。溶解物は、その溶解物がマウスIgGと結合するようにそのディッシュ上にスポットされる。次いでH.pyloriが、そのディッシュに添加され、そしてホルムアルデヒドによって固定され、ここでそれらの存在は、倒立位相差顕微鏡法によって識別された。
【図4D】図4Dは、付着アッセイの写真であり、ここでマウスIgGは、ディッシュ上でインキュベートされる。SLe保有PSGL−1/mIgG2bを含むCHO細胞由来の溶解物は、その溶解物がマウスIgGと結合するようにそのディッシュ上にスポットされる。次いでH.pyloriが、そのディッシュに添加され、そしてホルムアルデヒドによって固定され、ここでそれらの存在は、倒立位相差顕微鏡法によって識別された。
【図5】図5は、CHO−K1細胞、1C5細胞および2C2細胞におけるLewis抗原の発現のフローサイトメトリー分析を示す、一連のチャートである。T174および78FR2.3は、両方とも抗Le Abであり;T218は、抗Le Abであり;P12は、抗Le Abであり;そしてF3は、H2型構造と交差反応(crossreact)する抗Le Abである。
【図6】図6は、Le発現1C5細胞株およびLe発現2C2細胞株において発現されるAGP/mIgG2b(A)融合タンパク質およびPSGL−1/mIgG2b(P)融合タンパク質の、SDS−PAGE分析ならびにウェスタンブロット分析を示す写真である。左のパネルにおいて、抗Le Ab(T218)が、使用され、そして右のパネルにおいて、その融合タンパク質が、抗マウスIgG mAbによって検出された。
【図7】図7は、CHO−K1細胞、1C5細胞および2C2細胞から単離された全ての非酸性グリコスフィンゴリピドの薄層クロマトグラフィー分析を示す一連の写真である。これらのクロマトグラムは、グリコスフィンゴリピドを緑色に染色する化学試薬(アニスアルデヒド)(パネルA)によって現像されたか、または抗Le抗体(パネルB)もしく抗Le抗体(パネルCおよびパネルD)によってプローブされたかのいずれかであった。
【図8】図8は、CHO−K1、1C5および2C2の固定された単層を示す一連の写真であり、これらの単層は、FITC標識されたLe結合性H.pylori株(17875/Le)と一緒にインキュベートされ、洗浄され、そして蛍光顕微鏡法によって検査された。
【図9】図9は、CHO−K1、1C5および2C2の固定された単層を示す一連の写真であり、FITC標識されたLe結合性H.pylori株(17875/Le)と一緒にインキュベートされ、洗浄され、そして蛍光顕微鏡によって検査された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2のポリペプチドに作動可能に結合された第1のポリペプチドを含有する融合ポリペプチドであって、該第1のポリペプチドは、
a)O−結合型グリカン上で、α1,3/4フコシルトランスフェラーゼ、α1,2フコシルトランスフェラーゼ、β1,3ガラクトシルトランスフェラーゼおよびβ1,3,N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼによってグリコシル化されるか、または
b)N−結合型グリカン上で、α1,3/4フコシルトランスフェラーゼ、α1,2フコシルトランスフェラーゼおよびβ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼによってグリコシル化され;そして
該第2のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドの少なくとも1つの領域を含む;
融合ポリペプチド。
【請求項2】
前記第1のポリペプチドは、ムチンポリペプチドである、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項3】
前記ムチンポリペプチドは、P−セレクチン糖タンパク質リガンド−1の少なくとも1つの領域を含む、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項4】
前記ムチンポリペプチドは、P−セレクチン糖タンパク質リガンド−1の細胞外部分を含む、請求項2に記載の融合ポリペプチド。
【請求項5】
前記第1のポリペプチドは、糖タンパク質である、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項6】
前記糖タンパク質は、N−結合型グリカンを保有する、請求項5に記載の融合ポリペプチド。
【請求項7】
前記第1のポリペプチドは、α−1糖タンパク質ポリペプチドである、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項8】
前記第1のポリペプチドは、α−1−酸性糖タンパク質の少なくとも1つの領域を含む、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項9】
前記第2のポリペプチドは、重鎖免疫グロブリンポリペプチドの1つの領域を含む、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項10】
前記第2のポリペプチドは、免疫グロブリン重鎖のFc領域を含む、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項11】
前記融合ポリペプチドは、ダイマーである、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項12】
請求項1に記載の融合ポリペプチドを含む、微生物付着のインヒビター。
【請求項13】
Helicobacter pylori感染の症状の予防または緩和を必要とする被験体において、該Helicobacter pylori感染の症状を予防または緩和するための方法であって、該方法は、該被験体に、請求項1に記載の融合ポリペプチドを投与する工程を包含する、方法。
【請求項14】
消化酸疾患もしくは胃腺癌の症状の予防または緩和を必要とする被験体において、該消化酸疾患もしくは胃腺癌の症状を予防または緩和するための方法であって、該方法は、該被験体に、請求項1に記載の融合ポリペプチドを投与する工程を包含する、方法。
【請求項15】
前記消化酸疾患は、消化性潰瘍である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
細胞に対する微生物の付着を低下させる方法であって、該方法は、該細胞と請求項1に記載の融合ポリペプチドとを接触させる工程を包含する、方法。
【請求項17】
前記細胞は、インビボ、インビトロ、またはエキソビボで接触される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記微生物は、細菌、ウイルスまたは真菌である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記細菌は、Helicobacter pyloriである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞は、胃粘膜細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
細胞に対する細菌毒素の付着を低下させる方法であって、該方法は、該細胞と請求項1に記載の融合ポリペプチドとを接触させる工程を包含する、方法。
【請求項22】
前記細胞は、胃粘膜細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
a)β1,3,N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする核酸配列を含む核酸構築物;
b)β1,3ガラクトシルトランスフェラーゼポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする核酸配列を含む核酸構築物;
c)α1,3/4フコシルトランスフェラーゼポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする核酸配列を含む核酸構築物;および
d)α1,2フコシルトランスフェラーゼポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする核酸配列を含む核酸構築物;
を含む遺伝的に改変された細胞であって、該細胞は、Lewis b(Le)を発現する、遺伝的に改変された細胞。
【請求項24】
前記Le糖質エピトープは、O−グリカン、N−グリカンまたは糖脂質において発現される、請求項23に記載の細胞。
【請求項25】
前記細胞は、CHO細胞である、請求項23に記載の細胞。
【請求項26】
前記ポリペプチドは、安定して発現される、請求項23に記載の細胞。
【請求項27】
請求項23に記載の細胞の子孫。
【請求項28】
a)請求項23に記載の細胞と、Helicobacter pylori細菌と、試験化合物とを、該細胞と該Helicobacter pylori細菌とが化合物の非存在下で複合体を形成し得る条件下において接触させる工程;および
b)複合体形成の量を決定する工程;
を包含する、Helicobacter pylori付着のインヒビターを同定する方法であって、該試験化合物の非存在下と比較した場合の、該試験化合物の存在下における該複合体形成の量の低下は、該化合物がHelicobacter pylori付着のインヒビターであることを示す、方法。
【請求項29】
a)請求項1に記載の細胞と、Le糖質エピトープ結合因子と、試験化合物とを、該細胞と結合因子とが化合物の非存在下で複合体を形成し得る条件下において接触させる工程;および
b)複合体形成の量を決定する工程;
を包含する、Le糖質エピトープを結合する化合物を同定する方法であって、該試験化合物の非存在下と比較した場合の、該試験化合物の存在下における該複合体形成の量の低下は、該化合物がLe糖質エピトープを結合することを示す、方法。
【請求項30】
前記Le糖質エピトープ結合因子は、レクチンである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記レクチンは、DC−SIGNである、請求項30に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−517073(P2008−517073A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538550(P2007−538550)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【国際出願番号】PCT/IB2005/004192
【国際公開番号】WO2007/039788
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(505049076)レコファーマ アーベー (6)
【Fターム(参考)】