説明

I型癌の診断および治療

【課題】本発明の目的は、癌、特に乳癌の診断および予後を提供するのに有用であり、また臨床医が癌、特に乳癌の管理を行うのを支援する方法を提供することである。特に本発明の目的は、癌、特に乳癌の転移能を見極める方法を提供することである。
【解決手段】本発明の第1の態様は、ヒト患者の癌易罹患性を決定する方法であって、(i)患者から核酸および/またはタンパク質を含有するサンプルを得るステップと、(ii)そのサンプルが、癌に関連するレベルのSCN5A電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップとを含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者が癌に罹っているか否か、またその癌が転移し易いものであるか否かを決定する方法に関し、さらに本発明は、癌、特に乳癌を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は重篤な病気であり、主な死因である。近年、ある癌の診断および治療は進歩してきたが、依然として診断および治療の改善が求められている。
【0003】
癌は遺伝病であり、ほとんどの場合、1つまたは複数の遺伝子の突然変異を伴っている。ヒトゲノムには約40,000個の遺伝子があると考えられているが、これらのうちほんの一握りの遺伝子だけが癌に関与していることが示されている。現在明らかにされているよりも多くの遺伝子が癌に関与していることが見出されると推測されるが、この領域における進歩は、分子分析技法を使用できるにもかかわらず依然として遅々たるものであった。これは、今日まで明らかにされてきた遺伝子の多様な構造および機能に起因すると考えられ、すなわち癌遺伝子は多くの形をとることができ、種々の組合せで生じ、多くの種々の機能を有することを示唆している。
【0004】
乳癌は、女性が罹る最も危険な病気の1つである。現在、アメリカ人女性が95才になるまでに、8人に1人の割合で癌を発症する危険性がある(American Cancer Society、Cancer Facts and Figures、1992、米国癌協会、アトランタ、ジョージア州、米国)。遺伝因子が乳癌の症例の一因となる割合は不明確であり、全症例の約5%と推定されるが、40才になる前に診断されている症例では約25%である(Claus他(1991)Am J.Hum.Genet.48、232〜242)。乳癌は、50才付近を境に年齢別易罹患性曲線が変化することに基づき、若年発症型と高齢発症型の2つのタイプに分類される。1つの遺伝子、BRCA1の突然変異は、家族性乳癌の約45%を占めると考えられるが、乳癌と卵巣癌の両方を持つ家系の少なくとも80%に相当すると考えられている(Easton他(1993)Am.J.Hum.Genet.52、678〜701)。
【0005】
乳癌は、まったく限局的な場合のみ治癒可能と考えられる。最も一般的な問題とは、後になって顕在化する転移、またはより頻繁にではあるが、見かけ上局所的に治癒した後に生じる全身性転移である。転移性乳癌は化学療法に対する感受性が高く、効果的な化学療法によって日常的に疾病寛解を引き起こし、2次疾患の発症を遅延させ、または進展型疾患の症状を改善する。
【0006】
最近、癌の生物学における腫瘍関連抗原の役割について、研究が始められている。おそらく最も良く研究された腫瘍関連抗原の例は、メラノーマおよびその他のある癌、たとえば乳癌などに関与するMAGE抗原であろう。MAGE抗原を利用する治療的および診断的手法は、Gattoni-Celli & Cole(1996)Seminars in Oncology 23、754〜758、Itoh他(1996)J.Biochem.119、385〜390、WO 92/20356、WO 94/23031、WO 94/05304、WO 95/20974、およびWO 95/23874に記載されている。しかし、その他の腫瘍関連抗原も乳癌に関与している。たとえば、乳癌細胞によって発現した抗原に関する研究、特にこれらがどのように正常な乳房上皮細胞の抗原プロフィルに関係しているかという研究は、乳癌研究における主要な活動であり続けられてきた。乳癌におけるある抗原の役割、特に多形性上皮ムチン(PEM;MUC1遺伝子の産物)およびc-erbB2癌原遺伝子の役割が、Taylor-Papadimitriou他(1993)Annals NY Acad.Sci.698、31〜47で検討されている。その他の乳癌関連抗原には、MAGE-1およびCEAが含まれる。
【0007】
MUC1 遺伝子またはPEMを必要とする免疫療法戦略およびワクチンが、Burchell他(1996)、309〜313頁、In Breast Cancer、Advances in Biology and Therapeutics、Calvo他(編)、John Libbey Eurotex;Graham他(1996)Int.J.Cancer 65、664〜670;Graham他(1995)Tumor Targeting 1、211〜221;Finn他(1995)Immunol.Rev.145、61〜89;Burchell他(1993)Cancer Surveys 18、135〜148;Scholl & Pouillart(1997)Bull.Cancer 84、61〜64;およびZhang他(1996)Cancer Res.56、3315〜3319に記載されている。
【0008】
最近、乳癌病因遺伝子BRCA1およびBRCA2に関心が持たれているにもかかわらず、依然として乳癌に関するさらなる情報が求められており、また治療的介入のためのさらなる診断マーカーおよび標的が求められている。
【0009】
したがって乳癌などの癌の場合、現在のスクリーニング法は満足のいくものではなく、多くの患者の主な死因であるこのような癌を診断しあるいは可能性のある転移の広がりを予測しまたは予防するための信頼性のある方法が存在しない。
【0010】
Grimes他(1995)FEBS Lett.369、290〜294は、2つの前立腺腫瘍細胞系における電位依存性Na+電流の示差的発現について記述しており、それらのin vitroでの侵襲性に対する寄与について論じている。研究を行った細胞系はラットの細胞系であり、どの特定の電位依存性Na+チャネルが関与している可能性があるのか何も示していない。
【0011】
Laniado他(1997)Am.J.Pathol.150、1213〜1221は、ヒト前立腺癌細胞系における電位依存性Na+チャネルの発現および機能的分析について記述しており、in vitroでの侵襲性に対する寄与について論じている。どの特定の電位依存性Na+チャネルが関与している可能性があるのか何も示していない。
【0012】
Smith他(1998)FEBS Lett.423、19〜24は、Na+チャネルタンパク質発現によって、ラットおよびヒトの前立腺癌細胞系の侵襲性が高まることを示している。
【0013】
Grimes & Djamgoz(1998)J.Cell.Physiol.175、50〜58は、ラット前立腺癌の高転移性Mat-LyLu細胞系で発現した電位依存性Na+電流の、電気生理学的および薬理学的な特徴付けについて記述している。基礎をなすVGSCは、「テトロドトキシン感受性」クラスに属することが確認されている。
【0014】
Dawes他(1995)Visual Neuroscience 12、1001〜1005は、培養した網膜色素上皮細胞内に生じた電位依存性Na+チャネルサブタイプの同定について記述している。
【0015】
2000 年9月2日出願の、「Diagnosis and treatment of cancer」という名称の英国特許出願第0021617.6は、癌、特にVGSCの発現に関係する前立腺癌を治療し診断する方法に関するものである。VGSC発現は、病態の進行と相関関係があり、ヒトの癌、特に前立腺癌およびその転移に関連するVGSCは、hNe-Na(SCN9A)である。タンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードするmRNAのcDNAは知られている(Klugbauer他(1995)EMBO J.14、1084〜1090)。
【0016】
電位依存性Na+チャネルは、たとえばBlack & Waxman(1996)Develop.Neurosci.18、139〜152;Fozzard & Hanck(1996)Physiol.Rev.76、887〜926;Bullman(1997)Hum.Mol.Genet.6、 1679〜1685;Cannon(1999);Marban他(1998)J,Physiol.508、 647〜657;Catterall(2000)Neuron 26、13〜25;Plummer & Meisler(1999)Genomics 57、323〜331、およびGoldin(2001)Ann Rev Physiol 63、871〜894に概説されている。一部のNa+およびその他のイオンチャネルは、 Bullman(1997)Hum.Mol.Genet.6、1679〜1685;Burgess他(1995)Nature Genet.10、461〜465;およびCannon(1998)Mol Neurology(JB Martin編)Scientific American Inc.、NYに記載されるように、ある遺伝的欠陥を引き起こすことが周知である。
【0017】
乳癌に対するVGSCの関与は実証されておらず、ヒト乳癌に関与する特定のVGSCは明らかにされていない。
【0018】
驚くべきことに本発明者等は、VGSC発現が病態の進行に関係しており、ヒト癌、特に乳癌およびその転移に関連するVGSCはSCN5A、SCN8A、およびSCN9Aであり、特にSCN5A(h1、SkM2、およびNav1.5とも呼ぶ)であることを見出した。これらは既知のVGSCであり(しかしSCN5AおよびSCN8Aに関しては、ヒト癌、特にヒト乳癌に関連することが以前は知られていなかった)、タンパク質のアミノ酸配列、およびそれらをコードするmRNAのcDNAが報告されている(SCN9A:Klugbauer他(1995)EMBO J.14、1084〜1090、GenBank Accession No.X82835;SCN5A:Gellens他(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89(2)、554〜558、 GenBank Accession No.M77235;SCN8A:GenBank Accession No.AB027567)。報告されたSCN5A、SCN8A、およびSCN9Aのスプライスバリアント(たとえば以下にさらに論じる新生児スプライスバリアント)およびその他の変異体は、SCN5A、SCN8A、およびSCN9Aという用語に含まれる。たとえば、本発明で決定した配列が含まれ、特に好ましく、これについては実施例1で論じる。
【0019】
SCN9A(hNe-Na(ヒト)やPN1(ラット)とも呼ばれ、最近ではNav1.7とも呼ばれる)の染色体位置はまだ決定されていない。しかしマウスに関してはこれと同等のものが、マウス2番染色体上の電位依存性Na+チャネルクラスターに位置付けられている(Beckers他(1997)Genomics 36、202〜205)。このクラスターはヒト2番染色体にも存在し、そこにはSCN9Aも同様に存在すると考えられる(Malo他(1994)Cytogen.Cell.Genet.67、178〜186;Malo他(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91、2975〜2979;George他(1994)Genomics 19、395〜397)。hNe-Na遺伝子(ヒトSCN9A)のイントロン/エキソン構成はまだ決定されていないが、SCN4A(George他 (1993)Genomics 15、598〜606)、SCN5A(Wang他(1996)Genomics 34、9〜16)、SCN10A(Sonslova他(1997)Genomics 41、201〜209)、およびDrosophila para VGSC遺伝子(Loughey他(1989)Cell 58、1143〜1154)に関する遺伝子構造研究で報告されたような、他の既知の保存VGSCイントロン位置から推測可能である。
【0020】
hNe-Naに最も類似している脳型電位依存性Na+チャネル(ラット脳I-III(Noda他(1986)Nature 322、826〜828;Kayano他(1988)FEBS Lett.228、187〜194))は、全配列を通して20%異なっている(ヒト骨格は30%;心臓は34%異なる)。しかし、(i)配列比較を特定の構造/機能ドメイン内で行う場合、この相同性は非常に低下し(たとえば、DII-DIII細胞質リンカー領域の最初の3分の1は、最も類似しているチャネルに対して45%しか相同ではない(RBII/HBII));(ii)hNe-Naには、特定の抗体を作製するのに十分異なる領域(たとえば残基446〜460:EYTSIRRSRIMGLSE)がある(たとえば、Toledo-Aral他(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94、1527〜1532参照)。
【0021】
SCN5Aに対するサブタイプの特異的抗体が、たとえばCohen & Levitt(1993)Circ Res73、735〜742に記載されている。
【0022】
SCN8Aは、脳型VGSCに最も類似しており、70%のアミノ酸が類似している(さらに約60%がその他のVGSCに類似している)。SCN5Aは、脳型も含めたほとんどのVGSCに対して60%が類似している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】WO 92/20356
【特許文献2】WO 94/23031
【特許文献3】WO 94/05304
【特許文献4】WO 95/20974
【特許文献5】WO 95/23874
【特許文献6】英国特許出願第0021617.6、「Diagnosis and treatment of cancer」、2000年9月2日出願
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】American Cancer Society、Cancer Facts and Figures、1992、米国癌協会、アトランタ、ジョージア州、米国
【非特許文献2】Claus他(1991)Am J.Hum.Genet.48、232〜242
【非特許文献3】Easton他(1993)Am.J.Hum.Genet.52、678〜701
【非特許文献4】Gattoni-Celli & Cole(1996)Seminars in Oncology 23、754〜758
【非特許文献5】Itoh他(1996)J.Biochem.119、385〜390
【非特許文献6】Taylor-Papadimitriou他(1993)Annals NY Acad.Sci.698、31〜47
【非特許文献7】Burchell他(1996)、309〜313頁、In Breast Cancer、Advances in Biology and Therapeutics、Calvo他(編)、John Libbey Eurotex
【非特許文献8】Graham他(1996)Int.J.Cancer 65、664〜670
【非特許文献9】Graham他(1995)Tumor Targeting 1、211〜221
【非特許文献10】Finn他(1995)Immunol.Rev.145、61〜89
【非特許文献11】Burchell他(1993)Cancer Surveys 18、135〜148
【非特許文献12】Scholl & Pouillart(1997)Bull.Cancer 84、61〜64
【非特許文献13】Zhang他(1996)Cancer Res.56、3315〜3319
【非特許文献14】Grimes他(1995)FEBS Lett.369、290〜294
【非特許文献15】Laniado他(1997)Am.J.Pathol.150、1213〜1221
【非特許文献16】Smith他(1998)FEBS Lett.423、19〜24
【非特許文献17】Grimes & Djamgoz(1998)J.Cell.Physiol.175、50〜58
【非特許文献18】Dawes他(1995)Visual Neuroscience 12、1001〜1005
【非特許文献19】Klugbauer他(1995)EMBO J.14、1084〜1090
【非特許文献20】Black & Waxman(1996)Develop.Neurosci.18、139〜152
【非特許文献21】Fozzard & Hanck(1996)Physiol.Rev.76、887〜926
【非特許文献22】Bullman(1997)Hum.Mol.Genet.6、1679〜1685
【非特許文献23】Cannon(1999)
【非特許文献24】Marban他(1998)J,Physiol.508、647〜657
【非特許文献25】Catterall(2000)Neuron 26、13〜25
【非特許文献26】Plummer & Meisler(1999)Genomics 57、323〜331
【非特許文献27】Goldin(2001)Ann Rev Physiol 63、871〜894
【非特許文献28】Burgess他(1995)Nature Genet.10、461〜465
【非特許文献29】Cannon(1998)Mol Neurology(JB Martin編)Scientific American Inc.、NY
【非特許文献30】GenBank Accession No.X82835
【非特許文献31】Gellens他(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89(2)、554〜558
【非特許文献32】GenBank Accession No.M77235
【非特許文献33】GenBank Accession No.AB027567
【非特許文献34】Beckers他(1997)Genomics 36、202〜205
【非特許文献35】Malo他(1994)Cytogen.Cell.Genet.67、178〜186
【非特許文献36】Malo他(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91、2975〜2979
【非特許文献37】George他(1994)Genomics 19、395〜397
【非特許文献38】George他(1993)Genomics 15、598〜606
【非特許文献39】Wang他(1996)Genomics 34、9〜16
【非特許文献40】Sonslova他(1997)Genomics 41、201〜209
【非特許文献41】Loughey他(1989)Cell 58、1143〜1154
【非特許文献42】Noda他(1986)Nature 322、826〜828
【非特許文献43】Kayano他(1988)FEBS Lett.228、187〜194
【非特許文献44】Toledo-Aral他(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94、1527〜1532
【非特許文献45】Cohen & Levitt(1993)Circ Res73、735〜742
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、癌、特に乳癌の診断および予後を提供するのに有用であり、また臨床医が癌、特に乳癌の管理を行うのを支援する方法を提供することである。特に本発明の目的は、癌、特に乳癌の転移能を見極める方法を提供することである。
【0026】
本発明の他の目的には、癌、特に乳癌の治療方法と、癌の治療に役立つ可能性があることから、ヒト癌、特に乳癌に関連するVGSCを選択的に阻害する化合物の同定方法を提供することが含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の第1の態様は、ヒト患者の癌易罹患性を決定する方法であって、(i)患者から核酸および/またはタンパク質を含有するサンプルを得るステップと、(ii)そのサンプルが、癌に関連するレベルのSCN5A電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップとを含む方法を提供する。
【0028】
本発明の第2の態様は、ヒト患者の癌を診断する方法であって、(i)患者から核酸および/またはタンパク質を含有するサンプルを得るステップと、(ii)そのサンプルが、癌に関連するレベルのSCN5A電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップとを含む方法を提供する。
【0029】
サンプルが、癌に関連するレベルのSCN5A(または本発明の第4および第5の態様に関するSCN9A)VGSC核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップは、それ自体が癌の診断に役立つものであり、または診断に達するのを支援する手段として臨床医が使用できるものであることが理解されよう。
【0030】
たとえば乳癌に関し、上記方法は、臨床医が生検組織の病理組織学的試験を行い、または外部指診を実施し、または撮像を実施する場合に有用である。臨床医による乳癌の検査は、現在、針吸引で取り出した細胞の形態学的評価によって行っており、またはマンモグラフィーも行っている。マンモグラフィーも、乳房X線像での形態学的変化を利用している。現在のところ、乳癌に関しては、癌と癌ではないものとを区別する際、日常的に使用される生化学的評価はなされていない。BRCA1とBRCA2に関する上述のスクリーニング試験を使用することができる。臨床医は、診断を行う前に、前記VGSCのレベルを考慮すると同様にこれらまたはその他のファクターを考慮に入れることを望むことが理解されよう。
【0031】
本発明の第3の態様は、ヒト患者における癌の特定の転帰の相対的な見通しを予測する方法であって、(i)患者から核酸および/またはタンパク質を含有するサンプルを得るステップと、(ii)そのサンプルが、癌に関連するレベルのSCN5A電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップとを含む方法を提供する。
【0032】
本発明の第4の態様は、乳癌に対するヒト患者の易罹患性を決定する方法であって、(i)患者から核酸および/またはタンパク質を含有するサンプルを得るステップと、(ii)そのサンプルが、癌に関連するレベルの電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップとを含む方法を提供する。この方法は、サンプルが、癌に関連するレベルのSCN5Aおよび/またはSCN9A電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップを含むことが好ましい。
【0033】
本発明の第5の態様は、ヒト患者の乳癌を診断する方法であって、(i)患者から核酸および/またはタンパク質を含有するサンプルを得るステップと、(ii)そのサンプルが、癌に関連するレベルの電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップとを含む方法を提供する。この方法は、サンプルが、癌に関連するレベルのSCN5Aおよび/またはSCN9A電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップを含むことが好ましい。
【0034】
本発明の第6の態様は、ヒト患者における乳癌の特定の転帰の相対的な見通しを予測する方法であって、(i)患者から核酸および/またはタンパク質を含有するサンプルを得るステップと、(ii)そのサンプルが、癌に関連するレベルの電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップとを含む方法を提供する。この方法は、サンプルが、癌に関連するレベルのSCN5Aおよび/またはSCN9A電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップを含むことが好ましい。
【0035】
したがって本発明の第3または第6の態様は、予後または予後の支援に有用と考えられる。この方法は、生検組織の病理組織学的試験や外部指診、撮像などの既知の予後診断法に、補助的なものとして使用することができる。
【0036】
本発明の前述の態様それぞれに関し、特に第3および第6の態様に関し、この方法は、サンプルが、癌に関連するレベルのSCN5A電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップを含むことが好ましい。この方法はさらに、サンプルが、癌に関連するレベルのSCN9A電位依存性Na+チャネル核酸またはタンパク質を含有するか否かを決定するステップを含むことができる。
【0037】
サンプル中の前記VGSCのレベルの決定(複数のレベル、たとえば前記VGSCの2種のレベルの決定を含む)は、患者の癌をどのように管理するか臨床医が決定する際に役立つことが理解されよう。たとえば、高レベルの前記VGSC、特にSCN5Aが、特に乳癌の転移能に関連するので、臨床医は、患者の治療に関する意思決定を容易にするために、前記VGSCのレベルに関する情報を使用することができる。したがって、前記VGSC(好ましくはSCN5A)のレベルが、癌、特に乳癌に関して低転移能であることを示す場合、不必要な根治手術を避けることができる。同様に、前記VGSCのレベルが、癌、特に乳癌に関して高転移能であることを示す場合、根治手術(すなわち乳房切除)が好ましい治療であると考えられる。実施する手術のタイプを変えることが適切ではない場合であっても、前記VGSCのレベルが高転移能であることを示すか否かを決定することにより、患者に補助全身療法が必要であるか否かを臨床医が決定するのを助けることができる。現在のところ、腫瘍学における主な目標は、高転移能の乳癌と低転移能の乳癌とを区別できるようにすることであるが、その理由は、低転移能の乳癌の場合、毒性が非常に高い化学療法で6カ月にわたり治療すべきではないからである。
【0038】
前述の事項および以下の実施例から、前記VGSC、好ましくはSCN5Aの発現は将来腫瘍が広がる可能性があることを示すので、所与の癌、特に乳癌が転移性であるか否かを予測するために前記VGSC、好ましくはSCN5Aのレベルの決定を診断に利用できることが理解されよう。
【0039】
この方法は、問題となっている癌が乳癌である場合に特に好ましい。その他の該当する癌には、前立腺癌、肺の小細胞癌、および神経膠腫(脳癌)を含めることができる。
【0040】
所与の乳癌が転移性であるか否かを予測するのに本発明の方法を使用する場合も特に好ましい。
【0041】
癌または転移能を示す前記VGSCのレベルは、既知の癌性または転移性乳房細胞(好ましくは上皮細胞であるが、神経内分泌や筋上皮細胞などその他の細胞タイプも可能であり、または代わりに用いることができる)でのレベルが、既知の非癌性または非転移性乳房細胞におけるよりも高いものと定義することができる。前記VGSCタンパク質のレベルは、たとえば癌性細胞または転移性細胞で少なくとも1(1/2)倍高くてよく、あるいは少なくとも2倍または3倍高くてよい。免疫組織化学的に処理した組織切片のマイクロデンシトメトリーによる定量分析を使用することができる。すべてのVGSCと反応すると考えられる抗体を、場合によってはPCR分析と組み合わせて使用することができ、それによって、VGSCのタイプを区別することが可能になる。前記VGSCをコードするmRNAのレベルは、たとえば癌性細胞または転移性細胞で少なくとも1(1/2)倍高くてよく、あるいは少なくとも2倍または3倍高く、あるいは少なくとも10、50、100、500、1000、1200、1500、または1800倍高くてよい。半定量的PCRによる測定では、実施例に示すように、高転移性細胞系におけるSCN5AmRNAのレベルが低転移性細胞系の場合よりも約1800倍高いことを示している。
【0042】
本発明の1つの好ましい実施形態では、前記VGSC(好ましくはSCN5A)核酸、特にmRNAのレベルが、癌または転移能に関連するレベルであるか否かを決定する。サンプルはmRNAなどの核酸を含有し、前記VGSCのレベルは、前記核酸と、前記VGSC核酸に選択的にハイブリダイズする核酸とを接触させることによって測定することが好ましい。
【0043】
「選択的にハイブリダイズする」とは、核酸のヌクレオチド配列が、前記ヒト核酸に対して十分類似するために、穏やかなまたは非常にストリンジェントな条件下でハイブリダイズできることを意味する。当技術分野で周知のように、核酸ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーションが行われる核酸の長さやハイブリダイズする配列の同一性の程度などのファクターに左右され、また温度やイオン強度、配列のCGまたはAT含量などのファクターに左右される。したがって、前述のように選択的にハイブリダイズすることが可能などの核酸も、本発明を実施するのに有用である。
【0044】
前記ヒト核酸に選択的にハイブリダイズする核酸には、前記ヒト核酸に対し、その核酸の少なくとも一部分に関して配列同一性が>95%、好ましくは>98%、より好ましくは>99%である核酸が含まれる。周知のように、ヒト遺伝子は通常イントロンを含有し、その結果、たとえば遺伝子から得られたmRNAやcDNAは、前記ヒトゲノムDNAに対してその全長に沿って完全には一致しないようになるが、それにもかかわらず、前記ヒトDNAに選択的にハイブリダイズすることが可能な核酸になる。したがって、本発明は特に、前記VGSC mRNAまたはcDNAに選択的にハイブリダイズするが前記VGSC遺伝子にはハイブリダイズできない核酸を含む。たとえば、前記VGSC遺伝子のイントロン-エキソン境界に拡がる核酸は、前記VGSC mRNAまたはcDNAに選択的にハイブリダイズすることができない。
【0045】
選択的ハイブリダーゼーションに至る、一般に穏やかなまたは非常にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は当技術分野で知られており、たとえばMolecular Cloning、実験手引書、第2版、Sambrook他(編)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、USAに記載されており、これを参照により本明細書に援用する。
【0046】
核酸をナイロン膜に固定化し、プローブ核酸が500以上の塩基または塩基対である場合の典型的なハイブリダイゼーション溶液の例は、
6×SSC(クエン酸Na+生理食塩水)
0.5%ドデシル硫酸Na+(SDS)
100μg/ml変性断片化サケ精子DNA
である。ハイブリダイゼーションは68℃で行う。核酸を固定化したナイロン膜は、68℃で1×SSCにより洗浄し、または高ストリンジェンシーの場合は0.1×SSCで洗浄することができる。
【0047】
20×SSCは、以下の方法で調製することができる。NaCl 175.3gとクエン酸Na+ 88.2gをH2O 800mlに溶解する。NaOHの10N溶液を数滴滴下して、pHを7.0に調節する。その体積をH2Oで1リットルに調節する。一定量に分取する。オートクレーブにより滅菌する。
【0048】
核酸をナイロン膜に固定化し、プローブが15塩基から50塩基の間のオリゴヌクレオチドである場合の典型的なハイブリダイゼーション溶液の例は、
3.0Mトリメチルアンモニウムクロライド(TMACl)
0.01Mリン酸Na+(pH6.8)
1mm EDTA(pH7.6)
0.5%SDS
100μg/ml変性断片化サケ精子DNA
0.1%脱脂粉乳
である。
【0049】
ハイブリダイゼーションに最適な温度は、通常、所与の鎖の長さに関するTiよりも5℃低くなるよう選択される。Tiは、プローブとその標的配列との間に形成されたハイブリッドの不可逆的な融解温度である。Jacobs他(1988)Nucl.Acids Res.16、4637は、Tiの決定について論じている。3M TMACl中の17量体に関して推奨されるハイブリダイゼーション温度は48〜50℃であり、19量体に関しては55〜57℃であり、20量体に関しては58〜66℃である。
【0050】
「選択的にハイブリダイズする核酸」には、以下により詳細に述べるような周知の増幅系のいずれかによって、特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、前記VGSC mRNAからDNAを増幅する核酸も含まれる。PCR増幅に適切な条件には、適切な1×増幅緩衝液での増幅が含まれ、
10×増幅緩衝液は、500mM KCl;100mM Tris.Cl(pH8.3、室温);15mM MgCl2;0.1%ゼラチンである。
【0051】
2本鎖DNAの鎖を分離するために、適切な変性剤または手順(95℃に加熱するなど)を使用する。
【0052】
増幅のアニーリング部分は、37℃から60℃の間であることが適切であり、好ましくは50℃である。
【0053】
本発明の方法に有用な核酸はRNAやDNAであるが、DNAが好ましい。本発明の方法に有用な核酸は2本鎖や1本鎖であるが、核酸増幅反応などの一部の環境下では1本鎖核酸が好ましい。
【0054】
本発明の方法に有用な核酸は、任意の適切なサイズでよい。しかし、ある診断では、プローブしまたは増幅するために、核酸の塩基対(核酸が2本鎖の場合)または塩基(核酸が1本鎖の場合)は10000より少ないことが好ましく、より好ましくは1000より少ないものであり、より好ましくは10〜100であり、さらに好ましくは15〜30である。以下により完全に述べるように、ポリメラーゼ連鎖反応での使用に適する1本鎖DNAプライマーが特に好ましい。
【0055】
本発明の方法で使用する核酸は、1つまたは複数の前記VGSC mRNAにハイブリダイズすることが可能な核酸である。前記VGSC遺伝子と前記VGSC遺伝子によってコードされたmRNAから得られるcDNAの断片も、本発明の方法で使用するのに好ましい核酸である。
【0056】
本発明の方法で使用される核酸は、前記VGSC核酸の一部、特にVGSC mRNAを増幅するのに使用することができるオリゴヌクレオチドプライマーであることが特に好ましい。
【0057】
本発明で使用する核酸は、複数のVGSC mRNA、たとえばVGSC mRNAのすべて、または実質上すべて、または特定のサブセットにハイブリダイズすることができる。SCN5A、SCN8A、およびSCN9A mRNAはその他のVGSC mRNAに類似しているが、別個のものである。これについては実施例1および2でさらに論じる。したがって本発明で使用する核酸は、VGSC間に保存されるVGSCポリペプチドの領域、たとえばVGSCのすべて、または実質上すべて、または特定のサブセットに同じアミノ酸配列を有する領域をコードするVGSC mRNAの一部にハイブリダイズすることができる。本発明で使用するのに好ましい核酸は、SCN5A、SCN8A、またはSCN9A mRNAに選択的にハイブリダイズしてその他のVGSC mRNAにはハイブリダイズしないものである。そのような選択的にハイブリダイズする核酸は、たとえば前記VGSC mRNAにハイブリダイズしてその他のVGSC mRNAにはハイブリダイズしないかどうかを見ることによって、容易に得ることができる。
【0058】
たとえばSCN5Aは、実施例1で論じるように、C末端PDZドメインを所有するかどうかを見ることによってその他のVGSCαと区別することができる。このC末端領域の少なくとも1部をコードする核酸にハイブリダイズする核酸は、SCN5Aの別の(非PDZドメイン)部分をコードする核酸にハイブリダイズする核酸と合わせて、SCN5Aに特異的と考えられる。核酸は、同じ核酸分子の一部でよく、または別個の核酸分子でもよい。
【0059】
たとえば実施例1で述べる方法および核酸を使用することができる。特に、たとえば実施例1で述べる半定量的PCR技法を使用することができる。SCN5A、SCN8A、およびSCN9Aに対して選択的にハイブリダイズする核酸の例を表1に示す。
【0060】
この方法は、任意の癌に関して適切であるが、癌が乳癌である場合に好ましい。癌は、肺の小細胞癌または神経膠腫、あるいは卵巣癌または前立腺癌とすることができる。本発明の方法には、予後診断法と診断を支援する方法が含まれることが理解されよう。本発明の方法は、内科医または外科医が患者の管理または治療過程を決定するのに有用であることも理解されよう。
【0061】
本発明の診断方法および予後診断法は、女性患者に特に適している。
【0062】
核酸は、癌の疑いがありあるいは癌が見つかる可能性がありまたは癌が見つかった組織のサンプルから得ることが好ましい。たとえば、癌の疑いがありあるいは癌が見つかる可能性がありまたは癌が見つかった組織が乳房のものである場合、核酸を含有するサンプルは患者の乳房(腋窩組織、たとえばリンパ節組織を含む)から得ることが好ましい。乳房のサンプルは、外科的な切除、「トゥルーカット」生検、針生検、乳頭穿刺液、腫瘍穿刺吸引、または画像誘導生検によって得ることができる。画像は、X線、超音波、または(それほど好ましくはないが)テクネチウム99標識抗体または抗体断片であって乳房に選択的に結合しまたは位置付けられたものによって作成することができる。線維症と乳癌を区別するには核磁気共鳴映像(MRI)を使用することができる。
【0063】
サンプルは、たとえば組織生検によって患者から直接得ることができ、または組織から離れた患者の部位から得ることができるが、その理由はたとえば、組織から得られた細胞が身体の他の部分から移動してきたものだからである。あるいはサンプルは、たとえば組織またはそこから得た細胞を生体外で培養することができ、または異種移植モデルで培養することができるという意味で、また核酸サンプルは患者からの元の出所源から得た核酸から複製した(生体外であろうと生体内であろうと)ものでよいという意味で、患者から間接的に得ることができる。したがって、患者から得た核酸は物理的に患者の体内にあったものであってよいが、代わりに物理的に患者の体内にあった核酸からコピーしたものであってもよい。腫瘍組織は原発腫瘍または転移から得ることができる。サンプルはリンパ節、リンパ、または血液でよく、病気の拡がりが検出される。
【0064】
都合よく、前記VGSC mRNAにハイブリダイズ可能であり本発明の方法に使用される核酸は、検出可能な標識をさらに含む。
【0065】
「検出可能な標識」には、周知の方法を使用して核酸分子に容易に組み込むことができる32P、33P、35Pなどの任意の都合良い放射性標識が含まれ、核酸に容易に組み込むことができる任意の都合良い蛍光標識または化学発光標識も含まれる。さらに、「検出可能な標識」という用語には、別の部分に結合させることによって検出することのできる部分(ストレプトアビジンに結合することによって検出することができるビオチンなど)と、無色の化合物を着色化合物に変換することができ、またはその逆も可能であることにより検出することができる酵素などの部分(たとえばアルカリホスファターゼは無色のo-ニトロフェニルホスフェートを着色o-ニトロフェノールに変換することができる)も含まれる。都合の良いことに、核酸プローブは、固定化アッセイである位置を占めることができ、核酸が前記VGSC核酸にハイブリダイズするか否かは固定化アッセイにおけるハイブリダイゼーションの位置を見ることによって決定することができる。検出可能な標識は、Tyagi & Kramer(1996)Nature Biotechnology 14、303〜308に記載されている蛍光団-消光物質の対でもよい。
【0066】
その他のタイプの標識およびタグは、上記にて開示されている。核酸は、分枝核酸でよい(Urdea他(1991)Nucl.Acids Symposium Series 24、197〜200参照)。
【0067】
前述の方法は、癌のリスクのある群に含まれる患者の前駆症状をスクリーニングするのに使用できることが理解されよう。スクリーニングに関してリスクの高い患者には、50才を超える患者または高易罹患性をもたらす遺伝子(たとえば罹患し易い傾向のBRCA1、BRCA2、またはp53の変種)を持つ患者;乳癌/卵巣癌の家族歴のある患者;罹患した姉妹兄弟がいる患者;未産婦;初潮から閉経までが長期間の女性が含まれる。同様にこの方法は、乳房腫瘍などの腫瘍の病態分類に使用することができる。
【0068】
本発明の方法では、前記選択的ハイブリダイゼーションが可能な核酸(検出可能な標識で標識されていても標識されていなくても)を、ハイブリダイゼーション条件下で患者から得られた核酸(たとえばmRNA)に接触させることが都合良い。適切なハイブリダイゼーション条件には、上記のものが含まれる。
【0069】
VGSC mRNAに対する核酸ハイブリダイゼーションによって選択的に形成される複合体の存在を検出することができるが、たとえばその複合体は、抗体を使用して検出することができるDNA:RNAハイブリッドである。あるいは、ハイブリダイゼーションによって形成された複合体は酵素反応用の基質であり、その産物を検出することができるものである(適切な酵素には、ポリメラーゼ、リガーゼ、およびエンドヌクレアーゼが含まれる)。
【0070】
患者から得られた核酸(たとえばmRNA)を含有するサンプルが、問題となっている組織または細胞タイプの十分に純粋なサンプルではない場合、そのサンプル中で前記組織または細胞の濃度を高めることが好ましい。たとえば、血液サンプルなどのサンプル中で乳房細胞の濃度を高めることは、たとえば乳房細胞選択抗体または少なくとも上皮細胞に選択的な抗体を使用する蛍光活性化細胞選別(FACS)などの細胞選別法を使用して行うことができる。たとえばHMFG-1やHMFG-2などの抗MUC1抗体を使用することができ(Taylor-Papadimitriou他(1986)J.Exp.Pathol.2、 247〜260)、有用と考えられるその他の抗MUC1抗体は、Cao他(1998)Tumor Biol.19、(Suppl 1)、88〜99に記載されている。前記サンプルの出所には、上記論じた生検材料および腫瘍サンプルも含まれ、固定パラフィン包埋標本ならびに新しくまたは凍結した組織も含まれる。患者からの核酸サンプルを処理した後、VGSC mRNAに選択的にハイブリダイズする核酸に接触させることができる。たとえば患者からの核酸サンプルは、選択的増幅、逆転写、固定化(配列特異的固定化など)、または検出可能なマーカーの組込みによって処理することができる。
【0071】
細胞は、たとえば単一細胞固定化技法を使用して個々に分析することができる。単一細胞を分析することのできる方法には、レーザキャプチャマイクロダイセクション(LCM)の技法を使用する方法が含まれる。この技法は、分子分析用として単一細胞または均質な細胞集団を収集するのに使用することができ、たとえばJin他(1999)Lab Invest 79(4)、511〜512;Simone他(1998)Trends Genet 14(7)、272〜276;Luo他(1999)Nature Med 5(1)、117〜122;Arcuturs Updates、たとえば1999年6月および1999年2月;米国特許第5,859,699号に記載されている(すべてを参照により本明細書に援用する)。問題の細胞は、たとえば免疫組織化学的技法によって視覚化し、レーザパルスで活性化するポリマーフィルムに移す。この技法を使用して、特定の成分には陰性の細胞を単離することができる。LCMを実施するのに有用な顕微鏡は、Arcturus Engineering,Inc.、1220 Terra Bella Avenue、Mountain View、CA 94042、USAによって製造されている。
【0072】
LCMは、その他の単離方法または濃縮方法と共に使用することができる。たとえばLCMは、サンプル中の標的細胞タイプの濃度を高める方法の後に使用することができる。
【0073】
VGSC mRNAは、当技術分野で周知の方法を使用して、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって同定できることが理解されよう。
【0074】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR;Saiki他(1988)Science 239、487〜491)での使用に適するプライマーが好ましい。適切なPCRプライマーは、以下の性質を持つと考えられる。
【0075】
オリゴヌクレオチドの5'末端での配列は、増幅する標的配列に一致する必要がないことは周知である。
【0076】
通常PCRプライマーは、特にその3'末端に、2塩基よりも長い互いに相補的ないかなる構造も含有せず、この特徴により、「プライマーダイマー」と呼ばれる合成物の形成が促進される。2個のプライマーの3'末端がハイブリダイズするとき、それらは「プライムドテンプレート」複合体を形成し、プライマー伸長によって、「プライマーダイマー」と呼ばれる短い2重鎖産物が得られる。
【0077】
内部2次構造は、プライマーでは避けるべきである。対称PCRの場合、どちらのプライマーに関しても、1塩基も伸長しない状態で、G+C含量は40〜60%であることがしばしば推奨される。DNAプローブハイブリダイゼーションの研究に関連して使用される古典的な融解温度の計算によれば、所与のプライマーを特定の温度でアニールすべきであり、または伸長温度が72℃であるとプライマー/鋳型ハイブリッドが早めに解離するということがしばしば予測される。実際にハイブリッドは、単純なTm計算によって一般に予測されるよりも、PCRプロセスにおいてより効果的である。
【0078】
最適なアニーリング温度は経験的に決定することができ、予測されるよりも高くなる可能性がある。Taq DNAポリメラーゼは37〜55℃領域で活性であり、したがってプライマー伸長がアニーリングステップ中に生じ、ハイブリッドが安定することになる。プライマーの濃度は従来の(対称)PCRの場合と等しく、典型的な場合、0.1〜1μMの範囲内である。
【0079】
本発明の方法では、ポリメラーゼ連鎖反応、QBレプリカーゼおよびリガーゼ連鎖反応を含む核酸増幅プロトコルのいずれかを使用することができる。また、Compton(1991)Nature 350、91〜92およびAIDS(1993)、Vol 7(Suppl 2)に記載されるように3SRとも呼ばれるNASBA(核酸配列に基づく増幅)を使用することもでき、Walker他(1992)Nucl.Acids Res.20、1691〜1696に記載されるようにS108またはSDA(鎖置換増幅)を使用することもできる。ポリメラーゼ連鎖反応は単純であるので特に好ましい。
【0080】
本発明の1対の適切な核酸をPCRに使用する場合、その産物をゲル電気泳動および臭化エチジウム染色によって検出することが便利である。DNAのアガロースゲル電気泳動および臭化エチジウム染色を使用したDNA増幅産物を検出する代替案として、増幅済みのDNAにハイブリダイズすることが可能な標識済みオリゴヌクレオチドをプローブとして使用することが便利である。増幅がPCRによる場合、オリゴヌクレオチドプローブは、2個のプライマーによって画定されたプライマー間配列にハイブリダイズする。オリゴヌクレオチドプローブは、10〜50ヌクレオチド長であることが好ましく、15〜30ヌクレオチド長であることがより好ましい。プローブは、標準的な技法を使用して32P、33P、35Sなどの放射性核種で標識することができ、または蛍光色素で標識することができる。オリゴヌクレオチドプローブを蛍光標識した場合、増幅DNA産物は溶液中で検出することができる(たとえばBalaguer他(1991)「Quantification of DNA sequences obtained by polymerase chain reaction using a bioluminescence adsorbent」Anal.Biochem.195、105〜110、およびDilesare他(1993)「A high-sensitivity electrochemiluminescence-based detection system for automated PCR product quantitation」BioTechniques 15、152〜157参照)。
【0081】
PCR産物は、蛍光団-消光物質の対を有しまたは固体支持体に固着させることができまたはビオチンタグを持つプローブを使用して検出することもでき、あるいはキャプチャープローブとディテクタープローブの組合せを使用して検出してもよい。
【0082】
蛍光団-消光物質の対は、PCR反応(たとえばRT-PCR)の定量測定に特に適している。適切なプローブを使用する蛍光偏光を、PCR産物の検出に使用してもよい。
【0083】
オリゴヌクレオチドプライマーは、当技術分野で周知の方法、たとえば固相ホスホアミダイト法を使用して合成することができる。
【0084】
本発明は、癌を診断しまたは予後診断し、あるいは癌(好ましくは乳癌)易罹患性を決定する方法において;またはこれらの方法を実施するための試薬を製造する際の、SCN5A核酸(たとえばmRNA)に選択的にハイブリダイズする核酸の使用を提供する。本発明はさらに、乳癌を診断しまたは乳癌を予後診断し、あるいは乳癌易罹患性を決定する方法において;またはこれらの方法を実施するための試薬を製造する際の、VGSC核酸(たとえばmRNA)、好ましくはSCN5Aおよび/またはSCN9A核酸に選択的にハイブリダイズする核酸の使用を提供する。
【0085】
mRNAレベルを検出するその他の方法が含まれる。
【0086】
前記VGSC mRNAの相対的な量を決定するための方法には、in situハイブリダイゼーション(In Situ Hybridization Protocols、Methods in Molecular Biology Volume 33、K H A Choo編、1994、Humana Press Inc(Totowa、NJ、USA)pp 480p、およびIn Situ Hybridization:A Practical Approach、D G Wilkinson編、1992、Oxford University Press、Oxford、第163頁)、in situ増幅、ノーザン法、ヌクレアーゼプロテクション法、プローブアレイ、および増幅ベースシステムが含まれる。
【0087】
mRNAは、検出および定量の前またはその間に増幅することができる。各増幅サイクルごとに産物を測定する「リアルタイム」増幅法が特に有用である(たとえばReal time PCR Hid他(1996)Genome Research 6、986〜994、Gibson他(1996)Genome Research 6、995〜1001;Real time NASBA Oehlenschlager他(1996 Nov 12)PNAS(USA)93(23)、12811〜6)。プライマーは、DNAからではなくmRNA鋳型から優先的に増幅するよう設計すべきであり、あるいはmRNAまたはDNA鋳型の出所をサイズまたはプロービングによって区別することができるよう、産物が生成されるように設計すべきである。NASBAは、RNAだけが初期基質として認識されるようにプロセスを整えることができるとき、特に有用である。
【0088】
mRNAの検出には、あらゆる意味でのmRNAの検出が含まれ、またはmRNAを含有する細胞が存在することの検出(たとえばin situハイブリダイゼーションによって、または溶解細胞から得られたサンプル中で)が含まれる。mRNAの存在を検出し、または前記VGSC mRNAの発現によって検出することができるある細胞の存在(全体的に、または特定の位置に)を検出することが有用である。前述のように、前記VGSC mRNAが存在するか否かは有用なマーカーになり得るものであり、または前記VGSC mRNAが低レベルであるか高レベルであるかは有用なマーカーになり得るものであり、または特定の数量レベルは特定の疾病状態に関連している可能性がある。マーカーとして前記VGSCポリペプチドを使用することに関し、同様の可能性があることが理解されよう。
【0089】
別の好ましい実施形態では、前記VGSCタンパク質のレベルを測定する。前記タンパク質のレベルは、前記VGSCポリペプチドに選択的に結合する分子とタンパク質とを接触させることによって測定することが好ましい。
【0090】
患者から得たタンパク質を含有するサンプルは、サンプル組織であることが都合良い。乳房組織を評価する場合など、いくつかの環境で、前記VGSCポリペプチドが存在するか(腫瘍)存在しないか(正常)を測定することが有用である。本発明の方法は、試験サンプルに含まれる前記VGSCポリペプチドの測定および検出と、それを対照サンプルと比較することも含む。
【0091】
患者から得たタンパク質を含有するサンプルは、癌の疑いがあり、あるいは癌が見つかる可能性があるかまたは癌が見つかった組織のサンプルであることが都合良い。これらの方法はいかなる癌にも使用できるが、乳癌の場合に特に適切である。適切なサンプルを得る方法は、前述の方法に関連して述べている。サンプルは、癌が広がっているか否かを決定するのに特に有用な血液、血清、リンパ節から得られた物質でもよい。上述のように単一細胞を分析することができる。
【0092】
前記VGSCタンパク質の検出を含む本発明の方法は、腫瘍サンプルのパラフィン包埋切片を含有するような病歴サンプルの場合に特に有用である。
【0093】
前記VGSCタンパク質のレベルは、任意の適切な方法により、サンプル中で決定することができる。
【0094】
前記VGSC(たとえばすべてのVGSCまたは選択されたVGSCであり、たとえばSCN5A)に選択的に結合する分子は抗体であることが特に好ましい。
【0095】
VGSCまたは特定の形のVGSCに選択的に結合できる抗体は上述の通りであり、たとえばすべてのVGSCまたは特定のVGSCにそれぞれ保存されるペプチド、あるいはある形のVGSCとその他の形のものとの相違を包含するペプチドを使用することによって、作製することができる。たとえばSCN5Aは、実施例1で論じるように、C末端PDZドメインを所有することによって他のVGSCαと区別することができ、C末端領域の一部に結合する抗体は、SCN5Aと他のVGSCとを区別するのに有用である(たとえばSCN5A(およびその他のVGSC)の別の部分に結合する抗体と併用して)。
【0096】
抗体はモノクローナルでもポリクローナルでもよい。適切なモノクローナル抗体は、たとえば参照により本明細書にいずれも援用する「Monoclonal Antibodies:A manual of techniques」、H Zola(CRC Press、1988)や「Monoclonal Hybridoma Anitibodies:Techniques and applications」、J G R Hurrell(CRC Press、1982)に開示されているものなど、既知の技法によって調製することができる。
【0097】
癌または転移能を示す前記 VGSCのレベルは、既知の非癌性または非転移性乳房細胞よりも、既知の癌性または転移性細胞、好ましくは癌性または転移性乳房細胞中において高レベルであると定義することができる。このレベルは、たとえば癌性または転移性細胞において少なくとも1(1/2)倍高く、あるいは少なくとも2倍または3倍高いと考えられる。
【0098】
「前記VGSCタンパク質の相対的な量」とは、既知の正常組織の単位質量当たりまたは正常細胞の単位個数あたりの前記VGSCタンパクの量と比較した、サンプル組織の単位質量当たりまたはサンプル細胞の単位個数当たりの前記VGSCタンパク質の量を意味する。相対的な量は、任意の適切なタンパク質定量法を使用して決定することができる。特に、抗体を使用する場合、前記VGSCタンパク質の量は、定量ウェスタンブロッティング、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、または定量免疫組織化学を含めた方法を使用して決定することが好ましい。
【0099】
上述のように、既知の正常組織サンプルに比べてサンプル中の前記VGSC、たとえばSCN5Aのレベルが高いことは、高転移能の腫瘍形成性サンプルであることを示唆している。乳房組織の場合、前記VGSC(SCN5Aおよび/またはSCN9A)が存在することは、存在しない場合よりも発癌性が高いことを示唆している。
【0100】
抗体を増加させ精製するためのその他の技法は当技術分野で周知であり、任意のそのような技法を選択して、本発明の特許請求の範囲に記載した方法に有用な調製物質を得ることができる。本発明の好ましい実施形態では、抗体が、溶液から前記VGSCタンパク質を免疫沈降させ、それと共に、ポリアクリルアミドゲルのウェスタンまたは免疫ブロット上で前記VGSCタンパク質と反応する。別の好ましい実施形態では、免疫細胞化学技法を使用して、抗体により、パラフィンまたは凍結組織切片で前記VGSCタンパク質が検出される。
【0101】
前記VGSCタンパク質を検出するための方法に関する好ましい実施形態には、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、放射免疫アッセイ(RIA)、免疫放射定量測定法アッセイ(IRMA)、および免疫酵素アッセイ(IEMA)が含まれ、モノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体を使用したサンドイッチアッセイが含まれる。例示的なサンドイッチアッセイは、David他の米国特許第4,376,110号および第4,486,530号に記載されており、参照により本明細書に援用する。
【0102】
本発明の方法では、たとえば抗原結合部位を保持する抗体断片または誘導体、1本鎖Fv断片(ScFv)やドメイン抗体(dAb)などの合成抗体状分子、および抗体状抗原結合モチーフを有するその他の分子を含めたその他の抗体状分子を使用できることが理解されよう。
【0103】
本発明の別の態様は、癌を診断しまたは癌の予後診断をしあるいは癌(好ましくは乳癌)易罹患性を決定する方法において、あるいは癌を診断しまたは癌の予後診断をしあるいは癌易罹患性を決定するための試薬を製造する際の、SCN5A VGSCポリペプチド(天然の断片またはその変種を含む)に選択的に結合する分子の使用を提供する。本発明はさらに、乳癌を診断しまたは乳癌の予後診断をしあるいは乳癌易罹患性を決定する方法において、あるいはこれらの方法を実施するための試薬を製造する際の、VGSCポリペプチド(天然の断片またはその変種を含む)好ましくはSCN5AまたはSCN9Aに選択的に結合する分子の使用を提供する。
【0104】
他の実施形態で、前記VGSCのレベルは、サンプル中でのその活性を選択的にアッセイすることにより測定する。サンプル中のVGSC、たとえばSCN5A VGSCの活性は、生検材料を単一細胞に解離し、培養中、(i)電位依存性Na+チャネルブロッカーがその運動性に及ぼす影響についてアッセイし、(ii)電気生理学的記録によって電位依存性Na+チャネルの活性を検出することによってアッセイすることができる。適切な方法および電位依存性Na+チャネルブロッカーについては実施例1で述べる。
【0105】
本発明の好ましい診断法は、広く「侵襲的」方法および「非侵襲的」方法と呼べるものを含む。侵襲的方法は、たとえば(a)配列特異的抗体の免疫組織化学的利用、(b)組織切片でのin situ PCR、または(c)生検材料から分離した後の細胞、たとえば上皮細胞(および/またはその他の細胞タイプ、たとえば神経内分泌または筋上皮細胞)の逆転写(RT)-PCRによって、たとえば電位依存性Na+チャネル発現検出用の生検を得ることを含む。非侵襲的方法は、親和性によって分離することができPCRにより電位依存性Na+チャネル発現のアッセイを行うことができる乳房由来細胞を、血液から得ることを含む。
【0106】
本発明の別の態様は、癌を診断しまたは癌の予後診断をしあるいは癌(好ましくは乳癌)易罹患性を決定する方法において、あるいは癌を診断しまたは癌の予後診断をしあるいは癌易罹患性を決定するための試薬を製造する際に、サンプル中におけるSCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質の活性を選択的にアッセイするのに有用な物質である物質の使用を提供する。本発明はさらに、乳癌を診断しまたは乳癌の予後診断をしあるいは乳癌易罹患性を決定する方法において、あるいはこれらの方法を実施するための試薬を製造する際に、サンプル中における電位依存性Na+チャネルタンパク質、好ましくはSCN5AまたはSCN9Aの活性を選択的にアッセイするのに有用な物質である物質の使用を提供する。
【0107】
したがってこのように定義される物質は、癌を診断する方法に有用である。
【0108】
本発明の別の態様は、癌、特に乳癌の診断に有用な部品のキット(kit of parts)を提供し、このキットは、サンプル中のSCN5A(および任意選択でSCN9A)VGSCタンパク質または核酸のレベルを決定する際に使用可能な物質を含む。この物質は、前記VGSC核酸に選択的にハイブリダイズする核酸でよく、またはこの物質は、前記VGSCタンパク質に選択的に結合する分子でよく、またはこの物質は、前記VGSCの活性を選択的にアッセイするのに有用な物質でよい。
【0109】
このキットは、前記VGSC核酸またはタンパク質を含有する対照サンプルをさらに含むことが好ましく、この対照サンプルは、陰性対照(癌および癌の高転移能に関係しないレベルの前記VGSCタンパク質または核酸を含有する)でよく、またはこの対照サンプルは、陽性対照(癌または癌の高転移能に関係するレベルの前記VGSCタンパク質または核酸を含有する)でよい。キットは、陰性対照と陽性対照の両方を含むことができる。キットは、校正曲線が作製できるように異なる量に対応する前記VGSCタンパク質または核酸の対照を含むことが有益である。
【0110】
キットは、前記VGSCアッセイを実施するために、サンプルから乳房細胞(たとえば上皮細胞、神経内分泌または筋上皮細胞)を分離するための手段をさらに含むことが適切である。乳房細胞を分離するための手段は、抗体で被覆したマイクロビーズまたはカラムを含むことが好ましい。これらは細胞膜タンパク質に対する抗体で被覆されている。たとえば上述のように、HMFG-1やHMFG-2などの抗MUC1抗体を使用することができ(Taylor-Papadimitriou他(1986)J.Exp.Pathol.2、247〜260)、使用してよいその他の抗MUC1抗体は、Cao他(1998)Tumour Biol.19、(Suppl 1)、88〜99に記載されている。しかし抗MUC1抗体は、正常な骨髄細胞に結合する可能性がある。抗上皮細胞接着分子抗体、好ましくは磁気ビーズ表面に被覆された抗体を使用することが好ましい。好ましい抗体はBER-EP-4と呼ばれる。
【0111】
本発明の別の態様は、乳癌の診断に有用な部品のキットを提供し、このキットは、(1)サンプル中のVGSC、好ましくはSCN5AまたはSCN9Aタンパク質または核酸のレベルを決定する際に使用可能な物質と、(2)前記VGSCアッセイを実施するために、サンプルから乳房細胞(たとえば上皮細胞、神経内分泌または筋上皮細胞)を分離するための手段とを含む。
【0112】
キットは、当技術分野においてすべて周知の下記の癌関連ポリペプチド、すなわちMAGE-1、 MAGE-3、BAGE、GAGE-1、CAG-3、CEA、p53、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、MUC1、p52トレフォイルペプチド、Her2、PCNA、Ki67、サイクリンD、p90rak3、p170糖タンパク質(mdr-1)CA-15-3、c-ernB1、カテプシンD、PSA、CA125、CA19-9、PAP、myc、サイトカイン、bcl-2、テロメラーゼ、グルタチオンSトランスフェラーゼ、rad51、VEGF、チミジンホスホリラーゼ、Flk1、またはFlk2の1つまたは複数と反応し易い抗体など、他の癌関連ポリペプチドについて試験をするための構成要素をさらに含むことが有益と考えられる。
【0113】
キットは、上述の癌関連ポリペプチドのいずれかをコードする遺伝子やmRNAなど、別の癌関連核酸に選択的にハイブリダイズする核酸を、さらにまたは代替として含むことが有益である。さらに、キットに含めることができる有用な核酸は、遺伝子またはmRNA、すなわちras、APC、BRCA1、BRCA2、毛細血管拡張性運動失調(ATM)、hMSH2、hMCH1、hPMS2、またはhPMS1と選択的にハイブリダイズするものである。別の核酸が、erbB2、p53、BRCA1、BRCA2、またはATMのいずれかの遺伝子またはmRNAに選択的にハイブリダイズする場合が好ましい。
【0114】
キットは、対照および検出材料を含むことが有益である(たとえば免疫組織化学、2次抗体標識蛍光団、または酵素、またはビオチン、またはジオキシゲニンなどに関し)。免疫アッセイでは、キットに対する追加の構成要素として、VGSC上の別のエピトープに対する第2の抗体(任意選択で標識されまたは支持体に固着している)、2次抗体(任意選択で標識されまたは支持体に固着している)、希釈および反応緩衝液を含むことができる。本発明のキットのすべては同様の追加の構成要素を含むことが有益である。
【0115】
本発明の他の態様は、SCN5A(および任意選択でSCN9Aも)電位依存性Na+チャネルの機能を選択的に妨げる薬剤を患者に投与するステップを含む、癌の治療方法を提供する。
【0116】
本発明の他の態様は、電位依存性Na+チャネルの機能、好ましくはSCN5AまたはSCN9A、さらに好ましくは選択的にSCN5AまたはSCN9Aの機能を、選択的に妨げる薬剤を患者に投与するステップを含む、乳癌の治療方法を提供する。
【0117】
「電位依存性Na+チャネルの機能を選択的に妨げる薬剤」には、(a)前記VGSCの発現を阻害し、または(b)前記VGSCの活性を阻害する薬剤を含める。
【0118】
前記VGSCの発現を妨げる薬剤にはアンチセンス物質およびリボザイムが含まれるがこれらに限定されない。
【0119】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは1本鎖核酸であり、相補的核酸配列に特異的に結合することができる。適切な標的配列に結合することにより、RNA-RNA、DNA-DNA、またはRNA-DNA2重鎖が形成される。これらの核酸は遺伝子のセンス鎖またはコード鎖に相補的であるのでしばしば「アンチセンス」と呼ばれる。最近では、オリゴヌクレオチドがDNA2重鎖に結合する場合、三重らせんの形成が可能であることが証明されている。オリゴヌクレオチドは、DNA二重らせんの主溝で配列を認識できることがわかった。それによって三重らせんが形成されている。これは、主溝の水素結合部位を認識することによって二本鎖DNAに特異的に結合する配列特異的分子の合成が可能であることを示している。
【0120】
標的核酸に結合することにより、上記オリゴヌクレオチドは標的核酸の機能を阻害することができる。これは、たとえば転写やプロセシング、ポリ(A)付加、複製、翻訳、RNA分解の促進など細胞の阻害メカニズムの促進の結果である。
【0121】
アンチセンスオリゴヌクレオチドを実験室で調製し、次いでたとえば細胞培地かから細胞へのマイクロインジェクションまたは摂取によって細胞に導入し、あるいはアンチセンス遺伝子を運ぶプラスミドまたはレトロウイルスまたはその他のベクターでトランスフェクトした後に、細胞内で発現させる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ラウス肉腫ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、I型単純ヘルペスウイルス、シミアンウイルス、およびインフルエンザウイルスの細胞培養においてウイルスの複製または発現を阻害することが初めてわかった。それ以来、アンチセンスオリゴヌクレオチドによるmRNA翻訳の阻害について、ウサギ網状赤血球溶解産物および小麦胚芽抽出物を含めた無細胞系で詳細に研究がなされてきた。アンチセンスオリゴヌクレオチドによるウイルス機能の阻害は、AIDS HIVレトロウイルスRNAに相補的なオリゴヌクレオチドを使用して生体外で実証されている(Goodchild,J.1988「Inhibition of Human Immunodeficiency Virus Replication by Antisense Oligodeoxynucleotides」、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)85(15)、5507〜11)。Goodchildの研究は、最も効果的なオリゴヌクレオチドがポリ(A)シグナルに相補的であることを示しており、同様にRNAの5'末端を標的としたもの、特にキャップおよび5'非翻訳領域であって、プライマー結合部位の隣およびプライマー結合部位にあるものも効果的であった。キャップ、5'非翻訳領域、およびポリ(A)シグナルは、レトロウイルスRNAの端部で繰り返された配列内に在り(R領域)、これらに相補的なオリゴヌクレオチドはRNAに2回結合する。
【0122】
オリゴヌクレオチドは、細胞内因性ヌクレアーゼによって分解し易くまたは不活性化し易い。この問題に対処するため、たとえば変化したヌクレオチド間結合を有する変性オリゴヌクレオチドであって、自然に生ずるホスホジエステル結合の代わりに別の結合を持つものを使用することが可能である。たとえばAgrawal他(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85、7079〜7083は、オリゴヌクレオチドホスホロアミデートおよびホスホロチオエートを使用することによって、HIV-1の組織培養での阻害が増大したことを示した。Sarin他(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85、7448〜7451は、オリゴヌクレオチドメチルホスホネートを使用することによりHIV-1の阻害が増大したことを実証した。Agrawal他(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86、7790〜7794は、ヌクレオチド配列特異的オリゴヌクレオチドホスホロチオエートを使用することにより、初期感染細胞および慢性的に感染した細胞の両方の培養でHIV-1複製が阻害されたことを示した。Leither他(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87、3430〜3434は、オリゴヌクレオチドホスホロチオエートの使用による、インフルエンザウイルス複製の組織培養での阻害を報告している。
【0123】
人為的な結合を有するオリゴヌクレオチドは、生体内で分解しにくいことが示されている。たとえばShaw他(1991)、Nucleic Acids Res.19、747〜750は、通常なら変性していないオリゴヌクレオチドが、あるキャッピング構造によって3'末端でブロックされている場合には、生体内でヌクレアーゼに対してより反応しにくくなり、またキャップされていないオリゴヌクレオチドホスホロチオエートは生体内で分解しないことを報告している。
【0124】
オリゴヌクレオシドホスホロチオエートを合成するH-ホスホネート手法の詳細な説明が、AgrawalおよびTang(1990)Tetrahedron Letters 31、7541〜7544に記載されており、その教示を参照により本明細書に援用する。オリゴヌクレオシドメチルホスホネート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミデート、リン酸エステル、橋かけホスホロアミデート、および橋かけホスホロチオエートの合成は、当技術分野で知られている。たとえば、その教示を参照により本明細書に援用するAgrawalおよびGoodchild(1987)Tetrahedron Letters 28、3539;Nielsen他(1988)Tetrahedron Letters 29、2911;Jager他(1988)Biochemistry 27、7237;Uznanski他(1987)Tetrahedron Letters 28、3401;Bannwarth(1988)Helv.Chim.Acta.71、1517;Crosstickおよび Vyle(1989)Tetrahedron Letters 30、4693;Agrawal他(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87、1401〜1405を参照されたい。その他の合成または生成方法も可能である。好ましい実施形態で、オリゴヌクレオチドはデオキシリボ核酸(DNA)であるが、リボ核酸(RNA)配列を合成して利用してもよい。
【0125】
本発明で有用なオリゴヌクレオチドは、内因性核酸分解酵素によって分解しにくいように設計されることが好ましい。オリゴヌクレオチドのin vivo分解により、長さが短くなったオリゴヌクレオチド分解産物が生成される。そのような分解産物は、その完全長のものに比べ、非特異的なハイブリダイゼーションに関与し易く効果的ではない。したがって、体内で分解しにくく標的細胞に到達することのできるオリゴヌクレオチドを使用することが望ましい。本発明のオリゴヌクレオチドは、生来のホスホジエステル結合の代わりに1つまたは複数の内部の人為的ヌクレオチド間結合を用いることによって、たとえば結合内でリン酸を硫黄に代えることによって、生体内でより分解しにくくすることができる。使用することができる結合の例には、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、スルホン、スルフェート、ケチル、ホスホロジチオエート、さまざまなホスホロアミデート、リン酸エステル、橋かけホスホロチオエート、および橋かけホスホロアミデートが含まれる。その他のヌクレオチド間結合も当技術分野で知られており、したがって上記の例は限定的なものではなく例示的なものである。たとえば、Cohen、(1990)Trends in Biotechnologyを参照されたい。ホスホジエステルヌクレオチド間結合の代わりにこれらの結合の1つまたは複数を有するオリゴヌクレオチドの合成は、当技術分野で周知であり、混合ヌクレオチド間結合を有するオリゴヌクレオチドを生成するための合成経路が含まれる。
【0126】
オリゴヌクレオチドは、5'または3'末端ヌクレオチドの「キャッピング」またはそこに同様の基を組み込むことによって、内因性酵素により伸長しにくくすることができる。キャッピング用の試薬は、Applied BioSystems Inc.、Foster City、CAからAmino-Link II(商標)として市販されている。キャッピングの方法は、たとえばShaw他(1991)Nucleic Acids Res.19、747〜750およびAgrawal他(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88(17)、7595〜7599に記載されており、その教示を参照により本明細書に援用する。
【0127】
ヌクレアーゼに対する耐性をオリゴヌクレオチドに持たせる別の方法は、参照により本明細書に援用するTang他(1993)Nucl.Acids.Res.21、2729〜2735に記載されるように、オリゴヌクレオチドを「自己安定化」することである。自己安定化したオリゴヌクレオチドは、その3'末端にヘアピンループ構造を有し、ヘビホスホジエステラーゼ、DNAポリメラーゼI、およびウシ胎仔血清による分解に対して高い耐性を示す。オリゴヌクレオチドの自己安定化領域は、ハイブリダイゼーションにおいて相補的核酸を妨げず、マウスでの薬物動態学および安定性に関する研究では、自己安定化オリゴヌクレオチドがその線状のものよりも生体内で維持されることを示している。
【0128】
本発明によれば、塩基対合特有のアンチセンスオリゴヌクレオチドの固有の結合特異性は、アンチセンス化合物の利用可能性を、その生体内での意図する場所に限定することによって高められ、したがって投与量を低くすることが可能になり、全身に及ぼす影響を最小限に抑えることができる。このため、オリゴヌクレオチドを局所的に利用して所望の作用が得られる。所望の場所でのオリゴヌクレオチドの濃度は、オリゴヌクレオチドを全身に投与した場合よりも高く、総量を大幅に低くして治療効果を達成することができる。オリゴヌクレオチドの濃度が局所的に高いと、標的細胞の浸透が高まり、標的核酸配列の翻訳が効果的に阻止される。
【0129】
オリゴヌクレオチドは、薬物の局所投与に適切な任意の手段によって、その場所に送達することができる。たとえば、オリゴヌクレオチドの溶液をその部位に直接注射することができ、または輸液ポンプを使用した輸液によって送達することができる。オリゴヌクレオチドは、埋込み可能な器具に組み込むこともでき、これを所望の部位に配置した場合、オリゴヌクレオチドをその周囲の場所に放出することができる。
【0130】
オリゴヌクレオチドは、ヒドロゲル材料を介して投与することができる。ヒドロゲルは非炎症性でありかつ生分解性である。現在ではそのような多くの材料が知られており、天然ポリマーおよび合成ポリマーから作製されたものが含まれる。好ましい実施形態で、この方法はヒドロゲルを活用するが、ヒドロゲルは、体温よりも低い液体であって、しかし体温または体温近くで形状を保持する半固体のヒドロゲルを形成するゲルである。好ましいヒドロゲルは、エチレンオキシド-プロピレンオキシドの反復単位を持つポリマーである。ポリマーの特性は、ポリマーの分子量と、ポリマーに対するポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドの相対的なパーセンテージに左右される。好ましいヒドロゲルは、約10〜約80重量%のエチレンオキシドと、約20〜約90重量%のプロピレンオキシドを含有する。特に好ましいヒドロゲルは、約70%のポリエチレンオキシドと、30%のポリプロピレンオキシドを含有する。使用することのできるヒドロゲルは、たとえばPluronic(登録商標)という商標でBASF Corp.、Parsippany、NJから入手可能である。
【0131】
この実施形態では、ヒドロゲルを液体状態にまで冷却し、この液体にオリゴヌクレオチドを混合して、濃度をヒドロゲル1グラム当たりオリゴヌクレオチド約1mgにする。次いで得られた混合物を、たとえば噴霧や塗布によって手術中に、またはカテーテルや内視鏡手技を使用して、治療する表面に施用する。ポリマーが温かくなると、凝固してゲルを形成し、ゲルの正確な組成によって規定された時間をかけて、オリゴヌクレオチドはゲルから周囲の細胞へと拡散する。
【0132】
オリゴヌクレオチドは、市販されまたは科学文献に記載されているその他のインプラントによって投与することができ、リポソーム、マイクロカプセル、および埋込み可能な器具が含まれる。たとえば、ポリ無水物やポリオルトエステル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびこれらのコポリマー、コラーゲン、タンパク質ポリマーなどの生分解性材料、またはエチレン酢酸ビニル(EVA)やポリ酢酸ビニル、エチレンビニルアルコール、およびこれらの誘導体などの非生分解性材料で作製されたインプラントを使用して、オリゴヌクレオチドを局所的に送達することができる。オリゴヌクレオチドは重合しまたは凝固するので、融解または溶媒蒸発技法を使用してこのような材料に組み込むことができ、またはこのような材料と機械的に混合することができる。一実施形態では、デキストランで被覆したシリカビーズやステント、カテーテルなど、埋込み可能な器具のコーティングにオリゴヌクレオチドを混合し、または付着させる。ポリマーナノ粒子/生分解性薬物担体を使用することもできる(Mader(1998)Radiol.Oncol.32、89〜94)。
【0133】
オリゴヌクレオチドの用量は、オリゴヌクレオチドのサイズと、それを投与する目的に応じて変わる。一般にその範囲は、治療する組織の表面積に基づいて計算する。オリゴヌクレオチドの有効用量は、オリゴヌクレオチドの長さおよび化学組成に若干左右されるが、一般にその範囲は組織表面積1平方センチメートル当たり約30〜3000μgである。
【0134】
オリゴヌクレオチドは、治療と予防の両方を目的として患者の全身に投与することができる。オリゴヌクレオチドは、任意の効果的な方法によって、たとえば非経口的に(たとえば静脈、皮下、筋肉内から)、または経口的に、または鼻から、またはオリゴヌクレオチドを患者の血流に到達させて循環させることが可能なその他の手段によって、投与することができる。全身に投与したオリゴヌクレオチドは、局所的に投与したオリゴヌクレオチドの他に与えることが好ましいが、局所投与を行わない場合にも有用である。このため一般には、成人に対する1回の投与当たり約0.1〜約10グラムの範囲内の投与量が効果的である。
【0135】
アンチセンスオリゴヌクレオチドを癌性組織、たとえば乳房に向けることが望ましいことが理解されよう。これは、アンチセンスオリゴヌクレオチドを癌の部位(たとえば乳房)に投与することによって実現でき、またはアンチセンスオリゴヌクレオチドを癌部位に選択的に向ける分子に結合しているアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用することによって実現できる。たとえば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、MUC-1などの乳房関連抗原に選択的に結合する抗体または抗体状分子に結合させることができる。「結合する」とは、癌指向性分子がアンチセンスオリゴヌクレオチドを癌細胞、たとえば乳房細胞に向けることができるように、アンチセンスオリゴヌクレオチドと癌指向性分子とが関連付けらていることを意味する。
【0136】
アンチセンス物質は、たとえば前記VGSC mRNAまたは遺伝子に結合する百塩基程度から数百塩基程度のより大きい分子も含み、これは前記VGSC mRNAまたは遺伝しの発現を十分妨げ、前記VGSCタンパク質の発現を十分妨げるものであることが理解されよう。したがって、前記VGSC mRNAに実質上相補的なアンチセンス分子の発現は、本発明の一部と考えられる。
【0137】
したがってこの手法では、(i)SCN5A(および任意選択でSCN9Aも)チャネルまたは(ii)(乳癌に罹っている患者またはその危険性がある患者の場合)SCN5AまたはSCN9Aチャネルあるいは一般にはVGSCの特定領域に対するアンチセンス配列を持つ合成オリゴヌクレオチドを投与して(好ましくは乳癌に罹っている患者またはその危険性がある患者に)、チャネルの活性をブロックする。特定の合成オリゴヌクレオチドの詳細を実施例2に示す。カリウムチャネルを生体外で処理し(Roy他(1996)Glia 18、174〜188)、VGSCを生体外で処理し(Biochem Biophys Res Comm(1997)234、235〜241)、神経障害性の痛みをブロックするため(Lai他(1999)「Blockade of neuropathic pain by antisense targeting of tetrodotoxin-resistant sodium channels in sensory neurons」Methods in Enzymol 314、201〜213)、アンチセンスオリゴヌクレオチド技術が既に使用されていることに注目すべきである。
【0138】
前記VGSC活性をブロックするための別の方法は、優性阻害抑制を含む。この技法では、突然変異VGSC遺伝子産物と、対応する正常遺伝子産物が共に発現した場合、突然変異VGSC遺伝子産物が、対応する正常遺伝子産物の活性を抑制しまたは消失させる。4個のαサブユニットを含む電位依存性カリウムチャネル(VGPC)の場合、生体外(Tu他(1995)Biophys.J.68、147〜156)および生体内(London他(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95、2926〜2931)でのVGPCの機能的発現を抑制するために、十分切断された遺伝子産物を利用するそのような手法が首尾よく使用されてきた。切断サブユニットは他のVGPCサブユニットに結合することができるが、チャネルの機能に必要な残基は含有していない。このため、「組合せ」VGPCの活性がブロックされる。生体内での同様のメカニズムによってVGPC活性が抑制されるよう機能することができる、いくつかの天然に生ずる代替のスプライスチャネルサブユニットが検出されている(Baumann他(1987)EMBO J.6、3419〜3429;Kamb他(1988)Neuron 1、421〜430;およびPongs他(1988)EMBO J.7、1087〜1096)。本発明者等は、機能的チャネル形成を妨げることによって、VGSCを同様に抑制することができると考えている。VGSCは単一のαサブユニット(4個の機能的ドメインを含む)から形成されるが、最近の研究によれば、VGSC活性が制御されるよう優性阻害的手法で機能することのできる2つのドメインのみ所有する切断VGSCタンパク質の特異的発現(ヒト、マウス、および魚での発生中)が、明らかにされている(Plummer他 (1997)J.Biol.Chem.272、24008〜24015;およびOh & Waxman(1998)Neuro Report 9、1267〜1271)。新生児VGSCは、VGSC活性の阻害剤として働くことができるが、この阻害は、ほぼ間違いなく、関連する成体VGSCに特異的である。たとえば新生児SCN8Aが、SCN8A以外のVGSC遺伝子由来のVGSCタンパク質の活性を阻害することはない。
【0139】
大きい分子は、以下に述べるように任意の適切な遺伝子構築物から発現することができ、患者に送達される。典型的な場合、アンチセンス分子を発現する遺伝子構築物は、癌性のまたは癌性になり得る細胞内、好ましくは乳房細胞内でアンチセンス分子を発現することのできるプロモーターに有効に機能するよう結合された遺伝子または前記VGSC cDNAの少なくとも一部を含む。
【0140】
遺伝子構築物はDNAまたはRNAでよいが、DNAであることが好ましい。
【0141】
遺伝子構築物は、ヒト細胞への送達に適合したものであることが好ましい。
【0142】
動物の身体の細胞内に遺伝子構築物を導入する手段および方法は、当技術分野で知られている。たとえば本発明の構築物は、任意の都合の良い方法、たとえばレトロウイルスを用いる方法によって腫瘍細胞に導入することができ、したがってこの構築物は、腫瘍細胞のゲノムに挿入される。たとえばKuriyama他 (1991)Cell Struc.and Func.16、503〜510では、精製したレトロウイルスを投与する。レトロウイルスは、癌細胞に選択的に影響を及ぼす潜在的な手段を提供するが、これは分裂する細胞のゲノムにしか取り込まれないからであり、すなわち癌の周囲のほとんどの正常細胞は、細胞増殖の休止状態である非受容段階にあり、または少なくとも、腫瘍細胞よりも非常に遅く分裂する。前記アンチセンス物質をコードするレトロウイルスDNA構築物は、当技術分野で周知の方法を使用して作製することができる。そのような構成から活性なレトロウイルスを精製するため、通常は、10%ウシ胎仔血清(FCS)を含有するDulbecco変性イーグル培地(DMEM)で増殖させたエコトロピックpsi2パッケージング細胞系を使用する。細胞系のトランスフェクションは、リン酸カルシウムの共沈澱によるものが便利であり、安定形質転換細胞は、最終濃度1mg/mlまでG418を添加することにより選択される(レトロウイルス構築物はneo(登録商標)遺伝子を含有すると仮定する)。独立したコロニーを単離し、拡張し、培養上澄みを除去し、0.45μmポアサイズのフィルターで濾過し、-70℃で保存する。腫瘍細胞にレトロウイルスを導入するには、10μg/mlポリブレンを添加したレトロウイルス性上澄みを直接注射することが便利である。直径が10mmを超える腫瘍の場合は、レトロウイルス性上澄みを0.1mlから1mlの間、好ましくは0.5ml注射することが適切である。
【0143】
あるいはCulver他(1992)Science 256、1550〜1552に記載されるように、レトロウイルスを産生する細胞を腫瘍に注射する。このように導入されたレトロウイルス産生細胞は、レトロウイルスベクター粒子が活発に産生されるよう設計製作され、その結果、腫瘍塊内のその場でベクターが連続的に産生されるようになる。したがって増殖する腫瘍細胞は、レトロウイルスベクター産生細胞と混合した場合、生体内で首尾よく形質導入される。
【0144】
標的レトロウイルスも本発明で利用可能であり、たとえば、特異的結合親和性を与える配列を、既存のウイルスenv遺伝子に設計製作することができる(この事項および遺伝子治療に関するその他の標的ベクターの概説についてはMiller & Vile(1995)Faseb J.9、190〜199参照)。
【0145】
その他の方法は、内部で発現させるため、限られた時間で、またはゲノムに組み込んだ後に長時間かけて、単に細胞に構成を送達することを含む。後者の手法の例には、(好ましくは腫瘍細胞標的)リポソームが含まれる(Nassander他(1992)Cancer Res.52、646〜653)。
【0146】
イムノリポソーム(抗体指向性リポソーム)は、抗体が利用可能な細胞表面タンパク質を過発現する癌細胞型を狙うのに特に有用である。たとえばイムノリポソームは、以下にさらに論じるように、MUC-1や前記VGSCなど乳癌細胞抗原に結合する抗体で狙うことができる(好ましくは他の標的手段または方法と組み合わせて)。イムノリポソームの調製では、Martin & Papahadjopoulos(1982)J.Biol.Chem.257、286〜288の方法に従ってMPB-PE(N-[4-(p-マレイミドフェニル)ブチリル]-ホスファチジルエタノールアミン)を合成する。MPB-PEをリポソーム2重層に組み込んで、抗体またはその断片をリポソームの表面に共有結合させる。リポソームには、本発明のDNAまたはその他の遺伝子構築物を組み入れて標的細胞に送達させることが都合良く、これはたとえば、前記リポソームをDNAまたはその他の遺伝子構築物の溶液中で形成し、その後、窒素圧力が最大0.8MPaの条件下で、ポアサイズが0.6μmおよび0.2μmのポリカーボネートメンブランフィルターを通して逐次押し出すことによって行う。押出し後、80000×gの超遠心分離に45分間かけて、捕捉されたDNA構築物を自由なDNA構築物から分離する。新しく調製された、脱酸素緩衝液中のMPB-PEリポソームを、新しく調製した抗体(またはその断片)と混合し、4℃の窒素雰囲気中、一定のエンドオーバーエンド回転を行いながら、一晩かけて共役反応させる。80000×gの超遠心分離に45分間かけて、結合していない抗体からイムノリポソームを分離する。イムノリポソームは、腹膜内からまたは直接的に、腫瘍に注射することができる。
【0147】
その他の送達方法は、抗体ポリリシン架橋を介して外部DNAを運ぶアデノウイルスと(Curiel Prog.Med.Virol.40、1〜18参照)、担体としてのトランスフェリン-ポリカチオン結合体(Wagner他 (1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87、3410〜3414)を含む。これらの第1の方法では、ポリカチオン-抗体複合体を本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物と共に形成するが、この抗体は、野生型アデノウイルス、または抗体に結合する新しいエピトープを導入した変種アデノウイルスに、特異的なものである。ポリカチオン部分は、静電的相互作用を介してDNAをリン酸骨格に結合する。アデノウイルスは、非変性線維およびペントンタンパク質を含有するので、細胞内に存在しかつその細胞内に共に本発明のDNA構築物を運び込む。ポリカチオンはポリリシンであることが好ましい。
【0148】
DNAは、たとえば以下に述べるようにアデノウイルス粒子内に存在する場合、アデノウイルスによって送達してもよい。
【0149】
これらの第2の方法では、DNA高分子を細胞に運び込むのに受容体依存性エンドサイトーシスを使用する高効率核酸送達系を用いる。これは、核酸に結合するポリカチオンに鉄輸送タンパク質トランスフェリンを結合することによって行われる。ヒトトランスフェリン、またはニワトリ相同コンアルブミン、またはこれらの組合せを、ジスルフィド結合を介して小DNA結合タンパク質プロタミンまたはさまざまなサイズのポリリシンに共有結合する。これらの変性トランスフェリン分子は、コグネイト受容体を結合し、細胞内への効果的な鉄輸送を媒介するという能力を維持している。トランスフェリン-ポリカチオン分子は、電気泳動によって、核酸のサイズに関係なく(短いオリゴヌクレオチドから21キロベースペアのDNAまで)本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物と安定な複合体を形成する。トランスフェリン-ポリカチオンと本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物との複合体を腫瘍細胞に供給した場合、細胞内でこの構築物から高レベルの発現が生ずることが予想される。
【0150】
Cotten他 (1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89、6094〜6098の方法により生成した欠陥または化学的に不活性なアデノウイウス粒子のエンドソーム分解活性を使用する、本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物の高効率受容体媒介送達を使用してもよい。この手法は、アデノウイルスが、リソソームを通過することなくそのDNAをエンドソームから放出するよう適合され、たとえば本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物に結合したトランスフェリンが存在する場合にはこの構築物がアデノウイルス粒子と同じ経路で細胞に取り込まれることを利用すると考えられる。
【0151】
この手法には、複合レトロウイルス構築物を使用する必要がなく、レトロウイルス感染の場合に生じるようにゲノムの永久的な変性がなく、標的発現系と標的送達系とを結合し、それによって他の細胞型に対する毒性を低減するという利点がある。
【0152】
ある期間、遺伝子構築物を含む適切な送達用賦形剤を腫瘍に局所的に潅流することが望ましく、追加としてまたは代替として、送達用賦形剤または遺伝子構築物を、到達可能な腫瘍に直接注射することが好ましい。
【0153】
「裸のDNA」およびカチオン性および中性脂質とのDNA複合体も、治療する患者の細胞に本発明のDNAを導入するのに有用であることが理解されよう。遺伝子治療の非ウイルス的手法はLedley(1995)Human Gene Therapy 6、1129〜1144に記載されている。
【0154】
WO94/10323に記載されている変性アデノウイルス系などの代替の標的送達系も知られており、典型的な場合、DNAを、アデノウイルスまたはアデノウイルス状粒子内に運ぶ。Michael他(1995)Gene Therapy 2、660〜668は、細胞選択的部分を線維タンパク質に付加するためのアデノウイルスの変性について述べている。Bischoff他(1996)Science 274、373〜376に記載されているものなど、P53欠失ヒト腫瘍細胞で選択的に複製する突然変異アデノウイルスも、本発明の遺伝子構築物を細胞に送達するのに有用である。したがって、本発明の別の態様は、本発明の遺伝子構築物を含むウイルスまたはウイルス状粒子を提供することが理解されよう。その他の適切なウイルスまたはウイルス状粒子には、HSV、AAV、ワクシニア、およびパルボウイルスが含まれる。
【0155】
他の実施形態で、前記VGSCの機能を選択的に妨げる物質は、標的VGSC RNAまたはDNAを切断することが可能なリボザイムである。前記リボザイムを発現する遺伝子は、アンチセンス分子と実質的に同じ方法で、かつ実質的に同じ賦形剤を使用して、投与することができる。
【0156】
本発明で開示するウイルスまたはウイルス状粒子のゲノムにコードすることができるリボザイムは、CechおよびHerschlag「Site-specific cleavage of single stranded DNA」米国特許第5,180,818号;Altman他「Cleavage of targeted RNA by RNAse P」米国特許第5,168,053号、Cantin他「Ribozyme cleavage of HIV-1 RNA」米国特許第5,149,796号;Cech他「RNA ribozyme restriction endoribonuclease and methods」米国特許第5,116,742号;Been他「RNA ribozyme polymerases,dephosphorylases,restriction endonucleases and methods」米国特許第5,093,246号;およびBeen他「RNA ribozyme polymerases,dephosphorylases,restriction endoribonucleases and methods;cleaves single-stranded RNA at specific site by transesterification」米国特許第4,987,071号に記載されており、すべてを参照により本明細書に援用する。
【0157】
アンチセンス分子またはリボザイムは、乳房細胞に特異的なプロモーター要素から発現することが望ましいことが理解されよう。乳房細胞特異的プロモーターの例には、c-erbB2に対するプロモーター要素またはエストロゲン受容体が含まれる。
【0158】
本発明の遺伝子構築物は、当技術分野で周知の方法を使用して調製することができる。
【0159】
相補的付着末端を介してベクターにDNAを操作可能に結合するさまざまな方法が開発されてきた。たとえば、相補的ホモポリマー領域をDNAセグメントに付加し、これをベクターDNAに挿入することができる。次いでベクターとDNAセグメントを、相補的ホモポリマーの末端同士の水素結合により接合して、組換えDNA分子を形成する。
【0160】
1つまたは複数の制限部位を含有する合成リンカーは、DNAセグメントとベクターを接合する代替方法を提供する。前述のようにエンドヌクレアーゼ制限消化によって生成したDNAセグメントを、バクテリオファージT4 DNAポリメラーゼまたはE.coli DNAポリメラーゼIで処理するが、これらポリメラーゼは、その3'-5'-ヌクレオチド鎖分解活性によって、突出する(protruding)3'-1 本鎖末端を除去し、その重合活性によって、凹んだ(recessed)3'-末端を埋めるものである。
【0161】
したがってこのような活性の組合せにより、平滑末端DNAセグメントが生成される。次いで平滑末端セグメントを、バクテリオファージT4 DNAリガーゼなど平滑末端DNA分子のライゲーションを触媒することができる酵素の存在下、大きくモル過剰のリンカー分子と共にインキュベートする。このため反応産物は、末端にポリマーリンカー配列を持つDNAセグメントになる。次いでこれらのDNAセグメントを適切な制限酵素で切断し、DNAセグメントに適合可能な末端を生成する酵素で切断された発現ベクターに対してライゲーションを行う。
【0162】
さまざまな制限エンドヌクレアーゼ部位を含む合成リンカーは、International Biotechnologies Inc.、New Haven、CN、USAを含めたいくつかの供給元から市販されている。
【0163】
本発明のポリペプチドをコードするDNAを変性させる望ましい方法は、Saiki他(1988)Science 239、487〜491に開示されるように、ポリメラーゼ連鎖反応を使用することである。
【0164】
この方法で、酵素により増幅するDNAは、増幅したDNAにそれ自体も組み込まれる2個の特異的オリゴヌクレオチドプライマーによって挟まれる。前記特異的プライマーは、当技術分野で知られている方法を使用して発現ベクターにクローニングするのに使用することができる制限エンドヌクレアーゼ認識部位を含んでよい。
【0165】
本発明は、本発明の遺伝(好ましくはDNA構築物)構築物で形質転換した宿主細胞にも関する。宿主細胞は、原核性または真核性でよい。細菌細胞は好ましい原核宿主細胞であり、典型的な場合は、たとえばBethesda Research Laboratories Inc.、Bethesda、MD、USAから入手可能なE.coli株DH5や、American Type Culture Collection(ATCC)、Rockville、MD、USAから入手可能なRR1(No.ATCC 31343)などのE.coli株である。好ましい真核宿主細胞には、酵母菌および哺乳動物細胞が含まれ、好ましくはマウス、ラット、サル、またはヒトの線維芽細胞系から得られたような脊椎動物細胞である。酵母宿主細胞には、一般にStratagene Cloning Systems、La Jolla、CA 92037、USAから入手可能なYPH499、YPH500、およびYPH501が含まれる。好ましい哺乳動物宿主細胞には、CCL61としてATCCから入手可能なチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、CRL1658としてATCCから入手可能なNIHスイスマウス胚細胞NIH/3T3、およびCRL1650としてATCCから入手可能なサル腎臓由来COS-1細胞が含まれる。
【0166】
本発明のDNA構築物を用いた適切な宿主細胞の形質転換は、一般に、使用するベクターのタイプに応じて異なる周知の方法によって実現される。原核宿主細胞の形質転換に関しては、たとえばCohen他(1972)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69、2110、およびSambrook他(1989)Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NYを参照されたい。酵母菌の形質転換については、Sherman他(1986)Methods In Yeast Genetics、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、NYに記載されている。Beggs(1978)Nature 275、104〜109の方法も有用である。脊椎動物細胞に関し、そのような細胞をトランスフェクトするのに有用な試薬、たとえばリン酸カルシウムおよびDEAEデキストランまたはリポソーム配合物は、Stratagene Cloning SystemsまたはLife Technologies Inc.、Gaithersburg、MD 20877、USAから入手可能である。
【0167】
細胞の形質転換には電気穿孔法も有用であり、この方法は、酵母菌、細菌細胞、および脊椎動物細胞を形質転換する技術分野で周知である。
【0168】
たとえば、参照により本明細書に援用するLuchansky他(1988)Mol.Microbiol.2、637〜646に記載されている方法によって、多くの細菌種を形質転換することができる。25μFDでcm当たり6250Vを使用して、2.5×PEBに懸濁させたDNA細胞混合物の電気穿孔法を行うことにより、最大多数の形質転換体が一貫して回収される。
【0169】
電気穿孔法により酵母を形質転換するための方法は、Becker & Guarente(1990)Methods Enzymol.194、182に開示されている。
【0170】
うまく形質転換した細胞、すなわち本発明のDNA構築物を含有する細胞は、周知の技法によって同定することができる。たとえば、本発明の発現構築物の導入によって得られた細胞を増殖させて、本発明で定義される分子を産生することができる。Southern(1975)J.Mol.Biol.98、503またはBerent他(1985)Biotech.3、208に記載されているような方法を使用して、細胞を回収して溶解し、そのDNA含量の試験をしてDNAが存在するか否かを調べることができる。あるいは以下に述べる抗体を使用して、上澄み中の分子、たとえばタンパク質の存在を検出することができる。
【0171】
組換えDNAの存在について直接アッセイを行う他、組換えDNAがタンパク質の発現を誘導することが可能な場合には、形質転換が首尾よくおこなわれたことを周知の免疫学的方法によって確認することができる。たとえば、発現ベクターにより首尾よく形質転換された細胞は、適切な抗原性を示すタンパク質を産生する。形質転換したことが疑われる細胞のサンプルを回収し、適切な抗体を使用してタンパク質に関するアッセイを行う。
【0172】
したがって、形質転換した宿主細胞そのものに加え、本発明は、栄養培地でのそのような細胞の培養物、好ましくはモノクローナル(クローン性が均質な)培養物、またはモノクローナル培養物から得られた培養物も企図するものである。
【0173】
遺伝子構築物がプラスミドDNA構築物の場合は精製することができる。本発明のDNA構築物を、周知の方法を使用して宿主細胞から精製する。
【0174】
たとえばプラスミドベクターDNAは、Clewell & Helinski(1970)Biochemistry 9、4428〜4440およびClewell(1972)J.Bacteriol.110、667〜676の方法に従い、CsCl勾配にバンド形成することによって、切断された溶解産物から大規模に調製することができる。このように抽出されたプラスミドDNAは、Viskingチューブを用いて無菌で発熱物質なしの緩衝液に対し透析を行うことにより、またはサイズ排除クロマトグラフィーによって、CsClから遊離することができる。
【0175】
あるいは、たとえばQiagenから提供されるようなイオン交換クロマトグラフィーを使用して、透明溶解液からプラスミドDNAを精製することができる。ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーを使用してもよい。
【0176】
本発明の別の態様は、癌、好ましくは乳癌を治療するための薬物を製造する際の、SCN5A(任意選択でSCN9Aも)電位依存性Na+チャネルの機能を選択的に妨げる(阻害することを含む)物質の使用を提供する。本発明の別の態様は、乳癌を治療(乳癌に罹っている患者または乳癌の危険性がある患者の治療を含む)するための薬物を製造する際の、電位依存性Na+チャネル、好ましくはSCN5AまたはSCN9Aの機能を選択的に妨げる物質の使用を提供する。
【0177】
本発明の別の態様は、癌(好ましくは乳癌)に罹っている患者またはその危険性がある患者を治療する方法であって、SCN5A(任意選択でSCN9Aも)電位依存性Na+チャネルの機能を選択的に妨げる(阻害することを含む)物質を患者に投与する方法を提供する。本発明の別の態様は、癌(好ましくは乳癌)に罹っている患者またはその危険性がある患者を治療する方法であって、電位依存性Na+チャネル、好ましくはSCN5AまたはSCN9Aの機能を選択的に妨げる物質を患者に投与する方法を提供する。
【0178】
抗不整脈および局所麻酔薬として知られる物質は、当業者に周知のように、SCN5A電位依存性Na+チャネルの機能を選択的に妨げまたは阻止することができる。SCN5A VGSC活性を阻害することを示す抗不整脈薬には、ナロキソン、フレカイニド、シナモフィリン、およびアクロフィリジンが含まれ、局所麻酔薬には、ピルジカイニドおよびリドカインが含まれる。しかしこれらは、SCN5Aサブタイプも含め、VGSCの特異的な遮断薬ではない。そのような抗不整脈薬または局所麻酔薬は、本発明のこれらの態様で使用される好ましい物質でよい。
【0179】
本発明のさらに別の態様は、細胞内で発現したSCN5A(任意選択でSCN9Aも)電位依存性Na+チャネルの機能を妨げることが可能な分子をコードする核酸を含んだ遺伝子構築物を提供する。
【0180】
本発明のさらに別の態様は、細胞内で発現した電位依存性Na+チャネル、好ましくはSCN5Aおよび/またはSCN9A(SCN5Aが最も好ましい)の機能を妨げることが可能な分子をコードする核酸を含んだ遺伝子構築物であって、遺伝子構築物による前記分子の発現が乳房選択的プロモーターを介するものであり、または(ヒト)乳房細胞に選択的に送達されるようになされたものである遺伝子構築物を提供する。
【0181】
上述のように、遺伝子構築物はRNAまたはDNAでよい。前記VGSCの機能を妨げることが可能な分子は、上記開示したアンチセンス分子またはリボザイムであることが都合良い。
【0182】
遺伝子構築物は、ヒト細胞、特に癌性細胞または癌が生じる可能性のある細胞に送達されるよう適合され、より詳細には、遺伝子構築物は、乳房細胞に送達されるよう適合される。本発明のこの態様の遺伝子構築物は、上述のウイルスおよび非ウイルス送達系を含む。
【0183】
分子は、リボザイムやアンチセンス分子など、前記VGSC、たとえばSCN5A VGSCの機能を妨げることが可能な分子であり、癌細胞に選択的に発現する分子であることが適切である。たとえば、遺伝子構築物による前記分子の発現は、癌細胞または組織に選択的なプロモーターを介したものでよく、乳癌の場合はMUC-1プロモーターまたは任意のその他の乳房選択的プロモーターでよい。
【0184】
本発明の別の態様は、医薬品に使用され、好ましくは癌の治療、さらに好ましくは乳癌の治療に使用される遺伝子構築物を提供する。したがって遺伝子構築物は、医薬品として使用されるよう包装され提供される。本発明の別の態様は、癌、好ましくは乳癌を治療するための薬物を製造する際に使用される、前記遺伝子構築物の使用を提供する。
【0185】
本発明の別の態様は、本発明の遺伝子構築物と、医薬品として許容される担体とを含んだ医薬品組成物を提供する。担体は、本発明の遺伝子構築物に対して相溶性がありそのレシピエントに有害ではないという意味で、「許容」されなければならない。典型的な場合、担体は、滅菌され発熱物質を含まない水または生理食塩水になる。
【0186】
疑義を回避するため、本発明の遺伝子構築物は特にウイルスまたはウイルス状粒子を含むが、非ウイルス送達系での使用に適切な構成も含む。
【0187】
本発明の別の態様は、SCN5A電位依存性Na+チャネルを選択的に阻害する化合物を同定する方法を提供し、この方法は、(a)試験化合物を前記電位依存性Na+チャネルのいずれか1つに接触させ、前記化合物が阻害性を有するか否か決定するステップと、(b)試験化合物をその他の電位依存性Na+チャネルに接触させ、前記化合物が阻害性を有するか否か決定するステップと、(c)(a)では十分に阻害性を有するが(b)では十分な阻害性を持たない化合物を選択するステップとを含む。この化合物は、癌、好ましくは乳癌の治療に有用である。
【0188】
典型的な場合、電位依存性Na+チャネル上で既知の効果を発揮する薬物を含む化合物の範囲は、その有効性に関していくつかのアッセイでスクリーニングされる。適切なアッセイフォーマットには、細胞系として長期培養における細胞からの、また生検材料から分離した細胞の短期培養における細胞からの、電気生理学的記録(たとえばGrimes & Djamgoz(1998)J.Cell Physiol.175、50〜58参照);cRNA注入後に組換え前記VGSCを機能的に発現する卵母細胞からの電気生理学的記録(たとえば Fraser他(1993)In Electrophysiology、A practical approach(D.Willis他)IRL Press参照);およびin vitro(ボイデンチャンバー)侵襲アッセイ(たとえばGrimes他(1995)FEBS Lett 369、290〜294;およびSmith他(1998)FEBS Lett.423、19〜24参照)が含まれる。
【0189】
本発明は、SCN5A VGSCを発現する細胞を狙うことによって、癌細胞を標的とした治療を行い、またはVGSC、好ましくはSCN5AまたはSCN9Aを発現する細胞を狙うことによって、乳癌細胞を標的とした治療を行う方法であって、そのような細胞を遺伝子構築物で狙うことに関連して既に述べたような方法も提供する。前記VGSCを発現する細胞を標的とすることは、前記VGSCを発現するいかなる正常組織に対してもその副作用を最小限に抑えるために、たとえば局所投与など別の標的手段または方法を併せて行い得ることが好ましいことが理解されよう。たとえば、心臓組織はSCN5Aを高レベルで発現する。
【0190】
たとえば、色素物質に結合した抗-前記VGSC抗体(VGSC-Ab)を、生体内で癌性組織に利用することができる(たとえばYasmuch他(1993)「Antibody targeted photolysis」Critical Review Revue Ther.Drug Carrier System 10、197〜252;Pogrebniak他(1993)「Targetted phototherapy with sensitizer-monoclonal antibody conjugate and light」Surgical Oncology 2、31〜42)。次いでこの組織に、「取着した」色素の吸収ピークに一致する波長の光/レーザを局所的に照射する。色素によって光エネルギーが吸収されると局所的に加熱され、細胞が死ぬ。このように、標識した(転移性)細胞のみ除去されることになる。下記の色素で標識したVGSC-Abを使用することができ、すなわちその色素とは、フルオレセイン(Pelegrin他(1991)「Antibody fluorescein conjugates for photoimmunodiagnosis of human colon-carcinoma in nude-mice」Cancer 67、2529〜2537);ローダミン(Haghighat他(1992)「Laser-dyes for experimental phototherapy of human cancer-comparison of 3 rhodamines」Laryngoscope 102、81〜87);シアニン(Folli他(1994)「Antibody-indocyanin conjugates for immunophotodetection of human squamous-cell carcinoma in nude-mice」Cancer Research 54、2643〜2649;Lipshutz他(1994)「Evaluation of 4 new carbocyanine dyes for photodynamic therapy with lasers」Laryngoscope 104、996〜1002;Haddad他(1998)「In vitro and i
n vivo effects of photodynamic therapy on murine malignant melanoma」Annals of Surgical Oncology 5、241〜247)である。これは、食道癌および肺癌の場合に役立つと考えられる。
【0191】
したがって本発明の別の態様は、SCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合する部分とその他の部分とを含む化合物を提供する。
【0192】
「SCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合する部分」とは、前記VGSCには結合するがその他の分子、たとえばその他のVGSC、たとえばSCN9Aには実質的に結合しないような任意の適切な部分を意味する。結合部分を含む化合物は、使用中、癌性細胞(好ましくは乳癌細胞)、特に転移性癌細胞の領域に局在化できるが、癌性細胞がないその他の領域には実質的に局在化しないことが好ましいものである。
【0193】
結合部分は、高い親和性で前記VGSCに結合できることが好ましい。たとえば、前記VGSCに対する結合部分の結合に関する結合定数は、10-7〜10-10Mの間であることが好ましい。典型的な場合、結合部分は抗SNC5A抗体である。そのような抗体および適切な抗体を調製する方法については既に述べた。
【0194】
その他の部分は、癌の治療または撮像または診断に関して有用な性質を化合物に与える任意のその他の部分でよい。詳細には、その他の部分は、癌細胞、特に転移性癌細胞を死滅させまたは撮像するのに有用なものである。その他の部分は、化合物が標的とする癌細胞を死滅させることができるものであることが好ましい。
【0195】
本発明の好ましい実施形態で、その他の部分は、直接的または間接的に細胞毒性を示す。詳細には、その他の部分は、癌細胞、特に転移性癌細胞に対して直接的または間接的に有毒であることが好ましい。
【0196】
「直接的な細胞毒性」には、その部分がそれのみで細胞毒性を有するものであるという意味が含まれる。「間接的な細胞毒性」には、その部分が、それ自体では細胞毒性を持たないが、たとえばその他の分子に対する作用によってまたはその部分に対する他の作用によって、細胞毒性を引き起こすことができるものであるという意味が含まれる。
【0197】
一実施形態で、細胞毒性部分は、細胞毒性化学療法薬である。細胞毒性化学療法薬は、当技術分野で周知である。
【0198】
抗癌剤などの細胞毒性化学療法薬には、以下のものが含まれる。すなわち、メクロレタミン(HN2)やシクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン(L-サルコリシン)、クロラムブシルなどのナイトロジェンマスタード;ヘキサメチルメラミンやチオテパなど、エチレンイミンおよびメチルメラミン;ブスルファンなどのスルホン酸アルキル;カルムスチン(BCNU)やロムスチン(CCNU)、セムスチン(メチル-CCNU)、ストレプトゾシン(ストレプトゾトシン)などのニトロソウレア;およびデカルバジン(DTIC;ジメチルトリアゼノイミダゾール-カルボキサミド)などのトリアゼンを含むアルキル化剤と;メトトレキセート(アメトプテリン)などの葉酸類似体;フルオロウラシル(5-フルオロウラシル;5-FU)やフロクスウリジン(フルオロデオキシウリジン;FUdR)、シタラビン(シトシンアラビノシド)などのピリミジン類似体;メルカプトプリン(6-メルカプトプリン;6-MP)やチオグアニン(6-チオグアニン;TG)、ペントスタチン(2-デオキシコホルマイシン)などのプリン類似体および関連する阻害剤を含む代謝拮抗剤である。天然産物としては、ビンブラスチン(VLB)やビンクリスチンなどのビンカアルカロイド;エトポシドやテニポシドなどのエピポドフィロトキシン;ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)やダウノルビシン(ダウノマイシン;ルビドマイシン)、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、ミトマイシン(ミトマイシンC)などの抗生物質;L-アスパラギナーゼなどの酵素;およびインターフェロンアルフェノームなどの生物学的反応修飾剤が含まれる。その他の物質として、シスプラチン(cis-DDP)やカルボプラチンなどの白金配位錯体;ミトキサントロンやアントラシクリンなどのアントラセンジオン;ヒドロキシ尿素などの置換尿素;プロカルバジン(N-メチルヒドラジン、MIH)などのメチルヒドラジン誘導体;ミトタン(o,p-DDD)やアミノグルテチミドなどの副腎皮質抑制剤;タキソールおよび類似体/誘導体;フルタミドやタモキシフェンなどのホルモン作動薬/拮抗薬が含まれる。
【0199】
さまざまなこれらの物質は、予め抗体およびその他の標的部位送達物質に結合され、したがってこれらの物質を含む本発明の化合物は、当業者が容易に作製することができる。たとえば、ドキソルビシンを含めたさまざまな物質を抗体またはペプチドに結合するために、カルボジイミド結合(Bauminger & Wilchek(1980)Methods Enzymol.70、151〜159;参照により本明細書に援用する)を使用することができる。
【0200】
カルボジイミドは、一般式R-N=C=N-R'を有する化合物の群を含み、ただしRおよびR'は脂肪族または芳香族でよく、ペプチド結合の合成に使用される。調製手順は簡単で、比較的速く、緩やかな条件下で実施される。カルボジイミド化合物はカルボキシル基に作用して、遊離アミノ基に対する反応部位へと変化させる。
【0201】
水溶性カルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)は、機能的部分と結合部分を接合するのに特に有用であり、ドキソルビシンを腫瘍ホーミングペプチドに接合するのに使用することができる。ドキソルビシンと結合部分との接合は、ドキソルビシンによって提供されるアミノ基と、抗体やペプチドなどの結合部分によって提供されるカルボキシル基の存在が必要である。
【0202】
ペプチド結合を直接形成するためにカルボジイミドを使用する他、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルなどの活性エステルを調製するのにEDCも使用することができる。次いでアミノ基だけに結合するNHSエステルを使用して、ドキソルビシンの単一のアミノ基と共にアミド結合の形成を引き起こすことができる。接合形成の収量を増大させるため、接合には、EDCとNHSを併せて使用することが一般に行われている(Bauminger & Wilchek、前掲、1980)。
【0203】
機能的部分と結合部分とを接合するためのその他の方法も使用することができる。たとえば、グルタルアルデヒド架橋のように、過ヨウ素酸ナトリウム酸化の後、適切な反応体の還元アルキル化を行うことができる。しかし、本発明の接合体を生成するのにどの方法を選択するかにかかわらず、結合部分がその標的能力を維持し、かつ機能的部分がその適切な機能を維持するという決定をしなければならないことがわかる。
【0204】
本発明の別の実施形態で、細胞毒性部分は、細胞死に至る任意の部分を含む、細胞毒性ペプチドまたはポリペプチド部分である。細胞毒性ペプチドおよびポリペプチド部分は当技術分野で周知であり、たとえば、リシンやアブリン、Pseudomonasエキソトキシン、組織因子などが含まれる。これらを抗体などの標的部分に結合するための方法も、当技術分野で知られている。細胞毒性物質としてリシンを使用することが、Burrows & Thorpe(1993)Proc.Natl.Acad.USA 90、8996〜9000に記載されており、これを参照により本明細書に援用するが、局所化した血液凝固および腫瘍の梗塞をもたらす組織因子については、Ran他(1998)Cancer Res.58、4646〜4653およびHuang他(1997)Science 275、547〜550に記載されている。Tsai他(1995)Dis.Colon Rectum 38、1067〜1074は、モノクローナル抗体に結合させたアブリンA鎖について述べており、参照により本明細書に援用する。その他のリボソーム不活性化タンパク質は、細胞毒性物質としてWO96/06641に記載されている。シュードモナスエキソトキシンを、細胞毒性ポリペプチド部分として使用してもよい(たとえばAiello他(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92、10457〜10461参照;参照により本明細書に援用する)。
【0205】
TNFαやIL-2など、ある特定のサイトカインも、細胞毒性物質として有用である。
【0206】
ある放射性原子は、十分な用量で送達された場合に細胞毒性であってもよい。したがって細胞毒性部分は、使用中、細胞毒性になるよう標的部位に十分な量の放射能を送達する放射性原子を含むことができる。適切な放射性原子には、リン32、ヨウ素125、ヨウ素131、インジウム111、レニウム186、レニウム 188、またはイットリウム90、あるいは隣接する細胞、細胞器官、または核酸を破壊するのに十分なエネルギーを放出する任意のその他の同位体が含まれる。本発明の化合物中の放射性原子の同位体および密度は、4000cGyを超える(少なくとも6000、8000、または10000cGyであることが好ましい)線量が標的部位に、好ましくは標的部位の細胞およびその細胞器官に、特に核に送達されるようなものであることが好ましい。
【0207】
放射性原子は、知られている方法で結合部分に結合することができる。たとえばEDTAまたはその他のキレート剤を結合部分に結合して、111Inまたは90Yを結合するのに使用することができる。チロシン残基は125Iまたは131Iで標識することができる。
【0208】
細胞毒性部分は、適切な間接的細胞毒性ポリペプチドでよい。特に好ましい実施形態で、間接的細胞毒性ポリペプチドは、酵素活性を有するポリペプチドであり、比較的毒性のないプロドラッグを細胞毒に変換することができるものである。標的部分が抗体である場合、この系のタイプをしばしばADEPT(抗体指向性酵素プロドラッグ治療法)と呼ぶ。この系では、標的部分が、酵素部分を患者の体内の所望の部位(すなわち転移性癌細胞など前記VGSCを発現する部位)に位置付ける必要があり、酵素をその部位に位置付けることが可能な時間が過ぎた後、酵素の基質であるプロドラッグを投与し、その触媒作用の最終生成物は細胞毒性化合物になる。この手法の目的は、所望の部位での薬物の濃度を最大限にすることであり、正常な組織での薬物の濃度を最小限にすることである(Senter,P.D.他(1988)「Anti-tumor effects of antibody-alkaline phosphatase conjugates in combination with etoposide phosphate」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85、4842〜4846;Bagshawe(1987)Br.J.Cancer 56、531〜2;およびBagshawe,K.D.他(1998)「A cytotoxic agent can be generated selectively at cancer sites」Br.J.Cancer.58、700〜703参照)。
【0209】
このタイプの指向性酵素プロドラッグ治療系では、抗-前記VGSC抗体の代わりに、任意の前記VGSC結合部分を使用できることが明らかである。
【0210】
本明細書で述べる前記VGSC標的酵素を使用した系の酵素およびプロドラッグは、既に提示したもののいずれかでよい。細胞毒性物質は、アルキル化剤;DNAに挿入される物質;ジヒドロ葉酸レダクターゼやチミジンシンセターゼ、リボヌクレオチドレダクターゼ、ヌクレオシドキナーゼ、トポイソメラーゼなど任意の鍵酵素を阻害する物質;または任意のその他の細胞成分と相互に作用することによって細胞死をもたらす物質など、任意の既存の抗癌剤でよい。エトポシドは、トポイソメラーゼ阻害剤の例である。
【0211】
報告されているプロドラッグ系には、E.coliβ-グルクロニダーゼによって活性化したフェノールマスタードプロドラッグ(Wang他、1992およびRoffler他、1991);ヒトβ-グルクロニダーゼによって活性化したドキソルビシンプロドラッグ(Bosslet他、1994);コーヒー豆α-ガラクトシダーゼによって活性化した別のドキソルビシンプロドラッグ(Azoulay他、1995);コーヒー豆α-D-ガラクトシダーゼによって活性化したダウノルビシンプロドラッグ(Gesson他、1994);E.coliβ-D- ガラクトシダーゼによって活性化した5-フルオロウリジンプロドラッグ(Abraham他、1994);およびカルボキシペプチダーゼAによって活性化したメトトレキセートプロドラッグ(たとえばメトトレキセート-アラニン)(Kuefner他、1990、Vitols他、1992、およびVitols 他、1995)が含まれる。これらおよびその他を以下の表に示す。
【0212】
【表1】

【0213】
本発明の酵素部分の一部を形成するのに適した酵素には、カルボキシペプチダーゼG、G1、およびG2(グルタミル化マスタードプロドラッグの場合)、カルボキシペプチダーゼAおよびB(MTXベースのプロドラッグの場合)、アミノペプチダーゼ(2-α-アミノシルMTCプロドラッグの場合)などのエキソペプチダーゼ;トロンボリシン(トロンビンプロドラッグの場合)などのエンドペプチダーゼ;ホスファターゼ(たとえばアルカリホスファターゼ)やスルファターゼ(たとえばアリールスルファターゼ)(ホスホリル化または硫酸化プロドラッグの場合)などのヒドロラーゼ;ペニシリンアミダーゼやアリールアシルアミダーゼなどのアミダーゼ;β-ラクタマーゼなどのラクタマーゼ;β-グルクロニダーゼ(β-グルクロノミドアントラサイクリンの場合)やα-ガラクトシダーゼ(アミグダリンの場合)、β-ガラクトシダーゼ(β-ガラクトースアントラサイクリンの場合)などのグリコシダーゼ;シトシンデアミナーゼ(5FCの場合)などのデアミナーゼ;ウロキナーゼやチミジンキナーゼ(ガンシクロビルの場合)などのキナーゼ;ニトロレダクターゼ(CB1954および類似体の場合)やアゾレダクターゼ(アゾベンゼンマスタードの場合)、DT-ジアフォラーゼ(CB1954の場合)などのレダクターゼ;グルコースオキシダーゼ(グルコースの場合)やキサンチンオキシダーゼ(キサンチンの場合)、ラクトペルオキシダーゼなどのオキシダーゼ;DL-ラセマーゼ、触媒抗体、およびシクロデキストリンが含まれる。
【0214】
プロドラッグは、細胞毒に比べて比較的毒性がない。典型的な場合、その毒性は、適切なin vitro細胞毒性試験で測定したときに10%未満であり、好ましくは1%未満である。
【0215】
プロドラッグを細胞毒に変換することができる部分は、その化合物の残りの部分から分離した際に活性になる傾向があるが、(a)化合物の残りの部分と組み合わせた状態にあるときと、(b)化合物を標的細胞に結合し、または隣接させ、または内在化させるときに活性であればよい。
【0216】
化合物の各部分がポリペプチドである場合、O'Sullivan他(1979)Anal.Biochem 100、100〜108に概略的に記載されているような、ポリペプチドを架橋する従来の方法のいずれかによって、2つの部分を1つに結合することができる。たとえば、前記VGSC結合部分にチオール基を多数加え、その他の部分を、これらのチオール基と反応可能な2官能性物質、たとえばヨード酢酸のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHIA)やN-スクシニミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)と反応させることができる。たとえばm-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルにより実現されるアミドおよびチオエーテル結合は、一般にジスルフィド結合よりも生体内で安定である。
【0217】
あるいはこの化合物を、組換えDNA技法によって融合化合物として生成することができるが、この場合、ある長さのDNAが、本発明の化合物の2つの部分をコードするそれぞれの領域を含んでおり、これらの領域は互いに隣接し、またはこの化合物の所望の性質を破壊しないリンカーペプチドをコードする領域によって隔てられている。化合物の2つの部分は、完全にまたは部分的に重なることも考えられる。
【0218】
次いでDNAを適切な宿主内で発現させて、本発明の化合物を含むポリペプチドを生成する。
【0219】
細胞毒性部分は放射線増感物質でよい。放射線増感物質には、フルオロピリミジン、チミジン類似体、ヒドロキソ尿素、ゲムシタビン、フルダラビン、ニコチンアミド、ハロゲン化ピリミジン、3-アミノベンズアミド、3-アミノベンゾジアミド、エタニキサドール、ピモニダゾール、およびミソニダゾールが含まれる(たとえば、McGinn他(1996)J.Natl.Cancer Inst.88、1193〜11203;Shewach & Lawrence(1996)Invest.New Drugs 14、257〜263;Horsman(1995)Acta Oncol.34、571〜578;Shenoy & Singh(1992)Clin.Invest.10、533〜551;Mitchell他(1989)Int.J.Radiat.Biol.56、 827〜836;Iliakis & Kurtzman(1989)Int.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys.16、 1235〜1241;Brown(1989)Int.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys 16、987〜993;Brown(1985)Cancer 55、2222〜2228参照)。
【0220】
また、たとえばp53遺伝子やサイクリンDの送達など、細胞への遺伝子の送達によって放射線感受性を高めることもできる(Lang他(1998)J.Neurosurg.89、125〜132;Coco Martin他(1999)Cancer Res.59、1134〜1140)。
【0221】
その他の部分は、放射線照射によって細胞毒性になりまたは細胞毒性部分を放出するものでよい。たとえばホウ素10同位体は、適切に照射した場合、細胞毒性のα粒子を放出する(たとえばGoldenbergの米国特許第4,348,376号;Primus他(1996)Bioconjug.Chem.7、532〜535参照)。
【0222】
同様に細胞毒性部分は、フォトフリンなど光力学的療法に有用なものでよい(たとえばDougherty他(1998)J.Natl.Cancer Inst.90、889〜905参照)。
【0223】
その他の部分は、直接的または間接的に細胞毒性を示す核酸分子を含むことができる。たとえば核酸分子は、標的部位に局在化したときに細胞に入って細胞を死に至らせることができるアンチセンスオリゴヌクレオチドでよい。したがってオリゴヌクレオチドは、必須遺伝子の発現を妨げるもの、またはアポトーシスを引き起こす遺伝子発現に変化をもたらすものでよい。
【0224】
適切なオリゴヌクレオチドの例には、bcl-2を対象としたもの(Ziegler他(1997)J.Natl.Cancer Inst.89、1027〜1036)、およびDNAポリメラーゼαおよびトポイソメラーゼIIα(Lee他(1996)Anticancer Res.16、1805〜1811)が含まれる。
【0225】
ペプチド核酸は、従来の核酸の代わりに役立てることができる(Kundsen & Nielsen(1997)Anticancer Drugs 8、113〜118参照)。
【0226】
別の実施形態では、核酸、たとえば本発明の前述の態様に関連して論じた核酸を標的に送達するための送達用賦形剤に、結合部分を含めることができる。送達用賦形剤は、任意の適切な送達用賦形剤でよい。たとえば、リポソーム含有核酸でよく、あるいはウイルスまたは核酸を送達することができるウイルス状粒子でよい。これらの場合、前記VGSCに選択的に結合する部分は、一般に送達用賦形剤の表面に存在する。たとえば、適切な抗体断片など前記VGSCに選択的に結合する部分は、リポソームの外面に存在してよく、送達される核酸は、リポソームの内部に存在してよい。別の実施例として、レトロウイルスベクターやアデノウイルスベクターなどのウイルスベクターは、前記VGSCに選択的に結合する部分がウイルス粒子の表面に結合しまたは位置付けられ、それによってウイルス粒子で所望の部位を狙うことができるように、設計製作する。上記論じた変性アデノウイルス系などの標的送達系も知られている。
【0227】
前記VGSCに選択的に結合する部分が抗体である免疫リポソーム(抗体指向性リポソーム)を使用することができる。免疫リポソームの調製については既に述べた。
【0228】
標的部位に送達された核酸は、直接的または間接的に細胞毒性をもたらす任意の適切なDNAでよい。たとえば核酸は、細胞に対して細胞毒性を示すリボザイムをコードすることができ、または実質的に無毒なプロドラッグを細胞毒に変換することができる酵素をコードすることができる(この後者の系は、GDEPT:遺伝子指向性酵素プロドラッグ療法(Gene Directed Enzyme Prodrug Therapy)と呼ばれることもある)。
【0229】
標的に送達される核酸にコードすることができるリボザイムは、上記引用した参考文献に記載されている。リボザイムの適切な標的は、c-fosやc-myc、bcl-2などの転写因子を含む。Durai他(1997)AnticancerRes.17、3307〜3312は、bcl-2に対するハンマーヘッドリボザイムについて述べている。
【0230】
EP0415731は、GDEPT系について述べている。上述のADEPT系に関して述べた酵素およびプロドラッグの選択に関する問題と同様のことが、GDEPT系にも当てはまる。
【0231】
標的部位に送達される核酸は、直接的細胞毒性ポリペプチドをコードすることができる。
【0232】
本発明の別の実施形態で、本発明の化合物に含まれるその他の部分は、容易に検出可能な部分である。
【0233】
「容易に検出可能な部分」とは、患者に本発明の化合物を投与した後にその部分が標的部位に位置付けられている場合、一般には身体および位置付けられた標的部位の外側から、非侵襲的に検出することができるものであるという意味を含む。したがって、本発明のこの実施形態の化合物は、撮像および診断に有用である。
【0234】
典型的な場合、容易に検出可能な部分は、撮像に有用な放射性原子でありまたはそのような放射性原子を含む。適切な放射性原子には、シンチグラフィ研究の場合、テクネチウム99mまたはヨウ素123が含まれる。その他の容易に検出可能な部分には、たとえば磁気共鳴映像(MRI)の場合にはスピン標識が含まれ、やはりヨウ素123やヨウ素131、インジウム111、フッ素19、炭素13、窒素15、酸素17、ガドリニウム、マンガン、鉄などがある。本発明の化合物は、分子を容易に検出可能にするために、適切な原子同位体を十分に持たなければならないことが明らかである。
【0235】
放射能標識またはその他の標識を、既知の方法で本発明の化合物に組み込むことができる。たとえば結合部分がポリペプチドの場合、生合成することができ、またはたとえば水素の代わりにフッ素19を用いる適切なアミノ酸前駆体を使用した化学的アミノ酸合成によって合成することができる。たとえば99mTcや123I、186Rh、188Rh、111Inなどの標識を、結合部分にシステイン残基を介して結合することができる。イットリウム90は、リシン残基を介して結合することができる。ヨウ素123を組み込むには、IODOGEN法(Fraker他(1978)Biochem.Biophys.Res.Comm.80、49〜57)を使用することができる。参考文献(「Monoclonal Antibodies in Immunoscintigraphy」、J-F Chatal、CRC Press、1989)は、その他の方法について詳細に述べている。
【0236】
本発明の別の好ましい実施形態で、その他の部分は、直接的または間接的な細胞毒性部分に、または容易に検出可能な部分に選択的に結合することができる。したがってこの実施形態で、その他の部分は、細胞毒性でありまたは容易に検出可能な別の化合物または成分に結合する任意の部分でよい。
【0237】
したがってその他の部分は、別の化合物または成分に選択的に結合する抗体でよく、またはストレプトアビジンやビオチンなどの他の結合部分でよい。以下の実施例は、本発明に含まれる分子のタイプを示し、その他のそのような分子は、本明細書の教示から容易に明らかにされる。
【0238】
その他の部分は、2種特異性抗体であっても2種特異性抗体を含んでもよく、1つの結合部位が、前記VGSCに選択的に結合する部分を構成し、第2の部分が、たとえば実質的に無毒なプロドラッグを細胞毒に変換することができる酵素に結合する部分を構成する。
【0239】
化合物は、ビオチンが結合する前記VGSCに選択的に結合する抗体でよい。容易に検出可能な標識で標識したアビジンまたはストレプトアビジンは、ビオチンで標識した抗体と併せて2段撮像系で使用することができ、すなわちビオチン標識抗体を最初に患者の標的部位に局在化させ、次いで標識したアビジンまたはストレプトアビジンを患者に投与するのである。2種特異性抗体およびビオチン/ストレプトアビジン(アビジン)系については、Rosebrough(1996)Q J Nucl.Med.40、234〜251で概説されている。
【0240】
本発明の好ましい実施形態で、前記VGSCに選択的に結合する部分とその他の部分は、融合したポリペプチドである。
【0241】
本発明の別の態様は、本発明の前述の態様の化合物をコードする核酸分子を含む。
【0242】
本発明の別の態様は、薬剤に使用される本発明の化合物を提供する。一般にその化合物は包装され、患者が使用する薬物としてまたは造影剤としてまたは診断薬として提供される。
【0243】
本発明のさらに別の態様は、本発明による化合物と、医薬品として許容される担体とを含む、医薬品組成物を提供する。
【0244】
典型的な場合、本発明の医薬品組成物または製剤は、非経口投与を目的としたものであり、より好ましくは静脈内投与を目的としたものである。
【0245】
非経口投与に適する製剤には、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤、およびこの製剤の浸透圧を対象レシピエントの血液の浸透圧と同じにする溶質を含有することができる水性および非水性の滅菌注射液と;懸濁剤および粘稠化剤を含むことができる水性および非水性の滅菌懸濁液が含まれる。
【0246】
本発明のさらに別の態様は、癌、好ましくは乳癌に罹っておりまたはその危険性があるヒト患者を治療しかつ/または診断するための薬物を製造する際の、本発明の化合物の使用を提供する。
【0247】
本発明のさらに別の態様は、有効な量の本発明の化合物をヒト患者に投与するステップを含む、癌(好ましくは乳癌)の治療方法を含み、化合物のその他の部分は、直接的または間接的に患者に治療上の利益をもたらすものである。
【0248】
本発明のさらに別の態様は、有効な量の本発明の化合物をヒト患者に投与するステップを含む、ヒト患者の癌、好ましくは乳癌の撮像方法(ヒト患者が癌に罹っているどうかを判断し、またはヒト患者の癌を診断し、または癌の特定の転帰の相対的な見通しを予測するのに有用である)を含み、化合物のその他の部分は、容易に検出可能な部分を含むものである。
【0249】
本発明のさらに別の態様は、乳癌に罹っておりまたはその危険性があるヒト患者を治療しかつ/または診断するための薬物を製造する際の、電位依存性Na+チャネルタンパク質、好ましくはSCN5AまたはSCN9A、最も好ましくはSCN5Aに選択的に結合する部分とその他の部分(上述)とを含む化合物の使用を提供する。
【0250】
本発明のさらに別の態様は、電位依存性Na+チャネルタンパク質、好ましくはSCN5AまたはSCN9A、最も好ましくはSCN5Aに選択的に結合する部分とその他の部分(上述)とを含む有効な量の化合物をヒト患者に投与するステップを含む、乳癌の治療方法を提供し、この化合物のその他の部分は、患者に治療上の利益を直接的または間接的にもたらすものである。
【0251】
本発明のさらに別の態様は、電位依存性Na+チャネルタンパク質、好ましくはSCN5AまたはSCN9A、最も好ましくはSCN5Aに選択的に結合する部分とその他の部分(上述)とを含む有効な量の化合物をヒト患者に投与するステップを含む、ヒト患者の乳癌を撮像する方法を提供し、この化合物のその他の部分は、容易に検出可能な部分を含むものである。
【0252】
治療、撮像、または診断に使用される特定の化合物に応じて、投与するタイミングがさまざまに変化し、本明細書で開示した治療系に使用されるその他の成分の数も変わることが容易に理解されよう。
【0253】
たとえば、化合物(たとえば本発明の化合物)が容易に検出可能な部分または直接的細胞毒性部分を含む場合、適切な製剤中のその化合物のみが患者に投与されると考えられる。当然ながら、免疫抑制剤などのその他の物質を投与することができる。
【0254】
検出可能に標識された化合物については、その化合物が標的部位に局在化したら、撮像を行う。
【0255】
しかしこの化合物が、治療、撮像、または診断に役立たせるためにその他の成分を必要とするものである場合、本発明の化合物を投与して標的部位に局在化させ、次いでその後の適切な時間にその他の成分を投与することができる。
【0256】
たとえば上記ADEPTおよびADEPT状の系に関しては、結合部分-酵素部分を持つ化合物を投与して標的部位に局在化させる。これが行われた後、プロドラッグを投与する。
【0257】
同様に、たとえば化合物に含まれるその他の部分が別の成分に結合する化合物の場合は、まずこの化合物を投与して標的部位に局在化させ、引き続き別の成分を投与する。
【0258】
したがって一実施形態では、ビオチン標識抗SNC5A抗体(たとえば)を患者に投与し、適切な時間が経過した後に、検出可能に標識したストレプトアビジンを投与する。抗体が局在化している部位(たとえば標的部位)にストレプトアビジンが局在化したら、撮像を行う。
【0259】
その他の部分が容易に検出可能な部分である本発明の化合物は、癌細胞の転移状態を定めるのに有用と考えられる。これは、将来の治療の性質および転帰に影響を及ぼす重要な因子になり得る。
【0260】
本発明の別の態様は、(1)その他の部分が、比較的無毒性のプロドラッグを細胞毒に変換することができる細胞毒性部分である本発明の化合物と、(2)比較的無毒性のプロドラッグとを含む、部品のキット(または治療システム)を提供する。部品のキットは、本明細書で述べる本発明の化合物と適切なプロドラッグのいずれかを含むことができる。
【0261】
本発明のさらに別の態様は、(1)その他の部分が、直接的または間接的な細胞毒性部分に、または容易に検出可能な部分に選択的に結合することができる本発明の化合物と、(2)この化合物のその他の部分が結合することのできる、直接的または間接的な細胞毒性部分または容易に検出可能な部分のいずれか1つとを含む、部品のキット(または治療システム)を提供する。
【0262】
たとえば、部品のキットは、ビオチンで標識した抗SNC5A抗体と、上記定義した容易に検出可能な標識で標識したストレプトアビジンとを含むことができる。
【0263】
次に本発明について、下記の非限定的な実施例および図を参照しながら述べる。
【図面の簡単な説明】
【0264】
【図1A】MDA-MB-231細胞に関して記録した電位依存性膜電流を示す図である。電流は、保持電圧を-100mVから+60mVまで10mVステップごとに、膜電位を40msパルシングすることによって、発生させた。電圧パルス(矢印で示す)は、20秒間隔で繰り返し印加した。発生した電流の曲線は、1秒ごとにしか表示していない。
【図1B】MCF-7細胞に関して記録した電位依存性膜電流を示す図である。電流は、保持電圧を-100mVから+60mVまで10mVステップごとに、膜電位を200msパルシングすることによって、発生させた。電圧パルス(矢印で示す)は、20秒間隔で繰り返し印加した。発生した電流の曲線は、1秒ごとにしか表示していない。
【図1C】(C)保持電圧-100mVから-70〜+70mVの間の試験電位まで5mVずつ上げながら膜電位をパルシングすることによってMDA-MB-231細胞で生じた典型的な電流-電圧(I-V)関係を示す。電圧パルスは20秒間隔で繰り返し印加した。
【図2A】テトロドトキシン(TTX)による、MDA-MB-231細胞内の内向き電流の抑制を示す図である。1μM TTXの作用、すなわち部分的な抑制効果を示す典型的な記録は、完全に可逆的であった。電流は、保持電圧-mVから-10mVまで40ms、膜電位をパルシングすることによって発生させた。電圧パルス(矢印で示す)は、20秒間隔で繰り返し印加した。示されるTTXの作用は、薬物投与後4回目のパルスから得られた。
【図2B】テトロドトキシン(TTX)による、MDA-MB-231細胞内の内向き電流の抑制を示す図である。MDA-MB-231細胞に関するTTX用量-応答曲線を示す図である。細胞は、繰返し間隔20秒で40ms、-100mVから-10mVまで脱分極した。TTX施与後4回目のパルスでのピーク電流の低下パーセンテージを、薬物濃度の関数としてプロットした。各点は、5個を超える異なる細胞の平均を表し、誤差棒は標準誤差を示す。破線は、低下が0%であることを示す。
【図3】scn5a(A)、scn8a(B)、scn9a(C)、およびhCytb5R(D)に関するSQT-PCR電気泳動の結果を示す図である。所与のバンドに関する代表的なPCRサイクル数を、ゲル上方に示す。(A)に示されるように、各パネルでは、上部画像がMDA-MB-231細胞抽出物から得られたものであり、下部画像がMCF-7抽出物から得られたものである。
【図4】乳癌組織サンプルで行ったscn5a(C)、scn8a(D)、scn9a(E)、およびhCytb5R(F)RT-PCRの電気泳動結果を示す図である。サンプル数および関連する顕性リンパ節転移(LNM)を、ゲル画像の上方に示す(AおよびB)。明らかなスプライス形産物(参考文献[21]に既に記載されている)に対応する複数のバンドを左側に示す。scn5a、scn8a、scn9a、およびhCytb5Rの試験に関し、サンプル5(scn8aおよびscn9a、それぞれ50サイクル)および6(hCytb5R、40サイクル)以外は、PCRをそれぞれ55、40、40、および30サイクル行った。(+)は顕性LNMを示し、(-)は、LNMが臨床上明らかではなかったことを示す。NT=試験せず。
【図5】強(白色棒)および弱(黒色棒)転移性細胞系で生じることがわかった3種のVGSCαに関して提示された相対(%)発現レベルを示す図である。それぞれの場合で、垂直軸は、高転移性MDA-MB-231細胞系におけるこれら3種のVGSCαの全発現レベルに対するおよその発現レベルを示す。相対的発現レベルを、縮重スクリーンとSQT-PCRデータから評価した。
【発明を実施するための形態】
【0265】
実施例1
ヒト乳癌における電位依存性Na+チャネル発現および転移能のアップレギュレーション:細胞系および生検組織に関する相関研究
ヒト乳癌細胞系および乳癌組織での電位依存性Na+チャネル(VGSC)発現について、電気生理学的な、また逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)による方法により、相関関係のある手法で調査した。ホールセルパッチクランプ(whole-cell patch-clamp)記録法では、高転移性MDA-MB-231細胞系の29%に脱分極化性化Na+電流が示されたが、低転移性MCF-7細胞には見られなかった。これらの電流は、テトロドトキシン(TTX)抵抗性が大きいものであった。3種のVGSCαサブユニット(VGSCα)遺伝子、SCN5A、SCN8A、およびSCN9Aの発現を、両方の細胞系で判別した。これらの遺伝子のうち2種(SCN5AおよびSCN9A)は、MDA-MB-231細胞でより多量に発現することがわかり、半定量的RT-PCRでは、その発現レベルがscn5a>>scn9a>scn8aと示された。高転移性細胞でのVGSCα発現が非常に高いのは、実際にTTX抵抗性VGSCをもたらすh1またはSkM2とも呼ばれるScn5aの発現が突出して増大する(約1800倍)ことが、大きな原因である。2重盲検で乳癌組織に関して行ったRT-PCRは、SCN5A遺伝子産物の検出と臨床的に評価したリンパ節転移との間に強力な相関関係があることを示した。このため、明らかなリンパ節転移を示すすべての生検材料はscn5aを発現し、その逆の状態も主に真実であった。本発明者等は、VGSCアップレギュレーションが、前立腺癌の場合と同様に乳癌の転移プロセスに不可欠な部分として生じ、転移表現型の新規なマーカーとして働くことができると結論付けた。
【0266】
背景
乳癌は、世界的に3番目に一般的な癌であり、西欧世界では8人に1人が罹患するという最も一般的な女性の癌である(1、2)。米国では、乳癌が女性の癌死亡率の2番目の原因になっており、これは癌による死亡全体の約10%を占める(3)。乳癌では、その他の癌と同様に、転移がほとんどの患者の死亡の主な原因である。今日まで、いくつかの乳癌転移関連遺伝子が特定されてきた(概説に関しては参考文献2参照)。しかし、腫瘍内血管侵襲、リンパ節での併発の存否、および原発癌のサイズの評価を含めた転移進行の間接的測定は、乳癌の進行を評価するのに依然として最も広く使用されている方法である。電気診断も実施されているが、その細胞的/分子的成因は知られていないままである(4)。
【0267】
本発明者等は、電位依存性Na+チャネル(VGSC)の機能的発現によって高転移性および低転移性のヒトおよびラット前立腺癌細胞を区別することができ(5、6)、VGSC活性が、細胞突起伸長(7)、側方運動(8)、横断侵襲(5、6、9)、および分泌膜活性(10)を含めた転移に欠かせない細胞の振舞いに寄与することを、既に示した。乳房および前立腺の癌腫には、ホルモン感受性、骨への転移に対する著しい趨化性、および複数の系統群で同時に発生する傾向を含めたいくらか類似する特徴がある(11)。
【0268】
電位依存性Na+チャネル(VGSC)1は、大きい(約240kD)4回膜貫通型ドメインαサブユニット(VGSCα)と、いくつかの異なる補助βサブユニット(VGSCβ)からなる(Catterall,W.A.(1986)Ann.Rev.Biochem.55、953〜985)。VGSCαだけの発現は、機能的チャネル形成に十分である(Goldin,A.L.他(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83、7503〜7507)。VGSCβは、機能的チャネルの利用を容易にし(Isom,L.L.他(1995)Cell 83、433〜442)、チャネルの動態を調整し(Isom,L.L.他(1992)Science 256、839〜842、Cannon,S.C.他(1993)Pflugers Arch.423、155〜157)、またおそらくは薬理学的特性をも変化させる(Bonhaus,D.W.他 (1996)Neuropharmacol.35、605〜613)など((15)も参照)、いくつかの支持的な役割を果たす。
【0269】
VGSCαは、SCN1AからSCN11Aで示される高等脊椎動物の少なくとも12の異なる遺伝子のファミリーを構成し(Plummer,N.W.および Meisler,M.H.(1998)Genomics 57、323〜331;17)、それらの産物は、さまざまな被刺激性細胞型からクローニングされている。これらの特異的発現は、動的で時空的な制御下にある。VGSCα遺伝子の少なくとも2つのサブファミリーは、配列データに基づいて記述されている(Nav1およびNav2)(George,A.L.他(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89、4893〜4897)。まだ実験的に決定されていないが、一般にこれらサブファミリーは、著しく異なる電気生理学的特性を有するVGSCαを示すと考えられている(Akopian,A.N.他(1997)FEBS Letters.400、183〜187)。実際、Nav2 VGSCαに、目印となるVGSCα配列が保存されていないことは、それらが電位依存性でもNa+選択的でもないことを示唆している(Akopian,A.N.他(1997)FEBS Letters.400、183〜187、Schlief,T.他(1996)Eur.Biophys.J.25、75〜91)。第3のサブファミリー、Nav3の存在は、ラット脊髄神経節(DRG)細胞からのcDNA(NaN/SNS2)のクローニングにより、最近になって示された。NaN/SNS2は、他のVGSCαに対してその配列相同性が50%未満を占めるが、その推測されるアミノ酸配列は、Nav1 VGSCαの特徴的な配列すべてを所有する(Dib-Hajj,S.D.他(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95、8963〜8968)。
【0270】
RT-PCRおよびin situハイブリダイゼーション法を利用することにより、いくつかの研究では、多様な細胞型における複数のVGSCαの同時発現について文書にまとめた(Black,J.A.他(1994)Mol.Brain Res.23、235〜245;Dib-Hajj,S.D.他(1996)FEBS Letts.384、78〜82;Fjell,J.他(1999)Mol.Brain Res.67、267〜282)。特定のVGSCαは、発現の動的制御下で(たとえば発達中または損傷中)、異なるレベルで発現することがわかった。たとえば、少なくとも8種の異なるVGSCαに関するmRNAは、成体ラットDRG細胞中に、広範囲に及ぶ発現レベルで見出され、RB1、Na6、 NaN/SNS2、およびSCL-11 mRNAは非常に高いレベルで発現し、PN1およびSNS/PN3は中間レベルで、またRB2およびRB3は非常に低いレベルで発現した(Dib- Hajj,S.D.他(1998)Proc.Natl.Sci.USA 95、8963〜8968;Black,J.A.他(1996)Molec.Brain Res.43、117〜131;Sangameswaren,L.他(1997)J.Biol.Chem.272、14805〜14809)。軸索損傷後、SNSおよびNaN/SNS2 mRNAは劇的にダウンレギュレートし、一方、RB1、RB2およびRB3の発現はアップレギュレートした(Dib-Hajj,S.他(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93、14950〜14954;Dib-Hajj,S.D.他(1998)J.Neurophysiology 79、2668〜2676)。
【0271】
VGSCα は、いくつかの選択的スプライス形として発生することができ、その発現も動的制御下にある。第1膜貫通ドメイン(D1)の第3セグメント(S3)をコード するエキソンの選択的スプライシングは、SCN2AおよびSCN3A(19、20)に関して発達に従ってレギュレートされ、「新生児」および「成体」の形をもたらすことがわかった。1つのアミノ酸だけが異なるタンパク質に対するこれらのコードは、S3の細胞外末端に位置決めされていた。VGSCαの機能に関するこの変化の影響は、現在のところ明らかではない。同様の選択的スプライス型エキソンが、SCN8AおよびSCN9Aの対応する位置に存在するが(Belcher,S.M.他(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92、11034〜11038;Plummer,N.W.他(1998)Genomics 54、287〜296)、SCN4A、SCN5A、SCN10A、およびSCN11Aには存在しない(George,A.L.他(1993)Genomics 15、598〜606;Wang,D.W.他(1996)Biophys.J.70、238〜245;Souslova,V.A.他 (1997)Genomics 41、201〜209;Dib-Hajj,S.D.他(1999)Genomics 59、309〜318)。今日まで、そのような選択的スプライシングを示す証拠は、SCN1AまたはSCN7Aでは見つかっていない。選択的スプライシングは、VGSCαのその他の領域、特にインタードメイン(ID)1〜2および3にも発生する。
【0272】
異なる組織タイプの中での発達中または損傷後における、利用可能なVGSCα mRNAプール内での複数のVGSCα遺伝子およびスプライス産物の発現の厳密なレギュレーションは(たとえばDib-Hajj,S.他(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93、14950〜14954;Dib-Hajj,S.D.他(1998)J.Neurophysiology 79、2668〜2676;Kallen,R.G.他(1990)Neuron 4、233〜242)、異なるVGSCα遺伝子産物およびそのアイソフォームが、現時点ではほとんど知られていない著しく異なる機能的役割を有する傾向があることを示唆している。
【0273】
VGSCの機能的役割は中枢神経系において最もよく理解され、VGSC活性が、基本的なインパルス生成および伝導だけではなく、標的に特異的な軸索移行および領域シナプス接続を含めた指向性およびパターン化成長も制御する(Catalano,S.M.およびShatz,C.J.(1998)Science 281、559〜562;Penn,A.A.他(1998)Science 279、2108〜2112;Shatz,C.J.(1990)Neuron 5、745〜756)。VGSCは、被刺激性組織のいくつかの遺伝的疾患にも関与しており(Plummer,N.W.およびMeisler,M.H. (1998)Genomics 57、323〜331;Zhou,J.およびHoffman,E.P.(1994)J.Biol.Chem.269、18563〜18571)、また慢性疼痛症候群(Tanaka,M.他(1998)NeuroReport 9、967〜972)、てんかん(Bartolomei,F.他(1997)J.Neurocytol.26、667〜678)、虚血性卒中 (Skaper,S.D.他(1998)FASEB J.12、725〜731)、およびアルツハイマー病(Kanazirska,M.他(1997)Biochem.Biophys.Res.Comm.232、84〜87)を含めたより複雑な病理学的障害にも関与していた。前立腺癌のラット(MAT-LyLu)およびヒト(PC-3)モデルでは、VGSC発現が高転移能にも関連があるという証拠が増えつつある(Grimes,J.A.他(1995)FEBSLetts.369、290〜294;Laniado,M.他(1997)Am.J.Pathol.150、1213〜1221;Smith,P.他(1998)FEBS Letts 423、19〜24)。確かに機能的VGSCの発現は、転移プロセスに対して直接的でポジティブな影響を及ぼす可能性がある。したがって、テトロドトキシン(TTX)を施用することによるこれら高転移性細胞系でのVGSC電流の遮断により、細胞の侵襲性が著しく(約30%)低下した。ラットにおける電流の電気生理学的特性および薬理学的特性は、神経細胞TTX感受性(Nav1)タイプであるチャネルと一致していた(Grimes,J.A.およびDjamgoz,M.B.A.(1998)J.Cell.Physiol.175、50〜58)。SCN4A遺伝子発現は、ヒトおよびラットの高転移性および低転移性細胞系の両方で見られた(Diss,J.K.J.他(1998)FEBS Letts 427、5〜10)。しかし、ラットMAT-LyLu細胞でのVGS電流の薬理学的特性は、このVGSCαに関して報告されたものと一致していなかった。これは、(1)MAT-LyLu/AT-2 rSkM1の1次配列で決定された多数の相違、(2)これらの細胞における、翻訳後のメカニズムの相違(たとえば補助サブユニットとの結合、チャネルのグリコシル化/リン酸化のレベル)、または(3)記録されたVGSC電流を生成するMAT-LyLu細胞中のその他のVGSCαの存在に起因すると考えられる。
【0274】
本発明の研究は、(i)VGSCのmRNAおよび機能的タンパク質発現が、高転移性乳癌細胞と低転移性乳癌細胞とで異なるか否か、(ii)VGSCαファミリーのどのメンバーが、検出された電位依存性Na+(VGS)電流の原因なのか、および(iii)in vitroモデルに見られるVGSCα発現パターンが、ヒト乳癌生検組織にも反映されるか否かを決定することを目的とした。これらの態様は、電気生理学的技法および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)をベースとした技法を使用して研究を行った。初めに、転移の激しさが対照的な2種の堅固な乳癌細胞系、すなわち高転移性MDA-MB-231細胞と、低転移性MCF-7細胞(18、19)を採用した。機能的VGSCαサブユニット発現を引き起こすmRNAを決定した。最後に、VGSC mRNA発現について、異なる臨床グレードの凍結生検組織でも調査を行って、VGSCαの出現が生体内での癌の進行にも相関するか否かを試験した。
【0275】
材料および方法
細胞培養
MDA-MB-231細胞およびMCF-7細胞を、4mM L-グルタミンおよび10%ウシ胎仔血清を補ったDulbecco変性イーグル培地(Life Technologies Ltd.、Paisley、UK)で増殖させ、維持した。細胞を、100mM Falcon組織培養皿(Becton Dickinson Ltd.、Plymouth、UK)に接種し、37℃で湿度100%およびCO2 5%のインキュベータ内で増殖させた。
【0276】
電気生理学的性質
パッチピペット(標準抵抗5〜15MΩ)に、(mM単位で)NaCl 5、KCl 145、MgCl2 2、CaCl2 1、HEPES 10、およびEGTA 11を含有する溶液を満たし、1M KOHでpH7.4に調節した。Axopatch 200B(Axon Instruments)増幅器を使用して、培養中「単離」したと見られる細胞からの、全細胞膜電流を記録した。アナログ信号を、低域Besselフィルターを使用して5KHzでフィルタリングした。信号を5KHzでサンプリングし、Digidata(1200)インターフェースを使用してデジタル化した。全細胞電流のデータ収集および分析を、pClamp(Axon Instruments)ソフトウェアを使用して行った。特に他に指示しない限り、保持電位を-90mVまたは-100mVにしてK+およびNa+電流についてそれぞれ調査した。「全細胞」記録構成が得られた直後に、静止電位を測定した。MDA-MB-231細胞とMCF-7細胞の両方に関する実験を、1〜3日間培養した3つの別個のシャーレで行った。
【0277】
2つの基本的なコマンド電圧プロトコルを使用して、Na+およびK+電流の生理学的特性および薬理学的特性を下記の通り調査した。
【0278】
1.電流-電圧(I-V)プロトコル
このプロトコルは、Na+およびK+チャネル活性の電位依存性を調査するのに使用した。細胞は、-70〜+60mVの間で5mVごとに試験電位が減極するようパルス形成した。試験パルス持続時間は40ms(Na+電流)または200ms(K+電流)であり、パルス間は20秒であった。
【0279】
2.反復単パルスプロトコル
このプロトコルは、電流増幅に対する薬物の影響をモニタするために使用した。試験パルスは-10mV(Na+電流)または+60mV(K+電流)であった。試験パルス持続時間は40ms(Na+電流)または200ms(K+電流)であり、パルス間は20秒で、5個の反復パルスを使用した。
【0280】
薬理学的性質
Alomone Labs Ltd.(Jerusalem、イスラエル)から購入したテトロドトキシン(TTX)を、外部浴溶液に溶かしてストック溶液(×1000)として作製し、-20℃に凍結し、必要に応じて解凍し希釈した。TTXを、ガラス製毛管(チップサイズ約5μm)にバックロードした。次いでこのガラス製毛管を空気圧式ピコポンプ(PV800、WP Instruments)に接続し、マイクロドライブ(Lang-Electronik、Huttenberg、ドイツ)に取り付け、調査中の細胞の約10μm以内に作動させた。
【0281】
内向き電流(I)に対するTTXの影響を、対照値に対する電流(B)阻止のパーセンテージとして示し、これは下記の通り計算した。
B(%)=[(I-I)/I]×100
【0282】
VGSCα縮重プライマースクリーン
各細胞系の2つのバッチから、酸グアニジウムチオシアネート-フェノール-クロロホルム法(20)によってまたは以下に述べるようにして、トータル細胞RNAを単離した。簡単に言うと、IKAホモジナイザーを使用して、細胞を溶液(「A」)中に均質化し、組織0.1g当たり溶液1mが使用されるようにした。溶液Aは、4Mチオシアン酸グアニジニウムと、25mMクエン酸Na+(pH7.0)と、0.5%サルコシルと、0.72%(v/v)β-メルカプトエタノールを含有していた。次いで下記の物質、すなわち2M酢酸Na+(pH4.0)(溶液Aの10%の体積)と、フェノール(溶液Aと等体積)と、クロロホルム(溶液Aの20%の体積)を添加し、10秒間激しく振盪した。遠心分離を4℃で20分間、10,000×gで行った。上澄みを採取して、イソプロパノールで沈澱させた。次いでサンプルを前述のように遠心分離にかけ、ペレットを、溶液Aの初期体積の約30%に再懸濁した。第2のイソプロパノール沈澱を行い、ペレットを75%エタノールで洗浄し、滅菌蒸留水に再懸濁した。
【0283】
次いで4種の抽出物のそれぞれに関し、VGSCα縮重PCRプライマー、YJ1およびYJ2C(表1A)を使用して、前述のように(21およびGB0021617.6、前掲)スクリーニングを行った。
【0284】
各RNA抽出物に関するゲル電気泳動によって、「インサート」を有する25個のクローンを選択した。次いで各細胞系から得られたインサートを有する25個のクローンサブセットについて、Amersham Thermo Sequenase蛍光サイクル消光キットおよびVistra DNA725自動シーケンサーを使用して配列決定した。配列は、BLAST 2.0.8(22)を使用してGenBank DNAデータベースを検索することにより特定した。配列決定によって特定されたScn5aおよびscn9a VGSCαに特異的なオリゴヌクレオチドプライマーをその後設計した(表1A)。これらは、ユニバーサルベクタープライマーと併せて作用し、配列決定を必要とすることなくその他すべてのクローンの迅速なPCRスクリーニングを可能にした。これらのプライマーを使用するPCRは、まず、配列決定したクローンに関して試験がなされ、それによって特定の生成物のみもたらすことを確認した。次いで前掲の(21)およびGB0021617.6のように、迅速なスクリーニングPCR反応を行った。生成物を、0.8%アガロースゲル上でのゲル電気泳動により分析した。これらのVGSCαタイプに対して陽性であることを試験しなかったミニプレップでは、配列を決定し、同一性を判断した。
【0285】
表1.(A)縮重VGSCαプライマースクリーニング、(B)特異的PCR、および(C)SQT-PCRで使用したPCRプライマー(GenBankに準拠して番号を付す)。プライマーのアニーリング位置は、括弧内に示す。
【0286】
A.縮重VGSCαプライマースクリーニング
[配列表1]
【0287】
【化1】

【0288】
B.特異的PCR試験
[配列表2]
【0289】
【化2】

【0290】
C.SQT-PCR
「配列表3」
【0291】
【化3】

【0292】
VGSCα特異的PCR試験
この試験は、縮重プライマースクリーンで見出されたVGSCαがそれぞれの細胞系で本当に発現する(汚染ゲノムDNAからは生成されない)ことを確実にするため、(21)およびGB0021617.6の場合と同様に行った。
【0293】
簡単に言うと、DNase Iによる消化によって抽出物からDNAを除去し、トータルRNA 5μgを1本鎖cDNA(sscDNA)合成用の鋳型として使用した(Superscript II、GIBCO BRL)。sscDNA合成は、最終体積20μlのランダム6量体混合物(R6)で行った。次いで成体ラット網膜色素上皮細胞からNav1およびNav2 VGSCαの両方を(Dawes,H.他(1995)Vis.Neurosci.12、1001〜1005)、またprotochordate ascidianから新規なVGSCαを(Okamura,Y.他(1994)Neuron 13、937〜948)増幅するために前に使用した縮重PCRプライマー(YJ1およびYJ2C)を使用したPCRによって、R6-sscDNAプールからVGSCα cDNAを増幅した(Taq DNAポリメラーゼ、Amersham Pharmacia)。PCR反応は、各dNTP 200μM、Taq 1単位、1×Taq緩衝液、および各プライマー1μMを含む最終体積20μlのものを使用して、4μlのR6-sscDNA鋳型上で行った。増幅 は、(i)94℃で5分間の初期変性、(ii)1U酵素の添加、(iii)94℃で1分間の変性、40℃で1分間のアニーリング、および72℃で1分間の伸長というサイクルを33〜35回、および(iv)72℃で10分間の伸長を経て行った。この実施した操作およびすべてのPCRについて、sscDNAをまったく添加しない反応も行って、その他のDNA供給源からの交差汚染の対照とした。
【0294】
PCR産物を電気泳動によって分析し、ゲル精製した後に、pGEM-Tベクターへのライゲーションを行った(pGEM-T Easy Vector System、Promega)。次いでこれらを使用してE.coliを形質転換した(pMosBlue、Amersham)。Vistra Labstation 625ミニ標本手順に変更を加えたものを使用して(Vistra DNA Sysytems、Amersham)、細菌培養物からプラスミドDNAを回収した。
【0295】
特異的VGSCαを増幅するよう設計された反応を、これらのサブユニットが縮重スクリーンで前に見出されたか否かにかかわりなく、高転移性と低転移性の両方を細胞系抽出物上で行った。使用したプライマー配列および反応アニーリング温度を表1Bに示す。明らかに生じた生成物をクローニングして配列決定し、次いで各細胞系での各VGSCαに対するコンセンサス配列を生成した(少なくとも3つのクローンを使用した)。
【0296】
半定量的PCR(SQT-PCR)
反応の動力学的観察に基づくSQT-PCRを、(21)およびGB0021617.6と同様に行った。
【0297】
DNase 処理したRNA抽出物を使用して、各抽出物ごとにR6-sscDNAの組を生成した。これらR6-sscDNA 2.4μlを、VGSCα特異的PCR(上述のように行う)に関する鋳型として使用して、最終体積を60μlにした。高転移性と低転移性の細胞系から得られた結果を直接比較することができるように、すべての同等のR6-sscDNAおよびPCR反応を同時に行った。鋳型を添加していない「ブランク」を対照として使用した。3種のVGSCαそれぞれに対して異なる20量体プライマーを使用してPCRを行ったが、これは、異なるスプライス変種から得られた複数のVGSCα産物を増幅しないものであった(上記特異的PCRとは異なる)。使用したPCRのプライマーおよびアニーリング温度を表1Cに示す。scn8aおよびscn9 VGSCα産物は保存イントロン部位に広がらず、したがって対照PCR反応は、逆転写酵素を添加しない逆転写反応から得たある分量のものをsscDNA鋳型の代わりに使用するこれらSQT-PCRに関して行った。すべての生成物を、上述のようにクローニングして配列決定し、それによってVGSCα特異的産物だけが確実に増幅されるようにした。
【0298】
反応を72℃に保ちながら、11サイクル行う各増幅サイクルの終わりに60μlの反応物から5μlの分量が得られるよう、動力学的観察手法(45;Hoof他(1991)Anal.Biochem.196、161〜169;Wiesner 他(1992)Biochem.Biophys.Res.Comm.183、553〜559)を採用した。最初にその分量を得た増幅サイクルは、調査を行うVGSCαに応じて異なっていた。次いでこれらの分量を、既知の濃度のDNAマーカーと共に電気泳動にかけた(0.8%アガロースゲル)。ゲルを15分間ポスト染色し(0.8μg/ml臭化エチジウム含有するTBE緩衝液)、デジタル画像を形成した(GDS7500 Advanced Gel Documentation System,Ultra Violet Products)。各分量での全生成物質量(ナノグラム)を、画像解析により決定した(1D Image Analysis Software、Kodak Digital Sciencce)。各PCR反応における2つの特徴的段階、すなわち
(1)画像解析ソフトウェア(デフォルト設定)によって所与のPCR産物をちょうど検出することができる閾値PCRサイクル数(CNt)
(2)反応の指数期が終了するPCRサイクル数(CNe)
を定量化した。
【0299】
PCRサイクル数の増加に伴う反応生成物の蓄積は、S字形曲線を辿る(Kohler,T.(1995)Quantitation of mRNA by Polymerase Chain Reaction、第3〜14頁、Kohler,T.、Lassner,D.、Rost,A.-K.、Thamm,B.、Pustowoit,B、およびRemke,H.編(Springer、Heidelberg))。しかしこの曲線の2つの両端の値は、SQT-PCRに関して知られておらずまたは決定されていなかった(すなわち0サイクルでのcDNAの初期質量が明らかではなく、PCRの終わりの最終生成物質量が求められていなかった)。したがってS字曲線は、このデータに当てはめることができなかった。代わりに、やはり1つの可能な変曲点(ここではPCRの指数期の終わりに対応する)のみを有する3次多項方程式を使用して、S字曲線を近似した。
【0300】
STATISTICA(SoftStat Inc.)を使用して曲線の当てはめを行い、次いで2次導関数を計算してCNeを得た。この手順は、計算したCNe値が、実験により得られたデータポイント内に含まれる状態で、首尾よく行うことができた(図1)。データは、各細胞系ごとの平均および標準誤差として示す(各VGSCαごとに2つの抽出物に対して3回繰返し)。CNtおよびCNeの値を直接使用して、高転移性および低転移性の細胞系における各VGSCαの発現レベルを比較した。
【0301】
MDA-MB-231およびMCF-7細胞抽出物に含まれるVGSCαのそれぞれに関し、両方の細胞バッチでのSQT-PCR結果を使用して平均CNt値を計算した(CNeを計算するため、2つのMCF-7細胞系バッチの一方のみから増幅したscn9aと、1つのMCF-7バッチでは見かけ上その発現が非常に少ないscn5aを除く)。高転移性および低転移性細胞RNA抽出物で行ったPCR反応が同様の効率であるとすると、計算したCNt値とCNe値の差は、発現レベルの実際の差を反映すると考えられる。
【0302】
NADH-シトクロームb5レダクターゼ(Cytb5R)は、多数の組織タイプから得られた正常細胞と癌性細胞と高転移性細胞とで非常に類似したレベルで発現するものであり(20;Fitzsimmons,S.A.他(1996)J.Natl.Cancer Inst.88、259〜269;Marin,A.他(1997)Br.J.Cancer 76、923〜929)、ラットとヒトの両方の縮重プライマースクリーンで、非特異的生成物が見出されない主要成分(「非VGSCα」クローン)として示された。その結果、これをSQT-PCRの対照単位複製配列として使用し、すなわち初期RNAの質および量、逆転写効率、およびサンプル間の増幅のばらつきによる影響の対照として使用した(プライマーを表1Bに示す)。Cytb5R 20量体プライマーにより、ラットおよびヒトの相同体のヌクレオチド385〜809および299〜790をそれぞれ増幅した(アニーリング温度はいずれも60℃)。
【0303】
乳房生検組織のPCR試験
凍結組織の0.1〜0.5gの細片を、滅菌したメスおよび鉗子を使用して小片に細断し、低温のガラスホモジナイザー内に配置した。次いで上述のようにトータル細胞RNAを単離した。RNAの質を、ゲル電気泳動によって予備的に評価し、分光光度分析によって量を決定した。
【0304】
次いでRNA抽出物を、sscDNA合成用の鋳型として使用し、上述のように実施した。生検サンプルで可能なscn5a、scn8a、およびscn9a RNAの発現を、特異的PCRに関して同じプライマーを使用するPCRによって試験した(表1B)。抽出したRNAの質のさらなる対照としてhCytb5R特異的PCR試験も実施し、明らかなhCytb5R産物をもたらさないサンプルを棄却した。合成したsscDNA 2.5μl、dNTP 0.2ミリモル、各特異的プライマー1マイクロモル、およびTaq 1単位を使用して以下の条件下、すなわち94℃で5分間、1U酵素添加、94℃で1分間、59〜62℃で1分間(プライマー対に応じて異なる)、72℃で 1分間、最終インキュベーションを72℃で10分間行い、その主な部分を30〜60回繰り返す(プライマー対に応じて異なる)条件下でPCRを行った。鋳型を添加しないPCR反応も行って、その他のDNA供給源からの交差汚染を制御した。最終反応生成物の5μlの分量について、0.8%アガロースゲル上でゲル電気泳動により分析を行った。
【0305】
同じRNA抽出物とは独立に製造した少なくとも2つのcDNA鋳型のそれぞれに対してPCR試験を実施し(RNAが5μgしか得られなかったサンプル1を除く)、cDNA製造およびPCR効率の可能性あるばらつきの対照とした。
【0306】
データ分析
すべての定量データが正規分布するよう求め、ここでは平均±標準誤差として示す。統計的有意性を、ステューデントt検定またはχ2検定によって適宜決定した。
【0307】
GenBank配列ヌクレオチドナンバー
ヌクレオチドの番号は、scn5a、scn8a、scn9a、およびhCytb5Rのそれぞれに対し、受入番号M77235、AB027567、X82835、Y09501とした。
【0308】
結果電気生理学的研究
MDA-MB-231細胞の平均静止電位は-18.9±2.1mV(n=27;範囲-12〜-61mV)であり、これは、MCF-7細胞の場合の-38.9±2.5mV(n=26;範囲-8〜-51mV)という値よりも著しく減極されたものである(p<0.001)。MDA-MB-231細胞の膜容量は28.5±2.7pF(n=35;範囲14.7〜76.6pF)であり、これは、MCF-7細胞の場合の36.9±2.8pF(n=38;範囲13.5〜90.0)という値よりも著しく低いものであった(p<0.05)。
【0309】
試験したMDA-MB-231細胞の29%(n=16/56)が、最大600pAの振幅の内向き電流を示し(図1A)、これは電流密度5.6±0.5pA/pF(n=16)に相当するものであった。内向き電流は、-41.3±2.4mV(n=4)で生じ、-6.3±2.4mVでピークに達するが(n=4;図1C)、これはNa+を含まない培地では消えるものであり(図示せず;n=2)、VGS電流であるものと一致していた。これとは対照的に、試験したMCF-7細胞(n=72)では内向き電流が示されなかった(図1B)。
【0310】
VGS電流は、マイクロモルのTTXによって部分的に抑制された(図2A)。トキシンの作用は、100nM〜6μMの範囲で濃度依存性があった(図2B)。しかし、使用した最高濃度(6μM)であっても、電流の64.7±6.1%しかTTXによって阻止されなかった(n=5)。100nM TTXの場合のピーク電流はその低下が小さく(9±3%)、有意なものであるが(p<0.05)、少量のTTX感受性(TTX-S)成分も存在することを示していた(図2B)。
【0311】
電位依存性外向き電流も記録された。試験したMCF-7細胞(n=72)の100%が、振幅が最高7nAの大量の外向き電流を示したが(図1B)、これは電流密度27.4±4.9pA/pFに相当するものであった(n=33)。これらの外向き電流は、-9.2±1.9mVで生じ(n=12)、+90mVで1081.1±264.7pAのピーク振幅を示した(n=12)。電流は、内部ピペット溶液中のK+をCs+に代えることによって、34.3±5.4pAまで低下し(n=15;p<0.01)、すなわち97%低下した。比較するとMDA-MB-231細胞は、最高150pAという非常に小さい外向き電流を示し(n=35;図1B)、これはわずか2.6±0.4pA/pFという電流密度に相当するものであった(n=13;p<0.01 cf.MCF-7細胞で記録されたものと同等の電流)。
【0312】
細胞系でのVGSCα mRNA発現
種々の細胞系RNA抽出物に関する縮重プライマースクリーンの結果を表2に示す。2つのVGSCα、すなわちSCN5AとSCN9A VGSCα遺伝子の産物を、高転移性細胞系に対するスクリーンで同定した。これとは対照的に、scn8aは、低転移性MCF-7細胞の縮重スクリーンで見られた唯一のVGSCαであった。Nav1 VGSCαの場合、各VGSCαタイプを表す縮重プライマースクリーンでのクローンの割合は、細胞VGSCα mRNAプール(21)内のそのサブユニットの実際の割合を反映することが、以前から示されている。したがって高転移性細胞の場合、スクリーン結果は、scn5a(56.0±4.0%)がscn9a(12.0±4.0%)およびscn8a(0%)よりも非常に高いレベルで発現したことを示していた(表2)。
【0313】
表2.VGSCα縮重プライマースクリーン結果の概要
結果を、試験したクローンのパーセンテージとして示す(それぞれの場合でn=25)。各スクリーンは、各細胞系からの2つの抽出物の結果である。誤差は、標準誤差を示す。
【0314】
【表2】

【0315】
プライマー特異的PCRでは、どちらの細胞系でもscn5a、scn8a、およびscn9a(ならびにhCytb5R)に関して生成物をもたらし、これらmRNAのすべてがMDA-MB-231細胞とMCF-7細胞の両方で発現することを示した。しかしscn5aおよびscn9aは、MDA-MB-231細胞抽出物対MCF-7細胞抽出物で、検出可能な生成物をもたらしかつSQT-PCRのCNeに到達するために、著しく少ない増幅(CNt)を必要とし、すなわち高転移性細胞での発現が全体的により高いレベルであるこを示していた(図3Aおよび3C)。重要なことは、最も顕著な変わらない差がSCN5Aの場合に見られたことであり、すなわちMDA-MB-231細胞対MCF-7細胞ではそれぞれ、CNt=24.75±0.48対37.50±1.56;CNe=28.36±0.46対38.54±0.14であった(図3A)。PCR効率が80%であるとすると(21)、2つの細胞系の発現レベルに約1800倍の差があることを示すことになる。
【0316】
scn9aは、低転移細胞(CNt=42.5±4.5;CNe=46.0±3.2)よりも高転移性(CNt=30.75±0.63;CNe=34.44±0.65)の方が容易に増幅されたが、このTTX-S VGSCαは、縮重スクリーンにおいてscn5aほど目立つものではなく、発現が低レベルであることを示していた。これとは対照的に、hCytb5R「対照」およびscn8a SQT-PCRでは、MDA-MB-231細胞とMCF-7細胞の両方で非常に少ないレベルの発現が示され(図3Bおよび3D)、hCytb5Rの場合、CNt=20.25±0.25対22.0±0.56、CNe=23.96±1.00対25.16±0.34であり、scn8aの場合、CNt=33.25±0.25対32.75±0.63、CNe=36.85±0.32対35.61±0.49であった。重要なことは、hCytb5Rが、縮重スクリーンで見られた「非VGSCα」クローンの主成分であり、MDA-MB-231細胞における非VGSCαクローンのほとんどすべて(すべてのクローンの28.0±0%と同等)、およびMCF-7細胞系スクリーンでのすべてのクローンの54.0±6.0%を表していた。MCF-7細胞の縮重スクリーンでのこの非VGSCαクローンの出現率増加は、この細胞におけるVGSCα標的とノイズの比が、やはりSQT-PCRデータから明らかな高転移性の場合に比べて低いことと一致している。
【0317】
得られたMDA-MB-231/MCF-7 VGSCα配列を、GenBankに提出した。
【0318】
乳房生検組織でのVGSCα mRNA発現
12 個のサンプルから、RNAを首尾よく抽出し、hCytb5R試験陽性であった。一般に、VGSCαおよびhCytb5R対照試験のPCR結果は、合成した異なるcDNAバッチ全体を通して容易に再現可能であった。得られた結果を表3にまとめる。細胞系内で発現することがわかった3つのVGSCαすべてが生検サンプル中に検出され、in vitroモデルのVGSCα発現プロフィルが生体内でも保たれることを確認した。いくつかのSCN8AおよびSCN9A産物(これら遺伝子の異なるスプライス形に相当する;(21))を、サンプル6を除くすべてのサンプルから、hCytb5R対照(図4F)と同様に増幅した(図4DおよびE)。このサンプルから抽出したRNAは、他のサンプルよりも著しく分解する傾向があるが、これはhCytb5R対照産物を増幅するのに必要なPCRサイクルが多数回(30ではなく40サイクル)必要であることから明らかである。しかし、scn8aまたはscn9aの発現とリンパ節転移(LNM)との間には明らかな相関関係がなかった。これとは対照的に、scn5aの発現は、厳密なサンプル依存性があった(図4AおよびB)。これらの試験の明らかな産物すべてをクローニングして配列決定し、これらの産物が完全にSCN5Aから得られたことを確認した。これらのサンプルから得られたscn5a VGSCα配列をGenBankに提出した。
【0319】
提出した配列の承認番号(accession number)は下記の通りである。
【0320】
承認#:AJ310882
種類:電位依存性ナトリウムチャネルNav1.7(SCN9A遺伝子)のヒト部分mRNA
細胞系MDA-MB-231
【0321】
承認#:AJ310883
種類:Nav1.7電位依存性ナトリウムチャネル(SCN9A遺伝子)のヒト部分mRNA
細胞系MCF-7
【0322】
承認#:AJ310884
種類:Nav1.6電位依存性ナトリウムチャネル(SCN8A遺伝子)Nav1.6のヒトmRNA
D3新生児スプライス変種、細胞系MDA-MB-231
【0323】
承認#:AJ310885
種類:電位依存性ナトリウムチャネルNav1.6(SCN8A遺伝子)のヒト部分mRNA
D3新生児スプライス変種、細胞系MCF-7
【0324】
承認#:AJ310886
種類:電位依存性ナトリウムチャネルNav1.5(SCN5A遺伝子)のヒト部分mRNA
D1新生児スプライス変種、細胞系MDA-MB-231
【0325】
承認#:AJ310887
種類:電位依存性ナトリウムチャネルNav1.5(SCN5A遺伝子)のヒト部分mRNA
D1新生児スプライス変種、細胞系MCF-7
【0326】
承認#:AJ310888
種類:電位依存性ナトリウムチャネルNav1.5(SCN5A遺伝子)のヒト部分mRNA
D1新生児スプライス変種、生検サンプル2
【0327】
承認#:AJ310889
種類:電位依存性ナトリウムチャネルNav1.5(SCN5A遺伝子)のヒト部分mRNA
D1新生児スプライス変種、生検サンプル3
【0328】
承認#:AJ310890
種類:電位依存性ナトリウムチャネルNav1.5(SCN5A遺伝子)のヒト部分mRNA
D1成体スプライス変種、生検サンプル1
【0329】
承認#:AJ310891
種類:電位依存性ナトリウムチャネルNav1.5(SCN5A遺伝子)のヒト部分mRNA
D1成体スプライス変種、生検サンプル7
【0330】
承認#:AJ310892
種類:電位依存性ナトリウムチャネルNav1.5(SCN5A遺伝子)のヒト部分mRNA
生検サンプル6
【0331】
承認#:AJ310893
種類:電位依存性ナトリウムチャネルNav1.5(SCN5A遺伝子)のヒト部分mRNA
D1:S3エキソンスキップスプライス変種、生検サンプル8
【0332】
承認#:AJ310894
種類:電位依存性ナトリウムチャネルNav1.5(SCN5A遺伝子)のヒト部分mRNA
D1新生児プライス変種、生検サンプル4
【0333】
承認#:AJ310895
種類:Nav1.5(scn5a/h1)電位依存性ナトリウムチャネル(SCN5A遺伝子)のヒト部分mRNA、D1新生児プライス変種、生検サンプル5
【0334】
承認#:AJ310896
種類:電位依存性ナトリウムNav1.5(SCN5A遺伝子)(SCN5A遺伝子)のヒト部分mRNA、細胞系MDA-MB-231
【0335】
承認#:AJ310897
種類:電位依存性ナトリウムNav1.7(SCN9A遺伝子)(SCN9A遺伝子)のヒト部分mRNA、細胞系MDA-MB-231
【0336】
承認#:AJ310898
種類:電位依存性ナトリウムNav1.6(SCN8A遺伝子)のヒト部分mRNA、細胞系MCF-7
【0337】
承認#:AJ310899
種類:NADH-シトクロームb5レダクターゼ(B5R遺伝子)のヒト部分mRNA、細胞系MDA-MB-231
【0338】
承認#:AJ310900
種類:NADH-シトクロームb5レダクターゼ(B5R遺伝子)のヒト部分mRNA、細胞系MCF-7
【0339】
下記に関する配列も提出した。
scn5a MDA-MB-231 SQT-PCR配列
scn5a MCF-7 SQT-PCR配列
scn9a MDA-MB-231 SQT-PCR配列(3UTR)
scn9a MCF-7 SQT-PCR配列(3UTR)
【0340】
配列データに関するいくつかの特異な点は下記の通りである。
【0341】
SCN5A
D1 新生児エキソンの外側で得られた配列において、公開されている配列(GenBank M77235)とは3ヌクレオチドが異なる:689/690(CTからGC)の相違は、アミノ酸位置180でグリシン残基の代わりにアラニンを使用する (すべての番号付けはM77235に従う)。その他すべての電位依存性ナトリウムチャネルαサブユニット遺伝子は、この残基でグリシンを有し、したがって、公開されている配列(M77235)はこの位置で配列誤差を含む可能性が最も高い。992(TからC)の相違はアミノ酸配列を変化させず、SCN5A 遺伝子に天然のサイレント(silent)多形を示す。
【0342】
SCN8A
本発明者等が以前公開した配列[前立腺癌細胞系のSCN8A](GenBank AJ276141およびAJ276142)に対し、異なるヌクレオチドはない。
【0343】
SCN9A
公開されている配列(GenBank X82835)に対し、異なるヌクレオチドはない。
【0344】
SCN5A D1新生児エキソン
これは臨床上重要である。これは、scn5aの明らかな選択的スプライス形がこの位置に存在することが、最初に報告されたものである。SCN5A遺伝子構造については、ヒトゲノムライブラリーをプローブするためにscn5a cDNA配列を使用して以前から調査されているが(Wang他、1996)、D1S3に対する選択的エキソンは見つかっていない。これはおそらくハイブリダイズしたcDNAが、新生児形態ではなく既知の成体のものだからと考えられる。Scn5a新生児形態は、以前公開された成体形態(Gellens他、 1992;GenBank M77235)に対し、この保存エキソンにおける92ヌクレオチドの31が異なっている。新生児SCN5A形におけるこれら31ヌクレオチドの相違によって、7アミノ酸が置換されることになるが、これは今まで調査してきた他のVGSCαサブユニット遺伝子に関して観察されるよりもはるかに多いものである。
【0345】
今日まで、新生児および成体エキソンの選択的スプライシングは、他の4つのVGSCα遺伝子:SCN2A、SCN3A、SCN8A、およびSCN9Aの D1S3に見られていた。これらのそれぞれの場合、選択的エキソンは19〜21ヌクレオチドが異なり、その結果、1〜2のアミノ酸が置換される。このエキソンの残基7での1つのアミノ酸置換は、これら遺伝子のすべてにわたって一貫したものであり、成体形のアスパラギン酸残基が新生児形の中性アミノ酸に置換される。Scn5aでの選択的スプライシングは、2つの主な点で、他のVGSCαに関して前に述べたD1S3スプライシングとは完全に一致したものではなかった。
(1)scn5a新生児形では、成体形のアスパラギン酸残基を非荷電アミノ酸ではなく正荷電リシン残基で置換した。
(2)新生児scn5aにおける31ヌクレオチドの相違により7アミノ酸が置換されるが、これは、以前調査したD1S3での選択的スプライシングにより他のVGSCα遺伝子で観察された1〜2アミノ酸置換よりもはるかに多いものである。
【0346】
表3.乳癌生検サンプルに関する特異的RT-PCR試験の結果の概要
(+)は特異的産物が得られたことを示し、(-)は特異的産物が増幅されなかったことを示し、NTは試験を行わなかったことを示し、NDは腫瘍グレードが決定されなかったことを示す。PCR試験は、scn5a、scn8a、およびscn9aのそれぞれについて、最大55、50、および50サイクルにわたり行った。hCytb5R試験は、40サイクルを使用したサンプル6(*で示す)を除き、30サイクルにわたって行った。臨床上の評価、リンパ節転移(LNM)および腫瘍グレードもそれぞれの場合について示す。LNM(+)の場合、括弧内の値は、陽性であると決定されたリンパ節の数/検査した節の数を示す。
【0347】
【表3】

【0348】
LNMによるscn5a発現に関連した「2重盲検」試験によれば、これら2つの特徴が、検査した12のケースのうち10のケース(83%)で直接相関することが明らかになった。このときの組合せは、scn5a+/LNM+(n=6)およびscn5a-/LNM-(n=4)(χ2=6.0;df=1;0.02>p>0.01;表3)であった。サンプルがscn5a+であるが見かけ上LNM-である2つの例外のうち一方(サンプル7)は、患者がその後再発し、予備的診断から3年以内に遠隔転移を発症した点で興味深い。その他の例外のケース(サンプル8)となった患者にも再発が生じるか否かは判断できなかった。
【0349】
考察
本発明の研究では、(i)低転移性ではなく高転移性の乳癌細胞がVGS電流を示し(ほぼ全体が耐TTX(TTX-R)成分からなる)、(ii)特定のTTX-R VGSCα遺伝子、SCN5Aは、高転移性細胞内に広く発現するが低転移性細胞では非常に低いレベルでしか発現せず、(iii)生検サンプル中のscn5a発現は、臨床的に評価したリンパ節転移と強力な相関関係があることを示した。さらに、VGSCが高レベルで発現するとき、逆に細胞系で外向き電流が大幅に低下し、比較的減極された静止電位になる。併せると、これらの特徴によって、転移性細胞膜が潜在的に被刺激性になり、それに合わせて機能亢進的な振舞いが生じる。
【0350】
scn5a発現は乳癌転移に伴う。電気生理学的な結果およびRT-PCRの結果は、SCN5A遺伝子(h1またはSkM2とも呼ぶ)が高転移性細胞系に広く発現し(図5)、生体内での乳癌転移に伴って生じることを一貫して示した。本発明者等は以前、ヒトおよび/またはラットの前立腺癌細胞について、細胞突起伸長(7)、側方移行(8)、横断侵襲(5、6、9)、および分泌膜活性(10)も含め、転移に不可欠な細胞の振舞いにVGSC活性が寄与していることを示した。その後、scn9aを「カルプリット(culprit)」VGSCα(21)であると特定した。今日の研究において、生体外での細胞膜電位の増加を伴うscn5a発現と生体内でのリンパ節転移との相関は、乳癌細胞の転移性の振舞いにscn5a活性が著しい役割を持つことを強力に示している。
【0351】
本発明の研究は、scn5aを細胞転移能に関連付けた最初のものであるが、癌細胞系でのこのVGSCα発現については他に既に報告されている。Scn5a mRNAおよび機能的タンパク質の発現は、B104神経芽腫細胞(25)およびRT4末梢神経腫瘍細胞系(26、27)で生じることが示されている。現在のところ、異なる組織から得られた癌腫の高転移性細胞が、なぜ異なるVGSCαの発現を特異的にアップレギュレートするのか明らかではない。また、さまざまなVGSCαの中でもscn5aだけが乳癌の転移を助長することができるのかわかっていない。もしそうなら、この性質は、このVGSCαにのみ固有の特徴から生じるものと考えられる。そのような可能性のあるscn5aの特性には、以下の事項、すなわち(i)C末端PDZドメインの所有(28、29)、細胞骨格との特定の相互作用を潜在的に可能にする;(ii)極めて低いレベルのタンパク質のグリコシル化(他のVGSCαにおける最大40%のタンパク質質量に比べ(30)、全タンパク質質量の5%);(iii)所与の条件下での高度乱交雑イオン選択性、Ca2+のエントリが可能になる(31);(iv)非常に遅い活性化および不活性化速度(28、32);および(v)ステロイドホルモンによる発現の調節(33)が含まれる。
【0352】
scn5aの別の顕著な特徴は、その発現が、非常に緊密な時空制御下で、動的調節が高度に行われることである。SCN5A遺伝子産物は、従来から、心臓および新生児/除神経骨格筋で非常に高いレベルで発現する(29、34)。しかし、scn5a mRNAは、被刺激性ではない培養脊髄神経膠星状細胞(35)でも検出されているが、後根神経節(26、36、37)など、ほとんどすべてのその他のVGSCαを発現するさまざまな細胞型では検出されていない。さらに、特に骨格筋では、発現レベルの著しい変化が、生後わずか数日間にわたり(34)、また神経除去に応答して(38)生じる可能性がある。
【0353】
生検組織における乳癌VGSCα発現の保存
2つの細胞系から得られた低転移性および高転移性乳癌細胞でのVGSCα発現のプロフィル(図5)は、生検組織に関して行ったPCRの結果と一致している。細胞系内で見られた3種のVGSCαすべては、組織サンプル中で発現することがわかり、主なscn5a型の発現は、外科手術上特徴付けられた転移と強力に相関していた。
【0354】
scn5a、 scn8a、およびscn9aの相対的な発現レベルはPCR試験から直接決定することはできないが、生検組織から異なるVGSCαを増幅することが見かけ上容易であることは、ほぼ全体が本質的に非転移性の原発腫瘍細胞の塊からなりかつ悪性腫瘍中には高転移性癌細胞が非常に少ない数でしか存在しない生検サンプルと一致している(たとえば39、40)。このためscn8aおよびscn9a(低転移性細胞ではscn5aよりも高いレベルで発現する)は、明らかなリンパ節転移を示すサンプルからであっても、scn5aに比べて少ないPCRサイクル数を使用することにより、生検組織中に検出することができる。
【0355】
生検組織で行ったPCRは、対照RNAでモニタしたように、1つのサンプルから別のサンプルに至るまで、抽出したRNAの質の大きなばらつきに起因するさまざまなVGSCαの発現レベルに関し、信頼性ある定量情報をもたらさなかった。Scn5a発現は、低転移性細胞で明らかに非常に低いので、非悪性生検組織中に検出することができなかった。しかし、生検組織中の高転移性細胞内で大幅にアップレギュレートされた発現は、PCRによって容易に検出可能になった。
【0356】
乳癌細胞系での複数のVGSCα発現
複数のVGSCα遺伝子の発現を、両方の乳癌細胞系で決定したが、これは図5に示す相対的VGSCα発現プロフィルと一致するものである。簡単に言うと、scn8aのレベルは両方の細胞系で類似しているが非常に低く、一方、scn5aおよびscn9aは、MDA-MB-231細胞系で著しく高かった。特にscn5a発現は、これらの細胞におけるVGSCαの>80%を占めた。SCN5AのD1新生児スプライス形は、上記で論じたように、臨床上重要なものである。複数のVGSCα発現は、転移能が異なるラットおよびヒトの前立腺癌細胞系にも見られた(21)。薬理学的データ(TTX阻止)は、MDA-MB-231細胞で検出されたVGS電流が、主にTTX-R(IC50>1μM)であることを示していた。これは、TTX-R scn5a VGSCαが主チャネルである、決定されたこれらの細胞のmRNA発現プロフィルと一致している。発現したが非常に低いレベルであるscn9a VGSCαは(図5)、より低い濃度(100nM)で観察されたTTX選択性に寄与し得るTTX-S電流をもたらした。複数のVGSCα発現で得られる結果については既に論じた(21)。興味深いことに、高転移性と低転移性の両方の乳癌細胞で検出された完全長scn8a産物は、産物サイズによって決定されるように、新生児スプライス形であった(Diss,J.K.J,、非公開の観察)。この形のscn8aは、切断型VGSCαタンパク質をコードし、新生児および被刺激性ではない成体組織に優先的に発現することがわかった(41)。新生児scn8aは、機能的VGSCを生成できず、代わりに「フェイルセーフ(fail-safe)」メカニズムとして働いて、弱く発現する非切断型scn8a VGSCαの機能的発現を妨げると考えられる。生検サンプル中での新生児scn8a mRNAの検出(産物サイズによって決定された;図4D)は、このメカニズムが生体内にも存在することを示している。
【0357】
乳癌および前立腺癌でのVGSC発現:比較態様
この研究結果による多くの態様は、転移能が異なるラットおよびヒトの前立腺癌細胞系で同様の技法(5、6、21)を使用して決定されたものと同様である:(i)高転移性細胞は、比較的減極された静止電位を有していた(6);(ii)VGS電流は、高転移性細胞のサブ集団で検出され(54%MAT-LyLu、10% PC-3、29% MDA-MB-231)、対応する低転移性細胞(AT-2、LNCaP、MCF-7)では決して検出されなかった;(iii)VGSCα mRNAは、高転移能と低転移能の両方の細胞内で検出されたが、高転移性細胞の方がより多く発現した;(iv)複数のVGSCα発現が、すべての細胞で明らかにされた;(v)すべての細胞が、主に非機能性の新生児形態でscn8aを発現した(21);(vi)低転移性細胞に対し、高転移性細胞の方が1000倍以上多く、大量のVGSCα(前立腺癌細胞ではscn9a;乳癌細胞ではscn5a)を発現させた。
【0358】
乳癌および前立腺癌の両方の転移に、同様のメカニズムが関与している可能性があることは、その腫瘍の生物学的性質(たとえば骨転移に対するホルモン応答性および性向)が類似していることに照らせばそれほど驚くことではないが、その他の癌のタイプにおけるVGSC活性および転移を調査するという将来の研究を強く鼓舞するものであることがわかった。VGSCα発現は、肺(42)および神経膠腫(43、44)の小細胞癌腫発症の際に明らかにされた。したがって機能的VGSC発現は、癌の進行および転移の一般的なメカニズムの一部になり得る。一方、特異的ではあるが異なるVGSCαがなぜ乳癌と前立腺癌の両方の転移に関連付けられるのか明らかではない。理論に拘泥するものではないが、すべてのVGSCαは、転移カスケードまたは特異的タイプ(scn5aおよびscn9aを含む)のみを高める能力を有すると考えることが可能である。転移を高めることができるすべてのVGSCαは、たとえば細胞突起伸長や側方移行、分泌または横断侵襲など、カスケード内の同じ細胞プロセスに影響を及ぼす可能性がある。所与の癌のタイプで、特定のVGSCαがその転移に特異的に関連付けられていることは、組織(または癌)特異的転写調節/制御メカニズム、たとえば前立腺癌のアンドロゲンや乳癌のエストロゲンが原因と考えられる。あるいはこの特異的な関連は、異なる原発腫瘍部位からうまく転移するのに多かれ少なかれ重要な、異なる細胞プロセスに影響を及ぼす異なるVGSCαが原因と考えられる。
【0359】
臨床上の意味
本発明以前は、乳癌に罹っているある割合の患者の中に微小転移を検出することが可能であったが、診察時に微小転移のない多くの患者が最終的には経過観察中に顕性転移疾患を発症するので(45)、転移能の可能性に関する間接的な指標のみ利用可能であった。したがってその結果、臨床医は、転移性疾患の発症の可能性を予測するためのより正確な方法を必要とし、VGSCの存在は、この問題に対する多様な手法において、独立した予後パラメーターとしての役割を果たすことができる。今後、より重要性が増すのは、VGSC活性を阻害することができるという潜在的な意味合いであろう。Scn5a VGSCαは、心臓組織におけるscn5aの機能不全が心臓疾患および不整脈のいくつかの形態に複雑に関係しているので(46)、既に多数の抗不整脈薬および抗痙攣薬の特異的標的になっている。
【0360】
興味深いことに、乳癌薬タモキシフェンは心臓も保護することがわかったが(47)、これがVGSCモジュレーション(48)を伴うのかどうかはわかっていない。本発明の研究は、scn5aを、乳癌転移での潜在的な「カルプリット」VGSCαと特定するものであり、したがってscn5a特異的薬物が転移カスケードの阻害剤になり得ることを示している。
【0361】
配列情報
「野生型」と「乳癌カルプリット」であるSCN5A遺伝子の配列に何らかの相違があるか否かという問題は、重要なものである。一般に、配列の相違が発現レベルの相違ほど重要ではないことを示す2つの主な理由があり、すなわち、(a)本発明者等がこれまで得た配列データが同一性を示すこと(しかし本発明者等のデータは、多くても配列全体のわずか17%程度であり、しばしば10%未満を示すことに留意されたい)、および(b)高転移性細胞と低転移性細胞との発現レベルが>1000倍異なることである。併せると、重要なのは配列の相違ではなく発現レベルである(何がその原因であろうとも)と考えられる。当然ながら、癌にとって重要ないくつかの配列の相違がある。試験を行うには、取るに足らない作業ではない遺伝子の完全な配列決定が必要である。機能に大きな変化を引き起こす、VGSC遺伝子内での実に複雑なヌクレオチド変化の例があり、それが病態に至るのである[最近の例についてはJ.Physiol.(2000)529:533〜539参照]。
【0362】
実施例2
ヒト前立腺癌でVGSC発現を抑制するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの設計
1.VGSCサブタイプ特異的アンチセンスオリゴヌクレオチド設計のための可能性ある部位を特定する、現在知られているすべてのVGSCタイプのアラインメント
「配列表4」
【0363】
【化4】

【0364】
HNeNaはSCN9Aから得られ、Na6はSCN8Aから得る。
【0365】
上記アラインメントでは、可能な場合はヒトVGSC均等物を使用した。アラインメントは、破線で示される配列ギャップの導入によって最適化したが、これらのギャップは、実際の配列または任意のオリゴヌクレオチド設計では実際に存在しない。最も一般的に生ずるヌクレオチドを共通ライン(Cons)内に示す。20量体アンチセンスオリゴヌクレオチドを設計するための可能性ある部位は、太字で示し、4タイプのヒトVGSCに下線を引いた。縮重スクリーンによって生成された断片の最も保存されていない領域を使用して、このラインアップを生成した。
【0366】
いくつかのVGSC型を同時に個々に「不活性(silencing)」にすることが可能な20量体アンチセンスオリゴを3/4細胞質リンカーに設計することも可能と考えられる(VGSC配列がすべての型にわたって高度に保存されいる場合)。たとえば下記の、3タイプのVGSCからの3/4リンカーの同じ20量体ヌクレオチドセクションは、アラインメントされた状態が示されている。このセクションでは、hNe-Naとヒト脳2の配列が同一であり、hSkM1配列は2つのヌクレオチドの位置で異なるだけである。したがってこの領域では、チャネルの少なくとも3つ(この領域に関しNa6(ヒト)配列が確認された場合は、4つが好ましい)をノックアウトすることになる2つのアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計することが可能である。
「配列表5」
【0367】
【化5】

[参考文献]








【特許請求の範囲】
【請求項1】
SCN5A電位依存性Na+チャネル核酸に選択的にハイブリダイズする核酸またはSCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド系分子からなる、乳癌診断剤。
【請求項2】
SCN5A電位依存性Na+チャネル核酸に選択的にハイブリダイズする核酸またはSCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド系分子からなる、乳癌の予後予測剤。
【請求項3】
SCN5A電位依存性Na+チャネル核酸に選択的にハイブリダイズする核酸またはSCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド系分子からなる、乳癌に対する易罹患性決定剤。
【請求項4】
SCN5A電位依存性Na+チャネル核酸に選択的にハイブリダイズする核酸またはSCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド系分子を含む、乳癌の診断に有用なキット。
【請求項5】
VGSCアッセイを実施するためにサンプルから乳房細胞を分離するための手段をさらに含む、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
陰性対照および/または陽性対照をさらに含む、請求項4または5に記載のキット。
【請求項7】
SCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド、抗体、又はその断片とその他の部分とを含む化合物からなる、乳癌診断剤。
【請求項8】
SCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド、抗体、又はその断片とその他の部分とを含む化合物からなる、乳癌の予後予測剤。
【請求項9】
SCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド、抗体、又はその断片とその他の部分とを含む化合物からなる、乳癌に対する易罹患性決定剤。
【請求項10】
前記電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド、抗体、又はその断片とその他の部分とが、融合するポリペプチドである化合物からなる、請求項7に記載の乳癌診断剤。
【請求項11】
前記電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド、抗体、又はその断片とその他の部分とが、融合するポリペプチドである化合物からなる、請求項8に記載の乳癌の予後予測剤。
【請求項12】
前記電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド、抗体、又はその断片とその他の部分とが、融合するポリペプチドである化合物からなる、請求項9に記載の乳癌に対する易罹患性決定剤。
【請求項13】
請求項9又は10に規定されるポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項15】
乳癌に罹っておりまたは乳癌の危険性があるヒト患者を診断するための薬物の製造における、請求項7から12のいずれか一項に規定される化合物の使用。
【請求項16】
(1)その他の部分が、直接的または間接的な細胞毒性部分あるいは容易に検出可能な部分に選択的に結合することができる、請求項7から9のいずれか一項に規定される化合物と、(2)化合物の前記その他の部分が結合することのできる、直接的または間接的な細胞毒性部分あるいは容易に検出可能な部分のいずれか1つとを含む、キット。
【請求項17】
SCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド、抗体、又はその断片とその他の部分とを含む化合物からなる、乳癌撮像剤。
【請求項18】
その他の部分が、容易に検出可能な部分である化合物からなる、請求項17に記載の乳癌撮像剤。
【請求項19】
前記電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド、抗体、又はその断片とその他の部分とが、融合するポリペプチドである化合物からなる、請求項17に記載の乳癌撮像剤。
【請求項20】
請求項18又は19に規定されるポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項21】
請求項20に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項22】
(1)その他の部分が、直接的または間接的な細胞毒性部分あるいは容易に検出可能な部分に選択的に結合することができる、請求項17に規定される化合物と、(2)化合物の前記その他の部分が結合することのできる、直接的または間接的な細胞毒性部分あるいは容易に検出可能な部分のいずれか1つとを含む、キット。
【請求項23】
電位依存性Na+チャネルの機能を選択的に妨げる乳癌治療剤であって、SCN5A電位依存性Na+チャネルの機能を選択的に妨げるアンチセンス分子またはリボザイム、あるいはSCN5A電位依存性Na+チャネルの活性を阻害する物質である、乳癌治療剤。
【請求項24】
乳癌を治療するための薬物の製造における、SCN5A電位依存性Na+チャネルの機能を選択的に妨げるアンチセンス分子またはリボザイム、あるいはSCN5A電位依存性Na+チャネルの活性を阻害する物質の使用。
【請求項25】
乳癌細胞内に発現するSCN5A電位依存性Na+チャネルの機能を妨げることが可能な分子をコードする核酸を含む、遺伝子構築物。
【請求項26】
ヒト細胞に送達されるのに適している、請求項25に記載の遺伝子構築物。
【請求項27】
乳癌細胞への送達が可能である、請求項26に記載の遺伝子構築物。
【請求項28】
乳癌細胞に核酸を選択的に送達する手段を含む、請求項26または27に記載の遺伝子構築物。
【請求項29】
乳癌細胞内に、前記分子をコードする核酸を選択的に発現させる手段を含む、請求項25から28のいずれか一項に記載の遺伝子構築物。
【請求項30】
乳癌細胞内に発現したSCN5A電位依存性Na+チャネルの機能を妨げることが可能な分子をコードする核酸を含む遺伝子構築物であって、遺伝子構築物による前記分子の発現が、乳房選択的プロモーターを介したものであり、または遺伝子構築物が、乳房細胞に選択的に送達されるのに適している、遺伝子構築物。
【請求項31】
請求項25から30のいずれか一項に記載の遺伝子構築物と、医薬品として許容される担体とを含む、乳癌を治療するための医薬品組成物。
【請求項32】
乳癌を治療するための薬物の製造における、請求項25から30のいずれか一項に記載の遺伝子構築物の使用。
【請求項33】
乳癌の治療のためのSCN5A電位依存性Na+チャネルを選択的に阻害するペプチド、抗体、又はその断片を同定する方法であって、(a)試験化合物を、前記電位依存性Na+チャネルのいずれか1つに接触させ、前記化合物が阻害性であるか否かを決定するステップと、(b)試験化合物を、他の電位依存性Na+チャネルに接触させ、前記化合物が阻害性であるか否かを決定するステップと、(c)(a)では実質的に阻害性であるが(b)では実質的に阻害性ではない化合物を選択するステップとを含む方法。
【請求項34】
SCN5A電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド、抗体、又はその断片とその他の部分とを含む化合物からなる、乳癌治療剤。
【請求項35】
その他の部分が、直接的または間接的な細胞毒性部分である化合物からなる、請求項34に記載の乳癌治療剤。
【請求項36】
前記電位依存性Na+チャネルタンパク質に選択的に結合するペプチド、抗体、又はその断片とその他の部分とが、融合するポリペプチドである化合物からなる、請求項34に記載の乳癌治療剤。
【請求項37】
請求項35又は36に規定されるポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項38】
請求項37に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項39】
請求項34、35、及び36のいずれか一項に記載の乳癌治療剤と、医薬品として許容可能な担体とを含む、乳癌を治療するための医薬品組成物。
【請求項40】
乳癌に罹っておりまたは乳癌の危険性があるヒト患者を治療するための薬物の製造における、請求項34から36のいずれか一項に規定される化合物の使用。
【請求項41】
(1)その他の部分が、比較的毒性のないプロドラッグを細胞毒性ドラッグに変換することができる細胞毒性部分である、請求項35に規定される化合物と、(2)比較的毒性のないプロドラッグとを含む、キット。
【請求項42】
(1)その他の部分が、直接的または間接的な細胞毒性部分あるいは容易に検出可能な部分に選択的に結合することができる、請求項34に規定される化合物と、(2)化合物の前記その他の部分が結合することのできる、直接的または間接的な細胞毒性部分あるいは容易に検出可能な部分のいずれか1つとを含む、キット。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−63458(P2010−63458A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239422(P2009−239422)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【分割の表示】特願2002−582281(P2002−582281)の分割
【原出願日】平成14年4月11日(2002.4.11)
【出願人】(500165809)インペリアル・イノベイションズ・リミテッド (32)
【Fターム(参考)】